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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1345886
異議申立番号 異議2018-700551  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-10 
確定日 2018-11-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6255845号発明「包装用積層レトルト材及びそれを用いた包装用レトルト体並びに包装用レトルトレーザー印字体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6255845号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6255845号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年9月27日に出願され、平成29年12月15日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年1月10日)がされ、平成30年7月10日に、白澤 榮樹(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6255845号の請求項1?6の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
樹脂フィルム基材、絵柄印刷層、印刷用下地層、ポリアミド樹脂、シーラント層の順序に積層され、かつガスバリア性層を備える包装用積層レトルト材であって、絵柄印刷層とレーザー印字層となるレーザー光により印字可能な下地白色インキを用いた印刷用白色インキ下地層とが重なりあった領域と印刷用白色インキ下地層のみの領域を形成した印刷層を有する包装用積層レトルト材において、
樹脂フィルム基材と印刷層を積層した際に、該印刷用白色インキ下地層とのラミネート強度が絵柄印刷層とのラミネート強度より小さく、視認側となる該基材と印刷層との間の印刷用白色インキ下地層のみの領域の表面にのみレーザーにより炭化したインキ成分が広がることによりレーザーによる印字変色域を形成する包装用積層レトルト材。
【請求項2】
前記白色インキが、少なくともチタン酸化物を含む樹脂組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の包装用積層レトルト材。
【請求項3】
ガスバリア性層は、ガスバリア性透明蒸着層であって、基材にガスバリア性透明蒸着層を設けたものである請求項1または2に記載の包装用積層レトルト材。
【請求項4】
ガスバリア性層は、アルミニウム箔であって、印刷用下地層の基材と反対側に位置する請求項1?3のいずれか1項に記載の包装用積層レトルト材。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の包装用積層レトルト材を用いた包装用レトルト体。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項に記載の包装用積層レトルト材あるいは請求項5に記載の包装用レトルト体に、YAGまたはYVO_(4)レーザー光を基材側から照射することにより、炭化した白色インキの変色域が前記基材及び前記印刷用白色インキ下地層の境界に広がり、レーザー印字画像を有する包装用レトルトレーザー印字体。


第3 特許異議の申立て理由の概要
申立人の主張する申立て理由は、次のとおりである。
なお、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲第1号証等をそれぞれ「甲1」等という。
また、甲1等に記載された発明及び事項を「甲1発明」等及び「甲1事項」等という。

申立て理由
本件発明1?6は、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、本件発明1?6に係る特許は特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。


第4 刊行物の記載
1 甲1
甲1(特開2013-146880号公報)には、次の記載がある。
(1)「少なくとも表層及びシール層が積層してなる包装フィルムに、レーザマーキングする方法において、フィルムとフィルムでサンドイッチされた酸化チタンを着色剤に用いた白色インキ層にレーザ光を照射して黒変させ、マーキング文字が読取に際して線が太く見えるようにもとの文字と斜め方向にずらした文字で構成され、且つ、レーザ光がもとの文字の黒変箇所に再照射しない、ずらした文字からなるフォントを用いることを特徴とする包装フィルムへのレーザマーキング方法。」(【請求項1】)

(2)「本発明は、食品等を包装する包装フィルムへのレーザマーキング方法、及びレーザマーキングされた包装体に関するものである。」(段落【0001】)

(3)「そこで包装袋に特殊なインキを用いることなく、製造者記号、製造年月日等の情報印字が、外部摩擦によって消失することがなく、また、被包装物として食品類等と直接接触することもなく、しかも、読み取りを容易にかつ確実ならしめる表示を実現するのものである。すなわち、製品の外表面は変化させずに、しかも読みやすい表示をおこない、年齢を重ねた人でも食品の情報が分かりやすい表示による日付、製造者記号などを印字する包装フィルムへのレーザマーキング方法、及びレーザマーキングされた包装体を提供することである。」(段落【0004】)

