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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A01N 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A01N 審判 全部申し立て 2項進歩性 A01N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A01N 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 A01N 審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正 A01N |
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管理番号 | 1346743 |
異議申立番号 | 異議2017-701140 |
総通号数 | 229 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-01-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-01 |
確定日 | 2018-10-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6145360号発明「水処理剤組成物、水処理剤組成物の製造方法および水処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6145360号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?5]について訂正することを認める。 特許第6145360号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6145360号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年8月28日を出願日として特許出願され、平成29年5月19日に特許権の設定登録がされ、同年6月7日にその特許公報が発行され、同年12月1日に、その請求項1?5に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 加古 順一(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 3月 1日付け 取消理由通知 同年 4月27日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 6月 5日付け 通知書 同年 7月 5日 意見書(特許異議申立人) 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成30年4月27日に訂正請求書を提出し、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。 その訂正内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1が「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、 アゾール化合物と、 がpH13.2以上で配合されていることを特徴とする水処理剤組成物。」であるのを、 訂正後の請求項1の「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、 アゾール化合物と、 がpH13.2以上で配合されている水処理剤組成物であって、 前記臭素系酸化剤が、臭素であり、 前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり、 前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩であることを特徴とする水処理剤組成物。」と訂正する (審決注:下線は訂正部分を示す。以下同様。)。 (2)訂正事項2 訂正前の明細書の段落【0011】の「本発明は、臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と;アゾール化合物と;がpH13.2以上で配合されている水処理剤組成物である。」との記載を、 訂正後の明細書の段落【0011】の「本発明は、臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と;アゾール化合物と;がpH13.2以上で配合されている水処理剤組成物であって、前記臭素系酸化剤が、臭素であり、前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり、前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩である、水処理剤組成物である。」に訂正する。 2 訂正の適否 (1)一群の請求項ごとに訂正を請求すること及び明細書の訂正に係る請求項について 訂正後の請求項1?5に対応する訂正前の請求項1?5について、請求項2?5は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?5に対応する、訂正後の請求項1?5は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。 また、訂正事項2に係る明細書についての訂正は、前記訂正事項1に係る訂正により特許請求の範囲の訂正前の請求項1が訂正され、それに連動して訂正前の請求項2?5が訂正されたことに伴い、不整合となった明細書の記載を訂正後の請求項1?5に係るもの全てについて訂正したものであるから、前記明細書についての訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定を満たすものである。 (2)訂正事項1 ア 訂正の目的の適否 訂正事項1の「水処理剤組成物であって、前記臭素系酸化剤が、臭素であり、前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり、前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩である」とする事項は、「水処理剤組成物」について、臭素系酸化剤を臭素、臭素化合物を臭化ナトリウム、及び、塩素系酸化剤を次亜塩素酸又はその塩に、それぞれ限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無 訂正事項1のうち、「前記臭素系酸化剤が、臭素であり」とする事項については、特許登録時の明細書等に「【0023】臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)・・が挙げられる」と記載されている。 訂正事項1のうち、「前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり」とする事項については、特許登録時の明細書等に「【0025】臭素化合物としては、臭化ナトリウム・・が挙げられる」と記載されている。 訂正事項1のうち、「前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩である」とする事項については、特許登録時の明細書等に「【0026】塩素系酸化剤としては、・・次亜塩素酸またはその塩・・が挙げられる」と記載されている。 そうすると、訂正事項1の「前記臭素系酸化剤が、臭素であり、前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり、前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩である」とする事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものといえる。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否 前記アで述べたとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲の拡張・変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項2 ア 訂正の目的の適否 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明における不整合となった記載を整合するよう正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の有無 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、訂正された特許請求の範囲の記載との対応関係が不整合となった明細書の記載を整合するよう正すものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 前記アで述べたとおり、訂正事項2は、明瞭でない記載を釈明するものであるから、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1又は3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?5]についての訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正により訂正された特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、 アゾール化合物と、 がpH13.2以上で配合されている水処理剤組成物であって、 前記臭素系酸化剤が、臭素であり、 前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり、 前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩であることを特徴とする水処理剤組成物。 【請求項2】請求項1に記載の水処理剤組成物であって、 前記臭素系酸化剤として臭素と、前記スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と;前記アゾール化合物と;がpH13.2以上で配合されていることを特徴とする水処理剤組成物。 【請求項3】請求項2に記載の水処理剤組成物であって、 前記水処理剤組成物中の臭素酸濃度が5mg/kg未満であることを特徴とする水処理剤組成物。 【請求項4】請求項2または3に記載の水処理剤組成物の製造方法であって、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程を含むことを特徴とする水処理剤組成物の製造方法。 【請求項5】請求項1?3のいずれか1項に記載の水処理剤組成物を用いて水を処理することを特徴とする水処理方法。」 