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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09B
審判 全部申し立て 特29条の2  C09B
管理番号 1346780
異議申立番号 異議2017-700909  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-25 
確定日 2018-11-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6112254号発明「顔料分散液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6112254号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6112254号の請求項1?7、11に係る特許を維持する。 特許第6112254号の請求項8?10、12についての異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6112254号の請求項1?12に係る特許についての出願は、2014年9月22日(優先権主張平成25年9月25日)に特許出願したものとみなされた特願2015-506015号の一部を平成28年10月3日に新たな特許出願としたものであって、平成29年3月24日にその特許権の設定登録がされ、同年4月12日に特許公報が発行され、その特許について、同年9月25日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後、当審において平成30年2月14日付けで取消理由を通知し、平成30年4月20日付けで特許権者から意見書が提出され、さらに同年5月29日付けで取消理由通知を通知し、同年7月27日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)がなされ、同年9月6日付けで特許異議申立人から意見書が提出された。


第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、「特許第6112254号の特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の内容
本件訂正の訂正事項は、以下のとおりである。なお、合議体において、訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 (A)色材、及び(B)分散剤を含有する顔料分散液であって、
前記(A)色材が、(A-1)下記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、下記一般式(2)のスルホン酸誘導体を含み、かつ、
前記(B)分散剤が4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤を含む顔料分散液。」とあるのを、
「 (A)色材、(B)分散剤、及び有機溶剤を含有する、感光性着色組成物製造用顔料分散液であって、
前記(A)色材が、(A-1)下記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、下記一般式(2)のスルホン酸誘導体を含み、
前記(B)分散剤が4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤を含み、かつ、
前記有機溶剤が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有する、感光性着色組成物製造用顔料分散液。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?7及び11についても同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10のいずれか1項」とあるのを「請求項1?7のいずれか1項」に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1-12〕に対して請求されたものである。

3 訂正の目的の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1による訂正は、「顔料分散液」について、「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有する」「有機溶剤」を含有するとの限定、及び、「感光性着色組成物製造用」とする用途の限定を加えるものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

(2)訂正事項2?5
訂正事項2?5による訂正は、請求項を削除するもの、すなわち特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

(3)訂正事項6
訂正事項6による訂正は、訂正事項2?4により請求項8?10が削除されたことにともない、これと整合するように記載を改めたものといえる。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。

4 新規事項の有無
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項8に「さらに有機溶剤を含有する、請求項1?7のいずれか1項に記載の顔料分散液。」と記載され、本件訂正前の請求項10に「前記有機溶剤が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有する、請求項8又は9に記載の顔料分散液。」と記載され、本件訂正前の請求項12に「感光性着色組成物製造用である、請求項1?11のいずれか1項に記載の顔料分散液。」と記載されている。
以上より、上記訂正事項1による訂正は、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。

(2)訂正事項2?5
訂正事項2?5による訂正は、請求項を削除するものであるから、訂正事項2?5による訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。

(3)訂正事項6
訂正事項6による訂正は、訂正事項2?4による訂正と整合するように、請求項11が引用する請求項を「1?10」から「1?7」に減じたものであるから、訂正事項6による訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

5 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1による訂正は、「顔料分散液」について、「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有する」「有機溶剤」を含有するとの限定、及び、「感光性着色組成物製造用」とする用途の限定を加えるものである。そうすると、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2?5
訂正事項2?5による訂正は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項6
訂正事項6による訂正は、訂正事項2?4による訂正と整合するように、請求項11が引用する請求項を改めたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

6 むすび
本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?7、11に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明7」、「本件特許発明11」という。)は、本件訂正による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?7、11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、請求項8?10、12は、本件訂正により削除された。)。
「【請求項1】
(A)色材、(B)分散剤、及び有機溶剤を含有する、感光性着色組成物製造用顔料分散液であって、
前記(A)色材が、(A-1)下記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、下記一般式(2)のスルホン酸誘導体を含み、
前記(B)分散剤が4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤を含み、かつ、
前記有機溶剤が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有する、感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【化1】

【請求項2】
前記(A)色材が、さらに(A-2)有機着色顔料を含有する、請求項1に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項3】
前記(A)色材が、さらに(A-3)カーボンブラックを含有する、請求項1又は2に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項4】
前記高分子分散剤が、前記4級アンモニウム塩基及び前記3級アミンを有するAブロックと、前記4級アンモニウム塩基及び前記3級アミンを有さないBブロックからなる、A-B又はB-A-Bのアクリル系ブロック共重合体である、請求項1?3のいずれか1項に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項5】
前記共重合体1g中の4級アンモニウム塩基の量が、0.1?10mmolである、請求項4に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項6】
前記共重合体のアミン価が1?100mgKOH/gである、請求項4又は5に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項7】
前記共重合体のアミン価が30mgKOH/g以上である、請求項6に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項11】
さらに(C)アルカリ可溶性樹脂を含有する、請求項1?7のいずれか1項に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
平成30年5月29日付けで通知した取消理由の概要は、本件訂正前の請求項1?12に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるというものである。

