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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  D04B
管理番号 1345865
異議申立番号 異議2017-700893  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-21 
確定日 2018-10-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6101635号発明「孔あき構造を有するニットウェア及び前記ニットウェアを作製する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6101635号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、〔11-15〕について訂正することを認める。 特許第6101635号の請求項1ないし8、10、11、13ないし15に係る特許を維持する。 特許第6101635号の請求項9、12に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6101635号(以下「本件特許」という。)の請求項1-15に係る特許についての出願は、平成24年1月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年1月28日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする特許出願であって、平成29年3月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年9月21日に特許異議申立人岡本昭二(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年2月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年5月9日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正自体を「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して異議申立人から平成30年7月25日付けで意見書が提出されたものである。

2.本件訂正の適否についての判断
(1)本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1?9からなるものである。それぞれの訂正事項について、訂正箇所に下線を付して示すと次のとおりである。

ア.訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として少なくとも部分的に設計されたニットウェア(7、7')を作製する方法であって、・・・」とあるのを、「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計されたニットウェア(7、7')を作製する方法であって、・・・」に訂正する。

イ.訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、「該孔あき構造の孔(10)及び/または該ノップ(9)のサイズ及び/または間隔に応じ、該ニットウェア(7、7')のガス、熱及び/または水蒸気の交換能力及び/または該ニットウェア(7、7')の弾性の異なる特性の組み合わせを行う・・・」とあるのを、「孔あき構造の孔(10)が、ニットウェア(7、7')の、異なる箇所に設けられた異なるサイズの孔である・・・」に訂正する。

ウ.訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除する。

エ.訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に、「・・・を特徴とする請求項1乃至9のうちの少なくとも1項に記載の方法。」とあるのを、「・・・を特徴とする請求項1乃至8のうちの少なくとも1項に記載の方法。」に訂正する。

オ.訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11に、「孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として少なくとも部分的に設計されたニットウェアに基づく機能性ニットウェア(3)であって、、・・・」とあるのを、「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計されたニットウェアに基づく機能性ニットウェア(3)であって、・・・」に訂正する。(以下「訂正事項5-1」という。)
また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11に、「・・・該ニットウェア(7、7')は、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチ(24針/2.54cm)の機械精細度を有するダブルジャージーニットウェア機を用いて編成することによって得られ、・・・」とあるのを、「・・・該ニットウェア(7、7')の孔あき構造は、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチ(24針/2.54cm)の機械精細度を有するダブルジャージーニットウェア機を用いて編成することによって形成され、・・・」に訂正する。(以下「訂正事項5-2」という。)
さらに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11に、「・・・該タックループ(14)は、編目(15)無しにあるいは少なくとも一つの編目(15)と共に、該目移し針(22)から該べら針(12)へと目移しされる・・・」とあるのを、「・・・該タックループ(14)が、編目(15)無しにあるいは少なくとも一つの編目(15)と共に、該目移し針(22)から該べら針(12)へと目移しされる、・・・」に訂正する。(以下「訂正事項5-3」という。)

カ.訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12を削除する。

キ.訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に、「・・・を特徴とする請求項11又は12に記載の機能性ニットウェア。」とあるのを、「・・・を特徴とする請求項11に記載の機能性ニットウェア。」に訂正する。

ク.訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項14に、「・・・を特徴とする請求項11乃至13のうちのいずれか1項に記載の機能性ニットウェア。」とあるのを、「・・・を特徴とする請求項11または13に記載の機能性ニットウェア。」に訂正する。

ケ.訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項15に、「・・・を特徴とする請求項11乃至14のうちのいずれか1項に記載の機能性ニットウェア。」とあるのを、「・・・を特徴とする請求項13または14に記載の機能性ニットウェア。」に訂正する。

(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項1-10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1-4による訂正は当該一群の請求項1-10に対してなされたものである。
本件訂正前の請求項11及び同請求項11を直接又は間接的に引用する請求項12-15は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項5-9による訂正は当該一群の請求項11-15に対してなされたものである。

(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1における「ニットウェア(7、7')」が、「孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として少なくとも部分的に設計された」ものであるということを、「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計された」ものであると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項1による訂正は、上記のように本件訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

