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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
管理番号 1348712
異議申立番号 異議2017-701042  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-09 
確定日 2019-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6124778号発明「光ファイバ、光ファイバ用シリカガラス母材、および光ファイバの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6124778号の図面を訂正請求書に添付された図面のとおり,請求項〔1-7〕,〔8-32〕について訂正することを認める。 特許第6124778号の請求項1ないし32に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6124778号の請求項1?32に係る特許についての出願(特願2013-256093号)は,平成25年12月11日を出願日(優先権主張 平成24年12月28日)とするものであって,平成29年4月14日付けで設定登録がされ,同年5月10日にその特許掲載公報が発行され,同年11月9日に,その特許に対し,特許異議申立人 滝沢純平(以下「申立人」という。)により請求項1ないし32に対して特許異議の申立てがされたものである。以後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 1月30日:取消理由通知(同年2月5日発送)
平成30年 4月 6日:訂正請求書・意見書
平成30年 5月15日:審尋(同年5月18日発送)
平成30年 7月18日:回答書
平成30年 8月30日:通知書(同年9月5日発送)
平成30年10月 5日:意見書

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年4月6日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。また,その訂正を「本件訂正」という。)は,図面を訂正図面のとおり,請求項〔1-7〕,〔8-32〕について訂正することを求めるものであって,以下の訂正事項1及び2からなる。
(1)訂正事項1
請求項1ないし7について,訂正前の図2ないし図4である,
【図2】

【図3】

【図4】

を,訂正後の図2ないし図4である

に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項8ないし32について,訂正前の図2ないし4を,訂正後の図2ないし図4のとおり訂正する(訂正前後の各図は上記(1)と同じであるから省略する。)。

2 当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は,図2ないし図4について,r_(1)の位置を変えて,図5以降の各図におけるr_(1)の位置と整合させるものである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
(ア)訂正事項1は,図2ないし図4について,r_(1)の位置を変えるものであるところ,訂正前の図2ないし図4におけるr_(1)の位置は,コア周囲の変化の大きさが緩やかになった付近としていることが見て取れる。
これに対し,図5以降の各図におけるr_(1)の位置は,訂正後の図2ないし図4におけるr_(1)の位置と同じく,変化が最も大きい位置としていることが見て取れる。
一方,本件明細書には,r_(1)の位置をどのように定めているかについて特段の記載はない。
よって,本件明細書及び訂正前の図面においては,r_(1)とすべき位置を明確に定めて記載しているとはいえない。このことは,願書に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)においても同様である。
(イ)しかしながら,以下のとおり,屈折率の変化が最も大きい箇所(ゲルマニウム濃度の変化が最も大きい箇所)をコアと中間層の境界(すなわちr_(1)の位置)として定めることはできるといえる。
コア及び中間層からなる多孔質ガラス母材の一体合成時において,コア部分へのゲルマニウムドープにより,ゲルマニウムドープがされたコア部分と,ゲルマニウムドープがされない中間層部分との境界が画定される。
そして,ゲルマニウムの拡散が生じたときには,コアにあるゲルマニウムが中間層へと移動する。これに伴い,境界付近のコアにおけるゲルマニウム濃度は減少し,境界付近の中間層におけるゲルマニウム濃度は上昇することになるものの,その結果,ゲルマニウム濃度の変化が最も大きいのは,コアにおけるゲルマニウム濃度が減少した部分と,中間層におけるゲルマニウム濃度が上昇した部分に挟まれた箇所であり,これは,おおむね前記多孔質ガラス母材の一体合成時に画定された境界と同じ位置になると解される。
すなわち,ゲルマニウムの拡散があるとしても,ゲルマニウム濃度の変化が最も大きい箇所を,コアと中間層の境界とすることは合理的といえる。
(ウ)そして,r_(1)の位置,すなわちコアと中間層の境界を,ゲルマニウム濃度の変化が最も大きい箇所とすることは,図5以降の各図においても示されているから,これに整合するように,図2ないし図4について訂正することは,新たな技術的特徴を導入するものではない。
(エ)よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
上記アのとおり,訂正事項1は,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正あり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
エ 図面の訂正と関係する請求項について
訂正事項1に係る図2ないし図4は,本件の請求項1に係る発明の実施例に対応するものである。ここで,本件の請求項1?7は一群の請求項であって,訂正事項1は,一群の請求項についてされるものであるから,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項の規定に適合する。
オ 一群の請求項について
訂正前の請求項1?7は一群の請求項であるところ,訂正事項1に係る訂正は,前記一群の請求項ごとに請求されたものである。よって,本件訂正請求は特許法120条の5第4項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
前記(1)アと同じく,訂正事項2は,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
前記(1)イと同じく,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
前記(1)ウと同じく,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
エ 図面の訂正と関係する請求項について
訂正事項2に係る図2ないし図4は,本件の請求項8に係る発明の実施例に対応するものである。ここで,本件の請求項8?32は一群の請求項であって,訂正事項2は,一群の請求項についてされるものであるから,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項の規定に適合する。
オ 一群の請求項について
訂正前の請求項8?32は一群の請求項であるところ,訂正事項2に係る訂正は,前記一群の請求項ごとに請求されたものである。よって,本件訂正請求は特許法120条の5第4項の規定に適合する。

