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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1345705
審判番号 不服2017-15021  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-10 
確定日 2018-11-08 
事件の表示 特願2014- 73382「冗長系制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日出願公開、特開2015-194971〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成26年3月31日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 6月12日付け :拒絶理由の通知
平成29年 7月14日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年 8月31日付け :拒絶査定(原査定)
平成29年10月10日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 平成29年10月10日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成29年10月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正について(補正の内容)

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

平成29年10月10日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1乃至6の記載は,次のとおり補正された。

「 【請求項1】
運用系と,待機系とを含む冗長系制御装置であって,
前記運用系及び前記待機系は,互いに制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をしており,
前記運用系が自己の故障を検知すると,故障検知情報を前記待機系に通知し,前記運用系の制御出力を停止して前記待機系の制御出力に切り替える,冗長系制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された冗長系制御装置であって,前記待機系の制御出力に切り替えた後,前記運用系で誤りを検知しなかったときは,前記運用系の制御出力を用いる,冗長系制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された冗長系制御装置であって,前記待機系の制御出力に切り替えた後,前記運用系が更に誤りを検知したときは,前記運用系の故障を確定し,前記運用系の動作を停止させる,冗長系制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載された冗長系制御装置であって,前記運用系及び前記待機系は,互いに独立する形態を持ち,互いに異なる位置に配置されている,冗長系制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載された冗長系制御装置であって,前記運用系及び待機系は,列車の先頭車両及び最後尾車両にそれぞれ分けて配置される,冗長系制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載された冗長系制御装置であって,前記運用系及び待機系の間の情報伝送は,シリアル伝送による,冗長系制御装置。」
(当審注: 下線は,請求人が付与したものである。以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載

本件補正前の,平成29年7月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6の記載は,次のとおりである。

「 【請求項1】
運用系と,待機系とを含む冗長系制御装置であって,
前記運用系及び前記待機系は,互いに同期動作をしており,
周期毎に前記運用系の誤りを検知するよう構成し,前記運用系の故障検知情報を前記待機系に与えた後,前記運用系の制御出力を停止し,前記待機系の制御出力を用いる,冗長系制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された冗長系制御装置であって,前記待機系の制御出力を用いた後,前記運用系で誤りを検知しなかったときは,前記運用系の制御出力を用いる,冗長系制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された冗長系制御装置であって,前記待機系の制御出力を用いた後,前記運用系が更に誤りを検知したときは,前記運用系の故障を確定し,前記運用系の動作を停止させる,冗長系制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載された冗長系制御装置であって,前記運用系及び前記待機系は,互いに独立する形態を持ち,互いに異なる位置に配置されている,冗長系制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載された冗長系制御装置であって,前記運用系及び待機系は,列車の先頭車両及び最後尾車両にそれぞれ分けて配置される,冗長系制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載された冗長系制御装置であって,前記運用系及び待機系の間の情報伝送は,シリアル伝送による,冗長系制御装置。」
(当審注: 以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

2 補正の適否

本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許法第17条の2第3項の規定に適合している。
また,本件補正は,特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではなく,特許法第17条の2第4項の規定に適合している。
そして,本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「同期動作」,「故障検知情報」の「待機系」への通知に係る動作,及び「待機系の制御出力」に係る動作について,上記のとおり限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明は,上記平成29年10月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
運用系と,待機系とを含む冗長系制御装置であって,
前記運用系及び前記待機系は,互いに制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をしており,
前記運用系が自己の故障を検知すると,故障検知情報を前記待機系に通知し,前記運用系の制御出力を停止して前記待機系の制御出力に切り替える,冗長系制御装置。」

(2)引用例

(2-1)引用例1に記載されている技術的事項および引用発明

ア 本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成29年6月12日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2010-3081号公報(平成22年1月7日出願公開,以下,「引用例1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0004】
しかしながら,前記従来例においては,主系のCPUとそのメモリを結ぶラインからメモリデータ信号をスヌープ(Snoop)し,当該メモリデータ信号を,パラレルバスを用いた一致化バスを介して従系のCPUが取得するもので,ノイズに弱いパラレルバスを用いていることから長距離伝送には不向きである点,スヌープ(Snoop)するデータが主系にメモリされるデータであるために従系が主系と同時に処理できずに遅れることによるシステムの応答速度が犠牲になってしまう点,さらに,プログラムの更新に際してはプラントを止めることなく行うための機能を別途備える必要があり,機能が複雑になる点等の問題点を有していた。
【0005】
本発明は,上記の課題を解決するためになされたものであり,主系と従系間が長距離であってもノイズに強く,しかも,システムの応答速度を犠牲にすることなく,プログラム更新時,障害発生時にスムーズに主系,従系が切り替わるCPU2重化制御システムの提供を目的とする。
…(中略)…
【0013】
図1はCPU2重化制御システムのブロック図,図2乃至図3はCPU2重化制御システムの通常時におけるタイムチャート,図4は主系のCPU障害発生における従系のCPUへの切替処理を示すタイムチャート,図5は従系のCPUが主系のCPUからスヌープ(Snoop)確認要求を受信できないときに従系のCPUへの切替処理を示すタイムチャートである。
【0014】
図1における当該2重化制御システムは,CPU1,CPU1と同一のシステムであるCPU2,CPU1とCPU2に接続される入出力機器であるI/O3,I/O3につながる制御対象4,CPU1とCPU2及びI/O3を接続する通信路5,CPU1とCPU2を接続する通信路6等から構成される。
【0015】
前記通信路5は,RS-485等に代表されるバスマスタが存在するバスI/O3に対してCPU1とCPU2とが通信可能であり,しかも2重化制御を行うCPU1とCPU2とが同期化する際に使用可能であり,さらに,前記バスマスタ権は,主系となるCPUが保持し,同期が要請されるI/03との通信に専ら使用される。
【0016】
また,前記通信路6は,CPU1とCPU2間で通信可能な通信路であり,2重化制御を行うCPU1とCPU2で同期をあまり要請されない通信に専ら使用される,例えば,イーサネット(登録商標)に代表される通信路である。
【0017】
次に,本発明におけるCPU2重化制御システムの処理について,CPU1を主系,CPU2を従系として説明する。
【0018】
主系であるCPU1は実際に制御対象に対して制御指示を行うCPUであり,従系であるCPU2は制御対象への制御を行わず,主系のCPUに障害が発生した際に切り替わるために待機状態にあるCPUである。
【0019】
なお,いずれのCPUを最初に主系とするかの決定は,本発明におけるCPUが同一の機能を有してCPU間において主系/従系の切り替えが可能であるから,予め何れかが主系のCPU,従系のCPUであると決定しても良いし,あるいは,いずれかのCPUが主系/従系であるかを決定せずに,例えば早く起動が完了したCPUを主系としても良い。」

