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審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する H01L
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する H01L
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する H01L
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する H01L
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する H01L
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する H01L
管理番号 1346229
審判番号 訂正2018-390107  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-07-30 
確定日 2018-11-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4776551号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4776551号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10,12?14について訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る主な経緯は、次のとおりである。
平成16年 2月20日 優先日(以下「本件優先日」という。)
平成17年 2月 1日 出願(PCT/EP2005/000947,特願2006-553476。以下、この出願を「本件出願」という。)
平成23年 7月 8日 特許登録(特許第4776551号。以下、この特許を「本件特許」という。)
平成30年 7月30日 本件審判請求

第2 本件審判請求の趣旨
1 本件審判請求の趣旨は、特許第4776551号の特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10,12?14について訂正することを認める、との審決を求めることである。
そして、その訂正事項(以下、総称して、「本件訂正」という。)は、次のとおりである(下線は、請求人が付したものである。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項10に「前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータ(330)によって加えられる前記力に応じて制御するコントローラ(40)を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の投射対物レンズ。」と記載されているのを、
「複数の光学要素と、該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータ(330)によって加えられる前記力に応じて制御するコントローラ(40)を有することを特徴とする投射対物レンズ。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項12に「前記少なくとも1つのマニピュレータ(526b)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つに直接係合することを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の投射対物レンズ。」と記載されているのを、
「複数の光学要素と、該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、前記少なくとも1つのマニピュレータ(526b)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つに直接係合することを特徴とする投射対物レンズ。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13に「前記少なくとも1つのマニピュレータ(126a、126b;226a、226b)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つを含むホルダ(122a、122b;222a、222b)に係合することを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の投射対物レンズ。」と記載されているのを、
「複数の光学要素と、該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、前記少なくとも1つのマニピュレータ(126a、126b;226a、226b)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つを含むホルダ(122a、122b;222a、222b)に係合することを特徴とする投射対物レンズ。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項14に「前記少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;426a、426b、426c;526、526b、526c)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つを含むホルダ(22a、22b、22c)が支持されるフレーム(24)に係合することを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の投射対物レンズ。」とあるのを、
「複数の光学要素と、該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、前記少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;426a、426b、426c;526、526b、526c)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つを含むホルダ(22a、22b、22c)が支持されるフレーム(24)に係合することを特徴とする投射対物レンズ。」に訂正する。

2 一群の請求項等について
本件審判請求は、訂正後の請求項10,12?14(本件訂正前の請求項10,12?14の引用関係からすれば、これらは、一群の請求項であると判断される。)を一群の請求項として扱ってはいないけれども、別の訂正単位とする求めがなされている(本件審判請求書14頁)ものである。
なお、本件審判請求は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)を訂正の対象とはしていない。

第3 当審の判断
訂正事項1?4について、訂正の適否を検討する。
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正事項1は、
第一に、本件訂正前の請求項10が「請求項1から8のいずれか一項」を引用していたのを、請求項2から8については引用しないことにし、
第二に、本件訂正前の請求項10の記載が請求項1の記載を引用した形式であったものを、請求項1の記載を引用しない形式に訂正し、
第三に、「前記変形に起因する前記光学要素の位置変化」(引用元である請求項1に記載されている事項である。)を「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化」であると訂正するものである。
よって、同第一の点は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としている。同第二の点は、特許法第126条第1項ただし書き第4号のいわゆる引用関係の解消を目的としている。同第三の点は、「前記光学要素の位置変化」を、「前記変形に起因する」もののうち、「前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる」ものに限定したものと解されるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としている。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合する。

(2)新規事項追加の有無
本件明細書の【0032】には、「傾斜の方向は、図3において矢印36で示される。傾斜する理由は、力の2フォールド(two-fold)対称性が、取り付けユニット22a、22b、22cにおける取り付けの3フォールド(three-fold)対称性に整合させることができないためである。適切に選択された4点で取り付ければこの傾斜は起こらないであろう。」と記載されている。
そして、この記載に接した当業者は、そのメカニズムに照らせば、対称性の具体的な形態(2フォールド、3フォールド)に係わらず、力の対称性と取り付けの対称性との不整合がある場合は、同様に、傾斜が生じることを理解することができると認められる。
そうすると、訂正事項1は、新規事項を追加するものではないというべきであり、よって、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項1は、上記(1)のとおり、「前記変形に起因する前記光学要素の位置変化」を「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化」に限定したにすぎないものである。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、よって、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件の有無
後記3で判断する。

2 訂正事項2?訂正事項4について
(1)訂正の目的、新規事項追加の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項2は、
第一に、本件訂正前の請求項12が「請求項1から11のいずれか一項」を引用していたのを、請求項2から11については引用しないことにし、
第二に、本件訂正前の請求項12の記載が請求項1の記載を引用した形式であったものを、請求項1の記載を引用しない形式に訂正し、
第三に、「前記変形に起因する前記光学要素の位置変化」(引用元である請求項1に記載されている事項である。)を「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化」であると訂正するものである。

訂正事項3は、
第一に、本件訂正前の請求項13が「請求項1から11のいずれか一項」を引用していたのを、請求項2から11については引用しないことにし、
第二に、本件訂正前の請求項13の記載が請求項1の記載を引用した形式であったものを、請求項1の記載を引用しない形式に訂正し、
第三に、「前記変形に起因する前記光学要素の位置変化」(引用元である請求項1に記載されている事項である。)を「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化」であると訂正するものである。

訂正事項4は、
第一に、本件訂正前の請求項14が「請求項1から11のいずれか一項」を引用していたのを、請求項2から11については引用しないことにし、
第二に、本件訂正前の請求項14の記載が請求項1の記載を引用した形式であったものを、請求項1の記載を引用しない形式に訂正し、
第三に、「前記変形に起因する前記光学要素の位置変化」(引用元である請求項1に記載されている事項である。)を「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化」であると訂正するものである。

そうすると、上記1(1)?(3)の判断は、訂正事項2?4についても、同様に成り立つことになる。
したがって、訂正事項2?4は、特許法第126条第1項ただし書き、同第5項及び同第6項の規定に適合する。

(2)独立特許要件の有無
後記3で判断する。

3 独立特許要件の有無
本件特許については、東京地方裁判所に特許権侵害差止請求事件(平成29年(ワ)第14297号、以下「本件侵害事件」という。)が係属している。そして、本件侵害事件では、いわゆる無効の抗弁(以下「本件無効抗弁」という。)が、同事件の被告(以下、単に「被告」という。)により提出され、審理されている。そして、本件無効抗弁は、本件特許の請求項1に係る発明について提出されている。
しかるところ、本件無効抗弁が対象とする請求項は、当審が独立特許要件を判断する対象に関する請求項(すなわち、本件訂正がされた請求項10,請求項12,請求項13及び請求項14)とは異なっている。しかしながら、本件訂正後の当該各請求項に係る発明は、実質的には、本件特許の請求項1に係る発明を限定したものである。そうすると、本件無効抗弁は、当審が独立特許要件を判断する対象に関する請求項と関連性があるということができる。
そこで、当審は、以下、本件無効抗弁に係る無効理由を、本件訂正後の請求項10,請求項12,請求項13及び請求項14に関する限りにおいて検討することとする。

(1)本件無効抗弁に係る無効理由の概要
ア 上記無効理由は、次のとおりである。
(ア)無効理由1(サポート要件違反)
本件特許の請求項1の記載は、サポート要件違反である(被告第3準備書面第2頁?第3頁、被告第4準備書面第2頁?第5頁)

(イ)無効理由2(実施可能要件違反)
本件明細書の記載は、本件特許の請求項1に係る発明について、実施可能要件違反である(被告第3準備書面第4頁、被告第4準備書面第5頁?第6頁)

(ウ)無効理由3(乙1に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、乙1発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである(被告第3準備書面第4頁?第11頁、被告第4準備書面第6頁?第13頁)。

(エ)無効理由4(乙9に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、乙9発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである(被告第3準備書面第11頁?第17頁、被告第4準備書面第13頁?第15頁)。

(オ)無効理由5(乙6に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、乙6発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである(被告第4準備書面第15頁?第21頁)。