(6)むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正請求書に添付された図面のとおり請求項〔1?7〕,〔8?32〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1?32に係る発明は,請求項1?32に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本件発明1」?「本件発明32」という。)。
「【請求項1】
中心部に半径r_(1)のコア,該コアに半径位置r_(1)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(2)の中間層,該中間層に半径位置r_(2)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(3)の低屈折率トレンチ層,及び該低屈折率トレンチ層に半径位置r_(3)で隣接してその外周を覆う外側クラッド層からなる光ファイバにおいて,
前記中間層の屈折率が,内側から外側に向かって連続的になだらかに低下して半径位置r_(1)で最大値をとり,半径位置r_(2)で最小値をとり,且つ,コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部を有することを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記コアは最大屈折率n_(0)を有し,前記中間層は半径位置r_(1)において屈折率n_(1)及び半径位置r_(2)において屈折率n_(2)を有し,前記低屈折率トレンチ層は最小屈折率n_(3)を有し,前記外側クラッド層は最小屈折率n_(4)を有し,n_(0)>n_(1)>n_(2)>n_(3),n_(3)<n_(4)である請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記中間層と前記低屈折率トレンチ層とが接する半径位置r_(2)付近において,屈折率分布形状曲線が変曲点を有する請求項1又は2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
半径5mmの曲げを与えた際の1550nmにおける曲げ損失が0.15dB/turn以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
零分散波長が1300?1324nmである請求項1から4のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
1310nmにおけるモードフィールド直径が8.2?9.9μmである請求項1から5のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
22mのファイバ長で測定したカットオフ波長が1260nm以下である請求項1から6のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
シリカガラスに屈折率を上昇させる正のドーパントを添加したコアと,
前記コアの半径方向外側に前記コアを囲むように隣接した中間層と,
前記中間層の半径方向外側に前記中間層を囲むように隣接し,シリカガラスに屈折率を減少させる負のドーパントを添加したトレンチ層と,
前記トレンチ層の半径方向外側に前記トレンチ層を囲むように隣接し,シリカガラスで形成されたクラッド層と,
を備え,
前記中間層の半径方向の厚みは,前記トレンチ層の厚みよりも大きく,
前記中間層の前記コアに近い領域において最大で半径方向外側に向かって連続的に徐々に減少する濃度の正のドーパント,および/又は,前記トレンチ層に近い領域において最大で半径方向内側に向かって徐々に減少する濃度の負のドーパントを添加され,コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部を有する光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項9】
前記トレンチ層には前記負のドーパントが均一に添加されていることを特徴とする請求項8に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項10】
前記コアに添加した前記正のドーパントは半径方向に濃度分布を持ち,その最大値は,純シリカガラスを基準とした比屈折率差が0.30?0.45%となるように添加されている請求項8又は9に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項11】
前記トレンチに添加した前記負のドーパントは,純シリカガラスを基準とした比屈折率差が-0.7?-0.4%となるように添加されている請求項8から10の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項12】
前記コアには前記負のドーパントを含まない請求項9から11の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項13】
前記トレンチ層には前記正のドーパントを含まない請求項8から12の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項14】
前記中間層の半径位置r_(1)において負のドーパントを含まない請求項8から13の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項15】
