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審決分類 審判 全部無効 発明同一  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1345603
審判番号 無効2016-800067  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-05-30 
確定日 2018-11-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第5891575号発明「シリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール含有量の高い発泡性組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5891575号に係る出願(特願2013-167939号、以下、「孫出願」ということがある。)は、平成18年3月7日(パリ条約による優先権主張 平成17年3月7日 米国)を国際出願日とする特願2008-500017号(以下、「親出願」ということがある。)の一部を平成25年7月5日に新たな特許出願(特願2013-141342号、以下、「子出願」ということがある。)としたものの一部を、更に、平成25年8月13日に新たな特許出願としたものであって、平成28年3月4日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対し、請求人から、本件特許無効審判が請求され、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成28年 5月30日 無効審判請求書

平成28年 8月25日 上申書(被請求人)

平成28年 8月30日付け 通知書

平成28年10月 3日 審判事件答弁書

平成28年11月 2日付け 審理事項通知書

平成28年12月 7日 口頭審理陳述要領書(被請求人)

平成28年12月 7日 口頭審理陳述要領書(請求人)

平成28年12月21日 上申書(請求人)(以下、「上申書1」という。)

平成28年12月21日 上申書(被請求人)(以下、「上申書2」という。)

平成28年12月21日 口頭審理

平成29年 1月20日 上申書(請求人)(以下、「上申書3」という。)

平成29年 1月20日 上申書(被請求人)(以下、「上申書4」という。)

第2 本件発明
本件特許第5891575号の請求項1?33に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明33」といい、これらをまとめて、「本件発明」ともいうことがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
発泡性アルコール組成物であって、低い圧力で空気と混合されるときに発泡性であり、下記の成分;
a)全組成物の少なくとも40% v/vの量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物;
b)全組成物の0.01重量%?10.0重量%の量で存在する、発泡のための、シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって、bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、又はbis-PEG-[10-20]ジメチコーンの混合物であり、組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに、該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤;及び
c)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含む発泡性アルコール組成物。
【請求項2】
上記C_(1)-_(4)アルコールがメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、ブタノール及びその組み合わせからなる群から選択される脂肪族アルコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記シリコーン・ベースの界面活性剤が bis-PEG-12ジメチコーン、bis-PEG-17ジメチコーン、bis-PEG-20ジメチコーン及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
上記シリコーン・ベースの界面活性剤がbis-PEG-12ジメチコーン、bis-PEG-17ジメチコーン、bis-PEG-20ジメチコーン、(3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリシロキサン,エトキシレーテッド,アセテート)、ポリエーテル改変ポリシロキサン、及び、ポリシロキサンベタインから選択されるシリコーン・ベースの界面活性剤の2つ又はそれ以上の混合物であり、前記シリコーン・ベースの界面活性剤の少なくとも1つがbis-PEG-12ジメチコーン、bis-PEG-17ジメチコーン、又はbis-PEG-20ジメチコーンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
上記アルコールが少なくとも40% v/v?90% v/vの範囲で存在する、請求項1乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
上記アルコールが少なくとも60% v/vの量で存在するエタノールである、請求項1乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
上記アルコールが少なくとも60% v/vの合計量で存在するn-プロパノール及びエタノールの混合物である、請求項1乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項8】
上記アルコールが少なくとも60% v/vの合計量で存在するイソプロパノール及びエタノールの混合物である、請求項1乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項9】
上記アルコールが少なくとも70% v/vの量で存在するイソプロパノールである、請求項1乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項10】
上記アルコールが少なくとも60% v/vの量で存在するn-プロパノールである、請求項1乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項11】
上記組成物から生成される泡の特性を調節するための少なくとも1種の追加の界面活性剤を更に含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
上記追加の界面活性剤が0.10重量%?5重量%の量で存在する、フッ素化界面活性剤、アルキルグルコシド、ポリ(エトキシル化)アルコール、ポリ(プロポキシル化)アルコール、ポリ(エトキシル化)エステル、ポリ(プロポキシル化)エステル、アルキルアルコール、アルケニルアルコール、多価アルコールのエステル、多価アルコールのエーテル、ポリアルコキシル化された多価アルコールのエステル、ポリアルコキシル化された多価アルコールのエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリアルコキシル化されたソルビタン脂肪酸エステル、ベタイン、スルホベタイン、レシチン、ホスファチド、アミンオキシド、スルホキシド及びその混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
上記ベタインがコカミドプロピルベタインである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
10重量%以下の量で存在する泡安定剤を更に含む、請求項1?13の何れか1項に記載の組成物。
【請求項15】
上記泡安定剤が
モノグリセリドの乳酸エステル、
陽イオン性乳化剤、
第四級アンモニウム化合物、
トリ四級化ステアリン酸リン脂質複合体、
ヒドロキシステアラミドプロピルトリアミン塩、
乳酸モノグリセリド、
食品乳化剤であって以下の群から選択されるもの、グリセリルモノステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、及びナトリウムステアロイルラクチレート、
セチルベタイン、
グリコールエーテル、
ブチレングリコール、
シリコーンワックス、
カプセル封入油、
マイクロカプセル鉱油、並びに
その組み合わせ
からなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
上記泡安定剤がグリコールエーテル、グリセリン、ブチレングリコール、ベヘントリモニウムクロリド又はセトリモニウムクロリド及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
5重量%以下の量で存在する、
ラノリン;
ビニルアルコール;
ポリビニルピロリドン;
グリセロール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリルオレエート及びソルビトールからなる群から選択されるポリオール;
ココグルコシド;
セチルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール及びパルミチルアルコールからなる群から選択される脂肪アルコール;
セテアレス20;
アルキルグルコシド;
アルキルグルコシドとグリセリルオレエートとの混合物;
PEG-200水素化グリセリルパルメート;
ジヒドロキシプロピルPEG-5リノールアンモニウムクロリド;
PEG-7グリセリルココエート;並びに
その組み合わせ
からなる群から選択される保湿剤、皮膚軟化剤、脂質層向上剤及びその組み合わせの何れか一つを更に含む、請求項1?16の何れか1項に記載の組成物。
【請求項18】
上記組成物のpHを予め選択されたpHに調節するための酸又は塩基を更に含む、請求項1?17の何れか1項に記載の組成物。
【請求項19】
pHを調節するために酸を使用する場合は該酸が塩酸、クエン酸及びリン酸からなる群から選択され、そしてpHを調節するために塩基を使用する場合は該塩基がセスキ炭酸ナトリウムである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
抗菌剤を更に含む、請求項1?19の何れか1項に記載の組成物。
【請求項21】
泡を分配する装置を有する無加圧ディスペンサーに収容されている、請求項1?20の何れか1項に記載の組成物であり、前記泡を分配する装置が、前記ディスペンサーから前記組成物が分配される際に、低い圧力で空気と前記組成物とを混合して泡を形成するように構成されたディスペンサーポンプを有する、前記組成物。
【請求項22】
請求項1に記載の組成物を製造する方法であって、
第一の部分及び第二の部分を混合して前記発泡性アルコール組成物を調製することを含み、
第一の部分が、
a)前記のシリコーン・ベースの界面活性剤;
b)0.01重量%?10.0重量%の量で存在する泡安定剤;
c)0.05重量%?5.0重量%の範囲で存在する、保湿剤、皮膚軟化剤及びその組み合わせの何れか一つ;及び
d)水
を含む濃縮組成物であり;
第二の部分が、前記のC_(1)-_(4)アルコール又はその混合物である方法。
【請求項23】
上記濃縮組成物は、該濃縮組成物を構成する成分を混合し、次いで該混合した成分を、該濃縮組成物の出荷の前に30?80℃の温度に加熱する方法により製造する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
低い圧力で空気と混合されるときに発泡性であり、
下記の成分;
a)全組成物の60% v/v?80% v/vの量で存在するC_(1)-_(4)アルコール又はその混合物;
b)全組成物の0.01重量%?10.0重量%の量で存在する、発泡のための、シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって、bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、及びその混合物からなる群から選択され、組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに、該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成されるように選択された発泡剤;
c)0.01重量%?12.0重量%の量で存在する泡安定剤;
d)0.05重量%?5.0重量%の量で存在する保湿剤、皮膚軟化剤及びその組み合わせの何れか一つ;及び
e)全組成物を100重量%とする量の水
を含む発泡性アルコール消毒組成物。
【請求項25】
低い圧力で空気と混合されるときに発泡性である発泡性アルコール組成物を用いて泡を形成し分配する方法であって、
該方法が、
a)空気と発泡性アルコール組成物とを分配の際に混合して泡を形成するように構成されたディスペンサーポンプを有する無加圧容器から、低い圧力で発泡性アルコール組成物を分配する工程、
を含み、
該発泡性アルコール組成物が
i) 全組成物の40% v/vより多い量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物;
ii) 全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する、発泡のための、シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤であって、bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、及びその混合物からなる群から選択される発泡剤;及び
iii)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含むものである、前記方法。
【請求項26】
前記ディスペンサーが無加圧ディスペンサーであり、それによって、使用者が前記ディスペンサーポンプを駆動したときに低い圧力下において空気が前記組成物と混合されるものである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物が、泡を使用した後に洗浄する必要が無い、着けたままにしておくことができる製品(“leave-on” product)として調製されたものである、請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
発泡性アルコール組成物であって、低い圧力で空気と混合されるときに発泡性であり、下記の成分;
a)全組成物の40% v/vよりも大きい量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物;
b)全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する、bis-PEG-[10-20]ジメチコーン;及び
c)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含む発泡性アルコール組成物。
【請求項29】
泡の形成方法であって、泡を分配する装置を有する、該装置がディスペンサーポンプを有するものである、無加圧容器に、請求項1?21および24の何れか1項に記載の組成物を収容し、該ディスペンサーを駆動して該組成物を低い圧力下に空気と混合してアルコールを含有する泡を形成し、これを該ディスペンサーから分配することによる、上記泡の形成方法。
【請求項30】
前記ディスペンサーが無加圧ディスペンサーであり、それによって、使用者が前記ディスペンサーポンプを駆動したときに低い圧力下において空気が前記組成物と混合されるものである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物が、泡を使用した後に洗浄する必要が無い、着けたままにしておくことができる製品(“leave-on” product)として調製されたものである、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
上記組成物が第二の界面活性剤を更に含み、かつ、該第二の界面活性剤がシリコーン界面活性剤である、請求項1?21および24の何れか1項に記載の組成物。
【請求項33】
低い圧力で空気と混合されるときに発泡性である発泡性アルコール組成物を用いて泡を形成し分配する方法であって、
該方法が、
a)空気と発泡性アルコール組成物とを分配の際に混合して泡を形成するように構成されたディスペンサーポンプを有する無加圧容器から、低い圧力で発泡性アルコール組成物を分配する工程、
を含み、
該発泡性アルコール組成物が請求項1?21および24の何れか1項で定義される組成物である、前記方法。」

