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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 発明同一  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
管理番号 1348694
異議申立番号 異議2018-700204  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-06 
確定日 2018-12-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6200448号発明「防食材、端子付き電線及びワイヤーハーネス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6200448号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6200448号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6200448号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年4月20日に出願され、平成29年9月1日にその特許権の設定登録がされ、平成29年9月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年3月6日に特許異議申立人藤本博基により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 6月15日付け:取消理由通知
平成30年 8月17日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
平成30年 8月23日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
平成30年 9月26日 :意見書の提出(特許異議申立人)

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成30年8月17日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」ということがある。)の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1 請求項1?4に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1における「光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーの少なくとも一方からなる重合性化合物」という記載を、「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーからなる重合性化合物」という記載に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する。

イ 訂正事項2 請求項1?4に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1における「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマー」という記載を、「前記官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマー」という記載に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3 請求項1?4に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1における「前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマー」という記載を、「前記官能基を2つ有する2官能アクリレートモノマー」という記載に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する。

エ 訂正事項4 請求項1?4に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1における「前記2官能(メタ)アクリレートモノマー」という記載を、「前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマー」という記載に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する。

(2)訂正の適否についての判断
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「光重合性(メタ)アクリレートモノマー」及び「光重合性(メタ)アクリレートオリゴマー」について、「光重合性」がいずれも「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する」ことに由来することをより具体的に特定することにより、上記「モノマー」及び「オリゴマー」に相当する化合物の範囲を限定し、さらに、訂正前の請求項1においては、上記「モノマー」及び「オリゴマー」の「少なくとも一方」からなるものとされていた「重合性化合物」の範囲を、「少なくとも一方」という記載を削除することにより、訂正後の「モノマー」及び「オリゴマー」の両方からなるものに訂正するものである。また、請求項2?4は、請求項1の訂正に連動して訂正される。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1により、訂正前の請求項1に記載されていた「光重合性(メタ)アクリレートモノマー」が「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー」に訂正されることに伴い、文言が重複することとなる「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマー」という記載を、「前記官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートオリゴマー」と訂正することにより、重複記載を避けるためのものである。また、訂正事項2は、訂正事項2?4の記載を変更するものではなく、請求項2?4は請求項1の訂正に連動して訂正される。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(ウ)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載されていた「前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマー」を「前記官能基を2つ有する2官能アクリレートモノマー」に特定することにより、上記「モノマー」に相当する化合物の範囲を限定するものである。また、請求項2?4は、請求項1の訂正に連動して訂正される。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(エ)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項3により、訂正前の請求項1に記載されていた重合性化合物の選択肢の一方における「前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマー」が「前記官能基を2つ有する2官能アクリレートモノマー」に減縮されることに起因して、訂正前の請求項1に記載されていた重合性化合物の選択肢の他方において「前記2官能(メタ)アクリレートモノマー」という引用記載ができなくなったことを受けて、「前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマー」と訂正することにより、選択肢の記載を明瞭にするためのものである。また、訂正事項4は、訂正事項2?4の記載を変更するものではなく、請求項2?4は請求項1の訂正に連動して訂正される。
そうすると、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更について
(ア)訂正事項1について
訂正事項1のうち、訂正前の請求項1における「光重合性(メタ)アクリレートモノマー」及び同「オリゴマー」を「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する」ものに限定する訂正は、願書に添付した明細書の段落[0017]における「光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーは、炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有している。」という記載に基づくものである。また、訂正事項1のうち、訂正前の請求項1における重合性化合物の範囲を「光重合性(メタ)アクリレートモノマー」及び同「オリゴマー」の両方からなるものに特定する訂正は、願書に添付した明細書の段落[0016]における「紫外線硬化型樹脂としては、光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーの少なくとも一方からなる重合性化合物を主成分とした樹脂を使用する。」との記載、段落[0019]の「本実施形態では、紫外線硬化型樹脂における重合性化合物は、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーを併用している。」との記載、及び[0089]の[表1]に記載された実施例1等の記載に基づくものである。よって、訂正事項1による請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1は請求項2?4の記載を訂正するものではなく、請求項2?4は請求項1の訂正に連動して訂正されるから、同様の理由により請求項2?4の訂正も願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項1の訂正が、請求項1?4に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項1の訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2の訂正は、訂正事項1の訂正に伴い、請求項1において重複記載が生じることを避けるために行うものであり、実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項2は請求項2?4の記載を訂正するものではなく、請求項2?4は請求項1の訂正に連動して訂正されるから、同様の理由により請求項2?4の訂正も願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項2の訂正が、請求項1?4に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2の訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(ウ)訂正事項3について
訂正事項3の訂正は、願書に添付した明細書の段落[0019]における「本明細書において、『(メタ)アクリレート』とは、アクリレートとメタクリレートとを包含するものである。」という記載、及び段落[0089]の[表1]に記載された実施例1において、「単官能モノマー」と「2官能モノマー」が併用され、段落[0071]の記載に基づくと、上記「単官能モノマー」は「イソボルニルアクリレート」であり、上記「2官能性モノマー」は「トリプロピレングリコールジアクリレート」であること等の記載に基づくものである。よって、訂正事項3による請求項1の訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項3は請求項2?4の記載を訂正するものではなく、請求項2?4は請求項1の訂正に連動して訂正されるから、同様の理由により請求項2?4の訂正も願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項3の訂正が、請求項1?4に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項3の訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(エ)訂正事項4について
訂正事項4の訂正は、訂正事項3の訂正に伴い、請求項1において引用記載ができなくなったことを受けて記載を明瞭にする目的で行うものであり、実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項4は請求項2?4の記載を訂正するものではなく、請求項2?4は請求項1の訂正に連動して訂正されるから、同様の理由により請求項2?4の訂正も願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項4の訂正が、請求項1?4に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項4の訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 一群の請求項について
訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。また、訂正事項1?4により訂正された後の請求項2?4は、訂正事項1?4によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される。よって、訂正事項1?4は一群の請求項に対して請求されたものといえるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

エ 独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1?4に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1?4に係る訂正事項1?4については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

3.本件発明について
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーからなる重合性化合物を主成分とする紫外線硬化型樹脂を含み、
前記重合性化合物は、前記官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を2つ有する2官能アクリレートモノマーを併用してなるか、又は前記単官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方と、前記官能基を3つ有する3官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を4つ以上有する4官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方とを併用してなり、
JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が18900mPa・s以下であることを特徴とする防食材。
[請求項2]
導体及び前記導体を覆う電線被覆材を有する電線と、
前記電線の導体に接続する金属端子と、
前記導体と前記金属端子との接合部を覆い、かつ、請求項1に記載の防食材が硬化してなる封止材と、
を備えることを特徴とする端子付き電線。
[請求項3]
前記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる素線を有し、
前記金属端子は、銅又は銅合金を含有することを特徴とする請求項2に記載の端子付き電線。
[請求項4]
請求項2又は3に記載の端子付き電線を備えることを特徴とするワイヤーハーネス。」

4.取消理由通知に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成30年6月15日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、各引用文献は、下記5.(1)「引用文献及びその記載事項」に記載したとおりである。
(1)理由I(新規性)
本件特許の請求項1?2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)理由II(進歩性)
本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、又は引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献4、5)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)理由III(拡大先願)
本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の先願6の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(4)理由IV(サポート要件)
ア 本件明細書の[0007]等の記載によると、本件発明の課題は、「金属端子と電線の接合部における外形寸法の増大を抑制しつつも、長期に亘って腐食を防止することが可能な、防食材、端子付き電線及びそれを用いたワイヤーハーネスを提供することにある」ものと解される。
イ ここで、訂正前の本件発明1においては、「光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーの少なくとも一方」を含むことが特定されていることから、「モノマー」は必須成分ではなく、「オリゴマー」のみを含む形態も本件発明1に包含されていると解される。
しかし、「オリゴマー」のみを用いる場合は、本件明細書に記載された作用機序の説明の範囲外であるから、上記課題を解決し得ることを理解することはできない。また、訂正前の本件発明1においては、「光重合性(メタ)アクリレートオリゴマー」は、重合性官能基の数や、オリゴマーを構成する主鎖部分の化学構造は特段特定されていないが、一般的に「光重合性(メタ)アクリレートオリゴマー」といっても、その光重合特性や重合後の性質は多種多様であることに鑑みると、任意の「オリゴマー」を用い得る本件発明1が上記課題を解決し得るものとは解されない。
ウ さらに、本件明細書に記載された実施例の実験データ及び本件特許に係る出願の出願日当時における技術常識を参酌しても、オリゴマー成分を含有しない成分組成や、3官能以上のモノマーを含有しない成分組成を包含する訂正前の本件発明1が、上記課題を解決し得るものとは認められない。
エ 加えて、訂正前の本件発明1における「光重合性(メタ)アクリレートモノマー」は、本件明細書の[0020]?[0036]に記載された各「モノマー」の例示を参照すると、「光重合性(メタ)アクリレートオリゴマー」との区別が必ずしも明らかでないが、このように解した場合には比較例1?4も訂正前の本件発明1の構成要件を満たす組成物であることになるから、上記課題を解決できないことが明らかである。そうすると、訂正前の本件発明1のすべての範囲において上記課題を解決し得るものとは認められない。
オ そうすると、本件特許に係る出願の出願日当時の技術常識を参酌しても、本件明細書の記載に基づいて訂正前の本件発明1の範囲まで、上記課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化することはできないから、訂正前の本件発明1は発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができない。訂正前の本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている訂正前の本件発明2?4についても同様のことがいえる。
よって、訂正前の本件発明1?4は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5.取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1)引用文献及びその記載事項
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2014/112157号(甲第1号証)
2.共栄社化学株式会社, "ライトアクリレート(登録商標)IB-XA", [online], 共栄社化学株式会社, 製品情報, 機能性モノマー・オリゴマー, ライトアクリレート(登録商標),[平成30年6月1日検索], インターネット
3.大阪有機化学工業株式会社, "IBXA", [online], 大阪有機化学工業株式会社, 事業・製品, 化成品, 単官能, [平成30年6月1日検索], インターネット
4.特開2011-103266号公報(当審において新たに引用する文献、本件明細書に記載された先行技術文献)
5.特開2013-080682号公報(当審において新たに引用する文献、本件明細書に記載された先行技術文献)
6.特願2014-143932号(特開2015-181322号)(甲第2号証)
7.浅井一輝, 一柳正昭, 佐藤根大士, 森隆昌, 椿淳一郎, 伊藤葉子, "非ニュートン性が単一円筒型粘度計(B型粘度計)の測定結果に及ぼす影響について", 粉体工学会誌, 日本, 一般社団法人粉体工学会, 2009, vol.46, No.12, p.873-880
(当審において新たに引用する文献、周知技術を示す文献)
8.国際公開第2013/183446号(当審において新たに引用する文献、周知技術を示す文献)
9.国際公開第2014/054343号(当審において新たに引用する文献、周知技術を示す文献)
10.蒲池幹治, 遠藤剛監修, "ラジカル重合ハンドブック-基礎から新展開まで", 初版第1刷, 日本, 株式会社エヌ・ティー・エス, 1999年8月10日, p.565(当審において新たに引用する文献、周知技術を示す文献)

