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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1345852
異議申立番号 異議2018-700117  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-15 
確定日 2018-10-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6179740号発明「軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤、該安定剤を用いた軟質塩化ビニル樹脂組成物および該組成物から形成された成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6179740号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6179740号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6179740号(請求項の数10。以下,「本件特許」という。)は,平成28年3月22日を出願日とする特許出願(特願2016-56781号)に係るものであって,平成29年7月28日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成29年8月16日である。)。
その後,平成30年2月15日に,本件特許の請求項1?10に係る特許に対して,特許異議申立人である山下桂(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

平成30年 2月15日 特許異議申立書
5月24日付け 取消理由通知書
7月20日 面接(特許権者)
7月27日 意見書,訂正請求書
8月 1日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
8月28日 意見書(申立人)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成30年7月27日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?10について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「有機酸亜鉛塩と,有機酸のアルカリ土類金属塩と,数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸と,を含む,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。」との記載を,「有機酸亜鉛塩と,有機酸のアルカリ土類金属塩と,数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸と,を含む,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤であって,該ポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸の含有量が,液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%である,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。」と訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における「ポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」について,その含有量を「液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%」とするものである。
この訂正は,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤に含まれる「ポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」の含有量を,「液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,本件特許の願書に添付した明細書の【0019】には,「液状安定剤におけるポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸の含有量は,液状安定剤全量に対して,好ましくは3重量%?40重量%であり,」と記載されているから,この訂正は,同明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1?10について,請求項2?10は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項1?10は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

3 まとめ
上記2のとおり,訂正事項1に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条4項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?10に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
有機酸亜鉛塩と,有機酸のアルカリ土類金属塩と,数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸と,を含む,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤であって,
該ポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸の含有量が,液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%である,
軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項2】
前記有機酸亜鉛塩を2種以上含む,請求項1に記載の軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項3】
前記有機酸のアルカリ土類金属塩を2種以上含む,請求項1または2に記載の軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項4】
前記有機酸が,オレイン酸,オクチル酸および安息香酸から選択される,請求項1から3のいずれかに記載の軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属が,カルシウムおよびバリウムから選択される,請求項1から4のいずれかに記載の軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項6】
塩化ビニル樹脂100重量部に対し,請求項1から5のいずれかに記載の液状安定剤を0.1重量部?5重量部および可塑剤を20重量部?100重量部含有する,軟質塩化ビ
ニル樹脂組成物。
【請求項7】
前記可塑剤が,アジピン酸アルキルエステル,エポキシ化大豆油およびフタル酸エステルから選択される,請求項6に記載の軟質塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の軟質塩化ビニル樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項9】
フィルムまたはシートである,請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
食品包装用である,請求項9に記載の成形体。

第4 取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件発明1?10(本件訂正前の請求項1?10に係る発明に対応する。)は,下記(1)?(5)のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?10に係る特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記(6)の甲第1号証?甲第11号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。

(1)取消理由1(新規性)
本件発明1?9は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件発明10は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)取消理由3(新規性)
本件発明1?10は,甲2に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
(4)取消理由4(進歩性)
本件発明1?10は,甲3に記載された発明並びに甲10及び11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(5)取消理由5(サポート要件)
本件発明1?10は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
(6)証拠方法
・甲1 特開2007-204525号公報
・甲2 特開平4-359946号公報
・甲3 特開平9-111079号公報
・甲4 特許第2668941号公報
・甲5 特開昭57-53598号公報
・甲6 特開昭54-23607号公報
・甲7 特開平8-73397号公報
・甲8 「PVC安定剤の理論について」,日本ゴム協会誌,1956年,29巻,8号,p.692-698
・甲9 「ポリ塩化ビニルの熱安定化に対する含硫黄化合物とステアリン酸亜鉛/ステアリン酸カルシウム複合系金属石けんとの相乗効果」,高分子論文集,1986年,43巻,6号,p.319-324
・甲10 「滑剤の特性」,工業材料,1974年,22巻,6号,p.81-88
・甲11 「滑剤」,高分子,1970年,Vol.19,No.224,p.992-998

