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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1348046
審判番号 不服2017-19287  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-26 
確定日 2019-01-17 
事件の表示 特願2015-550249「内燃機関およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年6月4日国際公開、WO2015/079512〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)11月27日を国際出願日とする出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成28年5月25日 :手続補正書の提出
平成29年3月28日(発送日) :拒絶理由通知書
平成29年5月29日 :意見書の提出
平成29年9月26日(発送日) :拒絶査定
平成29年12月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年7月31日(発送日) :拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由」という。)
平成30年10月1日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成30年10月1日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「一方向に所定の間隔を有して配置された複数の気筒と、
前記一方向に延在するとともに、給気が供給される給気入口が設けられた給気マニホールドと、
各前記気筒の端部にそれぞれ接続されてスワールを形成する複数の渦室と、
前記給気マニホールドと各前記渦室とを接続する複数の給気ポートと、
を備えた内燃機関において、
前記給気入口は、前記給気マニホールド内に供給された給気が前記一方向に沿って流れるように設けられ、
各前記給気ポートは、前記給気マニホールドに対して接続される接続部を有し、
各前記給気ポートの前記接続部は、それぞれ、前記一方向に離間して配置され、
一の前記給気ポートの前記接続部の中心軸線は、前記給気マニホールドが延在する前記一方向と前記中心軸線とを含む面内において前記一方向に直交する直交方向に対して、前記給気入口から遠ざかる方向に所定の傾斜角度を有して傾斜しており、
該一の前記給気ポートの前記接続部の前記中心軸線の前記傾斜角度は、該一の前記給気ポートよりも前記給気入口側に位置する他の前記給気ポート前記接続部の前記中心軸線の傾斜角度よりも大きくされていることを特徴とする内燃機関。」

第3 当審における拒絶の理由
当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。

(進歩性)本願の下記の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1 特開2003-74357号公報
2 特開平11-350963号公報

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
平成30年7月25日付け(発送日:平成30年7月31日)の当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献1(特開2003-74357号公報)には、「吸気マニホールド」に関して、図面(特に図1ないし図4を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「【0006】
【課題を解決するための手段】このような課題を解決して、多気筒内燃機関における各気筒間のスワールを均一化するために、本発明に於いては、多気筒内燃機関の各気筒(8a?8d)に吸気を送るべく、気筒列に沿って長手に設けられかつその長手方向一端部に吸気導入部(5)を有する吸気集合部(6a)と、前記吸気集合部(6a)から前記各気筒(8a?8d)に向けて吸気を分配する複数の吸気分岐通路(7a?7d)とを有し、前記吸気分岐通路(7a?7d)が、それぞれ対応する気筒(8a?8d)の中央側に向けて曲げられた曲成部(10a?10d)を有していると共に、前記吸気導入部(5)から遠い気筒に連結されたもの程前記曲成部(10a?10d)の曲率を大きくされているものとした。
【0007】これによれば、曲成部により吸気の最大流速部分を気筒の中央側に指向させることができる。一方、気筒列に沿って長手に設けられかつその長手方向一端部に吸気導入部を有する吸気集合部を設けたサイドフロー型の吸気マニホールド構造にあっては吸気導入部から遠いものほど吸気の最大流速が低下するため各気筒別に最大流速及びその気筒内への流入位置を調整する必要がある。それに対して、吸気導入部から遠い吸気分岐通路にあっては気筒列方向外側に最大流速部分が生じるため、その吸気分岐通路における曲成部の気筒中央側に向かう曲率を大きくすることにより、吸気の最大流速部分を気筒中央側に指向させることができる。それにより、比較的最大流速値が低い吸気導入部から遠いものにおけるスワールの強さを高く維持させることができ、スワールの強さを略均一にすることができる。また、吸気導入部から気筒内に至る吸気通路内に流速を調整する凸部や弁などの異なる形状となる調整手段を設けることなく、吸気分岐通路自体の形状変更により各気筒間のスワールの強さの均一化を図ることができると共に、突起などが無いことから吸気抵抗も小さいため機関出力の低下を防止することができる。」

