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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12M
管理番号 1348696
異議申立番号 異議2018-700426  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-28 
確定日 2018-12-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6238208号発明「細胞展開用マイクロチャンバーチップ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6238208号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?3]について訂正することを認める。 特許第6238208号の請求項1、2に係る特許を維持する。 同請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6238208号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成24年7月3日の出願(特願2012-149407号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に基づき、特許法第41条の規定による優先権を主張して平成25年7月1日に出願し、平成29年11月10日にその特許権の設定登録がされ、同年11月29日に特許公報が発行され、その後、平成30年5月28日に特許異議申立人より請求項1?3に対して特許異議の申立てがされ、平成30年7月26日付け(起案日)で取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年10月1日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という)がされ、本件訂正請求に対して平成30年11月26日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア、イのとおりである。
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1に「細胞が該上面(11)に非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤(50)で被覆されている、細胞展開用マイクロチャンバーチップであって、」とあるのを、「細胞が該上面(11)に非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤(50)で被覆されており、かつ底面(32)を有する細胞展開用マイクロチャンバーチップであって、上記底面(32)の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されておらず、」に訂正する。
イ 訂正事項2
訂正前の請求項3を削除する。

(2)一群の請求項、訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無
ア 一群の請求項について
訂正前の請求項2及び3は請求項1を直接的に引用しているものであって、記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ 訂正要件について
(ア)訂正事項1
a 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明は、マイクロチャンバーチップ(20) の上面(11)と該マイクロチャンバー(30)の内壁面(31)とが、細胞が該上面(11)に非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤(50)で被覆されていることを特定している。
これに対して、訂正後の請求項1は、上記マイクロチャンバー(30)が有底であり、上記底面の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されていない場合に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記aのとおり、上記マイクロチャンバー(30)が有底であり、上記底面の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されていない場合に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記aのとおり、訂正後の請求項1の記載は、訂正前の請求項1との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2の記載について何ら訂正するものではなく、訂正発明2のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、訂正前の請求項2との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1における、上記マイクロチャンバー(30)が有底であり、上記底面の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されていない場合は、明細書の【0012】、【0013】、【0023】、および【0030】等の記載に基づいている。したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

(イ)訂正事項2
a 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するというものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記aに記載したとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記aに記載したとおり、訂正事項2は、請求項3を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、平成30年10月1日に提出された訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件発明1
「一個以上の細胞を格納、保持することができるマイクロチャンバー(30)が基板(10)の上面(11)に形成されているマイクロチャンバーチップ(20)の上面(11)と該マイクロチャンバー(30)の内壁面(31)とが、細胞が該上面(11)に非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤(50)で被覆されており、かつ底面(32)を有する細胞展開用マイクロチャンバーチップであって、
上記底面(32)の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されておらず、
上記ブロッキング剤(50)が、カゼイン、スキムミルク、アルブミン、ポリエチレングリコールおよびリン脂質からなる群から選択される少なくとも一種を含み、
水と基板(10)との接触角が30度以上70度以下である、細胞展開用マイクロチャンバーチップ。」

本件発明2
「上記マイクロチャンバー(30)の開口部の直径が、20μm以上150μm以下であり、
上記マイクロチャンバー(30)の深さが、20μm以上100μm以下である、請求項1に記載の細胞展開用マイクロチャンバーチップ。」

(2)取消理由
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成30年7月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1、2に係る発明は、甲第1?4号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、2に係る特許は、取り消されるべきものである。
イ 請求項1及び2に係る特許は、その発明の詳細な説明が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)甲号証の記載
甲第2号証(特開2004-333404号公報。以下「甲2」という)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以降の文献についても同様。)

(甲2-1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】
試料が導入される凹面を有する複数の凹部が基板上に形成されたマイクロリアクタにおいて、前記凹部の凹面の、導入される前記試料に対する親和性は、前記基板表面の親和性よりも大きいことを特徴とするマイクロリアクタ。

【請求項4】
請求項1に記載のマイクロリアクタにおいて、前記凹部の開口周辺部分の前記基板は、撥水性処理ないし細胞・タンパク質に対する非付着性処理が施された表面を備えることを特徴とするマイクロリアクタ。」