(i)引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
少なくとも連鎖移動剤を含有する硬化材料であって、
前記連鎖移動剤が、(a)ポリエーテル構造と、2つ以上のウレタン結合又は2つ以上の尿素結合を分子中に含む化合物と(b)含金属化合物を含有し、
該硬化材料の溶解度パラメータが9.4以上であり、
該硬化材料が可塑剤を含む樹脂と接する用途で使用された場合に、前記可塑剤が該硬化材料に移行するのを抑制可能であることを特徴とする硬化材料。
[請求項2]
前記硬化材料が、光硬化材料であり、前記連鎖移動剤により照射光の届かない部分の硬化が可能な暗部硬化性を有することを特徴とする請求項1記載の硬化材料。
・・・
[請求項7]
請求項1?5のいずれか1項に記載の硬化材料の硬化物を防水剤として用いたワイヤーハーネスであって、
導体が絶縁体からなる被覆材により被覆された絶縁電線が複数本束ねられた電線束を有し、
前記被覆材の一部が除去されて内部の導体が露出した導体露出部が前記防水剤により被覆され、
前記防水剤の表面が光透過性の保護部材により被覆されている防水部を有し、
前記保護部材が可塑剤を含む樹脂であり、前記保護部材の可塑剤が、前記防水剤に移行するのを抑制可能であることを特徴とするワイヤーハーネス。」

(1-2)「[0005]
また、従来、自動車に配策するワイヤーハーネスにおいて、ワイヤーハーネスの電線どうしを接続する場合、電線の絶縁被覆を除去して芯線を露出させ、該芯線の露出部分を溶接、半田付けあるいは圧着端子により接続してスプライス部分を形成している。このスプライス部分を備えたワイヤーハーネスを被水領域であるエンジンルームや車両下面に沿って配索する場合、スプライス部分に水が侵入すると、芯線や圧着端子に腐食が発生し、かつ、芯線の隙間を通して電線端末のコネクタへの浸水が発生する問題がある。そのため、従来、上記スプライス部分には、樹脂による防水処理が施されている。」

(1-3)「[0010]
本発明が解決しようとする課題は、高温で溶融させる必要がなく、可塑剤の移行を抑制することが可能であり、短時間で硬化が可能である硬化材料を提供することにある。また本発明は、防水剤に照射光が届かない箇所でも十分に硬化し、且つ可塑剤の樹脂への移行を抑制することで、防水性能の良好なワイヤーハーネスとその製造方法を提供することにある。
・・・
発明の効果
[0020]
本発明の硬化材料は、溶解度パラメータを9.4以上としたことにより、硬化材料と接している可塑剤を含む樹脂から硬化材料へ前記樹脂中の可塑剤が移行するのを抑制できる。更に硬化材料は、連鎖移動剤を含むため、例えば紫外線等の照射により、常温で短時間に硬化させることが可能である。」

(1-4)「[0029]
光硬化材料は、例えば紫外線硬化材料を用いることができる。前記紫外線硬化材料としては、既存の紫外線硬化材料を用いることができる。具体的には、(メタ)アクリレート等の硬化性モノマー、オリゴマー等と(C)光重合開始剤と混合物して、紫外線が照射されることで硬化物が得られるものであれば使用することができる。尚、本発明において「(メタ)アクリレート」との記載はアクリレート及び/又はメタクリレートの意味である。
[0030]
紫外線硬化材料の硬化原理としては、紫外線(紫外光)を光重合開始剤が吸収して、ラジカル種等の活性種を発生させ、その活性種が(メタ)アクリレート等の炭素-炭素の2重結合をラジカル重合させ、硬化させるものである。しかし紫外線硬化材料は、通常の紫外線硬化では、紫外線が遮蔽される部分が未硬化になる。これに対し、上記(B)連鎖移動剤を添加することにより、紫外線の照射により発生したラジカルを、紫外線が遮蔽されてラジカル発生のない箇所までラジカルを伝達し、重合反応を開始、進行させて、紫外線が遮蔽される暗部を硬化させることができる。すなわち(B)連鎖移動剤を添加することにより、照射光の届かない部分の硬化が可能な暗部硬化性を持たせることができる。」

(1-5)「[0031]
光硬化材料は、常温で流動性を有し可塑剤を含む樹脂に塗布することが可能であり、常温で硬化させることが可能であることが好ましい。光硬化材料が常温で流動性を有し硬化可能であると、ホットメルト接着剤と比較して、高温に加熱する必要がなく、塗布、硬化を容易に行うことができる。
[0032]
前記(メタ)アクリレート化合物としては、分子中に1つ以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。前記(メタ)アクリレート化合物の具体例として、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、4-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、t-オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、7-アミノ-3,7-ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、等のモノ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンポリオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンポリオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのEO付加物又はPO付加物のポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラフルフリルアルコールオリゴ(メタ)アクリレート、エチルカルビトールオリゴ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンオリゴ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールオリゴ(メタ)アクリレート、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート、(ポリ)ブタジエン(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。」

(1-6)「[0061]
本発明の硬化材料は、自動車部材、電機・電子機器、航空機部材等の、接着材料、コーティング材料、封止材料、モールド成型材料等において、可塑剤と含む樹脂と接する用途に用いた場合に、樹脂からの可塑剤が硬化材料の硬化物等に移行するのを防止できるという効果を発揮できる。特に硬化材料はワイヤーハーネスに好適に用いることができる。
[0062]
ワイヤーハーネスは、被覆電線の端末に端子が接続された端子付き電線が1本、或いは複数本組み合わされて構成される。ワイヤーハーネスの被覆電線は、導体の周囲が被覆材により被覆されている。被覆電線の被覆材は、軟質塩化ビニル樹脂等の可塑剤入りの樹脂が用いられる。更にワイヤーハーネスには、被覆電線と接する部分に上記光硬化材料を用いて硬化された硬化物からなる部材が、配置されている。
[0063]
ワイヤーハーネスに用いられる光硬化材料を用いた部材としては、防水剤、防食剤、外装品の固定部材、経路規制部材、接着剤等が挙げられる。」

(1-7)「[0065]
上記被覆電線の電線導体は、複数の素線が撚り合わされてなる撚線又は単線が用いられる。この場合、撚線は、1種の金属素線から構成されていても良いし、2種以上の金属素線から構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維からなる素線等を含んでいても良い。なお、1種の金属素線から構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料からなることをいい、2種以上の金属素線から構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料からなる金属素線を含んでいることをいう。また撚線中には、被覆電線を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
[0066]
上記導体を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ポリ-(p-フェニレンテレフタルアミド)等の芳香族ポリアミド繊維などを挙げることができる。」

(1-8)「[0070]
図1は本発明のワイヤーハーネスの一例を示す外観斜視図であり、図2は図1におけるA-A線水平断面図である。硬化材料はワイヤーハーネスの中間スプライス部の防水剤として用いることができる。図1及び図2に示すようにワイヤーハーネス1は、芯線からなる導体2の周囲が絶縁体からなる被覆材3により被覆された4本の絶縁電線4が束ねられている電線束から構成されている。
[0071]
ワイヤーハーネス1の中間スプライス部20は、電線束の絶縁電線3が剥離除去されて、内部の導体2が露出した導体露出部5を有する。導体露出部5では、複数(4本)の絶縁電線4、4、4、4の導体2、2、2、2どうしが接合されて、絶縁電線どうしが電気的に接続されている。
[0072]
中間スプライス部20は、導体露出部5が、防水剤40により被覆されている。更に該防水剤40の表面が、光硬化材料を硬化させるための照射光に対し、光透過性を有する保護シート30により覆われて、防水部10として構成されている。防水剤40は、防水剤の組成物として上記した光硬化材料を用いて硬化させたものである。保護シート30は防水部10の防水剤40を硬化させるまでの間、所定の箇所に保持するための保護部材として用いられる。保護部材は保護シート30のようなシート材料に限定されず、例えば後述する保護チューブのようなチューブ状に形成されていてもよい。」

(1-9)「[0098]
(A)(メタ)アクリレート(光硬化材料)、(B)連鎖移動剤、(C)光重合開始剤の各成分を、表1、表2に示す組成(質量部)で配合し、攪拌機を用いて混合し、溶解又は分散させ、実施例1?6、比較例1?5の光硬化材料を得た。光硬化材料のSP値を表1、表2に併せて示した。
[0099]
表中の略称は以下の通りで、特にメーカーの表示がないものは、東京化成社製の試薬グレードのものを用いた。
(A)(メタ)アクリレート
・IBA:イソボルニルアクリレート
・HPGA:ヘプタプロピレングリコールジアクリレート
・HPA:ヒドロキシプロピルジアクリレート
・TEGA:テトラエチレングリコールジアクリレート
・UP-1:ポリプロピレングリコールを用いて合成したウレタンアクリレート(合成品、合成法は後述する。)
・UP-2:1,10-デカンジオールを用いて合成したウレタンアクリレー(当審注:摘記1-10の記載等を参酌すると、「ウレタンアクリレート」の誤記と認められる。)(合成品、合成法は後述する)」