第3 請求人の主張及び請求人が提出した証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第5891575号(以下、本件特許ともいう。)の特許請求の範囲の請求項1?33に記載された発明についての特許をいずれも無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」(請求の趣旨)として、証拠方法として後記2の甲第1?22号証(枝番を含む。以下、「甲1」?「甲22」という。)を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。

(1)無効理由1:本件発明1?33は、甲1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

(2)無効理由2:本件発明1?33は、甲7に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

(3)無効理由3:本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明の範囲全体について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当する。

(4)無効理由4:本件発明1?33は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当する。

(5)無効理由5:本件発明1?33は不明確であり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当する。

(6)合わせて、請求人は、甲11を提示して、優先基礎出願の出願書類には、「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」は記載されていないので、「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」を発明特定事項とする本件特許のいずれの請求項に係る発明も、優先基礎出願に基づくパリ条約上の優先権の利益を受けることができない旨主張している。

2 証拠方法
甲1:国際公開第2006/066888号(平成18年6月29日公開)及びその抄訳
甲2:特開2005-289994号公報(平成17年10月20日公開)
甲3:本件特許の出願過程において出願人(本件特許の特許権者)が平成27年10月9日付けで提出した拒絶査定不服審判請求書
甲4:本件特許の出願過程において出願人(本件特許の特許権者)が平成27年10月9日付けの拒絶査定不服審判請求書に添付して提出した参考資料「泡の安定性に関する技術説明資料」
甲5-1:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月18日付けで作成した「実験報告書1」
甲5-2:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月18日付けで作成した「実験報告書2」
甲5-3:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月18日付けで作成した「実験報告書3」
甲5-4:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月18日付けで作成した「実験報告書4」
甲6-1:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月24日付けで作成した「実験報告書5」
甲6-2:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月23日付けで作成した「実験報告書6」
甲6-3:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月23日付けで作成した「実験報告書7」
甲6-4:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月23日付けで作成した「実験報告書8」
甲6-5:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月23日付けで作成した「実験報告書9」
甲7:国際公開第2005/030917号(平成17年4月7日公開)及びその抄訳
甲8:米国特許第6610315号明細書(2003年8月26日発行)及びその抄訳
甲9:角田光雄 監修「界面活性剤の機能と利用技術」、普及版、株式会社シーエムシー出版、2006年4月25日、p.114?115
甲10:請求人従業員である隈下祐一が2016年5月26日付けで作成した「実験報告書10」
甲11:本件特許が主張する優先権の基礎出願(米国仮出願第60/658580号)の出願書類(平成17年3月7日付提出)及びその抄訳
<以上、審判請求書に添付>

甲12:オレオサイエンス、2001年、第1巻、第8号、p.863?870
甲13:Sontake et al., Chemical Engineering and Science, (2014) Vol. 2, No. 1, p.11?14
甲14:Sinclair et al., Arch. Environ. Contam. Toxicol. (2006) Vol.50, p.398-410
甲15:請求人従業員である隈下祐一が2016年11月25日付けで作成した「実験報告書11」
甲16:請求人従業員である隈下祐一が2016年11月25日付けで作成した「実験報告書12」
甲17:請求人従業員である隈下祐一が2016年11月25日付けで作成した「実験報告書13」
甲18:請求人従業員である隈下祐一が2016年11月25日付けで作成した「実験報告書14」
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>

甲19:野田伸司 他3名、感染症学雑誌、昭和56年5月20日、第55巻、第5号、p.355?365
甲20:新村出 編、「広辞苑」第5版 1998年 p.1413
甲21:星野誠、油化学、1993年、第42巻、第10号、p.856?867
甲22:桑村常彦、油化学、1982年、第31巻、第10号、p.793?799
<以上、上申書3に添付>

第4 被請求人の主張及び被請求人が提出した証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」(答弁の趣旨)として、証拠方法として後記2の乙第1?13号証(以下、「乙1」?「乙13」という。)を提出し、次のように主張している。
本件特許発明は特許法第29の2の規定、及び同法第29条第2項の規定のいずれにも違反しておらず、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当しない。
本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同項第2号の規定のいずれにも違反しておらず、その特許は特許法第123条第1項第4号に該当しない。

2 証拠方法
乙1:感染対策ICTジャーナル、2015年、第10巻、第1号、p.82?86
乙2:丸石製薬株式会社が2016年9月15日付けで作成した「発泡性能と表面張力の相関性に関する検討」
乙3:丸石製薬株式会社が2016年9月15日付けで作成した「泡の安定性に関する検討 -振とう試験-」
乙4:丸石製薬株式会社が2016年9月15日付けで作成した「甲第4号証に関する追加資料」
乙5:丸石製薬株式会社が2016年9月15日付けで作成した「使用感評価」
乙6:ラバーメイド社より販売されているENRICHED FOAM ALCOHOL HAND SANITIZER(SKU # FG750591)のデータシート(Version 1.0、2015年10月27日発行)
乙7:Bruce M. Koivisto(ブルース・マイケル・コイヴィスト)氏による公証された宣誓供述書及びその訳文
乙8:丸石製薬株式会社が2016年9月15日付けで作成した「泡の外観観察」
乙9:知財高判平成24年6月6日(平成23年(行ケ)第10254号)
<以上、審判請求書に添付>

乙10:独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)より公開されているエタノール換算表
乙6の差し替え:ラバーメイド社より販売されているENRICHED FOAM ALCOHOL HAND SANITIZER(SKU # FG750591)のデータシート(Version 1.0、2015年10月27日発行)において、引用箇所を明示した(赤枠で囲った)もの及びその抄訳
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>

乙11:第十五改正日本薬局方解説書、平成18年6月20日、C-619、620、「消毒用エタノール」の項
乙12:知財高判平成24年6月13日(平成23年(行ケ)第10364号)
<以上、上申書2に添付>

乙13:新村出 編、「広辞苑」第4版 1991年 p.101?102、p.1163、p.2079
<以上、上申書4に添付>

第5 主な甲各号証の記載事項
1 甲1(国際公開2006/066888号)として提示されたPCT/EP2005/013742の国際公開日における明細書及び特許請求の範囲(以下、「甲1明細書」という。)には以下の事項が記載されている。なお、甲1明細書はドイツ語で記載されているため、訳文で記す。

(甲1a)特許請求の範囲、請求項1(13頁)
「1.a.)フォーム組成物の全体量に対して少なくとも52?99質量%以下のアルコールまたはアルコール混合物、
b.)界面活性剤または界面活性剤混合物、
c.)少なくとも1つのポリアルキレングリコール、
d.)場合によっては少なくとも1つのフォーム安定剤ならびに
e.)場合によっては他の化粧用の助剤、添加剤および/または作用物質および/または水
の成分を含有し、この場合成分b.)の表面張力は、成分a.)の表面張力の±15dyn/cmの範囲にあるかまたは成分a.)の表面張力に相当し、成分a.)?f.)の総和は、フォーム組成物の全体量に対して100質量%である、消毒のためのアルコール性フォーム組成物、殊にポンプ輸送によるフォーム調製物。」

(甲1b)5頁33行?6頁10行
「特に皮膚および手の消毒に適しているかかるアルコール性フォーム組成物がフォーム組成物の全体量に対して少なくとも52質量%でフォームとして通常のポンプ輸送によるフォーム系により、フォームが高いアルコール含量のために組成物中で崩壊することなく、放出されることができることは、全く驚異的なことであった。殊に、このように高いアルコール含量の場合には、このようなフォーム組成物のアルコール成分が50質量%より高いアルコール含量の際に単に溶剤として作用し、それによって界面活性剤の界面活性効果およびそれと関連した、界面活性剤のフォーム能が減少されることが予想できたであろう。しかしながら、このようなことは、観察されなかった。むしろ、本発明によるフォーム組成物で通常のポンプ輸送によるフォーム系において消毒の目的のための安定した嵩高のフォームを製造することができることが判明した。」

(甲1c)7頁14?25行
「界面活性剤は、なかんずくシリコーン化合物、例えばジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状シリコーンならびにアミノ変性シリコーン化合物、脂肪酸変性シリコーン化合物、アルコール変性シリコーン化合物、ポリエーテル変性シリコーン化合物、エポキシ変性シリコーン化合物、フルオロ変性シリコーン化合物、グリコシド変性シリコーン化合物および/またはアルキル変性シリコーン化合物である。本発明によれば、シリコーン化合物として好ましいのは、Goldschmidt AG社, Essenから商品名ABIL(登録商標)で入手可能なポリシロキサン-ポリエーテル-コポリマー[INCI(CFTA):ジメチコンコポリオール]、殊に製品シリーズB 88のポリシロキサン-ポリエーテル-コポリマー、例えばABIL(登録商標)B 8843、ABIL(登録商標)B 8851、ABIL(登録商標)B 8852、ABIL(登録商標)B 8863、ABIL(登録商標)B 88183およびABIL(登録商標)B 88184である。特に好ましくは、本発明によるフォーム組成物は、ポリシロキサン-ポリエーテル-コポリマーを成分b)として含有し、この場合このコポリマーは、商品名ABIL(登録商標)B 8832(ビス-PEG/PPG-20/20 ジメチコン)で入手可能である。」