さらに、本件特許明細書の段落【0005】の「さらに、ダブルジャージーニットウェアには、ダブルジャージー目移し丸編機上で編み込まれ、したがってランに強い穿孔を生じさせることができる。・・・このようなニットは、例えば、目移し機と呼ばれる機械上で丸編み編地として作製することができ、この機械では、円筒状の編目が、電子針選択によって選択され、リブダイヤルの針に目移しされる。編地の外側、すなわち円筒状の針側におけるこれらの目移し点では、孔状の開口が生じ、目穴編地という特徴的な外観を編地に与える。・・・これらの目移し編地の生産は、この機械技法が機械の精細度を限定することによって悪影響をもたらすこと、編地重量が大きいこと、及び編地生産能力が低いことのため、非常に制限されている。・・・」との記載からみて、本件発明は、従来技術のダブルジャージーニットウェアにおいて、孔あき構造を有する目移し編地を生産することが困難であるとの課題を解決するためになされたものと解される。
また、同明細書の段落【0012】の「・・・本発明によれば、少なくとも部分的に孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェアをダブルジャージー編機で作製することができる。・・・」との記載からみて、本件発明は、ダブルジャージー編機で作製されるものであり、シングルジャージーの部分が孔あき構造を有するものであると解される。
よって、本件特許明細書には、従来技術のダブルジャージーニットウェアにおいて、孔あき構造を有する目移し編地を生産することが困難であるとの課題を解決するために、一部分のみをシングルジャージーとして、シングルジャージーの部分が孔あき構造を有するものが記載されているといえる。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

なお、異議申立人は、平成30年7月25日付けで提出した意見書において、以下のような主張をしている。
「(1)訂正事項に対する意見
ア 訂正事項1
・・・審尋において、「孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として少なくとも部分的に設計されたニットウェア(7、7')」という記載は、ニットウェアにおいて、一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるものを包含する記載である、と理解されていますが、「一部分のみが孔あき構造を有するシングルジャージーであって、残りの部分が孔あき構造を有さないシングルジャージーである」と理解することもできますので、やはり記載不明瞭です。・・・」
しかし、同明細書の段落 【0005】の記載から、本件発明は、従来技術のダブルジャージーニットウェアが有している「これらの目移し編地の生産は、この機械技法が機械の精細度を限定することによって悪影響をもたらすこと、編地重量が大きいこと、及び編地生産能力が低いことのため、非常に制限されている。」との課題を解決しようとするもので、ニットウェアにおいて、一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーとして、シングルジャージーの部分が孔あき構造を有することによって、当該課題を解決しようとするものである。
よって、本件発明は、「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計されたニットウェア(7、7')」に関するものであると理解でき、かつそのように解して矛盾も生じない。

また、異議申立人は、同意見書において、以下のような主張もしている。
「(1)訂正事項に対する意見
ア 訂正事項1
・・・審査過程における拒絶理由通知に対する意見書の「6-3.本願発明の特徴について」(P.5)では、・・・とあり、本願発明は「シングルジャージーニットウェア」である旨の主張をしています。それが今になって、「本願発明はダブルジャージーニットウェアである」と主張するのは矛盾しており、禁反言の法理に反します。・・・」
しかし、特許権者が平成28年7月8日付けで提出した意見書のうち、異議申立人が指摘した箇所は、ニットウェアのうち孔あき構造を有するシングルジャージーとして形成されている部分に関する特許権者の主張であるから、本件発明が「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェア」に関するものであるということと矛盾するものではない。

イ.訂正事項2
訂正事項2は、「該孔あき構造の孔(10)及び/または該ノップ(9)のサイズ及び/または間隔に応じ、該ニットウェア(7、7')のガス、熱及び/または水蒸気の交換能力及び/または該ニットウェア(7、7')の弾性の異なる特性の組み合わせを行う」ということを、「孔あき構造の孔(10)」の「サイズ」に関する事項のみに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項2による訂正は、上記のように本件訂正前の請求項8の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

さらに、本件特許明細書の段落【0012】の「・・・孔あき構造は、ニットウェアにおいて対応的に適切な箇所に設けることができ、例えば、ニットウェアのその後の着用者が特に発汗しやすいニットウェアの領域に比較的大きな孔を形成し、一方、ニットウェアのその後の着用者の熱保護が必要な他の領域に細密な構造を形成することができる。この場合、ニットウェアに形成された孔あき構造は、ニットウェアの異なる領域において、異なるサイズ及び構造で形成することができる。」との記載や、同明細書の段落【0043】の「・・・図の機能性織物3は、異なる箇所に異なるのサイズの孔10を有している。・・・」との記載からみて、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ.訂正事項3
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項9を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当するものでもない。

エ.訂正事項4
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項10が請求項1乃至9のうちの少なくとも1項を引用するものであったところ、削除された請求項9を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当するものでもない。

オ.訂正事項5
(ア)訂正事項5-1
訂正事項5-1は、訂正前の請求項11における「ニットウェア(7、7')」が、「孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として少なくとも部分的に設計された」ものであるということを、「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計された」ものであると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項5-1による訂正は、上記のように本件訂正前の請求項11の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

