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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1345582
審判番号 不服2017-16683  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-09 
確定日 2018-11-01 
事件の表示 特願2014-63180「探信装置、測定方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日出願公開、特開2015-184235〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成26年3月26日にされた特許出願である。そして、平成29年4月20日に特許請求の範囲についての補正がされ、同年7月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、同年8月22日に査定の謄本が送達された。
これに対して、同年11月9日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
以下に述べるとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び同第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当するが、本件補正後の請求項10に係る発明は同法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、したがって、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下するべきものである。

1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項10についての補正を含む。
本件補正前(平成29年4月20日にされた補正の後をいう。以下同じ。)及び本件補正後の請求項10の記載は、以下のとおりである。下線は、補正箇所を示すために当合議体が付した。

(1)本件補正前
「【請求項10】
特徴が異なる複数の音波を組み合わせて送信パルスである探信波を生成することで異なる種類の前記探信波を生成して順次送信し、
前記探信波に対する反射波を受信し、
前記送受波部が受信した反射波を処理する
ことを特徴とする探信方法。」

(2)本件補正後
「【請求項10】
ソーナー装置における探信方法において、
特徴が異なる複数の音波を組み合わせて送信パルスである探信波を生成することで異なる種類の前記探信波を生成して前記異なる種類の数に応じたサンプリングレートで順次送信し、
前記探信波に対する反射波を受信し、
前記受信した反射波を処理する
ことを特徴とする探信方法。」

2 本件補正の目的
本件補正のうち、請求項10についての補正は、「探信方法」が「ソーナー装置における」ものである旨の限定を付加するとともに、「異なる種類の前記探信波を生成して順次送信」する際の「サンプリングレート」が「前記異なる種類の数に応じた」ものである旨の限定を付加するものであり、また、「前記送受波部が受信した反射波」という誤記を、文脈から本来の記載であることが明らかな「前記受信した反射波」に訂正するものである。
したがって、本件補正のうち、請求項10についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び同第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項10に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすか)否かについて検討する。

3 独立特許要件についての判断
(1)引用文献1に記載された発明
ア 特開2006-284257号公報(以下、「引用文献1」という。)は、本願の出願日より前の平成18年10月19日を公開日とする公開特許公報であり、原査定の拒絶の理由に引用された文献である。

イ 引用文献1には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「【技術分野】
【0001】
本発明は音波伝搬距離推定方法及び音波伝搬距離推定装置に係り、特に水中物体の近距離捜索を行いながら、同時に遠距離捜索を効率的に行うことができる周波数による伝搬減衰差を利用した音波伝搬距離推定方法及び音波伝搬距離推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中物体の捜索方法としては、水中に探信波を送信し、水中物体に当たって送信地点に戻ってきた反射波を受信し解析することにより、物体の存在位置を特定するアクティブソーナーによる方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。このため、水中物体を捜索する際は、一定の時間間隔で音波を繰り返し送信し、受信した音波を解析して水中物体からの反射波を探すこととなる。
【0003】
遠距離に存在する水中物体を捜索する際には、遠方まで伝搬した音波が水中物体に当たって反射し、送信地点に戻ってくるまでの時間を考慮するため、送信時間間隔を十分長く確保し、かつ、伝搬による減衰も考慮して高出力で送信する必要がある。一方、近距離に存在する水中物体を捜索する際には、比較的短い時間間隔で低出力の音波を送信することとなる。
【0004】
特に、浮遊物など反射音の非常に小さい水中物体の場合、遠方からは反射波を全く検出できず、非常に近距離となってから反射波を検出することとなり、船舶が衝突回避などの操作を実施不可能な場合がある。このため、浮遊物など反射音の小さい水中物体が存在すると予測される水域では、短い時間間隔で音波を送信して物体を捜索する必要がある。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、遠距離に非常に大きな水中物体が存在した場合、近距離の水中物体を捜索するために短い時間間隔で音波を送信していると、過去(1?n回前)に送信した音波が遠方まで伝搬して遠距離水中物体にあたり、その反射波が送信点においても十分に検出可能な強度で受信される可能性がある。この場合、送信直後の音波に対する近距離水中物体からの反射波と、過去(1?n回前)に送信し、遠方まで伝搬した音波に対する遠距離水中物体からの反射波を区別することができない。
【0007】
このため、近距離捜索中は、遠距離水中物体の位置を求めることができないうえに、存在を認知することができない。また、遠距離水中物体からの反射波は、送信直後の音波に対する近距離水中物体からの反射波とみなされ、実際には存在しない位置(近距離)に水中物体を誤検出してしまう可能性がある。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みなされたもので、近距離捜索を行いながら、同時に遠距離捜索を効率的に行うことができる周波数による伝搬減衰差を利用した音波伝搬距離推定方法及び音波伝搬距離推定装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の他の目的は、近距離捜索中の遠距離水中物体からの反射波による誤検出を排除できる音波伝搬距離推定方法及び音波伝搬距離推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
…(中略)…
【0013】
また、上記の目的を達成するため、本発明方法は、互いに異なる複数の周波数帯からなる音波が、互いに異なる順番で組み合わされた複数の音波を、巡回的に設定時間間隔で切り替えて水中に送信する第1のステップと、水中からの音波を受信して音響-電気変換して得た電気信号を整相加算して、方位毎の指向性ビームを合成し、方位毎の解析用信号を出力する第2のステップと、解析用信号と送信波形との相関を計算し、その相関結果から受信した反射波が第1のステップで送信した複数の音波のどの音波に対する水中物体からの反射波かを判定する第3のステップと、第3のステップで判定した反射波の周波数による伝搬減衰率の違いから、受信した反射波のおおよその伝搬時間を推定することにより水中物体までの概算距離を推定する第4のステップとを含むことを特徴とする。」