イ 本件無効抗弁において提出されている証拠は次のとおりである。
乙1:特開2001-230193号公報
乙2:特開平10-39208号公報
乙3:特開2004-12895号公報
乙4:特開平9-152505号公報
乙5:米国特許第6398373号明細書
乙6:特開平8-8178号公報
乙7:特開平3-271710号公報
乙8:特開平5-19181号公報
乙9:特開2003-302578号公報
乙10:特開平9-304940号公報
乙11:Hugh J. Robertson,“Evaluation of the Thin Deformable Active Optics Mirror Concept”,NASA CONTRACTOR REPORT,1972年6月
乙12:Goran B. Scharamer,et al.,“A Workstation Based Solar/Stellar Adaptive Optics System”,Proc.SPIE 4007-105,2000年3月
乙13:本件出願に係る意見書
乙14:J.Christopher Love,et al.,“Microscope Projection Phtolithography for Use in Soft Lithography”,Langmuir 2001,2001年8月24日
乙15:Willi Ulrich,et al.,“The Development of Dioptric Projection Lenses for DUV Lithography”,Proceedings of SPIE Vol.4832,2002年
乙16:Christian Hofmann, et al.,“High-Performance optical systems of VEB Carl Zeiss JENA for the quasi-diffraction-limited reproduction of micropatterns on wide fields”,JR 4,1980年4月
乙17:廣田義人,“半導体露光装置ステッパーの開発,普及とその要因”,技術と文明,12巻2号,2001年9月

(2)本件訂正発明の認定
本件訂正後の請求項10,12,13及び14に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明10」,「本件訂正発明12」,「本件訂正発明13」及び「本件訂正発明14」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、本件訂正後の請求項10,12,13及び14に記載された、次のとおりのものと認める。
ア 本件訂正発明10
「複数の光学要素と、該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータ(330)によって加えられる前記力に応じて制御するコントローラ(40)を有することを特徴とする投射対物レンズ。」

イ 本件訂正発明12
「複数の光学要素と、該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、前記少なくとも1つのマニピュレータ(526b)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つに直接係合することを特徴とする投射対物レンズ。」

ウ 本件訂正発明13
「複数の光学要素と、該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、前記少なくとも1つのマニピュレータ(126a、126b;226a、226b)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つを含むホルダ(122a、122b;222a、222b)に係合することを特徴とする投射対物レンズ。」

エ 本件訂正発明14
「複数の光学要素と、該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、前記少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;426a、426b、426c;526、526b、526c)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つを含むホルダ(22a、22b、22c)が支持されるフレーム(24)に係合することを特徴とする投射対物レンズ。」

(3)各証拠の記載事項の認定
ア 乙1
(ア)本件優先日前に頒布された刊行物である乙1には、次の記載があると認められる(下線は当審が付した。以下、同じ。)。
a 「【特許請求の範囲】」、
「第1の物体上に形成されたパターンを投影光学系を介して第2の物体上に結像させて露光する投影露光装置の投影光学系の波面測定方法において、該投影光学系を介して該第1物体面上の特定パターンの光強度分布を測定する光強度検出手段と、該光強度検出手段により検出された光強度分布を用いて、投影光学系の波面収差を算出する波面収差演算手段と、露光負荷、又は/及び環境変化などを測定してその値が一定値を超えた場合に投影光学系の波面収差を計測し、光学特性を制御する制御手段とを利用していることを特徴とする波面収差測定方法。」(【請求項1】)、
「前記投影光学系の波面収差を位相回復法を用いて計測していることを特徴とする請求項1の波面収差測定方法。」(【請求項2】)、
「前記波面収差に基づき前記投影光学系の光学特性を制御していることを特徴とする請求項1の波面収差測定方法。」(【請求項3】)、
「請求項1から13のいずれか1項の波面収差測定方法を利用していることを特徴とする投影露光装置。」(【請求項14】)

b 「【発明の属する技術分野】」、
「本発明は、マスク上のパターンを投影光学系を介して感光性の基板に転写する、半導体素子を製造する等のリソグラフィ工程で使用される投影光学系の波面収差測定方法及び投影露光装置に関するものである。」(【0001】)

c 「〈光学特性の制御方法〉」、
「上記位相回復法により求めた収差は、以下の方法により制御することが可能である。それぞれの方法について、以下に詳述する。」(【0078】)、
「(ア-4)縮小投影レンズ1の一部又は全部を加熱、冷却する方法。加熱、冷却することで縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形や、屈折率を生じさせて球面収差を変化させる。」(【0085】)、
「上記(ア-1)?(ア-7)の方法を用いて球面収差を変化させると、多くの場合、球面収差以外の光学性能も同時に変化してしまうのでそれを制御する必要がある。また、球面収差以外の光学性能も所望の値に制御する必要のある時もある。(例:Mix&Matchの場合に倍率を制御する。)これらの場合、縮小投影レンズ内の球面収差の制御に使っていないところの光学部材を移動したり、光学部材間の気体の屈折率を変化させたりして、球面収差以外で制御したい光学性能(例:球面収差、アス、コマ、倍率、ディストーション等)を制御する。」(【0090】)、
「また、制御する光学性能と制御手段の関係は、近似的に線形結合であるので両者の数は一致する。このようにして、球面収差のみならず、諸収差(例:球面収差、アス、コマ、倍率、ディストーション等)を制御することが可能となる。また、同様にして波面収差を制御することも可能である。」(【0091】)

(イ)上記(ア)の各記載によれば、乙1には次の発明(以下「乙1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、認定に用いた記載箇所を括弧書きで付記してある(以下、同じ)。
「(【請求項1】)第1の物体上に形成されたパターンを投影光学系を介して第2の物体上に結像させて露光する投影露光装置の投影光学系の波面測定方法において、該投影光学系を介して該第1物体面上の特定パターンの光強度分布を測定する光強度検出手段と、該光強度検出手段により検出された光強度分布を用いて、投影光学系の波面収差を算出する波面収差演算手段と、露光負荷、又は/及び環境変化などを測定してその値が一定値を超えた場合に投影光学系の波面収差を計測し、光学特性を制御する制御手段とを利用している波面収差測定方法
(【請求項14】)を利用している投影露光装置
の投影光学系であって、
(【請求項2】)前記投影光学系の波面収差を位相回復法を用いて計測しており、
(【請求項3】)前記波面収差に基づき前記投影光学系の光学特性を制御しており、
(【0078】・【0085】)上記位相回復法により求めた収差は、縮小投影レンズ1の一部又は全部を加熱、冷却する方法により制御することが可能であり、当該方法は、加熱、冷却することで縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形を生じさせて球面収差を変化させるものであって、
(【0090】)上記の方法を用いて球面収差を変化させると、多くの場合、球面収差以外の光学性能も同時に変化してしまうのでそれを制御する必要があり、これらの場合、縮小投影レンズ内の球面収差の制御に使っていないところの光学部材を移動したりして、球面収差以外で制御したい光学性能(例:球面収差、アス、コマ、倍率、ディストーション等)を制御する、
(【0001】)半導体素子を製造する等のリソグラフィ工程で使用される投影光学系の
(【請求項14】)投影露光装置
の投影光学系。」

イ 乙2
本件優先日前に頒布された刊行物である乙2には、次の事項が記載されていると認められる。
a 屈折部材からなり物体面を結像面へ投影する投影光学系に於いて、該投影光学系を構成する光学部材のうち少なくとも1つの光学部材を強制的に変形させ、前記投影光学系全体で発生する収差を補償すること(【請求項1】)、
b 補償できる収差には、非点収差や球面収差があること(【0013】)、
c 外力をかける方法としてアクチュエーターを用いること(【0015】)、
d アクチュエータは、レンズLの周辺部で均等な位置になるように4箇所に配置することが好ましいこと(【0015】)。

ウ 乙3
本件優先日前に頒布された刊行物である乙3には、次の事項が記載されていると認められる。
a 光学系の収差を補正するための収差補正装置であって、前記収差補正装置が、光学系で使用される光を反射するための変形可能な反射面を有する変形可能ミラーと、変形可能ミラーを変形させるための駆動部とを備えており、駆動部は、圧電素子を含んでいること(【請求項1】・【請求項8】・【0055】?【0058】)、
b 収差補正装置は、発生する球面収差を打ち消すものであること(【0031】)。

