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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1347082
審判番号 無効2017-800112  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-08-14 
確定日 2018-12-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第4606581号発明「ICU鎮静のためのデクスメデトミジンの用途」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第4606581号に係る発明についての出願(以下,「本件特許出願」という。)は,1999年3月31日(パリ条約による優先権主張 1998年4月1日,1998年12月4日,いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であり,平成22年10月15日に特許権の設定登録がなされた。
これに対し,請求人は,平成29年8月14日付け審判請求書により,本件特許を無効にすることについて,本件特許無効審判を請求した。
以後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年1月29日付け答弁書(被請求人)
同年5月 9日付け上申書(被請求人)
同年6月22日付け口頭審理陳述要領書(請求人)
同年7月20日付け口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年8月 3日付け上申書(請求人)
同年8月 3日付け上申書(被請求人)
同年8月 3日 第1回口頭審理

第2 本件特許発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明は,同特許の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。以下,それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明12」ともいい,これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。
「【請求項1】
集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。
【請求項2】
デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤である請求項1記載の使用。
【請求項3】
デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,1?2ng/mlプラズマ濃度に達する量投与される請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,静脈注射で投与される請求項3記載の使用。
【請求項5】
デクスメデトミジンの負荷投与量および維持量が投与される請求項4記載の使用。
【請求項6】
負荷投与量および維持量がヒトに投与される請求項5記載の使用。
【請求項7】
デクスメデトミジンの負荷投与量が0.2?2μg/kgである請求項6記載の使用。
【請求項8】
負荷投与量が約10分で投与される請求項7記載の使用。
【請求項9】
デクスメデトミジンの負荷投与量が1μg/kgである請求項8記載の使用。
【請求項10】
デクスメデトミジンの維持量が0.1?2.0μg/kg/hである請求項6記載の使用。
【請求項11】
デクスメデトミジンの維持量が0.2?0.7μg/kg/hである請求項10記載の使用。
【請求項12】
デクスメデトミジンの維持量が0.4?0.7μg/kg/hである請求項11記載の使用。」

第3 当事者の主張,及び,提出した証拠方法

1 請求人の主張する無効理由,及び,提出した証拠方法

請求人が提出した審判請求書,口頭審理陳述要領書,及び平成30年8月3日付け上申書によれば,請求人は,特許第4606581号の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された発明には,以下の無効理由1?4が存在する旨を主張し,証拠方法として下記の書証を提出している。

[無効理由1](甲第4号証を主引用例とする新規性または進歩性の欠如)
本件特許発明1?12は,本件特許出願の第1優先日である1998年4月1日(以下,「本件優先日」ともいう。)の前に頒布された甲第4号証,及び甲第12号証,甲第20号証,甲第9号証等に基づいて新規性を欠如するか,あるいは進歩性を欠如する発明であるから,特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反したものであるので,同法第123条第1項第2号に基づき,無効とすべきものである。

[無効理由2](甲第14号証を主引用例とする進歩性の欠如)
本件特許発明1?12は,本件優先日の前に頒布された甲第14号証,及び甲第4号証,甲第12号証,甲第13号証等に基づいて進歩性を欠如する発明であるから,特許法第29条第2項の規定に違反したものであるので,同法第123条第1項第2号に基づき,無効とすべきものである。

[無効理由3](甲第15号証を主引用例とする進歩性の欠如)
本件特許発明1?12は,本件優先日の前に頒布された甲第15号証,及び甲第4号証,甲第12号証,甲第13号証等に基づいて進歩性を欠如する発明であるから,特許法第29条第2項の規定に違反したものであるので,同法第123条第1項第2号に基づき,無効とすべきものである。

[無効理由4](甲第12号証を主引用例とする基づく新規性または進歩性の欠如)
本件特許発明1?12は,本件優先日の前に頒布された甲第12号証,及び甲第4号証,甲第11号証,甲第13乃至第15号証,甲第20号証等に基づいて新規性を欠如するか,あるいは進歩性を欠如する発明であるから,特許法第29条第1項または第2項の規定に違反したものであるので,同法第123条第1項第2号に基づき,無効とすべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:本件特許第4606581号の特許公報
・甲第2号証:Scheinin H.et al., Anesthesiology, 1993 Jun; 78(6):1065-75,“Intramuscular Dexmedetomidine as Premedication for General Anesthesia. A Comparative Multicenter Study.”,及び抄訳
・甲第3号証:Jaakola ML. et.al., Acta Anaesthesiol Scand, 1994 Apr; 38(3):238-43,“Intramuscular dexmedetomidine premedication-an alternative to midazolam-fentanyl-combination in elective hysterectomy?”,及び抄訳
・甲第4号証:Aantaa R.et al., Pharmacol Toxicol. , 1991 May; 68(5):394-8,“Assessment of the Sedative Effects of Dexmedetomidine, an α_(2)-Adrenoceptor Agonist, with Analysis of Saccadic Eye Movements.”,及び全訳
・甲第5号証:De Sarro GB.et al., Br J Pharmacol. , 1987 Apr; 90(4):675-85,“Evidence that locus coeruleus is the site where clonidine and drugs acting at α_(1)- and α_(2)-adrenoceptors affect sleep and arousal mechanisms.”,及び抄訳
・甲第6号証:Nacif-Coelho C.et al., Anesthesiology, 1994 Dec; 81(6):1527-34,“Perturbation of Ion Channel Conductance Alters the Hypnotic Response to the α_(2)-Adrenergic Agonist Dexmedetomidine in the Locus Coeruleus of the Rat.”,及び抄訳
・甲第7号証:Buehrer M.et al., Anesthesiology, 1994 Jun; 80(6):1216-27,“Dexmedetomidine Decreases Thiopental Dose Requirement and Alters Distribution Pharmacokinetics.”,及び抄訳
・甲第8号証:Aho M.et al., Anesth Analg, 1992 Dec; 75(6):940-6,“Dexmedetomidine Infusion for Maintenance of Anesthesia in Patients Undergoing Abdominal Hysterectomy.”,及び抄訳
・甲第9号証:Talke P.et al., Anesthesiology, 1995 Mar; 82(3):620-33,“Effects of Perioperative Dexmedetomidine Infusion in Patients Undergoing Vascular Surgery. ”,及び抄訳
・甲第10号証:Talke P.et al., Anesth Analg, 1997 Nov; 85(5):1136-42,“Postoperative Pharmacokinetics and Sympatholytic Effects of Dexmedetomidine.”,及び抄訳
・甲第11号証:Virkkilae M. et.al., Anaesthesia, 1993 Jun; 48(6):482-7,“Dexmedetomidine as intramuscular premedication in outpatient cataract surgery. A placebo-controlled dose-ranging study.”,及び抄訳
・甲第12号証:Crippen D.et al., Crit Care Nurs Q, 1992 Aug; 15(2):52-74,“Stress, agitation, and brain failure in critical care medicine.”,及び全訳
・甲第13号証:福島和昭 他,臨床麻酔Vol.22/No.2(1998-2):147-159,「α_(2)-agonistと鎮痛効果」
・甲第14号証:Ip Yam PC.et al., Br J Anaesth., 1992 Jan; 68(1):106-8,“CLONIDINE IN THE TREATMENT OF ALCOHOL WITHDRAWAL IN THE INTENSIVE CARE UNIT”,及び全訳
・甲第15号証:Naber M., Chirurg, 1991 Feb; 62(2):133-7,“Besonderheiten des Alkoholentzugsdelirs beim chirurgischen Patienten und Hinweise zur Behandlung. (Characteristics of alcohol withdrawal delirium in surgical patients and recommendations for treatment)”,及び全訳
・甲第16号証:麻酔学用語辞典,1996年12月23日,シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社,380頁左欄の「Sedation:鎮静」の項目
・甲第17号証:本件特許の対応米国特許である米国特許第6716867号に対して提起されたAbbreviated New Drug Application(簡略化製造承認申請)訴訟の判決「Case 3:09-cv04591-MLC-TJB Document 380」,ニュージャージー州連邦地方裁判所,2012年,page 1-85,及び抄訳
・甲第18号証:本件特許の対応中国特許である中国特許第99804627.2号に対する無効宣告請求審査審決書(第16400号),2011年,中華人民共和国知的財産局,及び全訳
・甲第19号証:麻酔ハンドブック,1995年,株式会社中外医学社,332?336頁
・甲第20号証:Tryba M.et al., Drugs, 1993 Mar; 45(3):338-52,“Critical Care Pharmacotherapy A Review”,及び全訳
・甲第21号証:De Kock M., Anesthesiology, 1997 Feb; 86(2):285-92,“Epidural Clonidine Used as the Sole Analgesic Agent during and after Abdominal Surgery A Dose-Response Study. ”,及び抄訳
・甲第22号証:Scheinin H.et al., Clin Pharmacol Ther, 1992 Nov; 52(5):537-46,“Pharmacodynamics and pharmacokinetics of intramuscular dexmedetomidine.”,及び抄訳
・甲第23号証:カプラン臨床精神医学ハンドブック,1997年,株式会社医学書院エムワイダブリュー,20頁,27頁,30?32頁及び225頁
・甲第24号証:ウィキペディア記事「総説論文」,2017年,ウィキペディア(総説論文-Wikipedia)
(以上,審判請求書に添付)

・甲第25号証:R. Aantaa et al., Anesth Analg, 1990 Apr; 70(4):407-13,“Dexmedetomidine Premedication for Minor Gynecologic Surgery.”,及び抄訳
・甲第26号証:溝部俊樹,麻酔,1997年,46巻5号,650?657頁
・甲第27号証:Aho MS et al., Anesth Analg, 1991 Aug; 73(2):112-8,“Effect of Intravenously Administered Dexmedetomidine on Pain After Laparoscopic Tubal Ligation. ”,及び抄訳
・甲第28号証:審査報告書(2)プレセデックス静注液200μg「アボット」及びプレセデックス静注液200μg「マルイシ」,平成15年10月22日,医薬食品局審査管理課
・甲第29号証:David W et al., Journal of Critical Illness, 1997, 12(3):140-149,“Strategies for managing delirium tremens in the ICU”,及び全訳
・甲第30号証:南山堂 医学大辞典(18版),1998年1月16日,株式会社南山堂,1605頁の「脳」の項目
・甲第31号証:Levaenen J et al., Anesthesiology, 1995 May; 82(5):1117-25, “Dexmedetomidine Premedication Attenuates Ketamine-induced Cardiostimulatory Effects and Postanesthetic Delirium.”,及び抄訳
・甲第32号証:Wheeler AP et al., Chest, 1993 Aug; 104(2):566-77,“Sedation, Analgesia, and Paralysis in the Intensive Care Unit.”,及び抄訳
(以上,口頭審理陳述要領書に添付)

2 被請求人の主張,及び,提出した証拠方法

被請求人が提出した答弁書,口頭審理陳述要領書,及び平成30年8月3日付け上申書によると,被請求人は,本件特許には上記無効理由1?4は存在しない旨を主張し,証拠方法として以下の書証を提出している。

[証拠方法]
・乙第1号証:Weber RJ et al.,“The intensive care unit syndrome: causes, treatment, and prevention ”, Drug Intelligence and Clinical Pharmacy, 1985, Vol.19 ,p13-20のAbstract(要約)が掲載されているウェブページを印刷した書面, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3881234, H28.8.2(出力日),及び抄訳
・乙第2号証:メルクマニュアルオンライン医学図書館,MSD株式会社,「激越,錯乱,および神経筋接合部遮断」と題するウェブページを印刷した書面,http://merckmanual.jp/mmpej/sec06/ch063/ch063g.html,H17.11(掲載日)
・乙第3号証:佐竹司,「集中治療室における鎮痛鎮静法の問題点」,慈恵医大誌,2002年,117巻,253?260頁
・乙第4号証:プレセデックス静注液200μg「マルイシ」添付文書,H29.3,丸石製薬株式会社
・乙第5号証:林行雄,「α_(2)アゴニストの基礎-歴史的背景を含めて-」,日臨麻会誌,H19.3,27巻,110?116頁
・乙第6号証:プレセデックス静注液「マルイシ」の審査報告書,H15.10.2,国立医薬品食品衛生研究所長
・乙第7号証:J. Kanto, “The place of alpha-2-antagonists in anaesthesiology of today”,Acta Anaesthesiol Scand, 1997, Vol.47, p.4-5,及び全訳
・乙第8号証:Mark H. Zornow et al.,“Dexmedetomidine Decreases Cerebral Blood Flow Velocity in Humans”, Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism, 1993, Vol.13, p.350-353,及び抄訳
・乙第9号証:Jon P. Belleville et al.,“Effects of Intravenous Dexmedetomidine in Humans”, Anesthesiology, 1992, Vol.77, p.1125-1133,及び抄訳
・乙第10号証:「下垂体腫瘍の手術」と題する広島大学脳神経外科のウェブページを印刷した書面,http://home.hiroshima-u.ac.jp/nouge/disease/pituitary/TSS.html,H29.11.11(出力日)
・乙第11号証:山村秀夫監修,「麻酔ハンドブック」改訂第3版,克誠堂出版株式会社,S53.11.10,208?211頁及び224?228頁
・乙第12号証:医薬品インタビューフォーム「カタプレス錠75μg」,H26.11,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
・乙第13号証:Antero Kallio et al.,“Acute Hemodynamic Effects of Medetomidine and Clonidine in Healthy Volunteers: A Noninvasive Echocardiographic Study”, Journal of Cardiovascular Pharmacology, 1990, Vol.16, p.28-33,及び抄訳
・乙第14号証:Harry Scheinin et al.,“MEDETOMIDINE - A Novel α_(2)-ADRENORECEPTOR AGONIST: A REVIEW OF ITS PHARMACODYNAMIC EFFECTS”, Prog. Neuro-Psychopharmacol. & Biol. Psychiat., 1989, Vol.13, p.635-651,及び抄訳
(以上,答弁書に添付)

・乙第15号証:知財高判 平成29年(行ケ)第10114号の判決文,判決日 平成30年7月18日,知的財産高等裁判所
(以上,口頭審理陳述要領書に添付)

以下,書証は,その証拠番号により,甲第1号証を「甲1」,乙第1号証を「乙1」のように記載することもある。

第4 証拠の記載事項

主要な甲号証または乙号証には,以下の記載がある。なお,書証の原文が外国語で記載されているものについては,日本語訳で記載する。

[甲4の記載事項]
(甲4a)
「衝動性眼球運動の解析によるα_(2)-アドレナリン受容体作動薬デクスメデトミジンの鎮静作用の評価」(394頁のタイトル)

(甲4b)
「デクスメデトミジン(4(5)-(1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル)イミダゾール,図1)は特異的かつ選択的なα_(2)-アドレナリン受容体作動薬であるメデトミジンの薬理活性を有するd-異性体である。d型とl型の鏡像異性体のラセミ混合物(1:1)であるメデトミジンは高脂溶性物質(Savola ei al. 1986)で,α_(2)-アドレナリン受容体に高親和性を示す(Virtanen et al. 1988)。これはμ及びδオピオイド,ドパミンD_(1)及びD_(2),ヒスタミンH_(1),ムスカリン/βアドレナリン作動性/ベンゾジアゼピン受容体には結合せず,それに対する作用を欠いている(Virtanen et al. 1988)。受容体結合試験におけるメデトミジンのα_(2)/α_(1)選択性比率は,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬のプロトタイプであるクロニジンに比べて顕著に高く(ラット脳皮質膜において1620対220,Virtanen et al. 1988),α_(2)-作動薬としては後者に比べ高い作用を示した(Savola et al. 1986; Virtanen et al. 1988)。
もう1つのα_(2)-アドレナリン受容体作動薬であるデクスメデトミジンは,中枢神経系及び末梢交感神経終末(シナプス前自己受容体)の両方で抑制性のα_(2)-アドレナリン受容体を活性化することで交感神経遮断作用を発揮し(Savola et al. 1986; MacDonald et al. 1988),これによりノルアドレナリン放出の抑制を生じさせる(Langer 1981; Szemeredi et al. 1988)。交感神経活性の抑制は,血漿中ノルアドレナリン濃度の用量依存的な減少として現れる(Scheinin et al. 1987; Kallio et al. 1989)。ヒト被験者を対象とする従来の試験において,メデトミジンの薬力学的作用として血圧,心拍数及び心拍出量の用量依存的な低下が認められていた(Scheinin et al. 1987; Kallio et al. 1989 & 1990)。最も顕著な主観的な作用は,鎮静及び唾液分泌減少である(Scheinin et al. 1987)。動物実験では,呼吸に対するメデトミジンとデクスメデトミジンの影響はほとんど認められなかった(Bloor et al. 1989; Furst & Weinger 1990)。
降圧薬として広く使用されているほかにも,クロニジンと他の一部のα_(2)-アドレナリン受容体作動薬は,オピオイドとの併用(Gold et al. 1980),アルコール離脱症候群(Wilkins et al. 1983),及び重度喫煙の禁煙後のタバコ渇望緩和(Glassman et al. 1988)に使用し得たことが報告されている。その鎮静作用及びその他の交感神経遮断作用のため,α_(2)-アドレナリン受容体作動性に関して,さらに麻酔薬との併用の有用性について関心が高まっている(Longnecker 1987; Bloor 1988)。実際,麻酔及び小手術に先立つ前投薬として急速静注したデクスメデトミジンは,鎮静を引き起こし,チオペントンの導入用量を30%減量させ,著明な血行動態的効果は示さなかった(Aantaa et al. 1990a & b)。一定の動物モデルでは,十分に高用量のデクスメデトミジンは単独でも完全麻酔を引き起こすことができる(Segal et al. 1988; Doze et al. 1989)。」(394頁左欄1行?右欄15行)

(甲4c)
「本研究は,ヒト被験者を対象にデクスメデトミジン単回静脈内投与の鎮静作用を客観的かつ定量的に評価することを目的として実施した。ラセミ体メデトミジンのこのような特性はこれまでに,健康男性被験者を対象に暫定的に検討されており,その結果から,より精巧な評価法を使用すべきことが示唆されていた(Scheinin et al. 1987)。今回の研究では,覚醒に対する影響を主観的推定値(視覚的アナログスケール:VAS。Maxwell 1978),点滅ライト融合周波数(CFF。Smith & Misiak 1976),マドックス・ウィング(Maddox wing)(Hannington-Kiff 1970)及び衝動性眼球運動(Griffths et al. 1984)により評価した。これらの試験法は,バルビツール酸系,ベンゾジアゼピン系及びオピオイド系など向精神薬の鎮静作用の評価に,幅広く使用されている(Hindmarch 1980; Griffiths et al. 1984)。」(394頁右欄16行?395頁左欄6行)

(甲4d)
「材料及び方法
同意書を提出した6名の健康被験者が本試験に参加した。女性2名,男性4名で,年齢は23.8±1.5歳(平均値±SD),身長は175.3±14.8 cm,体重は67.3±15.7 kgであった。全員が非喫煙者であった。被験者の健康状態は,詳細な既往歴,身体所見及び心電図により確認した。本試験前少なくとも2週間は,一切の投薬は行わなかった。各セッション前36時間の飲酒は禁止し,前夜10 p.m.以降のカフェイン入り飲料及びチョコレートの摂取は不可とした。実験当日には,標準的な軽い朝食と昼食をとるように指示した。治験実施計画書はTurku University Hospitalの倫理委員会及びFinnish National Board of Healthにより承認を受けていた。
全試験は,セッション間の日内変動を除外するために同時刻(1 p.m.?3 p.m.)に行った。被験者を均等にランダム化し,0.5及び1.0 μg/kgのデクスメデトミジンと等容量の生理食塩液を二重盲検下で投与した。各被験者について次のセッションまで少なくとも1週間の間隔を設けた。到着後,前腕静脈にカニューレを挿入し,心電図及び心拍数(HR)の連続モニタリングを開始した。薬物投与前及び投与後5,15,30,45,60,90及び120分の時点で,オシロメトリック式自動血圧計(日本コーリン 203Y,東京)による収縮期血圧(BPS)及び拡張期血圧(BPD)の非観血的測定,並びに鎮静の主観的及び客観的評価を行った。仰臥位で30分以上安定させた後,薬物を60秒間にわたって緩徐に注射した。試験は静かでほの暗い室内で行った。」(395頁左欄7?34行)

(甲4e)
「薬物による鎮静状態は,グレード分けされていない水平方向の10 cm視覚的アナログスケール(Maxwell 1978)を用い,被験者がその覚醒レベルを自身で示すことによって(両極値は「完全に意識清明」と「ほぼ眠りかけ」),さらに点滅ライト融合周波数(Smith & Misiak 1976)を用いて評価した。外斜位の程度(斜位度単位)を標準マドックス・ウィング(Maddox wing)で測定した。外斜位が大きいほど外眼筋のバランスが障害されたことを示し,鎮静の測定値としてしばしば用いられる(Hannington-Kiff 1970)。」(395頁左欄35?43行)

(甲4f)
「結果
デクスメデトミジンの忍容性は良好で,予想外の有害事象は認められなかった。唯一認められた主観的な作用は,両用量のデクスメデトミジン投与後に認められた穏やかな疲労感及び口腔乾燥であった。VASで測定した口腔乾燥は,デクスメデトミジン投与後に用量に依存して亢進した(F=4.76,P<0.001)。
用量依存的な鎮静作用が,主観的及び客観的の両方の評価により認められた(図2)。・・・6名中4名の被験者は,最高用量のデクスメデトミジン注射後5分から1時間後までに数回入眠したが,全員が容易に覚醒し,試験は途切れず行うことができた。低用量では明らかな鎮静が認められたが,過剰な疲労感は引き起こさなかった。VASスコアは,プラセボとデクスメデトミジン低用量の投与の間で有意差があり,デクスメデトミジンの低用量と高用量の投与の間にも有意差があった(それぞれF=4.95,P<0.001及びF=10.54,P<0.001)。
CFF,マドックス・ウィング(Maddox wing)及び最大眼球運動速度による鎮静の客観的評価から,デクスメデトミジン投与後の統計学的に有意な用量依存的変化が認められた(それぞれF=6.16とP<0.001,F=9.38とP<0.001,F=7.37とP<0.001。図2)。」(395頁右欄1?27行)

(甲4g)
「考察
ノルアドレナリン作動性ニューロンが豊富な脳内の核である青斑核(LC)は,覚醒の制御に重要な領域である(Aston-Jones 1985)。動物試験において,数種の麻酔薬がノルアドレナリン作動性LC細胞の活動を修飾することが明らかになっている。これらの薬物はLC内(Roizen et al. 1976),並びに中枢ノルアドレナリン系の局所病変(Roizen et al. 1978)/全体病変(Mueller et al. 1975)におけるノルアドレナリンの代謝回転を低下させ,麻酔薬必要量の減少,または麻酔薬により誘発される睡眠時間の延長をもたらした。
青斑核のカテコールアミン作動性神経の核周部にぴったり重なって,α_(2)アドレナリン作動性部位もしくはイミダゾリン結合部位が高密度に位置しているので(Unnerstall et al. 1984),α_(2)アドレナリン受容体作動薬は青班核細胞に作用して覚醒レベルを変えるのであろうと思われる。事実,α_(2)アドレナリン受容体作動薬によって生じた鎮静作用は,ノルアドレナリン作動性の青班核皮質神経の発火率の減少によってもたらされることを意味する証拠が存在する(Cedarbaum & Aghajanian 1977; DeSarro et al. 1987)。
本研究では,覚醒の客観的な評価のために点滅ライト融合周波数(CFF)試験,マドックス・ウィング(Maddox wing)及び衝動性眼球運動を用いた。CFFは,向精神薬によって生じる中枢神経系の全般的な統合活動の変化を検討する,簡単かつ確実な調査票である(Hindmarch 1980)。他方,マドックス・ウィング(Maddox wing)は外眼筋のバランスを評価するためのきわめて高感度のツールであり,筋弛緩及び筋緊張の中枢協調を反映していると考えられる(Hannington-Kiff 1970)。」(396頁左欄7行?右欄10行)

[甲7の記載事項]
(甲7a)
「デクスメデトミジンはチオペンタールの必要投与量を減少させ,薬物動態分布を変える」(1216頁のタイトル)

(甲7b)
「背景:デクスメデトミジン等のα_(2)-アドレナリン作動薬を用いて,静注麻酔薬および揮発性麻酔薬の必要投与量を減量できる。デクスメデトミジンと揮発性麻酔薬は薬力学的に相互作用するが(MACの低下),デクスメデトミジンと静注麻酔薬の相互作用に関する機序は明らかでない。
方法:14人の米国麻酔学会術前状態分類(ASA physical status)が1の男性患者が,対照群の被験者(7人)またはデクスメデトミジン投与群(7人;100 ng・kg^(-1)・min^(-1), 30 ng・kg^(-1)・min^(-1), 6 ng・kg^(-1)・min^(-1)で,夫々,10分,15分,それ以降)にランダムに割り振られた。35分後から,脳波の生波形に群発・抑制交代が現れるまで,全被験者にチオペンタール(100 mg/min)が持続注入された。継続的な薬理学的作用の評価項目としてチオペンタール血漿濃度および脳波を用い,両群のチオペンタールの見かけ上の効果部位濃度を評価した。チオペンタールに関する3コンパートメント薬物動態を計算した。
結果:デクスメデトミジンは脳波計による群発・抑制交代に必要なチオペンタールの用量を30%減量させた。デクスメデトミジン群と対照群のチオペンタールに関する推定効果部位濃度に差がないことから,大きな薬力学的相互作用がないことが示唆される。デクスメデトミジンはチオペンタールの分布容積(V_(2),V_(3)およびV_(dSS))および分布クリアランス(Cl_(12)およびCl_(13))を有意に低下させた。
結論:脳波上,デクスメデトミジンによるチオペンタールの用量節約効果は薬力学的相互作用の結果ではなく,デクスメデトミジン誘導性のチオペンタールの分布容積および分布クリアランスの減少で説明できる。最も考えられるのは,デクスメデトミジンが心拍出量と局所血流量を抑制することで,チオペンタールの分布容積を減少させるのであろう。(キーワード:麻酔薬,静注:チオペンタール。相互作用(薬物):デクスメデトミジン-チオペンタール。交感神経系,α_(2)-アドレナリン作動薬:デクスメデトミジン。薬力学:チオペンタール。薬物動態学:チオペンタール)。」(1216頁の左欄1行?同頁右欄11行(要旨欄))