イ 「【0014】図1に示されるように本図示例のエンジンは4気筒であり、シリンダブロック1には4つの気筒8a・8b・8c・8dが直列に配設されている。そして、上記吸気マニホールド4の各集合部6a・6bが気筒列に沿って長手に設けられており、本エンジンにおける吸気マニホールド4はサイドフロー型である。なお、ウォータジャケットは図示省略している。
【0015】シリンダヘッド2には、吸気分岐通路7a?7hとそれぞれ連結される各吸気ポート9a・9b・9c・9d・9e・9f・9g・9hが開設されている。各吸気ポート9a?9hは2本ずつペアになって各気筒8a?8dと連通している。また、図1における気筒8a?8d内の4つの想像線の円は、吸気ポート9a?9hに連通する2つが吸気バルブポートであり、他の2つが排気バルブポートである。なお、吸気ポート9a?9hは、シリンダヘッド2の吸気分岐通路7a?7hとの連結面に設けられた開口から気筒8a?8d内に臨む開口に至る間の通路を言うものとする。
【0016】また、8本の吸気分岐通路7a?7hが各集合部6a・6bをペアとする2本ずつに分けられており、その各ペア(7a・7e、7b・7f、7c・7g、7d・7h)が、シリンダヘッド2の吸気ポートの気筒別の各ペア(9a・9e、9b・9f、9c・9g、9d・9h)とそれぞれ連結されている。
【0017】なお、一方の集合部6aから各吸気分岐管7a?7d及び各吸気ポート9a?9dを介して気筒8a?8dに入る吸気は低速(低回転速度)用として用い、高速(高回転速度)時には他方の集合部6bからの吸気を合わせて気筒8a?8dに入れるように、例えば吸気導入部5の上流側に設けた図示されないスワールコントロール弁で他方の集合部6bに入る吸気導入路を開閉制御するようにして良い。
【0018】そして、本エンジンにあっては、上記一方の集合部6aからの吸気を気筒8a?8dに導くべくシリンダヘッド2に設けた各吸気ポート9a?9dをスワール生成通路として形成している。すなわち、吸気ポート9a?9dを通過する吸気が図1の想像線に示されるように気筒8a?8d内で渦を発生するように、吸気ポート9a?9dの形状が設定されている。
【0019】上記スワールを発生させるだけなら吸気ポート9a?9dの形状で対処できるが、1つの吸気導入部を設けた集合部から分岐されて各気筒に至る複数の吸気分岐通路を有する吸気マニホールドにあっては、集合部から各吸気分岐通路はいる吸気の速度分布が違ってしまう。本図示例のようなサイドフロー型にあっては、吸気導入部5に遠い方の吸気ポート9a・9bから気筒8a・8bに入る時の吸気の最大流速部分の位置は外側寄りになってスワールが弱くなってしまうが、近い方の吸気ポート9c・9dから気筒8c・8dに入る時の吸気の最大流速部分の位置が内側(気筒の中央側)寄りになり、強いスワールが発生する。
【0020】それに対して、本発明による図1の第1の例にあっては、分岐吸気通路7a?7dの吸気ポート9a?9dとの連結部近傍であって分岐吸気通路7a?7d側に、吸気ポート9a?9dと共に描くカーブの曲率を大きくするための曲成部10a?10dを設けている。上記曲率は、図3に代表して示される分岐吸気通路7aにおいて、吸気ポート9aの入り口近傍と共に描かれるカーブ(図の一点鎖線)の半径をRとすると、1/Rとなる。また、曲成部10aと吸気ポート9aとにより形成されるカーブの突出方向(矢印A)が気筒中央側になるように曲成部10aの形状が設定されている。
【0021】そして、各曲成部10a?10dの曲率を変えることにより吸気ポート9a?9dに入る吸気の流れに指向性を与えて、吸気の最大流速の流れる方向を気筒8a?8dの中央側に向けるようにしている。これにより、集合部6aから分岐吸気通路7a?7d及び吸気ポート9a?9dを介して気筒8a?8dに至る吸気通路の途中に凸部を形成することなく、また吸気通路内の断面形状や断面積を変えることなく、最大流速の位置を変える(気筒中央側)ことができる。