(甲2-2)【0012】?【0013】
「【0012】
すなわち、本発明のマイクロリアクタでは、例えば、細胞等の試料に対し、マイクロリアクタの凹部の内面(凹面)の親和性は、前記基板表面の親和性よりも大きいことを特徴とする。あるいは、マイクロリアクタの凹部の内面が親水性等の親和性、マイクロリアクタの開口周辺部分が撥水性等の非親和性を発現する処理を施すことを特徴とする。また、加振器等でマイクロリアクタないしその周辺部分に機械的振動を加えることを特徴とする。
【0013】
この結果、マイクロリアクタ周辺部に滴下された細胞等の試料は、その部分に付着することなく、移動することが可能となる。また、一旦、マイクロリアクタに導入された細胞等の試料は、マイクロリアクタ内部に捕捉され、再び外部に出ることがなくなる。これにより、サイズが10ミクロン程度と極微小かつ不定形の動物細胞を試料に用いても、細胞を安定的にマイクロリアクタ内に固定することが可能となり、マイクロリアクタの微小化・高集積化、ひいては薬効スクリーニング実験等の試料スクリーニングの高効率化を図ることが可能となる。」

(甲2-3)【0018】
「ここで、親和性の例として、ガラス表面に代表される、水滴に対し、20度から30度程度の接触角を発現する親水性、あるいは細胞・タンパク質に対する付着性、非親和性の例としては、ポリマ表面に代表される、水滴に対し90度以上の接触角を発現する撥水性、あるいは細胞・タンパク質に対する非付着性がある。」

(甲2-4)【0028】?【0030】
「【0028】
(実施例1)
図2は、本発明の第1の実施例になるマイクロリアクタ構造を形成するためのプロセス・ステップを示す。図2において、10はフロロカーボンの堆積膜、11はレジスト膜、12はレジスト膜11の開口部、13はプラズマ・ドライエッチングによって、膜厚が減少したレジスト膜、14はレジスト膜13およびフロロカーボン膜10の開口部、15はプラズマ・ドライエッチングによって、膜厚が減少したレジスト膜、16はマイクロリアクタ1の側壁に付着した堆積物、17は堆積膜除去後に露出したガラス表面である。

【0030】
次に、プロセス・ステップ2に示すように、i線露光装置でマイクロリアクタ周辺部分を50μm□状に露光した後、現像を施し、50μm□の開口部12を形成した。」

(甲2-5)【0045】?【0051】
「【0045】
(実施例3)
図4は、本発明の第3の実施例になるマイクロリアクタ構造を形成するためのプロセス・ステップを示す。図4において、30はプラズマ・ドライエッチングないしはウェット・エッチングで形成したSiからなるマイクロリアクタの雌型、31は下地基板、32は下地基板31上にコーティングしたポリ・ジメチル・シロキサン(PDMS)ポリマ、33は離形したPDMSからなるマイクロリアクタ1の周辺部に塗布した2-メタクリロイル・オキシ・エチル・ホスホリル・コリン(MPC)ポリマ、である。

【0050】
なお、本実施例では、PDMSポリマを用いてマイクロ・リアクタを形成したが、ポリエチレン・テレフタレート、ポリメチル・メタクリレート等、他のポリマを用いても、同等にマイクロ・リアクタ構造を形成することが可能であった。また、実施例1、2に記載したように、石英等のガラス、Si等、他の材料を用いて形成したマイクロリアクタ構造について、マイクロ・リアクタ周辺部にMPCポリマ層33を設けても、同様に血球の付着を防ぐことが可能である。
【0051】
さらに、マイクロリアクタ内部への血球の導入の容易さに応じて、MPCポリマ塗布層を、図5のマイクロリアクタ構造(1)に示すように、マイクロリアクタ1内部の一部、あるいはマイクロリアクタ構造(2)に示すように、マイクロリアクタ周辺部4の一部、に設けることが可能である。」

(甲2-6)


(甲2-7)

上記摘記事項(甲2-1)、(甲2-2)、(甲2-5)?(甲2-7)より、甲2には以下の発明が記載されている。
「細胞を導入し、内部に捕捉することができる凹面を有する複数の凹部が基板上に形成されたマイクロリアクタであって、
前記基板の前記凹部の開口周辺部分及び内部の一部に、血球の付着を防ぐことが可能である2-メタクリロイル・オキシ・エチル・ホスホリル・コリン(MPC)ポリマ層を備え、前記基板は、ポリ・ジメチル・シロキサン(PDMS)ポリマ、ポリエチレン・テレフタレート、ポリメチル・メタクリレート又はガラスである、マイクロリアクタ。」(以下、「甲2発明」という)