(甲7c)
「考察
α_(2)-アドレナリン作動薬のプロトタイプであるクロニジンは,1986年以降,麻酔の補助薬として使用されている^(8)。新たなα_(2)-アドレナリン作動薬であるデクスメデトミジンもまた,鎮静作用および抗不安作用を有していることが分かっているので,麻酔前投薬としての可能性があると考えられている^(24,47,48)。クロニジンに比べて,デクスメデトミジンは,より特異性の高いα_(2)-アドレナリン作動薬であり,より短い終末相の排出半減期を有する^(15,16)。」(1221頁右欄19行?1222頁右欄6行)

[甲8の記載事項]
(甲8a)
「腹式子宮摘出術を行う患者の麻酔を維持するためのデクスメデトミジン静注投与」(940頁のタイトル)

(甲8b)
「チオペンタール,フェンタニル,亜酸化窒素および酸素を用いた麻酔患者を対象に,麻酔の維持にデクスメデトミジンを静注投与する有用性を試験した。必要に応じてイソフルランを追加した。本試験は二部に分けて実施し,第一部は腹式子宮摘出術を行う女性14例を対象にした非盲検用量反応試験であった。血行動態的基準にしたがい,適切なデクスメデトミジン輸液注入レジメンを決定後,二重盲検ランダム化プラセボ対照試験に20例を登録した(デクスメデトミジン群10例,生理食塩水群10例)。デクスメデトミジンは二段階で輸液注入し,速やかに定常状態の血漿濃度に達した。輸液注入は麻酔誘導前に10分かけて初期用量から開始し,誘導時に維持量の輸液注入を開始し,腹部筋膜の縫合までこれを継続した。用量反応試験で検証したデクスメデトミジンの輸液注入レジメンは,120 ng/kg/minの後,6 ng/kg/min?270+13.5 ng/kg/minまでの範囲で輸液注入するものとした。本試験の第二部は170 ng/kg/minを初期輸液注入速度とし,その後,維持速度を10 ng/kg/minとした。チオペンタール(4.0 mg/kg)で麻酔導入し,70%亜酸化窒素・酸素とイソフルランの混合ガスで維持した。予め規定していた血行動態的基準にしたがい,イソフルランを投与した。デクスメデトミジンはイソフルランを完全に不要にするものではなかったが,その必要量を90%超減らした(P=0.02)。気管内挿管に対する心拍数の反応は有意に減弱した。(Anesth Analg 1992;75:940-6)」(940頁の要旨欄)

[甲9の記載事項]
(甲9a)
「血管外科手術の患者への周術期におけるデクスメデトミジン静注投与

背景:デクスメデトミジンは,高度に選択的なα_(2)-アドレナリン作動薬であり,健康な患者において周術期の血行動態の安定性を高めるが,血圧を低下させ心拍数を減じる。本研究の目的は,高い冠動脈疾患リスクを有する外科患者の手術前後におけるデクスメデトミジン投与の血行動態に対する効果を予備的に評価することである。
方法:24人の血管外科手術の患者が,麻酔開始の1時間前から手術後48時間まで,プラセボ,または0.15 ng/ml(低用量),0.30 ng/ml(中用量),0.45 ng/ml(高用量)の3種類の用量の内一つの血漿デクスメデトミジン濃度を目標として,継続的な持続注入を受けた。すべての患者に標準化した麻酔を行い,血行動態を管理した。血圧,心拍数,ホルター心電図をモニタリングし,さらに,術前には持続12-誘導心電図,術中には麻酔濃度と心筋壁運動(心エコー図),術後には心筋の酵素をモニタリングした。
結果:術前,デクスメデトミジン投与を受けた患者において,心拍数低下(低用量群11%,中用量群5%,高用量群20%)と収縮期血圧低下(低用量群3%,中用量群12%,高用量群20%)を認めた。術中では,事前に定めた限界内に血行動態を維持するため,デクスメデトミジン群においてより多くの血管作動薬を必要とした。術後,デクスメデトミジン群でプラセボ群よりも頻脈が少なかった(頻脈を認めた時間[分]/モニタリング時間[時間])(プラセボ群23分/時間;低用量群9分/時間,P=0.006;中用量群0.5分/時間,P=0.004;高用量群2.3分/時間,P=0.004)。徐脈はすべての群で稀であった。心筋梗塞はなく,臨床検査結果に識別できる傾向はなかった。
結論:血漿濃度目標0.45 ng/mlまでのデクスメデトミジン投与は,血管手術を受ける外科患者の周術期の血行動態管理に有益なようであるが,血圧と心拍数をサポートするためより多くの手術中の薬理学的介入を必要とした。(キーワード:デクスメデトミジン:血行動態,用量効果,心臓:冠動脈疾患,交感神経系,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬:デクスメデトミジン))」(620頁のタイトル,及び左欄1行?右欄11行(要旨欄))

(甲9b)
「手術や手術後のストレスは,視床下部-下垂体-副腎系,レニン-アンジオテンシン系,交感神経系の刺激として症状が発現する内分泌反応を引き起こす^(1-3)。交感神経系の刺激は循環血漿中のノルエピネフリンやエピネフリンの濃度を高め,血圧や心拍数を増加させ^(1,2),手術後合併症の発生率を高める^(4)。高心拍出量性(hyperdynamic)変化は,特に冠動脈血流量予備能が低下している患者集団において,心筋を虚血に傾かせる。周術期に虚血を生じると,手術後の合併症や死亡が有意に増加する^(5,6)。心筋虚血のリスクが高い患者において,周術期のストレス反応を軽減するなら,心筋虚血の発生を減じ,その結果として,周術期の合併症発生率や死亡率を低下させることができる可能性がある。
α_(2)-アドレナリン受容体作動薬は周術期ストレス反応を減弱させるのに有効であること^(7-9),および,クロニジンは周術期抗虚血作用を有すること^(10)を複数の臨床研究が示唆している。デクスメデトミジンはα_(2)-アドレナリン受容体作動薬であり,クロニジンよりもα_(2)/α_(1)受容体選択性が10倍高い^(11)。健常ボランティアにおいて,デクスメデトミジンは循環血中のカテコラミンを最大90%減少させ,クロニジンと同様に,鎮痛作用と鎮静作用を有する^(12-14)。健康な外科患者において,デクスメデトミジンは,血行動態安定性を高め,麻酔薬の必要量を減じ,挿管に対する高心拍出量性反応を減弱させる^(15-18)。しかし,交感神経遮断は,血圧低下や徐脈など,潜在的に有害な臨床作用も来す。このような血行動態的変化に,血管疾患患者や重症心筋疾患患者には耐えられない可能性がある。
これまで,デクスメデトミジンは健常ボランティアと健康な外科患者に対してのみ投与されてきた。そのため,ハイリスク外科患者へのデクスメデトミジンの周術期投与の実施可能性と影響の予備的評価を行うため,血管外科患者を対象として,連続的に増加する3用量のデクスメデトミジンの持続注入について検討した。血管外科患者は,冠動脈疾患(CAD)の罹患率が高く,周術期の血行動態安定性が高まることにより大きな恩恵が得られると思われる患者集団である。」(620頁右欄12行?621頁左欄14行)

(甲9c)
「実験プロトコール
本研究は,3用量のデクスメデトミジンとプラセボを用いたランダム化二重盲検用量漸増試験であった。24例の患者を,低用量群,中用量群,高用量群の3群(1群8例)に分け,各群とも6例にデクスメデトミジンを投与し,2例にプラセボを投与した。したがって,6例の患者が本研究中プラセボの投与を受けた。この研究で用いた患者数は統計学的検出力の計算には基づかなかった。低用量群から研究を開始し,当該用量が忍容できることが確定したら,中用量群に進み,次に,同様にして,高用量群へ進んだ。当初,25例の患者を本研究に登録したが,1例(高用量群)は,緊急手術が行えるよう,デクスメデトミジンを投与の24時間以内に中止した時に除外した。
デクスメデトミジンを,血漿濃度0.15 ng/ml(低用量),0.30 ng/ml(中用量),0.45 ng/ml(高用量)を目標とし,コンピュータ制御持続注入ポンプ(CCIP)を用いて投与した。STANPUMPソフトウェア(Steve Shafer,Stanford University,Palo Alto, CA)を用いて持続注入ポンプを作動させた(Harvard Apparatus 22,Harvard Apparatus,South Natick, MA)。STANPUMPソフトウェアは,目標とする血漿濃度に薬物を送達できるよう,デクスメデトミジンの薬物動態データを用いて10秒間隔で注入速度を更新した^(19)。注入速度データは,STANPUMPプログラムを作動させるために用いられるラップトップコンピュータに保存された。覚醒患者と麻酔患者におけるデクスメデトミジンの影響を検討するため,麻酔導入1時間前に投与を開始し,手術中と手術後48時間投与を継続した。
持続注入されたデクスメデトミジンの平均投与量は,低用量群2.64 μg/kg(2.30?3.75 μg/kgの範囲),中用量群5.31 μg/kg(4.40?5.97 μg/kgの範囲),高用量群8.03 μg/kg(5.57?9.87 μg/kgの範囲)であった。試験薬投与中,患者は歩行を許可されなかった。」(621頁左欄37行?右欄28行)

(甲9d)
「鎮痛評価は視覚的アナログスケール(VAS)を用いて行った。VASは,100 mmの水平線から成り,片側の端は「痛みがない」ことを表し,もう一方の端は「想像できる最悪の痛み」を表した。術後,患者が覚醒している限り,最初の48時間は4時間毎にVASを用いて疼痛強度を測定した。疼痛の評価は患者が安静時に行い,前回評価後最悪の疼痛の重症度をランク付けした。」(624頁左欄5?12行)

(甲9e)


」(625頁のTable 1.)

(甲9f)
「鎮静と鎮痛
麻酔開始に先立つ1時間の持続投与中,中用量群(代理人注:0.30 ng/ml)及び高用量群(代理人注:0.45 ng/ml)の全ての患者は眠りについたが容易に覚醒可能であった。手術後2日目,試験薬に起因する臨床的に観察可能な鎮静は認められなかった。手術後のVAS疼痛スコアは群間で差がなく,手術後モルヒネ要求量に差はなかった。」(627頁右欄25?32行)

(甲9g)
「複数の研究がデクスメデトミジンによる用量依存性の鎮静効果を報告している^(17)。麻酔開始に先立つ1時間のデクスメデトミジン持続投与のあいだ,中用量群(代理人注:0.30 ng/ml)及び高用量群(代理人注:0.45 ng/ml)の患者は眠りについたが容易に覚醒可能であった。デクスメデトミジン持続投与は,麻酔開始前に鎮静作用を有していたが,手術の翌日には鎮静は観察されなかった。これは,ラットにおいてデクスメデトミジンの麻酔効果にタキフィラキシーが生じたという最近の知見と一致している^(27)。」(631頁左欄7?16行)

(甲9h)
「結論
血管外科患者におけるデクスメデトミジンの血行動態作用は,健常ボランティアにおけるものと同様であると思われる。0.45 ng/mlという用量が,周術期ストレスに対する血行動態反応を抑制するのに最も有効であると思われたが,血圧と心拍数をサポートするため,より多くの手術中の薬理学的介入を必要とした。より多くのハイリスク患者を対象としたさらなる研究が,これら予備的結果を立証するために実施されるだろう。」(632頁左欄22?31行)

[甲10の記載事項]
(甲10a)
「手術後におけるデクスメデトミジンの薬物動態及び交感神経遮断効果」

デクスメデトミジンは選択的α_(2)-アドレナリン作動薬であり,中枢を介した交感神経遮断作用,鎮静作用,鎮痛作用を有する。本試験では,1)外科患者における血漿および脳脊髄液(CSF)中のデクスメデトミジンの薬物動態;2)手術直後期におけるデクスメデトミジンのコンピュータ制御持続投与プロトコール(CCIP)の精密度;3)手術直後期におけるデクスメデトミジンの交感神経遮断作用を評価した。デクスメデトミジンを,8例の女性に,血漿濃度(Cp)600 pg/mlを目標とし,コンピュータ制御持続投与プロトコール(CCIP)を用いて,60分間,手術後に投与した。」(1136頁タイトル,及び要旨の左欄1?12行)

(甲10b)
「持続投与プロトコール
本研究は,単一用量の非盲検試験であり,600 pg/ml の血漿デクスメデトミジン濃度を目標として,コンピューター制御の持続投与により60分間投与された。持続注入ポンプ(Harvard Apparatus 22, Harvard Apparatus, South Natick, MA)は,(カリフォルニア州,スタンフォード大学,麻酔科のSteven Shafer 医学士より入手した)STANPUMPソフトウェアによって制御され,当該ソフトウェアは,デクスメデトミジンの既知の薬物動態データに基づいて,保存しておいた持続注入速度に10秒毎に調節した(付属文書1)。デクスメデトミジンの持続注入は,患者が麻酔後ケアユニットに到着した約30分後に,5分間の血圧変化と心拍数変化が30%以下になり次第開始された。患者のリクエスト及び看護師の判断に従って,2 mg 量のモルヒネを静脈投与することにより,手術後の鎮痛が行われた。」(1137頁左欄24?41行)

(甲10c)
「デクスメデトミジンの平均投与量は1.15±0.09 μg/kg(範囲1.03?1.29 μg/kg)であった。」(1138頁右欄23?24行)

(甲10d)
「デクスメデトミジンの持続注入の間,心拍数は76±15 bpmから64±11 bpmに減少し(P<0.01,図3),収縮期血圧は158±23 mm Hgから140±23 mm Hgに減少した(P<0.01)。」(1139頁左欄29行?同頁右欄1行)

[甲11の記載事項]
(甲11a)
「白内障手術を受ける外来患者への,デクスメデトミジンの麻酔前筋肉内投与」(482頁のタイトル)

(甲11b)
「我々は,35人の眼周囲の麻酔によって日帰り白内障手術を受ける(米国麻酔学会術前状態分類身体状況1-3の)患者において,新しいα_(2)作動薬であるデクスメデトミジンの,眼圧,血行動態パラメーター,鎮静,不安緩解,及び口渇感に及ぼす作用を研究した。今回の二重盲検ランダム化プラセボ対照試験において,5種類のデクスメデトミジン用量(0.25μg/kg, 0.5μg/kg, 0.75μg/kg, 1.0μg/kg 及び 1.5μg/kg)が使用された。試験薬は,手術の60分前に三角筋内に投与された。」(482頁の要旨欄1?5行)

(甲11c)
「デクスメデトミジンは,高選択的で強力な新規α_(2)アゴニストであり,作用強度はクロニジンを上回る[11]。最近公表された複数の研究によると,デクスメデトミジンは麻酔の必要量を減らし,麻酔および手術に伴う交感神経副腎反応を軽減することから,全身麻酔における麻酔補助剤として有用である可能性が示唆されている[12-14]。」(482頁右欄3?9行)

(甲11d)
「不安,鎮静,口渇感
視覚的アナログスケールを用いて測定した結果,不安の程度は手術中に減少し(共分散分析,時間作用の有意確率は0.001未満。),鎮静の程度は手術前に上昇し,手術中に低下する傾向があった(共分散分析,時間作用の有意確率は0.001未満。)が,用量間の差は統計的に有意ではなかった(図4)。1.0μg/kgのデクスメデトミジンを投与された一人の患者,及び1.5μg/kgのデクスメデトミジンを投与された3人の患者は,出中に眠りに落ちた。眠りは浅く,患者は目覚めた後は協力的であった。眠気はどの患者にも観察されなかった。口渇感は,すべての群において同程度であった。」(485頁左欄13行?同頁右欄5行)

(甲11e)
「デクスメデトミジンは,クロニジン同様,快い抗不安および鎮静作用を生じるように見える[3]。一部の患者では術中に眠りに落ちることがあったが,患者は協力的であり,手術状況が脅かされることもなかった。この点,ベンゾジアゼピンなどのその他多くの前投薬としての鎮静剤と比較すると,α2アゴニストが際立った鎮静作用を有するであろうことを示している。デクスメデトミジン投与後には,深く鎮静された患者であっても容易に覚醒可能であり,協力的であるというのが,我々の見解である。
本試験によると,最も有益な作用はデクスメデトミジン1.0 μg/kgの投与後に得られた。デクスメデトミジンは眼圧(IOP)を効果的に低下させ,鎮静作用が軽く,患者の協調が得られなくなる状況もなかった。」(487頁左欄5行?15行)

[甲12の記載事項]
(甲12a)
「集中治療におけるストレス,焦燥 及び脳障害」(52頁のタイトル)

(甲12b)
「用語「焦燥(agitation)」は,通常,意図的ではなく,内的な緊張に関連している,過度に運動活性な症状を表す^(1)。集中治療専門医にとって,焦燥は,診断結果と言うよりはむしろ,発症した場合に不安状態をもたらす,より根本的な病因がもたらす結果である^(2)。集中治療室(ICU)において,焦燥は,診断結果及び治療方法を変える可能性があるため,重要である。焦燥は,潜在的な疾患過程の病因を,煙幕のように不明瞭にし,効果的な診断を困難または不可能にする場合がある。このため,患者は,比較的静かに横たわっていることが必要とされるモニタリングや治療に協力できなくなる場合がある。末端器官の損傷が,実際には,焦燥自体の結果,あるいは内在する疾患の悪化の結果のいずれかにより起こっている場合,内在する原因を考慮せずに焦燥の治療を行うことにより,健康状態についての誤った理解をもたらすことになる。
集中治療における技術革新以前は,焦燥は比較的小さな問題であった。重症患者に対しては,彼らをできるだけ快適にして,治療可能な代償不全がないか観察する以外は,ほとんど何もできなかった。現在のICUは,今や,チューブ及び器具によりベッドに効果的に患者を固定し,モニタリング及び入念に調整されたケアという技術的進歩を利用することによって重症患者に生産性をとり戻すことが期待できる。先端技術の血行動態モニタリング及び支援装置によって,既に血行動態が不安定な患者に対して,その患者が以前は直面しなかった新しい種類のストレスが与えられるので,単純化された対症的な「ショットガン」鎮静はもはや適切ではない。」(52頁右欄1行?53頁左欄16行)

(甲12c)
「せん妄
ICUにおける潜在的な要因
せん妄は多因子性の症候群であって,代謝的及び臓器的な障害によって引き起こされ,そのうちのいくつかは,神経系と無関係なものである。せん妄の原因の大半は,発病前の生理機能,代謝性障害及び環境ストレスの3つのカテゴリーに分類され得る。発病前の状態の主な疾患素因は,年齢,慢性の精神異常,一般的なレベルの大脳の活動能力,対人関係の安定性,薬物摂取(原文は「substance addition」,請求人による注:substance addictionの誤記と思われる。),並びに慢性の肝臓,腎,心臓及び肺の機能障害である。高齢者では,前頭皮質,海馬及び青斑核のニューロン集団の選択的な喪失,及びアセチルコリン活性の減少がせん妄に対する感受性の増加を説明すると考えられる^(11)。せん妄の器質性または代謝性の原因は,あらゆる薬物,及び薬物間の相互作用も実質的に含む可能性がある。血液化学の不均衡を伴う多剤療法レジメンが,入院患者に頻繁にみられる。精神状態を変える物質の過剰服用による偶然の及び故意の中毒が精神異常患者群に生じる。過度の疼痛,不安,不快,感染,ビタミン欠乏または外傷に対する非特異的ストレス応答の後の慢性のコルチコステロイド治療によって神経内分泌系の危機がひき起こされうる。
「ICU精神異常」の用語は,この症候群を理解する心理社会的及び心理的な因子の原因論の重要性を強調するために導入された。昼夜を問わないICUの活動は,患者の時間に対する見当識の喪失をもたらしうる。未知の反復的で騒々しいモニタリング機器からの単調な感覚的な入力;「全ての穴にチューブまたは機器が入る」とよく言われる長期間の拘束;短時間の頻繁に中断される「うたた寝」睡眠パターン;社会的隔離;及び(頻繁に交代する)よく知らないICU職員は,最終的にせん妄の前段階の(predelirious)状態の原因となる。環境要因が寄与して,既にあるせん妄を悪化させる可能性があり,せん妄の前段階の状態から本格的なせん妄への遷移を加速することには疑いはないが,単独の根本原因として,ICU環境がおしなべて過度に強調される。あらゆる他の臓器不全の場合と同様に,大脳機能の崩壊は,通常,重大な生理学及び代謝性損傷が生じ,その後,臓器系機能不全を生じる。この症候群が複合的な臓器系機能不全の後に観察される場合,それは悪い結果の不吉な徴候である^(12)。
「精神異常」の用語は,せん妄の定義に不可欠であるが,せん妄の正確な説明でなく,誤解を招きやすい結論を導く。集中治療室の中または外において,真のせん妄は,幻覚,妄想及び無秩序な思考等の精神異常の特徴を示す場合があるが,それは真の精神異常ではない。精神医学の文献において使用される精神異常の用語は,何ら特定の器質的な因子が原因となって関連づけられない場合がある,脳機能の持続的な障害を指す。真のせん妄では,器質的な因果関係が存在するのみならず,しばしば神経系の外に起因する。さらに,せん妄の総体的症状と,統合失調症及び躁病等の精神異常の総体的症状の間には質の違いがある。せん妄の症状は,系統立っておらず,非常に無作為で無目的であるのに対し,精神異常の症状はしばしば異様であるが,よくまとまって,一貫している。「ICUストレスせん妄」という用語は,ICUにおいて生じる器質性の脳症候群について用いるのによりふさわしい。」(55 頁左欄7行?56頁左欄9行)

(甲12d)
「せん妄状態における併発症
ICUにおけるストレスを悪化させる因子は,せん妄をもたらすのに要する時間を短縮する。ICUにおける焦燥の発症に寄与するこれらの主な因子は,疼痛,不安及び不快である。

疼痛
ICUにいるほとんどの患者は,疼痛をもたらす手術または医療手技を経ている。しばしば,機械による換気を経験する挿管された患者は,彼らの不快を伝えることはほとんど不可能であると気付き,欲求不満を増加させる。疼痛の知覚は,脳の交感神経中枢を刺激することにより焦燥を悪化させ,カテコールアミン放出を導く。疼痛に対するホルモン応答は,抗利尿ホルモン(ADH)及びアルドステロンの分泌に起因して,また,コルチゾール濃度上昇及びエピネフリン分泌による高血糖に起因して,ナトリウム及び水分の貯留をもたらす。これらの体液性応答は,いずれもICUにおけるモニタリングを必要とする。さらに,疼痛は,ICU頻脈,頻呼吸,収縮期高血圧という容易に認識可能な三徴候とともに現れ,これらは,いずれもICUモニタリングに適している。

不安
不安の主観的な感覚は, ICU滞在の最初の24時間に最もよく見られる。不安経験には,死や身体障害への恐怖,スタッフから提供される情報の誤解,不快感,及び通常の活動を行うことが制限されていることなど,多くの要因が寄与する。これらの要因は,無力感,及び,コントロールの喪失感に関連付けられる場合がある。ICUでは,不安は,多動や離脱症状により特徴付けられるけれども,必ずしもカテコールアミン応答を起こすわけではない。不安は,異常なストレスに対処する能力が低下している高齢患者においては特に,急速にせん妄に進行することがある。

不快
留置されている装置によって妨げられたとしても,長期の間,動かずにじっとすることを強いられた患者は,すぐに非常に不快になり,より快適な姿勢を求める。動き回ったりストレッチをしたいという要求は,強迫観念になる場合があり,特に眠れない夜にはそうであり,強迫観念は患者の対処能力を減少させる。交感神経刺激は必ずしも生じないが,持続的な筋骨格の活動は物理的な消耗を引き起こし得る。患者の抑止は,通常,監禁を回避する試みを生じ,焦燥を悪化させる。

併発症の有効な治療
疼痛,不安及び不快等,ICUせん妄を悪化させる因子の効果的な管理は,薬理学的アプローチ及び非薬理学的アプローチの両方を含む。支持療法(Supportive care)は,過去のエピソードの証拠に基づいて正確な病歴を評価し,成功した過去の治療からのヒントを評価するとともに,侵襲的モニタリング装置への患者の理解を確かなものにし,そして情緒的な支援及び安心を提供することを含んでいる。たった今ICUの中に着いた患者は,特に緊急の状況の下で,彼らが完全に運命の制御を失ったと感じてはならない。支援的な看護の価値は強調され過ぎることはない^(25)。」(58頁右欄27行?59頁右欄24行)

(甲12e)
「痛みの治療
ここ10年で,痛みの生理学についての理解は大きく進歩した。専用の単純な脊髄視床疼痛系の初期の概念は,もはや支持されない。現在では,神経系の広範な領域が関与する非常に複雑な神経ネットワークが関与しているという多くの証拠が存在する。・・・したがって,疼痛の主観的感覚は,麻薬性鎮痛薬によって脳レベルで,また入力経路レベルでも,有効に遮断することができ,それ故,脊髄麻酔や硬膜外麻酔が有効であることがわかる。
通常は,疼痛によって引き起こされた焦燥は,硫酸モルヒネのような鎮痛薬または鎮痛性鎮静薬によって治療される。・・・疼痛に起因する焦燥症候群は,一次的な刺激が消失することにより通常解消する。

