ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D |
---|---|
管理番号 | 1347061 |
審判番号 | 不服2016-15132 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-10-07 |
確定日 | 2019-01-04 |
事件の表示 | 特願2014-518879「ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤の新規結晶形」拒絶査定不服審判事件〔平成25年1月3日国際公開、WO2013/003249、平成26年7月28日国内公表、特表2014-518266〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、2012年6月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月29日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年4月2日に手続補正書が提出され、同年10月8日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月8日付けで拒絶査定がされ、同年10月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。 なお、この出願の一部が平成28年10月7日に特願2016-198829号として分割出願されている。 第2 平成28年10月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年10月7日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正 平成28年10月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1である 「10.3±0.1 2θ、12.7±0.1 2θ、14.6±0.1 2θ、16.1±0.1 2θ、17.8±0.1 2θ、19.2±0.1 2θ、22.2±0.1 2θ、24.1±0.1 2θおよび26.9±0.1 2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークを粉末X線回折パターンに有することを特徴とする、化合物Iの結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)。 」 を、補正後に 「10.3±0.1 2θ、12.7±0.1 2θ、14.6±0.1 2θ、16.1±0.1 2θ、17.8±0.1 2θ、19.2±0.1 2θ、22.2±0.1 2θ、24.1±0.1 2θおよび26.9±0.1 2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークを粉末X線回折パターンに有することを特徴とする、化合物Iの結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)であって、 形Iの結晶形は、粉末X線回折分析により、酢酸イソプロピル中25℃で形IIの結晶形に対して安定であることを特徴とする結晶形であり、 ここで、 形IIの結晶形が、7.5±0.1 2θ、15.0±0.1 2θ、16.2±0.1 2θ、20.9±0.1 2θ、22.0±0.1 2θ、27.0±0.1 2θ、27.6±0.1 2θ、および33.3±0.1 2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークをその粉末X線回折パターンに有することを特徴とする、結晶形。」 とする補正を含むものである(審決注:補正部分に下線を付した。) 2 補正の適否 補正後の請求項1と補正前の請求項1との関係を検討する。 補正により付加される「形Iの結晶形は、粉末X線回折分析により、酢酸イソプロピル中25℃で形IIの結晶形に対して安定であることを特徴とする結晶形であり、ここで、形IIの結晶形が、7.5±0.1 2θ、15.0±0.1 2θ、16.2±0.1 2θ、20.9±0.1 2θ、22.0±0.1 2θ、27.0±0.1 2θ、27.6±0.1 2θ、および33.3±0.1 2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークをその粉末X線回折パターンに有する」との事項は、発明の詳細な説明の記載によると、補正前の請求項1に記載されていた発明の、特定の粉末X線回折パターンにおける2θの数値の組により特定される結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)が、本来有している性質を表す事項であって、補正前にあってはその性質を有しているものと有していないものがあったうちの前者に特定する、というものではない。したがって、補正前と補正後とで、請求項1に記載される、特定の粉末X線回折パターンにおける2θの数値の組により特定される結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)の範囲が、異なるというものではない。 すると、補正前の請求項1を補正後の請求項1とする補正は、特許請求の範囲に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また、同第1号に掲げる請求項の削除、同第3号に掲げる誤記の訂正、及び同第4号に掲げる明りようでない記載の釈明の、何れを目的とするものにも該当しない。 なお、補正前の請求項5に係る発明は、結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)に関する発明であり、補正前の請求項2?4及び6?8に係る発明は、結晶形に関する発明であり、補正前の請求項9に係る発明は、医薬品の製造における結晶形の使用に関する発明であり、補正前の請求項10?12に係る発明は、医薬粗製物に関する発明であるところ、補正後の請求項1と補正前の請求項2?12との関係を検討しても、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号?第4号の何れを目的とするものにも該当しない。 3 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明 平成28年10月7日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の発明は、平成28年1月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「10.3±0.1 2θ、12.7±0.1 2θ、14.6±0.1 2θ、16.1±0.1 2θ、17.8±0.1 2θ、19.2±0.1 2θ、22.2±0.1 2θ、24.1±0.1 2θおよび26.9±0.1 2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークを粉末X線回折パターンに有することを特徴とする、化合物Iの結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)。 」 第4 原査定の理由 原査定の理由は、平成27年10月8日付けの拒絶理由通知における理由2であり、概略、この出願の請求項1?20に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1?7に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。その引用文献1は国際公開第2010/056708号(以下「刊行物1」という。)であり、その引用文献2は芦澤一英編著,「医薬品の多形現象と晶析の科学」,丸善プラネット株式会社,2002年9月20日,p.3-16(以下「刊行物2」という。)であり、その引用文献3は「調剤学-基礎と応用-」,南山堂,1977年9月20日,p.142-145(以下「刊行物3」という。)であり、その引用文献4は「新製剤学」,南山堂,1984年4月25日,p.102-103,232-233(以下「刊行物4」という。)であり、その引用文献5は「新・薬剤学総論(改訂第3版)」,南江堂,1987年4月10日,p.111(以下「刊行物5」という。)であり、その引用文献6は「実験化学講座(続)2分離と精製」,丸善,昭和42年1月25日,p.159-178,186-187(以下「刊行物6」という。)であり、その引用文献7はInternational Journal of Pharmaceutics,283,2004,p.117-125(以下「刊行物7」という。)である。本願発明は、拒絶理由通知で言及された請求項2に係る発明に相当する。 