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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
管理番号 1345823
異議申立番号 異議2018-700076  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-29 
確定日 2018-09-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6196114号発明「難燃性接着剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6196114号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6196114号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6196114号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成25年10月4日に特願2013-208774号として特許出願され、平成29年8月25日に特許権の設定登録がされ、平成29年9月13日にその特許公報が発行され、その請求項1?3に係る発明の特許に対し、平成30年1月29日に藤江桂子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年 5月15日付け 取消理由通知
同年 7月13日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 7月20日付け 通知書
同年 8月 9日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年7月13日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6196114号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?14のとおりである(なお、訂正に関連する箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「難燃性フィラー(B)と、少なくともテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)と」とあるのを「難燃性フィラー(B)と、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)と」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に「硬化触媒(D)とを」とあるのを「硬化触媒(D)と、接着性付与剤とを」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項1に「含み、少なくともテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」とあるのを「含み、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項1に「に対して、0.5?20重量部」とあるのを「に対して、5?20重量部」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の明細書の段落0008に「難燃性フィラー(B)と、少なくともテトラアルコキシシラン・・・(C)と、硬化触媒(D)とを含み、少なくともテトラアルコキシシラン・・・に対して、0.5?20重量部」とあるのを「難燃性フィラー(B)と、テトラアルコキシシラン・・・(C)と、硬化触媒(D)と、接着性付与剤とを含み、テトラアルコキシシラン・・・に対して、5?20重量部」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の明細書の段落0013に「難燃性フィラー(B)と、少なくともテトラアルコキシシラン」とあるのを「難燃性フィラー(B)と、テトラアルコキシシラン」に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の明細書の段落0016に「配合しても、従来」とあるのを「配合しても、例えば、従来」に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の明細書の段落0016に「詳述する少なくともテトラ・・・硬化前は該少なくともテトラ・・・開始すると、該少なくともテトラ」とあるのを「詳述するテトラ・・・硬化前は該テトラ・・・開始すると、該テトラ」に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の明細書の段落0018に「0018】少なくともテトラ・・・配合される少なくともテトラ」とあるのを「0018】テトラ・・・配合されるテトラ」に訂正する。

(10)訂正事項10
訂正前の明細書の段落0019に「0019】少なくともテトラ」とあるのを「0019】テトラ」に訂正する。

(11)訂正事項11
訂正前の明細書の段落0024に「平均粒子径4μm)を、少なくともテトラ」とあるのを「平均粒子径4μm)を、テトラ」に訂正する。

(12)訂正事項12
訂正前の明細書の段落0024に「硬化触媒(B)」とあるのを「硬化触媒(D)」に訂正する。

(13)訂正事項13
訂正前の明細書の段落0026の表1に「実施例4」とあるのを「参考例1」に訂正する。

(14)訂正事項14
訂正前の明細書の段落0034の表2に「実施例4」とあるのを「参考例1」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1及び3
ア 訂正の目的
訂正事項1及び3は、訂正前の請求項1の「少なくともテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」との記載2箇所について、その「少なくとも」という修飾語を削除することにより、当該「(C)」が「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物」以外の何らかの成分をも含み得るものではないことを明確にするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項1及び3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1及び3は、訂正前の請求項1の「少なくともテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」との記載が本来意図する範囲を明瞭にするためのものであって、その「少なくとも」という修飾語を削除することによって当該「(C)」の範囲が拡張又は変更されないことは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1及び3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項の有無(特許明細書等に記載した事項の範囲内のものか否か)
訂正事項1及び3は、訂正前の請求項1の「少なくともテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」との記載が本来意図する範囲を明瞭にするためのものであって、その「少なくとも」という修飾語を削除することにより新たな技術的事項が導入されないことは明らかであるから、新規事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1及び3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「難燃性接着剤組成物」について、必須成分として「接着性付与剤」を含む点を発明特定事項として付加することにより、特許を受けようとする発明の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
上記アで述べたように、訂正事項2は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項の有無(特許明細書等に記載した事項の範囲内のものか否か)
本件特許明細書の段落0024に「接着性付与剤としてSH-6020…を使用し、減圧下で攪拌・混合し、実施例1乃至実施例7の難燃性接着剤組成物を得た。」と記載されているから、上記「接着性付与剤」の特定は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項1の「(C)」の成分の「0.5?20重量部」という配合量の数値範囲について、その下限値を引き上げて「5?20重量部」という数値範囲に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
上記アで述べたように、訂正事項4は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項の有無(特許明細書等に記載した事項の範囲内のものか否か)
本件特許明細書の段落0026の表1に、実施例5、6及び7として、本件特許発明の「(C)」の成分に該当するテトラエトキシシランを5、10及び15重量部の割合で配合した具体例が記載されているから、その「(C)」の成分の配合量の数値範囲を「5?20重量部」に限定することは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)訂正事項5?6及び8?11
ア 訂正の目的
訂正事項5?6及び8?11は、訂正事項1?4にともない、特許請求の範囲と明細書との記載を整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項5?6及び8?11は、訂正事項1?4にともない、特許請求の範囲と明細書との記載を整合させるためのものであるから、上記(1)イ、(2)イ、及び(3)イに示したのと同様な理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5?6及び8?11は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項の有無(特許明細書等に記載した事項の範囲内のものか否か)
訂正事項5?6及び8?11は、訂正事項1?4にともない、特許請求の範囲と明細書との記載を整合させるためのものであるから、上記(1)ウ、(2)ウ、及び(3)ウに示したのと同様な理由により、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項5?6及び8?11は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(5)訂正事項7
ア 訂正の目的
訂正事項7は、本件特許明細書の段落0016の「本発明は難燃性フィラーとしてこれらの金属水酸化物を多量に配合しても、従来のようなポリエーテル化合物や液状化合物を配合することなく・・・テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)を配合する処方をとっている。」との記載にある「ポリエーテル化合物や液状化合物」という従来技術で必須とされていた成分についての記載に関して、この記載が単なる例示であることを明確にするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項7は、明細書中の従来技術に関する記載が単なる例示であることを明確にするためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項の有無(特許明細書等に記載した事項の範囲内のものか否か)
訂正事項7は、明細書中の従来技術に関する記載が単なる例示であることを明確にするためのものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(6)訂正事項12
ア 訂正の目的
訂正事項12は、本件特許明細書の段落0024の「硬化触媒(B)」との記載が「硬化触媒(D)」の明らかな誤記であって、その記載を本来意図するところの記載に改めるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項12は、明細書中の明らかな誤記を本来意図するところの記載に改めるためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項12は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項の有無(出願当初明細書等に記載した事項の範囲内のものか否か)
訂正事項12は、明細書中の明らかな誤記を本来意図するところの記載に改めるためのものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項12は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(7)訂正事項13及び14
ア 訂正の目的
訂正事項13及び14は、訂正事項4により訂正前の「実施例4」が参考例になったことにともない、特許請求の範囲と明細書との記載を整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項13及び14は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項13及び14は、訂正事項4にともない、特許請求の範囲と明細書との記載を整合させるためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項13及び14は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項の有無(特許明細書等に記載した事項の範囲内のものか否か)
訂正事項13及び14は、訂正事項4にともない、特許請求の範囲と明細書との記載を整合させるためのものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項13及び14は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(8)一群の請求項について
訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?3について、その請求項2?3はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?4による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
訂正事項5?14による明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1?3であるから、訂正事項5?14と関係する一群の請求項が請求の対象とされている。
したがって、訂正事項5?14による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