硫酸モルヒネ
全ての麻薬性鎮痛薬または鎮静薬の中で最もよく用いられている^(26)モルヒネは,経口,皮下,髄腔内,硬膜外,筋肉内,及び静脈内で投与することができるため,非常に便利である。・・・医原性の依存症の発生率は,ICU適用において臨床上大きくはない。

フェンタニル
合成オピオイドであるフェンタニルは,モルヒネと比べて約7000倍脂溶性である。・・・フェンタニルは,鎮痛作用及び抗不安作用を併せ持つが,低用量では鎮静薬としてよりは鎮痛剤としてはるかに有効である。
・・・(中略)・・・

ケトロラク
ケトロラクは非経口非ステロイド性抗炎症薬であり,ほぼ純粋な鎮痛作用を有する。・・・ICU患者におけるケトロラクの静脈内投与の利用可能性及び安全性を検証するため,著者の研究機関で臨床試験が進行中である。

α-2アゴニスト
α-2アドレナリン受容体は,グアニンヌクレオチド結合夕ンパク質共役型膜受容体ファミリーの1つであり^(37),中枢と末梢の双方に存在する。その機能は,いくつかのネガティブフィードバック機構によりシナプス前接合からのノルエピネフリン放出を阻害することである。これらのエフェクター機構は,cAMP依存性プロテインキナーゼの刺激を弱めるアデニル酸シクラーゼの抑制^(38),神経細胞膜を過分極化する外向きカリウムチャネルの開口^(39),及び,カルシウムチャネルの阻害により,神経終末へのカルシウムの流入を減少させ,神経伝達物質含有小胞とシナプス膜との融合を阻止^(40)することを含む。
これらのエフェクター機構は,中枢の交感神経系などの,α-2受容体を含有する全ての標的エフェクターにおけるニューロンの発火,及びノルエピネフリン分泌を効果的に抑える。その結果,α-2アドレナリン作動性のアゴニストは,実際に,循環ノルエピネフリン濃度を減少させるとともに,尿中のカテコールアミン代謝産物を減少させることからもわかるとおり,交感神経副腎系の分泌を強力に阻害する^(41)。
α-2アゴニストは,この10年間,麻酔科医や獣医により,手術用麻酔の補助剤として使用されている^(42)。この種の薬剤は,かなり前から降圧剤としての地位が確立されているが,さらに,抗不安薬,鎮静薬,鎮痛剤,及び制吐剤の特性を有することも見出されている。これらの特性によって,これらの薬剤は,カテコールアミンの急上昇に伴い生じる焦燥(agitation)とせん妄の魅力的な治療薬となる。α-2アゴニストをベンゾジアゼピン系薬剤または麻薬性鎮痛薬と同時に投与することによって,これらの鎮静-麻薬の薬量を有意に減らすことができ,効果的な水準の鎮静及び鎮痛を保ったままで,副作用を最小限化することができる。何よりも,ノルアドレナリン系の神経伝達が麻酔応答の深さを調節することを前提とすれば^(44,45),交感神経系の抑制が,α-2アゴニストを麻酔薬と同時に使用したときの麻酔薬の用量低減^(43)の主要な因子であると考えられる。その作用部位と作用機序は議論の余地があるものの,その後の研究^(46)によって,中枢作用性のα-2アゴニストは,それ自体で強力な鎮痛作用を示すことが示されてきた。
α-2アゴニストであるクロニジンは,重度の焦燥(agitation)の交感神経作用を遮断すると報告されている中枢作用性の高血圧治療薬であり,重度の焦燥(agitation)の治療に用いられる薬量を低減する。・・・クロニジンはまた,いくつかの非麻薬性退薬症状の病態生理である,脳内ノルアドレナリン作動性神経機能不全を減らすその能力,及びその抗不安作用によって,パニック障害^(53)を有する患者において有効であることが証明されている^(53)。・・・・集中治療患者の重篤な焦燥症状において,鎮痛剤や鎮静薬の補助剤として静脈投与クロニジンを注意深く調節して用いることは,新しい臨床研究領域である。
今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニスト は,重篤な焦燥及びせん妄の治療における実用可能性を有している 。高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは,麻酔要求性を低減し,麻酔からの回復を促進する^(57)。この薬剤は,忍容性が良好であり,重大な関連副作用がない。さらに,デクスメデトミジンは,ベンゾジアゼピンと同等の抗不安作用を有する一方で,血行動態に対する悪影響がはるかに少ないことが示されている^(59)。これまでの研究によって,動物モデルにおいて,心筋収縮力または呼吸抑制に対してデクスメデトミジンが有意な影響を有していないこと^(60),及びアチパメゾールまたはイダゾキサンのようなα-2アゴニスト が薬剤の催眠作用を効果的に消失させうること^(61)が示されてきた。クロニジンは,ドロペリドールまたは生理食塩水の対照と比較して,効果的に振戦を軽減することがわかった^(62)。」(59頁右欄25行?63頁左欄下から10行)

[甲13の記載事項]
(甲13a)
「α_(2)-agonist と鎮痛効果」(127頁のタイトル)

(甲13b)
「はじめに
塩酸クロニジンや塩酸デキサメデトミジンを代表とするα_(2)アドレナリン性作動薬の鎮痛効果に関して,近年多数の研究報告がなされている。これらの研究成果をみてみると,鎮痛鎮静効果ばかりでなく,心血管系循環動態,脳代謝循環,内分泌機能などさまざまな分野を網羅している。α_(2)作動薬に鎮痛効果を有することが明らかになったのは1979年Kaukinenら^(1))によるハロタン吸入麻酔薬のMAC減少による麻酔増強作用の報告であり, 1982年にはBloorら^(2))がCLO投与によってハロタンMACを50%まで減少させた報告で研究が急速に発展してきた。現在,術後疼痛や癌牲疼痛には,モルヒネを代表とするオピオイド類の投与が主流であるが,これらの投与に際しては循環動態の変動や副作用(吐き気, 嘔吐,掻痒,呼吸機能低下,耐性など)に十分注意しなければならず,麻酔科医を中心とした熟練された疼痛管理が必要である。しかしながら,本稿に紹介するα_(2)作動薬はオピオイド類に比較して,循環動態の急激な変動や重篤な副作用を引き起こすことは,はるかに少ない。今回はα_(2)作動薬の鎮痛効果を中心としてその薬物動態,薬物力学に関してわれわれの今日までの研究結果を含めて総説として紹介する。」(147頁左欄1行?右欄6行)

(甲13c)
「1.α_(2)アドレナリン性作動薬
α_(2)アドレナリン性作動薬にはimidazoline系に属するclonidine(CLO:カタプレス), dexmedetomidine(DEXT), mivazerol (MIV), tizanidine(TIZ),またphenylethylamineに属するmethyldopa (アルドメット), guanabenz (ワイテンス),そしてoxaloazepine系に属するguanfacine(エスタリック), azepexyole (B-HT 933)に類別される(表1)。現在,臨床麻酔領域に関連する薬物はCLO, DEXT, MIV, TIZである。
・・・中略・・・
CLOにはα_(1)アドレナリン性作動薬の性質ももっているが, DEXTは純粋なα_(2)agonistとしての性質をもっており, CLOよりも約8倍のα_(2)受容体に親和性をもつ。DEXTの鎮痛力価はCLOの約3倍とされている^(3))。これらの主な作用は前シナプスのα_(2)アドレナリン受容体に作用し,交感神経終末から放出されるノルアドレナリンの放出を抑制することである。この作用が後に述べる鎮痛,鎮静効果に結びつく。また,TIZはイミダゾール誘導体である中枢性筋弛緩薬として分類されており,鎮痛力価はCLOの2.4倍である。しかしながら, Kroinら^(4,5))によると経静脈内投与では鎮痛効果は期待できないと報告している。」(147頁右欄7行?148頁左欄23行)

(甲13d)
「3.α_(2)受容体の存在
α_(2)受容体は中枢および末梢神経に存在し,中枢においては延髄青斑核,孤束核,中脳水道側腹核などに存在し,脊髄レベルにおいてはAδおよびC線維が隣接する脊髄膠様質に分布している。動脈性血管において,α_(1)は neuro - effector junctionやアミン取り込みと近接しているが,α_(2)はより離れた位置に存在する。したがって,α_(1)は神経性に血管を収縮させるが,α_(2)は体内のカテコラミンによって血管を収縮する。血管拡張機構に注目すれば,α_(2)はEDNO (endothelium NO)を介して血管を拡張させるようである。」(148頁左欄下から2行?右欄10行)

(甲13e)
「6.中枢性の鎮痛,鎮静効果,抗不安効果(吸入麻酔薬との相乗効果)

ヒト体内に投与されたCLOやDEXTは容易に血液脳関門(BBB)を通過し,早期に脳内に分布する。・・・一般にdelta波の優位な出現は脳内麻酔深度に関与しており,この結果は中枢への鎮静効果がかなり早く出現することを示唆する。・・・
また, CLOやDEXTは麻酔導入薬(チオペンタール)の使用量も減少させる。DEXT(0.5μg/kg)投与においては約31%の減量を認めている^(12))。前投薬として使用した場合,鎮静作用(sadation)の他に手術に対する抗不安効果(anxiolysis)を認める。一般に鎮静効果と抗不安効果を区別するのは難しいが,臨床的には患者は応答に明瞭でしかも手術に対する恐怖心がないといった抗不安作用を認める。Reinhartら^(13))は前投薬として使用したCLO投与(300μg経口)によるanxiolysisの効果について,恐怖感や神経過敏などの症状が血圧下降なしに得られたと報告している。精神科領域においては,不安障害(恐慌性障害,恐怖症,強迫性障害,心的外傷後ストレス,一般性不安障害)に適応する薬物としてもCLO使用の経験があるが,やはり鎮静と抗不安効果を明確に区別するのは困難とみられ,今後の研究課題の1つでもある。」(150頁左欄10行?右欄20行)

(甲13f)
「9.術後の鎮痛鎮静効果
術前硬膜外腔投与による,術後24時間以内の鎮痛効果を鎮痛薬(pentazocine)の使用量において比較してみた(図3)^(18))。婦人科腹部手術患者におけるCLO,DEXTの術前硬膜外腔投与群では術後鎮痛薬の使用量は有意に減少する。術後24時間以内に使用するペンタゾシンの使用量は20mg前後である。また,術後最初に鎮痛薬を使用する時間までを鎮痛効果持続時間とするとCLO,DEXT群では約5?7時間と推測される。MIVにおいては,フェンタニノルと比較すると術後の鎮痛薬の使用量に差はなかったとしているが,術後の鎮静には他のα_(2)作動薬と同様に鎮静薬の使用量が少なかったとの報告がある^(19))。術中・術後の鎮痛ならびに鎮静効果がオピオイド類と同様に有することから,将来的にはα_(2)作動薬投与による予防的鎮痛(pre-emptive analgesia)への応用も考慮されると思われる。」(152頁右欄5行?153頁左欄15行)

[甲14の記載事項]
(甲14a)
「集中治療室でのアルコール離脱治療におけるクロニジン」(106頁のタイトル)

(甲14b)
「アルコール離脱は,重症患者に見られる生理学的障害を併発しているときには治療が困難になる。離脱症状を緩和するために投与される薬剤は,理想的には患者と主治医や看護者間のコミュニケーションを損なうことなく,安全かつ有効でなければならない。・・・ミダゾラムとその主な肝代謝物(1-(OH)-ミダゾラム)は,比較的半減期が短い(2時間未満 [3])ので,この薬剤が現在,ICUでの離脱治療に最もよく使用されているベンゾジアゼピンである。それにもかかわらず,肝疾患患者におけるクリアランス障害の証拠があり,重症患者においてミダゾラムは少なくとも理論上のリスクである。
α_(2)アドレナリン作動薬であるクロニジンには,それをICUでのアルコール離脱治療に適したものにしているいくつかの特性がある。クロニジンはバルビツール睡眠時間を延長させ,吸入剤の最小肺胞内濃度(MAC)を減少させ [5],誘発電位反応において麻酔様効果を有しているが [6],前投薬として与えられる経口クロニジン0.3 mgには,反応性の喪失や副作用もなく,鎮静および抗不安作用がある [7]。他のα_(2)作動薬と同様に,クロニジンは延髄の受容体部位で,およびシナプス前性に末梢神経終末で作用して,交感神経系の活動を低下させる [8, 9]。それは,オピオイド離脱状態の管理に重要な地位を占めている [10]。交感神経過活動は,アルコール離脱状態の不変の特徴であり,クロニジンの試験で,それが血漿カテコールアミン濃度を低下させることが確認されている [11]。クロニジン0.3?0.45 mg/日が経口投与された3つの非盲検試験 [12-14](n = 200)および3つの二重盲検試験 [11, 15, 16](n = 50)で,アルコール離脱の自律神経および精神的症状を緩和させるその有効性が示された。別の二重盲検試験 [17](n = 61)で,クロニジンは,クロルジアゼポキシド よりも,アルコール離脱症状と血行動態障害をうまくコントロールすると結論付けられた。我々はここに,問題のあるアルコール離脱状態の2例の患者におけるクロニジン使用の成功を報告する。」(106頁左欄12行?右欄25行)

(甲14c)
「患者1
49歳の男性を,道路交通事故後の多発損傷でICUに収容した。患者に緊急開腹術を行い,そこで脾臓摘出術を実施した。多発肋骨骨折を伴う重度の左側肺挫傷のために,術後,人工換気を行った。疼痛はブピバカイン とジアセチルモルヒネ(それぞれ10 mg/時と1 mg/時)の胸部硬膜外注入で緩和した。最初に0.2%?0.4%のイソフルラン で鎮静を行った。収容の36時間後にこれを中止したとき,患者は,明らかな幻視を伴ってひどく興奮した。これは,発汗,頻脈,高血圧などの交感神経過活動の徴候を伴っていた。患者は低酸素性または高炭酸ガス血性ではなく,電解質障害もなかった。既往歴から,以前のアルコール摂取が過剰(1週間に60単位または600 gを超える)であったことが分かった。クロニジンの注入を60?120 μg/時で開始し,最高速度180 μg/時まで速めた。3時間で,患者の臨床状態に著しい改善が見られた:患者は命令に反応し,もう興奮しておらず,看護するのがはるかに容易になった。患者の身体的状態には,付随する改善,特にreverse Fick法によって得られる酸素消費量の減少が見られた(表1)。2日後,36時間かけて,クロニジンの使用を徐々に中止したが,交感神経興奮の最初の徴候の再発やクロニジン離脱状態の証拠はなかった。」(106頁右欄27行?107頁左欄本文15行)

(甲14d)
「患者2
68歳の男性を,開腹手術後に傷口が開いたためにICUに収容した。患者は以前,薬物療法に反応を示さなかった潰瘍性大腸炎のために,結腸亜全摘術を受けていた。問題には,凝固障害(国際標準化比1.9)と血小板減少症(血小板数39×10^(9)/L)を伴う回腸切開術部位からの鮮血出血,低アルブミン血症,3.1 mmol/Lの低カリウム血症,心房細動などがあった。血液製剤,適切な電解質およびジゴキシンで患者を治療した。最初の鎮静と鎮痛は,それぞれ,0.2%?0.4%のイソフルランとアルフェンタニルの注入0.6 μg/kg/分で行った。鎮静を中止したとき,気管から抜管した(最初の手術から48時間後)が,その後,患者は明らかな幻視を伴って興奮し,不安になり,見当識障害を起こし混乱した。患者には安静時振戦があり,発汗しており,しつこく血管カニューレと持続的陽圧呼吸マスク(CPAP mask)を取り外そうとした。患者には長期にわたるアルコール乱用歴があり,大腸疾患発症の前に少なくとも2年間,肝疾患のあった生化学的証拠があった。直接胆管造影で,原発性硬化性胆管炎もあることが示された。手術前に,血漿ビリルビン濃度は55 μmol/L,アルカリホスファターゼは355 u/L,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼは20 u/L,血清アルブミンは28 g/Lであった。60 μg/時でクロニジン注入を開始し,120 μg/時まで増量したが,それですぐに,心拍数は112から96拍/分に平均動脈圧は109から96 mmHgに落ち着き,2時間以内に精神状態が改善した。副作用はなかった。クロニジン注入を24時間継続し,その後12時間かけて中止したが,さらなる問題はなく,クロニジン離脱状態の証拠もなかった。」(107頁左欄本文16行?右欄4行)

(甲14e)
「考察
クロニジンは,すでにICUでの治療を必要としている患者の管理を複雑にする急性アルコール離脱症状の管理に,安全に有効に使用することができると思われる。我々の所見は,ICU患者に同様の用量を用いたMetzとNebel [14] の所見と一致していた。彼らは,クロニジンが使用されると,必要とされる全治療期間,非経口栄養の必要性および人工呼吸器の期間を減少することができると主張した。ただし,精神病と発作を管理するには,まだ追加薬が必要であると認識されているが,ここに提示した2例の患者ではそうではなかった。クロニジンは忍容性良好で,主な副作用である低血圧は軽度であり,特に細心のICUモニタリングで容易に乗り越えることができるという一般的な合意がある [18, 19]。この合意と一見相容れない1試験 [20] に,解毒のために収容された32例の患者が含まれていたが,彼らには,幻覚,発作および低血圧がクロルメチアゾールよりもクロニジンでより多く見られた。これらの患者は一般に健康で,薬剤は従来の用量で経口投与されており,これらの結果をICUの状況に当てはめるのはほぼ間違いなく不適切である。最適なレジメンを明確にして有効性を最大にし,副作用を最小にするためには,前向きな臨床試験が必要である。」(107頁右欄の「DISCUSSION」)

[甲15の記載事項]
(甲15a)
「外科患者におけるアルコール離脱性せん妄の特殊性とその治療のための示唆」(133頁のタイトル)

(甲15b)
「外傷患者の19%および一般外科患者の9%はアルコール依存症である[9]。これらの患者が手術処置のために救急で来た場合,依存症は通常未知のままである。外科の専門文献には,アルコール患者の手術可能性,せん妄患者の静止固定およびそれらの患者の術後の合併症を取り扱った研究はほとんど見られない。アルコール中毒およびアルコール離脱性せん妄の治療についての報告は特に神経科および一般医学医療機関からのものである。病態生理学からの比較的最近の結果は,より目標を定めた治療の可能性を許す。
我々の研究の趣旨は,神経科および内科での治療経験を外科患者の治療に転用することができるかどうかを確かめることであった。検査のためには治療記録および経過記録を用いた。」(133頁左欄本文1?18行)

(甲15c)
「臨床的問題点
アルコール離脱性せん妄はアルコール患者の約15%に現れる[3]。せん妄患者の多数は中年層であって,加齢につれて,また加齢に伴ってアルコールが原因の脳の損傷の可能性が増加することから,せん妄に至る可能性は低下する[6]。死亡率は0.5%と25%の間であるとされ,主な死因は心血管機能停止および沈下性肺炎である。
外科患者は負傷または手術によって最初から負荷を担っている。まさに身体的な静養が不可欠な時期に,最強な運動性焦燥が現れる。せん妄患者が自己を危険にさらすのは:
- 挿入口,測定チューブおよびドレインチューブを取り外すこと
- 創傷または手術創の汚染
- 骨折および再骨折
による。
それゆえに外科患者にとっては,精神科患者または神経科患者よりも,より深い鎮静とより継続的な静止固定が必要である。」(133頁左欄下から12行?右欄10行)

(甲15d)
「アルコール離脱性せん妄はさまざまな症状の複合体である(表1)。病因としては,中枢神経系および自律神経系の調整機能の崩壊が前面にある。アルコールの供給が無い場合,体温上昇,頻脈,散瞳および高血圧の症状を伴った,ノルアドレナリン系の超過に至る。精神病理学的な中核症状としては失見当識および視覚的幻覚である。
最後のアルコール摂取と振戦せん妄が出現するまでの無症状期は,12時間と複数日との間で変化する。せん妄の完全な出現に至ることはまれであって,離脱症状は主に焦燥,不安,強い振戦および幻覚症に限られる。このせん妄はかなり決まった時間的構成で進行する(図1)。
せん妄はアルコール離脱の結果としてだけではなく,バルビツレート,パラアルデヒド,クロメチアゾールおよび臭素塩の供給の中断でも発生する。これ以外にも,せん妄を誘導し得る薬剤がある。これらは抗コリン作動薬と,抗コリン作動的な随伴効果を持つ,抗うつ薬,神経遮断薬および抗パーキンソン病薬のような,薬剤である。

」(133頁右欄12行?134頁左欄3行)

(甲15e)
「患者と方法
1988年に,最高の治療看護の病院,カイザースラウテルン市立病院の外科の覚醒および集中治療室では1975人の患者を治療した。このうち593人の患者は,事故負傷(多発外傷,外傷性脳損傷,肋骨骨折および脊柱骨折)のために受け入れられた。これらのうち18%は血中アルコール濃度が1%超,4.2%は3%超であった。23人の患者(1.2%)で振戦せん妄が現れた。
1987年まではせん妄の治療は標準化されてはいなかったが,通常は固定ベルト,挿管,人工呼吸器およびリラクゼーションを利用した。
文献の示唆に基づいて,我々は,1988年以降は抗てんかん薬,鎮静剤または神経遮断薬に加えて,高血圧治療で公知のクロニジンを使った。これは超過したノルアドレナリン系を抑え,抗不安的効果を持ち,呼吸麻痺効果は持たない。この物質はドイツ連邦保険局(BGA)からまだ適応の許可が下りていないにもかかわらず,ドイツ語および英語の文献の報告は納得できるものであったので,我々はこの薬剤をこの適応でこれまでに23人の患者で使用した。10個の,各0.15mg入りのアンプルを,50mlの注入器シリンジ内に,塩化ナトリウム溶液と共に吸引した。1回の,0.15mgのボーラス投与後,毎時間ごとに2から8ml(0.06-0.24mg)を注入した。
不安および幻覚に影響を与えるため,また痙攣の境界を上昇させるためには,ベンゾジアゼピン誘導体のクロラゼブ酸二カリウムは定評がある。この薬剤は通常はクロニジンと組み合わされ,注入器(100mg/50ml)を用いて投与される。毎時間ごとの量は2から6ml(4-12mg)である(表2)。
クロニジン用量は抗高血圧治療の約5倍から10倍であった。胃腸疾患を持つ患者には経鼻胃管が取り付けられたが,事故外科患者では嘔吐が生じた患者にのみに取り付けた。経鼻胃管を介しての栄養供給はせん妄中は実施しなかった。
すべての患者は集中治療室で看護を受けた。毎日,脈拍,血圧,体温,呼吸頻度,意識の状態,焦燥の状態および協力能力を検査し,記録した。毎日,電解質値,血液像およびクレアチニンの測定を行なった。比較的大きな間隔で肝機能の値を測定した。診断に決定的であったのは:心拍数100回/分超,血圧150/100mmHg超,振戦,発汗,不安および幻覚。すべての患者は経口栄養摂取であり,注入溶液にはビタミンB(ウェルニッケ脳症を阻止するため),ビタミンC(免疫欠乏)およびカリウム(1mval/kg/日)を添加した。すべての患者は薬剤による潰瘍と血栓症予防が施された。クロニジン治療から除外されたのは,洞結節機能不全および腎不全を持つ患者であった。
結果
このように治療された23人の患者の平均年齢は45.6歳であった。無症状期は中央値が2.0日,せん妄期間は5.4日であった。すべての患者において,外科的病状の重さから,すべての薬剤が静脈投与を必要とした。3人の患者では振戦せん妄中に挿管処置および人工呼吸をしなければならなかった。付加的な機械的固定が4人の患者においては必要であった。患者は以前に経験した休みの無い焦燥および強度の発汗に取って代わって,一種の半睡眠状態に置かれた。この睡眠状態から患者を覚醒させることがいつでも可能であったが,痙攣の発作が現れた患者はいなかった。2人の患者は肺炎になったが,抗生物質で治癒させることができた。
心拍数は抗せん妄効果によって約50回/分であった。薬物耐性の可能性のために継続的に用量を調節することは不必要であった。必要とされた用量を増加したことで40回/分未満の徐脈が現れたため,2人の患者ではクロニジンでの治療を打ち切らなければならなかった。これらの症例ではその後の治療をクロメチアゾールとクロラゼプ酸で行った。」(134頁左欄下から5行?135頁右欄3行)

(甲15f)
「患者の協力が維持され,こうして身体の介護および理学療法を実施することができたため,この投薬は看護担当者側からは賛同を得た。褥瘡が発生した患者はいなかった。高い投与量にもかかわらず,クロニジンまたはクロラゼプ酸投与下での特別な臨床値の変化は観察されなかった。」(135頁右欄1?4行)

(甲15g)
「中枢性交感神経抑制のために本態性高血圧の治療に導入されるクロニジンは,オピオイド離脱の助けになることがまず最初に証明された。続いて,それが中枢性の,抑制的なα2受容体を刺激し,意識の混濁と呼吸抑制を見ることなく覚醒状態を低減させるため,アルコール離脱性せん妄においても適用を見た[5,8,11]。クロニジンは出現する幻覚に抗する能力は僅かであり,また個々の場合にこの症状の増加の原因となる。」(136頁右欄38?46行)