引用文献2:特表2010-534726号公報

2 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献2の記載事項
本件特許の優先権主張の日前の平成22年11月11日に頒布された刊行物である特表2010-534726号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、引用文献2は、特許異議申立人が提示した甲第2号証(国際公開第2009/010521号)に対応する公表特許公報である。

ア 「【特許請求の範囲】

(中略)

【請求項4】
有機もしくは無機基体、好ましくはポリマー基体、最も好適には熱可塑性ポリマー、エラストマーポリマー、架橋ポリマーもしくはもともと架橋したポリマー、および、有機もしくは無機基体に、≧20%の赤外線反射率、≧30%の赤外線透過率、または≧25%の赤外線反射率および透過率の組み合わせ(それぞれ、850?1600nmの波長で)を付与するために有効な量で、式
【化2】

のビス-オキソ-ジヒドロインドリレン-ベンゾジフラノン着色剤またはその異性体もしくは互変異性体、好ましくは式(Ia)もしくは(Ib)の顔料またはその異性体もしくは互変異性体(ここで、式(Ia)もしくは(Ib)のビス-オキソジヒドロインドリレン-ベンゾジフラノン着色剤またはその異性体もしくは互変異性体は、平均サイズ≦0.5μmまたは平均サイズ≧0.5μmおよび厚さ≧0.4μmを有し、組成物中に十分に分散された粒子の形態である)を、反射性有機もしくは無機基体に対して≧20%の赤外線反射率、透明な有機もしくは無機基体に対して≧30%の赤外線透過率、または半透明有機もしくは無機基体に対して≧25%の赤外線反射率および透過率の組み合わせ(それぞれ、850?1600nmの波長)を付与するために十分な量で含む近赤外線不活性組成物もしくは物品であって、式(Ia)および(Ib)中、
R_(1)およびR_(6)は、それぞれ互いに独立して、H、CH_(3)、CF_(3)、FもしくはCl、好ましくはHもしくはF、最も好ましくはHであり;
R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)、R_(7)、R_(8)、R_(9)およびR_(10)はそれぞれ他の全てと独立して、H、ハロゲン、R_(11)、COOH、COOR_(11)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(11)、CONR_(11)R_(12)、CN、OH、OR_(11)、OOCR_(11)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(11)、OOCNR_(11)R_(12)、NO_(2)、NH_(2)、NHR_(11)、NR_(11)R_(12)、NHCOR_(12)、NR_(11)COR_(12)、N=CH_(2)、N=CHR_(11)、N=CR_(11)R_(12)、SH、SR_(11)、SOR_(11)、SO_(2)R_(11)、SO_(3)R_(11)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(11)もしくはSO_(2)NR_(11)R_(12)であり;これによって、R_(2)およびR_(3)、R_(3)およびR_(4)、R_(4)およびR_(5)、R_(7)およびR_(8)、R_(8)およびR_(9)、および/またはR_(9)およびR_(10)は、場合によって、直接結合またはO、S、NHもしくはNR_(11)架橋によって結合させることができ;
R_(11)およびR_(12)は、それぞれ互いに独立して、C_(1)-C_(12)アルキル、C_(1)-C_(12)シクロアルキル、C_(1)-C_(12)アルケニル、C_(1)-C_(12)シクロアルケニルもしくはC_(1)-C_(12)アルキニルであり、そのそれぞれは、連続しているか、またはO、NH、NR_(13)および/またはSによって2以上のフラグメントに分断され、各フラグメントは少なくとも2個のC原子を含み、そのそれぞれは、置換されていないか、またはCOOH、COOR_(13)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(13)、CONR_(13)R_(14)、CN、O、OH、OR_(13)、OOCR_(13)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(13)、OOCNR_(13)R_(14)、NR_(13)、NH_(2)、NHR_(13)、NR_(13)R_(14)、NHCOR_(14)、NR_(13)COR_(14)、N=CH_(2)、N=CHR_(13)、N=CR_(13)R_(14)、SH、SR_(13)、SOR_(13)、SO_(2)R_(13)、SO_(3)R_(13)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(13)、SO_(2)NR_(13)R_(14)もしくはハロゲンで1回以上置換されているか;
あるいはC_(7)-C_(12)アラルキル、C_(1)-C_(11)ヘテロアリールもしくはC_(6)-C_(12)アリールであり、そのそれぞれは、置換されていないか、またはCOOH、COOR_(13)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(13)、CONR_(13)R_(14)、CN、OH、OR_(13)、OOCR_(13)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(13)、OOCNR_(13)R_(14)、NO_(2)、NH_(2)、NHR_(13)、NR_(13)R_(14)、NHCOR_(14)、NR_(13)COR_(14)、N=CH_(2)、N=CHR_(13)、N=CR_(13)R_(14)、SH、SR_(13)、SOR_(13)、SO_(2)R_(13)、SO_(3)R_(13)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(13)、SO_(2)NR_(13)R_(14)もしくはハロゲンで1回以上置換されており;そして
各R_(13)もしくはR_(13)は、任意の他のR_(13)もしくはR_(14)と独立して、C_(1)-C_(6)アルキル、ベンジルもしくはフェニルであり、そのそれぞれは、置換されていないか、または前段落で定義した置換基で1回以上置換され(ただし、R_(13)およびR_(14)の任意の置換基中の合計原子数は1?8であるとする);これによって、全てのR_(13)およびR_(14)からなる群から選択される置換基の対は、場合によって直接結合またはO、S、NHもしくはNR_(11)架橋によって結合して環を形成する、近赤外線不活性組成物もしくは物品。
【請求項5】
ポリマーが、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアセタール、天然もしくは合成ゴムまたはハロゲン化ビニルポリマーである、請求項4に記載の赤外線不活性組成物。
【請求項6】
コーティング組成物である、請求項4に記載の組成物。」