(1-10)「[0100]
(合成例1)UP-1の合成 攪拌機を備えた反応容器に、数平均分子量が400のポリプ口ピレングリコール80g(200mmol)、ヘキサメチレンジイソシアネー卜40g(238mmol) とジブチルスズジラウレート0.05gを仕込み、攪拌しながら液温度を室温から50℃まで1時間かけて上げた。その後少量をサンプリングしFT-IRを測定して2300cm ^(-1) 付近のイソシアネー卜基の吸収を確認しながら、50℃にて攪拌を続けた。FT-IRの吸収面積から残留イソシアネー卜基の含有量を計算し、反応前と比較して約15%まで減少して変化が無くなった時を反応終了とし、無色透明粘調性液体を得た。更に2-ヒドロキシエチルアクリレート9.84g(84.8mmol)、ジブチルスズジラウレート0.05g、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]0.02gを仕込み、攪拌しながら液温度を室温から50℃まで1時間かけて上げた。その後少量をサンプリングしFT-IRを測定して2300cm ^(-1) 付近のイソシアネー卜基の吸収を確認しながら、50℃にて攪拌を続けた。FT-IRの吸収面積から残留イソシアネー卜基の含有量見積り、その吸収が消失した時を反応終了とし、無色透明粘調性液体を得た。これをUP-1とする。両末端がアクリレートでポリエーテル構造を持つウレタンアクリレートである。
[0101]
(合成例2)UP-2の合成
攪拌機を備えた反応容器に、分子量が174.28の 1,10デカンジオール35g(200mmol)、ヘキサメチレンジイソシアネー卜40g(238mmol)
とジブチルスズジラウレート0.05gを仕込み、攪拌しながら液温度を室温から80℃まで1時間かけて上げた。その後少量をサンプリングしFT-IRを測定して2300cm^(-1)付近のイソシアネー卜基の吸収を確認しながら、80℃にて攪拌を続けた。FT-IRの吸収面積から残留イソシアネー卜基の含有量を計算し、反応前と比較して約15%まで減少して変化が無くなった時を反応終了とし、無色透明粘調性液体を得た。更に2-ヒドロキシエチルアクリレート9.84g(84.8mmol)、ジブチルスズジラウレート0.05g、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]0.02gを仕込み、攪拌しながら液温度を室温から50℃まで1時間かけて上げた。その後少量をサンプリングしFT-IRを測定して2300cm^(-1)付近のイソシアネー卜基の吸収を確認しながら、50℃にて攪拌を続けた。FT-IRの吸収面積から残留イソシアネー卜基の含有量見積り、その吸収が消失した時を反応終了とし、無色透明粘調性液体を得た。これをUP-2とする。両末端がアクリレートで、ポリエーテル構造を持たないウレタンアクリレートである。」

(1-11)「[0103]
(C)光重合開始剤
・HCHPK: 1-ヒド口キシシク口ヘキシルフェニルケトン
[0104]
実施例、比較例の硬化材料について、可塑剤移行性評価と非照射部硬化性評価を行った。評価結果を表1及び表2に併せて示す。評価方法は下記の通りである。」

(1-12)「[0108]
実施例、比較例の材料を防水剤として用いたワイヤーハーネスの防水性能試験を行った。試験は、図1に示す防水中間スプライス部を形成したワイヤーハーネスを作製して、防水性能を評価した。試験の詳細は以下の通りである。
・・・
[0111]
[防水剤の硬化]
中心波長が385nmのLED照射機(LED-UVランプ)を用い、上記PVCラップフィルムで巻き込んだ防水剤の組成物に、紫外線を照射して硬化させて防水部を形成して、ワイヤーハーネスを作製した。
[0112]
[耐圧試験による防水性能の評価]
耐圧試験は、ワイヤーハーネスの防水中間スプライス部全体を水中に浸漬した状態で、このハーネスの両端の電線全てからエアー圧200kPaの圧力を1分間加え、エアリークの有無を観察して初期の防水性能を評価した。評価基準は、エアリークがなかった場合を良好(○)とし、エアー圧200kPaを1分間加圧する途中でエアリークが確認された場合を不良(×)とした。また、防水中間スプライス部全体を120℃の恒温槽に入れて240時間加熱した後のワイヤーハーネスについても上記耐圧試験を行って、耐熱後の防水性能を評価した。評価基準は初期の試験と同じである。防水性能試験の結果を表1、表2に合わせて示す。」

(1-13)「[0113]
[表1]

[0114]
[表2]



(1-14)「図1 図2



(ii)引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「



(iii)引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「化合物名 イソボルニルアクリレート
CAS No. 5888-33-5
・・・



(iv)引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「[0007]
近年、自動車等の車両の軽量化により燃費効率を向上させようとする動きが加速しており、ワイヤーハーネスを構成する電線材料についても軽量化が求められている。そのため、電線導体にアルミニウムを用いることが検討されるようになってきている。
[0008]
しかしながら、端子金具は、電気特性に優れた銅または銅合金が一般に用いられる。それ故、アルミ電線-銅端子金具の組み合わせ等で使用されることが多くなる。電線導体と端子金具との材質が異なると、その電気接続部で異種金属接触による腐食が発生する。この種の腐食は、電線導体と端子金具との材質が同じである場合よりも起こりやすい。そのため、電気接続部を確実に防食できる防食剤が必要となる。
・・・
[0014]
本発明に係る端子付き被覆電線は、上記防食剤により電線導体と端子金具との電気接続部が覆われていることを要旨とするものである。
[0015]
ここで、上記電線導体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を含有してなり、上記端子金具は、銅または銅合金よりなることが好ましい。」

(4-2)「[0036]
2.本被覆電線
次に、本被覆電線について説明する。
[0037]
図1および図2に示すように、本被覆電線10は、電線導体18の外周に絶縁体20が被覆されてなる被覆電線12と、被覆電線12の電線導体18の端末に接続された端子金具14とを備えている。
・・・
[0039]
金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種メッキが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。
・・・
[0041]
端子金具14は、相手側端子と接続されるタブ状の接続部14cと、接続部14cの基端より延設形成され、被覆電線12の電線導体18の端末を加締めるワイヤバレル14aと、ワイヤバレル14aよりさらに延設形成され、被覆電線12の端末の絶縁体20を加締めるインシュレーションバレル14bとを備えている。
[0042]
端子金具14の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具14の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりメッキが施されていても良い。
[0043]
電線端末における電線導体18と端子金具14との電気接続部においては、電線導体18の一部が露出されている。本被覆電線10は、上記防食剤によりこの露出部分が覆われている。具体的には、防食剤の塗膜16が、端子金具14の接続部14cの基端と電線導体18の先端との境界を跨いで接続部14cの基端まで覆うとともに、端子金具14のインシュレーションバレル14bと絶縁体20との境界を跨いで絶縁体20まで覆っている。
・・・
[0045]
防食剤は、電線端末で端子金具14を加締めて電線導体18と端子金具14とを接続した後、電線導体18と端子金具14との接続部分の表面、すなわち、端末の絶縁体20の表面と、インシュレーションバレル14bの表面と、ワイヤバレル14aの表面と、露出している電線導体18の表面と、接続部14cの基端の表面とに塗布される。これにより、電線導体18と端子金具14との接続部分の表面に塗膜16が形成される。
・・・
[0048]
防食剤の塗膜16は、耐熱性や機械的強度を上げるなどの目的で、必要に応じて、架橋処理が施されても良い。架橋方法は、熱架橋、化学架橋、シラン架橋、電子線架橋、紫外線架橋等、その手段は特に限定されるものではない。」

(4-3)「[0055]
1.被覆電線の作製
ポリ塩化ビニル(重合度1300)100質量部に対して、可塑剤としてジイソノニルフタレート40質量部、充填剤として重炭酸カルシウム20質量部、安定剤としてカルシウム亜鉛系安定剤5質量部をオープンロールにより180℃で混合し、ペレタイザーにてペレット状に成形することにより、ポリ塩化ビニル組成物を調製した。
[0056]
次いで、50mm押出機を用いて、上記得られたポリ塩化ビニル組成物を、アルミ合金線を7本撚り合わせたアルミニウム合金撚線よりなる導体(断面積0.75mm)の周囲に0.28mm厚で押出被覆した。これにより被覆電線(PVC電線)を作製した。
[0057]
2.端子付き被覆電線の作製
上記作製した被覆電線の端末を皮剥して電線導体を露出させた後、自動車用として汎用されている黄銅製のオス形状の圧着端子金具(タブ幅0.64mm)を被覆電線の端末に加締め圧着した。
[0058]
次いで、電線導体と端子金具との電気接続部に、下記の各種の防食剤を塗布して、露出している電線導体および端子金具のバレルを各種の防食剤により被覆した。これにより、端子付き被覆電線を作製した。なお、各種の防食剤は、230℃に加熱して液状にし、厚さ0.05mmで塗布した。」

(4-4)「図1 図2



(v)引用文献5には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「[請求項1]
電線導体の外周を絶縁性の被覆体で被覆した被覆電線における被覆体の先端より所定長さ露出させた電線導体の露出部分を圧着する圧着部を備えた圧着端子であって、
前記圧着部を、前記電線導体の先端より先端側から前記被覆体の先端より後端側までを連続して一体的に囲繞するように圧着するとともに、
前記圧着部における表面の少なくとも一部に、
JIS K 6253に準拠したタイプAデュロメータにより測定される硬度でA1?A90、またはJIS K 6253に準拠したタイプDデュロメータにより測定される硬度でD40?D90の特性を有する高機能シール材を備えた
圧着端子。」

(5-2)「[0002]
近年の自動車には、様々な電装機器が装備されており、各機器の電気回路が複雑化する傾向にあるため、安定した電力供給が必要不可欠となっている。このような様々な電装機器の電気回路は、複数本の被覆電線を束ねてなるワイヤーハーネスを自動車に配索するとともに、ワイヤーハーネス同士をコネクタで接続して構成している。また、コネクタの内部には、ワイヤーハーネスの被覆電線を圧着部に圧着接続した圧着端子を装着している。
[0003]
しかし、被覆電線を圧着端子に接続する場合、圧着端子の圧着部と、被覆電線の電線導体に被覆した被覆体の先端より露出する電線導体の露出部分との間に隙間が生じやすく、電線導体が外気に曝される状態に露出しているため、コネクタ内部に装着した圧着端子の圧着部に水分が侵入した際、圧着部に圧着された電線導体の表面に腐食が発生し、導電性が低下するといった問題があった。
[0004]
また、例えば、被覆電線の電線導体に従来用いられていた銅系材料をアルミニウムあるいはアルミニウム合金に置き換え、そのアルミニウム製の電線導体を圧着端子に圧着した場合においては、端子材料の錫めっき、金めっき、銅合金等の貴な金属との接触により、卑な金属であるアルミニウムが腐食される現象、すなわち異種金属腐食が問題となる。
[0005]
なお、異種金属腐食(以下において電食という)とは、貴な金属と卑な金属とが接触している部位に水分が付着すると、腐食電流が生じ、卑な金属が腐食、溶解、消失等する現象である。この現象により、圧着端子の圧着部に圧着されたアルミニウム製の電線導体が腐食、溶解、消失し、やがては電気抵抗が上昇する。その結果、十分な導電機能を果たせなくなるという問題があった。」