(4)「本発明による包装フィルムへのレーザマーキング方法、レーザマーキングされた包装体によれば、レーザ光が表面の表層を透過して、白色のインキ層の成分を黒色変化させることで白地に黒色のマーキングが可能となり、表面の表層越しに、商品名、日付、製造者記号などのマーキングを白地に黒文字として判読ができる。」(段落【0010】)

(5)「図1に包装体に用いられる包装フィルムの代表的な構成を表した。すなわち、本発明に係る一実施例の包装フィルムは少なくとも表層、印刷層、シール層から構成され、印刷層は表層の内側に印刷されている包装フィルムで本発明を説明する。」(段落【0012】)

(6)「表層は、非晶質無延伸PET(APET)、延伸PET(OPET)、結晶性PET(CPET)、延伸PP(OPP)、無延伸PP(CPP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、延伸Ny(ONy)、無延伸Ny(CNy)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、延伸PS(OPS)などが挙げられるものであれば特に限定されない。」(段落【0013】)

(7)「また、シール層としては、ヒートシール性のある直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、あるいは無延伸ポリプロピレン(CPP)などが挙げられる。」(段落【0014】)

(8)「印刷層は、例えば図1の断面図に示すように、透明延伸ポリプロピレンフィルムの内面に、グラビア印刷などによる印刷層が形成されている。より詳しくは、透明な延伸ポリプロピレンなどのフィルムの内面に、グラビア印刷などによる絵柄、文字情報の印刷層が形成され、さらにその上に白インキによる白色インキ層が形成されて見栄えを良くしている。この白色インキ層の一部に本発明のレーザマーキング方法による印字を行なうことができる。当然、レーザマーキング用に白色インキ層を設けることもできる。」(段落【0015】)

(9)「また、白色の印刷層としては、個別情報の印刷が読みやすくする為に設けるもので、酸化チタンを含有するグラビア用白インキあるいはフレキソ用白インキを主に用いるが、完全な白色でなくともよく、チタン白等白色顔料を含む淡色のインキでもよく、それぞれグラビア印刷法あるいはアニロックスロールを介してインキを転移するフレキソ印刷法で部分印刷される。」(段落【0016】)

(10)「一般に、レーザマーキングに用いられるレーザは、発振波長によって2つに大別される。その1は、発振波長が1064nmの近辺にあるものであり、光を増幅させる媒質・方式等の違いによって印字等の可能な対象物が異なっている。この発振波長1064nmのレーザは、樹脂及び金属の加工は良好であるが、透明な物体の加工を行うことはできない。この種のレーザの代表的なものとしては、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ、YVO4レーザ、FAYbレーザをあげることができる。YAGレーザは、金属の彫刻が可能であり、波長の低いものも提供されている。YVO4レーザは、金属の印字が可能であり、微細なマーキングに向いている。また、FAYbレーザでは、機種によりパルス幅を短くして、熱影響が少なく、印字に有利な方式という特徴を有している。」(段落【0020】)

(11)「図4は包装機にレーザ装置を設置した実施例の一例を示したものである。
ロールのフィルムが搬送中にレーザ装置50で所定の位置に印字した後にフォーマー20で被包装体31を包む込み、背シール21で筒状に成形され、その後エンドシール22により上下がシールされ、そのシール上を切断することにより個別の包装体30を製造することを説明している。」(段落【0027】)

(12)「印刷層10は表層11の内面にレーザ印字箇所を含み文字、絵柄印刷後に文字、絵柄を目立たせるように酸化チタンを着色剤として含有した白インキにより印刷されたフィルムを使用した。」(段落【0028】)

(13)記載事項(2)?(4)によると、甲1には、食品等を包装する包装フィルムへのレーザマーキング方法に関する発明であって、特殊なインキを用いることなく、印字が外部摩擦によって消失せず、被包装物として食品類等と直接接触することもなく、しかも読み取りを容易にかつ確実ならしめる表示を実現することを技術的課題とする発明が記載されているといえる。