(甲1d)11頁19?24行
「本発明によるフォームは、殊にポンプ輸送によるフォームとして通常のポンプ輸送によるフォーム系により、消毒の目的のため、特に皮膚および手の消毒のために使用者に引き渡されてよく、殊にその理由は、このようなポンプ輸送によるフォームは、通常エーロゾルをベースとするフォームよりも安価であり、簡単に製造されるからである。」

(甲1e)12頁8?10行及び下表
「皮膚および手の消毒のための本発明による好ましいフォーム組成物(質量%での全ての記載、フォーム組成物の全体量に対する):



1-1 甲1明細書に記載された発明
ア 上記(甲1d)、(甲1e)によれば、甲1明細書には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「以下の組成(質量%)である皮膚および手の消毒のためのフォーム組成物であって、ポンプ輸送によるフォームとして皮膚および手の消毒に供されるフォーム組成物。
エタノール 80.0
PEG-14M 0.1
エチルセルロース 0.2
Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン 4.0
脱塩水 15.7」

イ 上記(甲1d)によれば、上記アのフォーム組成物は、通常のポンプ輸送によるフォーム系により、消毒の目的のため、特に皮膚および手の消毒のために使用者に引き渡される、すなわち、通常のポンプ輸送によりフォームを形成して使用に供されるものであるといえる。
そうすると、甲1明細書には、次の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されているといえる。
「以下の組成(質量%)である皮膚および手の消毒のためのフォーム組成物を、ポンプ輸送によりフォームを形成して皮膚および手の消毒に供する方法。
エタノール 80.0
PEG-14M 0.1
エチルセルロース 0.2
Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン 4.0
脱塩水 15.7」

2 平成17年10月20日に公開された甲2には、次の事項が記載されている。
(甲2a)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
永続発泡性の化粧用既製調剤の製造のための種々の手がかりは、例えば特許文献1?6により公知である。また、高温で特に貯蔵安定性がよく同時に皮膚または毛髪に使用したときに良い使用特性をもつ発泡製品の製造は、まだ全ての点で満足できるようには解決されていない。したがって、使用しやすい化粧用または皮膚病用の向上した感覚的性質(例えば、触感、外観、聴覚)をもつ皮膚保護剤および整髪剤を提供するという課題が存在する。この場合、主要な皮膚保護性および整髪性を受容できないほど損なってはならず、その薬剤はコストがかかり、間違いが起こりやすい包装材を必要としてはならず、また高い貯蔵安定性で永続発泡(耐久性ある発泡)の形で存在しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、永久泡沫のための泡安定剤として、一定のシリコーン化合物を使用することによって解決される。本発明の対象は、水および下記の化合物の種類の一つ以上に属する少なくとも一種のアルコキシル化シリコーン化合物を含む発泡組成物であり:
-ビスアルコキシル化シリコーン化合物
-アルコキシル化シリコーンワックス
-脂肪酸およびアルコキシル化シリコーン化合物からのエステル
-水不溶性アルコキシル化シリコーン化合物、
この組成物は空気または不活性ガスで発泡され、0.8g/cm^(3)以下の密度を持続するものである。」

(甲2b)「【0007】
本発明の組成物により、既製調合の泡製品として適切な包装材中に存在し、これは取り出すことができ、その場合、室温(20℃)で少なくとも一週間保存したあとの発泡度がなお少なくとも10%またはそれ以上であリ得るような化粧用、医薬用または皮膚病用の皮膚または毛髪の処理剤が製造できる。この場合、組成物の稠度は固形でも、半固形でもクリーム状でもよい。」

(甲2c)「【0009】
水のほかに、親水相にはさらに水溶性の化粧品に適した有機溶媒を1ないし30重量%または5ないし20重量%の量で含ませてもよい。そのような溶媒は、例えばエタノールやイソプロパノールのような低級一価アルコールまたは例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコールまたはグリセリンのような多価のC2-ないしC4-アルコールである。」

(甲2d)「【0013】
好ましいシリコン化合物は、INCI名でビス-PEG-4ジメチコーン、ビス-PEG-12ジメチコーン、ビス-PEG-20ジメチコーン、ビス-PEG-12ジメチコーン蜜蝋、ビス-PEG-12ジメチコーン・キャンデリレート、ビス-PEG-15ジメチコーン/IPDI共重合体、ビス-PEG-15メチルエーテル・ジメチコーン、ビス-PEG-18メチルエーテル・ジメチルシロキサン、ビス-PEG/PPG-14/14ジメチコーン、ビス-PEG/PPG-20/20ジメチコーン、ビス-PEG/PPG-16/16PEG/PPG-16/16・ジメチコーン、ビス-PPG-15ジメチコーン/IPDI共重合体、ビス-PPG-7ウンデセネス-21ジメチコーンである。好ましいのは、特にビス-(ポリ酸化エチレン)ポリジメチルシロキサン、ビス-(ポリ酸化エチレン)ポリジメチルシロキサンの脂肪酸エステルおよび少なくとも一種のビス-(ポリ酸化エチレン)ポリジメチルシロキサンと少なくとも一種のビス-(ポリ酸化エチレン)ポリジメチルシロキサンの脂肪酸エステルとの混合物である。特に好ましいのは、脂肪酸でエステル化したビス-エトキシル化シリコーンワックスである。」

(甲2e)「【0058】
噴気または発泡は、それに適切な装置、例えば速く動く攪拌器で行うことができ、この場合周辺の雰囲気の気体(好ましくは空気)を塊状物に導入する。最初熱い液状の混合物は、冷却によって凝固する。噴気は、液状の未発泡の組成物を、コンベア装置、混合ヘッドおよび気体の供給のための追加の接続部を持つミキサーに導入し、同時にミキサーに追加の噴気の上に気体を供給することによって行うことができる。組成物は、噴気具(例えばハンダ工業ミキサーのユウロミックスまたは動的発泡器トップミックスまたはウルトラチユラックスラボミキサー)中で気体、好ましくは空気、CO_(2)または窒素で噴気することができる。特に好ましいのは、酸化に敏感な内容物の場合の窒素の使用である。噴気は、好ましくは20ないし200%であり、この場合噴気に対して構造および稠度が影響を与え、希望通りに調整することができる。好ましいのは、コンベア装置およびローター/ステーター混合ヘッドから成るミキサーであり、この場合ローター/ステーター混合ヘッドの混合の経過中に追加の接続部を通じて気体を導入することができる。特に好ましいのは、べコミックス・デュオホモジナイザーであり、これは追加の接続部を有し、これを通して気体を直接ローターに導入でき、ホモジナイザーのリングギア中で始めて存在する相と接触する。この場合、気体は攪拌釜の横にある負圧(真空)の装置および/または気体導入管中での与圧によって供給できる。コンベア供給量、回転数、温度、圧力および供給気体量の変更によって、泡密度、稠度、粘度および気泡の大きさが狙い通りに調節できる。」

(甲2f)「【実施例】
【0064】
実施例1:永続発泡性ヘアスタイリング製品
ビス-PEG-12ジメチコーン・キャンデリレート(シリコニルキャンデリラ) 3.5g
ビス-PEG-20ジメチコーン(SF1388、GEシリコーンズ)
2.0g
ラノリンアルコール(Dusoran-登録商標-) 1.5g
酢酸ビニル/クロトン酸/ネオデカン酸ビニル共重合体(Resyn28-2930、ナショナル・スターチ) 1.5g
カッパ-カラギーナン(Genugel-登録商標- X-901-02)
1g
蜜蝋 0.5g
アミノエチルプロパノール 0.25g
アシッド・レッド52(CI45100) 0.001g
エタノール 10g
水 40g
これらの材料を混ぜ合わせ、約90℃に加熱する。つぎに、熱い混合物を速く動く攪拌器で噴気し、冷却によって凝固させる。促進のために、強く冷却してもよい。稠度において固いムース・オー・ショコラを思い出させる硬い泡(密度約0.2-0.3g/ml)を得る。それは、手の上に摺りこんだとき、生クリーム状-クリーム状で、きゅッきゅときしむ。
泡が乾燥すると、塊の容積は約90%になったままでとどまり、泡立ったゴム状のべとべとしない固体が得られる。密閉したガラス容器のなかで、泡は40℃で四週間保存してもその容積とその性質を保持する。塊の約5-10%の僅かな収縮が観察されるだけで、それは数日後に終息する。湿った塊の摺りこみは、あわ立ちも砕けもなく、非常に容易である。クリーム上の無色透明な皮膜が、手の上に得られる。毛髪に使用した場合、ヘアセットは強固ないし特別に強固である。その泡は、ヘアスタイルのカーラー固定および容積増大に非常によく適している。
【0065】
実施例2:永続発泡性整髪製品
ビス-PEG-12ジメチコーン・キャンデリレート(シリコニルキャンデリラ、コスター・コイネン) 3.5g
ビス-PEG-12ジメチコーン蜜蝋(シリコニル蜜蝋、コスター・コイネン) 0.5g
ビス-PEG-20ジメチコーン(SF1388、GEシリコーンズ)
2.0g
ラノリンアルコール(Dusoran-登録商標-) 1.5g
セテアリルアルコール(Lanette-登録商標-0) 2g
ステアラミドプロピルジメチルアミン(Tegoamid-登録商標- S18) 1g
カッパ-カラギーナン(Genugel-登録商標- X-901-02)
1g
PEG-7アミドメチコーン(Ultrasil-登録商標- A-21、ノベオン) 1g
アシッド・レッド52(CI45100) 0.001g
エタノール 10g
水 40g
【0066】
実施例3:永続性発泡毛髪平滑化製品
ビス-PEG-12ジメチコーン・キャンデリレート(シリコニルキャンデリラ) 3.5g
ビス-PEG-20ジメチコーン(SF1388、GEシリコーンズ)
2.0g
ラノリンアルコール(Dusoran-登録商標-) 1.5g
イオタ-カラギーナン(Genuvisco-登録商標- X-904-02) 1g
蜜蝋 0.5g
アンモニア、25% 2.5g
チオグリコール酸アンモニウム、70%(ATG) 10g
ジチオグリコール酸ジアンモニウム、40%(DADTG) 4g
アシッド・レッド52(CI45100) 0.001g
エタノール 10g
水 40g
ビス-PEG-20ジメチコーンを添加しながら、カラギーナンを熱湯に溶かし、ゆっくりATGおよびDADTGと混ぜる。この溶融したワックスを攪拌し、残りの成分を添加する。つぎに、この温かい混合物を早く動く攪拌器で噴気し、冷却して凝固させる。促進のために、強く冷却してもよい。稠度においてムース・オー・ショコラを思い出させる柔らかくて弾性のある泡(密度約0.7g/ml)を得る。
【0067】
実施例4:永続性発泡染毛製品
ビス-PEG-12ジメチコーン・キャンデリレート(シリコニルキャンデリラ) 3.5g
ビス-PEG-20ジメチコーン(SF1388、GEシリコーンズ)
2.0g
ラノリンアルコール(Dusoran-登録商標-) 1.5g
カッパ-カラギーナン(Genugel-登録商標- X-901-02) 1g
蜜蝋 0.5g
アミノメチルプロパノール 0.25g
ルビンロートY^(1)) 0.3g
2-アミノ-6-クロロ-4-ニトロフェノール(Rodol-登録商標-9Rベース) 0.15g
エタノール 10g
水 40g
……」