さらに、本件特許明細書の段落【0013】の「ニットウェアは、本発明による方法で作製されるため、その縦横両方向において、高い弾性で利用可能にすることができる。・・・」との記載、同明細書の段落 【0031】の「図1は、本発明による方法の実施に使用できる丸編機の細部を図式的に示す斜視図である。図示の丸編機は、回転するリブダイヤルの形態で第1の持針器1を有し、かつ、回転するシリンダーの形態で第2の持針器2を有するダブルジャージー編機である。・・・」との記載からみて、訂正事項5-1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(イ)訂正事項5-2
訂正事項5-2は、訂正前の請求項11における「該ニットウェア(7、7')は、・・・によって得られ」るという事項を、「該ニットウェア(7、7')の孔あき構造は、・・・によって形成され」るという事項に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項5-2による訂正は、上記のように本件訂正前の請求項11の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

さらに、本件特許明細書の段落【0022】の「・・・該ニットウェアは、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチの機械精細度を有するダブルジャージーニットウェア機を用いて編成することによって得られ、・・・該孔あき構造は、該目移し針により生じ、かつ、孔当り少なくとも一つのタックループ、好ましくは少なくとも二つのタックループを有するループ集積から形成され、・・・」との記載などからみて、訂正事項5-2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(ウ)訂正事項5-3
訂正事項5-3は、訂正前の請求項11における「該タックループ(14)は、・・・目移しされる」という表現を、「該タックループ(14)が、・・・目移しされる」という表現に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とし、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当するものでもない。

カ.訂正事項6
訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項12を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当するものでもない。

キ.訂正事項7
訂正事項7による訂正は、訂正前の請求項13が請求項11又は12を引用するものであったところ、削除された請求項12を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当するものでもない。

ク.訂正事項8
訂正事項8による訂正は、訂正前の請求項14が請求項11乃至13のうちのいずれか1項を引用するものであったところ、削除された請求項12を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当するものでもない。

ケ.訂正事項9
訂正事項9による訂正は、訂正前の請求項15が請求項11乃至14のうちのいずれか1項を引用するものであったところ、請求項11及び削除された請求項12を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当するものでもない。

(4)小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕、〔11-15〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求が認められたことにより、本件特許の請求項1-15に係る発明(以下「本件発明1-15」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計されたニットウェア(7、7')を作製する方法であって、
該ニットウェア(7、7')は、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチ(24針/2.54cm)の機械精細度を有するダブルジャージー編機上で作製され、該第1の持針器(1)は、該第2の持針器(2)に対向して配置され、該第1の持針器(1)は、該機械精細度に対応するべら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)を有し、かつ、該第2の持針器(2)は、目移し針(22)を有し、該目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)の2分の1又はそれ以下であり、かつ、孔当り少なくとも一つのタックループ(14)を有するループ集積が、該目移し針(22)によって形成され、かつ、該タックループ(14)は、次いで編目(15)無しにあるいは少なくとも一つの編目(15)と共に該目移し針(22)から該べら針(12)に目移しされる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
目移し針(22)は、≧18針/インチ(18針/2.54cm)の持針器精細度に対応する目移し針であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用される該ダブルジャージー編機は、ダブルジャージー丸編機であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該べら針(12)は、該ダブルジャージー丸編機のリブダイヤル上に設けられており、かつ、該目移し針(22)は、該ダブルジャージー丸編機のシリンダー上に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
使用されるシリンダー針は、機械式又は電子選択装置によって選択される目移し針(22)であることを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
ニットウェアの面から突出するノップ(9)が、ループ集積を用いて形成されることを特徴とする請求項1乃至5のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも一本の別の緯糸が該ニットウェア(7、7')に組み込まれることを特徴とする請求項1乃至6のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項8】
孔あき構造の孔(10)がニットウェア(7、7')の、異なる箇所に設けられた異なるサイズの孔であることを特徴とする請求項1乃至7のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
該目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)が、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)の1/3乃至1/4であることを特徴とする請求項1乃至8のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項11】
一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計されたニットウェアに基づく機能性ニットウェア(3)であって、
該ニットウェア(7、7')の孔あき構造は、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチ(24針/2.54cm)の機械精細度を有するダブルジャージーニットウェア機を用いて編成することによって形成され、該第1の持針器(1)は、該第2の持針器(2)に対向して配置され、該第1の持針器(1)は、該機械精細度に対応するべら針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)を有しており、かつ、該第2の持針器(2)は、目移し針(22)を有し、該目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチの2分の1又はそれ以下であり、かつ、該孔あき構造は、該目移し針(22)により生じ、かつ、孔(10)当り少なくとも一つのタックループ(14)を有するループ集積から形成され、該タックループ(14)が、編目(15)無しにあるいは少なくとも一つの編目(15)と共に、該目移し針(22)から該べら針(12)へと目移しされる、
ことを特徴とする機能性ニットウェア。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
該孔あき構造は、該機能性ニットウェア(3)の少なくとも一方の編地側に設けられ、かつ、該ループ集積を用いて形成され、かつ、該ニットウェア(7、7')の面から突出しているノップ(19)が該機能性ニットウェア(3)の他方の編地側に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の機能性ニットウェア。
【請求項14】
該ニットウェア(7、7')に少なくとも一つの別の緯糸が組み込まれていることを特徴とする請求項11または13に記載の機能性ニットウェア。
【請求項15】
該孔あき構造の該孔(10)及び/または該ノップ(9)のサイズ及び/または間隔に応じ、該機能性ニットウェア(3)のガス、熱及び/または水蒸気の交換能力及び/または該機能性ニットウェア(3)の弾性の異なる特性の組み合わせを行うことを特徴とする請求項13または14に記載の機能性ニットウェア。」