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)上記1の取消理由1(新規性)と同旨。
(2)本件発明10は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである(取消理由6(新規性))。

第5 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(新規性)
ア 甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1?8,【0025】?【0027】,【0031】,【0073】,【0074】,表1,【0076】,表3,【0081】)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「酸化亜鉛並びにオレイン酸,リシノール酸,イソステアリン酸及びp-第三ブチル安息香酸である有機酸を1.0:0.35:0.35:0.7:0.6のモル比にて混合し,攪拌しながら135?145℃まで昇温し,脱水反応を行い,さらに125?135℃,30トールにて減圧脱水反応を行って,有機酸亜鉛塩を製造し,
得られた有機酸亜鉛塩56質量%と,Hammond社製「Plastistab^(TM)2513」(過塩基性バリウムオレート/カーボネート錯体:比重1.41?1.52,Ba=33?36%)10質量%,旭電化工業(株)製(アデカスタブ)12-ヒドロキシステアリン酸2質量%,旭電化工業(株)製ラウリルアルコールEO/PO付加物2質量%及びジイソノニルフタレート30質量%をブレンドして調製した,塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物。」(以下,「甲1発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「酸化亜鉛並びにオレイン酸,リシノール酸,イソステアリン酸及びp-第三ブチル安息香酸である有機酸」を所定の条件で反応させて製造した「有機酸亜鉛塩」は,本件発明1における「有機酸亜鉛塩」に相当する。
甲1発明における「Hammond社製「Plastistab^(TM)2513」(過塩基性バリウムオレート/カーボネート錯体:比重1.41?1.52,Ba=33?36%)」は,甲1の記載(請求項6,【0025】?【0027】,【0031】)によれば,有機酸亜鉛塩以外の有機酸金属塩であって,その中でも好ましい液状過塩基性アルカリ土類金属錯体(B)の一種である,アルカリ土類金属の過塩基性フェノレート若しくはカルボキシレート/カーボネート錯体の市販品である。この市販品に含まれるバリウムオレートは,本件発明1における「有機酸のアルカリ土類金属塩」に相当する。
甲1発明における「塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物」は,本件発明1における「軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,
「有機酸亜鉛塩と,有機酸のアルカリ土類金属塩と,を含む,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,さらに,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含み,「該ポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸の含有量が,液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%である」のに対して,甲1発明では,これらを含むかどうか明らかではなく,これらの含有量も不明である点。

(イ)相違点1の検討
a 甲1発明における有機酸亜鉛塩は,酸化亜鉛並びにオレイン酸,リシノール酸,イソステアリン酸及びp-第三ブチル安息香酸である有機酸を所定の条件で反応させて製造したものである。
ところで,有機酸亜鉛塩のような金属石けんを,原料である金属酸化物と脂肪酸とを直接反応させて製造する場合,未反応の脂肪酸が残存することは,本件特許の出願時の技術常識である(甲4?7)。
このような技術常識に照らすと,甲1発明における有機酸亜鉛塩の製造に用いた原料には,上記のとおり,リシノール酸が含まれることから,製造した有機酸亜鉛塩には,未反応のリシノール酸が残存していると認められる。そして,甲1には,製造した有機酸亜鉛塩を精製したこと等については何ら記載されていないから,このような未反応のリシノール酸が残存した有機酸亜鉛塩を用いて調製した,甲1発明に係る塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物には,リシノール酸が含まれることになる。
しかしながら,そもそも,甲1には,甲1発明に係る塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物にリシノール酸が含まれること(残存していること)や,その含有量(残存量)については,何ら記載されていない。また,甲1発明に係る塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物において,リシノール酸の含有量が,塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物の全量に対して「3重量%?40重量%」であると認めるに足りる証拠はない。かえって,リシノール酸亜鉛を,酸化亜鉛とリシノール酸とを直接反応させて製造する場合は,リシノール酸の残存量はごく微量であると認められるから(乙1,特許権者が平成30年7月27日付けの意見書とともに提出した実験成績証明書),甲1発明に係る塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物におけるリシノール酸の含有量は,塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物の全量に対して「3重量%?40重量%」を大きく下回るものと解される。
b 甲1には,甲1発明に係る塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物に数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールが含まれることや,その含有量については,何ら記載されていない。
c 以上によれば,相違点1は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