B 「【0020】
CPU2重化制御における通常制御の例を図2のタイムチャートを用いて説明する。
【0021】
当該図において,点線で示した矢印は通信路6を介した通信を示し,実線で示した矢印は通信路5を介した通信を示す。
【0022】
最初に主系となったCPU1は,CPU2に対し制御開始のためのコマンドである制御開始信号11を,通信路6を介して送信する。
【0023】
制御開始信号11を受信した従系のCPU2は,制御開始確認応答12を主系のCPU1に対して送信すると,主系のCPU1,従系のCPU2はそれぞれ制御を開始する為の設定及び初期化の処理13を行う。
【0024】
初期化処理13終了後,主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己診断14を行った結果を主系のCPU1から従系のCPU2に対し,自己診断結果15として通信路6を介して送信する。
【0025】
CPU1からの診断結果15を受信したCPU2は,自己診断結果16を主系のCPU1に対して通信路6を介して送信する。
【0026】
主系のCPU1の自己診断の結果,異常がある場合は従系のCPU2と主系,従系切り替え動作を行うこととなるが,この処理については後述する。
【0027】
従系であるCPU2の自己診断14の結果,異常がある場合には従系のCPU2への切り替え動作を禁止し,また,各々の自己診断14の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求17を通信路5を介して送出する。
【0028】
当該同期化要求17を受信した時点において従系のCPU2は,トリガをかけて同期化処理18を行い,従系のCPU2制御周期21を開始させると共に同期化確認応答19を主系のCPU1に対して,通信路5を用いて送出する。
【0029】
当該同期化確認応答19を受信した時点で,主系のCPU1は同期処理20を行うと共にCPU1制御周期22を開始する。この処理により,主系のCPU1は自己の制御周期の位相が,従系のCPU2に対して相対的に遅れることとなる。」

C 「【0032】
その後,主系であるCPU1は,従系であるCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認するスヌープ(Snoop)可否確認31を,通信路5を介して送出し,当該スヌープ(Snoop)可否確認31を受信した従系のCPU2は,主系のCPU1に対してスヌープ(Snoop)可能確認応答32を通信路5を介して主系のCPU1に対し送信することとなるが,従系のCPU2は主系のCPU1に対して位相が相対的に先行しているので,スヌープ(Snoop)可能状態にてスタンバイしていることとなる。
【0033】
したがって,スヌープ(Snoop)可否確認31を受信したら速やかにスヌープ(Snoop)可能確認応答32を,通信路5を介して主系であるCPU1に対し送信することができる。
【0034】
すなわち,従系のCPU2がスヌープ(Snoop)でスタンバイしているので,主系のCPU1は従系のCPU2がスヌープ(Snoop)状態になるまで待機する必要がなくなり,直ちに従系のCPU2からスヌープ(Snoop)可能確認応答32を受信することができるので,主系のCPU1は応答速度を犠牲にすることがなくなる。
【0035】
次に,主系のCPU1はI/O3に対し,制御上必要となる制御対象の入力情報の送出を要求する入力情報送出要求33を送出すると,I/O3は,主系のCPU1からの入力情報送出要求33を受けて制御対象4から取得した制御対象情報34を主系のCPU1に対して通信路5を用いて送出する。
【0036】
このとき従系のCPU2は,I/O3から主系のCPU1に対して通信路5を介して送出される制御対象情報34を同時にスヌープ(Snoop)する。
【0037】
主系のCPU1はI/O3から得た制御対象4の入力情報をもとにI/O3に対し制御命令35を行うが,従系のCPU2はI/O3に対しては制御命令を行わない。
【0038】
当該制御命令35を受信したI/O3は,制御命令確認応答36を,主系のCPU1に対して通信路5を用いて送信する。」

D 「【0039】
ここで,主系のCPU1は,従系のCPU2に対して当該制御命令35に対応するI/O3から送信された制御対象の情報をスヌープ(Snoop)できたか否かを確認するスヌープ(Snoop)確認要求37を通信路5を介して出力し,当該スヌープ(Snoop)確認要求37を受信した従系のCPU2は,スヌープ(Snoop)に成功した場合はスヌープ(Snoop)確認応答38を主系のCPU1に対して送出する。
【0040】
主系のCPU1は,従系のCPU2からのスヌープ(Snoop)確認応答38に基づいて従系のCPU2がスヌープ(Snoop)に成功した否かを確認し,従系のCPU2が連続してスヌープ(Snoop)に複数回失敗した場合には,従系のCPU2には何らかの障害が発生している状態であると判断して,主系のCPU1から従系のCPU2への主系,従系切り替え動作を以後禁止する。
【0041】
一方,従系のCPU2がスヌープ(Snoop)に成功したことを確認した主系のCPU1は,先に示したそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己健全情報のやりとりを行い,自己診断結果15及び16,及び同期化要求処理である同期化処理20を行う。
【0042】
以上までの処理を1周期として行うことにより,主系のCPU1に対して,従系のCPU2の制御周期の位相を相対的に進め,かつ,主系のCPU1が制御対象から取得した情報を従系のCPUがスヌープ(Snoop)することにより,制御対象に対する主系のCPU1の応答速度を犠牲にすることなくCPU2重化制御システムにおけるホットスタンバイが可能となる。
【0043】
ここで,主系のCPU1に対して進める従系のCPU2の制御周期の位相は,CPU1制御周期22の全期間に亘って主系のCPU1が制御動作を行うわけではないので,主系のCPU1の制御動作終了時点と主系のCPU1制御周期22の終了時点との範囲の時間内で適宜位相を遅らせて良い。
【0044】
また,ここでいうスヌープ(Snoop)とは,特許文献2に記載(参照)するように,データを分岐信号線を介して盗み読むことである。」

E 「【0045】
次に主系のCPU1が何らかの理由にて障害が発生してシステムダウンした場合の切り替えについてCPU1を主系,CPU2を従系として図4のタイムチャートに基づいて説明する。
【0046】
前記のように,主系のCPU1及び従系のCPU2はお互いに通信路6を介して自己が健全であるか否かの情報である自己診断結果15,16をやり取りするが,主系のCPU1において,自己診断によってエラーが検出され自己健全情報内にエラー情報が含まれた際の切り替え処理に関して説明する。
【0047】
主系のCPU1の自己診断14においてエラーが発生すると,主系のCPU1は自己に障害が発生したと判断して主系のCPU1から従系のCPU2に対して送出される自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出する。
【0048】
当該,自己診断結果15を受信した従系のCPU2は,自己診断結果16を,通信路6を介して送信し,当該自己診断結果16を受信した主系のCPU1は,その診断結果が健全であるという内容である場合は,従系のCPU2に対して主系/従系切替要求41を通信路6を用いて送出し,当該主系/従系切替要求41を受信した従系のCPU2は,主系/従系切替要求確認応答42を主系のCPU1に対して通信路6を用いて送出する。
【0049】
次いで,主系のCPU1は,従系のCPU2からの主系/従系切替要求確認応答42を受信した後,I/O3に対してCPU切替要求43を送出すると,I/O3はCPU切替が行われることを確認するCPU切替要求確認応答44を主系のCPU1へ通信路5を用いて出力する。
【0050】
次に,主系のCPU1は,従系のCPU2に対して通信路5切替要求45を送出すると,従系のCPU2は,当該通信路5切替要求45を受信してその旨を確認した後に,主系のCPU1に対して通信路5切替要求確認応答46を送出すると,当該通信路5切替要求確認応答46を受信した主系のCPU1は通信路5のマスタ権移行の処理を行って通信路5切替実行47の一連の処理により,通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替わり,従系のCPU2は,主系のCPU1の通信路5切替実行47を以て従系から主系へと切り替わる。
【0051】
この切替は,主系のCPU1が取得していた制御対象4の制御情報等をスヌープ(Snoop)処理によりあらかじめ従系のCPU2が取得している為,主系としてシステムを制御するにあたり新たに制御情報等を取得することがなく速やかに主系のCPUとして動作することが可能となる。」