(9)訂正の適否のまとめ
以上総括するに、訂正事項1?14による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1?3に係る発明(以下「本1発明」?「本3発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(訂正箇所に下線を付す。)。
「【請求項1】加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)と、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)と、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)と、硬化触媒(D)と、接着性付与剤とを含み、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)は、加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、5?20重量部であり、前記テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランからなる群から選ばれることを特徴とする難燃性接着剤組成物。
【請求項2】加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)は100?300重量部であることを特徴とする請求項1記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項3】テトラアルコキシシランはテトラエトキシシランであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の難燃性接着剤組成物。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る発明の特許に対して平成30年5月15日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

〔理由1〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
刊行物1:特開2007-332258号公報(甲1に同じ。)
参考例A:特開平11-310682号公報
参考例B:特開2004-255582号公報
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?4に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1:特開2007-332258号公報(甲1に同じ。)
刊行物2:特開2012-111786号公報(甲2に同じ。)
刊行物3:特開2012-77167号公報(甲3に同じ。)
刊行物4:特開2011-241390号公報(甲4に同じ。)
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記(ア)及び(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
(ア)実施例1?7では、「ビニルトリメトキシシラン(脱水剤)」「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(接着性付与剤)」「変性シリコーン樹脂であるEST250」「水酸化アルミニウム」「テトラエトキシシラン」の素材の組み合わせのみの効果が示されているにすぎず、その他の素材の組み合わせまで拡張ないし一般化できているとはいえない。
(イ)本件特許発明1?3は、ポリエーテル化合物や液状化合物を配合することを排除しておらず、発明の詳細な説明の記載を超えて特許されたものである。
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由4〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が下記(ウ)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
(ウ)上記(ア)、(イ)の理由の発明の詳細な説明の記載を超えて特許された範囲は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、当業者が実施するためには、期待する以上の試行錯誤の実験が必要である。
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由5〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記(エ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
(エ)本件特許の請求項1に記載された「少なくともテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」という発明特定事項について、当該「(C)」については、その「少なくとも」という修飾語の存在により、その「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物」以外の何らかの成分をも含み得るのか明確ではない。
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

なお、取消理由通知に記載した上記〔理由1〕?〔理由4〕は、特許異議申立人が申し立てた理由と同趣旨であり、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第5 当審の判断
1 引用刊行物及び参考例の記載事項
(1)刊行物1:特開2007-332258号公報
刊行物1(甲第1号証)には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】
(A)反応性珪素基含有有機重合体、
(B)平均粒径0.1?200μmの金属水酸化物、及び
(C)23℃における粘度が500mPa・s以下である液状化合物であって、誘電率が5以上及び/又は沸点が170℃以下の液状化合物、
を必須成分として含有することを特徴とする難燃性湿気硬化型接着剤組成物。」

摘記1b:段落0021
「【0021】前記重合体(A)としては、反応性珪素基を含有する有機重合体であれば特に限定されず、公知の重合体を広く使用可能である。前記反応性珪素基は、珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる珪素含有基であり、下記式(I)で示される珪素含有官能基が好適である。
【化1】
(式中、R^(1)は同じであっても異なってよく、それぞれ炭素数1?20の置換もしくは非置換の1価の有機基またはトリオルガノシロキシ基であり、Xは水酸基または異質もしくは同種の加水分解性基であり、Xが複数存在する場合、それらは同じであっても異なっていてもよい、aは0,1または2の整数、bは0,1,2または3の整数でa=2でかつb=3にならない、mは0?18の整数。)」

摘記1c:段落0032及び0034
「【0032】水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム又はその混合物は高分子材料の分解温度と一致する約180?320℃で構造水を放出するため、炎の着火、延焼を防ぐことが出来、優れた難燃性を発揮することができる。…
【0034】金属水酸化物の量は、重合体(A)100質量部に対して150質量部?350質量部が配合されることが好ましく、170質量部?280質量部が更に好ましく、190質量部?250質量部が最も好ましい。この金属水酸化物の量が、150質量部より少ないと、充分な難燃性が得られず、例えば着火すると延焼し続けたりポリマーが解重合し液状化することがあり、一方350質量部を超えると、組成物粘度が高くなり作業性が悪くなる問題の他、接着強さ等の基本的物性が保てなくなる場合がある。」

摘記1d:段落0044?0047
「【0044】本発明の難燃性湿気硬化型接着剤組成物には、必要に応じて、種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、水分吸収剤、接着付与剤、硬化触媒、充填剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、着色剤などが挙げられる。
【0045】前記水分吸収剤としては組成物の水分を吸収したり、水分と反応するものであれば特に限定されない。例えば、メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、ブチルシリケートに代表されるシリケート化合物類およびそのオリゴマー類、ビニルシラン類、酸化カルシウムなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0046】前記接着付与剤としては、例えば、ビニルシラン、エポキシシラン、スチリルシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、クロロプロピルシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン及びイソシアネートシランなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0047】前記硬化触媒としては、前記重合体(A)を架橋させる触媒であれば特に限定されない。具体的には、ジブチル錫ジラウレート…が挙げられる。」