ウ 本件発明2?9について
本件発明2?9は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2?9についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1?9は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由1(新規性)によっては,本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由6(新規性)
本件発明10は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(1)イで述べたとおり,本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明10についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由6(新規性)によっては,本件特許の請求項10に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)取消理由2(進歩性)
本件発明10は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから,事案に鑑み,まず,本件発明1について検討した後,続けて本件発明10について検討することとする。

ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者は,上記1(1)イ(ア)で認定したとおりの一致点で一致し,同相違点1で相違する。

(イ)相違点1の検討
a 上記1(1)イ(イ)で述べたとおり,技術常識に照らすと,甲1発明に係る塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物には,リシノール酸が含まれることになるとはいえるものの,そもそも,甲1には,甲1発明に係る塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物にリシノール酸が含まれること(残存していること)や,その含有量(残存量)については,何ら記載されていない。
また,甲1には,甲1発明に係る塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物に数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールが含まれることや,その含有量についても,何ら記載されていない。
そうすると,甲1発明において,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含むものとし,その含有量を,塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物の全量に対して「3重量%?40重量%」とすることが動機付けられるとはいえない。また,甲2?11のいずれにも,このようなことを動機付ける記載は見当たらない。
b 本件明細書の記載(【0002】,【0004】,【0006】,【0009】,【0013】,【0016】?【0019】,実施例1?16,比較例1?21,表1-1?1-3,表2-1?2-2)によれば,本件発明1は,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤において,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含むものとし,その含有量を「液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%」とすることによって,優れた耐ブロッキング性及び透明性を有する軟質塩化ビニル樹脂組成物を実現し得る液状安定剤を実現できるというものである。
一方,甲1のほか,甲2?11のいずれにも,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
c 以上によれば,甲1発明において,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含むものとし,その含有量を,塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物の全量に対して「3重量%?40重量%」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。そして,本件発明1は,上記のとおり,優れた耐ブロッキング性及び透明性を有する軟質塩化ビニル樹脂組成物を実現し得る液状安定剤を実現できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明10について
本件発明10は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明10についても同様に,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり,本件発明10は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由2(進歩性)は理由がない。
したがって,取消理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項10に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由3(新規性)
ア 甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1,【0006】,【0015】,【0025】?【0027】,表1)によれば,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「以下の成分を含む,塩素含有樹脂組成物。
ポリ塩化ビニル(重合度1300) 100 重量部
アジピン酸ジイソノニル 40 重量部
エポキシ化大豆油 10 重量部
ステアリン酸 0.5 重量部
ポリグリセリンオレ-ト 1.0 重量部
ソルビタンモノラウレ-ト 2.0 重量部
オレイン酸カルシウム 0.1 重量部
イソデカン酸カルシウム 0.1 重量部
安息香酸カルシウム 0.05重量部
リシノレイン酸亜鉛 0.05重量部
2-エチルヘキソイン酸亜鉛 0.05重量部
トリスノニルフエニルホスフアイト 0.6 重量部
合成ハイドロタルサイト 0.3 重量部
デヒドロ酢酸 0.1 重量部」(以下,「甲2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「リシノレイン酸亜鉛」,「2-エチルヘキソイン酸亜鉛」は,いずれも,本件発明1における「有機酸亜鉛塩」に相当する。
甲2発明における「オレイン酸カルシウム」,「イソデカン酸カルシウム」,「安息香酸カルシウム」は,いずれも,本件発明1における「有機酸のアルカリ土類金属塩」に相当する。
本件発明1における「軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤」と,甲2発明における「塩素含有樹脂組成物」は,いずれも,組成物である限りにおいて共通する。
そうすると,本件発明1と甲2発明とは,いずれも,有機酸亜鉛塩と,有機酸のアルカリ土類金属塩とを含む組成物である点で共通するものの,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明1は,「軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤」であるのに対して,甲2発明は,「塩素含有樹脂組成物」である点。