イ 「【0007】
US2003/0083407は、赤、紫、青または褐色ビスメチンベンゾジフラノン着色剤を含むポリマー物品を開示し、式
【化1】

(実施例12b)
の化合物を開示しているWO00/24736のイサチン系ベンゾジフラノンを排除するように述べている。」

ウ 「【0015】
近赤外線不活性有機もしくは無機基体を製造するための方法が提供され、この方法は、式
【化4】

のビス-オキソジヒドロインドリレン-ベンゾジフラノン着色剤またはその異性体もしくは互変異性体、好ましくは式(Ia)もしくは(Ib)の顔料またはその異性体もしくは互変異性体を含む組成物を基体中に組み込むか、または基体上に適用することを含み、ここで、式(Ia)もしくは(Ib)のビス-オキソジヒドロインドリレン-ベンゾジフラノン着色剤またはその異性体もしくは互変異性体は、≦0.5μmの平均サイズもしくは≧0.5μmの平均サイズおよび≧0.4μmの厚さの粒子であって、組成物中に、十分分散された粒子の形態で、反射性有機もしくは無機基体に、≧20%の赤外線反射率、透明有機もしくは無機基体に≧30%の赤外線透過率、または半透明有機もしくは無機基体に≧25%の赤外点反射率および透過率の組み合わせ(それぞれ850?1600nmの波長)を付与するために十分な量であり、式(Ia)および(Ib)中、
R_(1)およびR_(6)は、それぞれ他と独立して、H、CH_(3)、CF_(3)、FまたはCl、好ましくはHもしくはF、最も好ましくはHであり;
R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)、R_(7)、R_(8)、R_(9)およびR_(10)は、それぞれ他の全てと独立して、H、ハロゲン、R_(11)、COOH、COOR_(11)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(11)、CONR_(11)R_(I2)、CN、OH、OR_(11)、OOCR_(11)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(11)、OOCNR_(11)R_(12)、NO_(2)、NH_(2)、NHR_(11)、NR_(11)R_(12)、NHCOR_(12)、NR_(11)COR_(12)、N=CH_(2)、N=CHR_(11)、N=CR_(11)R_(12)、SH、SR_(11)、SOR_(11)、SO_(2)R_(11)、SO_(3)R_(11)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(11)またはSO_(2)NR11R_(12)であり;これによって、R_(2)およびR_(3)、R_(3)およびR_(4)、R_(4)およびR_(5)、R_(7)およびR_(8)、R_(8)およびR_(9)、および/またはR_(9)およびR_(10)は、場合によって、直接結合またはO、S、NHもしくはNR_(11)架橋によって結合させることができ;
R_(11)およびR_(12)は、それぞれ他と独立して、C_(1)-C_(12)アルキル、C_(1)-C_(12)シクロアルキル、C_(1)-C_(12)アルケニル、C_(1)-C_(12)シクロアルケニルまたはC_(1)-C_(12)アルキニル(それぞれは、連続しているか、またはO、NH、NR_(13)および/またはSによって、それぞれが少なくとも2個のC原子を含む2以上のフラグメントに分断され、そのそれぞれはさらに、置換されていないか、またはCOOH、COOR_(13)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(13)、CONRR_(13)R_(14)、CN、O、OH、OR_(13)、OOCR_(13)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(13)、OOCNR_(13)R_(14)、NR_(13)、NH_(2)、NHR_(13)、NR_(13)R_(14)、NHCOR_(14)、NR_(13)COR_(14)、N=CH_(2)、N=CHR_(13)、N=CR_(13)R_(14)、SH、SR_(13)、SOR_(13)、SO_(2)R_(13)、SO_(3)R_(13)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(13)、SO_(2)NR_(13)R_(14)またはハロゲンで1回以上置換されている);あるいはC_(7)-C_(12)アラルキル、C_(1)-C_(11)ヘテロアリールまたはC_(6)-C_(12)アリール(それぞれは、置換されていないか、またはCOOH、COOR_(13)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(13)、CONR_(13)R_(14)、CN、OH、OR_(13)、OOCR_(13)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(13)、OOCNR_(13)R_(14)、NO_(2)、NH_(2)、NHR_(13)、NR_(13)R_(14)、NHCOR_(14)、NR_(13)COR_(14)、N=CH_(2)、N=CHR_(13)、N=CR_(13)R_(14)、SH、SR_(13)、SOR_(13)、SO_(2)R_(13)、SO_(3)R_(13)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(13)、SO_(2)NR_(13)R_(14)もしくはハロゲンで1回以上置換されている);そして
各R_(13)またはR_(14)は、他のR_(13)またはR_(14)のいずれかと独立して、C_(1)-C_(6)アルキル、ベンジルはフェニルであり、そのそれぞれは、置換されていないか、または前段落で定義したような置換基で1回以上置換されている。ただし、R_(13)およびR_(14)の任意の置換基中の原子の合計数は1?8であり;これによって、全てのR_(13)およびR_(14)からなる群から選択される置換基対は、場合によって、直接結合またはO、S、NHもしくはNR_(11)架橋によって結合して、環を形成することができる。