エ 乙4
本件優先日前に頒布された刊行物である乙4には、次の事項が記載されていると認められる。
a 入射光を反射する反射面を有し、該反射面を変形することにより前記入射光に球面収差を与える変形可能ミラーにおいて、前記変形可能ミラーが、表面に前記反射面を有する弾性変形可能な可撓性部材と、前記可撓性部材の下方に設置され、前記可撓性部材の裏面と対向する部分に参照面を有する基板と、前記可撓性部材を前記参照面に吸着させることにより、前記反射面を前記球面収差に対応する形状に変形させる駆動手段と、を有してなること(【請求項1】)、
b 前記変形可能ミラーは、前記可撓性部材に上部電極が形成されているとともに、前記基板に下部電極が形成されており、前記駆動手段は、前記上部電極と前記下部電極間に電位差を印加して、前記上部電極と前記下部電極間に静電気力を与える電圧印加手段であること(【請求項3】)、
c 可撓性部材2は周囲から所定の力Pで引っ張られ、ジグ13により基板6の段差部5に形成された接着層11に所定の力で押圧され、これにより固設されること(【0053】)。

オ 乙5
本件優先日前に頒布された刊行物である乙5(なお、訳は、乙5の日本語ファミリ文献である特表2004-506236号公報のものを参考にした。)には、次の事項が記載されていると認められる。
a 変形可能な鏡を調節するためのシステムであって、当該システムは、反応プレート120;該反応プレートに連結された複数の空気圧式アクチュエータ180;および該空気圧式アクチュエータに第1端部で連結され、かつ該変形可能な鏡の非反射性の側面に第2端部で連結された複数のプッシュプル式湾曲部160であって、該複数のプッシュプル式湾曲部は該変形可能な鏡の背面上の様々な位置に配置される、湾曲部、を備え、これにより、該プッシュプル式湾曲部と空気圧式アクチュエータとのそれぞれの対は、該変形可能な鏡の形状を支持しかつ変化させて、複数の光学収差の補正を可能にするように作動されること(第6欄第66行?第7欄第18行)、
b 鏡105は、内側リング110に固定された接線湾曲部および軸方向湾曲部の第1セットで支持されること(第3欄第54行?第57行)、
c 反応プレートの軸方向支持体は、空気圧式アクチュエータ180を介して達成されるので、アクチュエータの力設定における力のアンバランスに起因して、鏡105のピストン運動および傾きを和らげること(第4欄第1行?第3行)、
d バランスのとれたセット内の空気圧式アクチュエータ180の作動は鏡の形状を変えるが、鏡の境界を横切って正味ゼロの力を与える、すなわち、アクチュエータによって鏡の背面まで単に伝達される正味ゼロの力およびモーメントは、ゼロであって、このような作動は、鏡の剛性本体の移動を防止し、そして重要な光学アライアメントを保持すること(第6欄第14行?第19行)、
e アクチュエータが動かされる、すなわちバランスがとれていない場合、これは支持アセンブリに対して負荷を伝達する効果を有するので、マウントに対して鏡を動かし、そして光学アライアメントを下げる可能性を有すること(第6欄第19行?第23行)。

カ 乙6
(ア)本件優先日前に頒布された刊行物である乙6には、次の記載がある。
a 「【特許請求の範囲】」、
「第1物体のパターンを第2物体上に投影露光する投影光学系と、露光により前記投影光学系に生じる、前記投影光学系の光学特性の非回転対称性を、実質的に補正する補正手段とを有していることを特徴とする投影露光装置。」(【請求項1】)、
「前記補正手段は、前記投影光学系の光学エレメントの面形状を変化させる面形状変更手段を備えることを特徴とする請求項1の投影露光装置。」(【請求項15】)、
「前記光学エレメントはミラーを含むことを特徴とする請求項15の投影露光装置。」(【請求項16】)、
「前記面形状変更手段は、前記露光により前記光学エレメントに生じた面形状の非回転対称性を補正することを特徴とする請求項15の投影露光装置。」(【請求項19】)、
「前記補正手段は、前記露光により生じる前記投影光学系による前記パターンの結像倍率の非回転対称性を補正し、更に、前記非回転対称性が補正された前記投影光学系の結像倍率を所望の倍率に調整する倍率調整手段を備えることを特徴とする請求項1の投影露光装置。」(【請求項22】)

b 「加熱手段を用いることにより結像位置や倍率の光軸に関する非回転対称性は補正されるが、この種の光学特性の予め決めた位置や値からのずれは残っている。従って、結像位置のずれについては、ウエハステージを光軸方向に移動して補正し、倍率のずれについては投影光学系の光学エレメントやレチクルを光軸方向に移動して補正する。」(【0058】)、
「一方、非回転対称な形状のみを補正する為には補正手段としてレンズに力学的な力を加えることによっても可能である。例えば図11に示すようにレンズ41に対して斜線部42のような形状の光束が入射する場合、前述の通りx方向とy方向ではレンズは異なった形状となる。そこで、レンズ内部の屈折率分布の非回転対称性が無視できる場合には、図中矢印70及び71で示す方向に力学的な力を加えることにより、レンズ41の形状を光束が透過する中心部付近でz軸に関して略回転対称となるようにしても良い。」(【0070】)、
「又、光軸に関して非回転対称な波面収差を補正し、回転対称な波面(収差)を供給する別の手段としては、投影光学系の凹面鏡,凸面鏡,平面鏡の反射面を裏面側から押したり引いたりしてアクチュエーター等で変形させる手段や、投影光学系中に設置した透明平行平面板をアクチュエーター等で変形させる手段がある。」(【0131】)

(イ)上記(ア)の各記載によれば、乙6には次の発明(以下「乙6発明」という。)が記載されていると認められる。
「(【請求項1】)第1物体のパターンを第2物体上に投影露光する投影光学系と、露光により前記投影光学系に生じる、前記投影光学系の光学特性の非回転対称性を、実質的に補正する補正手段とを有している投影露光装置の
投影光学系であって、
(【請求項22】)前記補正手段は、前記露光により生じる前記投影光学系による前記パターンの結像倍率の非回転対称性を補正し、更に、前記非回転対称性が補正された前記投影光学系の結像倍率を所望の倍率に調整する倍率調整手段を備えており、
(【請求項15】前記補正手段は、前記投影光学系の光学エレメントの面形状を変化させる面形状変更手段を備えており、
(【請求項16】)前記光学エレメントはミラーを含み、
(【請求項19】)前記面形状変更手段は、前記露光により前記光学エレメントに生じた面形状の非回転対称性を補正するものであり、
(【0131】)光軸に関して非回転対称な波面収差を補正し、回転対称な波面(収差)を供給する別の手段としては、投影光学系の凹面鏡,凸面鏡,平面鏡の反射面を裏面側から押したり引いたりしてアクチュエーター等で変形させる手段があり、
(【0058】)倍率の光軸に関する非回転対称性は補正されるが、この種の光学特性の予め決めた位置や値からのずれは残っているので、倍率のずれについては投影光学系の光学エレメントを光軸方向に移動して補正する、
(【請求項1】)投影露光装置の
投影光学系。」

キ 乙7
本件優先日前に頒布された刊行物である乙7には、次の事項が記載されていると認められる。
a 主鏡と副鏡とを有する反射望遠鏡において、主鏡に取り付けられ、鏡を変形させるアクチュエータと、副鏡を光軸方向に移動させる駆動装置とを備え、主鏡と副鏡との間隔を変化させるとともに、主鏡を変形させるようにした焦点位置移動装置(第1頁左下欄第5行?第12行)、
b 通常、主鏡1と副鏡6aの形状は、第1のカセグレン焦点11で収差が最小になるよう決められているため、主鏡1-副鏡6a間距離が変化した場合等では収差が発生し、第2のカセグレン焦点12でシャープ像を結ぶことができないが、本発明では、アクチュエータ5により主鏡1に力を加えて変形させて、この収差を相殺するような形状とし、第2のカセグレン焦点12においても良好な像が得られるようにすること(第2頁右下欄第10行?下から3行)、
c 収差の大部分は、3次の球面収差なので、3次の球面収差を相殺する変形量のみを主鏡に加えてもよいこと(第3頁右上欄第9行?第12行)、
d 反射望遠鏡に限らず、他の反射結像装置に用いてもよいこと(第3頁左下欄末行?右下欄第3行)。

