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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06F
管理番号 1346517
審判番号 不服2017-7079  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-17 
確定日 2018-11-19 
事件の表示 特願2015-130349「カルバミドおよび/またはその少なくとも1種の誘導体を含む洗浄剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日出願公開、特開2015-212396〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下、「本件出願」という。)は、2010年3月17日(パリ条約による優先権主張2009年3月17日 (EP)欧州特許庁、2009年6月9日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2012-500144号の一部を平成27年6月29日に新たな特許出願としたものであって、出願後の手続きの経緯の概略は、以下のとおりである。
平成28年 3月17日付け 拒絶理由通知
平成28年 9月27日 意見書及び手続補正書提出
平成28年10月 6日付け 却下理由通知(上記手続補正書に係る
手続の却下)
平成29年 2月15日付け 手続却下の処分
平成29年 2月20日付け 拒絶査定
平成29年 5月17日 審判請求書及び手続補正書提出
平成29年 7月21日付け 前置報告
平成30年 2月 1日付け 当審における拒絶理由通知
平成30年 5月 1日 意見書及び手続補正書提出
第2 本願発明
本件出願の請求項1ないし13に係る発明は、平成30年5月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は、次のとおりのものである
「【請求項1】(a)10?60重量%の洗浄成分剤としてのカルバミドと、
(b)合計で10?60重量%のアルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩の形で現出する1種以上の電解質と、
(c)合計で0.1?30重量%の1種以上の界面活性剤(サーファクタント)と、
(d)合計で0.01?20重量%の2個以上の結合部位を含み多価金属イオンで錯化合物が形成する1種以上の錯化剤と、及び、
(e)合計で0.01?10重量%までのリパーゼ及び/又はプロアテーゼの酵素と、
を含む織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用。」
第3 当審における拒絶理由の概要
当審において、平成30年 2月 1日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)のうち、本願発明に対する拒絶理由は、以下のとおりである。

「理由1.(サポート要件)本件出願は、本願発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3.(実施可能要件)本件出願は、明細書が本願発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」

第4 当審拒絶理由の理由1の妥当性についての判断
1.はじめに
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否か、すなわち、特許法第36条第6項第1号に係る規定に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)から、以下、当該観点に立って検討する。
2.本願発明の詳細な説明の記載事項
本願発明の詳細な説明には、次の記載事項(以下、「摘記ア」のようにいう。)がある。
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、5?99.9重量%のカルバミドおよび/またはその1種以上の誘導体を含む洗浄剤の使用に関し、とりわけ閉じた系用の洗浄剤として、特に食器洗浄機用合成洗剤、洗濯機用の洗濯合成洗剤(とりわけ、織物を洗浄するための)、食品加工業での装置および医療装置を洗浄し、衛生化および/または消毒するための薬剤として、手で洗う食器洗浄合成洗剤または除菌剤として、またはハンドクリーナー(手を洗うための)としての洗浄剤に関する。」
イ.「【0003】
食器洗浄機用の合成洗剤、洗濯機用の洗濯合成洗剤、手で洗う食器洗浄合成洗剤および除菌剤のような閉じた系用の洗浄剤は、ほとんど全ての家庭で使用されている薬剤である。国際公開第2007/141257号公報に記載されているような現代的な食器洗浄合成洗剤は、普通、界面活性剤、合成洗剤ビルダー、漂白剤および酵素を重要な成分として含んでいる。」
ウ.「【0005】
