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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02B 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B |
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管理番号 | 1348704 |
異議申立番号 | 異議2018-700246 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-26 |
確定日 | 2018-12-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6202229号発明「光学フィルタおよび撮像装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6202229号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし3,5ないし9,14ないし19〕,〔4,20ないし33〕について」訂正することを認める。 特許第6202229号の請求項1ないし3,5ないし33に係る特許を維持する。 特許第6202229号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6202229号(請求項の数19。以下,「本件特許」という。)は,2014年4月21日(優先権主張2015年4月23日,日本国)に国際出願され,平成29年9月8日に特許権の設定登録がされたものである。 その後,同年9月27日に特許掲載公報の発行がなされたところ,平成30年3月26日に特許異議申立人により請求項1ないし19に係る特許について特許異議の申立てがされ,同年8月3日付けで特許権者に取消理由(以下,「本件取消理由」という。)が通知され,特許権者より同年10月9日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,同年11月16日に特許異議申立人より意見書が提出された。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 (1)訂正前後の記載 本件訂正の請求の趣旨は,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし9,14ないし33について訂正することを求める,というものである。 訂正後の請求項1ないし9,14ないし33に対応する訂正前の請求項1ないし9,14ないし19は,請求項1の訂正に連動して請求項2ないし9,14ないし19が訂正される引用関係にあるから,訂正後の請求項1ないし9,14ないし33は一群の請求項である。したがって,本件訂正請求は,一群の請求項ごとに請求されたものである。 しかるに,本件訂正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) ア 本件訂正前の特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤を含み,下記(i-1)の要件を満たす吸収層と,下記(ii-1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有することを特徴とする光学フィルタ。 (i-1)前記吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。 (ii-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が,前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。 【請求項2】 前記反射層が,下記(ii-2)の要件を満たす請求項1に記載の光学フィルタ。 (ii-2)前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Tp50%)と,前記波長λSh(A2_Ts50%)との関係が,0nm<λSh(A2_Tp50%)-λSh(A2_Ts50%)≦20nmである。 【請求項3】 前記吸収層が,下記(i-2)および(i-3)の要件を満たす請求項1または2記載の光学フィルタ。 (i-2)640?700nmの波長領域に透過率が15%となる波長λSh(DA_T15%)を有し,かつλSh(DA_T50%)<λSh(DA_T15%)<λ(DA_T_(min))である。 (i-3)740?840nm波長領域に透過率50%となる波長λLo(DA_T50%)と透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し,かつλ(DA_T_(min))<λLo(DA_T15%)<λLo(DA_T50%)である。 【請求項4】 前記吸収層は,370?405nm波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含むとともに,下記(i-4)の要件を満たし,かつ前記反射層が,下記(ii-3)の要件を満たす請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (i-4)前記吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。 (ii-3)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し,前記近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が,前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。 【請求項5】 前記吸収層が,下記(i-5)の要件を満たし,前記反射層が,下記(ii-4)の要件を満たす請求項4に記載の光学フィルタ。 (i-5)前記波長λ(DU_T_(min))より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。 (ii-4)前記近紫外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が,前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。 【請求項6】 前記反射層は,700?1200nmの波長領域内の第1の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第1の近赤外反射帯域を有する第1の反射層と,700?1200nmの波長領域内の前記第1の波長領域より短波長側の第2の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第2の近赤外反射帯域を有する第2の反射層を有し,前記第1の近赤外反射帯域と前記第2の近赤外反射帯域で前記近赤外反射帯域が構成される請求項1?5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項7】 前記第1の反射層と前記第2の反射層とを離間して備える請求項6に記載の光学フィルタ。 【請求項8】 前記吸収層が740?840nm波長領域に透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し,前記波長λLo(DA_T15%)が,前記第2の近赤外反射帯域の短波長側で,入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A2_T15%)より,長波長側にある請求項6または7に記載の光学フィルタ。 【請求項9】 前記第1の近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長である請求項6?8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項10】 660?785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤と,800?920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤とを含み,下記(I-1)の要件を満たす吸収層と,下記(II-1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有することを特徴とする光学フィルタ。 (I-1)前記第1の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し,前記第2の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DB_T_(min))より長波長側で900?970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し,λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)である。 (II-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,前記波長λ(DB_T_(min))と,前記波長λLo(DB_T50%)との関係が, λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%) であり,かつ前記近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長である。 【請求項11】 前記吸収層は,370?405nm波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含むとともに,下記(I-2)の要件を満たし,かつ前記反射層が,下記(II-2)の要件を満たす請求項10に記載の光学フィルタ。 (I-2)前記吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。 (II-2)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し,前記近紫外反射帯域より長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が,前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。 【請求項12】 前記吸収層が,下記(I-3)の要件を満たし,前記反射層が,下記(II-3)の要件を満たす請求項11に記載の光学フィルタ。 (I-3)前記波長λ(DU_T_(min))より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。 (II-3)前記近紫外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が,前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。 【請求項13】 前記反射層において,前記近赤外反射帯域の短波長側で,入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A1_T15%)より,前記吸収層において,前記波長λ(DB_T_(min))より長波長側で,透過率が15%となる波長λLo(DB_T15%)が,長波長側にある請求項10?12のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項14】 680?750nmの波長領域で,入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(680-750))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(680-750))がいずれも1.3%以下である請求項1?13のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項15】 1000?1150nmの波長領域で,入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(1000-1150))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(1000-1150))がいずれも10%以下である請求項1?14のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項16】 下記要件(1)?(3)の少なくとも1つを満たす請求項1?15のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (1)入射角0°の分光透過率曲線において,440?600nmの波長領域における平均透過率が80%以上である。 (2)入射角0°の分光透過率曲線において,350?400nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 (3)入射角0°の分光透過率曲線において,700?1150nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 【請求項17】 前記吸収層および前記反射層が,ガラス基板の片面または両面に備えられた請求項1?16のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項18】 前記ガラス基板が,Cuを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはリン酸塩系ガラスからなる請求項17に記載の光学フィルタ。 【請求項19】 請求項1?18のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。」 イ 本件訂正後の特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤および370?405nmの波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含み,下記(i-1)および(i-4)の要件を満たす吸収層と,下記(ii-1)および(ii-3)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有することを特徴とする光学フィルタ。 (i-1)前記660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。 (i-4)前記370?405nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。 (ii-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が,前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。 (ii-3)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し,前記近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が,前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。 【請求項2】 前記反射層が,下記(ii-2)の要件を満たす請求項1に記載の光学フィルタ。 (ii-2)前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Tp50%)と,前記波長λSh(A2_Ts50%)との関係が,0nm<λSh(A2_Tp50%)-λSh(A2_Ts50%)≦20nmである。 【請求項3】 前記吸収層が,下記(i-2)および(i-3)の要件を満たす請求項1または2記載の光学フィルタ。 (i-2)640?700nmの波長領域に透過率が15%となる波長λSh(DA_T15%)を有し,かつλSh(DA_T50%)<λSh(DA_T15%)<λ(DA_T_(min))である。 (i-3)740?840nm波長領域に透過率50%となる波長λLo(DA_T50%)と透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し,かつλ(DA_T_(min))<λLo(DA_T15%)<λLo(DA_T50%)である。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 前記吸収層が,下記(i-5)の要件を満たし,前記反射層が,下記(ii-4)の要件を満たす請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (i-5)前記波長λ(DU_T_(min))より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。 (ii-4)前記近紫外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が,前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。 【請求項6】 前記反射層は,700?1200nmの波長領域内の第1の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第1の近赤外反射帯域を有する第1の反射層と,700?1200nmの波長領域内の前記第1の波長領域より短波長側の第2の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第2の近赤外反射帯域を有する第2の反射層を有し,前記第1の近赤外反射帯域と前記第2の近赤外反射帯域で前記近赤外反射帯域が構成される請求項1?3および請求項5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項7】 前記第1の反射層と前記第2の反射層とを離間して備える請求項6に記載の光学フィルタ。 【請求項8】 前記吸収層が740?840nm波長領域に透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し,前記波長λLo(DA_T15%)が,前記第2の近赤外反射帯域の短波長側で,入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A2_T15%)より,長波長側にある請求項6または7に記載の光学フィルタ。 【請求項9】 前記第1の近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長である請求項6?8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項10】 660?785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤と,800?920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤とを含み,下記(I-1)の要件を満たす吸収層と,下記(II-1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有することを特徴とする光学フィルタ。 (I-1)前記第1の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し,前記第2の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DB_T_(min))より長波長側で900?970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し,λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)である。 (II-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,前記波長λ(DB_T_(min))と,前記波長λLo(DB_T50%)との関係が, λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%) であり,かつ前記近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長である。 【請求項11】 前記吸収層は,370?405nm波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含むとともに,下記(I-2)の要件を満たし,かつ前記反射層が,下記(II-2)の要件を満たす請求項10に記載の光学フィルタ。 (I-2)前記吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。 (II-2)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し,前記近紫外反射帯域より長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が,前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。 【請求項12】 前記吸収層が,下記(I-3)の要件を満たし,前記反射層が,下記(II-3)の要件を満たす請求項11に記載の光学フィルタ。 (I-3)前記波長λ(DU_T_(min))より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。 (II-3)前記近紫外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が,前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。 