(甲15h)
「表3.振戦せん妄が出現した場合の,我々の治療の基本的特徴
------------------------------
1. 集中治療室への病床移動
2. 非経口の液体注入(30kcalおよび50ml/kg/日)
3. クロニジン-注入(1.5mg/50ml)
4. クロロ酢酸二カリウム注入(100mg/50ml)
5. カリウム補充(1mval/kg/日)
6. H_(2)-ブロッカー
7. 皮下へのヘパリン投与
8. ビタミンB-複合体およびビタミンC投与
------------------------------
我々の,抗せん妄性効果を持つ薬剤への切り替えはまずクロニジン単独で開始した。その後経験を重ねるにつれて,単独投与はせん妄を抑制するためには不十分であることが分かった。それゆえにまだ存在する不安と焦燥に影響を及ぼすために,十分な運動平静を発生させ,また協力性を維持させる,ベンゾジアゼピンと組み合わせた。
この治療を早期に,また組み合わせて適用した場合,十分な抗せん妄性効果において,50回/分未満の徐脈を回避できる。このようにして,表3に示されているように,術後のまたは外傷後の時期の間,広範囲にわたる措置を使って,せん妄の限定と,外科患者の制御に成功した。患者の機械的固定は背後に退き,肺炎で死亡した患者はいなかった。
特に消化器科の患者の場合は,術後の腸アトニーが前述の薬剤投薬パターン下で延長しまた強化され,その結果早期に薬剤的にまた機械的に蠕動を援助しなければならないということに注意が払われなければならない。
アルコール離脱性せん妄による生命の危険が転向された後に,我々はさしあたってリハビリテーション処置の導入はしなかった。しかしながら外科疾患およびせん妄の克服は,かつてのアルコール依存症患者にとって,利用しないままでおくべきではない,1つのチャンスを意味する。さらに先へ導く心理的な介添えは大きな価値があり,それゆえに将来我々の患者において付け加えられるべきであろう。」(136頁右欄下から11行?137頁左欄32行)

(甲15i)
「要約.アルコール離脱性せん妄は,術後または外傷後の「脆弱期」に患者を見舞う。病態生理学的には,この症状は中枢性交感神経の過活動および神経伝達物質の不均衡に起因することが示され得る。症状の複雑性のため,多項な治療が必要である。我々の集中治療室において,ベンゾジアゼピンと中枢性のα2受容体への効果を持つ薬剤とを含めたコンセプトで治療された23人の患者での我々の経験について報告する。これらの患者の僅か3人において挿管処置または人工呼吸が実施されなければならず,引き起こされた徐脈のため生体情報モニタ監視が常に必要であった。外部固定は背後に退き,患者は覚醒させることが可能であり続け,また基本的介護に対して協力的であり続けた。」(37頁左欄33行?下から4行)

[甲19の記載事項]
(甲19a)
「F.精神管理
[1]意義
ICUでは,重症患者を救命するために身体的な状態が最優先され,精神面の保護は二の次にされていることが多い。しかし,ICUの異常な環境下で精神管理をおろそかにすれば,容易に精神的変調をきたす。そうなれば,安静が保てず,治療に非協力的になって重大な身体的障害をも引き起こすことになる。

[2]ICUで見られる精神症状
精神症状を診る場合,状態像と診断に分けて考える。状態像は現在の患者の精神的状態や症状のことで,不眠・不安・抑うつ状態・興奮状態・幻覚妄想状態・譫妄状態などがICUでよく見られる。診断は疾病名であり,反復する診察で1つに決定されるものである。

[3]精神症状をきたす原因
中枢神経系の器質的障害・全身性疾患の部分症状・薬剤性精神障害・ICU症候群・アルコール離脱症候群などが原因となる。
・・・(中略)・・・

[4]ICU症候群
黒澤は,ICUなどで重症患者の治療中に見られ「入室後2,3日の意識清明な期間をおいて発症し,主に譫妄状態を呈す。症状は3,4日間またはICUを退室するまで続き,軽快後には何らの後遺症も残さない。 」ことを特徴とする精神症状をICU症候群と名付けた^(14))。本来は,ICUの環境に不適応なために生じた精神的な反応を指していたが,最近では譫妄状態を中心とした精神症状を広くICU症候群と呼ぶことが多くなった。
発症要因は,多くのラインの装着・ベット上安静の強要・24時間の証明,騒音,検査や処置による不眠・プライバシーの喪失・家族の面会制限・気管内挿管のためのコミュニケーション障害・重病感と絶望感など,非人間的な環境下の拘束が主因といわれている。
・・・(中略)・・・
薬剤による治療は,表12-15に示した。状態像によって選択し投与する。」(当合議体による注:「ICU」はintensive care unit(集中治療部)の略語である。また,[1]?[4]は,原文では「□」の中に「1」?「4」である。)(332頁左欄1行?右欄下から4行)

(甲19b)
「表12-15 状態像別の薬物療法

」(333頁の表12-15)

(甲19c)
「最後に,われわれの施設における精神管理の要点を以下に示す。
入室当初は,精神的に安定しているように見えるが,入室日の夜から不眠状態になっていることが多い。気管内挿管などで高度の拘禁状態にある患者には,鎮静カクテル(表12-15参照)の微量持続静注を開始する。・・・ICUでの鎮静とは,眠り続けるような深い鎮静ではなく,軽く呼びかければ応答し,体位変換や処置には協力が得られ,気管内吸引をすれば咳反射を起こし,家族の面会があれば笑顔で応じられるが,刺激をしなければ軽く目を閉じ周囲の騒がしさには無関心でいられる状態を目標としている。」(332頁右欄下から3行?333頁右欄7行)

[甲20の記載事項]
(甲20a)
「クリティカル・ケア薬物療法
レビュー

要約
近年,クリティカル・ケア・メディシン(救命救急医療)における研究は,多臓器不全や院内感染の発症機序における消化管の役割と予防対策に重点的に取り組んできた。
・・・(中略)・・・
最近,イソフルラン,プロポフォール,クロニジンが,人工呼吸器患者の鎮静治療のために研究されている。イソフルランを使用すると2日以上経ってからフッ化物の蓄積が起こる。プロポフォールの用量は4?7日後に増量しなければならないため,脂質の取り過ぎとコストの大幅な増加を招く。クロニジンは,例えばアルコール摂取やオピオイドの使用を中止した「交感神経がオーバーシュート」した患者において非常に効果的であった。」(338頁のタイトル及び要約,翻訳文338頁のタイトル及び要約)

(甲20b)
「1. 鎮静
長期間,人工呼吸の器を付けて集中治療を受けている患者で,十分な鎮静と疼痛軽減の十分な制御がしばしば問題となる。あらゆる薬剤及び薬剤の組み合わせで多くの試みがなされたが明確な解決策は報告されていない。オピオイド/ベンゾジアゼピンの組み合わせが,今日多くのICUで治療として選択され,フェンタニルとミダゾラムが最も一般的に使用されている薬剤である。しかしながら,重症患者においては,ミダゾラムの代謝能力が低下している(Shelly et al. 1987)。したがって,この短時間作用型のベンゾジアゼピンの予期せぬ作用延長が,多発性外傷の患者,多臓器不全の患者及び敗血症の患者でしばしばみられる。さらに,オピオイド抵抗性もこれら患者で頻繁に発生する。」(339頁左欄下から17行?最下行)

(甲20c)
「1.4 クロニジン
非常に数多くのICU患者で,血漿カテコールアミンの量が高くなっていることが示されている。重症頭部外傷のを伴うような特別な患者を除いて(Payen et al. 1990),一般的に,長期間,人工呼吸器を付けてされている患者のカテコールアミン量の増加は,不十分な鎮静のサインとして考慮されるべきであると長い間信じられている(Kong et al. 1990)。ごく最近になって,集中治療の関係者は,非常に多数の外科ICUの患者(特別な特定のリスクを有する群において最大50%までの外科ICUの患者)がアルコールまたは薬物の乱用者であることに気が付いてきた(Naber et al.1991;Verner et al.1990)。さらに,最も長く人工呼吸器を付けたされた患者は,薬物を中止する人工呼吸器から離脱する段階で,典型的な薬物離脱症状を示す(Thayssen et al.1991)。アルコールまたは薬物の離脱症状は,部分的に交感神経の亢進に起因し,しばしば,アドレナリン及びノルアドレナリンの血漿レベルの劇的な増加を伴う(Gold et al.1980; Manhem et al.1985)。クロニジンのようなα_(2)-アドレナリン受容体アゴニストは,中枢の抑制性のα_(2)受容体を活性化することにより,カテコールアミンの放出を抑制する(図1)(Manhem et al.1985)。
クロニジンは非常に効果的で,アルコール離脱またはオピオイド離脱の治療においてクロメチアゾールまたはベンゾジアゼピンのような従来の治療法より優れていることが多いことが証明されている(Baumgartner & Rowen 1987; Gold et al. 1980; Gupta & Jha 1988; Manhem et al. 1985)。そのため,ICU患者におけるアルコール離脱症状と薬物離脱症状の予防と治療におけるクロニジンの効果は,近年,欧州のいくつかの研究で検討されてきた。

」(340頁右欄18行?341頁左欄8行及びFig 1.)

(甲20d)
「振戦せん妄の予防のための術後のクロニジン補給について,ICU現場において食道がんが原因で行われた胃食道吻合後に人工呼吸器を取り付けられた40名のアルコール依存症患者を対象に検討された(Verner et al. 1990)。平均5.5日間のクロジニン0.57?2.3 mg/日(平均1.09 mg/日)の継続的な静脈内投与は,ピリトラミドとジアゼパムの基本的な薬物治療のみの場合と比べて,アルコール離脱に関連した血行動態またはpsychovegetative症候群を排除した。尿中カテコールアミン排泄量は,クロニジン群において24時間後に正常化したが,対照群では5日間以上上昇した。クロニジン群は,より少ない麻酔と鎮痛剤の使用ですみ,人工呼吸器装着日数が有意に少なく(平均5.6日 vs 11.3日),また,胃液分泌量が減少した。さらに,クロニジン群では肺炎,敗血症,不十分な吻合の頻度が低かった。この研究結果は他の複数のICUにおいても確認されており,クロニジンはアルコール依存症が確認されているICU外科患者における離脱症状防止のための標準治療となった(Heil et al. 1992; Worobel et al. 1991)。0.5?1.5 mgの1日用量は血行動態の安定を著しく損なうことなくICU患者の大半において離脱症状を予防するのに十分である。しかし,適切な量の補充は必須である。」(341頁左欄9行?右欄4行)

(甲20e)
「クロニジンはアルコール離脱症状の予防だけでなく,ICU患者におけるせん妄の治療にも効果がある。(Haensh et al. 1991; Heil et al.1992; Ip Yam et al. 1992; Naber et al. 1991)クロニジンは単独の予防的治療薬として効果的に使用することができるが,クロニジンの単剤療法は幻覚状態や本格的な振戦せん妄に対しては適切ではない(Robinson et al. 1989)。クロニジンは主に交感神経活動の亢進を緩和させる。ベンゾジアゼピンは発作や精神病症状の予防と治療により効果的な物質である(Haensch et al. 1991; Heil et al. 1992; Naber et al. 1991)。重度の精神病症状を有する一部の患者には,ハロペリドールなどの神経弛緩薬の追加が有効である。我々は,現時点で,クロニジン(に加えてベンゾジアゼピンもしくは神経弛緩薬またはその両方)を使用して,40名を超える,アルコール離脱症状を有し,長期間人工呼吸器を装着された多発性外傷患者の治療に成功している。2名の患者のみクロニジンの投与を中止しなければならなかった(徐脈1名,低血圧1名)[Tryba 1993]。」(341頁右欄5?27行)

(甲20f)
「長期間の人工呼吸器使用後の抜管期において,オピオイドとベンゾジアゼピンの減量は急激な薬物使用の中止を経験した患者において認められる症状に類似した興奮や幻覚といった離脱症状を生じさせることが多い。クロジニンは,多くの患者においてこれらの症状の予防と治療に効果的であることが証明されている(Toens et al. 1991)。必要用量は0.6?1.5 mg/日であり,成功率は93%であった。」(341頁右欄最下行?342頁左欄7行)

(甲20g)
「まとめると,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬は,今まで他の方法で適切に治療することができなかった多くの典型的な,集中治療が必要な状態において有効であることが示されている。この薬剤は交感神経の過活動が認められる重症患者において望ましい治療になる可能性が最も高い。必要用量は高血圧治療の場合よりも多くなることが多い。」(342頁左欄下から3行?右欄5行,翻訳文343頁3?6行)

[甲21の記載事項]
(甲21a)
「腹部手術の術中及び術後に単独の鎮痛薬として使用される硬膜外クロニジン用量反応試験」(285頁のタイトル)

(甲21b)
「背景:術後疼痛管理における硬膜外クロニジンの有益な作用は,多くの試験で示されてきた。これらの試験では,患者はクロニジンと併用して局所麻酔薬,オピオイド薬またはその両方が投与された。これら薬剤の相互増強作用のため,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬固有の鎮痛特性の重要性を確立することは難しい。我々は腹部大手術の術中及び術後に単独の鎮痛薬として使用したときの硬膜外クロニジンの鎮痛効果を検討した。
方法:プロポフォール全身麻酔下で腸管手術を受けた若年成人50人を試験した。導入時,クロニジンの硬膜外投与を初回量2 μg/kgとその後に0.5 μg/kg/時を注入する群(第1群,10例),初回量4 μg/kgとその後に1 μg/kg/時を注入する群(第2群,20例),8 μg/kgとその後に2 μg/kg/時を注入する群(第3群,20例)に行った。術中,プロポフォールの急速静注(0.5 mg/kg)に反応しなかった動脈圧または心拍数の増加は,リドカイン急速静注(1 mg/kg)で処置した。3回の連続注射を許可した。ベースライン値まで回復しなかった場合,オピオイド薬を追加し,患者を試験から除外した。術後,クロニジンの注入を12時間持続した。この期間,30分ごとに安静時及び咳嗽時の鎮静スコア及びビジュアルアナログスケールの値を記録した。主観的スコアが安静時に5 cm以下,咳嗽時には8 cm以下のとき,患者は,硬膜外ブピバカインを供給する自己調節鎮痛装置を使用することが許された。患者が鎮痛薬供給ボタンを押した時点を,その患者における試験終了時とした。
結果:手術中,麻酔不十分のため第2群の患者の33%及び第3群の患者の5%のみと比較して第1群の患者の60%が試験プロトコルから脱落した(P<0.05)。術後の硬膜外クロニジンによる完全無痛の持続時間は,第1群で30±21分,第2群で251±237分,第3群で369±256分であった(P<0.05:第1群対第2群及び3群,第2群対第3群)。
結論:単独の鎮痛薬として使用した硬膜外クロニジンは,外科的刺激に伴う血行動態変化を用量依存的にコントロールした。また,重大な副作用もなく,用量依存的な術後鎮痛効果が得られた。
(キーワード:麻酔法:硬膜外クロニジン。薬理作用:クロニジン。疼痛:術後)。」(285頁の要旨欄)

(甲21c)
「回復後に,クロニジン注入は術後12時間にわたって継続され,この間に30分毎に以下の経過観察が行われた。

・患者の鎮静スコアは,スコア0?3まで4段階の鎮静の尺度を用いた。すなわち,スコア0は,意識清明,または,うとうとしているが呼びかけのみで容易に意識清明な状態になる。スコア1は,眠っており,呼びかけ刺激で覚醒可能である。スコア2は,眠っており,呼びかけ刺激では覚醒しないが,身体刺激で覚醒して傾眠状態になる。スコア3は,眠っており,身体刺激でも覚醒してうとうとした状態にならない。
・硬膜外クロニジンがもたらす感覚神経ブロックは,エーテル塗布により評価した。冷覚消失は,皮膚分節(デルマトーム)に感覚神経ブロックの影響が及んだことを示唆する。
・安静時および咳嗽時の疼痛は,10 cmの痛みの強さの視覚的アナログスケール(visual analog scale:VAS)を用いて評価した(左端を無痛,右端をこれまで想像し得る最も強い痛みとする)。主観的スコアが,安静時に5 cm以上,あるいは,咳嗽時に8 cm以上である場合は,その患者に,0.125%ブピバカイン 7 mLが硬膜外にボーラス投与されるようにプログラムされた,患者が制御する鎮痛デバイスの鎮痛薬要求ボタンが与えられた。患者が自発的に耐えられない痛みを訴える場合にも,鎮痛薬要求ボタンが与えられた。患者が鎮痛薬送達ボタンを一度押すと,その患者については本臨床試験の終了に至った。」(286頁右欄下から9行?287頁左欄18行)

(甲21d)
「手術終了時に,3群間で自発呼吸までの時間に相違はなかった(4.6 +/- 4.2分)。抜管時,腹部のひどい痛みを訴える患者は存在しなかった。
第1群,第2群,および第3群の患者は,発声された言葉により覚醒したが(スコアは2?1),覚醒までの時間はそれぞれ,3.7±7.5分間,20.7±31.43分間,および39.5±37.1分間であった。同群間で,有意差はなかった。一方,麻酔中に,試験実施計画書から逸脱した患者,およびスコア2に到達しなかった(抜管直後でスコア1)患者(第1群は4名中3名,第2群は14名中7名,および第3群は19名中5名)がいたため,各群で対象となった患者が少なくなったことにより,比較試験の検出力が低下した(図3)。対象となった,いずれの時点でも,鎮静スコアが3に到達した患者はなかった。
耐え難い腹痛の自発的な訴え,または安静時および咳嗽時の視覚アナログ尺度スコアにより判定したとおり,クロニジン注入により,術後の完全鎮痛がもたらされ,第1群では30±21分間持続したことに比べて,第2群では251±237分間,第3群では369±256分間持続した(図4)。第3群における,完全鎮痛の持続時間は,第1群および第2群と有意差があった(P<0.05)。」(288頁左欄下から5行?289頁左欄3行)

[甲23の記載事項]
(甲23a)
「焦燥Agitation 不安が精神運動領域に表れ,過剰活動性と心の動揺を示す緊張状態,うつ病,精神分裂病,躁病にみられる。」(20頁下から4?3行)

(甲23b)
「見当識Orientation 自分自身を時,所,人と関連させて自覚していること。脳機能障害,せん妄で失われる。」(27頁25?26行)

(甲23c)
「III せん妄
A.定義 急性可逆性精神障害で,錯乱と何らかの意識障害によって特徴づけられる。一般に,情動易変性,幻覚または錯覚を伴い,また不適切で,衝動的,非合理的,暴力的行動を伴う。」(30頁12?15行)

[乙11の記載事項]
(乙11a)
「ICUはintensive care unitの略で,わが国では集中(強化)治療部と呼称している。・・・すなわち,ICUの設立のねらいは,従来の診療科別に各科に収容されていた重症患者を1ヵ所に集め,そこで各科の医師が専門的立場から,互いに協力して治療効果を挙げようとすることにあり,従来の縦割の診療体系から横割の診療体系への切変えである。そして,24時間平均された治療看護と高度な医療機器の集中による効率化を含めて,1人でも多くの患者を救命することにある。
このようなICUを一言で定義するとすれば「内科系・外科系を問わず,呼吸・循環・代謝・その他の全身管理を集中的に行うことにより,治療効果を期待し得る急性重症患者を収容する部門」といえるであろう。」(213頁3?14行)

第5 本件特許発明の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途,及び「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」について

本件特許発明では,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩(以下,まとめて「デクスメデトミジン」ともいう。)を「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用する医薬品の製造に使用している。そして,当該使用は「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」でもある。
ここで,本件特許の特許請求の範囲には,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」及び「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」という用語の意義を規定した記載はない。
そこで,本件特許発明に対する無効理由1?4を検討するのに先立ち,これらの用語の意義を,本件特許明細書の記載を参酌して解釈する。

(1)本件特許明細書には,本件特許発明の背景,課題,課題を解決するための手段,本件特許発明の効果等について,以下の記載がある。

「【0001】
[発明の背景]
本発明は,集中治療室(ICU)鎮静におけるデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の用途に関する。ICUにおける患者の実際の鎮静に加えて,ICU状況における用語,鎮静(the word sedation)は,苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療も含む。同様に,用語,集中治療室は,集中治療を提供するいかなる設定をも含む。したがって,本発明は,ICUにいるあいだ,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩を投与することにより,患者を鎮静する方法に関する。とくに,本発明は,ICUにいる間,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩を投与することにより,患者を鎮静する方法であり,デクスメデトミジンがこの目的に対して投与される本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤である方法に関する。本発明は,集中治療室鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の用途にも関する。
【0002】
危機的な病状の段階から回復する患者は,彼らがICU滞在中に最も悩まされた因子を報告している(Gibbons, C. R., et al., Clin. Intensive Care 4 (1993) 222-225)。最も共通した不快な記憶は,不安,苦痛,疲労,衰弱,乾き,様々なカテーテルの存在,および理学療法などの少数派の処置である。ICU鎮静のねらいは,患者が,興奮することなく,快適であり,くつろいでいて,また静脈ライン(iv-line)またはほかのカテーテルの設置といったような不快感を与える処置に耐えることを保証することである。
【0003】
今のところ,普遍的に容認された,重篤な患者に対する鎮静プログラム(regimen)はない。したがって,これらの患者はICUにいる間様々な薬剤を与えられ,しばしば,様々な薬剤が同時作用的に与えられている。最も普通に用いられる薬剤が患者を快適にするために与えられる。種々の薬剤が,不快な処置に対して,抗不安(ベンゾジアゼピン),記憶喪失(ベンゾジアゼピン),無痛覚(オピオイド(opioides)),抗うつ(抗うつ剤/ベンゾジアゼピン),筋肉緩和,睡眠(バルビツレート,ベンゾジアゼピン,プロポフォール(propofol)および無感覚(フロポフォール,バルビツレート,揮発性麻酔薬)を生じさせるために投与される。鎮静は,苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の処置をも含んでおり,前記の薬剤の多くはICU鎮静の状況外では鎮静剤とみなされていないけれども,これらの薬剤は,ICU鎮静の状況においては累積的に鎮静剤と呼ばれる。
【0004】
現在使用できる鎮静剤は,延長された鎮静もしくは過剰鎮静(フロポフォールおよびとくにミダゾラムの低代謝(poor metabolizers)),延長された離脱(prolonged weaning)(ミダゾラム),呼吸低下(ベンゾジアゼピン,フロポフォール,およびオピオイド),低血圧(投薬するフロポフォール丸薬),徐脈,腸閉塞もしくは低下した胃腸の運動性(オピオイド),免疫抑制(揮発性麻酔薬および亜酸化窒素),腎機能障害,肝毒性障害(hepatotoxicity)(バルビツレート),トレランス(ミダゾラム,フロポフォール)高脂質血症(フロポフォール)増加された感染症(フロポフォール),方向性および協力性の欠如(ミダゾラム,オピオイドおよびフロポフォール),ならびに潜在的虐待(potential abuse)(ミダゾラム,オピオイドおよびフロポフォール)などのような有害効果と結び付けて考えられている。
【0005】
すべての個々の鎮静剤の有害効果に加えて,これらの薬剤を組み合わせることによって(多薬療法)有害効果が生じ得る。たとえば,薬剤は相乗的に作用し,それは予想できないものであり,薬剤の毒性は付加的となり,それぞれの薬剤の薬物動態学は予想できない様式で変わる。さらに,アレルギー反応の可能性はひとつの薬剤より多くの薬剤の使用に伴い増加する。さらに,これらの有害効果は,その有害効果を治療するためにさらなる薬剤の使用を必要とする可能性があり,そのさらなる薬剤それ自身が有害効果を有するかもしれない。
【0006】
重篤患者にとって鎮静の好ましいレベルは,近年かなり変化してきた。今日,ICUにおいて最も集中治療にたずさわっている医師は,彼らの患者が眠っていてしかし容易に覚醒することを好み,今は,鎮静のレベルは患者の個々の要求を考えてあつらえられる。筋肉弛緩剤は集中治療中はめったに使用されない。心臓血管の安定がこのハイリスク患者群において望まれているとき,血行力学的活性薬剤がしばしば,充分な鎮静にもかかわらず適当な血行力学の制御のために必要とされる。
【0007】
α_(2)-アドレノレセプターアゴニストは,それらの交感神経遮断性,鎮静剤,麻酔,および血行力学安定化効果のために,一般的な麻酔の実施において評価されている。Trybaらは,離脱症状の患者をICUにおいて治療するような状況におけるα_(2)-アゴニストの有用性について議論している(Tryba et al., Drugs 45(3)(1993), 338-352)。オピオイド,ベンゾジアゼピン,ケタミン,および神経弛緩薬と共同して使用された唯一の前記α_(2)-アゴニストはクロニジンであった。Trybaらは,クロニジンは,離脱症状のICU患者において有用である可能性があると示唆しているが,Trybaらは,ICU鎮静におけるクロニジンの用途について簡単に触れているに過ぎない。さらに,TrybaらはICU鎮静に対するほかの鎮静剤の補足剤として単にクロニジンに触れているに過ぎない。
【0008】
Trybaらによれば,クロニジンは,主にそれぞれの個々の患者に対して滴定しなければならないような,その予測できない血行力学効果,すなわち徐脈および低血圧のために,重篤患者を鎮静することにおいてその限界を有する。重篤患者を長期クロニジンで治療することは,頻脈および高血圧のような反動効果に関連すると報告されている。
【0009】
α_(2)-アゴニストは,現在ICU鎮静においてそれ自身は使用されていない。さらに,α_(2)-アゴニストは,一般的にほかの鎮静薬剤と共同してさえも,ICU鎮静において使用されていない。クロニジンだけがICU鎮静における用途が評価され,オピオイド,ベンゾジアゼピン,ケタミン,および神経弛緩薬と共同しての用途のみ評価されている。さらに,本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤として,鎮静を達成させるためのICUにおける患者へのクロニジンの投与は,本出願人の知る限りでは開示されていない。
【0010】
重篤患者にとって理想的な鎮静薬は,血行力学安定化効果とともに急速な覚醒作用により容易に決定される投与量で鎮静を提供すべきである。さらに,それは抗不安薬および鎮痛薬であるべきであり,悪心,嘔吐および震えを予防するべきである。それは呼吸障害を引き起こすべきではない。好ましくは,理想的な鎮静薬は,多薬療法の危険なしにICU鎮静においてそれ自身で使用できるべきである。
【0011】
デクスメデトミジンまたは(+)-(S)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾールは以下の構造式を有する。
【0012】
【化1】