摘記1e:段落0055?0059
「【0055】(実施例1)
表1に示した配合(単位:質量部)で成分(A)?(E)をプラネタリーミキサーに入れて100℃で1時間混合した後、20℃に冷却し、水分吸収剤、硬化触媒及び接着付与剤を入れて、10分間真空減圧混合し、室温湿気硬化型組成物を得た。
【0056】(実施例2?10及び比較例1?4)
表1及び表2に示した如く、配合物質を変更した以外は実施例1と同様に室温湿気硬化型組成物を調製した。
【0057】【表1】

【0058】【表2】

【0059】表1及び表2中の各配合物質は次の通りである。
*1)MA450:(株)カネカ製、ポリオキシアルキレン重合体とアクリル系重合体との混合物
*2)ハイジライトH42:昭和電工(株)製、水酸化アルミニウム(平均粒径1.1μm)
*3)ハイジライトH42S:昭和電工(株)製、表面脂肪酸処理水酸化アルミニウム(平均粒径1.1μm)
*4)白艶華CCR:白石工業(株)製、表面処理炭酸カルシウム(平均粒径0.08μm)
*5)ビスコエクセル30:白石工業(株)製、表面処理炭酸カルシウム(平均粒径0.03μm)
*6)シリカ:(株)トクヤマ製、商品名レオロシールQS-20〔親水性シリカ〕
*7)水分吸収剤:エチルシリケート
*8)硬化触媒:ジブチル錫ジラウレート
*9)接着付与剤:東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名SH6020〔γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン〕
*10)PPG:三井化学ポリウレタン(株)製、商品名SHP-2550」

(2)刊行物2:特開2012-111786号公報
刊行物2(甲第2号証)には、次の記載がある。
摘記2a:段落0074
「【0074】[脱水剤]
本発明にかかる硬化性組成物は、貯蔵安定性を改良するために、本発明の効果を損なわない範囲で少量の脱水剤を含有させてもよい。
かかる脱水剤の具体例としては、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル等のオルトギ酸アルキル;オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル等のオルト酢酸アルキル;メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン等の加水分解性有機シリコーン化合物;加水分解性有機チタン化合物等が挙げられる。これらの中でもビニルトリメトキシシラン又はテトラエトキシシランがコスト、脱水能力の点から好ましい。
硬化性組成物に脱水剤を添加する場合、その添加量は、シリル基含有重合体(S)および他の重合体の合計量の100質量部に対して0.001?30質量部であることが好ましく、0.01?10質量部であることがより好ましい。」

(3)刊行物3:特開2012-77167号公報
刊行物3(甲第3号証)には、次の記載がある。
摘記3a:段落0065?0066
「【0065】上記脱水剤は、硬化性組成物を保存している間に水分を除去し、貯蔵安定性を維持するために用いるものであり、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】本発明の硬化性組成物が脱水剤を含有する場合、その含有量は、上記アクリル系共重合体(A)を含む全ての重合体100質量部に対して、好ましくは0.01?20質量部、より好ましくは0.1?10質量部である。」

(4)刊行物4:特開2011-241390号公報
刊行物4(甲第4号証)には、次の記載がある。
摘記4a:段落0159?0160
「【0159】前記硬化性組成物が1成分型の場合、すべての配合成分が予め配合されるため、水分を含有する配合成分は予め脱水乾燥してから使用するか、また配合混練中に減圧などにより脱水するのが好ましい。前記硬化性組成物が2成分型の場合、架橋性珪素基を有する重合体を含有する主剤に硬化触媒を配合する必要がないので配合剤中には若干の水分が含有されていてもゲル化の心配は少ないが、長期間の貯蔵安定性を必要とする場合には脱水乾燥するのが好ましい。脱水、乾燥方法としては粉状などの固状物の場合は加熱乾燥法、液状物の場合は減圧脱水法または合成ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、生石灰、酸化マグネシウムなどを使用した脱水法が好適である。また、イソシアネート化合物を少量配合してイソシアネート基と水とを反応させて脱水してもよい。また、3-エチル-2-メチル-2-(3-メチルブチル)-1,3-オキサゾリジンなどのオキサゾリジン化合物を配合して水と反応させて脱水してもよい。かかる脱水乾燥法に加えてメタノール、エタノールなどの低級アルコール;n-プロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、メチルシリケート、エチルシリケート、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物を添加することにより、さらに貯蔵安定性は向上する。
【0160】脱水剤、特にビニルトリメトキシシランなどの水と反応し得る珪素化合物の使用量は(A)架橋性珪素基を有する有機重合体100質量部に対して、0.1?20質量部、好ましくは0.5?10質量部の範囲が好ましい。」

(5)参考例A:特開平11-310682号公報
参考例Aには、次の記載がある。
摘記A1:段落0034
「【0034】表1中の各成分は次の通りである。
サイリルMA450:主鎖がポリオキシプロピレンで分子末端にジメトキシシリル基を有する重合体と、主鎖がポリメタアクリル酸エステルの共重合物で分子中にジメトキシシリル基を有する重合体との混合物の商品名〔鐘淵化学工業(株)製〕。」

(6)参考例B:特開2004-255582号公報
参考例Bには、次の記載がある。
摘記B1:段落0023
「テトラエトキシシラン(別名エチルシリケート)やテトラメトキシシラン(別名メチルシリケート)のようなアルコキシシラン」

