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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G01F |
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管理番号 | 1345880 |
異議申立番号 | 異議2018-700110 |
総通号数 | 228 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-02-13 |
確定日 | 2018-10-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6180759号発明「流量計測装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6180759号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6180759号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし請求項5に係る発明は、平成24年9月7日(以下、「優先日」という。)にされた特許出願(特願2012-197220)に基づく特許法第41条第1項の規定による優先権を主張して平成25年3月7日にされた特許出願(特願2013-45299)に係るものである。そして、平成29年7月28日にその特許権の設定登録がされ、同年8月16日にその特許掲載公報が発行された。 これに対して、特許異議申立人小倉啓七は、平成30年2月13日に本件特許の全ての請求項について特許異議の申立てをした。 当合議体は、同年5月11日付けで本件特許の全ての請求項について取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。 第2 本件特許の特許請求の範囲 本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。 「【請求項1】 流体が流れる流路と、前記流路内を仕切る互いに積層された複数の整流板と、互いの間に前記複数の整流板を位置付けた状態で対向するように配置され、前記流路に流れる流体の流速を検出するための一対の超音波振動子と、を備えた流量計測装置において、 前記複数の整流板は、前記流路内を奇数の層に仕切るように設けられ、 前記超音波振動子は、その中心が前記整流板で仕切られた中央の層に対向すると共に、前記整流板で仕切られた複数層に対向する大きさに設けられる(ただし、前記超音波振動子が、全ての層に対向する大きさのものは除く。) ことを特徴とする流量計測装置。 【請求項2】 前記複数の整流板は、前記流路内を7つの層に仕切るように設けられている ことを特徴とする請求項1に記載の流量計測装置。 【請求項3】 前記複数の整流板は、層間隔が2.0mm?2.4mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の流量計測装置。 【請求項4】 前記流路は、流路幅aと層間隔cとのアスペクト比が15?20であることを特徴とする請求項1?3何れか1項に記載の流量計測装置。 【請求項5】 前記一対の超音波振動子の対向方向と流れ方向との成す角度が40度?50度に設けられている ことを特徴とする請求項1?4何れか1項に記載の流量計測装置。」 第3 当合議体が通知した取消理由 本件特許の請求項1ないし請求項5に係る発明は、下記に示すとおり、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その発明についての特許は、取り消すべきである。 記 1 本件特許に係る発明 本件特許の請求項1ないし請求項5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものである。 2 引用文献の一覧 引用文献1は、引用文献4に先行技術文献(特許文献2)として記載された文献であり、引用文献2ないし引用文献7は、特許異議申立人が書証として提出した文献である。なお、括弧内は、書証番号を表す。 引用文献1:特開2005-106726号公報 引用文献2:特開2007-240504号公報(甲7) 引用文献3:特開2005-31034号公報(甲9) 引用文献4:特開2007-263874号公報(甲4) 引用文献5:特開2008-76168号公報(甲5) 引用文献6:特開2004-138628号公報(甲10) 引用文献7:特開2010-112738号公報(甲11) 3 引用文献に記載された発明等 (1)引用文献1 引用文献1の記載によれば、以下のことが認められる。 