ク 乙8
本件優先日前に頒布された刊行物である乙8には、次の事項が記載されていると認められる。
a 主反射鏡1の焦点位置を移動させるべく副反射鏡2を移動させた場合等においては、もともとの主反射鏡1の形状と新しい配置における主反射鏡1の理想形状が異なるため、そのままでは新しい焦点位置で球面収差と呼ばれる収差が生ずること(【0004】)、
b このような収差がある場合に、アクチュエータ5によって主反射鏡1を強制的に変形させて収差を矯正しようとすること(【0004】)。

ケ 乙9
(ア)本件優先日前に頒布された刊行物である乙9には、次の記載がある。
a 【特許請求の範囲】、
「光学特性可変光学素子と、光学素子と、固定された画像面を有す光学装置において、光学特性可変光学素子の変化に伴う光学系の結像面の動きを補償するために、光学素子を偏心させて結像面を傾かせ、光学特性可変光学素子の変化に伴う結像面の傾き変化の範囲内に固定された画像面を設定したことを特徴とする光学装置。」(【請求項3】)

b 「【発明の属する技術分野】」、
「本発明は、光学系に関し、特に、可変ミラー等の光学特性可変光学素子を含む光学系に関し、例えば、ビデオプロジェクター、デジタルカメラ、テレビカメラ、内視鏡、望遠鏡、カメラのファインダー等の光学装置に関するものである。」(【0001】)

c 「図2は本発明にかかる可変形状鏡409の他の実施例を示す概略構成図である。」(【0025】)、
「本実施例の可変形状鏡は、薄膜409aと電極409bとの間に圧電素子409cが介装されていて、これらが支持台423上に設けられている。そして、圧電素子409cに加わる電圧を各電極409b毎に変えることにより、圧電素子409cに部分的に異なる伸縮を生じさせて、薄膜409aの形状を変えることができるようになっている。電極409bの形は、図3に示すように、同心分割であってもよいし、図4に示すように、矩形分割であってもよく、その他、適宜の形のものを選択することができる。図2中、424は演算装置414に接続された振れ(ブレ)センサーであって、例えばデジタルカメラの振れを検知し、振れによる像の乱れを補償するように薄膜409aを変形させるべく、演算装置414及び可変抵抗器411を介して電極409bに印加される電圧を変化させる。このとき、温度センサー415、湿度センサー416及び距離センサー417からの信号も同時に考慮され、ピント合わせ、温湿度補償等が行われる。この場合、薄膜409aには圧電素子409cの変形に伴う応力が加わるので、薄膜409aの厚さはある程度厚めに作られて相応の強度を持たせるようにするのがよい。」(【0026】)

d 「すでに、撮像面612を角度Cだけ傾けて、可変ミラー409の変形で生ずる結像面の変化で引き起こされる結像性能の変化を補償することができることを示した。」(【0190】)、
「しかしながら、結像面の変化の補償手段は、撮像面612の傾斜だけではない。略同様の補償をするのに、図39の例では、レンズ603と604を0.025mmだけ物体距離∞のときの光軸613に対して左に、つまり-Z方向(図45の座標系では-Y方向)に偏心させてもよい。このようにすれば、結像面は可変ミラー409の変形をキャンセルする方向に傾くので、平均して良い解像の光学系が得られる。」(【0191】)、
「以上の光学素子を偏心させることは、撮像光学系だけでなく、表示光学系、観察光学系等にも適用できる。」(【0197】)、
「また、撮像素子、表示素子、光学素子の偏心は、一つの値に限ることなく、可変ミラーの変形と共にこれらの偏心量を変化させても良い。」(【0198】)、
「そのためには、例えば図44に示す電子撮像系のように、レンズ群630をある状態での光軸613に対して傾斜あるいはシフトさせた軸631に沿って動かすようにしても良い。可変ミラー409の変形量に応じてレンズ群630が動き、レンズ群630の軸631に対する偏心が変わる訳である。」(【0199】)

e 「最後に、本発明で用いる用語の定義を述べておく。」(【0302】)、
「光学装置とは、光学系あるいは光学素子を含む装置のことである。光学装置単体で機能しなくてもよい。つまり、装置の一部でもよい。」(【0303】)、
「光学装置には、撮像装置、観察装置、表示装置、照明装置、信号処理装置等が含まれる。」(【0304】)、
「撮像装置の例としては、フィルムカメラ、デジタルカメラ、ロボットの眼、レンズ交換式デジタル一眼レフカメラ、テレビカメラ、動画記録装置、電子動画記録装置、カムコーダ、VTRカメラ、電子内視鏡等がある。デジカメ、カード型デジカメ、テレビカメラ、VTRカメラ、動画記録カメラなどはいずれも電子撮像装置の一例である。」(【0305】)、
「観察装置の例としては、顕微鏡、望遠鏡、眼鏡、双眼鏡、ルーペ、ファイバースコープ、ファインダー、ビューファインダー等がある。」(【0306】)

(イ)上記(ア)の各記載によれば、乙9には次の発明(以下「乙9発明」という。)が記載されていると認められる。
「(【請求項3】)光学特性可変光学素子と、光学素子と、固定された画像面を有する光学装置において、光学特性可変光学素子の変化に伴う光学系の結像面の動きを補償するために、光学素子を偏心させて結像面を傾かせ、光学特性可変光学素子の変化に伴う結像面の傾き変化の範囲内に固定された画像面を設定した光学装置の
光学系であって、
(【0026】)光学特性可変光学素子が、可変形状鏡であり、可変形状鏡は、薄膜409aと電極409bとの間に圧電素子409cが介装されていて、これらが支持台423上に設けられている、
光学系。」

コ 乙10
本件優先日前に頒布された刊行物である乙10には、次の事項が記載されていると認められる。
a コリメートミラーの少なくとも一辺の中央部を支持し、該一辺の両端部を強制変位によって撓ませ、該撓みを利用して前記平行光束の歪曲収差を補正するように構成したこと(【請求項1】)、
b コリメートミラーの支持は、3点支持、5点支持、7点支持又は(3+2n)(nは整数)支持、他の方式があること(【0026】・【0032】)、
c 図2として次の図。


サ 乙11
本件優先日前に頒布された刊行物である乙11には、次の事項が記載されていると認められる。
a 取付構造、取付パッド及び他のアクチュエータの影響を含む、直径30インチ、厚さ1/2インチのミラーの静的変位を測定したこと(抄訳第1頁第13行?第15行)、
b 影響係数は、位相計測干渉計を用いて得られたミラーの干渉図より測定されたものであり、ミラーは、まず、アクティブオプティクス閉ループ制御システムを用いて位置合わせされ、制御システムを停止した後、一点の駆動ポイントに力を加えることにより、ミラーに圧力を加え、6328Åの光による縞状の干渉図より、ミラー上の全ての参照ポイントにおける変位を計測したこと(抄訳第1頁下から6行?下から2行)、
c ミラーエッジの周囲で、120度の間隔にて配置されたミラーの3つの支点については、参照面からの変位量はゼロであるとし、これら3つの支点が可能な限り等位相となるように、干渉計が傾けて配置されたこと(抄訳第3頁第7行?第9行)、
d 図3-3は、様々なアクチュエータ位置で1ポンドの力を加えることで変形したミラーの干渉図であること、


e 図3-4は、図3-3で1ポンドの力が加えられたアクチュエータの位置を示すものであること。


シ 乙12
本件優先日前に頒布された刊行物である乙12には、次の事項が記載されていると認められる。
a バイモルフミラーであって、図4のような19個の電極(1番が中央、2?7番が内環、8?19が外環)が設けられ、図4のように120度の間隔で配置された3本のデルリンピンで保持されたバイモルフミラー(抄訳第1頁の図4)、