2 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「(A)反応性珪素基含有有機重合体、(B)平均粒径0.1?200μmの金属水酸化物、…を…含有する…難燃性湿気硬化型接着剤組成物。」との記載、
摘記1dの「本発明の難燃性湿気硬化型接着剤組成物には、…種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、…水分吸収剤、接着付与剤、硬化触媒…などが挙げられる。…前記水分吸収剤としては…メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、ブチルシリケートに代表されるシリケート化合物類およびそのオリゴマー類…などが挙げられる。…前記接着付与剤としては…アミノシラン…などが挙げられる。前記硬化触媒としては…ジブチル錫ジラウレート…が挙げられる。」との記載、並びに、
摘記1eの「実施例1…表1に示した配合(単位:質量部)で成分(A)?(E)をプラネタリーミキサーに入れて100℃で1時間混合した後、20℃に冷却し、水分吸収剤、硬化触媒及び接着付与剤を入れて、10分間真空減圧混合し、室温湿気硬化型組成物を得た。…*1)MA450:(株)カネカ製、ポリオキシアルキレン重合体とアクリル系重合体との混合物 *2)ハイジライトH42:昭和電工(株)製、水酸化アルミニウム(平均粒径1.1μm)…*7)水分吸収剤:エチルシリケート *8)硬化触媒:ジブチル錫ジラウレート *9)接着付与剤:東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名SH6020〔γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン〕」との記載、及び表1の配合量についての記載からみて、刊行物1には、
『(A)反応性珪素基含有有機重合体(カネカ製のMA450)100質量部、(B)平均粒径1.1μmの水酸化アルミニウム(昭和電工製のハイジライトH42)200質量部、(F1)水分吸収剤(エチルシリケート)2質量部、(F2)硬化触媒(ジブチル錫ジラウレート)2質量部及び(F3)接着付与剤〔γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン〕4質量部を含有する難燃性湿気硬化型接着剤組成物。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比
本1発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「(A)反応性珪素基含有有機重合体(カネカ製のMA450)100質量部」は、刊1発明の「難燃性湿気硬化型接着剤組成物」という「湿気硬化型」の接着剤組成物における有機重合体成分であって、摘記1bの「前記反応性珪素基は、珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し」との記載、及び摘記A1の「サイリルMA450:主鎖がポリオキシプロピレンで分子末端にジメトキシシリル基を有する重合体と、主鎖がポリメタアクリル酸エステルの共重合物で分子中にジメトキシシリル基を有する重合体との混合物の商品名〔鐘淵化学工業(株)製〕」との記載を参酌するに、メトキシ基のような加水分解性基を有するシリル基(ジメトキシシリル基)が反応性珪素基として含有されている湿気硬化型の有機樹脂重合体であることが明らかであるから、本1発明の「加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)」に相当する。
刊1発明の「(B)平均粒径1.1μmの水酸化アルミニウム(昭和電工製のハイジライトH42)200質量部」は、摘記1cの「水酸化アルミニウム…は高分子材料の分解温度と一致する約180?320℃で構造水を放出するため、炎の着火、延焼を防ぐことが出来、優れた難燃性を発揮することができる。…この金属水酸化物の量が、150質量部より少ないと、充分な難燃性が得られず、例えば着火すると延焼し続けたりポリマーが解重合し液状化する」との記載からみて、難燃性フィラーとして機能する金属水酸化物であることが明らかであるから、本1発明の「金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)」に相当する。
刊1発明の「(F1)水分吸収剤(エチルシリケート)2質量部」は、例えば、摘記B1の「テトラエトキシシラン(別名エチルシリケート)」との記載を参酌するに、本1発明の「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」及び「前記テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランからなる群から選ばれる」に相当する。
刊1発明の「(F2)硬化触媒(ジブチル錫ジラウレート)2質量部」は、本1発明の「硬化触媒(D)」に相当する。
刊1発明の「(F3)接着付与剤〔γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン〕4質量部」は、本1発明の「接着性付与剤」に相当する。
刊1発明の「(A)…100質量部、…(F)…2質量部」という配合量は、本1発明の「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)は、加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、5?20重量部であり」の範囲外の配合量になる。
刊1発明の「難燃性湿気硬化型接着剤組成物」は、本1発明の「難燃性接着剤組成物」に相当する。

してみると、本1発明と刊1発明は、両者とも『加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)と、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)と、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)と、硬化触媒(D)と、接着性付与剤とを含み、前記テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランからなる群から選ばれる、難燃性接着剤組成物。』という点において一致し、次の〔相違点α〕において相違する。

〔相違点α〕加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対する、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)の量が、本1発明においては「5?20重量部」であるのに対して、刊1発明は「2質量部」である点。

(3)判断
先ず「新規性」について、本1発明と刊1発明は、上記〔相違点α〕において差異があり、当該差異が実質的な差異ではないといえる事情も見当たらないから、本1発明は、刊行物1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

次に「進歩性」について、上記〔相違点α〕の容易想到性を検討する。

刊行物2の段落0074(摘記2a)には、硬化性組成物にオルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル等のオルトギ酸アルキル;オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル等のオルト酢酸アルキル;メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン等の加水分解性有機シリコーン化合物;加水分解性有機チタン化合物等の脱水剤を添加する場合、その添加量は、重合体の合計量の100質量部に対して0.001?30質量部であることが好ましいことが記載されている。

刊行物3の段落0065?0066(摘記3a)には、硬化性組成物がビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等の脱水剤を含有する場合、その含有量は、全ての重合体100質量部に対して、好ましくは0.01?20質量部であることが記載されている。

刊行物4の段落0159?0160(摘記4a)には、硬化性組成物において、脱水剤、特にビニルトリメトキシシランなどの水と反応し得る珪素化合物の使用量は、架橋性珪素基を有する有機重合体100質量部に対して、0.1?20質量部の範囲が好ましいことが記載されている。

しかしながら、刊行物1には、その「(A)反応性珪素基含有有機重合体(カネカ製のMA450)100質量部」に対する「水分吸収剤:エチルシリケート」の配合量として「2質量部」である場合のみが明示されているにすぎず、当該「2質量部」以外の配合量であることが好ましい旨の記載は示唆を含めて見当たらない。このため、その配合量を当該「2質量部」と異なる範囲の「5?20重量部」という範囲に敢えて変更してみることが、当業者にとって容易であるとは直ちに認めることはできない。

そして、本件特許明細書の段落0026の表1及び段落0034の表2には、その「接着強さ」の評価において、テトラエトキシシランなどの「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」の配合量を「加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部」に対して「5?20重量部」とした実施例1?3及び5?7のものが4.00?4.50N/mm^(2)の性能を示しているのに対して、本1発明の要件を満たさない参考例1及び比較例1?5のものは2.50?3.70N/mm^(2)の低い性能を示しており、それ以外の「粘度」「難燃性」「被膜強さ」及び「被膜硬度」の評価についても、実施例1?3及び5?7ものは、参考例1及び比較例1?5のものに比して、総合的に優れた評価となっている。