「【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、過去(1?n回前)に送信した音波に対する反射波からも水中物体の位置を求めることが可能であることから、送信間隔を短くして近距離と遠距離を同時に捜索することが可能であるため、近距離捜索と遠距離捜索を同時に効率的に行うことができると共に、従来課題であった近距離捜索中の遠距離水中物体からの反射波による誤検出を排除でき、近距離の水中物体をより確実に検出することができる。」

「【0058】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、アップチャープとダウンチャープの2種類の送信波形パターンを使用するのではなく、図5(A)に示すように、低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて送信することにより送信波形のパターンを変更する点が、第1の実施の形態と異なる。
【0059】
本実施の形態の装置構成は、第1の実施の形態の装置構成と同じであり、図1のブロック図で示される。ただし、図1中の送信周波数設定部110と、反射波検出部420のみ、本実施の形態特有の構成とされる。すなわち、送信周波数設定部110は、送信回毎に、送信波形のパターンとその周波数を設定する。送信波形は、図5(A)にS3、S4で示すように、低周波、高周波の順に送信した波形(S3)、または高周波、低周波の順に送信した波形(S4)の2パターンとする。周波数は、低周波数と高周波数の2つの周波数を設定する。
【0060】
また、反射波検出部420は、相関処理部410の結果から、解析用信号の中に存在する水中物体からの反射波を検出し、その反射波が低周波、高周波の順に送信した波形(S3)、または高周波、低周波の順に送信した波形(S4)のどちらの送信波形に対する反射波かを判定する。
【0061】
次に、本発明における第2の実施の形態の動作について説明する。本実施の形態の動作は、第1の実施の形態の動作と基本的に同様である(図2、図3参照)。ただし、図2のステップA1の処理及び解析部400の解析処理D1?Dnが第1の実施の形態と異なる。
【0062】
すなわち、ステップA1では、送信設定部100において、送信する波形の設定を行うが、本実施の形態では、奇数回目の送信ではS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、偶数回前(合議体注:「偶数回目」の誤記。)の送信ではS4(高周波、低周波の順に送信した波形)になるよう、それぞれ交互に送信する(図5(A)参照)。ここで、ステップA1では高周波と低周波の周波数も設定する。
【0063】
これに伴い、解析部400の処理に変更が生じるため、解析部400の処理ステップDmの処理について、つまり図3のステップF1からF7の部分における、本実施の形態での動作について説明する。
【0064】
(3)まず、m回目の送信(図2のステップBm)が奇数回目の送信であった場合の処理について説明する。この場合、送信部200は、m回目の送信(図2のステップBm)では、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)を送信することとなる(図5(A)参照)。
【0065】
解析部400は、はじめに、方位毎の解析用信号について、それぞれS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)の送信波形に対する理論的な反射波形との相関処理を行う(図3のステップF1)。次に、ステップF1の処理の結果、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)またはS4(高周波、低周波の順に送信した波形)の送信波形に対する理論的な反射波形との相関が閾値を超えた部分の信号を抽出する(図3のステップF2)。以下では、この相関処理が閾値を超えた部分の信号のことを、水中物体からの反射波と呼ぶ。
【0066】
次に、ステップF2で抽出した反射波の高周波成分と低周波成分の強度比を算出し、その強度比を、周波数による伝搬減衰差の理論値もしくは予め用意したデータベースと比較し、おおよその伝搬時間及び伝搬距離を算出する(図3のステップF3)。これにより、例えば、図5(B)に示すように、受信部300で受信した反射波が、m回目のS3(低周波、高周波の順に送信した波形)の送信に対する反射波であり、かつ、その周波数に依存した減衰差が小さい時には、その反射波は近距離水中物体からの反射波であると推定する。また、(m-1)回目のS4(高周波、低周波の順に送信した波形)の送信に対する反射波を受信したとき、その反射波の周波数に依存した減衰差が中程度であるときには、その反射波は中距離水中物体からの反射波であると推定する。更に、(m-2)回目のS3(低周波、高周波の順に送信した波形)の送信に対する反射波を受信したとき、その反射波の周波数に依存した減衰差が大きい時には、その反射波は遠距離水中物体からの反射波であると推定する。