第5 当審の判断 当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1?7に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 刊行物 刊行物1:国際公開第2010/056708号(原審における引用文献1) 刊行物2:芦澤一英編著,「医薬品の多形現象と晶析の科学」,丸善プラネット株式会社,2002年9月20日,p.3-16(同引用文献2) 刊行物3:西垣貞男,「調剤学-基礎と応用-」,3刷,南山堂,1977年9月20日,p.142-145(同引用文献3) 刊行物4:仲井由宣,花野学編,「新製剤学」,2刷,南山堂,1984年4月25日,p.102-103,232-233(同引用文献4) 刊行物5:岡野定補編著,「新・薬剤学総論(改訂第3版)」,南江堂,1987年4月10日,p.111(同引用文献5) 刊行物6:日本化学会編,「実験化学講座(続)2分離と精製」,丸善,昭和42年1月25日,p.159-178,186-187(同引用文献6) 刊行物7:International Journal of Pharmaceutics,283,2004,p.117-125(同引用文献7) 刊行物8:長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,「岩波 理化学辞典 第5版」,第5版第8刷,2004年12月20日,岩波書店,p.504 刊行物9:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186 刊行物10:Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954(刊行物12に対応する特許第4790194号に対する無効審判(無効2013-800037号(以下「アトルバスタチン無効審判」という。)で提出された甲第5号証;当審手持ちの文献は、最初の頁の右上に「甲第5号証」及び「無効審判請求13-000351」の表示があり、抄訳付き) 刊行物11:特開平6-192228号公報 刊行物12:特開2003-73353号公報 刊行物13:Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529(アトルバスタチン無効審判で提出された甲第8号証;当審手持ちの文献は、最初の頁に右上に「甲第8号証」及び「無効審判請求13-000354」の表示があり、抄訳付き) 刊行物8?13は、原審で引用された刊行物2?7に加えて技術常識を示すために引用するものである。 2 刊行物の記載事項 ア 刊行物1 訳文で示す。 (1a)「1.構造式I: の化合物又は薬学的に許容されるその塩であって;式中 Vは からなる群から選択され: Arは、1?5個のR^(1) 置換基で置換されていてもよいフェニルであり; 各R^(1) は、独立して、ハロゲン・・・からなる群から選択され: 各R^(2) は、独立して、水素・・・からなる群から選択され・・・; R^(3a) 及びR^(3b) は、それぞれ独立して、水素又は・・・であり; ・・・・・・・・・・・・・・・ R^(8) は、-SO_(2)C_(1-6) アルキル・・・からなる群から選択され・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 18. ・・・・・・・・・・・・・・・ からなる群から選択される化合物又は薬学的に許容されるその塩。」(60?67頁、請求の範囲の請求項1及び18) (1b)「技術分野 本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害剤(“DPP-4阻害剤”)であり、糖尿病、特に2型糖尿病のような、ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与する疾患の治療又は予防に有用である、新規の置換アミノテトラヒドロピランに関する。本発明は、また、このような化合物を含む医薬組成物、並びにジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与する前記疾患の予防又は治療における、これらの化合物及び組成物の使用に関する。 背景技術 糖尿病は、複数の原因因子に由来し、空腹状態又は経口グルコース負荷試験の際のグルコースの投与後における血漿グルコースレベルの上昇又は高血糖により特徴付けられる疾病過程を意味する。持続的又は制御不能な高血糖は、増加した早期の罹患及び死亡に関連している。多くの場合に異常なグルコース恒常性が、脂質、リポタンパク質及びアポリポタンパク質代謝の変化、並びに他の代謝及び血行動態疾患に、直接的及び間接的に関連している。したがって、2型糖尿病の患者においては、冠動脈性心疾患、脳卒中、末梢血管疾患、高血圧症、腎症、神経障害及び網膜症を含む、大血管性及び微小血管性合併症の危険性が特に増加する。したがって、グルコース恒常性、脂質代謝及び高血圧の治療制御は、糖尿病の臨床管理及び治療において極めて重要である。 一般的に認識されている2種の糖尿病の形態がある。1型糖尿病又はインシュリン依存性糖尿病(IDDM)では、患者は、グルコース利用を調節するホルモンであるインシュンをほとんど生成しないか、又は全く生成しない。2型糖尿病又はインシュリン非依存性糖尿病(NIDDM)では、患者は多くの場合において非糖尿病被験者と比べて同じであるか又は上昇さえしている血漿インシュリンレベルを有するが、これらの患者は、筋肉、肝臓及び脂肪組織である主なインシュリン感受性組織におけるグルコース及び脂質代謝に対するインシュリン刺激効果への抵抗性を発生し、血漿インシュリンレベルは上昇しているが、顕著なインシュリン抵抗性を克服するには不十分である。 ・・・・・・・・・・・・・・・ ジペプチジルペプチダーゼIV(“DPP-4”)酵素の阻害剤である化合物は、糖尿病、特に2型糖尿病の治療に有用であることもわかっている・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 発明の要旨 本発明は、新規置換3-アミノテトラヒドロピランに関し、これは、ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害剤(“DPP-4阻害剤”)であり、糖尿病、特に2型糖尿病のような、ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与する疾患の治療又は予防に有用である。本発明は、また、このような化合物を含む医薬組成物、並びにジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与する前記疾患の予防又は治療における、これらの化合物及び組成物の使用に関する。」(1頁5行?4頁22行) (1c)「ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤として有用な本発明の化合物の非限定的な例は、3個の不斉テトラヒドロフラン炭素原子における、示された絶対立体配置を有する以下の構造: ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 及び薬学的に許容されるその塩である。」(11頁18行?13頁1行) (1d)「本発明の化合物は、標準的な還元的アミノ化条件、それに続く脱保護を用いることにより、式II及びIIIの化合物のような中間体から調製することができる。 式中、Ar及びVは前記で定義した通りであり、Pは、tert-ブトキシカルボニル(BOC)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)又は9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)のような適切な窒素保護基である)これらの中間体の調製を下記スキームに示す。 式IIの中間体は文献において公知であるか、又は当業者によく知られている種々の方法により都合良く調製することができる。1つの一般的な経路をスキーム1に示す。N,N-ジイソプロピルエチルアミンのような塩基の存在下、置換ハロゲン化ベンゾイル1をフェノールで処理し、エステル2を得る。水素化ナトリウムを用いてニトロメタンから生成したアニオンで2を処理し、ニトロケトン3を得る。また、ニトロケトン3は、塩基の存在下でアルデヒド1aをニトロメタンと反応させ、得られたニトロアルコール1bをジョーンズ試薬のような酸化剤を用いて酸化させることによって製造することができる。ニトロケトン3を、3-ヨード-2-(ヨードメチル)プロプ-1-エンと共に加熱してピラン4を得、水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元し、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)のような塩基を用いて異性化し、トランス形のピラン5が得られる。5の鏡像異性体は、当業者に公知の種々の方法によりこの段階で分離することができる。好都合なことに、キラルカラムを用いたHPLCによりラセミ体を分割することができる。次いで、例えば、亜鉛及び塩酸のような酸を用いてニトロ置換ピラン5を還元し、得られたアミン6を、例えばジ-tert-ブチルジカルボネートを用いた処理によりそのBOC誘導体として保護し、7を得る。