してみると、刊行物2のオルトギ酸メチル等の脱水剤の配合量を「0.001?30質量部」にすることが好ましい旨の記載、刊行物3のビニルトリメトキシシラン等の脱水剤の配合量を「0.01?20質量部」にすることが好ましい旨の記載、刊行物4のビニルトリメトキシシランの脱水剤の配合量を「0.1?20質量部」にすることが好ましい旨の記載、及び本件特許の出願当時の技術常識の全てを参酌したとしても、難燃性接着剤組成物に配合される成分の種類を「テトラエトキシシラン」などの「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」に厳選し、その配合量の範囲を「5?20重量部」に厳選すること、並びにこれにより卓越した「接着強さ」の効果が得られるとともに、その「粘度」「難燃性」「被膜強さ」及び「被膜硬度」の評価が総合的に良好になるという効果が得られることまでをも、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

したがって、本1発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(4)本2発明及び本3発明について
本2発明は、本1発明において、さらに「加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)は100?300重量部であること」を特徴とする「難燃性接着剤組成物」に関するものである。
また、本3発明は、本1発明又は本2発明において、さらに「テトラアルコキシシランはテトラエトキシシランであること」を特徴とする「難燃性接着剤組成物」に関するものである。
してみると、本1発明が刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許の出願当時の技術常識を斟酌しても、本2発明及び本3発明が刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本2発明及び本3発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

3 理由3(サポート要件)について
(1)一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされているところ〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕、本1?本3発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0007を含む全体の記載からみて『十分に低粘度に設計しても高い接着強さを有し、且つ組成物自体に高い凝集力を有しながら、UL94垂直燃焼性試験でV-0に合格する難燃性を有する難燃性接着剤組成物の提供』にあるものと認められる。

(2)これに対して、本件特許明細書の段落0026の表1及び段落0034の表2には、テトラエトキシシラン又はテトラエトキシシランの縮合物から成る(C)を、湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、5?20重量部である実施例1?3及び5?7の難燃性接着剤組成物が、70?380Pa・s/23℃の粘度で、3.90?4.50N/mm^(2)の高い接着強さを有し、且つ4.05?5.00N/mm^(2)の被膜強さ(凝集力)を有しながら、UL94V-0規格に基づく試験に合格する難燃性を有することが、具体的な試験結果の記載により裏付けれている。また、一般的な記載として、同段落0018には「テトラアルコキシシランまたはテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」が「テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、及びこれらの縮合物」であってもよいことが記載されている。

(3)そして、本件請求項1に列挙される「テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン」は、いずれも「テトラアルコキシシラン」に属するものであって、その化学的な構造や性質が相互に類似する範囲にないといえる根拠が見当たらないから、上記「テトラエトキシシラン又はテトラエトキシシランの縮合物」で得られた具体的な試験結果を根拠に、他の「テトラアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランの縮合物」においても同様な結果が得られると類推することに不合理ないし不自然な点はない。
また、特許異議申立人の主張を精査しても、当該「テトラアルコキシシラン」の種類が異なることによって、その化学的な性質などが顕著に相違し、上記課題の解決が不可能になるといえる技術常識の存在などの具体的な根拠は見当たらない。
このため、本件特許明細書の表1及び表2の試験結果の記載を含む発明の詳細な説明の記載の全て、並びに本件特許の出願当時の当業者の技術常識をも総合的に斟酌するに、本件特許の請求項1に記載された「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物」の全てが、上記『十分に低粘度に設計しても高い接着強さを有し、且つ組成物自体に高い凝集力を有しながら、UL94垂直燃焼性試験でV-0に合格する難燃性を有する難燃性接着剤組成物の提供』という所定の課題を解決できる範囲にないと結論付けるに足る合理的な理由を認めるに至らない。

(4)さらに、本件特許明細書の表1及び表2には、湿気硬化性樹脂(A)、難燃性フィラー(B)、硬化触媒(D)、及び接着性付与剤の種類と配合量の条件が全く同じ実施例1?3及び5?7、参考例1、並びに比較例1?5の具体的な試験結果において、専らテトラエトキシシラン又はその縮合物から成る(C)の配合量を特定の範囲に設定するだけで、上記所定の課題を解決できることが具体的な試験結果の記載により裏付けられている。
そして、特許異議申立人の主張を精査しても、難燃性接着剤組成物に配合される、湿気硬化性樹脂(A)、難燃性フィラー(B)、及び硬化触媒(D)の種類の違いや、接着性付与剤などの他の添加剤の有無によって、成分(C)の特定量を配合したことによる利点が全く得られなくなるといえる具体的な根拠は見当たらない。
このため、本件特許明細書の表1及び表2の試験結果の記載、並びに本件特許の出願当時の当業者の技術常識をも総合的に斟酌するに、実施例1?3及び5?7に記載の素材の組み合わせ以外にまで発明を拡張ないし一般化できないと断ずることはできず、ポリエーテル化合物や液状化合物などの他の添加剤を配合しない場合にまで発明を拡張ないし一般化できないと断ずることもできない。

(5)以上総括するに、本1発明は、本件特許明細書の段落0013?0022の一般的な記載及び段落0024?0033の実施例の記載を含む発明の詳細な説明に記載された発明であることが明らかであって、発明の詳細な説明の実施例1?3及び5?7を含む試験結果の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであることを合理的に否定することもできないから、本件特許の請求項1の記載が明細書のサポート要件に適合しないものではないと断ずることはできない。
また、本2発明及び本3発明についても、同様な理由により、明細書のサポート要件に適合しないものではないと断ずることはできない。

(6)したがって、本件特許の請求項1?3の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえず、本1?本3発明に係る特許が同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえないから、本1?本3発明に係る特許を同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。

4 理由4(実施可能要件)について、
(1)一般に『物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。』とされている〔平成24年(行ケ)第10299号判決参照。〕。

(2)そして、本1?本3発明の「難燃性接着剤組成物」を構成する「加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)」と「金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)」と「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」と「硬化触媒(D)」と「接着性付与剤」の各々は、いずれも公知ないし周知慣用の物質又は添加剤であるから、これら公知ないし周知慣用の物質又は添加剤を所定又は適宜の配合量で含む「難燃性接着剤組成物」を製造することは、本件特許明細書の実施例等の記載及び本件特許の出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるものと認められ、当業者に期待する以上の試行錯誤の実験が必要になるとは認められない。