【0022】また、スワール生成通路として形成した吸気ポート9a?9dが、通常のスワールを発生させる目的によって形成され、かつ図1の例にあっては気筒列方向においてその中心(第2気筒8bと第3気筒8cの中間)に対して左右対称に形成されていると共に、分岐吸気通路7a?7d及び吸気ポート9a?9d間の連通部分の軸線がシリンダヘッド2の連結面に対して直交している。このようにすることにより、シリンダヘッド2の設計及び中子などの製作が容易になる。そして、曲成部10a?10dを上記したように吸気分岐通路7a?7d側に設けているため、吸気ポート9a?9d側の設計変更をすることなく、吸気マニホールド4側の設計のみで各気筒8a?8d間のスワールの強さを略均一にすることができ、設計・製作が容易になり、汎用性が高く、また製品コストを低減し得る。
【0023】これにより、混合気中の燃料状態の均一化が達成でき、排気ガスの浄化及び燃費の向上を図ることができる。また、本図示例のディーゼルエンジンの場合には黒煙を減少する効果もある。
【0024】この第1の例のように各吸気ポート9a?9dを左右対称形にすると共に気筒8a?8dにおいて気筒列の中央から遠い側にそれぞれ開口するように配設した場合には、曲成部10a?10dによる曲がり形状をそれぞれ気筒列の中央側に突出させるようにすると良い。すなわち、吸気導入部5から遠い方の吸気ポート7a・7bでは気筒列の中央に対して気筒列方向外側に最大流速が生じることから、最大流速部分を気筒列中央側に寄せる向きに吸気の流れを指向させるように、曲成部10a・10bの曲がり形状を気筒列中央側に突出させるように形成する。また、吸気導入部5に近い方の吸気ポート7c・7dでは気筒列の中央側に最大流速が生じ、そのままでは遠い方の吸気ポート7a・7bにおける最大流速以上になるため、最大流速部分を気筒列中央側から若干離反させる向きに吸気の流れを指向させてスワールの強さを弱めるように、曲成部10c・10dの曲がり形状を気筒列中央側に突出させるように形成する。このような単純な形状のレイアウトにより、各気筒8a?8d同士の間におけるスワールの強さの略均一化を図ることができる。
【0025】なお、上記曲成部10a?10dでは吸気を吸気ポート9a?9dに向けて押し出す作用を備えており、その押し出し作用を利用して強いスワールを発生させることもできる。また、図示例では、ディーゼルエンジンにおけるスワールコントロール弁と共に用いられる吸気マニホールド4について示したが、ディーゼルエンジンに限られるものではなく、ガソリンエンジンに用いられる吸気マニホールドであっても良く、その場合にはスワールコントロール弁の代わりに副スロットル弁となるが、吸気マニホールドの構成を変える必要はない。
【0026】次に、図4を参照して第2の例について示す。なお、図において上記図1と同様の部分については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。この第2の例にあっては、スワール生成通路としての吸気ポート11a?11dが、図に示されるように気筒列の一方に対して同一方向にかつ同一形状に曲げられている。また、各気筒8a?8dにおいて、気筒列の同一方向側に各吸気ポート11a?11dが開口しかつ他方側に集合部6bからの各吸気ポート11e?11hが開口するように配設されている。このようにすることにより、シリンダヘッド2に対する各吸気ポート11a?11dの設計及び加工が容易となる。
【0027】この場合でも、吸気導入部5からの遠近によって吸気分岐通路9a?9dの流速が違うため、スワールの強さが略同一になるように上記と同様に吸気ポート11a?11dと吸気分岐通路9a?9dとの連結部近傍であって吸気分岐通路9a?9d側に設けた曲成部12a?12dの曲率を気筒8a?8d別に適宜変えると良い。」

ウ 上記イの段落【0014】における「吸気マニホールド4の各集合部6a・6bが気筒列に沿って長手に設けられており」との記載、及び段落【0016】における「8本の吸気分岐通路7a?7hが各集合部6a・6bをペアとする2本ずつに分けられており、その各ペア(7a・7e、7b・7f、7c・7g、7d・7h)が、シリンダヘッド2の吸気ポートの気筒別の各ペア(9a・9e、9b・9f、9c・9g、9d・9h)とそれぞれ連結されている。」との記載、並びに図1の図示内容からみて、吸気分岐通路7aないし7hは吸気マニホールド4の各集合部6a・6bから延出する延出部を有し、該延出部は、長手方向に離間していることが分かる。

エ 上記ウ及び図2の図示内容からみて、吸気分岐通路7aないし7hが吸気マニホールド4の各集合部6a・6bから延出する延出部は中心軸線を有することが分かる。さらに、図1の図示内容を踏まえると、該中心軸線は、吸気マニホールド4が延在する長手方向と前記中心軸線とを含む面内において前記長手方向に直交する直交方向に対して所定の角度を有するといえる。

オ 図1及び図4における想像線の図示内容から、吸気マニホールド4内に供給された吸気は長手方向に流れていることが分かる。

以上から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「直列に配設された4つの気筒8a・8b・8c・8dと、
気筒列に沿って長手に設けられるとともに、長手方向一端部に吸気を取り入れるための吸気導入部5が設けられた吸気マニホールド4と、
各前記気筒8a・8b・8c・8dの端部にそれぞれ接続され、スワール生成通路として形成する吸気ポート9a・9b・9c・9d・9e・9f・9g・9hと、
前記吸気マニホールド4から延出するように設けられ各吸気ポート9a・9b・9c・9d・9e・9f・9g・9hと連結する吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hと、
を備えた多気筒内燃機関において、
前記吸気導入部5は、前記吸気マニホールド4内に供給された吸気が前記長手方向に流れるように設けられ、
前記吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hは、前記吸気マニホールド4から延出する延出部を有し、
前記吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hが前記吸気マニホールド4から延出する延出部は、それぞれ、前記長手方向に離間しており、
前記吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hが前記吸気マニホールド4から延出する延出部の中心軸線は、前記吸気マニホールド4の前記長手方向と前記中心軸線とを含む面内において前記長手方向に直交する直交方向に対して、所定の角度を有する多気筒内燃機関。」

2 引用文献2
平成30年7月25日付け(発送日:平成30年7月31日)の当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献2(特開平11-350963号公報)には、図面(特に、図1及び図2並びに図9ないし図12を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】図9は、三気筒の内燃機関において、シリンダヘッド端面1aからのマニホールド通路43の張出幅Wを十分に大きくすることにより、吸気量を十分に確保できるようにした従来の吸気マニホールド42を示している。シリンダヘッド1内には各気筒11,12,13に対応する第1,第2及び第3の吸気ポート21,22,23が形成されている。各吸気ポート21,22,23は、各気筒11,12,13に反時計回りのスワールSを形成するように、弁口部21a,22a,23aが気筒中心から右側に偏移すると共に、弁口部21a,22a,23aに対して弁ステム9の右側からうず巻状に回り込むように形成されている。各吸気ポート21,22,23の上流部はシリンダヘッド端面1aに概ね直角な姿勢で開口している。
【0003】吸気マニホールド42はシリンダヘッド端面1aに取り付けられており、シリンダヘッド長さ方向(クランク軸方向)の一端に吸気入口46を備え、マニホールド通路43は、シリンダヘッド端面1aに沿って他端側へと延び、各吸気ポート21,22,23に対応する吸気出口51,52,53を有している。
【0004】各吸気ポート21,22,23への吸気主流F1,F2,F3の流入角度θ1,θ2,θ3、すなわち、吸気ポート入口面に立てた法線Hに対する傾斜角度θ1,θ2,θ3は、吸気入口46から離れるに従い、吸気慣性の増加により順次大きくなっている。
【0005】傾斜角度θ1,θ2,θ3が順次大きくなってゆくことにより、吸気ポート21,22,23内での吸気主流f1,f2,f3は、矢印でそれらの位置を明確に示すように、順次吸気ポート21,22,23内で右側へと偏移しており、反時計回りのスワールSを生じる構造では、吸気入口46から離れる気筒になるに従いスワールSが強くなっている。すなわち、吸気入口46から離れる気筒になるにつれて、図10に示すようにスワール比が順次大きくなり、気筒間でスワール比が不均等になる。図10の実線Pは、ポート単体スワール、すなわち吸気マニホールドを使用しないで1つの吸気管から1つの吸気ポートに接続した場合のスワール比を示しており、第1気筒のスワール比の大きさに対応している。
【0006】上記のようにマニホールド通路の張出幅を広く確保している複数気筒の内燃機関に対し、たとえば農業用トラクタあるいは小型作業車等に搭載される内燃機関では、シリンダヘッド周りのレイアウトが制限される場合が多く、その場合は図11のように、マニホールド通路43の張出幅Wを大幅に狭くすることによりコンパクト化を図っている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】図11の場合でも、前記図9の場合と同様に、マニホールド通路43内での吸気慣性の増加により、吸気入口46から離れた吸気ポート21,22,23に行くに従い吸気主流F1,F2,F3の流入角度θ1,θ2,θ3は増加しているが、マニホールド通路43の張出幅Wを狭くしていることにより、流通断面積が小さく、マニホールド通路43内の流速が増加し、吸気入口46から遠い吸気ポート、特に最も遠い第3の吸気ポート23の吸気主流F3の流入角度θ3は、前記図9の場合に比べて必要以上に大きくなっている。
【0008】このように第3の吸気ポート23において流入角度θ3が大きくなると共に主流F3の勢いが強くなることにより、クロスハッチングで示すように吸気ポート23の左側壁に大きな剥離域Zが生じ、それに続いて矢印f3で示すように左側壁への再付着が生じ、剥離及び再付着により図12に示すように第3気筒のスワール比が低下する。気筒間のスワール比の不均等が生じると、各気筒毎に燃焼状態が変化し、黒煙の発生及び燃費低下など、機関性能が低下する。
【0009】本願発明の目的は、シリンダヘッド周りのコンパクト性を維持しながらも、各気筒間のスワール比の均等性を保ち、機関性能を維持できるようにすることである。」