酵素は、閉じた系用の現代的な洗浄剤、食器洗浄合成洗剤または衛生クリーナー中の他の成分と比べると比較的高価である。高価な酵素を使用しているにもかかわらず、食器洗浄合成洗剤のような現代的な洗浄剤の洗浄効果は、それを満足するだけでしかないことが多い。さらに、酵素の使用には、たとえば、食器洗浄合成洗剤はある温度およびpH値の範囲内でしか使用することができないことや、特に長時間の保存の場合に安定性の問題が起こる可能性がある、といった欠点もしばしば伴う。最後に、もし制御できない量の酵素が廃水に入ると、環境の点を考えた場合、問題である。その上、酵素を含有する製品の製造および使用中の酵素の取り扱いは、問題がある(たとえば、アレルギーの可能性)。」
エ.「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、先に記載した欠点を減らすことである。
特に本発明の目的は、高い洗浄効果を発揮する、たとえば閉じた系用の洗浄剤、手で洗う食器洗浄合成洗剤または除菌剤を提供することである。高い洗浄効果があるにもかかわらず、洗浄剤、食器洗浄合成洗剤または除菌剤は、表面を損傷しない。さらに、該洗浄剤は、広いpH値範囲(中性、アルカリ性、酸性)での使用が可能となる。
【0008】
食器洗浄合成洗剤の場合、本発明のさらなる目的は、特に15℃?70℃または15℃?80℃の広い温度範囲にわたって使用することができ、かつできるだけ広い温度範囲で有益な洗浄効果を達成する薬剤を提供することである。該洗浄剤は、家庭用食器洗浄機および業務用食器洗浄機のどちらにも使用することができるべきである。さらに、該洗浄剤は、ガラスにやさしい洗浄を提供すべきである。」
オ.「【0011】
本発明の洗浄剤におけるカルバミドの使用による重要な貢献は、洗浄分野でのカルバミドの使用の増加を通し、工業的生産中におけるCO_(2)ガスの結合、洗浄剤としての使用および、無害の塩(特に、炭酸塩類および重炭酸塩類)として自然界へ廃棄することを介して、環境保護されることです。
【0012】
さらに、環境およびコストの理由から、従来の洗浄剤に通常使用されている酵素および漂白剤の量を減らすことができるようにすべきである。
【0013】
生分解性および/または生物再生利用可能性のある物質、特にEN ISO14593:199(CO_(2)ヘッドスペース試験)による生分解性物質だけが、好ましく使用される。
【0014】
予想外に、本発明の目的は、カルバミド(尿素)濃度が高い洗浄剤を提供することにより解決しうる。
さらに、本発明の目的は、カルバミド(尿素)を洗浄剤として使用することにより解決しうる。 」
カ.「【0017】
さらに、本発明は、たとえば閉じた系での洗浄剤中の、特に、食器洗浄機用合成洗剤、洗濯機用の洗濯合成洗剤、食品加工業での装置または医療装置を洗浄する、衛生化するおよび/または消毒する薬剤、手で洗う食器洗浄合成洗剤、または除菌剤中の酵素を減らすまたはなくす方法であって、酵素含有洗浄剤、酵素含有洗濯合成洗剤または酵素含有除菌剤中のある量の酵素を、その量の5?50倍の量のカルバミドおよび/またはその1種以上の誘導体で置き換えることを特徴とする方法に関する。」
キ.「【0023】
食器洗浄合成洗剤は、15?65重量%のカルバミドを含むのが好ましく、とりわけ粉末食器洗浄合成洗剤については、30?60重量%のカルバミドを含むのが好ましい。
【0024】
衛生クリーナーは、10?40重量%、とりわけ10?30重量%のカルバミドを含むのが好ましい。
【0025】
これらの多量とは対照的に、従来の食器洗浄合成洗剤および除菌剤では、カルバミドは、添加剤として少量で使用されていた。たとえば、ドイツ特許公報第19923943A1号は、カルバミドを微生物促進有機物質として、約0.5重量%の量で使用する除菌剤を開示している。しかしこの場合、カルバミドは、洗浄効果を改善し、先に記載した目的を解決するためには使用されていなかった。」
ク.「【0039】
本発明によれば、本発明の薬剤を、食器洗浄機または洗濯機のような閉じた系用の洗浄剤として、食品工業における装置および医療装置を洗浄し、衛生化するおよび/または消毒するための薬剤として、食器洗浄合成洗剤として、または除菌剤として、使用することができる。」
ケ.「【0057】
錯化剤は、2個以上の結合部位を持つ試薬である。錯化剤は、それによって、多価金属イオンとともに、特に安定な錯化合物を形成することができる。錯化剤の例として、ニトリロトリアセテート(NTA)、エチレンジアミノトリアセテート(TED)、エチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)、メチルグリシンジアセテート(MGDA)(たとえば、トリロン(Trilon)M))、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩および/またはクエン酸塩があり、とりわけそれらのナトリウム塩が好ましい。また、クエン酸塩/クエン酸が電解質(および/またはpH調整剤)として使用される場合、前記錯化剤は、所定の量で存在するのが好ましい。