(3)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないとはいえず、本1?本3発明に係る特許が同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえないから、本1?本3発明に係る特許を同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。

5 理由5(明確性要件)について
(1)理由5において指摘した『本件特許の請求項1に記載された「少なくともテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)」という発明特定事項について、当該「(C)」については、その「少なくとも」という修飾語の存在により、その「テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物」以外の何らかの成分をも含み得るのか明確ではない。』との記載不備については、訂正により「少なくとも」との文言が削除されたことにより、その記載不備は解消した。

(2)したがって、本件特許の請求項1?3の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとはいえず、本1?本3発明に係る特許が同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえないから、本1?本3発明に係る特許を同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。

6 特許異議申立人の意見について
(1)平成30年8月9日付けの意見書において、特許異議申立人は、取消理由2について「異議申立書で示しました通り、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物の5?20重量部の範囲では、当業者が想定した程度の効果が示されているに過ぎません。」と主張している。
しかしながら、当該意見書及び特許異議申立書の記載を精査しても、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物の配合量を「5?20重量部」の範囲に厳選することにより本件特許明細書に記載されるとおりの卓越した効果が得られることについて、これが「当業者が想定した程度」であるといえる具体的ないし合理的な根拠は見当たらない。
このため、特許異議申立人の主張及び証拠方法によっては、本1?本3発明を容易に想到し得たとすることはできない。

(2)また、同意見書において、特許異議申立人は、取消理由3の(ア)について『本願明細書では、実施例等でビニルトリメトキシシランを含有していない系での効果が示されていないという事実がある以上、訂正後にビニルトリメトキシシランが含まれていないため、「接着性付与剤」と追加したとしても、訂正後の特許請求の範囲は、発明の詳細な説明の記載の範囲を超えている事実に変化はないと思料いたします。』等の主張をしている。
しかしながら、本件特許明細書の実施例1?3及び5?7並びに参考例1及び比較例1?5の試験結果においては、テトラアルコキシシランまたはテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)の配合量を「5?20重量部」という特定の範囲に設定するか否かによって課題解決の成否が専ら左右されているので、当該「ビニルトリメトキシシラン」の有無が課題解決の成否に関係するとは解せない。
加えて、比較例1?5の試験結果においては、当該「ビニルトリメトキシシラン」の相当量を配合しているにもかかわらず、本件所定の課題を解決できると認識できる結果になっていないので、当該「ビニルトリメトキシシラン」の有無が課題解決の成否に関係するとは解せない。
このため、特許異議申立人の主張及び証拠方法によっては、本1?本3発明がサポート要件を満たさないものであるとすることはできず、本件特許明細書の記載が実施可能要件を満たさないものであるとすることもできない。