【0067】
次に、ステップF3で算出した伝搬時間を、反射波の受信時刻から差し引き、予測送信時刻を算出した後(図3のステップF4)、ステップF1での相関処理結果が、S3との相関処理が閾値を超えていたときには、送信波判定部440は、後述の(3-1)の処理を行い、S4との相関処理が閾値を超えていたときには、後述の(3-2)の処理を行う(図3のステップF5)。
【0068】
(3-1)上記ステップF1の処理の結果、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)との相関処理が閾値を超えた場合、受信した反射波は、m回目の送信(図2のステップBm)または、その偶数回前の送信(図2のステップB[m-2k](k=1,2,3,・・・))に対する反射波である。そこで、送信波判定部440は、ステップF4で算出した予測送信時刻が、m回目の送信(図2のステップBm)またはその偶数回前の送信(図2のステップB[m-2k](k=1,2,3,・・・))のどの送信時刻に最も近いかを判定する(図3のステップF5)。
【0069】
(3-2)一方、上記ステップF1の処理の結果、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)との相関処理が閾値を超えた場合、受信した反射波は、m回目の送信(図2のステップBm)の奇数回前の送信(図2のステップB[m-(2k-1)](k=1,2,3,・・・))に対する反射波である。そこで、送信波判定部440は、ステップF4で算出した予測送信時刻が、m回目の送信(図2のステップBm)の奇数回前の送信(図2のステップB[m-(2k-1)](k=1,2,3,・・・))のどの送信時刻に最も近いかを判定する(図3のステップF5)。
【0070】
上記のステップF5の判定により、当該反射波がどの送信に対する反射波かを判断できるため、距離算出部450がその送信時刻及び反射波の受信時刻から、反射波を形成した水中物体までの距離を算出する(図3のステップF6)。次に、位置推定部460がステップF6で算出した水中物体までの距離、及び現在解析している解析用信号の方位から、当該水中物体の位置を推定し、表示部500に出力する(図3のステップF7)。最後に、表示部500では、解析部400から受け取った当該水中物体の推定位置を表示する(図2のステップE1)。
【0071】
(4)次に、m回目の送信(図2のステップBm)が偶数回目の送信であった場合の処理について説明する。この場合、m回目の送信(図2のステップBm)では、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)の波形を送信することとなる。
【0072】
この場合、解析部400は、図2のステップDmの処理において、上記(3)の場合と同様に図3のステップF1からステップF4までの処理を行った後、図3のステップF5において、ステップF1での相関処理結果が、S3との相関処理が閾値を超えていたときには、後述の(4-1)の処理を行い、S4との相関処理が閾値を超えていたときには、後述の(4-2)の処理を行う。
【0073】
(4-1)上記ステップF1の処理の結果、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)との相関処理が閾値を超えた場合の処理について以下に示す。この場合、反射波は、m回目の送信(図2のステップBm)の奇数回前の送信(図2のステップB[m-(2k-1)](k=1,2,3,・・・))に対する反射である。そこで、送信波判定部440は、ステップF4で算出した予測送信時刻が、m回目の送信(図2のステップBm)の奇数回前の送信(図2のステップB[m-(2k-1)](k=1,2,3,・・・))のどの送信時刻に最も近いかを判定する(図3のステップF5)。
【0074】
(4-2)上記ステップF1の処理の結果、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)との相関処理が閾値を超えた場合の処理について以下に示す。この場合、反射波は、m回目の送信(図2のステップBm)または、その偶数回前の送信(図2のステップB[m-2k](k=1,2,3,・・・))に対する反射である。そこで、送信波判定部440は、ステップF4で算出した予測送信時刻が、m回目の送信(図2のステップBm)またはその偶数回前の送信(図2のステップB[m-2k](k=1,2,3,・・・))のどの送信時刻に最も近いかを判定する(図3のステップF5)。
【0075】
以下、本実施の形態では解析部400は、上記(3)の場合の、ステップF6からステップF7までと同様の処理を行う。本実施の形態も第1の実施の形態と同様の効果を有する。」

