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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47C
管理番号 1347631
異議申立番号 異議2018-700027  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-12 
確定日 2018-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6161405号発明「椅子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6161405号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6161405号の請求項1乃至4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6161405号の請求項1乃至4に係る特許についての出願は,平成25年5月22日(以下「本件出願日」という。)に特許出願したものであって,平成29年6月23日付けでその特許権の設定登録がなされ,その後,その特許に対し,平成30年1月12日に特許異議申立人赤松智信により特許異議の申立てがなされたものである。そして,その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 4月24日:取消理由通知書(同年4月27日発送)
平成30年 6月11日:訂正請求書,意見書(特許権者提出)
平成30年 6月26日:取消理由通知書(決定の予告)(同年6月29日発送)
平成30年 8月21日:訂正請求書,意見書(特許権者提出)
平成30年 9月10日:訂正請求があった旨の通知書(同年9月13日)
平成30年10月12日:意見書(特許異議申立人提出)

第2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
平成30年9月10日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は,本件特許6161405号(以下「本件特許」という。)の願書に添付した特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものである。
そして,その訂正内容は,以下のとおりである。
訂正事項1
請求項1において
「前記肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形しているものであることを特徴とする」とあるのを,
「前記肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形しているものであり,同一構造をなす他の椅子の被取付部の背面と本件椅子の被取付部の前面とが当接又は近接する状態で当該他の椅子をスタッキングさせることができるようにしたものであり,前記被取付部が下方に開口する有底筒状をなしたものであり,前記被取付部の前後方向の外形寸法が,前記被取付部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定されていることを特徴とする」に訂正する。

訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0007】において,
「前記肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形しているものである。」とあるのを,
「前記肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形しているものであり,同一構造をなす他の椅子の被取付部の背面と本件椅子の被取付部の前面とが当接又は近接する状態で当該他の椅子をスタッキングさせることができるようにしたものであり,前記被取付部が下方に開口する有底筒状をなしたものであり,前記被取付部の前後方向の外形寸法が,前記被取付部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定されている。」に訂正する。

訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0059】の記載を削除する。

訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0064】から「u」の記載を削除する。

訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0066】の記載を削除する。

2 当審の判断
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は,椅子の被取付部に関して,他の椅子とスタッキングした際に,該被取付部同士が,どの部位において当接又は近接するかを限定し,さらに被取付部の形状を限定したものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項1の訂正の内容に関しては,明細書の段落【0030】に「被取付部uは,支持フレーム1の後脚11に接続する部位をなすもので,下方に開口する有底筒状のものである。被取付部uの前後方向の外径寸法は,被取付部uの左右方向の外径寸法よりも小さく設定されている。…(下線は当審によるもの。以下も同じ。)」,段落【0031】に「本実施形態の椅子Sは,図5に示すように,同一構造をなす他の椅子S’の被取付部u’が,被取付部uに当接する状態で当該他の椅子S’をスタッキングできるようになっている。より具体的に言えば,他の椅子S’の被取付部u’の背面と,椅子Sの被取付部uの前面とが当接する状態でスタッキングできるようになっている。」と記載されているとおりであって,訂正事項1は,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
よって,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は,訂正事項1によって請求項1が訂正されたことに伴い,発明の詳細な説明における請求項1に関連する段落の記載を,訂正事項1に合わせて訂正するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項2は,訂正事項1と実質的に同じ内容であるから,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
よって,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は,訂正事項1によって請求項1において「椅子に同一構造をなす他の椅子をスタッキング可能なもの」と限定して訂正されたされたことに伴い,訂正事項1と整合性をとるために,「同一構造をなす他の椅子をスタッキング可能に構成していなくても良い」ことを排除するための訂正であるから,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項3は,訂正事項1と整合性をとる内容であるから,訂正事項1が新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない以上,訂正事項3は,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
よって,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4は,具体的には訂正前の「他の椅子の被取付部u」を「他の椅子の被取付部」と訂正するものである。
ここで,明細書の段落【0031】に「本実施形態の椅子Sは,図5に示すように,同一構造をなす他の椅子S’の被取付部u’が,被取付部uに当接する状態で当該他の椅子S’をスタッキングできるようになっている。より具体的に言えば,他の椅子S’の被取付部u’の背面と,椅子Sの被取付部uの前面とが当接する状態でスタッキングできるようになっている。」と記載されているとおり,「u」は,「他の椅子(S’)」の被取付部を指すものではなく,「椅子(S)」の被取付部を指すものであることは明らかである。さらに,この段落【0064】において,「椅子」において「u」を付した記載としていないことから,「他の椅子」においても「u’」を付さないこととして,記載を揃えるものである。
したがって,訂正前の「他の椅子の被取付部u」は,「他の椅子の被取付部」の誤記であることが明らかであるから,訂正事項4は特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして,訂正事項4は,誤記の訂正にすぎないから,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
よって,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5) 訂正事項5について
本件特許において支持フレームは,請求項1に「金属製のパイプ材により構成され,…た支持フレーム」と記載されているとおり「金属製のパイプ材」であることを限定しているところ,明細書の段落【0066】には,訂正前の「支持フレーム」が「金属製の丸棒無垢材」を用いたものであっても良いと記載されている。
そして,上記「金属製の丸棒無垢材」に係る記載のある明細書の段落【0066】を削除することによって,訂正前の「支持フレーム」が「金属製の丸棒無垢材」を用いたものであっても良いとしていたものを排除して,請求項の記載と整合性をとる訂正事項5は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項5は,支持フレームに複数種類の素材を用いることを許容していたものから,請求項に記載された一種類の素材に限定して,請求項の記載と整合性をとる内容であるから,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
よって,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許についての特許異議の申立て事件では,訂正前の請求項1乃至4について特許異議の申立ての対象とされているから,本件訂正における訂正前の請求項1及び4に係る訂正事項1に関して,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(6) 一群の請求項等について
訂正前の請求項1乃至4について,請求項2乃至4は,それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1乃至4に対応する訂正後の請求項1乃至4は,特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

(7) 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第第1号又は2号又は3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項1乃至4について訂正を認める。

第3 取消理由について
1 本件訂正特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1乃至4に係る発明(以下,「本件訂正特許発明1」,「本件訂正特許発明2」などという。)は,その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
金属製のパイプ材により構成され,後脚と,この後脚の下端部に連続させて前方に延出するベースと,このベースの前端に連続し上方に起立する前脚と,この前脚の上端に連続し後方に延出する座受とを共通のパイプ材により一体に形成し,側面視において閉ループ構造を有した支持フレームと,この支持フレームに肘掛けを介して支持された背凭れとを備えてなる椅子であって,
前記背凭れと前記肘掛けとが樹脂により一体に成形されたものであり,
前記肘掛けが,前後方向に延び後端が前記背凭れに連設された肘掛け本体と,この肘掛け本体の前端に設けられ前記後脚の上端部に備えた取付部に取り付けられる被取付部とを備えてなり,
前記肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形しているものであり,同一構造をなす他の椅子の被取付部の背面と本件椅子の被取付部の前面とが当接又は近接する状態で当該他の椅子をスタッキングさせることができるようにしたものであり,前記被取付部が下方に開口する有底筒状をなしたものであり,前記被取付部の前後方向の外形寸法が,前記被取付部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定されていることを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記パイプ材として直径13.1mm?15mmのものが適用されている請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記肘掛け本体の肘当てが,水平面に対して前傾する肘当て面を当該肘当ての上面全域に有したものである請求項1又は2記載の椅子。
【請求項4】
前記座受の後端が,側面視において前記後脚と前記座受とが交差する位置よりも後方に位置している請求項1,2又は3記載の椅子。」