【請求項13】 前記反射層において,前記近赤外反射帯域の短波長側で,入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A1_T15%)より,前記吸収層において,前記波長λ(DB_T_(min))より長波長側で,透過率が15%となる波長λLo(DB_T15%)が,長波長側にある請求項10?12のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項14】 680?750nmの波長領域で,入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(680-750))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(680-750))がいずれも1.3%以下である請求項10?13のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項15】 1000?1150nmの波長領域で,入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(1000-1150))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(1000-1150))がいずれも10%以下である請求項1?3および請求項5?14のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項16】 下記要件(1)?(3)の少なくとも1つを満たす請求項1?3および請求項5?15のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (1)入射角0°の分光透過率曲線において,440?600nmの波長領域における平均透過率が80%以上である。 (2)入射角0°の分光透過率曲線において,350?400nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 (3)入射角0°の分光透過率曲線において,700?1150nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 【請求項17】 前記吸収層および前記反射層が,ガラス基板の片面または両面に備えられた請求項1?3および請求項5?16のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項18】 前記ガラス基板が,Cuを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはリン酸塩系ガラスからなる請求項17に記載の光学フィルタ。 【請求項19】 請求項1?3および請求項5?18のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。 【請求項20】 660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤を含み,下記(i-1)の要件を満たす吸収層と,下記(ii-1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有し, 680?750nmの波長領域で,入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(680-750))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(680-750))がいずれも1.3%以下であることを特徴とする光学フィルタ。 (i-1)前記660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。 (ii-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が,前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。 【請求項21】 前記反射層が,下記(ii-2)の要件を満たす請求項20に記載の光学フィルタ。 (ii-2)前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Tp50%)と,前記波長λSh(A2_Ts50%)との関係が,0nm<λSh(A2_Tp50%)-λSh(A2_Ts50%)≦20nmである。 【請求項22】 前記吸収層が,下記(i-2)および(i-3)の要件を満たす請求項20または21に記載の光学フィルタ。 (i-2)640?700nmの波長領域に透過率が15%となる波長λSh(DA_T15%)を有し,かつλSh(DA_T50%)<λSh(DA_T15%)<λ(DA_T_(min))である。 (i-3)740?840nm波長領域に透過率50%となる波長λLo(DA_T50%)と透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し,かつλ(DA_T_(min))<λLo(DA_T15%)<λLo(DA_T50%)である。 【請求項23】 前記吸収層は,370?405nmの波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含むとともに,下記(i-4)の要件を満たし,かつ前記反射層が,下記(ii-3)の要件を満たす請求項20?22のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (i-4)前記370?405nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。 (ii-3)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し,前記近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が,前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。 【請求項24】 前記吸収層が,下記(i-5)の要件を満たし,前記反射層が,下記(ii-4)の要件を満たす請求項23に記載の光学フィルタ。 (i-5)前記波長λ(DU_T_(min))より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。 (ii-4)前記近紫外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が,前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。 【請求項25】 前記反射層は,700?1200nmの波長領域内の第1の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第1の近赤外反射帯域を有する第1の反射層と,700?1200nmの波長領域内の前記第1の波長領域より短波長側の第2の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第2の近赤外反射帯域を有する第2の反射層を有し,前記第1の近赤外反射帯域と前記第2の近赤外反射帯域で前記近赤外反射帯域が構成される請求項20?24のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項26】 前記第1の反射層と前記第2の反射層とを離間して備える請求項25に記載の光学フィルタ。 【請求項27】 前記吸収層が740?840nm波長領域に透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し,前記波長λLo(DA_T15%)が,前記第2の近赤外反射帯域の短波長側で,入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A2_T15%)より,長波長側にある請求項25または26に記載の光学フィルタ。 【請求項28】 前記第1の近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長である請求項25?27のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項29】 1000?1150nmの波長領域で,入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(1000-1150))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(1000-1150))がいずれも10%以下である請求項20?28のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項30】 下記要件(1)?(3)の少なくとも1つを満たす請求項20?29のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (1)入射角0°の分光透過率曲線において,440?600nmの波長領域における平均透過率が80%以上である。 (2)入射角0°の分光透過率曲線において,350?400nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 (3)入射角0°の分光透過率曲線において,700?1150nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 【請求項31】 前記吸収層および前記反射層が,ガラス基板の片面または両面に備えられた請求項20?30のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項32】 前記ガラス基板が,Cuを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはリン酸塩系ガラスからなる請求項31に記載の光学フィルタ。 【請求項33】 請求項20?32のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。」 (2)訂正事項 本件訂正は,次の訂正事項からなる。 ア 訂正事項1 請求項1に「近赤外吸収剤を含み」とあるのを,「近赤外吸収剤および370?405nmの波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含み」と訂正し, 請求項1に「下記(i-1)の要件を満たす」とあるのを,「下記(i-1)および(i-4)の要件を満たす」と訂正し, 請求項1に「下記(ii-1)の要件を満たす」とあるのを,「下記(ii-1)および(ii-3)の要件を満たす」と訂正し, 請求項1に「(i-1)前記吸収極大を示す」とあるのを,「(i-1)前記660?785nmの波長領域に吸収極大を示す」と訂正し, 請求項1の「波長λSh(DA_T50%)を有する。」という記載の後に,「(i-4)前記370?405nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。」という記載を挿入し, 請求項1の末尾に,「(ii-3)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し,前記近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が,前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。」という記載を挿入する。 イ 訂正事項2 請求項4を削除する。 ウ 訂正事項3 請求項5に「請求項4に記載の」とあるのを,「請求項1?3のいずれか1項に記載の」と訂正する。 エ 訂正事項4 請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に記載の」とあるのを,「請求項1?3および請求項5のいずれか1項に記載の」と訂正する。 オ 訂正事項5 請求項14に「請求項1?13のいずれか1項に記載の」とあるのを,「請求項10?13のいずれか1項に記載の」と訂正する。 カ 訂正事項6 請求項15に「請求項1?14のいずれか1項に記載の」とあるのを,「請求項1?3および請求項5?14のいずれか1項に記載の」と訂正する。 キ 訂正事項7 請求項16に「請求項1?15のいずれか1項に記載の」とあるのを,「請求項1?3および請求項5?15のいずれか1項に記載の」と訂正する。 ク 訂正事項8 請求項17に「請求項1?16のいずれか1項に記載の」とあるのを,「請求項1?3および請求項5?16のいずれか1項に記載の」と訂正する。 ケ 訂正事項9 請求項19に「請求項1?18のいずれか1項に記載の」とあるのを,「請求項1?3および請求項5?18のいずれか1項に記載の」と訂正する。 コ 訂正事項10 訂正事項10-1: 前記(1)イの【請求項20】ないし【請求項28】に示したとおりの請求項20ないし28を新設する。 訂正事項10-2: 前記(1)イの【請求項29】ないし【請求項33】に示したとおりの請求項29ないし33を新設する。 2 訂正の目的の適否について 訂正事項1及び2は,訂正前の請求項1ないし3を削除し,訂正前の請求項4のうち請求項1の記載を引用するもの,請求項2の記載を引用するもの及び請求項3の記載を引用するものを,それぞれ,訂正後の請求項1,2及び3にしようとする訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また,訂正事項3及び4は,本件訂正前の請求項5及び6と,当該請求項6の記載を引用する形式で記載された本件訂正前の請求項7ないし9とについて,それぞれ,訂正前の請求項4に記載された構成要件を具備するものに限定しようとする訂正であるから,同号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 また,訂正事項5及び10-1は,本件訂正前の請求項14のうち請求項10ないし13の記載を引用するものについては,訂正後の請求項14とし,請求項1ないし9の記載を引用するものについては,それぞれ,請求項4に記載された構成要件を具備するものに限定した上で新たな請求項20ないし28にしようとする訂正であるから,同号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 さらに,訂正事項6ないし9,10-2は,本件訂正前の請求項15ないし17,19並びに当該請求項17の記載を引用する形式で記載された本件訂正前の請求項18のうち請求項10ないし13の記載を直接又は間接的に引用するものについては,それぞれ訂正後の請求項15ないし19とし,その余のものについては,それぞれ,請求項4に記載された構成要件を具備するものに限定した上で新たな請求項29ないし33にしようとする訂正であるから,同号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 3 新規事項の追加の有無について 本件訂正による各限定事項は,訂正前の特許請求の範囲に記載された事項であるから,本件訂正は,願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(特許された時点での特許請求の範囲,明細書及び図面)に記載した事項の範囲内においてするものである。 したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。 4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について 各訂正事項が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。 5 小括 訂正後の請求項〔4,20ないし33〕に係る訂正について,特許権者は,当該訂正が認められるときに請求項〔1ないし3,5ないし9,14ないし19〕とは別の訂正単位として扱われることを求めているところ,前記2ないし4のとおり,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし3,5ないし9,14ないし19〕,〔4,20ないし33〕について訂正することを認める。 第3 本件特許の請求項1ないし3,5ないし33に係る発明 前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1ないし3,5ないし33に係る発明(以下,それぞれを「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」,「本件訂正発明5」ないし「本件訂正発明33」という。)は,それぞれ,前記第2 1(1)イにおいて,本件訂正後の特許請求の範囲の記載として示した請求項1ないし3,5ないし33に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。 なお,本件訂正発明1の要件(ii-1)について,請求項6には,「前記反射層」が「第1の近赤外反射帯域を有する第1の反射層」と「第2の近赤外反射帯域を有する第2の反射層」を有する旨の記載,及び「前記第1の近赤外反射帯域と前記第2の近赤外反射帯域で前記近赤外反射帯域が構成される」との記載があり,当該記載中の「前記反射層」及び「前記近赤外反射帯域」とは,請求項1に記載された「反射層」及び「近赤外反射帯域」のことにほかならないから,反射層が2つの反射層で構成されるような態様においては,本件訂正発明1の要件(ii-1)は,2つの反射層から構成される反射層全体についての要件であり,当該要件(ii-1)中の「近赤外反射帯域」とは2つの反射層の近赤外反射帯域により構成される近赤外反射帯域と解するのが相当である。また,要件(ii-3)についても,同様に,2つの反射層から構成される反射層全体についての要件であり,当該要件(ii-3)中の「近紫外反射帯域」とは2つの反射層の近紫外反射帯域により構成される近紫外反射帯域と解するのが相当である。 さらに,請求項2,3,5ないし33においても,どちらの反射層であるのかが特定されていない「反射層」や当該「反射層」に係る「近赤外反射帯域」及び「近紫外反射帯域」については,同様に解釈するのが相当である。 第4 本件取消理由について 1 本件取消理由の概要 (1) 本件訂正前の請求項1ないし3,6ないし9,15ないし19に係る特許に対して平成30年8月3日付けで通知された本件取消理由は,概略次のとおりである。 本件特許の請求項1,2,6,7,15及び16に係る発明は,本件特許の優先権主張の日より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1(国際公開第2012/169447号)に記載された発明であって,特許法29条1項3号に該当するから,その特許は同項の規定に違反してされたものであるか,少なくとも,前記甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は同条2項の規定に違反してされたものである。 また,本件特許の請求項3,8,9,17ないし19に係る発明は,前記甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は同条2項の規定に違反してされたものである。 (2) なお,本件訂正発明1ないし3,5ないし33は,本件取消理由の対象とされていない本件訂正前の請求項に対応する発明(本件訂正前の請求項4及び10ないし14,並びに本件訂正前の請求項5ないし9,15ないし19のうち請求項4又は10の記載を引用するものに対応する。)ではあるが,本件取消理由が特許異議申立人が主張する申立理由の一つであることから,各本件訂正発明に係る特許に対する本件取消理由の成否について,以下に判断を示すこととする。 2 引用例 (1)甲1の記載 甲1(国際公開第2012/169447号)は,本件特許の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲1には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲1発明」の認定に特に関連する箇所を示す。) ア 「技術分野 [0001] 本発明は,近赤外線遮蔽効果を有する光学フィルタ,固体撮像素子および撮像装置用レンズに関し,また,それらを用いた撮像装置に関する。 背景技術 [0002] 近年,様々な用途に,可視波長領域の光は十分に透過するが,近赤外波長領域の光は遮蔽する光学フィルタが使用されている。 [0003] 例えば,固体撮像素子(CCD,CMOS等)を用いたデジタルスチルカメラ,デジタルビデオ等の撮像装置や,受光素子を用いた自動露出計等の表示装置においては,固体撮像素子または受光素子の感度を人間の視感度に近づけるため,撮像レンズと固体撮像素子または受光素子との間にそのような光学フィルタを配置している。・・・(中略)・・・ [0004] これらのうちでも撮像装置用の光学フィルタとしては,近赤外波長領域の光を選択的に吸収するように,フツリン酸塩系ガラスや,リン酸塩系ガラスにCuO等を添加したガラスフィルタが知られているが,光吸収型のガラスフィルタは,高価である上に,薄型化が困難であり,近年の撮像装置の小型化・薄型化要求に十分に応えることができないという問題があった。 [0005] そこで,上記問題を解決すべく,基板上に,例えば酸化シリコン(SiO_(2))層と酸化チタン(TiO_(2))層とを交互に積層し,光の干渉によって近赤外波長領域の光を反射して遮蔽する反射型の干渉フィルタ,透明樹脂中に近赤外波長領域の光を吸収する色素を含有させたフィルム等が開発されている(例えば,特許文献1参照)。また,これらを組み合わせた近赤外線を吸収する色素を含有する樹脂層と近赤外線を反射する層とを積層した光学フィルタも開発されている(例えば,特許文献2参照)。さらに,近赤外線を吸収する色素を含有する樹脂層については,例えば,特許文献3に記載されている。 [0006] しかしながら,これら従来の撮像装置用の光学フィルタでは,近赤外領域の波長の光を遮蔽する性能や,暗部をより明るく撮影するために求められる波長帯(630?700nm)の透過性が十分でなく,さらに,固体撮像素子の機能を阻害させないという層形成上の制約もあるため,十分な近赤外線カットフィルタ機能を有する光学フィルタが得られていないのが現状である。 [0007] 一方,700?750nm付近に最大吸収波長を示し,波長630?700nmの光の吸収曲線の傾斜が急峻である近赤外線吸収色素は,他の遮蔽成分や遮蔽部材と組合せて用いることにより,良好な近赤外線遮蔽特性が得られるとして,これを透明樹脂,例えば,シクロオレフィン樹脂に分散した樹脂層として近赤外線カットフィルタに用いられている。しかしながら,このような近赤外線吸収色素は,近赤外線吸収波長域が狭く,他の遮蔽部材と組合せても吸収が十分でない波長域が出現する場合が多く問題であった。 ・・・(中略)・・・ 発明が解決しようとする課題 [0009] 本発明は,近赤外線吸収色素を効果的に用いた,単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に,近赤外線遮蔽特性に優れるとともに,十分な小型化,薄型化ができる光学フィルタの提供を目的とする。 