7を、四酸化オスミウム及びN-メチルモルホリンN-オキシドで処理してジオール8を得、これを過ヨウ素酸ナトリウムで処理して中間体ピラノンIIaを得る。 式IIIの中間体は文献において公知であるか、又は当業者によく知られている種々の方法により都合良く調製することができる。テトラヒドロピロロピラゾールIIIaを調製するための1つの一般的な経路をスキーム2に示す。トリチル-又はBoc-保護ピロリジノール9を、当該技術分野において通常に知られている種々の方法、例えばSwern法により酸化してケトン10を得、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(DMF-DMA)と処理して加熱し、11を得る。次いで、所望の中間体IIIaは、場合によりナトリウムエトキシドのような塩基の存在下、適切な溶媒、例えばエタノール中で、11の溶液をヒドラジン12と共に加熱し、次いで、酸により保護基を除去することにより、容易に得ることができる。 スキーム3に示すように、構造式(I)の本発明の化合物は、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン又はメタノールのような溶媒中、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、デカボラン又はナトリウムトリアセトキシボロハイドライドのような試薬を用いて、中間体IIIの存在下で、中間体IIの還元的アミノ化により中間体IVを提供することにより調製することができる。場合により、反応は、四塩化チタン又はオルトチタン酸テトライソプロピルのようなルイス酸の存在下で実施される。反応は、酢酸のような酸を加えることによっても促進され得る。ある場合には、中間体IIIは、塩酸塩又はトリフルオロ酢酸塩のような塩であってもよく、これらの場合には、反応混合物に、塩基、一般的にN,N-ジイソプロピルエチルアミンを加えることが好都合である。次いで、保護基を、例えば、Bocの場合にはトリフルオロ酢酸又はメタノール性塩化水素を用い、Cbzの場合にはパラジウム-炭素及び水素ガスを用いて除去して所望のアミンIを得る。必要に応じて、生成物を、再結晶、粉砕、分取薄層クロマトグラフィー、Biotage(登録商標)装置を用いたもののようなシリカゲルによるフラッシュクロマトグラフィー又はHPLCにより精製する。HPLCにより精製された化合物は、対応する塩として単離することができる。 ある場合には、前記スキームに示される生成物I又は合成中間体は、例えば、Ar又はV上の置換基の操作により、更に修飾してもよい。これらの操作には、一般的に当業者に公知の還元、酸化、アルキル化、アシル化及び加水分解反応が含まれるが、これらに限定されない。ある場合には、反応を促進するために又は望ましくない反応生成物を回避するために、前記反応スキームを実施する順番を変えてもよい。 本発明の構造式Iの化合物は、適切な材料を用いて、以下のスキーム及び実施例の方法に従って調製することができ、以下の特定の実施例により更に例示する。・・・実施例は、本発明の化合物の調製の詳細をさらに示す。当業者は、以下の調製手順の条件及び手段の公知の変形が、これらの化合物を調製するために用いることができることを容易に理解するであろう。本発明の化合物は、通常、本明細書に前述したような薬学的に許容される塩の形態で単離される。単離される塩に対応する遊離のアミン塩基は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの水溶液のような適切な塩基による中和、生成したアミン遊離塩基の有機溶媒中への抽出、それに続く蒸発により生成することができる。この方法で単離されたアミン遊離塩基は、有機溶媒中への溶解、それに続く適切な酸の添加、並びにそれに続く蒸発、沈殿又は結晶化により更に他の薬学的に許容される塩に変換することができる。・・・」(38頁1行?41頁13行) (1e)「 中間体1 tert-ブチル[(2R,3S)-5-オキソ-2-(2,4,5-トリフルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カルバメート 工程A: フェニル2,4,5-トリフルオロベンゾアート フェノール・・・の無水ジクロロメタン・・・中の溶液を氷浴中で冷却し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン・・・で処理し、次いで、2,4,5-トリフルオロベンゾイルクロライド・・・を15分間かけて滴下して加えた。有機層を・・・濃縮し、得られた固形生成物を・・・シリカ上で精製し・・・白色固体として得た。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 工程H: tert-ブチル[(2R,3S)-5-オキソ-2-(2,4,5-トリフルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カルバメート ・・・フラッシュクロマトグラフィー・・・により精製し・・・白色固体として得た。 中間体2 tert-ブチル[(2R,3S)-5-オキソ-2-(2,5-ジフルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カルバメート 工程A: 1-(2,5-ジフルオロフェニル)-2-ニトロエタノール ・・・水酸化ナトリウム(1N・・・)及びメタノール・・・に、2,5-ジフルオロベンズアルデヒド・・・及びニトロメタン・・・のメタノール・・・中の溶液を1時間かけて滴下して加えた。・・・氷酢酸・・・で中和し・・・ジエチルエーテル・・・を加え、層を分離し・・・有機層を・・・濃縮し・・・これは更に精製することなく工程Bで用いた。 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・中間体1・・・に記載されたのと同じ方法に従って製造した。 工程I: tert-ブチル[(2R,3S)-5-オキソ-2-(2,5-ジフルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カルバメート ・・・クロマトグラフィー・・・により精製し・・・白色固体として得た。」(42頁12行?47頁2行) (1f)「 中間体3 工程A: tert-ブチル(3Z)-3-[(ジメチルアミノ)メチレン]-4-オキソピロリジン-1-カルボキシレート tert-ブチル3-オキソピロリジン-1-カルボキシレート・・・の溶液をDMF-DMA・・・で処理し・・・得られた橙色の固体を・・・処理し・・・冷却し・・・得られた黄褐色の固体をろ過により集め、乾燥し、更に精製することなく次の工程で用いた。 工程B: 1,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール ヒドラジン・・・及びtert-ブチル(3Z)-3-[(ジメチルアミノ)メチレン]-4-オキソピロリジン-1-カルボキシレート・・・のエタノール・・・中の溶液を、密封チューブ内、85℃で4時間加熱した。減圧下で溶媒を除去し、残渣をジクロロメタン・・・及び酢酸エチル・・・で粉砕した。得られた固体をろ過した。ろ液を濃縮し、得られた固体を再度粉砕し、ろ過した。一緒にした固体を、メタノール中の4N塩酸・・・で処理し・・・精製し、1,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾールを得た。・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 中間体5 2-(メチルスルホニル)-2,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール 工程A: tert-ブチル1-(メチルスルホニル)]-4,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(1H)-カルボキシレート(A)及びtert-ブチル2-(メチルスルホニル)]-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-カルボキシレート(B) N-Boc-ピラゾロピロリジン(中間体3、工程B)・・・の無水アセトニトリル・・・中の懸濁液を温度計及び添加漏斗を取り付けた2.0Lの三ツ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、水素化ナトリウム・・・で一度に処理した。・・・得られた白色の懸濁液を氷浴中で冷却し、塩化メタンスルホニル・・・を添加漏斗を通してゆっくりと加えた。・・・室温で1時間撹拌し・・・水・・・を用いて反応混合物の反応を停止し、層を分離し・・・水層を・・・ジクロロメタンで抽出し・・・一緒にした有機層を・・・濃縮し、生成物A及びBの混合物を無色のシロップとして得た。NMRは、生成物A・・・生成物Bの2種の生成物の1:1混合物であることを示した。・・・ 工程B: 2-(メチルスルホニル)-2,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール ・・・ジクロロメタン中、2.5?12.5%メタノール及び0.25?1.25%水酸化アンモニウムで溶出するBiotage(商標)カラム・・・によるクロマトグラフィーの後に、所望の中間体5を得た。