2 取消理由の概要
(1)平成30年6月26日付けで通知した取消理由
当審において,平成30年6月26日付けで通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。
請求項1乃至4に係る特許は,本件出願日前に日本国内において頒布された下記の引用文献1乃至4に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 刊行物の記載
(1)引用文献1:特開2012-95931号公報(異議申立書における甲第1号証)
ア 「【0021】
以下,本発明の実施形態を,図面に基づいて説明する。
図1?図4に示すように,椅子は,脚体1,座2,背凭れ3,及び左右1対の肘掛け4,4を備えている。
【0022】
脚体1は,金属パイプを側面視ほぼ台形状に折曲して形成された左右1対の側脚5,5と,この左右の側脚5,5の前上端部の対向面同士を連結する側面視U字状断面(図9参照)の板金製の前部連結杆6と,同じく,左右の側脚5,5の後上端部同士を連結する,左右の側脚5,5間の左右幅よりも若干長寸の金属パイプよりなる後部連結杆7とからなっている。前部連結杆6の前上縁には,座2の前端部下面に係止可能な左右複数の係止片6aが,前向きに突設されている。
【0023】
左右の側脚5,5の上部における後方を向く上部脚杆5a,5aの後端部には,短寸の折曲部5b,5bが内向き対向状に連設され,この両折曲部5bの後面を,後部連結杆7の両側端部の前面下部に溶接することにより,左右の側脚5,5は,側面視ほぼ台形状に形成されている。なお,上記左右の上部脚杆5a,5aと,前部連結杆6と,後部連結杆7とにより,座2の下面を支持するほぼ水平かつ平面視方形枠状の座支持杆8が構成されている。
【0024】
左右の側脚5,5における上下方向を向く後部脚杆5c,5cの上部同士は,後部連結杆7により連結されている。すなわち,後部連結杆7の両側部に設けた上下方向の貫通孔7a(図5参照)に,後部脚杆5cの上部を挿通し,溶接等により固着することにより,後部脚杆5c,5cの上部同士が,後部連結杆7により連結されている。このようにして,後部脚杆5c,5cの上部同士を後部連結杆7により連結すると,後部脚杆5c,5cの左右位置を後部連結杆7により容易に位置決めしうるとともに,それらを強固に連結することができる。
後部連結杆7より上方に突出する部分は,背凭れ3の両側部を支持するための背凭れ支持杆9,9とされている。」

イ 「【0026】
座2は,硬質合成樹脂により形成された平面視方形枠状の座フレーム12と,この座フレーム12の内周面に外周縁を一体成形することにより,座フレーム12の枠内に張設された下方に弾性変形可能なメッシュ状の可撓性座板13とからなっている。座フレーム12の後端の左右方向の中央部には,座フレーム12の左右の後隅部に切欠部14,14を形成することにより,後向突部14aが連設されている。
【0027】
背凭れ3は,上記座2と同様に,正面視方形枠状をなす硬質合成樹脂製の背フレーム15と,その枠内に一体的に張設された後方に弾性変形可能なメッシュ状の可撓性背板16とからなり,背フレーム15の上下方向の中間部は,側面視において前向「く」の字状に湾曲されている。
背フレーム15における左右の側部フレーム15a,15aの下部には,上記座2の切欠部14,14に嵌合可能な左右1対の角形をなす下向突部17,17が一体的に突設されている。両下向突部17の下面は,後部連結杆7の両側端部に上方より嵌合しうるように,側面視上向円弧状の曲面とされている。
【0028】
図5及び図7に示すように,背フレーム15における左右の側部フレーム15a,15aの下部には,上述した左右の背凭れ支持杆9,9に嵌合可能な上下方向の取付孔18,18が,下向突部17,17を貫通して下方に開口するように形成されている。」

ウ 「【0030】
左右の肘掛け4,4は,上下方向を向く角柱状の取付基部4aと,この取付基部4aの上端に前向きとして連設され,後端部が若干外向きに折曲された平板状の肘当て部4bとからなり,全体が合成樹脂により一体成形されている。
図5に示すように,取付基部4aの下端部には,上記肘掛け支持金具11の上向突部11aに嵌合可能な下方に開口する四角形断面の取付孔20が形成され,同じく内側面には,成形材料を節約するために,上下複数の肉抜き凹部21が形成されている。
また,背凭れ支持杆9の上部の開口端部には,肘掛け4の取付基部4aをボルト止めするための左右方向を向くめねじ孔22が穿設された軸状の取付金具23の下端部が圧嵌されている。なお,このような取付金具23を取り付けないで,若干長寸とした背凭れ支持杆9の上部に,左右方向のめねじ孔を直接設けてもよい。
【0031】
椅子を組立てるには,まず,左右の背凭れ支持杆9,9に,背凭れ3における左右の側部フレーム15a,15aの下部の取付孔18を,両下向突部17の上向円弧状をなす下端面が後部連結杆7の両側端部の上面に当接するまで上方より嵌合し,背凭れ3を左右の背凭れ支持杆9,9により支持する。
【0032】
ついで,図5に示すように,左右の肘掛け支持金具11の上向突部11aに,肘掛け4における取付基部4aの下端部の取付孔20を,上方より嵌合して支持したのち,取付基部4aの上端部の段付孔24に外側方より挿入したボルト25を,側部フレーム15aの下部の側面に設けた通孔26に挿通して,背凭れ支持杆9の上端に取付けた取付金具23のめねじ孔22に螺合する。これにより,肘掛け4は,背凭れ3の側部フレーム15aの外側面に固定され,かつ同時に,背凭れ3の側部フレーム15aも,共通のボルト25により背凭れ支持杆9に固定される。」

エ 上記摘記事項ア,【図2】及び【図4】から,「側脚5」は,背凭れ支持杆9から後部脚杆5c,後部脚杆5cの下端部から屈曲して前方に延伸する部分(以下「下部脚杆」という。),下部脚杆の前端部から屈曲して上方に延伸する部分(以下「前部脚杆」という。),前部脚杆の上端部から屈曲して後方に延伸する上部脚杆5a,上部脚杆5aの後端部から屈曲して内向きに延伸する短寸の折曲部5bにかけて,連続した金属パイプで,側面視において閉ループ状に構成されていることが看て取れる。

オ 【図4】及び【図5】から,肘掛け4の取付基部4aは,平板状の肘当て部4bの後端に設けられていることが看て取れる。

上記ア乃至オによれば,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「金属パイプを側面視ほぼ台形状に折曲して形成された左右1対の側脚であって,
左右の側脚における上下方向を向く後部脚杆の上部同士は,後部連結杆により連結され,
左右の側脚の上部における後方を向く上部脚杆の後端部には,短寸の折曲部が内向き対向状に連設されるとともに,後部連結杆より上方に突出する部分は,背凭れの両側部を支持するための背凭れ支持杆とされ,
該両折曲部の後面を,後部連結杆の両側端部の前面下部に溶接することにより,左右の側脚は,側面視ほぼ台形状に形成され,
左右の上部脚杆と,前部連結杆と,後部連結杆とにより,座の下面を支持するほぼ水平かつ平面視方形枠状の座支持杆が構成され,
背凭れは,正面視方形枠状をなす硬質合成樹脂製の背フレームと,その枠内に一体的に張設された後方に弾性変形可能なメッシュ状の可撓性背板とからなり,
背フレームにおける左右の側部フレームの下部には,左右の背凭れ支持杆に嵌合可能な上下方向の取付孔が,下向突部を貫通して下方に開口するように形成され,
左右の背凭れ支持杆に,背凭れにおける左右の側部フレームの下部の取付孔を,上方より嵌合し,背凭れを左右の背凭れ支持杆により支持し,
左右の肘掛けは,上下方向を向く角柱状の取付基部と,この取付基部の上端に平板状の肘当て部の後端が連設されて全体が合成樹脂により一体成形され,
取付基部の上端部の段付孔に外側方より挿入したボルトを,側部フレームの下部の側面に設けた通孔に挿通して,背凭れ支持杆の上端に取付けた取付金具のめねじ孔に螺合されることで,肘掛けは,背凭れの側部フレームの外側面に固定され,かつ同時に,背凭れの側部フレームも,共通のボルトにより背凭れ支持杆に固定されるものであって,
背凭れ支持杆,後部脚杆,下部脚杆,前部脚杆,上部脚杆,折曲部5bにかけて,連続した金属パイプで,側面視において閉ループ状に構成される椅子。」


(2)引用文献2:欧州特許第1413229号明細書(異議申立書における甲第2号証),(訳文は,異議申立人が平成30年4月17日に提出した「甲第2号証の全文全訳」による。)
ア「図に示す椅子は座部2-5から成り,当該座部はフレーム1に担持される。」(異議申立人が平成30年4月17日に提出した回答書の「甲第2号証の全文全訳」における[0013]の第1行。(以下も同じ。))

イ「フレーム1は概ね管材料から成り,前脚10,10’及び後脚11,11’を有する。」([0013]の第5?6行。)

ウ「前脚10,10’は上方で,水平に延在する弓型部12に接続し,当該弓型部は座部のための受容面を形成する。両の後脚11,11’は,後方領域に溶接された結合体13,13’を用いて,それぞれ外側から弓型部12に設けられており,上方足端部111,111’は座部の面の上方にある。」([0013]の第9?12行。)

エ「後脚11,11’の上端部111,111’には,単一部材型もたれ部7が載置され,当該もたれ部は,二つの同一の肘掛け71,71’と,当該肘掛けから延びる結合部70,70’と背もたれ72とに分けられる。結合部70,70’からは管体73,73’が突出し,当該管体は上端部111,111’に固定的に挿入されるように定められている。」([0014]の第1?4行。)

オ「管体73,73’は好ましくは,もたれ部7のプラスチック質量体に鋳込まれており,下方部分730,730’が突出して,上方足端部111,111’に挿入されるようになっている。」([0015]の下から第11?9行。)

カ Fig.1B,Fig.2,Fig.5A,及びFig.5Bから,肘掛け71,71’と,当該肘掛けから延びる結合部70,70とは,側面視においてくの字状に屈曲した形状であることが看て取れる。

キ 上記摘記事項エ,Fig.5A,及びFig.5Bから,肘掛け71,71’が,前後方向に延び,肘掛け71,71’の後端には背もたれ72が連接され,前端には肘掛けから延びる結合部70,70が連接され,結合部70,70’から突出した管体73,73’が上端部111,111’に固定的に挿入される点が看て取れる。

ク Fig.1B及びFig.6から,座部のための受容面の後端が,側面視において後脚11,11’が弓型部12に設けられた箇所よりも後方に位置していることが看て取れる。

上記ア乃至クによれば,引用文献2には以下の事項(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「座部を担持するフレームであって,
フレームは概ね管材料から成り,前脚及び後脚を有し,
前脚は上方で,水平に延在して座部のための受容面を形成するする弓型部に接続し,
後脚は,後方領域に溶接された結合体を用いて,それぞれ外側から弓型部に設けられ,
後脚の上端部には,プラスチック質量体からなる単一部材型もたれ部が載置され,当該もたれ部は,二つの同一の肘掛けと,当該肘掛けから延びる結合部と背もたれとに分けられるものであって,
肘掛けが,前後方向に延び,肘掛けの後端には背もたれが連接され,肘掛けの前端には結合部が連接され,
結合部からは管体が突出し,当該管体は後脚の上端部に固定的に挿入され,
肘掛けと,当該肘掛けから延びる結合部とは,側面視においてくの字状に屈曲した形状であり,
座部のための受容面の後端が,側面視において後脚が弓型部に設けられた箇所よりも後方に位置している椅子。」

(3)引用文献3:特許第5126767号公報
ア「【0015】
本実施形態に係る椅子Cは,図1ないし図5に示すように,椅子本体1と,この椅子本体の上方に設けた左右1対の背凭れ支持フレーム2と,この背凭れ支持フレーム2に支持させてなる背凭れ3と,この背凭れ3に座吊持機構Jを介して後端部を吊持させてなるとともに床面に対して略水平な使用位置Uと床面に対して略垂直な起立位置Sとの間で回動可能な座4とを具備する。そして,前記座4を起立位置Sに配した状態で,図6に示すように,同一構造の椅子Cを前後方向にスタッキングすることが可能に構成している。なお,前記図1にはこの椅子Cの座4を使用位置Uに配した状態の全体斜視図,前記図2にはこの椅子Cの座4を起立位置Sに配した状態の全体斜視図,前記図3にはこの椅子Cの側面図,前記図4にはこの椅子Cの分解斜視図,前記図5には前記椅子本体1及び背凭れ支持フレーム2を前斜め上方から見た状態を示す図をそれぞれ示している。」

イ「【0023】
前記背凭れ3は,前記前記図1,図3,及び図4に示すように,背凭れ面3aを有する背凭れ本体31と,この背凭れ本体31の左右両側縁部から延伸する装着部32とを有する。この背凭れ3は,背凭れ保持機構Hを介して背凭れ支持フレーム2に着脱可能かつ挿脱可能に支持させている。具体的には,この背凭れ保持機構Hは,前記装着部32を前記背凭れ支持フレーム2(肘当て部22)に挿脱可能に支持させてなるものである。前記装着部32は,本実施形態では前記肘当て部22を挿入可能な筒状に構成している。前記背凭れ面3aは,本実施形態では前上方に向いていて,この背凭れ面3aが受ける荷重を背凭れ支持フレーム2に作用させた際に,前記図7に示すように,該背凭れ支持フレーム2の弾性変形に追随してこの背凭れ3が後傾するようにしている。」

ウ 【図3】及び【図6】から,肘当て部22と肘当て部22が挿入された装着部32は,水平面に対して前傾していることが看て取れる。

エ 肘当て部22が挿入された装着部32とが一体となって,肘掛け本体を構成し,そこに,使用者の肘を載置することが可能な肘当てが存在すること,並びに該肘当ての上面全域が肘当て面となることは自明である。

上記ア乃至エより,引用文献3には以下の事項(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「肘掛け本体の肘当部てが,水平面に対して前傾する肘当て面を当該肘当ての上面全域に有する椅子。」

(4)引用文献4:特公昭55-4404号公報(異議申立書における甲第4号証)
ア「本発明は椅子に係り,特に集会室やホールその他で使用される種類の椅子に係る。」(明細書第2頁第3欄第18?19行)

イ「チューブのフレーム部分21はその形状が対称の2本の互に補足し合う側部分を背もたれの中央で連結することにより単一部材を構成している。背もたれ23の背後の位置から出発するチューブのフレーム部分21には湾曲状背もたれ支えを形成する湾曲した水平背もたれ部分33がある。
湾曲状背もたれ支えは続いて水平の右肘掛32に至り(第1図),肘掛32は前方へかなりの長さに延びて快適な肘掛を提供する。肘掛パッド113は以下に詳細に説明するように装着することができる。その後チューブのフレーム部分は肘掛32の前部で湾曲され,下方かつ後方へ一直線に延長して肘掛の支え31と後脚30を形成する。」(明細書第3頁第5欄第29?41行)

ウ「パッド113,114はシート24を上げるとき(第1-15図の具体例に関して),その障碍とならないように116の位置でわずかに内側に突出し,その末端は椅子の背面パネル23後方の湾曲したテーパ内の後部117を形成しここでも連結又は積重ねを妨害するのを避けている。
フレームが肘掛32,35を提供すると同時に椅子の幅に余分なものを加えない設計である。これは本発明の重要な特徴である。さらにパッド113.114も椅子の幅をそれ以上増さない設計となっている。従って椅子は第6,16,17図が示すように座席間の空間を増さずに横方向に連結され得る。
2個又はそれ以上のT型ナツト118がプラスチック肘掛内に成形されており,肘掛は第18図に示す椅子のチューブフレーム肘掛120の上表面にある穴119に適合する。そして各T型ナツト毎に楕円形の先端ねじ121によって適所に支持され,チューブ120の下表面の穴122に挿入されて,T型ナツト118中にしっかりと通される。」(明細書第6頁第3欄第16?36行)

エ FIG.1,FIG.2及びFIG.4から,湾曲した後チューブ49が,後脚30,37と水平部分27,40とが交差する位置よりも後方に位置していることが看て取れる。

オ 湾曲した後チューブ49と水平部分27,40とが座受を構成していることは自明である。

上記ア乃至オより,引用文献4には以下の発明(以下,「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「チューブのフレーム部分21はその形状が対称の2本の互に補足し合う側部分を背もたれの中央で連結することにより単一部材を構成し,
背もたれ23の背後の位置から出発するチューブのフレーム部分21には湾曲状背もたれ支えを形成する湾曲した水平背もたれ部分33があり,
湾曲状背もたれ支えは続いて水平の右肘掛32に至り,肘掛32は前方へかなりの長さに延びて快適な肘掛を提供し,その後チューブのフレーム部分は肘掛32の前部で湾曲され,下方かつ後方へ一直線に延長して肘掛の支え31と後脚30を形成するものであり, 肘掛パッド113,114は椅子の背面パネル23後方の湾曲したテーパ内の後部117を形成し
2個又はそれ以上のT型ナツト118がプラスチック肘掛内に成形されており,肘掛はチューブフレーム肘掛120の上表面にある穴119に適合して,該各T型ナツト毎に楕円形の先端ねじ121によって適所に支持され,チューブ120の下表面の穴122に挿入されて,T型ナツト118中にしっかりと通される椅子であって,
座受を構成する湾曲した後チューブ49と水平部分27,40であって,湾曲した後チューブ49が,後脚30,37と水平部分27,40とが交差する位置よりも後方に位置している椅子。」

(5)異議申立書における甲第3号証:特開2004-194918号公報
ア「【0017】
本実施形態の椅子18は,4本の脚19,これら脚19を繋ぐ前後の横フレーム20,座21,背凭れ22等によって構成されている。この椅子18の前側に位置する横フレーム20のうち着座者の右側に向かって延長された部分は上方に向かって折り曲げられた支持アーム9とされ,跳ね上げ式のメモ台1を支持している(図6等参照)。背凭れ22の左右には着座者が肘を掛けることができる狭小な肘掛け23が設けられている。この肘掛け23とメモ台1は,着座者が右肘を肘掛け23に乗せた状態でメモ書きをしやすいようにほぼ同じ高さとされている(図8参照)。」

イ 【図8】から,背凭れ22と肘掛け23とは単一の部材であることが看て取れる。

上記ア及びイより,甲第3号証には以下の発明(以下,「甲第3号証に記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「4本の脚19,これら脚19を繋ぐ前後の横フレーム20,座21,背凭れ22と,該背凭れ22の左右には着座者が肘を掛けることができる狭小な肘掛け23が設けられており,背凭れ22と肘掛け23とは単一の部材である椅子18。」

4 判断
ア 対比
本件訂正特許発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「金属パイプ」は,本件訂正特許発明1の「金属製のパイプ材」に相当する。
以下同様に,「後部脚杆」は,「後脚」に,
「下部脚杆」は,「ベース」に,
「前部脚杆」は,「前脚」に,
「上部脚杆」は,「座受」に,
「側脚」は,「支持フレーム」に,
「背凭れ」は,「背凭れ」に,
「肘掛け」は,「肘掛け」に,
「肘当て部」は,「肘掛け本体」に,
「合成樹脂」は,「樹脂」に,
「椅子」は,「椅子」に,それぞれ相当する。
引用発明1の「後部連結杆より上方に突出する部分」は,背凭れの両側部を支持するための背凭れ支持杆であって,背凭れ支持杆には「(背凭れの)取付孔」が嵌合しているから,引用発明1の「背凭れ支持杆」,「(背凭れの)取付孔」は,「取付部」,「被取付部」の関係にあるという概念において,本件訂正特許発明1の「取付部」,「被取付部」と共通している。
引用発明1の「背凭れ」は,背凭れ支持杆に嵌合可能な上下方向の取付孔を左右の側部フレームの下部に有し,「左右の肘掛け」は,背凭れの側部フレームの外側面に固定され,「背凭れ」及び「左右の肘掛け」は,共通のボルトにより背凭れ支持杆に固定されるものであって,「背凭れ支持杆」は「後部脚杆」の一部であり「側脚」を構成する部材であるから,引用発明1は「側脚」に支持された「背凭れ」及び「左右の肘掛け」を有するものであるといえ,本件訂正特許発明1の「支持フレーム」に支持された「肘掛け」及び「背凭れ」を備える椅子という概念において共通している。
以上のことより,両者は,
〈一致点〉
「金属製のパイプ材により構成され,後脚と,この後脚の下端部に連続させて前方に延出するベースと,このベースの前端に連続し上方に起立する前脚と,この前脚の上端に連続し後方に延出する座受とを共通のパイプ材により一体に形成し,側面視において閉ループ構造を有した支持フレームと,肘掛けと,背凭れとを備えてなる椅子であって,
前記背凭れと前記肘掛けとが樹脂により成形されたものであり,
前記肘掛けが,前後方向に延び後端が前記背凭れに取り付けられる肘掛け本体を備えてなる椅子」である点で一致し,以下の点で相違している。
<相違点1>
本件訂正特許発明1の「背凭れ」は,「支持フレームに肘掛けを介して支持された背凭れ」であるところ,引用発明1の「背凭れ」は,支持フレームに肘掛けを介して支持されたものではない点。
<相違点2>
本件訂正特許発明1において,「背凭れと前記肘掛けとが樹脂により一体に成形されたもの」であるところ,引用発明1の「背凭れと肘掛け」は,樹脂により一体に成形されたものではない点。
<相違点3>
本件訂正特許発明1において,「肘掛け」が,「前後方向に延び後端が背凭れに連設された肘掛け本体と,肘掛け本体の前端に設けられ後脚の上端部に備えた取付部に取り付けられる被取付部とを備える」のに対して,引用発明1の「肘掛け」は「(肘掛け本体の)後端が背凭れに連設」されたものでも,「(肘掛け本体の)前端に設けられ後脚の上端部に備えた取付部に取り付けられる被取付部とを備える」ものでもない点。
<相違点4>
本件訂正特許発明1において,「肘掛け本体と被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形」したものであるところ,引用発明1の「肘掛け本体と被取付部」は,「側面視においてくの字状に屈曲した形状」でも「一体に成形」したものでもない点。
<相違点5>
「被取付部」に関して,本件訂正特許発明1のものは「肘掛け」が備え,かつ「同一構造をなす他の椅子の被取付部の背面と本件椅子の被取付部の前面とが当接又は近接する状態で当該他の椅子をスタッキングさせることができるようにしたものであり,前記被取付部が下方に開口する有底筒状をなしたものであり,前記被取付部の前後方向の外形寸法が,前記被取付部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定」されているのに対して,本件訂正特許発明1の「被取付部」に対応する,引用発明1の「(背凭れの)取付孔」は,「背凭れ」が備え,引用発明1の椅子が「スタッキングできる」かについて不明であるところ,仮にスタッキングができたとしても「同一構造をなす他の椅子の被取付部の背面と本件椅子の被取付部の前面とが当接又は近接する」かについては不明であり,「被取付部の前後方向と左右方向の外形寸法の比」が不明である点。

上記相違点について検討する。
事案に鑑み,相違点5について検討する。
引用文献2乃至4において,相違点5に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項である「同一構造をなす他の椅子の被取付部の背面と本件椅子の被取付部の前面とが当接又は近接する状態で当該他の椅子をスタッキングさせることができるようにしたものであり,前記被取付部が下方に開口する有底筒状をなしたものであり,前記被取付部の前後方向の外形寸法が,前記被取付部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定」することについて,記載も示唆もされておらず,該発明特定事項は本願出願前において周知技術であるともいえない。
そして,本件訂正特許発明1は,当該発明特定事項のうち特に「被取付部の前後方向の外形寸法が,前記被取付部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定」することを備えることによって「スタッキングに伴う前後方向のピッチを短くする(段落【0032】)」という,本願明細書に記載された顕著な効果を奏するものである。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,請求項1に係る発明は,引用発明1乃至4に記載された各引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
また,請求項2乃至4はいずれも,本件訂正特許発明1である請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用しており,本件訂正特許発明1が引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件訂正特許発明に新たな発明特定事項を付加して限定した請求項2乃至4に係る係る特許も,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

なお,異議申立人は平成30年10月12日提出の意見書に添付した参考資料1(実願昭57-65413号(実開昭58-168248号)のマイクロフィルム),及び参考資料2(意匠登録第1465820号公報)を提出し,上記参考資料1及び2には「椅子をスタッキングさせるために,被取付部の前後方向の外形寸法が,被取付部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定されているようにすることは,周知の事項である。」と述べているので検討する。
参考資料1のいすにおいて,本件訂正特許発明1の「被取付部」に相当する部材は,被取付部が肘掛けに設けられていることを踏まえると「被連結部13,23」である。
そして,参考資料1の明細書第7頁第6?12行に「座板Aにおける連結部2が芯板1の側方に突出した状態に設けられているので,いすを積重ねる際,上記連結部や脚体B,背もたれ部材Cが他のいすの座板A…を上下に重ね合わせた状態に積上げていくことができる。」と記載されており,参考資料1のいすは,異議申立人の主張するとおり「被連結部の前後方向の外形寸法が,被連結部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定」されているとしても,そのことによって「スタッキングに伴う前後方向のピッチを短くする」という効果を奏するために設定されたものであるとは認められない。
参考資料2の椅子において,肘掛けと後脚がどのように取り付けられているかについて具体的な構造について明らかではないが,【右側面図】の肘掛けの前端から側面視において屈曲し,かつ下方に延出して後脚に連結される「部分」が,本件訂正特許発明1の「被取付部」の相当すると認められる。
しかしながら,【積み重ねた状態を示す参考図】及び【B-B拡大断面図】から,上記「部分」は,パイプ状の後脚を同心円状に被覆していると考えられ,異議申立人の主張するとおり「部分の前後方向の外形寸法が,部分の左右方向の外形寸法よりも小さく設定」されていると認めることはできない。
仮に肘掛け前端部を含めて「部分の前後方向の外形寸法が,部分の左右方向の外形寸法よりも小さく設定」されているとしても,そのことによって「スタッキングに伴う前後方向のピッチを短くする」という効果を奏するために設定されたものと認めることはできない。
以上のとおりであるから,参考資料1及び2の存在によっても「スタッキングに伴う前後方向のピッチを短くする」ために,「椅子の被取付部の前後方向の外形寸法が,被取付部の左右方向の外形寸法よりも小さく設定」されていることは,周知の事項であるとはいえない。

5 平成30年4月24日付けで通知した取消理由について
当審において,平成30年4月24日付けで通知した取消理由は,平成30年6月26日付けで通知した取消理由における引用文献1乃至4と同じ引用文献1乃至4を用いたものであって,その概要は以下のとおりである。
本件の請求項1乃至4に係る特許は,本件出願日前に日本国内において頒布された下記の引用文献1乃至4に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。
しかしながら,本件訂正特許発明1と引用発明1との間に上記相違点5が存在することは,「(1)平成30年6月26日付けで通知した取消理由」で検討したとおりであり,相違点5に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項が,引用発明2乃至4において記載も示唆もなく,該発明特定事項が本願出願前において周知技術であるともいえないことも,上述のとおりである。。
したがって,本件訂正特許発明1は,相違点5に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項により,他の相違点について検討するまでもなく,引用文献1乃至4に記載された各引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
また,請求項2乃至4はいずれも,本件訂正特許発明1である請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用しており,本件訂正特許発明1が引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件訂正特許発明1に新たな発明特定事項を付加して限定した請求項2乃至4に係る係る特許も,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人の主張
ア 特許異議申立人は,訂正前の特許請求の範囲に関し,特許異議申立書において,本件特許発明1は甲第1号証,甲第2号証に記載の発明及び甲第2号証,甲第3号証,甲第4号証に記載の周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものと主張している。
イ 特許異議申立人は,訂正前の特許請求の範囲に関し,特許異議申立書において,本件の請求項1乃至4に係る発明の特許は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものと主張している。
(2)アについて検討する。
ア 本件訂正特許発明1について
特許異議申立人のいう,甲第2号証,甲第3号証,甲第4号証に記載の周知の事項とは,背凭れが「支持フレームに肘掛けを介して支持され」るようにし,前後方向に延び後端が前記背凭れに連設された肘掛け本体が,「この肘掛け本体の前端に設けられ前記後脚の上端部に備えた取付部に取り付けられる被取付部とを備えてなり,前記肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形」することである。(特許異議申立書第12頁第5乃至9行)
そして,本件訂正特許発明1と甲第1号証に記載の発明である引用発明1との間に相違点5が存在することは,「第3 取消理由について」,「4 判断」,「ア 対比」で述べたとおりである。
また,相違点5に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項に関して,甲第2及び甲第4号証に記載の発明(引用発明2及び4)において記載も示唆もないことも,「第3 取消理由について」,「4 判断」,「ア 対比」で述べたとおりである。
さらに,甲第3号証に記載の発明について検討すると,甲第3号証に周知の事項が記載されているとしても,相違点5に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項について記載も示唆もない。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明1は甲第1号証,甲第2号証に記載の発明及び甲第2号証,甲第3号証,甲第4号証に記載の周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)イについて検討する。
本件訂正特許発明1における「肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形している」は,肘掛け本体と被取付部との形状を「側面視においてくの字状に屈曲した」と限定し,さらに肘掛け本体と被取付部とが「一体に成形」と,両部材が単一の部材であるのか別部材であるのかを限定しているにすぎないものである。
そして,明細書の段落【0034】の「そして,嵌合凹部u1が,肘掛け本体21と被取付部uとによって形成された屈曲部分Fに位置するように設定されている。このように構成することにより,荷重が集中し易い屈曲部分Fにおける樹脂の肉厚を多く得るようにしている。」は,屈曲部分Fにおける樹脂の肉厚を多くすることを述べているのであって,肘掛け本体と被取付部との形状や肘掛け本体と被取付部の部材の構成とは関係がない。
したがって,本件訂正特許発明1における上記発明特定事項と,明細書の段落【0034】の当該記載とは互いに関連ある記載ではないから,このことをもって,特許請求の範囲に関して,本件の請求項1乃至4に係る発明が,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えると認めることはできない。
また,「くの字状」については,技術常識として,極端な鋭角や鈍角を除き,屈曲部に対して通常用いられる用語であり,本件訂正特許発明1においても,椅子の肘掛けと一体に成形された被取付部が,常識の範囲内の角度をもって屈曲していることを限定しているにすぎず,本件訂正特許発明1においてこの用語が用いられることで,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるとは認められない。
したがって,本件の請求項1乃至4に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではなく,発明の詳細な説明に記載されたものであるから,本件の請求項1乃至4に係る発明の特許は,特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていないものに対してされたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1乃至4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1乃至4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
椅子
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、背凭れと肘掛けとが樹脂により一体に成形された椅子が知られている(例えば、特許文献1を参照)。このものは、一定の強度を確保するため、支持フレームが、比較的大きな径をなすパイプ素材により構成されており、当該支持フレームを構成する後脚の上端部分が、肘掛けの前側の部位に接続するようになっている。
【0003】
ところが、従来のものでは、背凭れ及び肘掛けにかかる荷重の殆どが、後脚により受け付けられる構造になっているため、支持フレームの強度を確保するための設計自由度が低いものとなっており、例えば、支持フレームを小径化するにあたっては一定の限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-194918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に着目してなされたもので、背凭れと肘掛けとが樹脂により一体成形された椅子において、支持フレームの強度を確保するための設計自由度の高い椅子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の椅子は次の構成をなしている。
【0007】
請求項1に記載の椅子は、金属製のパイプ材により構成され、後脚と、この後脚の下端部に連続させて前方に延出するベースと、このベースの前端に連続し上方に起立する前脚と、この前脚の上端に連続し後方に延出する座受とを共通のパイプ材により一体に形成し、側面視において閉ループ構造を有した支持フレームと、この支持フレームに肘掛けを介して支持された背凭れとを備えてなる椅子であって、前記背凭れと前記肘掛けとが樹脂により一体に成形されたものであり、前記肘掛けが、前後方向に延び後端が前記背凭れに連設された肘掛け本体と、この肘掛け本体の前端に設けられ前記後脚の上端部に備えた取付部に取り付けられる被取付部とを備えてなり、前記肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形しているものであり、同一構造をなす他の椅子の被取付部の背面と本件椅子の被取付部の前面とが当接又は近接する状態で当該他の椅子をスタッキングさせることができるようにしたものであり、前記被取付部が下方に開口する有底筒状をなしたものであり、前記被取付部の前後方向の外径寸法が、前記被取付部の左右方向の外径寸法よりも小さく設定されている。
【0009】
請求項2に記載の椅子は、請求項1に係る構成において、前記パイプ材として直径13.1mm?15mmのものが適用されているものである。
【0010】
請求項3に記載の椅子は、請求項1又は2に係る構成において、前記肘掛け本体の肘当てが、水平面に対して前傾する肘当て面を当該肘当ての上面全域に有したものである。
【0011】
請求項4に記載の椅子は、請求項1、2又は3に係る構成において、前記座受の後端が、側面視において前記後脚と前記座受とが交差する位置よりも後方に位置しているものである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、背凭れと肘掛けとが樹脂により一体成形された椅子において、支持フレームの強度を確保するための設計自由度の高い椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示す斜視図。
【図2】同実施形態における正面図。
【図3】同実施形態における平面図。
【図4】同実施形態における側面図。
【図5】同実施形態における椅子に他の椅子をスタッキングした状態を示す側面図。
【図6】同実施形態における分解斜視図。
【図7】同実施形態における分解背面図。
【図8】同実施形態における後方斜視図。
【図9】図4におけるA-A線拡大断面図。
【図10】図4におけるB-B線拡大断面図。
【図11】図3におけるC-C線拡大断面図。
【図12】同実施形態における背カバーを取り付けた状態の中央側断面図。
【図13】図3におけるD-D線拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図1?13を参照して説明する。
【0016】
この実施形態は、本発明を細径のパイプ材を使用した椅子Sに適用したものである。この椅子Sは、例えば、オフィスや一般的な会議室、或いは、高齢者の多い施設等において好適に使用される。
【0017】
椅子Sは、肘掛け2及び背凭れである背板3が樹脂により一体に形成されている。そして、肘掛け2の前後方向の寸法は比較的短寸に設定されており、この肘掛け2の前側の部位を、支持フレーム1の左右の後脚11の上端部に接続させている。すなわち、肘掛け2の肘掛け本体21は支持フレーム1によって片持ち梁状に支持されており、背板3は肘掛け2を介して支持フレーム1に支持されている。椅子Sは、図5において具体的に示すように、同一構造をなす他の椅子S’を上下方向に複数スタッキング可能に構成されている。なお、説明の便宜上、図5において、椅子Sと同一構造をなす他の椅子S’の符号には「’」を付している。
【0018】
椅子Sは、支持フレーム1と、この支持フレーム1に支持された肘掛け2、背板3、及び、座4とを備えている。背板3には、背カバーTが着脱可能に取り付けられるようになっている。以下、詳述する。
【0019】
<支持フレーム>
支持フレーム1は、金属製のパイプ材t1を主体に構成されている。本実施形態の椅子Sは、パイプ材t1として直径15mm以下のものを適用することができ、具体的には、直径約13.1mmのパイプ材t1が使用されている。支持フレーム1は、上端部で肘掛け2の前側の部位に接続する後脚11と、後脚11の下端部に連続させて前方に延出するベース12と、ベース12の前端に連続し上方に起立する前脚13と、前脚13の上端に連続し後方に延出する座受14とを備え、これらを共通のパイプ材t1により一体に形成したものである。
【0020】
後脚13と座受14は側面視において交差している。後脚13と座受14とは、側面視における後脚13と座受14とが交差する位置において、水平杆15を介して相互に剛結されている。水平杆15を介して接続する後脚13及び座受14の各部分は左右方向に離間している。座受14は、後脚13よりも内側に位置している。座受14の後端は、側面視において後脚11と座受14とが交差する位置よりも後方に位置している。
【0021】
左右の座受14間には、座4を支持するための帯状をなす前横架材16と後横架材17が架設されている。左右のベース12の前側と後側の部位には、ブロック状をなす樹脂製の接地体18が取り付けられている。図5に示すように、椅子Sに、同一構造をなす他の椅子S’をスタッキングする際には、他の椅子S’の接地体18’の下面が支持フレーム1のベース12の上面に接するようになっている。
【0022】
支持フレーム1は、側面視においてループ構造を有している。具体的には、後脚11と座受14とがこれらに介在する水平杆15に対してそれぞれ溶着されており、後脚11、ベース12、前脚13、座受14、水平杆15とによって、剛性に優れた閉ループ構造を形成している。
【0023】
後脚11は、側面視において床面等の水平面に対して約65?70°の範囲で前傾している。後脚11の上端部には、肘掛け2の被取付部uが取り付けられる取付部tを備えている。
【0024】
取付部tは、上方に向かって凸形状を成すものであり、金属製のパイプ材t1と、パイプ材t1の中空部t11を埋めるように当該中空部t11に配されるとともに一部分をパイプ材t1の端部から突出させた金属製の芯金部材t2とを備えている。なお、図示している芯金部材t2は、中実のものであるが、中空パイプ状のものであってもよい。また、取付部tは、パイプ材t1の要素と中実の芯金部材t2の要素とを一体的に形成したものであっても良い。芯金部材t2におけるパイプ材t1の端部から突出させた突出部分t21には、芯金部材t2の軸心と直交する方向に第一のねじ孔h1が穿設されている。芯金部材t2は、図6に隠れ線で示すように、後脚11を構成するパイプ材t1の内部にまで延伸し、当該芯金部材t2の下端は、後脚11の下部にまで延びており、パイプ材t1の強度を向上させている。なお、支持フレーム1の取付部tと肘掛け2の被取付部uとの具体的な取り付けについては後述する。
【0025】
ベース12は、床面と略平行に配されるものであり、後脚11の下端と前脚13の下端との間を繋いでいる。
【0026】
<肘掛け>
肘掛け2は、背板3と樹脂により一体に形成されたもので、後端が背板3に連設された肘掛け本体21と、肘掛け本体21の前端に設けられた被取付部uとを備えている。肘掛け本体21と被取付部uとは樹脂により一体に形成されている。
【0027】
肘掛け本体21は、前後方向に延びるブロック状のもので、肘当て211と、肘当て211の下面に添接された補強ブロック212とを備えている。
【0028】
肘当て211は、床面等の水平面に対して約7°前傾する肘当て面を有した平板状のものである。もちろん、肘当て面の前傾角度は7°のものには限定されない。このように肘当て面を前傾に構成することで、着座者がどのような体格であっても肘掛け2の機能を有効に使うことができるものとなるとともに、着座者が立ち上がる際の補助的機能を有効に発揮するものとなる。肘当て211は、その後端部分を背板3における両側端の背面の位置よりも後方に延出させている。肘当て211の内側面は、補強ブロック212の内側面と面一に設定されている。肘当ての211の外側縁は、補強ブロック212の外側縁よりも外方に突出している。
【0029】
補強ブロック212は、上縁を肘当て211の下面に連続させるとともに前縁を被取付部uの外周面に一体化させた複数枚の壁kを備えている。本実施形態では、補強ブロック212は、左右方向に間隔をあけて平行に配された3枚の壁kと、隣接する壁k同士を結合するリブrとを備えている。リブrは、図13に示すように、後方に向かって漸次降下するように傾斜している。また、補強ブロック212の後部には、後方に向かって縦長矩形状に開口した後向き開口穴部p1が2箇所に形成され、当該後向き開口穴部p1は左右に並んで設けられている。なお、補強ブロック212には、複数の壁kの端部とリブrの端部とによって、下方に向かって縦長矩形状に開口した下向き開口穴部p2が6箇所に形成されている。補強ブロック212は、複数の後向き開口穴部p1と下向き開口穴部p2を備えているので、使用者が椅子Sを持ち運びする際に各開口穴部p1、p2に手指が引っ掛かり易いものとなり、滑り止めとしての機能を発揮し得るものとなっている。
【0030】
被取付部uは、支持フレーム1の後脚11に接続する部位をなすもので、下方に開口する有底筒状のものである。被取付部uの前後方向の外径寸法は、被取付部uの左右方向の外径寸法よりも小さく設定されている。被取付部uにおける開口部付近の下端部と肘当て211に連設する上端部を除いた部分、すなわち、被取付部uにおける上下中間部分における左右方向の外径寸法は、略同じ寸法に設定されている。被取付部uは、パイプ材t1の外径よりも小径な突出部分t21に嵌合する嵌合凹部u1と、パイプ材t1に嵌合する外嵌合部u2とを備えている。換言すれば、被取付部uは、突出部分t1が嵌合する小径穴m1と、小径穴m1に連続しパイプ材t1が嵌合する大径穴m2とを具備している。
【0031】
本実施形態の椅子Sは、図5に示すように、同一構造をなす他の椅子S’の被取付部u’が、被取付部uに当接する状態で当該他の椅子S’をスタッキングできるようになっている。より具体的に言えば、他の椅子S’の被取付部u’の背面と、椅子Sの被取付部uの前面とが当接する状態でスタッキングできるようになっている。
【0032】
そして、図10に示すように、被取付部uにおける支持フレーム1の後側に位置する部位ub、すなわち、後脚11の後側に位置する部位ubの肉厚w2は、被取付部uにおける支持フレーム1の前側に位置する部位uf、すなわち、後脚11の前側に位置する部位ufの肉厚w1よりも薄く設定されている。換言すれば、後脚11の後側に位置する部位ubの前後方向の厚み寸法w2は、被取付部uにおける支持フレーム1の前側に位置する部位ufの前後方向の厚み寸法w1よりも短く設定されている。このようにすることで、スタッキングに伴う前後方向のピッチを短くするようにしている。
【0033】
被取付部uは、側部に第一のねじ挿通孔n1を備えている。そして、芯金部材t2の突出部分t21に設けられた第一のねじ孔h1に、第一のねじ挿通孔n1を通過したねじv1を螺着することにより支持フレーム1の取付部tと肘掛け2の被取付部uとを取り付けるようにしてある。被取付部uは、後部に第二のねじ挿通孔n2を備えている。そして、パイプ材t1及び芯金部材t2に、これらパイプ材t1及び芯金部材t2の軸心と直交する方向に連通して設けられた第二のねじ孔h2に、第二のねじ挿通孔n2を通過したねじv2を螺着することにより支持フレーム1の取付部t1と肘掛け2の被取付部uとを取り付けるようにしてある。
【0034】
また、肘掛け2は、図4等に示すように、肘掛け本体21と被取付部uとが側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように樹脂により一体に成形されている。そして、嵌合凹部u1が、肘掛け本体21と被取付部uとによって形成された屈曲部分Fに位置するように設定されている。このように構成することにより、荷重が集中し易い屈曲部分Fにおける樹脂の肉厚を多く得るようにしている。
【0035】
なお、本実施形態の椅子Sは、肘掛け本体21とこの肘掛け本体21の前端に設けられた被取付部uによって側面視くの字形状を構成しており、一般的な肘掛けのように後部分を片持ち支持されて前部分を突出端としているものとは異なった構成となっている。このため、椅子Sは、着座状態から起立する際に着座者の被服等が、肘掛け2に引っ掛かりにくくなり、好適である。
【0036】
<背板>
背板3は、板状をなした樹脂製のものであり、平面視において中央部が平面視において後方に向かって凸となるように湾曲した形状をなしている。背板3は、上端部に側面視において後方に向かって屈曲する屈曲部31と、下端に外方に向けて開放された溝32とを備えている。
【0037】
背板3は、肘掛け2とともに樹脂により一体に成形されたものであり、溝32は、背板3の下縁における左右の肘掛け2間に形成されている。溝32は、下向きに開口しているものである。この溝32は、背カバーTを取り付ける際に用いられるものであるが、下方に向けて開口しているため、背カバーTを取り付けない場合であっても外観に影響を与えにくいようになっている。背板3に対する背カバーTの取り付けについては後述する。
【0038】
背板3の左右幅寸法は、支持フレーム1の左右のベース12間の離間寸法よりも短く設定されている。なお、背板3の左右縁部から外側方に突出した態様で設けられた左右の肘掛け2は、左右のベース12の略真上に位置するように設定されている。
【0039】
<座>
座4は、支持フレーム1に支持されるものであり、樹脂により形成された座本体41と、座本体41の上に配されたクッション42とを備えたものである。座4は、先端部が下方に垂れ下がった形状をなしている。
【0040】
座本体41は、左右側縁部における後側の部位に、支持フレーム1の水平杆15の覆うためのカバー部411を備えている。カバー部411は、水平杆15の周囲と後脚11の前後に位置するようになっており、具体的に言えば、水平杆15の上面側を覆う上カバー部411aと、水平杆15の前後側を覆うとともに後脚11の前後側を覆う位置まで延出した前後カバー部411bとを備えている。
【0041】
クッション22は、クッション性のあるスポンジ素材の外面に張り地を張り設けた通常のものである。
【0042】
<背カバー>
背カバーTは、背板3の少なくとも一部を覆うものである。背カバーTは、背カバー本体T1と、背カバー本体T1の下部に配された挿入部T2とを備えてなる。
【0043】
背カバー本体T1は、布や人工皮革等のシート状の素材により作られるもので、主として背板3の前面側に配される前カバー部T1aと、主として背板3の後面側に配される後カバー部T1bとを備えている。これら前後カバー部T1a、T1bの上縁部及び側縁部同士を縫い合わせることにより、下方に向かって開口された袋状部T11が形成されている。このようにして背カバーTの上部に設けられた袋状部T11は、背板3に被せるためのもので、背板3の屈曲部31と協働して装着時の位置ずれを抑制している。なお、前カバー部T1aの後側や袋状部T11の内面には、クッション性を付与したり装着安定性を付与したりするべく、別途クッション素材を設けるようにしても良い。
【0044】
挿入部T2は、背カバーTを背板3に取り付ける際に、背板3に形成された溝32に挿入されるもので、本実施形態においては、背カバー本体T1の下端に縫いつけられた樹脂製の帯状部材により構成されている。
【0045】
背カバーTの背板3への取り付けは、まず、背板3の上端部に袋状部T11を被せて所定の箇所に位置決めし、しかる後に、背カバー本体T1の下端に設けた挿入部T2の先端を背板3の下端に形成された溝32に差し入れて、背カバー本体T1の下縁部分とともに溝32の内部に押し込むことにより行われる。
【0046】
なお、背カバーTの上部を袋状にして背板3の上部に被せるようにする場合、本実施形態に示すように、背板3の上縁部には溝を設けず、下縁のみに溝32を設けるようにするのが好適である。このようにすると、背カバーTを背板3に装着しない場合には、背板3の上縁部には溝が表出しないため外観がすっきりとするものとなり、背カバーTは上部が袋状をなしているため背板3に対しても位置ずれが抑制された態様で取り付けることができるものとなる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る椅子Sは、金属製のパイプ材t1を主体に構成され側面視においてループ構造を有した支持フレーム1と、この支持フレーム1に支持された背凭れ3及び肘掛け2とを備えてなる椅子Sであり、背凭れ3と肘掛け2とが樹脂により一体に成形されたものであり、支持フレーム1が、肘掛け2の前側の部位に接続しているものである。このため、背凭れ3と肘掛け2とが樹脂一体成形されたものを、ループ構造を有した支持フレーム1により支持しているため、着座者の荷重を、支持フレーム1の全体で受け止めるものとなり、強度に優れた椅子にすることができる。例えば、本実施形態で具体的に示すように、椅子Sにおいて、パイプ材t1として比較的小径のものを適用することができるものとなる。
【0048】
支持フレーム1が、上端部で肘掛け2の前側の部位に接続する後脚11と、後脚11の下端部に連続させて前方に延出するベース12と、ベース12の前端に連続し上方に起立する前脚13と、前脚13の上端に連続し後方に延出する座受14とを共通のパイプ素材により一体に形成したものであるため、後脚11、ベース12、前脚13及び座受14を主体としたループ構造を有した支持フレーム1を構成するものとなり、比較的シンプルにループ構造を構成するものとなる。
【0049】
肘掛け2が、後端が背凭れ3に連設された肘掛け本体21と、肘掛け本体21の前端に設けられた被取付部uとを備えてなり、肘掛け本体21と被取付部uとを側面視において屈曲した形状をなすように一体に成形しているものであるため、ループ構造を有する支持フレーム1が被取付部uと接続し、肘掛け2及び背凭れ3に作用する着座者の荷重を好適に受け付けるものとなる。
【0050】
肘掛け2の肘当て211が、水平面に対して前傾する肘当て面を有したものであるので、着座者がどのような体格であっても肘掛け2の機能を有効に使うことができるものとなるとともに、着座者が立ち上がる際の補助的機能を有効に発揮するものとなる。
【0051】
座受14の後端が、側面視において後脚11と座受14とが交差する位置よりも後方に位置しているものであるため、支持フレーム1が、着座者の荷重をバランスよく受け付けるための設計の自由度に優れたものとなる。
【0052】
座受14と後脚11とを、交差する位置において水平杆15を介して相互に剛結しているものであるため、スタッキングの際に、他の椅子S’の座4’を椅子Sの座4の上に重ね易くするための設計自由度に優れたものとなる。
【0053】
座受14に支持される座4が、水平杆15を覆うカバー部411を備えているものであるため、水平杆15の周囲を外観上好適なものとすることができるとともに、支持フレーム1に座4を取り付ける際には、位置決め部として好適に機能するものとなる。
【0054】
肘掛け本体21が、肘当て211と、肘当て211の下面に添接された補強ブロック212とを備えたものであるため、強度に優れた肘掛け本体21を提供することができ、上下方向の寸法を抑制することによりスタッキング効率の良好に寄与し得るものとなる。
【0055】
補強ブロック212が、上縁を肘当て211の下面に連続させるとともに前縁を被取付部uの外周面に一体化させた複数枚の壁kを備えたものであるので、いわゆる構造材として軽量化に優れるとともに強度に優れたものとなる。
【0056】
肘掛け本体21における補強ブロック212のリブrが、後方に向かって漸次降下するように傾斜しているため、個性的な外観の表出に寄与し得るものとなるとともに、壁kとリブrにより構成される下向き開口穴部p2の数や大きさを設定し易いものとなる。
【0057】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0058】
上述した実施形態では、支持フレームのループ構造は、水平杆の存在を前提としているものであったが、このようなものには限定されず、水平杆の無い態様でループ構造を形成するようにしても良い。例えば、後脚と座受とを溶接等により直接接続する態様などが考えられる。
【0059】
(削除)
【0060】
上述した実施形態では、被取付部が嵌合凹部と外嵌合部とを備えたものを示したが、これに限定されるものではなく、少なくとも取付部の突出部分が内嵌される嵌合凹部を備えたものであれば良い。
【0061】
上述した実施形態では、背カバーTを取り付けるための溝が、背板の下縁にのみ形成されているものを示したが、これに限定されるものではなく、溝を背板の周囲に適宜形成するようにしてもよい。
【0062】
上述した実施形態では、背カバーの挿入部が、帯状であるものを示したが、これに限定されるものではない。例えば、挿入部がコード部材や紐等の線状体であってもよい。
【0063】
上述した実施形態では、被取付部における支持フレーム(後脚)の後側に位置する部位の肉厚が、被取付部における支持フレームの前側に位置する部位の肉厚よりも薄く設定されているものを示したが、これに限定されるものではなく、逆に、被取付部における支持フレームの前側に位置する部位の肉厚が、被取付部における支持フレームの後側に位置する部位の肉厚よりも薄く設定されているものであってもよい。
【0064】
上述した実施形態では、椅子に同一構造をなす他の椅子をスタッキングする際に、同一構造をなす他の椅子の被取付部が、椅子の被取付部に当接するものを示したが、これに限定されるものではなく、近接するものであれば良い。
【0065】
上述した実施形態では、取付部に第一のねじ孔と第二のねじ孔を設け、これらにねじをそれぞれ螺着させて被取付部を取り付けるようにしたいわゆる2箇所ねじ止め構造を有するものについて説明をしたが、必ずしも、このような構成に限定されるものではなく、1箇所ねじ止め構造であってもよい。例えば、第一のねじ孔に第一のねじを螺着して取り付けるだけの構成としても良いし、第二のねじ孔に第二のねじを螺着して取り付けるだけの構成としても良い。
【0066】
(削除)
【0067】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…支持フレーム
2…肘掛け
3…背凭れ
4…座
T…背カバー
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のパイプ材により構成され、後脚と、この後脚の下端部に連続させて前方に延出するベースと、このベースの前端に連続し上方に起立する前脚と、この前脚の上端に連続し後方に延出する座受とを共通のパイプ材により一体に形成し、側面視において閉ループ構造を有した支持フレームと、この支持フレームに肘掛けを介して支持された背凭れとを備えてなる椅子であって、
前記背凭れと前記肘掛けとが樹脂により一体に成形されたものであり、
前記肘掛けが、前後方向に延び後端が前記背凭れに連設された肘掛け本体と、この肘掛け本体の前端に設けられ前記後脚の上端部に備えた取付部に取り付けられる被取付部とを備えてなり、
前記肘掛け本体と前記被取付部とを側面視においてくの字状に屈曲した形状をなすように一体に成形しているものであり、
同一構造をなす他の椅子の被取付部の背面と本件椅子の被取付部の前面とが当接又は近接する状態で当該他の椅子をスタッキングさせることができるようにしたものであり、
前記被取付部が下方に開口する有底筒状をなしたものであり、
前記被取付部の前後方向の外径寸法が、前記被取付部の左右方向の外径寸法よりも小さく設定されていることを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記パイプ材として直径13.1mm?15mmのものが適用されている請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記肘掛け本体の肘当てが、水平面に対して前傾する肘当て面を当該肘当ての上面全域に有したものである請求項1又は2記載の椅子。
【請求項4】
前記座受の後端が、側面視において前記後脚と前記座受とが交差する位置よりも後方に位置している請求項1、2又は3記載の椅子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-08 
出願番号 特願2013-108318(P2013-108318)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A47C)
P 1 651・ 537- YAA (A47C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山口 賢一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 吉村 尚
畑井 順一
登録日 2017-06-23 
登録番号 特許第6161405号(P6161405)
権利者 タカノ株式会社 コクヨ株式会社
発明の名称 椅子  
代理人 宮澤 岳志  
代理人 赤澤 一博  
代理人 宮澤 岳志  
代理人 赤澤 一博  
代理人 宮澤 岳志  
代理人 赤澤 一博  

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