(中略)

【0021】
本発明の式(Ia)もしくは(Ib)の着色剤は、通常、地味な暗色の非常に大きな凝集体および集合体の形態で合成から得られ、分散させるのが非常に困難であり、たとえば、WO00/24736の実施例12bにしたがって得られる紫色粉末である。しかし、これらの粗粉末は、粉砕助剤を用いて、溶媒、好ましくはアルコール、アミド、エステル、エーテルもしくはケトンの存在下で単に湿式粉砕することによって、好適な着色剤に容易に変形させることができ、このようにして≦0.5μm、好ましくは0.01?0.3μmの平均サイズの粒子が得られ、これは、意外にもカーボンブラックに類似した、非常に魅力的な黒色を示すことが判明した。湿式粉砕は、たとえば、磨砕機、たとえばDyno(登録商標)またはNetzsch(登録商標)ミル、Skandex(登録商標)塗料シェーカーなどで、たとえば、好ましくは0.1?3.0mm、特に0.5?1.0mmのサイズのガラスもしくはセラミック(たとえばジルコニア)パールを用いて実施することができる。アルコール、アミド、エステル、エーテルまたはケトンの量は、適切には、着色剤1部あたり0.1?1000部、好ましくは着色剤1部あたり1?10部である。」

エ 「【0062】
さらに、典型的には、式(Ia)もしくは(Ib)の着色剤を、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、エラストマーポリマー、もともと架橋したポリマーまたは架橋ポリマーを含む組成物中に組み込む。ポリマーは、たとえば、フィルム、シート、射出成形品、押出加工品、繊維、積層体、フェルトまたは不織布の形態であってよい。ポリマーは、コーティング組成物の一部であってもよい。」

オ 「【0115】
コーティング組成物は、放射線硬化性コーティング組成物であってもよい。この場合、バインダーは基本的に、エチレン性不飽和結合を含むモノマー化合物またはオリゴマー化合物を含み、これを適用後に化学線によって硬化させる、すなわち、架橋、高分子量形態に変換する。
【0116】
系がUV硬化性である場合、これは一般的に光開始剤も同様に含む。対応する系は、前記刊行物Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,5^(th) Edition,Vol.A18,pages451-453に記載されている。放射線硬化性コーティング組成物において、立体障害アミンを添加することなく、新規安定剤を用いることもできる。
【0117】
コーティングは、光重合性化合物の放射線硬化性無溶媒配合物であってもよい。具体例は、アクリレートもしくはメタクリレートの混合物、不飽和ポリエステル/スチレン混合物または他のエチレン性不飽和モノマーもしくはオリゴマーの混合物である。
【0118】
コーティング組成物は、その中にバインダーが溶解できる有機溶媒または溶媒混合物を含むことができる。コーティング組成物は別の方法では水溶液または分散液であり得る。ビヒクルは、有機溶媒および水の混合物であってもよい。コーティング組成物は、高固形分塗料であってもよいし、あるいは無溶媒(たとえば粉末コーティング物質)であり得る。粉末コーティングは、たとえば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,5^(th) Edition,Vol.A18,pages 438-444に記載されているものである。粉末コーティング物質は、粉末スラリー(粉末の好ましくは水中分散液)の形態を有していてもよい。」

カ 「【0124】
本発明の式(Ia)もしくは(Ib)の着色剤を含む組成物は、場合によって、他の添加剤、たとえば酸化防止剤、UV吸収体、ヒンダードアミンまたは他の光安定剤、ホスファイトもしくはホスホナイト、ベンゾフラン-2-オン、チオ共力剤、ポリアミド安定剤、金属ステアリン酸塩、核形成剤、フィラー、強化剤、滑剤、乳化剤、染料、顔料、分散剤、光学的光沢剤、難燃剤、耐電防止剤、発泡剤等を組み込むか、それらに適用することもできる。」