(5-3)「[0056]
また、この発明の態様として、前記被覆電線における前記電線導体を、アルミニウム電線導体あるいはアルミニウム合金電線導体で構成することができる。
この発明によれば、高機能シール材によって圧着端子と電線導体との接続部分の止水性を確保するので、圧着端子と電線導体を構成する金属種によらず、安定した導電性を確保した状態に圧着端子及び電線導体を接続することができる。
[0057]
詳述すると、圧着端子を、例えば、錫メッキ等の表面処理を施した銅合金で構成した場合でも、高機能シール材により止水状態を確保しているため、圧着端子を構成する銅合金に比べて卑な金属であるアルミニウム電線導体あるいはアルミニウム合金電線導体に電食が発生することを防止できる。
[0058]
上記アルミニウム電線導体あるいはアルミニウム合金電線導体は、例えば、アルミニウム製素線あるいはアルミニウム合金製素線等で構成する電線導体とすることができる。また、圧着端子を構成する金属は、例えば、銅や銅合金等の貴な金属、あるいはアルミニウムやアルミニウム合金等の等電位な金属で構成することができる。」

(5-4)「[0124]
第1効果確認試験を、試験体1?13及び比較体1,2について実施するにあたり、試験体の作製水準を、端子基材は厚み0.2mmのリフロー錫めっき銅合金条(FAS680H材、古河電気工業(株)製)を銅合金条100(端子基材)とし、めっき厚みを1.0±0.5μmとした。
[0125]
試験体1?13及び比較体1,2は、それぞれの銅合金条100から端子の形状に応じた連鎖端子110を打ち抜き、曲げ加工した圧着端子10(10a)の圧着部30における41及び42に対して、硬さと圧縮永久ひずみの異なる樹脂を塗布し硬化後、電線の被覆体先端より所定長さ露出させた電線導体の露出部分とを圧着して取り付けて圧着接続構造体1(1a)を構成した。
[0126]
高機能シール材の一例として、シリコーンゴムA、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、液状シリコーンゴムA、液状シリコーンゴムB、シリコーンゴムB、紫外線硬化型樹脂A、加熱硬化型樹脂、ホットメルト型樹脂、紫外線硬化型樹脂B、天然ゴム、紫外線硬化型樹脂Cの9種をそれぞれ試験体1及び試験体3?13に適用した。
[0127]
また、試験体2の高機能シール材として、シリコーンゴムAを湿気硬化型接着剤により接着して、そのシリコーンゴムと湿気硬化型接着剤とを層状に構成した。
[0128]
また、比較体1,2の低機能シール材の一例として、それぞれシリコーン気泡ゴム、紫外線硬化型樹脂Dを用いた。
上記試験体1?13及び比較体1,2における、シール材厚さは約200±50μmとし、硬さと圧縮永久ひずみは下記の表1に示す。
[0129]
前記エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムは、銅合金条に加硫前の生ゴムを約200±50μmの厚さで塗布した後に、加硫処理しており、条とは加硫接着されている。また前記液状シリコーンゴムは大気中の水分を取り込み硬化反応するとともに端子基材との接着を得ている。
[0130]
電線導体は、組成がECAl(送電線用アルミニウム合金線材のJIS
A1060)である導体断面積が0.75mm^(2)、長さ11cmのアルミニウム素線(素線11本のより線)で構成するアルミニウム芯線を用いた。」

(5-5)「図1 図2



(vi)本件特許に係る出願の出願日前の特許出願(出願日:平成26年7月14日)であって、本件特許に係る出願の出願後に出願公開(特開2015-181322号公報)された特願2014-143932号(以下、「先願6」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「先願6明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、先願6の発明者は山口宙志、外4名であり、本件特許に係る出願の出願日における先願6の出願人はJSR株式会社であり、いずれも本件特許に係る出願の発明者及び出願人と同一ではない。

(6-1)「[請求項1]
電線封止材全体を100質量%として、下記成分(A)?(C)を含有する放射線硬化性電線封止材。
(A)ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール若しくはポリカーボネートジオールからなる群から選択される1種又は2種以上であって脂肪族構造を有するジオールに由来する構造単位と1個の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート 5?60質量%、
(B)エチレン性不飽和基を1つ有する化合物 30?90質量%、
(C)放射線重合開始剤 0.01?10質量%。
・・・
[請求項8]
被覆電線の導体露出部と端子金具とを電気的に接続させた電気接続部を封止処理するために用いられる、請求項1?5のいずれか一に記載の電線封止材。」

(6-2)「[0005]
しかしながら、従来の非硬化性材料からなる電線封止材は容易に剥離して封止性が損なわれる場合があり、また、熱硬化性樹脂からなる電線封止材では、熱硬化工程に長時間を要するため、封止処理の作業効率が低下するという問題があり、従来の紫外線硬化性樹脂からなる電線封止材では、被覆電線の導体や端子金具等の金属部分の封止性が不足する問題があった。
封止性についてさらに説明すると、電線封止材は被覆電線の導体や端子金属を構成する金属部分である銅、アルミニウム、銅若しくはアルミニウムの合金、又はこれらの金属材料に錫、ニッケル又は金等でメッキ処理をした材料に対する高い密着性が求められていた。密着性が過小である場合には、電線封止材を硬化させて得られる封止部材と金属部分との間に隙間を生じて水等が進入するため、封止性が低下する。通常、密着させるべき対象物質が異なると密着性を確保する技術手段は異なるため、例えばガラスに対する密着性を要求される光ファイバコート材を電線封止材に転用したとしても、良好な封止性を得ることは困難である。
また、被覆電線の導体と端子金具等が異なる金属で構成されている場合には、各金属のイオン化傾向の相違等により腐食現象が起こりやすいため、このような場合についても効果的な封止効果が求められていた。
従って、本発明の目的は、十分な封止性を有するとともに封止処理の作業性が良好な電線封止材を提供することにある。」

(6-3)「[発明の効果]
[0008]
本発明の組成物である電線封止材を用いれば、紫外線等の放射線照射により簡便にかつ均一に強度に優れた被覆層である封止層が形成され、かつ当該被覆層は熱可塑性樹脂ではなく放射線硬化性樹脂組成物を硬化させた架橋構造を有する硬化物である封止部材からなるため、従来の熱可塑性樹脂が溶融していた温度においても溶融しない。このため従来のPVCやPE等で被覆層を形成する場合に較べて高温環境下でも使用することが可能である。本発明の組成物を用いて形成した電線被覆層は、高いヤング率を有するため外部応力に強く、破断伸びが適度に大きく導体や端子金具等の金属部との接着力に優れるため、電線の封止個所が部分的に損傷した場合であっても封止層と導体の界面が剥離しにくく、電線の導体と端子金具が異種金属から構成されている場合であっても、界面への水の侵入や錆の発生、導体腐食を効果的に防止することができる。」

(6-4)「[0034]
これら成分(A)であるウレタン(メタ)アクリレートは、組成物粘度および硬化物の機械的特性との関係から、電線封止材の全量100質量%に対して、5?60質量%、さらに15?50質量%、特に20?45質量%配合されるのが好ましい。成分(A)の配合量が上記範囲であることにより、組成物の粘度が低く抑えられるため、導体とその被覆層との隙間、導体と端子金具の隙間等に毛管現象により電線封止材が容易に侵入して効果的な封止処理が可能となるほか、封止部材の強度が向上し、導体や端子金具等の金属部分との接着性が向上する。
[0035]
本発明の電線封止材には、発明の効果を阻害しない範囲で、成分(A)以外のウレタン(メタ)アクリレートを配合することもできる。成分(A)以外のウレタン(メタ)アクリレートは、成分(A)に該当しないウレタン(メタ)アクリレートであれば特に限定されないが、例えば、芳香族構造又は脂環族構造を有するジオールに由来する構造を有するウレタン(メタ)アクリレート、ジオールを含まず、ジイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させることにより製造されたウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
[0036]
成分(B)である、エチレン性不飽和基を一つ有する化合物は、ラジカル重合性単官能化合物である。成分(B)として、この化合物を用いることにより、硬化物のヤング率が過度に高くなることを防止して、効果的な封止処理を行うことができる。
[0037]
成分(B)の具体例としては、例えばN-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のビニル基含有ラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式構造含有(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環構造含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン等の複素環構造含有(メタ)アクリレートが挙げられる。ここで、脂環式構造含有(メタ)アクリレート、芳香環構造含有(メタ)アクリレート、複素環構造含有(メタ)アクリレートを総称して環状構造を有する(メタ)アクリレート(環状構造と1個のエチレン性不飽和基を有する化合物)という。
さらに、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート(水酸基と1個のエチレン性不飽和基を有する化合物)、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ペンチル(メタ)アクリレート等の炭素数3?10脂肪族炭化水素構造と1個のエチレン性不飽和基を有する化合物、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等のその他の脂肪族(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、t-オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、7-アミノ-3,7-ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテルを挙げることができる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。」

(6-5)「[0044]
任意成分として、(F)成分(A)以外の2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を含有することもできる。かかる化合物は、ウレタン(メタ)アクリレート以外の重合性多官能性化合物である。ただし、成分(F)を多量に配合すると硬化物のヤング率が過大となって、効果的な封止処理をすることが困難となる場合がある。このため、成分(F)の配合量は、組成物全量100質量%に対して、0?10質量%、さらには0?5質量%とすることが好ましい。特に、成分(F)をまったく配合しないことが好ましい。
[0045]
成分(F)としては、特に限定されないが、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート(ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0^(2,6)]デカンとも言う)、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加体、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体のジオールのジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体のジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル物等が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。」

(6-6)「[0058]
本発明の電線封止材の放射線硬化条件としては、空気中または窒素等の不活性ガス環境下において、0.1?5J/m^(2)のエネルギー密度の放射線を1秒?1分程度照射することにより硬化される。硬化時の温度は、10?40℃が好ましく、通常は室温で行うことができる。なお、ここで放射線とは、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等をいう。」

(6-7)「[0060]
3.電線の封止処理方法:
電線の封止処理の対象となる領域は特に限定されないが、典型的には、複数の電線を電気的に接続した場合の導体が露出した導体露出部や、電線の端部、また、導体と端子金具等との電気的接続部について行われる。
[0061]
本発明の封止処理方法は、被覆電線の被覆材の一部を除去して導体を露出させた導体露出部に封止処理をする場合や、複数の被覆電線の導体露出部どうしを電気的に接続させた電気接続部に封止処理をする場合には、導体露出部又は電気接続部に電線封止材を付着させる封止材付着工程と、該電線の電線封止材が付着した領域に放射線を照射する封止材硬化工程とを有する。」