b バイモルフミラーの各電極からの応答(波面)をShack-Hartmann波面センサで測定すること(抄訳第2頁の図5)、


c 内環にある6つの電極による波面は同じであるが、外環の電極による波面は明らかに相違しており、その応答性の相違は、主にチップ/チルトに係るツェルニケ係数の第2項及び第3項にあらわれること(抄訳第2頁第7行?第10行、第3頁の図6)、


d 3本のデルリンの取付ピンの近傍に配置された電極におけるツェルニケ係数の第2項の値は、2倍ほど小さくなっていたこと(抄訳第2頁第11行?第12行)。

ス 乙13
乙13は、本件出願の審査段階における平成23年4月5日提出の意見書である。

セ 乙14
本件優先日前に頒布された刊行物である乙14には、次の事項が記載されていると認められる。
顕微鏡の光学系を投影露光に適用した例(抄訳第2頁)。

ソ 乙15
本件優先日前に頒布された刊行物である乙15には、次の事項が記載されていると認められる。
露光用屈折投影レンズ群が、顕微鏡の分野で集積された経験から影響を受けていること(抄訳第1頁第10行?第11行)。

タ 乙16
本件優先日前に頒布された刊行物である乙16には、次の事項が記載されていると認められる。
微細パタンを形成する初期のUM光学レンズ系においては、典型的な顕微鏡対物レンズによる際だった特徴が示されていたこと(抄訳第1頁)。

チ 乙17
本件優先日前に頒布された刊行物である乙17には、次の事項が記載されていると認められる。
顕微鏡を投影光学系に置き換えること(第32頁第17行)。

(3)無効理由1(サポート要件違反)についての検討
ア 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ これを本件訂正発明について検討する。
本件明細書の記載(【0003】・【0004】・【0006】・【0010】)によれば、本件訂正発明の課題は、アクチュエータを使用して光学要素に力を与えて光学要素を曲げることにより所望の補正作用を行う光学系は、空間位置の変化ももたらす力を誘起するので、結像特性の望ましくない損傷が起こることであると認められ、本件訂正発明の目的は、光学要素の故意の変形による、こうした望ましくない結像の損傷を実質的に防止することであると認められる。
そして、本件訂正発明の課題解決手段は、本件訂正発明の「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ」を有することであると認められる。
そこで、上記課題解決手段により、上記課題を解決できると当業者が認識できるかどうかについて検討する。本件訂正発明の課題解決原理は、本件明細書の【0010】・【0012】・【0013】・【0032】等の記載からみて、少なくとも1つのマニピュレータを使用して、結像特性の損傷をもたらす光学要素の位置変化のうち、力の対称性が取り付けユニットにおける取り付けの対称性に整合されていないことにより生じる位置変化、により引き起こされた作用を補償することであると認められる。そして、この課題解決原理は、定性的観点からは、特段の不合理なく理解できるものであると認められ、さらに、定量的観点からも、光学分野の技術常識に照らせば、理論的、数値計算的に容易に具体化できるものと認められるため、特段の不合理さはない。
したがって、本件訂正発明の記載は、サポート要件に適合するというべきである。

ウ 被告の主張について
(ア)被告は、本件特許の請求項1に係る発明が、アクチュエータにより変形される光学要素とは別の光学要素をマニピュレータにより移動させる発明を包含するのであれば、サポート要件違反である旨主張している。(被告第3準備書面第2頁下から5行?第3頁末行、被告第4準備書面第2頁第4行?第4頁下から10行)
そこで、本件訂正を踏まえて検討する。
上記イで認定した課題解決原理は、定性的観点からは、アクチュエータにより変形される光学要素とは別の光学要素をマニピュレータにより移動させることによって、ただちに妥当しなくなるものではないということができる。加えて、定量的観点からみても、すなわち、別の光学要素をマニピュレータにより具体的にどのように移動させればよいかについても、上記の課題解決原理に基づく考え方がある以上、この考え方を踏まえ、さらに光学分野の技術常識に基づき、当業者が理論的、数値計算的に容易にこれを定めることができると認められる。そうすると、当該課題解決原理は、被告が主張する形態においても、引き続き妥当するといえる。
そして、上記の認定・判断は、本件明細書が、次の実施例のみ、すなわち、アクチュエータユニットにより変形されるミラー20と同一のミラーに対してマニピュレータ26によりその位置(傾き)が制御される実施例のみ、を開示しているとしても、左右されるものではない。また、上記の認定・判断は、投影対物レンズの技術分野において、結像特性を向上させることが容易ではない(被告第4準備書面第3頁下から6行?末行)としても、左右されるものではない。
したがって、被告の上記主張により、本件訂正発明の記載がサポート要件に違反するということはない。

(イ)被告は、本件明細書をみた当業者は、アクチュエータの駆動により結像収差が補正され、それに伴うミラーの傾きをマニピュレータで元に戻す(これにより、結像収差が補正された像のシフトを抑制する)技術思想が開示されていると理解するのが合理的であると主張し、その根拠として、本件明細書には、アクチュエータの駆動により結像収差が補正されることのみが開示されており、マニピュレータにより結像収差を補正することは何も示されていないし、アクチュエータの駆動により結像収差が補正された状態で、マニピュレータにより光学要素が移動されてしまうと、アクチュエータにより補正済みである結像収差が悪化することは明白であるから、あえてマニピュレータにより結像収差を補正する必要は皆無である点を挙げている。(被告第4準備書面第4頁下から9行?第5頁第10行)
被告の上記主張は、本件特許の請求項1の「前記変形に起因する前記光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するため」の「作用」に、結像収差が含まれるのであれば、マニピュレータにより結像収差を補正することがあり得ない以上、当該請求項1の記載はサポート要件違反であるとの趣旨と解される。
そこで、本件訂正を踏まえて検討する。
上記イで認定した課題解決原理は、定性的観点からは、上記「補償するための作用」に結像収差が含まれることによって、ただちに妥当しなくなるものではないということができる。加えて、定量的観点からみても、光学分野の技術常識に照らせば、本件訂正発明の「光学要素の位置変化」及びそれ「によって引き起こされた作用」を理論的ないし数値的に得ることは当業者にとって可能であると認められ、また、その作用を補償するために、どの光学要素をどのように位置変化させればよいのかについても、当業者は理論的ないし数値的に得ることができるものと認められる。そうすると、当該課題解決原理は、被告が主張する形態においても、引き続き妥当するといえる。
そして、上記の認定・判断は、本件明細書が、上記「補償するための作用」として結像収差を明記していないことによって、左右されるものではない。
したがって、被告の上記主張により、本件訂正発明の記載がサポート要件に違反するということはない。

エ 無効理由1についての小括
以上のとおりであるから、無効理由1は、本件訂正発明10,12?14に対して、理由がない。

(4)無効理由2(実施可能要件違反)についての検討
ア 上記(3)のとおり、本件訂正発明により、本件訂正発明の課題を解決できることを当業者は認識できる。そして、「少なくとも1つのマニピュレータ」を具体的にどのように移動させればよいのかについては、当業者が設計的に決定することができると認められる。
したがって、本件明細書は、本件訂正発明について、実施可能要件を満たしているというべきである。

イ 被告は、投影対物レンズの技術分野において、結像特性に関して非常に厳しい要求が課されており、結像特性を向上させることは容易ではないことにかんがみれば、変形したミラーの傾きを元に戻すという実施例のみが開示されているにすぎない本件明細書をみた当業者としては、当該変形したミラーと異なる光学部材を具体的にどのように動かせば、結像特性を向上させることができるのかを理解できず、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであることが明らかである旨主張している。(被告第4準備書面第5頁下から10行?第6頁第3行)
そこで、本件訂正を踏まえて検討すると、上記(3)イのとおり、本件訂正発明の課題解決原理は定性的に理解できるものであるから、本件明細書は、本件訂正発明を実施しようとする当業者に対して、一定の設計の指針を与えているということができる。そして、光学分野においては、理論的・数値計算的に設計が可能であることが技術常識であるから、上記の一定の設計の指針があれば、本件訂正発明を実施するに当たり、当業者に過度の試行錯誤を強いるとまではいえないというべきである。
したがって、被告の上記主張により、本件明細書の記載が実施可能要件に違反するということはない。