イ ここで,引用例1に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Aの段落【0014】の「図1における当該2重化制御システムは,CPU1,CPU1と同一のシステムであるCPU2,CPU1とCPU2に接続される入出力機器であるI/O3,I/O3につながる制御対象4,CPU1とCPU2及びI/O3を接続する通信路5,CPU1とCPU2を接続する通信路6等から構成される。」との記載,段落【0018】の「主系であるCPU1は実際に制御対象に対して制御指示を行うCPUであり,従系であるCPU2は制御対象への制御を行わず,主系のCPUに障害が発生した際に切り替わるために待機状態にあるCPUである。」との記載からすると,CPU1は主系,CPU2は従系であることが読み取れるから,引用例1には,
“主系のCPU1,CPU1と同一のシステムである従系のCPU2,CPU1とCPU2に接続される入出力機器であるI/O,I/Oにつながる制御対象,CPU1とCPU2及びI/Oを接続する通信路5,CPU1とCPU2を接続する通信路6,等から構成される2重化制御システム”
が記載されていると解される。

(イ)上記Bの段落【0020】の「CPU2重化制御における通常制御の例を図2のタイムチャートを用いて説明する。」との記載,段落【0022】の「最初に主系となったCPU1は,CPU2に対し制御開始のためのコマンドである制御開始信号11を,通信路6を介して送信する。」との記載,段落【0023】の「制御開始信号11を受信した従系のCPU2は,制御開始確認応答12を主系のCPU1に対して送信すると,主系のCPU1,従系のCPU2はそれぞれ制御を開始する為の設定及び初期化の処理13を行う。」との記載からすると,CPU2重化制御における「通常制御」の最初に,「主系のCPU1」,「従系のCPU2」はそれぞれ制御を開始する為の設定及び初期化処理を行うことが読み取れる。
また,上記Bの段落【0024】の「初期化処理13終了後,主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己診断14を行った結果を主系のCPU1から従系のCPU2に対し,自己診断結果15として通信路6を介して送信する。」との記載,段落【0025】の「CPU1からの診断結果15を受信したCPU2は,自己診断結果16を主系のCPU1に対して通信路6を介して送信する。」との記載,段落【0027】の「各々の自己診断14の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求17を通信路5を介して送出する。」との記載,段落【0028】の「当該同期化要求17を受信した時点において従系のCPU2は,トリガをかけて同期化処理18を行い」との記載からすると,「初期化処理」終了後,「主系のCPU1」から「従系のCPU2」に対し,「自己診断結果15」を送信し,「従系のCPU2」は,「自己診断結果16」を「主系のCPU1」に対して送信し,お互いに問題がなければ,「主系のCPU1」は,「従系のCPU2」に対し「同期化要求」を送出し,「従系のCPU2」は「同期化処理」を行うことが読み取れるから,引用例1には,
“CPU2重化制御における通常制御の最初に,主系のCPU1,従系のCPU2はそれぞれ制御を開始する為の設定及び初期化処理を行い,初期化処理終了後,主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己診断を行った結果を主系のCPU1から従系のCPU2に対し,自己診断結果15として通信路6を介して送信し,従系のCPU2は,自己診断結果16を主系のCPU1に対して通信路6を介して送信し,各々の自己診断の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求を通信路5を介して送出し,従系のCPU2は同期化処理を行うこと”
が記載されていると解される。

(ウ)上記Bの段落【0029】の「当該同期化確認応答19を受信した時点で,主系のCPU1は同期処理20を行うと共にCPU1制御周期22を開始する。」との記載,上記Cの段落【0032】の「その後,主系であるCPU1は,従系であるCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認するスヌープ(Snoop)可否確認31を,通信路5を介して送出し,当該スヌープ(Snoop)可否確認31を受信した従系のCPU2は,主系のCPU1に対してスヌープ(Snoop)可能確認応答32を通信路5を介して主系のCPU1に対し送信することとなる」との記載からすると,「主系であるCPU1」が「従系であるCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認するスヌープ(Snoop)可否確認31を,通信路5を介して送出」するのは,「主系のCPU1」の「制御周期」の開始後であると認められ,「主系のCPU1」が「従系のCPU2」に対し,「スヌープ(Snoop)可否確認」を送出すると,「従系のCPU2」は「主系のCPU1」に対して,「スヌープ(Snoop)可能確認応答」を送信することが読み取れるから,引用例1には,
“主系のCPU1の制御周期が開始されると,主系のCPU1が,従系のCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認するスヌープ(Snoop)可否確認を通信路5を介して送出すると,従系のCPU2は,主系のCPU1に対してスヌープ(Snoop)可能確認応答を通信路5を介して送信すること”
が記載されていると解される。

(エ)上記Cの段落【0035】の「次に,主系のCPU1はI/O3に対し,制御上必要となる制御対象の入力情報の送出を要求する入力情報送出要求33を送出すると,I/O3は,主系のCPU1からの入力情報送出要求33を受けて制御対象4から取得した制御対象情報34を主系のCPU1に対して通信路5を用いて送出する。」との記載,段落【0036】の「このとき従系のCPU2は,I/O3から主系のCPU1に対して通信路5を介して送出される制御対象情報34を同時にスヌープ(Snoop)する。」との記載からすると,「I/O3」は「主系のCPU1」に対して,「通信路5」を介して「制御対象4から取得した制御対象情報34」を送出すると同時に,「従系のCPU2」は,「通信路5を介して送出される制御対象情報」をスヌープ(Snoop)することが読み取れるから,引用例1には,
“主系のCPU1がI/Oに対し,制御上必要となる制御対象の入力情報の送出を要求する入力情報送出要求を送出すると,I/Oは,主系のCPU1からの入力情報送出要求を受けて,主系のCPU1に対して,通信路5を介して制御対象から取得した制御対象情報を送出すると同時に,従系のCPU2は,通信路5を介して送出される制御対象情報をスヌープ(Snoop)すること”
が記載されていると解される。