(6-8)「[0065]
この場合、電気的接続部に対する封止材付着工程は、電線端末で端子金具を加締めて電線導体と端子金具とを電気的に接続した後、電線導体と端子金具との接続部分の表面、すなわち、端末の絶縁体の表面と、露出している電線導体の表面と、接続部の基端の表面とからなる電気的接続部に電線封止材を付着させる工程である。このとき、と端子金具がインシュレーションバレルやワイヤバレルを有する場合には、インシュレーションバレル及びワイヤバレルの表面にも電線封止材を付着させることが好ましい。これにより、電線導体と端子金具との接続部分の表面に電線封止材の塗膜が形成される。
電線封止材を付着させるにあたっては、滴下、塗布などの方法を用いることができる。必要に応じて、加温、冷却を行っても良い。封止材硬化工程は、前述したとおりである。
[0066]
本発明の電線封止材は、電線、特に電話線ケーブル、ワイヤーハーネス等の自動車用電線の封止材として有用である。本発明の電線封止材を用いて、上記封止処理方法に従って封止処理を封止処理を行うことにより、均一かつ強度に優れた封止部材を形成して、効果的な封止処理を行うことができる。また、本発明により形成された封止部材は、優れた強度を有し、導体、被覆材、シース等に対して高い接着性を有するため、効果的な封止処理を行うことができる。さらに、被覆電線の導体に用いられるアルミと端子金具に用いられる錫でメッキ処理された黄銅(以下、「スズめっき黄銅」という。)の異種金属の積層体に対しても効果的な防食効果を有しており、被覆電線の導体と異なる金属種からなる端子金具を使用する場合の電線封止材としても有用である。」

(6-9)「[0068]
[合成例1](A)ウレタンアクリレートの合成1:
攪拌機を備えた反応容器に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.013g、2,4-トリレンジイソシアネート5.36g、アクリルイソボロニル44.4gを攪拌しながら、15℃まで冷却した。ここに、分子量2000のポリテトラメチレングリコール49.3gを加え、室温にして、ジブチル錫ジラウレート0.044gを数回に分けて添加しながら、40℃で2時間反応させた。その後、ここにメタノール0.284gを温度50℃以上にならないよう注意して滴下、1時間攪拌させた後、ヒドロキシエチルアクリレート0.942gを50℃以上にならないようにゆっくり滴下、攪拌した。発熱が確認された後に、65℃で3時間攪拌させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。
得られたウレタンアクリレートをUA-1という。UA-1は、アクリロイル基を1個及びPTMG由来の構造単位を平均4個有している。」

(6-10)「[0075]
実施例1?10、比較例1?2
表1に示す組成の各成分を、攪拌機を備えた反応容器に仕込み、液温度を50℃に制御しながら1時間攪拌し、電線封止材である液状硬化性樹脂組成物を得た。
[0076]
前記実施例及び比較例で得た液状硬化性樹脂組成物を、以下のような方法で硬化させて試験片を作製し、下記の各評価を行った。結果を表1に併せて示す。
[0077]
[評価方法]
1.粘度:
実施例および比較例で得られた組成物の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定した。」

(6-11)「[0081]
5.耐腐食性評価:
20μm厚で塗れるアプリケーターバーを用いて、厚さ1mmの銅板、又は厚さ1mmのスズめっき黄銅板と厚さ1mmのアルミ板の積層板(以下、「スズめっき黄銅板とアルミ板の積層板」という。)のスズめっき黄銅板側の一部分に液状硬化性樹脂組成物を塗布し、これを窒素下で1J/cm^(2)のエネルギーの紫外線で照射して硬化させ、硬化フィルムと、銅板又はスズめっき黄銅板とアルミ板の積層板の評価用積層体を得た。この評価用積層体を5.0質量%の食塩水に浸漬し、35℃で一日放置後取り出して、さらに85℃相対湿度95%環境下に5日間放置した後の銅板又はスズめっき黄銅板とアルミ板の積層板の腐食状態を目視で観測した。
硬化フィルムの端部における銅板又はスズめっき黄銅板とアルミ板の積層板の色調が腐食により明らかに変化していた場合を「×」、色調変化がわずかであった場合を「○」、実質的に色調が変化していなかった場合を「◎」と評価した。」

(6-12)「[表1]



(6-13)「[0083]
表1中、
イソボルニルアクリレート;大阪有機化学工業社製、IBXA
アクリロイルモルホリン;興人社製、ACMO
2-ヒドロキシプロピルアクリレート;大阪有機化学工業社製、HPA
Irgacure184;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
Lucirin TPO;BASFジャパン社製、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート;日本化薬社製、KAYAMER PM-2
G-2a;(1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール(BT-LX、城北化学社製)
G-2b;N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン
G-2c;2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン(ジスネットF、三共化成社製)
G-2d;N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド(THANOX MD697、リアンロン社(Rianlon Corporation)製)」

(vii)引用文献7には、以下の事項が記載されている。
(7-1)「1.緒言
様々な産業プロセスにおいて,原材料や中間品,製品が流動状態で取り扱われることが多く,流動特性の評価は工学的に重要な課題である。流動特性の評価は一般に粘度(見かけ粘度)によって行われ,その測定手法,測定手順などがJIS Z 8803に規定されている。JIS Z 8803に規定されている測定法は,毛管粘度計,落球粘度計,回転粘度計である。・・・回転粘度計では円筒を回転させた場合に,円筒面に作用するトルクを測定することで,剪断速度と剪断応力から粘度を求める。この粘度計では,回転の角速度を変えることで,非ニュートン流体の流動曲線を求めることができる。
・・・回転粘度計には,単一円筒型回転粘度計(単一円筒型粘度計,B型粘度計)や,共軸二重円筒型回転粘度計,コーンプレート型回転粘度計といった種類がある。これらの中でも,単一円筒型回転粘度計は他の粘度計と比べ,構造が単純で,安価であり,取り扱いも簡単であるため広く用いられている粘度計である。」(第873頁左欄下から7行?第874頁左欄12行)

(viii)引用文献8には、以下の事項が記載されている。
「(8-1)「[0061]
・・・
・HPA:ヒドロキシプロピルアクリレート」

(ix)引用文献9には、以下の事項が記載されている。
「(9-1)「[0035]
・・・
・HPA:ヒドロキシプロピルアクリレート」

(x)引用文献10には、以下の事項が記載されている。
「(10-1)「1.はじめに
アクリル酸およびアクリル酸エステルはメタクリル酸エステル系モノマーやスチレン,酢酸ビニル,アクリロニトリルなど他の汎用モノマーに比べ重合速度が各段に速く(k_(p)/k_(t)^(1/2)が大),共重合性も良い。多くの商品はこれら他のモノマーと共重合され通常はアクリル樹脂と総称されている。したがって本節では,表題より範囲を少し拡大しアクリル樹脂の立場から概説する。その用途は多岐にわたり,よって組成や重合法,製品形態も多様である。限られた紙数で全容をカバーすることは不可能であり,いくつかの例を示すにとどめる。」(第565頁左欄1?12行)

(2)引用文献等に記載された発明
ア 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「少なくとも連鎖移動剤を含有する硬化材料であって、前記連鎖移動剤が、(a)ポリエーテル構造と、2つ以上のウレタン結合又は2つ以上の尿素結合を分子中に含む化合物と(b)含金属化合物を含有し、該硬化材料の溶解度パラメータが9.4以上であり、該硬化材料が可塑剤を含む樹脂と接する用途で使用された場合に、前記可塑剤が該硬化材料に移行するのを抑制可能であることを特徴とする硬化材料。」であって、「前記硬化材料が、光硬化材料であり、前記連鎖移動剤により照射光の届かない部分の硬化が可能な暗部硬化性を有する」硬化材料が記載されており(摘記1-1)、「高温で溶融させる必要がなく、可塑剤の移行を抑制することが可能であり、短時間で硬化が可能である硬化材料を提供する」という課題を解決するものであること(摘記1-3)、「特に硬化材料はワイヤーハーネスに好適に用いることができる」ものであり(摘記1-6)、「ワイヤーハーネスに用いられる光硬化材料を用いた部材としては、防水剤、防食剤、外装品の固定部材、経路規制部材、接着剤等が挙げられる」こと(摘記1-6)が記載されている。また、「光硬化材料は、例えば紫外線硬化材料を用いることができ」、「具体的には、(メタ)アクリレート等の硬化性モノマー、オリゴマー等と(C)光重合開始剤と混合物して、紫外線が照射されることで硬化物が得られるものであれば使用することができる」ことが記載され(摘記1-4)、種々の(メタ)アクリレート化合物が例示されている(摘記1-5)。そして、実施例、比較例として、「(A)(メタ)アクリレート(光硬化材料)、(B)連鎖移動剤、(C)光重合開始剤の各成分を、表1、表2に示す組成(質量部)で配合し、攪拌機を用いて混合し、溶解又は分散させ、実施例1?6、比較例1?5の光硬化材料を得た」こと(摘記1-9)、及び当該材料を防水剤として用い、紫外線を照射して硬化させて防水部を形成したワイヤーハーネスを作製し、防水性能が評価されたこと(摘記1-12)が記載されている。
ここで、表1及び2中の「(A)(メタ)アクリレート(光硬化材料)」成分の略称については、「IBA:イソボルニルアクリレート」、「HPGA:ヘプタプロピレングリコールジアクリレート」、「HPA:ヒドロキシプロピルジアクリレート」、「TEGA:テトラエチレングリコールジアクリレート」、「UP-1:ポリプロピレングリコールを用いて合成したウレタンアクリレート」、「UP-2:1,10-デカンジオールを用いて合成したウレタンアクリレー」(当審注:「ウレタンアクリレー」は、「ウレタンアクリレート」の誤記と認められる。)であることが記載されているところ(摘記1-9)、「UP-1」については「両末端がアクリレートでポリエーテル構造を持つウレタンアクリレート」であり、「UP-2」については「両末端がアクリレートで、ポリエーテル構造を持たないウレタンアクリレート」であることが記載されているから(摘記1-10)、「UP-1」及び「UP-2」は上記「オリゴマー」に相当し、その他は上記「モノマー」に相当するものと解される。また、表1及び表2(摘記1-13)を参照すると、実施例5においては(メタ)アクリレート成分として「HPGA」及び「UP-1」が用いられ、比較例4においては(メタ)アクリレート成分として「IBA」及び「UP-1」が用いられ、比較例5においては(メタ)アクリレート成分として「IBA」、「HPA」及び「UP-2」が用いられ、その量比を参酌すると、これらの(メタ)アクリレート成分が組成物の主成分であることが読み取れる。
そうすると、引用文献1には次の発明が記載されている。
「光硬化材料である(メタ)アクリレートモノマー及び光硬化材料である(メタ)アクリレートオリゴマーを主成分とする紫外線硬化材料を含む防水剤。」(以下、「引用発明1」という。)