(2)取消理由の概要
当審において、本件訂正前の請求項1-15に係る発明の特許に対して、平成30年2月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、異議申立人が申立てた全ての理由が通知された。

理由1.本件特許の下記の請求項に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



ア.理由1について
以下の刊行物1-8は、本件特許異議申立書に添付された甲第1-7号証及び平成30年7月25日付け意見書に添付された甲第8号証(以下「甲1-8」という。)である。
1.特開2000-336561号公報
2.特開2006-169648号公報
3.特開平7-145540号公報
4.特開2010-65332号公報
5.特開平9-209250号公報
6.米国特許第2024326号明細書
7.JIS L 0211:2006(繊維用語 ニット部門)
8.米国特許第806926号明細書

本件発明1-8、10-15は、甲1記載の発明、甲2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.理由2について
(ア)請求項2の「目移し針(22)は、≧18針/インチ(18針/2.54cm)の持針器精細度に対応する目移し針である」という記載は、請求項1の、目移し針は≧12針/インチである旨の記載と矛盾している。
(イ)請求項8の記載は、孔やノップのサイズによる結果の記載であってニットウェアを作製する方法ではないから、発明が明確でない。
(ウ)請求項9に記載された「二つのシステム」が、明細書に何ら具体的に記載されておらず、どのようなものかが明確でない。
(エ)請求項11に係る発明は物の発明であるが、製造方法による発明特定事項を含むものであるから、発明が明確でない。また、「不可能・非実際的事情」も存在しない。
(オ)請求項12の記載は、孔あき構造を設けた効果の記載であってニットウェアの発明ではないから、発明が明確でない。
(カ)請求項11または12を引用する請求項15に係る発明の「該ノップ(9)」は、請求項11または12に「ノップ」の記載がなく、何を指しているのか不明で、発明が明確でない。

(3)当審の判断
ア.理由1について
(ア)刊行物について
a.甲1について
甲1には、図面と共に以下の記載がある。
(a)「【0003】従来の目移し機構を有するダブルニット編機においては、・・・」

(b)「【0013】図1は、本発明で使用する丸編機のニードルダイヤル1とニードルシリンダー2の一部を2点鎖線で示した斜視図である。同図に示すニードルダイヤル1の針溝は14ゲージであり、目移し針3が挿入されている。他方、シリンダー2の針溝は倍密度の28ゲージの針溝で構成され、通常の、目移し機構のない針4が挿入されている。何れも作図の関係でインサートピースは表示していない。」

(c)「【0016】図2のA区域は目移しの準備部であり、予めシリンダ針をタック位置まで上昇させラッチを開く。B区域は目移し部であり、ダイヤルのループをシリンダーに移す。C区域はダイヤルのラッチオープナー5を設けた区域であり、目移しした後のラッチを開く。D区域は編地の編成部であり、シリンダーのラッチオープナー6を併設している。」

(d)「【0028】・・・図13は、ガーメントの組織図例6である。ガーメント組織の見ごろに応用できる目移し組織の例である。」


(e)「【図1】



(f)「【図13】



記載(b)において、14ゲージ及び28ゲージは、それぞれ、14針/インチ及び28針/インチに相当する。
また、記載(a)及び(e)から、甲1発明はダブルニット編機上でニットウェアを作製する方法に関するものであるといえる。
そして、記載(d)及び(f)から、甲1発明により作製されるニットウェアは、【図13】に示される「目移しメッシュ」のような身ごろ組織を取り得るが、当該身ごろ組織には孔あき構造が存在することは明らかである。