(イ)相違点2の検討
本件発明1は,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤に関するものである。本件発明1に係る軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤は,その文言どおり,塩化ビニル樹脂に用いられる液状安定剤,すなわち,その液状安定剤が塩化ビニル樹脂に混合して用いられるものである(本件明細書の実施例1を参照。)。
一方,甲2発明は,塩素含有樹脂組成物に関するものである。甲2発明に係る塩素含有樹脂組成物は,本件発明1における「有機酸亜鉛塩」や「有機酸のアルカリ土類金属塩」に相当する,リシノレイン酸亜鉛,2-エチルヘキソイン酸亜鉛,オレイン酸カルシウム,イソデカン酸カルシウム,安息香酸カルシウムを含むものの,さらに,ポリ塩化ビニルを含むものである。甲2には,甲2発明に係る塩素含有樹脂組成物を混練してシートを作成したことが記載されているが(【0027】),甲2発明に係る塩素含有樹脂組成物をさらにポリ塩化ビニルに混合することは記載されていない。
そうすると,甲2発明に係る塩素含有樹脂組成物は,本件発明1のような,塩化ビニル樹脂に用いられる液状安定剤ということはできない。すなわち,本件発明1における「軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤」と,甲2発明における「塩素含有樹脂組成物」は,物として異なるものといえる。
以上のとおり,相違点2は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は,甲2発明に係る塩素含有樹脂組成物に含まれる成分のうち,オレイン酸カルシウム,イソデカン酸カルシウム,安息香酸カルシウム,リシノレイン酸亜鉛,2-エチルヘキソイン酸亜鉛,トリスノニルフエニルホスフアイト,合成ハイドロタルサイト,デヒドロ酢酸に着目し,甲2に,これらの成分が安定剤成分(a)?(d)として記載されているとして,甲2には,これらの成分を含む「塩素含有樹脂の安定剤」が記載されていると主張する。
確かに,甲2の記載(請求項1,【0015】,【0026】)によれば,甲2発明に係る塩素含有樹脂組成物に含まれる成分のうち,申立人が着目した成分は,いずれも,安定剤成分であることが理解できる。
しかしながら,甲2においては,安定剤成分は,それぞれ,塩素含有樹脂に添加し,含有させる成分にすぎないから(請求項1,【0015】,【0026】),甲2において,安定剤成分を含む「塩素含有樹脂の安定剤」という独立した剤を認識し,把握することができるとはいえない。実際,甲2には,安定剤成分を含む「塩素含有樹脂の安定剤」という独立した剤を製造したことについては,何ら記載されていない。
したがって,甲2には,申立人が主張するような,安定剤成分を含む「塩素含有樹脂の安定剤」が記載されているということはできない。
よって,申立人の主張は,採用することができない。
なお,申立人は,甲2に,申立人が主張する「塩素含有樹脂の安定剤」が記載されていることを前提として,甲2に基づく進歩性についても付言しているが,上記のとおり,甲2には,申立人が主張する「塩素含有樹脂の安定剤」が記載されているとはいえないから,申立人の主張は,その前提において失当である。