・・・」(47頁3行?49頁28行) (1g)「 実施例1 (2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン 工程A: tert-ブチル{(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル}カルバメート 中間体2(26.3g、80mmol)及び2-(メチルスルホニル)-2,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール(中間体5)(15.07g、80mmol)の混合物を、無水メタノール(1.5L)中、室温で2時間撹拌した。得られた白色の懸濁液に、デカボラン(2.95g、24.15mmol)を加え、混合物を室温で一晩撹拌した。メタノールを除去し、残渣を、ジクロロメタン中5?50%酢酸エチルで溶出する、2本の65i Biotage(商標)カラムにより精製し、標題の化合物を白色固体として得た。LC-MS:499.10(M+1)。 工程B: (2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン 室温で、ジクロロメタン(200mL)中のトリフルオロ酢酸(100mL)を用い、工程A由来の生成物(13.78g、27.67mmol)中のBOC基の除去を実施した。2時間撹拌した後、反応物を濃縮し、ジクロロメタン中の25%MeOH及び2.5%水酸化アンモニウムで中和した。減圧下で溶媒を除去し、ジクロロメタン中の1.25?5%MeOH及び0.125?0.5%水酸化アンモニウムで溶出する65i Biotage(商標)カラムにより、得られた粗生成物を精製した。単離した物質を、60℃で5:1のEtOAc/CH_(2)Cl_(2) から再結晶することにより更に精製した。結晶性生成物を、冷却した2:1のEtOAc/ヘキサンで洗浄し、標題の化合物を淡褐色の固体として得た。^(1)H NMR(500MHz,CD_(3)OD):1.71(q,1H,J=12Hz),2.56-2.61(m,1H),3.11-3.18(m,1H),3.36-3.40(m,1H),3.48(t,1H,J=12Hz),3.88-3.94(m,4H),4.30-4.35(m,1H),4.53(d,1H,J=12Hz),7.14-7.23(m,2H),7.26-7.30(m,1H),7.88(s,1H)。LC-MS:399.04(M+1)。」(50頁33行?51頁27行) (1h)「医薬製剤の実施例 経口医薬組成物の具体的な実施態様として、100mgの力価の錠剤を、実施例のいずれか1つに記載されたもの100mg、微結晶性セルロース268mg、クロスカルメロースナトリウム20mg及びステアリン酸マグネシウム4mgから構成する。活性成分、微結晶性セルロース及びクロスカルメロースを最初に混合する。次いで、ステアリン酸マグネシウムで混合物を滑沢とし、錠剤に圧縮する。」(59頁2?7行) イ 刊行物2 (2a)「結晶の多形現象は,医薬だけでなく,固体の物質科学の中で一般的に観測されている現象であるが,医薬品においては有効性,安全性,品質の観点から考慮すべき極めて重要な項目の一つになっている。すなわち,固体状態における結晶多形や疑似多形,結晶化度の違い,水や賦形剤との相互作用などの分子状態の差は,水や水溶液に対する溶解度や溶解速度,また,融解温度,融解熱や格子エネルギー等の物理的及び化学的諸性質に影響する。例えば,多形転移に基づく結晶成長のために,剤形破壊や適用性の低下が起こり得るし,また,分子レベルの観点から考えた場合には,結晶中の分子間,または原子間距離の違いによって,多形間で化学反応性に差異が生じ,原薬および製剤の保存等において化学的安定性が異なることも考えられる。したがって,このような医薬品研究のマテリアルサイエンスに従事する人々においては,医薬品の多形現象などの結晶物性について,熟知しておくことは当然必要なことである。 まず,医薬品における結晶多形とは何か,ということから話を進めることとする。医薬品は複雑な化学構造を持っているために,固体の医薬原薬の70%が結晶多形を示すと言われている。Halebilanらは,融点210℃以下のステロイド類の67%,バルビツール酸類の63%は,多形を持ち多くの抗生物質も多形を持つことを報告している^(3))。表1には,Halebianらの多形のまとめを示した。 同一の物質で結晶構造が異なるものを結晶多形と定義しているが,医薬品においては,安定性,溶解性や生体内での有用性に関わる諸問題に関係することから,結晶特性の管理は極めて重要である。・・・ そして,このように,同一物質で結晶構造が異なる場合において,互いに結晶構造の異なるものを結晶多形と呼び,それらの結晶構造は互いに多形の関係にあるという。・・・少し古い本ではあるが,Stephen,R.Byrnの著書「Solid-State Chemistry of Drugs(1982)」に,スルホンアミド類やステロイド類の結晶多形についての説明があり,融点の異なる固相についての報告がまとめられている^(5))。下記の表3,4,5は,S.R.Byrnの著書に散らばって記載されていたものを抜粋したものである。医薬品には大変多くの多形が存在することが理解される。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 結晶多形は,溶けてしまえば皆同じであるが,とりわけ医薬品で結晶多形が問題となるのは,結晶多形間で溶解性(溶解速度も含む)が大きく異なる場合である。この場合には,薬物の吸収性に影響を与える可能性が大きくなる。結晶多形の違いにより物質の物理化学的性質が異なり,そのことが製剤上の問題となることがある。最も大きな問題はバイオアベイラビリティーに対する影響の可能性である。すなわち,結晶形が異なることにより,溶解度・溶解速度に違いが生じ,吸収率にも違いが生じることによって薬効が変わってしまう可能性がある。・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 」(3頁9行?8頁表) (2b)「薬物の結晶状態も,製剤加工により影響を受け,これらの特性の変化が医薬品の物理的安定性,化学的安定性,溶解速度などに影響を及ぼすと考えられる^(15))。」(11頁5?6行) (2c)「原薬の塩・結晶形は,溶解度,固体安定性,分散性,固液分離特性(精製効率)などに大きく影響する。特に経口薬では,その溶解性がバイオアベイラビリティーに影響を及ぼす事から,医薬品の開発研究において極めて重要な検討項目の一つである。」(14頁下から6?下から4行) ウ 刊行物3 (3a)「5)結晶多形polymorphism 同一化学組成の物質で結晶構造の異なるものについて用いられる用語である. ・・・・・・・・・・・・・・・ 薬剤で多形が生じる原因は結晶化の際,溶媒の種類や温度のえらび方による場合が多い.一般にまず不安定形(準安定形)の結晶ができて,その条件下で安定形の結晶に転移する場合が多い. ・・・プレドニゾロン,サルファ剤,フェノバルビタール,クロラムフェニコールパルミテートなど多数の薬剤について結晶多形が知られており,あきらかに溶解度や吸収に差があることが報告されている.・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ またアスピリンについても^(27))アルコールより再結晶して得られるmp.143?144℃(局)アスピリンI形とnヘキサンから再結晶して得られるmp.123?125℃の準安定形のII形が存在しII形→I形に容易に転移する.II形はI形に比べて,水にはるかに溶けやすく(この場合は,溶解速度が速い.)血中濃度も大きい. ・・・・・・・・・・・・・・・ 再結晶によってII形の結晶を得るといった操作は,いたって簡単であるから今世紀最大のヒット薬剤と言われているアスピリンを再検討し,優秀なアスピリン坐薬のような特殊製剤をつくることは今後の自家製剤の進むべき道を指示しているといえよう.」(142頁8行?145頁3行) エ 刊行物4 (4a)「多形とは同じ化学組成を持ちながら結晶構造が異なり,別の結晶形を示す現象またはその現象を示すものをいう.すなわち結晶中の原子あるいは分子の空間的な配列の違いによって多形がおこるので,融解したり溶解した場合には区別はできない. 多形を示す物質としては・・・医薬品では酢酸コルチゾン,プロゲステロン,プレドニゾロン,バルビタール,フェノバルビタールなどがあり,とくに最近では多くの薬品に多形の存在が見出されている. 多形は結晶中での分子や原子の配列が異なるので,その存在はX線回折法,密度測定法,偏光顕微鏡法,赤外吸収スペクトル法により知ることができる.また熱力学的に多形は別の相として考えられ,各多形はそれぞれの融点や溶解度をもつ.ある薬品に多形があるとき,一般に融点の高い方が安定形である溶解度は低い.融点の低い方の準安定形は安定形よりも高い溶解度をもっているが実際には測定中に安定形結晶が生じ易く,このときは溶解度は安定形結晶によって決められて準安定形の溶解度は得られない. ・・・・・・・・・・・・・・・ 製剤上で多形が問題となるのは,それによって異なる溶解速度が与えられるからである.