また、引用文献1には、上記防水部を形成したワイヤーハーネスに関し、「図1及び図2(摘記1-14)示すようにワイヤーハーネス1は、芯線からなる導体2の周囲が絶縁体からなる被覆材3により被覆された4本の絶縁電線4が束ねられている電線束から構成されて」おり、「ワイヤーハーネス1の中間スプライス部20は、電線束の絶縁電線3が剥離除去されて、内部の導体2が露出した導体露出部5を有」し、「導体露出部5では、複数(4本)の絶縁電線4、4、4、4の導体2、2、2、2どうしが接合されて、絶縁電線どうしが電気的に接続されて」おり、「中間スプライス部20は、導体露出部5が、防水剤40により被覆されている。」(摘記1-8)ことが記載されており、「従来、自動車に配策するワイヤーハーネスにおいて、ワイヤーハーネスの電線どうしを接続する場合、電線の絶縁被覆を除去して芯線を露出させ、該芯線の露出部分を溶接、半田付けあるいは圧着端子により接続してスプライス部分を形成している。」(摘記1-2)という記載を参酌すると、図1及び図2に示されたワイヤーハーネスの中間スプライス部20も、導体露出部5では導体どうしが圧着端子により電気的に接続されているものと解される。
そうすると、引用文献1には次の発明が記載されている。
「芯線からなる導体の周囲が絶縁体からなる被覆材により被覆された複数の絶縁電線が束ねられている電線束から構成されており、電線束の絶縁電線が剥離除去されて、内部の導体が露出した導体露出部を有し、導体露出部では、複数の絶縁電線の導体どうしが圧着端子により接合されて、絶縁電線どうしが電気的に接続されており、導体露出部が引用発明1の紫外線硬化性防水剤の硬化物により被覆されている、端子付き電線、及び当該端子付き電線を備えるワイヤーハーネス。」(以下、「引用発明1w」という。

イ 先願6明細書等に記載された発明
先願6明細書等には、「電線封止材全体を100質量%として、下記成分(A)?(C)を含有する放射線硬化性電線封止材。(A)ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール若しくはポリカーボネートジオールからなる群から選択される1種又は2種以上であって脂肪族構造を有するジオールに由来する構造単位と1個の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート 5?60質量%、(B)エチレン性不飽和基を1つ有する化合物 30?90質量%、(C)放射線重合開始剤 0.01?10質量%。」が記載されており(摘記6-1)、当該電線封止材は「被覆電線の導体露出部と端子金具とを電気的に接続させた電気接続部を封止処理するために用いられる」ものであり(摘記6-1)、「紫外線等の放射線照射により簡便にかつ均一に強度に優れた被覆層である封止層が形成され、・・・導体や端子金具等の金属部との接着力に優れ・・・、電線の導体と端子金具が異種金属から構成されている場合であっても、界面への水の侵入や錆の発生、導体腐食を効果的に防止することができる」ものであること(摘記6-3)が記載されている。また、「成分(A)であるウレタン(メタ)アクリレートは、組成物粘度および硬化物の機械的特性との関係から、電線封止材の全量100質量%に対して、5?60質量%・・・配合されるのが好まし」く、「成分(A)の配合量が上記範囲であることにより、組成物の粘度が低く抑えられるため、導体とその被覆層との隙間、導体と端子金具の隙間等に毛管現象により電線封止材が容易に侵入して効果的な封止処理が可能となるほか、封止部材の強度が向上し、導体や端子金具等の金属部分との接着性が向上する。」ことが記載され(摘記6-4)、「成分(B)である、エチレン性不飽和基を一つ有する化合物は、ラジカル重合性単官能化合物であ」り、「この化合物を用いることにより、硬化物のヤング率が過度に高くなることを防止して、効果的な封止処理を行うことができる。」ことが記載されるとともに種々の化合物が例示され(摘記6-4)、さらに、「任意成分として、(F)成分(A)以外の2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を含有することもでき」ることが記載されるとともに種々の化合物が例示されている(摘記6-5)。そして、放射線硬化性電線封止材の具体例の一つとして実施例7が記載されており(摘記6-12)、全成分の合計108.4部のうち、(A)成分としてUA-1(摘記6-9の方法で合成されたウレタンアクリレート)を35部(32.3質量%)、(B)成分としてイソボルニルアクリレートを48部(44.3質量%)、アクリロイルモルフォリンを2部(1.8質量%)及び2-ヒドロキシプロピルアクリレートを15部(13.8質量%)、(C)放射線重合開始剤としてIrgacure184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、摘記6-13)を2.0部(1.8質量%)及びLucirin TPO(BASFジャパン社製、摘記6-13)を0.9部(0.8質量%)、その他の成分としてビス(メタクリロキシエチル)ホスフェートを5.0部(4.6質量%)及びG-2a(1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、城北化学社製、摘記6-13)を0.5部(0.5質量%)含有し、25℃における粘度が5.6Pa・sであったこと、及び「耐腐食性評価」として、「20μm厚で塗れるアプリケーターバーを用いて、厚さ1mmの銅板、又は厚さ1mmのスズめっき黄銅板と厚さ1mmのアルミ板の積層板(以下、「スズめっき黄銅板とアルミ板の積層板」という。)のスズめっき黄銅板側の一部分に液状硬化性樹脂組成物を塗布し、これを窒素下で1J/cm2のエネルギーの紫外線で照射して硬化させ、硬化フィルムと、銅板又はスズめっき黄銅板とアルミ板の積層板の評価用積層体を得た。この評価用積層体を5.0質量%の食塩水に浸漬し、35℃で一日放置後取り出して、さらに85℃相対湿度95%環境下に5日間放置した後の銅板又はスズめっき黄銅板とアルミ板の積層板の腐食状態を目視で観測した」ところ(摘記6-11)、いずれの積層体も「◎」(実質的に色調が変化していなかった)の評価であったことが記載されている(摘記6-12、6-11)。
そうすると、先願6明細書等には、以下の発明が記載されている。
「(A)ウレタン(メタ)アクリレートとして、UA-1(摘記6-9の方法で合成されたウレタンアクリレート)を32.3質量%、(B)エチレン性不飽和基を1つ有する化合物として、イソボルニルアクリレートを44.3質量%、アクリロイルモルフォリンを部1.8質量%及び2-ヒドロキシプロピルアクリレートを13.8質量%、(C)放射線重合開始剤として、Irgacure184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、摘記6-13)を1.8質量%及びLucirin TPO(BASFジャパン社製、摘記6-13)を0.8質量%、その他の成分として、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェートを4.6質量%及びG-2a(1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、城北化学社製、摘記6-13)を0.5質量%含有し、25℃における粘度が5.6Pa・sである、紫外線硬化性電線封止材。」(以下、「先願発明6」という。)

また、先願明細書等6には、電線封止材による封止処理の対象の一つとして、「被覆電線の導体露出部と端子金具とを電気的に接続させた電気接続部」が記載されており(摘記6-1、6-7)、「この場合、電気的接続部に対する封止材付着工程は、電線端末で端子金具を加締めて電線導体と端子金具とを電気的に接続した後、電線導体と端子金具との接続部分の表面、すなわち、端末の絶縁体の表面と、露出している電線導体の表面と、接続部の基端の表面とからなる電気的接続部に電線封止材を付着させる工程」により、「電線導体と端子金具との接続部分の表面に電線封止材の塗膜が形成される。」ことが記載されている(摘記6-8)。さらに、先願明細書等6には、従来、「被覆電線の導体と端子金具等が異なる金属で構成されている場合には、各金属のイオン化傾向の相違等により腐食現象が起こりやすいため、このような場合についても効果的な封止効果が求められていた。」ところ、先願発明6の電線封止材は、「被覆電線の導体に用いられるアルミと端子金具に用いられる錫でメッキ処理された黄銅(以下、「スズめっき黄銅」という。)の異種金属の積層体に対しても効果的な防食効果を有しており、被覆電線の導体と異なる金属種からなる端子金具を使用する場合の電線封止材としても有用」であり、「電線、特に電話線ケーブル、ワイヤーハーネス等の自動車用電線の封止材として有用である。」ことが記載されている(摘記6-8)。
そうすると、先願6明細書等には、次の発明が記載されている。
「被覆電線の電線端末の導体露出部で端子金具を加締めて、電線導体と端子金具とを電気的に接続させた電気的接続部を有しており、電線導体と端子金具との接続部分の表面、すなわち、端末の絶縁体の表面と、露出している電線導体の表面と、接続部の基端の表面とからなる電気的接続部に、先願発明6の電線封止材が付着され、紫外線により硬化されており、被覆電線の導体はアルミからなり、端子金具はスズめっき黄銅からなる、端子付き電線、及び当該端子付き電線を備えるワイヤーハーネス。」(以下、「先願発明6w」という。)

(3)理由I(新規性)及び理由II(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明1との対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、後者における「光硬化材料である(メタ)アクリレートモノマー」及び「光硬化材料である(メタ)アクリレートオリゴマー」は、それぞれ前者における「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー」及び「前記官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートオリゴマー」に相当し、また、後者における上記「モノマー」及び上記「オリゴマー」は、いずれも前者における「重合性化合物」に相当する。さらに、後者における「主成分とする」及び「紫外線硬化材料を含む」は、それぞれ前者における「主成分とする」及び「紫外線硬化型樹脂を含み」に相当する。加えて、後者における「防水剤」は、「スプライス部分を備えたワイヤーハーネスを被水領域・・・に沿って配索する場合、スプライス部分に水が侵入すると、芯線や圧着端子に腐食が発生し、かつ、芯線の隙間を通して電線端末のコネクタへの浸水が発生する」(摘記1-2)という問題を解消するために、上記スプライス部分に防水処理を施すためのものであるから、前者における「防食材」に相当するものといえる。そうすると、両者は、
「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーからなる重合性化合物を主成分とする紫外線硬化型樹脂を含む、防食材。」の点で一致し、