【0058】
錯化剤のさらなる例として、ポリアクリル酸およびその塩類(たとえば、ソカラン(Sokalan)PA30CL、ナトリウム塩として完全に中和された低分子量ポリアクリル酸)および天然の多糖アルギネートおよびその塩がある。
【0059】
そのような錯化剤のほとんどは、合成洗剤クリーナー中、他の電解質型の添加剤とともに、一般名「ビルダー」にまとめられることが多い。」
コ.「【0065】
前記錯化剤および以下の電解質型薬剤は、カルバミドの観察される洗浄効率をサポートすることができる適切なビルダーであると考えることができる。」
サ.「【0082】
本発明による薬剤は、薬剤の総重量に対して、0.1?90重量%、より好ましくは1?70重量%(たとえば、5?70重量%)、さらにより好ましくは5?60重量%の電解質を含む。
【0083】
粉末または液体形態に応じて、食器洗浄合成洗剤は、5?60重量%の電解質を含むのが好ましい。
【0084】
衛生クリーナーは、5?90%の電解質を含むのが好ましい。
【0085】
硫酸ナトリウムまたは塩化ナトリウムのような塩類は、たとえばイオン強度のような物理化学的パラメータに影響し、(たとえば、タンパク質および炭水化物中の)分子間および分子内結合の破壊における性能に従って使用されるべき薬剤の洗浄活性に有益である可能性がある。
【0086】
電解質は、アルカリ塩またはアルカリ土類塩が好ましく、より好ましくはアルカリ塩であり、とりわけナトリウム塩が好ましい。例として、硫酸ナトリウムまたは塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウムなどがある。アニオンの錯化および/またはpH調整性能に従って、pH調整緩衝系に加えて、好ましくは、クエン酸三ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを使用する(たとえば、クエン酸/水酸化ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウム/重炭酸ナトリウム)のが好ましい。したがって、好ましい一実施形態では、電解質の少なくとも一部は、pH値を調整することができる物質(pH調整剤)の1種以上であってもよい。そのようなpH調整剤は、洗浄剤の適切なpH値を調整するために(または、薬剤が固体形態の場合は、該薬剤の1モル溶液のpH値を調整するために)使用される。
【0087】
食器洗浄合成洗剤の場合、pH値は、7?12、特に8?11に設定されるのが好ましい。
【0088】
この場合、pH調整剤は、アルカリ化剤が好ましい。アルカリ化剤は、好ましくは、塩基性アルカリ塩および/またはアルカリ土類塩および/またはアルカリおよび/またはアルカリ土類水酸化物の形態で利用可能である。これらの化合物のうち、アルカリ金属としてはナトリウムが好ましい。有効なアルカリ化剤が炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)と炭酸ナトリウムとの混合物を含む場合、特に好ましい。炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)との混合物が、約2?4、特に2.8?3.3重量部の炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)が、2重量部の炭酸ナトリウムに加えられるように混合されている場合、特に有益な結果が達成される。この混合物は、次いで、約8?11、特に約9?10のpH領域に調整することができる。」
シ.「【0098】
本発明によれば、カルバミド(尿素)だけ(100%)の使用で、驚くべき良好な洗浄性能およびガラスおよび食器の輝きを発揮する。
【0099】
カルバミドによる洗浄効率は、電解質の添加により、大きく増加する。とりわけ、硫酸ナトリウムおよび/または塩化ナトリウムのような天然塩の使用、またはクエン酸三ナトリウムの使用および/または炭酸ナトリウムおよび重炭酸ナトリウムの塩基性緩衝混合物の使用は、有益である。
【0100】
界面活性剤の添加により、洗浄活性が向上し、とりわけ、食器類からの油脂の除去が向上する。」
ス.「【実施例】
【0119】
Industrieverband Korperpflege-und Waschmittel e.V.[ドイツ化粧品、化粧用品、香水および洗剤協会(German Cosmetic, Toiletry, Perfumery and Detergent Association)]の品質勧告に基づいて、2つの試験シリーズを行った。試験シリーズAは、食器洗浄合成洗剤としての本発明による薬剤の有益な特性を示し、試験シリーズBは、衛生便器クリーナーとしての本発明による薬剤の有益な特性を示す。
【0120】
試験シリーズA:食器洗浄合成洗剤
【0121】
A1:方法