ア 引用文献1には、超音波流量計測手段でガスの速度を計測し、計測したガスの速度と計測流路の断面積とに基づいてガスの流量(体積)を計測する超音波式ガスメータが記載されている(【0001】、【0002】)。 イ ガスメータ1は、計測流路50を備える(【0016】、図1、図2)。 ウ 計測流路50は、外側の本体ケース51と、本体ケース51内に収容され、断面が矩形の測定管52とから構成される(【0020】、【0022】、図2、図5)。 エ 本体ケース51には、ガスの流量を検出するための一対の超音波送受信センサが、ガスの流れる方向に対して所定の角度θをもって対向するように設けられる(【0018】、【0020】、図2ないし図4)。 オ 測定管52の内部には、ガスの流れる方向に平行で、超音波送受信センサから送信する超音波の方向にも平行な整流板53が設けられる(【0020】、【0022】、図2、図5)。 カ ガスメータ1では、整流板53を3枚用いたが、計測する流体の種類等に応じて適切な数の整流板を用いるようにしてもよいとされているから(【0033】)、整流板53は、一般に複数であると認められる。 キ 以上のことをまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「超音波流量計測手段でガスの速度を計測し、計測したガスの速度と計測流路の断面積とに基づいてガスの流量(体積)を計測する超音波式ガスメータ1であって、 計測流路50を備え、 計測流路50は、外側の本体ケース51と、本体ケース51内に収容され、断面が矩形の測定管52とから構成され、 本体ケース51には、ガスの流量を検出するための一対の超音波送受信センサが、ガスの流れる方向に対して所定の角度θをもって対向するように設けられ、 測定管52の内部には、ガスの流れる方向に平行で、超音波送受信センサから送信する超音波の方向にも平行な複数の整流板53が設けられる 超音波式ガスメータ1。」 (2)引用文献2 ア 引用文献2には、ガスの流れを均一に整える2枚の整流板14が設けられた計測部1と、一対の超音波送受信器とを備え、超音波を利用して計測部1内に流れるガスの流量を計測するガスメータが記載されている(【0014】ないし【0017】、図1、図2)。そして、計測部42のガスの流路を偶数層で構成すると、超音波送受信器44の中心の上下の層におけるガスの流速が変化しやすく、また、超音波送受信器44の中心が整流板43と対向するので、超音波送受信器44からの超音波の直進成分の伝搬が整流板43によって妨げられるのに対し(【0026】、【0028】、図5)、計測部32のガスの流路を奇数層で構成すると、超音波送受信器34の中心におけるガスの流量が変化しにくく、また、超音波送受信器34の中心が整流板33と対向しないので、超音波送受信器34からの超音波の直進成分の伝搬が整流板33によって妨げられず、その結果、ガスメータの流量特性が良好な直線性を有するものになるとともに、ガスの種類による影響を受けにくくなり、また、消費電力の増加や計測誤差の増大を防止できることが記載されている(【0029】、【0031】、図4)。 イ ここで、計測部のガスの流路を偶数層で構成するには、計測部に奇数枚の整流板を設ける必要があり、計測部のガスの流路を奇数層で構成するには、計測部に偶数枚の整流板を設ける必要があることは明らかである。 ウ また、計測部のガスの流路を偶数層で構成する(すなわち、計測部に奇数枚の整流板を設ける)と、超音波送受信器の中心が整流板と対向し、計測部のガスの流路を奇数層で構成する(すなわち、計測部に偶数枚の整流板を設ける)と、超音波送受信器の中心が整流板と対向しないとされていることから、引用文献2に記載されたガスメータは、超音波送受信器の中心が計測部の中心と一致することを前提とするものであると認められる。 仮に、超音波送受信器の中心が計測部の中心と一致しなくてもよいのであれば、計測部のガスの流路を偶数層で構成するときも奇数層で構成するときも(すなわち、計測部に奇数枚の整流板を設けるときも偶数枚の整流板を設けるときも)、超音波送受信器を移動させることで、その中心が整流板に対向しないようにすることができるからである。 エ 以上のことをまとめると、引用文献2には、以下の事項が記載されている。 「ガスの流れを均一に整える複数の整流板が設けられた計測部1と、一対の超音波送受信器とを備え、超音波を利用して計測部1内に流れるガスの流量を計測するガスメータにおいて、 超音波送受信器の中心を計測部1の中心と一致させ、計測部1に偶数枚の整流板を設けて計測部1のガスの流路を奇数層で構成すると、 超音波送受信器の中心におけるガスの流量が変化しにくく、また、超音波送受信器の中心が整流板と対向しないので、超音波送受信器からの超音波の直進成分の伝搬が整流板によって妨げられず、その結果、ガスメータの流量特性が良好な直線性を有するものになるとともに、ガスの種類による影響を受けにくくなり、また、消費電力の増加や計測誤差の増大を防止できる。」 