パルミチン酸クロラムフェニコールの例のように安定形と準安定形との間に著しい溶解速度に差がみられる.パルミチン酸クロラムフェニコールの安定形の結晶は非常に溶けにくく製剤の原料として使用することはできない.」(102頁下から6行?103頁22行) (4b)「同一の薬であっても,結晶状態の安定度に異なるものがあれば,不安定なものは,水に対する溶解性も高く,溶解速度も大となる.薬の吸収速度に及ぼすものとして,多形(polymorph)と結晶水の影響が知られている.多形の存在は,ステロイド剤,サルファ剤,バルビタール酸誘導体,抗生物質などについて知られている.・・・ 結晶水の有無に関しては,一般に結晶水をもったものの方が無水物よりも安定で,溶解性は無水物の方がよい.」(232頁下から7行?233頁4行) オ 刊行物5 (5a)「多形polymorphism:同一化合物が異なる結晶構造,結晶形をもつ現象を多形という.多形の結晶はX線回折像,融点,屈折率,溶解度などが異なる.多くの化合物は多形で,医薬品でも,アスピリン,インドメタシン,カカオ脂,グリセリド,脂肪酸,スルホンアミド類,セファロリジン,バルビタール類,chloramphenicol palmitate,ステロイドホルモン(プレドニゾロン,エストロンなど),リボフラビンなど多くのものについて結晶多形が報告されている.^(3)) プロゲステロンには5種の結晶形が知られている. 結晶多形によって溶解度が異なる事実は製剤学的に重要で,多くの場合,結晶の溶解度(または溶解速度)は消化管吸収を律速するが,溶解度の大きい方が吸収が速い.多形のうち安定性の低い結晶(準安定形meta-stable form)の方が安定形stable formより融点が低く,溶解度も大きい.Ostwaldによれば,溶液から結晶が析出するさいには,準安定形の方が先に結晶化する(逐次転移の法則law of successive transformation).結晶形の移行は,再結溶媒,結晶化の速さ(冷却速度)および保存の温度条件,粉砕などによって起きる.例えばアスピリンを95%エタノールから再結したものと,n-ヘキサンから再結したものは結晶形が異なるが,後者の方がはるかに速やかに水に溶解する.」(111頁3?18行) カ 刊行物6 (6a)「沈殿と再結晶の技術は化合物の分離あるいは精製の手段として最も古くから知られている方法である科学の進歩に伴い種々の新しい分離法が登場し実用に供されてきたが,沈殿法および再結晶法はなお依然として分離・精製法の大部を占めており,その重要性はいささかも失われていない. 沈殿法は目的物質を含む溶液に試薬を加えてその物質を難溶性の化合物に変えて分離する操作である.したがって,沈殿法においては難溶性の化合物に変えるために常に化学変化を伴っている.これに対し,結晶法は溶液の状態から目的物質を濃縮あるいはその他の操作により主として物理的変化を利用して目的物を結晶化する方法である.化学反応による生成物が結晶性の沈殿であることも多いので,沈殿法と結晶法とが特に区別されずに用いられている場合も少なくない.」(159頁5?14行) (6b)「分離・精製における溶媒の主要な役割は析出させるべき化合物を溶解し,ついでそれを冷却あるいは蒸発濃縮などによって沈殿(結晶)を析出させることである. ・・・・・・・・・・・・・・・ 」(166頁18行?168頁表5・1) キ 刊行物7 訳文により示す。 (7a)「溶媒性質パラメーターの統計学的分析による溶媒の分類:多形スクリーニングのヒント」(117頁、表題) (7b)「溶液からの結晶化による新規な多形の発見の成功率は,最初の多形スクリーニングの間に多様な性質の溶媒が用いられるなら,増加するかもしれない。この研究では,96の溶媒の,8つの溶媒パラメーター,すなわち水素結合受容性,水素結合供与性,極性/双極性,双極子モーメント,誘電率,粘度,表面張力,凝集エネルギー密度(溶解パラメーターの二乗に等しい)を集めた。これらのパラメーターのクラスター統計分析を用いて,これら96の溶媒を15の溶媒群に分けた。このような溶媒群は,多形スクリーニングのための多様な性質の溶媒を賢明に選択するためのガイドラインを提供するであろう。」(117頁、要約) (7c)「多形スクリーニングは,様々な溶媒からの結晶化により,伝統的な手法・・・又はハイスループット結晶化技術・・・により,日常的に行われている。特定の溶媒から特定の結晶が優先的に結晶化することは,特に種結晶が存在ないとき,しばしば観察される・・・。この現象は,核形成,結晶成長,溶媒媒介多形転移・・・における,溶媒-溶質相互作用の規制効果のせいであり,多形の出現に影響があるとされてきた。分子レベルの溶媒-溶質相互作用に加え,溶媒の巨視的な性質,例えば粘度や表面張力もまた,結晶化の動態および多形の出現に影響するかもしれない・・・。それゆえ,多様な性質をもつ溶媒群を用いると,多形スクリーニングの間に新規な多形を発見する成功率が増加するであろう・・・。」(117頁左欄1行?118頁左欄8行) (7d)「付録A.96の溶媒の溶媒性質パラメーター」と題する表に、96の溶媒の8つのパラメーター「π」、「Σα」、「Σβ」、「双極子モーメント」、「誘電率」、「凝集エネルギー密度」、「粘度」、「表面張力」の数値が記載されている。96の溶媒を、5つごとに番号を入れて示すと、以下のとおりである。 1,1,1-トリクロロエタン 1,2-ジブロモエタン 1,1-ジクロロエタン 1,2ジクロロエタン 5 1,4-ジオキサン 1-ブタノール 1-ヨードブタン 1-オクタノール 1-ペンタノール 10 1-プロパノール 2,4-ジメチルピリジン 2,6-ジメチルピリジン 2-ブタノール 2-ヘプタノン 15 2-ヘキサノン(MBK) 2-メトキシエタノール 2-メチル-1-プロパノール 2-メチル-2-プロパノール 2-ペンタノン 20 2-プロパノール 3-ペンタノン 4-メチル-2-ペンタノン 2-メチルピリジン 酢酸 25 アセトン アセトニトリル アセトフェノン アニリン アニソール 30 ベンゼン ベンゾニトリル ベンジルアルコール ブロモホルム ブタノン 35 ブタンニトリル エタン酸ブチル ブチルアミン 二硫化炭素 四塩化炭素 40 クロロベンゼン クロロホルム m-クレゾール シクロヘキサン シクロヘキサノン 45 シクロペンタノン cis-デカリン n-デカン ジブロモメタン ジブチルエーテル 50 o-ジクロロベンゼン ジクロロメタン ジエチルエーテル ジエチルスルフィド ジエチルアミン 55 ジヨードメタン ジイソプロピルエーテル ジメチルジスルフィド N,N-ジメチルアセトアミド N,N-ジメチルホルムアミド 60 ジメチルスルホキシド n-ドデカン エタノール 酢酸エチル エチレングリコール 65 ギ酸エチル エチルフェニルエーテル フルオロベンゼン ギ酸 グリセリン 70 n-ヘプタン n-ヘキサン ヨードベンゼン メシチレン メタノール 75 安息香酸メチル エタン酸メチル メタン酸メチル N-メチル-2-ピロリドン メチルtert-ブチルエーテル 80 モルホリン ニトロメタン n-オクタン n-ペンタン ペンタン酸 85 プロパン酸 プロパンニトリル エタン酸プロピル ピリジン テトラクロロエタン 90 テトラヒドロフラン トルエン トリクロロエテン トリエチルアミン 水 95 m-キシレン p-キシレン (121?124頁) ク 刊行物8 (8a)「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.そのためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶媒に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合溶液中に残るので,精製の方法としてよく使われる.」(504頁右欄017の項) ケ 刊行物9 (9a)「a.再結晶 物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる. (i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のR_(f) 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない. (ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい^(1)).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう. ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大) さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値E_(T);ε,δ,E_(T) は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある. (iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい. (iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない. (v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの機器分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行) (9b)「 」(186頁) コ 刊行物10 訳文で示す。 (10a)「医薬品固体:法規制考慮への戦略的アプローチ」(945頁、標題) (10b)「医薬品固体の対象における興味は、“適切な”分析手法を用いて原薬の多形、水和、又は無定形を検出すべきであるとする、食品医薬品局(FDA)の原薬ガイドラインに部分的に由来する。これらのガイドラインは、原薬の結晶形態を制御することの重要性を示す。ガイドラインはまた、原薬の結晶形態を制御すること、及びバイオアベイラビリティが影響されるならば、その制御方法の妥当性を実証することは、申請者の責任であるとしている。 したがって、新薬申請(NDA)は、特にバイオアベイラビリティが問題となる場合には、固体状態に関する情報が含まれていなければならないことが明らかである一方で、申請者は、情報収集への科学的アプローチやどのような情報が必要とされるのかについて、確信が持てないであろう。この総説は、一連のガイドラインや規則ではなく、フローチャートの形でコンセプトやアイディアを示すことにより、こうした不確かさの大部分を取り除くための戦略的なアプローチを提供することを目的とする。個別の化合物はそれぞれ、アプローチの柔軟性を必要とする特有の特性を有するため、このことは特に重要である。ここで提案されるこの研究は、臨床試験用新医薬品(IND)申請プロセスの一部分である。 固体の医薬物質は、広範囲であり且つ概して予測のできない、様々な固体状態特性を示す。それでもなお、多くの事例において、適切な分析的手法を用いて基本的な物理化学的性質を申請することは、固体状態での挙動に関する科学的及び規制上の決定のための戦略を提供する。医薬品開発の初期段階において、固体状態での挙動に関する基本的な疑問に取り組むことにより、申請者とFDAの両者は、医薬物質の固体状態特性の何らかの変動が与え得る効果を評価しやすくなる。この分野に関してはその結果としてもたらされる両者の初期段階での関わりは、臨床試験中に用いられる物質の均質性を保障しやすくするだけではなく、医薬品開発の臨床段階に入る前に固体状態での問題点を完全に解決することにもつながる。これらの科学的研究がもたらす更なる利益は、医薬物質の固体形態を充分に記述する、固体状態についての有意義な規格の確立である。これらの規格はしたがって、サプライヤー又は化学工程における一部変更承認を促進する。」(945頁左欄1行?右欄15行) (10c)「既に述べたように、原薬の多形及び水和物の存在について調べることが得策である。というのは、これらは医薬品製造プロセスの何れかの段階で、又は原薬若しくは製剤の貯蔵に際して遭遇し得るからである。」(946頁左欄下から5?末行) (10d)「A.多形の形成?多形は発見されているか? 多形決定ツリーの最初のステップは、多形は可能かという質問への回答を試みるために、その物質を多数の異なる溶媒から結晶化させることである。溶媒は、最終結晶化工程で用いられるもの、及び製剤化や加工工程で用いられるものを含み、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、及び適切であればこれらの混合物を使用できる。」(946頁右欄19?28行) (10e)「フローチャート/多形決定ツリー」と題する図1(946頁)は、左上の「多形は発見されているか?」で始まり、左下には以下の記載がある。 「多形のための試験 -X線粉末回折 -示差走査熱量分析 -顕微鏡 -赤外吸収スペクトル -固体NMR」 「溶媒和物又は水和物のためのフローチャート」と題する図6(949頁)にも試験の手段が挙げられている。 サ 刊行物11 (11a)「【請求項1】結晶状態の下記式 で表わされる(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド。 【請求項2】非結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドを、場合により水の存在下に、不活性有機溶媒中に懸濁させ、それが定量的に結晶性変態に転換されるまで高められた温度で処理し、得られる結晶性変態の結晶を慣用の方法で分離し、そして存在するかも知れない溶媒残渣を除去するために+20°?+70℃の温度で一定重量になる迄乾燥することを特徴とする請求項1記載の結晶性活性化合物の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2) (11b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドの結晶形、その製造方法及び薬品におけるその利用に関する。 【0002】【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I) 【0003】 【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。 【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(solvate-free crystalline modification)は今まで知られていない。 【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。」 (11c)「【0007】【発明が解決すべき課題】それ故薬品製造のために、上記欠点をもたない式(I)の化合物の安定な形態を入手可能とすることが非常に重要である。 【0008】【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」 シ 刊行物12 (12a)「【請求項1】CuK_(α) 放射線を使用して測定した2θ値:11.9または22.0うちの少なくとも一つを含有するX線粉末回折を有する結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【請求項9】CuK_(α) 放射線を使用して測定した2θ値:9.0および20.5を含有するX線粉末回折を有する結晶性形態IIのアトルバスタチンまたはその水和物。」(特許請求の範囲の請求項1及び9) (12b)「【0001】【発明の背景】本発明は、医薬として有用である新規な結晶性形態の化学名〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩によって知られているアトルバスタチン、この化合物を製造および単離する方法、この化合物および医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組成物、および医薬的治療方法に関するものである。本発明の新規な結晶性化合物は・・・有用な血中脂質性低下剤および血中コレステロール低下剤である。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0007】上記米国特許の方法は、大規模な生産に対して適当でない濾過および乾燥特性を有しそして熱、光、酸素および湿気から保護しなければならない無定形のアトルバスタチンを開示している。」 (12c)「【0008】驚くべきことにはそして意外にも、アトルバスタチンは結晶性の形態で製造することができるということが見出された。すなわち、本発明は、形態I、形態IIおよび形態IVと称される新規な結晶性形態のアトルバスタチンを提供する。形態Iのアトルバスタチンは、従来の無定形の生成物よりも小さい粒子およびより一様な大きさの分布からなり、そしてより有利な濾過および乾燥特性を示す。さらに、形態Iのアトルバスタチンは、無定形の生成物よりも純粋でありそしてより安定である。」 (12d)「【0038】本発明は、結晶性形態Iのアトルバスタチンを与える条件下で溶剤中の溶液からアトルバスタチンを結晶化させることからなる結晶性形態Iのアトルバスタチンの製法を提供する。結晶性形態Iのアトルバスタチンが形成される正確な条件は、経験的に決定することができそして実施に適当であることが見出される多数の方法を与えることができる。 【0039】すなわち、例えば、結晶性形態Iのアトルバスタチンは、調節された条件下における結晶化によって製造することができる。特に、それは、例えば酢酸カルシウムなどのようなカルシウム塩の添加によって、相当する塩基性塩、例えばアルカリ金属塩、例えばリチウム、カリウム、ナトリウム塩など;アンモニアまたはアミン塩;好ましくはナトリウム塩の水溶液から、または、無定形のアトルバスタチンを水に懸濁することによって製造することができる。一般に、ヒドロキシル性補助溶剤、例えば低級アルカノール、例えばメタノールなどの使用が好ましい。 