第4 取消理由の概要 1 特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要 本件発明1?5に対して特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下のとおりである。 理由1:訂正前の請求項1?5に係る発明は、以下(1)?(3)の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (1)訂正前の請求項1に記載の「臭素系酸化剤」、「活性臭素」及び「スルファミン酸化合物」、並びに、訂正前の請求項2に記載の「臭素」については、それぞれ定義がなされておらず、各用語の違いを理解することができず、不明確である。また、当該「活性臭素」については、甲第1?4号証に異なる定義が存在し、多様に解釈され得るから、不明確である。 甲第1号証:特許第4557435号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特許第5784595号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:特開2000-167565号公報(以下「甲3」という) 甲第4号証:特許第4427250号公報(以下「甲4」という。) (2)訂正前の請求項1に記載の「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」について、 「臭素系酸化剤、または臭素化合物」を意味するのか、 「臭素系酸化剤、または(臭素化合物と塩素系酸化剤との)反応物」を意味するのか、 「臭素系酸化剤、または(臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である)活性臭素」を意味するのか、いずれを意味するのか分からず、不明確である。 (3)訂正前の請求項1に記載の「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、アゾール化合物と、がpH13.2以上で配合されている」「水処理剤組成物」(審決注:下線は当審が付与。以下同様。)について、水処理剤組成物のpHが常時13.2以上であるものを意味するのか、配合時に一時でもpH13.2以上の状態を経ていれば水処理剤組成物のpHが13.2以上ではないものも含むのか、明らかでなく、不明確である。 さらに、配合時に一時でもpH13.2以上の状態を経ていれば水処理剤組成物のpHが13.2以上ではないものも含む場合、当該水処理剤組成物はプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当し(甲第5号証)、不明確である。 甲第5号証:特許庁ホームページ,[online],平成28年9月28日「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査の取扱いについて」インターネットURL:https://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/product_process_C151125.htm(以下「甲5」という。) 理由2:訂正前の請求項1?5に係る発明は、以下の点で、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。 平成28年12月15日付け手続補正による補正は、請求項1において改行を削除したことにより、理由1(3)で述べたように「または」のかかる意味を不明確にし、多義的に解釈されることにより、結果として特許請求の範囲を拡張するから、本件特許の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 理由3:訂正前の請求項1?5に係る発明は、以下の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 訂正前の請求項1に記載の「次亜臭素酸の安定化組成物」における活性臭素として、液体臭素以外の「臭素系酸化剤」及び「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」が包含されている訂正前の請求項1に係る「水処理剤組成物」は、その全体に渡って課題を解決できるとはいえないから、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用して特定されている訂正前の請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。 理由4:訂正前の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された甲第6?9号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条の規定に違反してなされたものであるから、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第6号証:特表2005-519089号公報(以下「甲6」という) 甲第7号証:特開2006-83135号公報(以下「甲7」という。) 甲第8号証:特開2010-90107号公報(以下「甲8」という。) 甲第9号証:特開2010-63998号公報(以下「甲9」という。) 理由5:訂正前の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された甲第6?13号証に記載された発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第6?9号証:理由4で示したとおりである。 甲第10号証:特開2013-136609号公報(以下「甲10」という。) 甲第11号証:特表平11-506139号公報(以下「甲11」という。) 甲第12号証:特開2002-1353号公報(以下「甲12」という) 甲第13号証:特開2003-146817号公報(以下「甲13」という。) 2 平成30年3月1日付けで当審が通知した取消理由の概要 訂正前の請求項1及び5に係る発明に対して、平成30年3月1日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 理由1:訂正前の請求項1及び5に係る発明は、以下(1)?(3)の点で、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないため、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (1)訂正前の請求項1に記載の「臭素系酸化剤」について、臭素系酸化剤の具体例がいくつか例示されているものの(【0023】)、「臭素系酸化剤」の定義はなく、「臭素系酸化剤」として具体的にどのようなものまで含まれるのか、明らかではない。 (2)訂正前の請求項1に記載の「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」について、この「反応物」の原料である「臭素化合物」及び「塩素系酸化剤」について、特許登録時の明細書等には「臭素化合物」又は「臭素系酸化剤」の具体例がいくつか例示されているものの(【0025】、【0026】)、定義はなく、「臭素化合物」及び「塩素系酸化剤」が、それぞれ具体的にどのようなものまで含むのか明らかでない。 それ故、訂正前の請求項1に記載の「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」は、結果としてどのようなものまで含むのか、明らかでない。 (3)訂正前の請求項1に記載の「活性臭素」について、特許登録時の明細書等には「活性臭素」の供給源の具体例が例示されているにとどまり(【0022】)、「活性臭素」自体の定義はない。 加えて、「臭素系酸化剤、または、臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である」「活性臭素」は、前記(1)及び(2)より、その供給源である「臭素系酸化剤」及び「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」がどのようなものまで含むのか明らかでない。 したがって、訂正前の請求項1に記載の「活性臭素」は、結果としてどのようなものまで含むのか明らかでない。 以上(1)?(3)より、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用して特定されている訂正前の請求項5に係る発明は、明確でない。 理由2:訂正前の請求項1及び5に係る発明は、以下の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 訂正前の請求項1に記載の「次亜臭素酸の安定化組成物」における活性臭素として、液体臭素以外の「臭素系酸化剤」及び「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」が包含されている訂正前の請求項1に係る「水処理剤組成物」は、その全体に渡って課題を解決できるとはいえないから、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用して特定されている訂正前の請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。 なお、当審が通知した取消理由1(1)は、特許異議申立人が申し立てた取消理由1(1)と同じであり、当審が通知した取消理由2は、特許異議申立人が申し立てた取消理由3と同じである。 第5 当審の判断 当審は、本件発明1?5は、当審の通知した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 また、特許異議申立人が申し立てた取消理由によっても、取り消すことはできないと判断する。 理由は以下のとおりである。 1 平成30年3月1日付けで当審が通知した取消理由についての判断 (1)取消理由の理由1(特許法第36条第6項第2号)に対して 平成30年3月1日付けで当審が通知した取消理由の理由1に対し、前記第2 1(1)に記載の訂正事項1の訂正がなされ、本件発明1となった。 そこで、取消理由の概要の理由1で指摘した事項を踏まえつつ、本件発明1?5が明確であるか、以下検討する。 ア 前記第4 2(1)に関して、本件発明1の「臭素系酸化剤」は「臭素」であるから、明確といえる。 イ 前記第4 2(2)に関して、本件発明1の「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」について、「臭素化合物」は「臭化ナトリウム」(NaBr)であり、「塩素系酸化剤」は「次亜塩素酸またはその塩」(HOClまたはその塩)である。 