甲第1号証(特開2008-307454号公報。以下「甲1」という)には、以下の事項が記載されている。
(甲1-1)【0019】?【0029】
「【0019】
本発明の親水化方法および親水性部材は、タンパク質含有溶液中に樹脂、ガラスなどの基板を配置することで基板表面をタンパク質含有溶液に浸漬もしくは接触させ、続いて電圧を印加することで、基板を極短時間で簡便に親水化させ、かつ親水性が半永久的に継続する親水化方法および親水性部材である。
【0020】
ここで、タンパク質溶液とは、タンパク質を適当な溶媒に溶解させた液である。また、タンパク質とはアミノ酸が多数連結した高分子化合物であり、その種類に特に制限はないが一般的には、血清、乳汁、卵の白身などに含まれる可溶性タンパク質であるBSA(ウシ血清アルブミン)、OVA(卵白オボアルブミン)等が好ましい。さらに、ここで用いる溶媒はタンパク質が溶解するものであれば特に制限はないが、上記タンパク質を用いた場合は純水やマンニトール、グルコース等の糖含有溶媒、リン酸、トリスなどの緩衝液が好ましい。タンパク質濃度や溶媒濃度に特に制限はないが、例えば、BSA(ウシ血清アルブミン)では0.1から1 mg/mL、マンニトール溶液ならば200から400mMが好ましい。

【0029】
また、上述したように上記親水化処理方法で親水化処理した親水性部材は、親水性が半永久的に保つことが可能であるため、例えば、疎水性部材に非特異的に吸着してしまう細胞などの微粒子などを操作、処理する微粒子操作容器及び微粒子操作装置には特に有用であり、実験後、超音波洗浄等で本発明に記載した親水性部材を洗浄したとしても、その親水性は半永久的に保たれており、再度親水化処理を行わなくとも前記微粒子操作容器は何回も繰り返し使用することが可能となる。」

以上より、甲1には以下の技術的事項が記載されている。
(甲1-2)
「BSA(ウシ血清アルブミン)又はOVA(卵白オボアルブミン)を用いて基板を親水化処理することにより、細胞の非特異的な吸着を防止すること。」

甲第3号証(特開2008-048684号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲3-1)【0034】
「細胞を微粒子表面に選択的に接着させたい場合には予め固定基板担体表面の所望の領域に細胞足場蛋白質の非特異的な吸着を制御し得る物質で処理をしておくことが可能である。その際に用いられる物質は一般にブロッキング剤として知られている物質を用いれば良く、被検対象でない蛋白質の当該基材上への非特異的な吸着の防止、展開の容易性、並びに固定化した特異的結合物質の保存安定性の観点から、公知の方法に従ってブロッキング剤、界面活性剤及び所望により糖を含有する溶液に浸漬し、乾燥して用いるのが好ましい。ここで、使用するブロッキング剤としては、ウシ血清アルブミン、カゼイン、ゼラチン、スキムミルク、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール,リン脂質およびそれらを含む化合物等の中から選択される。」

(4)判断
ア 特許法第29条第2項について
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「細胞を導入し、内部に捕捉することができる凹面を有する複数の凹部が基板上に形成されたマイクロリアクタ」は、本件発明1の「一個以上の細胞を格納、保持することができるマイクロチャンバー(30)が基板(10)の上面(11)に形成されているマイクロチャンバーチップ(20)」、「細胞展開用マイクロチャンバーチップ」に相当する。
また、甲2発明の「2-メタクリロイル・オキシ・エチル・ホスホリル・コリン(MPC)ポリマ」は、甲2の請求項4に記載される細胞に対する非付着処理剤であると認められるから、本件発明1の「細胞が…非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤」に相当する。したがって、甲2発明の「前記基板の前記凹部の開口周辺部分及び内部の一部に、血球の付着を防ぐことが可能である2-メタクリロイル・オキシ・エチル・ホスホリル・コリン(MPC)ポリマ層を備え、」は本件発明1の「マイクロチャンバーチップ(20)の上面(11)と該マイクロチャンバー(30)の内壁面(31)とが、細胞が該上面(11)に非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤(50)で被覆されており、」に相当する。
また、甲2発明のマイクロリアクタは、底面を有し、当該底面の全面が「2-メタクリロイル・オキシ・エチル・ホスホリル・コリン(MPC)ポリマ」で被覆されていないことが上記摘記事項(甲2-6)、(甲2-7)から明らかであるから、本件発明1の「底面(32)を有する細胞展開用マイクロチャンバーチップであって、上記底面(32)の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されておらず」たる構成を備えたものである。
そうすると両者は、「一個以上の細胞を格納、保持することができるマイクロチャンバーが基板の上面に形成されているマイクロチャンバーチップの上面と該マイクロチャンバーの内壁面が、細胞が該上面に非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤で被覆されており、かつ底面を有する細胞展開用マイクロチャンバーチップであって、上記底面の全面が上記ブロッキング剤で被覆されていない、細胞展開用マイクロチャンバーチップ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本件発明1では、水と基板との接触角が30度以上70度以下であるのに対して、甲2発明では、基板の接触角についての特定がない点。
(相違点2)本件発明では、ブロッキング剤が、カゼイン、スキムミルク、アルブミン、ポリエチレングリコールおよびリン脂質からなる群から選択される少なくとも一種を含むのに対して、甲2発明では2-メタクリロイル・オキシ・エチル・ホスホリル・コリン(MPC)ポリマである点。

相違点1について、甲2発明の基板材料の中には種々の接触角を有するものが存在すると認められるが、これらの中から接触角が30度以上70度以下の材料を選択する動機付けはない。また、本件発明1はそのことにより、
「本発明のブロッキング処理工程(b)においてブロッキング処理液(51)がマイクロチャンバー(30)の内部に過度に侵入して底面(32)まで被覆してしまわない」(明細書【0023】)という格別な効果を奏するものである。
相違点2について、甲2には、上記摘記事項(甲2-1)における「細胞・タンパク質に対する非付着性処理」として「2-メタクリロイル・オキシ・エチル・ホスホリル・コリン(MPC)ポリマ」以外の物質で処理することを示唆する記載はないから、たとえ上記摘記事項(甲1-2)及び(甲3-1)からウシ血清アルブミン、卵白オボアルブミン、カゼイン、スキムミルク、ポリエチレングリコール又はその他のリン脂質が細胞の非特異的な吸着の防止作用を有することが公知であったとしても、甲2発明においてそれら物質を「2-メタクリロイル・オキシ・エチル・ホスホリル・コリン(MPC)ポリマ」に替えて採用する動機付けはなく、この点を当業者が容易になし得たものと言うことはできない。
したがって、本件発明1は、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2は、本件発明1においてマイクロチャンバー(30)の開口部の直径及び深さをさらに特定するものであり、本件発明1と同様の判断により、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同項第2号について
(ア) 取消理由通知での指摘事項
本件特許の明細書には、「本発明ではマイクロチャンバー(30)の底面に対してはブロッキング処理を施さず、細胞が吸着しやすい状態が保持されている」(段落【0012】参照)、「本発明は、マイクロチャンバーチップ(20)のマイクロチャンバー(30)の底面(32)以外の表面に対するブロッキング処理をたった一工程で製造する」(段落【0013】参照)、「本発明のブロッキング処理工程(b)においてブロッキング処理液(51)がマイクロチャンバー(30)の内部に過度に侵入して底面(32)まで被覆してしまわない」(段落【0023】参照)等の記載がある。また、本件特許の平成29年8月29日提出の意見書においては、「請求項1記載の発明は、上述のように、「水と基板(10)との接触角を30度以上70度以下」ことを特徴とするからこそ、「ブロッキング処理工程(b)おいてブロッキング処理液(51)がマイクロチャンバー(30)内部に過度に侵入して底面(32)で被覆してしまわない」(本願の明細書[0023]参照)という引用文献1?3からは決して得ることができない優れた効果を有するものであります。」と主張されている。
一方、本件請求項1?3には、マイクロチャンバー(30)の底面(32)が該ブロッキング剤(50)で被覆されていないかどうかについて、何らの規定もない。
したがって、本件特許の請求項1?3は、該マイクロチャンバー(30)の底面(32)が該ブロッキング剤(50)で被覆されている態様がその発明の範囲に入るかどうかを当業者が理解できるように記載されておらず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。
また、仮に、本件請求項1?3に係る各発明が該マイクロチャンバー(30)の底面(32)が該ブロッキング剤(50)で被覆されている態様を包含するとした場合、本件特許の明細書には、その段落【0012】、段落【0013】及び段落【0023】などにおいて、該マイクロチャンバー(30)の底面(32)が該ブロッキング剤(50)で被覆されていない態様は記載されているものの、同底面(32)が被覆されている態様は一切記載されていないから、本件請求項1?3に係る各発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさず、また、本件特許の発明の詳細な説明は、本件請求項1?3に係る各発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。

(イ) 判断
本件訂正により、本件発明1のマイクロチャンバーチップについて「細胞が該上面(11)に非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤(50)で被覆されており、かつ底面(32)を有する細胞展開用マイクロチャンバーチップであって、上記底面(32)の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されておらず、」と特定された。
ここで、「上記底面(32)の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されておらず」たる記載は多義的であり、「底面(32)の全面に亘って一切ブロッキング剤(50)による被覆が存在しない」という解釈と、「底面(32)のブロッキング剤(50)による被覆が全面ではない」(すなわち、底面の部分的な被覆を許容し得る)という解釈とが成り立ち得るが、本件訂正の根拠として指摘された明細書の段落【0012】に「本発明ではマイクロチャンバー(30)の底面に対してはブロッキング処理を施さず」と記載されていること、及び、特許権者が平成30年10月1日に提出した意見書の5(4)ii)において「発明の範囲には、マイクロチャンバー(30)の底面(32)がブロッキング部材(50)で被覆されている態様が含まれないことが当業者に理解できるように記載されていると思量する。」と記載していること等を考え合わせれば、本件発明1における上記記載は「底面(32)の全面に亘って一切ブロッキング剤(50)による被覆が存在しない」という意味に解すべきことは明らかである。
したがって、本件訂正後の本件発明1及び本件発明1をさらに限定した本件発明2においては、マイクロチャンバー(30)の底面(32)がブロッキング剤(50)で被覆されている態様がその発明の範囲に入らないことが明らかであるから、上記の取消理由通知で通知した不備はいずれも解消した。

(5)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 甲第1号証に対する特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
(ア) 異議申立人の主張
訂正前の請求項1、3に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項2に係る発明は甲第1号証に記載された発明から容易想到であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(イ) 判断
上記(4)イ(イ)のとおり、訂正後の本件発明1、2においてはマイクロチャンバー(30)の底面(32)がブロッキング剤(50)で被覆されている態様がその発明の範囲に入らないところ、甲第1号証に記載された発明は、当該マイクロチャンバーに相当する微細孔の底面がタンパク質で被覆されている点で本件発明1、2と相違する。そして、甲第1号証には、当該微細孔の底面をタンパク質で被覆しないことの示唆はなく、そのことが当業者にとり自明のものでもない。
したがって、訂正後の本件発明1、2は甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、上記異議申立人の主張は理由がない。

イ 特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同項第2号について
(ア)異議申立人の主張
訂正前の請求項1?3は、水との接触角が30度以上70度以下である基板(10)が該ブロッキング剤(50)で被覆される前の基板であるか、該ブロッキング剤(50)で被覆された後の基板であるかを当業者が理解できるようには記載されておらず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。仮に、本件特許発明1?3における水との接触角の対象となる基板(10)が該ブロッキング剤(50)で被覆された後の基板であるならば、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されていないし、そのような本件特許発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分には記載されていないから、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
(イ)判断
本件発明1、2における「水と基板(10)との接触角」たる記載は、文面通りに解釈すれば、水と基板(10)自体との接触角の意味と理解でき、そのことは本件明細書の記載とも符合するのであるから何ら不明確ではなく、異議申立人の主張する不備は存在しない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一個以上の細胞を格納、保持することができるマイクロチャンバー(30)が基板(10)の上面(11)に形成されているマイクロチャンバーチップ(20)の上面(11)と該マイクロチャンバー(30)の内壁面(31)とが、細胞が該上面(11)に非特異的に吸着するのを抑制できるブロッキング剤(50)で被覆されており、かつ底面(32)を有する細胞展開用マイクロチャンバーチップであって、
上記底面(32)の全面が上記ブロッキング剤(50)で被覆されておらず、
上記ブロッキング剤(50)が、カゼイン、スキムミルク、アルブミン、ポリエチレングリコールおよびリン脂質からなる群から選択される少なくとも一種を含み、
水と基板(10)との接触角が30度以上70度以下である、細胞展開用マイクロチャンバーチップ。
【請求項2】
上記マイクロチャンバー(30)の開口部の直径が、20μm以上150μm以下であり、
上記マイクロチャンバー(30)の深さが、20μm以上100μm以下である、請求項1に記載の細胞展開用マイクロチャンバーチップ。
【請求項3】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-12 
出願番号 特願2014-523727(P2014-523727)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C12M)
P 1 651・ 113- YAA (C12M)
P 1 651・ 536- YAA (C12M)
P 1 651・ 537- YAA (C12M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊達 利奈長谷川 茜  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
松浦 安紀子
登録日 2017-11-10 
登録番号 特許第6238208号(P6238208)
権利者 コニカミノルタ株式会社 国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明の名称 細胞展開用マイクロチャンバーチップ  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
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