また,本発明は,単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に,良好な近赤外線遮蔽特性を有するとともに,撮像装置の十分な小型化,薄型化,低コスト化ができる固体撮像素子,撮像装置用レンズ,および,近赤外線遮蔽特性を有する撮像装置の提供を目的とする。 課題を解決するための手段 [0010] 本発明の一態様によれば,近赤外線吸収色素(A)を透明樹脂(B)に分散させてなる近赤外線吸収層を具備する光学フィルタであって, 上記近赤外線吸収色素(A)は,屈折率(n_(20)d)が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400?1000nmの光の吸収スペクトルにおいて,ピーク波長が695?720nmの領域にあり,半値全幅が60nm以下であり,かつ上記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と上記ピーク波長における吸光度の差を,630nmと上記ピーク波長との波長差で除した値が0.010?0.050である最大吸収ピークを有する,近赤外線吸収色素(A1)を含有し, 上記透明樹脂(B)は,屈折率(n_(20)d)が1.54以上であり, 上記近赤外線吸収層は,450?600nmの可視光の透過率が70%以上であり,695?720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり,かつ下式(1)で表わされる透過率の変化量Dが-0.8以下である光学フィルタが提供される。 D(%/nm)=[T_(700)(%)-T_(630)(%)]/[700(nm)-630(nm)] …(1) 式(1)中,T_(700)は,上記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり,T_(630)は,上記近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。 [0011] なお,屈折率(n_(20)d)とは,20℃において波長589nmの光線を用いて測定される屈折率をいう。ここで使用する色素用溶媒とは,室温付近において色素を十分溶解せしめ吸光度が測定できる溶媒をいう。 ・・・(中略)・・・ [0027]・・・(中略)・・・ここで,本明細書において,特に断りのない限り,・・・(中略)・・・特定の波長領域の透過率について,透過率が例えば85%以上とは,その波長領域の全波長において透過率が85%を下回らないことをいい,同様に透過率が例えば5%以下とは,その波長領域の全波長において透過率が5%を超えないことをいう。 発明の効果 [0028] 本発明によれば,単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に,良好な近赤外線遮蔽機能を有し,かつ撮像装置の十分な小型化,薄型化,低コスト化ができる,光学フィルタ,固体撮像素子,およびレンズ,並びに,これらを用いた撮像装置を得ることができる。」 イ 「図面の簡単な説明 [0029][図1]本発明の実施形態に係る光学フィルタを概略的に示す断面図である。・・・(中略)・・・ [図8]本発明の実施形態に係る近赤外線吸収層と組合せて用いる選択波長遮蔽層の透過スペクトルを示す図である。 [図9]本発明の実施例と比較例における近赤外線吸収層の透過スペクトルを示す図である。」 ウ 「発明を実施するための形態 [0030] 以下,本発明の実施形態を詳細に説明する。 (第1の実施形態) 本実施形態は,下記近赤外線吸収色素(A)を,屈折率(n_(20)d)が1.54以上の透明樹脂(B)に分散させてなる近赤外線吸収層であって,450?600nmの可視光の透過率が70%以上であり,695?720nmの波長域における光の透過率が10%以下であり,かつ上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dが-0.8以下である近赤外線吸収層を具備する光学フィルタに関する。なお,本明細書において屈折率は,特に断りのない限り屈折率(n_(20)d)をいう。 [0031] 本実施形態に用いられる近赤外線吸収色素(A)は,屈折率が1.500未満の色素用溶媒に溶解して測定される波長域400?1000nmの光の吸収スペクトルにおいて,ピーク波長が695?720nmの領域にあり,半値全幅が60nm以下であり,かつ上記ピーク波長における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と上記ピーク波長における吸光度の差を,630nmと上記ピーク波長との波長差で除した値が0.010?0.050である最大吸収ピークを有する,近赤外線吸収色素(A1)を含有する。 [0032] 本明細書において,近赤外線吸収色素をNIR吸収色素ともいう。また,NIR吸収色素(A1)を,上記既定の色素用溶媒に最大吸収ピークのピーク波長における吸光度が1となる濃度で溶解して測定される波長域400?1000nmの光の吸収スペクトルを,単にNIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルという。さらに,NIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルにおける最大吸収ピークのピーク波長をNIR吸収色素(A1)のλmaxまたは,λmax(A1)という。NIR吸収色素(A1)以外のNIR吸収色素(A)についても同様である。 [0033] NIR吸収色素(A1)の吸収スペクトルにおける最大吸収ピークのピーク波長であるλmax(A1)における吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度(Ab_(630))とλmax(A1)における吸光度の差を,630nmとλmax(A1)との波長差で除した値を,以下,「吸収スペクトル傾き」という。NIR吸収色素(A1)以外のNIR吸収色素(A)についても同様である。なお,吸収スペクトル傾きを式で示すと以下のとおりである。 吸収スペクトル傾き=(1-Ab_(630))/(λmax(A1)-630) また,近赤外線吸収層における上記式(1)で表わされる透過率の変化量Dを,単に透過率の変化量Dともいう。 ・・・(中略)・・・ [0038] つまり,NIR吸収色素(A)は,近赤外線吸収層における450?600nmの可視波長帯域を高透過とし,695?720nmの近赤外波長帯域を低透過(遮光)とし,その境界領域を急峻にする作用を有する。NIR吸収色素(A)のこの作用は,NIR吸収色素(A1)により実現される。そのために,NIR吸収色素(A)は,実質的に,NIR吸収色素(A1)のλmax(A1)の最小値である695nmより短波長側にλmaxを有するNIR吸収色素(A)を含有しない。この観点から,NIR吸収色素(A)はNIR吸収色素(A1)のみで構成されてもよい。 [0039] しかしながら,本実施形態の光学フィルタにおいては,近赤外波長領域の透過率を広範囲に抑制することが好ましく,そのために,好ましい態様として,上記近赤外線吸収層と,例えば,低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜からなる選択波長遮蔽層が組み合わせて用いられることがある。 [0040] ところが,誘電体多層膜等からなる選択波長遮蔽層は,視線角度により分光スペクトルが変動することが知られている。このため,光学フィルタの実使用においては,近赤外線吸収層と選択波長遮蔽層の組合せにおいて,このような分光スペクトルの変動に配慮する必要がある。このような選択波長遮蔽層との組合せを考慮すると,近赤外線吸収層は上記吸光特性を有する限り,さらに長波長域の光を遮光することが好ましく,そのために,NIR吸収色素(A)は,その吸収スペクトルにおいて,NIR吸収色素(A1)のλmax(A1)の最大値である720nmを超え800nm以下の波長領域にピーク波長があり半値全幅が100nm以下である最大吸収ピークを有する,NIR吸収色素(A2)を含有することが好ましい。 ・・・(中略)・・・ [0043]・・・(中略)・・・以下,このようなNIR吸収色素(A1)およびNIR吸収色素(A2)のそれぞれについて説明し,続いてこれらを含むNIR吸収色素(A)について説明する。 [0044](NIR吸収色素(A1)) NIR吸収色素(A1)としては,上記吸光特性を有する化合物であれば,特に制限されない。一般にNIR吸収色素として用いられるシアニン系化合物,フタロシアニン系化合物,ナフタロシアニン系化合物,ジチオール金属錯体系化合物,ジイモニウム系化合物,ポリメチン系化合物,フタリド化合物,ナフトキノン系化合物,アントラキノン系化合物,インドフェノール系化合物,スクアリリウム系化合物等から,上記吸光特性を有する化合物を適宜選択して使用できる。これらのうちでも,特にスクアリリウム系化合物は,化学構造を調整することで上記NIR吸収色素(A1)として求められる波長帯で急峻な吸収傾きが得られるとともに,保存安定性および光に対する安定性を確保できる点で好ましい。 [0045] NIR吸収色素(A1)として,具体的には,下記式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。・・・(中略)・・・ [0053] 化合物(F1)として,好ましくは,下記式(F11)で示される化合物,および下記式(F12)で示される化合物が挙げられる。・・・(中略)・・・ [0059] 以下に,化合物(F11)および化合物(F12)の具体例の化学構造および吸光特性を示す。 化合物(F11)として,具体的には,下記式(F11-1)で示される化合物が挙げられる。 [0060][化7] ・・・(中略)・・・ [0068][表1] ・・・(中略)・・・ [0100] 本実施形態の光学フィルタは上記近赤外線吸収層を具備する。近赤外線吸収層は,例えば,基材を用いて以下のようにして製造できる。剥離性の基材を用いて,該基材上に近赤外線吸収層を成形した後,該基材からこれを剥離してフィルム状としたものを光学フィルタに用いてもよい。また,基材として光学フィルタに適用可能な透明基材を用い,該透明基材上に近赤外線吸収層を成形したものを光学フィルタに使用できる。 [0101] 基材上に近赤外線吸収層を形成するには,まず,NIR吸収色素(A),および透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分と必要に応じて配合される他の成分を,溶媒に分散または溶解させて塗工液を調製する。 [0102] 必要に応じて配合される他の成分としては,本発明の効果を阻害しない範囲で配合される,近赤外線ないし赤外線吸収剤,色調補正色素,紫外線吸収剤,レベリング剤,帯電防止剤,熱安定剤,光安定剤,酸化防止剤,分散剤,難燃剤,滑剤,可塑剤,シランカップリング剤,熱もしくは光重合開始剤,重合触媒等が挙げられる。・・・(中略)・・・ [0106] 紫外線吸収剤としては,ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤,ベンゾフェノン系紫外線吸収剤,サリシレート系紫外線吸収剤,シアノアクリレート系紫外線吸収剤,トリアジン系紫外線吸収剤,オキザニリド系紫外線吸収剤,ニッケル錯塩系紫外線吸収剤,無機系紫外線吸収剤等が好ましく挙げられる。市販品として,Ciba社製,商品名「TINUVIN 479」等が挙げられる。」 エ 「実施例 [0233] 以下に,本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。例1?7および例10?16が実施例であり,例8,9および例17,18が比較例である。・・・(中略)・・・ [0234][光学フィルタの製造] NIR吸収色素(A)として,上記表1に示すNIR吸収色素(A1)および上記表2に示すNIR吸収色素(A2)を用いて,図1(a)に示す透明基板基材12上に近赤外線吸収層11が形成された構成の実施例および比較例の光学フィルタを製造した。 (例1) NIR吸収色素(A)としてNIR吸収色素(A1)のみを用いた。NIR吸収色素(A1)として表1に示す化合物(F12-1)と,アクリル樹脂(大阪ガスケミカル社製,商品名:オグソールEA-F5003,屈折率1.60)の50質量%テトラヒドフラン溶液とを,アクリル樹脂100質量部に対して化合物(F12-1)が0.23質量部となるような割合で混合した後,室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を,厚さ1mmのガラス板(ソーダガラス)上にダイコート法により塗布し,100℃で5分間加熱乾燥させた。その後,塗膜に波長365nmの紫外線を360mJ/cm^(2)照射して硬化させ,ガラス板上に膜厚10μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ1を得た。得られた光学フィルタ1の透過率を測定した。その透過結果から,近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を,表3に示す。 ・・・(中略)・・・ [0238](例5) NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F11-1)を用い,アクリル樹脂100質量部に対する化合物(F11-1)の量を1.2質量部となるような割合としたこと以外は例1と同様にしてガラス板上に膜厚3μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ5を得た。得られた光学フィルタ5の透過率を測定した。その透過結果から,近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を,表3に示す。また,300?900nmの波長領域の透過スペクトルを図9に実線で示す。 ・・・(中略)・・・ [0242](例9) NIR吸収色素(A)としてNIR吸収色素(A1)のみを用いた。NIR吸収色素(A1)として上記表1に示す化合物(F11-1)と,シクロオレフィン樹脂(JSR社製,商品名:アートンRH5200,屈折率1.52)の25質量%トルエン溶液とを,シクロオレフィン樹脂100質量部に対して化合物(F11-1)が0.2質量部となるような割合で混合した後,室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を,厚さ1mmのガラス板(ソーダガラス)上にダイコート法により塗布し70℃で10分間加熱後,さらに110℃で10分間加熱することで乾燥させガラス板上に膜厚22μmの近赤外線吸収層が形成された光学フィルタ9を得た。得られた光学フィルタ9の透過率を測定した。その透過結果から,近赤外線吸収層が形成されていない厚さ1mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を,結果を表3に示す。 また,300?900nmの波長領域の透過スペクトルを図9に破線で示す。 [0243][表3] [0244][光学フィルタの設計] 例1?9で作製した近赤外線吸収層からなる光学フィルタ1?9を用いて,図1(b)に示す第1の誘電体多層膜13a,近赤外線吸収層11,第2の誘電体多層膜13bの順に積層された構成の例10?18の光学フィルタを設計した。 [0245](例10?18) 誘電体多層膜は,例10?18において全て同様として設計した。第1の誘電体多層膜および第2の誘電体多層膜ともに,高屈折率の誘電膜としてTiO_(2)膜,低屈折率の誘電膜としてSiO_(2)膜を想定した。具体的には,マグネトロンスパッター装置に,TiまたはSiのターゲットを用いて,ArガスとO_(2)ガスを導入した反応性スパッタによりTiO_(2)膜,SiO_(2)膜をサンプルとして作製した。得られたTiO_(2)膜およびSiO_(2)膜の光学定数を,分光透過率測定により求めた。 [0246] 高屈折率の誘電膜と低屈折率の誘電膜が交互に積層された誘電体多層膜が形成された構成において,誘電体多層膜の積層数,TiO_(2)膜(高屈折率誘電体膜)の膜厚,SiO_(2)膜(低屈折率誘電体膜)の膜厚,をパラメーターとして,シミュレーションし,波長400?700nmの光を90%以上透過し,波長715?900nmの光の透過率が5%以下となるような第1の誘電体多層膜の構成を求めた。得られた第1の誘電体多層膜の構成を表4に,この第1の誘電体多層膜の透過率スペクトルを図8(a)にIR-1として点線で示す。なお,第1の誘電体多層膜においては第1層が近赤外線吸収層側に形成される設定であり,全体の膜厚は3536nmであった。 [0247][表4] [0248] 上記同様に高屈折率の誘電膜と低屈折率の誘電膜が交互に積層された誘電体多層膜が形成された構成において,誘電体多層膜の積層数,TiO_(2)膜(高屈折率誘電体膜)の膜厚,SiO_(2)膜(低屈折率誘電体膜)の膜厚,をパラメーターとして,シミュレーションし,波長420?780nmの光を90%以上透過し,波長410nm以下の光および850?1200nmの光の透過率がともに5%以下となるような第2の誘電体多層膜の構成を求めた。得られた第2の誘電体多層膜の構成を表5に,この第2の誘電体多層膜の透過率スペクトルを図8(a)にIR-2として破線で示す。なお,第2の誘電体多層膜においては,第1層が近赤外線吸収層側に形成される設定であり,全体の膜厚は4935nmであった。また,図8(b)に,上記第1の誘電体多層膜および第2の誘電体多層膜を積層した場合の透過率スペクトルをIR-1+IR-2として実線で示した。 [0249][表5] [0250] 上記で設計した例10?18の光学フィルタについて透過スペクトルを作成した。表6に光学フィルタの仕様および光学特性を示す。・・・(中略)・・・ [0251][表6] 」 オ 「[図1] ・・・(中略)・・・ [図8] [図9] 」 (2)甲1に記載された発明 前記(1)アないしオで摘記した記載から,甲1に,「例14」に対応する発明として,次の発明が記載されていると認められる。 「波長630nm,700nm及び710nmにおける透過率がそれぞれ67.0%,0.6%及び0.0%であり,波長領域420nmないし620nmにおける全波長で透過率が76.4%を下回ることがなく,波長領域710nmないし860nmにおける全波長で透過率が0.06%を上回ることがなく,下記[式(1)]で表わされる透過率の変化量Dが-0.949%/nmである光学フィルタであって, 第1の誘電体多層膜13a,近赤外線吸収層11,第2の誘電体多層膜13bの順に積層された構成を有しており, 前記近赤外線吸収層11は,化合物(F11-1)と,アクリル樹脂(大阪ガスケミカル社製,商品名:オグソールEA-F5003,屈折率1.60)の50質量%テトラヒドフラン溶液とを,アクリル樹脂100質量部に対して化合物(F11-1)が1.2質量部となるような割合で混合した後,室温にて攪拌・溶解することで得られた塗工液を,厚さ1mmのガラス板(ソーダガラス)上にダイコート法により塗布し,100℃で5分間加熱乾燥させた後,塗膜に波長365nmの紫外線を360mJ/cm^(2)照射して硬化させることにより得られたものであり,その膜厚が3μmで,その透過スペクトルが下記[近赤外線吸収層11の透過スペクトル]における実線のとおりであり, 前記化合物(F11-1)は,下記[化合物(F11-1)の構造式]で示される構造を有するスクアリリウム系の近赤外線吸収色素であって,アセトンに溶解して測定される波長域400ないし1000nmの光の吸収スペクトルにおけるピーク波長λmax及び半値全幅がそれぞれ695nm及び35nmであり,前記ピーク波長λmaxにおける吸光度を1として算出される630nmにおける吸光度と前記ピーク波長λmaxにおける吸光度の差を630nmと前記ピーク波長λmaxとの波長差で除した値である吸収スペクトル傾きが0.0136であり, 前記第1の誘電体多層膜13a及び前記第2の誘電体多層膜13bは,いずれも,マグネトロンスパッター装置に,TiまたはSiのターゲットを用いて,ArガスとO_(2)ガスを導入した反応性スパッタによりTiO_(2)膜,SiO_(2)膜をサンプルとして作製したものであり, 前記第1の誘電体多層膜13aの構成は,下記[第1の誘電体多層膜13aの構成]のとおりであって,全体の膜厚が3536nmであり, 前記第2の誘電体多層膜13bの構成は,下記[第2の誘電体多層膜13bの構成]のとおりであって,全体の膜厚が4935nmであり, 前記第1の誘電体多層膜13a及び前記第2の誘電体多層膜13bの透過スペクトルは,それぞれ下記[各誘電体多層膜の透過スペクトル]における点線及び破線で示されたとおりであり,前記第1の誘電体多層膜13a及び前記第2の誘電体多層膜13bを積層した場合の透過率スペクトルは,下記[積層した場合の透過スペクトル]に示されたとおりである, 光学フィルタ。 [式(1)] D(%/nm)=[T_(700)(%)-T_(630)(%)]/[700(nm)-630(nm)] 式中,T_(700)は,近赤外線吸収層11の透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり,T_(630)は,近赤外線吸収層11の透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。 [近赤外線吸収層11の透過スペクトル] [化合物(F11-1)の構造式] [第1の誘電体多層膜13aの構成] 第1層が近赤外線吸収層11側に形成される。 [第2の誘電体多層膜13bの構成] 第1層が近赤外線吸収層11側に形成される。 [各誘電体多層膜の透過スペクトル] [積層した場合の透過スペクトル] 」(以下,「甲1発明」という。) 3 本件取消理由についての判断 (1)請求項1について ア 対比 (ア) 技術的にみて,甲1発明の「近赤外線吸収層11」,「第1の誘電体多層膜13a及び第2の誘電体多層膜13b」及び「光学フィルタ」は,本件訂正発明1の「吸収層」,「誘電体多層膜からなる反射層」及び「光学フィルタ」にそれぞれ対応する。 (イ) 甲1発明の「化合物(F11-1)」は,近赤外線吸収色素であって,波長域400ないし1000nmの光の吸収スペクトルにおけるピーク波長λmaxが695nmであるから,本件訂正発明1の「660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤」に相当する。また,甲1発明において,本件訂正発明1の「660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))」に相当するのは,「ピーク波長λmax」である「695nm」である。 