イ 「【0011】
【発明の実施の形態】図1は本願発明を適用した三気筒内燃機関のシリンダヘッドを示しており、説明をし易くするために、クランク軸心Oの方向を左右方向と仮定し、吸気マニホールド取付側を前側と仮定し、クランク軸心O方向(左右方向)に沿って配置された3つの気筒を、左側から順に第1,第2及び第3気筒11,12,13と称して以下説明する。なお、シリンダヘッド1の構造は前記図9の場合と同様であり、同じ部品あるいは部位には同じ符号を付している。
【0012】各気筒11,12,13に開口する吸気用の弁口部21a,22a,23aは、各気筒中心から右側へと偏移した位置に形成され、各吸気ポート21,22,23は、シリンダヘッド前端面1aから後方へと延び、その下流部は流通断面が絞られると共に吸気弁ステム9の右側からうず巻状に反時計回りに回り込み、各弁口部21a,22a,23aに連通している。これにより、気筒11,12,13内では矢印Sで示すように左回り(反時計回り)のスワールが生じる。
【0013】吸気マニホールド2はシリンダヘッド前端面1aに固定されており、左端部の第1吸気ポート21に略対応する位置に、上向き開口状の吸気入口6が形成されている。マニホールド通路3は、左端部からシリンダヘッド前端面1aに沿って右端部まで直線状に延び、各吸気ポート21,22,23の入口面に接続される吸気出口31,32,33が、後向き開口状に形成されている。
【0014】マニホールド通路3のシリンダヘッド前端面1aからの張出幅Wは、前記図11の従来例の場合と同程度に狭くなっており、シリンダヘッド周りのコンパクト化を図っている。すなわち上記張出幅Wは、マニホールド通路3内に何も処置を施さないと仮定すると、図11のように最も遠い第3の吸気ポート23の吸気主流F3の流入角度θ3が必要以上に大きくなり、第3の吸気ポート23内で大きな剥離と再付着が生じる程度となっている。
【0015】上記剥離及び再付着を防止すべく、吸気入口6から最も遠い第3吸気出口33の左側(上流側)に、シリンダヘッド前端面1aからマニホールド通路3内へ突出する吸気流の流入角度調整用凸部40を設けている。該凸部40は、第3の吸気ポート23の入口面に立てた法線Hに対する吸気主流F3の流入角度θ3を小さくせしめるように、すなわち入口面に対して直角側に近付くように吸気流を方向修正し、第3気筒13のスワール比が第1気筒11のスワール比と同程度となるように、マニホールド通路3内への突出量、左右方向長さ及び形状が設定される。
【0016】図1に示す凸部40は水平断面が矩形状になっており、図3に示すようにマニホールド通路3の上下端壁間に亙っている。
【0017】作用を説明する。図1において、図示しない吸気管から左端の吸気入口6に入る吸気(給気)は、マニホールド通路3内に流入し、一部が矢印F1で示すように概ね入口面と直角な状態で第1の吸ポート21に流入し、残りはマニホールド通路3内を右方へと流れる。慣性力が付与されながらマニホールド通路3内を流れ、途中、一部が矢印F2で示すように流入角度θ2で第2の吸気ポート22内へ流入し、残りはさらに右方へ流れ、さらに慣性力が付与される。第2及び第3の気筒12,13内ではそれぞれ左回りのスワールSが生じる。
【0018】第3の吸気ポート23に入る前段階において、凸部40によって吸気は一旦前側に寄せ集められることにより、吸気主流の方向が調整されて後方へと曲がり、矢印F3に示すように流入角度θ3でもって第3の吸気ポート23内に入る。すなわち、第3の吸気ポート23での流入角度θ3は、図11の場合の流入角度θ3よりも小さくなるように調整されて第3の吸気ポート23に入る。したがって、第3の吸気ポート23内で剥離や再付着が生じることはなく、図1の矢印f3で示すように第3の吸気ポート23の右側壁へと偏ることもなく、第3の吸気ポート23内を後方へと整流状で流れ、左旋回して弁口部23aから第3気筒13内へと供給され、第3の気筒13内で適度な勢いの左回りのスワールSが生じる。
【0019】上記のように剥離及び再付着を生じることなく吸気ポート23内を吸気流が通過するように調整していることにより、第3気筒13のスワール比は、図2に示すように、破線で示す従来の値から第1気筒11のスワール比と略等しい大きさまで増加している。すなわち、機関全体として気筒間のスワール比が均等化され、燃焼状態の均一化を達成でき、黒煙の減少及び燃費の向上など機関性能の向上を達成している。」

ウ 上記イの段落【0018】における「第3の吸気ポート23での流入角度θ3は、図11の場合の流入角度θ3よりも小さくなるように調整されて第3の吸気ポート23に入る。」との記載は、上記アの段落【0007】の「特に最も遠い第3の吸気ポート23の吸気主流F3の流入角度θ3は、前記図9の場合に比べて必要以上に大きくなっている。」との記載、及び上記イの段落【0014】の「マニホールド通路3内に何も処置を施さないと仮定すると、図11のように最も遠い第3の吸気ポート23の吸気主流F3の流入角度θ3が必要以上に大きくなり、第3の吸気ポート23内で大きな剥離と再付着が生じる程度となっている。」との記載に係る課題を解決するものといえる。
そして、上記アの段落【0004】の「各吸気ポート21,22,23への吸気主流F1,F2,F3の流入角度θ1,θ2,θ3、すなわち、吸気ポート入口面に立てた法線Hに対する傾斜角度θ1,θ2,θ3は、吸気入口46から離れるに従い、吸気慣性の増加により順次大きくなっている。」との記載、及び段落【0009】の「シリンダヘッド周りのコンパクト性を維持しながらも、各気筒間のスワール比の均等性を保ち、機関性能を維持できるようにすることである。」との記載、並びに図1の図示内容からみると、図1の流入角度θ1,θ2,θ3は、該段落【0018】の記載の様に「図11の場合の流入角度θ3よりも小さくなるように調整」された「第3の吸気ポート23での流入角度θ3」も、段落【0004】の「吸気ポート入口面に立てた法線Hに対する傾斜角度θ1,θ2,θ3は、吸気入口46から離れるに従い、吸気慣性の増加により順次大きくなっている。」との記載に係る事項を満たすものといえる。

以上から、上記引用文献2には次の事項(以下「引用文献2の記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「吸気ポート21,22,23への吸気主流F1、F2、F3の流入角度θ1,θ2,θ3すなわち吸気ポート入口面に立てた法線Hに対する傾斜角度θ1,θ2,θ3は、吸気入口から離れるに従い順次大きくなること。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「直列に配設された4つの気筒8a・8b・8c・8d」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「一方向に所定の間隔を有して配置された複数の気筒」に相当し、以下同様に、「吸気導入部5」は「給気入口」に、「吸気ポート9a・9b・9c・9d・9e・9f・9g・9h」は「複数の渦室」に、「吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7h」は「複数の給気ポート」に、「多気筒内燃機関」は「内燃機関」にそれぞれ相当する。
そして、後者の「気筒列に沿って長手に設け」られる「吸気マニホールド4」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「前記一方向に延在」する「給気マニホールド」に相当し、同様に、「吸気マニホールド4内に供給された吸気が前記長手方向に流れるように」は「給気マニホールド内に供給された給気が前記一方向に沿って流れるように」に相当する。
また、後者の「吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hは、前記吸気マニホールド4から延出する延出部を有し」は、該延出部により吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hと吸気マニホールド4が接続されていることが明らかであるから、前者の「給気ポートは、前記給気マニホールドに対して接続される接続部を有し」に相当する。同様に「吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hが前記吸気マニホールド4から延出する延出部は、それぞれ、前記長手方向に離間しており」は「給気ポートの前記接続部は、それぞれ、前記一方向に離間して配置され」に相当する。
さらに、後者の「吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hが前記吸気マニホールド4から延出する延出部の中心軸線は、前記吸気マニホールド4の前記長手方向と前記中心軸線とを含む面内において前記長手方向に直交する直交方向に対して、所定の角度を有する」と前者の「一の前記給気ポートの前記接続部の中心軸線は、前記給気マニホールドが延在する前記一方向と前記中心軸線とを含む面内において前記一方向に直交する直交方向に対して、前記給気入口から遠ざかる方向に所定の傾斜角度を有して傾斜しており」とは、少なくとも「一の前記給気ポートの前記接続部の中心軸線は、前記給気マニホールドが延在する前記一方向と前記中心軸線とを含む面内において前記一方向に直交する直交方向に対して、所定の角度を有しており」という限りで一致する。

したがって、両者は、
「一方向に所定の間隔を有して配置された複数の気筒と、
前記一方向に延在するとともに、給気が供給される給気入口が設けられた給気マニホールドと、
各前記気筒の端部にそれぞれ接続されてスワールを形成する複数の渦室と、
前記給気マニホールドと各前記渦室とを接続する複数の給気ポートと、
を備えた内燃機関において、
前記給気入口は、前記給気マニホールド内に供給された給気が前記一方向に沿って流れるように設けられ、
各前記給気ポートは、前記給気マニホールドに対して接続される接続部を有し、
各前記給気ポートの前記接続部は、それぞれ、前記一方向に離間して配置され、
一の前記給気ポートの前記接続部の中心軸線は、前記給気マニホールドが延在する前記一方向と前記中心軸線とを含む面内において前記一方向に直交する直交方向に対して、所定の角度を有している内燃機関。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
給気ポートの接続部の中心軸線の所定の角度に関し、前者は、一の前記給気ポートの前記接続部の中心軸線は、前記給気マニホールドが延在する前記一方向に直交する直交方向に対して、「前記給気入口から遠ざかる方向に所定の傾斜角度を有して傾斜し」、さらに、「該一の前記給気ポートの前記接続部の前記中心軸線の前記傾斜角度は、該一の前記給気ポートよりも前記給気入口側に位置する他の前記給気ポート前記接続部の前記中心軸線の傾斜角度よりも大きくされている」のに対し、後者は「吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hが前記吸気マニホールド4から延出する延出部の中心軸線は、前記吸気マニホールド4の前記長手方向と前記中心軸線とを含む面内において前記長手方向に直交する直交方向に対して、所定の角度を有する」点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
引用発明は、引用文献1の段落【0006】(上記第4 1 アを参照。)に記載されたようにスワールを均一化するものである。
そして、引用文献1の段落【0020】ないし【0022】(上記第4 1 イ参照。)の記載、特に段落【0021】の「各曲成部10a?10dの曲率を変えることにより吸気ポート9a?9dに入る吸気の流れに指向性を与えて、吸気の最大流速の流れる方向を気筒8a?8dの中央側に向けるようにしている。」との記載、及び段落【0022】の「曲成部10a?10dを上記したように吸気分岐通路7a?7d側に設けているため、吸気ポート9a?9d側の設計変更をすることなく、吸気マニホールド4側の設計のみで各気筒8a?8d間のスワールの強さを略均一にすることができ」との記載からみて、引用発明は分岐吸気通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hの吸気の流れに指向性を与える設計を行うことで、スワールの強さを略均一にするものといえる。
一方、引用文献2の記載事項は、「吸気ポート21,22,23への吸気主流F1、F2、F3の流入角度θ1,θ2,θ3すなわち吸気ポート入口面に立てた法線Hに対する傾斜角度θ1,θ2,θ3は、吸気入口から離れるに従い順次大きくなること。」である。
引用文献2の記載事項は、内燃機関における気筒間のスワールを均一化する技術という点で引用発明と共通する。
そして、引用発明は分岐吸気通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hの吸気の流れに指向性を与える設計を行うことで、スワールの強さを略均一にするものであるから、スワールの強さを略均一にするために与える吸気の流れの指向性を、引用文献2の記載事項を参酌して決めることに、格別な困難性は見出せない。
してみると、スワールを均一化するものである引用発明において、その吸気マニホールド4から吸気分岐通路7a・7b・7c・7d・7e・7f・7g・7hが延出する延出部において、引用発明と同様にスワールを均一化する引用文献2の記載事項を参酌して、その中心軸線の角度を設定することは、容易に想到し得たことといえる。

そうすると、引用発明における給気ポートの接続部において、引用文献2の記載事項に基いて、当業者が通常の創作能力の範囲で相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、容易になし得たことである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2の記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-14 
結審通知日 2018-11-20 
審決日 2018-12-03 
出願番号 特願2015-550249(P2015-550249)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 公志郎家喜 健太川口 真一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
粟倉 裕二
発明の名称 内燃機関およびその製造方法  
代理人 三苫 貴織  
代理人 藤田 考晴  
代理人 川上 美紀  

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