ウ 本件発明2?10について
本件発明2?10は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲2に記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2?10についても同様に,甲2に記載された発明であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1?10は,いずれも,甲2に記載された発明であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由3(新規性)は理由がない。
したがって,取消理由3(新規性)によっては,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由4(進歩性)
ア 甲3に記載された発明
甲3の記載(請求項1,【0003】,【0004】,【0010】,【0011】,【0014】,【0016】,表1,表2)によれば,特にCa-Zn系安定剤A(表1)に着目すると,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。

「以下の成分からなる,ポリ塩化ビニル系樹脂に混合して用いられる,液状のCa-Zn系安定剤。
2-エチル-ヘキシル酸カルシウム 1.5重量%
イソデカン酸カルシウム 2.0重量%
オレイン酸カルシウム 28.0重量%
2-エチル-ヘキシル酸亜鉛 1.5重量%
イソデカン酸亜鉛 2.0重量%
オレイン酸亜鉛 18.0重量%
安息香酸カルシウム 2.0重量%
低揮発性溶媒 45.0重量%」(以下,「甲3発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「2-エチル-ヘキシル酸亜鉛」,「イソデカン酸亜鉛」,「オレイン酸亜鉛」は,いずれも,本件発明1における「有機酸亜鉛塩」に相当する。
甲3発明における「2-エチル-ヘキシル酸カルシウム」,「イソデカン酸カルシウム」,「オレイン酸カルシウム」は,いずれも,本件発明1における「有機酸のアルカリ土類金属塩」に相当する。
甲3発明における「ポリ塩化ビニル系樹脂に混合して用いられる,液状のCa-Zn系安定剤」は,本件発明1における「軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲3発明とは,
「有機酸亜鉛塩と,有機酸のアルカリ土類金属塩と,を含む,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明1では,さらに,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含み,「該ポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸の含有量が,液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%である」のに対して,甲3発明では,「低揮発性溶媒」を含み,その含有量が「45.0重量%」である点。

(イ)相違点3の検討
a 甲3には,甲3発明に係るCa-Zn系安定剤にリシノール酸を含有させることについては,何ら記載されていない。
甲3には,Ca-Zn系安定剤に含まれる成分について,炭素数8?22の高級脂肪酸のカルシウム及び亜鉛塩として,リシノール酸塩が挙げられているものの(【0010】),リシノール酸ではない。
甲3には,可塑剤(【0008】,【0009】)及びCa-Zn系安定剤(【0010】,【0011】)の各成分のほかに,ポリ塩化ビニル系樹脂に必要に応じて添加することができる成分について,滑剤が記載されており,滑剤としては,炭素原子数8?22の高級脂肪酸が挙げられている(【0012】)。そして,実施例においても,ポリ塩化ビニル,可塑剤,Ca-Zn系安定剤に,その他の成分として,炭素原子数18の高級脂肪酸を含有させることが記載されている(【0014】)。
この点,申立人は,ポリ塩化ビニルの滑剤として,リシノール酸(炭素原子数18)が知られていると主張する。
しかしながら,そもそも,上記の高級脂肪酸は滑剤であって,Ca-Zn系安定剤とは明確に区別されている。また,甲3には,滑剤としての高級脂肪酸を,あらかじめCa-Zn系安定剤に含有させることについては,何ら記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。そうすると,申立人の主張を前提としても,甲3発明に係るCa-Zn系安定剤において,さらに,リシノール酸を含有させることが動機付けられるとはいえない。また,甲1,2及び4?11のいずれにも,このようなことを動機付ける記載は見当たらない。
b 甲3発明に係るCa-Zn系安定剤は,低揮発性溶媒を含むものである。甲3には,低揮発性溶媒として,ポリプロピレングリコールが挙げられているが(【0011】),数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールについては記載されていないから,甲3発明に係るCa-Zn系安定剤において,低揮発性溶媒として,数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールを含有させることが動機付けられるとはいえない。また,甲1,2及び4?11のいずれにも,このようなことを動機付ける記載は見当たらない。
c 上記(1)ア(イ)で述べたとおり,本件発明1は,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤において,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含むものとし,その含有量を「液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%」とすることによって,優れた耐ブロッキング性及び透明性を有する軟質塩化ビニル樹脂組成物を実現し得る液状安定剤を実現できるというものである。
一方,甲1?11のいずれにも,このような事項については何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
d 以上によれば,甲3発明において,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含むものとし,その含有量を,Ca-Zn系安定剤の全量に対して「3重量%?40重量%」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。そして,本件発明1は,上記のとおり,優れた耐ブロッキング性及び透明性を有する軟質塩化ビニル樹脂組成物を実現し得る液状安定剤を実現できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲3に記載された発明並びに甲10及び11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は,甲3の実施例No.1の組成物の記載(【0014】,表1,表2)などから,特に「Ca-Zn系安定剤A」と「その他の成分」とを抽出することによって,甲3には,甲3発明に係るCa-Zn系安定剤に含まれる各成分に加えて,さらに,「その他の成分」である,ソルビタン脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,炭素原子数18個の高級脂肪酸及びトリスノニルホスファイトを含む,ポリ塩化ビニル樹脂用の液状安定剤が記載されていると主張する。
しかしながら,上記(イ)で述べたとおり,甲3には,可塑剤及びCa-Zn系安定剤の各成分のほかに,ポリ塩化ビニル系樹脂に必要に応じて添加することができる成分について記載されているが(【0012】),上記の「その他の成分」は,このような必要に応じて添加することができる成分であって,Ca-Zn系安定剤とは明確に区別されている。また,甲3には,上記の「その他の成分」を,あらかじめCa-Zn系安定剤に含有させることについては,何ら記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。
そうすると,甲3には,甲3発明に係るCa-Zn系安定剤に含まれる各成分に加えて,さらに,上記の「その他の成分」を含む,ポリ塩化ビニル樹脂用の液状安定剤が記載されているということはできない。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