そうすると、「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」は、塩素系酸化剤が次亜塩素酸の場合には、NaBr+HOCl→NaOBr+HCl という化学反応式により反応物が生成されることは技術常識であり、次亜塩素酸塩の場合には、例えばナトリウム塩の場合、NaBr+NaOCl→NaOBr+NaClという化学反応式により反応物が生成されることは技術常識であり、いずれも反応物はNaOBr(次亜臭素酸ナトリウム)と理解できるから、明確といえる。 ウ 前記第4 2(3)に関して、本件発明1の「活性臭素」は、「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」と特定されており、「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」は、前記イより、NaOBr(次亜臭素酸ナトリウム)と理解できるから、明確といえる。 エ 平成30年7月5日付け意見書に記載の特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、当該意見書2頁「(1)第36条第6項第2号(明確性)について」の「(1-2)」において、請求項1に記載の「活性臭素」とは、請求項1に規定されているとおり、原料である「臭化ナトリウム」及び「次亜塩素酸またはその塩」を用いて反応させた物に限定して解釈すべきか、それとも、プロダクトバイプロセスクレームと解して、「臭化ナトリウムと次亜塩素酸またはその塩との反応」により生じ得る反応物と同じ組成を示すと推認されるあらゆる反応物である「活性臭素」であると解釈すべきなのか明らかでない旨、主張している。 しかしながら、前記ウで述べたように、本件発明1の「活性臭素」は、「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」と特定されており、「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」は、前記イで述べたように、NaOBr(次亜臭素酸ナトリウム)と理解できるから、本件発明1の「活性臭素」はNaOBr(次亜臭素酸ナトリウム)である。 このように、「活性臭素」は明確であって、特許異議申立人が主張するように複数解釈する余地はない。 したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。 オ 以上、ア?エより、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、明確であるといえ、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないということはできない。 したがって、本件発明1?5についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 (2)取消理由の理由2に対して ア 本件発明1が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の段落【0002】?【0009】の【背景技術】の記載、段落【0010】の【発明が解決しようとする課題】の記載、段落【0043】?【0060】の実施例の記載、発明の詳細な説明のその他の記載からみて、無機系スライム系コントロール剤のスライムコントロール性能の著しい低下(酸化力の著しい低下)を抑制しつつ、無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、アゾール化合物とを一剤化した場合であっても、アゾール化合物の分解を抑制し得る水処理剤組成物を提供することであると認められる。 イ 本件訂正により、本件発明1は、理由2の対象となる「臭素系酸化剤」「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」という発明特定事項が、「前記臭素系酸化剤が、臭素であり」、 「前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり」及び「前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩である」と訂正された。 ウ まず、本件発明1において、「臭素系酸化剤」である「臭素」について検討すると、実施例1-1、1-2及び4?7(【0055】?【0056】)で、液体臭素を用いて実施しており、前記課題を解決し得ることが示されている。 次に、本件発明1において、「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」である「臭化ナトリウムと次亜塩素酸またはその塩との反応物」について検討すると、実施例2及び8(【0055】?【0056】)で、臭化ナトリウムと次亜塩素酸塩との反応物を用いて実施しており、前記課題を解決し得ることが示されている。 ところで、表1(【0055】)には、実施例2[本件発明1において「臭化ナトリウムと次亜塩素酸またはその塩との反応物」を用いた実施例]と比較例1[本件発明1において「臭素」を用いた比較例]とが示されており、アゾール残留率について比較例1(84%)の方が実施例2(82%)より優れていることが記載されている。 そこで、この点について、一応検討すると、実施例2と比較例1とは、水処理剤組成物の水、NaOH、組成物A又はBの配合組成(重量%)が異なるため、単純にアゾール残留率の値のみを取り出して両者を対比すべきものではない。そして、組成物の物性で示された全体について検討を進めると、実施例2の酸化剤濃度(遊離臭素濃度)は、比較例1の酸化剤濃度(遊離臭素濃度)の約2倍あって、アゾール化合物を非常に分解し易いものであるにも関わらず、アゾール残存率が比較例1の残存率とほぼ同程度であることが示されており、アゾール化合物の分解を抑制しているといえ、次亜臭素酸塩とアゾール化合物とを一剤化することに成功していることが示されているといえる。 したがって、実施例2及び比較例1を含む表1(【0055】)を参照しても、前記課題を解決できたといえる。 エ 平成30年7月5日付け意見書に記載の特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、当該意見書5頁「(2)第36条第6項第1号(サポート要件)について」において、要すれば、本件発明1の課題は、無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、アゾール化合物とを一剤化した場合であっても、アゾール化合物の分解を一定以上抑制し得る水処理剤組成物を提供することと認定するのが自然である、故に、実施例2の水処理剤組成物は本件発明1の課題を解決しておらず、本件発明1はサポート要件を満たしていない旨、主張する。 しかしながら、前記ウで述べたとおり、本件発明1の実施例として表1(【0055】)に示されている組成物の物性で示された全体について検討すると、次亜臭素酸塩とアゾール化合物とを一剤化することに成功していることが示されているといえ、前記アに記載の課題を解決できているといえる。 オ したがって、発明の詳細な説明には、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5が記載されているといえ、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。 よって、本件発明1?5についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 2 平成30年3月1日付けの取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由について (1)特許異議申立人が申し立てた理由1(特許法第36条第6項第2号)について ア 「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」について 請求項1の「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」という記載は、その文脈や発明の詳細な説明及び技術常識を踏まえると、「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」と解するのが自然であって、不明確であるとはいえない。 イ 「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、アゾール化合物と、がpH13.2以上で配合されている」「水処理剤組成物」について 請求項1の記載からみて、「臭素系酸化剤」、または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、アゾール化合物と、が配合されている水処理剤組成物のpHが13.2以上であるものであって、明確である。そして、特許異議申立人が主張するようなプロダクト・バイ・プロセス・クレームには該当しない。 ウ 平成30年7月5日付け意見書に記載の特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、当該意見書2頁「(1)第36条第6項第2号(明確性)について」、 (ア)「(1-1)」において、請求項1に記載の「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、」の文言は、a)の解釈(平成29年12月1日付け異議申立書における<ケース3>に該当)を採用せざるを得ないが、液体臭素が強アルカリ水溶液である組成物A中に存在し得るか否か判然とせず、技術常識からみて液体臭素が存在しないと解するのが一般的な理解であるから、a)の解釈にも矛盾があり、本件発明1の実施例である[組成物A]の記載を参酌してもなお不明確である。 請求項1の「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、」なる記載内容を、実施例[組成物A]及び[組成物B]を参酌して「変更解釈」することは認められない。 (イ) 明確性についての新たな主張として、「(1-3)」において、請求項1に記載の「次亜臭素酸の安定化組成物」が何を意味するものか、当業者といえども理解できず、不明確である、 旨を主張している。 しかしながら、前記(ア)については、前記ア(ア)で述べたとおりであり、不明確であるとはいえない。特許異議申立人は、強アルカリ水溶液の存在を前提とした主張をしているが、本件発明1は強アルカリ水溶液が特定されていないので、特許異議申立人の当該主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり、採用できない。 前記(イ)については、明確性についての新たな主張ではあるものの、念のため検討すると、特許請求の範囲に記載された「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む」「次亜臭素酸の安定化組成物」である限りにおいて、不明確な点があるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の前記主張を採用することはできない。 エ 以上、ア?ウより、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、明確であるといえ、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないということはできない。 したがって、本件発明1?5についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 (2)特許異議申立人が申し立てた理由2(特許法第17条の2第3項)について 平成28年12月15日付け手続補正による補正は、請求項1において改行を削除しているが、前記2(1)ア及びウで述べたように、本件発明1の「臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」とは、「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素」を意味すると解釈することが自然であって、明確といえ、多義的に解釈されず結果としても特許請求の範囲を拡張することはないから、本件特許の当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 したがって、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5に係る特許は、同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものではない。 (3)特許異議申立人が申し立てた理由4及び5(特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項)について ア 甲6を主引用文献とする場合 (ア) 甲6には、実施例(【0049】?【0050】)に、「殺生物剤D」として以下の発明が記載されていると認められる。 「13.2gの50%NaOH溶液を31.5gの水に加えることによってアルカリ溶液を調製し、このアルカリ溶液に9.6gのスルファミン酸を加え、スルファミン酸が完全に溶解してから42.4gのNaOCl溶液を加えて、安定化させた次亜塩素酸塩溶液を生成し、この後3gの45%NaBr水溶液を加えて、殺生物剤(以下、「殺生物剤C」と記載する)を得、この「殺生物剤C」に塩酸を加えてpHを7.5に調整した後、水酸化ナトリウム溶液を使用して、黄色を維持しながら、この溶液をpH13.5に調整して得られた殺生物剤D」(以下「甲6発明」という。) (イ) 本件発明1と甲6発明とを対比すると、以下の点で相違する。 甲6の相違点:水処理剤組成物において、本件発明1には、アゾール化合物が含まれているのに対し、甲6発明には、アゾール化合物が含まれていない点 (ウ) 新規性について 甲6の相違点は、実質的な相違点であることから、本件発明1は甲6発明と同一ではない。 したがって、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲6に記載された発明ではない。 (エ) 容易想到性について 甲6の段落【0043】及び【0044】に実施の態様として、甲6の請求項1に記載の殺生物剤の調製方法により得られる殺生物剤に対し腐食防止剤(トリルトリアゾール等が例示されている)を含むことができること、及び、実施例7(【0091】?【0098】)に、殺生物剤(臭化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム及びスルファミン酸の組成物でpH7.8±2)に腐食防止剤として有機ホスフェートを加えたことが記載されている。 しかし、実施例7の殺生物剤は最終的にpH7.8±2に調整されているもの(【0092】)であり、本件発明1のpH13.2以上のものとは異なるものである。また、腐食防止剤として加えているものは、有機ホスフェートであり、アゾール化合物とは異なるものである。 一般に、腐食防止剤としてのアゾール化合物は、酸化剤が共存すると酸化剤によって分解され、分解による有効成分濃度の低下で防食効果が低下し、冷却水系の配管等の腐食で寿命短縮に至るという問題があることは、甲12の段落【0003】の記載より、本願出願前周知事項であったと認められる。 それ故、いくら甲6に、殺生物剤(臭化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム及びスルファミン酸の組成物pH7.8±2)に腐食防止剤として有機ホスフェートを加えた実施例があり、腐食防止剤としてトリルトリアゾール等が例示されていたからといって、殺生物剤のpHが13.2以上である甲6発明に、腐食防止剤として有機ホスフェートに代えてアゾール化合物を適用する動機付けがあるとはいえず、甲6発明にアゾール化合物を含ませることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、特許異議申立人が副引用文献として提出した甲10?13には、以下のことが記載されている。 甲10には、実施例4(【0044】)に、スルファミン酸ナトリウムに塩化臭素を加えpH13.5に調製した水の殺菌剤組成物が記載されている。 甲11には、請求項1に、a.次亜塩素酸塩の水溶液を臭素イオン源と混合する段階と、b.臭素イオン源と次亜塩素酸塩を反応させて次亜臭素酸塩水溶液を形成する段階と、c.次亜臭素酸塩の安定化されていない溶液に、アルカリ金属のスルファミン酸塩の水溶液を添加する段階とを含む、安定化された水性のアルカリ金属の次亜臭素酸塩の溶液の製造方法が記載され、その実施例4(24?26頁)には、次亜臭素酸ナトリウムの溶液はpH14で維持されたことが記載されている。 甲12には、段落【0003】に、次亜塩素酸のような酸化剤に防食剤としてのアゾール類を併用すると酸化剤によりアゾール類は分解され、分解による有効成分濃度の低下で防食効果が低下し、冷却水系の配管等の腐食で寿命短縮に至るという問題があることが記載されている。 甲13には、請求項3に、塩素系酸化剤、アゾール系化合物及びスルファミン酸若しくはその塩を含有しpH13以上である殺菌殺藻剤組成物が記載され、段落【0004】に、塩素系酸化剤とスルファミン酸又はその塩を含有する殺菌殺藻剤組成物のpHを13以上とすることにより、塩素系酸化剤の分解を抑制することができることが記載されている。 これらの副引用文献の記載をみても、甲6発明にアゾール化合物を含ませることを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲6に記載された発明及び甲7?13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 イ 甲7を主引用文献とする場合 (ア) 甲7には、「実施例5」(【0101】?【0102】)に以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリマレイン酸(スケール防止剤)4%、ベンゾトリアゾール(銅用防錆剤)1%、水酸化ナトリウム(安定化剤)3%、臭化ナトリウム2%及びハイドロキサン3%を含み、pH10.0以上に調整された、製剤」(以下「甲7発明」という。) (イ) 本件発明1と甲7発明とを対比すると、以下の点で相違する。 甲7の相違点1:水処理剤組成物のpHが、本件発明1では13.2以上であるのに対し、甲7発明では、10.0以上である点 甲7の相違点2:水処理剤組成物において、本件発明1には、スルファミン酸化合物が含まれているのに対し、甲6発明には、スルファミン酸化合物が含まれていない点 甲7の相違点3:塩素系酸化剤が、本件発明1では次亜塩素酸またはその塩であるのに対し、甲7発明ではテトラクロロデカオキサイド[TCDO (Cl_(4)O_(10)^(2-)):「ハイドロキサン」含有の有効成分(【0060】)]である点 (ウ) 新規性について 甲7の相違点1、甲7の相違点2及び甲7の相違点3は、実質的な相違点であることから、本件発明1は甲7発明と同一ではない。 したがって、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲7に記載された発明ではない。 (エ) 容易想到性について 甲7の相違点1について、甲7には「【0039】TCDOと臭化物を予め水中で混合しておく場合においては、これらが混合される水のpHは9?12、好ましくは10?11である。・・またpHが12を超えると被処理水のpHを9以上に押し上げることもあり、その場合には被処理液中での次亜臭素酸類への転化率が低下することもあるので好ましくない」と記載されており、甲7発明の「pH10.0以上に調整」において、pH12以上とすることに阻害要因があるといえる。 甲7の相違点2について、甲7には「【0009】また、臭素酸生成の問題を解決すべく、スルファミン酸塩化合物を安定化剤として、事前に次亜塩素酸塩と臭化物とを混合し、安定な次亜臭素酸塩を製造しておく方法(特許文献4及び5参照)があるが、この方法では臭素酸の生成も少なくはなるが、被処理水に残存したスルファミン酸塩の濃度が25mg/L程度を越えてくると添加されてくる次亜臭素酸塩までも安定化させてしまい、次亜臭素酸塩の殺菌・殺微生物効果を封じ込めてしまうという問題が発生している」と記載されており、甲7発明の水処理剤組成物にスルファミン酸化合物を含有させることにも阻害要因があるといえる。 したがって、甲7発明のpHを13.2以上とすること、及び、甲7発明にスルファミン酸化合物を含有させることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、前記アで述べた甲10?甲13の記載をみても、甲7発明のpHを13.2以上とすること、及び、甲7発明にスルファミン酸化合物を含有させることを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、甲7の相違点3及び効果について検討するまでもなく、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲7に記載された発明及び甲6、8?13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 ウ 甲8を主引用文献とする場合 (ア) a 甲8には、請求項1に記載の殺菌殺藻剤組成物の実施例1に、「比較例1-1」(【0075】【表1】)として、以下の発明が記載されていると認められる。 「水30.0wt.%、NaOH8.0wt.%、12wt.%NaClO50.0wt.%、スルファミン酸12.0wt.%を含有し、pH13.6の殺菌殺藻剤組成物」(以下「甲8-1発明」という。) b 甲8にはさらに、請求項1に記載の殺菌殺藻剤組成物の実施例6に、「比較例6-1」(【0075】【表1】)として、以下の発明も記載されていると認められる。 「水12.5wt.%、臭化ナトリウム9.5wt.%、NaOH8.0wt.%、12wt.%NaClO50.0wt.%、4-スルファモイル安息香酸12.0wt.%を含有し、pH13.7の殺菌殺藻剤組成物」(以下「甲8-2発明」という。) (イ)a 本件発明1と甲8-1発明とを対比すると、以下の点で相違する。 甲8-1の相違点1:水処理剤組成物において、本件発明1には、臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素(NaBrO)が含まれているのに対し、甲8-1発明には、臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素(NaBrO)は含まれておらず、NaClOが含まれている点 甲8-1の相違点2:水処理剤組成物において、本件発明1にはアゾール化合物が含まれているのに対し、甲8-1発明にはアゾール化合物が含まれていない点 b 本件発明1と甲8-2発明とを対比すると、以下の点で相違する。 甲8-2の相違点1:水処理剤組成物において、本件発明1にはスルファミン酸化合物が含まれているのに対し、甲8-2発明には4-スルファモイル安息香酸が含まれている点 甲8-2の相違点2:水処理剤組成物において、本件発明1にはアゾール化合物が含まれているのに対し、甲8-2発明にはアゾール化合物が含まれていない点 (ウ) 新規性について 甲8-1の相違点1及び甲8-1の相違点2、並びに、甲8-2の相違点1及び甲8-2の相違点2は、いずれも実質的な相違点であることから、本件発明1は、甲8-1発明又は甲8-2発明と同一ではない。 したがって、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲8に記載された発明ではない。 (エ) 容易想到性について a 甲8-1発明について 甲8-1の相違点1について、甲8には、「【0013】本発明の目的は、屋外などに保管した場合でも、日光などの紫外線により有効塩素成分が分解されにくく、また被処理水に添加しても被処理水のpHを大幅に上昇させることなく、さらには比較的高濃度の有効塩素成分を含有することが可能な殺菌殺藻剤組成物を提供することにある」と記載されていることから、甲8は、有効塩素成分を含有する殺菌殺藻剤組成物を提供することを目的とするものである。 そのことは、甲8の実施例6及び比較例6との比較実験結果が示されている「【0127】[試験結果]試験結果を表11に示す。酸化剤として、塩素系酸化剤である次亜塩素酸Naを使用した場合(実施例6-1,6-2)は、安定な液体製剤が得られた。一方、酸化剤として、臭素系酸化剤である次亜臭素酸を使用した場合(比較例6-1,6-2)、実施例6-1または実施例6-2と同じ有効塩素濃度では、4-スルファモイル安息香酸を配合した時点で白色の沈殿が多量に生じ、安定な液体製剤は得られなかった。このことから、有効塩素濃度が比較的高い製剤にあっては、同濃度であっても、次亜塩素酸の場合は安定な液体製剤が得られるのに対して、次亜臭素酸の場合は安定な液体製剤が得られなかった」という記載からも理解される。 それ故、甲8-1発明において、有効塩素成分であるNaClOに代えて、臭素系酸化剤(NaBrO)を適用する動機付けはなく、阻害要因があるといえる。 したがって、甲8-1発明において、NaClOに代えて、臭素系酸化剤(NaBrO)を適用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、前記アで述べた甲10?甲13の記載をみても、甲8-1発明において、NaClOに代えて、臭素系酸化剤(NaBrO)を適用することを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、甲8-1の相違点2及び効果について検討するまでもなく、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲8に記載された発明及び甲6、7、9?13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 b 甲8-2発明について 甲8-2の相違点1について、甲8には背景技術として「【0006】・・酸化剤に安定剤を配合させた殺菌殺藻剤組成物の例としては、次亜塩素酸などの塩素系酸化剤にスルファミン酸またはその塩を含有させ、そのpHを13以上にする殺菌殺藻剤組成物が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。・・【0008】・・特許文献1、2のようなクロロスルファミン酸を含む殺菌殺藻剤組成物は、日光などの紫外線により分解されやすく、屋外で保管した場合に有効塩素成分が時間とともに分解してしまい、殺菌殺も効果が低下してしまう、という問題点がある」と記載され、かつ、「【0034】・・塩素系酸化剤と、スルファモイル安息香酸誘導体とを共存させることにより、屋外の薬液タンクなどに保管していても、日光などの紫外線により有効塩素成分が分解されにくいため、殺菌殺藻効果が低下しにくい」と記載されている。 それ故、甲8-2発明において、4-スルファモイル安息香酸に代えて、スルファミン酸化合物を適用するには、阻害要因があるといえる。 したがって、甲8-2発明において、4-スルファモイル安息香酸に代えて、スルファミン酸化合物を適用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、前記アで述べた甲10?甲13の記載をみても、甲8-2発明において、4-スルファモイル安息香酸に代えて、スルファミン酸化合物を適用することを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、甲8-2の相違点2及び効果について検討するまでもなく、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲8に記載された発明及び甲6、7、9?13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 エ 甲9を主引用文献とする場合 (ア) 甲9には、請求項1に記載の分離用スライム防止剤組成物の実施例4に、「比較例1-4」(【0064】【表4】)として、以下の発明が記載されていると認められる。 「水30.0wt.%、NaOH8.0wt.%、12wt.%NaClO50.0wt.%、スルファミン酸12.0wt.%を含有し、pH13.6の分離用スライム防止剤組成物」(以下「甲9発明」という。) (イ) 本件発明1と甲9発明とを対比すると、以下の点で相違する。 甲9の相違点1:水処理剤組成物において、本件発明1には、臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素(NaBrO)が含まれているのに対し、甲9発明には、臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素(NaBrO)は含まれておらず、NaClOが含まれている点 甲9の相違点2:水処理剤組成物において、本件発明1にはアゾール化合物が含まれているのに対し、甲9発明にはアゾール化合物が含まれていない点 (ウ) 新規性について 甲9の相違点1及び甲9の相違点2は、いずれも実質的な相違点であることから、本件発明1は、甲9発明と同一ではない。 したがって、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲9に記載された発明ではない。 (エ) 容易想到性について 甲9の相違点1について、甲9には、「【0018】本発明では、塩素系酸化剤とスルファモイル安息香酸およびその誘導体のうち少なくとも1つとを含有することにより、あるいは、塩素系酸化剤と、スルファモイル安息香酸およびその誘導体のうち少なくとも1つとの反応により得られる結合塩素剤を含有することにより、殺菌力が十分高く、使用方法が簡便で、膜劣化や膜後段の水質の悪化をほとんど引き起こすことなく、保存安定性の高い分離膜用スライム防止剤組成物・・を提供することができる」ものであり、塩素系酸化剤を必須の構成要素とする発明である。 それ故、甲9発明において、NaClOに代えて、臭素系酸化剤(NaBrO)を適用する動機付けはなく、阻害要因があるといえる。 したがって、甲9発明において、NaClOに代えて、臭素系酸化剤(NaBrO)を適用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、前記アで述べた甲10?甲13の記載をみても、甲9発明において、NaClOに代えて、臭素系酸化剤(NaBrO)を適用することを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、甲9の相違点2及び効果について検討するまでもなく、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲9に記載された発明及び甲6?8、10?13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 オ 平成30年7月5日付け意見書に記載の特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、当該意見書9頁「(4)第29条第2項(進歩性について)」において、甲4、甲6及び甲11を主引用文献とした場合、本件発明1?5は、甲4、甲6及び11に記載された発明並びに甲1?3、5、7?10、12、13に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 甲6を主引用文献とした場合については、前記アで述べたとおりである。 甲4及び甲11を主引用文献とした場合については、容易想到性に関する新たな主張ではあるものの、念のため以下検討する。 (ア)甲4を主引用文献とする場合 a 甲4には、請求項1に記載の濃厚液体殺虫剤組成物を製造する方法の実施例3(【0088】)に、具体的に製造して得られた濃厚液体殺虫剤組成物として、以下の発明が記載されていると認められる。 「フィードシリンダーをNaOH水溶液により充填し、水、スルファミン酸、及びNaOH水溶液を反応器に充填し(生成溶液のpHは1.8)、NaOH水溶液をこの溶液に添加してpHを11.02とし、NaOHをこのフィードシリンダーから共フィードしながら、この溶液にBr_(2)をフィードし、この共フィードの間この反応器中の温度は14-17°Cであり、Br_(2)のフィードを終わった時この溶液のpHは9.69であり、Cl_(2)をNaOHと共に共フィードし、この溶液のpHを9.51と9.61の間に維持するようにし、Cl_(2)添加の間、この溶液の温度を15-19℃で保持し、フィードシリンダーのNaOHの残りのフィードを継続し、反応器の温度を20°C以下に保持しながら、溶液pHを13.2として得られた、6.47重量%の「利用可能なCl_(2)」(すなわち、14.6重量%の利用可能なBr_(2))を含有する、濃厚液体殺虫剤組成物」(以下「甲4発明」という。) b 本件発明1と甲4発明とを対比すると、以下の点で相違する。 甲4の相違点1:水処理剤組成物における臭素系酸化剤として、本件発明1は臭素であるのに対し、甲4発明はBr_(2)及びCl_(2)からのもの(BrCl)である点 甲4の相違点2:水処理剤組成物において、本件発明1にはアゾール化合物が含まれているのに対し、甲4発明にはアゾール化合物が含まれていない点 c 容易想到性について 甲4の相違点1について、甲4発明は、請求項1に記載の濃厚液体殺虫剤組成物を製造する方法の実施例により得られるものであり、請求項1には「A) (a) (i)塩化臭素から、もしくは(ii)塩化臭素と、元素状臭素及び元素状塩素の一つ以上から、もしくは(iii)元素状臭素と元素状塩素から、の臭素原子と塩素原子」と記載され、塩素原子を用いることは必須である。 