したがって、甲1には以下の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「孔あき構造を有するダブルジャージーニットウェアとして設計されたニットウェアを作製する方法であって、
該ニットウェアは、ニードルシリンダー2及びニードルダイヤル1を有し、かつ、≧24針/インチの機械精細度を有するダブルニット編機上で作製され、ニードルシリンダー2は、ニードルダイヤル1に対向して配置され、ニードルシリンダー2は、該機械精細度に対応する目移し機構のない針4の針数/インチを有し、かつ、ニードルダイヤル1は、目移し針3を有し、目移し針3の針数/インチは、ニードルシリンダー2の目移し機構のない針4の針数/インチの2分の1又はそれ以下である、
ことを特徴とする方法。」

また、甲1には以下の発明も記載されている(以下「甲1’発明」という。)。
「孔あき構造を有するダブルジャージーニットウェアとして設計されたニットウェアであって、
該ニットウェアの孔あき構造は、ニードルシリンダー2及びニードルダイヤル1を有し、かつ、≧24針/インチの機械精細度を有するダブルニット編機を用いて編成することによって形成され、ニードルシリンダー2は、ニードルダイヤル1に対向して配置され、ニードルシリンダー2は、該機械精細度に対応する目移し機構のない針4の針数/インチを有しており、かつ、ニードルダイヤル1は、目移し針3を有し、目移し針3の針数/インチは、ニードルシリンダー2の目移し機構のない針4の針数/インチの2分の1又はそれ以下である、
ことを特徴とするニットウェア。」

b.甲2について
甲2には、図面と共に以下の記載がある(以下「甲2事項」という。)。
(a)「【0002】
従来、衣類(特にインナー)の通気性を良くするため、複数の孔が設けられたメッシュ部を発汗部位と対応する領域に備えた衣類が提供されている。」

(b)「【0008】
・・・具体的には、シャッツの脇下、バストとウエストの間、背中の中央部分等に通気性を有するメッシュ状ジャガード柄部を設けている女性用、男性用のトップ側下着を丸編機で編成した編地から形成している。・・・」

c.甲3について
甲3には、図面と共に以下の記載がある(以下「甲3事項」という。)。
「【0011】本発明の目移し組織の製造には、シリンダからダイヤルへ目移しが可能なダブル丸編機が使用される。このような編機としては、例えばスイスのDUBIED社製、TRANSNITが挙げられる。この編機によればコンピュータ制御により、任意な柄や目移しが簡単に行うことができる。また編機のゲージは12?20ゲージが適切であり、・・・」

d.甲4について
甲4には、図面と共に以下の記載がある(以下「甲4事項」という。)。
「【0016】・・・つまさき部分6が大きな孔あき柄部分9で覆われていることから、先の提案のもののように通気性が損なわれることがない。・・・」

e.甲5について
甲5には、図面と共に以下の記載がある(以下「甲5事項」という。)。
「【0003】・・・表面に凹凸を出したりして柄出しするタック柄等がある。」

f.甲6について
甲6には、図面と共に以下の記載がある(以下「甲6事項」という。)。
「・・・a transfer stitch with a tuck stitch in the same wale so as to make larger openings such as indicated at 43,・・・」(明細書第2ページ左欄第21行-23行)
(当審和訳
・・・43で示されるより大きな孔あき部を形成するように、同一ウエールでタックステッチを有するトランスファーステッチ・・・)

g.甲7について
甲7には、以下の記載がある(以下「甲7事項」という。)。
「236 ノップ編・・・同一針で複数回連続したタック編によって隆起させたよこ編の組織。」(第4ページ番号236)