(3)さらに、同意見書において、特許異議申立人は、取消理由3の(イ)について『硬化物として使用する場合に、「ポリエーテル化合物や液状化合物」が任意成分であることを明瞭とするための訂正は、実質的に特許請求の範囲を拡張するものであります(特許法第126条第6項違反)。』等の主張をしている。
しかしながら、訂正前の本1?本3発明が当該「ポリエーテル化合物や液状化合物」を必須とするものではないことは、訂正前の特許請求の範囲の記載事項から明らかであるから、当該訂正が「実質的に特許請求の範囲を拡張するもの」に該当しないことは明らかである。
そして、本件特許明細書の実施例1?3及び5?7の試験結果においては、当該「ポリエーテル化合物や液状化合物」を含まずとも、本件所定の課題を解決できることが実験的に裏付けられているので、当該「ポリエーテル化合物や液状化合物」の有無が課題解決の成否に関係するとは解せない。
このため、特許異議申立人の主張及び証拠方法によっては、本1?本3発明がサポート要件を満たさないものであるとすることはできず、本件特許明細書の記載が実施可能要件を満たさないものであるとすることもできない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1?本3発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本1?本3発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
難燃性接着剤組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は,湿気硬化型の難燃性接着剤組成物に関し,特に難燃性を有しながら低粘度で作業性が良好であって、且つ高い凝集力と接着性を有する難燃性接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、(A)架橋可能な加水分解性シリル基を2個以上含有する有機重合体、(B)平均粒径0.1?200μmの金属水酸化物、(C)架橋可能な加水分解性シリル基を片末端のみに有するポリエーテル化合物を必須成分として含有することを特徴とする難燃性湿気硬化型樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。該難燃性湿気硬化型樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤や酸化アンチモンなどを使用せず、難燃性の規格であるUL94垂直燃焼性試験でV-0に合格し、低粘度で作業性が良好でありながら接着性も良好で、また低揮発性と低ブリードアウト性を有し、硬化物も強靭であるとされている。
【0003】
また、難燃性を要求される電気製品もしくは精密機器の組立用等の接着剤、固着剤として優れた性能を有する接着剤組成物として、(A)反応性珪素基含有有機重合体、(B)平均粒径0.1?200μmの金属水酸化物、及び(C)23℃における粘度が500mPa・s以下である液状化合物であって、誘電率が5以上及び/又は沸点が170℃以下の液状化合物、を必須成分として含有する難燃性湿気硬化型接着剤組成物が提案されている(特許文献2)。
【0004】
さらには、同様に難燃性を要求される電気製品もしくは精密機器の組立用等の接着剤、固着剤として優れた性能を有する接着剤組成物として、(A)反応性珪素基含有有機重合体、(B)平均粒径0.1?200μmの金属水酸化物、(C)親水性シリカ、及び(D)平均粒径0.01?10μmの表面処理された炭酸カルシウムを必須成分として含有し、前記重合体(A)100質量部に対して、前記金属水酸化物(B)150?350質量部、前記親水性シリカ(C)0.1?15質量部、前記炭酸カルシウム(D)1?50質量部を配合することを特徴とする難燃性湿気硬化型組成物が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-225695号公報
【特許文献2】特開2007-332258号公報
【特許文献3】特開2007-84633号公報
【0006】
しかしながら、これらの組成物は、十分に低粘度であると言えない場合があり、また接着強さは最大でも3.6N/mm^(2)が示されるに留まり、より高い接着強さと組成物自体に高い凝集力を要求される場合は、十分に満足するものでない場合があるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、十分に低粘度に設計しても高い接着強さを有し、且つ組成物自体に高い凝集力を有しながら、UL94垂直燃焼性試験でV-0に合格する難燃性を有する難燃性接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)と、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)と、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)と、硬化触媒(D)と、接着性付与剤とを含み、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)は、加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、5?20重量部であり、前記テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランからなる群から選ばれることを特徴とする難燃性接着剤組成物である。
【0009】
請求項2記載の発明は、加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)は100?300重量部であることを特徴とする請求項1記載の難燃性接着剤組成物である。
【0010】
請求項3記載の発明は、テトラアルコキシシランはテトラエトキシシランであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の難燃性接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る難燃性接着剤組成物は、UL94垂直燃焼性試験でV-0に合格する難燃性を有すると共に、十分に低粘度に設計しても高い接着強さを有するという効果があり、結果として優れた接着作業性を有するという効果がある。また、硬化後の組成物の凝集力が高く、使用環境温度が高い場合であっても接着強さが維持され、優れた接着信頼性を有するという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の請求項1記載の難燃性接着剤組成物は、加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)と、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)と、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)と、硬化触媒(D)とを含むことを特徴とする難燃性接着剤組成物であり、この他に必要に応じて脱水剤、接着性付与剤、充填剤等を配合することが出来る。
【0014】
加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)
本発明に係る加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)は、例えば水等の活性水素基含有化合物と反応することによりシラノール基を生成できるシリル基を有する樹脂であり、脱離する保護基の種類によって、脱アルコール型、脱オキシム型、脱酢酸型、脱アミド型、脱アセトン型などがある。該湿気硬化性樹脂(A)としては、主鎖としてポリシロキサン構造を有するシリコーン樹脂やポリオキシアルキレン構造を有する変性シリコーン樹脂を使用することが出来る。
【0015】
加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)を硬化させる際は、硬化触媒(D)が用いられ、該硬化触媒(D)としては、有機錫、無機錫、チタン触媒、ビスマス触媒、金属錯体、白金触媒、塩基性物質及び有機燐酸化物などが使用される。有機錫の具体例としては、ジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジマレート、ジブチル錫フタレート、オクチル酸第一錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫塩と正珪酸エチルとの反応生成物等が挙げられる。金属錯体としては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物類、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト等のカルボン酸金属塩、アルミニウムアセチルアセテート錯体等の金属アセチルアセテート錯体、バナジウムアセチルアセトナート錯体等の金属アセチルアセトナート錯体などが挙げられる。硬化触媒(D)は加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して0.01?20重量部が適当である。0.01重量部未満では硬化が不十分となり、20重量部超では反応が速くなりすぎて増粘が顕著になり、接着作業性が不良となる。
【0016】
金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)
本発明に係る難燃性接着剤組成物に配合される難燃性フィラーは金属水酸化物であり、特には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム又はこれらの混合物を使用することができる。水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムは一般的にプラスチックの難燃化剤として使用されているが、通常、UL94垂直燃焼性試験でV-0に合格する難燃性を付与するためには該水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムを多量に配合しなければならず、そうすると組成物が高粘度となって作業性が不良となる。これを解決するために上記特許文献1及び特許文献2のように架橋可能な加水分解性シリル基を片末端のみに有するポリエーテル化合物や液状化合物を配合すると、組成物の粘度は低下しても同時に硬化物の凝集力が低下して接着力が低下するという相矛盾する傾向にあった。このような従来の技術に対して、本発明は難燃性フィラーとしてこれらの金属水酸化物を多量に配合しても、例えば、従来のようなポリエーテル化合物や液状化合物を配合することなく、以下に詳述するテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)を配合する処方をとっている。このため、硬化前は該テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)の希釈効果により組成物は低粘度となり、次に硬化触媒(D)により硬化反応が開始すると、該テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)によって湿気硬化性樹脂(A)の架橋度が高められて硬化物の凝集力が高くなるものである。結果的には本発明により、難燃性接着剤組成物の低粘度化と硬化物の高凝集力化が初めて実現されている。
【0017】
金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)の配合量は湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して100?300重量部であり、100重量部未満では難燃性が不十分となり、300重量部超では組成物の粘度が高くなり、作業性が不良となる。
【0018】
テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)
本発明に係る難燃性接着剤組成物に配合されるテトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)は、上述の目的で配合されるが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、及びこれらの縮合物を使用することができる。その中でも、好ましいものとしては、テトラエトキシシラン及びテトラエトキシシランの縮合物(5量体)及び同縮合物(10量体)である。
【0019】
テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)の配合量は、湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して0.5?20重量部であり、0.5重量部未満では組成物の粘度が高くなり、作業性が不良となり、20重量部超では難燃性が不十分となる。配合量が1.0重量部未満では組成物の粘度が高くなる傾向があるが、難燃性に影響を与えない範囲で他の希釈剤を併用することにより作業性を良好とすることができる。
【0020】
また、本発明に係る難燃性接着剤組成物には脱水剤を添加することができ、該脱水剤の添加により貯蔵中に湿気と反応して増粘または硬化することを抑制することができる。脱水剤には、ビニルトリメトキシシラン、オルソギ酸エチルなどを使用することができ、湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して0.1?10重量部の範囲で添加される。
【0021】
また、本発明に係る難燃性接着剤組成物には、使用される被着体に対する接着性を向上させるために接着性付与剤を添加することができる。具体的にはシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、シラン系又はチタネート系カップリング剤とポリイソシアネート系化合物との反応生成物などを用いることができる。これらは単独で使用、または2種以上を併用することができる。
【0022】
また、本発明に係る難燃性接着剤組成物には充填剤を配合することができる。該充填剤は、粘度調整、粘性調整、固形分調整などの目的で配合され、具体例として、炭酸カルシウム、硅砂、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、カオリンなどの無機充填材、硬化樹脂の補強のためにガラス繊維などの補強材、軽量化及び粘度調整などのためにシラスバルーン、ガラスバルーンなどの中空体などを使用することができる。
【0023】
以下,実施例及び比較例にて本発明に係る難燃性接着剤組成物について具体的に説明する。
【実施例】
【0024】
実施例1乃至実施例7
表1に示す配合にて、加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)として変性シリコーン樹脂であるEST250(商品名、PPG骨格変性シリコーン樹脂、粘度:20Pa・s/23℃、株式会社カネカ製)を、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)として、水酸化アルミニウムであるハイジライトH-32(商品名、昭和電工株式会社製、平均粒子径8μm)を、充填剤として重質炭酸カルシウム ホワイトンSB(商品名、白石カルシウム株式会社製、平均粒子径4μm)を、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)として、テトラエトキシランであるエチルシリケート28(商品名、コルコート株式会社製)、又はテトラエトキシシラン(5量体)であるエチルシリケート40(商品名、コルコート株式会社製)、又はテトラエトキシシラン(10量体)であるエチルシリケート48(商品名、コルコート株式会社製)を、脱水剤としてA-171(ビニルトリメトキシシラン、商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)を、接着性付与剤としてSH-6020(3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、商品名、東レ・ダウコーニング社製)を、硬化触媒(D)としてジブチル錫化合物であるネオスタンU-220H(商品名、日東化成株式会社製)を使用し、減圧下で撹拌・混合し、実施例1乃至実施例7の難燃性接着剤組成物を得た。
【0025】
比較例1乃至比較例5
表1に示す配合にて、実施例1乃至実施例7で使用した材料の他、希釈剤としてポリエチレングリコール P-1000(重量平均分子量Mw;1000、商品名、株式会社ADEKA製)、フタル酸ジイソノニル、及びイソパラフィン系希釈剤としてIPソルベント1620(商品名、密度0.761/15℃、出光興産株式会社製)を使用し、減圧下で撹拌・混合し、比較例1乃至比較例5の難燃性接着剤組成物を得た。
【0026】
【表1】

【0027】
評価項目および評価方法
【0028】
粘度
実施例及び比較例の難燃性接着剤組成物を23℃雰囲気下に4時間以上静置した後、BS型粘度計(ローターNo.6またはNo.7、10rpm)にて粘度を測定した。500Pa・s/23℃以下を○と評価し、これを超えるものを×と評価した。
【0029】
難燃性
実施例及び比較例の難燃性接着剤組成物を、シリコーン離型紙間で1.5mmのスペーサを用いてシートを作製する。23℃7日後、離型紙から剥がし、1.5×13×130mmの硬化シートを作製した。得られた硬化シートに対し、UL94V-0規格に基づき試験を行い、難燃性を評価した。具体的には以下の各項目を全て満たすものを合格、一つでも満たさないものを不合格とした。
a)各試料の残炎時間t1またはt2が「10秒以下」
b)全ての処理による各組の残炎時間の合計(5枚の試料のt1+t2)が「50秒以下」
c)第2回接炎の各試料の残炎時間と残じん時間の合計(t2+t3)が「30秒以下」
d)各試料の保持クランプまでの残炎または残じんが「無いこと」
e)発炎物質または滴下物による標識用綿の着火が「無いこと」
なお、t1?t3は以下の通りである。
t1:第1回接炎の試料の残炎時間(秒)
t2:第2回接炎の試料の残炎時間(秒)
t3:第2回接炎の試料の残じん時間(秒)
【0030】
被膜強さ(凝集力)
実施例及び比較例の難燃性接着剤組成物を、シリコーン離型紙上にて2mm厚のスペーサを用いて厚さ2mmのシート状となるよう塗布する。23℃50%RHにて7日間養生させて厚さ2mmのシート状硬化皮膜とした後、離型紙から剥がし、打抜き刃形等を用いてJIS K6251に規定するダンベル状3号形試験片を作成する。該試験片を引張速度100mm/分にて引張り、破断強度を測定し、該測定値を皮膜強さ(単位:N/mm^(2))とした。皮膜強さが3.4N/mm^(2)以上を○と評価し、3.4N/mm^(2)未満を×と評価した。
【0031】
被膜硬度
上記皮膜強さ(凝集力)の評価において作製した実施例及び比較例の難燃性接着剤組成物のシート状硬化皮膜を3?4枚程度重ねて、JIS K6253-3:2012に規定するタイプAデュロメータにて硬度を測定し、該硬度を皮膜硬度とした。皮膜硬度が75以上を○と評価し、75未満を×と評価した。
【0032】
接着強さ
実施例及び比較例の難燃性接着剤組成物を、SUS304ステンレス鋼板(1mm厚×25mm×70mm)の接着面積25×25mmに約100μm厚に塗布し、3分間23℃50%RHにて放置後、同様に接着剤組成物を塗布、放置した同形状のSUS304ステンレス鋼板を貼り合わせ23℃50%RHにて7日間養生後、引張速度50mm/分で引張せん断強さを測定し、該測定値を接着強さ(N/mm^(2))とした。接着強さが3.7N/mm^(2)以上を○と評価し、3.7N/mm^(2)未満を×と評価した。
【0033】
評価結果
評価結果を表2に示す。実施例1乃至実施例7の難燃性接着剤組成物は、接着強さが3.70N/mm^(2)以上有し、特に実施例7の難燃性接着剤組成物は粘度が70Pa・s/23℃と低粘度でありながら被膜強さは5.00N/mm^(2)、且つ接着強さは3.90N/mm^(2)と成り、高い接着性と硬化被膜の高い凝集力を示した。これに対して、比較例2乃至比較例4の難燃性接着剤組成物は低粘度ではあるが、皮膜強さ、皮膜硬度、接着強さも低下した。また、比較例5の難燃性接着剤組成物は、難燃性が低下した。
【0034】
【表2】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)と、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)と、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)と、硬化触媒(D)と、接着性付与剤とを含み、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの縮合物から成る(C)は、加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、5?20重量部であり、前記テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランからなる群から選ばれることを特徴とする難燃性接着剤組成物。
【請求項2】
加水分解により架橋可能なシリル基を有する湿気硬化性樹脂(A)100重量部に対して、金属水酸化物から成る難燃性フィラー(B)は100?300重量部であることを特徴とする請求項1記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項3】
テトラアルコキシシランはテトラエトキシシランであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の難燃性接着剤組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-06 
出願番号 特願2013-208774(P2013-208774)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 851- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
木村 敏康
登録日 2017-08-25 
登録番号 特許第6196114号(P6196114)
権利者 アイカ工業株式会社
発明の名称 難燃性接着剤組成物  

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