(14)記載事項(1)、(5)?(8)によると、包装フィルムは少なくとも表層、印刷層、シール層から構成され、表層は非晶質無延伸PET(APET)等の樹脂で構成されており、印刷層は絵柄、文字情報の印刷層の上に白色インキ層が形成されており、シール層はヒートシール性のある直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等の樹脂で構成されている。

(15)記載事項(1)、(9)?(12)によると、白色インキ層は酸化チタンを着色剤として含有した白インキにより印刷されたものであり、白色インキ層にレーザ光を照射して黒変させるものであって、レーザとしてYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ、YVO4レーザが例示されている。

(16)記載事項(8)によると、包装フィルムには、絵柄、文字情報の印刷層と白色インキ層が重なり合った領域があり、そのほかに、記載事項(4)、(8)によると、レーザ光が表面の表層を透過して白色インキ層を黒色変化させるのだから、包装フィルムには、絵柄、文字情報の印刷層がなく白色インキ層のみの領域がある。

(17)上記(1)?(16)から、甲1には、次の甲1発明が記載されている。
「表層、印刷層、シール層で構成される包装フィルムであって、
表層は非晶質無延伸PET(APET)等の樹脂であり、
印刷層は絵柄、文字情報の印刷層と白色インキ層からなり、
シール層はヒートシール性のある直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等の樹脂で構成されており、
白色インキ層はレーザ光を照射して黒変させるものであり、
絵柄、文字情報の印刷層と白色インキ層が重なり合った領域と、絵柄、文字情報の印刷層はなく白色インキ層のみの領域がある、
包装フィルム。」

2 甲2
甲2(特許第4905612号公報)には、次の記載がある。
(1)「基材フィルムと、基材フィルム上に形成された白色の下地層と、該下地層上に形成されたレーザーマーキング用インキ層とを有しており、該レーザーマーキング用インキ層には、樹脂バインダー100重量部当り0.1乃至30重量部の量で酸化鉄がレーザー光吸収剤として分散されており、且つ、白色顔料が分散されていることを特徴とするレーザーマーキングフィルム。」(【請求項1】)

(2)「前記インキ層上に透明乃至半透明の保護層が形成されている請求項1乃至3の何れかに記載のレーザーマーキングフィルム。」(【請求項4】)

(3)「請求項1乃至4の何れかに記載のレーザーマーキングフィルムからなる包装体。」(【請求項5】)

(4)「従って、本発明の目的は、レーザーマーキングのためにレーザー光を照射したときに、鮮明な像を形成するレーザーマーキングインキ層を備えたレーザーマーキングフィルムを提供することにある。」(段落【0009】)

(5)「また、本発明のレーザーマーキングフィルムでは、前記の酸化鉄が樹脂バインダー中に分散されたインキ層と基材フィルムとの間に白色の下地層を設けることが重要であり、このような下地層を設けることにより、極めて鮮明なレーザーマーキング像が形成されることとなる。即ち、レーザー光をインキ層に照射したとき、白色の下地層での反射光がインキ層に侵入するため、酸化鉄によるレーザー光の吸収が十分に発揮され、この結果、高い発熱量が得られ、極めて鮮明なレーザーマーキング像を形成することが可能となるのである。このような白色の下地層を設けずに、酸化鉄が分散されたインキ層を直接基材フィルム上に設けた場合には、得られるレーザーマーキング像は鮮明さに劣ったものとなってしまう。」(段落【0016】)

(6)「図1を参照して、全体として10で示す本発明のレーザーマーキングフィルムは、基材フィルム1と、基材フィルム1上に形成されている白色の下地層3と、下地層3上に、酸化鉄が分散されたレーザーマーキング用インキ層5とを有しており、このインキ層5の上には、一般に保護層7が形成される。」(段落【0020】)

(7)「<基材フィルム1>
基材フィルム1としては、このレーザーマーキングフィルム10の使用形態に応じて、各種の紙、樹脂フィルム、樹脂コートされたアルミ箔等の金属箔等が使用されるが、一般的には、汎用性等の観点から樹脂フィルムが好適である。」(段落【0021】)

