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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21F
審判 全部申し立て 2項進歩性  D21F
管理番号 1348686
異議申立番号 異議2018-700342  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-25 
確定日 2018-12-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6217497号発明「段ボール原紙の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6217497号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6217497号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 特許第6217497号の請求項3についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6217497号(以下「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年3月31日の出願であって、平成29年10月6日にその特許権の設定登録がされ(平成29年10月25日特許掲載公報発行)、その後、平成30年4月25日に特許異議申立人目黒茂(以下「異議申立人」という。)より請求項1?3に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、平成30年6月28日付けで取消理由が通知され、平成30年8月23日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がされ、平成30年9月28日に異議申立人から意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1?4からなるものである。それぞれの訂正事項について、訂正箇所に下線を付して示すと次のとおりである。

ア.訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「段ボール原紙の製造方法であって、古紙パルプを80質量%以上含む原料パルプと紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含む紙料を、ワイヤーパートにおいてシェーキング装置を使用してシェーキング装置の振幅の範囲20?30mmでシェーキングナンバーを3,000?6,500の範囲に設定して抄紙することを特徴とする、段ボール原紙の製造方法。」とあるのを、
「単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であり、古紙パルプを80質量%以上含む原料パルプと紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含む紙料を、ワイヤーパートにおいてシェーキング装置を使用してシェーキング装置の振幅の範囲20?30mmでシェーキングナンバーを3,000?6,500の範囲に設定して抄紙することを特徴とする、段ボール原紙の製造方法。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2についても、同様に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

ウ.訂正事項3
本件訂正前の明細書の段落【0013】に、
「[1]段ボール原紙の製造方法であって、古紙パルプを80質量%以上含む原料パルプと紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含む紙料を、ワイヤーパートにおいてシェーキング装置を使用してシェーキング装置の振幅の範囲20?30mmでシェーキングナンバーを3,000?6,500の範囲に設定して抄紙することを特徴とする、段ボール原紙の製造方法。
[2]前記段ボール原紙の坪量が100g/m^(2)以上であることを特徴とする、[1]に記載の段ボール原紙の製造方法。」
[3]前記段ボール原紙が、多層抄き合せフォーマーによって抄紙される段ボール原紙を構成する層の中で最も坪量の大きい層であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の段ボール原紙の製造方法。」とあるのを、
「[1]単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であり、古紙パルプを80質量%以上含む原料パルプと紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含む紙料を、ワイヤーパートにおいてシェーキング装置を使用してシェーキング装置の振幅の範囲20?30mmでシェーキングナンバーを3,000?6,500の範囲に設定して抄紙することを特徴とする、段ボール原紙の製造方法。
[2]前記段ボール原紙の坪量が100g/m^(2)以上であることを特徴とする、[1]に記載の段ボール原紙の製造方法。
[3](削除)」に訂正する。

エ.訂正事項4
本件訂正前の明細書の段落【0068】に、
「以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
また、これらの例は、段ボール原紙のうち、中芯原紙の製造例を示すものであるが、本発明により得られる段ボール原紙からライナーを除外することを意図するものではない。」とあるのを、
「以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。」に訂正する。

(2)一群の請求項等
本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2及び3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1及び2による訂正は当該一群の請求項1?3に対してなされたものである。
また、訂正事項3及び4による訂正は、当該訂正に係る前記一群の請求項について行うものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定及び同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1
訂正事項1による一つめの訂正(以下「訂正事項1-1」という。)は、訂正前の請求項1における「段ボール原紙の製造方法」について、「単層抄きのフォーマーによる」製造方法であると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1-1は、本件特許明細書の段落【0070】の「(抄紙)得られた紙料をヘッドボックスによりワイヤーパートのワイヤー上へ供給した。ワイヤーパートは、単層抄きのオントップ型フォーマーであり、・・・」と記載からみて、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

訂正事項1による二つめの訂正(以下「訂正事項1-2」という。)は、訂正前の請求項1における「段ボール原紙」について、「中芯原紙」であると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1-2は、本件特許明細書の段落【0069】?【0081】における「中芯原紙」の製造に関する記載からみて、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

請求項1を引用する請求項2についての訂正も同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ.訂正事項2
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ.訂正事項3
訂正事項3による一つめの訂正は、上記訂正事項1及び2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の段落【0013】の記載を整合させ、より明瞭に記載しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

訂正事項3による二つめの訂正は、訂正前の明細書の段落【0013】の「・・・[2]前記段ボール原紙の坪量が100g/m^(2)以上であることを特徴とする、[1]に記載の段ボール原紙の製造方法。」・・・」(注:下線は当審が付した。)という記載における余分な『」』を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ.訂正事項4
訂正事項4は、上記訂正事項1及び2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の段落【0068】の記載を整合させ、より明瞭に記載しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求が認められたことにより、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であり、古紙パルプを80質量%以上含む原料パルプと紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含む紙料を、ワイヤーパートにおいてシェーキング装置を使用してシェーキング装置の振幅の範囲20?30mmでシェーキングナンバーを3,000?6,500の範囲に設定して抄紙することを特徴とする、段ボール原紙の製造方法。
【請求項2】
前記段ボール原紙の坪量が100g/m^(2)以上であることを特徴とする、請求項1に記載の段ボール原紙の製造方法。
【請求項3】(削除)

(2)取消理由の概要
当審において、本件発明の特許に対して、平成30年6月28日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
なお、異議申立人が申立てた全ての理由は通知された。

理由1 本件発明1及び2は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



<刊行物一覧>
甲1:特開2014-12908号公報
甲2:特開2012-224952号公報
甲3:近藤 和奈、「シェーキング装置の操業経験(岩国工場6マシン) 」、第56回-2013年 紙パルプ技術協会年次大会 講演要旨 集、紙パルプ技術協会、平成25年10月9-11日、p.191 -195
甲4:高野 行範、「既存設備改善の提案“デュオシェイク”」、紙パル プ技術タイムス 第48巻 第1号、平成17年1月1日、p.2 9-33
甲5:濱 毅、「ワイヤーシェーキング装置(フォームマスター)導入に よるクラフト紙の紙質改善」、紙パ技協誌 第63巻第11号、紙 パルプ技術協会、2009年11月1日、p.18-21
甲6:JIS P3902-1985 「段ボール用ライナ」
甲7:Nuttall,G.H.、「マシン操業百科(上巻)」、王子三 社文献委員会監修 紙パルプ技術文献特集号NO.45-1、中外 産業調査会、1970年、p.209-213
甲8:特開2011-21283号公報