4 本件発明1について (1)対比 本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「測定管52」、「整流板53」、「超音波送受信センサ」及び「超音波式ガスメータ1」は、それぞれ本件発明1の「流体が流れる流路」、「整流板」、「超音波振動子」及び「流量計測装置」に相当する。 また、引用発明の「複数の整流板53」は、「測定管52の内部に」「ガスの流れる方向に平行で、超音波送受信センサから送信する超音波の方向にも平行」に「設けられる」から、「測定管52の内部」を複数の層に仕切るように設けられることになる。 したがって、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 ア 一致点 「流体が流れる流路と、前記流路内を仕切る互いに積層された複数の整流板と、互いの間に前記整流板を位置付けた状態で対向するように配置され、前記流路に流れる流体の流速を検出するための一対の超音波振動子と、を備えた流量計測装置において 前記整流板は、前記流路内を複数の層に仕切るように設けられる 流量計測装置。」 イ 相違点 (ア)相違点1 本件発明1の「整流板」は、「流路内を奇数の層に仕切るように設けられ」、「超音波振動子」は、「その中心が前記整流板で仕切られた中央の層に対向する」のに対し、 引用発明の「整流板53」(本件発明1の「整流板」に相当する。)は、流路内を奇数の層に仕切るように設けられることが特定されず、したがって、「超音波送受信センサ」(本件発明1の「超音波振動子」に相当する。)の中心と流路内の層との位置関係も特定されない点。 (イ)相違点2 本件発明1の「超音波振動子」は、「整流板で仕切られた複数層に対向する大きさに設けられる(ただし、前記超音波振動子が、全ての層に対向する大きさのものは除く。)」のに対し、 引用発明の「超音波送受信センサ」(本件発明1の「超音波振動子」に相当する。)は、「整流板53」(本件発明1の「整流板」に相当する。)で仕切られた複数層との大小関係が特定されない点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点1について 引用発明は、「ガスの流量を検出するための一対の超音波送受信センサが」「設けられ、」「測定管52の内部に」「複数の整流板53が設けられる」「超音波式ガスメータ1」であるから、引用文献2に記載された事項の前提となる「ガスの流れを均一に整える複数の整流板が設けられた計測部1と、一対の超音波送受信器とを備え、超音波を利用して計測部1内に流れるガスの流量を計測するガスメータ」にほかならない。 そして、引用文献2に記載された事項は、「ガスの流れを均一に整える複数の整流板が設けられた計測部1と、一対の超音波送受信器とを備え、超音波を利用して計測部1内に流れるガスの流量を計測するガスメータ」に適用することにより、「ガスメータの流量特性が良好な直線性を有するものになるとともに、ガスの種類による影響を受けにくくなり、また、消費電力の増加や計測誤差の増大を防止できる」という好ましい効果が期待できるものであるから、引用発明及び引用文献2に記載された事項に接した当業者には、引用文献2に記載された事項を引用発明に適用する動機付けがあるといえる。 したがって、引用文献2に記載された事項を引用発明に適用し、超音波送受信センサの中心を測定管52の中心と一致させるとともに、測定管52の内部に偶数枚の整流板53を設けて測定管52のガスの流路を奇数層で構成することは、当業者が容易に思い付くことである。 そのような適用の結果、引用発明が相違点1に係る本件発明1の構成を備えるようになることは、明らかである。 イ 相違点2について 引用文献3には、多層の流路91を形成する内壁(仕切り壁)42と一対の超音波送受波器1a、1bとを備え、超音波によって都市ガスなどの流速を計測し、それに基づいて都市ガスなどの流量を計測する超音波流量計100において、超音波での流速測定は、多層の流路91の全体を測ってもよいが、その一部を測ってもよく、多層の流路91の一部を測る場合には、超音波送受波器1a、1bを例えば多層の流路91のうちの中央の2つに対向させればよいことが記載されている(【0001】、【0034】ないし【0036】、【0041】、図1)。 