(2) 引用文献2に記載された発明
引用文献2の記載事項アの請求項4には、以下の発明が記載されている。
「有機もしくは無機基体、好ましくはポリマー基体、最も好適には熱可塑性ポリマー、エラストマーポリマー、架橋ポリマーもしくはもともと架橋したポリマー、および、有機もしくは無機基体に、≧20%の赤外線反射率、≧30%の赤外線透過率、または≧25%の赤外線反射率および透過率の組み合わせ(それぞれ、850?1600nmの波長で)を付与するために有効な量で、式
【化2】

のビス-オキソ-ジヒドロインドリレン-ベンゾジフラノン着色剤またはその異性体もしくは互変異性体、好ましくは式(Ia)もしくは(Ib)の顔料またはその異性体もしくは互変異性体(ここで、式(Ia)もしくは(Ib)のビス-オキソジヒドロインドリレン-ベンゾジフラノン着色剤またはその異性体もしくは互変異性体は、平均サイズ≦0.5μmまたは平均サイズ≧0.5μmおよび厚さ≧0.4μmを有し、組成物中に十分に分散された粒子の形態である)を、反射性有機もしくは無機基体に対して≧20%の赤外線反射率、透明な有機もしくは無機基体に対して≧30%の赤外線透過率、または半透明有機もしくは無機基体に対して≧25%の赤外線反射率および透過率の組み合わせ(それぞれ、850?1600nmの波長)を付与するために十分な量で含む近赤外線不活性組成物もしくは物品であって、式(Ia)および(Ib)中、
R_(1)およびR_(6)は、それぞれ互いに独立して、H、CH_(3)、CF_(3)、FもしくはCl、好ましくはHもしくはF、最も好ましくはHであり;
R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)、R_(7)、R_(8)、R_(9)およびR_(10)はそれぞれ他の全てと独立して、H、ハロゲン、R_(11)、COOH、COOR_(11)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(11)、CONR_(11)R_(12)、CN、OH、OR_(11)、OOCR_(11)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(11)、OOCNR_(11)R_(12)、NO_(2)、NH_(2)、NHR_(11)、NR_(11)R_(12)、NHCOR_(12)、NR_(11)COR_(12)、N=CH_(2)、N=CHR_(11)、N=CR_(11)R_(12)、SH、SR_(11)、SOR_(11)、SO_(2)R_(11)、SO_(3)R_(11)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(11)もしくはSO_(2)NR_(11)R_(12)であり;これによって、R_(2)およびR_(3)、R_(3)およびR_(4)、R_(4)およびR_(5)、R_(7)およびR_(8)、R_(8)およびR_(9)、および/またはR_(9)およびR_(10)は、場合によって、直接結合またはO、S、NHもしくはNR_(11)架橋によって結合させることができ;
R_(11)およびR_(12)は、それぞれ互いに独立して、C_(1)-C_(12)アルキル、C_(1)-C_(12)シクロアルキル、C_(1)-C_(12)アルケニル、C_(1)-C_(12)シクロアルケニルもしくはC_(1)-C_(12)アルキニルであり、そのそれぞれは、連続しているか、またはO、NH、NR_(13)および/またはSによって2以上のフラグメントに分断され、各フラグメントは少なくとも2個のC原子を含み、そのそれぞれは、置換されていないか、またはCOOH、COOR_(13)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(13)、CONR_(13)R_(14)、CN、O、OH、OR_(13)、OOCR_(13)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(13)、OOCNR_(13)R_(14)、NR_(13)、NH_(2)、NHR_(13)、NR_(13)R_(14)、NHCOR_(14)、NR_(13)COR_(14)、N=CH_(2)、N=CHR_(13)、N=CR_(13)R_(14)、SH、SR_(13)、SOR_(13)、SO_(2)R_(13)、SO_(3)R_(13)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(13)、SO_(2)NR_(13)R_(14)もしくはハロゲンで1回以上置換されているか;
あるいはC_(7)-C_(12)アラルキル、C_(1)-C_(11)ヘテロアリールもしくはC_(6)-C_(12)アリールであり、そのそれぞれは、置換されていないか、またはCOOH、COOR_(13)、COO^(-)、CONH_(2)、CONHR_(13)、CONR_(13)R_(14)、CN、OH、OR_(13)、OOCR_(13)、OOCNH_(2)、OOCNHR_(13)、OOCNR_(13)R_(14)、NO_(2)、NH_(2)、NHR_(13)、NR_(13)R_(14)、NHCOR_(14)、NR_(13)COR_(14)、N=CH_(2)、N=CHR_(13)、N=CR_(13)R_(14)、SH、SR_(13)、SOR_(13)、SO_(2)R_(13)、SO_(3)R_(13)、SO_(3)H、SO_(3)^(-)、SO_(2)NH_(2)、SO_(2)NHR_(13)、SO_(2)NR_(13)R_(14)もしくはハロゲンで1回以上置換されており;そして
各R_(13)もしくはR_(13)は、任意の他のR_(13)もしくはR_(14)と独立して、C_(1)-C_(6)アルキル、ベンジルもしくはフェニルであり、そのそれぞれは、置換されていないか、または前段落で定義した置換基で1回以上置換され(ただし、R_(13)およびR_(14)の任意の置換基中の合計原子数は1?8であるとする);これによって、全てのR_(13)およびR_(14)からなる群から選択される置換基の対は、場合によって直接結合またはO、S、NHもしくはNR_(11)架橋によって結合して環を形成する、近赤外線不活性組成物もしくは物品。」(以下、「引用発明2」という。)