(オ)上記Cの段落【0037】の「主系のCPU1はI/O3から得た制御対象4の入力情報をもとにI/O3に対し制御命令35を行うが,従系のCPU2はI/O3に対しては制御命令を行わない。」との記載,段落【0038】の「当該制御命令35を受信したI/O3は,制御命令確認応答36を,主系のCPU1に対して通信路5を用いて送信する。」との記載からすると,「主系CPU1」は「I/O」に対し,「制御対象」の「制御命令」を送信することが読み取れるから,引用例1には,
“主系のCPU1がI/Oから得た制御対象の入力情報をもとにI/Oに対し制御対象の制御命令を送信すると,I/Oは,制御命令確認応答を主系のCPU1に対して通信路5を用いて送信すること”
が記載されていると解される。

(カ)上記Dの段落【0039】の「ここで,主系のCPU1は,従系のCPU2に対して当該制御命令35に対応するI/O3から送信された制御対象の情報をスヌープ(Snoop)できたか否かを確認するスヌープ(Snoop)確認要求37を通信路5を介して出力し,当該スヌープ(Snoop)確認要求37を受信した従系のCPU2は,スヌープ(Snoop)に成功した場合はスヌープ(Snoop)確認応答38を主系のCPU1に対して送出する。」との記載,段落【0040】の「主系のCPU1は,従系のCPU2からのスヌープ(Snoop)確認応答38に基づいて従系のCPU2がスヌープ(Snoop)に成功した否かを確認し,従系のCPU2が連続してスヌープ(Snoop)に複数回失敗した場合には,従系のCPU2には何らかの障害が発生している状態であると判断して,主系のCPU1から従系のCPU2への主系,従系切り替え動作を以後禁止する。」との記載からすると,「従系のCPU2」は,「スヌープ(Snoop)」に成功した場合は「スヌープ(Snoop)確認応答」を「主系のCPU1」に対して送出し,連続して「スヌープ(Snoop)」に複数回失敗した場合には,「従系のCPU2」に障害が発生している状態であると判断され,主系,従系切り替え動作は以後禁止されることが読み取れるから,引用例1には,
“主系のCPU1が,従系のCPU2に対して制御対象情報をスヌープ(Snoop)できたか否かを確認するスヌープ(Snoop)確認要求を通信路5を介して出力すると,従系のCPU2は,スヌープ(Snoop)に成功した場合はスヌープ(Snoop)確認応答を主系のCPU1に対して送出し,連続してスヌープ(Snoop)に複数回失敗した場合には,従系のCPU2には何らかの障害が発生している状態であると判断され,主系のCPU1から従系のCPU2への主系,従系切り替え動作は以後禁止されること”
が記載されていると解される。

(キ)上記Dの段落【0041】の「一方,従系のCPU2がスヌープ(Snoop)に成功したことを確認した主系のCPU1は,先に示したそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己健全情報のやりとりを行い,自己診断結果15及び16,及び同期化要求処理である同期化処理20を行う。」との記載からすると,「従系のCPU2」が「スヌープ(Snoop)」に成功した場合に,「自己健全情報のやりとり」,「同期化処理」が行われ,これに関しては,上記(イ)での検討より,上記Bの段落【0024】,【0025】,【0027】,【0028】の記載からすると,「主系のCPU1」から「従系のCPU2」に対し,「自己診断結果15」を送信し,「従系のCPU2」は,「自己診断結果16」を「主系のCPU1」に対して送信し,お互いに問題がなければ,「主系のCPU1」は,「従系のCPU2」に対し「同期化要求」を送出し,「従系のCPU2」は「同期化処理」を行うことが読み取れる。
また,上記Dの段落【0042】の「以上までの処理を1周期として行うことにより,主系のCPU1に対して,従系のCPU2の制御周期の位相を相対的に進め,かつ,主系のCPU1が制御対象から取得した情報を従系のCPUがスヌープ(Snoop)する」との記載,上記(ウ)での検討より,「1周期」とは,1つの「主系のCPU1の制御周期」であると認められることから,引用例1には,
“従系のCPU2がスヌープ(Snoop)に成功した場合,主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己診断を行った結果を主系のCPU1から従系のCPU2に対し,自己診断結果15として通信路6を介して送信し,従系のCPU2は,自己診断結果16を主系のCPU1に対して通信路6を介して送信し,各々の自己診断の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求を通信路5を介して送出し,従系のCPU2は同期化処理を行うこと,以上までの処理を主系のCPU1の制御周期の1周期として行うこと”
が記載されていると解される。

(ク)上記Eの段落【0047】の「主系のCPU1の自己診断14においてエラーが発生すると,主系のCPU1は自己に障害が発生したと判断して主系のCPU1から従系のCPU2に対して送出される自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出する。」との記載,段落【0048】の「当該,自己診断結果15を受信した従系のCPU2は,自己診断結果16を,通信路6を介して送信し,当該自己診断結果16を受信した主系のCPU1は,その診断結果が健全であるという内容である場合は,従系のCPU2に対して主系/従系切替要求41を通信路6を用いて送出し,当該主系/従系切替要求41を受信した従系のCPU2は,主系/従系切替要求確認応答42を主系のCPU1に対して通信路6を用いて送出する。」との記載からすると,上記(キ)での検討より,「エラーが発生」は,「主系のCPU1の制御周期」での「主系のCPU1の自己診断14」において発生したと認められることから,引用例1には,
“主系のCPU1の制御周期での主系のCPU1の自己診断においてエラーが発生すると,主系のCPU1は自己に障害が発生したと判断して主系のCPU1から従系のCPU2に対して送出される自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出し,従系のCPU2は,自己診断結果16を,通信路6を介して送信し,主系のCPU1は,従系のCPU2の自己診断結果16が健全であるという内容である場合は,従系のCPU2に対して主系/従系切替要求を通信路6を用いて送出し,従系のCPU2は,主系/従系切替要求確認応答を主系のCPU1に対して通信路6を用いて送出すること”
が記載されていると解される。

(ケ)上記Eの段落【0049】の「次いで,主系のCPU1は,従系のCPU2からの主系/従系切替要求確認応答42を受信した後,I/O3に対してCPU切替要求43を送出すると,I/O3はCPU切替が行われることを確認するCPU切替要求確認応答44を主系のCPU1へ通信路5を用いて出力する。」との記載,段落【0050】の「次に,主系のCPU1は,従系のCPU2に対して通信路5切替要求45を送出すると,従系のCPU2は,当該通信路5切替要求45を受信してその旨を確認した後に,主系のCPU1に対して通信路5切替要求確認応答46を送出すると,当該通信路5切替要求確認応答46を受信した主系のCPU1は通信路5のマスタ権移行の処理を行って通信路5切替実行47の一連の処理により,通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替わり,従系のCPU2は,主系のCPU1の通信路5切替実行47を以て従系から主系へと切り替わる。」との記載からすると,引用例1には,
“次いで,主系のCPU1は,I/Oに対してCPU切替要求を送出すると,I/OはCPU切替が行われることを確認するCPU切替要求確認応答を主系のCPU1へ通信路5を用いて出力し,
次に,主系のCPU1は,従系のCPU2に対して通信路5切替要求を送出すると,従系のCPU2は,その旨を確認した後に,主系のCPU1に対して通信路5切替要求確認応答を送出すると,主系のCPU1は通信路5のマスタ権移行の処理を行って通信路5切替実行の一連の処理により,通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替えること”
が記載されていると解される。

ウ 以上,(ア)乃至(ケ)で示した事項から,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「主系のCPU1,CPU1と同一のシステムである従系のCPU2,CPU1とCPU2に接続される入出力機器であるI/O,I/Oにつながる制御対象,CPU1とCPU2及びI/Oを接続する通信路5,CPU1とCPU2を接続する通信路6,等から構成される2重化制御システムであって,
CPU2重化制御における通常制御の最初に,主系のCPU1,従系のCPU2はそれぞれ制御を開始する為の設定及び初期化処理を行い,初期化処理終了後,主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己診断を行った結果を主系のCPU1から従系のCPU2に対し,自己診断結果15として通信路6を介して送信し,従系のCPU2は,自己診断結果16を主系のCPU1に対して通信路6を介して送信し,各々の自己診断の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求を通信路5を介して送出し,従系のCPU2は同期化処理を行うこと,
主系のCPU1の制御周期が開始されると,主系のCPU1が,従系のCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認するスヌープ(Snoop)可否確認を通信路5を介して送出すると,従系のCPU2は,主系のCPU1に対してスヌープ(Snoop)可能確認応答を通信路5を介して送信すること,
主系のCPU1がI/Oに対し,制御上必要となる制御対象の入力情報の送出を要求する入力情報送出要求を送出すると,I/Oは,主系のCPU1からの入力情報送出要求を受けて,主系のCPU1に対して,通信路5を介して制御対象から取得した制御対象情報を送出すると同時に,従系のCPU2は,通信路5を介して送出される制御対象情報をスヌープ(Snoop)すること,
主系のCPU1がI/Oから得た制御対象の入力情報をもとにI/Oに対し制御対象の制御命令を送信すると,I/Oは,制御命令確認応答を主系のCPU1に対して通信路5を用いて送信すること,
主系のCPU1が,従系のCPU2に対して制御対象情報をスヌープ(Snoop)できたか否かを確認するスヌープ(Snoop)確認要求を通信路5を介して出力すると,従系のCPU2は,スヌープ(Snoop)に成功した場合はスヌープ(Snoop)確認応答を主系のCPU1に対して送出し,連続してスヌープ(Snoop)に複数回失敗した場合には,従系のCPU2には何らかの障害が発生している状態であると判断され,主系のCPU1から従系のCPU2への主系,従系切り替え動作は以後禁止されること,
従系のCPU2がスヌープ(Snoop)に成功した場合,主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己診断を行った結果を主系のCPU1から従系のCPU2に対し,自己診断結果15として通信路6を介して送信し,従系のCPU2は,自己診断結果16を主系のCPU1に対して通信路6を介して送信し,各々の自己診断の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求を通信路5を介して送出し,従系のCPU2は同期化処理を行うこと,以上までの処理を主系のCPU1の制御周期の1周期として行うこと,
主系のCPU1の制御周期での主系のCPU1の自己診断においてエラーが発生すると,主系のCPU1は自己に障害が発生したと判断して主系のCPU1から従系のCPU2に対して送出される自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出し,従系のCPU2は,自己診断結果16を,通信路6を介して送信し,主系のCPU1は,従系のCPU2の自己診断結果16が健全であるという内容である場合は,従系のCPU2に対して主系/従系切替要求を通信路6を用いて送出し,従系のCPU2は,主系/従系切替要求確認応答を主系のCPU1に対して通信路6を用いて送出すること,
次いで,主系のCPU1は,I/Oに対してCPU切替要求を送出すると,I/OはCPU切替が行われることを確認するCPU切替要求確認応答を主系のCPU1へ通信路5を用いて出力し,
次に,主系のCPU1は,従系のCPU2に対して通信路5切替要求を送出すると,従系のCPU2は,その旨を確認した後に,主系のCPU1に対して通信路5切替要求確認応答を送出すると,主系のCPU1は通信路5のマスタ権移行の処理を行って通信路5切替実行の一連の処理により,通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替えること,
を行う2重化制御システム。」

(2-2)参考文献2に記載されている技術的事項

本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開平10-171767号公報(平成10年6月26日出願公開,以下,「参考文献2」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F 「【0011】この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので,運用系のサーバコンピュータと待機系のサーバコンピュータとの処理タイミングを意識することなく,運用系のサーバコンピュータと待機系のサーバコンピュータとで保持する情報を一致させ等価できる分散型監視制御方法およびその装置を得ることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明に係る分散型監視制御方法は,監視・制御対象から二重化した各サーバコンピュータへ送られてくる情報に時刻情報を付加する時刻情報付加過程と,該時刻情報付加過程で付加した時刻情報をもとに,前記二重化した各サーバコンピュータでそれぞれ保持している前記情報を一致させる等価過程とを備えたものである。」

G 「【0036】次に動作について説明する。図7は,この分散型監視制御方法を実現する分散型監視制御装置の動作を示すフローチャートである。このフローチャートに示す動作は運用系のサーバコンピュータ100aおよび待機系のサーバコンピュータ100bでそれぞれで実行されるため,運用系のサーバコンピュータ100aの動作について説明し,待機系のサーバコンピュータ100bの動作については説明を省略する。各設備機器からは当該設備機器の現在の状態を示す状態情報およびその状態変化情報が伝送装置3を介して運用系のサーバコンピュータ100aおよび待機系のサーバコンピュータ100bへ送られてくる。この実施の形態の分散型監視制御装置ではさらに,状態変化が発生したときの時刻情報が前記状態変化情報に付加されて送られてくる。この状態変化情報を受け取った運用系のサーバコンピュータ100aは(ステップST21),受け取った状態変化情報に付加されている当該状態変化が発生したときの時刻情報を抽出する(ステップST22)。この結果,午前零時から午前1時までの時間帯に含まれる設備機器1の状態変化が例えば10回発生すると,設備機器1の集計時刻1:00における機器動作回数積算値格納エリア16へ前記10回の前記状態変化の積算結果を格納する。」

したがって,上記F,Gの記載からすると,上記参考文献2には,
「二重化したサーバコンピュータによる分散型監視制御であって,監視・制御対象から設備機器の状態情報などの情報が二重化した運用系のサーバコンピュータおよび待機系のサーバコンピュータに送られ,運用系のサーバコンピュータと待機系のサーバコンピュータとで保持する情報を一致させ等価できる」という当該技術分野における周知技術が記載されていると認められる。

(3)対比

ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明において,「2重化制御システム」は「主系のCPU1,CPU1と同一のシステムである従系のCPU2,CPU1とCPU2に接続される入出力機器であるI/O,I/Oにつながる制御対象,CPU1とCPU2及びI/Oを接続する通信路5,CPU1とCPU2を接続する通信路6,等から構成され」るところ,引用例1の上記Aの段落【0018】の記載からすると,「主系であるCPU1は実際に制御対象に対して制御指示を行うCPUであり,従系であるCPU2は制御対象への制御を行わず,主系のCPUに障害が発生した際に切り替わるために待機状態にあるCPUである。」ことから,引用発明の「主系のCPU1」は「2重化制御システム」における“運用系”のCPU,「従系のCPU2」は“待機系”のCPUとみることができるから,引用発明の「主系のCPU1」,「従系のCPU2」は,それぞれ本件補正発明の「運用系」,「待機系」に相当するといえる。
そして,引用発明の「2重化制御システム」は「主系のCPU1」,「従系のCPU2」を含むことは明らかであり,“運用系”,“待機系”を含むといえることから,引用発明の「2重化制御システム」は本件補正発明の「冗長系制御装置」に対応するといえる。

(イ)引用発明では,「制御対象」への「制御周期」が開始される前に,「CPU2重化制御における通常制御の最初に,主系のCPU1,従系のCPU2はそれぞれ制御を開始する為の設定及び初期化処理を行い,初期化処理終了後」,それぞれ「自己診断」を行い,お互いに問題がなければ,「同期化処理」を行うことが特定される。
そして,「制御対象」への「主系のCPU1の制御周期が開始されると,主系のCPU1が,従系のCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認」し,「主系のCPU1がI/Oに対し,制御上必要となる制御対象の入力情報の送出を要求する入力情報送出要求を送出すると,I/Oは,」「主系のCPU1に対して,通信路5を介して制御対象から取得した制御対象情報を送出すると同時に,従系のCPU2は,通信路5を介して送出される制御対象情報をスヌープ(Snoop)」し,「主系のCPU1が,従系のCPU2に対して制御対象情報をスヌープ(Snoop)できたか否かを確認する」と,「従系のCPU2がスヌープ(Snoop)に成功した場合,主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ自己が正常に動作しているかの自己診断を行った結果を主系のCPU1から従系のCPU2に対し,自己診断結果15として通信路6を介して送信し,従系のCPU2は,自己診断結果16を主系のCPU1に対して通信路6を介して送信し,各々の自己診断の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求を通信路5を介して送出し,従系のCPU2は同期化処理を行うこと」が特定される。
すなわち,引用発明では,「制御対象」への「主系のCPU1の制御周期が開始されると」,「主系のCPU1が,従系のCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認」し,「主系のCPU1」が「通信路5を介して制御対象から取得した制御対象情報」を受信すると同時に,「従系のCPU2」は「制御対象情報をスヌープ(Snoop)」し,「主系のCPU1が,従系のCPU2に対して制御対象情報をスヌープ(Snoop)できた」ことを確認すると,「主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ」「自己診断」を行い,「各々の自己診断の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求を通信路5を介して送出し,従系のCPU2は同期化処理を行う」と解することができる。

(ウ)一方,本件補正発明は,「前記運用系及び前記待機系は,互いに制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をしており,」と特定されるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】の「通常の動作状態では,運用系11の制御出力S31が,制御出力用回線33を通って制御対象機器5に供給される。待機系12の制御出力S32は遮断されているが,運用系11と同様に,制御対象機器5からの情報を受け等価に動作して異常に備えている。運用系11が正常に動作しているときは,その周期を正しいものとして,待機系12の周期タイマを,同期回線32を介して,運用系12のタイマに合わせてセットする等して,両系11,12の同期をとる。」との記載からみて,「待機系」も「運用系」と同様に「制御対象機器からの情報」を直接受信し,等価に「制御対象機器からの情報」に基づいて動作し,周期の最後に同期をとるという一連の動作により,互いに「同期動作」を行うと解される。

(エ)上記(イ),(ウ)での検討の点に関し,本件補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「制御対象」は,「主系のCPU1の制御周期」において,「主系のCPU1」から「制御命令」を送信することから,本件補正発明の「制御対象機器」に相当するといえ,引用発明の「制御対象情報」は,「制御対象」から取得した情報であることから,本件補正発明の「制御対象機器からの情報」に相当するといえる。
また,引用発明では,「主系のCPU1が,従系のCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認」し,「主系のCPU1」は「通信路5」を介して「制御対象」からの「制御対象情報」を取得し,「従系のCPU2」は「主系のCPU1」が取得した「制御対象情報」をスヌープ(Snoop)し,「主系のCPU1」が,「従系のCPU2」が「制御対象情報」をスヌープ(Snoop)できたことを確認すると,「従系のCPU2」が「同期化処理」を行うと解されることから,引用発明の「主系のCPU1」と「従系のCPU2」による「スヌープ(Snoop)可否確認」,「主系のCPU1」による「制御対象」からの「制御対象情報」の取得,「従系のCPU2」による「制御対象情報」の「スヌープ(Snoop)」,「主系のCPU1」と「従系のCPU2」による「スヌープ(Snoop)確認」,「主系のCPU1」と「従系のCPU2」による「自己診断結果」の確認,「主系のCPU1」と「従系のCPU2」による「同期化処理」までの一連の動作は,本件補正発明の「同期動作」に対応するといえ,引用発明の「主系のCPU1」は,「制御対象」から直接取得した「制御対象情報」に基づいて,「従系のCPU2」との“同期動作”を行うとみることができるから,引用発明では,“運用系及び待機系は,少なくとも一方が直接受信した制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をして”いるといえる。
そして,上記(ウ)での検討より,本件補正発明では,「待機系」も「運用系」と同様に「制御対象機器からの情報」を直接受信し,等価に「制御対象機器からの情報」に基づいて,互いに「同期動作」を行うと解されことから,“運用系及び待機系は,少なくとも一方が直接受信した制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をして”いるとみることができる。
そうすると,引用発明と,本件補正発明の「前記運用系及び前記待機系は,互いに制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をして」いることとは,後記する点で相違するものの,
“前記運用系及び前記待機系は,少なくとも一方が直接受信した制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をして”いる点で共通するといえる。

(オ)引用発明では,「主系のCPU1の制御周期での主系のCPU1の自己診断においてエラーが発生すると,主系のCPU1は」,「従系のCPU2に対して送出される自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出し,従系のCPU2は,自己診断結果16を,通信路6を介して送信し」,「従系のCPU2の自己診断結果16が健全であるという内容である場合は」,次いで,「主系のCPU1」は「従系のCPU2」に対して,「主系/従系切替要求」の確認をし,「通信路5切替要求」の確認をし,それらの「確認応答」を得た後に,「主系のCPU1は通信路5のマスタ権移行の処理を行って通信路5切替実行の一連の処理により,通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替える」ことが特定される。
すなわち,引用発明は,「主系のCPU1の自己診断においてエラーが発生すると」,「主系のCPU1」は「従系のCPU2に対して」,「自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出し」,「従系のCPU2」の「自己診断結果16」,切り替えに係る「確認応答」を得た後に,「主系のCPU1は通信路5のマスタ権移行の処理を行って通信路5切替実行の一連の処理により,通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替える」と解される。
ここで,引用発明では,「主系のCPU1」,「従系のCPU2」の「自己診断結果」は「エラー発生の情報」を含むことから,引用発明の「エラー」,「自己診断結果」は,それぞれ本件補正発明の「故障」,「故障検知情報」に相当するといえる。
また,引用発明における「通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替える」ことは,「通信路5」への制御信号を出力する権限である「マスタ権」を切り替えるといえるから,“運用系の制御出力を停止して前記待機系の制御出力に切り替える”とみることができる。
そうすると,引用発明は,“運用系が自己の故障を検知すると,故障検知情報を前記待機系に通知し,前記運用系の制御出力を停止して前記待機系の制御出力に切り替える”といえる。

(カ)本件補正発明では,「運用系が自己の故障を検知すると,故障検知情報を前記待機系に通知し,前記運用系の制御出力を停止して前記待機系の制御出力に切り替える」ことが特定されるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】の「運用系11の制御出力S31,又は,待機系12の制御出力S32は,外部インターフェース部112又は122,及び,制御出力用回線33を介して,制御対象機器5と接続される。運用系11が故障を検知したときは,故障検知情報を待機系12に与え,その後,運用系11の制御出力を停止し,待機系12の制御出力を用いる。待機系12の制御出力が用いられる前に,待機系12には,運用系11から故障検知情報が与えられているので,運用系11から待機系12にスムーズに系切替が実行される。」との記載からすると,本願の実施例では,「運用系」が故障を検知し,「故障検知情報」を「待機系」に与えると,「待機系」の故障検知,制御出力の切り替えに係る確認応答を得ることなく,制御出力の切り替えを実行すると解されるが,「待機系」の故障検知,制御出力の切り替えに係る確認応答を得るかどうかは,「待機系」の信頼性の前提に応じて選択される設計上の微差であるから,引用発明において,「従系のCPU2」の「自己診断結果16」,切り替えに係る「確認応答」を得た後に,「マスタ権」を切り替えるという点が,本件補正発明と引用発明との実質的な相違点となるものではない。そもそも,本件補正発明は,「主系のCPU1」の「自己診断」においてエラーが発生すると,「従系のCPU2」の「自己診断結果16」,切り替えに係る「確認応答」を得た後に,「マスタ権」を切り替える態様を除くように特定されているとは認められない。
してみると,引用発明と本件補正発明とは,
“前記運用系が自己の故障を検知すると,故障検知情報を前記待機系に通知し,前記運用系の制御出力を停止して前記待機系の制御出力に切り替える”という点で一致しているといえる。

イ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

<一致点>

「 運用系と,待機系とを含む冗長系制御装置であって,
前記運用系及び前記待機系は,少なくとも一方が直接受信した制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をしており,
前記運用系が自己の故障を検知すると,故障検知情報を前記待機系に通知し,前記運用系の制御出力を停止して前記待機系の制御出力に切り替える,冗長系制御装置。」

<相違点1>
運用系及び待機系の同期動作に関し,本件補正発明では,「互いに制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作」を行うのに対して,
引用発明では,運用系(主系のCPU1)は通信路5を介して制御対象機器からの情報を取得するものの,運用系が,待機系(従系のCPU2)に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認し,待機系は運用系が取得した制御対象機器からの情報をスヌープ(Snoop)し,運用系が,待機系が前記情報をスヌープ(Snoop)できたことを確認すると,同期化処理を行うという一連の同期動作である点。

(4)当審の判断

上記相違点1について検討する。
引用発明は,主系のCPU1が,従系のCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認し,主系のCPU1は通信路5を介して制御対象からの制御対象情報を取得し,従系のCPU2は主系のCPU1が取得した制御対象情報をスヌープ(Snoop)し,主系のCPU1が,制御対象情報を従系のCPU2がスヌープ(Snoop)できたことを確認すると,同期化処理を行うものであるところ,障害発生時にスムーズに主系,従系が切り替わるCPU2重化制御システムの提供を目的とするものである。
引用発明では,従系のCPU2は,主系のCPU1が制御対象から取得した制御対象情報をスヌープ(Snoop)することにより,制御対象から直接に制御対象情報を取得しないものの,実質的に主系のCPU1と同等な制御対象情報を同時に取得しているといえる。
そして,障害発生時にスムーズに主系,従系が切り替わる2重化制御システムおいて,監視・制御対象からの情報が二重化した運用系および待機系に送られ,運用系と待機系とで保持する情報を一致させ等価とする旨の技術は,例えば,参考文献2(上記F,Gを参照のこと)に記載されるように当該技術分野の周知技術であり,引用発明において,主系のCPU1,従系のCPU2が共に互いに制御対象から制御対象情報を直接取得して互いに同期動作を行うか,従系のCPU2が,主系のCPU1が制御対象から取得した制御対象情報をスヌープ(Snoop)して互いに同期動作を行うか,は当業者であれば必要に応じて選択し得た設計的事項である。
そうすると,引用発明において上記周知技術を適用し,待機系が,運用系により取得された制御対象機器からの情報をスヌープ(Snoop)することについて,運用系及び待機系が,互いに制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をするように構成すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

上記で検討したごとく,相違点1に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明,参考文献2に記載の当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本件補正発明は,上記引用発明,参考文献2に記載の当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 本件補正についてのむすび

上記「2 補正の適否」で指摘したとおり,補正後の請求項1に記載された発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成29年10月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成29年7月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
運用系と,待機系とを含む冗長系制御装置であって,
前記運用系及び前記待機系は,互いに同期動作をしており,
周期毎に前記運用系の誤りを検知するよう構成し,前記運用系の故障検知情報を前記待機系に与えた後,前記運用系の制御出力を停止し,前記待機系の制御出力を用いる,冗長系制御装置。」

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は,
(1)この出願の請求項1,4,6に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

(2)この出願の請求項1,2,4,6に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1: 特開2010-3081号公報

3 引用例に記載されている技術的事項及び引用発明

原査定の拒絶の理由に引用された,引用発明は,前記「第2 平成29年10月10日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

4 対比

(1)本願発明と引用発明とを対比する。

ア 本願発明は,前記「第2 平成29年10月10日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」で検討した本件補正発明の発明特定事項である
「前記運用系及び前記待機系は,互いに制御対象機器からの情報に基づき,互いに同期動作をしており,」から,「互いに制御対象機器からの情報に基づき,」との限定事項を削除し,
「前記運用系が自己の故障を検知すると,故障検知情報を前記待機系に通知し,前記運用系の制御出力を停止して前記待機系の制御出力に切り替える,」を「周期毎に前記運用系の誤りを検知するよう構成し,前記運用系の故障検知情報を前記待機系に与えた後,前記運用系の制御出力を停止し,前記待機系の制御出力を用いる,」としたものである。