食器洗浄合成洗剤を、食器洗浄機用合成洗剤の洗浄力を測定する方法、IKW(Industrieverband Korperpflege und Waschmittel e.V.), Frankfurt a.M.; SOFW-Journalの増刷版, 124. Volume11/98)に従って試験した。」
セ.「【0144】
A5:検討
要約すれば、本発明による製剤の洗浄力は、参照標準に相当し、それを超えることが多いと述べるべきである。また、本発明によれば、酵素を大きく減らすことができ、あるいは完全になくすことができることを実証していた。
試験シリーズB:衛生便器洗浄剤
【0145】
B1:方法
Industrieverband Korperpflege-und Waschmittel e.V.[ドイツ化粧品、化粧用品、香水および洗剤協会](IKW、洗浄剤およびケア製品部(IKW、Department Cleaning Agents and Care Products))の品質勧告に基づいて、酸性便器洗浄剤の品質を評価する比較試験方法を開発した。衛生便器洗浄剤を、Industrieverband Korperpflege-und Waschmittel e.V. (IKW)、洗浄剤およびケア製品部、 Frankfurt a.M. (1999 Version)の、酸性便器洗浄剤の品質評価/品質推奨の品質評価のための推奨に従って試験した。」
ソ.「【0162】
C.さらなる実施例:
C1:食器洗浄合成洗剤」
3.本願発明が解決しようとする課題
本願発明は、「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用」に係るものであるところ、本件出願の発明の詳細な説明には、「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用」における課題については、明瞭に記載されていない。
しかしながら、本件出願の「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤」は「閉じた系用の洗浄剤」の一例であるところ(上記ア、イ、カ及びク参照)、本件出願の発明の詳細な説明における【発明が解決しようとする課題】には、「閉じた系用の洗浄剤」に関して、「本発明の目的は、先に記載した欠点を減らすことである。特に本発明の目的は、高い洗浄効果を発揮する、たとえば閉じた系用の洗浄剤・・・を提供することである。高い洗浄効果があるにもかかわらず、洗浄剤・・・は、表面を損傷しない。さらに、該洗浄剤は、広いpH値範囲(中性、アルカリ性、酸性)での使用が可能となる。」(摘記エ参照)と記載されている。
そして、本件出願の発明の詳細な説明における【背景技術】には、「酵素は、閉じた系用の現代的な洗浄剤、食器洗浄合成洗剤または衛生クリーナー中の他の成分と比べると比較的高価である。高価な酵素を使用しているにもかかわらず、食器洗浄合成洗剤のような現代的な洗浄剤の洗浄効果は、それを満足するだけでしかないことが多い。さらに、酵素の使用には、たとえば、食器洗浄合成洗剤はある温度およびpH値の範囲内でしか使用することができないことや、特に長時間の保存の場合に安定性の問題が起こる可能性がある、といった欠点もしばしば伴う。最後に、もし制御できない量の酵素が廃水に入ると、環境の点を考えた場合、問題である。その上、酵素を含有する製品の製造および使用中の酵素の取り扱いは、問題がある(たとえば、アレルギーの可能性)。」(摘記ウ参照)と記載されていることからみて、上記「先に記載した欠点」は、酵素を使用することに基づく、コスト、使用条件、安定性、環境の点での問題などの欠点であると解される。
また、「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用」という用途限定がある以上、その用途に適したものとすることは本願発明における自明の課題といえる。
したがって、本願発明の課題は、「酵素を使用することに基づく、コスト、使用条件、安定性、環境の点での問題などの欠点を減らして、高い洗浄効果を発揮し、高い洗浄効果があるにもかかわらず、表面を損傷せず、広いpH値範囲(中性、アルカリ性、酸性)での使用が可能となる織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用方法を提供する」(以下、「本願発明の課題」という。)ことであると認められる。
4.判断
本願発明は、上記第2のとおりである。
そして、本願発明に係る「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤」は、
「(a)10?60重量%の洗浄成分剤としてのカルバミドと、
(b)合計で10?60重量%のアルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩の形で現出する1種以上の電解質と、
(c)合計で0.1?30重量%の1種以上の界面活性剤(サーファクタント)と、
(d)合計で0.01?20重量%の2個以上の結合部位を含み多価金属イオンで錯化合物が形成する1種以上の錯化剤と、及び、