【図2】


【図3】


【図5】


ウ 引用文献1には、水中物体の近距離捜索を行いながら、同時に遠距離捜索を効率的に行うことができる音波伝搬距離推定方法の発明が記載されている(【0001】)。
また、引用文献1には、水中物体の捜索方法としてはアクティブソーナーによる方法が一般的であるため、水中物体を捜索する際は一定の時間間隔で音波を繰り返し送信し、受信した音波を解析して水中物体からの反射波を探すと記載されているから(【0002】)、引用文献1に記載された音波伝搬距離推定方法の発明は、一定の時間間隔で音波を繰り返し送信し、受信した音波を解析して水中物体からの反射波を探すアクティブソーナーによる方法で水中物体を捜索するものである。

エ 前記ウを踏まえて、引用文献1の前記イの記載をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「一定の時間間隔で音波を繰り返し送信し、受信した音波を解析して水中物体からの反射波を探すアクティブソーナーによる方法で、水中物体の近距離捜索を行いながら、同時に遠距離捜索を効率的に行うことができる音波伝搬距離推定方法であって、
低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて、奇数回目の送信ではS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、偶数回目の送信ではS4(高周波、低周波の順に送信した波形)になるよう、それぞれ交互に送信し、
m回目の送信が奇数回目の送信であった場合、すなわち、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)を送信した場合は、
方位毎の解析用信号について、それぞれS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)の送信波形に対する理論的な反射波形との相関処理を行い(ステップF1)、
ステップF1の処理の結果、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)又はS4(高周波、低周波の順に送信した波形)の送信波形に対する理論的な反射波形との相関が閾値を超えた部分の信号としての水中物体からの反射波を抽出し(ステップF2)、
ステップF2で抽出した反射波の高周波成分と低周波成分の強度比からおおよその伝搬時間及び伝搬距離を算出し(ステップF3)、
ステップF3で算出した伝搬時間から予測送信時刻を算出し(ステップF4)、
ステップF1の処理の結果、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)との相関処理が閾値を超えた場合、受信した反射波は、m回目の送信又はその偶数回前の送信に対する反射波であるので、ステップF4で算出した予測送信時刻が、m回目の送信又はその偶数回前の送信のどの送信時刻に最も近いかを判定し(ステップF5)、
ステップF1の処理の結果、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)との相関処理が閾値を超えた場合、受信した反射波は、m回目の送信の奇数回前の送信に対する反射波であるので、ステップF4で算出した予測送信時刻が、m回目の送信の奇数回前の送信のどの送信時刻に最も近いかを判定し(ステップF5)、
ステップF5の判定により、当該反射波がどの送信に対する反射波かを判断できるため、その送信時刻及び反射波の受信時刻から、反射波を形成した水中物体までの距離を算出し(ステップF6)、
m回目の送信が偶数回目の送信であった場合、すなわち、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)の波形を送信した場合は、
同様にステップF1からステップF4までの処理を行った後、
ステップF1の処理の結果、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)との相関処理が閾値を超えた場合、反射波は、m回目の送信の奇数回前の送信に対する反射であるので、ステップF4で算出した予測送信時刻が、m回目の送信の奇数回前の送信のどの送信時刻に最も近いかを判定し(ステップF5)、
ステップF1の処理の結果、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)との相関処理が閾値を超えた場合、反射波は、m回目の送信又はその偶数回前の送信に対する反射であるので、ステップF4で算出した予測送信時刻が、m回目の送信又はその偶数回前の送信のどの送信時刻に最も近いかを判定し(ステップF5)、
以下、ステップF6の処理を行う
音波伝搬距離推定方法。」