(8)「樹脂フィルムを形成する樹脂素材としては、特に制限されないが、一般的には、各種の熱可塑性樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、あるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダム若しくはブロック共重合体等のポリオレフィン、環状オレフィン共重合体など;、そしてエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体;、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α-メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物;、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル;、ポリカーボネート;、ポリフェニレンオキサイド;等や、ポリ乳酸などの生分解性樹脂;、あるいはそれらの混合物のいずれかの樹脂であってよく、レーザーマーキングフィルム10の使用形態に応じて、単層構造、多層構造等、適宜の層構造を有するものが使用される。例えば、このレーザーマーキングフィルム10を、パウチ等の包装体としての用途に適用する場合には、内外層として、オレフィン系樹脂層やポリエステル系樹脂層を設け、中間層として、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのガスバリア性に優れた樹脂層を接着剤層を介して設けた多層構造とすることが好適である。
また、樹脂フィルムの厚みは、その使用形態に応じて、適宜の範囲にあればよい。」(段落【0022】)

(9)「このような下地層3は、白色顔料が無機顔料として樹脂バインダー中に分散された白ベタの層であり、白色顔料としては、それ自体公知のもの、例えば、無定形のシリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルクなどが代表的であり、一般に、レーザー回折散乱法で測定した体積基準の平均粒径D_(50)が0.1乃至3μm程度の範囲にあることが、十分なレーザー光反射性を確保する上で好ましい。」(段落【0024】)

(10)「<保護層7>
前記インキ層5の上に形成される保護層7は、インキ層5に形成されるレーザーマーキング像等を保護するために必要により設けられるものであり、レーザーマーキングに使用されるレーザー光を透過し且つ半透明乃至透明の樹脂により形成される。」(段落【0033】)

(11)「例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の熱可塑性もしくは熱硬化型の樹脂などの中から、レーザーマーキングに使用するレーザー光の種類に応じたものを選択して保護層7が形成される。」(段落【0034】)

(12)「<レーザーマーキングフィルム10>
前記のようにして形成されるレーザーマーキングフィルム10は、保護層7を介してのレーザー光の照射により鮮明なレーザーマーキング像をインキ層5に形成し得るため、種々の用途に供することができる。」(段落【0045】)

(13)「例えば、このフィルム10は、適度な大きさに裁断して、基材フィルム1の種類に応じて、ヒートシールや適当な接着剤を用いて金属缶やプラスチック容器などの包装容器や各種工業製品などの所定部位に貼着し、バーコードや文字等の各種情報を示すレーザーマーキング像を形成して印刷フィルムとして使用することができる。また、このフィルム10自体を用いての貼り合わせなどにより、各種飲料や医薬品などを充填する袋状容器などの包装体として使用することもできる。
特に、本発明のレーザーマーキングフィルム10は、各種の情報を表示するレーザーマーキング像を極めて鮮明に形成することができるため、内容物の正確な情報が要求される飲料用或いは医薬品用などの袋状容器として最も好適に使用することができる。」(段落【0046】)

(14)「また、フィルム10の使用形態によっては、保護層7上のレーザーマーキング像を形成する部分以外の場所に、インキジェット印刷等により、加飾性を高めるための印刷像を形成し、次いで、レーザーマーキング用のインキ層5を保護層7の前記部分に設け、さらに、これらの印刷像を覆うようにして下地層3を設けることもできる。フィルム10を前述した袋状容器として使用する場合は、このようにして使用される。」(段落【0047】)