(e)合計で0.01?10重量%までのリパーゼ及び/又はプロアテーゼの酵素と、
を含む」組成物からなる合成洗剤(以下、「本願発明の合成洗剤」という)である。
ここで、本願発明の合成洗剤の各成分の役割についてみてみると、本件出願の発明の詳細な説明には、上記(a)成分(カルバミド)及び(e)成分(酵素)に関して、「本発明は、たとえば閉じた系での洗浄剤中の・・・ある量の酵素を、その量の5?50倍の量のカルバミドおよび/またはその1種以上の誘導体で置き換えることを特徴とする方法に関する。」(摘記カ参照)、「本発明の目的は、カルバミド(尿素)濃度が高い洗浄剤を提供することにより解決しうる。」(摘記オ参照)、「さらに、本発明の目的は、カルバミド(尿素)を洗浄剤として使用することにより解決しうる。」(摘記オ参照)と記載されている。
一方、上記(b)?(d)成分に関して、本件出願の発明の詳細な説明には、「前記錯化剤および以下の電解質型薬剤は、カルバミドの観察される洗浄効率をサポートすることができる適切なビルダーであると考えることができる。」(摘記コ参照)、「カルバミドによる洗浄効率は、電解質の添加により、大きく増加する。」(摘記シ参照)、「界面活性剤の添加により、洗浄活性が向上し、とりわけ、食器類からの油脂の除去が向上する。」(摘記シ参照)と記載されていることから、これらは上記(a)成分(カルバミド)の洗浄効果を高めるという補助的な役割のために使用されているものと認められる。
よって、本願発明は、酵素を高い濃度の上記(a)成分(カルバミド)で置き換え、さらに上記(b)?(d)成分を添加して、「本願発明の合成洗剤」を構成し、これを「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤」として使用することによって、上記本願発明の課題を解決することを目的とするものであると解することができる。
しかしながら、本件出願の発明の詳細な説明には、「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤」に関して、「本発明は、・・・洗濯機用の洗濯合成洗剤(とりわけ、織物を洗浄するための)・・・に関する。」(摘記ア参照)、「本発明は、たとえば閉じた系での洗浄剤中の、特に、洗濯機用の洗濯合成洗剤・・・方法に関する。」(摘記カ参照)、「本発明によれば、本発明の薬剤を、食器洗浄機または洗濯機のような閉じた系の洗浄剤として、・・・使用することができる。」(摘記ク参照)といった一般的な記載があるにとどまり、「本願発明の合成洗剤」を「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用方法」に用いた具体例が全く記載されていない。また、本件出願の原出願の出願日時点における技術常識では、カルバミドが洗浄効果等を有するかについては不明であったところ(例えば、摘記キの【0025】参照)、本件出願の発明の詳細な説明では、酵素に代えてカルバミドを用いた場合の洗浄効果等のメカニズムについては明らかにしていない。してみると、「本願発明の合成洗剤」が「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用方法」に適しているかは明らかでなく、ましてや当該用途に適用した場合に「高い洗浄効果を発揮し、高い洗浄効果があるにもかかわらず、表面を損傷せず、広いpH値範囲(中性、アルカリ性、酸性)での使用が可能となる洗剤を提供」できるのかは全く不明といわざるを得ない。
一方、本件出願の実施例をみてみると、「食器洗浄合成洗剤」、「衛生便器洗浄剤」に関しては、酵素を高い濃度の上記(a)成分(カルバミド)で置き換え、さらに上記(b)?(d)成分を添加した「本願発明の合成洗剤」を用いて、特定の汚れを有する食器や衛生便器に対する洗浄効果等について確認した例が示されている(摘記ス?ソ参照)。けれども、「食器洗浄合成洗剤」や「衛生便器洗浄剤」と、「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤」とでは、洗浄や汚れの対象物、洗浄方法等が大きく異なることから、用いる洗剤(洗浄剤)組成物の構成は大きく異なるものであり、逆に同じ洗剤(洗浄剤)組成物を用いても同様の効果を期待することができないというのが、本件出願の原出願の出願日時点における技術常識である。しかるに、これらの実施例をもって、「本願発明の合成洗剤」が「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用方法」にも適しているかは明らかでなく、ましてや当該用途に適用した場合に「高い洗浄効果を発揮し、高い洗浄効果があるにもかかわらず、表面を損傷せず、広いpH値範囲(中性、アルカリ性、酸性)での使用が可能となる洗剤を提供」できるかは全く不明である。
以上の通りであるから、「本願発明の合成洗剤」を「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用方法」に用いた場合に、上記本願発明の課題を解決することができるとは認められない。