3 平成17年4月7日に公開された甲7には、次の事項が記載されている。なお、甲7は英語で記載されているため、訳文で記す。
(甲7a)特許請求の範囲、請求項1、46及び64(32?45頁)
「1. 組成物であって、
a)該組成物全体の約40%v/vを超える量で存在しているアルコールC_(1-4)又はその混合物;
b)該組成物全体の少なくとも0.001重量%の量で存在している湿潤及び起泡に有効なフッ素化界面活性剤;
及び
c)該組成物全体を100重量%とする量で存在している水;
を含んでいる、前記組成物。」
「46. アルコール消毒用組成物であって、
a)a)該組成物全体の約60%v/v?約80%v/vの量で存在しているアルコールC_(1-4)又はその混合物;
b)該組成物全体の約0.01重量%?約2.0重量%の量で存在している生理学的に許容されるフルオロ界面活性剤;
c)約0.01重量%?約12.0重量%の量で存在しているフォーム安定化剤;
d)約0.05重量%?約5.0重量%の量で存在している保湿剤、軟化剤及びその組合せのいずれか一つ;
及び
e)該組成物全体を100重量%とする量の水;
を含んでいる、前記組成物。」
「64.非加圧式ディスペンサーの中に収容されている請求項46?63のいずれか1項に記載のアルコール消毒用組成物であって、該ディスペンサーが該消毒用組成物を空気と混合させてそのディスペンサーからフォームを分配するためのディスペンサーポンプを有している、前記アルコール消毒用組成物。」

(甲7b)6頁19?23行
「本発明の目的は、アルコール含有量の高い液体組成物を提供することであり、ここで、該液体組成物は、界面活性剤/清浄剤、及び、消毒剤/クリーニング/溶媒/担体を含み、使用者の皮膚又は手を殆ど乾燥させることがなく、加圧システム及び非加圧システムの両方からゲル又はフォームとして分配され得る。」

(甲7c)15頁9?22行
「フルオロ界面活性剤の使用は、本明細書で開示している起泡するように意図された組成物における主要な起泡剤として重要な成分である。……
上記タイプの組成物に適するフルオロ界面活性剤としては、限定するものではないが、フッ素化されていて且つ特定の処方に使用される他の成分と適合性を有する、エトキシレート類、グリセロールエステル類、アミンオキシド類、アセチレン系アルコール誘導体、カルボキシレート類、ホスフェート類、炭水化物誘導体、スルホネート類、ベタイン類、エステル類、ポリアミド類、シリコーン類及び炭化水素界面活性剤などを挙げることができる。」

(甲7d)16頁18?22行
「本発明を開発している間に、エタノールと上記フルオロ界面活性剤のみを用いた場合、予想外に、すぐに壊れるエアレーションフォームも得ることができるということが分かったが、従来の界面活性剤を2倍の割合で用いても、僅かに類似した結果も生ぜず、フォームは全く得られなかった。」

3-1 甲7に記載された発明
ア 甲7の請求項46及び64((甲7a))によれば、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されているといえる。
「非加圧式ディスペンサーの中に収容されているアルコール消毒用組成物であって、該ディスペンサーが該消毒用組成物を空気と混合させてそのディスペンサーからフォームを分配するためのディスペンサーポンプを有しており、前記アルコール消毒用組成物が、
a)該組成物全体の約60%v/v?約80%v/vの量で存在しているアルコールC_(1-4)又はその混合物;
b)該組成物全体の約0.01重量%?約2.0重量%の量で存在している生理学的に許容されるフルオロ界面活性剤;
c)約0.01重量%?約12.0重量%の量で存在しているフォーム安定化剤;
d)約0.05重量%?約5.0重量%の量で存在している保湿剤、軟化剤及びその組合せのいずれか一つ;
及び
e)該組成物全体を100重量%とする量の水;
を含んでいる、前記アルコール消毒用組成物。」

イ また、甲7には、次の発明(以下、「甲7方法発明」という。)も記載されているといえる。
「アルコール消毒用組成物をフォームとして分配する方法であって、
非加圧式ディスペンサーの中に該アルコール消毒用組成物が収容されており、該ディスペンサーが該消毒用組成物を空気と混合させてそのディスペンサーからフォームを分配するためのディスペンサーポンプを有しており、前記アルコール消毒用組成物が、
a)該組成物全体の約60%v/v?約80%v/vの量で存在しているアルコールC_(1-4)又はその混合物;
b)該組成物全体の約0.01重量%?約2.0重量%の量で存在している生理学的に許容されるフルオロ界面活性剤;
c)約0.01重量%?約12.0重量%の量で存在しているフォーム安定化剤;
d)約0.05重量%?約5.0重量%の量で存在している保湿剤、軟化剤及びその組合せのいずれか一つ;
及び
e)該組成物全体を100重量%とする量の水;
を含んでいる、前記方法。」

第6 主な乙号証の記載事項
乙11には、次の事項が記載されている。
(乙11a)C-620
「[薬効薬理]エタノールの殺菌力上の最適濃度は大体50?80%の間が適当とされている.また,細菌の芽胞に対してはほとんど作用しないか又は非常に弱いことが認められている.Price^(1))の報告によれば,10?20%では10分間以上作用させないと効力はなく,しだいに濃度を増すにつれ殺菌力は強く,60?90%の間では最初の数秒間で強力に殺菌するが,90%以上では作用が弱くなることを示している.したがって本剤の濃度約70%は至適濃度と称してよく,この濃度においては皮膚に対して拡散及び揮散性も適度で,表皮を損傷することもなく,脂質を溶解し去ることもなく無害である.」

第7 当審の判断
当審は、請求人が主張するいずれの無効理由についても理由がないと判断する。
その理由は、以下のとおりであるが、請求人が上記「第3_1(6)」のとおり主張する、本件の優先基礎出願に基づくパリ条約上の優先権の利益の有無(本件発明についての新規性進歩性の判断基準日)について先に検討する。

1 新規性進歩性の判断基準日について
(1)上記第1に経緯を示したとおり、本件特許は、特願2008-500017号(国際出願日:平成18年3月7日)を親出願とする分割出願(子出願):特願2013-141342号の一部をさらに分割した出願(孫出願)である。
ここで、親出願は、平成17年3月7日に米国へ出願された仮出願(60/658,580)(甲11)を優先権主張の基礎とするパリ条約上の優先権の主張を伴う。

(2)職権で調査したところによれば、親出願の国際段階の出願書類である明細書(国際公開第2006/094387号)の請求項4(57頁)、7頁7?11行及び12頁12行?13頁4行等、親出願の明細書等(特表2008-531740号公報)の【請求項4】、【0020】及び【0042】?【0043】等、子出願の明細書等(特開2013-227332号公報)の【請求項4】、【0021】及び【0048】?【0049】等には、それぞれ、シリコンベースの界面活性剤としてBis-PEG-[10-20]ジメチコーン、又はその混合物を用いることが共通して記載されている。
したがって、この点に関して、本件特許に係る孫出願は適法な分割出願といえ、その出願は、特許法第44条第2項の規定により親出願の時にしたものとみなされる。すなわち、出願日が親出願の出願日に遡及する。

(3)ここで、本件発明1の「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」との表記の意味するところをみておくと、本件特許明細書【0048】「表記法 Bis-PEG [10-20] は、10?20個の反復オキシエチレン基を有する全ての Bis-PEG 化合物を意味する。」との記載、及び、本件発明1の「bis-PEG-[10-20]ジメチコーンの混合物」との記載からして、「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」とは、主鎖の両末端へのPEGの付加数が10個?20個の何れかである個別のポリエチレンングリコール変性ジメチコーン(例えば、bis-PEG-12ジメチコーン、bis-PEG-17ジメチコーン、bis-PEG-20ジメチコーン等)をまとめて表記したものと解される。