【0013】
デクスメデトミジンは米国特許4,910,214号に,一般的な鎮静/鎮痛ならびに高血圧または不安治療のための,α_(2)-レセプターアゴニストとして記載されている。米国特許5,344,840号および5,091,402号では,デクスメデトミジンの手術時および硬膜外での用途についてそれぞれ論じている。米国特許5,304,569号はデクスメデトミジンの緑内障への用途を論じている。米国特許5,712,301号ではデクスメデトミジンの,エタノールの消費(comsumption)によって起こる神経変性(neurodegeneration)を予防するための用途を論じている。」(段落【0001】?【0013】)

「【0017】
[発明の要約]
デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与するのに理想的な鎮静薬であることは,不意に見出された。したがって,本発明の目的は,ICUにいるあいだ,目的とする治療効果を与えるのに充分な時間,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩を投与することからなる,患者を鎮静させる方法を提供することである。
【0018】
ICUにおいて患者を鎮静させる方法は,そのα_(2)-アゴニストとしての活性に導かれるすべての可能性のある用途を含むデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の可能性のあるICU用途,たとえば,低血圧剤,抗不安薬,鎮痛薬,鎮静薬などとしての用途はすべて包含することに留意すべきである。また,用語,集中治療室は集中治療を提供するようないかなる環境をも包含することにも留意すべきである。
【0019】
本発明のさらなる目的および利点は,以下の説明である程度述べ,一部は説明から明らかになるであろうし,または本発明の実施により知ってもよい。本発明の目的および利点は,とくに添付の請求項に指摘した要素および組み合わせによって理解され達成されるであろう。
【0020】
ある側面において,本発明は,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩を投与することによってICUにいるあいだ患者を鎮静させる方法であって,デクスメデトミジンが本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤である方法に関する。その方法は,本質的にデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩だけが,鎮静および患者の安心感を達成するためにICUで患者に投与するために必要であるという発見を前提とする。さらなる鎮静剤は必要とされない。」(段落【0017】?【0020】)

「【0024】
[発明の詳細な説明]
本出願人は,驚くべきことにデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与するのに理想的な鎮静剤であることを発見した。とくに,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,患者を鎮静させるためにICUにおいて患者に投与される本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤であり得るということを見い出した。
【0025】
ICUにおいて患者を鎮静させる方法は,そのα_(2)-アゴニストとしての活性に導かれるすべての可能性のある用途を含むデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の可能性のあるICU用途,たとえば,低血圧剤,抗不安薬,鎮痛薬,鎮静薬などとしての用途はすべて包含する。
【0026】
また,集中治療室という用語は集中治療を提供するようないかなる環境をも包含する。患者という用語は,ヒトおよび動物の患者の両方を含むことを意図する。
【0027】
デクスメデトミジンの投与によって達成されるICUにおける鎮静の性質は独特なものである。デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩によって鎮静化された患者は,患者の治療が容易にできるよう覚醒され,見当識が保たれる(oriented)。患者は呼び覚まされ,そして彼らは質問に応答することができる。彼らは気づいているけれども,不安そうではなく,気管チューブをよく許容している。もし,鎮静の深いレベルまたはより鎮静が要求されまたは望まれるならば,デクスメデトミジンの投与量の増加が,患者をスムーズに深いレベルの鎮静に推移させる。デクスメデトミジンの投与量は,ほかの鎮静剤と関連して,呼吸器障害,吐気,持続鎮静,腸閉塞もしくは胃腸運動性の減少または免疫抑制などの有害効果を有さない。呼吸器障害がないため,デクスメデトミジンは非通気(non-ventilated)された状態にも使用することができ,鎮静,抗不安薬,鎮痛薬および血行力学的安定の必要な重篤患者は,なお見当識のある状態を維持され,また容易に覚醒されなければならない。さらにそれは水溶性であるので,投与量は長期間鎮静化された患者において,脂質負荷(lipid load)を増加させない。予測できる薬理反応が,ICUにおいて患者にデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩を投与することによって成し遂げられる。
【0028】
デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩は,経口的に,経粘膜的,経皮的,静脈内的または筋肉内的に投与できる。当業者は,本発明の方法に適した投与量および剤形がわかるであろう。本発明によって投与される薬物の正確な量は,患者の全体的な状態,治療のための状態,目的の使用持続期間,投与経路,哺乳類のタイプなどの非常にたくさんの因子に依存している。デクスメデトミジンの投与量の範囲は,標的プラズマ濃度として記載することができる。ICUにおける患者の人々に鎮静を提供することを期待されるプラズマ濃度範囲は,鎮静の目的レベルおよび患者の全体的な状態に依存して0.1?2ng/mlの間で変わる。これらのプラズマ濃度は,瞬時投与(bolus dose)および規則的な維持注入(steady maintenance infusion)による継続投与を用いて静脈内投与によってなされることができる。たとえば,ヒトにおいて前記プラズマ濃度範囲に到達するための瞬時の投与量範囲は,約10分間またはそれよりゆっくり投与されるため,約0.1?2.0μg/kg,好ましくは約0.5?2μg/kg,より好ましくは1.0μg/kgであり,ついで,約0.1?2.0μg/kg/h,好ましくは約0.2?0.7μg/kg/h,より好ましくは0.4?0.7μg/kg/hが維持投与される。デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の投与期間は,目的の使用持続期間に依存している。」(段落【0024】?【0028】)

「【0031】
実施例1
ICUにおいて鎮静を必要とする,外科手術後の冠状動脈バイパス移植患者(CABG)におけるデクスメデトミジンの有効性,安全性および滴定能力(titratability)を研究した。患者は8?24時間挿管された。すべての患者に,ICUへの入室の1時間以内にデクスメデトミジンが投与され,デクスメデトミジン注入は,抜管後6時間まで続けられた。デクスメデトミジンは0.9%塩化ナトリウム水溶液中,塩酸塩(100μg/ml,塩基)の形で用いられ,標準注射器ポンプおよび静脈内投与セットを利用して,2段階注入(負荷投与ののち維持注入)で投与された。
【0032】
12人の患者を選び,2つのグループに分けた。はじめの6人の患者には,10分間にわたってデクスメデトミジンを,負荷投与量6μg/kg/hで投与し,そののち0.2μg/kg/hで維持注入した。6人の患者の第2グループには,はじめに10分間にわたってデクスメデトミジンを,6μg/kg/h負荷投与量投与し,そののち0.4μg/kg/hの維持注入で投与した。両グループにおける注入速度は0.2から0.7μg/kg/hの範囲で維持された。鎮静の臨床効果が明らかになった(約15分から30分以内)のち,注入の持続速度を,ラムセイ鎮静スコアレベル3以上(図1参照)に到達および維持するため,0.1μg/kg/h以上徐々に増加させて調整することができる。
・・・(中略)・・・
【0034】
デクスメデトミジンの投与のあいだ,血圧および心拍変動は減少し,高血圧もしくは心拍の治療,たとえばベータブロッカーで,またはベンゾジアゼピンもしくはプロポフォールでの鎮静/抗不安の増加のいずれかのために薬理学的介入の必要ないより安定で予期できる血行力学を意味する。結論として,患者はただひとつの薬理学的デクスメデトミジンによって,好都合に鎮静化され,血行力学的に安定し,自覚的なよい気分の制御のために容易に覚醒したままでいられた。
【0035】
実施例はデクスメデトミジンが,鎮静化と患者の快適化の独自の性質を提供するので,ICUにおいて患者を鎮静化するための理想的な薬剤であることを示す。」(段落【0031】?【0035】)

「【0041】
実施例3
2つのIII期デクスメデトミジン多中心(multicenter)臨床試験(試験1および試験2)が,ヨーロッパおよびカナダでICUにおいて実施された。各試験は2つの部分言い換えると,公開標識部(パートI)および二重盲任意プラセボー標準化部(パートII)を有する。試験はデクスメデトミジンを与えた患者が,ICU鎮静の要求の減少を評価(ほかの鎮静/鎮痛剤の投与によって評価されるように)するために企画された。鎮静および鎮痛に対してそれぞれプロポフォールおよびモルヒネの使用がひとつの試験(試験1)で評価され,もう一方の試験(試験2)ではミダゾラムおよびモルヒネが評価された。総計493人の患者が試験1に登録され処置され,438人の患者が試験2に登録され処置された。
・・・(中略)・・・
【0046】
以下の16のケースは前記試験1および2のパートIIのものである。このケースはデクスメデトミジンが鎮痛剤の性質を有し,有効な鎮静および抗不安を提供する一方,患者は関心を示し,意志疎通できる。
・・・(中略)・・・
【0051】
5.多量アルコール摂取歴を有する47歳の男性患者が,咽頭主要の摘出および空腸弁による再構築を受けた。外科的手術は,患者が300mlの血液を失い,6単位の血液の輸血を必要としたあいだ10時間続いた。ICUにおいて,デクスメデトミジンが10分間,負荷投与6μg/kg/hで投与され,ついで35分間,維持投与0.4μg/kg/hで,20分間0.6μg/kg/hで,その後注入が続けられた間0.7μg/kg/hで注入された。患者は,デクスメデトミジンを与えられている間,穏やかで協力的なままで,彼のラムセイ鎮静スコアは2から3の間に容易に維持された。彼は,デクスメデトミジンの注入開始から46時間後にミダゾラム2mgが与えられ,66時間後にも再び与えられた。手術の性質と患者のアルコール消費歴を考慮すると,はじめの術後のモルヒネ要求はまったく限られたもの(24mg)であった。なお,必要とされたモルヒネ投与量はデクスメデトミジンの注入中止後76mgまで段階的に拡大した。
・・・(中略)・・・
【0054】
7.60歳の男性アルコール中毒者(超音波での肝臓への脂肪負担(fatty charges on liver ultrasound)で1週間に35単位)が腹部大動脈瘤の修復を受けた。彼は40年の喫煙歴,高血圧,狭心症および肺繊維症をもっていた。手術は技術的に難しく,3時間かかった。失った血液は3100mlで,6単位の血液が輸血された。モルヒネ(30mg)が手術中投与された。患者はICUに到着したとき血行力学的に安定であった。デクスメデトミジンが,10分間,負荷投与量6μg/kg/hで開始され,ついで2時間まで0.7μg/kg/hで滴定された維持投与量0.4μg/kg/hで注入された。ラムセイ鎮静スコアはおおよそ4に維持された。モルヒネの要求は,ICUでの患者の最初の6時間はきわだって変動していた。
【0055】
患者は目覚め,見当識のある状態で,ひどい苦痛を経験したことを伝えることができた。デクスメデトミジン投与量0.5μg/kg/hで約7時間,全移植片を取り去り,底部(the bottom)を後ろの腹部壁(posterior abdominal wall)から分解および離脱することが決定された。モルヒネの要求は,継続している出血のために段階的に増加し続けた。デクスメデトミジンのより速い注入速度の使用は,出血の結果である血行力学的不安定さの存在によって制限された。患者はその後手術室に戻った。折りよく,手術的介入は,患者がデクスメデトミジンを与えられているあいだに経験した飛躍的な苦痛を伝える患者の能力によって容易になった。
・・・(中略)・・・
【0059】
10.58歳の女性患者には二重冠動脈バイパス手術が予定された。彼女の過去の病歴は高血圧,狭心症,タイプII糖尿病を示した。彼女はICUに午後7:20に到着し,10分間にわたるデクスメデトミジン1μg/kgの瞬時投与を受け,ついで0.4?0.7μg/kg/hで注入された。抜管は翌朝の午前7:50に行なわれ,デクスメデトミジンは午後1:40まで継続された。彼女は,平穏な術後の経過をたどった。デクスメデトミジンで挿管時は彼女のラムセイ鎮静スコアは4であった。彼女は穏やかで,容易に覚醒でき,よい見当識のある状態(well-oriented)を示した。彼女は,彼女の周囲(騒音,職員およびモニター機器)によりびっくりしなかった。抜管後デクスメデトミジン注入は,段々と0.3μg/kg/hまで減少され,彼女のラムセイ鎮静スコアは2と3のあいだで変動した。彼女は穏やかで協力的なままで,呼吸器障害は起こさなかった。彼女は,デクスメデトミジン注入のあいだは,さらなる鎮静剤を必要とせず,また鎮痛剤もほとんど必要としなかった。デクスメデトミジン注入の中止後,彼女は落ち着かず,快適でなく,ざわついた。彼女の不安なプロフィールは,投薬時と非投薬時でかなり異なっていた。質問をされると,彼女は,彼女のICU滞在の記憶を失っておらず,さらに苦痛または不愉快な思い出を示さなかった。
【0060】
11.54歳の男性患者が4重(quadruple)冠状動脈バイパス手術を受けた。彼は35年の過剰アルコール飲酒歴をもつが,手術に先立ち6週間のあいだ消費量を減らしていた。アルコール中毒患者は,よくICUにおいて増加した不安および動揺レベルを示すが,この個人は,デクスメデトミジンを投与されているあいだ,すばらしい術後の経過をたどった。彼は,穏やかで静かで,さらによい見当識が保たれたままであった。デクスメデトミジンの注入は0.3と0.7μg/kg/hの間に維持され,さらなる鎮静薬は必要としなかった。彼は手術の日の夕方抜管されたが,デクスメデトミジンの注入は翌朝まで続けられた。質問をされるとすぐに,彼はICUでの滞在に非常に満足していると知らせた。
【0061】
12.49歳の女性患者が,ロス手法による大動脈弁交換(replacement)手術を受けた。患者は手術の1週間前まで彼女の心臓の状態に気づいておらず,精神的に準備ができてなく,手術前の高度の不安を示した。ICUに到着してすぐ,彼女は10分間かけたデクスメデトミジン1μg/kgの瞬時投与を受け,ついでデクスメデトミジンの注入が0.2?0.5μg/kg/hのあいだでされた。彼女は手術の日の夕方には抜管され,デクスメデトミジンは翌朝まで続けられた。彼女の術後経過のあいだ,彼女は少し忘れていたけれども,患者は穏やかで,怖れまたは不安をもたず,よい見当識が保たれた。彼女はすばらしく進歩し,ICU経験で非常に快適だった。
【0062】
13.患者は高血圧で,腎石症および「無症候性(silent)」左の腎臓を有する51歳の男性であった。彼は腎摘出を認められた。共存症は,裂孔ヘルニア,胃潰瘍および憩室,ならびに肝脂肪変性を含む。これらの異常以外は身体検査は正常であった。彼の手術経過および麻酔経過は平穏無事で,彼はベースラインラムセイ鎮静スコア4でICUに着いた。鎮静の目的レベルは,図2に示すように注入されたデクスメデトミジンの投与量をほとんど調節することなく達成された。患者は容易に目覚めさせられ,看護職員に彼の要求を伝えることができた。気管内チューブがあるにもかかわらず,彼は,外部からの刺激がないときは穏やかで眠っていた。患者はICU入室6時間後に抜管された。彼の苦痛に対してたびたびなされる評価とさらなる鎮痛薬を要求する機会とがあったにもかかわらず,彼は,研究期間6時間でモルヒネ硫酸塩を単一投与量(2mg)だけ要求した。彼の術後経過は,デクスメデトミジンの投与開始後14時間とデクスメデトミジン注入の中止後3時間近くとの,穏やかな高血圧期間以外は平穏無事なものであった。患者は晶質注入に応答し,医師によってその期間はモルヒネの効果およびおそらく軽い容量不足に起因すると考えられた。研究後,患者の唯一の苦情は傷口の痛みだった。会見時,患者は気管内チューブが不快であったが,もしもう一度その集中治療室に再入院したら,現入院期間に受けたのと同じ鎮静剤を要求するだろうと言った。
【0063】
14.冠動脈バイパス手術を受けた42歳の男性患者が,ラムセイ鎮静スコア5(眠っている,光による眉間へのタップ(light glabellar tap)または大きな聴覚的刺激に緩慢な応答)でICUに到着した。デクスメデトミジンを負荷投与量6μg/kg/hで投与し,ついで投与量0.4μg/kg/hで維持注入した。患者のラムセイ鎮静スコアは,最初の半時間は6(眠っている,応答なし)であった。しかしながら,注入は急速にまた容易に滴定され,ICUにおける彼の残りの滞在期間は,スコア2(協力的,見当識が保たれている(oriented),平静)または3(患者は命令に対して応答する)に到達および維持された。血行学的に不安定であるという証拠は観察されず,アヘン剤(opiate)は必要とされなかった。患者は6時間で抜管され,彼のICU静養の経過は平穏無事なものであった。彼は,抜管後穏やかな苦痛を経験した。その苦痛はモルヒネ2mgの単一注入で容易に制御された。
・・・(中略)・・・
【0066】
前述したケースは,デクスメデトミジン鎮静の重篤患者における有益性を説明している。ちょうどよく鎮静化されると,患者は生理学的に安定な方向に向かい,最小限の苦痛,不快および不安を経験した。人工呼吸器を放しているあいだ,および呼吸器障害を避けるため抜管後のあいだ鎮静薬を中止することが最近の慣習である。このような慣習はデクスメデトミジンでは必要ない。さらに,デクスメデトミジンは,苦痛の恐れを取り除くことによる治療的介入(たとえば,可動化または胸部理学療法)によって患者のコンプライアンスを増加させる。これは,単一の薬物によるそうそうたる目を見張るべき効果である。」(段落【0041】?【0066】)

「【図1】 図1は,被験者における鎮静の評価のために開発されたラムセイスケールを示す図である。このシステムでは,眠れなさ(wakefulness)のレベルが,聴覚の刺激から強度の痛みをともなう刺激にわたり変動する刺激に対する応答の連続的減退にもとづいた1?6のスケール(ラムセイ鎮静スコア)で記録される。」(本件特許の特許公報の13頁36?39行)

「【図1】

」(本件特許の特許公報の14頁)

上記記載事項によれば,本件特許発明の背景,課題,課題を解決するための手段,本件特許発明の効果等について,本件特許明細書には,次の(1-1)?(1-6)の開示があることが認められる。

(1-1)危機的な病状の段階から回復する患者(重篤患者)のICU(集中治療室)滞在中における最も共通した不快な記憶は,「不安,苦痛,疲労,衰弱,乾き,様々なカテーテルの存在,および理学療法などの少数派の処置」であり,ICU鎮静のねらいは,「患者が,興奮することなく,快適であり,くつろいでいて,また静脈ライン(iv-line)またはほかのカテーテルの設置といったような不快感を与える処置に耐えることを保証すること」であり(段落【0002】),鎮静は,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の処置」をも含んでいる(段落【0003】)。

(1-2)しかし,普遍的に容認された,ICU滞在中の重篤患者に対する鎮静プログラムはなく,重篤患者は,ICUにいる間,不快な処置に対して,抗不安(ベンゾジアゼピン),記憶喪失(ベンゾジアゼピン),無痛覚(オピオイド(opioides)),抗うつ(抗うつ剤/ベンゾジアゼピン),筋肉緩和,睡眠(バルビツレート,ベンゾジアゼピン,プロポフォール(propofol)および無感覚(フロポフォール,バルビツレート,揮発性麻酔薬)を生じさせるために種々の薬剤が投与され,これらの薬剤は,ICU鎮静の状況においては累積的に鎮静剤と呼ばれるが,個々の鎮静剤の有害効果に加えて,これらの薬剤を組み合わせること(多薬療法)によって有害効果が生じ得るので,理想的な鎮静薬は,多薬療法の危険なしにICU鎮静においてそれ自身で使用できるべきである(段落【0003】?【0005】,【0010】)。

(1-3)一方,α_(2)-アドレノレセプターアゴニスト(α_(2)-アゴニスト)は,交感神経遮断性,鎮静剤,麻酔,および血行力学安定化効果のために,一般的な麻酔の実施において評価されているが,ICU鎮静においてそれ自身は使用されておらず,クロニジンだけがオピオイド,ベンゾジアゼピン,ケタミン,および神経弛緩薬と共同してのICU鎮静における用途が評価されていたが,本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤として,ICU鎮静を達成するための患者へのクロニジンの投与は,知られていなかった(段落【0007】,【0009】)。

(1-4)「本出願人」(本件特許の出願人)は,α_(2)-アゴニストであるデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与される本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤であり得ることを発見し(段落【0024】),「本発明」(本件特許発明)をした。
デクスメデトミジンの投与によって達成されるICUにおける鎮静の性質は,独特なものであり,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩によって鎮静化された患者は,治療が容易にできるよう覚醒され,見当識が保たれており,患者は呼び覚まされ,質問に応答することができ,気づいているけれども,不安そうではなく,気管チューブをよく許容している(段落【0027】)。

(1-5)今日,ICU(集中治療室)において最も集中治療にたずさわっている医師は,彼らの患者が眠っていてしかし容易に覚醒することを好んでいる(段落【0006】)。

(1-6)例えば,実施例の「10.」の58歳の女性患者は,穏やかで,容易に覚醒でき,よい見当識のある状態(well-oriented)を示し(段落【0059】),「13.」の51歳の男性患者は,容易に目覚めさせられ,看護職員に彼の要求を伝えることができた(段落【0062】)。また,「7.」の60歳の男性アルコール中毒者は,目覚め,見当識のある状態で,ひどい苦痛を経験したことを伝えることができ(段落【0055】),「15.」の58歳の男性患者は,見当識が保たれており,協力的であった(段落【0064】)。

(2)「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用語の意義

上記(1-1)?(1-4)を参酌すると,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用語の意義は,以下の(i)?(vi)のように解される。

(i)「ICU状況における鎮静」の用語は,ICU(集中治療室)における「患者の実際の鎮静」に加えて,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療をも含む」こと(段落【0001】),

(ii)危機的な病状の段階から回復する患者(重篤患者)のICU滞在中における最も共通した不快な記憶は,「不安,苦痛,疲労,衰弱,乾き,様々なカテーテルの存在,および理学療法などの少数派の処置」であり,ICU鎮静のねらいは,「患者が,興奮することなく,快適であり,くつろいでいて,また静脈ライン(iv-line)またはほかのカテーテルの設置といったような不快感を与える処置に耐えることを保証すること」であり(段落【0002】),集中治療を受けている重篤患者の鎮静は,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の処置」をも含んでいること(段落【0003】),

(iii)α_(2)-アゴニストであるデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,「患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与するのに理想的な鎮静剤」であること(段落【0024】),

(iv)ICUにおける鎮静の性質は,独特なものであり,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩によって鎮静化された患者は,治療が容易にできるよう覚醒され,見当識が保たれており,患者は呼び覚まされ,質問に応答することができ,気づいているけれども,「不安そうではなく,気管チューブをよく許容している」こと(段落【0027】),

(v)実施例はデクスメデトミジンが,「鎮静化と患者の快適化の独自の性質を提供するので,ICUにおいて患者を鎮静化するための理想的な薬剤であることを示す」こと(段落【0035】),

(vi)「集中治療室」の用語は,「集中治療を提供するようないかなる環境をも包含する」こと(段落【0026】),の記載がある。
また,上記(vi)に関連し,一般に,「ICU」とは,「内科系・外科系を問わず,呼吸・循環・代謝・その他の全身管理を集中的に行うことにより,治療効果を期待し得る急性重症患者を収容する部門」を意味する(乙11a)。

以上(i)?(vi)を参酌すると,本件特許発明の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用語は,集中治療を受けている重篤患者の実際の鎮静に加えて,(呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われる)集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静を意味するものであり,この両方の鎮静が必要であるものと認められる。
そうすると,本件特許発明の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途は,集中治療を受けている重篤患者の実際の鎮静(以下,「実際の鎮静」という。)に加えて,集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静(以下,「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」ともいう。)も得るという用途,を意味するものであるといえる。

(3)「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」という用語の意義

本件特許明細書において開示された上記(1-4)の「デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩によって鎮静化された患者は,治療が容易にできるよう覚醒され,見当識が保たれており,患者は呼び覚まされ,質問に応答することができ,気づいているけれども,不安そうではなく,気管チューブをよく許容している」という事項,上記(1-5)の「彼らの患者が眠っていてしかし容易に覚醒することを好んでいる」という事項,そして,上記(1-6)の「穏やかで,容易に覚醒でき,よい見当識のある状態(well-oriented)を示し」及び「目覚め,見当識のある状態で,ひどい苦痛を経験したことを伝えることができ」という事項を参酌すると,本件特許発明の「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」という記載における「該患者が覚醒され」とは,眠っている患者が容易に目覚めさせられることであり,該患者の「見当識が保たれる」とは,患者が,治療をするための質問に協力的に応答できる状態であると解される。
そうすると,本件特許発明の「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」という用語は,該患者が容易に目覚めさせられ,質問に協力的に応答できる状態であるような使用,を意味するものであるといえる。

第6 無効理由1(甲4を主引用例とする新規性または進歩性の欠如)について

1 請求人が主張する無効理由1の要旨は,以下のとおりである。

(1)本件特許発明1と甲4に記載された発明との対比

甲4には,
a ヒト被験者の鎮静に使用する医薬品の製造における,
b デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,
c 患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。
の発明(以下,「甲4発明」とする。)が記載されている。
本件特許発明1と甲4発明とを対比すれば,以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
A ヒトの鎮静に使用する医薬品の製造における,
B デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,
C 該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。
(相違点)
本件特許発明1では「ヒト」が「集中治療を受けている重篤患者」であるのに対し,甲4発明では「被験者」である点