ウ 本件発明2?10について
本件発明2?10は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲3に記載された発明並びに甲10及び11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?10についても同様に,甲3に記載された発明並びに甲10及び11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1?10は,いずれも,甲3に記載された発明並びに甲10及び11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由4(進歩性)は理由がない。
したがって,取消理由4(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

(4)取消理由5(サポート要件)
ア 本件発明1?10について
本件明細書の記載(【0002】,【0004】)によれば,本件発明1の課題は,優れた耐ブロッキング性及び透明性を有する軟質塩化ビニル樹脂組成物を実現し得る液状安定剤を提供することであると認められる。
本件明細書の記載(【0006】,【0009】,【0013】,【0016】?【0019】)によれば,本件発明1の課題は,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤において,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含むものとし,その含有量を「液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%」とすることによって解決できるとされている。
そして,本件明細書には,本件発明1を具体的に実施した実施例及び比較例が記載されており(実施例1?16,比較例1?21,表1-1?1-3,表2-1?2-2),これらの実施例及び比較例によれば,実施例において,優れた耐ブロッキング性及び透明性を有する軟質塩化ビニル樹脂組成物を実現し得る液状安定剤を実現できることが示されているといえる。
そうすると,当業者であれば,上記実施例以外の場合であっても,軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤において,「数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸」を含むものとし,その含有量を「液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%」とする,との本件発明1の構成を備える軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤によれば,同実施例と同様に,優れた耐ブロッキング性及び透明性を有する軟質塩化ビニル樹脂組成物を実現し得る液状安定剤を実現できることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?10についても同様であり,本件発明2?10は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

イ 申立人の主張について
(ア)申立人は,本件明細書の【0017】の記載では,リシノール酸を亜鉛塩として用いることが除外されているにもかかわらず,本件発明1?10の「有機酸亜鉛塩」には,文言上,「リシノール酸亜鉛塩」が含まれているから,本件発明1?10は,本件明細書において除外された発明を含むため,サポート要件違反であると主張する。
申立人の主張は,本件明細書に,本件発明1?10における「有機酸亜鉛塩」として,リシノール酸亜鉛塩を用いることを除外することが記載されているとの認識を前提とするものと解される。
申立人が指摘する,本件明細書の【0017】には,確かに,「リシノール酸は,ポリプロピレングリコールと同様に耐ブロッキング剤として用いられる。リシノール酸を亜鉛塩またはアルカリ土類金属塩を構成する有機酸としてではなく耐ブロッキング剤として用いる」との記載がある。
しかしながら,この記載は,申立人の主張とは異なり,耐ブロッキング剤としてリシノール酸を用いる場合には,そのリシノール酸は,亜鉛塩やアルカリ土類金属塩の形ではなく,リシノール酸それ自体として用いることを説明するものにすぎず,本件発明1?10における「有機酸亜鉛塩」として,リシノール酸亜鉛塩を用いることを除外することを説明するものではない。
現に,本件明細書の【0009】,【0010】には,「有機酸亜鉛塩」を構成する有機酸として,リシノール酸が挙げられており,本件発明1?10における「有機酸亜鉛塩」として,リシノール酸亜鉛塩を用いることを除外していない。
以上によれば,本件明細書には,本件発明1?10における「有機酸亜鉛塩」として,リシノール酸亜鉛塩を用いることを除外することが記載されているとはいえないから,申立人の主張は,その前提において失当である。

(イ)申立人は,本件発明1には,リシノール酸亜鉛及びリシノール酸を添加した態様が包含されると解することも考えられるところ,一般に,有機酸塩のごとき弱酸の塩からは平衡反応により微量の有機酸が解離して生成するから,リシノール酸亜鉛のみを添加した態様(本件発明1の範囲外である。)であっても,系中には微量のリシノール酸が含まれるため,本件発明1には,本件明細書で除外された発明が含まれることになり,サポート要件違反であると主張する。
申立人の主張は,上記(ア)と同様の認識を前提とするものと解されるが,上記(ア)で述べたとおり,本件明細書には,本件発明1における「有機酸亜鉛塩」として,リシノール酸亜鉛塩を用いることを除外することが記載されているとはいえないから,申立人の主張は,その前提において失当である。

ウ まとめ
以上のとおりであるから,取消理由5(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸亜鉛塩と、有機酸のアルカリ土類金属塩と、数平均分子量が2000以上のポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸と、を含む、軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤であって、
該ポリプロピレングリコールおよび/またはリシノール酸の含有量が、液状安定剤全量に対して3重量%?40重量%である、
軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項2】
前記有機酸亜鉛塩を2種以上含む、請求項1に記載の軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項3】
前記有機酸のアルカリ土類金属塩を2種以上含む、請求項1または2に記載の軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項4】
前記有機酸が、オレイン酸、オクチル酸および安息香酸から選択される、請求項1から3のいずれかに記載の軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属が、カルシウムおよびバリウムから選択される、請求項1から4のいずれかに記載の軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤。
【請求項6】
塩化ビニル樹脂100重量部に対し、請求項1から5のいずれかに記載の液状安定剤を0.1重量部?5重量部および可塑剤を20重量部?100重量部含有する、軟質塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項7】
前記可塑剤が、アジピン酸アルキルエステル、エポキシ化大豆油およびフタル酸エステルから選択される、請求項6に記載の軟質塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の軟質塩化ビニル樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項9】
フィルムまたはシートである、請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
食品包装用である、請求項9に記載の成形体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-27 
出願番号 特願2016-56781(P2016-56781)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 長谷部 智寿
井上 猛
登録日 2017-07-28 
登録番号 特許第6179740号(P6179740)
権利者 堺化学工業株式会社
発明の名称 軟質塩化ビニル樹脂用液状安定剤、該安定剤を用いた軟質塩化ビニル樹脂組成物および該組成物から形成された成形体  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

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