(2)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 引用発明の「音波伝搬距離推定方法」は、「水中物体の近距離捜索を行いながら、同時に遠距離捜索を効率的に行うことができる」ことから、本件補正発明の「探信方法」に相当する。
また、引用発明の「一定の時間間隔で音波を繰り返し送信し、受信した音波を解析して水中物体からの反射波を探すアクティブソーナーによる方法」は、アクティブソーナー装置で実施される方法であると認められる。
したがって、引用発明の「一定の時間間隔で音波を繰り返し送信し、受信した音波を解析して水中物体からの反射波を探すアクティブソーナーによる方法で、水中物体の近距離捜索を行いながら、同時に遠距離捜索を効率的に行うことができる音波伝搬距離推定方法」は、本件補正発明の「ソーナー装置における探信方法」に相当する。

イ 引用発明は、「一定の時間間隔で音波を繰り返し送信し、受信した音波を解析して水中物体からの反射波を探すアクティブソーナーによる方法で、水中物体の」「捜索を」「行うことができる音波伝搬距離推定方法」であるから、引用発明の「低周波」及び「高周波」は、いずれも音波であり、互いに周波数が異なることが明らかである。そして、音波の周波数は、その音波を他の音波から区別することを可能にする特徴であると認められるから、引用発明の「低周波」及び「高周波」は、互いに特徴が異なる音波である。
したがって、引用発明の「低周波」及び「高周波」は、本件補正発明の「特徴が異なる複数の音波」に相当する。

ウ 引用発明の「S3(低周波、高周波の順に送信した波形)」及び「S4(高周波、低周波の順に送信した波形)」は、「それぞれ交互に送信」するものであるから、本件補正発明の「送信パルスである探信波」に相当する。

エ 引用発明の「S3(低周波、高周波の順に送信した波形)」及び「S4(高周波、低周波の順に送信した波形)」は、「低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて」作り上げたものであるから、前記イ及びウを踏まえると、本件補正発明の「特徴が異なる複数の音波を組み合わせて」「生成」した「送信パルスである探信波」に相当する。

オ 引用発明の「S3(低周波、高周波の順に送信した波形)」及び「S4(高周波、低周波の順に送信した波形)」は、互いに区別することができるから、前記イないしエを踏まえると、本件補正発明の「異なる種類の前記探信波」に相当する。

カ 前記イないしオをまとめると、引用発明の「低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて、奇数回目の送信ではS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、偶数回目の送信ではS4(高周波、低周波の順に送信した波形)になるよう、それぞれ交互に送信」することは、本件補正発明の「特徴が異なる複数の音波を組み合わせて送信パルスである探信波を生成することで異なる種類の前記探信波を生成して」「順次送信」することに相当する。

キ 引用発明は、「m回目の送信が奇数回目の送信であった場合、すなわち、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)を送信した場合は」、「ステップF1」及び「ステップF2」の処理を行い、また、「m回目の送信が偶数回目の送信であった場合、すなわち、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)の波形を送信した場合は、」「同様にステップF1からステップF4までの処理を行」うから、「m回目の送信が奇数回目の送信であった場合」も「偶数回目の送信であった場合」も、「ステップF1」及び「ステップF2」の処理を行う。つまり、引用発明は、「低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて、奇数回目の送信ではS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、偶数回目の送信ではS4(高周波、低周波の順に送信した波形)になるよう、それぞれ交互に送信」するたびに、「水中物体からの反射波を抽出」(ステップF2)するものである。
したがって、前記カを踏まえると、引用発明の「ステップF1」及び「ステップF2」の処理を行うことは、本件補正発明の「前記探信波に対する反射波を受信」することに相当する。