それ故、甲4発明において、Br_(2)及びCl_(2)からのもの(BrCl)に代えて、臭素(Br_(2))のみとする動機付けはなく、阻害要因があるといえる。 したがって、甲4発明において、Br_(2)及びCl_(2)からのもの(BrCl)に代えて臭素(Br_(2))を適用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、甲1?3、5?13の記載をみても、甲4発明において、Br_(2)及びCl_(2)からのもの(BrCl)に代えて、臭素(Br_(2))を適用することを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、甲4の相違点2及び効果について検討するまでもなく、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲4に記載された発明及び甲1?3、5?13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (イ)甲11を主引用文献とする場合 a 甲11には、請求項1に記載の次亜臭素酸塩の溶液の製造方法の実施例1及び4(21頁4行?下から3行、24頁表III下1行?26頁5行)より具体的に製造して得られた次亜臭素酸塩の溶液として、以下の発明が記載されていると認められる。 「NaOCl溶液をNaBr溶液に加え(NaOBr形成)、スルファミン酸、水、及び水酸化ナトリウムから組成された安定化溶液を前記NaOBrに加えて得られる、pH14で維持された、スルファミン酸ナトリウムで安定化されたNaOBr溶液」(以下「甲11発明」という。) b 本件発明1と甲11発明とを対比すると、以下の点で相違する。 甲11の相違点:水処理剤組成物において、本件発明1にはアゾール化合物が含まれているのに対し、甲11発明にはアゾール化合物が含まれていない点 c 容易想到性について 甲11の相違点について、一般に、防食剤としてのアゾール化合物は、酸化剤が共存すると酸化剤によって分解され、分解による有効成分濃度の低下で防食効果が低下し、冷却水系の配管等の腐食で寿命短縮に至るという問題があることは、甲12の段落【0003】の記載より、本願出願前周知事項であったと認められる。 そうすると、甲11発明の安定化されたNaOBr溶液は、酸化剤として水のシステムにおける微生物汚損の制御に用いられるもの(甲11請求項17)であることから、前記周知事項を踏まえると、甲11発明の安定化されたNaOBr溶液にアゾール化合物を含ませようという動機付けがあるとは必ずしもいえない。 したがって、甲11発明において、甲11発明の安定化されたNaOBr溶液にアゾール化合物を含ませることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、甲1?10、12、13の記載をみても、甲11発明の安定化されたNaOBr溶液にアゾール化合物を含ませることを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、効果について検討するまでもなく、本件発明1及びこれを引用して特定されている本件発明2?5は、甲11に記載された発明及び甲1?10、12、13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (ウ) その他 特許異議申立人は当該意見書において、本件発明1の効果について、本件発明1が、甲4、6及び11に記載された発明と比較し、アゾール化合物の有無によって当業者の予測を超えた有利な効果を有することが示されていないことも主張している。 しかしながら、本件発明1の効果は、本件明細書の段落【0016】に記載され、実施例(【0043】?【0060】)において客観的に示されているように、無機系スライムコントロール剤のスライムコントロール性能の著しい低下(酸化力の著しい低下)を抑制し、スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、アゾール化合物とを一剤化することができるという効果であり、本件発明1は顕著な効果を有するものといえる。 また、特許異議申立人は、平成29年12月1日付け特許異議申立書の「E.新規性違反」(12頁下から9行?15頁下から9行)において、甲6?9において引用発明をそれぞれ認定する際に各甲号証の部分的な記載を指摘し、それらを併せれば本件発明1と同じ発明が記載されているといえるから、本件発明1は甲6?9に記載された発明ある旨主張しているが、特許異議申立人の指摘は、発明特定事項の各々の説明を部分的に指摘しただけであり、発明として記載されているとまではいえない。 以上のとおりであるから、特許異議申立人の前記主張を採用することはできない。 オ 以上より、本件発明1?5は、甲6?9に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲1?13に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえず、同法第29条の規定に違反してなされたものでもないから、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立ての理由並びに証拠によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 水処理剤組成物、水処理剤組成物の製造方法および水処理方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、水系の生物付着等を制御するための水処理剤組成物、その水処理剤組成物の製造方法およびその水処理剤組成物を用いた水処理方法に関する。 【背景技術】 【0002】 冷却水系等の工業用水システムや製紙工程等での生物付着等を制御するための殺菌剤として、有機系スライムコントロール剤よりも酸化力がある、すなわち即効効果の高い、無機系スライムコントロール剤が用いられている場合が増えている。無機系スライムコントロール剤としては、主に次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩が使用されるが、より効果を高めるため、次亜臭素酸ナトリウム等の次亜臭素酸塩が使用されることもある。 【0003】 次亜塩素酸ナトリウムより高いスライムコントロール性能を有する次亜臭素酸ナトリウムは不安定であり、工業的には、例えば、臭化ナトリウム等の臭化物塩と次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩とを使用する直前に混合し、系内で次亜臭素酸ナトリウムを生成させる手法や、安定化した次亜臭素酸塩を提供する方法が採られている。 【0004】 これらの無機系スライムコントロール剤と、銅合金等の銅系金属用の防食剤にあたるアゾール化合物とを併せて使用する場合、複数の薬液タンクと送液ポンプが必要となり、管理に手間が掛かる問題があった。また、無機系スライムコントロール剤とアゾール化合物とを適切な比率で水系に供給する必要があり、例えば無機系スライムコントロール剤がアゾール化合物と比べて過剰に添加された場合、その酸化力によりアゾール化合物が分解し、銅系金属が腐食してしまうおそれがあった。 【0005】 このため、酸化力の高い無機系スライムコントロール剤と、アゾール化合物とが常時一定の割合で水系に供給されることが望ましく、無機系スライムコントロール剤とアゾール化合物とを一剤化することが最も望ましい。 【0006】 例えば、特許文献1では、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系酸化剤と、アゾール系化合物と、スルファミン酸もしくはその塩とを含有してなり、pH13以上である一剤化の殺菌殺藻剤組成物を提示している。しかしながら、特許文献1の殺菌殺藻剤組成物では、塩素系酸化剤をスルファミン酸と反応させ、結合塩素として安定化させているため、組成物の安定性は増すものの、スライムコントロール剤の酸化力、すなわちスライムコントロール性能が著しく低下してしまう問題があった。 【0007】 酸化力の高い無機系スライムコントロール剤とは、被処理水中で遊離ハロゲンとして検出されるものを指す。特許文献1で示される、次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とから形成されるN-モノクロロスルファミン酸は、被処理水系でもそのままの結合塩素の形態で存在するため、酸化力の高いスライムコントロール剤とは言えない。また、N-モノクロロスルファミン酸塩は非常に強い結合状態にあるため、そこにアゾール化合物のような被酸化物質が接触しても容易に分解しないことは至極当然である。 【0008】 このように、無機系スライムコントロール剤と、アゾール化合物とを一剤化しようとすると、アゾール化合物の酸化分解やスライムコントロール剤の性能低下(酸化力の低下)等が起こるため、一剤化には困難を極めていた。したがって、無機系スライムコントロール剤のスライムコントロール性能の著しい低下(酸化力の著しい低下)を抑制し、無機系スライムコントロール剤、特に、次亜塩素酸塩より高いスライムコントロール性能を有する次亜臭素酸塩と、アゾール化合物とを一剤化する技術が求められている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0009】 【特許文献1】特許3832399号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明の目的は、無機系スライムコントロール剤のスライムコントロール性能の著しい低下(酸化力の著しい低下)を抑制し、無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、アゾール化合物とを一剤化した水処理剤組成物、その水処理剤組成物の製造方法およびその水処理剤組成物を用いた水処理方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明は、臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と;アゾール化合物と;がpH13.2以上で配合されている水処理剤組成物であって、前記臭素系酸化剤が、臭素であり、前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり、前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩である、水処理剤組成物である。 【0012】 また、前記水処理剤組成物において、前記臭素系酸化剤として臭素と、前記スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と;前記アゾール化合物と;がpH13.2以上で配合されていることが好ましい。 