イ 前記「第2 平成29年10月10日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(3)対比」,(ア)での検討より,引用発明の「主系のCPU1」,「従系のCPU2」は,それぞれ本願発明の「運用系」,「待機系」に相当するといえる。
そして,引用発明の「2重化制御システム」は「主系のCPU1」,「従系のCPU2」を含むことは明らかであり,“運用系”,“待機系”を含むといえることから,引用発明の「2重化制御システム」は本願発明の「冗長系制御装置」に相当するといえる。

ウ 前記「第2 平成29年10月10日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(3)対比」,(イ)乃至(エ)での検討より,引用発明では,「制御対象」への「主系のCPU1の制御周期が開始されると」,「主系のCPU1が,従系のCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認」し,「主系のCPU1」が「通信路5を介して制御対象から取得した制御対象情報」を受信すると同時に,「従系のCPU2」は「制御対象情報をスヌープ(Snoop)」し,「主系のCPU1が,従系のCPU2に対して制御対象情報をスヌープ(Snoop)できた」ことを確認すると,「主系のCPU1及び従系のCPU2はそれぞれ」「自己診断」を行い,「各々の自己診断の結果,お互いに問題がなければ,主系のCPU1は,従系のCPU2に対し同期化要求を通信路5を介して送出し,従系のCPU2は同期化処理を行う」と解することができる。
また,引用発明では,「主系のCPU1が,従系のCPU2に対しデータのスヌープ(Snoop)可能な状態であるかを確認」し,「主系のCPU1」は「通信路5」を介して「制御対象」からの「制御対象情報」を取得し,「従系のCPU2」は「主系のCPU1」が取得した「制御対象情報」をスヌープ(Snoop)し,「主系のCPU1」が,「従系のCPU2」が「制御対象情報」をスヌープ(Snoop)できたことを確認すると,「従系のCPU2」が「同期化処理」を行うと解されることから,引用発明の「主系のCPU1」と「従系のCPU2」による「スヌープ(Snoop)可否確認」,「主系のCPU1」による「制御対象」からの「制御対象情報」の取得,「従系のCPU2」による「制御対象情報」の「スヌープ(Snoop)」,「主系のCPU1」と「従系のCPU2」による「スヌープ(Snoop)確認」,「主系のCPU1」と「従系のCPU2」による「自己診断結果」の確認,「主系のCPU1」と「従系のCPU2」による「同期化処理」までの一連の動作は,本願発明の「同期動作」に相当するといえ,引用発明の「主系のCPU1」は,「制御対象」から直接取得した「制御対象情報」に基づいて,「従系のCPU2」と“互いに同期動作”を行うとみることができるから,引用発明では,“運用系及び待機系は,互いに同期動作をして”いるといえる。
そうすると,引用発明と本願発明とは,
“前記運用系及び前記待機系は,互いに同期動作をして”いる点で一致するといえる。

エ 前記「第2 平成29年10月10日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(3)対比」,(オ)乃至(カ)での検討より,引用発明は,「主系のCPU1の制御周期での主系のCPU1の自己診断においてエラーが発生すると」,「主系のCPU1」は「従系のCPU2に対して」,「自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出し」,「従系のCPU2」の「自己診断結果16」,切り替えに係る「確認応答」を得た後に,「主系のCPU1は通信路5のマスタ権移行の処理を行って通信路5切替実行の一連の処理により,通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替える」と解される。
ここで,引用発明では,「主系のCPU1」,「従系のCPU2」の「自己診断結果」は「エラー発生の情報」を含むことから,引用発明の「エラー」,「自己診断結果」は,それぞれ本願発明の「誤り」,「故障検知情報」に相当するといえる。そして,「主系のCPU1の制御周期」で「主系のCPU1の自己診断」を実行し,「自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出」することから,引用発明は,“周期毎に前記運用系の誤りを検知するよう構成”するといえる。
また,引用発明では,「主系のCPU1」は「従系のCPU2に対して」,「自己診断結果15内にエラー発生の情報を含めて通信路6を介して送出し」,「通信路5のマスタ権が主系のCPU1から従系のCPU2に切り替える」ところ,「主系のCPU1」の「自己診断結果」を「従系のCPU2」に与えた後に,「主系のCPU1」から「通信路5」への制御信号の出力を停止し,「従系のCPU2」から制御信号を出力するように,制御信号の出力権限である「マスタ権」を切り替えるといえるから,“運用系の故障検知情報を前記待機系に与えた後,前記運用系の制御出力を停止し,前記待機系の制御出力を用いる”とみることができる。
そうすると,引用発明は,“周期毎に前記運用系の誤りを検知するよう構成し,前記運用系の故障検知情報を前記待機系に与えた後,前記運用系の制御出力を停止し,前記待機系の制御出力を用いる”といえる。

オ 一方,本願発明では,「周期毎に前記運用系の誤りを検知するよう構成し,前記運用系の故障検知情報を前記待機系に与えた後,前記運用系の制御出力を停止し,前記待機系の制御出力を用いる」ことが特定されるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】の「運用系11の制御出力S31,又は,待機系12の制御出力S32は,外部インターフェース部112又は122,及び,制御出力用回線33を介して,制御対象機器5と接続される。運用系11が故障を検知したときは,故障検知情報を待機系12に与え,その後,運用系11の制御出力を停止し,待機系12の制御出力を用いる。待機系12の制御出力が用いられる前に,待機系12には,運用系11から故障検知情報が与えられているので,運用系11から待機系12にスムーズに系切替が実行される。」との記載からすると,本願の実施例では,「運用系」が故障を検知し,「故障検知情報」を「待機系」に与えると,「待機系」の故障検知,制御出力の切り替えに係る確認応答を得ることなく,制御出力の切り替えを実行すると解されるが,「待機系」の故障検知,制御出力の切り替えに係る確認応答を得るかどうかは,「待機系」の信頼性の前提に応じて選択される設計上の微差であるから,引用発明において,「従系のCPU2」の「自己診断結果16」,切り替えに係る「確認応答」を得た後に,「マスタ権」を切り替えるという点が,本願発明と引用発明との実質的な相違点となるものではない。
してみると,引用発明と本願発明とは,
“周期毎に前記運用系の誤りを検知するよう構成し,前記運用系の故障検知情報を前記待機系に与えた後,前記運用系の制御出力を停止し,前記待機系の制御出力を用いる”という点で一致しているといえる。

(2)以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,実質的な相違点はない。

<一致点>

「 運用系と,待機系とを含む冗長系制御装置であって,
前記運用系及び前記待機系は,互いに同期動作をしており,
周期毎に前記運用系の誤りを検知するよう構成し,前記運用系の故障検知情報を前記待機系に与えた後,前記運用系の制御出力を停止し,前記待機系の制御出力を用いる,冗長系制御装置。」

5 判断

上記で検討したごとく,本願発明は,本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,本願発明は,本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-07 
結審通知日 2018-08-28 
審決日 2018-09-25 
出願番号 特願2014-73382(P2014-73382)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 113- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大桃 由紀雄  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 山崎 慎一
辻本 泰隆
発明の名称 冗長系制御装置  
代理人 原田 昭穂  

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