ク 引用発明は、「m回目の送信が奇数回目の送信であった場合、すなわち、S3(低周波、高周波の順に送信した波形)を送信した場合は」、「ステップF3」及び「ステップF4」の処理を行い、また、「m回目の送信が偶数回目の送信であった場合、すなわち、S4(高周波、低周波の順に送信した波形)の波形を送信した場合は、」「同様にステップF1からステップF4までの処理を行」うから、「m回目の送信が奇数回目の送信であった場合」も「偶数回目の送信であった場合」も、「ステップF3」及び「ステップF4」の処理を行う。そして、その後は、「m回目の送信が奇数回目の送信であった場合」も「偶数回目の送信であった場合」も、「ステップF5」及び「ステップF6」の処理を行う。つまり、引用発明は、「水中物体からの反射波を抽出」(ステップF2)するたびに、「ステップF2で抽出した反射波」(ステップF3)に一連の処理を施して「反射波を形成した水中物体までの距離を算出」(ステップF6)するものである。
したがって、前記キを踏まえると、引用発明の「ステップF3」ないし「ステップF6」の処理を行うことは、本件補正発明の「前記受信した反射波を処理する」ことに相当する。

(3)一致点及び相違点
前記(2)の対比の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点
「ソーナー装置における探信方法において、
特徴が異なる複数の音波を組み合わせて送信パルスである探信波を生成することで異なる種類の前記探信波を生成して順次送信し、
前記探信波に対する反射波を受信し、
前記受信した反射波を処理する
ことを特徴とする探信方法。」

イ 相違点1
本件補正発明は、「特徴が異なる複数の音波を組み合わせて送信パルスである探信波を生成することで異なる種類の前記探信波を生成して順次送信」する際に、「前記異なる種類の数に応じたサンプリングレートで」送信するのに対し、
引用発明は、「低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて、奇数回目の送信ではS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、偶数回目の送信ではS4(高周波、低周波の順に送信した波形)になるよう、それぞれ交互に送信」(本件補正発明の「特徴が異なる複数の音波を組み合わせて送信パルスである探信波を生成することで異なる種類の前記探信波を生成して順次送信」に相当する。)するにとどまる点。

(4)相違点1についての判断
ア 引用文献1の前記(1)イの記載によれば、引用発明について以下のことが認められる。

(ア)一定の時間間隔で音波を繰り返し送信し、受信した音波を解析して水中物体からの反射波を探すアクティブソーナーによる方法で、遠距離に存在する水中物体を捜索する際には、遠方まで伝搬した音波が水中物体に当たって反射し、送信地点に戻ってくるまでの時間を考慮するため、送信時間間隔を十分長く確保する必要がある一方、近距離に存在する水中物体を捜索する際には、短い時間間隔で音波を送信する必要がある(【0002】ないし【0004】)。

(イ)ところが、遠距離に非常に大きな水中物体が存在するときに、近距離の水中物体を捜索するために短い時間間隔で音波を送信すると、過去に送信した音波が遠方まで伝搬して遠距離の水中物体にあたり、その反射波が送信地点でも十分に検出可能な強度で受信されることがあり、その場合、送信直後の音波に対する近距離の水中物体からの反射波と、過去に送信し、遠方まで伝搬した音波に対する遠距離の水中物体からの反射波とを区別できないため、近距離の水中物体の捜索中は、遠距離の水中物体の位置を求めることができないという課題があった(【0006】、【0007】)。

(ウ)引用発明は、互いに異なる複数の周波数帯からなる音波が互いに異なる順番で組み合わされた複数の音波を巡回的に設定時間間隔で切り替えて水中に送信することで、この課題を解決したものであり(【0013】)、過去に送信した音波に対する反射波からも水中物体の位置を求めることが可能であることから、送信間隔を短くして近距離と遠距離を同時に捜索することが可能であるため、近距離捜索と遠距離捜索を同時に効率的に行うことができるという効果を奏するものである(【0029】)。

