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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09J |
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管理番号 | 1347639 |
異議申立番号 | 異議2018-700247 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-26 |
確定日 | 2018-11-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6205081号発明「粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6205081号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6205081号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6205081号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成29年2月8日(優先権主張 平成28年8月10日、日本国)の出願であって、平成29年9月8日にその特許権の設定登録がされ、同年9月27日に特許掲載公報が発行され、平成30年3月26日に、その特許について、特許異議申立人岡田佐和により、特許異議の申立てがされ(以下、特許異議申立人を単に「申立人」ということもある。)、当審より、同年5月18日付けで取消理由が通知され、特許権者は同年7月20日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人からの意見書は提出されなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記ベースポリマーを構成するモノマー成分はカルボキシ基含有モノマーを含み」とあるのを、「前記ベースポリマーを構成するモノマー成分はカルボキシ基含有モノマーを含み、前記モノマー成分における前記カルボキシ基含有モノマーの含有量は3重量%超であり」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して8重量部未満である」とあるのを、「前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して8重量部未満であり、かつ前記ベースポリマーを構成するモノマー成分に含まれる前記カルボキシ基含有モノマー10重量部当たり0.2重量部以上15重量部以下であり、/前記粘着剤層は粘着付与樹脂を含み、前記粘着付与樹脂の含有量は前記ベースポリマー100重量部に対して10重量部以上であり、/前記粘着付与樹脂は水酸基価30mKOH/g以上の粘着付与樹脂を含む」(読点の後の斜線は改行を示す。)に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「前記カルボキシ基含有モノマーの含有量は3重量%超」とあるのを、「前記カルボキシ基含有モノマーの含有量は3.2重量%以上15重量%以下」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に「前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマーを構成するモノマー成分に含まれる前記カルボキシ基含有モノマー10重量部当たり0.2重量部以上15重量部以下」とあるのを、「前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して0.3重量部以上8重量部未満」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に「前記粘着剤層は粘着付与樹脂を含む」とあるのを、「前記粘着剤層は、前記水酸基価30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂としてテルペンフェノール樹脂を含む」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に「前記粘着付与樹脂として、水酸基価30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含む」とあるのを、「前記テルペンフェノール樹脂の水酸基価は30mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項について (1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について ア 訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、本件明細書の【0011】等の記載に基いて、ベースポリマーを構成するモノマー成分のカルボキシ基含有モノマーの含有量について、3重量%であることを特定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?10も同様に訂正する。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項1において、本件明細書の【0057】、【0079】、【0081】等の記載に基いて、アゾール系防錆剤の含有量について、ベースポリマーを構成するモノマー成分に含まれるカルボキシ基含有モノマー10重量部当たり0.2重量部以上15重量部以下であり、前記粘着剤層は粘着付与樹脂を含み、前記粘着付与樹脂の含有量は前記ベースポリマー100重量部に対して10重量部以上であり、前記粘着付与樹脂は水酸基価30mKOH/g以上の粘着付与樹脂を含む点を特定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?10も同様に訂正する。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項4において、本件明細書の【0036】等の記載に基いて、カルボキシ基含有モノマーの含有量について、3.2重量%以上15重量%以下と特定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?10も同様に訂正する。 エ 訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項5において、本件明細書の【0056】等の記載に基いて、粘着剤層におけるアゾール系防錆剤の含有量について、ベースポリマー100重量部に対して0.3重量部以上8重量部未満である点を特定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6?10も同様に訂正する。 オ 訂正事項5について 訂正事項5は、訂正前の請求項6において、本件明細書の【0083】等の記載に基いて、粘着付与樹脂を、テルペンフェノール樹脂を含む点を特定するものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7?10も同様に訂正する。 