引用文献4には、整流板によって計測流路を上下に区画し、ガス流速を計測する超音波送受信センサを計測流路の側方に対向して配置したガスメーターでは、超音波送受信センサで流路断面積の全域を測定すれば、ガスの流速の積算値が実際のガス使用量と一致する一方、通常は、コスト面やコンパクト化の要請等もあって、超音波送受信センサで流路断面積の中央部分の層(全6層の場合、3層と4層)のガスの流速のみを測定し、実際の積算値を流量係数で補正することが記載されている(【0002】ないし【0004】)。 以上のことから、超音波式ガスメータにおけるガスの流速の測定は、多層の流路の全体で行ってもその一部で行ってもよく、どちらにするかは、ガスの流速の積算値が実際にガス使用量と一致することを優先するか、コスト面やコンパクト化の要請等を優先するかに応じて、適宜選択し得ることであると認められる。 そうすると、引用発明において、コスト面やコンパクト化の要請等を優先し、ガスの流速の測定を多層の流路の一部で行うために、超音波送受信センサを整流板53で仕切られた複数層の一部に対向させることは、当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。 その結果、引用発明が相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようになることは、明らかである。 (3)本件発明1についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、引用文献1に記載された発明(引用発明)と引用文献2ないし引用文献4に記載された事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 本件発明2について 引用文献4には、5枚の整流板で計測流路を6層に区画することが記載されている(【0004】)。また、引用文献5にも、5枚の仕切板25ないし29で計測流路14内に6層の扁平流路32ないし37を積層形成することが記載されている(【0021】、図4)。 このように、整流板で計測流路を6つの層に仕切ることは、普通に行われているから、引用文献2に記載された事項を引用発明に適用し、測定管52のガスの流路を奇数層で構成する際に、具体的な奇数として、6の近傍の奇数(すなわち、5又は7)を選択することは、当業者が適宜行い得ることである。 したがって、本件発明2は、引用文献1に記載された発明(引用発明)と引用文献2ないし引用文献5に記載された事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6 本件発明3について 引用文献3には、層の厚さを2mmないし3mmとすることが記載されている(【0035】)。この記載に照らすと、層間隔を2.0mmないし2.4mmとすることは、格別なことではない。 したがって、引用発明において、層間隔を2.0mmないし2.4mmとすることは、当業者が適宜行い得ることである。 7 本件発明4について 引用文献6には、アスペクト比を約17又は約20とすることが記載されている(【0071】、【0072】)。この記載に照らすと、アスペクト比を15ないし20とすることは、格別なことではない。 したがって、引用発明において、アスペクト比を15ないし20とすることは、当業者が適宜行い得ることである。 8 本件発明5について 引用文献7には、ガスの流れ方向と超音波信号伝搬経路とのなす角θを40度とすることが記載されている(【0017】、図4)。この記載に照らすと、一対の超音波振動子の対向方向と流れ方向との成す角度を40度ないし50度とすることは、格別なことではない。 したがって、引用発明において、一対の超音波振動子の対向方向と流れ方向との成す角度を40度ないし50度とすることは、当業者が適宜行い得ることである。 第4 むすび 前記第3の取消理由は妥当なものと認められるので、本件発明1ないし本件発明5についての特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-09-03 |
出願番号 | 特願2013-45299(P2013-45299) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(G01F)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 山下 雅人 |
特許庁審判長 |
中塚 直樹 |
特許庁審判官 |
小林 紀史 ▲うし▼田 真悟 |
登録日 | 2017-07-28 |
登録番号 | 特許第6180759号(P6180759) |
権利者 | 矢崎エナジーシステム株式会社 |
発明の名称 | 流量計測装置 |
代理人 | 鳥野 正司 |
代理人 | 朴 志恩 |
代理人 | 津田 俊明 |
代理人 | 瀧野 秀雄 |
代理人 | 瀧野 文雄 |