(2)本件特許発明1の新規性欠如(相違点は実質的な相違点ではない)

α_(2)-アゴニストであるデクスメデトミジンは脳幹の青斑核にあるα_(2)受容体に対する作用であり,このことは,甲4にも記載されている。
甲4においてα_(2)-アゴニストであるデクスメデトミジンをヒトに使用して鎮静作用が確認されている以上,ICUにおける患者に鎮静が必要な症状が生じれば,鎮静剤であるデクスメデトミジンを投与する。
これはデクスメデトミジンを通常の「鎮静」用途に用いただけのことであって,それ以外の用途に使用したものではない。
デクスメデトミジンを投与すべき患者が通常の病棟にいようが,精神病棟にいようが,ICUにいようが,さらにはどこの場所にいようが,鎮静に必要な患者に鎮静剤を処方するというだけのことであって,なにも事情は変わらない 。
したがって,上記相違点は実質的な相違点とはいえないから,本件特許発明1は甲4により新規性を欠如する。

(3)本件発明1の進歩性欠如(相違点は容易である)

仮に,上記相違点を実質的な相違点として理解するとしても,以下のとおり,甲4に記載されたヒトに対するデクスメデトミジンの鎮静作用を,集中治療を受けている重篤患者(相違点)に適用することは極めて容易である。
まず,甲4のタイトルに「α_(2)-アドレナリン受容体作動薬デクスメデトミジンの鎮静作用の評価」とあるとおり,甲4では,鎮静が必要な患者に対し,鎮静用途としてデクスメデトミジンを使用することを意図している。
そして,本件特許発明の課題は,教科書レベルの書物である「麻酔ハンドブック」(甲19)にさえ記載されている周知な課題であり,その解決手段として,「該患者が覚醒され,見当識が保たれる」という,甲4自体が確認しているデクスメデトミジンが奏する周知な作用が求められることも,教科書レベルの書物に記載された内容である。
また,総説論文である甲12には,デクスメデトミジンよりも先に実用化されていたα_(2)-アゴニストであるクロニジンが実際にICUでの鎮静に使用されていることが記載されており,実際にクロニジンは甲14あるいは甲15においてICUで使用されている。
さらに,甲12と同じく救命救急医療に関する総説論文である甲20では,「1.鎮静」の項目の下で,クロニジンが「ICU」における「単独の予防的治療薬として効果的に使用することができる」こと,あるいは,「長期間の人工呼吸器使用後の抜管期において,オピオイドとベンゾジアゼピンの減量は急激な薬物使用の中止を経験した患者において認められる症状に類似した興奮や幻覚といった離脱症状を生じさせることが多い」が,「クロジニンは,多くの患者においてこれらの症状の予防と治療に効果的であることが証明されている」ことなどが紹介されたうえで,「まとめると,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬は,今まで他の方法で適切に治療することができなかった多くの典型的な,集中治療が必要な状態において有効であることが示されている。この薬剤は交感神経の過活動が認められる重症患者において望ましい治療になる可能性が最も高い。」(甲20の翻訳文343頁3?6行)としている。
したがって,ICUないしは集中治療を受けている重篤患者に対するα2-アゴニストの使用はもはや周知といって良い状況であった 。
さらに,甲12にはICUでのクロニジンの使用と並んでデクスメデトミジンの使用が記載されており,その上,甲9では,実際に,ICUにいる患者にデクスメデトミジンが投与されている 。
以上からすれば,甲4に接した当業者において,甲12,甲20,甲9などの開示にしたがって,甲4に記載された鎮静を「集中治療を受けている重篤患者」の鎮静に使用することは容易である。また,本件特許発明の効果は,デクスメデトミジンが有する周知な鎮静効果に過ぎないのであるから,なんら特別なものとはいえない。
したがって,本件特許発明1は甲4及び甲12,甲20,甲9などによって進歩性を欠如する。

(4)本件特許発明2?12の進歩性欠如

・本件特許発明2の「本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤である」とは,患者の様態によって他の薬が必要ない状態であればデクスメデトミジンのみを処方する,という程度の意味に過ぎないところ,およそ医薬を「本質的に唯一の活性薬剤」として単独で使用しうることは,本件優先日前の周知技術ないし技術常識として当然のことであるから,「本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤である」に限定する使用方法は何ら特別なことではない設計事項に過ぎない。
また,甲4ではデクスメデトミジンに十分な鎮静作用があることが確認され,甲12では,「デクスメデトミジンは,ベンゾジアゼピンと同等の抗不安作用を有する」ことが記載され,甲7,甲10,甲13などではデクスメデトミジンのみが使用されている。
同様に,甲21では,デクスデトミジンよりも先に実用化されていたがα_(2)-アゴニストとしての効果が劣るクロニジンでさえ,大手術の術中/術後の「唯一の活性薬剤」として“話しかけられれば覚醒する”性質の鎮痛/鎮静を達成していたのであるから,さらに高活性なデクスメデトミジンを「本質的に唯一の活性薬剤」として用いることは自明である 。
したがって,本件特許発明2は甲4や上記した各証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明3の「1?2ng/mlプラズマ濃度」との数値範囲に関しては,例えば,甲10,甲7,甲8には,「デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,1?2ng/mlプラズマ濃度に達する量投与され」たことが記載されている。
したがって,本件発明3は,甲4,甲7,甲8,及び甲10などから進歩性を欠如する。

・本件特許発明4の「静脈注射で投与される」ことに関しては,甲7,甲10,甲9に記載されており,また,そもそも,「デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,静脈注射で投与される」ことは単なる設計的事項である。
したがって,本件発明4は,甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明5の「デクスメデトミジンの負荷投与量および維持量が投与される」ことは,例えば甲7,甲8からみて,単なる設計的事項である
したがって,本件特許発明5は甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明6の「負荷投与量および維持量がヒトに投与される」ことは,本件特許発明5と同様であって,例えば甲7の「男性(20-46歳,体重67-85kg」,甲9の「高い冠動脈疾患リスクを有する外科患者」,甲10の「下垂体微小腺腫に対する経蝶形骨洞切除術を受けた8人の女性患者」についての記載からみて,単なる設計的事項である。
したがって,本件特許発明6は甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明7の「デクスメデトミジンの負荷投与量が0.2?2μg/kgである」ことは,例えば甲7の「10分間が100ng/kg/min」との記載,甲8の「負荷輸液注入時120ng/kg/minを10分間」との記載からみて単なる設計的事項である。
したがって,本件特許発明7は甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明8の「負荷投与量が約10分で投与される」ことは,本件特許発明7のとおり,単なる設計的事項である。
したがって,本件特許発明8は甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明9の「デクスメデトミジンの負荷投与量が1μg/kgである」ことは,例えば甲7の「10分間が100ng/kg/min」との記載(1μg/kgを負荷投与したことを意味している。),及び,甲8の「負荷輸液注入時120ng/kg/minを10分間」との記載(1μg/kgとほぼ同じ量の1.2μg/kgを負荷投与したことを意味している。)からみて,単なる設計的事項である。
したがって,本件特許発明9は甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明10の「デクスメデトミジンの維持量が0.1?2.0μg/kg/hである」ことは,例えば甲7の「その後15分間は30ng/kg/min,それ以降は6ng/kg/minとした。」との記載は単位変換すると夫々1.8μg/kg/h,0.36μg/kg/hの維持投与量となり,甲8の「麻酔維持のため6ng/kg/min」との記載は単位変換すると0.36μg/kg/hの維持投与量となることからみて,単なる設計的事項である。
したがって,本件特許発明10は甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明11の「デクスメデトミジンの維持量が0.2?0.7μg/kg/hである」ことは,本件特許発明10で述べた通り,単なる設計的事項である。
したがって,本件特許発明11は甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

・本件特許発明12の「デクスメデトミジンの維持量が0.4?0.7μg/kg/hである」ことは,本件特許発明10で述べた通り,単なる設計的事項である。
したがって,本件特許発明12は甲4及びこれらの証拠によって進歩性を欠如する。

(5)以上のとおり,本件特許発明1は新規性を欠如するか,少なくとも,本件特許発明1?12はすべて進歩性を欠如する。
したがって,本件特許発明1?12は,特許法第29条第1項第3号または第2項に違反し,同法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とすべきものである。

2 当合議体の判断
当合議体は,本件特許発明1?12の特許を,請求人が主張する無効理由1(甲4を主引用例とする新規性または進歩性の欠如)によって無効にすることはできない,と判断する。その理由は以下のとおりである。

(1)甲4に記載された発明

甲4は,ヒト被験者を対象に,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬であるデクスメデトミジン単回静脈内投与の鎮静作用を,主観的及び客観的に評価した研究に関する学術論文であり(甲4a?甲4g),該研究は,デクスメデトミジンを医薬品の製造において使用することを前提とするものである。
甲4には,ヒト被験者として6名の健康被験者を対象として(甲4d),覚醒に対する影響を,視覚的アナログスケール(VAS。Maxwell 1978),点滅ライト融合周波数(CFF。Smith Misiak 1976),マドックス・ウィング(Maddox wing)(Hannington-Kiff 1970)及び衝動性眼球運動(Griffths et al. 1984)により評価したところ,デクスメデトミジンによる用量依存的な鎮静作用が,主観的及び客観的の両方の評価により認められたことが記載されている(甲4c?甲4g)。
そして,上記健康被験者の6名中4名は,最高用量のデクスメデトミジン注射後5分から1時間後までに数回入眠したが,全員が容易に覚醒し,試験は途切れず行うことができたのであるから(甲4f),上記4名の健康被験者は,デクスメデトミジン注射後5分から1時間後までの間,容易に目覚めさせられ,質問に協力的に応答できる状態,すなわち「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)であったといえる。
そうすると,甲4には,
「ヒト被験者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンの使用であって,該ヒト被験者が覚醒され,見当識が保たれる使用。」の発明(以下,「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件特許発明1と甲4発明との対比

本件特許発明1の「集中治療を受けている重篤患者」は「ヒト」であるので(段落【0031】?【0066】を参照),本件特許発明1と甲4発明とを対比すると,両発明は,
「ヒトの鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンの使用であって,該ヒトが覚醒され,見当識が保たれる使用。」の発明である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]
本件特許発明1の「ヒト」は「集中治療を受けている重篤患者」であり,本件特許発明1の医薬品の用途は「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」であるのに対し,甲4発明の「ヒト」は「ヒト被験者」であり,甲4発明の医薬品の用途は「ヒト被験者の鎮静」である点。

(3)本件特許発明1の新規性欠如について

本件特許発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途は,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与することにより,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」も得るという用途である(上記「第5(3)」)。
これに対し,甲4では「ヒト被験者」として実際には「健康被験者」を対象としており(甲4d),甲4には「ヒト被験者」として「集中治療を受けている重篤患者」を対象とすることについては記載も示唆もされていない。
そして,甲4の「健康被験者」は「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」(上記「第5(3)」)を必要としていないと解するのが自然であり,甲4の「健康被験者」と本件特許発明1の「集中治療を受けている重篤患者」とでは,デクスメデトミジンを投与する前の「ヒト被験者」の臨床状態が大きく異なると解されることを考慮すると,甲4に接した当業者が,甲4発明の「ヒト被験者」は「健康被験者」だけでなく「集中治療を受けている重篤患者」も対象とする,と認識するとはいえない。
このように,甲4には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与すること,及び,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静を得ることのいずれについても,記載も示唆もされていないのであるから,甲4発明の「ヒト被験者の鎮静」という用途は,本件特許発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途と同一であるとはいえず,上記[相違点]は実質的な相違点である。
よって,本件特許発明1には,甲4により新規性を欠如するという無効理由はない。

(4)本件特許発明1の容易想到性について([相違点]の判断)

上記(3)で説示した[相違点]の判断に先立ち,請求人が進歩性欠如の主な根拠としている甲19,甲12,甲20,甲9に記載の事項について,検討する。

(4-1)甲19に記載の事項について

甲19(「麻酔ハンドブック」)は,本件特許の最先優先日(1998年4月1日,以下「本件優先日」ともいう。)当時の教科書レベルの書籍であり,intensive care unit(ICU,集中治療部)で治療中の患者(以下,「ICU患者」ともいう。)の精神管理について,以下の事項が記載されている。

(4-1-1)ICU患者に,不眠・不安・抑うつ状態・興奮状態・幻覚妄想状態・譫妄(せん妄)状態などの精神状態がよく見られる(甲19aの[2])。

(4-1-2)ICUなどで重症患者の治療中に見られる,ICUの環境に不適応なために生じた精神的な反応はICU症候群と名付けられたが,最近では譫妄(せん妄)状態を中心とした精神症状を広くICU症候群と呼ぶことが多くなった。ICU症候群に対し,薬剤による治療としては,状態像別(不眠,不安,譫妄(せん妄),幻覚妄想,鎮痛,抑うつ,鎮静カクテル)に各種の薬剤を選択して投与する治療が行われている(甲19aの[4],甲19bの表12-15)。

(4-1-3)ICUでの鎮静とは,眠り続けるような深い鎮静ではなく,軽く呼びかければ応答し,体位変換や処置には協力が得られ,気管内吸引をすれば咳反射を起こし,家族の面会があれば笑顔で応じられるが,刺激をしなければ軽く目を閉じ周囲の騒がしさには無関心でいられる状態を目標としている(甲19c)。

上記(4-1-1)及び(4-1-2)の「譫妄(せん妄)」とは,「急性可逆性精神障害で,錯乱と何らかの意識障害によって特徴づけられる。一般に,情動易変性,幻覚または錯覚を伴い,また不適切で,衝動的,非合理的,暴力的行動を伴う。」と定義される状態であること(甲23c)を考慮すると,甲19に記載の,ICU患者によく見られる「不眠・不安・抑うつ状態・興奮状態・幻覚妄想状態・譫妄(せん妄)状態などの精神状態」(上記(4-1-1)),及びICU症候群と称される「譫妄(せん妄)状態を中心とした精神症状」(上記(4-1-2))は,いずれも「患者の安心感に影響を及ぼす状態」(上記「第5(2)」)に該当する。
また,ICUでの鎮静が目標とする「眠り続けるような深い鎮静ではなく,軽く呼びかければ応答し,体位変換や処置には協力が得られ,気管内吸引をすれば咳反射を起こし,家族の面会があれば笑顔で応じられるが,刺激をしなければ軽く目を閉じ周囲の騒がしさには無関心でいられる状態」(上記(4-1-3))は,ICU患者が容易に目覚めさせられ,質問に協力的に応答できる状態,すなわち該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)に該当するといえる。
そして,甲19には,ICU症候群の患者に対して,不眠,不安,譫妄(せん妄),幻覚妄想等の状態像別に,ジアゼパム,ハロペリドール,クロルプロマジン等の各種の薬剤を使用して治療することが記載されているが,α_(2)-アゴニスト作動薬を使用して治療することは記載も示唆もされていない。
以上のように,甲19には,ICU患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」が必要であり,このような鎮静は,ICU患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になることを目標とすることが記載されているが,ICU患者に対して上記の鎮静を得るためにα_(2)-アゴニスト作動薬(α_(2)-アゴニスト)を使用することは,記載も示唆もされていない。

(4-2)甲12に記載の事項について

甲12は,集中治療におけるストレス,焦燥,及び脳障害に関する総説論文である(甲12a)。
そして,,甲12には,集中治療室(ICU)で治療中の患者(以下,「ICU患者」ともいう。)に見られる焦燥(甲12b)の発症や,せん妄(甲12c)の悪化に寄与する因子として疼痛,不安及び不快があることが記載されており(甲12d),これらの因子を効果的に管理するための各種薬剤の一つであるα-2アゴニストについて,以下の事項が記載されている(甲12e)。

(4-2-1)α-2アドレナリン作動性のアゴニストは,実際に循環ノルエピネフリン濃度を減少させるとともに,尿中のカテコールアミン代謝産物を減少させることからもわかるとおり,交感神経副腎系の分泌を強力に阻害する。

(4-2-2)α-2アゴニストは,この10年間,手術用麻酔の補助剤として使用され,この種の薬剤は,かなり前から降圧剤としての地位が確立され,さらに抗不安薬,鎮静薬,鎮痛剤,及び制吐剤の特性を有することも見出されており,これらの特性によって,これらの薬剤は,カテコールアミンの急上昇に伴い生じる焦燥とせん妄の魅力的な治療薬となる。

(4-2-3)α-2アゴニストであるクロニジンは,重度の焦燥の交感神経作用を遮断すると報告されている中枢作用性の高血圧治療薬であり,集中治療患者の重篤な焦燥症状において,鎮痛剤や鎮静薬の補助剤として静脈投与クロニジンを注意深く調節して用いることは,新しい臨床研究領域である。

(4-2-4)今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニストは,重篤な焦燥及びせん妄の治療における実用可能性を有している。高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは,麻酔要求性を低減し,麻酔からの回復を促進する作用を有し,忍容性が良好であり,重大な関連副作用がない。さらに,デクスメデトミジンは,ベンゾジアゼピンと同等の抗不安作用を有する一方で,血行動態に対する悪影響がはるかに少ないことが示されている。

上記のように,甲12には,α-2アドレナリン作動性のアゴニスト(α-2アゴニスト)が,交感神経副腎系の分泌を強力に阻害する作用を有すること(上記(4-2-1)),α-2アゴニストは,降圧剤としてだけでなく,さらに抗不安薬,鎮静薬,鎮痛剤,及び制吐剤の特性も有することを考慮して,α-2アゴニストが,カテコールアミンの急上昇に伴って生じる焦燥とせん妄の魅力的な治療薬となることが示唆されている(上記(4-2-2))。
さらに,甲12には,ICU患者の重篤な焦燥症状に対して,中枢作用性の高血圧治療薬でありα-2アゴニストであるクロニジンの静脈投与を,鎮痛剤や鎮静薬の補助剤として注意深く調節して用いることは,「新しい臨床研究領域」であることが記載されている(上記(4-2-3))。
ここで,「焦燥」は「不安が精神運動領域に表れ,過剰活動性と心の動揺を示す緊張状態,うつ病,精神分裂病,躁病にみられる。」と定義され(甲23a),「せん妄」は「急性可逆性精神障害で,錯乱と何らかの意識障害によって特徴づけられる。一般に,情動易変性,幻覚または錯覚を伴い,また不適切で,衝動的,非合理的,暴力的行動を伴う。」(甲23c)と定義されることを考慮すると,ICU患者に見られる焦燥やせん妄は,いずれも「患者の安心感に影響を及ぼす状態」(上記「第5(2)」)に該当する。
そうすると,甲12には,ICU患者に対し,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静を得るため,すなわち「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に,α-2アゴニストであるクロニジンを実際に使用することが記載されているといえる。
しかし,このようなクロニジンの使用は「新しい臨床研究領域」の段階にすぎず,甲12には,クロニジンの静脈投与により,ICU患者の重篤な焦燥症状が具体的にどの程度改善されたのか,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になったのかについては記載されておらず,不明である。
また,甲12では,高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは「今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニスト」として記載されているのであるから(上記(4-2-4)),甲12が頒布された1992年当時,ICU患者に見られる焦燥の発症やせん妄を治療する薬剤としてデクスメデトミジンを使用することは,あくまでも希望的観測の域を出ておらず,上記「新しい臨床研究領域」の段階にすら至っていなかったと解すべきである。
そうすると,当業者は,デクスメデトミジン投与によって,ICU患者の焦燥やせん妄がどの程度改善されるのか,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になるのかについて,甲12の記載に基づいて推認できるとはいえず,甲12には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に有効に使用でき,そして,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることについて示唆されているとはいえない。

(4-3)甲20に記載の事項について

甲20は,クリティカル・ケア薬物療法すなわち救命救急現場での薬物療法に関する総説論文であり(甲20a),α_(2)-アドレナリン受容体作動薬(α_(2)-アゴニスト)による「鎮静」について,以下の事項が記載されている。

(4-3-1)長期間,人工呼吸器を付けて集中治療を受けている患者に対し,十分な鎮静と疼痛軽減の十分な制御がしばしば問題となる(甲20b)。

(4-3-2)一般的に,長期間,人工呼吸器を付けて集中治療を受けている患者のカテコールアミン量の増加は,不十分な鎮静のサインであるとして考慮されるべきであると長い間信じられている(甲20c)。

(4-3-3)非常に多数の外科ICUの患者がアルコールまたは薬物の乱用者である。アルコールまたは薬物の離脱症状は,部分的に交感神経の亢進に起因し,しばしば,アドレナリン及びノルアドレナリンの血漿レベルの劇的な増加を伴う(甲20c)。

(4-3-4)クロニジンのようなα_(2)-アドレナリン受容体アゴニストは,中枢の抑制性のα_(2)受容体を活性化することにより,カテコールアミンの放出を抑制する(甲20cの図1)。

(4-3-5)ICU患者のアルコール離脱症状と薬物離脱症状の予防と治療におけるクロニジンの効果は,近年,欧州のいくつかの研究で検討されてきた(甲20c)。

(4-3-6)ICU現場で食道がんが原因で行われた胃食道吻合後に人工呼吸器を取り付けられた40名のアルコール依存性患者を対象にした研究結果などによると,クロニジンはアルコール依存症が確認されているICU外科患者における離脱症状防止のための標準治療となった(甲20d)

(4-3-7)クロニジンはアルコール離脱症状の予防だけでなく,ICU患者のせん妄の治療にも効果がある。現時点で,クロニジン(に加えてベンゾジアゼピンもしくは神経弛緩薬またはその両方)を使用して,40名を超える,アルコール離脱症状を有し,長期間人工呼吸器を装着された多発性外傷患者の治療に成功している(甲20e)。

(4-3-8)長期間の人工呼吸器使用後の抜管期において,オピオイドとベンゾジアゼピンの減量は,興奮や幻覚といった離脱症状を生じさせることが多く,クロニジンはこれらの症状と予防と治療に効果的であることが証明されている(甲20f)。

(4-3-9)まとめると,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬は,今まで他の方法で適切に治療することができなかった多くの典型的な,集中治療が必要な状態において有効であることが示されている。この薬剤は,交感神経の過活動が認められる重症患者において望ましい治療になる可能性が最も高い(甲20g)。

上記(4-3-1)及び(4-3-2)のように,長期間人工呼吸器を付けているICU患者には,不十分な鎮静のサインが見られることがある。そして,上記(4-3-3),(4-3-5)及び(4-3-7)の「アルコール離脱症状」は,ICUで見られる不眠・不安・抑うつ状態・興奮状態・幻覚妄想状態・譫妄(せん妄)状態などの精神状態の原因の一つとされている症状である(甲19aの[3])。
また,オピオイドやベンゾジアゼピンの減量は,興奮や幻覚といった薬物離脱症状を生じさせることが多く(上記(4-3-8)),上記(4-3-7)の「せん妄」は「急性可逆性精神障害で,錯乱と何らかの意識障害によって特徴づけられる。一般に,情動易変性,幻覚または錯覚を伴い,また不適切で,衝動的,非合理的,暴力的行動を伴う。」(甲23c)のように定義されている。
上記のような症状及びその定義からみて,甲20に記載の,ICU患者が長期間人工呼吸器を付けている状態,ICU患者のアルコール離脱症状,ICU患者の薬物離脱症状,及びICU患者のせん妄は,いずれも「患者の安心感に影響を及ぼす状態」(上記「第5(2)」)に該当するといえる。
そして,上記(4-3-6)?(4-3-8)からみて,甲20には,α_(2)-アゴニストであるクロニジンをICU患者に投与することにより,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」が得られたこと,すなわち,クロニジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に有効に使用できることが記載されているといえる。
しかし,甲20には,クロニジンを投与したICU患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になったのか否かについては記載されておらず,不明である。
さらに,甲20には,「まとめると,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬は,今まで他の方法で適切に治療することができなかった多くの典型的な,集中治療が必要な状態において有効であることが示されている。」(上記(4-3-9))と記載されているが,甲20には,集中治療が必要な状態において実際に有効であったことが示されたα_(2)-アドレナリン受容体作動薬(α_(2)-アゴニスト)としてクロニジン唯1つだけが記載されており,クロニジン以外のα_(2)-アゴニストが集中治療が必要な状態において実際に有効であったことについて当業者が確認できるような記載はない。
そうすると,甲20の記載に接した当業者は,クロニジン以外のα_(2)-アゴニストをICU患者に投与した場合,中枢の抑制性のα_(2)受容体を活性化してカテコールアミンの放出を抑制する作用(上記(4-3-4))に基づく鎮静が得られる可能性があることについては認識できるといえるが,クロニジンと同様に「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」が得られることまで認識できるとはいえない。
また,そもそも甲20には,α_(2)-アゴニストとして具体的にデクスメデトミジンを使用すること自体が記載も示唆もされていないことも考慮すると,α_(2)-アゴニストであるデクスメデトミジンをICU患者に投与することによって,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」(上記「第5(2)」)が得られ,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることを,当業者が甲20の記載に基づいて推認できるとはいえない。