(15)「[実験例1]
樹脂バインダーとしてウレタン系樹脂、無機顔料としてベンガラから成る赤茶色酸化鉄、白色無機顔料として酸化チタン、及び有機溶媒としてトルエン・MEK(メチルエチルケトン)・IPA(イソプロピルアルコール)を用い、レーザーマーク用インキを作成した。樹脂バインダー100重量部当たり赤茶色酸化鉄は3重量部、酸化チタンは810重量部の割合で用いた(即ち、赤茶色酸化鉄:酸化チタンの重量比は、1:270であった)。
次いで、ポリエチレンテレフタレートから成る厚み12μmの保護層上に、前記レーザーマーク用インキを印刷・乾燥させてインキ層を形成し、このインキ層上に白色無機顔料の酸化チタンを含有させたウレタン系樹脂から成る厚み3μmの下地層を形成した後、接着剤を介してポリプロピレンから成る厚み70μmの基材フィルムを貼り合わせ、保護フィルム側より前記条件でレーザー光を照射した。」(段落【0053】)

(16)摘記事項(4)によると、甲2には、レーザー光を照射したときに、鮮明な像を形成するレーザーマーキングインキ層を備えたレーザーマーキングフィルムを提供することを目的とする発明が記載されているといえる。

(17)摘記事項(1)?(2)、(6)、(14)、(15)によると、レーザーマーキングフィルムは、下から基材フィルム、白色の下地層、レーザーマーキング用インキ層及び加飾性を高めるための印刷像、透明乃至半透明の保護層、の順に積層されており、レーザーマーキング用インキ層と白色の下地層とが重なり合った領域と、加飾性を高めるための印刷像と白色の下地層とが重なり合った領域がある。

(18)摘記事項(3)、(12)、(13)によると、レーザーマーキングフィルムは、貼り合わせなどにより、各種飲料や医薬品などを充填する袋状容器などの包装体として使用することもできる。

(19)摘記事項(5)、(9)によると、白色の下地層は、レーザー光を反射するためのものである。

(20)摘記事項(5)、(12)によると、レーザーマーキング用インキ層は、レーザー光の照射により鮮明なレーザーマーキング像を形成するものである。

(21)摘記事項(7)、(8)によると、基材フィルムは、その材質としてポリアミドが例示されるとともに、パウチ等の包装体としての用途に適用する場合には、オレフィン系樹脂層やポリエステル系樹脂層、ガスバリア性に優れた樹脂層などからなる多層構造とすることができる。

(22)摘記事項(10)、(11)によると、保護層は、オレフィン系樹脂等からなる半透明乃至透明の樹脂により形成される。

(23)上記(1)?(22)から、甲2には、次の甲2事項が記載されている。
「上から保護層、レーザーマーキング用インキ層及び加飾性を高めるための印刷像、白色の下地層、基材フィルムの順に積層されたレーザーマーキングフィルムであって、
保護層は、オレフィン系樹脂等からなる半透明乃至透明の樹脂により形成され、
レーザーマーキング用インキ層は、レーザー光の照射により鮮明なレーザーマーキング像を形成し、
白色の下地層は、レーザー光を反射するためのものであり、
基材フィルムは、ポリアミドからなる樹脂であって、ガスバリア性に優れた樹脂層やその他の樹脂を積層した多層構造とすることができ、
レーザーマーキング用インキ層と白色の下地層とが重なり合った領域と、加飾性を高めるための印刷像と白色の下地層とが重なり合った領域があり、
貼り合わせなどにより袋状容器などの包装体とすることができる、レーザーマーキングフィルム。」