相違点1:重合性化合物が、本件発明1においては「前記官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を2つ有する2官能アクリレートモノマーを併用してなるか、又は前記単官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方と、前記官能基を3つ有する3官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を4つ以上有する4官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方とを併用してな」るものであるのに対し、引用発明1においてはそのように特定されていない点、
相違点2:防食材の粘度が、前者においては「JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が18900mPa・s以下である」のに対して、後者においてはそのようなことが明らかでない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点1について
(イ-1)引用文献1の比較例5について
引用文献1の表1、表2(摘記1-13)には、(メタ)アクリレートモノマーと(メタ)アクリレートオリゴマーとを併用した組成物の具体例として実施例5、比較例4及び比較例5の組成物が記載されているところ、さらに(メタ)アクリレートモノマーを2種類併用している具体例は、表2に記載された比較例5だけであり、具体的には、摘記1-9に記載された化合物の略称を参照すると、「IBA(イソボルニルアクリレート)」(本件発明1の「単官能(メタ)アクリレートモノマー」に相当する。)50質量部、「HPA(ヒドロキシプロピルジアクリレート)」10質量部、及び「UP-2(1,10-デカンジオールを用いて合成したウレタンアクリレート)」(本件発明1の「光重合性(メタ)アクリレートオリゴマー」に相当する。)40質量部を含有するものであることが記載されている。
ここで、摘記1-9に記載された「ヒドロキシプロピルジアクリレート」という物質名は、「ヒドロキシプロピル」という水酸基を一つ有すると解される母構造に対して、「アクリレート」が二つ結合するという名称になっており、その化学構造が単官能のアクリレートに相当するのか、二官能のアクリレートに相当するのかを明確に把握することができないものである。なお、並列して記載されている「ヘプタプロピレングリコールジアクリレート」及び「テトラエチレングリコールジアクリレート」は、いずれも「グリコール」という水酸基を二つ有する母構造に対して「アクリレート」が二つ結合した構造であることが読み取れるから、いずれも二官能のアクリレートであることを理解できる。
また、上記「ヒドロキシプロピルジアクリレート」に対して付記されている「HPA」という略称は、一般には、「ヒドロキシプロピルアクリレート」という単官能のアクリレートの略称として用いられるものであるから(もし必要であれば、引用文献8(摘記8-1)及び引用文献9(摘記9-1)等を参照。)、「HPA」という略称と「ジアクリレート」という物質名とではアクリレート官能基の数が一致せず、その化学構造を明確に把握することができない。
そうすると、比較例5では、「単官能(メタ)アクリレートモノマー」と併用された「(メタ)アクリレートモノマー」が、二官能のアクリレートモノマーであるのか単官能のアクリレートモノマーであるのかを明確に把握することが困難であるから、比較例5の記載をもって、上記相違点1に相当するモノマーの組合せが引用文献1に記載されているとすることはできない。

(イ-2)引用文献1の一般記載について
引用文献1の摘記1-5には、「(メタ)アクリレート化合物としては、分子中に1つ以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる」ことが記載されており、(メタ)アクリレート化合物の具体例として、モノ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリレートが多数例示されており、「これらは一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい」と記載されているが、上記相違点1に相当する(メタ)アクリレートモノマーの組合せを採用し、さらに当該モノマーの組合せに加えてオリゴマーを併用することについては具体的に記載されていないし、かつそのような組合せを採用することを動機付けるような記載ないし示唆も引用文献1には見出せない。

(イ-3)小括(新規性について)
そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明とはいえない。

(イ-4)進歩性について
本件発明の課題は、本件明細書の[0007]の記載によると、「金属端子と電線の接合部における外形寸法の増大を抑制しつつも、長期に亘って腐食を防止することが可能な、防食材、端子付き電線及びそれを用いたワイヤーハーネスを提供すること」にあり、その解決手段として本件発明1の態様が採用されており、具体的には、「本発明の防食材は、官能基数が少ない(メタ)アクリレートモノマーと官能基数が多い(メタ)アクリレートモノマーを混合した紫外線硬化型樹脂を使用している。そのため、得られる硬化物(封止材)は適度な架橋密度となることから、強度・硬度及び表面硬化性に加えて、伸びや深部硬化性も向上させることが可能となる」こと(本件明細書の[0012])等が記載され、実施例及び比較例の実験データにより、本件発明1により実際に上記の課題を解決し得ることが裏付けられているといえる。
これに対して、引用文献1には、発明が解決しようとする課題が「高温で溶融させる必要がなく、可塑剤の移行を抑制することが可能であり、短時間で硬化が可能である硬化材料を提供することにある。また本発明は、防水剤に照射光が届かない箇所でも十分に硬化し、且つ可塑剤の樹脂への移行を抑制することで、防水性能の良好なワイヤーハーネスとその製造方法を提供することにある」ことが記載されているから(摘記1-3の[0010])、引用発明1と本件発明とは必ずしも課題が一致しているとはいえず、また、上記課題解決手段については、「溶解度パラメータを9.4以上としたことにより、硬化材料と接している可塑剤を含む樹脂から硬化材料へ前記樹脂中の可塑剤が移行するのを抑制できる。更に硬化材料は、連鎖移動剤を含むため、例えば紫外線等の照射により、常温で短時間に硬化させることが可能である」こと(摘記1-3の[0020])、及び「上記(B)連鎖移動剤を添加することにより、紫外線の照射により発生したラジカルを、紫外線が遮蔽されてラジカル発生のない箇所までラジカルを伝達し、重合反応を開始、進行させて、紫外線が遮蔽される暗部を硬化させることができる。すなわち(B)連鎖移動剤を添加することにより、照射光の届かない部分の硬化が可能な暗部硬化性を持たせることができる」こと(摘記1-4の[0030])が記載されているから、課題解決のための手段においても観点が相違するものである。
さらに、引用文献1には、本件発明のような「官能基数が少ない(メタ)アクリレートモノマーと官能基数が多い(メタ)アクリレートモノマーを混合した紫外線硬化型樹脂を使用」するという技術的思想は具体的には記載されておらず、本件発明1に相当する(メタ)アクリレートモノマーの併用及びさらに(メタ)アクリレートオリゴマーとの併用を含む本件発明1の構成を採用することにより、「強度・硬度及び表面硬化性に加えて、伸びや深部硬化性も向上させることが可能となる」等の好ましい効果が得られることは、記載も示唆もされていない。実際、上記(イ-1)において検討した引用文献1の「比較例5」は、表2(摘記1-13)によると「防水性能」が「初期」及び「耐熱後」のいずれにおいても「×」(摘記1-12によると、「エアー圧200kPaを1分間加圧する途中でエアリークが確認された場合」)であったことが記載されているところ、仮に引用文献1の一般記載(摘記1-5等)に基づいて複数種類の(メタ)アクリレートモノマー及び同オリゴマーを併用することに思い至ることがあったとしても、それにより比較例5の「防水性能」が改善することや、本件発明のような「得られる硬化物(封止材)は適度な架橋密度となることから、強度・硬度及び表面硬化性に加えて、伸びや深部硬化性も向上させることが可能となる」等の有利な効果が得られることは、当業者が予測し得ることではないし、そのようなことが本件出願時において周知の事項であったとも認められない。
そうすると、引用文献1の記載を参照しても、引用発明1において当業者が上記相違点1に係る構成を採用することが動機付けられるものではない。
また、念のため、取消理由通知で引用した他の引用文献(周知技術)を参照しても、引用発明1において上記相違点1に係る構成を採用することが動機付けられるものではなく、かつそのことに基づく本件発明の有利な効果を当業者が予測し得たとは認められない。

(イ-5)小括(進歩性について)
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と引用発明1wとの対比
本件発明2と引用発明1wとを対比すると、後者における「芯線からなる導体」、「絶縁体からなる被覆材」、「導体の周囲が・・・被覆された」、「絶縁電線」、「圧着端子」、「導体露出部・・・接合」、「紫外線硬化性防水剤の硬化物」、「被覆」、「端子付き電線」は、それぞれ前者における「導体」、「電線被覆材」、「導体を覆う」、「電線」、「端子」、「接合部」、「防食材が硬化してなる封止材」、「覆い」、「端子付き電線」に相当するから、両者は、
「導体及び前記導体を覆う電線被覆材を有する電線と、
前記電線の導体を接合する端子と、
前記導体と前記端子との接合部を覆い、かつ、防食材が硬化してなる封止材と、
を備える端子付き電線。」の点で一致し、
相違点3:防食材が、前者においては「請求項1に記載の防食材」であるのに対して、後者においては「引用発明1の紫外線硬化性防水剤」である点、
相違点4:端子が、前者においては「導体に接続する金属端子」であるのに対し、後者においては端子が金属製であるのか明らかでない点、
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点3について
相違点3は、具体的には上記5.(3)ア(ア)「本件発明1と引用発明1との対比」に記載した「相違点1」及び「相違点2」に当たる。
そして、相違点1については、上記5.(3)ア(イ)「相違点1について」に記載したとおり、実質的な相違点であり、また、取消理由通知で引用した他の引用文献(周知技術)を参照しても、引用発明1において上記相違点1に係る構成を採用することが動機付けられるものではなく、かつそのことに基づく本件発明の有利な効果を当業者が予測し得たとは認められない。

(ウ)本件発明2についてのまとめ
そうすると、相違点2及び相違点4について検討するまでもなく、本件発明2は引用文献1に記載された発明とはいえないし、また、引用発明1w、引用文献1に記載された事項及び周知の技術的事項(引用文献4、5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明2を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明2の構成をすべて含む発明であるから、本件発明2と同様のことがいえる。
そうすると、本件発明3及び4は、いずれも引用発明1w、引用文献1に記載された事項及び周知の技術的事項(引用文献4、5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 理由I(新規性)及び理由II(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、いずれも引用文献1に記載された発明とすることができないものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとはいえない。
また、本件発明1?4は、いずれも引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献4、5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
よって、取消理由通知に記載した理由I(新規性)及び理由II(進歩性)の理由によって、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。

(4)理由III(拡大先願)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と先願発明6との対比
本件発明1と先願発明6とを対比すると、後者における「イソボルニルアクリレート」、「アクリロイルモルフォリン」及び「2-ヒドロキシプロピルアクリレート」は、いずれも前者における「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー・・・からなる重合性化合物」及び「前記官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマー」に相当する。また、後者における「ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート」は、前者における「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー・・・からなる重合性化合物」に相当し、前者における「前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマー」と「2官能」のモノマーである点で一致する。さらに、後者における「UA-1(摘記6-9の方法で合成されたウレタンアクリレート)」は、前者における「前記官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーからなる重合性化合物」に相当し、後者における「紫外線硬化性」は、前者における「紫外線硬化型」に相当し、後者における上記各成分は、その含有割合からみて防水剤の「主成分」であるといえ、まとめて前者の「紫外線硬化型樹脂」に相当するものといえる。また、後者における「電線封止材」は、「紫外線等の放射線照射により封止層が形成され・・・封止層と導体の界面が剥離しにくく・・・界面への水の侵入や錆の発生、導体腐食を効果的に防止することができる。」(摘記6-3)という効果を発揮するものであるから、前者における「防食材」に相当するものといえる。さらに、後者における「25℃における粘度」は、「B型粘度計を用いて測定した」(摘記6-10)ものであるところ、例えば、引用文献7(摘記7-1)に記載されているように、「B型粘度計」による粘度測定は、JIS Z 8803に規定される単一円筒形回転粘度計による粘度測定方法に相当するから、前者における「JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度」に相当し、後者における粘度の測定値である「5.6Pa・s」は、換算すると「5600mPa・s」であるから、前者における「18900mPa・s以下」の要件を満たしている。
そうすると、両者は、
「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーである「UA-1」(摘記6-9の方法で合成されたウレタンアクリレート)からなる重合性化合物を主成分とする紫外線硬化型樹脂を含み、
前記重合性化合物は、炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマーである「イソボルニルアクリレート」、「アクリロイルモルフォリン」、「2-ヒドロキシプロピルアクリレート」及び前記官能基を2つ有する2官能モノマーを併用してなり、
JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が5600mPa・sである、防食材。」の点で一致し、