よって、本件出願の原出願の出願時の技術常識に照らしても、本件出願の発明の詳細な説明に開示された事項を本願発明にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。
5.請求人の主張についての検討
請求人は、平成30年5月1日に提出の意見書において、本願発明の課題に関して、
『本願発明1(当審注:当該意見書における「本願発明1」が本審決における「本願発明」に相当することは明らかであり、以下同様である。)の主たる課題は、「有益な洗浄効果を達成すること」ではなく、電解質の高配合によってカルバミドの洗浄効果を向上させ、もって「界面活性剤の配合量を減らすこと(毒物学的な問題の回避)」です。つまり、本願発明1の主たる課題は、洗浄効果の改善ではなく、環境負荷の低減であります。』」
と述べ、当該課題の解決は、本件出願の発明の詳細な説明の記載により示唆されている旨主張している。
しかしながら、請求人は、本願発明の課題が、なぜ、「電解質の高配合によってカルバミドの洗浄効果を向上させ、もって「界面活性剤の配合量を減らすこと(毒物学的な問題の回避)」、つまり、洗浄効果の改善ではなく、環境負荷の低減である」と認定できるのか、その根拠について何ら説明していない。なお、念のため、本件出願の発明の詳細な説明における電解質や界面活性剤などに関する記載(上記ケ?シ参照、)を見てみると、一応電解質の配合によるカルバミドの洗浄効果向上についての言及はあるが(摘記コ及びシ参照)、本願発明の課題との関係は明らかではなく、また界面活性剤の配合量の低減についての記載は見当たらない。
一方、発明の詳細な説明は、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段」その他当業者が発明の意義を理解するために必要な事項の記載が義務づけられているものである(特許法施行規則24条の2)ところ、本件出願の発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】として、「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤」を一例とする「閉じた系用の洗浄剤」に関して、「本発明の目的は、先に記載した欠点を減らすことである。特に本発明の目的は、高い洗浄効果を発揮する、たとえば閉じた系用の洗浄剤・・・を提供することである。高い洗浄効果があるにもかかわらず、洗浄剤・・・は、表面を損傷しない。さらに、該洗浄剤は、広いpH値範囲(中性、アルカリ性、酸性)での使用が可能となる。」(摘記エ参照)と記載されているのであるから、原則として、技術常識を参酌しつつ、当該記載に基づいて本願発明の課題を認定するのが相当といえる。しかるに、本願発明の課題については、上記3のとおり認定するのが妥当であると認められる。
よって、請求人の上記主張は採用の限りでなく、拒絶理由を解消する根拠となり得ない。
6.小括
したがって、本件出願は、本願発明が本件出願の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 当審拒絶理由の理由3の妥当性についての判断
本願発明は、「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤の使用」に係るものであるが、上記第4の4に記載のとおり、本件出願の発明の詳細な説明には、「本願発明の合成洗剤」を用いた「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤」は記載も示唆もされておらず、また本件出願の原出願の出願日時点における技術常識に照らしても、「本願発明の合成洗剤」が「織物を洗浄するための洗濯機用の洗濯合成洗剤」に使用できるかは明らかでない。
したがって、本件出願は、明細書が本願発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件出願は、その余の請求項についての拒絶理由に関して判断するまでもなく、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-25 
結審通知日 2018-06-29 
審決日 2018-07-10 
出願番号 特願2015-130349(P2015-130349)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
P 1 8・ 536- WZ (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古妻 泰一  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
冨士 良宏
発明の名称 カルバミドおよび/またはその少なくとも1種の誘導体を含む洗浄剤の使用  
代理人 永井 義久  
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