h.甲8について
甲8には、図面と共に以下の記載がある(以下「甲8事項」という。)。
(a)「To improve the firmness or body of the fabric, as well as the appearance of the same, I form in the knitting operation immediately below each aperture left by a transferred stitch a tuck-stitch or double stitch, whereby the thread in the course immediately beneath said aperture is paralleled and reinforced by the thread of the second cource below said aperture, and the thread of said first course below said aperture is stretched and drawn out of a straight line by the intermeshing therewith of a loop in the thread of the third course below said aperture.
Refferring more particularly to the drawing, 4 represents the thread in the next course below the transferred stitch, which if not formed into a tuck-stitch would extend, as indicated by the dotted lines 5, in a substantially straight line across the lower end of said aperture left by the transferred stitch, thereby greatly diminishing the size of said aperture. As shown by solid lines, however, said thread forms a loop 6, extending parallel with a loop 7 in the thread 8 of the next following course and is intermeshed with loop 9 of the thread 10 of the second following course, which loop 9 in the operation of ordinary knitting would interlock with the loop 7 of the thread in the course 8. The pull exerted by the loop 9 upon the loop 6, due to the elasticity of the fabric, draws the loop 6 downwardly to enlarge and make more symmetrical the apperture 3, while the extending of the loops 6 and 7 parallel with each other serves to reinforce and give body to the fabric at a point immediately below said apperture, rendering the apperture less liable to be distored and drawn out of shape by a stretching of the fabric.」(明細書第2欄第61行?99行)
(当審和訳
編物の堅さやコシを向上させ、見栄えを良くするため、目移しされたステッチにより作られた各開口の直下にタックステッチ又はダブルステッチを設ける。これにより、前記開口の直下にあるコース中の糸は、前記開口の下の第2コースの糸と平行になり、補強される。そして、前記開口の下にある第1コースの糸は、引っ張られ、前記開口の下にある第3コースの糸中のループと交錯することにより、直線から外れる。
図面に基づきより詳しく説明すると、4は目移しされたステッチの下にある糸であり、これはもしタックステッチを形成しなければ、点線5で示すように、目移しされたステッチにより残された前記開口の下端を横切ってほぼ水平に延び、これにより前記開口の大きさを減じたであろう。しかし、実線で示すように、前記糸はループ6を形成し、次のコースの糸8のループ7と平行に伸び、そして次のコースの糸10の、通常の編成過程ではコース8の糸のループ7と交錯するループ9と交錯する。ループ9によりループ6上に行使される引力は、編み物の弾力性により、ループ6を引き下げ、より大きく、より左右対象的な開口3とする一方、ループ6、7が互いに平行に伸びることにより、前記開口の下の一点において編物を補強してコシを与え、このことにより、編み物が引き延ばされても、開口が捩れず、形を崩しにくくする。)

(b)図面「




(イ)本件発明1についての判断
a.本件発明1は、上記3.(1)において示したとおりのものである。

b.本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
甲1発明の「ダブルニット編機」「ニードルシリンダー2」「ニードルダイヤル1」「目移し機構のない針4」「目移し針3」は、それぞれ、本件発明1の「ダブルジャージー編機」「第1の持針器」「第2の持針器」「べら針(12)」「目移し針(22)」に相当する。

よって、本件発明1と甲1発明は、以下の構成において一致する。
「孔あき構造を有するニットウェアを作製する方法であって、
該ニットウェアは、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチの機械精細度を有するダブルジャージー編機上で作製され、該第1の持針器(1)は、該第2の持針器(2)に対向して配置され、該第1の持針器(1)は、該機械精細度に対応するべら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)を有し、かつ、該第2の持針器(2)は、目移し針(22)を有し、該目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)の2分の1又はそれ以下である、
ことを特徴とする方法。」

そして、本件発明1と甲1発明は、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1は「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計されたニットウェア(7、7')を作製する方法」であるのに対して、甲1発明は「孔あき構造を有するダブルジャージーニットウェアとして設計されたニットウェアを作製する方法」である点(以下「相違点1」という。)。

c.相違点1について検討する。
甲1-7には、「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェアとして設計されたニットウェア」は記載も示唆もされておらず、甲1発明をこのように設計変更することの動機付けは見当たらない。
そして、本件発明1は、相違点1に係る事項により、「一方では非常に細密な編目を有すると共に、他方では比較的大きな孔を有する孔あき構造を有するニットウェアを作製可能にする編成方法を利用可能にし、したがってこのニットウェアによって、例えば、スポーツ用品又は洗濯業の分野における織物の要件を満たす」(本件明細書の段落【0005】を参照。)という顕著な効果をもたらすものである。

したがって、本件発明1は甲1発明及び甲2-7事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。

なお、異議申立人は、平成30年7月25日付け意見書において、シングルジャージーの孔あき構造の一例が記載された文献として、米国特許第806926号明細書を甲8に提示している。
しかし、「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェアとして設計されたニットウェア」は甲8にも記載も示唆もされていないから、上記判断に影響を与えるものではない。

(ウ)本件発明2-8、10について
本件訂正後の請求項2-8、10は、直接または間接的に請求項1の記載を引用し、発明特定事項を追加するものである。
そして、上記(イ)で述べたとおり、本件発明1は甲1発明及び甲2-7事項に基いて容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2-8、10もまた、甲1発明及び甲2-7事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明11について
a.本件発明11は、上記3.(1)において示したとおりのものである。

b.本件発明11と甲1’発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
甲1’発明の「ダブルニット編機」「ニードルシリンダー2」「ニードルダイヤル1」「目移し機構のない針4」「目移し針3」は、それぞれ、本件発明11の「ダブルジャージー編機」「第1の持針器」「第2の持針器」「べら針(12)」「目移し針(22)」に相当する。