しかるに,甲1発明の「近赤外線吸収層11」(本件訂正発明1の「吸収層」に対応する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に付した()中の文言は,当該甲1発明の構成に対応する本件訂正発明1の発明特定事項を指す。)は,「化合物(F11-1)」(近赤外吸収剤)を含む材質から形成されているから,甲1発明の「近赤外線吸収層11」は,「660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤を含」んでいる。 そして,[近赤外線吸収層11の透過スペクトル]からは,「近赤外線吸収層11」の透過率が,波長約649nmで50%となることが看取されるから,「近赤外線吸収層11」は,「620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)」を有しており,その値である約649nmは,「ピーク波長λmax」である「695nm」(波長λ(DA_T_(min)))よりも短波長側にある。したがって,甲1発明の「近赤外線吸収層11」は,「660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する」との「(i-1)の要件」を満たしている。 以上によれば,甲1発明は,「660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤を含み,(i-1)の要件を満たす吸収層」を有しており,「(i-1)の要件」が「660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。」との要件である点で,本件訂正発明1と共通する。 (ウ) [近赤外線吸収層11の透過スペクトル]からは,400ないし420nmの波長領域での透過率が約75%ないし約79%の範囲にあることが看取されるから,甲1発明の「近赤外線吸収層11」には,本件訂正発明1の「400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)」に相当する波長は存在しない。 (エ)a [積層した場合の透過スペクトル]からは,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」を積層した場合の透過率が,波長670nmで略100%であり,波長約720nmで略0%であって,両波長の間では波長が大きくなるにつれて単調減少すること,及び,波長域約720ないし1200nmでは最大でも約5%程度であることが看取されるところ,前記[積層した場合の透過スペクトル]における各透過率が,入射角0°で測定した値であることは,技術常識から自明である。なお,このことは,特許異議申立人が平成30年7月18日に回答書と共に提出した記録媒体(CD-R)に格納された「3(4)ウ 第1の誘電体多層膜および第2の誘電体多層膜からなる反射層全体に関するデータ.xlsx」(甲1に記載された表4及び表5に基づいて「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」の透過スペクトルをそれぞれシミュレーションにより求め,さらに,それぞれの透過率データから,反射層全体の透過率を求めたデータである。便宜上,以下,「シミュレーションデータ」という。)からも確認できることでもある。当該「シミュレーションデータ」によると,「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成において,波長域670ないし1200nmで透過率が50%以下となるのは,約703ないし1200nmの範囲である。 したがって,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成は,「670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し」ている。 b また,前述した「シミュレーションデータ」によると,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成において,「入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)」は約666nmと認められるところ,当該波長は,前記aで述べた近赤外反射帯域(704ないし1200nm)より短波長側にあり,かつ,前記(イ)で述べた「620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)」である「約649nm」より長波長側にある。 c したがって,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成は,「670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が,前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある」との「(ii-1)の要件」を満たしている。 d また,[積層した場合の透過スペクトル]からは,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」を積層した場合の透過率が,波長域300ないし約405nmでは最大でも約5%程度であり,波長約405nmで略0%であり,波長約415nmで略100%であって,約405nmと約415nmの間では波長が大きくなるにつれて単調増加することが看取される。 したがって,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成は,本件訂正発明1の「(ii-3)の要件」のうち,「300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有」するとの要件を満足している。(以下,便宜上,「(ii-3)の要件」のうち,「300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有する」との要件を「(ii-3’)の要件」と表現し,残余の「近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が,波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある」との要件を「(ii-3’’)の要件」と表現する。) e 前記c及びdによれば,甲1発明は,本件訂正発明1と,「(ii-1)および(ii-3’)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層」を有している点で,本件訂正発明1と共通する。ここで,「(ii-1)の要件」とは,「670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が,前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある」との要件であり,「(ii-3’)の要件」とは,「00?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有する」との要件である。 (オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らせば,本件訂正発明1と甲1発明は, 「660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤を含み,下記(i-1)の要件を満たす吸収層と,下記(ii-1)および(ii-3’)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有する光学フィルタ。 (i-1)前記660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。 (ii-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が,前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。 (ii-3’)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有する。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1-1: 本件訂正発明1では,「吸収層」が,「370?405nmの波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤」を含むとともに,当該近紫外吸収剤における「370?405nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))」より長波長側で「400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する」との「(i-4)の要件」を満たし,「反射層」が,「近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が,波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある」との「(ii-3’’)の要件」を満たすのに対して, 甲1発明では,「近赤外線吸収層11」が,近紫外吸収剤を含んでおらず,したがって,近紫外吸収剤における「370?405nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))」は存在せず,さらに,「近赤外線吸収層11」における400ないし420nmの波長領域での透過率は約75%ないし約79%の範囲にあって,「400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)」が存在しないため,「近赤外線吸収層11」が「(i-4)の要件」を満たしておらず,かつ,「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成が「(ii-3’’)の要件」を満たしていない点。 イ 判断 (ア) 相違点1-1は実質的な相違点であるから,本件訂正発明1は,甲1発明と同一ではない。 (イ) また,相違点1-1の容易想到性について判断すると,次のとおりである。 a 甲1の[0101]及び[0102]には,甲1発明の「近赤外線吸収層11」を形成するための塗工液に,必要に応じて紫外線吸収剤を配合できる旨記載されており,[0106]には,当該紫外線吸収剤の例示として,ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やトリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられている(前記2(1)ウを参照。)。 また,特許異議申立人が提出した甲3(国際公開第2014/002864号。[0019],[0027],[0032]ないし[0037]等を参照。)には,固体撮像素子用光学フィルターの透明樹脂製基板に,波長300ないし420nmに吸収極大を持つ近紫外線吸収剤を含有させる技術が開示されており,当該近紫外線吸収剤として,ベンゾトリアゾール系化合物やトリアジン系化合物等が例示されている。 してみると,甲1発明において,「近赤外線吸収層11」に,「370?405nmの波長領域」に吸収極大波長である「λ(DU_T_(min))」を有する「近紫外吸収剤」を含有させることは,甲3の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たことといえる。 b しかしながら,甲1発明の「近赤外線吸収層11」における400ないし420nmの波長領域での透過率は約75%ないし約79%の範囲にあるのだから,「近赤外線吸収層11」に前述した「370?405nmの波長領域に吸収極大波長λ(DU_T_(min))を有する近紫外吸収剤」を含有させたからといって,当該「近赤外線吸収層11」が,必ず,相違点1-1に係る「波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)」を有することになるというわけではなく,少なくとも,「370?405nmの波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤」として,その吸収極大波長である「波長λ(DU_T_(min))」から,400ないし420nmの波長領域内の「波長λLo(DU_T50%)」までの波長の光を相当程度に吸収できるような化合物を用いるとともに,当該化合物を前記「波長λLo(DU_T50%)」における透過率が50%となるような配合量で含有させる必要がある。 しかも,前記「シミュレーションデータ」からみて,「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成における「近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)」は,「約413」nmと認められるから,前記「波長λLo(DU_T50%)」が「波長λLo(U1_T50%)」である「約413nm」以下になる場合には,甲1発明を,相違点1-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとするには,前述した構成の変更を行うのみでは足らず,当該構成の変更に加えて,「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成について,その「波長λLo(U1_T50%)」が,「近赤外線吸収層11」の「波長λLo(DU_T50%)」より短波長側に存在することとなるように,その層構成を調整する必要もある。 c そうすると,甲1発明を,相違点1-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,たとえ甲3の存在をもってしても,当業者が容易に想到し得たことではないというべきである。 d また,他に,相違点1-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備させる技術が,本件優先日より前に当業者に知られていたことを示す証拠も,見当たらない。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は,甲1発明において,「近赤外線吸収層11」に,「370?405nmの波長領域」に吸収極大波長である「λ(DU_T_(min))」を有する「近紫外吸収剤」を含有させることは,甲3の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たことであり,「近赤外線吸収層11」について,「波長λ(DU_T_(min))」より長波長側で「400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)」を有するように構成し,「反射層」について,「近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が「波長λLo(DU_T50%)」より短波長側にあるように構成することは,設計的事項である旨主張している。 しかしながら,前記イでも述べたとおり,甲1発明において,甲3に記載された事項に基づいて,「近赤外線吸収層11」に,「370?405nmの波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤」を含有させることが,当業者が容易に想到し得たことであるとしても,当該構成の変更に際して,前記「近紫外吸収剤」として,少なくとも,「波長λ(DU_T_(min))」から「波長λLo(DU_T50%)」までの波長の光を相当程度に吸収できるような化合物を用いるとともに,当該化合物を前記「波長λLo(DU_T50%)」における透過率が50%となるような配合量で含有させ,さらに,前記「波長λLo(DU_T50%)」が「約413nm」以下になる場合には,「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成について,その「波長λLo(U1_T50%)」が,前記「波長λLo(DU_T50%)」より短波長側に存在することとなるように,その層構成を調整することには,前述した条件を満足する近紫外吸収剤の材質の選定やその配合量の設定等に関して,たとえ当業者といえども,格別の創意工夫を要するというべきであって,単なる設計上の事項ということはできない。 したがって,特許異議申立人の主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおりであるから,本件訂正発明1は,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,請求項1に係る特許に対して本件取消理由は成り立たない。 (2)請求項2,3,5ないし9について 請求項2,3,5ないし9は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明2,3,5ないし9は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するところ,本件訂正発明1が,前記(1)で述べたとおり,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件訂正発明2,3,5ないし9も,同様の理由で,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 したがって,請求項2,3,5ないし9に係る特許に対して本件取消理由は成り立たない。 (3)請求項10について ア 対比 (ア) [近赤外線吸収層11の透過スペクトル]からみて,甲1発明の「近赤外線吸収層11」には,近赤外線吸収色素である「化合物(F11-1)」の吸収極大波長である「695nm」より長波長側である波長「約740nm」で透過率が50%になると認められ,前記「化合物(F11-1)」が本件訂正発明10の「第1の近赤外吸収剤」に対応する。 したがって,前記(1)ア(ア)及び(イ)で述べた事項をも踏まえると,甲1発明は,「660?785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤を含み,(I-1’)の要件を満たす吸収層」を有しており,「(I-1’)の要件」が「660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し,前記波長λ(DA_T_(min))より長波長側で透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し,λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λLo(DB_T50%)である。」との要件である点で,本件訂正発明10と共通するといえる。 (イ) 前記(1)ア(エ)aで述べたように,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成は,「670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し」ており,「シミュレーションデータ」から,前記「近赤外反射帯域」の短波長側で「透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)」は「約703nm」と認められるところ,当該「約703nm」という波長は,前記(ア)で述べた「約740nm」という波長よりも短い。 一方,「シミュレーションデータ」によると,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成において,近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる「波長λLo(A1_Tp15%)」は「約1149nm」と認められ,「波長1150nm」より長波長ではない。 したがって,甲1発明は,「(II-1’)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層」を有しており,「(II-1’)の要件」が「670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,前記波長λLo(DB_T50%)との関係が, λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%) である。」との要件である点で,本件訂正発明10と共通するといえる。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)に照らせば,本件訂正発明10と甲1発明は, 「660?785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤を含み,下記(I-1’)の要件を満たす吸収層と,下記(II-1’)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有する光学フィルタ。 (I-1’)前記第1の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し,前記波長λ(DA_T_(min))より長波長側で透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し,λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λLo(DB_T50%)である。 (II-1’)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,前記波長λLo(DB_T50%)との関係が, λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%) である。