イ 以上のことをまとめると、引用発明は、近距離の水中物体を捜索するために短い時間間隔で音波を送信すると、遠距離の水中物体を捜索するのに必要な十分長い送信時間間隔を確保することができなくなるという課題を、互いに異なる複数の周波数帯からなる音波が互いに異なる順番で組み合わされた複数の音波を巡回的に設定時間間隔で切り替えて水中に送信することによって、換言すれば、「低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて、奇数回目の送信ではS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、偶数回目の送信ではS4(高周波、低周波の順に送信した波形)になるよう、それぞれ交互に送信」することによって、解決したものであり、従来は遠距離の水中物体の捜索には使用できなかった送信時間間隔(すなわち、近距離の水中物体を捜索するための短い時間間隔)で音波を送信した場合でも、遠距離の水中物体の捜索を可能にしたものである。
すなわち、引用発明では、従来は近距離に存在する水中物体を捜索するためのものであった短い送信時間間隔を、遠距離の水中物体を捜索するための送信時間間隔として使用していることになる。
これは、「低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて、奇数回目の送信ではS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、偶数回目の送信ではS4(高周波、低周波の順に送信した波形)になるよう、それぞれ交互に送信」することに応じて、遠距離の水中物体を捜索するための送信時間間隔を短くした、すなわち、送信波形を「S3(低周波、高周波の順に送信した波形)」及び「S4(高周波、低周波の順に送信した波形)」の2種類にしたことに応じて、サンプリングレートを上げたことにほかならない。
そうすると、引用発明も、「低周波と高周波を順に組み合わせて、その順序を入れ替えて、奇数回目の送信ではS3(低周波、高周波の順に送信した波形)、偶数回目の送信ではS4(高周波、低周波の順に送信した波形)になるよう、それぞれ交互に送信」(本件補正発明の「特徴が異なる複数の音波を組み合わせて送信パルスである探信波を生成することで異なる種類の前記探信波を生成して順次送信」に相当する。)する際に、「前記異なる種類の数に応じたサンプリングレートで」送信していることになる。
したがって、相違点1は実質的な差異ではなく、本件補正発明と引用発明との間に相違点はない。

(5)請求人の主張について
請求人は、引用文献1に記載された発明は近距離捜索を行いながら、同時に遠距離捜索を効率的に行うことを目的とするものであり、また、引用文献1には目標情報を取得できるサンプリングレートを向上させるという視点は全く示されてないと主張する。
しかし、既に述べたとおり、引用発明では、従来は近距離に存在する水中物体を捜索するためのものであった短い送信時間間隔を、遠距離の水中物体を捜索するための送信時間間隔として使用している。そして、従来、近距離の水中物体を捜索するために短い送信時間間隔で音波を送信すると、遠距離の水中物体の位置を求めることができなかったものが、引用発明では、その短い送信時間間隔で音波を送信しても、遠距離の水中物体の位置を求めることができるのであるから、目標情報を取得できるサンプリングレートが向上していることは明らかである。
したがって、請求人の主張は、採用することができない。

(6)独立特許要件についての判断のまとめ
本件補正発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)であるから、特許法第29条第1項3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下するべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願に係る発明についての判断
1 本願に係る発明
前記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1ないし請求項10に係る発明は、本願の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載された事項により特定されるとおりのものである。
特に、本願の請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)のとおりのものである。

2 原査定の概要
本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3 引用文献1に記載された発明
引用文献1に記載された発明(引用発明)は、前記第2の3(1)エのとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から「探信方法」が「ソーナー装置における」ものである旨の限定を省き、また、「異なる種類の前記探信波を生成して順次送信」する際の「サンプリングレート」が「前記異なる種類の数に応じた」ものである旨の限定を省いたものである。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに前記の限定を付加した本件補正発明は、前記第2の3のとおり、引用文献1に記載された発明である。
そうすると、本願発明も同様に、引用文献1に記載された発明である。

5 むすび
本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶するべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-27 
結審通知日 2018-08-28 
審決日 2018-09-19 
出願番号 特願2014-63180(P2014-63180)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 113- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼場 正光  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 小林 紀史
中村 説志
発明の名称 探信装置、測定方法及びプログラム  
代理人 下坂 直樹  
代理人 机 昌彦  

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