3 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明2とを対比する。

(ア) 引用発明2の「式(Ia)の顔料」は、本件特許発明1の「(A)色材」に相当する。

(イ) 引用発明2の「近赤外線不活性組成物」は「式(Ia)の顔料」を含有するものである。したがって、引用発明2の「近赤外線不活性組成物」と本件特許発明1の「感光性着色組成物製造用顔料分散液」とは、「顔料組成物」である点で共通する。

(ウ) 以上より、本件特許発明1と引用発明2とは、
「(A)色材を含有する顔料組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件特許発明1は、感光性着色組成物製造用分散液であって、(B)分散剤及び有機溶剤を含有し、前記(B)分散剤が4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤を含み、前記有機溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有するのに対し、引用発明2は、このように特定されたものではない点。
[相違点2]色材が、本件特許発明1は、(A-1)下記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、下記一般式(2)のスルホン酸誘導体を含むことを要件とするのに対し、引用発明2は、このように特定されたものではない(上位概念である一般式で表されたものである)点。


イ 判断
(ア)一般に、分散剤は、分散させようとする物質の凝集等を防ぎ、溶媒等の媒体への分散性を高めるものであって、用いられる分散剤は、物質と溶媒とが特定されて初めて決定されるものであることは、当業者における技術常識である。
そうしてみると、本件特許発明1の「4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤」は、本件特許発明1の「(A-1)下記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、下記一般式(2)のスルホン酸誘導体」及び「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」を組み合わせて用いられることを前提として決定されたものと理解するのが相当である。
しかしながら、引用文献2は、「(A-1)下記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、下記一般式(2)のスルホン酸誘導体」及び「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」の組み合わせを前提としておらず、「4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤」の構成について、記載も示唆もしていない。また、取消理由において引用した引用文献1(特表2012-515233号公報)も、この点について、記載も示唆もしていない。

さらに、取消理由通知において言及した、周知技術について検討する。まず、引用発明2の(Ia)において、R_(1)からR_(10)を水素とした化合物は、引用文献2の記載事項イの段落【0007】に記載されている。また、顔料を水系媒体に分散させる際に、顔料及びそのスルホン酸誘導体を併用することは、例えば、特開2002-121419号公報の段落【0006】及び【0007】や、特開2004-143316号公報の段落【0057】、特開2012-21120号公報の請求項1,2に記載されるように、周知技術(以下「周知技術1」という。)である。しかしながら、本件特許発明1の溶媒は「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」であって、水系媒体ではない。
次に、本件特許発明1の「4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤」に該当する、ビックケミー社製「DISPERBYK-LPN21116」を、顔料の分散剤として使用することは、例えば、特開2013-83932号公報の段落【0116】?【0122】や、特開2013-130632号公報の段落【0082】及び【0083】、特開2012-207158号公報の段落【0148】に記載されているように周知技術(以下、「周知技術2」という。)であるといえる。しかしながら、顔料をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の有機溶媒中に分散させるためのものであり、顔料を水系媒体中に分散させるためのものではない。
そうしてみると、たとえ当業者が、引用発明2の化合物として、引用文献2の段落【0007】に記載された化合物を採用し、かつ、周知技術1を考慮して、そのスルホン酸誘導体を併用する場合があるとしても、前提となる溶媒は「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」ではない。また、分散剤として「4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤」を採用することはないといえる。
以上のとおりであるから、たとえ当業者といえども、引用発明2に基づいて、本件特許発明1の「(A-1)下記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、下記一般式(2)のスルホン酸誘導体」、「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」及び「4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤」を含む顔料分散液を、容易に発明をすることができたということはできない。

(イ)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成30年9月6日付けの意見書において、新たな証拠(甲第6号証)を追加し、新たな証拠に基づく主張を追加している。
しかしながら、本件特許発明1?7、11は、いずれも、特許掲載公報の特許請求の範囲に記載された発明(請求項12に記載された発明のいずれか)であるから、甲第6号証に基づく主張は、特許異議申立の時点において(請求項12に係る特許に対して)できたものである。そして、このような主張を採用することは、特許異議申立の期間を特許掲載公報の発行の日から6月以内とした制度の趣旨を著しく損なうものであるから、採用することができない。