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1-2: 本件訂正発明10では,「吸収層」が,「800?920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤」を含み,「吸収層」の近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる「波長λLo(DB_T50%)」が,「第2の近赤外吸収剤」の吸収極大波長である「波長λ(DB_T_(min))」より長波長側,すなわち,λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)で,900?970nmの波長領域にあり,「第2の近赤外吸収剤」の吸収極大波長である「波長λ(DB_T_(min))」と「反射層」の近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる「波長λSh(A1_T50%)」との関係が,λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)であり,かつ「反射層」の近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる「波長λLo(A1_Tp15%)」が,波長1150nmより長波長であるのに対して, 甲1発明では,「近赤外線吸収層11」が,「800?920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤」を含んでおらず,したがって,「第2の近赤外吸収剤」の吸収極大波長である「波長λ(DB_T_(min))」は存在しないため,「吸収層」の近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる「波長λLo(DB_T50%)」及び「反射層」の近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる「波長λSh(A1_T50%)」との関係が,λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)及びλ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)を満足することはなく,また,「近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)」は「約740nm」であって,900?970nmの波長領域にはなく,さらに,「反射層」の近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる「波長λLo(A1_Tp15%)」は「約1149nm」であって,波長1150nmより長波長ではない点。 イ 判断 (ア) 相違点1-2は実質的な相違点であるから,本件訂正発明10は,甲1発明と同一ではない。 (イ) また,相違点1-2の容易想到性について判断すると,次のとおりである。 甲1の[0040]には,視線角度による分光スペクトルの変動に配慮して,近赤外線吸収層に,NIR吸収色素(A1)(甲1発明における「化合物(F11-1)」)に加えて,720nmを超え800nm以下の波長領域にピーク波長があり半値全幅が100nm以下であるNIR吸収色素(A2)をも含有させることが記載されており,当該記載中の「NIR吸収色素(A2)」のピーク波長の波長範囲は,相違点1-2に係る本件訂正発明10の「第2の近赤外吸収剤」の吸収極大の波長領域と,「800nm」という波長において,一応重複してはいる。 しかしながら,「シミュレーションデータ」によると,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成では,700nmないし1100nmの波長範囲のいずれの波長においても,入射角30°で入射するs偏光,p偏光の透過率はいずれも1%未満の値となると認められるのであって,このような甲1発明において,近赤外線吸収層11に,「化合物(F11-1)」とともに,ピーク波長が800nmであり半値全幅が100nm以下であるようなNIR吸収色素(A2)を含有させることには,技術上意味がない。 しかも,甲1発明を,相違点1-2に係る本件訂正発明10の発明特定事項を具備したものとするためには,前述した「ピーク波長が800nmであり半値全幅が100nm以下であるNIR吸収色素(A2)」を近赤外線吸収層11に含有させるだけでは足りず,λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)及びλ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)を満足し,「波長λLo(DB_T50%)」が900?970nmの波長領域に存在し,「波長λLo(A1_Tp15%)」が波長1150nmより長波長となるように,「NIR吸収色素(A2)」の材質や配合量を選定し,「第1の誘電体多層膜13a」又は「第2の誘電体多層膜13b」の層構成を変更する必要がある。 しかるに,相違点1-2に係る本件訂正発明10の発明特定事項に相当する構成を具備させる技術が,本件優先日より前に当業者に知られていたことを示す証拠は,見当たらない。 また,特許異議申立人も,本件訂正発明10が,甲1発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるとは主張していない。 したがって,甲1発明を,相違点1-2に係る本件訂正発明10の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから,本件訂正発明10は,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,請求項10に係る特許に対して本件取消理由は成り立たない。 (4)請求項11ないし14について 請求項11ないし14は,請求項10の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明11ないし14は,本件訂正発明10の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えてものに該当するところ,本件訂正発明10が,前記(3)で述べたとおり,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件訂正発明11ないし14も,同様の理由で,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 したがって,請求項11ないし14に係る特許に対して本件取消理由は成り立たない。 (5)請求項15ないし19について 請求項15ないし19は,請求項1又は10の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明15ないし19は,本件訂正発明1又は10のうちのいずれかの発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するところ,本件訂正発明1及び10が,前記(1)及び(3)で述べたとおり,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件訂正発明15ないし19も,同様の理由で,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 したがって,請求項15ないし19に係る特許に対して本件取消理由は成り立たない。 (6)請求項20について ア 対比 (ア) 甲1発明の近赤外線吸収層11において,入射角0°と30°におけるp偏光における透過率,及び入射角0°と30°におけるs偏光における透過率に,実質的な差がないことは,技術常識から自明である。 また,そもそも,入射角0°で入射する光に,p偏光やs偏光が観念できないことは,p偏光及びs偏光の定義から自明であるから,本件訂正発明20の「入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差」,及び「入射角0°と30°におけるs偏光における透過率差」とは,それぞれ,入射角0°で入射した光の透過率と入射角30°で入射したp偏光の透過率の差,及び入射角0°で入射した光の透過率と入射角30°で入射したs偏光の透過率の差のことを指していると解される。 しかるに,[近赤外線吸収層11の透過スペクトル]から,甲1発明の近赤外線吸収層11の透過率は,波長680nmで約18%,波長690nmで約6%,波長695nmで約3%,波長700nmで約1%,波長710nmで約0.2%,波長720nmで約1.5%,波長725nmで約4.5%,波長730nmで約15%,波長740nmで約47%,波長750nmで約76%程度と看取される。そこで,これら各波長の間では,直線状に単調変化すると近似して,近赤外線吸収層11の波長範囲680ないし750nmにおける1nm刻みでの各波長の透過率を求め,当該透過率を,それぞれ,「シミュレーションデータ」における「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」からなる構成の,各波長における入射角0°の透過率,入射角30°のp偏光の透過率及びs偏光の透過率に乗算することで,甲1発明の波長範囲680ないし750nmにおける1nm刻みでの各波長の入射角0°の透過率,入射角30°のp偏光の透過率及びs偏光の透過率を求め,各波長での(入射角0°の透過率-入射角30°のp偏光の透過率)及び(入射角0°の透過率-s偏光の透過率)を算出し,これらの透過率差についてそれぞれ680ないし750nmの71個のデータの平均値を計算するという手法によって,ΔTp(Avr_(680-750))の値及びΔTs(Avr_(680-750))の値を求めると,甲1発明のΔTp(Avr_(680-750))及びΔTs(Avr_(680-750))はそれぞれ約1.8%程度及び約2.3%程度と推認される。 したがって,甲1発明は,ΔTp(Avr_(680-750))及びΔTs(Avr_(680-750))がいずれも1.3%以下ではない。 (イ) 前記(ア)に照らせば,本件訂正発明20と甲1発明は, 「660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤を含み,下記(i-1)の要件を満たす吸収層と,下記(ii-1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有する光学フィルタ。 (i-1)前記660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。 (ii-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域より短波長側で,入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が,前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1-3: 本件訂正発明20では,680?750nmの波長領域で,入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(680-750))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(680-750))がいずれも1.3%以下であるのに対して, 甲1発明では,ΔTp(Avr_(680-750))及びΔTs(Avr_(680-750))は,それぞれ約1.8%程度及び約2.3%程度であって,いずれも1.3%以下ではない点。 イ 判断 (ア) 相違点1-3は実質的な相違点であるから,本件訂正発明20は,甲1発明と同一ではない。 (イ) また,相違点1-3の容易想到性について判断すると,次のとおりである。 特許異議申立人が提出した甲5(特開2007-183525号公報)の【0056】には,【0040】ないし【0042】に記載された「実施例(1)-5」の第1の誘電体多層膜30と,【0047】ないし【0049】に記載された「実施例(2)-2」の第2の誘電体多層膜32とを組み合わせた「実施例(3)-6」のIRカットフィルタ26が記載されており,図29及び図30には,その分光透過率特性が示されている。 しかるに,甲5の図29及び図30からみて,当該「実施例(3)-6」のIRカットフィルタ26において,「実施例(1)-5」の第1の誘電体多層膜30と「実施例(2)-2」の第2の誘電体多層膜32とからなる構成は,680ないし750nmの波長範囲のいずれの波長でも透過率が略0%となるから,甲1発明の「第1の誘電体多層膜13a」及び「第2の誘電体多層膜13b」に代えて,甲5に記載された「実施例(1)-5」の第1の誘電体多層膜30及び「実施例(2)-2」の第2の誘電体多層膜32を採用すれば,相違点1-3に係る本件訂正発明20の発明特定事項に相当する構成を具備することになると認められる。 しかしながら,甲5の図30に示された入射角25°のs偏光の分光透過率や技術常識からみて,当該構成の変更を行った甲1発明においては,「甲5に記載された『実施例(1)-5』の第1の誘電体多層膜30及び『実施例(2)-2』の第2の誘電体多層膜32からなる構成」の「入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)」は,640nm程度になると推察されるのであって,少なくとも,「近赤外線吸収層11」の「620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)」である「約649nm」より長波長となることはない。 すなわち,甲1発明において,前記構成の変更を行うと,相違点1-3に係る本件訂正発明20の発明特定事項に相当する構成を具備することにはなるものの,「(ii-1)の要件」の一部を満足しなくなってしまうのであって,当該構成の変更を行っても,本件訂正発明20の構成には至らない。 また,他に,相違点1-3に係る本件訂正発明20の発明特定事項に相当する構成を具備させる技術が,本件優先日より前に当業者に知られていたことを示す証拠は,見当たらない。 したがって,本件訂正発明20が,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるから,本件訂正発明20は,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,請求項20に係る特許に対して本件取消理由は成り立たない。 (7)請求項21ないし33について 請求項21ないし33は,請求項20の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明21ないし33は,本件訂正発明20の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するところ,本件訂正発明20が,前記(6)で述べたとおり,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件訂正発明21ないし33も,同様の理由で,甲1発明と同一でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 したがって,請求項21ないし33に係る特許に対して本件取消理由は成り立たない。 4 本件取消理由についてのまとめ 前記(1)ないし(7)のとおりであるから,本件取消理由によって,本件特許の請求項1ないし3,5ないし33に係る特許を取り消すことはできない。 第5 本件取消理由として取り上げなかった申立理由について 1 取り上げなかった申立理由の概要 特許異議申立人は,概略,本件特許の請求項10ないし13に係る発明は,本件優先日より前に頒布された刊行物である甲4(特開2014-191346号公報)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり(以下,当該申立理由を「申立理由1」という。),また,本件特許の請求項10ないし13に係る発明は,実施例によってサポートされておらず,発明の詳細な説明に記載したものでないから,その特許は,同法36条6項1号に規定する要件を満足していない特許出願に対してされたものである(以下,当該申立理由を「申立理由2」という。)旨主張している。 各申立理由についての判断は次のとおりである。 2 申立理由1について (1) 引用例 ア 甲4の記載 甲4(特開2014-191346号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲4発明」の認定に特に関連する箇所を示す。) (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 赤外線を吸収する基板と,前記基板上に形成される多層膜とを有するIRカットフィルターであって, 前記多層膜は,交互に積層される高屈折率層と低屈折率層とを含み, 前記多層膜において, 450nm?600nmの波長域での平均透過率が90%以上であり, 0°入射において透過率50%となる波長が650±25nmの範囲内にあり, 600nm?700nmの波長域において,0.5%/nm<|ΔT|<7%/nmを満足し,ただし, |ΔT|:0°入射での|(T_(70%)-T_(30%))/(λ_(70%)-λ_(30%))|の値(%/nm) T_(70%):透過率の値で70% T_(30%):透過率の値で30% λ_(70%):透過率が70%となる波長(nm) λ_(30%):透過率が30%となる波長(nm) であり, 600nm?700nmの波長域において, 0°入射と30°入射とでの,透過率50%となる波長の差が8nm以内であり, 0°入射と30°入射とでの,透過率25%となる波長の差が20nm以内であり, 0°入射と30°入射とでの,透過率75%となる波長の差が20nm以内であり, 前記基板において, 420nm?600nmの波長域での平均吸収量が10%以下であり, 600nm?700nmの波長域で前記多層膜の30°入射における透過率50%となる波長の吸収量が,25%以上90%以下であることを特徴とするIRカットフィルター。 【請求項2】 前記基板において, 600nm?700nmの波長域で前記多層膜の30°入射における透過率50%となる波長の吸収量が,50%以上65%以下であることを特徴とする請求項1に記載のIRカットフィルター。 【請求項3】 前記多層膜は,隣り合う高屈折率層と低屈折率層との光学膜厚の比が3以上であるカットオフ調整対を少なくとも4対有しており, 前記多層膜を構成する層の屈折率のうち,最大の屈折率と最小の屈折率との差をΔnとし,最大の屈折率をnHとすると, Δn×nH≧1.5 を満足することを特徴とする請求項1または2に記載のIRカットフィルター。 【請求項4】 前記多層膜の総膜厚が3000nm以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のIRカットフィルター。 【請求項5】 前記多層膜を第1の多層膜とすると, 前記基板の前記第1の多層膜が形成された面とは反対側の面に,第2の多層膜が形成されており, 前記第2の多層膜は, 前記基板の一方の面に前記第1の多層膜が形成され,他方の面に前記第2の多層膜が形成された状態で,波長450nm?600nmの平均透過率が80%以上であり,かつ,波長720nm?1100nmの平均透過率が5%以下となるような分光特性を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のIRカットフィルター。 【請求項6】 前記第2の多層膜は, 前記基板の一方の面に前記第1の多層膜が形成され,他方の面に前記第2の多層膜が形成された状態で, 0°入射において透過率50%となる波長が650±25nmの範囲内にあり, 0.5%/nm<|ΔT|<7%/nmを満足し, 600nm?700nmの波長域において, 0°入射と30°入射とでの,透過率50%となる波長の差が8nm以内であり, 0°入射と30°入射とでの,透過率25%となる波長の差が20nm以内であり, 0°入射と30°入射とでの,透過率75%となる波長の差が20nm以内となるような分光特性を有していることを特徴とする請求項5に記載のIRカットフィルター。 【請求項7】 前記第2の多層膜において, 450nm?600nmの波長域での平均透過率が90%以上であり, 0°入射において透過率50%となる波長が,前記第1の多層膜における,0°入射のときに透過率50%となる波長よりも長波長側にあることを特徴とする請求項5または6に記載のIRカットフィルター。 【請求項8】 請求項1から7のいずれかに記載のIRカットフィルターと, 前記IRカットフィルターの光入射側に配置される撮像レンズと, 前記撮像レンズおよび前記IRカットフィルターを介して入射する光を受光する撮像素子とを備えていることを特徴とする撮像装置。」 (イ) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,可視光を透過させ,近赤外光を反射させるIR(infrared)カットフィルターと,そのIRカットフィルターを備えた撮像装置とに関するものである。 【背景技術】 【0002】 携帯電話のカメラには,CCD(Charge Coupled Device)などの固体撮像素子が内蔵されている。CCDは,映像光を電気信号に変換するシリコン半導体デバイスであり,近赤外線(IR)領域まで感度を持っている。このため,可視光および近赤外光を含む光がCCDに入射すると,その近赤外光も映像として取り込んでしまい,得られた映像に疑似色が発生するなどの不具合が生じる。このような不具合を解消するため,レンズ群とCCDとの間にIRカットフィルターを挿入することが一般的に行われている。 【0003】 IRカットフィルターは,可視光を透過させ,近赤外光を反射させる分光特性(透過率特性)を有している。現在一般的に使用されているIRカットフィルターは,真空蒸着法やスパッタリング法などにより,TiO_(2),Nb_(2)O_(5),Ta_(2)O_(5)などの高屈折率材料からなる層と,SiO_(2),MgF_(2)などの低屈折率材料からなる層とを交互に積層してなる光学薄膜(多層膜)を有している。 ・・・(中略)・・・ 【0005】 ところで,光学薄膜を有するIRカットフィルターは,可視光を透過させ,近赤外光を反射させるにあたり,光の干渉を利用しているため,光の入射角の変化に対して分光特性が変化してしまう。その結果,光の入射角が異なる画面中央部と画面周辺部とでIRカット特性が異なり,IRカットフィルターを介してCCDで取り込んだ撮影画像の画面中心部が赤くなってしまう。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 ・・・(中略)・・・ 【0014】 本発明は,上記の問題点を解決するためになされたもので,その目的は,赤外線を吸収する基板に多層膜を形成した構成で,撮像レンズの低背化に十分対応可能な低入射角依存を実現できるとともに,基板での可視光の吸収を抑えながら,基板で吸収されない赤外線に起因するゴーストを低減できるIRカットフィルターと,そのIRカットフィルターを備えた撮像装置とを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0015】 本発明の一側面に係るIRカットフィルターは,赤外線を吸収する基板と,前記基板上に形成される多層膜とを有するIRカットフィルターであって, 前記多層膜は,交互に積層される高屈折率層と低屈折率層とを含み, 前記多層膜において, 450nm?600nmの波長域での平均透過率が90%以上であり, 0°入射において透過率50%となる波長が650±25nmの範囲内にあり, 600nm?700nmの波長域において,0.5%/nm<|ΔT|<7%/nmを満足し,ただし, |ΔT|:0°入射での|(T_(70%)-T_(30%))/(λ_(70%)-λ_(30%))|の値(%/nm) T_(70%):透過率の値で70% T_(30%):透過率の値で30% λ_(70%):透過率が70%となる波長(nm) λ_(30%):透過率が30%となる波長(nm) であり, 600nm?700nmの波長域において, 0°入射と30°入射とでの,透過率50%となる波長の差が8nm以内であり, 0°入射と30°入射とでの,透過率25%となる波長の差が20nm以内であり, 0°入射と30°入射とでの,透過率75%となる波長の差が20nm以内であり, 前記基板において, 420nm?600nmの波長域での平均吸収量が10%以下であり, 600nm?700nmの波長域で前記多層膜の30°入射における透過率50%となる波長の吸収量が,25%以上90%以下である。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0023】 上記の構成によれば,基板上に形成される多層膜単独の特性によって,入射角の大きな変化(例えば30°の変化)に対する分光特性の変化を抑えることができ,これによって,撮像レンズの低背化にも十分対応可能な低入射角依存を実現することができる。また,赤外線を吸収する基板のカットオフ波長における吸収量を適切に規定することにより,基板での可視光の吸収を抑えて高い透過率を確保しながら,基板で吸収されない赤外線に起因するゴーストの発生を抑えることができる。」 (ウ) 「【図面の簡単な説明】 【0024】 ・・・(中略)・・・ 【図2】赤外線吸収剤の特性の一例を示すグラフである。 ・・・(中略)・・・ 【図4】本発明の実施の形態の多層膜の分光特性と,上記赤外線吸収剤の特性とを併せて示すグラフである。 【図5】上記実施の形態のIRカットフィルターの分光特性を示すグラフである。」 (エ) 「【0026】 〔本実施形態のIRカットフィルターについて〕 まず,本実施形態のIRカットフィルターの概要について,参考例と比較しながら簡単に説明しておく。図1は,参考例の多層膜(近赤外線反射膜)の,0°入射(0T)および30°入射(30T)における分光特性を示している。なお,この分光特性は,前述した特許文献3の多層膜の分光特性に対応している。また,図2は,赤外線吸収剤の特性の一例を示している。図2の赤外線吸収剤を含有する基板上に図1の多層膜を形成すると,図3に示す特性のIRカットフィルター(参考例)が得られる。このとき,図3の600nm?700nmの波長域において,0°入射のときの分光特性を示す曲線と,30°入射のときの分光特性を示す曲線とで挟まれる領域(図3の破線部)の面積をS1とする。 【0027】 一方,図4は,本実施形態の多層膜の,0°入射(0T)および30°入射(30T)における分光特性と,上記赤外線吸収剤の特性とを併せて示している。上記赤外線吸収剤を含有する基板上に図4の多層膜を形成すると,図5に示す特性のIRカットフィルター(本実施形態)が得られる。図5の600nm?700nmの波長域において,0°入射のときの分光特性を示す曲線と,30°入射のときの分光特性を示す曲線とで挟まれる領域(図5の破線部)の面積をS2とする。 【0028】 本実施形態のIRカットフィルターでは,基板における赤外線吸収剤の含有量(特にカットオフ波長における基板の吸収量)を適切に規定することにより,基板での可視光の吸収を抑えて高い透過率を確保しながら,基板で吸収されない赤外線に起因するゴーストの発生を抑えるようにしている。また,基板上に形成される多層膜自体に低入射角依存性を持たせることでS2<S1を実現し,赤外線吸収剤の含有量によらずにIRカットフィルター全体として低入射角依存を実現している。以下,このようなIRカットフィルターの詳細について説明する。 ・・・(中略)・・・ 【0055】 〔基板の詳細について〕 次に,IRカットフィルター1の基板2の詳細について説明する。基板2は,例えば透明な樹脂で構成されている。このような樹脂としては,例えば,環状オレフィン系樹脂,ポリエーテル系樹脂,ポリアリレート樹脂(PAR),ポリサルホン樹脂(PSF),ポリエーテルサルホン樹脂(PES),ポリパラフェニレン樹脂(PPP),ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂(PEPO),ポリイミド樹脂(PPI),ポリアミドイミド樹脂(PAI),(変性)アクリル樹脂,ポリカーボネート樹脂(PC),ポリエチレンナフタレート(PEN)および有機-無機ナノハイブリッド材料を挙げることができる。このような樹脂のうち,透明性の高い環状オレフィン系樹脂または芳香族ポリエーテル系樹脂を用いることが,可視光領域の透過率が特に高くなるため望まし。特にノルボルネン系樹脂または芳香族ポリエーテル系樹脂を用いることが,光学特性が均一な成形加工性に優れた基板を得ることができる点でさらに望ましい。 【0056】 基板2には,赤外線を吸収する吸収剤が含有されている。吸収剤は,可視光の吸収が少ない吸収剤であることが望ましい。このような吸収剤としては,例えば,シアニン系染料,フタロシアニン系染料,アミニウム系染料,イミニウム系色素,アゾ系色素,アンスラキノン系色素,ジイモニウム系色素,スクアリリウム系色素およびポルフィリン系色素が挙げられる。また,近赤外線を吸収する色素として作用する金属錯体系化合物をいずれも用いることができ,ナフタロシアニン系化合物,ジチオール金属錯体系化合物なども吸収剤として用いることができる。 【0057】 吸収剤の具体例としては,例えばLumogen IR765,Lumogen IR788(BASF製);ABS643,ABS654,ABS667,ABS670T,IRA693N,IRA735(Exciton製);SDA3598,SDA6075,SDA8030,SDA8303,SDA8470,SDA3039,SDA3040,SDA3922,SDA7257(H.W.SANDS製);TAP-15,IR-706(山田化学工業製);を挙げることができる。」 (オ) 「【図2】 ・・・(中略)・・・ 【図4】 【図5】 」 イ 甲4に記載された発明 前記ア(ア)ないし(オ)で摘記した記載から,甲4に,実施形態のIRカットフィルターに係る発明として,次の発明が記載されていると認められる。 「赤外線を吸収する基板と,前記基板上に形成される多層膜とを有し, 前記多層膜は, 交互に積層される高屈折率層と低屈折率層とを含み, 450nm?600nmの波長域での平均透過率が90%以上であり, 0°入射において透過率50%となる波長が650±25nmの範囲内にあり, 600nm?700nmの波長域において,0.5%/nm<|ΔT|<7%/nmを満足し,ただし, |ΔT|:0°入射での|(T_(70%)-T_(30%))/(λ_(70%)-λ_(30%))|の値(%/nm) T_(70%):透過率の値で70% T_(30%):透過率の値で30% λ_(70%):透過率が70%となる波長(nm) λ_(30%):透過率が30%となる波長(nm) であり, 600nm?700nmの波長域において,0°入射と30°入射とでの,透過率50%となる波長の差が8nm以内であり,0°入射と30°入射とでの,透過率25%となる波長の差が20nm以内であり,0°入射と30°入射とでの,透過率75%となる波長の差が20nm以内であり, 前記基板は, 420nm?600nmの波長域での平均吸収量が10%以下であり, 600nm?700nmの波長域で前記多層膜の30°入射における透過率50%となる波長の吸収量が,25%以上90%以下である, IRカットフィルターであって, 0°入射および30°入射における分光特性が,下記[IRカットフィルターの分光透過率]に実線及び点線で示されるとおりであり, 前記基板は,下記[赤外線吸収剤の分光透過率]に示される特性を有する赤外線吸収剤を含有し, 前記多層膜の0°入射および30°入射における分光特性は,下記[多層膜の分光透過率]に実線及び点線で示されるとおりである, IRカットフィルター。 [IRカットフィルターの分光透過率] [赤外線吸収剤の分光透過率] [多層膜の分光透過率] 」(以下,「甲4発明」という。) (2)請求項10について ア 対比 (ア) 技術的にみて,甲4発明の「赤外線を吸収する基板」,「多層膜」及び「IRカットフィルター」は,本件訂正発明10の「吸収層」,「誘電体多層膜からなる反射層」及び「光学フィルタ」にそれぞれ対応する。 (イ)a [赤外線吸収剤の特性]から,甲4発明の「基板」(本件訂正発明10の「吸収層」に対応する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた甲4発明の構成に付した()中の文言は,当該甲4発明の構成に対応する本件訂正発明10の発明特定事項を指す。)が含有する赤外線吸収剤の透過率が,約650ないし約850nmの波長範囲で50%以下となることが看取されるところ,当該波長範囲は概ね近赤外線に属する波長領域であるから,当該赤外線吸収剤は「近赤外吸収剤」といえる。 また,[赤外線吸収剤の特性]から,前記赤外線吸収剤が約697nm及び約823nmの波長に吸収極大を有していることが看取されるところ,当該約697nm及び約823nmという波長は,それぞれ本件訂正発明の第1の近赤外吸収剤及び第2の近赤外吸収剤の吸収極大が存在する「660?785nmの波長領域」及び「800?920nmの波長領域」内に位置している。 したがって,甲4発明の「基板」は,「近赤外吸収剤を含む吸収層」である点で,本件訂正発明10の「吸収層」と共通し,甲4発明の「赤外線吸収剤」は,「660?785nmの波長領域と800?920nmの波長領域とに吸収極大を有する」点で,本件訂正発明10の「第1の近赤外吸収剤」及び「第2の近赤外吸収剤」と共通する。 b なお,特許異議申立人は,[赤外線吸収剤の特性]において2つの極大吸収波長が存在することから,赤外線吸収剤が少なくとも2つの赤外線吸収剤からなることは自明である旨主張するが,技術的にみて,1つの化合物が,その分子構造中にそれぞれ異なる波長を吸収する構造を有することは,当然あり得るのであって,[赤外線吸収剤の特性]において2つの極大吸収波長が存在するからといって,当該[赤外線吸収剤の特性]が2つの赤外線吸収剤の混合物の特性を示しているということはできない。 また,甲4には,「実施形態」における基板が,2種類以上の赤外線吸収剤を含有するものであることは,記載も示唆もされていない。 したがって,前記特許異議申立人の主張は採用できない。 (ウ) [IRカットフィルターの分光特性]から,甲4発明の波長630nm及び660nmにおける透過率がそれぞれ約63%及び約11%であることが看取され,[多層膜の分光特性]から,甲4発明の「多層膜」の波長630nm及び660nmにおける透過率がそれぞれ約100%及び約31%であることが看取される。そうすると,甲4発明の「基板」の波長630nm及び660nmにおける透過率はそれぞれ約63%(=63/100)及び約35%(=11/31)であると算出される。 そうすると,甲4発明の「基板」(吸収層)は,波長630nmから波長660nmまでの間に,透過率が50%となる波長を有していることは明らかである。 したがって,甲4発明の「基板」は,「近赤外吸収剤が660?785nmの波長領域で吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し,前記波長λ(DA_T_(min)),前記λSh(DA_T50%)と,近赤外吸収剤が800?920nmの波長領域で吸収極大を示す波長λ(DB_T_(min))との関係が,λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λ(DB_T_(min))である」との要件(以下,当該要件を「(I-1’)の要件」という。)を満たす点で,本件訂正発明10の「吸収層」と共通する。 (エ) [IRカットフィルターの分光特性]及び[多層膜の分光特性]から,甲4発明の900ないし970nmの波長領域における透過率,及び甲4発明の「多層膜」の900ないし970nmの波長領域における透過率が,いずれの波長でも略0%であることが看取されるところ,これらの透過率から,甲4発明の「基板」の透過率を算出することはできないから,900ないし970nmの波長領域における甲4発明の「基板」の透過率は不明である。 (オ) 甲4発明の「多層膜」が反射層として機能することは,技術常識から当業者に自明である。したがって,甲4発明の「多層膜」は,「多層膜からなる反射層」である点で,本件訂正発明10の「誘電体多層膜からなる反射層」と共通する。 また,[多層膜の分光特性]から,甲4発明の「多層膜」(反射層)の透過率が,670ないし1200nmの波長領域において,いずれの波長でも略0%であることが看取されるから,670ないし1200nmの波長領域の全域が,透過率が50%以下となる近赤外反射帯域であるといえる。 また,[多層膜の分光特性]から,甲4発明の「多層膜」の近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)が約655nmであることが看取されるところ,当該波長λSh(A1_T50%)は,赤外線吸収剤の「800?920nmの波長領域」内の吸収極大波長である約823nmよりも短波長である。 (カ) 前記(ア)ないし(オ)に照らせば,本件訂正発明10と甲4発明は, 「660?785nmの波長領域と800?920nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤とを含み,下記(I-1’)の要件を満たす吸収層と,下記(II-1’)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有する光学フィルタ。 (I-1’)近赤外吸収剤が660?785nmの波長領域で吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し,前記波長λ(DA_T_(min)),前記λSh(DA_T50%)と,近赤外吸収剤が800?920nmの波長領域で吸収極大を示す波長λ(DB_T_(min))との関係が,λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λ(DB_T_(min))である。 (II-1’)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有する。」 である点で一致し,次の点で相違する,又は一応相違する。 相違点2-1: 本件訂正発明10では,「吸収層」が,第1の近赤外吸収剤と第2の近赤外吸収剤とを含み,660?785nmの波長領域に吸収極大を有するのが第1の近赤外吸収剤であり,800?920nmの波長領域に吸収極大を有するのが第2の近赤外吸収剤であるのに対して, 甲4発明では,「基板」が含有する赤外線吸収剤が,1種類であるのか,複数種類であるのかは定かでなく,したがって,本件訂正発明10のような構成を有しているとはいえない点。 相違点2-2: 本件訂正発明10の「反射層」は,誘電体多層膜からなるのに対して, 甲4発明の「多層膜」は,誘電体多層膜であるのか否かは定かでない点。 相違点2-3: 本件訂正発明10の「吸収層」は,示す波長λ(DB_T_(min))より長波長側で900?970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有する,すなわち,λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)であるとの要件を満たすのに対して, 甲4発明の「基板」は,900ないし970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有しているか否かは不明であり,本件訂正発明10のような要件を満たすとはいえない点。 相違点2-4: 本件訂正発明10では,「反射層」が,近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,波長λ(DB_T_(min))と,波長λLo(DB_T50%)との関係が,λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%)であり,かつ,近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長であるとの要件を満たすのに対して, 甲4発明では,「多層膜」の近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)は約655nmであり,赤外線吸収剤の800?920nmの波長領域における吸収極大波長λ(DB_T_(min))は約823nmであって,λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)の関係にはなく,かつ,「多層膜」の近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)は不明であって,波長1150nmより長波長であるのか否かが定かでないことから,本件訂正発明10のような要件を満たしていない点。 イ 判断 事案に鑑みて,まず,相違点2-4の容易想到性について判断する。 (ア) 前記(1)ア(ア)で摘記した甲4の特許請求の範囲の記載,及び前記(1)ア(イ)で摘記した記載中の発明が解決しようとする課題についての記載等からみて,甲4発明において,「多層膜」の近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)を,「650±25nmの範囲内」に設定することは,課題を解決するために必要不可欠な構成と解される。 そうすると,甲4発明において,波長λSh(A1_T50%)を,約655nmから,波長λ(DB_T_(min))である約823nmよりも長波長に変更すること,すなわち,相違点2-4に係る本件訂正発明10の「λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)」なる関係を満たすような構成に変更することは,甲4発明の目的に反することであって,当該構成の変更には阻害要因があるといわざるを得ない。 したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本件訂正発明10は,甲4発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 前記イで述べたとおりであるから,申立理由1によって,請求項10に係る特許を取り消すことはできない。 (3)請求項11ないし13について 請求項11ないし13は,請求項10の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明11ないし13は,本件訂正発明10の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するところ,本件訂正発明10が,前記(2)で述べたとおり,甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件訂正発明11ないし13も,同様の理由で,甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって,申立理由1によって,請求項11ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由2について (1) 特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決を参照。)。 (2) これを本件訂正発明10ないし13についてみると,本件訂正発明10ないし13は,いずれも,次の発明特定事項を具備するものである。 発明特定事項1: 吸収層と,誘電体多層膜からなる反射層とを有する光学フィルタであること。 発明特定事項2: 吸収層が,660?785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤と,800?920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤とを含み,「第1の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し,第2の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DB_T_(min))より長波長側で900?970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し,λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)である」という(I-1)の要件を満たすこと。 発明特定事項3: 反射層が,「670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,波長λ(DB_T_(min))と,波長λLo(DB_T50%)との関係が,λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%)であり,かつ近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長である」という(II-1)の要件を満たすこと。 (3) しかるに,本件訂正発明10ないし13に関して,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。なお,特許異議申立人が主張するように,発明の詳細な説明には,本件訂正発明10ないし13に対応する実施例は記載されていない。 ア 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 可視光を透過し,近赤外光を遮断する光学フィルタ,および該光学フィルタを備えた撮像装置に関する。 【背景技術】 【0002】 デジタルスチルカメラ等に搭載されるCCDやCMOSイメージセンサ等の固体撮像素子を用いた撮像装置では,色調を良好に再現し,かつ鮮明な画像を得るために,可視光を透過し,近赤外光を遮蔽する光学フィルタ(近赤外カットフィルタ)が用いられている。 かかる光学フィルタにおいて,とくに,良好な色調再現性を得るためには,可視光を透過させるとともに,紫外光および近赤外光を遮断する分光透過率曲線を示すことが求められる。 従来,このような光学フィルタとして,近赤外吸収色素を含有する(光)吸収層と,紫外波長領域および赤外波長領域の光を遮断する誘電体多層膜からなる(光)反射層とを備えたものが知られている。これは,誘電体多層膜そのものが,入射する光の角度によって分光透過率曲線が変化(シフト)する。そのため,このような光学フィルタは,その変化を解消するように,透過率の入射角依存性が極めて小さい近赤外吸収色素を含有する吸収層の吸収波長領域を重ねて,光の入射角の依存性を抑制し色再現性に優れる分光透過率曲線を得ようとしたものである(例えば,特許文献1?3等参照)。 【0003】 しかし,誘電体多層膜は,入射する光の角度が大きくなるにしたがい,偏光成分によっても光学特性に差が出てくる。すなわち,s偏光成分とp偏光成分の分光透過率曲線が異なってくる。上記の特許文献は,斜入射(例えば,30°)光に対する分光透過率曲線を示し,垂直入射(0°)光の分光透過率曲線との差分が小さくなることを開示しているが,偏光成分に関する具体的な記載はない。そして,特定の偏光成分(s偏光成分またはp偏光成分)に着目したとき,従来の光学フィルタは,シフト量が大きくなり,入射する光の偏光成分に起因した斜入射による分光透過率曲線のシフトが十分に解消されていなかった。ここでいうシフト(量)とは,とくに分光透過率曲線のうち,透過率の立ち上がりや立ち下がりに見られる波長の変化(量)に相当する。 【0004】 このため,従来の光学フィルタは,偏光成分による入射角依存性が発生するという問題があった。とくに,光学フィルタは,可視域と近赤外域の境界の700nm付近で透過から遮断に遷移する領域において,光の入射角依存性と偏光依存性が大きくなると,固体撮像素子での高精度な色再現性が得られない。さらに,光学フィルタは,固体撮像素子の感度の最長波長となる1150nm付近において,偏光依存性のために透過率が高まると,固体撮像素子が本来感知すべきではない波長の光量(ノイズ)を感知することで高精度な色再現性が得られない。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 したがって,本発明は,斜入射時における偏光依存性が抑制された光学フィルタ,とくに,可視域と近赤外域の境界の700nm付近で透過から遮断に遷移する領域の偏光依存性が抑制された光学フィルタ,さらに,固体撮像素子の感度の最長波長となる1150nm付近において,偏光依存性による透過率の増大が抑制された光学フィルタ,および該光学フィルタを備えた撮像画像の色再現性に優れる撮像装置の提供を目的とする。 【課題を解決するための手段】 ・・・(中略)・・・ 【0008】 また,本発明の他の態様に係る光学フィルタは,660?785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤と,800?920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤とを含み,下記(I-1)の要件を満たす吸収層と,下記(II-1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と,を有することを特徴とする光学フィルタ。 (I-1)前記第1の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DA_Tmin)より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し,前記第2の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DB_Tmin)より長波長側で900?970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し,λSh(DA_T50%)<λ(DA_Tmin)<λ(DB_Tmin)<λLo(DB_T50%)である。 (II-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,前記近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,前記波長λ(DB_Tmin)と,前記波長λLo(DB_T50%)との関係が, λ(DB_Tmin)<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%) であり,かつ前記近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長である。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0010】 本発明によれば,斜入射時における偏光依存性が抑制された光学フィルタ,とくに,可視域と近赤外域の境界の700nm付近で透過から遮断に遷移する領域における偏光依存性による透過率の変化が抑制され,固体撮像素子の感度の最長波長となる1150nm付近における偏光依存性による透過率の増大が抑制された光学フィルタが得られる。また,そのような光学フィルタを用いた色再現性に優れる撮像装置が得られる。」 イ 「【0060】 本実施形態では上述したように,反射層は2種の反射層,すなわち第1の反射層(UA1)および第2の反射層(A2)を備える構成にできる。以下,この反射層の入射角依存性について説明する。 ・・・(中略)・・・ 【0064】 すなわち,近赤外反射帯域幅ΔλNIRにおける透過率50%の波長λShと波長λLo(ただし,λSh<λLo)は,入射角θの増加にともない短波長側にシフトし,そのシフト量は入射偏光(p,s)に応じて異なる。ここで,入射角の増加にともなって波長λShがシフトした最短波長は,最大入射角におけるs偏光の波長λSh(s)に相当する。また,入射角の増加にともなって波長λLoがシフトした最短波長は,最大入射角におけるp偏光の波長λLo(p)に相当する。このように,最大入射角において透過率50%を示す最短波長の偏光成分は,反射帯域の短波長側の領域と長波長側の領域とで対象が異なる。 ・・・(中略)・・・ 【0069】 また,近赤外反射帯域の長波長側でも分光透過率の入射角依存性,偏光依存性を考慮して,入射角θ=30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長となるよう,第1の反射層(UA1)を設計することが好ましい。また,入射角θ=30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が5%となる波長λLo(A1_Tp5%)が,波長1150nmより長波長となるよう,第1の反射層(UA1)を設計することがさらに好ましい。 すなわち,第1の反射層(UA1)は,入射角θ=0°?30°の入射光に対して近赤外反射帯域の長波長側で透過率15%または透過率5%の最短波長が,入射角θ=30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%または透過率5%となる波長λLo(A1_Tp15%)または波長λLo(A1_Tp5%)である。そのため第1の反射層(UA1)は,該波長λLo(A1_Tp15%)または該波長λLo(A1_Tp5%)が,波長1150nmより長波長側に位置するように設計する。なお,固体撮像素子の分光感度の最長波長は,1150nmであり,本実施形態の光学フィルタは,波長1150nmまでの分光透過率曲線について,第1の反射層(UA1)における分光透過率曲線の入射角依存性,偏光依存性の影響を抑制できる。」 ウ 「【0106】 (第2の実施形態) 本実施形態の光学フィルタ(以下,第2の実施形態の説明中,「本フィルタ」ともいう)は,吸収層,および誘電体多層膜からなる反射層を有する。 ・・・(中略)・・・ 【0109】 (吸収層) 吸収層は,第1の実施形態で用いた第1のNIR吸収剤(DA)と,第2のNIR吸収剤(DB)と,透明樹脂(B)とを含有する層であり,典型的には,透明樹脂(B)中に第1のNIR吸収剤(DA)および第2のNIR吸収剤(DB)が均一に溶解または分散した層である。吸収層は,さらに,第1の実施形態で用いたUV吸収剤(DU)を含有してもよい。 第1のNIR吸収剤(DA)は,第1の実施形態と同様に,透明樹脂(B)に溶解または分散して作製した樹脂膜の350?1200nmの吸収スペクトルにおいて,660?785nmの波長領域に吸収極大波長λ(DA_Tmin)を有する。 第2のNIR吸収剤(DB)は,前記吸収スペクトルにおいて,800?920nmの波長領域に吸収極大波長λ(DB_Tmin)を有する。 UV吸収剤(DU)は,第1の実施形態と同様に,前記吸収スペクトルにおいて,370?405nmの波長領域に吸収極大波長λ(DU_Tmin)を有する。 【0110】 そして,吸収層は,第1のNIR吸収剤(DA)の吸収極大波長λ(DA_Tmin)より短波長側で620?670nmの波長領域内に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。さらに吸収層は,第2のNIR吸収剤(DB)の吸収極大波長λ(DB_Tmin)より長波長側で900?970nmの波長領域内に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し,かつλSh(DA_T50%)<λ(DA_Tmin)<λ(DB_Tmin)<λLo(DB_T50%)の関係を満足するように,第1のNIR吸収剤(DA)および第2のNIR吸収剤(DB)の各濃度と厚さdを設定する。 また,吸収層は,UV吸収剤(DU)を含有する場合,UV吸収剤(DU)の吸収極大波長λ(DU_Tmin)より長波長側で400?420nmの波長領域内に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有するように,UV吸収剤(DU)の濃度と厚さdを設定する。 【0111】 本フィルタの吸収層は,第1のNIR吸収剤(DA)を含む透明樹脂の透過率が50%以下となる近赤外吸収帯域(波長λSh(DA_T50%)?波長λLo(DA_T50%))と,第2のNIR吸収剤(DB)を含む透明樹脂の透過率が50%以下となる近赤外吸収帯域(波長λSh(DB_T50%)?波長λLo(DB_T50%))との間で,以下の関係を満たすことが好ましい。 λSh(DA_T50%)<λSh(DB_T50%)≦λLo(DA_T50%)<λLo(DB_T50%) 上記の関係を満たすことにより,第1のNIR吸収剤(DA)の吸収帯域と第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域との境界領域で吸収層の透過率を25%以下にできる。 また,本フィルタの吸収層は,第1のNIR吸収剤(DA)を含む透明樹脂の透過率が15%以下となる近赤外吸収帯域(波長λSh(DA_T15%)?波長λLo(DA_T15%))と,第2のNIR吸収剤(DB)を含む透明樹脂の透過率が15%以下となる近赤外吸収帯域(波長λSh(DB_T15%)?波長λLo(DB_T15%))との間で,以下の関係を満たすことがより好ましい。 λSh(DB_T15%)≦λLo(DA_T15%) 上記の関係を満たすことにより,第1のNIR吸収剤(DA)の吸収帯域と第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域との境界領域で吸収層の透過率を3%以下にできる。・・・(中略)・・・ 【0116】 本実施形態の光学フィルタの吸収層は,前記吸収スペクトルにおいて,660?785nmの波長領域に吸収極大波長λ(DA_Tmin)を有する第1のNIR吸収剤(DA)と,800?920nmの波長領域に吸収極大波長λ(DB_Tmin)を有する第2のNIR吸収剤(DB)を含む。こうすることで,該吸収層は,近赤外吸収帯域を700?900nmと拡張でき,本実施形態の光学フィルタは後述するように,1層の反射層(第1の反射層(UA1))のみで,700?1150nmの近赤外域を遮断できる。また,吸収層が,さらにUV吸収剤(DU)も含有した場合,さらに350?400nmの近紫外域を吸収できる。このように,本実施形態の光学フィルタは,反射層が第2の反射層(A2)を含むことを必須としないので,薄膜化,生産性の向上や応力緩和の効果が期待できる。 【0117】 (反射層) 上記のように,本実施形態の光学フィルタの吸収層は,近赤外吸収帯域を略700?900nmに拡張できる。このため,本フィルタは,反射層として,670?1150nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有する第1の反射層(UA1)(のみ)を備える構成にできる。 第1の反射層(UA1)は,吸収層における吸収による遮断と反射層における反射による遮断が,それぞれの層の境界波長領域で有効に機能させるようにする。そのため,第1の反射層(UA1)は,第1の実施形態と同様に,入射角,入射偏光依存性による分光透過率曲線の短波長側シフトを考慮して設計する。 【0118】 すなわち,第1の反射層(UA1)は,入射角θ=0°?30°の入射光に対して近赤外反射帯域の短波長側における透過率50%の最長波長は入射角θ=0°の波長λSh(A1_T50%)である。そのため,第1の反射層(UA1)は,第2のNIR吸収剤(DB)の吸収極大波長λ(DB_Tmin)より長波長側で透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)が,波長λSh(A1_T50%)より長波長側に,かつ波長λSh(A1_T50%)が波長λ(DB_Tmin)より長波長側に位置するよう誘電体多層膜を設計する。このとき,入射角θの増加にともなって第1の反射層(UA1)の波長λSh(A1_T50%)は短波長側にシフトするが,吸収層の近赤外吸収帯域内であるため,光学フィルタの分光透過率曲線の変化を抑制できる。 【0119】 この場合,本実施形態の光学フィルタは,第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域における波長λ(DB_Tmin)から波長λLo(DB_T50%)までの波長領域の透過率を3%以下に低減するため,第1の反射層(UA1)は,入射角θ=0°における近赤外反射帯域で透過率が15%となる短波長側の波長λSh(A1_T15%)が,第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域の長波長側で透過率が15%となる波長λLo(DB_T15%)より短波長側に位置する設計が好ましい。また,本実施形態の光学フィルタは,波長λ(DB_Tmin)から波長λLo(DB_T50%)までの波長領域の透過率を0.3%以下に低減するため,第1の反射層(UA1)は,入射角θ=0°における近赤外反射帯域で透過率1%となる短波長側の波長λSh(A1_T1%)が,第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域の長波長側で透過率が15%となる波長λLo(DB_T15%)より短波長側に位置する設計がより好ましい。 【0120】 また,第1の実施形態と同様に,第1の反射層(UA1)は,近赤外反射帯域の長波長側でも分光透過率の入射角依存性,偏光依存性を考慮して,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長となるように設計することが好ましい。また,入射角θ=30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が5%となる波長λLo(A1_Tp5%)が,波長1150nmより長波長となるよう,第1の反射層(UA1)を設計することがさらに好ましい。このように設計することで,本フィルタは,波長1150nmまでの分光透過率曲線について,第1の反射層(UA1)における分光透過率曲線の入射角依存性,偏光依存性の影響を抑制できる。」 (4) 前記(3)アで摘記した記載からみて,本件訂正発明10ないし13が解決しようとする課題は,固体撮像素子を用いた撮像装置に用いられる光学フィルタにおいて,誘電体多層膜を用いることによって生じる斜入射時における偏光依存性,特に,可視域と近赤外域の境界の700nm付近で透過から遮断に遷移する領域の偏光依存性を抑制すること(以下,「第1の課題」という。),及び,固体撮像素子の感度の最長波長となる1150nm付近において,偏光依存性による透過率の増大を抑制すること(以下,「第2の課題」という。)にあると認められる。 (5)a 発明の詳細な説明の【0116】(前記(3)ウ)には,吸収層に,「660?785nmの波長領域に吸収極大波長λ(DA_Tmin)を有する第1のNIR吸収剤(DA)と,800?920nmの波長領域に吸収極大波長λ(DB_Tmin)を有する第2のNIR吸収剤(DB)を含有」させることで,透過率が50%以下となる近赤外吸収帯域を,700?900nmと拡張できることが説明されている。 しかるに,「λSh(DA_T50%)」及び「λLo(DB_T50%)」は,それぞれ吸収層の近赤外吸収帯域の短波長側の境界波長及び長波長側の境界波長にほかならないから,発明特定事項2における「(I-1)の要件」中の「λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)」なる関係が,「近赤外吸収帯域が,少なくとも,λ(DA_Tmin)からλ(DB_Tmin)までの波長領域をカバーしている(言い換えると,λ(DA_Tmin)とλ(DB_Tmin)との間で近赤外吸収帯域が途切れていない)」ことを表していることは,当業者に自明である。 そして,「λ(DA_Tmin)」は660?785nmの波長領域にあり,「λ(DB_Tmin)」は800?920nmの波長領域にあるのだから,通常の近赤外吸収剤の吸収極大波長近傍での吸収特性を踏まえれば,当業者は,発明特定事項2を具備する吸収層の近赤外吸収帯域は少なくとも700ないし900nm程度の範囲をカバーしていると認識するものと認められる。 b また,発明の詳細な説明の【0118】(前記(3)ウ)には,反射層について,「670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,波長λ(DB_T_(min))と,波長λLo(DB_T50%)との関係が,λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%)であ」るという要件を満たすものにすると,入射角が0°から30°まで変化することで,反射層における近赤外反射帯域の短波長側における透過率50%となる波長λSh(A1_T50%)が短波長側にシフトしても,前記(4)で述べた吸収層の近赤外吸収帯域の範囲内に収まることから,光学フィルタの分光透過率曲線の変化を抑制できることが説明されている。 しかるに,「近赤外反射帯域の短波長側における透過率50%となる波長λSh(A1_T50%)」とは入射角が0°のときの近赤外反射帯域の短波長側の境界波長にほかならず,前記(5)で述べたように「λLo(DB_T50%)」は吸収層の近赤外吸収帯域の長波長側の境界波長にほかならないから,発明特定事項3における「(II-1)の要件」中の「λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%)」なる関係が,「入射角が0°のときに,反射層の近赤外反射帯域の短波長側と吸収層の近赤外吸収帯域の長波長側とが重なっているものの,800?920nmの波長領域にある波長λ(DB_Tmin)は反射層の近赤外反射帯域に入らない」ことを表していることは,当業者に自明である。 そして,誘電体多層膜からなる反射層は,一般に分光透過率曲線における立ち上がりや立ち下がりが急峻であり,入射角が大きくなるとその分光透過率曲線がブルーシフトすることが,当業者における技術常識であるところ,立ち上がりや立ち下がりにおける傾きの通常の大きさや,通常のブルーシフト量を踏まえると,当業者は,「λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%)」なる関係を満たす反射層は,入射角が0°ないし30°の範囲で変化しても,その近赤外反射帯域の短波長側が,吸収層の近赤外吸収帯域の長波長側と重なった状態にあるが,波長700nm付近で近赤外線を遮断することはほとんどないと認識するものと認められる。 c 前記aで述べた吸収層と,前記bで述べた反射層とを有する光学フィルタでは,透過率が50%以下となる波長領域(以下,「遮断帯域」という。)の短波長側の境界波長は,概ね700nm付近にあり,当該700nm付近の透過率は専ら吸収層によって決定され,反射層の影響はきわめて小さいこと,したがって,700nm付近で透過から遮断に遷移する領域の偏光依存性が小さいことは,当業者が容易に理解できることである。 そうすると,当業者は,発明の詳細な説明の記載や本件特許の出願時の技術常識に基づいて,「吸収層と,誘電体多層膜からなる反射層とを有する光学フィルタ」(発明特定事項1)において,発明特定事項2を具備するものとするとともに,発明特定事項3のうち「670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し,近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と,波長λ(DB_T_(min))と,波長λLo(DB_T50%)との関係が,λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%)であ」るという要件を満たすような構成にすることで,前記(4)で述べた第1の課題が解決できると認識できるものといえる。 (6) さらに,発明の詳細な説明の【0064】及び【0069】(前記(3)イ)には,反射層の近赤外反射帯域の長波長側の境界波長λLoが,入射角θの増加に伴い短波長側にシフトすること,及び,λLoの最短波長が,最大入射角におけるp偏光の波長λLo(p)であること,並びに,反射層の近赤外反射帯域の長波長側で透過率が15%となる波長についても,境界波長λLoと同様に,入射角θの増加に伴い短波長側にシフトし,その最短波長が,最大入射角におけるp偏光の波長(最大入射角が30°の場合はλLo(A1_Tp15%)になることが説明されているところ,当該説明内容は,自然法則等に基づいて,当業者が容易に理解できることである。 そして,発明の詳細な説明の【00120】(前記(3)ウ)には,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長となるように反射層を設計すると,波長1150nmまでの分光透過率曲線の入射角依存性,偏光依存性の影響を抑制できることが説明されている。しかるに,波長λLo(A1_Tp15%)は,入射角が0ないし30°の範囲で変化する場合の,反射層の近赤外反射帯域の長波長側で透過率が15%となる波長の中の最短波長であるのだから,前記設計の反射層においては,入射角が0ないし30°の範囲で変化しても,近赤外反射帯域の長波長側の境界波長が常に1150nmより長波長側にあり,入射角の変化による波長1150nmにおけるp偏光及びs偏光の透過率の変動幅は,最大でも15%未満に収まること,したがって,入射角が0ないし30°の範囲で変化しても,遮断帯域の長波長側の境界波長が常に1150nmより長波長側にあり,入射角の変化による波長1150nm付近におけるp偏光及びs偏光の透過率の変動が小さい光学フィルタが得られることは,当業者が容易に理解できることである。 そうすると,当業者は,発明の詳細な説明の記載や本件特許の出願時の技術常識に基づいて,反射層を,発明特定事項3のうち「近赤外反射帯域の長波長側で,入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が,波長1150nmより長波長である」という要件を満たすような構成にすることで,前記(4)で述べた第2の課題が解決できると認識できるものといえる。 (7) 以上によれば,たとえ,発明の詳細な説明に本件訂正発明10ないし13に対応する実施例やその光学特性が開示されていなくとも,発明の詳細な説明の記載や本件特許の出願時の技術常識に基づいて,当業者は,本件訂正発明10ないし13が第1の課題及び第2の課題を解決できると認識できるから,本件特許の請求項10ないし13の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件に適合する。 したがって,申立理由2によって,請求項10ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては,本件特許の請求項1ないし3,5ないし33に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1ないし3,5ないし33に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また,請求項4に係る特許は,前述したとおり,訂正により削除された。これにより,請求項4に係る特許異議の申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 660?785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤および370?405nmの波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含み、下記(i-1)および(i-4)の要件を満たす吸収層と、下記(ii-1)および(ii-3)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と、を有することを特徴とする光学フィルタ。 (i-1)前記660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。 (i-4)前記370?405nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。 (ii-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し、前記近赤外反射帯域より短波長側で、入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が、前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。 (ii-3)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し、前記近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が、前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。 【請求項2】 前記反射層が、下記(ii-2)の要件を満たす請求項1に記載の光学フィルタ。 (ii-2)前記近赤外反射帯域より短波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Tp50%)と、前記波長λSh(A2_Ts50%)との関係が、0nm<λSh(A2_Tp50%)-λSh(A2_Ts50%)≦20nmである。 【請求項3】 前記吸収層が、下記(i-2)および(i-3)の要件を満たす請求項1または2記載の光学フィルタ。 (i-2)640?700nmの波長領域に透過率が15%となる波長λSh(DA_T15%)を有し、かつλSh(DA_T50%)<λSh(DA_T15%)<λ(DA_T_(min))である。 (i-3)740?840nm波長領域に透過率50%となる波長λLo(DA_T50%)と透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し、かつλ(DA_T_(min))<λLo(DA_T15%)<λLo(DA_T50%)である。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 前記吸収層が、下記(i-5)の要件を満たし、前記反射層が、下記(ii-4)の要件を満たす請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (i-5)前記波長λ(DU_T_(min))より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。 (ii-4)前記近紫外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が、前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。 【請求項6】 前記反射層は、700?1200nmの波長領域内の第1の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第1の近赤外反射帯域を有する第1の反射層と、700?1200nmの波長領域内の前記第1の波長領域より短波長側の第2の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第2の近赤外反射帯域を有する第2の反射層を有し、前記第1の近赤外反射帯域と前記第2の近赤外反射帯域で前記近赤外反射帯域が構成される請求項1?3および請求項5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項7】 前記第1の反射層と前記第2の反射層とを離間して備える請求項6に記載の光学フィルタ。 【請求項8】 前記吸収層が740?840nm波長領域に透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し、前記波長λLo(DA_T15%)が、前記第2の近赤外反射帯域の短波長側で、入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A2_T15%)より、長波長側にある請求項6または7に記載の光学フィルタ。 【請求項9】 前記第1の近赤外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が、波長1150nmより長波長である請求項6?8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項10】 660?785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤と、800?920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤とを含み、下記(I-1)の要件を満たす吸収層と、下記(II-1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と、を有することを特徴とする光学フィルタ。 (I-1)前記第1の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し、前記第2の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DB_T_(min))より長波長側で900?970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し、λSh(DA_T50%)<λ(DA_T_(min))<λ(DB_T_(min))<λLo(DB_T50%)である。 (II-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し、前記近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と、前記波長λ(DB_T_(min))と、前記波長λLo(DB_T50%)との関係が、 λ(DB_T_(min))<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%) であり、かつ前記近赤外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が、波長1150nmより長波長である。 【請求項11】 前記吸収層は、370?405nm波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含むとともに、下記(I-2)の要件を満たし、かつ前記反射層が、下記(II-2)の要件を満たす請求項10に記載の光学フィルタ。 (I-2)前記吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。 (II-2)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し、前記近紫外反射帯域より長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が、前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。 【請求項12】 前記吸収層が、下記(I-3)の要件を満たし、前記反射層が、下記(II-3)の要件を満たす請求項11に記載の光学フィルタ。 (I-3)前記波長λ(DU_T_(min))より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。 (II-3)前記近紫外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が、前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。 【請求項13】 前記反射層において、前記近赤外反射帯域の短波長側で、入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A1_T15%)より、前記吸収層において、前記波長λ(DB_T_(min))より長波長側で、透過率が15%となる波長λLo(DB_T15%)が、長波長側にある請求項10?12のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項14】 680?750nmの波長領域で、入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(680-750))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(680-750))がいずれも1.3%以下である請求項10?13のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項15】 1000?1150nmの波長領域で、入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(1000-1150))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(1000-1150))がいずれも10%以下である請求項1?3および請求項5?14のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項16】 下記要件(1)?(3)の少なくとも1つを満たす請求項1?3および請求項5?15のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (1)入射角0°の分光透過率曲線において、440?600nmの波長領域における平均透過率が80%以上である。 (2)入射角0°の分光透過率曲線において、350?400nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 (3)入射角0°の分光透過率曲線において、700?1150nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 【請求項17】 前記吸収層および前記反射層が、ガラス基板の片面または両面に備えられた請求項1?3および請求項5?16のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項18】 前記ガラス基板が、Cuを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはリン酸塩系ガラスからなる請求項17に記載の光学フィルタ。 【請求項19】 請求項1?3および請求項5?18のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。 【請求項20】 660?785nmの波長領域に吸吸極大を有する近赤外吸収剤を含み、下記(i-1)の要件を満たす吸収層と、下記(ii-1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と、を有し、 680?750nmの波長領域で、入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(680-750))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(680-750))がいずれも1.3%以下であることを特徴とする光学フィルタ。 (i-1)前記660?785nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DA_T_(min))より短波長側で620?670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。 (ii-1)670?1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し、前記近赤外反射帯域より短波長側で、入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が、前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。 【請求項21】 前記反射層が、下記(ii-2)の要件を満たす請求項20に記載の光学フィルタ。 (ii-2)前記近赤外反射帯域より短波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Tp50%)と、前記波長λSh(A2_Ts50%)との関係が、0nm<λSh(A2_Tp50%)-λSh(A2_Ts50%)≦20nmである。 【請求項22】 前記吸収層が、下記(i-2)および(i-3)の要件を満たす請求項20または21に記載の光学フィルタ。 (i-2)640?700nmの波長領域に透過率が15%となる波長λSh(DA_T15%)を有し、かつλSh(DA_T50%)<λSh(DA_T15%)<λ(DA_T_(min))である。 (i-3)740?840nm波長領域に透過率50%となる波長λLo(DA_T50%)と透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し、かつλ(DA_T_(min))<λLo(DA_T15%)<λLo(DA_T50%)である。 【請求項23】 前記吸収層は、370?405nmの波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含むとともに、下記(i-4)の要件を満たし、かつ前記反射層が、下記(ii-3)の要件を満たす請求項20?22のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (i-4)前記370?405nmの波長領域に吸収極大を示す波長λ(DU_T_(min))より長波長側で400?420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。 (ii-3)300?420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し、前記近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が、前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。 【請求項24】 前記吸収層が、下記(i-5)の要件を満たし、前記反射層が、下記(ii-4)の要件を満たす請求項23に記載の光学フィルタ。 (i-5)前記波長λ(DU_T_(min))より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。 (ii-4)前記近紫外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が、前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。 【請求項25】 前記反射層は、700?1200nmの波長領域内の第1の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第1の近赤外反射帯域を有する第1の反射層と、700?1200nmの波長領域内の前記第1の波長領域より短波長側の第2の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第2の近赤外反射帯域を有する第2の反射層を有し、前記第1の近赤外反射帯域と前記第2の近赤外反射帯域で前記近赤外反射帯域が構成される請求項20?24のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項26】 前記第1の反射層と前記第2の反射層とを離間して備える請求項25に記載の光学フィルタ。 【請求項27】 前記吸収層が740?840nm波長領域に透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し、前記波長λLo(DA_T15%)が、前記第2の近赤外反射帯域の短波長側で、入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A2_T15%)より、長波長側にある請求項25または26に記載の光学フィルタ。 【請求項28】 前記第1の近赤外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が、波長1150nmより長波長である請求項25?27のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項29】 1000?1150nmの波長領域で、入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr_(1000-1150))およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr_(1000-1150))がいずれも10%以下である請求項20?28のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項30】 下記要件(1)?(3)の少なくとも1つを満たす請求項20?29のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 (1)入射角0°の分光透過率曲線において、440?600nmの波長領域における平均透過率が80%以上である。 (2)入射角0°の分光透過率曲線において、350?400nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 (3)入射角0°の分光透過率曲線において、700?1150nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。 【請求項31】 前記吸収層および前記反射層が、ガラス基板の片面または両面に備えられた請求項20?30のいずれか1項に記載の光学フィルタ。 【請求項32】 前記ガラス基板が、Cuを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはリン酸塩系ガラスからなる請求項31に記載の光学フィルタ。 【請求項33】 請求項20?32のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-12-12 |
出願番号 | 特願2017-513016(P2017-513016) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B) P 1 651・ 121- YAA (G02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大竹 秀紀 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
宮澤 浩 清水 康司 |
登録日 | 2017-09-08 |
登録番号 | 特許第6202229号(P6202229) |
権利者 | AGC株式会社 |
発明の名称 | 光学フィルタおよび撮像装置 |
代理人 | 特許業務法人サクラ国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人サクラ国際特許事務所 |