(4)上記(3)の理解の下、親出願の優先基礎の米国仮出願(60/658,580)の出願書類(甲11)を見ると、甲11には、シリコーン・ベースの界面活性剤に関して「本組成物の好まい実施形態において、有効なシリコーン系界面活性剤は、全組成物の約0.01%?約10.0%重量パーセントの、生理学的に許容される Bis-PEG -20ジメチコーン、3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリシロキサン、エトキシレーテッド、アセテート、ポリエーテル改変ポリシロキサン、又はポリシロキサンベタイン、又はその混合物であってよい。」(12頁13?17行)なる記載があるが、オキシエチレン基を有するシリコーン系界面活性剤については、具体的にはBis-PEG-20ジメチコーンしか例示されていない。実施例でも、実施例13、17?20、33?36、49はすべてBis-PEG-20ジメチコーンを用いている。
したがって、甲11には、オキシエチレン基を有するシリコーン系界面活性剤としてBis-PEG-20ジメチコーンの記載はあるものの、その他の付加数、すなわち、付加数が10?19個であるBis-PEGジメチコーン、又は付加数が10?20個であるBis-PEG-ジメチコーンの混合物を用いることの記載は見当たらない。

(5)そうすると、Bis-PEG-20ジメチコーンを用いる発明については、優先基礎出願である甲11に記載されていることが明らかであるから、かかる発明は、優先基礎出願に基づくパリ条約上の優先権の利益を受けることができないとはいえない。すなわち、新規性進歩性の判断基準日は、甲11の米国への出願日(優先権主張日)である平成17年3月7日となる。

(6)一方、Bis-PEG-20ジメチコーンのみを用いる場合を除く、Bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、又はその混合物を用いる発明については、優先基礎出願の出願書類に記載されておらず、優先基礎出願に基づくパリ条約上の優先権の利益を受けることができないので、判断基準日は、親出願の実際の国際出願日である平成18年3月7日となる。

(7)したがって、当審における本件特許についての新規性進歩性の判断基準日は、上記(5)、(6)のとおりとして、以下、判断する。
その結果、甲2及び甲7は、Bis-PEG-20ジメチコーンを用いる発明の判断基準日との関係からは公知文献ではないことになる。

2 無効理由1について
(1)先願
甲1として提示された国際公開第2006/066888号は、国際特許出願PCT/EP2005/013742の国際出願日の明細書、特許請求の範囲であるから、審判請求書(44頁)に「(1)甲第1号証(特願2007-547328)」と、PCT/EP2005/013742の日本の国内段階での出願番号が記載されているものの、請求人は、無効理由1の特許法第29条の2の規定にかかる「他の特許出願」としてPCT/EP2005/013742を提示したものと判断する。

(2)PCT/EP2005/013742(以下、「先願1」という。)は、平成17年12月20日(パリ条約による優先権主張 平成16年12月21日)を国際出願日とする外国語特許出願であって、平成18年6月29日に国際公開(国際公開第2006/066888号(甲1)され、特表2008-524295号公報として再公表されている。
したがって、先願1は、本件特許の優先権主張の日(平成17年3月7日)より前の、平成16年12月21日を優先権主張の日とする他の特許出願であって、本件特許の出願後に国際公開された特許出願であり、且つ、その発明者及び出願人は、本件特許の発明者及び出願人と同一ではないので、特許法第184条の13において読み替えて適用する特許法第29条の2でいう「他の特許出願」に該当する。
そして、先願1の国際出願日における明細書及び特許請求の範囲である甲1明細書には、上記「第5 1-1」で認定した甲1発明及び甲1方法発明が記載されている。
なお、先願1の優先基礎出願である独国特許出願10 2004 062 775.4(独国特許出願公開第10 2004 062 775号明細書)には、上記「第5 1」に摘記した(甲1a)?(甲1e)と同一内容の記載(請求項1、[0016]、[0023]、[0038]及び実施例2)が認められる。

(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)ここで、本件発明1や甲1発明の如く水性の液体組成物において、質量%と重量%とは等価ということができる。

(イ)甲1発明の「エタノール 80.0(質量%)」を含むことは、本件発明1の「a)全組成物の少なくとも40% v/vの量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物」を含むことに相当する。

(ウ)甲1発明はアルコールを含む「フォーム組成物」であるから、「発泡性アルコール組成物」といえる。

(エ)甲1発明の「Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン」は、「シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤」であることは明らかである。
また、甲1発明において界面活性剤は「界面活性剤の界面活性効果およびそれと関連した、界面活性剤のフォーム能」((甲1b))を期待して使用されているといえることから、甲1発明の組成中の界面活性剤である「Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン」もフォーム能を期待して配合された「発泡剤」といえる。

(オ)甲1発明のフォーム組成物が「ポンプ輸送によるフォームとして皮膚および手の消毒に供される」ことは、甲1明細書((甲1d))の「本発明によるフォームは、殊にポンプ輸送によるフォームとして通常のポンプ輸送によるフォーム系により、消毒の目的のため、特に皮膚および手の消毒のために使用者に引き渡されてよく、殊にその理由は、このようなポンプ輸送によるフォームは、通常エーロゾルをベースとするフォームよりも安価であり、簡単に製造されるからである。」なる記載によれば、甲1発明も「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」であり、「組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに、該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成され」て皮膚および手の消毒に供されるものであることに相当するといえる。

(カ)上記(エ)、(オ)より、甲1発明の「Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン 4.0(質量%)」を含むことは、本件発明1の「b)全組成物の0.01重量%?10.0重量%の量で存在する、発泡のための、シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって、組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに、該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤」を含むことに相当する。

(キ)甲1発明の「脱塩水 15.7(質量%)」は甲1発明の全組成100(質量%)のうちの残部を占めているから、本件発明1の「c)全組成物を100重量%とする量で存在する水」に相当する。

(ク)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「発泡性アルコール組成物であって、低い圧力で空気と混合されるときに発泡性であり、下記の成分;
a)全組成物の少なくとも40% v/vの量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物;
b)全組成物の0.01重量%?10.0重量%の量で存在する、発泡のための、シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって、組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに、該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤;及び
c)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含む発泡性アルコール組成物。」の発明である点で一致し、
少なくとも次の点で相違する。

<相違点1>:シリコーン・ベースの界面活性剤が、本件発明1は「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、又はbis-PEG-[10-20]ジメチコーンの混合物」であるのに対して、甲1発明は「Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン」である点。
(なお、シリコーン・ベースの界面活性剤の化合物名の接頭語として、「bis-」、「Bis-」と表記されているのは、いずれも「ビス」又は「ビス-」と同じ意味で用いられている。)

イ <相違点1>についての判断
(ア)まず、bis-PEG-[10-20]ジメチコーンとBis-PEG/PPG-20/20 ジメチコンとを化合物として比較する(審判請求書76頁参照)。
bis-PEG-[10-20]ジメチコーンは両末端変性シリコーン系界面活性剤であり、主鎖の両末端にPEGの繰り返し単位が10?20個付加された化合物である。
一方、Bis-PEG/PPG-20/20ジメチコンは、主鎖の両末端にPEGの繰り返し単位が20個付加され、更にその外側にPPGの繰り返し単位が20個連結された化合物である。
そうすると、両者は、両末端がポリアルキレングリコールで変性されたシリコーン系界面活性剤という点では共通するものの、両末端に付加されるものが、本件発明1はポリエチレングリコールのみ、甲1発明はポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールと、化学構造が大きく異なり、化合物として異なるものである。

(イ)次に、甲1明細書の記載をみると、甲1明細書の(甲1c)には、界面活性剤のシリコーン化合物として好ましいポリシロキサン-ポリエーテル-コポリマーが以下のとおり列挙されている(括弧内は本件特許の拒絶査定不服審判の審判請求書(甲3)の記載による。)。

「ABIL(登録商標、以下省略)B 8843(PEG-14ジメチコン)、ABIL B 8851(PEG/PPG-14/4ジメチコン)、ABIL B 8852(PEG/PPG-4/12ジメチコン)、ABIL B 8863(PEG/PPG-20/20ジメチコン)、ABIL 88183(PEG/PPG-20/6ジメチコン)、ABIL B 88184(PEG/PPG-20/6ジメチコン)、及びABIL B 8832(Bis-PEG/PPG-20/20ジメチコン)」

しかしながら、この中に本件発明1の「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」に該当するものは記載されていない。しかも、列挙されるポリシロキサン-ポリエーテル-コポリマーのうち両末端が変性されているものは、ABIL B 8832(Bis-PEG/PPG-20/20ジメチコン)、すなわち、甲1発明の成分であるもののみである。

(ウ)また、本件特許の優先権主張当時はおろか現時点でも、技術常識からみて、化合物として構造が異なる、bis-PEG-[10-20]ジメチコーンとBis-PEG/PPG-20/20 ジメチコンとが、界面活性剤としての機能が全く同等であるとは到底いえない。

(エ)そうすると、シリコーン・ベースの界面活性剤としてbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを用いることは、甲1明細書に記載されておらず、技術常識を加味しても、シリコーン・ベースの界面活性剤としてbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを用いることが甲1明細書に記載されているに等しい事項であったとはいえない。

ウ <相違点1>にかかる請求人の主張
(ア)請求人は、甲2の【0013】((甲2d))に、「好ましいシリコン化合物(審決注:「シリコーン化合物」の誤記)として、……ビス-PEG-12ジメチコーン、ビス-PEG-20ジメチコーン……、ビス-PEG/PPG-20/20ジメチコーン」が列挙されていることを根拠に、「発泡性組成物を調製する際に、bis-PEG-[10-20]ジメチコーンとビスPEG/PPG-20/20ジメチコーンとは代替可能な界面活性剤として周知であったと思料される。よって、甲第1号証の実施例2のフォーム組成物においてビスPEG/PPG-20/20ジメチコーンに替えて(又はそれと共に)bis-PEG-[10-20]ジメチコーンを用いることは周知技術の付加ないし転用に他ならない。」(審判請求書77頁)と主張する。