相違点1’:2官能モノマーが、本件発明1においては「2官能アクリレートモノマー」であるのに対し、先願発明6においては「ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート」である点
で相違する。そこで、相違点1’について検討する。

(イ)相違点1’について
先願発明6は、先願6明細書等に記載された実施例7に相当する組成物であるところ、先願6明細書等に記載された他の実施例及び比較例の成分組成(摘記6-12)を検討しても、2官能(メタ)アクリレートに相当する成分として記載されているのは、上記相違点1’に係る「ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート」だけであり、本件発明1の「2官能アクリレートモノマー」を含有する具体的な組成物は、先願6明細書等には記載されていない。
また、一般に、「アクリル酸およびアクリル酸エステルは、メタクリル酸エステル系モノマー・・・など他の汎用モノマーに比べ重合速度が各段に速く・・・共重合性も良い」ことが知られているから(もし必要であれば、引用文献10の摘記10-1等を参照。)、先願6明細書等に「ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート」の記載があることをもって、対応する「アクリレートモノマー」も記載されているに等しいとすることはできない。
さらに、先願6明細書等には、「任意成分として、(F)成分(A)以外の2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を含有することもできる。」として、2官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが多数例示されているが(摘記6-5)、当該例示された2官能以上の(メタ)アクリレートモノマーを含有する実施例は一つも記載されておらず、メタクリレートモノマーとアクリレートモノマーとを区別する記載も見出せず、加えて、本件発明の「官能基数が少ない(メタ)アクリレートモノマーと官能基数が多い(メタ)アクリレートモノマーを混合した紫外線硬化型樹脂を使用している。そのため、得られる硬化物(封止材)は適度な架橋密度となることから、強度・硬度及び表面硬化性に加えて、伸びや深部硬化性も向上させることが可能となる」(本件明細書の[0012])という技術的思想についても、記載も示唆もされていない。
そうすると、上記相違点1’は実質的な相違点である。

(ウ)本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、先願6明細書等に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。

イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と先願発明6wとの対比
本件発明2と先願発明6wとを対比すると、後者における「電線導体」、「絶縁体」、「被覆電線」、「端子金具」、「電気的接続部」、「表面・・・付着」、「電線封止材が付着され、紫外線により硬化」、「端子付き電線」は、それぞれ前者における「導体」、「導体を覆う電線被覆材」、「電線」、「金属端子」、「前記導体と前記金属端子との接合部」、「覆い」、「防食材が硬化してなる封止材」、「端子付き電線」に相当するから、両者は、
「導体及び前記導体を覆う電線被覆材を有する電線と、
前記電線の導体に接続する金属端子と、
前記導体と前記金属端子との接合部を覆い、かつ、防食材が硬化してなる封止材と、
を備える端子付き電線。」の点で一致し、
相違点2’:防食材が、前者においては「請求項1に記載の防食材」であるのに対して、後者においては「先願発明6の電線封止材」である点、
で相違する。そこで、相違点2’について検討する。

(イ)相違点2’について
相違点2’は、具体的には上記5.(4)ア(ア)「本件発明1と先願発明6との対比」に記載した「相違点1’」に当たる。
そして、相違点1’については、上記5.(4)ア(イ)「相違点1’について」に記載したとおり、実質的な相違点である。

(ウ)本件発明2についてのまとめ
よって、本件発明2は、先願6明細書等に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明2を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明2の構成をすべて含む発明であるから、本件発明2と同様のことがいえる。
そうすると、本件発明3及び4は、いずれも先願6明細書等に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 理由III(拡大先願)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?4は、いずれも先願6明細書等に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。
よって、取消理由通知に記載した理由III(拡大先願)の理由によって、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。

(5)理由IV(サポート要件)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明の課題及び解決手段について
本件明細書の[0007]等の記載によると、本件発明の課題は、「金属端子と電線の接合部における外形寸法の増大を抑制しつつも、長期に亘って腐食を防止することが可能な、防食材、端子付き電線及びそれを用いたワイヤーハーネスを提供することにある」ものと解される。
そして、上記課題を解決する手段に関して、[0012]には、「本発明の防食材は、官能基数が少ない(メタ)アクリレートモノマーと官能基数が多い(メタ)アクリレートモノマーを混合した紫外線硬化型樹脂を使用している。そのため、得られる硬化物(封止材)は適度な架橋密度となることから、強度・硬度及び表面硬化性に加えて、伸びや深部硬化性も向上させることが可能となる。」と記載され、また、[0019]には、「官能基数が少ない(メタ)アクリレート化合物と官能基数が多い(メタ)アクリレート化合物とを混合し、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーのみとしないことにより、得られる硬化物の架橋密度が過度に高まることがない。そのため、得られる硬化物は、強度・硬度及び表面硬化性に加えて、伸びや深部硬化性も向上させることができる。その結果、得られる硬化物は、異種材料からなる接合部での剥離が抑制され、接合部の腐食を長期間抑制することが可能となる。」と記載されている。

(イ)「光重合性(メタ)アクリレートオリゴマー」について
本件訂正により、本件発明1は、「炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーからなる重合性化合物を主成分とする」こととなった。このため、「オリゴマー」のみを含む形態は、本件発明1には包含されないこととなった。

(ウ)本件発明の実施例について
本件明細書に記載された実施例1?6は、いずれも「オリゴマー1」として、ダイセル・オルネクス株式会社製「EBECRYL(登録商標)8402(脂肪族ウレタンアクリレート)、平均分子量Mw:1000という特定のオリゴマーを100質量部含有しており、さらに、単官能モノマーと2官能モノマーとの組合せ(実施例1)、単官能モノマー及び/又は2官能モノマーと、3官能モノマー及び/又は4官能モノマーとの組合せ(実施例2?6)を含む実施例が記載されており、粘度の要件と合わせて、本件発明1によって上記課題を解決し得ることが裏付けられているといえる。

(エ)本件発明の比較例について(「光重合性(メタ)アクリレートモノマー」について)
本件訂正により、本件発明1は、所定の「モノマー」と「オリゴマー」の両方を併用することが明らかになった。このため、仮に、比較例1?5に配合されている「オリゴマー1」(ダイセル・オルネクス株式会社製「EBECRYL(登録商標)8402」及び「オリゴマー2」(同社製「EBECRYL(登録商標)4858」)を、本件発明1における「2官能(メタ)アクリレートモノマー」に相当すると解することができるとしても、この場合、比較例1?5は「オリゴマー」を含有しないこととなるから、比較例1?5は本件発明1の範囲外の例であるといえる。そうすると、実験データの解釈上、特段の矛盾は生じない。

(オ)本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は発明の詳細な説明に実質的に記載されたものである。

イ 本件発明2?4について
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2?4についても、本件発明1と同様のことがいえる。

ウ 理由IV(サポート要件)についてのまとめ
よって、本件発明1?4は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、取消理由通知に記載した理由IV(サポート要件)の理由によって、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。

6.特許異議申立理由について
(1)特許異議申立て理由について
特許異議申立人が申し立てた特許異議申立て理由は、特許異議申立書の第10頁等に記載されているとおり、
「ア.(新規性)請求項1-4
条文 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号
証拠 甲第1号証」(当審注:甲第1号証は、取消理由通知に記載した「引用文献1」に相当する。)
「イ.(進歩性)請求項1-4
条文 特許法第29条第2項(同法第113条第2号
証拠 甲第1号証」
「ウ.(拡大先願)請求項1-4
条文 特許法第29の2(同法第113条第2号
証拠 甲第2号証」(当審注:甲第2号証は、取消理由通知に記載した「先願6明細書等」に相当する。)
であるところ、上記「ア.(新規性)」の請求項1及び2についての申立て理由は、取消理由通知に記載した理由I(新規性)に相当し、上記「イ.(進歩性)」の請求項1?4についての申立て理由は、取消理由通知に記載した理由II(進歩性)に相当し、上記「ウ.(拡大先願)」の請求項1?4についての申立て理由は、取消理由通知に記載した理由III(拡大先願)に相当する。
そこで、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由である、上記「ア.(新規性)」の請求項3及び4についての申立て理由について検討する。

(2)甲第1号証(引用文献1)に基づく新規性(本件発明3及び4)について
上記5.(3)イ「本件発明2について」に記載したとおり、本件発明2と甲第1号証に記載された発明(引用発明1w)とは、少なくとも「相違点1」の点で実質的に相違するものであるところ、本件発明3及び4は、本件発明2を直接又は間接的に引用する発明であり、本件発明2の構成をすべて含む発明であるから、本件発明2と同様のことがいえる。
そうすると、本件発明3及び4はいずれも甲第1号証に記載された発明とすることができないものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとはいえない。
よって、特許異議申立人が申し立てた上記特許異議申立て理由によって、本件請求項3及び4に係る特許を取り消すことはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-炭素不飽和結合を備える官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を有する光重合性(メタ)アクリレートオリゴマーからなる重合性化合物を主成分とする紫外線硬化型樹脂を含み、
前記重合性化合物は、前記官能基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を2つ有する2官能アクリレートモノマーを併用してなるか、又は前記単官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方と、前記官能基を3つ有する3官能(メタ)アクリレートモノマー及び前記官能基を4つ以上有する4官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーの少なくとも一方とを併用してなり、
JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が18900mPa・s以下であることを特徴とする防食材。
【請求項2】
導体及び前記導体を覆う電線被覆材を有する電線と、
前記電線の導体に接続する金属端子と、
前記導体と前記金属端子との接合部を覆い、かつ、請求項1に記載の防食材が硬化してなる封止材と、
を備えることを特徴とする端子付き電線。
【請求項3】
前記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる素線を有し、
前記金属端子は、銅又は銅合金を含有することを特徴とする請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の端子付き電線を備えることを特徴とするワイヤーハーネス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-12 
出願番号 特願2015-85670(P2015-85670)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 113- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 木村 敏康
天野 宏樹

登録日 2017-09-01 
登録番号 特許第6200448号(P6200448)
権利者 矢崎総業株式会社
発明の名称 防食材、端子付き電線及びワイヤーハーネス  
代理人 伊藤 正和  
代理人 三好 秀和  
代理人 高松 俊雄  
代理人 伊藤 正和  
代理人 三好 秀和  
代理人 岩▲崎▼ 幸邦  
代理人 岩▲崎▼ 幸邦  
代理人 高松 俊雄  
代理人 高橋 俊一  
代理人 高橋 俊一  

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