ウ 無効理由2についての小括
以上のとおりであるから、無効理由2は、本件訂正発明10,12?14に対して、理由がない。

(5)無効理由3(乙1に基づく進歩性欠如)についての検討
ア 本件訂正発明10について
(ア)乙1発明
上記(3)ア(イ)で認定した乙1発明を再掲すると以下のとおりである。
「(【請求項1】)第1の物体上に形成されたパターンを投影光学系を介して第2の物体上に結像させて露光する投影露光装置の投影光学系の波面測定方法において、該投影光学系を介して該第1物体面上の特定パターンの光強度分布を測定する光強度検出手段と、該光強度検出手段により検出された光強度分布を用いて、投影光学系の波面収差を算出する波面収差演算手段と、露光負荷、又は/及び環境変化などを測定してその値が一定値を超えた場合に投影光学系の波面収差を計測し、光学特性を制御する制御手段とを利用している波面収差測定方法
(【請求項14】)を利用している投影露光装置
の投影光学系であって、
(【請求項2】)前記投影光学系の波面収差を位相回復法を用いて計測しており、
(【請求項3】)前記波面収差に基づき前記投影光学系の光学特性を制御しており、
(【0078】・【0085】)上記位相回復法により求めた収差は、縮小投影レンズ1の一部又は全部を加熱、冷却する方法により制御することが可能であり、当該方法は、加熱、冷却することで縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形を生じさせて球面収差を変化させるものであって、
(【0090】)上記の方法を用いて球面収差を変化させると、多くの場合、球面収差以外の光学性能も同時に変化してしまうのでそれを制御する必要があり、これらの場合、縮小投影レンズ内の球面収差の制御に使っていないところの光学部材を移動したりして、球面収差以外で制御したい光学性能(例:球面収差、アス、コマ、倍率、ディストーション等)を制御する、
(【0001】)半導体素子を製造する等のリソグラフィ工程で使用される投影光学系の
(【請求項14】)投影露光装置
の投影光学系。」

(イ)本件訂正発明10と乙1発明との対比
a 乙1発明の「第1の物体上に形成されたパターンを投影光学系を介して第2の物体上に結像させて露光する投影露光装置」の「半導体素子を製造する等のリソグラフィ工程で使用される投影光学系」は、本件訂正発明10の「マイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ」に相当する。

b 乙1発明の上記「投影光学系」が、本件訂正発明10でいう「複数の光学要素」を備えることは明らかである。

c 乙1発明は、「上記位相回復法により求めた収差は、縮小投影レンズ1の一部又は全部を加熱、冷却する方法により制御することが可能であり、当該方法は、加熱、冷却することで縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形を生じさせて球面収差を変化させ」ているから、「該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる」物理的影響を「加える」物理的手段を備えている点で、本件訂正発明10が「該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ」を備えている点と一致するといえる。

d 乙1発明は、「加熱、冷却することで縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形を生じさせて球面収差を変化させる」という「方法を用いて球面収差を変化させると、多くの場合、球面収差以外の光学性能も同時に変化してしまうのでそれを制御する必要があり、これらの場合、縮小投影レンズ内の球面収差の制御に使っていないところの光学部材を移動したりして、球面収差以外で制御したい光学性能(例:球面収差、アス、コマ、倍率、ディストーション等)を制御する」ものである。
そうすると、乙1発明は、「前記変形に」関連した「作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータを有」するといえる。
また、乙1発明は、上記cをも踏まえると、「前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を」、「前記少なくとも1つの」物理的手段「によって加えられる」物理的影響「に応じて制御するコントローラを有する」といえる。

(ウ)一致点及び相違点の認定
上記(イ)によれば、本件訂正発明10と乙1発明とは、
「複数の光学要素と、
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる物理的影響を加える物理的手段と、を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズであって、
前記変形に関連した作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータを有し、
前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つの物理的手段によって加えられる物理的影響に応じて制御するコントローラを有する
投射対物レンズ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点3-1]
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる「物理的影響を加える物理的手段」が、
本件訂正発明10では、「機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ」であるのに対し、
乙1発明では、「加熱、冷却することで縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形を生じさせ」る手段であって、「機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ」ではない点。

[相違点3-2]
「前記変形に関連した作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ」における「前記変形に関連した作用」が、
本件訂正発明10では、「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用」であるのに対し、
乙1発明では、「加熱、冷却することで縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形を生じさせて球面収差を変化させる」という「方法を用いて球面収差を変化させると、多くの場合、球面収差以外の光学性能も同時に変化してしまう」という作用である点。

[相違点3-3]
「前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つの物理的手段によって加えられる物理的影響に応じて制御するコントローラ」の「前記少なくとも1つの物理的手段によって加えられる物理的影響」が、
本件訂正発明10では、「前記少なくとも1つのアクチュエータによって加えられる前記力」であるのに対し、
乙1発明は、「縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形を生じさせて球面収差を変化させる」ための「加熱、冷却」である点。

(エ)相違点の判断
a 相違点3-1及び相違点3-3について
これらの相違点は、要するに、乙1発明が採用している「縮小投影レンズ1内の光学部材の物理的変形を生じさせて球面収差を変化させる」ために「加熱、冷却」している構成につき、これに代えて、アクチュエータにより機械的力を加える構成を採用すれば解消することになる。
そこで検討すると、光学部材に物理的変形を生じさせて球面収差を変化させるに際して、その物理的変形をアクチュエータにより機械的力を加えることによって得ることは周知技術(乙2・乙3・乙7・乙8)である。そうすると、当業者は、乙1発明において上記周知技術を採用して相違点3-1及び相違点3-3に係る構成に容易に至るというべきである。

b 相違点3-2について
(a)上記(3)で認定した乙1?乙12の記載事項からみて、相違点3-2に係る構成のうち、特に「前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合」を開示する証拠は、次のとおり、存在しない。
なお、乙13は、本件優先日以後に作成された文書であるし、上記の「対称性」の「不整合」が本件優先日における技術常識であることを示すものでもない。

乙1?乙9は、少なくとも、「該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性」がどうなっているのかが不明であるため、上記の「対称性」の「不整合」を開示するとはいえない。

乙10は、「該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性」と「前記機械的力の対称性」の双方を開示するけれども、両者の「対称性」の「不整合」を開示しない。
すなわち、乙10は、コリメートミラーの支持の仕方を具体的に開示しており、例えば、図2では、「支持部材21」と、2つの「支持部材22」のちょうど真ん中を通過する直線からなる対称線を観念することができるから、その対称線についての「取り付けの対称性」を開示する。
さらに、乙10は、コリメートミラーに対して強制変位を与える位置を具体的に開示しているところ、例えば、図2でいえば、強制変位を与える箇所が2箇所あり、その対称線が、「支持部材21」と、2つの「支持部材22」のちょうど真ん中を通過する直線であることを観念することができるから、その対称線についての「機械的力の対称性」を開示する。
しかしながら、両者の対称線は同一であるから、両者の「対称性」は「整合」していることになる。乙10が具体的に開示する他の例も同様である。

乙11は、「該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性」を開示するけれども、「前記機械力の対称性」を開示しているとはいえず、よって、両者の「対称性」の「不整合」を開示しているとはいえない。
すなわち、乙11は、薄膜ミラーの支持の仕方を具体的に開示しており、その支持の仕方は、120度の間隔にて配置された3点支持である(上記(3)サc)から、3本の対称線を観念することができ、よって、その対称線についての「取り付けの対称性」を開示する。
他方、乙11は、薄膜ミラーに力を加える複数のアクチュエータを開示している(同サd)。しかしながら、当該複数のアクチュエータのうち、力を加えるのは一点のみである(同サb)から、乙11が「前記機械的力の対称性」を開示しているとは言い難い。
よって、乙11は、両者の「不整合」を開示しているとはいえないことになる。