(ウ)むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者であっても、引用発明2及び上記周知技術1、2に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件特許発明2?7、11について
本件特許発明2?7、11は、本件特許発明1と同様に、感光性着色組成物製造用分散液であって、(B)分散剤及び有機溶剤を含有し、前記(B)分散剤が4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤を含み、前記有機溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有し、(A-1)上記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、上記一般式(2)のスルホン酸誘導体を含むことを要件とするものである。
そうすると、本件特許発明2?7、11も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2及び上記周知技術1、2に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由1(サポート要件違反)
(1)特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略本件特許の発明の詳細な説明には、段落【0040】に「スルホン酸誘導体が存在すると、分散性や保存性が向上する場合がある。」との漠然とした作用が開示されているに過ぎず、どのような誘導体であるのか詳細が不明であること、誘導体の具体的な構造を明細書中から推定することも不可能であるから、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?12について、発明の詳細な説明に開示された範囲を超えていると主張している。

(2)また、特許異議申立人は、平成30年9月6日付けの意見書において、概略本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の構成要件を全て具備する例が開示も示唆もないため、本件特許発明が課題を解決し得るかが定かではなく、発明の詳細な説明に開示された範囲を超えていると主張している。

(3)しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、段落【0025】?【0027】に、(A)色材は、(A-1)一般式(1)で表される化合物であること、一般式(1)中、R^(2)?R^(10)は、互いに独立してSO_(3)H等であることが記載されている。当該記載に基づけば、本件特許における「一般式(2)のスルホン酸誘導体」がどのようなものであるか明らかである。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、段落【0040】に、(A-1)の有機黒色顔料は、分散剤、溶剤、方法によって分散して使用されること、分散の際に一般式(2)のスルホン酸誘導体が存在すると分散性や保存性が向上することが記載されている。当該記載に基づけば、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の構成要件を全て具備する例が示唆されており、事実上開示されているといえる。

(4)以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用することができない。

2 特許異議申立理由2(明確性要件違反)
(1)特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略訂正前の特許請求の範囲の請求項5及び請求項5を引用する請求項6?12について、基準となる共重合体の構造が規定されておらず、これにより4級アンモニウム塩基の量が正確に算出されないから、発明の範囲が明確でないと主張している。

(2)しかしながら、共重合体1g中の4級アンモニウム塩基の量は、共重合体の重合に用いる単量体における4級アンモニウム塩基の数及び、それぞれの単量体の重量から算出できるものであるから、共重合体1g中の4級アンモニウム塩基の量の範囲を特定した請求項5に係る発明の範囲が不明確であるということができない。

(3)以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用することができない。

3 特許異議申立理由3(進歩性違反)
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、8?10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
しかしながら、本件訂正により、本件特許発明1?7、11は、本件訂正前の請求項12に記載された構成を備えるものとなった。したがって、本件特許発明1?7、11は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものということができない。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。

4 特許異議申立理由4(拡大先願)
(1)甲第3号証
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、4?12に係る発明は、以下の甲第3号証に記載の発明であると主張している。
なお、甲第3号証は2014年(平成26年)12月31日に国際公開されたものであって、平成25年6月24日に出願された特願2013-131296号(以下、「引用出願3」という。)に基づいて優先権主張された国際出願であるPCT/JP2014/065562号の国際公開公報にあたる。

甲第3号証:国際公開第2014/208348号

イ 引用出願3の段落【0056】?【0058】及び【0066】?【0070】には、実施例2において着色剤として使用する感光性黒色樹脂組成物A-2として、以下の発明が記載されており、国際公開第2014/208348号の段落[0063]?[0065]及び[0073]?[0077]において公開されている。
「黒色顔料1(BASF社製“Irgaphor Black S0100CF”:600.0g)に、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体(質量比30/40/30)を合成後、40質量部のグリシジルメタクリレートを付加させ、精製水で再沈、濾過、乾燥することにより得た、重量平均分子量(Mw)10,000、酸価110(mgKOH/g)のアクリル樹脂(P-1)のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート35質量%溶液(321.4g)、高分子分散剤(BYK21116;ビックケミー社製;93.8g)及びプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(1984.8g)をタンクに仕込み、ホモミキサーで1時間撹拌し、予備分散液1を得た後、0.10mmφジルコニアビーズを70%充填した遠心分離セパレーターを具備した、ウルトラアペックスミルに予備分散液1を供給し、回転速度8m/sで2時間分散を行い、固形分濃度25質量%、顔料/樹脂(質量比)=80/20の黒色顔料分散液Bk-1を得て、
黒色顔料1の代わりに有機顔料PB15:6(東洋インキ(株)製)を用いた以外は、黒色顔料分散液Bk-1と同様にして、有機顔料分散液DB-1を得て、
着色材として使用する顔料の質量比を黒色顔料1/青色顔料PB15:6=80/20(感光性レジストに黒色顔料分散液Bk-1を8.37g、有機顔料分散液DB-1を2.09g添加)として得た、感光性黒色樹脂組成物A-2。」(以下、「引用発明3」という。)