前記中間層の半径位置r_(2)において正のドーパントを含まない請求項8から14の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項16】
隣接する前記コアおよび前記中間層に添加された正のドーパントの濃度が半径位置r1において連続的に変化する請求項8から15の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項17】
隣接する前記中間層および前記トレンチ層に添加された負のドーパントの濃度が半径位置r_(2)において不連続的に変化する請求項8から16の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項18】
前記中間層に添加した前記負のドーパントの濃度は半径位置r_(2)において純シリカガラスを基準とした比屈折率差が-0.25?-0.10%となるように添加されている請求項8から17の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項19】
前記中間層が半径方向に3層から構成されており,半径方向内側より,
正のドーパントを含有し負のドーパントを含有しない領域と,
正のドーパントと負のドーパントのどちらも含有しない領域と,
負のドーパントを含有し正のドーパントを含有しない領域と
からなる請求項8から18の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項20】
前記中間層が半径方向に3層から構成されており,半径方向内側より,
正のドーパントを含有し負のドーパントを含有しない領域と,
正のドーパントと負のドーパントのどちらも含有する領域と,
負のドーパントを含有し正のドーパントを含有しない領域と
からなる請求項9から18の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項21】
前記中間層の屈折率は,前記コアからトレンチ層に向けてなだらかに減少している請求項8から20の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項22】
前記中間層には,半径方向内側から外側に向かって屈折率が連続的に減少する領域が存在し,この領域には変曲点が存在する請求項21に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項23】
前記母材は中心軸対称の屈折率分布を持ち,この母材を線引きした光ファイバの波長1310nmにおける推定モードフィールド直径がこの屈折率分布に基づいて算出され,この推定モードフィールド直径の母材サイズ換算値M_(P)が,
2r_(2)/M_(P)≧2.6
である請求項8から22の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項24】
前記中間層と前記トレンチ層とが隣接する界面近傍において,ガラス構造緩和ドーパントをさらに含有する請求項8から23の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項25】
前記トレンチ層と前記クラッド層とが隣接する界面近傍において,ガラス構造緩和ドーパントをさらに含有する請求項8から24の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項26】
前記正のドーパントがゲルマニウムであり前記負のドーパントがフッ素である請求項8から25の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【請求項27】
請求項8から26の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材を用意し,当該光ファイバ用シリカガラス母材を線引する光ファイバの製造方法。
【請求項28】
22mのファイバ長で測定したカットオフ波長が1260nm以下となるようにファイ
バ直径を調整して線引きした請求項27に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項29】
零分散波長が1300?1324nmとなるようにファイバ直径を調整して線引きした請求項27又は28に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項30】
波長1310nmで測定したモードフィールド直径が8.2?9.9μmとなるようにファイバ直径を調整して線引きした請求項27から29の何れか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項31】
前記中間層と前記トレンチ層の隣接する線引き後の光ファイバにおける半径位置をr_(2F)μmとし,波長1310nmで測定したモードフィールド直径をM_(F)μmとして,
2r_(2F)/M_(F)≧2.6
である請求項27から30の何れか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項32】
半径5mmの曲げを与えた際の1550nmにおける曲げ損失が0.15dB/turn以下である請求項27から31の何れか1項に記載の光ファイバの製造方法。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?32に係る特許に対して,当審が特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