【0013】 また、前記水処理剤組成物において、前記水処理剤組成物中の臭素酸濃度が5mg/kg未満であることが好ましい。 【0014】 また、本発明は、前記水処理剤組成物の製造方法であって、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程を含む水処理剤組成物の製造方法である。 【0015】 また、本発明は、前記水処理剤組成物を用いて水を処理する水処理方法である。 【発明の効果】 【0016】 本発明では、無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、スルファミン酸化合物と、アゾール化合物とをpH13.2以上で配合することにより、無機系スライムコントロール剤のスライムコントロール性能の著しい低下(酸化力の著しい低下)を抑制し、無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、アゾール化合物とを一剤化することができる。 【発明を実施するための形態】 【0017】 本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。 【0018】 <水処理剤組成物> 本発明者らが鋭意検討した結果、「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」と、「スルファミン酸化合物」とから形成される次亜臭素酸の安定化組成物と、「アゾール化合物」とをpH13.2以上で配合することで、酸化力の高い無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、アゾール化合物とを一剤化することが可能となることを見出した。 【0019】 本実施形態に係る水処理剤組成物は、「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」と「スルファミン酸化合物」とから形成される次亜臭素酸の安定化組成物と、「アゾール化合物」とを含有するが、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、「アゾール化合物」とを、または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、「アゾール化合物」とを含有するものであってもよい。 【0020】 「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」の当量に対する「スルファミン酸化合物」の当量の比は、1以上であることが好ましい。「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」の当量に対する「スルファミン酸化合物」の当量の比が1未満であると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。 【0021】 組成物に含まれる有効臭素濃度は、組成物全体の量に対して1重量%?20重量%の範囲であることが好ましい。有効臭素濃度が組成物全体の量に対して1重量%未満であると、生物付着の制御に劣る場合があり、25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。 【0022】 次亜臭素酸の安定化組成物を構成する臭素は、何らかの手段で活性臭素として供給する必要があり、臭素系酸化剤として臭素(液体臭素)を用いてもよく、または、臭素化合物と次亜塩素酸塩とを反応させることにより発生する活性臭素を用いてもよく、または、臭素系酸化剤として塩化臭素や臭素酸塩等を経由した活性臭素を用いてもよい。これらの中で、最も好ましいものは、液体臭素を用いることである。 【0023】 臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩等が挙げられる。 【0024】 これらのうち、臭素を用いた「臭素とスルファミン酸化合物」または「臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む組成物は、「次亜塩素酸と臭素化合物とスルファミン酸」を含む組成物および「塩化臭素とスルファミン酸」を含む組成物等に比べて、共存するアゾール化合物を分解しにくく、有効臭素の安定性が高く、臭素酸の副生も抑制できるため、より好ましい。 【0025】 臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム及び臭化水素酸等が挙げられる。これらのうち、製造コスト等の点から、臭化ナトリウムが好ましい。 【0026】 塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、亜塩素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、塩素化イソシアヌル酸またはその塩等が挙げられる。これらのうち、塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。 【0027】 スルファミン酸化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。 R_(2)NSO_(3)H (1) (式中、Rは独立して水素原子または炭素数1?8のアルキル基である。) 【0028】 次亜臭素酸の安定化組成物を構成する無機系スライムコントロール剤の安定化剤として働くと考えられるスルファミン酸化合物としては、例えば、2個のR基の両方が水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)の他に、N-メチルスルファミン酸、N-エチルスルファミン酸、N-プロピルスルファミン酸、N-イソプロピルスルファミン酸、N-ブチルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数1?8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N,N-ジメチルスルファミン酸、N,N-ジエチルスルファミン酸、N,N-ジプロピルスルファミン酸、N,N-ジブチルスルファミン酸、N-メチル-N-エチルスルファミン酸、N-メチル-N-プロピルスルファミン酸等の2個のR基の両方が炭素数1?8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N-フェニルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数6?10のアリール基であるスルファミン酸化合物、またはこれらの塩等が挙げられる。スルファミン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩等が挙げられる。スルファミン酸化合物およびこれらの塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルファミン酸化合物としては、環境負荷等の点から、スルファミン酸(アミド硫酸)を用いるのが好ましい。 【0029】 アゾール化合物は、銅や銅合金等の銅系金属用の防食剤等として働く。アゾール化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、イミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール等が挙げられ、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、製造コスト等の点から、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾールが好ましい。 【0030】 本実施形態に係る水処理剤組成物は、さらにアルカリを含んでもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ等が挙げられる。低温時の製品安定性等の点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用してもよい。また、アルカリは、固形でなく、水溶液として用いてもよい。 【0031】 次亜臭素酸の安定化組成物とアゾール化合物とを一液化する際、pH管理が非常に重要であり、次亜臭素酸の安定化組成物とアゾール化合物とを混合する前後でpH13.2以上であることが望ましい。組成物のpHは、13.2以上であり、13.5以上であることがより好ましく、13.7以上であることがさらに好ましい。組成物のpHが13.2未満であると、次亜臭素酸の安定化組成物の安定性が変化し、アゾール化合物を分解するため、一液化は困難となる。この点、特許文献1で示される、次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とから形成されるN-モノクロロスルファミン酸とアゾール化合物との一剤化と大きく異なる事象である。 【0032】 本実施形態に係る水処理剤組成物における臭素酸イオンの含有量は、10mg/kg以下であることが好ましく、5mg/kg以下であることがより好ましい。臭素酸イオンの含有量が10mg/kgを超えると、アゾール化合物の分解が促進される可能性がある。 【0033】 本実施形態に係る水処理剤組成物における遊離ハロゲンの割合は、10%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。遊離ハロゲンの割合が10%未満であると、殺菌効果が低くなる場合がある。 【0034】 <水処理剤組成物の製造方法> 本実施形態に係る水処理剤組成物は、例えば、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを混合する、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物とを混合した後、上記アゾール化合物と混合することにより得られ、さらにアルカリを混合してもよい。 【0035】 臭素と、スルファミン酸化合物と、アゾール化合物とを含有する水処理剤組成物、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物と、アゾール化合物とを含有する水処理剤組成物の製造方法としては、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程と、その後その反応物とアゾール化合物と混合する工程とを含むことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で添加して反応させることにより、組成物中の臭素酸イオン濃度が低くなる。 【0036】 用いる不活性ガスとしては限定されないが、製造等の面から窒素およびアルゴンのうち少なくとも1つが好ましく、特に製造コスト等の面から窒素が好ましい。 