【0040】所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンを製造するための出発物質が相当するナトリウム塩の溶液である場合は、一つの好ましい製法は、約5v/v%以上のメタノール、好ましくは約5?33v/v%のメタノール、特に好ましくは約10?15v/v%のメタノールを含有する水中のナトリウム塩の溶液を、約70℃までの高い温度、例えば約45?60℃、特に好ましくは約47?52℃で、酢酸カルシウムの水溶液で処理することからなる。一般に、アトルバスタチンのナトリウム塩2モルに対して酢酸カルシウム1モルを使用することが好ましい。これらの条件下において、カルシウム塩形成ならびに結晶化は、好ましくは高い温度、例えば上述した温度範囲内で実施しなければならない。出発溶液に、例えば約7w/w%のような少量のメチル第3ブチルエーテル(MTBE)を含有させることが有利であるということが見出された。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンを一貫して製造するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子(seeds)”を結晶化溶液に加えるのが望ましいということが見出されている。 【0041】出発物質が無定形のアトルバスタチンまたは無定形および結晶性形態Iのアトルバスタチンの組み合わせである場合は、所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンは、必要な形態への変換が完了するまで、約40v/v%まで、例えば約0?20v/v%、特に好ましくは約5?15v/v%の補助溶剤、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどを含有する水中に固体を懸濁し次いで濾過することによって得ることができる。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンへの完全な変換を確保するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子”を懸濁液に添加することが望ましいということが見出されている。このようにする代わりに、主として無定形のアトルバスタチンからなる水湿潤ケーキを、有意な量の結晶性形態Iのアトルバスタチンが存在するまで、高い温度、例えば約75℃まで、特に好ましくは約65?70℃の温度で加熱し、それによって無定形/懸濁液形態Iの混合物を上述したようにスラリー化することができる。」 (12e)「【0042】結晶性形態Iのアトルバスタチンは、無定形のアトルバスタチンよりも著しく容易に単離し、そして冷却後結晶化媒質から濾過し、洗浄しそして乾燥することができる。例えば、結晶性形態Iのアトルバスタチンの50mlのスラリーの濾過は、10秒以内に完了した。無定形のアトルバスタチンの同様な量の試料は、濾過するのに1時間以上を必要とした。」 (12f)「【0043】本発明は、また結晶性形態IIのアトルバスタチンを与える条件下でアトルバスタチンを溶剤に懸濁することからなる結晶性懸濁IIのアトルバスタチンの製法を提供する。形態IIの結晶性アトルバスタチンが形成される正確な条件は、経験的に決定することができそして実施に適当であることが見出される方法を与えることができる。 【0044】すなわち、例えば、出発物質が無定形、無定形および形態Iの組み合わせまたは結晶性形態Iのアトルバスタチンである場合は、所望の形態IIの結晶性アトルバスタチンは、必要な形態への変換が完了するまで、固体を、約40?50%の水を含有するメタノールに懸濁し次いで濾過することによって得ることができる。」 (12g)「【0060】【実施例】実施例 1 〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩(形態Iのアトルバスタチン) 方法A (2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミド(アトルバスタチンラクトン)(米国特許第5,273,995号)(75kg)、メチル第3ブチルエーテル(MTBRE)(308kg)、メタノール(190L)の混合物を、48?58℃で水酸化ナトリウムの水溶液(950L中5.72kg)と40?60分反応させて開環したナトリウム塩を形成させる。25?35℃に冷却した後、有機層を捨てそして水性層を再びMTBE(230kg)で抽出する。有機層を捨て、そしてナトリウム塩のMTBE飽和水溶液を、47?52℃に加熱する。この溶液に、水(410L)に溶解した酢酸カルシウム半水和物(11.94kg)の溶液を、少なくとも30分にわたって加える。酢酸カルシウム溶液の添加後直ぐに、結晶性形態Iのアトルバスタチンのスラリー(水11Lおよびメタノール5L中の1.1kg)を、種子として混合物に加える。それから、混合物を少なくとも10分51?57℃に加熱し、そしてそれから15?40℃に冷却する。混合物を濾過し、水(300L)およびメタノール(150L)の溶液で洗浄し、次いで水(450L)で洗浄する。固体を、真空下60?70℃で3?4日間乾燥して結晶性形態Iのアトルバスタチン(72.2kg)を得た。 方法B 無定形のアトルバスタチン(9g)および結晶性形態Iのアトルバスタチン(1g)を、水(170ml)およびメタノール(30ml)の混合物中において約40℃で全体で17時間撹拌する。混合物を濾過し、水ですすぎ、そして減圧下70℃で乾燥して結晶性形態Iのアトルバスタチン(9.7g)を得た。」 (12h)「実施例 2 〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩(形態IIのアトルバスタチン) 無定形および結晶性形態Iのアトルバスタチンの混合物(100g)を、メタノール(1200ml)および水(800ml)の混合物に懸濁し、そして3日間撹拌する。この物質を濾過し、減圧下70℃で乾燥して結晶性形態IIのアトルバスタチンを得た。」 ス 刊行物13 訳文で示す。 (13a)「プロセスの開発における多形」(527頁、標題) (13b)「結晶性製品は、一般に、単離し、精製し、乾燥するのに、そしてバッチプロセスにおいては取扱い、製剤化するのに、最も容易である。」(527頁左欄1?3行) (13c)「多形は、同一分子の単位セル内での結合方法が異なる結晶格子をもつ。その相違は、セル内の分子の詰め込み方の違いや立体配置の変化を反映しており、大きなものであり得る。水素結合は、医薬産業にとって興味のあるほとんどの分子に関係するであろう。」(527頁左欄15?20行) (13d)「可能性のあるいかなる多形が得られるかは、結晶化が生じる温度、溶媒の性質(親水性か、疎水性か)、そして結晶化が始まる過飽和の程度、といった様々なファクターに依存するようである。種結晶の使用は、目的とする多形を得るために有用である。」(527頁右欄9?14行) (13e)「少数の化合物しか開発に至らないうえ、市販されるものはさらに少ない。各開発候補品に進展のための最良の機会を与えるには、多形が現れるのを成行き任せにしてその結果混乱を来すよりも、多形について調査するほうが良いと思われる。多形を得ようとする試みにおいて用いられる手法には、急速に溶液を冷却するか、溶質の溶けにくい第二の溶媒を加えるか、過剰の固体を溶媒と共に激しく攪拌するか、過剰の固体を高沸点溶媒と共に加熱するか、昇華させるか、及び溶液のpHを急激に変化させて酸性又は塩基性の物質を沈殿させるかという方法により、異なる温度下で様々な溶媒(極性及び非極性、親水性及び疎水性)から結晶化させることが含まれる。」(528頁左欄2?14行) 3 刊行物に記載された発明 刊行物1は、ジペプチジルペプチダーゼ-IVの阻害剤として、2型糖尿病等の治療に有用な、置換3-アミノテトラヒドロピラン化合物に関する特許文献である(摘示(1a)?(1h))。 刊行物1には、上記置換3-アミノテトラヒドロピラン化合物について、請求項18には、具体的な化合物 が示され、これは請求項1に記載された構造式I の化合物(審決注:V及びArの説明は省略する。)にも該当する化合物である。 そして、刊行物1には、上記請求項18に記載された化合物である、(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミンを、中間体を準備して実施例1において実際に合成し、^(1)H NMR及びLC-MSで分析したことが記載されている(摘示(1e)?(1g))。ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害のIC_(50) も示されている(摘示(1c))。実施例1では、合成反応後、粗生成物を、カラムで精製し(溶出液はジクロロメタン中の1.25?5%MeOH及び0.125?0.5%水酸化アンモニウム)、次いで再結晶している(60℃、再結晶溶媒は5:1のEtOAc/CH_(2)Cl_(2))から、実施例1の生成物は、結晶であると認められる。 以上によれば、刊行物1には、 「(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミンの結晶」 の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)が記載されているということができる。 