(4-4)甲9に記載の事項

甲9は,高い冠動脈疾患リスクを有する外科患者の手術前後における,デクスメデトミジン投与の血行動態に対する効果を予備的に評価することを目的とする研究に関する学術論文である(甲9a,甲9b)。
甲9に記載されている研究の被験患者である24名の血管外科手術の患者のうち,大動脈手術を受けた9名の患者(甲9eの表1の下から3行目に記載の,プラセボ投与3名,低用量投与3名,中用量投与1名及び高用量投与2名)は,一般に「大動脈手術」には開胸手術や開腹手術といった侵襲性の高い手術が含まれることに照らすと,術後の集中治療を要する患者であった可能性が高く,「集中治療を受けている重篤患者」に該当するものと認められる。
そうすると,甲9には,「集中治療を受けている重篤患者」に対し,手術前後にデクスメデトミジンを投与して得られた鎮痛と鎮静についての記載があるといえる(甲9c?甲9h)。
そして,デクスメデトミジンを麻酔開始前に投与した際には,全ての患者が眠りについたが容易に覚醒可能であったが(甲9f,甲9g),手術後2日目には試験薬に起因する臨床的に観察可能な鎮静は認められず(甲9f),また,デクスメデトミジン持続投与は,麻酔開始前に鎮静作用を有していたが,手術の翌日には鎮静は観察されなかった(甲9g)という結果からみて,大動脈手術を受けた後の時期には,デクスメデトミジン投与に起因する観察可能な鎮静が見られなかったのでであるから,デクスメデトミジン投与によって「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」(上記「第5(2)」)が得られたとはいえない。また,デクスメデトミジンを投与した「集中治療を受けている重篤患者」が,「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になったのか否かは不明である。

(4-5)[相違点]の判断

(4-5-1)上記(3)で説示したように,そもそも,甲4には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与することについては記載も示唆もされていない。

(4-5-2)上記(4-1)で説示したように,本件優先日当時の教科書レベルの書籍である甲19には,ICU患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」が必要であり,このような鎮静は,ICU患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になることを目標とすることが記載されているが,このような鎮静を得るためにα_(2)-アゴニストを使用することは記載も示唆もされていないのであるから,ICU患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」を得るためにα_(2)-アゴニストを使用することが,本件優先日当時の技術常識であったとはいえない。

(4-5-3)上記(4-2)で説示したように,甲12には,α-2アゴニストが,カテコールアミンの急上昇に伴って生じる焦燥とせん妄の魅力的な治療薬となることが示唆されており,α-2アゴニストであるクロニジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に使用することが記載されているが,クロニジンを投与したICU患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になったのかについては記載されておらず,不明である。
そして,甲12において,高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは「今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニスト」として記載されており,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に使用でき,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることが示唆されているとはいえない。

(4-5-4)上記(4-3)で説示したように,甲20には,クロニジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に有効に使用できることが記載されているが,クロニジンを投与したICU患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になったのか否かについて記載されておらず,不明である。そして,甲20には,クロニジン以外のα_(2)-アゴニストについて,集中治療が必要な状態において実際に有効であることが記載されているとはいえず,また,そもそも甲20には,α_(2)-アゴニストとして具体的にデクスメデトミジンを使用すること自体が記載も示唆もされていない。
なお,クロニジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与することは甲14及び甲15にも記載されているが,甲14及び甲15には,クロニジン以外のα2-アゴニストを投与することは記載されておらず,α2-アゴニストとして具体的にデクスメデトミジンを使用すること自体が記載も示唆もされていない。(甲14に記載されている事項の詳細は「第7 2(1)」,甲15に記載されている事項の詳細は「第8 2(1)」を参照のこと)。

(4-5-5)上記(4-4)で説示したように,甲9には,「集中治療を受けている重篤患者」に対し,手術前後にデクスメデトミジンを投与して得られた鎮痛と鎮静についての記載があるが,デクスメデトミジン投与によって「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」(上記「第5(2)」)が得られたこと,デクスメデトミジンを投与した「集中治療を受けている重篤患者」が,「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることは記載されていない。

(4-5-6)以上(4-5-1)?(4-5-5)を踏まえると,本件特許発明1の容易想到性([相違点])について,以下のように判断される。

甲4では,デクスメデトミジンを「健康被験者」に投与しており,甲4には「集中治療を受けている重篤患者」に投与することは記載も示唆もされていない。そして,甲19,甲12,甲20,甲9,甲14,甲15及びその他の書証を参酌しても,「集中治療を受けている重篤患者」に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」を得るためにα_(2)-アゴニストを使用することが本件優先日当時の技術常識であったとはいえず,クロニジン以外のα_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に有効に使用できることを,本件優先日当時の当業者が認識していたとはいえないのであるから,甲4発明の「ヒト」として「集中治療を受けている重篤患者」を対象とすることによって本件特許発明1を得ることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(5)本件特許発明2?12の容易想到性について

本件特許発明2?12と甲4発明とは,いずれも上記(2)で説示した相違点を含む点で相違するのであるから,上記(4)で説示した理由により,本件特許発明2?12を得ることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(6)本件特許発明による効果について

本件特許明細書には,ICUで集中治療にたずさわっている医師は,彼らの患者が眠っていてしかし容易に覚醒することを好むことが記載され(段落【0006】),デクスメデトミジンによって鎮静化された患者は,患者の治療が容易にできるよう覚醒され,見当識が保たれ,質問に応答することができ,気づいているけれども,不安そうではなく,気管チューブをよく許容していることが記載されている(段落【0027)。
さらに,本件特許明細書には,例えば,実施例の「10.」の58歳の女性患者は,穏やかで,容易に覚醒でき,よい見当識のある状態(well-oriented)を示し(段落【0059】),「13.」の51歳の男性患者は,容易に目覚めさせられ,看護職員に彼の要求を伝えることができたこと(段落【0062】),実施例の「7.」の60歳の男性アルコール中毒者は,目覚め,見当識のある状態で,ひどい苦痛を経験したことを伝えることができたこと(段落【0055】),実施例の「15.」の58歳の男性患者は,見当識が保たれており,協力的であったこと(段落【0064】)が記載されている。
このように,本件特許明細書には,本件特許発明によって,デクスメデトミジンを「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静も得るという,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に使用でき,そして,該患者は「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」になるという効果が得られたことが記載されている。
そして,甲4,甲19,甲12,甲20,甲9,甲14,甲15,及びその他の書証の記載,さらに優先日当時の技術常識を参酌しても,本件特許発明による上記の効果は,当業者が予測し得た程度のものであるとはいえない。

(7)請求人の主張について

請求人は,(i)デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することは,デクスメデトミジンを通常の「鎮静」用途に用いただけのことである,及び(ii)本件特許発明の効果は,デクスメデトミジンが有する周知な鎮静効果に過ぎないのであるから,なんら特別なものとはいえない,という主張をしている。
上記(i)について,上記「第5(2)」で説示したように,本件特許発明の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途は,「実際の鎮静」に加えて,「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静も得るという用途であるから,「通常の鎮静」用途と同一ではない。
上記(ii)について,上記(6)で説示したように,本件特許発明の効果は,デクスメデトミジンを「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静も得るという,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に使用でき,そして,該患者は「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」になるという効果である。
これに対し,上記(4)で説示したように,各書証に記載された事項及び技術常識を参酌しても,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与した場合,中枢の抑制性のα_(2)受容体を活性化してカテコールアミンの放出を抑制する作用による鎮静が得られる可能性はあるといえるが(上記(4)の(4-3)),「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」(上記「第5(2)」)としての鎮静が得られ,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」になることを当業者が認識できるとはいえない。
よって,請求人による上記(i)及び(ii)の主張はいずれも認められない。

(8)小括

以上検討したように,本件特許発明1?12の特許を,請求人が主張する無効理由1(甲4を主引用例とする新規性または進歩性の欠如)によって無効にすることはできない。

第7 無効理由2(甲14を主引用例とする進歩性の欠如)について

1 請求人が主張する無効理由2の要旨は,以下のとおりである。

(1)本件特許発明1と甲14発明との対比・判断

甲14には,
「a 集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,
b α_(2)-アゴニストであるクロニジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,
c 該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。」の発明(以下,「甲14発明」とする。)が記載されている。
本件特許発明1と甲14発明とを対比すれば,以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
A 集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,
B α_(2)-アゴニストまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,
C 該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。

(相違点)
本件特許発明1では使用されるα_(2)-アゴニストがデクスメデトミジンであるのに対し,甲14ではクロニジンである点
なお,甲14ではICUにおけるアルコール離脱について述べているが,教科書的な書物である甲19には,ICUでの「3 精神症状をきたす原因」の一つに,「アルコール離脱症候群」と記載し,また,総説論文である甲20や甲15にも記載されているとおり,ICU治療において鎮静が求められる典型的な態様の一つとしてアルコール離脱があることは周知な事項である 。

(相違点は容易である。)
甲4にはα_(2)-アゴニストであるデクスメデトミジンの鎮静効果が記載されているうえに,「受容体結合試験におけるメデトミジンのα_(2)/α_(1)選択性比率は,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬のプロトタイプであるクロニジンに比べて顕著に高く(ラット脳皮質膜において1620対220,Virtanen et al. 1988),α_(2)-作動薬としては後者に比べ高い作用を示した」として,メデトミジンにクロニジンよりも高い効果があることが記載されている。そして,デクスメデトミジンは,α_(2)アゴニスト活性を有する右旋性異性体(d-異性体)と不活性な左旋性異性体の等量混合物であるメデトミジンからα_(2)-アゴニスト活性を有する右旋性異性体のみを取り出したものであるから(甲22,甲4),メデトミジンよりもさらに高いα_(2)-アゴニスト活性を有することは,自明のことである。
また,そもそも,デクスメデトミジンはα_(2)-アゴニストとして,クロニジンよりもより選択的であり,また,クロニジンがα_(2)受容体を部分的にしか活性化しないのに対し,デクスメデトミジンはα_(2)受容体を100%活性化することから,クロニジンに比較し強力なα_(2)-受容体固有の薬理作用を発揮するものであり(フルアゴニスト),また,副作用も少ない 。これらのことは,よく知られた事項であった。
そして,総説論文である甲12において,甲14に記載されたクロニジンによるICUでの治療と並んでデクスメデトミジンの使用を述べており,また,同じく総説論文である甲13において,デクスメデトミジンがクロニジンよりも効果が高く,術後の鎮静に使用できることが開示されている。
以上からすれば,甲14の記載に接した当業者が,甲4,甲12,甲13に基づいて,ICU治療に用いるα_(2)-アゴニストとしてクロニジンに代えて,よりα_(2)-アゴニストとして強力な鎮静作用と少ない副作用を有するデクスメデトミジンを使用することは極めて容易である。一方,これを阻害する理由はどこにもないし,本件発明が奏する効果はデクスメデトミジンによる鎮静効果であるから,なんら顕著なものとも言えない。
したがって,本件特許発明1は進歩性を欠如する。

(2)本件特許発明2?12について

本件特許発明2?12については前述のとおりであるから,これを引用する(本件無効審判請求書の30頁7行?35頁16行)。したがって,本件特許発明2?12は,甲14に甲4,甲12,甲13,あるいは周知技術を適用することで当業者が容易に想到できたものである。

(3)以上のとおり,本件特許発明1?12は,特許法第29条第2項に違反し,同法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とすべきものである。

2 当合議体の判断

当合議体は,本件特許発明1?12の特許を,無効理由2(甲14を主引用例とする進歩性の欠如)によって無効にすることはできない,と判断する。その理由は以下のとおりである。

(1)甲14に記載された発明

甲14は,集中治療室(ICU)でのアルコール離脱治療におけるクロニジンの使用に関する学術論文であり(甲14a),クロニジンを医薬品の製造において使用することを前提とするものである。そして,甲14には以下の事項が記載されている。

(1-1)アルコール離脱は,重症患者に見られる生理学的障害を併発しているときには治療が困難になる。離脱症状を緩和するために投与される薬剤は,理想的には患者と主治医や看護者間のコミュニケーションを損なうことなく,安全かつ有効でなければならない(甲14b)。

(1-2)交感神経過活動は,アルコール離脱状態の不変の特徴であり,α2作動薬であるクロニジンは血漿カテコールアミン濃度を低下させることが確認されている。また,クロニジンを投与した試験により,クロニジンによる,アルコール離脱の自律神経および精神的症状を緩和させる有効性が示された(甲14b)。

(1-3)道路交通事故後の多発損傷でICUに収容され緊急開腹術を受けた49歳の男性患者(患者1)は,術後に,明らかな幻視を伴って興奮し,発汗,頻脈,高血圧などの交感神経過活動の徴候を伴っていた。患者1は以前のアルコール摂取が過剰であったことがわかり,クロニジンを注入したところ,3時間で,患者1の臨床状態には著しい改善が見られた。患者1は命令に反応し,もう興奮しておらず,看護するのがはるかに容易になった(甲14c)。

(1-4)開腹手術後に傷口が開いたためにICUに収容された68歳の男性患者(患者2)は,最初の鎮静を中止して気管から抜管した(最初の手術から48時間後)が,その後,患者2は明らかな幻視を伴って興奮し,不安になり,見当識障害を起こし混乱した。患者2には安静時振戦があり,発汗しており,しつこく血管カニューレと持続的陽圧呼吸マスクを取り外そうとした。患者2には長期にわたるアルコール乱用歴があった。クロニジン注入を開始したところ,2時間以内に精神状態が改善した(甲14d)。

(1-5)クロニジンは,ICUでの治療を必要としている患者の管理を複雑にする急性アルコール離脱症状の管理に,安全に有効に使用することができると思われる。クロニジンは忍容性良好で,主な副作用である低血圧は軽度であり,特に細心のICUモニタリングで容易に乗り越えることができるという一般的な合意がある。最適なレジメンを明確にして有効性を最大にし,副作用を最小にするためには,前向きな臨床試験が必要である(甲14e)。

上記(1-1)?(1-5)からみて,甲14の患者1及び患者2は,いずれも「集中治療を受けている重篤患者」に該当し,そのアルコール乱用歴からみて,開腹手術後にアルコール離脱を発症した患者である。そして,α2作動薬(α2-アゴニスト)であるクロニジン注入後に,患者1及び患者2の臨床状態が改善したのであるから,甲14には,集中治療室(ICU)でのアルコール離脱の治療におけるクロニジンの使用が有効であったことが,実際の臨床事例による裏付けと共に記載されている。
そうすると,甲14には,「集中治療を受けている重篤患者のアルコール離脱の治療に使用する医薬品の製造における,α_(2)-アゴニストであるクロニジンの使用であって,該患者の臨床状態が改善する使用。」の発明(以下,「甲14発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件特許発明1と甲14発明との対比

(2-1)集中治療室(ICU)でアルコール離脱を発症した患者1の「術後に,明らかな幻視を伴って興奮し,発汗,頻脈,高血圧などの交感神経過活動の徴候を伴っていた」(上記(1-3))という臨床状態,同じくアルコール離脱を発症した患者2の「明らかな幻視を伴って興奮し,不安になり,見当識障害を起こし混乱した」及び「安静時振戦があり,発汗しており,しつこく血管カニューレと持続的陽圧呼吸マスクを取り外そうとした」という臨床状態(上記(1-4))は,いずれも,「患者の安心感に影響を及ぼす状態」(上記「第5(2)」)に該当する。

(2-2)患者1及び患者2に対し,クロニジン注入によって「患者の安心感に影響を及ぼす状態」が改善されて,患者1は「命令に反応し,もう興奮しておらず,看護するのがはるかに容易になった」こと(甲14c),患者2は「精神状態が改善した」こと(甲14d)を考慮すると,甲14には,集中治療室(ICU)でアルコール離脱を発症した患者に対し,クロニジン注入によって,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」も得られたことが記載されているといえる。
そうすると,甲14発明の「集中治療を受けている重篤患者のアルコール離脱の治療」という用途は,本件特許発明の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に該当する。

(2-4)しかし,甲14には,患者1が命令に対して具体的にどのように反応したのかについては記載されていないのであるから,患者1が容易に目覚めさせられ,質問に協力的に応答できていたのかは不明である。また,患者2の精神状態が具体的にどのように改善したのかについては記載されていないのであるから,患者2が容易に目覚めさせられ,質問に協力的に応答できていたのかは不明である。
そうすると,甲14の患者1及び患者2が,クロニジン注入によって「覚醒され,見当識が保たれ」状態 (上記「第5(3)」)になったのか否かは不明である。

上記(2-1)?(2-4),及び,クロニジンとデクスメデトミジンはいずれもα_(2)-アゴニストであることからみて,本件特許発明1と甲14発明とは,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,α_(2)-アゴニストの使用であって,該患者の臨床状態が改善する使用。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]
本件特許発明1では「α_(2)-アゴニスト」としてデクスメデトミジンを使用し,「該患者の臨床状態が改善する使用」は「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」であるのに対し,甲14発明では「α_(2)-アゴニスト」としてクロニジンを使用し,「該患者の臨床状態が改善する使用」が「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」であるか否かは不明である点。

(3)本件特許発明1の容易想到性([相違点]の判断)

上記(2)の[相違点]の判断に先立ち,請求人が進歩性欠如の主な根拠としている甲4,甲12,甲13に記載の事項について検討する。

(3-1)甲4に記載の事項

甲4は,ヒト被験者を対象に,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬(α_(2)-アゴニスト)であるデクスメデトミジン単回静脈内投与の鎮静作用を,主観的及び客観的に評価した研究に関する学術論文であり(甲4a?甲4g),該研究は,デクスメデトミジンを医薬品の製造において使用することを前提とするものである。そして,甲4には以下の事項が記載されている。

(3-1-1)ヒト被験者として6名の健康被験者を対象として(甲4d),覚醒に対する影響を,視覚的アナログスケール(VAS。Maxwell 1978),点滅ライト融合周波数(CFF。Smith Misiak 1976),マドックス・ウィング(Maddox wing)(Hannington-Kiff 1970)及び衝動性眼球運動(Griffths et al. 1984)により評価したところ,デクスメデトミジンによる用量依存的な鎮静作用が,主観的及び客観的の両方の評価により認められた(甲4c?甲4g)。

(3-1-2)上記健康被験者の6名中4名は,最高用量のデクスメデトミジン注射後5分から1時間後までに数回入眠したが,全員が容易に覚醒し,試験は途切れず行うことができた(甲4f)。

(3-1-3)デクスメデトミジンは特異的かつ選択的なα_(2)-アドレナリン受容体作動薬(α_(2)-アゴニスト)であり,メデトミジンの薬理活性を有するd-異性体である。受容体結合試験におけるメデトミジンのα_(2)/α_(1)選択性比率は,α_(2)-アドレナリン受容体作動薬(α_(2)-アゴニスト)のプロトタイプであるクロニジンに比べて顕著に高く,α_(2)-作動薬としては後者(クロニジン)に比べ高い作用を示した(甲4b)。

(3-1-4)デクスメデトミジンは,中枢神経系及び末梢交感神経終末(シナプス前自己受容体)の両方で抑制性のα_(2)-アドレナリン受容体を活性化することで交感神経遮断作用を発揮し,これによりノルアドレナリン放出の抑制を生じさせる(甲4b)。

(3-1-5)その鎮静作用及びその他の交感神経遮断作用のため,α_(2)-アドレナリン受容体作動性に関して,さらに麻酔薬との併用の有用性について関心が高まっており,実際,麻酔及び小手術に先立つ前投薬として急速静注したデクスメデトミジンは,鎮静を引き起こし,チオペントンの導入用量を30%減量させ,著明な血行動態的効果は示さなかった(甲4b)。

上記(3-1-2)の4名の健康被験者は,デクスメデトミジン注射後5分から1時間後までの間,容易に目覚めさせられ,質問に協力的に応答できる状態,すなわち「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)であったといえる。
しかし,甲4には,ヒト被験者として「集中治療を受けている重篤患者」を対象とすることは,記載も示唆もされていない。
そして,甲4の「健康被験者」は「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」(上記「第5(3)」)を必要としていないと解するのが自然であり,甲4の「健康被験者」と本件特許発明1の「集中治療を受けている重篤患者」とでは,デクスメデトミジンを投与する前の「ヒト被験者」の臨床状態が大きく異なるのであるから,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与した場合に,甲4の健康被験者に投与した場合と同様の鎮静が得られるのか否かについて,当業者が甲4の記載に基づいて予測することは困難である。
このように,甲4には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与すること,及び,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静を得ることについて,いずれも記載も示唆もされていない。

(3-2)甲12に記載の事項

上記「第6(4)(4-2)」で説示したように,甲12には,α-2アドレナリン作動性のアゴニスト(α-2アゴニスト)が,交感神経副腎系の分泌を強力に阻害するという作用を有すること,及び,降圧剤としてだけでなく,さらに抗不安薬,鎮静薬,鎮痛剤,及び制吐剤の特性も有することも見出されていることを考慮して,α-2アゴニストが,カテコールアミンの急上昇に伴い生じる焦燥とせん妄の魅力的な治療薬となることが示唆されいる。
そして,甲12には,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に,α-2アゴニストであるクロニジンを実際に使用することが記載されているが,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になったのかについては記載されておらず,不明である。
また,甲12では,高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは「今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニスト」として記載されており,甲12には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に有効に使用でき,そして,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることが示唆されているとはいえない。

(3-3)甲13に記載の事項

甲13は,α_(2)アドレナリン作動性薬(α_(2)-アゴニスト)の鎮痛効果を中心として,α_(2)-アゴニストの薬物動態,薬物力学に関する研究について紹介する総説論文であり(甲13a?甲13g),以下の事項が記載されている。

(3-3-1)α_(2)アドレナリン性作動薬(α_(2)-アゴニスト)はimidazoline系に属するclonidine(CLO:カタプレス),dexmedetomidine(DEXT),mivazerol (MIV),tizanidine(TIZ),またphenylethylamineに属するmethyldopa (アルドメット),guanabenz (ワイテンス),そしてoxaloazepine系に属するguanfacine(エスタリック),azepexyole (B-HT 933)に類別され,現在,臨床麻酔領域に関連する薬物はCLO,DEXT,MIV,TIZである(甲13c)。

(3-3-2)クロニジン(CLO)はα_(1)アドレナリン性作動薬の性質も持っているが,デクスメデトミジン(DEXT)は純粋なα_(2)-アゴニストとしての性質を持っており,デクスメデトミジンはクロニジンよりも約8倍のα_(2)受容体親和性を持つ。デクスメデトミジンの鎮痛力価はクロニジンの約3倍とされている。これらの主な作用は,前シナプスのα_(2)アドレナリン受容体に作用し,交感神経終末から放出されるノルアドレナリンの放出を抑制することである。この作用が後に述べる鎮痛,鎮静効果に結びつく(甲13c)。

(3-3-3)クロニジンやデクスメデトミジンは麻酔導入薬(チオペンタール)の使用量を減少させる。前投薬として使用した場合,鎮静作用(sadation)の他に,手術に対する抗不安効果(anxiolysis)を認める。一般に鎮静効果と抗不安効果を区別するのは難しいが,臨床的には患者は応答に明瞭でしかも手術に対する恐怖心がないといった抗不安作用を認める。(甲13e)。

(3-3-4)術前硬膜外腔投与による,術後24時間以内の鎮痛効果を鎮痛薬(ペンタゾシンpentazocine)の使用量において比較してみたところ,婦人科腹部手術患者におけるクロニジン及びデクスメデトミジンの術前硬膜外腔投与群では術後鎮痛薬の使用量は有意に減少する。術中・術後の鎮痛ならびに鎮静効果がオピオイド類と同様に有することから,将来的にはα_(2)作動薬(α_(2)-アゴニスト)投与による予防的鎮痛(pre-emptive analgesia)への応用も考慮されると思われる(甲13f)。

上記(3-3-1)?(3-3-4)からみて,甲13には,現在,臨床麻酔領域に関連するα2作動薬(α2-アゴニスト)はクロニジン(CLO), デクスメデトミジン(DEXT), MIV, TIZであること(上記(3-3-1)), デクスメデトミジンはクロニジンよりも約8倍のα2受容体親和性を持ち,デクスメデトミジンの鎮痛力価は クロニジンの約3倍とされており,これらは前シナプスのα2アドレナリン受容体に作用し,交感神経終末から放出されるノルアドレナリンの放出を抑制する作用を有し,この作用が鎮痛,鎮静効果に結びつくこと(上記(3-3-2)),クロニジンやデクスメデトミジンは麻酔導入薬(チオペンタール)の使用量を減少させ,前投薬として使用した場合,鎮静作用(sadation)の他に手術に対する抗不安効果(anxiolysis)を認めること(上記(3-3-3)),婦人科腹部手術患者におけるクロニジン及びデクスメデトミジンの術前硬膜外腔投与群では術後鎮痛薬の使用量が有意に減少すること,将来的にはα2作動薬(α2-アゴニスト)投与による予防的鎮痛(pre-emptive analgesia)への応用も考慮されること(上記(3-3-4))が記載されている。
しかし,甲13には,クロニジン及びデクスメデトミジンのいずれについても,手術前に投薬して麻酔導入薬や術後鎮痛薬の使用量を減少する効果が得られることは記載されているが,「集中治療を受けている重篤患者」に投与して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」を得るために使用することは,記載も示唆もされていない。

(3-4)[相違点]の判断

(3-4-1)そもそも甲14には,クロニジン以外のα_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することについて具体的に記載も示唆もされていない。

(3-4-2)上記「第6 2(4)(4-1)」で説示したように,本件優先日当時の教科書レベルの書籍である甲19(「麻酔ハンドブック」)には,ICUで治療中の患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」が必要とされること,そして,このような鎮静は,患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になることを目標とするが記載されているので,当業者は,甲14発明でクロニジンを使用するにあたって「該患者が覚醒され,見当識が保たれた使用」にすることを目標とするといえる。

(3-4-3)しかし,上記「第6 2(4)(4-1)」で説示したように,甲19には,ICUで治療中の患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」を得るために,α_(2)-アゴニストを使用することは記載も示唆もされていないのであるから,α_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することが,本件優先日当時の技術常識であったとはいえない。