乙12は、「該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性」を開示するけれども、「前記機械力の対称性」を開示しているとはいえず、よって、両者の「不整合」を開示しているとはいえない。
すなわち、乙12は、バイモルフミラーを、乙11と同様に、120度の間隔で配置された3本のデルリンピンで保持するものである(上記(3)シa)から、3本の対称線を観念することができ、よって、その対称線についての「取り付けの対称性」を開示する。
他方、乙12は、バイモルフミラーに力を加える19個の電極を開示している(同シa)。しかしながら、当該各電極のうち、電圧を印加するのは一つのみである(同シb)から、乙12が「前記機械的力の対称性」を開示しているとは言い難い。
よって、乙12は、両者の「不整合」を開示しているとはいえないことになる。

(b)したがって、乙1発明に乙1?乙12に記載された事項を適用しても、相違点3-2の構成に至らない。

(c)これに対し、被告は、乙1?乙8が本件特許の請求項1に係る発明の「前記変形に起因する前記光学要素の位置変化」を開示することや、乙10?乙13からみて、光学部材が変形すれば当該光学部材の位置が変化する(傾きが発生する)ことは当然の事柄であるから、光学部材の変形による作用(例えば収差のずれ)を補償することは、当該変形により光学部材の位置変化による作用を補償することと同義である旨主張している。(被告第4準備書面第6頁第5行?第11頁下から7行)
そこで、本件訂正を踏まえて検討する。
「前記変形に起因する前記光学要素の位置変化」は、本件訂正により、「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化」と訂正される。そして、この訂正は、上記(1)のとおり、「前記光学要素の位置変化」を、「前記変形に起因する」もののうち、「前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる」ものに限定するものである。
そうすると、本件訂正後の「前記変形に起因する・・・光学要素の位置変化」との特定事項を、被告が主張するように解する余地、すなわち、「光学要素」が「変形」すれば当該「光学要素」の「位置変化」が当然に生じることが特定されているにすぎないと解する余地は、もはや存しないというべきである。
したがって、本件訂正発明10について、被告の主張を採用することはできない。

(d)仮に、乙10?乙12が、上記の「対称性」の「不整合」を開示するものであったとしても、当業者が、乙1発明において、相違点3-2の構成に容易に至ることはない。
すなわち、当業者が乙1発明に基づいて当該構成に至るためには、乙1発明に乙10?乙12に記載された事項を適用した上で、さらに、乙10?乙12における上記の「対称性」の「不整合」「によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用」を、「少なくとも1つのマニピュレータ」によって「補償する」ことが容易想到であるとの論理構成をとる必要がある。しかしながら、乙10?乙12は、上記の「対称性」の「不整合」「によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用」を「少なくとも1つのマニピュレータ」によって「補償する」ことまでを開示するものではない。そうすると、上記論理構成は、いわゆる容易の容易にほかならず、よって、相違点3-2の容易想到性を根拠付けることはないというべきである。

(e)したがって、当業者が、乙1発明において相違点3-2に係る構成に容易に想到するとはいえない。

c 本件訂正発明10についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明10は、乙1発明及び乙1?乙12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明12?14について
本件訂正発明12?14も、本件訂正発明10と同様に、[相違点3-2]を有するものである。
したがって、本件訂正発明12?14は、本件訂正発明10と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 無効理由3についての小括
以上のとおりであるから、無効理由3は、本件訂正発明10,12?14に対して、理由がない。

(6)無効理由4(乙9に基づく進歩性欠如)についての検討
ア 本件訂正発明10について
(ア)乙9発明
上記(3)ケ(イ)で認定した乙9発明を再掲すると以下のとおりである。
「(【請求項3】)光学特性可変光学素子と、光学素子と、固定された画像面を有する光学装置において、光学特性可変光学素子の変化に伴う光学系の結像面の動きを補償するために、光学素子を偏心させて結像面を傾かせ、光学特性可変光学素子の変化に伴う結像面の傾き変化の範囲内に固定された画像面を設定した光学装置の
光学系であって、
(【0026】)光学特性可変光学素子が、可変形状鏡であり、可変形状鏡は、薄膜409aと電極409bとの間に圧電素子409cが介装されていて、これらが支持台423上に設けられている、
光学系。」

(イ)本件訂正発明10と乙9発明との対比
a 乙9発明の「光学系」は、「画像面」ないし「結像面」を有するから、本件訂正発明10の「複数の光学要素」「を有する」「対物レンズ」に相当することが明らかである。

b 乙9発明の「可変形状鏡」は、本件訂正発明10の「変形させ」られる「該複数の光学要素の少なくとも1つ」に相当する。
また、乙9発明の「可変形状鏡」の「薄膜409aと電極409bとの間に」「介装されてい」る「圧電素子409a」は、本件訂正発明10の「該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ」に相当する。

c 乙9発明は、「光学特性可変光学素子の変化に伴う光学系の結像面の動きを補償するために、光学素子を偏心させて結像面を傾かせ」るものであるから、「前記変形に」関連した「作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータを有」するといえる。
また、乙9発明が、「前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータによって加えられる前記力に応じて制御するコントローラを有する」ことも明らかである。

(ウ)一致点及び相違点の認定
上記(イ)によれば、本件訂正発明10と乙9発明とは、
「複数の光学要素と、
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータと、
を有する対物レンズであって、
前記変形に関連した作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータを有し、
前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータによって加えられる前記力に応じて制御するコントローラを有する
対物レンズ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点4-1]
「対物レンズ」が、
本件訂正発明10では、「マイクロリソグラフィのための投影対物レンズ」であるのに対し、
乙9発明では、そうではない点。

[相違点4-2]
「前記変形に関連した作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ」における「前記変形に関連した作用」が、
本件訂正発明10では、「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用」であるのに対し、
乙9発明では、「光学特性可変光学素子の変化に伴う光学系の結像面の動き」である点。

(エ)相違点の判断
a 相違点4-1について
乙9発明は、対物レンズを用いた光学系を開示するといえるところ、マイクロリソグラフィのための投影系も、対物レンズを用いた光学系としてごくありふれたものである(乙14?乙17)。
よって、乙9発明の「光学系」を、マイクロリソグラフィのための投影対物対物レンズとすることに格別の困難性はないというべきである。

b 相違点4-2について
相違点4-2は、無効理由3で検討した相違点3-2と同様であるから、上記(5)ア(エ)bと同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものではない。

c 本件訂正発明10についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明10は、乙9発明及び乙1?乙12、乙14?乙17に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明12?14について
本件訂正発明12?14も、本件訂正発明10と同様に、[相違点4-2]を有するものである。
したがって、本件訂正発明12?14は、本件訂正発明10と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 無効理由4についての小括
以上のとおりであるから、無効理由4は、本件訂正発明10,12?14に対して、理由がない。

(7)無効理由5(乙6に基づく進歩性欠如)についての検討
ア 本件訂正発明10について
(ア)乙6発明
上記(3)カ(イ)で認定した乙6発明を再掲すると以下のとおりである。
「(【請求項1】)第1物体のパターンを第2物体上に投影露光する投影光学系と、露光により前記投影光学系に生じる、前記投影光学系の光学特性の非回転対称性を、実質的に補正する補正手段とを有している投影露光装置の
投影光学系であって、
(【請求項22】)前記補正手段は、前記露光により生じる前記投影光学系による前記パターンの結像倍率の非回転対称性を補正し、更に、前記非回転対称性が補正された前記投影光学系の結像倍率を所望の倍率に調整する倍率調整手段を備えており、
(【請求項15】前記補正手段は、前記投影光学系の光学エレメントの面形状を変化させる面形状変更手段を備えており、
(【請求項16】)前記光学エレメントはミラーを含み、
(【請求項19】)前記面形状変更手段は、前記露光により前記光学エレメントに生じた面形状の非回転対称性を補正するものであり、
(【0131】)光軸に関して非回転対称な波面収差を補正し、回転対称な波面(収差)を供給する別の手段としては、投影光学系の凹面鏡,凸面鏡,平面鏡の反射面を裏面側から押したり引いたりしてアクチュエーター等で変形させる手段があり、
(【0058】)倍率の光軸に関する非回転対称性は補正されるが、この種の光学特性の予め決めた位置や値からのずれは残っているので、倍率のずれについては投影光学系の光学エレメントを光軸方向に移動して補正する、
(【請求項1】)投影露光装置の
投影光学系。」

(イ)本件訂正発明10と乙6発明との対比
a 乙6発明の「第1物体のパターンを第2物体上に投影露光する投影光学系」が、本件訂正発明10の「複数の光学要素」「を有するマイクロリソグラフィのための投影対物レンズ」に相当することは明らかである。

b 乙6発明の「面形状」が「変化させ」られる「ミラーを含」む「光学エレメント」が、本件訂正発明10の「変形させ」られる「該複数の光学要素の少なくとも1つ」に相当する。
そして、乙6発明の「光軸に関して非回転対称な波面収差を補正し、回転対称な波面(収差)を供給する別の手段」である「投影光学系の凹面鏡,凸面鏡,平面鏡の反射面を裏面側から押したり引いたりしてアクチュエーター等で変形させる手段」は、本件訂正発明10の「機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ」に相当する。

c 乙6発明は、「倍率の光軸に関する非回転対称性は補正されるが、この種の光学特性の予め決めた位置や値からのずれは残っているので、倍率のずれについては投影光学系の光学エレメントを光軸方向に移動して補正する」ものであるから、「前記変形に」関連した「作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータを有」するといえる。
また、乙6発明が、「前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータによって加えられる前記力に応じて制御するコントローラを有する」ことも明らかである。

(ウ)一致点及び相違点の認定
上記(イ)によれば、本件訂正発明10と乙6発明とは、
「複数の光学要素と、
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータと、
を有するマイクロリソグラフィのための投影対物レンズであって、
前記変形に関連した作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータを有し、
前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータによって加えられる前記力に応じて制御するコントローラを有する
投射対物レンズ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点5-1]
「前記変形に関連した作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ」における「前記変形に関連した作用」が、
本件訂正発明10では、「前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用」であるのに対し、
乙6発明では、「倍率の光軸に関する非回転対称性は補正されるが、この種の光学特性の予め決めた位置や値からのずれ」である点。

(エ)相違点の判断
a 相違点5-1について
相違点5-1は、無効理由3で検討した相違点3-2と同様であるから、上記(5)ア(エ)bと同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものではない。

b 本件訂正発明10についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明10は、乙6発明及び乙1?乙12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明12?14について
本件訂正発明12?14も、本件訂正発明10と同様に、[相違点5-1]を有するものである。
したがって、本件訂正発明12?14は、本件訂正発明10と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 無効理由5についての小括
以上のとおりであるから、無効理由5は、本件訂正発明10,12?14に対して、理由がない。

(8)独立特許要件の有無についての小括
以上のとおり、本件無効抗弁に係る無効理由は、本件訂正の独立特許要件を否定しない。そして、本件訂正につき、他に独立特許要件を否定する理由を発見しない。
したがって、本件訂正は、独立特許要件を満たしている。

第4 むすび
このように、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書、第5項、第6項及び第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光学要素と、
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、
を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、
前記変形に起因する前記光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有することを特徴とする投射対物レンズ。
【請求項2】
前記前記複数の光学要素の少なくとも1つは、前記少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)によって、前記複数の光学要素の少なくとも1つの対称軸に対して実質的に垂直な軸を中心にして傾斜することを特徴とする請求項1に記載の投射対物レンズ。
【請求項3】
前記光学要素は、前記球面ミラー(20)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の投射対物レンズ。
【請求項4】
前記少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)は、流体式に作動することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の投射対物レンズ。
【請求項5】
前記少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)は、流体式に作動することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の投射対物レンズ。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、前記少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)は、共に、同時に流体式に作動するように、流体圧力システム(40;40’)に接続されることを特徴とする請求項4又は5に記載の投射対物レンズ。
【請求項7】
前記圧力システム(40’)は、前記少なくとも1つのアクチュエータ(430;530)に印加される前記流体圧力の変化が、好ましくは、前記少なくとも1つのマニピュレータ(426a、426b、426c;526a)に印加される前記流体圧力の変化を自動的にもたらすように設計されることを特徴とする請求項6に記載の投射対物レンズ。
【請求項8】
前記少なくとも1つのマニピュレータ(426a、426b)は、前記圧力システムにおいて前記少なくとも1つのアクチュエータ(430)と直列に接続されることを特徴とする請求項7に記載の投射対物レンズ。
【請求項9】
前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータ(430)によって加えられる前記力に応じて調節するレギュレータ(42’)を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の投射対物レンズ。
【請求項10】
複数の光学要素と、
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、
を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、
前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、
前記複数の光学要素の少なくとも1つの前記位置変化を、前記少なくとも1つのアクチュエータ(330)によって加えられる前記力に応じて制御するコントローラ(40)を有することを特徴とする投射対物レンズ。
【請求項11】
圧力変動によって生じる変形を、伝送要素(55)を介して前記少なくとも1つのマニピュレータ(526b)に伝達する弾性補償要素(48)が、前記少なくとも1つのアクチュエータ(530)につながる圧力ライン(556)内に一体化されることを特徴とする請求項4に記載の投射対物レンズ。
【請求項12】
複数の光学要素と、
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、
を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、
前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、
前記少なくとも1つのマニピュレータ(526b)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つに直接係合することを特徴とする投射対物レンズ。
【請求項13】
複数の光学要素と、
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、
を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、
前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、
前記少なくとも1つのマニピュレータ(126a、126b;226a、226b)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つを含むホルダ(122a、122b;222a、222b)に係合することを特徴とする投射対物レンズ。
【請求項14】
複数の光学要素と、
該複数の光学要素の少なくとも1つを変形させることができる機械的力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、
を有するマイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)であって、
前記変形に起因する、前記機械的力の対称性と該変形される光学要素の取り付けユニットにおける取り付けの対称性との間の不整合によって引き起こされる該光学要素の位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させる少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)を有し、
前記少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;426a、426b、426c;526、526b、526c)は、前記複数の光学要素の少なくとも1つを含むホルダ(22a、22b、22c)が支持されるフレーム(24)に係合することを特徴とする投射対物レンズ。
【請求項15】
前記複数の弾性補償要素(48a、48b)は、圧力ライン(44)に一体化され、圧力変化が起こった場合に、前記弾性補償要素内に形成される前記変形力が、相互に、少なくとも実質的に補償されるように、互いに対して配列されることを特徴とする請求項4又は5に記載の投射対物レンズ。
【請求項16】
圧力投入ライン(44)に共に接続され、圧力放出ライン(44’)に共に接続される2つの補償要素(48a、48b)は、互いに向き合って位置するように配列されることを特徴とする請求項15に記載の投射対物レンズ。
【請求項17】
マイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ(10)の光学特性を補正する方法であって、投射対物レンズは、複数の光学要素と、該光学要素の少なくとも1つを変形させることができる少なくとも1つのアクチュエータ(30;130;330;430;530)と、を有しており、
少なくとも1つのマニピュレータ(26a、26b、26c;126a、126b;226a、226b;326a、326b、326c;426a、426b、426c;526b)によって、前記変形に起因する前記光学要素の少なくとも1つの位置変化によって引き起こされた作用を補償するために、前記複数の光学要素の少なくとも1つを自動的に位置変化させることを特徴とする方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-10-10 
結審通知日 2018-10-12 
審決日 2018-10-24 
出願番号 特願2006-553476(P2006-553476)
審決分類 P 1 41・ 856- Y (H01L)
P 1 41・ 841- Y (H01L)
P 1 41・ 854- Y (H01L)
P 1 41・ 855- Y (H01L)
P 1 41・ 851- Y (H01L)
P 1 41・ 857- Y (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐野 浩樹  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 西村 直史
山村 浩
登録日 2011-07-08 
登録番号 特許第4776551号(P4776551)
発明の名称 マイクロリソグラフィ投射露光装置の投射対物レンズ  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
代理人 下地 健一  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 下地 健一  

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