よって、本件発明11と甲1’発明は、以下の構成において一致する。
「孔あき構造を有するニットウェアであって、
該ニットウェアの孔あき構造は、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチの機械精細度を有するダブルジャージー編機を用いて編成することによって形成され、該第1の持針器(1)は、該第2の持針器(2)に対向して配置され、該第1の持針器(1)は、該機械精細度に対応するべら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)を有し、かつ、該第2の持針器(2)は、目移し針(22)を有し、該目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)の2分の1又はそれ以下である、
ことを特徴とするニットウェア。」

そして、本件発明11と甲1’発明は、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明11は「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計されたニットウェアに基づく機能性ニットウェア(3)」であるのに対して、甲1’発明は「孔あき構造を有するダブルジャージーニットウェアとして設計されたニットウェア」である点(以下「相違点2」という。)。

c.相違点2について検討する。
甲1-7には、「一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7')として設計されたニットウェアに基づく機能性ニットウェア(3)」は記載も示唆もされておらず、甲1発明をこのように設計変更することの動機付けは見当たらない。
そして、本件発明11は、相違点2に係る事項により、「一方では非常に細密な編目を有すると共に、他方では比較的大きな孔を有する孔あき構造を有するニットウェアを作製可能にする編成方法を利用可能にし、したがってこのニットウェアによって、例えば、スポーツ用品又は洗濯業の分野における織物の要件を満たす」(本件明細書の段落【0005】を参照。)という顕著な効果をもたらすものである。

したがって、本件発明11は甲1発明及び甲2-7事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(オ)本件発明13-15について
本件訂正後の請求項13-15は、直接または間接的に請求項11の記載を引用し、発明特定事項を追加するものである。
そして、上記(エ)で述べたとおり、本件発明11は甲1発明及び甲2-7事項に基いて容易に発明をすることができたものではないから、本件発明13-15もまた、甲1発明及び甲2-7事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(カ)小括
以上のとおり、本件発明1-8、10、11、13-15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

イ.理由2について
(ア)請求項2が引用する請求項1には、「ダブルジャージー編機」が「≧24針/インチ(24針/2.54cm)の機械精細度」を有すること、及び、「第1の持針器(1)」が「該機械精細度に対応するべら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)」を有することが記載されている。よって、べら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、≧24針/インチ(24針/2.54cm)であると解される。
そして、請求項1には、「目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)の2分の1又はそれ以下」と記載されている。当該記載と先の記載とを合わせると、目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、「≧12針/インチ(12針/2.54cm)又はそれ以下」であると解される。
そして、請求項2には「目移し針(22)は、≧18針/インチ(18針/2.54cm)の持針器精細度に対応する目移し針である」という記載があるが、これは先の、目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)が「≧12針/インチ(12針/2.54cm)又はそれ以下」であるという事実とは矛盾しない。

(イ)上記3.(1)において示したとおり、請求項8の記載は訂正事項2により訂正され、理由2(イ)によって指摘した記載は存在しないものとなった。

(ウ)上記3.(1)において示したとおり、請求項9は本件訂正により削除された。
したがって、理由2(ウ)については、対象となる請求項及び当該請求項を引用する請求項が存在しないものとなった。

(エ)本件発明11は「機能性ニットウェア」という物の発明であるが、請求項11にはその物の製造方法が記載されていると解される。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最判平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、同2658号)。
この点、特許権者からは、平成30年5月9日付けで提出された意見書において、不可能・非実際的事情についての意見書等による主張・立証がなされた。
それによると、本件発明11にニットウェアの生地パターンは、例えば、ループ集積を形成するタックループの数や、タックループが目移し針からべら針へ目移しされる際の網目の数などの設定によって、無数のパターンが存在する。そのため、本件発明11を、作製された後のごく一例の生地パターンを有する機能性ニットウェアであると限定することは、不可能であるか、又はおよそ実際的でない。
よって、請求項11は明確である。

(オ)上記3.(1)において示したとおり、請求項12は本件訂正により削除された。
したがって、理由2(オ)については、対象となる請求項及び当該請求項を引用する請求項が存在しないものとなった。

(カ)上記3.(1)において示したとおり、請求項15は本件訂正により請求項11及び12を引用しないとするものとなった。
したがって、請求項15は明確なものとなった。