ウ 本件特許発明1と引用発明3とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点3]本件特許発明1が、色材に、一般式(2)のスルホン酸誘導体を含むのに対し、引用発明3は一般式(2)のスルホン酸誘導体を含んでいない点。

エ 本件特許発明1と引用発明3とは、上記[相違点3]において相違するから、同一であるということはできない。また、引用発明3の「感光性黒色樹脂組成物A-2」は、有機溶媒として「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」、及び分散剤として「BYK21116」を含むところ、このような系を前提とした場合において、[相違点3]に係る本件特許発明1の構成を採用することが、課題解決のための具体化手段における微差であるということもできない。本件特許発明1の構成を具備する本件特許発明2?7、11についても同様である。
したがって、本件特許発明1?7、11に係る特許が、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものということはできない。

(2)甲第4号証
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1,5?12に係る発明は、以下の甲第4号証に記載の発明であると主張している。
なお、甲第4号証は2015年(平成27年)1月29日に国際公開されたものであって、2014年(平成26年)7月18日に出願されたPCT/JP2014/069221号(以下、「引用出願4」という。)の国際公開公報にあたる。

甲第4号証:国際公開第2015/012228号

イ 引用出願4の段落[0144]には、調整例106として、以下の発明が記載されており、国際公開第2015/012228号において公開されている。
「黒色顔料(BASF社製“Irgaphor Black S0100CF”)を120g、アクリルポリマー溶液(B12)を98g、高分子分散剤としてディスパービックLPN-21116(DP-1;ビックケミー社製;PMA40質量%溶液)を100g及びPMA682gをタンクに仕込み、ホモミキサーで20分撹拌し、予備分散液を得て、
0.05mmφジルコニアビーズを75%充填した遠心分離セパレーターを具備したウルトラアペックスミルに予備分散液を供給し、回転速度8m/sで3時間分散を行って得た、固形分濃度20質量%、着色材/樹脂(質量比)=60/40の黒色材分散液DBk-1。」(以下、「引用発明4」という。なお、PMAは、技術常識に基づけば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの略と考えられる。)

ウ 本件特許発明1と引用発明4とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点4]本件特許発明1が、色材に、一般式(2)のスルホン酸誘導体を含むのに対し、引用発明4は一般式(2)のスルホン酸誘導体を含んでいない点。

エ 前記(1)ウ及びエと同様の理由により、上記[相違点4]は、実質的に相違するものであるから、本件特許発明1と引用発明4は同一の発明であるとはいえない。本件特許発明1の構成を具備する本件特許発明2?7、11についても同様である。
したがって、本件特許発明1?7、11に係る特許が、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものということはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1?7、11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1?7、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項8?10、12は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項8?10、12に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)色材、(B)分散剤、及び有機溶剤を含有する、感光性着色組成物製造用顔料分散液であって、
前記(A)色材が、(A-1)下記一般式(2)で表される化合物である有機黒色顔料と、下記一般式(2)のスルホン酸誘導体を含み、
前記(B)分散剤が4級アンモニウム塩基及び3級アミンを官能基として有する高分子分散剤を含み、かつ、
前記有機溶剤が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有する、感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【化1】

【請求項2】
前記(A)色材が、さらに(A-2)有機着色顔料を含有する、請求項1に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項3】
前記(A)色材が、さらに(A-3)カーボンブラックを含有する、請求項1又は2に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項4】
前記高分子分散剤が、前記4級アンモニウム塩基及び前記3級アミンを有するAブロックと、前記4級アンモニウム塩基及び前記3級アミンを有さないBブロックからなる、A-B又はB-A-Bのアクリル系ブロック共重合体である、請求項1?3のいずれか1項に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項5】
前記共重合体1g中の4級アンモニウム塩基の量が、0.1?10mmolである、請求項4に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項6】
前記共重合体のアミン価が1?100mgKOH/gである、請求項4又は5に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項7】
前記共重合体のアミン価が30mgKOH/g以上である、請求項6に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
さらに(C)アルカリ可溶性樹脂を含有する、請求項1?7のいずれか1項に記載の感光性着色組成物製造用顔料分散液。
【請求項12】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-26 
出願番号 特願2016-195764(P2016-195764)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (C09B)
P 1 651・ 121- YAA (C09B)
P 1 651・ 537- YAA (C09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 倉持 俊輔  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 川村 大輔
宮澤 浩
登録日 2017-03-24 
登録番号 特許第6112254号(P6112254)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 顔料分散液  
代理人 寺本 光生  
代理人 寺本 光生  

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