(3-4-4)上記(3-1)で説示したように,甲4には,デクスメデトミジンは特異的かつ選択的なα_(2)-アドレナリン受容体作動薬(α_(2)-アゴニスト)であり,α_(2)-作動薬(α_(2)-アゴニスト)としてはクロニジンに比べ高い作用を示すことが記載されている。また,上記(3-2)で説示したように,甲13には,デクスメデトミジンはクロニジンよりも約8倍のα_(2)受容体親和性を持ち,デクスメデトミジンの鎮痛力価はクロニジンの約3倍とされることが記載されている。
しかし,甲4,甲13,甲12,甲14,及びその他の書証のいずれにも,α_(2)-アゴニスト作用が高いほど「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」(上記「第5(2)」)という用途に好適に使用でき,そして,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になるように好適に使用できることが示唆されているとはいえない。
そして,上記(3-4-2)で説示したように,α_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することが本件優先日当時の技術常識であったとはいえないことを考慮すると,α_(2)-アゴニスト作用が高いほど「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」(上記「第5(2)」)という用途に好適に使用でき,そして,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になるように好適に使用できることが,本件優先日当時の技術常識であったとはいえない。

(3-4-5)以上(3-4-1)?(3-4-4)を踏まえると,本件特許発明1の容易想到性([相違点])について,以下のように判断される。

甲14には,クロニジン以外のα_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することについて具体的に記載も示唆もされていない。そして,甲14,甲4,甲12,甲13,甲19及びその他の書証の記載を参酌しても,α_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用すること,及び,α_(2)-アゴニスト作用が高いほど「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に好適に使用でき,そして,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になるように好適に使用できることは,いずれも本件優先日当時の技術常識であったとはいえないのであるから,甲14発明のα_(2)-アゴニストであるクロニジンに代えて,クロニジンよりもα_(2)-アゴニスト作用が高いデクスメデトミジンを使用して本件特許発明1を得ることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(4)本件特許発明2?12の容易想到性について

本件特許発明2?12と甲14発明とは,いずれも上記(2)で説示した[相違点]を含む点で相違するのであるから,上記(3)で説示した理由により,本件特許発明2?12を得ることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(5)本件特許発明による効果について

上記「第6 2(4)(4-7)」で説示したように,本件特許明細書には,本件特許発明により,デクスメデトミジンを,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静も得るという「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に用いることができ,該患者は「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になるという効果が得られることが記載されている。
そして,甲14,甲4,甲12,甲13,甲19及びその他の書証の記載,さらに技術常識を参酌しても,本件特許発明による上記の効果が,当業者が予測し得た程度のものであるとはいえない。

(6)請求人の主張について

請求人は,「甲14の記載に接した当業者が,甲4,甲12,甲13に基づいて,ICU治療に用いるα_(2)-アゴニストとしてクロニジンに代えて,よりα_(2)-アゴニストとして強力な鎮静作用と少ない副作用を有するデクスメデトミジンを使用することは極めて容易である」旨を主張している。
しかし,上記(3)の(3-4-5)で説示したように,甲14,甲4,甲12,甲13,甲19及びその他の書証の記載を参酌しても,α_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用すること,及び,α_(2)-アゴニスト作用が高いほど「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に好適に使用でき,そして,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になるように好適に使用できることは,いずれも本件優先日当時の技術常識であったとはいえず,そもそも甲14にクロニジン以外のα_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することについて具体的に記載も示唆もされていないにもかかわらず,クロニジンに代えてデクスメデトミジンを使用することが極めて容易であるとはいえない。
よって,請求人による上記主張は認められない。

(7)小括

以上検討したように,本件特許発明1?12の特許を,請求人が主張する無効理由2(甲14を主引用例とする進歩性の欠如)によって無効にすることはできない。

第8 無効理由3(甲15を主引用例とする進歩性欠如)について

1 請求人が主張する無効理由3の要旨は,以下のとおりである。

(1)甲15には,
「a 集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,
b クロニジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,
c 該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。」の発明(以下,「甲15発明」とする。)が記載されている。
本件特許発明1と甲15発明とを対比すれば,以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
A 集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,
B α_(2)-アゴニストまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,
C 該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。
(相違点)
本件発明1では使用されるα_(2)-アゴニストがデクスメデトミジンであるのに対し,甲15ではクロニジンである点
甲15に基づいて,本件特許発明1が容易であることについては,無効理由2において甲14について記載したことと同様である。
したがって,甲15の記載に接した当業者が,甲4,甲12,甲13などに基づいて,ICU治療に用いるα_(2)-アゴニストとしてクロニジンに代えてデクスメデトミジンを使用することは極めて容易である。
したがって,本件特許発明1は進歩性を欠如する。

(2)本件特許発明2?12について
本件特許発明2?12については前述のとおりであるから,これを引用する(本件無効審判請求書の30頁7行?35頁12行)。したがって,本件特許発明2?12は,甲15に甲4,甲12,甲13,あるいは周知技術などを適用することで当業者が容易に想到できたものである。

(3)以上のとおり,本件特許発明1?12は,特許法第29条第2項に違反し,同法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とすべきものである。

2 当合議体の判断

当合議体は,本件特許発明1?12の特許を,請求人が主張する無効理由3(甲15を主引用例とする進歩性の欠如)によって無効にすることはできない,と判断する。その理由は以下のとおりである。

(1)甲15に記載された発明

甲15は,外科患者におけるアルコール離脱性せん妄の特殊性とその治療に関する学術論文であり(甲15a),外科患者におけるアルコール離脱性せん妄の治療について,以下の事項が記載されている。

(1-1)外科患者は負傷または手術によって最初から負荷を担っているので,外科患者におけるアルコール離脱性せん妄に対しては,精神科患者または神経科患者よりも,より深い鎮静とより継続的な静止固定が必要である(甲15b,甲15c)。アルコール離脱性せん妄はさまざまな症状の複合体であり,主に焦燥,不安,強い振戦,及び幻覚症がある(甲15d)。

(1-2)アルコール離脱性せん妄は,中枢性交感神経の過活動及び不均衡に起因することが示され得る。集中治療室で治療中の外科患者におけるアルコール離脱性せん妄に対し,ベンゾジアゼピンと,中枢性のα2受容体への効果を持つ薬剤であるクロニジンとを含む薬物療法を適用したところ,患者のアルコール離脱性せん妄が改善され,該患者が覚醒されることができ,基本的介護に対して協力的であり続けた症例があった(甲15e?甲15i)。

上記(1-1)及び(1-2)からみて,甲15には,「集中治療室で治療中の外科患者のアルコール離脱性せん妄の治療に使用する医薬品の製造における,中枢性のα_(2)受容体への効果を持つ薬剤であるクロニジンの使用であって,該患者が覚醒されることができ,基本的介護に対して協力的であり続ける使用。」の発明(以下,「甲15発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件特許発明1と甲15発明との対比

(2-1)甲15発明の「集中治療室で治療中の外科患者」は,「集中治療を受けている重篤患者」に該当する。

(2-2)「アルコール離脱症状」は,集中治療室(ICU)で見られる不眠・不安・抑うつ状態・興奮状態・幻覚妄想状態・譫妄(せん妄)状態などの精神状態の原因の一つとされている症状であり(甲19aの[3]),「せん妄」は「急性可逆性精神障害で,錯乱と何らかの意識障害によって特徴づけられる。一般に,情動易変性,幻覚または錯覚を伴い,また不適切で,衝動的,非合理的,暴力的行動を伴う。」(甲23c)のように定義されていることを考慮すると,甲15発明の「集中治療室で治療中の外科患者」はアルコール離脱性せん妄を発症しているのであるから,「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」(上記「第5(2)」)が必要な患者である。
そうすると,甲15発明の「集中治療室で治療中の外科患者のアルコール離脱性せん妄の治療」は,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当するといえる。

(2-3)甲15発明の「該患者が覚醒されることができ,基本的介護に対して協力的であり続ける」という状態は,該患者が容易に目覚めさせられ,質問に強力的に応答できるような状態,すなわち「該患者が覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)に該当する。

以上(2-1)?(2-3),及び,クロニジンとデクスメデトミジンはいずれも中枢性のα_(2)受容体への効果を持つ薬剤(α_(2)-アゴニスト)であることからみて,本件特許発明1と甲15発明とは,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,中枢性のα_(2)受容体への効果を持つ薬剤の使用であって,該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]
本件特許発明1の「中枢性のα_(2)受容体への効果を持つ薬剤」はデクスメデトミジンであるのに対し,甲15発明の「中枢性のα_(2)受容体への効果を持つ薬剤」はクロニジンである点。

(3)本件特許発明1の容易想到性([相違点]の判断)

上記(2)の[相違点]の判断に先立ち,請求人が進歩性欠如の主な根拠としている甲4,甲12,甲13に記載の事項について検討する。
甲4に記載された事項は上記「第6 2(1)」及び「第7 2(3)の(3-1)」,甲12に記載された事項は上記「第6 2(4)の(4-2)」及び「第7 2(3)の(3-2)」,甲13に記載された事項は「第7 2(3)の(3-3)」で既に説示した,以下のとおりのものである。

(3-1)甲4には,デクスメデトミジンは特異的かつ選択的なα_(2)-アドレナリン受容体作動薬(α_(2)-アゴニスト)であり,α_(2)-作動薬(α_(2)-アゴニスト)としてはクロニジンに比べ高い作用を示すことが記載されている。また,甲13には,デクスメデトミジンはクロニジンよりも約8倍のα_(2)受容体親和性を持ち,デクスメデトミジンの鎮痛力価はクロニジンの約3倍とされることが記載されている。
しかし,甲4には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与すること,及び,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静が得られることについて,いずれも記載も示唆もされていない。
また,甲13には,クロニジン及びデクスメデトミジンのいずれについても,手術前に投薬することが記載されているにすぎず,α_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者」に投与することは記載も示唆もされていない。

(3-2)甲12には,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に,α-2アゴニストであるクロニジンを実際に使用することが記載されているが,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になったのかについては記載されておらず,不明である。
また,甲12では,高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは「今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニスト」として記載されており,甲12には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に有効に使用でき,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることが示唆されているとはいえない。

(3-3)以上(3-1)及び(3-2)を踏まえると,本件特許発明1の容易想到性([相違点])について,以下のように判断される。

そもそも,甲15には,クロニジン以外の中枢性のα2受容体への効果を持つ薬剤(α_(2)-アゴニスト)を「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することについて具体的に記載されていない。
上記「第6 2(4)(4-1)」で説示したように,本件優先日当時の教科書レベルの書籍である甲19(「麻酔ハンドブック」)には,ICUで治療中の患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」が必要とされること,そして,このような鎮静は,患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になることを目標とすることが記載されているが,甲19には,ICUで治療中の患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」を得るために,α_(2)-アゴニストを使用することは記載も示唆もされていないのであるから,α_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することが,本件優先日当時の技術常識であったとはいえない。
そして,甲15,甲4,甲12,甲13及びその他の書証のいずれにも,α_(2)-アゴニスト作用が高いほど「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に好適に使用でき,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になることが示唆されているとはいえず,そのような優先日当時の技術常識があったともいえない。
そうすると,甲15にクロニジン以外の中枢性のα_(2)受容体への効果を持つ薬剤(α_(2)-アゴニスト)を「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することについて具体的に記載も示唆もされていないにもかかわらず,甲15発明のクロニジンに代えて,クロニジンよりも高いα_(2)-アゴニスト作用を有するデクスメデトミジンを使用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(4)本件特許発明2?12の容易想到性について

本件特許発明2?12と甲15発明とは,いずれも上記(2)で説示した[相違点]を含む点で相違するのであるから,上記(3)で説示した理由により,本件特許発明2?12を得ることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(5)本件特許発明による効果について

上記「第6(4)(4-7)」で説示したように,本件特許明細書には,本件特許発明により,デクスメデトミジンを,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静も得るという「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に用いることができ,該患者は「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になるという効果が得られることが記載されている。
そして,甲15,甲4,甲12,甲13,甲19及びその他の書証の記載,さらに技術常識を参酌しても,本件特許発明による上記の効果が,当業者が予測し得た程度のものであるとはいえない。

(6)請求人の主張について

請求人は,「甲15に基づいて,本件特許発明1が容易であることについては,無効理由2において甲14について記載したことと同様である。」と主張しているが,上記「第8 2(6)」で説示したように,請求人の当該主張は認められない。

(7)小括

以上検討したように,本件特許発明1?12の特許を,請求人が主張する無効理由3(甲15を主引用例とする進歩性の欠如)によって無効にすることはできない。

第9 無効理由4(甲12を主引用例とする新規性または進歩性欠如)について

1 請求人が主張する無効理由4の要旨は,以下のとおりである。

(1)甲12には,
「a 集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,
b デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,
c α_(2)-アゴニストとしての効果が奏される使用。」の発明が記載されている(以下,「甲12発明」とする。)。
本件特許発明1と甲12発明とを対比すると,一致点・相違点は以下となる。
(一致点)
a 集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,
b デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,
c α2-アゴニストとしての効果が奏される使用。
(相違点)
本件特許発明1ではα_(2)-アゴニストとしての効果が「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」とされているのに対し,甲12ではそのような点は明示されていない点

(2)本件特許発明1の新規性の欠如

上記相違点にかかる「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」とは,α_(2)-アゴニストの作用効果そのものであるから,これは構成要件というよりも,デクスメデトミジンを使用すれば必ず奏する単なる周知の作用効果の記載であって,デクスメデトミジンの使用とは別の独立した構成要件として理解すべきものではない。
したがって,甲12にα_(2)-アゴニストとしてのデクスメデトミジンを使用したことによる鎮静作用が記載されている以上,「該患者が覚醒され,見当識が保たれ」ていることが明記されているか否かに関わりなく,「該患者が覚醒され,見当識が保たれ」ていたことは言うまでもないことであって,相違点とはなり得ないものであるから,本件特許発明1は甲12によって新規性を欠如する。

(3)本件特許発明1の進歩性の欠如

仮に,上記の相違点を相違点と考えたり,あるいは,甲12にはデクスメデトミジンをICUでの鎮静に実際に使用したことまでは明記されていないとして,このような点を相違点と考えたとしても,いずれの点も明らかに容易想到である。
すなわち,上記相違点は,α_(2)-アゴニストの周知な作用効果であり,前述のとおり,「該患者が覚醒され,見当識が保たれ」ていることは,甲4,甲7,甲11,甲13,甲14,甲15などにも記載されている事項である。そして,甲12ではデクスメデトミジンの鎮静作用を指摘しているのであるから,甲12の鎮静作用が「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」であると理解すること,あるいは,そのような使用を行うことは容易である。
また,仮に,甲12には,デクスメデトミジンをICUでの鎮静に実際に使用したことまでは明記されていないとしても,甲12の主題は「集中治療におけるストレス,焦燥及び脳障害」であるから,これを十分に示唆しており ,また,前述したとおり,α_(2)-アゴニストをICUでの鎮静に用いることは甲14や甲15あるいは甲20にも記載されている公知ないし周知事項であることからすれば,甲12に当該周知事項(要すれば,甲14,甲15及び/あるいは甲20)を組みあわせて,デクスメデトミジンをICUでの治療に用いることは極めて容易である。
以上からすれば,甲12に接した当業者において,甲4,甲7,甲11,甲13,甲14,甲15,甲20などの示唆にしたがって,本件発明を想到することは極めて容易でああって,「該患者が覚醒され,見当識が保たれ」ていることは,甲4,甲7,甲11,甲13,甲14,甲15などにも記載されている周知事項であるから何ら顕著な効果でもない。
したがって,本件発明1は甲12及び甲4,甲7,甲11,甲13,甲14,甲15,甲20,あるいは周知事項などによって進歩性を欠如する。

(3)本件特許発明2?12について

本件特許発明2?12については前述のとおりであるから,これを引用する(本件無効審判請求書の30頁7行?35頁12行)。したがって,本件特許発明2?12は,甲12に前述した甲4,甲7,甲11,甲13,甲14,甲15,甲20,あるいは周知事項などを適用することで当業者が容易に想到できたものである。

(4)以上のとおり,本件特許発明1?12は,本件特許発明1?12は,特許法第29条第1項第3号または第2項に違反し,同法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とすべきものである

2 当合議体の判断

当合議体は,本件特許発明1?12の特許を,請求人が主張する無効理由4(甲15を主引用例とする進歩性の欠如)によって無効にすることはできない,と判断する。その理由は以下のとおりである。

(1)甲12に記載された発明

甲12に記載された事項は上記「第6 2(4)の(4-2)」及び「第7 2(3)の(3-2)」で既に説示した,以下のとおりのものである。

甲12には,α-2アドレナリン作動性のアゴニスト(α-2アゴニスト)が,交感神経副腎系の分泌を強力に阻害するという作用を有すること,及び,降圧剤としてだけでなく,さらに抗不安薬,鎮静薬,鎮痛剤,及び制吐剤の特性も有することも見出されていることを考慮して,α-2アゴニストが,カテコールアミンの急上昇に伴い生じる焦燥とせん妄の魅力的な治療薬となることが示唆されいる。
そして,甲12には,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に,α-2アゴニストであるクロニジンを実際に使用することが記載されているが,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になったのかについては記載されておらず,不明である。
また,甲12では,高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは「今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニスト」として記載されており,甲12には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に有効に使用でき,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることが示唆されているとはいえない。
そうすると,甲12には,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,α-2アゴニストであるクロニジンの使用。」の発明(以下,「甲12発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件特許発明1と甲12発明との対比

本件特許発明1と甲12発明とを対比すると,クロニジンとデクスメデトミジンはいずれもα-2アゴニストであるので,両者は「集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,α-2アゴニストの使用。」の発明である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]
本件特許発明1ではα-2アゴニストとして「デクスメデトミジン」を使用して「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」とするのに対し,甲12発明ではα-2アゴニストとして「クロニジン」を使用し,「該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用」であるのか否かは不明である点。

(3)本件特許発明1の新規性欠如

上記(1)で説示したように,甲12には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に使用でき,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることが示唆されているとはいえず,上記(2)で説示した[相違点]は実質的な相違点であるから,本件特許発明1は,甲12により新規性を欠如するとはいえない。

(4)本件特許発明1の容易想到性([相違点]についての判断)

上記(2)の[相違点]の判断に先立ち,請求人が進歩性欠如の主な根拠としている甲4,甲7,甲11,甲13,甲14及び甲15に記載の事項について検討する。
甲4に記載された事項は上記「第6 2(1)」及び「第7 2(3)の(3-1)」,甲13に記載された事項は「第7 2(3)の(3-3)」,甲14に記載された事項は「第7 2(1)」,甲15に記載された事項は「第8 2(1)」で既に説示したように,以下のとおりである。

(4-1)甲4には,デクスメデトミジンは特異的かつ選択的なα_(2)-アドレナリン受容体作動薬(α_(2)-アゴニスト)であり,α_(2)-作動薬(α_(2)-アゴニスト)としてはクロニジンに比べ高い作用を示すことが記載されている。また,甲13には,デクスメデトミジンはクロニジンよりも約8倍のα_(2)受容体親和性を持ち,デクスメデトミジンの鎮痛力価はクロニジンの約3倍とされることが記載されている。
しかし,甲4には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与すること,及び,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静が得られることについて,いずれも記載も示唆もされていない。
また,甲13には,クロニジン及びデクスメデトミジンのいずれについても,手術前に投薬することが記載されているにすぎず,α_(2)-アゴニストを集中治療を受けている重篤患者に投与することは記載も示唆もされていない。

(4-2)甲14には,集中治療を受けている重篤患者のアルコール離脱の治療に使用する医薬品の製造における,α_(2)作動薬(α_(2)-アゴニスト)であるクロニジンの使用であって,該患者の臨床状態が改善する使用について記載されているが,デクスメデトミジンを使用することは記載も示唆もされていない。

(4-3)甲15には,集中治療室で治療中の外科患者のアルコール離脱性せん妄の治療に使用する医薬品の製造における,中枢性のα_(2)受容体への効果を持つ薬剤であるクロニジンの使用であって,該患者が覚醒されることができ,基本的介護に対して協力的であり続ける使用について記載されているが,デクスメデトミジンを使用することは記載も示唆もされていない。

さらに,甲7,甲11には以下の事項が記載されている。
(4-4)甲7には,α_(2)アドレナリン作動薬(α_(2)-アゴニスト)であるデクスメデトミジン投与により,麻酔薬である必要投与量を減少できること(甲7a,甲7b),α_(2)アドレナリン作動薬(α_(2)-アゴニスト)のプロトタイプであるクロニジンは,1986年以降,麻酔補助薬として使用されており,新たなα_(2)アドレナリン作動薬(α_(2)-アゴニスト)であるデクスメデトミジンもまた,鎮静作用及び抗不安作用を有することがわかっているので,麻酔前投薬としての可能性があると考えられていること(甲7c)が記載されている。
しかし,甲7には,α_(2)アドレナリン作動薬(α_(2)-アゴニスト)であるクロニジンやデクスメデトミジンを,「集中治療を受けている重篤患者」に投与して,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」を得るという,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することは記載も示唆もされていない。

(4-5)甲11には,日帰り白内障手術を受ける外来患者への,高選択的で強力的な新規α2アゴニストであるデクスメデトミジンの麻酔前筋肉内投与により,麻酔の必要量を減らせること,デクスメデトミジンを投与された患者の眠りは浅く,患者が目覚めた後は協力的であったこと(甲11a?甲11e)が記載されている。
しかし,日帰り白内障手術を受ける外来患者は「集中治療を受けている重篤患者」ではなく,甲11には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者」に投与して,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」を得るという,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することは記載も示唆もされていない。

(4-6)以上(4-1)?(4-5)を踏まえると,本件特許発明1の容易想到性([相違点])について,以下のように判断される。

上記「第6 2(4)(4-1)」で説示したように,本件優先日当時の教科書レベルの書籍である甲19(「麻酔ハンドブック」)には,ICUで治療中の患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」が必要とされること,そして,このような鎮静は,患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になることを目標とすることが記載されているので,当業者は,甲12発明でクロニジンを使用するにあたって「該患者が覚醒され,見当識が保たれた使用」にすることを目標とするといえる。
しかし,甲19には,ICUで治療中の患者に対して「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療としての鎮静」を得るために,α_(2)-アゴニストを使用することは記載も示唆もされていないのであるから,α_(2)-アゴニストを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に使用することが,本件優先日当時の技術常識であったとはいえない。
そして,上記(1)で説示したように,甲12では,高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは「今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニスト」として記載されており,甲12には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に有効に使用でき,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることが示唆されているとはいえない。
さらに,上記(4-1)?(4-5)のように,甲12,甲4,甲7,甲11,甲13,甲14,甲15及びその他の書証を参酌しても,α_(2)-アゴニスト作用が高いほど「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に好適に使用でき,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になることが示唆されているとはいえず,そのような優先日当時の技術常識があったともいえないのであるから,甲12発明のα_(2)-アゴニストであるクロニジンに代えて,α_(2)-アゴニスト作用が高いデクスメデトミジンを使用して本件特許発明1を得ることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(5)本件特許発明2?12の容易想到性

本件特許発明2?12と甲12発明とは,いずれも上記(2)で説示した[相違点]を含む点で相違するのであるから,上記(4)で説示した理由により,本件特許発明2?12を得ることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(6)本件特許発明による効果について

上記「第6 2(4)(4-7)」で説示したように,本件特許明細書には,本件特許発明により,デクスメデトミジンを,「実際の鎮静」に加えて「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静も得るという「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途に用いることができ,該患者は「覚醒され,見当識が保たれ」た状態になるという効果が得られることが記載されている。
そして,甲12,甲4,甲7,甲11,甲13,甲14,甲15及びその他の書証の記載,さらに技術常識を参酌しても,本件特許発明による上記の効果が,当業者が予測し得た程度のものであるとはいえない。

(7)請求人の主張について

請求人は,甲12に「集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,α_(2)-アゴニストとしての効果が奏される使用。」の発明が記載されていることが記載されてい旨を主張している。
しかし,上記(1)で説示したように,甲12では,高選択性α-2アゴニストであるデクスメデトミジンは「今のところ臨床で使用されていない他のα-2アゴニスト」として記載されており,甲12には,デクスメデトミジンを「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」という用途(上記「第5(2)」)に実際に有効に使用でき,該患者が「覚醒され,見当識が保たれ」た状態(上記「第5(3)」)になることが示唆されているとはいえないのであるから,甲12に,請求人が主張する上記のような発明が記載されているとはいえない。
よって,請求人の上記主張は認められない。

(8)小括

以上検討したように,本件特許発明1?12の特許を,請求人が主張する無効理由4(甲12を主引用例とする新規性または進歩性の欠如)によって無効にすることはできない。

第10 むすび

以上のとおり,請求人の主張する無効理由1?4によって,本件特許発明1?12に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-16 
結審通知日 2018-10-18 
審決日 2018-10-30 
出願番号 特願2000-540820(P2000-540820)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61K)
P 1 113・ 113- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松波 由美子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 滝口 尚良
前田 佳与子
登録日 2010-10-15 
登録番号 特許第4606581号(P4606581)
発明の名称 ICU鎮静のためのデクスメデトミジンの用途  
代理人 大塚 康徳  
代理人 橋本 諭志  
代理人 木下 智文  
代理人 木下 智文  
代理人 佐藤 俊彦  
代理人 佐藤 俊彦  
代理人 大塚 康弘  
代理人 西川 恵雄  
代理人 岡田 淳  
代理人 橋本 諭志  
代理人 牧野 知彦  
代理人 飯塚 卓也  
代理人 大塚 康徳  
代理人 飯塚 卓也  
代理人 西川 恵雄  
代理人 牧野 知彦  
代理人 大塚 康弘  
代理人 岡田 淳  

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