【0037】 臭素の添加の際の反応器内の酸素濃度は6%以下が好ましいが、4%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。臭素の反応の際の反応器内の酸素濃度が6%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。 【0038】 臭素の添加率は、組成物全体の量に対して25重量%以下であることが好ましく、1重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。臭素の添加率が組成物全体の量に対して25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。1重量%未満であると、殺菌力が劣る場合がある。 【0039】 臭素添加の際の反応温度は、0℃以上25℃以下の範囲に制御することが好ましいが、製造コスト等の面から、0℃以上15℃以下の範囲に制御することがより好ましい。臭素添加の際の反応温度が25℃を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合があり、0℃未満であると、凍結する場合がある。 【0040】 本実施形態に係る水処理剤組成物の製造方法により、主としてスルファミン酸-次亜臭素酸ナトリウム塩組成物が、臭素酸イオンを実質的に含有せず、安全に取扱うことが可能である。本実施形態に係る水処理剤組成物の製造方法により、臭素酸イオンを実質的に含まない、かつ殺菌性能に優れ、保存安定性に優れる一剤系の水処理剤組成物が得られる。 【0041】 <水処理剤組成物を用いた水処理方法> 本実施形態に係る水処理剤組成物は、冷却水等の工業用水システムの水処理や、生物付着汚染の進んだ配管洗浄等の水処理方法に用いることができる。 【0042】 本実施形態に係る水処理剤組成物を添加した水系における有効臭素濃度は、0.01?100mg/Lであることが好ましい。0.01mg/L未満であると、十分なスライム抑制効果を得ることができない場合があり、100mg/Lより多いと、配管等の腐食等を引き起こす可能性がある。 【実施例】 【0043】 以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。 【0044】 実施例、比較例については、表1?3に示す配合組成(重量%)および順番で添加(表の上から順番に添加)して製剤化を行った。製剤化は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の容器内で、室温以下に冷却し、スターラで撹拌しながら各薬剤を添加して行った。 【0045】 また、表1?3において、組成物A,a,B,Cは、下記のとおりである。 【0046】 [組成物A] 反応容器内の酸素濃度が1%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら連続注入で封入した2Lの4つロフラスコに1436gの水、361gの水酸化ナトリウムを加え混合し、次いで300gのスルファミン酸を加え混合した後、反応液の温度が0?15℃になるように冷却を維持しながら、473gの液体臭素を加え、さらに48%水酸化カリウム溶液230gを加え、組成物全体の量に対する重量比でスルファミン酸10.7%、臭素16.9%、臭素の当量に対するスルファミン酸の当量比が1.04である、目的の組成物Aを得た。生じた溶液のpHは、ガラス電極法にて測定したところ、14.0であった。生じた溶液の臭素含有率は、臭素をヨウ化カリウムによりヨウ素に転換後、チオ硫酸ナトリウムを用いて酸化還元滴定する方法により測定したところ16.9%であり、理論含有率(16.9%)の100.0%であった。また、臭素反応の際の反応容器内の酸素濃度は、株式会社ジコー製の「酸素モニタJKO-02 LJDII」を用いて測定した。 【0047】 なお、pHの測定は、以下の条件で行った。 電極タイプ:ガラス電極式 pH測定計:東亜ディーケーケー社製、IOL-30型 電極の校正:関東化学社製中性リン酸塩pH(6.86)標準液(第2種)、同社製ホウ酸塩pH(9.18)標準液(第2種)の2点校正で行った 測定温度:25℃ 測定値:測定液に電極を浸漬し、安定後の値を測定値とし、3回測定の平均値 【0048】 [組成物a] 窒素ガスを流さずに大気下で反応させること以外は組成物Aと同様の組成比、製造方法で、目的の組成物aを得た。組成物のpHは14、臭素含有率は16.9重量%であった。 【0049】 [組成物B] 特表平11-506139号公報の記載内容に基づき、下記手順で作製した組成物である。組成物のpHは14、臭素含有率は9.2重量%であった。 (1)60.0グラムの40重量%臭化ナトリウム純水溶液に、12%次亜塩素酸ナトリウム溶液を50.0グラム加え、撹拌した。 (2)20.6グラムの純水、9.6グラムのスルファミン酸、6.6gの水酸化ナトリウムから組成された安定化溶液を作製した。 (3)(1)の溶液に、(2)の安定化溶液を撹拌させながら加え、目的の組成物Bを得た。 【0050】 [組成物C] 塩化臭素、スルファミン酸、水酸化ナトリウムを含有する組成物である。組成物のpHは14、臭素含有率は15.5%であった。 【0051】 実施例、比較例において、遊離ハロゲン濃度および全ハロゲン濃度は、試料を2万倍希釈し、HACH社の多項目水質分析計DR/4000を用いて、有効塩素測定法(DPD(ジエチル-p-フェニレンジアミン)法)により測定した。なお、遊離臭素濃度および全臭素濃度は、遊離塩素濃度、全塩素濃度として値を求めた後、塩素と臭素の分子量から算出した値を用いた。 【0052】 アゾール化合物の残留率は、各組成物を50℃、5日間遮光下で保管した後に、初期のアゾール化合物の濃度に対する残留割合で示している。アゾール化合物の測定は、東ソー製液体クロマトグラフ(8020シリーズ)を用いて、下記の条件で測定を行った。 カラム:TSKGEL ODS-80TS(東ソー製) 溶離液:アセトニトリル20%溶液 溶離液流量:1.0mL/min 検出器:多波長検出器 測定波長:275nm 【0053】 また、表2,3の組成物については、臭素酸イオン濃度を、「JWWA K 120(2008)水道用次亜塩素酸ナトリウム5.4.5 臭素酸」の分析方法により、ポストカラム-イオンクロマトグラフ法で測定した。 【0054】 遊離ハロゲン濃度(遊離臭素濃度または遊離塩素濃度)が全ハロゲン濃度(全臭素濃度または全塩素濃度)の70%以上である場合に、高い酸化力、すなわちスライムコントロール性能を有すると判断した。 【0055】 【表1】 【0056】 【表2】 【0057】 【表3】 【0058】 実施例の組成物では、無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、スルファミン酸化合物と、アゾール化合物とをpH13.2以上で配合することにより、無機系スライムコントロール剤のスライムコントロール性能の著しい低下(酸化力の著しい低下)を抑制し、無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸塩と、アゾール化合物とを一剤化することができた。表1の結果より、pH13.2以上でアゾール化合物の残留率が高くなることが明らかとなった。また、特に、「臭素」と「スルファミン酸化合物」とから形成される次亜臭素酸の安定化組成物を含む実施例1,4?7の組成物は、「次亜塩素酸と臭素化合物とスルファミン酸」を含む組成物および「塩化臭素とスルファミン酸」を含む実施例2,3,8,9の組成物に比べて、アゾール化合物の残留率が高く、臭素酸イオン濃度が低かった。 【0059】 この違いについて、何故アゾール化合物の安定性に相違が生じたかの原因を明確に掴んでいないが、組成物Aからは臭素酸イオンが検出されない一方、組成物B、Cからは臭素酸イオンが検出されたことから、臭素酸イオンによりアゾール化合物が分解されたと推察している。 【0060】 比較例4(特許文献1に相当)は、次亜塩素酸とスルファミン酸とが強固に結合した結合塩素となっているため、アゾール化合物を分解しにくくアゾール残留率は高いものの、遊離ハロゲンの割合が9.1%と低く、スライムコントロール性能が低かった。窒素雰囲気下で調製した組成物A(実施例1-1)を使用した場合と、大気下で調製した組成物a(実施例1-3)を使用した場合とを比べると(表3参照)、窒素雰囲気下で調製した組成物Aを使用すると、臭素酸の副生をより抑制することができ、アゾール化合物の残留率が若干高いことがわかる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、 アゾール化合物と、 がpH13.2以上で配合されている水処理剤組成物であって、 前記臭素系酸化剤が、臭素であり、 前記臭素化合物が、臭化ナトリウムであり、 前記塩素系酸化剤が、次亜塩素酸またはその塩であることを特徴とする水処理剤組成物。 【請求項2】 請求項1に記載の水処理剤組成物であって、 前記臭素系酸化剤として臭素と、前記スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と;前記アゾール化合物と;がpH13.2以上で配合されていることを特徴とする水処理剤組成物。 【請求項3】 請求項2に記載の水処理剤組成物であって、 前記水処理剤組成物中の臭素酸濃度が5mg/kg未満であることを特徴とする水処理剤組成物。 【請求項4】 請求項2または3に記載の水処理剤組成物の製造方法であって、 水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程を含むことを特徴とする水処理剤組成物の製造方法。 【請求項5】 請求項1?3のいずれか1項に記載の水処理剤組成物を用いて水を処理することを特徴とする水処理方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-09-28 |
出願番号 | 特願2013-176914(P2013-176914) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(A01N)
P 1 651・ 121- YAA (A01N) P 1 651・ 537- YAA (A01N) P 1 651・ 851- YAA (A01N) P 1 651・ 853- YAA (A01N) P 1 651・ 561- YAA (A01N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 雅雄 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
瀬下 浩一 齊藤 真由美 |
登録日 | 2017-05-19 |
登録番号 | 特許第6145360号(P6145360) |
権利者 | オルガノ株式会社 |
発明の名称 | 水処理剤組成物、水処理剤組成物の製造方法および水処理方法 |
代理人 | 特許業務法人YKI国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人YKI国際特許事務所 |