(キ)小括
以上のとおり、本件発明1-8、10、11、13-15に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてなされたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1-8、10、11、13-15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1-8、10、11、13-15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項9及び12が削除されたことにより、本件発明9及び12に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。よって、本件発明9及び12に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7’)として設計されたニットウェア(7、7’)を作製する方法であって、
該ニットウェア(7、7’)は、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチ(24針/2.54cm)の機械精細度を有するダブルジャージー編機上で作製され、該第1の持針器(1)は、該第2の持針器(2)に対向して配置され、該第1の持針器(1)は、該機械精細度に対応するべら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)を有し、かつ、該第2の持針器(2)は、目移し針(22)を有し、該目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)の2分の1又はそれ以下であり、かつ、孔当り少なくとも一つのタックループ(14)を有するループ集積が、該目移し針(22)によって形成され、かつ、該タックループ(14)は、次いで編目(15)無しにあるいは少なくとも一つの編目(15)と共に該目移し針(22)から該べら針(12)に目移しされる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
目移し針(22)は、≧18針/インチ(18針/2.54cm)の持針器精細度に対応する目移し針であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用される該ダブルジャージー編機は、ダブルジャージー丸編機であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該べら針(12)は、該ダブルジャージー丸編機のリブダイヤル上に設けられており、かつ、該目移し針(22)は、該ダブルジャージー丸編機のシリンダー上に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
使用されるシリンダー針は、機械式又は電子選択装置によって選択される目移し針(22)であることを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
ニットウェアの面から突出するノップ(9)が、ループ集積を用いて形成されることを特徴とする請求項1乃至5のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも一本の別の緯糸が該ニットウェア(7、7’)に組み込まれることを特徴とする請求項1乃至6のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項8】
孔あき構造の孔(10)が、ニットウェア(7、7’)の、異なる箇所に設けられた異なるサイズの孔であることを特徴とする請求項1乃至7のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
該目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)が、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチ(針数/2.54cm)の1/3乃至1/4であることを特徴とする請求項1乃至8のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項11】
一部分のみがシングルジャージーであって、残りの部分がダブルジャージーであるニットウェアであって、シングルジャージーの部分が、孔あき構造を有するシングルジャージーニットウェア(7、7’)として設計されたニットウェアに基づく機能性ニットウェア(3)であって、
該ニットウェア(7、7’)の孔あき構造は、第1の持針器及び第2の持針器を有し、かつ、≧24針/インチ(24針/2.54cm)の機械精細度を有するダブルジャージーニットウェア機を用いて編成することによって形成され、該第1の持針器(1)は、該第2の持針器(2)に対向して配置され、該第1の持針器(1)は、該機械精細度に対応するべら針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)を有しており、かつ、該第2の持針器(2)は、目移し針(22)を有し、該目移し針(22)の針数/インチ(針数/2.54cm)は、該第1の持針器(1)の該べら針(12)の針数/インチの2分の1又はそれ以下であり、かつ、該孔あき構造は、該目移し針(22)により生じ、かつ、孔(10)当り少なくとも一つのタックループ(14)を有するループ集積から形成され、該タックループ(14)が、編目(15)無しにあるいは少なくとも一つの編目(15)と共に、該目移し針(22)から該べら針(12)へと目移しされる、
ことを特徴とする機能性ニットウェア。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
該孔あき構造は、該機能性ニットウェア(3)の少なくとも一方の編地側に設けられ、かつ、該ループ集積を用いて形成され、かつ、該ニットウェア(7、7’)の面から突出しているノップ(19)が該機能性ニットウェア(3)の他方の編地側に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の機能性ニットウェア。
【請求項14】
該ニットウェア(7、7’)に少なくとも一つの別の緯糸が組み込まれていることを特徴とする請求項11または13に記載の機能性ニットウェア。
【請求項15】
該孔あき構造の該孔(10)及び/または該ノップ(9)のサイズ及び/または間隔に応じ、該機能性ニットウェア(3)のガス、熱及び/または水蒸気の交換能力及び/または該機能性ニットウェア(3)の弾性の異なる特性の組み合わせを行うことを特徴とする請求項13または14に記載の機能性ニットウェア。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-28 
出願番号 特願2013-550976(P2013-550976)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D04B)
P 1 651・ 537- YAA (D04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 門前 浩一
竹下 晋司
登録日 2017-03-03 
登録番号 特許第6101635号(P6101635)
権利者 トロット ゲーエムベーハー
発明の名称 孔あき構造を有するニットウェア及び前記ニットウェアを作製する方法  
代理人 木村 高久  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 永島 秀郎  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 永島 秀郎  

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