第5 判断
1 対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「表層」は本件発明1の「樹脂フィルム基材」に相当し、以下同様に「絵柄、文字情報の印刷層」は「絵柄印刷層」に、「白色インキ層」は「印刷用下地層」及び「印刷用白色インキ下地層」に、「シール層」は「シーラント層」にそれぞれ相当する。
また、甲1発明の「絵柄、文字情報の印刷層と白色インキ層が重なり合った領域」は、本件発明1の「絵柄印刷層とレーザー印字層となるレーザー光により印字可能な下地白色インキを用いた印刷用白色インキ下地層とが重なりあった領域」に相当するものであり、同様に「絵柄、文字情報の印刷層はなく白色インキ層のみの領域」は、「印刷用白色インキ下地層のみの領域」に相当するものである。
そして、甲1発明の「包装フィルム」は、包装用積層体という点で本件発明1の「包装用積層レトルト材」と共通するものである。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、少なくとも以下の点で相違している。
<相違点>
本件発明1は、「樹脂フィルム基材と印刷層を積層した際に、該印刷用白色インキ下地層とのラミネート強度が絵柄印刷層とのラミネート強度より小さく、視認側となる該基材と印刷層との間の印刷用白色インキ下地層のみの領域の表面にのみレーザーにより炭化したインキ成分が広がることによりレーザーによる印字変色域を形成する」ものであるのに対して、甲1発明は、白色インキ層や絵柄、文字情報の印刷層それぞれのラミネート強度、及び白色インキ層と絵柄、文字情報の印刷層の間のラミネート強度の関係は規定されておらず不明である点。

2 判断
上記相違点について検討する。
(1)甲1には、白色インキ層や絵柄、文字情報の印刷層それぞれのラミネート強度、及び白色インキ層と絵柄、文字情報の印刷層の間のラミネート強度の関係について記載も示唆もない。
また、白色インキ層と絵柄、文字情報の印刷層のラミネート強度を比較すると、白色インキ層のラミネート強度が必ず小さいことが技術常識であることを示す証拠も示されていない。
さらに、甲2にもレーザーマーキング用インキ層や加飾性を高めるための印刷像それぞれのラミネート強度、及びレーザーマーキング用インキ層と加飾性を高めるための印刷像の間のラミネート強度の関係は記載されていないところ、甲2事項は、甲1発明における白色インキ層や絵柄、文字情報の印刷層それぞれのラミネート強度、及び白色インキ層と絵柄、文字情報の印刷層の間のラミネート強度の関係について、樹脂フィルム基材と印刷層を積層した際に、白色インキ層とのラミネート強度が絵柄、文字情報の印刷層とのラミネート強度より小さく、視認側となる基材と印刷層との間の白色インキ層のみの領域の表面にのみレーザーにより炭化したインキ成分が広がることによりレーザーによる印字変色域を形成することを示唆するものではない。
よって、甲1発明における、白色インキ層や絵柄、文字情報の印刷層それぞれのラミネート強度、及び白色インキ層と絵柄、文字情報の印刷層の間のラミネート強度の関係について、樹脂フィルム基材と印刷層を積層した際に、白色インキ層とのラミネート強度が絵柄、文字情報の印刷層とのラミネート強度より小さく、視認側となる基材と印刷層との間の白色インキ層のみの領域の表面にのみレーザーにより炭化したインキ成分が広がることによりレーザーによる印字変色域を形成することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(2)一方で、本件発明1は、印刷用白色インキ下地層のラミネート強度が絵柄印刷層のラミネート強度より小さいことにより、印刷用白色インキ下地層のみの領域の表面にのみレーザーにより炭化したインキ成分が広がることによりレーザーによる印字変色域を形成するという効果を発揮するものである。

(3)以上のとおりであるから、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明1の構成を備えることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)したがって、本件発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

(5)なお、申立人は、本件特許明細書に記載された白色インキと基材層と同様のものが甲2に記載されている旨を主張しているけれども、甲2の下地層は反射層であって(前記第4 2 (19)を参照)表面の保護層と接していないから、ラミネート強度について何らかの示唆となるものではないから、前記主張は当を得たものではない。

(6)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるので、本件発明1についての判断と同様の理由により、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

(7)小括
よって、本件発明1?6は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、本件発明1?6に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-24 
出願番号 特願2013-201213(P2013-201213)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飛彈 浩一増田 亮子近野 光知  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 横溝 顕範
竹下 晋司
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6255845号(P6255845)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 包装用積層レトルト材及びそれを用いた包装用レトルト体並びに包装用レトルトレーザー印字体  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  

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