4 本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用化合物は、本願発明の「化合物I」すなわち以下の化学構造 「 」 を有する「(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン」と、同じ化合物である(以下、この化合物を「化合物P」という。)。また、引用発明の「引用化合物の結晶」は、引用化合物が結晶質であることを意味するから、「結晶質の引用化合物」と事実上同じことを意味している。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「結晶質の化合物P」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本願発明においては、結晶質の化合物Pが、「10.3±0.1 2θ、12.7±0.1 2θ、14.6±0.1 2θ、16.1±0.1 2θ、17.8±0.1 2θ、19.2±0.1 2θ、22.2±0.1 2θ、24.1±0.1 2θおよび26.9±0.1 2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークを粉末X線回折パターンに有すること」を特徴とする「形I」のものであることが、特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点 5 相違点についての検討 ア 結晶を得ることの動機付けについて この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討することは、文献を示すまでもなく、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることも、よく知られている。例えば、結晶化について、化合物の純度を高める精製の観点は、摘示(6a)、(8a)、(9a)に示され、医薬化合物では結晶形により安定性や溶解性やバイオアベイラビリティ等の性質が異なることから結晶多形を探索するとの観点は、摘示(2a)?(2c)、(3a)、(4a)(4b)、(5a)、(10a)?(10e)、(13a)?(13e)に示されている。多形スクリーニングが日常的に行われていることであって溶媒の選定のために溶媒性質パラメーターに着目すべきであることが摘示(7a)?(7d)に示されている。 引用化合物は、上記3のとおり、ジペプチジルペプチダーゼ-IVの阻害剤として、2型糖尿病等の治療という医薬用途を意図した化合物であるから、不純物による不測の副作用の防止の観点からも、高純度であることは当然に望まれることであり、また、結晶多形の探索も、当業者が通常検討する事項であるといえる。 そうすると、化合物Pについても、当業者が結晶が得られる条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。 イ 特定の工程を採用する点及びX線粉末回折の2θの数値で特定されたものである点について (ア)形Iの結晶質の化合物Pを得るために本願明細書が開示した方法は、段落【0069】の「酢酸エチル中の化合物Iの非晶質遊離塩基の直接結晶化によって、形Iを生成した」というものである。この「直接結晶化」は、本願明細書には詳細が開示されていないが、文言上、酢酸エチル溶液から結晶化するか、又は酢酸エチルに懸濁して結晶化することを、意味していると解される。 結晶多形を得るために、溶液から結晶化させる方法は、極めて一般的なものである。また、過剰の固体を溶媒とともに激しく攪拌する方法も、刊行物13(Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529)(化学物質の結晶、特に結晶多形の研究の重要性を指摘する文献である。)にも記載されるように当業者が通常採用する方法であり(摘示(13e))、刊行物11及び刊行物12においても、懸濁液を養生する方法が採用されている(摘示(11a)、(12d)(12f)?(12h))。そして、溶媒又は分散媒として、酢酸エチルは極めてありふれたものであり、刊行物6には有機化合物の結晶化に用いられる普通の溶媒14種の1つとして、刊行物9には再結晶の際にまず選択する6種の溶媒の1つとして、刊行物10には結晶多形の探索の際に用いられる9種の溶媒の1つとして、記載されている(摘示(6b)、(9a)(9b)、(10d))。 そうすると、本願明細書が開示した方法は、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、形Iの結晶質の化合物Pは、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤により、例えば引用発明の引用化合物Pの結晶を得る何れかの段階において再結晶の工程を置き換える等により、得られた結果物である結晶に過ぎないものというべきである。 (イ)そして、結晶性が期待される医薬化合物の分析のために、X線粉末回折を行うことは、通常のことであるから(例えば、刊行物10(Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954)(医薬品固体を得るための手法に係る総説的な文献である。)の摘示(10e)参照)、相違点に係る、X線回折パターンの2θの数値で特定されたものである点は、当業者が、得られた結晶について、その分析において通常用いるX線粉末回折を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない。 ウ 以上によれば、本願発明は、形Iの結晶質の化合物Pに係る発明であるところ、刊行物1により開示された化合物Pについて、結晶を得ることを意図し、酢酸エチルに溶解及び/又は懸濁させて、結晶化させるという、当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより得られた結果物である結晶に過ぎないものであるから、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 6 効果について 本願明細書の段落【0007】には、「一定の結晶形は、化合物Pの医薬組成物の調製の際、処理および結晶化の容易さ、取り扱い、応力に対する安定性ならびに計量分配などの利点を有する。特に、それらは、改善された物理化学的特性、例えば、応力に対する安定性を呈示し、こうした特性によりそれらは様々な医薬剤形の製造に特に好適なものになる」との記載があり、段落【0019】には、「本発明の結晶形は、薬理活性成分を含有する医薬製剤の調製の際、国際公開第2010/056708号パンフレットに記載の化合物Iの非晶質遊離塩基を超える製薬上の利点を呈示する。特に、前記結晶形の向上した化学的および物理的安定性は、薬理活性成分を含有する固体医薬剤形の調製の際に有利な特性である」との記載がある。また、段落【0033】には、「本発明の化合物Iの結晶形は、水への比較的高い溶解度(約2mg/ml)を有し、その結果、それらは、医薬品有効成分の比較的高濃度の水溶液を必要とする製剤、特に鼻腔内および静脈内製剤の調製に特に適したものになることが判明した」との記載がある。しかし、これらは、本願明細書に記載された結晶形の形I?形IVの、何れであるかを特定して記載したものではない。 一方、形Iについて特定した記載は、段落【0070】の「13℃より上で最も安定な相として形Iを有する」というものである。 しかし、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成を備えた、形Iの結晶質の化合物Pとすることは、当業者が容易に想到し得ることは、上記5で述べたとおりであり、その結晶形は、13℃より上で最も安定な結晶であるという特徴を当然に備えていると解され、その他、製剤に関連する特性の特徴が仮にあるとしても、同様であるから、このような効果は、格別のものであるとすることはできない。なお、準安定な結晶よりも安定な結晶ができやすいこと自体もよく知られているから(摘示(3a)(4a))、形Iの安定性が、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。 以上によれば、本願発明の形Iの結晶質の化合物Pの作用効果について、格別顕著なものとまでいうことはできない。 7 まとめ したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-13 |
結審通知日 | 2017-06-20 |
審決日 | 2017-06-29 |
出願番号 | 特願2014-518879(P2014-518879) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三木 寛 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
榎本 佳予子 中田 とし子 |
発明の名称 | ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤の新規結晶形 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |