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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  B63B
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  B63B
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  B63B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B63B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B63B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B63B
管理番号 1348689
異議申立番号 異議2017-700338  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-05 
確定日 2018-12-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6002330号発明「船舶の液化ガス処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6002330号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-7、9-10〕、8について訂正することを認める。 特許第6002330号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6002330号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)10月24日を国際出願日(優先権主張 2012年(平成24年)10月24日 2012年(平成24年)12月11日 2013年(平成25年)6月26日 韓国(KR))として出願された。その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年3月7日付け :拒絶理由通知
平成28年7月13日 :意見書及び手続補正書の提出
平成28年8月25日付け:特許査定
平成28年9月9日 :特許権の設定登録
平成28年10月5日 :特許掲載公報の発行
平成29年4月5日 :特許異議申立人遠藤雅子(以下、「特許異議 申立人」という。)による、請求項1?10 に係る特許に対する特許異議の申立て
平成29年7月10日 :特許権者による上申書の提出
平成29年8月2日付け :取消理由通知書
平成29年10月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成29年12月7日付け:訂正拒絶理由通知書
平成30年1月18日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出
平成30年4月23日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成30年7月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年9月20日付け:特許法第120条の5第5項の通知
平成30年10月23日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年7月24日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す)。
なお、平成30年7月24日にされた訂正の請求により、平成29年10月30日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに圧縮する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させることを特徴とする船舶の液化ガス処理方法。」と記載されているのを、「LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させることを特徴とする船舶の液化ガス処理方法。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9、10も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に「前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、
前記高圧圧縮機に含まれる複数個の前記圧縮シリンダを全部通過して圧縮されたボイルオフガスをオイルフィルタを経て移送することを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。」と記載されているのを、「LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させ、
前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記複数個の圧縮シリンダの中に潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを含み、前記高圧圧縮機に含まれる複数個の前記圧縮シリンダを全部通過して圧縮されたBOGをオイルフィルタを経て移送することを特徴とする船舶の液化ガス処理方法。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に「前記圧縮シリンダで圧縮されることで温度上昇したボイルオフガスを冷却する」と記載されているのを、「前記圧縮シリンダで圧縮されることで温度上昇したBOGを冷却する」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0015】、【0124】、【0137】及び【0151】にそれぞれ「LNG・・・圧縮」と記載されているのを、「LNG・・・加圧」に訂正する。
明細書の段落【0043】に「LNG及びBOGをそれぞれ圧縮させる」と記載されているのを、「LNG及びBOGをそれぞれ加圧・圧縮させる」に訂正する。
明細書の段落【0137】、【0139】、【0154】及び【0158】にそれぞれ「圧縮されたLNG」と記載されているのを、「加圧されたLNG」に訂正する。
明細書の段落【0139】、【0140】及び【0147】にそれぞれ「高圧ポンプ・・・圧縮」と記載されているのを、「高圧ポンプ・・・加圧」に訂正する。

2.一群の請求項及び明細書の訂正について
訂正前の請求項1?10について、請求項2?10はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項1?10は一群の請求項であるところ、訂正後の請求項8については、当該請求項について訂正が認められる場合には、請求項1?7及び9?10とは別の訂正単位として扱われることを求めており、後記3.のとおり当該請求項については訂正が認められるので、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?7、9?10〕及び請求項8ごとに請求されている。
また、訂正事項4は、訂正後の請求項1?7及び9?10と、訂正後の請求項8とに関係する訂正である。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1は、「LNGを圧縮して」及び「LNGを150?400baraに圧縮する」と記載されていた。当該記載の「圧縮」は「加圧」の誤りであることが、明細書の段落【0118】の「・・・高圧ポンプ120によってLNGを加圧して推進システムに燃料として供給するライン・・・」という記載や技術常識から明らかであるといえる。
訂正後の請求項1では、「LNGを加圧して」及び「LNGを150?400baraに加圧する」との記載により、訂正前の請求項1の誤記を訂正するものであるから、訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項1は、誤記を訂正するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
さらに、訂正事項1は、上記のように明細書の段落【0118】の記載に基づいているから、新規事項の追加に該当しない。
(2)訂正事項2
ア.訂正の目的
(ア)訂正事項2は、訂正前の請求項8が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
(イ)また、訂正前の請求項8が引用していた訂正前の請求項1では、「LNGを圧縮して」及び「LNGを150?400baraに圧縮する」と記載されていた。
上記(1)で述べたのと同様に、訂正後の請求項8では、「LNGを加圧して」及び「LNGを150?400baraに加圧する」との記載により、訂正前の誤記を訂正するものである。
したがって、訂正事項2は、誤記の訂正を目的とするものでもある。
(ウ)さらに、訂正前の請求項8の「ボイルオフガス」は、明細書の段落【0007】の「・・・ボイルオフガス(BOG;Boil-Off Gas)」という記載からすれば、特許請求の範囲で使用されている「BOG」のことであるといえる。
訂正事項2は、訂正前の請求項8の「ボイルオフガス」との記載の存在により、本来同じことを示す「BOG」との記載と「ボイルオフガス」との記載とが混在していたため、特許請求の範囲の記載が不明りょうであったものを、「ボイルオフガス」を「BOG」と訂正することにより明瞭とすることを目的とするものである。
したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
(エ)加えて、訂正前の請求項8は、「前記高圧圧縮機は、複数個のシリンダを含み、」との記載により、高圧圧縮機が複数個の圧縮シリンダを含むことのみを特定している。それに対して,訂正後の請求項8は、「前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記複数の圧縮シリンダの中に潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを含み、」との記載により、高圧圧縮機に含まれる複数個の圧縮シリンダの中に、潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを有するという構成を具体的に特定し、限定するものであるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ.新規事項の有無
(ア)訂正事項2のうち、訂正前の請求項8が引用していた訂正前の請求項1の「LNGを圧縮して」及び「LNGを150?400baraに圧縮する」と記載されていたのを、訂正後の請求項8では、「LNGを加圧して」及び「LNGを150?400baraに加圧する」とする訂正は、明細書の段落【0118】の「・・・高圧ポンプ120によってLNGを加圧して推進システムに燃料として供給するライン・・・」という記載に基づいているから、新規事項の追加に該当しない。
(イ)訂正事項2のうち、訂正前の請求項8では、「圧縮されたボイルオフガス」と記載されていたのを、訂正後の請求項8では、「圧縮されたBOG」とする訂正は、明細書の段落【0007】の「・・・ボイルオフガス(BOG;Boil-Off Gas)」という記載に基づいているから、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項2のうち、訂正前の請求項8では、「前記高圧圧縮機は、複数個のシリンダを含み、」と記載されていのを、訂正後の請求項8では、「前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記複数の圧縮シリンダの中に潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを含み、」とする訂正は、訂正前の請求項8に係る発明の「高圧圧縮機」について、シリンダの数が複数であることのみが規定されていたものを、訂正後の請求項8に係る発明の「高圧圧縮機」が、潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを含むというものに限定するものであり、しかも、この点は、明細書の段落【0077】の「特に、5つのシリンダを含み、前段の3つのシリンダはオイルフリー(oil-free)方式で動作し、後段の2つのシリンダは油潤滑(oil-lubricated)方式で動作する・・・」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2のうち、訂正前の請求項8では、「前記高圧圧縮機は、複数個のシリンダを含み、」と記載されていのを、訂正後の請求項8では、「前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記複数の圧縮シリンダの中に潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを含み、」とする訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項の追加に該当しない。
(エ)訂正事項2のうち、訂正前の請求項8が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし独立形式請求項へ改めつつ特許請求の範囲の減縮をするための訂正は、上記(ア)をも踏まえると、新規事項の追加に該当しない。
(オ)上記(ア)?(エ)より、訂正事項2は、新規事項の追加に該当しない。
ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項2は、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であり、また、請求項8に係る発明の「高圧圧縮機」について、潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを含み」との限定構成を付加するものであり、さらに、誤記を訂正し、加えて、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
(3)訂正事項3
上記1.(3)のとおり、訂正事項3は、訂正前の請求項9の「ボイルオフガス」という記載を、訂正後の請求項9の「BOG」とするものであり、上記(2)ア.(ウ)で述べたと同様に、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、上記(2)イ.及びウ.で述べたと同様に、新規事項の追加をするものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項4で特定される、訂正前の各段落の「圧縮」は「加圧」の誤りであることが、明細書の段落【0118】の「・・・高圧ポンプ120によってLNGを加圧して推進システムに燃料として供給するライン・・・」という記載や技術常識から明らかであるといえる。
訂正事項4は、これら訂正前の各段落の「圧縮」を「加圧」と訂正することにより、正しい記載とすることを目的とするものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項4は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
さらに、上記のように明細書の段落【0118】の記載に基づいているから、新規事項の追加に該当しない。

4.小括
以上のとおり、訂正事項1?4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1?7、9?10〕、8について訂正することを認める。

第3 取消理由の概要
訂正前の請求項1?10に係る特許に対して、当審が平成30年4月23日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。
[取消理由1]本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?10の記載が不備のため特許法第36条第2項に規定する要件を満たしていないから、取り消されるべきものである。
[取消理由2]本件特許の請求項1?10に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?9に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、取り消されるべきものである。


[刊行物]
引用文献1:LNG as fuel for 2-stroke propulsion of Merchant ships.
Sept.2012 MAN Diesel&Turbo
引用文献2:永田良典,田ノ上聖,木田隆之,川合崇,「LNG燃料船用I
HI-SPBタンク」,IHI技報,株式会社IHI技術開本部
管理部,平成24年9月1日,第52巻,第3号,p. 36-41
引用文献3:国際公開2012/128447号
引用文献4:韓国公開特許第10-2012-0049731号公報
引用文献5:特表2009-504838号公報
引用文献6:特表2008-528882号公報
引用文献7:特表2011-517749号公報
引用文献8:Roberto Chellini,”LABY-GI COMPRESSOR DEVELOPED FOR L
NG CARRIER SERVICE”,COMPRESSORTech^(Two),(米),
Diesel & Gas Turbine Publications,2008,Vol. 13,
No. 7,p. 58, 60-63
引用文献9:米国特許第3919852号明細書
上記引用文献1は特許異議申立人の提出した甲第1号証であり、以下同様に、引用文献2?引用文献9は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第9号証及び甲第11号証である。

第4 当審の判断
1.本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求が認められるので、訂正後の請求項1?10に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」?「本件発明10」という。)。
「【請求項1】
LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させることを特徴とする船舶の液化ガス処理方法。
【請求項2】
前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、
前記貯蔵タンクで発生するBOGは複数個の前記圧縮シリンダのうち一部の圧縮シリンダによって圧縮された後、前記副エンジンに燃料として供給されることを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項3】
前記貯蔵タンクで発生するBOG及び強制気化されたLNGを前記高圧圧縮機に供給して圧縮させた後、前記主エンジン及び前記副エンジンのうち少なくとも1つに燃料として供給することを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項4】
前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを前記副エンジンに供給する時、LNGのメタン価を前記副エンジンで要求する値に合わせるためにLNGから重炭化水素成分を分離することを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項5】
前記熱交換させた後のBOGの減圧を膨張バルブまたは膨脹機により行うことを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項6】
前記液化されたBOGを気液分離器に供給して気体成分と液体成分とに分離し、
前記気体成分を前記貯蔵タンクから排出されて前記高圧圧縮機に移送されるBOGに合流させることを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項7】
前記気液分離器に供給される液化されたBOGを、冷却器により前記気体成分と熱交換させて冷却することを特徴とする請求項6に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項8】
LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させ、
前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記複数個の圧縮シリンダの中に潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを含み、前記高圧圧縮機に含まれる複数個の前記圧縮シリンダを全部通過して圧縮されたBOGをオイルフィルタを経て移送することを特徴とする船舶の液化ガス処理方法。
【請求項9】
前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダと1つ以上の中間冷却機とを含み、
前記中間冷却機により、前記圧縮シリンダで圧縮されることで温度上昇したBOGを冷却することを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項10】
前記超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに供給されていないBOGは、熱交換及び減圧されたことで、別途の冷媒を使用する再液化装置を使わないで液化されることを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。」

2.[取消理由1]について
平成30年4月23日付けで特許権者に通知した取消理由1は、具体的には、(i)請求項1の「前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する」という文言、及び、「前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに圧縮する高圧ポンプ」という文言は、技術的に不明確であるというもの、及び、(ii)請求項8の「圧縮機」の圧縮シリンダの全部がオイルフリー方式で作動するものである場合、請求項8の「オイルフィルタ」を設ける技術的意味が不明であるというものである。
そして、上記(i)の点については、上記第2の1.(1)の訂正事項1により解消された。
また、上記(ii)の点については、上記第2の1.(2)の訂正事項2により解消された。
したがって、平成30年4月23日付けで特許権者に通知した取消理由1によっては本件請求項1?10に係る発明の特許を取り消すことはできない。

3.[取消理由2]について
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された(「Japanese Shipyards' Technical Seminar from 2nd September to 8th September 2012 in Copenhagen」におけるTuesday 4th September 12:30?15:45のセッションで配布された。)刊行物である引用文献1には以下の事項が記載されている。
※引用文献1の各頁右下には、<>内にスライド番号が付されているものと付されていないものがあるので、以下では、便宜的に引用文献1の表紙を第1頁とし、最終頁を第42頁とした。
なお、引用文献1について、引用文献1の記載内容に一貫性があり、特別不自然な点もないこと等からみて、引用文献1が、「Japanese Shipyards' Technical Seminar from 2nd September to 8th September 2012 in Copenhagen」におけるTuesday 4th September 12:30?15:45のセッションで配布されたものと推認できることを付言する。
(訳は、異議申立人の訳を参考にして当審で付した。訳の後の()内は原文。)
ア.「商業船の2ストローク推進用燃料としてのLNG」(LNG as fuel for 2-stroke propulsion of Merchant Ships.)(第1頁)
イ.第21頁(スライド番号<21>)には以下の図が示されている。


ウ.引用文献1には、上記イ.のとおり、ME-GIエンジン(ME-GI)の燃料ガス供給システムが図示されているところ、かかる図面の他、引用文献1の他の各頁及び当業者における技術常識を踏まえると、以下の事項が認定できる。

(ア)LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)を備えるLNG運搬船(LNG Carrier)。(LNG運搬船(LNG Carrier)については、第15、16頁、参照。)
(イ)LNG運搬船には、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に貯蔵されているLNGを燃料として使用するME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(DF Gensete)が備えられている。
ここで、DF Gensete(DF Gensete)とは、二元燃料ディーゼルエンジンと発電機のセットである(第12、13頁(スライド番号<12>、<13>)、参照。)
(ウ)LNG運搬船(LNG Carrier)のME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)のための燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)、及び、この燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)によってLNGを処理する方法。
なお、燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)については、第13頁(スライド番号<13>)、参照。
(エ)BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)は5つ(5段(5-stage))の圧縮シリンダを持ち(この点については第17頁?19頁、参照)、下記(カ)での経路は、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の第1段の後から分岐している。
(オ)LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路。
(カ)LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の1段目のシリンダを経由して4-6barとしてDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)に供給する経路。
(キ)LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の1?3段目のシリンダを経由して39barとして、さらに前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路。
(ク)LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路。
(ケ)上記(キ)の経路は、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)であって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)を経由したBOG(BOG)のうち、ME-GIエンジン(ME-GI)と、DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)とに供給されない、BOG(BOG)をLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給するものであること。
(コ)上記(キ)の経路の熱交換器(Heat Exchanger)は、これによって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)に導入される前に、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)と熱交換すること。
(サ)上記(キ)の経路の膨張弁(Expansion Valve)は、これによって、熱交換器(Heat Exchanger)を経由した後のBOG(BOG)を、減圧して気液混合状態(Liauid and Flash Gas)とするものであること。

エ.したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)と、
LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に貯蔵されているLNGを燃料として使用するME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)を備えるLNG運搬船(LNG Carrier)のME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)のための燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)によってLNGを処理する方法であって、
前記燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)は、
LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路と、
LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の1段目のシリンダを経由して4-6barとしてDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)に供給する経路と、
LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路と、
LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとして、さらに前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路と、を含み、
LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとして、さらに前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路の、熱交換器(Heat Exchanger)によって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)に導入される前の、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)と熱交換し、膨張弁(Expansion Valve)によって、熱交換器(Heat Exchanger)を経由した後のBOG(BOG)を、減圧して気液混合状態(Liauid and Flash Gas)とする、
LNG運搬船(LNG Carrier)のME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)のための燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)によってLNGを処理する方法。」

(2)対比・判断
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
a.機能的、構造的にみて、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)」は、本件発明1の「LNGを貯蔵している貯蔵タンク」に相当する。
また、同じく機能的、構造的にみて、引用発明の「ME-GIエンジン(ME-GI)」及び「DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)」の「ディーゼルエンジン」は、本件発明1の「主エンジン」及び「副エンジン」に相当する。
そして、引用発明の「LNG運搬船(LNG Carrier)のME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)のための燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)」は、船舶であるLNG運搬船の液化ガスといえるLNGを燃料ガスとして供給して処理するシステムといえる。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)と、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に貯蔵されているLNGを燃料として使用するME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)を備えるLNG運搬船(LNG Carrier)のME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)のための燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)によってLNGを処理する方法」は、本件発明1の「船舶の液化ガス処理方法」に相当するとともに、本件発明1の「LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを供給されて燃料として使用するエンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって前記液化ガスを処理する方法」に相当する。
b.機能的、構造的にみて、引用発明の「BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)」及び「高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)」は、それぞれ本件発明1の「高圧圧縮機」及び「高圧ポンプ」に相当する。
機能的、構造的にみて、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、本件発明1の「前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン」「に燃料として供給する圧縮機ライン」に相当する。同じく、機能的、構造的にみて、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の1段目のシリンダを経由して4-6barとして DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)に供給する経路」は、本件発明1の「前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して」「前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ライン」に相当する。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路と、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の1段目のシリンダを経由して4-6barとして DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)に供給する経路」は、本件発明1の「前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ライン」に相当する。
c.機能的、構造的にみて、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、本件発明1の「前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプライン」との対比において、「前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジンに燃料として供給するポンプライン」の限度で一致する。
d.本件発明1で使用されている圧力の単位baraは引用発明のbarを、特に、絶対圧であることを明記したものであるので、本件発明1の「bara」と引用発明1の「bar」は実質的に同じ単位である。
とすると、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、本件発明1の「前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する圧縮機を含」んでいるといえる。
また、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、本件発明1の「前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含」んでいるといえる。
そして、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」と、「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、主エンジンたるME-GIエンジン(ME-GI)とLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)との間に並列して設けられているといえるから、それぞれの経路にある、高圧圧縮機たる「Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)」と、高圧ポンプたる「高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)」は並列に配置されているといえる。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」と、「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」によって、本件発明1の「前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し」に相当する構成を有することとなる。
e.LNGおいては、その組成の8割程度がメタンからなることが技術常識であり、メタンの臨界圧力がおよそ46bara、臨界温度がおよそ-83℃であることからすれば、引用発明において、Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)にいおて圧縮された後のLNGが、300bar、45℃であることは、当該LNGは超臨界状態となっているといえる。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃と」することは、機能的に、本件発明1の「前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOG」とすることに相当する。
引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとして、さらに前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路」は、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)であって、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)を経由したBOG(BOG)のうち、ME-GIエンジン(ME-GI)と、DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)とに供給されない、BOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)によって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)に導入される前に、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)と熱交換し、さらに、膨張弁(Expansion Valve)によって、熱交換器(Heat Exchanger)を経由した後のBOG(BOG)を、減圧して気液混合状態(Liauid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路である。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとして、さらに前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路の、熱交換器(Heat Exchanger)によって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)に導入される前の、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)と熱交換し、膨張弁(Expansion Valve)によって、熱交換器(Heat Exchanger)を経由した後のBOG(BOG)を、減圧して気液混合状態(Liauid and Flash Gas)とする」ことは、本件発明1の「前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させる」こととの対比において、「前記高圧圧縮機によって圧縮されるBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させる」という限度で一致する。
したがって、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりであるといえる。
<一致点>
「LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって圧縮されるBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させる船舶の液化ガス処理方法。」
<相違点1>
本件発明1は、「ポンプライン」が「前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して」「前記副エンジンに燃料として供給する」ものを含むのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させる」のが、「前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOG」であるのに対し、引用発明は、「前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路の、熱交換器(Heat Exchanger)によって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)に導入される前の、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)と熱交換し、膨張弁(Expansion Valve)によって、熱交換器(Heat Exchanger)を経由した後のBOG(BOG)を、減圧して気液混合状態(Liauid and Flash Gas)とする」のが、「熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとし」た「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)」である点。
(イ)判断
a.相違点1について
LNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンを有する船舶において、主エンジンと同様に、副エンジンについても、貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して副エンジンに燃料として供給ラインを設けることは、従来周知の技術事項である(必要であれば、引用文献2の図6(b)、引用文献3の【図9a】、【図9b】、【図10b】、引用文献4の図1?4、参照。)。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、上記従来周知の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものといえる。
b.相違点2について
(a)引用文献1の第16頁には、5段の圧縮シリンダを持つLNG運搬船用のLaby-GI圧縮機手段(The Laby-GI Compressor Solution for LNG Carriers)が記載されており、続く第17?18頁で、Laby-GI圧縮機としてブルクハルト社(Burchardt Compression)のLaby-GI 6LP250-5Sが記載されている(Labyはブルクハルト社の登録商標)。第17?18頁の記載(第17頁の「Stages 1 to 3 labyrinth sealing,oil-free」、「Stages 4 to 5 ring sealing,lubricated」という記載、及び、第18頁(スライド番号<18>)の右図の「Labyrinth 1st to 3rd stage」、「Ring sealed 4th to 5th stage」という記載)から、このブルクハルト社(Burchardt Compression)のLaby-GI 6LP250-5Sは、5段の圧縮シリンダを持ち、前3段がオイルフリー方式(ラビリンスシール)で作動するものあり、後2段が潤滑油方式で作動するものあることが看て取れる。
(b)そして、引用文献1の第21頁(スライド番号<21>)には、5段の圧縮シリンダを持つLNG運搬船用のLaby-GI圧縮機手段(The Laby-GI Compressor Solution for LNG Carriers)のオプションNo.2(Option No.2)として、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段を経由して39barとし、その後、熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する構成をもつものが記載されている。
引用文献1における、上記第16頁?21頁の記載内容からすれば、引用文献1の第21頁(スライド番号<21>)に記載のLNG運搬船用の5段の圧縮シリンダを持つLaby-GI圧縮機手段(The Laby-GI Compressor Solution for LNG Carriers)のオプションNo.2(Option No.2)のBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)は、第17頁?18頁に記載されたブルクハルト社(Burchardt Compression)のLaby-GI 6LP250-5Sであると解するのが自然である。
そうすると、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39bar」となったBOG(BOG)は、オイルフリー方式で作動する圧縮シリンダを経由し、超臨界状態まで圧縮されていない39barとなり、かつ、潤滑油を含まないBOG(BOG)であるといえる。
(c)ここで、引用発明は、LNG運搬船のLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を処理する(再液化する(Reliquefaction))方法であって、かかる引用発明によって処理(再液化)された、LNGはLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に戻される、すなわち、貨物として戻されるものである。ここで、貨物として戻されるLNGにオイルが含まれると貨物としての品質が低下することになるから、処理(再液化)されたLNGにはオイルが含まれないことが要求されることは当業者には明らかである。そうすると引用発明において、「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39bar」とし、オイルを含まないBOG(BOG)を、「さらに前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する」構成を採用したのは、引用発明によって処理(再液化)され貨物として戻されるLNGにオイルが含まれないようにすることを目的の一つとしていると理解できる。
(d)ところで、メタンのモリエル線図から、当業者であれば、熱交換器を流れる流体の圧力が高圧になると熱交換器の熱伝達係数が改善され、また、膨張機の冷却性が改善されるという技術事項が認識できるとともに、超臨界流体は、熱容量や熱伝導度が大きく、高い熱移動速度が得られることが技術常識である。これらのことからすれば、引用発明において、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを通して、39barより高圧の超臨界圧に圧縮すれば、その後に経由される熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)での効率が上がることが当業者には予測可能であるともいえる。
しかしながら、例えば、引用発明にも採用されているブルクハルト社(Burchardt Compression)のLaby-GI 6LP250-5Sにも示されるように、ガスを圧縮する多段の高圧圧縮機の後段部分には、ガス圧や圧縮効率を考慮して潤滑油方式で作動する圧縮シリンダを採用することが一般的であり、仮に、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を再液化処理するに当たり、再液化処理における熱交換器及び膨張弁での効率を考え、熱交換器及び膨張弁へ導入するLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を超臨界状態まで圧縮するには、多段の高圧圧縮機の潤滑油方式で作動する圧縮シリンダを経由させることとなるが、そうすると、再液化処理され貨物として戻されるLNGにオイルが含まれることとなり、このオイルを除去する手段を講じる必要が生じることとなる、また、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、より高圧に圧縮するには、より多くの動力が要求されることになることは当業者であれば容易に認識しうる。
したがって、引用発明において、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとして分岐させる手段に代えて、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して、超臨界状態まで圧縮して分岐させる手段を採用することには、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由させると、再液化処理され貨物として戻されるLNGにオイルが含まれてしまうし、より多くの動力が要求されることになる、というその手段の採用を阻害する要因があるというべきである。
また、引用発明において、「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39bar」とすることには、上記(c)で述べたように技術的合理性ないしメリットがあり、たとえ、メタンのモリエル線図から、当業者であれば、熱交換器を流れる流体の圧力が高圧になると熱交換器の熱伝達係数が改善され、また、膨張機の冷却性が改善されるという技術事項が認識できるとともに、超臨界流体は、熱容量や熱伝導度が大きく、高い熱移動速度が得られることが技術常識であり、引用発明において、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを通して、39barより高圧の超臨界圧に圧縮すれば、その後に経由される熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)での効率が上がることが当業者には予測可能であるとしても、上記技術的合理性ないしメリットに反して、Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを通して、39barより高圧の超臨界圧に圧縮する技術を採用することの起因ないし契機となることは、引用文献1には、記載も示唆もない。
よって、引用発明において、相違点2に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易になし得たということはできない。
引用文献5は、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を再液化処理してLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に戻す船舶の液化ガス処理システムに関する技術ではないし、また、液化対象である供給ガス流から分流したものを冷媒として用いる冷凍サイクルを利用して供給ガスを液化する装置を前提として、供給ガス流を超臨界圧を含む高圧に圧縮する技術を開示しているものであり(段落【0013】)、供給ガス流(LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG))から分流したものを冷媒として用いる冷凍サイクルを利用しない引用発明とは技術的前提が異なることから、引用文献5に記載の供給ガス流を液化前に超臨界圧を含む高圧に圧縮するという技術事項を引用発明に適用することは、当業者であっても容易には想到し得ない。
なお、その他の引用文献6?9にも、相違点2に係る本件発明1の構成を示唆する記載はない。
c.小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用文献1?引用文献9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2?7、9?10について
本件発明2?7、9?10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに請求項2?7、9?10に記載の発明特定事項を追加したものである。
したがって、本件発明2?7、9?10と引用発明との間には、少なくとも上記ア.(ア)で指摘した相違点2が存在することとなる。そうすると、上記ア.(イ)b.で述べた理由と同様の理由により、請求項2?7、9?10は、引用文献1?引用文献9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明8について
(ア)対比
本件発明8と引用発明とを対比する。
a.機能的、構造的にみて、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)」は、本件発明8の「LNGを貯蔵している貯蔵タンク」に相当する。
また、同じく機能的、構造的にみて、引用発明の「ME-GIエンジン(ME-GI)」及び「DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)」の「ディーゼルエンジン」は、本件発明8の「主エンジン」及び「副エンジン」に相当する。
そして、引用発明の「LNG運搬船(LNG Carrier)のME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)のための燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)」は、船舶であるLNG運搬船の液化ガスといえるLNGを燃料ガスとして供給して処理するシステムといえる。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)と、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に貯蔵されているLNGを燃料として使用するME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)を備えるLNG運搬船(LNG Carrier)のME-GIエンジン(ME-GI)とDF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)のための燃料ガス供給システム(Fuel Gas Supply System)によってLNGを処理する方法」は、本件発明8の「船舶の液化ガス処理方法」に相当するとともに、本件発明8の「LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを供給されて燃料として使用するエンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって前記液化ガスを処理する方法」に相当する。
b.機能的、構造的にみて、引用発明の「BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)」及び「高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)」は、それぞれ本件発明8の「高圧圧縮機」及び「高圧ポンプ」に相当する。
機能的、構造的にみて、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、本件発明8の「前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン」「に燃料として供給する圧縮機ライン」に相当する。同じく、機能的、構造的にみて、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の1段目のシリンダを経由して4-6barとして DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)に供給する経路」は、本件発明8の「前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して」「前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ライン」に相当する。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路と、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の1段目のシリンダを経由して4-6barとして DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)に供給する経路」は、本件発明8の「前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ライン」に相当する。
c.機能的、構造的にみて、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、本件発明8の「前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプライン」との対比において、「前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジンに燃料として供給するポンプライン」の限度で一致する。
d.本件発明8で使用されている圧力の単位baraは引用発明のbarを、特に、絶対圧であることを明記したものであるので、本件発明8の「bara」と引用発明1の「bar」は実質的に同じ単位である。
とすると、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、本件発明8の「前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する圧縮機を含」んでいるといえる。
また、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、本件発明1の「前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに圧縮する高圧ポンプを含」んでいるといえる。
そして、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」と、「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」は、主エンジンたるME-GIエンジン(ME-GI)とLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)との間に並列して設けられているといえるから、それぞれの経路にある、高圧圧縮機たる「Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)」と、高圧ポンプたる「高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)」は並列に配置されているといえる。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」と、「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)からLNGをLNG供給ポンプ(LNG Supply Pump)とLNG昇圧ポンプ(LNG Booster Pump)と高圧LNGポンプ(HP LNG Pump)及び高圧気化器(HP Vaporiser)を経由して300bar、45℃としてME-GIエンジン(ME-GI)に供給する経路」によって、本件発明8の「前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し」に相当する構成を有することとなる。
e.LNGおいては、その組成の8割程度がメタンからなることが技術常識であり、メタンの臨界圧力がおよそ46bara、臨界温度がおよそ-83℃であることからすれば、引用発明において、Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)にいおて圧縮された後のLNGが、300bar、45℃であることは、当該LNGは超臨界状態となっているといえる。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して300bar、45℃と」することは、機能的に、本件発明8の「前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOG」とすることに相当する。
引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとして、さらに前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路」は、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)であって、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)を経由したBOG(BOG)のうち、ME-GIエンジン(ME-GI)と、DF Gensete(ディーゼルエンジンと発電機のセット)(DF Gensete)とに供給されない、BOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)によって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)に導入される前に、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)と熱交換し、さらに、膨張弁(Expansion Valve)によって、熱交換器(Heat Exchanger)を経由した後のBOG(BOG)を、減圧して気液混合状態(Liauid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路である。
したがって、引用発明の「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとして、さらに前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路の、熱交換器(Heat Exchanger)によって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)に導入される前の、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)と熱交換し、膨張弁(Expansion Valve)によって、熱交換器(Heat Exchanger)を経由した後のBOG(BOG)を、減圧して気液混合状態(Liauid and Flash Gas)とする」ことは、本件発明8の「前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させる」こととの対比において、「前記高圧圧縮機によって圧縮されるBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させる」という限度で一致する。
f.引用発明の「BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)」は「5段の圧縮シリンダを持つ」ものであるから、複数個の圧縮シリンダを含むものであるといえる。
そして、引用文献1の第17頁?第18頁の記載内容からすれば、引用発明の「BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)」は、引用文献1の第17頁?第18頁に記載のブルクハルト社(burchardt Compression)のLaby-GI 6LP250-5Sであり、前3段がオイルフリー方式(ラビリンスシール)で作動するものあり、後2段が潤滑油方式で作動するものあるといえる(上記ア.(イ)b.(a)、参照。)。
したがって、引用発明の「BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)」は、本件発明8の「前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記複数個の圧縮シリンダの中に潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものを含」むに相当する構成を備えているといえる。
したがって、本件発明8と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりであるといえる。
<一致点>
「LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって圧縮されるBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させ、
前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記複数個の圧縮シリンダの中に潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものを含む船舶の液化ガス処理方法。」
<相違点A>
本件発明8は、「ポンプライン」が「前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して」「前記副エンジンに燃料として供給する」ものを含むのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。
<相違点B>
本件発明8は、「前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させる」のが、「前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOG」であるのに対し、引用発明は、「前記熱交換器(Heat Exchanger)と膨張弁(Expansion Valve)を経由し気液混合状態(Liquid and Flash Gas)としてLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)に供給する経路の、熱交換器(Heat Exchanger)によって、BCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)に導入される前の、LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)と熱交換し、膨張弁(Expansion Valve)によって、熱交換器(Heat Exchanger)を経由した後のBOG(BOG)を、減圧して気液混合状態(Liauid and Flash Gas)とする」のが、「熱交換器(Heat Exchanger)と5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の前3段のシリンダを経由して39barとし」た「LNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)」である点。
<相違点C>
本件発明8は、「前記高圧圧縮機に含まれる複数個の圧縮シリンダを全部通過して圧縮されたBOGをオイルフィルタを経て移送する」ものであるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていることについて限定されていない点。
(イ)判断
a.相違点Aについて
相違点Aは、相違点1と実質的に同じである。
したがって、上記ア.(イ)a.で述べた理由と同様の理由により、引用発明において、相違点Aに係る本件発明8の構成となすことは、引用文献2?4に記載の従来周知の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものといえる。
b.相違点Bについて
相違点Bは、相違点2と実質的に同じである。
したがって、上記ア.(イ)b.で述べた理由と同様の理由により、引用発明において、相違点Bに係る本件発明8の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たということはできない。
c.相違点Cについて
本件発明8において、「前記高圧圧縮機に含まれる複数個の圧縮シリンダを全部通過して圧縮されたBOGをオイルフィルタを経て移送する」という構成を具備する理由は、本件発明8において、BOGを「前記高圧圧縮機に含まれる複数個の圧縮シリンダを全部通過して圧縮」し、これによって、BOGを「150?400baraに圧縮」するため、圧縮したBOGにオイルが含まれているから、これを除去するためであると理解できる。
ここで、上記b.及びア.(イ)b.で述べた理由と同様の理由により、引用発明において、再液化するLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を、5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由して150?400baraに圧縮する構成となすことが当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。そうすると、再液化するLNG貨物タンク(LNG Cargo Tanks)で発生したBOG(BOG)を5段の圧縮シリンダを持つBCA Laby-GI圧縮機(BCA Laby-GI compressor)の全てのシリンダを経由し圧縮する構成を採用することで初めて必要となる「圧縮されたBOGをオイルフィルタを経て移送する」構成を、引用発明に採用することは、たとえ、引用文献7の段落【0017】に、圧縮機におけるオイルフィルタの使用が示唆されていたとしても、当業者が容易に想到し得たということはできない。
d.小括
以上のとおりであるから、本件発明8は、引用文献1?引用文献9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.[取消理由2]についてのまとめ
上記ア.?ウ.のとおりであるから、平成30年4月23日付けで特許権者に通知した取消理由2によっては本件請求項1?10に係る発明の特許を取り消すことはできない。

4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1の「排出されて前記圧縮機に移送される」との記載は、「前記圧縮機」の記載の前に、「高圧圧縮機」の記載はあるが「圧縮機」の記載がないため、特許を受けようとする発明が明確でない旨主張する。
しかしながら、「前記圧縮機」の記載の前には「高圧圧縮機」以外の圧縮機に関する記載はないことからすれば、「前記圧縮機」が「高圧圧縮機」のことを指すことは当業者には明らかであるといえる。
したがって、特許を受けようとする発明が不明確であるとはいえず、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
(2)特許法第17条の2第3項について
ア.特許異議申立人は、特許異議申立書において、平成28年7月13日にされた手続補正により補正された、請求項1の「前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させる」という補正事項は、船舶の液化ガス処理方法における処理の順番として「熱交換させた」後、「減圧して液化させる」ことを要件としているが、熱交換後に液化させること、しかも、減圧して液化させることは、願書に最初に添付した明細書には記載されていないから、上記補正事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではない旨主張する。
しかしながら、願書に最初に添付した図面の【図2】、【図5】、【図6】、【図9】、【図10】及び【図13】には、高圧圧縮機によって圧縮されたBOGのうち主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、熱交換器21を通過させ、さらに、膨張機25、52を通過させるボイルオフガス復帰ラインL3が示されているとともに、願書に最初に添付した明細書の段落【0065】?【0067】、【0070】、【0096】?【0098】、及び、【0101】には、高圧圧縮機によって圧縮されたBOGのうち主エンジンに燃料として供給されていないBOGが、熱交換器21を通過し、さらに、膨張機25、52を通過することが記載されている。そして、これらの明細書及び図面の記載から、高圧圧縮機によって圧縮されたBOGのうち主エンジンに燃料として供給されていないBOGが、熱交換器21を通過することによって熱交換され、その後、膨張機25、52を通過することによって膨張され、最終的に液化されることが記載されているといえる。
したがって、願書に最初に添付した明細書及び図面には、高圧圧縮機によって圧縮されたBOGのうち主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、熱交換器21を通過させ熱交換した後、膨張機25、52を通過させ減圧して、液化させるという事項が記載されているといえ、平成28年7月13日にされた手続補正により補正された、上記補正事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。
イ.(ア)特許異議申立人は、特許異議申立書において、特許法第17条の2第3項に関し概ね次のようにも主張する。
(i)平成28年7月13日にされた手続補正により補正された、請求項8の「前記高圧圧縮機に含まれる複数個の前記圧縮シリンダを全部通過して圧縮されたボイルオフガスをオイルフィルタを経て移送する」という補正事項は、高圧圧縮機によって圧縮されたBOGの分岐を前提とせずオイルフィルタを使用することも含まれるが、高圧圧縮機によって圧縮されたBOGの分岐を前提とせずオイルフィルタを使用することは、願書に最初に添付した明細書には記載されていない。
(ii)上記補正事項によって、高圧圧縮機の2段や3段でBOGを分岐させるとき、ボイルオフガスをオイルフィルタを経て移送することも含まれることとなるが、この点は、願書に最初に添付した明細書には記載されていない。
(イ)上記特許異議申立人の主張に対する当審の判断は以下のとおりである。
まず、請求項8は、上記第2の1.(2)の訂正事項2により訂正された。
(i)について、訂正後の請求項8に係る発明は、「前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン」「に燃料として供給する圧縮ラインと」、「前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを」「液化させる」という発明特定事項を含んでいるから、「前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン」「に燃料として供給する圧縮ライン」から「前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを」「液化させる」ラインが分岐していることは明らかであり、訂正後の請求項8に係る発明は、分岐を前提としてオイルフィルタを使用するものとなっている。
なお、この点は、訂正前の請求項8に係る発明においても同様である。
(ii)について、訂正後の請求項8に係る発明は、「前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み」、「前記高圧圧縮機に含まれる複数個の圧縮シリンダを全部通過して圧縮されたBOGをオイルフィルタを経て移送すること」という発明特定事項を含んでいるから、そもそも、、高圧圧縮機の2段や3段でBOGを分岐させるという態様を想定していないものといえる。
なお、請求項8に関する訂正事項2が新規事項の追加にならないことは、上記第2の3.(2)イ.を参照されたい。
(3)小括
上記(1)(2)のとおりであるから、取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立人の上記主張は採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、請求項1?10に係る発明の特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、特許を取り消すことができない。さらに、他に請求項1?10に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
船舶の液化ガス処理方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の液化ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LNG(Liquefied Natural Gas)やLPG(Liquefied Petroleum Gas)などの液化ガスの消費量が全世界的に急増している傾向にある。液化ガスは、陸上又は海上のガス配管を介してガス状態で運搬されるか、又は、液化した状態で液化ガス運搬船に貯蔵されたまま遠距離にある使用先に運搬される。LNGやLPGなどの液化ガスは、天然ガス又は石油ガスを極低温(LNGの場合は約-163℃)に冷却して得られるもので、ガス状態の時よりその体積が大幅に減少するので海上を通じた遠距離運搬に非常に適している。
【0003】
LNG運搬船などの液化ガス運搬船は、液化ガスを積み、海を運航して陸上の需要先にこの液化ガスの荷役するためのもので、そのため、液化ガスの極低温に耐えることができる貯蔵タンク(通常、「貨物倉」という)を含む。
【0004】
このように極低温状態の液化ガスを貯蔵できる貯蔵タンクが設けられた海上構造物の例としては、液化ガス運搬船の他、LNG RV(Regasification Vessel)のような船舶やLNG FSRU(Floating Storage and Regasification Unit)、LNG FPSO(Floating,Production,Storage and Off-loading)、BMPP(Barge Mounted Power Plant)のような構造物などを挙げることができる。
【0005】
LNG RVは、自力航行及び浮遊が可能な液化ガス運搬船にLNG再気化設備を設置したもので、LNG FSRUは、陸上から遠く離れた海上でLNG輸送船から荷役される液化天然ガスを貯蔵タンクに貯蔵した後、必要に応じて液化天然ガスを気化させて陸上の需要先に供給する海上構造物であって、LNG FPSOは、採掘された天然ガスを海上で精製した後、直接液化させて貯蔵タンク内に貯蔵し、必要な場合、この貯蔵タンク内に貯蔵されたLNGをLNG輸送船に積み替えるために使用される海上構造物である。また、BMPPはバージ船に発電設備を搭載し海上で電気を生産するために使用される構造物である。
【0006】
本明細書における船舶とは、LNG運搬船のような液化ガス運搬船、LNG RVなどをはじめ、LNG FPSO、LNG FSRU、BMPPなどの構造物まですべてを含む概念である。
【0007】
天然ガスの液化温度は、常圧で約-163℃の極低温であるため、LNGはその温度が常圧で-163℃より少し高いだけで蒸発される。従来のLNG運搬船の場合を例にあげて説明すれば、LNG運搬船のLNG貯蔵タンクは断熱処理が施されてはいるが、外部の熱がLNGに持続的に伝達されるため、LNG運搬船によってLNGを輸送する途中にLNGがLNG貯蔵タンク内で持続的に自然気化してLNG貯蔵タンク内にボイルオフガス(BOG;Boil-Off Gas)が発生する。
【0008】
発生したボイルオフガスは、貯蔵タンク内の圧力を増加させ、船舶の揺動によって液化ガスの流動を加速させて構造的な問題を招きかねないため、ボイルオフガスの発生を抑制する必要がある。
【0009】
従来、液化ガス運搬船の貯蔵タンク内でのボイルオフガスを抑制するために、ボイルオフガスを貯蔵タンクの外部に排出させて焼却してしまう方法、ボイルオフガスを貯蔵タンクの外部に排出させて再液化装置を介して再液化させてから、再度貯蔵タンクに戻す方法、船舶の推進機関で使用される燃料としてボイルオフガスを使用する方法、貯蔵タンクの内部圧力を高く維持することでボイルオフガスの発生を抑制する方法などが単独又は複合的に使用されていた。
【0010】
ボイルオフガス再液化装置が搭載された従来の船舶の場合、貯蔵タンクの適正圧力を維持するために、貯蔵タンク内部のボイルオフガスを貯蔵タンクの外部に排出させて再液化装置を介して再液化させるようになる。この時、排出されたボイルオフガスは冷凍サイクルを含む再液化装置で超低温に冷却された冷媒、例えば、窒素、混合冷媒などとの熱交換を介して再液化された後、貯蔵タンクに戻される。
【0011】
従来のDFDE推進システムを搭載したLNG運搬船の場合、再液化設備を設置せず、ボイルオフガス圧縮機及び加熱のみによってボイルオフガスを処理した後、DFDEに燃料として供給しボイルオフガスを消費していたため、エンジンの燃料必要量がボイルオフガスの発生量より少ない時はボイルオフガスをガス燃焼器(GCU;Gas Combustion Unit)で燃焼させてしまう、又は大気中に捨てる(venting)しかない問題があった。
【0012】
そして、従来の再液化設備及び低速ディーゼルエンジンを搭載したLNG運搬船は、再液化設備を介してBOGを処理できたにもかかわらず、窒素ガスを用いた再液化装置の運転の複雑性のため、全体システムの制御が複雑で相当量の動力が消耗される問題があった。
【0013】
結局、貯蔵タンクから自然的に発生するボイルオフガスをはじめ、液化ガスを效率的に処理するためのシステム及び方法に対する研究開発が持続的に行われる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の従来の問題点を解決するためのもので、液化天然ガスを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵された液化天然ガスを供給されて燃料として使用するエンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムであって、貯蔵タンクで発生したボイルオフガスと貯蔵タンクに貯蔵された液化天然ガスとをエンジンで燃料として使用することによって、液化ガスを效率的に使用できるようにする船舶の液化ガス処理システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明の一側面によれば、LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮機によって圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGをポンプによって加圧して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、バラスト状態に比べて前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGの量が多いレイドン状態で、前記貯蔵タンクで発生するBOGは前記圧縮機ラインを介して前記主エンジン及び前記副エンジンのうち少なくとも1つに燃料として供給されることを特徴とする船舶の液化ガス処理方法が提供される。
【0016】
前記バラスト状態で、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGは前記ポンプラインを介して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給されることができる。
【0017】
前記バラスト状態で、前記貯蔵タンクで発生するBOGは前記圧縮機ラインを介して前記主エンジン及び前記副エンジンのうちいずれか1つに燃料として供給されることができる。
【0018】
前記バラスト状態で、前記貯蔵タンクで発生するBOGは前記圧縮機ラインを介して前記副エンジンに燃料として供給され、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGは前記ポンプラインを介して前記主エンジンに燃料として供給されることができる。
【0019】
前記バラスト状態で、前記貯蔵タンクで発生するBOGは前記圧縮機ラインを介して間歇的に前記主エンジン及び前記副エンジンのうち少なくとも1つに燃料として供給され、前記主エンジン及び前記副エンジンのうち少なくとも1つにBOGが供給されない時、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGは前記ポンプラインを介して前記主エンジン及び前記副エンジンのうち少なくとも1つに燃料として供給されることができる。
【0020】
前記バラスト状態で、前記貯蔵タンクで発生するBOG及び前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGは同時に前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給されることができる。
【0021】
前記圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記貯蔵タンクで発生するBOGは複数個の前記圧縮シリンダのうち一部の圧縮シリンダによって圧縮された後、前記副エンジンに燃料として供給されることができる。
【0022】
前記貯蔵タンクで発生するBOG及び強制気化されたLNGを前記圧縮機に供給して圧縮させた後、前記主エンジン及び前記副エンジンのうち少なくとも1つに燃料として供給できる。
【0023】
前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを前記副エンジンに供給する時、LNGのメタン価を前記副エンジンで要求する値に合わせるためにLNGから重炭化水素成分を分離できる。
【0024】
前記圧縮機によって圧縮されたBOGのうち前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送されているBOGと熱交換させて液化させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、LNG運搬船の貨物(すなわち、LNG)の運搬の際に発生する全てのボイルオフガスを、エンジンの燃料として使用または再液化させて再度貯蔵タンクに戻して貯蔵することができるため、GCUなどで消耗して捨てられるボイルオフガスの量を減少させることができ、窒素など別途の冷媒を使用することなくボイルオフガスを再液化して処理できる船舶の液化ガス処理システム及び方法が提供され得る。
【0026】
したがって、本発明の液化ガス処理システム及び方法によれば、エネルギー消耗量が多く初期設置コストが過度にかかる再液化装置を設置することなく貯蔵タンクで発生するボイルオフガスを再液化させることができ、再液化装置で消耗されるエネルギーを低減できるようになる。
【0027】
また、本発明の液化ガス処理システム及び方法によれば、貯蔵タンクで排出されたボイルオフガスを加圧した後、圧縮されたボイルオフガスのうち一部は船舶の高圧天然ガス噴射エンジン、すなわち推進システムに燃料として供給し、圧縮されたボイルオフガスのうち残りは貯蔵タンクから新しく排出されて圧縮される前のボイルオフガスの冷熱で液化させて貯蔵タンクに戻すことができるようになる。
【0028】
また、本発明の液化ガス処理システム及び方法によれば、別途の冷媒を使用する再液化装置(すなわち、窒素冷媒冷凍サイクルや混合冷媒冷凍サイクル等)が設置される必要がないので、冷媒を供給及び貯蔵するための設備を追加的に設置する必要がなく、全体システムを構成するための初期設置コスト及び運用コストを節減できる。
【0029】
また、本発明の液化ガス処理システム及び方法によれば、圧縮された後、熱交換器で冷却及び液化されたボイルオフガスを膨脹機(Expander)によって減圧させる場合、膨脹時にエネルギーを生成することができ、捨てられるエネルギーをリサイクルできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の好ましい第1実施形態による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図2】本発明の好ましい第2実施形態による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図3】本発明の好ましい第2実施形態の変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図4】本発明の好ましい第2実施形態の変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図5】本発明の好ましい第3実施形態による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図6】本発明の好ましい第4実施形態による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図7】本発明の好ましい第4実施形態の変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図8】本発明の好ましい第4実施形態の変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図9】本発明の好ましい第5実施形態による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図10】本発明の好ましい第5実施形態の変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図11】本発明の好ましい第5実施形態の変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図12】本発明の好ましい第5実施形態の変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【図13】本発明の好ましい第6実施形態による液化ガス処理システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
一般に、船舶から排出される排気ガスのうち、国際海事機関(International Maritime Organization)の規制を受けているものは、窒素酸化物(NOx)及び硫黄酸化物(SOx)であり、二酸化炭素(CO_(2))の排出も規制しようとする動きがある。特に、窒素酸化物(NOx)及び硫黄酸化物(SOx)の場合、1997年の海洋汚染防止協約(MARPOL;The Prevention of Marine Pollution from Ships)議定書によって提起され、8年もの長期間を費やした後、2005年5月に発効要件を満たし、現在、強制規定として履行している。
【0032】
よって、このような規定を満たすために、窒素酸化物(NOx)の排出量を低減するための様々な方法が紹介されているが、このような方法のうち、LNG運搬船のような船舶のための高圧天然ガス噴射エンジン、例えばME-GIエンジンが開発されて使用されている。ME-GIエンジンは、同級出力のディーゼルエンジンに比べ、汚染物質排出量を二酸化炭素は23%、窒素化合物は80%、硫黄化合物は95%以上低減できる次世代の環境にやさしいエンジンとして脚光を浴びている。
【0033】
このようなME-GIエンジンは、LNGを極低温に耐える貯蔵タンクに貯蔵して運搬させるLNG運搬船などのような海上構造物(本明細書における船舶とは、LNG運搬船、LNG RVなどをはじめ、LNG FPSO、LNG FSRUなどの海上プラントまですべてを含む概念である。)に設置されることができ、この場合、天然ガスを燃料として使用するようになり、その負荷に応じて約150?400bara(絶対圧)程度の高圧のガス供給圧力が要求される。
【0034】
MEGIエンジンは、推進のためにプロペラに直結されて使用されることができ、そのため、MEGIエンジンは低速で回転する2行程エンジンからなる。すなわち、MEGIエンジンは、低速2行程高圧天然ガス噴射エンジンである。
【0035】
また、窒素酸化物排出量を低減するために、ディーゼル油と天然ガスとを混合して燃料として使用するDFエンジン(例えば、DFDG;Dual Fuel Diesel Generator)が開発され、推進用や発電用として使用されている。DFエンジンは、オイルと天然ガスとを混合燃焼する、又はオイル、天然ガスのうち選択された1つのみを燃料として使用することができるエンジンであって、オイルのみを燃料として使用する場合に比べ、燃料に含まれた硫黄化合物が少なく排気ガス中の硫黄酸化物の含有量が少ない。
【0036】
DFエンジンは、MEGIエンジンのような高圧に燃料ガスを供給する必要がなく、約数?数十bara程度に燃料ガスを圧縮して供給すればよい。DFエンジンは、エンジンの駆動力によって発電機を駆動させて電力を得て、この電力を用いて推進用モータを駆動させたり各種装置や設備を運転したりする。
【0037】
天然ガスを燃料として供給する際、MEGIエンジンの場合はメタン価を合わせる必要がないが、DFエンジンの場合はメタン価を合わせる必要がある。
【0038】
LNGが加熱されると、液化温度が相対的に低いメタン成分が優先的に気化されるため、ボイルオフガスの場合は、メタン含有量が高いのでそのままDFエンジンに燃料として供給され得る。しかし、LNGの場合は、メタン含有量が相対的に低くDFエンジンで要求するメタン価より低く、産地によってLNGを構成する炭化水素成分(メタン、エタン、プロパン、ブータン等)の比率が異なるため、そのまま気化させてDFエンジンに燃料として供給するには適していない。
【0039】
メタン価を調節するためには、液化天然ガスを強制気化させた後、温度を下げてメタンより液化点の高い重炭化水素(HHC;heavy hydrocarbon)成分を液化させて除去できる。メタン価を調節した後、エンジンで要求する温度条件に合わせてメタン価が調節された天然ガスを追加的に加熱することもできる。
【0040】
以下、添付図面に基づき、本発明の好ましい実施形態に対する構成及び作用を詳細に説明すれば次のとおりである。また、下記実施形態は、様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲が下記実施形態に限定されるものではない。
【0041】
図1は、本発明の好ましい第1実施形態による船舶の液化ガス処理システムを示す構成図である。本実施形態の液化ガス処理システムは、推進用メインエンジン(すなわち、LNGを燃料として使用する推進手段)であって、例えば、MEGIエンジンが装着されたLNG運搬船などに適用され得る。
【0042】
図1を参照すると、本実施形態による船舶の液化ガス処理システム100は、貯蔵タンク(cargo tank)1からLNGを推進システムとしてのメインエンジン(main engine)3へ移送させるための経路を提供する燃料供給ライン110と、貯蔵タンク1から発生するBOG(Boil Off Gas)をメインエンジン3へ移送させるための経路を提供するBOGライン140と、を含む。また、本実施形態によるBOGを用いた液化ガス処理システム100は、燃料供給ライン110を介してLNGをLNGポンプ(LNG pump)120及びLNG気化器(LNG vaporizer)130によって燃料としてメインエンジン3に供給し、BOGライン140を介してBOGをBOG圧縮機(BOG compressor)150によって圧縮させて燃料としてメインエンジン3に供給し、BOG圧縮機150から余剰のBOGを統合型IGG/GCUシステム200に供給する。
【0043】
メインエンジン3として使用され得るMEGIエンジンは、約150?400bara(絶対圧)程度の高圧に燃料を供給される必要がある。したがって、本実施形態によるLNGポンプ120及びBOG圧縮機150としては、MEGIエンジンで要求する圧力までLNG及びBOGをそれぞれ加圧・圧縮させることができる高圧ポンプ及び高圧圧縮機が使用される。
【0044】
燃料供給ライン110は、例えば、LNGの貯蔵タンク1から移送ポンプ2の駆動によって供給されるLNGを燃料としてメインエンジン3へ移送させるための経路を提供し、LNGポンプ120及びLNG気化器130が設置される。
【0045】
LNGポンプ120は、燃料供給ライン110にLNGの移送に必要なポンピング力を提供するように設置され、一例として、LNG HPポンプ(LNG High Pressure pump)が使用されることができ、本実施形態のように、複数からなり並列になるように設置されることができる。
【0046】
LNG気化器130は、燃料供給ライン110でLNGポンプ120の後段に設置されることで、LNGポンプ120によって移送されるLNGを気化させるが、LNGの気化のために、一例として、LNGが熱媒循環ライン131を介して循環供給される熱媒との熱交換によって気化されるようにし、他の例として、ヒータをはじめ、LNGの気化熱を提供するための様々なヒーティング手段が使用され得る。また、LNG気化器130は、LNGの気化のために高圧で使用され得るHP気化器(High Pressure vaporizer)が使用され得る。一方、熱媒循環ライン131に循環供給される熱媒は、一例として、ボイラーなどから発生するスチームが使用され得る。
【0047】
BOGライン140は、貯蔵タンク1から自然的に発生するBOGをメインエンジン3へ移送させるための経路を提供し、本実施形態のように、燃料供給ライン110に連結されることによってBOGを燃料としてメインエンジン3に供給されるようにすることができ、これと異なって、BOGを直接メインエンジン3に供給するための経路を提供することもできる。
【0048】
BOG圧縮機150は、BOGライン140に設置されてBOGライン140を通過するBOGを圧縮させる。図1には1つのBOG圧縮機150のみを示しているが、BOG圧縮機は、従来の一般的な燃料供給システムと同様に、冗長化設計(redundancy)の要求事項を満たすために、同じ仕様の2台の圧縮機が並列に連結されるようにシステムが構成され得る。ただし、本実施形態のように、BOGライン140で余剰BOGライン160の分岐部分に単一のBOG圧縮機150が設置される場合は、高価のBOG圧縮機150の設置による経済的負担及びメンテナンスの負担を軽減できるという追加的な効果が得られる。
【0049】
余剰BOGライン160は、BOG圧縮機150から余剰のBOGを統合型IGG/GCUシステム200に供給する経路を提供するが、統合型IGG/GCUシステム200だけでなく、例えば、DFエンジンのような補助エンジンなどに余剰BOGを燃料として供給できる。
【0050】
統合型IGG/GCUシステム200は、IGG(Inert Gas Generator)とGCU(Gas Combustion Unit)とが統合されたシステムである。
【0051】
一方、余剰BOGライン160と燃料供給ライン110とは、連結ライン170によって互いに連結され得る。したがって、連結ライン170によって余剰BOGをメインエンジン3の燃料として使用させる、または気化されたLNGを統合型IGG/GCUシステム200に燃料として使用させることができる。このような連結ライン170には通過するBOGや気化されたLNGの加熱のためにヒータ180が設置されることができ、BOGや気化されたLNGによる圧力を調節することによって過度な圧力を低減させる減圧バルブ(Pressure Reduction Valve;PRV)190が設置されることができる。一方、ヒータ180は、ガスの燃焼熱を用いたガスヒータであるか、その他にも熱媒の循環によって加熱のための熱源を提供する熱媒循環供給部をはじめ、様々なヒーティング手段が使用され得る。
【0052】
このような本発明の第1実施形態による液化ガス処理システムの作用を説明する。
【0053】
貯蔵タンク1内の圧力が所定の圧力以上又はBOGの発生量が多い場合、BOG圧縮機150の駆動によってBOGを圧縮してメインエンジン3に燃料として供給する。また、貯蔵タンク1内の圧力が所定の圧力未満又はBOG発生量が少ない場合、LNGポンプ120及びLNG気化器130の駆動によってLNGを移送及び気化させてメインエンジン3に燃料として供給され得るようにする。
【0054】
一方、BOG圧縮機150から余剰のBOGを余剰BOGライン160を介して統合型IGG/GCUシステム200又はDFエンジンなどの補助エンジンに供給させ、BOGの消耗又は貯蔵タンク1に供給されるための不活性ガスを生成することを目的に使用し、さらには、補助エンジンなどの燃料として使用されることができるようにする。
【0055】
BOGが供給される統合型IGG/GCUシステム200は、本体210内のBOG燃焼によって、貯蔵タンク1から持続的に発生するBOGを消耗することができ、必要に応じて、貯蔵タンク1に供給するための不活性ガスとして燃焼ガスを生成することもできる。
【0056】
図2には本発明の好ましい第2実施形態による、船舶の液化ガス処理システムの概略構成図を示している。
【0057】
図2には、天然ガスを燃料として使用できる高圧天然ガス噴射エンジン(すなわち、LNGを燃料として使用する推進手段)、例えば、MEGIエンジンを設置したLNG運搬船に本発明の液化ガス処理システムが適用された例が図示されているが、本発明の液化ガス処理システムは、液化ガス貯蔵タンクが設置された全ての種類の船舶、すなわち、LNG運搬船、LNG RVなどをはじめ、LNG FPSO、LNG FSRU、BMPPのような海上プラントに適用され得る。
【0058】
本発明の第2実施形態による船舶の液化ガス処理システムによれば、液化ガスを貯蔵する貯蔵タンク11で発生して排出されたボイルオフガス(NBOG)は、ボイルオフガス供給ラインL1に沿って移送されて圧縮機13で圧縮された後、高圧天然ガス噴射エンジン、例えば、MEGIエンジンに供給される。ボイルオフガスは、圧縮機13によって約150乃至400bara程度の高圧に圧縮された後、高圧天然ガス噴射エンジン、例えば、MEGIエンジンに燃料として供給される。
【0059】
貯蔵タンクは、LNGなどの液化ガスを極低温状態で貯蔵することができるように密封及び断熱防壁を備えているが、外部から伝達される熱を完壁に遮断することはできない。よって、貯蔵タンク11内では液化ガスの蒸発が持続的に行われ、ボイルオフガスの圧力を適正な水準に維持するために、ボイルオフガス排出ラインを介して貯蔵タンク11内部のボイルオフガスを排出させる。
【0060】
貯蔵タンク11の内部には、必要な場合、LNGを貯蔵タンクの外部に排出させるために排出ポンプ12が設置される。
【0061】
圧縮機13は、1つ以上の圧縮シリンダ14と、圧縮されながら温度が上昇したボイルオフガスを冷却させるための1つ以上の中間冷却機15とを含むことができる。圧縮機13は、例えば、ボイルオフガスを約400baraまで圧縮するように構成され得る。図2では、5つの圧縮シリンダ14及び5つの中間冷却機15を含む多段圧縮の圧縮機13が例示されているが、圧縮シリンダ及び中間冷却機の個数は必要に応じて変更され得る。また、1つの圧縮機内に複数個の圧縮シリンダが配列された構造の他、複数個の圧縮機を直列に連結した構造を有するように変更され得る。
【0062】
圧縮機13で圧縮されたボイルオフガスはボイルオフガス供給ラインL1を介して高圧天然ガス噴射エンジンに供給されるが、高圧天然ガス噴射エンジンで必要とする燃料の必要量に応じて、圧縮されたボイルオフガスをすべて高圧天然ガス噴射エンジンに供給することもでき、圧縮されたボイルオフガスのうち一部のみを高圧天然ガス噴射エンジンに供給することもできる。
【0063】
また、本発明の第1実施形態によれば、貯蔵タンク11から排出されて圧縮機13で圧縮されるボイルオフガス(すなわち、貯蔵タンクから排出されたすべてのボイルオフガス)を第1ストリームとした場合、ボイルオフガスの第1ストリームを圧縮した後、第2ストリームと第3ストリームとに分け、第2ストリームは高圧天然ガス噴射エンジンに燃料として供給し、第3ストリームは液化させて貯蔵タンクに戻すように構成できる。
【0064】
この時、第2ストリームは、ボイルオフガス供給ラインL1を介して高圧天然ガス噴射エンジンに供給される。必要な場合、第2ストリームは、圧縮機13に含まれた複数個の圧縮シリンダ14を全部通過した後、高圧天然ガス噴射エンジンに連結されるライン(すなわち、ボイルオフガス供給ラインL1)と、圧縮機13に含まれた複数個の圧縮シリンダ14のうち一部を通過した後、DFエンジンに連結されるライン(すなわち、ボイルオフガス分岐ラインL8)を介して燃料として供給され得る。
【0065】
第3ストリームは、ボイルオフガス復帰ラインL3を介して貯蔵タンク11に戻される。圧縮されたボイルオフガスの第3ストリームを冷却及び液化させることができるように、ボイルオフガス復帰ラインL3には熱交換器21が設置される。熱交換器21では圧縮されたボイルオフガスの第3ストリームを貯蔵タンク11から排出された後、圧縮機13に供給されるボイルオフガスの第1ストリームと熱交換させる。
【0066】
圧縮される前のボイルオフガスの第1ストリームの流量が第3ストリームの流量より多いため、圧縮されたボイルオフガスの第3ストリームは、圧縮される前のボイルオフガスの第1ストリームから冷熱を供給されて液化され得る。このように、熱交換器21では貯蔵タンク11から排出された直後の極低温のボイルオフガスと圧縮機13で圧縮された高圧状態のボイルオフガスとを熱交換させ、この高圧状態のボイルオフガスを冷却及び液化させる。
【0067】
熱交換器21で冷却されて少なくとも部分的に液化されたボイルオフガス(LBOG)は減圧手段としての膨脹バルブ22を通過しながら減圧されて気液混合状態で気液分離器23に供給される。膨脹バルブ22を通過しながらLBOGは略常圧に減圧(例えば、300barから3barに減圧)され得る。液化されたボイルオフガスは、気液分離器23で気体と液体成分とが分離され、液体成分、すなわちLNGはボイルオフガス復帰ラインL3を介して貯蔵タンク11に移送され、気体成分、すなわちボイルオフガスはボイルオフガス再循環ラインL5を介して貯蔵タンク11から排出されて圧縮機13に供給されるボイルオフガスに合流される。さらに詳しくは、ボイルオフガス再循環ラインL5は、気液分離器23の上段から延長されボイルオフガス供給ラインL1で熱交換器21より上流側に連結される。
【0068】
減圧されたボイルオフガスが円滑に貯蔵タンク11に戻ることができるように、また、減圧されたボイルオフガスの中の気体成分をボイルオフガス再循環ラインL5を介して円滑にボイルオフガス供給ラインL1に合流させることができるように、減圧手段による減圧後のボイルオフガスの圧力は貯蔵タンク11の内部圧力よりは高く設定されることが有利である。
【0069】
以上では、説明の便宜上、熱交換器21がボイルオフガス復帰ラインL3に設置されたものであると説明したが、実際、熱交換器21ではボイルオフガス供給ラインL1を介して移送されているボイルオフガスの第1ストリームとボイルオフガス復帰ラインL3を介して移送されているボイルオフガスの第3ストリームとの間に熱交換が行われているので、熱交換器21はボイルオフガス供給ラインL1に設置されたものでもある。
【0070】
ボイルオフガス再循環ラインL5にはさらに他の膨脹バルブ24がさらに設置されることができ、それにより、気液分離器23から排出された気体成分は膨脹バルブ24を通過しながら減圧され得る。また、熱交換器21で液化された後、気液分離器23に供給されるボイルオフガスの第3ストリームと気液分離器23で分離されてボイルオフガス再循環ラインL5を介して移送される気体成分とを熱交換させて第3ストリームをさらに冷却させることができるようにボイルオフガス再循環ラインL5には冷却器25が設置される。すなわち、冷却器25では、高圧液体状態のボイルオフガスを低圧極低温気体状態の天然ガスで追加的に冷却させる。
【0071】
ここで、説明の便宜上、冷却器25がボイルオフガス再循環ラインL5に設置されたものであると説明したが、実際、冷却器25ではボイルオフガス復帰ラインL3を介して移送されているボイルオフガスの第3ストリームとボイルオフガス再循環ラインL5を介して移送されている気体成分との間に熱交換が行われているので、冷却器25はボイルオフガス復帰ラインL3に設置されたものでもある。
【0072】
図に示していないが、本実施形態の変形例によれば、冷却器25が省略されるようにシステムが構成され得る。冷却器25を設置しない場合、全体システムの効率が若干低下する場合があるが、配管の配置及びシステムの運用が容易で冷却器の初期設置コスト及びメンテナンスコストも節減される利点がある。
【0073】
一方、貯蔵タンク11で発生するボイルオフガスの量が高圧天然ガス噴射エンジンで要求する燃料量より多くて余剰のボイルオフガスが発生すると予想される場合は、圧縮機13で圧縮された又は段階的に圧縮されている途中のボイルオフガスを、ボイルオフガス分岐ラインL7,L8を介して分岐させてボイルオフガス消費手段で使用する。ボイルオフガス消費手段としては、MEGIエンジンに比べ相対的に低い圧力の天然ガスを燃料として使用できるGCU、DFエンジン(DFDG)、ガスタービンなどが使用され得る。圧縮機13の中間段でボイルオフガス分岐ラインL7,L8を介して分岐するボイルオフガスの圧力は約6?10bara程度であり得る。
【0074】
以上で説明した本発明の第1実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法によれば、LNG運搬船の貨物(すなわち、LNG)の運搬時に発生するボイルオフガスを、エンジンの燃料として使用または再液化させて再度貯蔵タンクに戻して貯蔵することができるため、GCUなどで消耗して捨てられるボイルオフガスの量を減少または無くすことができ、窒素など別途の冷媒を使用する再液化装置を設置することなく、ボイルオフガスを再液化して処理できるようになる。
【0075】
また、本発明の第1実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法によれば、別途の冷媒を使用する再液化装置(すなわち、窒素冷媒冷凍サイクルや混合冷媒冷凍サイクル等)を設置する必要がないので、冷媒を供給及び貯蔵するための設備を追加的に設置する必要がなく、全体システムを構成するための初期設置コスト及び運用コストを節減できる。
【0076】
図2には圧縮されたBOGを熱交換器21に供給するためのボイルオフガス復帰ラインL3が圧縮機13の後段で分岐されるものであると例示しているが、ボイルオフガス復帰ラインL3は、上記のボイルオフガス分岐ラインL7,L8と同様に、圧縮機13で段階的に圧縮されている途中のボイルオフガスを分岐させることができるように設置され得る。図3には2つのシリンダによって2段圧縮されたボイルオフガスを分岐させる変形例が図示されており、図4には3つのシリンダによって3段圧縮されたボイルオフガスを分岐させる変形例が図示されている。この時、圧縮機13の中段で分岐するボイルオフガスの圧力は約6?10bara程度であり得る。
【0077】
特に、5つのシリンダを含み、前段の3つのシリンダはオイルフリー(oil-free)方式で動作し、後段の2つのシリンダは油潤滑(oil-lubricated)方式で動作するブルクハルト社の圧縮機を使用する場合、圧縮機の後段や4段以上でBOGを分岐させるときはオイルフィルタを経てBOGが移送されるように構成する必要があるが、3段以下で分岐させるときはオイルフィルタを使用する必要がないという点で有利であり得る。
【0078】
図5には本発明の好ましい第3実施形態による船舶の液化ガス処理システムの概略構成図を示している。
【0079】
第3実施形態による液化ガス処理システムは、MEGIエンジンやDFエンジン等で要求するボイルオフガスの量が自然的に発生するボイルオフガスの量より多い場合、LNGを強制的に気化させて使用できるように構成されるという点において第2実施形態の液化ガス処理システムと異なる。以下では、第2実施形態の液化ガス処理システムとの相違点のみをさらに詳しく説明する。また、第2実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、それに対する詳細な説明は省略する。
【0080】
本発明の第3実施形態による船舶の液化ガス処理システムによれば、液化ガスを貯蔵する貯蔵タンク11で発生して排出されたボイルオフガス(NBOG)は、ボイルオフガス供給ラインL1に沿って移送されて圧縮機13で圧縮された後、高圧天然ガス噴射エンジン、例えば、MEGIエンジンに供給される、又は圧縮機13で多段圧縮される途中でDFエンジン(DF Generator)に供給されて燃料として使用されるという点においては第2実施形態と同じである。
【0081】
ただし、第3実施形態の液化ガス処理システムは、高圧天然ガス噴射エンジン及びDFエンジンで要求する燃料としてのボイルオフガスの量が貯蔵タンク11で自然的に発生するボイルオフガスの量より多い場合、貯蔵タンク11に貯蔵されたLNGを強制気化器31で気化させて圧縮機13に供給できるように強制気化ラインL11を具備する。
【0082】
第3実施形態のように強制気化ラインL11を具備すると、貯蔵タンクに貯蔵されているLNGの量が少なくてボイルオフガスの発生量が少ない場合、または各種エンジンで要求する燃料としてのボイルオフガスの量が自然的に発生するボイルオフガスの量より多い場合にも安定的に燃料を供給できるようになる。
【0083】
図6には本発明の好ましい第4実施形態による船舶の液化ガス処理システムの概略構成図を示している。
【0084】
第4実施形態による液化ガス処理システムは、膨脹バルブの代わりに、減圧手段として膨脹機(Expander)52を使用するという点において第2実施形態の液化ガス処理システムと異なる。すなわち、第4実施形態によれば、熱交換器21で冷却されて少なくとも部分的に液化されたボイルオフガス(LBOG)は、膨脹機(Expander)52を通過しながら減圧されて気液混合状態で気液分離器23に供給される。以下では、第2実施形態の液化ガス処理システムとの相違点のみをさらに詳しく説明する。また、第2実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、それに対する詳細な説明は省略する。
【0085】
膨脹機52は、高圧の液化されたボイルオフガスを低圧に膨脹させながらエネルギーを生産する。膨脹機52を通過しながらLBOGは略常圧に減圧され得る。液化されたボイルオフガスは、気液分離器23で気体成分と液体成分とが分離され、液体成分、すなわちLNGはボイルオフガス復帰ラインL3を介して貯蔵タンク11に移送され、気体成分、すなわちボイルオフガスはボイルオフガス再循環ラインL5を介して貯蔵タンク11から排出されて圧縮機13に供給されるボイルオフガスに合流される。さらに詳しくは、ボイルオフガス再循環ラインL5は、気液分離器23の上段から延長されボイルオフガス供給ラインL1で熱交換器21より上流側に連結される。
【0086】
ボイルオフガス再循環ラインL5には減圧手段、例えば、膨脹バルブ24がさらに設置されることができ、それにより、気液分離器23から排出された気体成分は膨脹バルブ24を通過しながら減圧され得る。
【0087】
図7及び図8には本発明の好ましい第4実施形態の変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図を示している。
【0088】
図6に示す第4実施形態には圧縮されたBOGを熱交換器21に供給するためのボイルオフガス復帰ラインL3が圧縮機13の後段で分岐されるものであると例示している。しかし、上記のボイルオフガス分岐ラインL7,L8又は図3及び図4を参照して説明した第2実施形態の変形例におけるボイルオフガス復帰ラインと同様に、図7及び図8に示す第4実施形態の変形例によれば、ボイルオフガス復帰ラインL3は圧縮機13で段階的に圧縮されている途中のボイルオフガスを分岐させることができるように設置されることができる。
【0089】
図7には2つのシリンダによって2段圧縮されたボイルオフガスを分岐させる変形例が図示されており、図8には3つのシリンダによって3段圧縮されたボイルオフガスを分岐させる変形例が図示されている。特に、5つのシリンダを含み、前段の3つのシリンダはオイルフリー(oil-free)方式で動作し、後段の2つのシリンダは油潤滑(oil-lubricated)方式で動作するブルクハルト社の圧縮機を使用する場合、圧縮機の後段や4段以上でBOGを分岐させるときはオイルフィルタを経てBOGが移送されるように構成する必要があるが、3段以下で分岐させるときはオイルフィルタを使用する必要がないという点で有利であり得る。
【0090】
また、図7に示す第4実施形態の第1変形例を参照すると、第4実施形態による液化ガス処理システムは、熱交換器21を通過しながら冷却及び液化されたボイルオフガスを追加的に冷却するための熱交換器としての冷却器25(図6参照)が省略されるように変形され得る。冷却器25を設置しない場合、全体システムの効率が若干低下する場合があるが、配管の配置及びシステムの運用が容易で冷却器の初期設置コスト及びメンテナンスコストも節減される利点がある。
【0091】
また、図8に示す第4実施形態の第2変形例を参照すると、第4実施形態による液化ガス処理システムは、減圧手段としての膨脹機52と膨脹バルブ55とが並列に配置されるように変形され得る。この時、並列に配置された膨脹機52及び膨脹バルブ55は、熱交換器21と気液分離器23との間に位置する。膨脹バルブ55を並列に設置するために、そして、必要時に膨脹機52又は膨脹バルブ55のみを使用するために、熱交換器21と気液分離器23との間のボイルオフガス復帰ラインL3から分岐して膨脹機52を迂回するバイパスラインL31が設置される。膨脹機52のみを使用して液化されたボイルオフガスを膨脹させる場合は膨脹バルブ55を閉鎖し、膨脹バルブ55のみを使用して液化されたボイルオフガスを膨脹させる場合はボイルオフガス復帰ラインL3で膨脹機52の前段と後段とにそれぞれ設置された開閉バルブ53,54を閉鎖する。
【0092】
以上で説明した本発明の第4実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法によれば、前述の実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法と同様に、LNG運搬船の貨物(すなわち、LNG)の運搬時に発生するボイルオフガスを、エンジンの燃料として使用または再液化させて再度貯蔵タンクに戻して貯蔵することができるため、GCUなどで消耗して捨てられるボイルオフガスの量を減少または無くすことができ、窒素など別途の冷媒を使用する再液化装置を設置することなく、ボイルオフガスを再液化して処理できるようになる。
【0093】
本発明の第4実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法がLNG運搬船やLNG RVのような船舶の他、LNG FPSO、LNG FSRU、BMPPのようなプラントに適用された場合も、LNGを貯蔵する貯蔵タンクで発生するボイルオフガスをエンジン(推進のためのエンジンだけでなく、発電用に用いられるエンジンなども含まれる)で燃料として使用または再液化させることができるため、浪費されるボイルオフガスを減少または無くすことができる。
【0094】
また、本発明の第4実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法によれば、別途の冷媒を使用する再液化装置(すなわち、窒素冷媒冷凍サイクルや混合冷媒冷凍サイクル等)を設置する必要がないので、冷媒を供給及び貯蔵するための設備を追加的に設置する必要がなく、全体システムを構成するための初期設置コスト及び運用コストを節減できる。
【0095】
図9には本発明の好ましい第5実施形態による、船舶の液化ガス処理システムの概略構成図を示している。
【0096】
第5実施形態による液化ガス処理システムは、熱交換器21で液化された後、減圧手段(例えば、膨脹バルブ22)で減圧されたボイルオフガスを、気液分離器23を経ることなく、そのまま貯蔵タンク11に戻すように構成されるという点において第2実施形態の液化ガス処理システムと異なる。以下では、第2実施形態の液化ガス処理システムとの相違点のみをさらに詳しく説明する。また、第2実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、それに対する詳細な説明は省略する。
【0097】
本実施形態によれば、液化された後、減圧されながら気体成分(すなわち、フラッシュガス)と液体成分(すなわち、液化ボイルオフガス)とが混合された状態になったボイルオフガス(すなわち、2相(two phase)ボイルオフガス)を、ボイルオフガス復帰ラインL3を介して貯蔵タンク11に戻す。ボイルオフガス復帰ラインL3は、貯蔵タンク11に戻る2相ボイルオフガスが貯蔵タンク11の底に噴射されるように構成され得る。
【0098】
貯蔵タンク11の底に噴射された2相ボイルオフガスの中の気体成分(すなわち、フラッシュガス)は、貯蔵タンク11に貯蔵されているLNGに部分的に溶ける、またはLNGの冷熱によって液化され得る。また、溶けなかった又は液化されなかったフラッシュガス(BOG)は、貯蔵タンクで追加的に発生するBOG(NBOG)とともにボイルオフガス供給ラインL1を介して再度貯蔵タンク11から排出される。新しく発生したBOGとともに貯蔵タンク11から排出されたフラッシュガスはボイルオフガス供給ラインL1に沿って圧縮機13に再循環される。
【0099】
本実施形態によれば、膨脹後、2相状態のボイルオフガスを貯蔵タンク11の底に噴射させることによって、貯蔵タンク11に貯蔵されているLNGによって、液化されたボイルオフガスの量を増加させることができ、気液分離器などの設備を省略して設置コスト及び運用コストなどを節減できるという長所がある。
【0100】
図10には本発明の好ましい第5実施形態の第1変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図を示している。
【0101】
図10に示す第5実施形態の第1変形例は、減圧手段として膨脹バルブの代わりに膨脹機(Expander)52を使用するという点においてのみ図9に示す第5実施形態による液化ガス処理システムと異なる。すなわち、第5実施形態の第1変形例によれば、熱交換器21で冷却されて液化されたボイルオフガス(LBOG)は、膨脹機(Expander)52を通過しながら減圧されて気液混合状態になった後、2相状態で貯蔵タンク11に戻る。
【0102】
図11には本発明の好ましい第5実施形態の第2変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図を示している。
【0103】
図11に示す第5実施形態の第2変形例は、圧縮機として多段圧縮機の代わりに複数個の圧縮機(例えば、第1圧縮機13a及び第2圧縮機13b)を使用するという点において図9に示す第5実施形態による液化ガス処理システムと異なる。
【0104】
本発明の第5実施形態の第2変形例による液化ガス処理システムによれば、液化ガスを貯蔵する貯蔵タンク11で発生して排出されたボイルオフガス(NBOG)は、ボイルオフガス供給ラインL1に沿って移送されて第1圧縮機13aに供給される。第1圧縮機13aで圧縮されたボイルオフガスは約6?10bara程度に圧縮された後、燃料供給ラインL2に沿って需要先、すなわちLNGを燃料として使用する推進システム(例えば、DFDE)に供給され得る。DFDEに供給された後の残りのボイルオフガスはブースタ圧縮機としての第2圧縮機13bによって追加的に圧縮されることができ、その後、上記の第5実施形態と同様に、ボイルオフガス復帰ラインL3に沿って移動しながら液化されて貯蔵タンク11に戻ることができる。
【0105】
第1圧縮機13aは、1つの圧縮シリンダ14a及び1つの中間冷却機15aを含む1段圧縮機である場合がある。第2圧縮機13bは、1つの圧縮シリンダ14b及び1つの中間冷却機15bを含む1段圧縮機である場合があり、必要な場合、複数個の圧縮シリンダ及び複数個の中間冷却機を含む多段圧縮機が活用されても良い。
【0106】
第1圧縮機13aで圧縮されたボイルオフガスは約6?10bara程度まで圧縮された後、燃料供給ラインL2を介して需要先、例えばDFエンジン(すなわち、DFDE)に供給されるが、エンジンで必要とする燃料の必要量に応じてボイルオフガスを全部エンジンに供給することもでき、ボイルオフガスのうち一部のみをエンジンに供給することもできる。
【0107】
すなわち、貯蔵タンク11から排出されて第1圧縮機13aに供給されるボイルオフガス(すなわち、貯蔵タンクから排出されたすべてのボイルオフガス)を第1ストリームとした場合、ボイルオフガスの第1ストリームを第1圧縮機13aの下流側で第2ストリームと第3ストリームとに分け、第2ストリームは推進システムであるDFエンジン(すなわち、DFDE)に燃料として供給し、第3ストリームは液化させて貯蔵タンクに戻すように構成できる。
【0108】
この時、第2ストリームは、燃料供給ラインL2を介してDFDEに供給され、第3ストリームは、第2圧縮機13bでさらに加圧された後、液化及び減圧過程を経てボイルオフガス復帰ラインL3を介して貯蔵タンク11に戻される。圧縮されたボイルオフガスの第3ストリームを液化させることができるようにボイルオフガス復帰ラインL3には熱交換器21が設置される。熱交換器21では圧縮されたボイルオフガスの第3ストリームを貯蔵タンク11から排出された後、第1圧縮機13aに供給されるボイルオフガスの第1ストリームと熱交換させる。
【0109】
圧縮される前のボイルオフガスの第1ストリームの流量が第3ストリームの流量より多いため、圧縮されたボイルオフガスの第3ストリームは圧縮される前のボイルオフガスの第1ストリームから冷熱を供給されて冷却(すなわち少なくとも部分的に液化)され得る。このように、熱交換器21では貯蔵タンク11から排出された直後の極低温のボイルオフガスと圧縮機13で圧縮された高圧状態のボイルオフガスとを熱交換させ、この高圧状態のボイルオフガスを冷却(液化)させる。
【0110】
熱交換器21で冷却されたボイルオフガス(LBOG)は、減圧手段としての膨脹バルブ22(例えば、J-Tバルブ)を通過しながら減圧された後、引続き気液混合状態に貯蔵タンク11に戻る。膨脹バルブ22を通過しながらLBOGは略常圧に減圧(例えば、300barから3barに減圧)され得る。
【0111】
一方、貯蔵タンク11で発生するボイルオフガスの量がDFエンジンで要求する燃料量より多くて余剰のボイルオフガスが発生すると予想される場合(例えば、エンジン停止時又は低速運航時等)は、第1圧縮機13aで圧縮されたボイルオフガスを、ボイルオフガス分岐ラインL7を介して分岐させてボイルオフガス消費手段で使用する。ボイルオフガス消費手段としては、天然ガスを燃料として使用できるGCU、ガスタービンなどが使用され得る。
【0112】
図12には本発明の好ましい第5実施形態の第3変形例による船舶の液化ガス処理システムを示す概略構成図を示している。
【0113】
図12に示す第5実施形態の第3変形例は、減圧手段として膨脹バルブの代わりに膨脹機(Expander)52を使用するという点においてのみ図11に示す第5実施形態の第2変形例による液化ガス処理システムと異なる。すなわち、第5実施形態の第3変形例によれば、熱交換器21で冷却されて液化されたボイルオフガス(LBOG)は、減圧手段としての膨脹機(Expander)52を通過しながら減圧されて気液混合状態になった後、2相状態で貯蔵タンク11に戻る。
【0114】
以上で説明した本発明の第5実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法によれば、前述の実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法と同様に、LNG運搬船の貨物(すなわち、LNG)の運搬時に発生するボイルオフガスを、エンジンの燃料として使用または再液化させて再度貯蔵タンクに戻して貯蔵することができるため、GCUなどで消耗して捨てられるボイルオフガスの量を減少または無くすことができるようになり、窒素など別途の冷媒を使用する再液化装置を設置する必要なく、ボイルオフガスを再液化して処理できるようになる。
【0115】
本発明の第5実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法がLNG運搬船やLNG RVのような船舶の他、LNG FPSO、LNG FSRU、BMPPのようなプラントに適用された場合も、LNGを貯蔵する貯蔵タンクで発生するボイルオフガスをエンジン(推進のためのエンジンだけでなく、発電用に用いられるエンジンなども含まれる)で燃料として使用または再液化させることができるため、浪費されるボイルオフガスを減少または無くすことができる。
【0116】
また、本発明の第5実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法によれば、別途の冷媒を使用する再液化装置(すなわち、窒素冷媒冷凍サイクルや混合冷媒冷凍サイクル等)を設置する必要がないので、冷媒を供給及び貯蔵するための設備を追加的に設置する必要がなく、全体システムを構成するための初期設置コスト及び運用コストを節減できる。
【0117】
図13には本発明の第6実施形態による船舶の液化ガス処理システムを示している。
【0118】
図13に示す本発明の第6実施形態による液化ガス処理システムは、図1に示す本発明の第1実施形態による液化ガス処理システム(すなわち、高圧ポンプ120によってLNGを加圧して推進システムに燃料として供給するライン、及び圧縮機150によってBOGを加圧して推進システムに燃料として供給するラインを有するハイブリッドシステム)と、図2に示す本発明の第2実施形態による液化ガス処理システムとが統合されて構成される。
【0119】
図に示していないが、本発明によれば、図3乃至図12に示す第3乃至第5実施形態によるそれぞれの液化ガス処理システムが、図13に示すように、ハイブリッドシステム(図13のL23,L24,L25参照)と統合され得ることは勿論である。
【0120】
図13に示す本発明の船舶の液化ガス処理システムは、主エンジンとして高圧天然ガス噴射エンジン、例えば、MEGIエンジンを含み、副エンジンとしてDFエンジン(DF Generator;DFDG)を含む。通常、主エンジンは船舶の運航のための推進用に使用され、副エンジンは船舶内部に設置された各種装置及び設備に電力を供給するための発電用に使用されるが、本発明は主エンジン及び副エンジンの用途によって限定されるものではない。主エンジン及び副エンジンは、それぞれ複数個が設置されることができる。
【0121】
本実施形態による船舶の液化ガス処理システムは、エンジン(すなわち、主エンジンであるMEGIエンジン及び副エンジンであるDFエンジン)に対して貯蔵タンク11に貯蔵されている天然ガス(すなわち、気体状態のBOG及び液体状態のLNG)を燃料として供給できるように構成される。
【0122】
気体状態のBOGを燃料ガスとして供給するために、本実施形態による船舶の液化ガス処理システムは、貯蔵タンク11に貯蔵されているBOGを主エンジンに供給するボイルオフガス供給ラインとしてのBOG主供給ラインL1と、このBOG主供給ラインL1から分岐してBOGを副エンジンに供給するBOG副供給ラインL8とを含む。BOG主供給ラインL1は、前述の実施形態におけるボイルオフガス供給ラインL1と同じ構成であるが、図13を参照して行われる説明では、DFエンジンに対するボイルオフガス供給ライン(すなわち、BOG副供給ラインL8)との区別のために、BOG主供給ラインL1と称する。また、BOG副供給ラインL8は、前述の実施形態におけるボイルオフガス分岐ラインL8と同じ構成であるが、図13を参照して行われる説明では、BOG主供給ラインL1との区別のために、BOG副供給ラインL8と称する。
【0123】
また、液体状態のLNGを燃料ガスとして供給するために、本実施形態による船舶の液化ガス処理システムは、貯蔵タンク11に貯蔵されているLNGを主エンジンに供給するLNG主供給ラインL23と、このLNG主供給ラインL23から分岐してLNGを副エンジンに供給するLNG副供給ラインL24とを含む。
【0124】
本実施形態によれば、BOG主供給ラインL1にはBOGを圧縮するための圧縮機13が設置され、LNG主供給ラインL23にはLNGを加圧するための高圧ポンプ43が設置される。
【0125】
液化ガスを貯蔵する貯蔵タンク11で発生してBOG排出バルブ41を介して排出されたボイルオフガス(NBOG)は、BOG主供給ラインL1に沿って移送されて圧縮機13で圧縮された後、高圧天然ガス噴射エンジン、例えば、MEGIエンジンに供給される。ボイルオフガスは圧縮機13によって約150乃至400bara程度の高圧に圧縮された後、高圧天然ガス噴射エンジンに供給される。
【0126】
貯蔵タンクはLNGなどの液化ガスを極低温状態で貯蔵することができるように密封及び断熱防壁を備えているが、外部から伝達される熱を完壁に遮断することはできない。よって、貯蔵タンク11内では液化ガスの蒸発が持続的に行われ、ボイルオフガスの圧力を適正な水準に維持するために貯蔵タンク11内部のボイルオフガスを排出させる。
【0127】
圧縮機13は、1つ以上の圧縮シリンダ14と、圧縮されながら温度が上昇したボイルオフガスを冷却させるための1つ以上の中間冷却機15とを含むことができる。圧縮機13は、例えば、ボイルオフガスを約400baraまで圧縮するように構成され得る。図13では、5つの圧縮シリンダ14及び5つの中間冷却機15を含む多段圧縮の圧縮機13が例示されているが、圧縮シリンダ及び中間冷却機の個数は必要に応じて変更され得る。また、1つの圧縮機内に複数個の圧縮シリンダが配列された構造の他、複数個の圧縮機を直列に連結した構造を有するように変更され得る。
【0128】
圧縮機13で圧縮されたボイルオフガスは、BOG主供給ラインL1を介して高圧天然ガス噴射エンジンに供給されるが、高圧天然ガス噴射エンジンで必要とする燃料の必要量に応じて圧縮されたボイルオフガスをすべて高圧天然ガス噴射エンジンに供給することもでき、圧縮されたボイルオフガスのうち一部のみを高圧天然ガス噴射エンジンに供給することもできる。
【0129】
副エンジンであるDFエンジンに燃料ガスを供給するためのBOG副供給ラインL8は、BOG主供給ラインL1から分岐される。さらに詳しくは、BOG副供給ラインL8は、圧縮機13で多段圧縮されている途中のボイルオフガスを分岐することができるようにBOG主供給ラインL1から分岐される。図13には2段圧縮されたBOGを分岐させ、その一部をBOG副供給ラインL8を介して副エンジンに供給するものであると示しているが、これは例示に過ぎず、1段又は3乃至5段圧縮されたBOGを分岐させてBOG副供給ラインを介して副エンジンなどに供給できるようにシステムを構成することもできる。圧縮機としては、例えば、ブルクハルト(Burckhardt)社の圧縮機を使用することができる。ブルクハルト社の圧縮機は、総5つのシリンダを含み、前段の3つのシリンダはオイルフリー(oil-free)方式で動作し、後段の2つのシリンダは油潤滑(oil-lubricated)方式で動作すると知られる。したがって、ブルクハルト社の圧縮機をBOGを圧縮させる圧縮機13で使用する場合、4段以上でBOGを分岐させるときはオイルフィルタを経てBOGが移送されるように構成する必要があるが、3段以下で分岐させるときはオイルフィルタを使用する必要がないという点で有利であり得る。
【0130】
副エンジンであるDFエンジン(例えば、DFDG)は、要求圧力がMEGIエンジンに比べて低いため、圧縮機13の後段で高圧に圧縮された状態のBOGを分岐させる場合はBOGの圧力をさらに下げた後、副エンジンに供給しなければならず非効率的であり得る。
【0131】
上記のように、LNGが加熱されると、液化温度が相対的に低いメタン成分が優先的に気化されるため、ボイルオフガスの場合はメタン含有量が高く、そのままDFエンジンに燃料として供給され得る。したがって、BOG主供給ライン及びBOG副供給ラインにはメタン価を調節するための装置が別途に設置される必要がない。
【0132】
一方、貯蔵タンク11で発生するボイルオフガスの量が主エンジン及び副エンジンで要求する燃料量より多くて余剰のボイルオフガスが発生すると予想される場合は、本発明の液化ガス処理システムを介してボイルオフガスを再液化させて貯蔵タンクに戻すことができる。
【0133】
再液化容量を超えるボイルオフガスが発生する場合は、圧縮機13で圧縮された又は段階的に圧縮されている途中のボイルオフガスを、ボイルオフガス分岐ラインL7を介して分岐させてBOG消費手段で使用することができる。ボイルオフガス消費手段としては、MEGIエンジンに比べ相対的に低い圧力の天然ガスを燃料として使用することができるGCU、ガスタービンなどが使用され得る。ボイルオフガス分岐ラインL7は、図13に示すように、BOG副供給ラインL8から分岐されることが好ましい。
【0134】
圧縮機13で圧縮された後、ボイルオフガス供給ラインL1を介して高圧天然ガス噴射エンジンに供給されるボイルオフガスのうち少なくとも一部をボイルオフガス復帰ラインL3を介して処理、すなわち再液化させて貯蔵タンク11に戻す過程は、図2を参照して上述したものと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0135】
図13には圧縮されたBOGを熱交換器21に供給するためのボイルオフガス復帰ラインL3が圧縮機13の後段で分岐されるものであると例示しているが、ボイルオフガス復帰ラインL3は上記のボイルオフガス分岐ラインL7やボイルオフガス分岐ラインとしてのBOG副供給ラインL8と同様に、圧縮機13で段階的に圧縮されている途中のボイルオフガスを分岐させることができるように設置されることができる。図3には2つのシリンダによって2段圧縮されたボイルオフガスを分岐させる変形例が図示されており、図4には3つのシリンダによって3段圧縮されたボイルオフガスを分岐させる変形例が図示されている。この時、圧縮機13の中段で分岐するボイルオフガスの圧力は約6?10bara程度であり得る。
【0136】
特に、5つのシリンダを含み、前段の3つのシリンダはオイルフリー(oil-free)方式で動作し、後段の2つのシリンダは油潤滑(oil-lubricated)方式で動作するブルクハルト社の圧縮機を使用する場合、圧縮機の後段や4段以上でBOGを分岐させるときはオイルフィルタを経てBOGが移送されるように構成する必要があるが、3段以下で分岐させるときはオイルフィルタを使用する必要がないという点で有利であり得る。
【0137】
LNG主供給ラインL23には、貯蔵タンク11の内部に設置されてLNGを貯蔵タンク11の外部に排出させるための排出ポンプ12と、この排出ポンプ12で一次加圧されたLNGをMEGIエンジンで要求する圧力まで二次加圧させるための高圧ポンプ43とが設置されている。排出ポンプ12は、各貯蔵タンク11ごとに内部に1つずつ設置されることができる。高圧ポンプ43は、図4には1つのみが図示されているが、必要に応じて、複数の高圧ポンプが並列に連結され使用され得る。
【0138】
上記のように、MEGIエンジンで要求する燃料ガスの圧力は150?400bara(絶対圧)程度の高圧である。本明細書における「高圧」とは、MEGIエンジンで要求する圧力、例えば150?400bara(絶対圧)程度の圧力を意味するものであると見なされるべきである。
【0139】
液化ガスを貯蔵する貯蔵タンク11から排出ポンプ12を介して排出されたLNGは、LNG主供給ラインL23に沿って移送されて高圧ポンプ43に供給される。さらに、LNGは高圧ポンプ43で高圧に加圧された後、気化器44に供給されて気化される。気化されたLNGは燃料として高圧天然ガス噴射エンジン、例えば、MEGIエンジンに供給される。MEGIエンジンで要求する圧力は超臨界状態であるから、高圧に加圧されたLNGは気体でもなくて液体でもない状態である。したがって、気化器44で高圧に加圧されたLNGを気化させるという表現は、超臨界状態であるLNGの温度をMEGIエンジンで要求する温度まで上昇させるという意味であると見なされるべきである。
【0140】
副エンジンであるDFエンジンに燃料ガスを供給するためのLNG副供給ラインL24はLNG主供給ラインL23から分岐される。さらに詳しくは、LNG副供給ラインL24は、高圧ポンプ43で加圧される前のLNGを分岐できるようにLNG主供給ラインL23から分岐される。
【0141】
一方、図13ではLNG副供給ラインL24が高圧ポンプ43の上流側でLNG主供給ラインL23から分岐するものであると示しているが、変形例によれば、LNG副供給ラインL24が高圧ポンプ43の下流側でLNG主供給ラインL23から分岐するものに変形され得る。ただし、LNG供給ラインL24が高圧ポンプ43の下流側で分岐する場合は、LNGの圧力が高圧ポンプ43によって上昇した状態であるため、副エンジンに燃料としてのLNGを供給する前に減圧手段によって副エンジンで要求する圧力にLNGの圧力を下降させる必要がある。図13に示す実施形態と同様に、LNG副供給ラインL24が高圧ポンプ43の上流側で分岐する場合は追加の減圧手段を設置する必要がないという点で有利である。
【0142】
LNG副供給ラインL24には気化器45、気液分離器46、及びヒータ47が設置され、燃料として供給されるLNGのメタン価及び温度をDFエンジンで要求する値に調節できる。
【0143】
上記のように、LNGの場合は、メタン含有量がボイルオフガスに比べて相対的に低いのでDFエンジンで要求するメタン価も低く、産地によってLNGを構成する炭化水素成分(メタン、エタン、プロパン、ブータン等)の比率が異なるため、そのまま気化させて燃料としてDFエンジンに供給することには適していない。
【0144】
メタン価を調節するために、LNGは気化器45で加熱されて部分的にのみ気化される。部分的に気化されて気体状態(すなわち、天然ガス)と液体状態(すなわち、LNG)とが混合された状態の燃料ガスは気液分離器46に供給され、気体と液体とに分離される。発熱量の高い重炭化水素(HHC)成分の気化温度が相対的に高いため、部分的に気化された燃料ガスで気化されないまま残っている液体状態のLNGには重炭化水素成分の比率が相対的に高くなる。したがって、気液分離器46で液体成分を分離することによって、すなわち重炭化水素成分を分離することによって、燃料ガスのメタン価は高くなることができる。
【0145】
LNGに含まれていた炭化水素成分の比率及びエンジンで要求するメタン価などを勘案して、適切なメタン価を得るために、気化器45での加熱温度を調節できる。気化器45での加熱温度は約-80℃乃至-120℃の範囲内で定めることができる。気液分離器46で燃料ガスから分離された液体成分は液体成分復帰ラインL25を介して貯蔵タンク11に戻される。ボイルオフガス復帰ラインL3と液体成分復帰ラインL25とは合流した後、貯蔵タンク11まで延長され得る。
【0146】
メタン価が調節された燃料ガスはLNG副供給ラインL24を介してヒータ47に供給され、副エンジンで要求する温度にさらに加熱された後、副エンジンに燃料として供給される。副エンジンが、例えば、DFDGである場合、要求されるメタン価は、一般に80以上である。例えば、一般的なLNG(通常、メタン:89.6%、窒素:0.6%)の場合、重炭化水素成分を分離する前のメタン価は71.3であり、その時のLHV(lower heating value)は48,872.8kJ/kg(1 atm、saturated vapor基準)である。この一般的なLNGを7baraに加圧した後、-120℃まで加熱して重炭化水素成分を除去すると、メタン価は95.5まで高くなり、その時のLHVは49,265.6kJ/kgである。
【0147】
本実施形態によれば、エンジン(主エンジン及び副エンジン)に燃料ガスを供給する経路が2つからなる。すなわち、燃料ガスは、圧縮機13を介して圧縮された後、エンジンに供給されることもでき、高圧ポンプ43を介して加圧された後、エンジンに供給されることもできる。
【0148】
特に、LNG運搬船、LNG RVなどのような船舶は、LNGを生産地から消費地へ輸送するために使用されるので、生産地から消費地へ運航する時は貯蔵タンクにLNGを満タンに積載した積載(Laden)状態で運航し、LNGを荷役した後、再度生産地に戻る時は貯蔵タンクがほぼ空のバラスト(Ballast)状態で運航する。積載状態ではLNGの量が多いので相対的にボイルオフガス発生量も多く、バラスト状態ではLNGの量が少ないので相対的にボイルオフガス発生量も少ない。
【0149】
貯蔵タンクの容量、外部温度などの条件に応じて多少差があるが、例えば、LNGの貯蔵タンク容量が約130,000乃至350,000の場合に発生するボイルオフガスの量は、積載時は約3乃至4ton/hで、バラスト時は約0.3乃至0.4ton/hである。また、エンジンで要求する燃料ガスの量は、MEGIエンジンの場合は約1乃至4ton/h(平均約1.5ton/h)で、DFエンジン(DFDG)の場合は約0.5ton/hである。一方、最近では、貯蔵タンクの断熱性能が向上するとともに、BOR(Boil Off Rate)が次第に低くなる傾向にあるため、BOGの発生量も減少する傾向にある。
【0150】
したがって、本実施形態の燃料ガス供給システムのように圧縮機ライン(すなわち、図13でのL1及びL8)と高圧ポンプライン(すなわち、図13でのL23及びL24)とが共に備えられている場合、ボイルオフガスの発生量が多い積載状態では、圧縮機ラインを介してエンジンに燃料ガスを供給し、ボイルオフガスの発生量が少ないバラスト状態では、高圧ポンプラインを介してエンジンに燃料ガスを供給することが好ましい。
【0151】
一般に、MEGIエンジンで要求する150?400bara(絶対圧)程度の高圧まで圧縮機によって気体(BOG)を圧縮するために必要なエネルギーはポンプによって液体(LNG)を加圧するために必要なエネルギーに比べ非常に多くのエネルギーが要求され、高圧に気体を圧縮するための圧縮機は相当高価で体積も多く占めるため、圧縮機ラインを設けることなく高圧ポンプラインのみを使用することが経済的であると考えられ得る。例えば、多段で構成された1セットの圧縮機を駆動させてME-GIエンジンに燃料を供給するためには2MWの電力が消費されるが、高圧ポンプを使用する場合は100kWの電力のみが消費される。しかし、積載状態で高圧ポンプラインのみを使用してエンジンに燃料ガスを供給する場合、貯蔵タンクから持続的に発生するBOGを処理するために、BOGを再液化させるための再液化装置が不可欠で、この再液化装置で消耗するエネルギーを共に考慮した場合、圧縮機ライン及び高圧ポンプラインを共に設置し、積載状態では圧縮機ラインを介して燃料ガスを供給し、バラスト状態では高圧ポンプラインを介して燃料ガスを供給することが有利である。
【0152】
一方、バラスト状態のように、貯蔵タンクで発生するボイルオフガスの量がME-GIエンジンで要求する燃料量に満たない場合、多段圧縮機でボイルオフガスをME-GIエンジンで要求する高圧まで圧縮させることなく、多段圧縮される途中にBOG副供給ラインL8を介してボイルオフガスを分岐させてDFエンジンで燃料として使用することが効率的であり得る。すなわち、例えば、5段圧縮機のうち2段の圧縮シリンダのみを経てボイルオフガスをDFエンジンに供給する場合、残りの3段の圧縮シリンダは空回転される。5段圧縮機全体を駆動させてボイルオフガスを圧縮させる場合に要求される電力は2MWであるが、一方で2段まで使用し、残りの3段を空回転させる場合に要求される電力は600kWで、高圧ポンプを介してME-GIエンジンに燃料を供給する場合、要求される電力は100kWである。したがって、バラスト状態のように、BOG発生量がME-GIエンジンでの燃料必要量より少ない場合は、BOGはDFエンジンなどで全量消費し、高圧ポンプを介してLNGを燃料として供給することがエネルギー効率の側面で有利である。
【0153】
しかし、必要に応じては、BOG発生量がME-GIエンジンでの燃料必要量より少ない場合も圧縮機を介してBOGをME-GIエンジンに燃料として供給しながら不足した量だけのLNGを強制気化させて供給することもできる。一方、バラスト状態ではBOGの発生量が少ないので、BOGを発生する度に排出させて消費する代わり、貯蔵タンクが所定の圧力に到達するまでBOGを排出させず集めておき、間歇的に排出させてDFエンジン又はME-GIエンジンに燃料として供給することもできる。
【0154】
バラスト状態で、船舶のエンジン(DFエンジン又はME-GIエンジン)は、圧縮機13によって圧縮されたBOGと高圧ポンプ43によって加圧されたLNGとを、同時に燃料として供給されることもできる。また、バラスト状態で、船舶のエンジン(DFエンジン又はME-GIエンジン)は、圧縮機13によって圧縮されたBOGと高圧ポンプ43によって加圧されたLNGとのうちいずれか1つを、交互に燃料として供給されることもできる。
【0155】
ボイラー、ガスタービン、低圧DFエンジンなどのように低圧の燃料を供給されて使用する低圧エンジンの場合、平常時は貯蔵タンクで発生したボイルオフガスを燃料として使用し、ボイルオフガスの量が燃料必要量より少ない時は、LNGを強制的に気化させてボイルオフガスとともに燃料として使用する燃料供給システムが開発されていた。このような燃料供給システムは、船舶に低圧エンジンのみが設置された場合に限定される。自然的に発生したボイルオフガスと強制気化させたLNGとは発熱量(heating value)、メタン価(methane number)などが互いに異なるため、1つのエンジンにボイルオフガスと強制気化されたLNGとを混合して共に供給する場合、燃料の成分、すなわち熱量が変化しつづけることによってエンジンの出力が変化しエンジンの運転が非常に難しい問題がある。LNG運搬船のような貨物船の場合、貨物を積んで運航する積載(Laden)運航時には比較的十分な量のボイルオフガスが発生するが、貨物を下ろした後戻るバラスト運航時にはボイルオフガスの量が不足してLNGを強制的に気化させて使用する必要があるため、全体運航期間の略半分に該当するバラスト運航時にはエンジンの出力変化などの問題が持続的に発生する。
【0156】
しかし、上記の本発明の実施形態は、船舶に高圧に燃料を供給される高圧エンジン(例えば、ME-GIエンジン、約150?400bara)と低圧に燃料を供給される低圧エンジン(例えば、DFエンジン、約6?10bara)とが共に装着されているという点において、低圧エンジンのみが装着された場合の燃料供給システムとは顕著な差が存在する。
【0157】
また、本発明の場合は、ボイルオフガスの発生量が全体エンジンの燃料要求量より少ない時、低圧エンジンに対してのみボイルオフガスを燃料として供給したり、高圧エンジン及び低圧エンジンのいずれに対してLNGを燃料として供給したり、貯蔵タンクにボイルオフガスを集めて一定量が集まるとLNGと交互にエンジンに燃料として供給しているため、1つのエンジンにボイルオフガスと強制気化されたLNGとを混合して共に供給する場合に発生する問題を防止できる。
【0158】
ただし、本発明の実施形態によるシステムは、必要な場合、圧縮機13によって圧縮されたBOGと高圧ポンプ43によって加圧されたLNGとを同時に燃料として1つのエンジンに供給することができることは勿論である。
【0159】
また、装備の修理及び交替が容易ではない船舶では、非常時を考慮して重要な設備を2つずつ設置することが要求される(redundancy;すなわち、冗長化設計)。すなわち、船舶では、主設備と同じ機能を行うことができる余分の設備を設置し、主設備の正常動作時には余分の設備を待機状態に置き、主設備の故障時にその機能を引き継いで行うことができるように重要な設備を重複設計することが要求される。冗長化設計が要求される設備としては、主に回転駆動される設備、例えば、圧縮機やポンプなどを挙げることができる。
【0160】
このように、船舶には、普段は使用されないが、単に冗長性の要求条件のみを満たすために各種設備が二重に設置される必要があるが、2つの圧縮機ラインを使用する燃料ガス供給システムは、圧縮機の設置に多くのコスト及び空間が必要になり、使用時に多くのエネルギーが消耗される問題があり、2つの高圧ポンプラインを使用する燃料ガス供給システムは、ボイルオフガスの処理(すなわち、再液化)に多くのエネルギーが消耗される問題があり得る。それに比べ、圧縮機ライン及び高圧ポンプラインを共に設置した本発明の燃料ガス供給システムは、いずれか一方の供給ラインに問題が発生しても他方の供給ラインを介して正常な運航を続けることができ、圧縮機ラインを1つのみ設置した場合は高価の圧縮機を少なく使用しながらボイルオフガスの発生量によって最適の燃料ガス供給方式を適切に選択して運用することができ、最初の建造時のコストだけでなく、運用コストも節減できるようになるという追加的な効果が得られる。
【0161】
図13に示すように、本発明の一実施形態によって液化ガス処理システムとハイブリッド燃料ガス供給システムとが結合された場合、LNG運搬船の貨物(すなわち、LNG)の運搬時に発生するボイルオフガスを、エンジンの燃料として使用または再液化させて再度貯蔵タンクに戻して貯蔵することができるため、GCUなどで消耗して捨てられるボイルオフガスの量を減少または無くすことができるようになり、窒素など別途の冷媒を使用する再液化装置を設置する必要なく、ボイルオフガスを再液化して処理できるようになる。
【0162】
本実施形態によれば、貯蔵タンクの容量が大きくなってボイルオフガスの発生量は多くなり、エンジンの性能が改善されることに伴い、必要な燃料量は減少する最近の傾向にもかかわらず、エンジンの燃料として使用した後の残りのボイルオフガスは再液化させて再度貯蔵タンクに戻すことができるため、ボイルオフガスの浪費を防止できるようになる。
【0163】
特に、本実施形態による液化ガス処理システム及び処理方法によれば、別途の冷媒を使用する再液化装置(すなわち、窒素冷媒冷凍サイクルや混合冷媒冷凍サイクル等)を設置する必要がないので、冷媒を供給及び貯蔵するための設備を追加的に設置する必要がなく、全体システムを構成するための初期設置コスト及び運用コストを節減できる。
【0164】
本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の技術的要旨から逸脱しない範囲内で様々に修正又は変形されて実施できることは本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に自明である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させることを特徴とする船舶の液化ガス処理方法。
【請求項2】
前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、
前記貯蔵タンクで発生するBOGは複数個の前記圧縮シリンダのうち一部の圧縮シリンダによって圧縮された後、前記副エンジンに燃料として供給されることを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項3】
前記貯蔵タンクで発生するBOG及び強制気化されたLNGを前記高圧圧縮機に供給して圧縮させた後、前記主エンジン及び前記副エンジンのうち少なくとも1つに燃料として供給することを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項4】
前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを前記副エンジンに供給する時、LNGのメタン価を前記副エンジンで要求する値に合わせるためにLNGから重炭化水素成分を分離することを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項5】
前記熱交換させた後のBOGの減圧を膨張バルブまたは膨脹機により行うことを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項6】
前記液化されたBOGを気液分離器に供給して気体成分と液体成分とに分離し、
前記気体成分を前記貯蔵タンクから排出されて前記高圧圧縮機に移送されるBOGに合流させることを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項7】
前記気液分離器に供給される液化されたBOGを、冷却器により前記気体成分と熱交換させて冷却することを特徴とする請求項6に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項8】
LNGを貯蔵している貯蔵タンクと、前記貯蔵タンクに貯蔵されているLNGを燃料として使用する主エンジン及び副エンジンとを備えた船舶の液化ガス処理システムによって液化ガスを処理する方法であって、
前記液化ガス処理システムは、前記貯蔵タンクで発生したBOGを圧縮して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給する圧縮機ラインと、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを加圧して前記主エンジン及び前記副エンジンに燃料として供給するポンプラインと、を含み、
前記圧縮機ラインは、前記貯蔵タンクから発生するBOGを150?400baraに圧縮する高圧圧縮機を含み、前記ポンプラインは、前記貯蔵タンクに貯蔵されたLNGを150?400baraに加圧する高圧ポンプを含んで前記高圧圧縮機と前記高圧ポンプとを前記主エンジンと貯蔵タンクとの間に並列に配置し、
前記高圧圧縮機によって150?400baraに圧縮されることで超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに燃料として供給されていないBOGを、前記貯蔵タンクから排出されて前記圧縮機に移送される前のBOGと熱交換させた後、減圧して液化させ、
前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダを含み、前記複数個の圧縮シリンダの中に潤滑油方式で作動するものとオイルフリー方式で作動するものとを含み、前記高圧圧縮機に含まれる複数個の前記圧縮シリンダを全部通過して圧縮されたBOGをオイルフィルタを経て移送することを特徴とする船舶の液化ガス処理方法。
【請求項9】
前記高圧圧縮機は、複数個の圧縮シリンダと1つ以上の中間冷却機とを含み、
前記中間冷却機により、前記圧縮シリンダで圧縮されることで温度上昇したBOGを冷却することを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
【請求項10】
前記超臨界状態となったBOGのうち前記主エンジンに供給されていないBOGは、熱交換及び減圧されたことで、別途の冷媒を使用する再液化装置を使わないで液化されることを特徴とする請求項1に記載の船舶の液化ガス処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-28 
出願番号 特願2015-535579(P2015-535579)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (B63B)
P 1 651・ 852- YAA (B63B)
P 1 651・ 537- YAA (B63B)
P 1 651・ 121- YAA (B63B)
P 1 651・ 55- YAA (B63B)
P 1 651・ 857- YAA (B63B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩▲崎▼ 則昌北村 亮  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 和田 雄二
尾崎 和寛
登録日 2016-09-09 
登録番号 特許第6002330号(P6002330)
権利者 デウ シップビルディング アンド マリーン エンジニアリング カンパニー リミテッド
発明の名称 船舶の液化ガス処理方法  
代理人 特許業務法人青莪  
代理人 特許業務法人青莪  

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