甲1?8は、各々、特許異議申立書に添付された甲第1?8号証である。

ア.理由1について
本件発明1は、甲1に記載された発明、甲2?7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2は、甲1に記載された発明、甲2?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.理由2について
請求項3の「前記段ボール原紙が、多層抄き合せフォーマーによって抄紙される段ボール原紙を構成する層の中で最も坪量の大きい層である・・・」という記載は不明確である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3)取消理由についての判断
ア.理由1について
(ア)刊行物に記載された発明
a.甲1について
甲1には、以下の記載がある。
(a)「【0001】
本発明は、段ボール用ライナーに関する。」

(b)「【0019】
当該段ボール用ライナーは、三層以上の紙層を有する。・・・」

(c)「【0020】
この多層構造は、パルプを主成分とするパルプスラリーを多層抄き等することによって形成することができる。・・・」

(d)「【0021】
なお、リサイクル性の点からは、古紙パルプを用いることが好ましい。全パルプに対する古紙パルプの使用量として、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。・・・」

(e)「【0023】
(内添紙力増強剤)
上記パルプスラリーには、上記原料パルプの他に紙力増強剤を更に添加するとよい。内紙力増強剤としては、乾燥紙力増強剤や湿潤紙力増強剤があり、乾燥紙力増強剤としては、例えばカチオン澱粉、両性澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられ、湿潤紙力増強剤としては、例えばポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、尿素樹脂、酸コロイド・メラミン樹脂、熱架橋性付与PAM等が挙げられる。これらのうち、歩留りの優れるポリアクリルアミドが好ましい。」

(f)「【0056】
(段ボール用ライナーの製造方法)
当該段ボール用ライナーは、上述のように各紙層に対応する原料パルプスラリーを抄紙することによって得ることができる。当該段ボール用ライナーは、一般に製紙に用いられるシステムで製造することができ、具体的には、例えばワイヤーパート、・・・を含む製紙システム等を用いることができる。・・・」

以上より、甲1には、「多層抄きの段ボール用ライナーの製造方法であって、古紙パルプを80質量%以上含むパルプと内添紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含むパルプスラリーを、ワイヤーパートを含む製紙システムを使用して抄紙することを特徴とする、段ボール用ライナーの製造方法。」という発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

b.甲2について
甲2には、以下の記載がある。
(a)「【0023】
縦横比は抄紙機の操業条件によって決定されるため、抄紙機の操作を適正にする必要がある。・・・特に、ワイヤーパートにおいて、振動数や振幅を自在に変更できるワイヤーシェーキング装置を用いてワイヤーを流れ方向と水平かつ直角方向に摺動させつつ抄紙を行うと、パルプ繊維の方向がランダム配向化するので好ましい。・・・」

以上より、甲2には、「抄紙機のワイヤーパートにおいて、ワイヤーシェーキング装置を用いる。」(以下「甲2事項」という。)ということが記載されているといえる。

c.甲3について
甲3には、以下の記載がある。
(a)「これら上質紙、産業用紙原紙における品質要求への対応と、他社製品との競争力を持つため、地合改善、T/Y比改善を図る事としてシェーキング装置を導入した。」(第192ページ第4行?第5行)

(b)「表3 デュオシェーク装置仕様
機械型式 DuoShake 250Nm
振幅 0-25 mm
振動数 150-600 strokes/min
シェーキング・ロッド耐荷重 Max. 50 kN」
(第192ページ表3)

(c)「なお、SKZとはシェーキングNo.を示し、下記の式(1)で示す。
SKZ=n^(2)×S÷Vwire・・・・・(1)
n:振動数(1/min)
S:振幅(mm)
Vwire:ワイヤー速度(m/min)
図3より、地合は振動数、振幅とも高くなるほど良くなる傾向にあり、特に振幅が大きいほど地合は良くなる結果であった。図4より、T/Y比も地合と同様で、振幅による影響度が高い結果となった。」(第193ページ第5行?第12行)

(d)「

」(第193ページ図3及び4)

(a)より、甲3には、「産業用紙原紙の製造に、シェーキング装置を用いる。」(以下「甲3-1事項」という。)ということが記載されているといえる。

また(b)より、使用するシェーキング装置において、振幅が0-25mmの間で設定可能であることが把握される。
そして(c)より、シェーキングナンバーの定義と、振幅との関係が把握される。
さらに(d)より、振幅を5mm、15mm、25mmに設定することと、振幅25mmにした場合にシェーキングナンバーを約500、約4000、又は約6000に設定するということが把握される。
よって、(b)?(d)より、甲3には、「シェーキング装置において、振幅を5?25mmの間で設定すること、及び、振幅25mmにした場合にシェーキングナンバーを約500?約6000に設定する。」(以下「甲3-2事項」という。)ということが記載されているといえる。


d.甲4について
甲4には、以下の記載がある。
(a)「現在一般的に使用されているシェーキング装置の場合,ストロークは最大30mm前後だが,・・・」(第30ページ左欄第10行?第12行)

(b)「図7

」(第31ページ図7)

(c)「図9

」(第32ページ図9)

(d)「5.板紙への導入
近年,板紙抄紙機も中芯原紙などでギャップフォーマーが採用されるなど,高速化が進んでいるが,印刷・筆記用紙などに比較して今でも低速で操業されている抄紙機が多数存在する.したがって,今までもシェーキング装置を採用している例が多数あった.板紙で特に重要視される強度についても,シェーキング装置の適用で改善することが可能であるからである(図11,図12).」(第32ページ左欄第3行?第13行)

(e)「デュオシェイクは先に説明した通り,そのユニークな原理のおかげで,強固な基礎が不要である.すなわち、マルチフォードリニアの表層・中層などのように建屋基礎にシェーキング装置を設置することが難しいレイアウトでも容易に設置が可能である.」(第30ページ左欄第19行?第25行)

(a)より、シェーキング装置において、ストロークを最大30mm前後とすることが把握される。
そして(b)及び(c)より、坪量が120g/m^(2)である場合に、シェーキング数が3000?6500の範囲は、3000未満の範囲に比べて、地合の値もT/Y比も小さいということが把握される。
よって、(a)?(c)より、甲4には、「シェーキング装置において、ストロークを最大30mm前後で設定すること、及び、坪量が120g/m^(2)である場合にシェーキング数が3000?6500の範囲が地合の値もT/Y比も良好であること。」(以下「甲4-1事項」という。)が記載されているといえる。

(d)より、甲4には、「従来より、中芯原紙でシェーキング装置を採用している抄紙機が存在する。」(以下「甲4-2」事項という。)ということが記載されているといえる。

(e)において、「デュオシェイク」はシェーキング装置の一種であるから、甲4には、「段ボール原紙の製造方法において、シェーキング装置を使用すること。」(以下「甲4-3事項」という。)が記載されているといえる。

e.甲5について
甲5には、以下の記載がある。
(a)「4.2 フォームマスター仕様
・シェーキング能力:最大60kN
・シェーキング周波数:可変 最大600rpm
・シェーキングストローク:可変 最大30mm
・シェーキング駆動電動機容量:7.5kW 1台
・油圧ポンプ容量:4kW 1台」(第19ページ右欄第4行?第9行)

(b)「5. フォームマスター導入後の操業状況と品質改善結果
5.1 地合について
3号マシンは地合向上対策として,ダンディロールを一部品種で使用している。このダンディロールとシェーキング装置による地合改善効果についてテストした。
表2にダンディロールとシェーキング装置による地合比較を示す。
ワイヤーシェーキング装置導入により,ダンディロール使用時と同等の地合が得られると言える。
シェーキング装置使用により,繊紺の絡みが改善され地合指数が向上したと考える。ただし,ダンディロールを使用した方が同じ地合指数でもフロックが細かくなるため,地合も綺麗に見える。
また,シェーキング装置使用により,引張T/Y比の減少,伸びの向上が見られる。
5.2 シェーキング条件変更に伴う品質の変化についてシェーキングNo.と紙質の関係について,図3に示した(75g/m^(2)でのテスト結果)。
○1(当審注:○の中にアラビア数字の1) 引張強度:ストロークの増加とともに縦引張は向上し横引張は低下している。一方,周波数を変化させても引張強度には大きく影響しなかった。
○2(当審注:○の中にアラビア数字の2) 引裂強度:ストロークの増加とともに縦・横引張とも一旦低下しその後向上している。一方,周波数を変化させても引張強度には大きく影響しなかった。
○3(当審注:○の中にアラビア数字の3) 伸び:縦伸びはテストデータを見る限りはストロークには影響されないが,横伸びはストロークの増加に伴い向上している。ただし実操業では縦伸びの向上は見られた。また,周波数の増加に伴い縦・横伸びは低下している。
○4(当審注:○の中にアラビア数字の4) 地合指数:ストロークの影響を大きく受けており、ストロークの増加に伴い地合指数も向上している。ただし周波数についてはそれ程影響されていない。」(第19ページ右欄第16行?第20ページ右欄第15行)


(a)より、シェーキング装置において、ストロークを最大30mmとすることが把握される。
そして(b)より、シェーキング装置の使用の際、ストロークの増加に伴い横伸び及び地合指数が向上するということが把握される。

以上より、甲5には、「シェーキングにおいて、ストロークを最大30mmとすること、及び、ストロークの増加に伴い横伸び及び地合指数が向上する。」(以下「甲5事項」という。)ということが記載されているといえる。

f.甲6について
甲6には、以下の記載がある。
(a)「2.種類 ライナは,比圧縮強さ(横)及び比破裂強さによって、AA,A,B,Cの4級に分け,各級の表示坪量は表1のとおりとする。」(第403ページ)

(b)「

」(第403ページ表1)

(a)より、甲6には、「段ボール用ライナは、比圧縮強さ(横)により、その強度が定まる。」(以下「甲6-1事項」という。)ということが記載されているといえる。

また(a)及び(b)より、甲6には、「段ボール用ライナにおいて、坪量が160g/m^(2)以上とする。」(以下「甲6-2事項」という。)ということが記載されているといえる。

g.甲7について
甲7には、以下の記載がある。
(a)「(g) シェーキングのサイクルに対して振幅を増すと密度や平均の紙の強さが増大するように影響する。」(第210ページ右欄第14行?第17行)

以上より、甲7には、「シェーキングにおいて、振幅を増やすことで紙の強さを上げる。」(以下「甲7事項」という。)ということが記載されているといえる。

h.甲8について
甲8には、以下の記載がある。
(a)「【0001】
本発明は、板紙及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、古紙パルプを主成分としながらも、水濡れや湿気、擦れによる表面汚れ(色落ち)が少なく、パルプ素材の風合いを備えた、例えば製袋用や段ボールケース用に好適な板紙及びその製造方法に関する。」

(b)「【0080】
かくして得られる本発明の板紙の坪量は、特に限定されるものではないが、JIS P 8124(1998)「紙及び板紙-坪量測定方法」に記載の方法に準拠して測定して、80?320g/m^(2)、さらには120?280g/m^(2)であることが好ましい。坪量が80g/m^(2)未満であると、本発明の板紙を例えば段ボール原紙に加工する際に、その強度を確保することが困難になる場合がある。逆に坪量が320g/m^(2)を超えると、過剰品質となるだけでなく、製造コストが高くなる恐れがある。」

以上より、甲8には、「段ボールケース用に好適な板紙において、坪量が80g/m^(2)以上が好ましい。」(以下「甲8事項」という。)ということが記載されているといえる。

(イ)本件発明1について
a.本件発明1は、上記3.(1)において示したとおりのものである。

b.本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
本件発明1の「段ボール原紙」は、ライナーと中芯原紙とをともに包含する用語である(本件明細書の段落【0015】を参照。)から、甲1発明の「段ボール用ライナー」は本件発明1の「段ボール原紙」の一種であるといえる。
甲1発明の「パルプ」は段ボール用ライナーの原料となるものであるから、本件発明1の「原料パルプ」に相当する。

甲1発明の「内添紙力増強剤」は、本件発明1の「紙力増強剤」に相当する。
甲1発明の「パルプスラリー」は、パルプを含んだスラリーであり、その後に抄紙されるものであるから、本件発明1の「紙料」に相当する。

よって、本件発明1と甲1発明は、以下の構成において一致する。
「段ボール原紙の製造方法であって、古紙パルプを80質量%以上含む原料パルプと紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含む紙料を抄紙することを特徴とする、段ボール原紙の製造方法。」

そして、本件発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1は、「単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であ」るのに対し、甲1発明は、多層抄きの段ボール用ライナーの製造方法である点。

・相違点2
本件発明1は、「ワイヤーパートにおいてシェーキング装置を使用してシェーキング装置の振幅の範囲20?30mmでシェーキングナンバーを3,000?6,500の範囲に設定して抄紙することを特徴とする」のに対し、甲1発明は、ワイヤーパートを含む製紙システムを使用して抄紙することは明らかであるものの、シェーキング装置を使用するかが不明である点。

c.相違点1について検討する。
単層抄きのフォーマーによる中芯原紙の製造方法は、異議申立人から提出された証拠である甲2?8には示されていない。
そして、甲1発明の解決しようとする課題は、「薬品等の塗工によらず、良好な接着剤水溶液の吸水性が発現され、高速貼合性に優れる段ボール用ライナーを提供すること」(甲1の段落【0007】を参照。)であり、当該課題を解決するために、「裏面に位置する第一紙層及びこの第一紙層の表面に積層される第二紙層を含む3層以上の紙層を有する段ボール用ライナー」において、「裏面に位置する第一紙層に、ある程度の厚みをもたせ、かつ、低密度」とすることで、「裏層が物理的に所定量の水溶液を吸収しやすい構造」としたものである(甲1の段落【0008】?【0009】を参照。)。
そのため、多層抄きの段ボール用ライナーの製造方法であることは、甲1発明の解決しようとする課題の解決のために欠くことのできない構成要素であり、甲1発明を単層抄きのフォーマーによる中芯原紙の製造方法とすることの動機付けは見当たらない。
よって、相違点1は実質的な相違点であって、甲1発明を「単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であ」るようにすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
一方で、本件発明1は「単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であ」ることによって、「原料パルプとして古紙パルプを使用しながらも、強度と貼合性に優れる段ボール原紙を製造することができ」、「特に、古紙パルプの配合率の高い段ボール原紙の製造において、紙力増強剤を紙料に多量添加することなく、所望とする強度を有する段ボール原紙を製造することができる」(本件明細書の段落【0014】)という効果を発揮するものである。

d.以上より、本件発明1は、甲1発明及び甲2?8事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

e.異議申立人は平成30年9月28日付け意見書において、甲第9号証(特開2005-273103号公報)及び甲第10号証(「紙パルプ技術便覧」、紙パルプ技術協会、1992年1月30日、p.293、p305)を例に挙げ、「単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であ」ることは周知であるから、甲1発明を「単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であ」るようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであると主張している。
また、異議申立人は同意見書において、上記(ア)d.(d)で摘示した甲4の記載に基づき、従来より、中芯原紙などを抄造する板紙抄紙機に対して、シェーキング装置を採用して強度について改善が試みられてきたとも主張している。
しかし、上記c.で述べたとおり、多層抄きの段ボール用ライナーの製造方法であることは、甲1発明において欠くことのできない構成要素であるから、甲1発明を単層抄きのフォーマーによる中芯原紙の製造に適用し、本件発明の製造方法とすることの動機付けは見当たらない。
したがって、異議申立人の上記主張は当を得たものではなく、採用できない。

(ウ)本件発明2について
本件発明2は本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものである。
よって、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2も、甲1発明及び甲2?8事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明3について
上記3.(1)において示したとおり、請求項3は、本件訂正により削除された。
したがって、請求項3に対する理由1については、対象となる請求項に係る特許が存在しないものとなった。

イ.理由2について
上記3.(1)において示したとおり、請求項3は、本件訂正により削除された。
したがって、理由2については、対象となる請求項に係る特許が存在しないものとなった。

ウ.小括
以上のとおり、本件発明1ないし2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件特許の請求項3は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項3についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項3についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
段ボール原紙の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段ボール原紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボールは、大量生産が可能であること、軽量であること、折り畳みが可能であること、リサイクルが可能であること等の理由から、広範囲な産業において、包装資材として利用されている。
【0003】
段ボールを構成する段ボール原紙は、外装用ライナー・内装用ライナー(外装用ライナー・内装用ライナーを総称してライナーという。以下、本明細書において同じ。)と中芯原紙とに分類される。段ボールは、中芯原紙を波形に成形した後、この中芯原紙の段頂に接着剤を塗布し、これにライナーを貼合することにより製造される。
【0004】
段ボール原紙には、原料コストの削減を目的に、原料パルプの1つとして古紙パルプが使用されてきている。近年では、段ボール原紙メーカーにおける古紙処理技術の向上、抄紙設備の高度化等により、古紙パルプの配合比率は大幅に上昇している。
段ボール原紙は、その用途から、強度を要求されるが、古紙パルプの配合比率が上昇するに伴い、強度が低下してしまう。とりわけ、近年の市場に流通する古紙は、度重なるリサイクル処理を経たものが多く、かかる古紙を古紙パルプとして再利用すると、従来の古紙パルプよりも繊維長の短いパルプとなる傾向があり、強度の低下に拍車を掛けている。
【0005】
古紙パルプの配合比率の上昇に伴う、かかる強度低下の問題への対策として、紙力増強剤、特にポリアクリルアミドを原紙に配合する手段が採られることがある。
ポリアクリルアミドを紙料に添加すると、セルロース繊維間の水素結合の数を増加させ、抄紙された段ボール原紙の強度を高めると考えられている。
ポリアクリルアミドは、他の紙力増強剤と比して、紙力増強効果の大きいこと、抄紙機のドライヤーにより熱分解するおそれがないこと等の理由から好んで使用される。
【0006】
ポリアクリルアミドを段ボール原紙に配合することにより、原紙の強度は向上する反面、段ボール製造時の貼合性が低下するという問題が生じる。この問題は、中芯原紙とライナーとを貼合する接着剤と、ポリアクリルアミドとの親和性が低いことに起因するものと考えられている。貼合性の劣る段ボール原紙を段ボール製造工程に給すると、部分的あるいは全面的な貼合不良が発生してしまうため、貼合用接着剤の塗布量を多くしたり、貼合速度を下げたりといった対策を講じる必要が生じ、製造コストの増大や製造効率の低下をまねく。
【0007】
古紙パルプの配合比率の上昇に伴い、紙力増強剤であるポリアクリルアミドの添加率も増加しており、従前にも増してかかる貼合性の低下という課題が大きなものとなっている。
【0008】
以上のように、原料パルプとして古紙パルプを使用しながらも、強度と貼合性に優れる段ボール原紙を製造することは、段ボール原紙メーカーにとって解決すべき課題の1つとなっている。
【0009】
かかる課題を解決する方法としては、例えば、特許文献1には、中芯原紙の表面に特定の酸化度を有する酸化澱粉と網目状の水溶性高分子とを塗工する方法が開示されている。
また、特許文献2には、特定の坪量かつ特定の密度となるように抄紙されたライナーの表面に特定の分子量範囲の化工澱粉を主成分とする塗工液を塗工する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012-219424号公報
【特許文献2】特開2009-191412号公報
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示される方法について本発明者が確認したところ、坪量が100g/m^(2)を下回る軽量の中芯原紙においては強度と貼合性の向上が認められたものの、中芯原紙の主たる坪量範囲である120g/m^(2)以上にあっては、表面塗工液の原紙内部への浸透不足からか、さしたる強度向上効果は認められなかった。
また、特許文献2に開示される方法についても、ライナーの主たる坪量範囲である160g/m^(2)以上にあっては、同じく表面塗工液の原紙内部への浸透不足からか、さしたる強度向上効果は認められなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、原料パルプとして古紙パルプを使用しながらも、強度と貼合性に優れる段ボール原紙の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であり、古紙パルプを80質量%以上含む原料パルプと紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含む紙料を、ワイヤーパートにおいてシェーキング装置を使用してシェーキング装置の振幅の範囲20?30mmでシェーキングナンバーを3,000?6,500の範囲に設定して抄紙することを特徴とする、段ボール原紙の製造方法。
[2]前記段ボール原紙の坪量が100g/m^(2)以上であることを特徴とする、[1]に記載の段ボール原紙の製造方法。
[3](削除)
【発明の効果】
【0014】
本発明の段ボール原紙の製造方法によれば、原料パルプとして古紙パルプを使用しながらも、強度と貼合性に優れる段ボール原紙を製造することができる。特に、古紙パルプの配合率の高い段ボール原紙の製造において、紙力増強剤を紙料に多量添加することなく、所望とする強度を有する段ボール原紙を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の段ボール原紙の製造方法について詳細に説明する。
なお、本明細書において、「段ボール原紙」という用語は、ライナーと中芯原紙とをともに包含する用語として使用する。強化ライナー、塗工ライナー、強化中芯原紙、軽量中芯原紙など、種々の呼称・種類のライナーと中芯原紙も、当然の如く「段ボール原紙」という用語に包含される。
また、本明細書において、「?」を用いて表現される数値範囲は、「?」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味するものとする。
【0016】
<紙料の調製>
段ボール原紙は紙料を抄紙することによって得られる。紙料は、原料パルプのスラリーに、紙力増強剤と、必要に応じてその他の添加剤(填料、サイズ剤、染料等)を添加することによって調製される。
【0017】
(原料パルプ)
本発明の段ボール原紙の製造方法では、原料パルプとして古紙パルプを使用する。原料パルプの配合例としては、実質的に古紙パルプのみから成る配合としてもよいし、古紙パルプと古紙パルプ以外のパルプとから成る配合としてもよい。
【0018】
原料パルプにおける古紙パルプの配合量は特に規定しないが、本発明の効果を享受しやすいことから、原料パルプの全乾燥質量を基準として、古紙パルプを原料パルプ中に80質量%以上含むことが好ましく、実質的に100質量%含むことがより好ましい。一般に、古紙パルプの配合率の高い段ボール原紙は強度が低下しやすくなるところ、本発明の製造方法によれば、原料パルプの全乾燥質量を基準として古紙パルプを原料パルプ中に80質量%以上含む段ボール原紙でありながらも、強度の低下を抑制することができる。当然のことながら、リサイクル処理を複数回経た古紙から得られる古紙パルプであっても、本発明の効果を享受することができる。
【0019】
古紙パルプとしては、段ボール古紙、雑誌古紙、チラシ古紙、新聞古紙、オフィス古紙、情報用紙古紙、紙器古紙等を離解した古紙パルプ、あるいはこれらの古紙を離解後脱墨した古紙パルプ(DIPとも呼ぶ。)等を使用することができる。
【0020】
古紙パルプ以外のパルプとしては、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ等の木材及びその他の繊維原料を化学的に処理して得られるバージンのクラフトパルプや、木材又はチップを機械的に処理して得られるバージンの機械パルプや、機械的処理と化学的処理とを組み合わせて得られるバージンのセミケミカルパルプを使用することができる。
【0021】
(紙力増強剤)
本発明の段ボール原紙の製造方法では、原料パルプのスラリーに、紙力増強剤を添加する。紙力増強剤としては、紙力増強効果の大きいことから、ポリアクリルアミドを使用する。
【0022】
ポリアクリルアミドは、段ボール原紙、とりわけ原料パルプとして古紙パルプを含む段ボール原紙の強度を向上させる目的で使用されており、本発明においても、その使用目的は同じである。
しかし、本発明の段ボール原紙の製造方法によれば、ポリアクリルアミドを使用することによる貼合性の低下問題を克服した上で、ポリアクリルアミドの奏する強度向上効果を享受することが可能となる。
すなわち、後述するシェーキング装置の作用により、段ボール原紙の強度が向上し、これにより所望とする強度を達成するために必要なポリアクリルアミドの添加量を減添することが可能となり、結果として得られる段ボール原紙の貼合性が向上するのである。
【0023】
ポリアクリルアミドとしては、アニオン性ポリアクリルアミドであってもよいし、カチオン性ポリアクリルアミドであってもよいし、両性ポリアクリルアミドであってもよい。
【0024】
アニオン性ポリアクリルアミドとしては、アニオン基としてカルボキシル基を導入したものが一例として挙げられる。
カチオン性ポリアクリルアミドとしては、カチオン基としてアミンを導入したものが一例として挙げられる。
両性ポリアクリルアミドとしては、カチオン性ポリアクリルアミドにカルボキシル基を導入したもの、アクリルアミドとカチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとを共重合したものが一例として挙げられる。
【0025】
ポリアクリルアミドを原料パルプのスラリーに添加する方法としては、原料パルプのスラリーをヘッドボックスに送る前に添加する方法(例えば、ファンポンプの入口側にポリアクリルアミドを添加する方法)であってもよいし、原料パルプのスラリーをヘッドボックスに送った後に添加する方法(例えば、ワイヤー上の原料パルプのスラリーにポリアクリルアミドをスプレー装置で噴霧する方法)であってもよい。
【0026】
本発明の段ボール原紙の製造方法では、原料パルプのスラリーに添加するポリアクリルアミドの量は特に規定しないが、従来の段ボール原紙の製造方法と比べて、10%以上減添した添加量が一つの目安である。
【0027】
本発明の効果を阻害しない限度において、ポリアクリルアミド以外の紙力増強剤、例えば、澱粉、酸化澱粉、カルボキシメチル化澱粉、カチオン化澱粉、植物ガム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の公知の紙力増強剤をポリアクリルアミドに併用して使用することもできる。
【0028】
(その他の添加剤)
本発明の段ボール原紙の製造方法では、前述した紙力増強剤の他に、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、ゼオライト、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、二酸化チタン、炭酸バリウム、酸化珪素、非晶質シリカ、尿素一ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の填料、アルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー等のサイズ剤、染料、消泡剤、防腐剤、歩留向上剤、嵩高剤、粘度調整剤等の公知の薬品を単独ないし併用して原料パルプのスラリーに適宜添加することができる。
【0029】
<抄紙>
調製された紙料は、ヘッドボックスによりワイヤーパートのワイヤー上に供給される。供給された試料はワイヤー上で紙層を形成される。形成された紙層は、続くプレスパート、ドライヤーパートに送られて乾燥される。
【0030】
本発明の段ボール原紙の製造方法では、使用するヘッドボックスについて特に規定せず、各種のヘッドボックスを使用することができる。
具体的には、マスタージェット(IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)、モジュールジェット付マスタージェット(IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)、BTFヘッドボックスシステム(川之江造機社製)、シムフローヘッドボックス(Metso社製)、オプティフローヘッドボックス(Metso社製)等の公知のヘッドボックスを使用することができる。
【0031】
ヘッドボックスにおける紙料濃度についても特に規定しないが、紙料濃度の低い方がパルプ繊維の分散性が良いとされることから、ライナー、中芯原紙のいずれを抄紙する場合であっても、紙料濃度は0.7?1.4質量%とすることが好ましい。
【0032】
本発明の段ボール原紙の製造方法では、使用するワイヤーパートの形式(フォーマーの形式)について特に規定せず、各種のフォーマーを使用することができる。
また、単層抄きフォーマーを使用してもよく、抄き合わせフォーマーを使用してもよい。
具体的には、デュオフォーマD(IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)、デュオフォーマK(IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)、デュオフォーマKD(IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)、デュオフォーマシリーズを組み合わせたマルチフォードリニア(IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)、ウルトラフォーマシリーズ(小林製作所)、シムフォーマMB(Metso社製)等の公知のフォーマーを使用することができる。
【0033】
(シェーキング装置)
本発明の段ボール原紙の製造方法では、ワイヤーパートにシェーキング装置(ワイヤーシェーキ装置とも呼ばれる。)を導入し、これを使用して紙料を抄紙する。
【0034】
シェーキング装置とは、ワイヤーパートのブレストロールを紙料の流れ方向と垂直な方向(マシン幅方向とも呼ぶ。)に摺動させる装置である。
偏心重量を有する重量体を回転させることによって発生する遠心力を、コネクティングロッドを介してブレストロールに作用させることにより、ブレストロールは摺動する。
ブレストロールの摺動に伴い、ワイヤーも摺動することになるが、ワイヤー上の紙料は摺動によるせん断力を受けることになる。
【0035】
シェーキング装置を利用することにより、所望とする段ボール原紙の強度を得るために必要なポリアクリルアミドの添加量を減添することができ、結果として段ボール原紙の貼合性が向上する。
かかる効果が得られるのは、シェーキング装置の使用により、応力集中点(破壊の起点)になりやすい坪量ムラが減少し、段ボール原紙の破裂強さが向上するためと推定される。さらに、シェーキング装置の使用により、繊維が幅方向(マシン幅方向)に配向するようになり、段ボール原紙の横方向の圧縮強さが向上するためと推定される。
【0036】
本発明の段ボール原紙の製造方法では、使用するシェーキング装置について特に規定せず、各種のシェーキング装置を使用することができる。
具体的には、デュオシェイク(IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)、フォームマスタ(Metso社製)等の公知のシェーキング装置を使用することができる。
【0037】
(シェーキングナンバー)
一般に、シェーキング装置の摺動のエネルギーを示す指標として、下記数式(1)により算出されるシェーキングナンバーが利用される。
I = f^(2) × s / V ・・・数式(1)
ここで
I : シェーキングナンバー
f : 周波数 [cm^(-1)]
s : 振幅 [mm]
V : 抄速(ワイヤー速度) [m/min]
【0038】
シェーキングナンバーの好ましい範囲は3,000?6,500であり、より好ましくは4,000?6,500である。シェーキングナンバーが前記下限値以上であれば、破裂強さと横方向の圧縮強さの向上効果が好適に発現する。シェーキングナンバーが前記上限値以下であれば、シェーキング装置の駆動系に過度の負荷を与えることなく本効果を享受できる。
【0039】
(シェーキングナンバーの設定)
数式(1)から明らかなとおり、シェーキングナンバーは、抄速(ワイヤー速度)、シェーキング装置の周波数、振幅のうち、少なくとも1つを変更することにより、前述の好ましい数値範囲に設定することができる。通常は、抄速(ワイヤー速度)ではなく、シェーキング装置の周波数又は振幅を変更することにより行なわれる。
【0040】
本発明者によって見出された知見に基づけば、シェーキングナンバーを前述の好ましい数値範囲外から前述の好ましい数値範囲内に設定する場合、シェーキング装置の周波数を変更して設定するよりも、シェーキング装置の振幅を変更して設定するほうが、同一のシェーキングナンバーに設定する場合であっても、破裂強さと横方向の圧縮強さの向上が大きいため、好ましい。
【0041】
さらに、シェーキング装置の振幅を変更してシェーキングナンバーを設定する場合、振幅を20?30mmの範囲とすると、破裂強さと横方向の圧縮強さがより大きく向上することがわかった。理由は定かではないが、振幅が前記下限値以上であれば、坪量ムラの改善効果と繊維の横方向への配向が大きくなるものと考えられる。振幅が前記上限値以下であれば、シェーキング装置の駆動系に過度の負荷を与えることなく本効果を享受できる。
【0042】
(シェーキング装置を使用して抄紙する原紙層)
段ボール原紙が抄き合わせフォーマーにより抄紙される場合、原紙を構成する層の中で最も坪量の大きい層を、シェーキング装置を使用して抄紙することが好ましい。勿論、設置スペースや導入コストの点に鑑みて許容するのであれば、複数の原紙層を、シェーキング装置を使用して抄紙することが好ましい。
【0043】
ワイヤーパートにて紙層を形成した後、続くプレスパート、ドライヤーパートにおいて搾水・乾燥が行なわれる。
【0044】
本発明の段ボール原紙の製造方法では、使用するプレスパートの形式について特に規定しないが、搾水能力に優れ、かつ原紙の嵩の低下を抑制することができることから、シュープレス装置を有するプレスパートを使用することが好ましい。
シュープレス装置としては、具体的には、ニプコフレックスプレス(IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)、シムベルトSプレス(Metso社製)等の公知の装置を使用することができる。
【0045】
本発明の段ボール原紙の製造方法では、使用するドライヤーパートの形式についても特に規定せず、ダブルデッキドライヤー、シングルデッキドライヤーを単独あるいは組み合わせた形式のドライヤーパートを使用することができる。
高速抄紙を実現するのであれば、シングルデッキドライヤーをドライヤー各群に積極的に使用することが好ましい。
【0046】
<塗工>
本発明の段ボール原紙の製造方法では、ドライヤーパートを経て乾燥された原紙は、原紙の用途により、所望とする品質に応じてその表面にクリア塗工やピグメント塗工(顔料塗工とも呼ぶ。)が施される。
【0047】
塗工する原紙面は特に規定せず、両面塗工であってもよいし、片面のみの塗工であってもよい。また、各面で異なる塗工液を塗工する表裏差塗工であってよい。
【0048】
クリア塗工であれ、ピグメント塗工であれ、使用する塗工装置は特に規定せず、ブレードコーター、2ロールコーター(インクラインドコーターとも呼ぶ。)、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター、カーテンコーター、ビルブレードコーター、ベルバパコーター等の公知の塗工装置を使用することができる。
【0049】
かかる塗工装置を用いて、オンマシンで塗工してもよく、オフマシンで塗工してもよいが、製造効率を重視するのであれば、オンマシンで塗工することが好ましい。
【0050】
クリア塗工を施す場合は、顔料を含有しない塗工液を塗工することができる。
澱粉としては、酸化澱粉、酵素変性澱粉、リン酸エステル化澱粉等の各種澱粉を使用することができる。
水溶性高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を使用することができるが、貼合性を低下させるおそれのあることから、ポリアクリルアミドは使用しないことが好ましい。
クリア塗工の塗工液には、澱粉又は水溶性高分子以外に、染料、耐水化剤、撥水剤等の公知の薬品を助剤として単独ないし併用して適宜含有させることができる。
【0051】
クリア塗工を施す場合の塗工量は特に限定されないが、片面当り0.5?5.0g/m^(2)塗工することが好ましい。
【0052】
段ボール原紙が塗工ライナー等の場合であって、ピグメント塗工を施す場合は、顔料と接着剤を含有する塗工液を塗工することができる。
顔料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ、サチンホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、プラスチックピグメント等の無機系あるいは有機系顔料を使用することができる。
接着剤としては、酸化澱粉、酵素変性澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉系、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白系、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール等の合成物、スチレン・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴム系、酢酸ビニル系共重合体、アクリル系共重合体等のビニルポリマー系の接着剤を使用することができる。
ピグメント塗工の塗工液には、顔料と接着剤以外に、分散剤、消泡剤、防腐剤、粘性改良剤、着色剤、潤滑剤、耐水化剤、pH調製剤等の公知の薬品を助剤として単独ないし併用して適宜含有させることができる。
【0053】
ピグメント塗工を施す場合の塗工量は特に限定されないが、片面当り2.0?20g/m^(2)塗工することが好ましい。
【0054】
クリア塗工やピグメント塗工を施すことによって再湿潤した段ボール原紙は、塗工工程に続く乾燥工程により乾燥される。
【0055】
乾燥工程で使用する乾燥装置は特に規定せず、赤外線式乾燥装置、熱風式乾燥装置、蒸気シリンダー乾燥装置、電気ヒーター式乾燥装置等の公知の乾燥装置を単独ないし組み合わせて使用することができる。
【0056】
<仕上げ処理>
本発明の段ボール原紙の製造方法では、クリア塗工やピグメント塗工を施した原紙、あるいはかかる塗工を施さない原紙に、平坦化処理(カレンダー処理とも呼ぶ。)を施すことができる。
【0057】
本発明の段ボール原紙の製造方法では、平坦化処理装置(カレンダーとも呼ぶ。)について特に規定はせず、マシンカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダー、マルチニップカレンダー、グロスカレンダー等の公知の平坦化処理装置を単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0058】
平坦化処理装置のニップ数、ニップ線圧、加熱ロールの表面温度等の諸条件についても特に規定せず、所望とする品質に応じて適宜調整することができる。
【0059】
かくして得られた段ボール原紙は、リール装置にて大巻ロールとして一旦巻き取られる。
その後、ワインダー装置にて、不良部分を取り除きながら、所定の幅と長さに巻き直され、小巻ロールとされる。
小巻ロールは定められた荷姿に包装後、製品倉庫に入り、段ボールメーカーに出荷される。
【0060】
本発明の段ボール原紙の製造方法では、段ボール原紙の坪量は特に規定せず、いかなる坪量であっても本発明の効果を享受することができるが、効果を顕著に享受しやすいことから、坪量が100g/m^(2)以上であることが好ましく、160g/m^(2)以上であることがより好ましい。一般に、坪量の高い段ボール原紙を抄紙する場合のほうが、応力集中点(破壊の起点)となる坪量ムラが生じやすいところ、本発明の製造方法によれば、坪量の高い段ボール原紙でありながらも、坪量ムラを抑制することができる。
なお、坪量は、JIS-P8124(2007)に準拠して測定される値であり、原紙の表面にクリア塗工やピグメント塗工を施した段ボール原紙にあっては、塗工量を含めた坪量である。
【0061】
また、本発明の段ボール原紙の製造方法では、段ボール原紙の種類は特に規定せず、ライナーであっても中芯原紙であっても本発明の効果を享受することができるが、圧縮強さを重視されることから、中芯原紙を製造する場合において効果を顕著に享受することができる。
【0062】
<段ボールの製造>
本発明の製造方法によって得られた段ボール原紙を用いる段ボールの製造工程は、段ボールシートを作る貼合工程と、段ボール箱を作る製函工程とに大別される。
【0063】
貼合工程では、コルゲータと呼ばれる機械で、中芯原紙とライナーとを貼合し、所定寸法に断裁された段ボールシートを製造する。
【0064】
段ボールシートは、その構造により、片面段ボールシート、両面段ボールシート、複両面段ボールシート、複々両面段ボールシートに分類されるが、本発明の製造方法により得られた段ボール原紙は、いずれの段ボールシートにも好適に使用することができる。
【0065】
また、中芯原紙の波形形状(フルートとも呼ぶ。)は、段の高さと30cm当り段山数により、Aフルート、Bフルート、Cフルート、Eフルートに分類されるが、本発明の製造方法により得られた中芯原紙は、いずれの波形形状にも好適に使用することができる。
【0066】
製函工程では、この段ボールシートに印刷、接合、打ち抜きなどを施し、用途に応じた段ボール箱を製造する。
【0067】
段ボールの具体的な製造工程は、公知の種々の手法を採用できる(例えば、「ペーパー・セールス・エンジニアリング・シリーズ4 段ボール,紙業タイムス社(1996年発行)」等を参照)。
【実施例】
【0068】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0069】
[実施例1(参考実施例)]
<中芯原紙の製造>
(紙料の調製)
古紙パルプ100質量%から成る原料パルプスラリーに、紙力増強剤としてポリアクリルアミド(ポリストロン117,荒川化学工業社製)を原料パルプの全乾燥質量に対して0.9質量%の添加率となるように添加した。
また、ヘッドボックスでの紙料濃度が1.0質量%となるように濃度を調整し、紙料を調製した。
【0070】
(抄紙)
得られた紙料をヘッドボックスによりワイヤーパートのワイヤー上へ供給した。
ワイヤーパートは、単層抄きのオントップ型フォーマーであり、ボトムワイヤーのブレストロールがシェーキング装置(デュオシェイク,IHI-フォイトパーペーテクノロジー社製)により摺動可能な構成となっている。
かかる抄紙機により、抄紙速度(ワイヤー速度)を375m/min、シェーキング装置を周波数270cm^(-1),振幅15mmの条件で抄紙し、紙層を形成した。
続くプレスパート及びドライヤーパートにて搾水・乾燥し、マシンカレンダーで平坦化処理を行った後、リールにて巻き取り、坪量が200g/m^(2)の中芯原紙を得た。
【0071】
[実施例2]
実施例1で中芯原紙を得た後、ポリアクリルアミド(ポリストロン117,荒川化学工業社製)の添加率を0.9質量%から0.8質量%に減添し、さらにシェーキング装置の周波数を270cm^(-1)から300cm^(-1)に変更した。他の製造条件は実施例1と同一のままにした。坪量・水分計(以下、BM計と呼ぶ。)で品質変動の収束を確認した後、坪量が200g/m^(2)の中芯原紙を得た。
【0072】
[実施例3]
実施例2で中芯原紙を得た後、シェーキング装置の周波数を300cm^(-1)から390cm^(-1)に変更した。他の製造条件は実施例2と同一のままとした。BM計で品質変動の収束を確認した後、坪量が200g/m^(2)の中芯原紙を得た。
【0073】
[実施例4]
実施例3で中芯原紙を得た後、一旦、実施例2の製造条件に戻した。その後、シェーキング装置の振幅を15mmから25mmに変更した。他の製造条件は実施例2と同一のままとした。BM計で品質変動の収束を確認した後、坪量が200g/m^(2)の中芯原紙を得た。
【0074】
[比較例1]
実施例4で中芯原紙を得た後、シェーキング装置を停止した。その後、ポリアクリルアミド(ポリストロン117,荒川化学工業社製)の添加率を0.8質量%から1.0質量%に増添した。他の製造条件は実施例1と同一とした。BM計で品質変動の収束を確認した後、坪量が200g/m^(2)の中芯原紙を得た。
【0075】
各製造例で得られた中芯原紙を以下の方法で評価し、その結果を表1に示した。
なお、比破裂強さと比圧縮強さの測定は、JIS-P8111(2007)に準拠し、温度23±2℃、湿度50±2%の環境条件で行なった。
【0076】
[シェーキングナンバー]
前出の数式(1)によりシェーキングナンバーを算出した。
【0077】
[比破裂強さ]
JIS-P8131(2007)に準拠して比破裂強さ(単位:kPa・m^(2)/g)を測定した。
【0078】
[比圧縮強さ]
JIS-P8126(2007)に準拠し、抄紙方向に対し平行な試験片を用いて、横方向の比圧縮強さ(単位:N・m^(2)/g)を測定した。
【0079】
[貼合性]
実施例および比較例で得られた中芯原紙をコルゲータによりライナーと貼合した。コルゲータでの貼合性を以下のとおり3段階で評価した。この評価は、コルゲータ運転オペレーター(経験年数21年)が行なった。
○:段ボールシートの全面に亘って貼合状態が良好であった。
△:段ボールシートの一部分に貼合不良が認められることがあったが、
接着剤の塗布量や貼合速度を一時的に調整することにより、
良好な貼合状態が得られた。
×:段ボールシートの一部分に貼合不良が認められることがあり、
接着剤の塗布量や貼合速度を頻繁に調整する必要があった。
【0080】
【表1】

【0081】
表1から明らかなとおり、本発明の段ボール原紙の製造方法により、強度と貼合性が両立する中芯原紙を得られることがわかる。
また、シェーキングナンバーの好ましい範囲は、3,000?6,500の範囲にあることがわかる。
さらに、実施例2の条件からシェーキング装置の周波数を変更してシェーキングナンバーを略6,000に設定した実施例3と、実施例2の条件からシェーキング装置の振幅を変更してシェーキングナンバーを6,000に設定した実施例4とを比較すると、後者のほうが、強度の向上が大きいことがわかる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層抄きのフォーマーによる段ボール原紙の製造方法であって、前記段ボール原紙が中芯原紙であり、古紙パルプを80質量%以上含む原料パルプと紙力増強剤としてのポリアクリルアミドとを含む紙料を、ワイヤーパートにおいてシェーキング装置を使用してシェーキング装置の振幅の範囲20?30mmでシェーキングナンバーを3,000?6,500の範囲に設定して抄紙することを特徴とする、段ボール原紙の製造方法。
【請求項2】
前記段ボール原紙の坪量が100g/m^(2)以上であることを特徴とする、請求項1に記載の段ボール原紙の製造方法。
【請求項3】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-29 
出願番号 特願2014-74344(P2014-74344)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D21F)
P 1 651・ 121- YAA (D21F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 阿川 寛樹中川 裕文  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 竹下 晋司
門前 浩一
登録日 2017-10-06 
登録番号 特許第6217497号(P6217497)
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 段ボール原紙の製造方法  
代理人 金谷 宥  
代理人 金谷 宥  

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