(イ)ここで、甲2の公開日は平成17年10月20日であるから、甲2は、本件特許の国際出願日よりも前であるが、本件特許の優先権主張の日よりは後に公開された文献であるところ、本件特許についての新規性進歩性の判断基準日は、上記「1(5)、(6)」のとおりであり、甲2は、本件特許のうち、「bis-PEG-20ジメチコーンのみを用いる場合を除く、bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、又はその混合物」(以下、便宜的に「限定されたbis-PEG ジメチコーン」と記す。)を用いる発明に対してのみ公知文献となる。
そこで、<相違点1>にかかる甲2に基づく請求人の主張に対しては、「限定されたbis-PEG ジメチコーン」を用いる発明に関してのみ、判断する。

(ウ)甲2は、皮膚保護剤及び整髪剤を対象として高い貯蔵安定性で永続発泡(耐久性ある発泡)のための泡安定剤として特定のシリコーン化合物を使用するという発泡組成物に関する技術を開示するもの(【0004】、【0005】((甲2a)))であり、エタノールのような低級一価アルコールについては、必須の成分ではなく、水のほかに利用可能な親水性有機溶媒としての位置付けで1ないし30重量%含ませてもよいというものである(【0009】((甲2c)))。そして、発泡方法については、「噴気または発泡は、それに適切な装置、例えば速く動く攪拌器で行うことができ、この場合周辺の雰囲気の気体(好ましくは空気)を塊状物に導入する。最初熱い液状の混合物は、冷却によって凝固する。噴気は、液状の未発泡の組成物を、コンベア装置、混合ヘッドおよび気体の供給のための追加の接続部を持つミキサーに導入し、同時にミキサーに追加の噴気の上に気体を供給することによって行うことができる。組成物は、噴気具(……)中で気体、好ましくは空気、CO_(2)または窒素で噴気することができる。特に好ましいのは、酸化に敏感な内容物の場合の窒素の使用である。」(【0058】((甲2e)))と記載され、発泡後の組成物の保存方法についても「本発明の組成物により、既製調合の泡製品として適切な包装材中に存在し、これは取り出すことができ、その場合、室温(20℃)で少なくとも一週間保存したあとの発泡度がなお少なくとも10%またはそれ以上であリ得るような化粧用、医薬用または皮膚病用の皮膚または毛髪の処理剤が製造できる。」(【0007】((甲2b)))と記載されている。
そうすると、甲1発明のフォーム組成物と甲2の発泡組成物とは、エタノール等の低級アルコールの配合目的(甲1発明は皮膚および手の消毒目的で主たる有効成分であるのに対して、甲2の発泡組成物では単に親水性有機溶媒として配合する)及び配合割合、発泡のさせ方、用時調製か既製調合の泡製品として包装材中で保管するかなど、組成及び用途、使用方法において大きく相違するものであるから、甲2に使用できるシリコーン化合物としてビス-PEG-12ジメチコーンとビス-PEG/PPG-20/20ジメチコーンとが同列に記載されているからといって、かかる甲2の記載だけをもって、甲1発明のフォーム組成物に使用される界面活性剤として、ビス-PEG-12ジメチコーンとビス-PEG/PPG-20/20ジメチコーンとが置換可能で同等のものであるとはいえない。

(エ)また請求人は、甲5-1?甲6-5の実験報告書で、ビスPEG-12ジメチコンとビス(PEG/PPG-20/20)ジメチコンとを比較して、泡の安定性が同程度であるかむしろ後者の方が泡の安定性に優れていること、また、両者の目視による泡の状態に明確な差が見られないことから、新たな効果を追加するものではないとも主張するが、効果を比較するまでもなく、そもそも、甲2に記載される技術事項から、ビス-PEG/PPG-20/20ジメチコンに替えて(又はそれと共に)bis-PEG-[10-20]ジメチコーンを用いることは周知技術の付加ないし転用であるとはいえないものである。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲1明細書に記載された甲1発明と実質的に同一とはいえない。

(4)本件発明24について
ア 上記(3)アの検討を踏まえて、本件発明24と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。

<相違点2>:シリコーン・ベースの界面活性剤が、本件発明24は「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、及びその混合物からなる群から選択され」るのに対して、甲1発明は「Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン」である点。

イ <相違点2>について判断すると、<相違点2>は、上記(3)アの<相違点1>と実質的に同じであるから、上記(3)イで検討したのと同様の理由によりシリコーン・ベースの界面活性剤としてbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを用いることは、甲1明細書に記載されておらず、技術常識を加味しても、シリコーン・ベースの界面活性剤としてbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを用いることが甲1明細書に記載されているに等しい事項であったとはいえない。

ウ 甲2の記載を根拠とする請求人の主張についても上記(3)ウで述べたとおりであり、採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明24は、甲1明細書に記載された甲1発明と実質的に同一とはいえない。

(5)本件発明25について
ア 本件発明25と甲1方法発明との対比
(ア)本件発明25における「発泡性アルコール組成物」の組成と、甲1方法発明における「フォーム組成物」の組成を対比すると、上記(3)ア(ア)?(エ)、(キ)と同様のことがいえる。

(イ)そして、上記(3)ア(オ)の検討を踏まえると、甲1方法発明の「フォーム組成物を、ポンプ輸送によりフォームを形成して皮膚および手の消毒に供する方法」は、本件発明25の「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性である発泡性アルコール組成物を用いて泡を形成し分配する方法であって、該方法が、a)空気と発泡性アルコール組成物とを分配の際に混合して泡を形成するように構成されたディスペンサーポンプを有する無加圧容器から、低い圧力で発泡性アルコール組成物を分配する工程、を含」むことに相当するといえる。

(ウ)そうすると、本件発明25と甲1方法発明とは、
「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性である発泡性アルコール組成物を用いて泡を形成し分配する方法であって、
該方法が、
a)空気と発泡性アルコール組成物とを分配の際に混合して泡を形成するように構成されたディスペンサーポンプを有する無加圧容器から、低い圧力で発泡性アルコール組成物を分配する工程、
を含み、
該発泡性アルコール組成物が
i) 全組成物の40% v/vより多い量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物;
ii) 全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する、発泡のための、シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベースの界面活性剤を含む発泡剤;及び
iii)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含むものである、前記方法。」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点3>:シリコーン・ベースの界面活性剤が、本件発明25は「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、及びその混合物からなる群から選択され」るのに対して、甲1方法発明は「Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン」である点。

イ <相違点3>は、上記(4)アの<相違点2>と同一であり、上記(4)イ、ウと同様のことがいえる。

ウ 小括
したがって、本件発明25は、甲1明細書に記載された甲1方法発明と実質的に同一とはいえない。

(6)本件発明28について
ア 上記(3)アの検討を踏まえて、本件発明28と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。

<相違点4>:本件発明28は「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」を含むのに対して、甲1発明は「Bis-PEG/PPG-20/20 ジメチコン」を含む点。

イ <相違点4>について判断すると、上記(3)イと同様のことがいえる。

ウ 甲2の記載を根拠とする請求人の主張についても上記(3)ウで述べたとおりであり、採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明28は、甲1明細書に記載された甲1発明と実質的に同一とはいえない。

(7)本件発明2?23、26、27、29?33について
本件発明2?23、29?33は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、本件発明1と同様の理由により、甲1明細書に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。
また、本件発明26は本件発明25を引用するものであって、本件発明25の発明特定事項を全て含んでおり、本件発明25と同様の理由により、甲1明細書に記載された甲1方法発明と実質的に同一であるとはいえない。
また、本件発明27は、請求項24を引用するものであって、本件発明24の発明特定事項を全て含んでおり、本件発明24と同様の理由により、甲1明細書に記載された甲1発明と実質的に同一であるとはいえない。

(8)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?33は、甲1明細書に記載された発明と同一であるとはいえないから、本件発明1?33に係る特許は、請求人が主張する無効理由1によって無効とすることはできない。

3 無効理由2ついて
(1)甲7、甲2について
ここで、甲7の公開日は平成17年4月7日であるから、甲7は、本件特許の国際出願日よりも前であるが、本件特許の優先権主張の日よりは後に公開された文献であるところ、本件特許についての新規性進歩性の判断基準日は、上記「1(5)、(6)」のとおりであり、甲7は、本件特許のうち、「bis-PEG-20ジメチコーンのみを用いる場合を除く、bis-PEG-[10-20]ジメチコーン、又はその混合物」(以下、上記「2(3)ウ(イ)」と同様に、便宜的に「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」と記す。)を用いる発明に対してのみ公知文献となる。
甲2の公開日と本件特許との関係については、上記「2(3)ウ(イ)」で示したとおりである。
そこで、無効理由2については、本件特許のうち、「限定されたbis-PEG ジメチコーン」を用いる発明に関してのみ、判断する。

(2)本件発明1(「限定されたbis-PEG ジメチコーン」を用いる場合。以下同様。)について
ア 本件発明1と甲7発明との対比
(ア)甲7発明のアルコール消毒用組成物は、非加圧式ディスペンサーからフォームとして分配されるものであるから、「発泡性アルコール組成物であって、低い圧力で空気と混合されるときに発泡性であ」るものといえる。

(イ)甲7発明の「組成物全体の約60%v/v?約80%v/vの量で存在しているアルコールC_(1-4)又はその混合物」は、本件発明1の「a)全組成物の少なくとも40% v/vの量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物」であるといえる。

(ウ)甲7の「フルオロ界面活性剤の使用は、本明細書で開示している起泡するように意図された組成物における主要な起泡剤として重要な成分である。」((甲7c))との記載によれば、甲7発明において「フルオロ界面活性剤」は起泡剤(すなわち発泡剤)として使用されていることは明らかであるから、甲7発明の「組成物全体の約0.01重量%?約2.0重量%の量で存在している生理学的に許容されるフルオロ界面活性剤」を含むことは、全組成物の0.01重量%?2.0重量%の範囲で存在する発泡のための生理学的に許容される界面活性剤を含む発泡剤を含む点で、本件発明1と共通する。
そして、甲7発明は「非加圧式ディスペンサーの中に収容されているアルコール消毒用組成物であって、該ディスペンサーが該消毒用組成物を空気と混合させてそのディスペンサーからフォームを分配する」ものであるから、甲7発明に含まれる起泡剤(すなわち発泡剤)である「フルオロ界面活性剤」は、非加圧式ディスペンサーから分配されるときに、アルコール消毒用組成物が空気と混合されて泡が形成されるものであるといえる。

(エ)甲7発明の「組成物全体を100重量%とする量の水」は、本件発明1の「c)全組成物を100重量%とする量で存在する水」に相当する。

(オ)そうすると、本件発明1と甲7発明とは、
「発泡性アルコール組成物であって、低い圧力で空気と混合されるときに発泡性であり、下記の成分;
a)全組成物の少なくとも40% v/vの量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物;
b)全組成物の0.01重量%?2.0重量%の量で存在する、発泡のための、生理学的に許容される界面活性剤を含む発泡剤であって、組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに、該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤;及び
c)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含む発泡性アルコール組成物。」の発明である点で一致し、
少なくとも次の点で相違する。

<相違点5>:生理学的に許容される界面活性剤が、本件発明1は「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」であるのに対して、甲7発明は「フルオロ界面活性剤」である点。

イ <相違点5>についての判断
(ア)甲7((甲7c)、(甲7d))には、「フルオロ界面活性剤の使用は、本明細書で開示している起泡するように意図された組成物における主要な起泡剤として重要な成分である。」、「本発明を開発している間に、エタノールと上記フルオロ界面活性剤のみを用いた場合、予想外に、すぐに壊れるエアレーションフォームも得ることができるということが分かったが、従来の界面活性剤を2倍の割合で用いても、僅かに類似した結果も生ぜず、フォームは全く得られなかった。」と記載されている。
かかる記載からして、甲7発明では、起泡剤としてフルオロ界面活性剤が必須のものであり、これを従来の他の界面活性剤に変更しようとする動機付けは甲7には存在しない。

(イ)一方、甲2は上記「2(3)ウ(ウ)」のとおりの発泡組成物に関する技術を開示するものであり、甲7発明のアルコール消毒用組成物と甲2の発泡組成物とは、上記「2(3)ウ(ウ)」で検討したのと同様に、エタノール等の低級アルコールの配合目的及び配合割合、発泡のさせ方、用時調製か既製調合の泡製品として包装材中で保管するかなど、組成、用途、使用方法において大きく相違するものであるから、甲2に使用できるシリコーン化合物を甲7発明に直ちに適用できるものではない。

(ウ)そして、甲2には、好ましいシリコーン化合物として、
「INCI名でビス-PEG-4ジメチコーン、ビス-PEG-12ジメチコーン、ビス-PEG-20ジメチコーン、ビス-PEG-12ジメチコーン蜜蝋、ビス-PEG-12ジメチコーン・キャンデリレート、ビス-PEG-15ジメチコーン/IPDI共重合体、ビス-PEG-15メチルエーテル・ジメチコーン、ビス-PEG-18メチルエーテル・ジメチルシロキサン、ビス-PEG/PPG-14/14ジメチコーン、ビス-PEG/PPG-20/20ジメチコーン、ビス-PEG/PPG-16/16PEG/PPG-16/16・ジメチコーン、ビス-PPG-15ジメチコーン/IPDI共重合体、ビス-PPG-7ウンデセネス-21ジメチコーンである。好ましいのは、特にビス-(ポリ酸化エチレン)ポリジメチルシロキサン、ビス-(ポリ酸化エチレン)ポリジメチルシロキサンの脂肪酸エステルおよび少なくとも一種のビス-(ポリ酸化エチレン)ポリジメチルシロキサンと少なくとも一種のビス-(ポリ酸化エチレン)ポリジメチルシロキサンの脂肪酸エステルとの混合物である。特に好ましいのは、脂肪酸でエステル化したビス-エトキシル化シリコーンワックスである。」((甲2d))と記載され、実施例1?4((甲2f))で使用されるシリコーン化合物は「ビス-PEG-20ジメチコーン」だけである。
そうすると、甲7発明の「フルオロ界面活性剤」に置換する界面活性剤として、上記のとおり甲2に開示される多数のシリコーン化合物の中から、特に、「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」に該当するビス-PEG-12ジメチコーンを選択する理由が見当たらない。

ウ 本件発明1の奏する効果
本件発明1は<相違点5>にかかる構成をとることにより、本件特許明細書記載の効果を奏するものである。

エ <相違点5>にかかる請求人の主張
(ア)請求人は、「甲第7号証には、界面活性剤としてフッ素化シリコーン系界面活性剤を使用できることが記載されている。つまり、甲第7号証において、シリコーン系界面活性剤がフォーム組成物の作成に使用できることが教示されている。一方、フッ素化界面活性剤はフッ素化化合物に共通した環境への影響に対する懸念から、非フッ素化界面活性剤に置き換えることが本件特許の出願日(2006年3月7日)よりも前から望まれていたことは誰しも疑うものではない。よって、甲第7号証に触れた当業者であれば、フッ素化シリコーン界面活性剤を非フッ素化シリコーン界面活性剤に置き換える動機づけがあったと認められる。」(審判請求書101頁)と主張している。
しかしながら、上記イ(ア)のとおり、甲7発明では、起泡剤としてフルオロ界面活性剤が必須であるから、必須成分を置換してはそもそも、「アルコール含有量の高い液体組成物を提供することであり、ここで、該液体組成物は使用者の皮膚又は手を殆ど乾燥させることがなく、加圧システム及び非加圧システムの両方からゲル又はフォームとして分配され得る」((甲7b))との甲7発明の課題が解決されるか否か明らかではなくなってしまい、甲7発明に基づいて本件発明1が容易になし得たものとする論理は成り立たない。
そして、甲7にフッ素化シリコーン系界面活性剤を使用できることが記載されていることと甲2の開示からは、「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」を選択することを導き出すことはできないことは、上記イ(ウ)で述べたとおりである。

(イ)また、請求人は、甲8?甲10を提示して、フォームの形成と表面張力との関係から、界面活性剤の表面張力低下作用を指標としてbis-PEG-[10-20]ジメチコーンのフォーム形成能を予測しえた旨主張する(審判請求書102?105頁)。
しかし、甲7と甲2の開示からは「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」を選択することを導き出すことはできない以上、「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」のフォーム形成能の予測性について検討するまでもない。

(ウ)よって、請求人の上記主張は採用できない。

オ 小括
したがって、本件発明1は甲7発明及び甲2に開示された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明24について
ア 上記(2)アの検討を踏まえて、本件発明24と甲7発明を対比すると、甲7発明の
「c)約0.01重量%?約12.0重量%の量で存在しているフォーム安定化剤;
d)約0.05重量%?約5.0重量%の量で存在している保湿剤、軟化剤及びその組合せのいずれか一つ」は、
本件発明24の
「c)0.01重量%?12.0重量%の量で存在する泡安定剤;
d)0.05重量%?5.0重量%の量で存在する保湿剤、皮膚軟化剤及びその組み合わせの何れか一つ」に相当する。
そうすると、両者は、次の点で相違する。

<相違点6>:生理学的に許容される界面活性剤が、本件発明24は「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」であるのに対して、甲7発明は「フルオロ界面活性剤」である点。

イ <相違点6>は、上記(2)アの<相違点5>と同一であり、上記(2)イ?エと同様のことがいえる。

ウ 小括
したがって、本件発明24は甲7発明及び甲2に開示された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明25について
ア 本件発明25と甲7方法発明との対比
(ア)甲7方法発明の「アルコール消毒用組成物をフォームとして分配する方法であって、非加圧式ディスペンサーの中に該アルコール消毒用組成物が収容されており、該ディスペンサーが該消毒用組成物を空気と混合させてそのディスペンサーからフォームを分配するためのディスペンサーポンプを有し」ていることは、本件発明25の「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性である発泡性アルコール組成物を用いて泡を形成し分配する方法であって、該方法が、a)空気と発泡性アルコール組成物とを分配の際に混合して泡を形成するように構成されたディスペンサーポンプを有する無加圧容器から、低い圧力で発泡性アルコール組成物を分配する工程、を含」むことに相当する。

(イ)本件発明25における「発泡性アルコール組成物」の組成と、甲7方法発明における「アルコール消毒用組成物」の組成を対比すると、上記(2)ア(イ)、(エ)と同様のことがいえる。
また、甲7方法発明の「アルコール消毒用組成物」における「フルオロ界面活性剤」は起泡剤(すなわち発泡剤)として使用されていることは明らかであるから、甲7方法発明の「組成物全体の約0.01重量%?約2.0重量%の量で存在している生理学的に許容されるフルオロ界面活性剤」を含むことは、全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する発泡のための生理学的に許容される界面活性剤を含む発泡剤を含む点で、本件発明25の「発泡性アルコール組成物」と共通する。

(ウ)そうすると、本件発明25と甲7方法発明とは、
「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性である発泡性アルコール組成物を用いて泡を形成し分配する方法であって、
該方法が、
a)空気と発泡性アルコール組成物とを分配の際に混合して泡を形成するように構成されたディスペンサーポンプを有する無加圧容器から、低い圧力で発泡性アルコール組成物を分配する工程、
を含み、
該発泡性アルコール組成物が
i) 全組成物の40% v/vより多い量で存在する、C_(1)-_(4)アルコール又はその混合物;
ii) 全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する、発泡のための、生理的に許容される界面活性剤を含む発泡剤;及び
iii)全組成物を100重量%とする量で存在する水
を含むものである、前記方法。」の発明である点で一致し、
少なくとも次の点で相違する。

<相違点7>:生理学的に許容される界面活性剤が、本件発明1は「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」であるのに対して、甲7方法発明は「フルオロ界面活性剤」である点。

イ <相違点7>は、上記(2)アの<相違点5>と同一であり、上記(2)イ?エと同様のことがいえる。

ウ 小括
したがって、本件発明25は、甲7方法発明と甲2に開示された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明28について
ア 上記(2)アの検討を踏まえて、本件発明28と甲7発明を対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。

<相違点8>:本件発明28は「限定されたbis-PEG-ジメチコーン」を含むのに対して、甲7発明は「フルオロ界面活性剤」を含む点。

イ <相違点8>についての判断すると、上記(2)イ、ウと同様のことがいえる。

ウ 甲2の記載を根拠とする請求人の主張についても上記(2)エで述べたとおりであり、採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明28は、甲7発明と甲2に開示された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明2?23、26、27、29?33について
本件発明2?23、29?33は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、本件発明1と同様の理由により、甲7発明と甲2に開示された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明26は本件発明25を引用するものであって、本件発明25の発明特定事項を全て含んでおり、本件発明25と同様の理由により、甲7方法発明と甲2に開示された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明27は、請求項24を引用するものであって、本件発明24の発明特定事項を全て含んでおり、本件発明24と同様の理由により、甲7発明と甲2に開示された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?33は、甲7発明又は甲7方法発明と甲2に開示された事項とに基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1?33に係る特許は、請求人が主張する無効理由2によって無効とすることはできない。

4 無効理由3ついて
(1)請求人の主張
請求人は、甲6-1を提示して「80v/v%アルコール水溶液に0.01重量%のbis-PEG-12ジメチコーンを配合した水溶液ではフォームを形成することはできない」として、「本件請求項1に係る発明の範囲には、当業者が、本件特許の出願時の技術常識を考慮し、いかに試行錯誤を重ねても、低い圧力で空気と混合されるときに発泡性を有する組成物を製造することも、それを発泡性組成物として使用することもできない一定の実施形態が明らかに存在する。従って、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件請求項1に係る発明の範囲全体について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。また、同様の理由により、本件請求項2?33に係る発明についても、本件特許明細書の発明の詳細な説明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」(審判請求書125?126頁)と主張している。

(2)無効理由3についての検討
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア)「【0060】
アルコールに水を添加することは、製品を発泡させるために必要なシリコーン・ベースの界面活性剤の量の減少を可能にする一方で、より安定な泡を生じさせる。例えば、50?60% v/v アルコール水溶液と共に0.5?1.0%のシリコーン・ベースの界面活性剤を使用すると安定な泡を生成し、この泡は容易に壊れず、そして逆さにしたときでさえ落ちず、また圧力を加える(例えば両手で又は表面上でこするときに)まで壊れない安定なひと吹き(puff)を生じてアルコール性溶液を与える一方で、アルコールの使用パーセンテージが65% w/wより多い場合には5%以下のレベルを必要とする。」

(イ)実施例17?20




(ウ)実施例33?36





(エ)実施例49





(オ)「


」(本件特許公報28?29頁)

イ 上記アの本件特許明細書の記載をみると、
・【0060】には「50?60% v/v アルコール水溶液と共に0.5?1.0%のシリコーン・ベースの界面活性剤を使用すると安定な泡を生成し、」「アルコールの使用パーセンテージが65% w/wより多い場合には5%以下のレベルを必要とする。」と記載されている。
・実施例17?19とその泡の評価/記述/特性から、同一のBis-PEG-20ジメチコーン濃度(0.01重量%)においては、エタノール濃度が40重量%、50重量%、60重量%と高まるにつれ、泡の評価が下がり、泡の持続時間も短くなる傾向があることがわかる。
・実施例33?36とその泡の評価/記述/特性から、同一のエタノール濃度(62重量%)においてはBis-PEG-20ジメチコーン濃度0.50重量%、1.00重量%、2.0重量%、5.00重量%と高くなるほど泡の評価や持続性が高まることがわかる。

ウ 上記イによれば、当業者は、評価が好ましく所望の持続時間の泡を得るには、高アルコール濃度ではBis-PEG-20ジメチコーン濃度を高める必要性を理解するといえる。

エ そうすると、アルコール濃度を80v/v%といった高濃度とする場合に評価が好ましく所望の持続時間の泡を得ようとすれば、bis-PEG-[10-20]ジメチコーンの濃度を、本件発明1で特定される、全組成物の0.01重量%?10.0重量%の範囲内で、高い濃度を選択すればよいものであって、アルコール濃度を80v/v%といった高濃度とする場合にも、当業者は発泡性組成物を容易に製造できるといえる。

オ したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?33を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

(3)無効理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は請求人が主張する無効理由3によって無効とすることはできない。

5 無効理由4について
(1)請求人の主張
ア 請求人は、「本件請求項1に係る発明の解決すべき課題は、加圧容器を使用しなくても安定な泡の形成が可能である発泡性組成物を提供することであると解される。
一方、(中略)、本件請求項1に係る発明の範囲には、上記課題が解決できない一定の実施形態が含まれる。(中略)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、エタノール濃度が75v/v%以上であり、bis-PEG-[10-20]ジメチコーンの濃度が0.01重量%以上8.00重量%未満である場合に、上記課題が解決できることは示されていない。従って、本願請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。本件請求項2?33に係る発明についても同様である。」(審判請求書127頁)と主張している。

イ また、「低級アルコールの濃度が上限値(99.99重量%)である場合に、bis-PEG-[10-20]ジメチコーン濃度を下限値よりも高くすることは不可能である。なぜなら、本件特許の請求項1では、組成物の全体が100重量%と規定され、必須成分であるbis-PEG-[10-20]ジメチコーン濃度の下限値は0.01重量%であるため、もう一方の必須成分である低級アルコール濃度の上限値は99.99重量%である。そして、低級アルコールを上限の99.99重量%に設定すれば、bis-PEG-[10-20]ジメチコーン濃度は必然的に0.01重量%になり、それ以上に引き上げれば組成物全体が100重量%を超えてしまうためである。よって、当業者は、低級アルコール濃度の上限付近(99.99重量%)では、課題は解決できないと理解する他にないのである。」(口頭審理陳述要領書21頁)とも主張する。

(2)無効理由4についての検討
ア 上記4(2)で検討したとおり、アルコール濃度を80v/v%といった高濃度とする場合にはbis-PEG-[10-20]ジメチコーンの濃度を高めればよいものであって、アルコール濃度が80v/v%といった高濃度の場合にも評価が好ましく所望の持続時間の泡を得ることができ、上記課題が解決できることを、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から認識できるといえる。

イ そして、本件発明の発泡性アルコール(消毒)組成物は水も必須の構成成分の一つであるから、水の存在を無視した、「必須成分であるbis-PEG-[10-20]ジメチコーン濃度の下限値は0.01重量%であるため、もう一方の必須成分である低級アルコール濃度の上限値は99.99重量%である。」などといった上記請求人主張イの仮定は成立しない。また、本件発明の主たる用途が「アルコール性皮膚/ハンド消毒組成物」としての用途(本件特許明細書【0097】)であることに鑑みれば、エタノールの殺菌力上の最適濃度は50?80%で90%以上では作用が弱くなる(乙11(乙11a)参照。審決注:乙11と同様の記載は、縮刷版 第十三改正日本薬局方解説書、平成10年5月15日、D-108、109、「消毒用エタノール」の項にも存在する。)との技術常識からしても、本件発明において請求人が主張するような低級アルコール濃度が99.99重量%である場合は想定されていないといえるので、請求人の主張イも当を得たものとはいえず、採用できない。

ウ したがって、本件発明1?33は、発明の詳細な説明により裏付けられており、本件の特許請求の範囲の記載は、いわゆるサポート要件を満たしていないとはいえない。

(3)無効理由4についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?33は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、その特許は請求人が主張する無効理由4によって無効とすることはできない。

6 無効理由5について
(1)請求人の主張
請求人は、「本件請求項1に係る発明の範囲には、その発明を実施できない一定の実施形態を含み、また本件発明の課題を解決することができるように記載されていない一定の実施形態が含まれる。そこで、仮に本件請求項1に係る発明の範囲をその発明を実施できる範囲(又は、課題の解決ができるように発明の詳細な説明に記載されている範囲)と善意に解釈すれば、当該範囲の外縁を把握するためには、安定な泡が形成されるか否かを正確に判断できる必要がある。しかし、(中略)試験方法によって泡の安定性の評価は異なる。(中略)また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、泡の安定性を評価する方法は定められていない。よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、本件請求項1に係る発明の実質的な範囲を把握することは不可能である。従って、本件請求項1の記載は不明確である。また、本件請求項2?33についても同様である。」(審判請求書127?128頁)と主張している。

(2)無効理由5についての検討
請求人の主張は、本件発明1の範囲には、その発明を実施できない一定の実施形態を含み、また本件発明の課題を解決することができるように記載されていない一定の実施形態が含まれるとの前提の下での主張であるから、前提において失当であるが、本件発明1の範囲の外縁が把握できないとの主張について検討すると、本件発明1は、成分a)?c)を本件発明1で特定される量で含む組成物であって、該組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配するときに泡が形成されるものという点でその範囲は明確であるといえる。そして、ここでいう「泡」とは、本件特許明細書【0036】の「混合されて、可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡のマスを形成する液体及び気体を意味する。」との記載から明らかである。
したがって、本件発明1の記載は明確でないとはいえない。本件発明2?33の記載についても同様のことがいえる。

(3)無効理由5についてのまとめ
よって、本件発明1?33は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、その特許は請求人が主張する無効理由5によって無効とすることはできない。

第8 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1?33についての特許は無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-23 
結審通知日 2017-03-29 
審決日 2017-04-11 
出願番号 特願2013-167939(P2013-167939)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61K)
P 1 113・ 537- Y (A61K)
P 1 113・ 161- Y (A61K)
P 1 113・ 536- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 小川 慶子
関 美祝
登録日 2016-03-04 
登録番号 特許第5891575号(P5891575)
発明の名称 シリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール含有量の高い発泡性組成物  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 小原 正敏  
代理人 原井 大介  
代理人 岡田 春夫  
代理人 内田 誠  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 中西 淳  

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