カ 訂正事項6について 訂正事項6は、訂正前の請求項7において、本件明細書の【0084】等の記載に基いて、粘着付与樹脂がテルペンフェノール樹脂であって、水酸基価は30mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である点を特定するものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?10も同様に訂正する。 (2)一群の請求項について 訂正前の請求項1?10について、請求項2が請求項1を引用し、請求項3が請求項1又は2を引用し、請求項4が請求項1?3のいずれかを引用し、請求項5が請求項1?4のいずれかを引用し、請求項6が請求項1?5のいずれかを引用し、請求項7が請求項6を引用し、請求項8が請求項1?7のいずれかを引用し、請求項9が請求項1?8のいずれかを引用し、請求項10が請求項1?9のいずれかを引用することから、請求項1?10は一群の請求項をなし、訂正事項1?6は、該一群の請求項に関係する訂正であるから、本件訂正の請求は一群の請求項ごとにされたものである。 (3)まとめ 上記(1)、(2)より、訂正事項1?6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件特許の特許請求の範囲について、上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 粘着剤層を含む粘着シートであって、 前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、架橋剤と、アゾール系防錆剤と、を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、 前記架橋剤はイソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤を含み、 前記ベースポリマーを構成するモノマー成分はカルボキシ基含有モノマーを含み、前記モノマー成分における前記カルボキシ基含有モノマーの含有量は3重量%超であり、 前記粘着剤層における前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して8重量部未満であり、かつ前記ベースポリマーを構成するモノマー成分に含まれる前記カルボキシ基含有モノマー10重量部当たり0.2重量部以上15重量部以下であり、 前記粘着剤層は粘着付与樹脂を含み、前記粘着付与樹脂の含有量は前記ベースポリマー100重量部に対して10重量部以上であり、 前記粘着付与樹脂は水酸基価30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含む、粘着シート。 【請求項2】 前記粘着剤層は、300kHzにおける比誘電率が3以上である、請求項1に記載の粘着シート。 【請求項3】 前記ベースポリマーを構成するモノマー成分は、炭素原子数が4以下のアルキル基をエステル末端に有する(メタ)アクリレートを該モノマー成分の50重量%以上含む、請求項1または2に記載の粘着シート。 【請求項4】 前記モノマー成分における前記カルボキシ基含有モノマーの含有量は3.2重量%以上15重量%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項5】 前記粘着剤層における前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して0.3重量部以上8重量部未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項6】 前記粘着剤層は、前記水酸基価30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂としてテルペンフェノール樹脂を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項7】 前記テルペンフェノール樹脂の水酸基価は30mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である、請求項6に記載の粘着シート。 【請求項8】 ポリエチレンテレフタレートに対する室温剥離強度が15N/25mm以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項9】 前記アゾール系防錆剤として、1,2,3-ベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、4-メチルベンゾトリアゾールおよびカルボキシベンゾトリアゾールからなる群から選択される少なくとも1種のベンゾトリアゾール系化合物を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項10】 携帯電子機器において部材の固定に用いられる、請求項1から9のいずれか一項に記載の粘着シート。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 訂正前の請求項1?10に係る特許に対して、平成30年5月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)理由1及び2(特許法第29条第1項第3号及び同条第2項) 訂正前の請求項1?10に係る発明は、引用例(国際公開第2012/173247号、甲第1号証)に記載された引用発明1、2と同一であるから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである(理由1)。 また、そうでないとしても、訂正前の請求項1?10に係る発明は、引用発明1、2から当業者が容易に想到し得るものであって、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(理由2)。 (2)理由3(同法第36条第6項第1号) 本件発明の課題を解決するためには、本件発明で規定した発明特定事項以外に、カルボキシ基含有モノマーの組成比、粘着付与樹脂の存在(種類、配合量)及びアゾール系防錆剤の配合量の下限値の3要件が特定されることが必要であるといえるところ、本件発明1ないし本件発明10には、これら3要件を全て満たす請求項は存在しない。 そのため、本件発明1ないし本件発明10は、本件特許明細書の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであって、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2.判断 (1)理由1及び2について ア 引用例の記載 引用例には、次の記載がある。 「[0001]本発明は、高温環境下でアウトガスを発生する被着体、例えばポリカーボネート板やアクリル板を被着体として用いた場合にでも、接着界面で発生する発泡や浮き剥がれを抑え、同時に金属薄膜の劣化をも抑制することのできる透明粘着テープに関する。また、該透明粘着テープを用いて製造される金属薄膜付フィルム積層体、カバーパネル-タッチパネルモジュール積層体、カバーパネル-ディスプレイパネルモジュール積層体、タッチパネルモジュール-ディスプレイパネルモジュール積層体、及び、画像表示装置に関する。 [0002]ディスプレイパネルは様々な分野で用いられており、特に携帯電話、携帯情報端末等においては画像表示装置だけではなく入力装置にも用いられている。このような入力装置においては、例えばアクリル系粘着剤等の透明性の高い粘着剤又は透明粘着テープを介して、タッチパネルと表面のカバーパネルとが貼り合わされている。従来、タッチパネルのカバーパネルとしてはガラス板が用いられてきたが、最近ではガラス板以外にも、安全で軽量なポリカーボネート板、アクリル板等を用いる場合も増えてきている。」 「[0008]本発明は、高温環境下でアウトガスを発生する被着体、例えばポリカーボネート板やアクリル板を被着体として用いた場合にでも、接着界面で発生する発泡や浮き剥がれを抑え、同時に金属薄膜の劣化をも抑制することのできる透明粘着テープを提供することを目的とする。また、該透明粘着テープを用いて製造される金属薄膜付フィルム積層体、カバーパネル-タッチパネルモジュール積層体、カバーパネル-ディスプレイパネルモジュール積層体、タッチパネルモジュール-ディスプレイパネルモジュール積層体、及び、画像表示装置を提供することを目的とする。」 「[0022]上記粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を主成分とする。 なお、本明細書において「主成分とする」とは、上記粘着剤が(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を全量に対して、通常、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上含有することを意味する。 ・・・(略)・・・ [0044]上記エチレンオキサイドの繰り返し数が8?45のポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーのうち、市販品として、例えば、ブレンマーPME-1000(エチレンオキサイドの繰り返し数=23、末端メチル基、日油社製)、ブレンマーPME-400(エチレンオキサイドの繰り返し数=9、末端メチル基、日油社製)、ブレンマーPME-2000(エチレンオキサイドの繰り返し数=45、末端メチル基、日油社製)、NKエステルAM-130G(エチレンオキサイドの繰り返し数=13、末端メチル基、新中村化学工業社製)、ライトエステル041MA(エチレンオキサイドの繰り返し数=30、末端メチル基、共栄社化学社製)、ブレンマーPSE-1300(エチレンオキサイドの繰り返し数=30、末端オクタデシル基、日油社製)、ブレンマーAE-400(エチレンオキサイドの繰り返し数=10、末端水酸基、日油社製)、ブレンマーANE-1300(エチレンオキサイドの繰り返し数=30、末端ノニルフェニル基、日油社製)等が挙げられる。 ・・・(略)・・・ [0048]上記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が上記カルボキシル基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーに由来する構成単位を含有する場合、上記カルボキシル基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーに由来する構成単位の割合は特に限定されないが、好ましい上限が3重量%である。上記カルボキシル基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーに由来する構成単位が3重量%を超えると、ITO等の金属又は金属酸化物を含有する金属薄膜を被着体とする場合に、該金属薄膜を劣化させやすくなることがある。上記カルボキシル基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーに由来する構成単位の割合のより好ましい上限は1.5重量%であり、更に好ましい上限は0.5重量%である。」 「[0061]上記粘着剤組成物は、架橋剤を含有することが好ましい。上記架橋剤を含有することで、上記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体に架橋構造を形成することができる。また、上記架橋剤の種類又は量を適宜調整することで、得られる粘着剤のゲル分率を所定範囲に調整することができる。 [0062]上記架橋剤は特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤等が挙げられる。なかでも、耐熱性及び耐久性等の性能を発現しやすいことから、イソシアネート系架橋剤及び/又はエポキシ系架橋剤が好適である。 [0063]上記イソシアネート系架橋剤は特に限定されないが、脂肪族イソシアネート系架橋剤が好ましい。上記脂肪族イソシアネート系架橋剤のうち、市販品として、例えば、コロネートHX(日本ポリウレタン社製)、マイテックNY260A(三菱化学社製)等が挙げられる。 上記エポキシ系架橋剤は特に限定されないが、脂肪族エポキシ系架橋剤が好ましい。上記脂肪族エポキシ系架橋剤のうち、市販品として、例えば、デナコールEX212、デナコールEX214(いずれもナガセケムテックス社製)、E-5C(綜研化学社製)等が挙げられ、その他のエポキシ系架橋剤としては、例えば、E-AX(綜研化学社製)等が挙げられる。」 「[0065]上記粘着組成物は、防錆剤を含有することが好ましい。防錆剤を含有することにより、本発明の透明粘着テープをタッチパネルの貼り合わせに用い、粘着剤層が金属又は金属酸化物を含有する金属薄膜付のフィルムの金属箔膜面に対して直接接触した場合にでも、金属薄膜の劣化をより防止することができる。 [0066]上記防錆剤は特に限定されず、例えば、ベンゾトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、アミン塩類、低級脂肪酸及びこれらの塩類、エチランジアミンテトラ酢酸、グルコン酸、ニトリロトリ酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、クエン酸ソーダ等の従来公知の防錆剤を用いることができる。なかでも、ベンゾトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾールが好ましい。」 「[0068]上記粘着剤組成物は、更に、粘着付与樹脂を含有してもよい。 上記粘着付与樹脂は特に限定されず、例えば、キシレン樹脂、フェノール樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等が挙げられる。これらの粘着付与樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、キシレン樹脂が好ましく、キシレン樹脂のアルキルフェノール反応物がより好ましい。 また、上記粘着付与樹脂として、水素添加された樹脂が好ましく、このような水素添加された樹脂を用いることで、得られる粘着剤層の透明性が高まる。 [0069]上記粘着剤組成物は、更に、シランカップリング剤を含有することが好ましい。通常、ITO等の金属又は金属酸化物を含有する金属薄膜を被着体とした場合にアクリル系粘着剤を用いると金属薄膜の劣化による抵抗値の低下が起こるが、上記粘着剤組成物がシランカップリング剤を含有することにより、ITO等の金属又は金属酸化物を含有する金属薄膜を被着体とした場合にも高温高湿下で生じる金属薄膜の劣化による抵抗値の低下を抑制することができる。また、上記シランカップリング剤を含有することで、得られる粘着剤層は、被着体に対する密着性が向上する。」 「[0094] [図1]本発明の透明粘着テープを用いて、表面を保護するためのカバーパネルを、ディスプレイパネルモジュール又はタッチパネルモジュールの表面に貼り合わせた携帯電話、携帯情報端末等の画像表示装置を示す模式図である。」 「[0096](実施例1) (1)(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の製造 温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器内に、エチルアクリレート30重量部と、n-ブチルアクリレート44.8重量部と、イソボルニルアクリレート21重量部と、ポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしてブレンマーPME-1000(エチレンオキサイドの繰り返し数=23、末端メチル基、日油社製)3重量部と、アクリル酸1重量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.2重量部と、これらモノマー100重量部に対して酢酸エチル60重量部とを加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を70℃に加熱した。30分間後、モノマー100重量部に対して0.12重量部の重合開始剤としてのt-ヘキシルパーオキシピバレートを40重量部の酢酸エチルで希釈し、得られた重合開始剤溶液を上記反応器内に5時間かけて滴下添加した。その後、70℃にて、重合開始剤の添加開始から8時間反応させて、固形分50%の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液を得た。」 「[0098](2)透明粘着テープの製造 得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液に、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の固形分100重量部に対して、架橋剤としてマイテックNY260A(三菱化学社製)を固形分換算で3重量部、シランカップリング剤としてKBM-403(信越化学工業社製)を固形分換算で0.5重量部となるように添加し、攪拌して、粘着剤組成物を調製した。 得られた粘着剤組成物を、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムの離型処理面に塗工し、100℃で10分間乾燥させて粘着剤組成物溶液中の酢酸エチルを除去して、厚み50μm及び100μmの粘着剤層を形成し、更に得られた粘着剤層の上に、離型処理面が粘着剤層に接するようにして新たに用意した離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを重ね合わせて積層体を得た。得られた積層体をゴムローラにより加圧することにより、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムが両面に貼り付けられた透明粘着テープ(厚み50μm及び100μm)を得た。」 「[0104](実施例2?29、比較例1?4) (メタ)アクリル酸エステル系共重合体を構成するモノマー種及び比率、シランカップリング剤量、架橋剤種及び量等を表1?4のようにした以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル酸エステル系共重合体及び透明粘着テープを得た。また、実施例1と同様にして、損失正接の極大温度、200℃の剪断貯蔵弾性率、ゲル分率、及び、ゾル成分の分子量等を測定した。」 「[0115][表1] 」 「[0119](実施例30) (1)(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の製造 温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器内に、n-ブチルアクリレート56.5重量部と、2-エチルヘキシルアクリレート10重量部と、イソボルニルアクリレート30重量部と、ポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしてブレンマーPSE-1300(日油社製)1.5重量部と、アクリル酸1重量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート1重量部と、これらモノマー100重量部に対して酢酸エチル100重量部とを加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を60℃に加熱した。モノマー100重量部に対して0.1重量部の重合開始剤としてのアゾビスイソブチルニトリルを1重量部の酢酸エチルで希釈した。30分後、得られた重合開始剤溶液を上記60℃の反応器内に添加し、重合開始剤の添加開始から6時間反応させて、固形分50%の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液を得た。 [0120](2)透明粘着テープの製造 得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液に、シランカップリング剤、防錆剤、硬化剤等を表5に記載した配合量で添加した以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物及び透明粘着テープを得た。また、実施例1と同様にして、損失正接の極大温度、200℃の貯蔵弾性率、ゲル分率、及び、ゾル成分の分子量等を測定した。 [0121](実施例31?34、比較例5、6) (メタ)アクリル酸エステル系共重合体を構成するモノマー種及び比率、製造方法、シランカップリング剤量、硬化剤の種類及び配合量を表5に記載したようにした以外は実施例30と同様にして(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、粘着剤組成物及び透明粘着テープを得た。また、実施例1と同様にして、損失正接の極大温度、200℃の貯蔵弾性率、ゲル分率、及び、ゾル成分の分子量等を測定した。」 「[0129][表5] 」 「[請求項28] 請求項22の金属薄膜付フィルム積層体、請求項23若しくは24記載のカバーパネル-タッチパネルモジュール積層体、請求項25若しくは26記載のカバーパネル-ディスプレイパネルモジュール積層体、又は、請求項27記載のタッチパネルモジュール-ディスプレイパネルモジュール積層体を有する画像表示装置。」 [図1]「 」 イ 引用発明の認定 (ア)引用発明1(実施例4) 引用例の[0096]?[0098]に記載された実施例1は、[0096]から、エチルアクリレート30重量部と、n-ブチルアクリレート44.8重量部と、イソボルニルアクリレート21重量部と、ポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしてブレンマーPSE-1000(エチレンオキサイドの繰り返し数=23、末端メチル基、日油社製)3重量部と、アクリル酸1重量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.2重量部とから(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液を得て、[0098]から、該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液に、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の固形分100重量部に対して、架橋剤としてマイテックNY260A(脂肪族イソシアネート系架橋剤、三菱化学社製)を固形分換算で3重量部、シランカップリング剤としてKBM-403(信越化学工業社製)を固形分換算で0.5重量部となるように添加し、攪拌して、粘着剤組成物を調製し、得られた粘着剤組成物から、粘着剤層を形成し、得られた粘着剤層の上に、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを重ね合わせて積層体を得て、得られた積層体をゴムローラにより加圧することにより、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムが両面に貼り付けられた透明粘着テープを得るものであるといえる。 そして、引用例の[0104]に記載された実施例4は、同[0104]から、実施例1において、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を構成するモノマー種及び比率、シランカップリング剤量、架橋剤種及び量等を表1のようにしたものであり、同表1中の「ブレンマーPSE-1300」について、[0044]には、「エチレンオキサイドの繰り返し数=30、末端オクタデシル基、日油社製」と記載されていることから、該実施例4として、引用例には、 「離型ポリエチレンテレフタレートフィルムが、粘着剤層の両面に貼り付けられた透明粘着テープであって、 粘着剤層は、 (a1)エチルアクリレート20重量部と、n-ブチルアクリレート52.3重量部と、イソボルニルアクリレート25重量部と、ポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしてブレンマーPSE-1300(エチレンオキサイドの繰り返し数=30、末端オクタデシル基、日油社製)1.5重量部と、アクリル酸1重量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.2重量部とから(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液を得て、 (b1)該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液に、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の固形分100重量部に対して、架橋剤としてマイテックNY260A(脂肪族イソシアネート系架橋剤、三菱化学社製)を固形分換算で4重量部、E-AX(脂肪族エポキシ系架橋剤)を0.1重量部、シランカップリング剤としてKBM-403(信越化学工業社製)を固形分換算で0.5重量部となるように添加し、攪拌して、調製された粘着剤組成物から、粘着剤層を形成し、 (c1)該粘着剤層の上に、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを重ね合わせて積層体を得て、得られた積層体をゴムローラにより加圧することにより、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを粘着剤層の両面に貼り付けた透明粘着テープ。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (イ)引用発明2(実施例31) 引用例の[0119]?[0120]に記載された実施例30は、[0119]から、n-ブチルアクリレート56.5重量部と、2-エチルヘキシルアクリレート10重量部と、イソボルニルアクリレート30重量部と、ポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしてブレンマーPSE-1300(日油社製)1.5重量部と、アクリル酸1重量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート1重量部とから、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液を得て、[0120]から、該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液に、シランカップリング剤、防錆剤、硬化剤等を表5に記載した配合量で添加して、粘着剤組成物を調製し、得られた粘着剤組成物から、粘着剤層を形成し、得られた粘着剤層の上に、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを重ね合わせて積層体を得て、得られた積層体をゴムローラにより加圧することにより、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムが両面に貼り付けられた透明粘着テープを得るものであるといえる。 そして、引用例の[0121]に記載された実施例31は、同[0121]から、実施例30において、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を構成するモノマー種及び比率、製造方法、シランカップリング剤量、硬化剤の種類及び配合量を表5に記載したようにしたものであるから、該実施例31として、引用例には、 「離型ポリエチレンテレフタレートフィルムが粘着剤層の両面に貼り付けられた透明粘着テープであって、 粘着剤層は、 (a2)n-ブチルアクリレート54.5重量部と、2-エチルヘキシルアクリレート10重量部と、イソボルニルアクリレート30重量部と、ポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしてブレンマーPSE-1300(日油社製)1.5重量部と、アクリル酸1重量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート3重量部とから、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液を得て、 (b2)該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液に、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の固形分100重量部に対して、シランカップリング剤としてKBM-403を1重量部、防錆剤としてベンゾトリアゾールを固形分換算で0.1重量部、架橋剤としてE-AX(脂肪族エポキシ系架橋剤)を0.2重量部となるように添加し、攪拌して、調製された粘着剤組成物から、粘着剤層を形成し、 (c2)該粘着剤層の上に、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを重ね合わせて積層体を得て、得られた積層体をゴムローラにより加圧することにより、離型ポリエチレンテレフタレートフィルムを粘着剤層の両面に貼り付けた透明粘着テープ。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 ウ 対比・判断 (ア)引用発明1を主引用発明とした場合 本件発明1と引用発明1とを対比する。 (ア1)引用発明1の「透明粘着テープ」の「テープ」は、「幅がせまく長い、うすい帯状のもの。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」であるところ、それが使用される状態においては、シート(「薄板や紙などの1枚。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」)ともみなすことができることから、引用発明1の「離型ポリエチレンテレフタレートフィルムが粘着剤層の両面に貼り付けられた透明粘着テープ」は、本件発明1の「粘着剤層を含む粘着シート」に相当する。 (イ1)引用発明1の「(b1)」の「粘着剤層」は、「(a1)」の「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液」から調製された「粘着剤組成物」から形成されたものであるから、該「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液」における「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」は、本件発明1の「ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマー」に相当し、しかも、該「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」は、「アクリル酸」を含み、該「アクリル酸」は化学式がCH_(2)=CHCOOHと表せ、カルボキシ基(COOH)含有のモノマーであることは技術常識であるから、本件発明1の「カルボキシ基含有モノマー」に相当する。 (ウ1)引用発明1の「架橋剤として」の「マイテックNY260A(脂肪族イソシアネート系架橋剤、三菱化学社製)」及び「E-AX(脂肪族エポキシ系架橋剤)」は、本件発明1の「イソシアネート系架橋剤」及び「エポキシ系架橋剤」にそれぞれ相当する。 (エ1)そうすると、本件発明1と引用発明1とは、 「粘着剤層を含む粘着シートであって、 前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、架橋剤と、を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、 前記架橋剤はイソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤を含み、 前記ベースポリマーを構成するモノマー成分はカルボキシ基含有モノマーを含む、粘着シート。」である点で一致し、次の相違点1-1?1-3で相違が認められる。 (相違点1-1) 粘着剤層のベースポリマーを構成するモノマー成分におけるカルボキシ基含有モノマーの含有量について、本件発明1では、「3重量%超」であるのに対し、引用発明1の「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」におけるカルボキシ基含有モノマーの含有量は、1重量%である点。 (引用発明1の「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」は、「エチルアクリレート20重量部と、n-ブチルアクリレート52.3重量部と、イソボルニルアクリレート25重量部と、ポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしてブレンマーPSE-1300(エチレンオキサイドの繰り返し数=30、末端オクタデシル基、日油社製)1.5重量部と、アクリル酸1重量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.2重量部」からなり、このうち、「カルボキシ基含有モノマー」は「アクリル酸」のみであるから、該「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」におけるカルボキシ基含有モノマーの含有量は、1重量%(=1重量部/(20+52.3+25+1.5+1+0.2)重量部×100)となる。) (相違点1-2) 本件発明1は、粘着剤層にアゾール系防錆剤を含み、その含有量は、ベースポリマー100重量部に対して8重量部未満であり、かつ前記ベースポリマーを構成するモノマー成分に含まれるカルボキシ基含有モノマー10重量部当たり0.2重量部以上15重量部以下であるのに対し、引用発明1の粘着剤層は、アゾール系防錆剤を含まない点。 (相違点1-3) 本件発明1は、粘着剤層に粘着付与樹脂を含み、該粘着付与樹脂の含有量は前記ベースポリマー100重量部に対して10重量部以上であり、前記粘着付与樹脂は水酸基価30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含むのに対し、引用発明1の粘着剤層は、粘着付与樹脂を含まない点。 そこで、まず、相違点1-1について検討する。 引用発明1は、「金属薄膜の劣化をも抑制することのできる透明粘着テープを提供することを目的とする」([0008])ところ、引用例の[0022]?[0048]には、次のように記載されている。 「上記粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を主成分とする。・・・上記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が上記カルボキシル基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーに由来する構成単位を含有する場合、上記カルボキシル基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーに由来する構成単位の割合は特に限定されないが、好ましい上限が3重量%である。上記カルボキシル基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーに由来する構成単位が3重量%を超えると、ITO等の金属又は金属酸化物を含有する金属薄膜を被着体とする場合に、該金属薄膜を劣化させやすくなることがある。」 すなわち、引用例には、カルボキシル基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーに由来する構成単位、すなわち、カルボキシ基含有モノマーに由来する構成単位について、その割合が3重量%を超えると、金属薄膜を劣化させやすくなることが示されているといえる。 そうすると、引用発明1は、「金属薄膜の劣化をも抑制することのできる透明粘着テープを提供することを目的とする」発明であるのに対し、「アクリル酸」といったカルボキシ基含有モノマーの含有量を、3重量%超とすれば、その本来の目的を達成することができなくなることから、引用発明1において、カルボキシ基含有モノマーの含有量を、1重量%から増量して、3重量%超とするには、阻害要因があるというべきである。 そして、本件発明1は、ベースポリマーを構成するモノマー成分におけるカルボキシ基含有モノマーの含有量を3重量%超とすることにより、「より高い効果(例えば、衝撃接着強さを向上させる効果)が発揮され、より部材の保持性能に優れた粘着シートが実現され得る」(本件明細書【0036】)という、引用発明1からは当業者が予測しえない格別顕著な作用効果を奏するものである。 したがって、相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1と同一であるとも、引用発明1から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 そして、本件発明2?10は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、引用発明1と同一であるとも、引用発明1から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (イ)引用発明2を主引用発明とした場合 本件発明1と引用発明2とを対比する。 (ア2)引用発明1について述べたの同様な理由から、引用発明2の「離型ポリエチレンテレフタレートフィルムが粘着剤層の両面に貼り付けられた透明粘着テープ」は、本件発明1の「粘着剤層を含む粘着シート」に相当する。 また、同様に、引用発明2の「離型ポリエチレンテレフタレートフィルムが粘着剤層の両面に貼り付けられた透明粘着テープ」、「(b2)」の「粘着剤層」に含まれる「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液」における「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」及び「アクリル酸」は、本件発明1の「粘着剤層を含む粘着シート」、「ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマー」及び「カルボキシ基含有モノマー」にそれぞれ相当する。 (イ2)引用発明2の「防錆剤として」の「ベンゾトリアゾール」は、本件発明1の「アゾール系防錆剤」に相当し、しかも、引用発明2の「(b2)該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体溶液に、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の固形分100重量部に対して、防錆剤としてベンゾトリアゾールを固形分換算で0.1重量部」「添加し、攪拌して、調製された粘着剤組成物から」「形成」された「粘着剤層」の「ベンゾトリアゾール」の配合量は、本件発明1の「アゾール系防錆剤の含有量」の範囲(ベースポリマー100重量部に対して8重量部未満(1重量部)、かつ、ベースポリマーを構成するモノマー成分に含まれるカルボキシ基含有モノマー10重量部当たり0.2重量部以上15重量部以下(10重量部))に含まれる。 (ウ2)引用発明2の「架橋剤として」の「E-AX(脂肪族エポキシ系架橋剤)」は、本件発明1の「エポキシ系架橋剤」に相当する。 (エ2)そうすると、本件発明1と引用発明2とは、 「粘着剤層を含む粘着シートであって、 前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、架橋剤と、アゾール系防錆剤と、を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、 前記架橋剤はエポキシ系架橋剤を含み、 前記ベースポリマーを構成するモノマー成分はカルボキシ基含有モノマーを含み、 前記粘着剤層における前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して8重量部未満であり、かつ前記ベースポリマーを構成するモノマー成分に含まれる前記カルボキシ基含有モノマー10重量部当たり0.2重量部以上15重量部以下である、粘着シート。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点2-1) 粘着剤層のベースポリマーを構成するモノマー成分におけるカルボキシ基含有モノマーの含有量について、本件発明1では、「3重量%超」であるのに対し、引用発明2の「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」におけるカルボキシ基含有モノマーの含有量は、1重量%である点。 (引用発明2の「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」は、「n-ブチルアクリレート54.5重量部と、2-エチルヘキシルアクリレート10重量部と、イソボルニルアクリレート30重量部と、ポリエチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしてブレンマーPSE-1300(日油社製)1.5重量部と、アクリル酸1重量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート3重量部」からなり、このうち、「カルボキシ基含有モノマー」は、「アクリル酸」のみであるから、カルボキシ基含有モノマーの含有量は、1重量%(=1重量部/(54.5+10+30+1.5+1+3)重量部×100)となる。) (相違点2-2) 本件発明1は、粘着剤層の架橋剤として、イソシアネート系架橋剤を含むのに対し、引用発明2の粘着剤層は、イソシアネート系架橋剤を含まない点。 (相違点2-3) 本件発明1は、粘着剤層に粘着付与樹脂を含み、該粘着付与樹脂の含有量は前記ベースポリマー100重量部に対して10重量部以上であり、前記粘着付与樹脂は水酸基価30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含むのに対し、引用発明2の粘着剤層は、粘着付与樹脂を含まない点。 ここで、まず、相違点2-1について検討する。 上記相違点1-1についての検討で述べたように、引用例には、カルボキシ基含有モノマーに由来する構成単位の割合が3重量%を超えると、金属薄膜を劣化させやすくなることが示され、引用発明2も、引用発明1と同様に、「金属薄膜の劣化をも抑制することのできる透明粘着テープを提供することを目的とする」発明であるから、引用発明2において、「アクリル酸」といったカルボキシ基含有モノマーの含有量を、1重量%から増量して、3重量%超とすることには、阻害要因があるというべきである。 そして、上述したように、本件発明1は、ベースポリマーを構成するモノマー成分におけるカルボキシ基含有モノマーの含有量を3重量%超とすることにより、「より高い効果(例えば、衝撃接着強さを向上させる効果)が発揮され、より部材の保持性能に優れた粘着シートが実現され得る」(本件明細書【0036】)という、引用発明2からは当業者が予測しえない格別顕著な作用効果を奏するものである。 したがって、相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2と同一であるとも、引用発明2から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 そして、本件発明2?10は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、引用発明2と同一であるとも、引用発明2から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ まとめ 以上のとおり、取消理由通知における理由1及び2には、理由がない。 (2)理由3について 本件発明の課題は、金属腐食防止性がよく、かつ部材の保持性能に優れた粘着シートを提供すること(本件明細書【0006】)と解される。 これに対し、本件明細書において、本件発明の課題が解決されていることが確認された例には、いずれも、カルボキシ基含有モノマー、粘着付与樹脂及びアゾール系防錆剤が所定量含まれている。 そして、これらが含まれていなかったり、その量が少なかったりすれば、金属腐食防止性がよく、かつ部材の保持性能に優れた粘着シートが得られないこととなることは明らかである。 すなわち、粘着剤組成物に含まれるカルボキシ基含有モノマーの含有量は、部材の保持性能に影響を与えることが明らかであり、その量が少なかったりすれば、保持性能が劣るものとなることは明らかである。しかも、本件明細書の実施例においても、例1及び例6で調製された粘着シートは、粘着剤組成物に含まれるカルボキシ基含有モノマーの含有量が相違するところ、保持性能(室温剥離強度、耐熱剥離強度および衝撃接着強さ)に関する評価結果において差異が生じていることから(本件明細書【0126】の【表1】)、粘着剤組成物において、カルボキシ基含有モノマーは所定以上の比率で含有することが必須であると考えられる。 また、本件発明に係る実施例の粘着剤組成物は、いずれも、特定の粘着付与樹脂が20重量部含有されている。 ここで、粘着付与樹脂が接着強度を向上させることは周知技術であり、粘着付与樹脂の種類が異なったり、その量が少なかったりすれば、「部材の保持性能に優れた粘着シート」とならない場合もあることから、本件発明の目的を達成するためには、実施例で用いられた特定の粘着付与樹脂の存在(種類、配合量)が必要不可欠であると考えられる。 そして、粘着剤組成物に含まれるアゾール系防錆剤の含有量は、金属腐食防止性に影響を与えることが明らかであり、その量が少なかったりすれば、金属腐食防止性が劣るものとなることは明らかである。しかも、本件特許の実施例における例1及び例3で調製された粘着シートは、粘着剤組成物に含まれるアゾール系防錆剤の含有量において相違するところ、腐食防止性の評価結果において差異が生じていることから(本件明細書【0126】の【表1】)、アゾール系防錆剤は所定以上の比率で含有することが必須であると考えられる。 しかしながら、本件訂正により、本件発明1?10において、カルボキシル基含有モノマーの組成比、粘着付与樹脂の存在(種類、配合量)及びアゾール系防錆剤の配合量の下限値の3要件が特定されたことにより、本件発明1?10は、本件発明の課題を解決することができることを当業者が認識できる範囲のものとなった。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1?10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 粘着剤層を含む粘着シートであって、 前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、架橋剤と、アゾール系防錆剤と、を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり、 前記架橋剤はイソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤を含み、 前記ベースポリマーを構成するモノマー成分はカルボキシ基含有モノマーを含み、前記モノマー成分における前記カルボキシ基含有モノマーの含有量は3重量%超であり、 前記粘着剤層における前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して8重量部未満であり、かつ前記ベースポリマーを構成するモノマー成分に含まれる前記カルボキシ基含有モノマー10重量部当たり0.2重量部以上15重量部以下であり、 前記粘着剤層は粘着付与樹脂を含み、前記粘着付与樹脂の含有量は前記べースポリマー100重量部に対して10重量部以上であり、 前記粘着付与樹脂は水酸基価30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含む、粘着シート。 【請求項2】 前記粘着剤層は、300kHzにおける比誘電率が3以上である、請求項1に記載の粘着シート。 【請求項3】 前記ベースポリマーを構成するモノマー成分は、炭素原子数が4以下のアルキル基をエステル末端に有する(メタ)アクリレートを該モノマー成分の50重量%以上含む、請求項1または2に記載の粘着シート。 【請求項4】 前記モノマー成分における前記カルボキシ基含有モノマーの含有量は3.2重量%以上15重量%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項5】 前記粘着剤層における前記アゾール系防錆剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して0.3重量部以上8重量部未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項6】 前記粘着剤層は、前記水酸基価30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂としてテルペンフェノール樹脂を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項7】 前記テルペンフェノール樹脂の水酸基価は30mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である、請求項6に記載の粘着シート。 【請求項8】 ポリエチレンテレフタレートに対する室温剥離強度が15N/25mm以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項9】 前記アゾール系防錆剤として、1,2,3-ベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、4-メチルベンゾトリアゾールおよびカルボキシベンゾトリアゾールからなる群から選択される少なくとも1種のベンゾトリアゾール系化合物を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の粘着シート。 【請求項10】 携帯電子機器において部材の固定に用いられる、請求項1から9のいずれか一項に記載の粘着シート。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-11-07 |
出願番号 | 特願2017-21411(P2017-21411) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J) P 1 651・ 113- YAA (C09J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 牟田 博一 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
川端 修 天野 宏樹 |
登録日 | 2017-09-08 |
登録番号 | 特許第6205081号(P6205081) |
権利者 | 日東電工株式会社 |
発明の名称 | 粘着シート |
代理人 | 大井 道子 |
代理人 | 谷 征史 |
代理人 | 大井 道子 |
代理人 | 谷 征史 |