1 理由1(第36条第6項第2号)
本件特許請求の範囲の請求項1?32の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,請求項1?32に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

2 理由2(第36条第6項第1号)
本件特許請求の範囲の請求項1?7の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,請求項1?7に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

3 理由3(第36条第4項第1号)
本件特許の明細書の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,請求項1?32に係る特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

4 理由4(第29条第1項第3号)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,その出願前に外国において頒布された甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,請求項1ないし7に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。

甲第1号証:米国特許出願公開第2010/0296783号公報
甲第2号証:米国特許第7,676,129号明細書


5 理由5(第29条第2項)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,その出願前に外国において頒布された甲第1号証または甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1ないし7に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

第5 取消理由についての判断
1 理由1(第36条第6項第2号)について
ア 理由1は,本件請求項1(請求項1を引用する請求項2?7も同様。)に記載された「中心部に半径r_(1)のコア,該コアに半径位置r_(1)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(2)の中間層」における,「半径位置r_(1)」について,請求項1には具体的に規定する記載はなく,また,本件明細書を参照すると,図2?4における屈折率曲線上の「半径位置r_(1)」の位置と,図5以降における屈折率曲線上の「半径位置r_(1)」の位置とが異なるから,「半径位置r_(1)」の位置を定める基準が複数存在し,「半径位置r_(1)」を明確に理解できず(以下「理由1-1」という。),また,本件請求項1及び8(請求項1または8を引用する請求項2?7,9?32も同様。)における「下に凸状」及び「上に凸状」との文言が明確ではなく(以下「理由1-2」という。),また,本件請求項1及び8(請求項1または8を引用する請求項2?7,9?32も同様。)における「屈折率の突出部」との文言が不明確である(以下「理由1-3」という。),というものである。
イ 理由1-1について
本件明細書及び請求項1には,「半径位置r_(1)」について具体的に規定する記載はないが,本件訂正により,図2ないし図4も含めた本件図面上の「半径位置r_(1)」は,屈折率の変化が最も大きい位置であるものと見て取れるものとなった。その結果,本件明細書及び図面の記載から,「半径位置r_(1)」が屈折率の変化が最も大きい位置にあることが明確となったから,理由1-1は解消されたといえる。
ウ 理由1-2について
本件明細書の段落【0018】には,「光ファイバの屈折率分布ならびに屈折率の半径位置に対する二回微分値の分布を図3に示した。なお,同図の下段側に,中間層付近の二回微分値を40倍に拡大して破線で示した。この二回微分値が「正」→「負」→「正」と変化していることから,中間層の屈折率分布形状が「下に凸」→「上に凸」→「下に凸」と変化しており,中間層に突出部を有することが認められる。(以下略)」との記載があり,当該記載によれば,屈折率の半径位置に対する二回微分値が「正」のときに屈折率分布形状が「下に凸」であり,「負」のときに屈折率分布形状が「上に凸」であって,本件請求項1及び8に記載された「下に凸状」及び「上に凸状」とは,それぞれ屈折率の半径位置に対する二回微分値が「正」のとき及び「負」のときの屈折率分布形状を指すことは明らかである。
よって,理由1-2はあたらない。
エ 理由1-3について
本件請求項1及び8における「屈折率の突出部」とは,請求項1及び請求項8の「コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部」との記載から見て,「屈折率の突出部」とは,「下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率」の分布曲線により形作られる,各「凸状」を有する形状を指すことは明らかである。
よって,理由1-3はあたらない。
オ 以上のとおりであるから,本件発明1?32は,理由1によっては,特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

2 理由2(第36条第6項第1号)について
ア 理由2は,前記理由1-1のとおり,本件請求項1(請求項1を引用する請求項2?7も同様。)において「半径位置r_(1)」が明確に設定されておらず,「半径位置r_(1)」が設定される範囲は光ファイバの中心からトレンチ層までの範囲にわたるが,明細書の発明の詳細な説明の欄には,特定の「半径位置r_(1)」について課題が解決できることしか記載されておらず,前記「半径位置r_(1)」が設定される全ての範囲について課題が解決できることまでは記載されていないから,本件発明1(本件発明2?7についても同様。)は,発明の詳細な説明に記載したものではない,というものである。
イ 前記1イで検討したとおり,本件訂正により,本件明細書及び図面の記載から,「半径位置r_(1)」が屈折率の変化が最も大きい位置にあることが明確となった。そして,当該位置に「半径位置r_(1)」が設定されたものによって課題が解決できることが本件明細書に記載されているから,理由2は解消されたといえる。
ウ よって,本件発明1?7は,理由2によっては,特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

3 理由3(第36条第4項第1号)について
ア 理由3は,本件請求項1及び請求項8に記載された「コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部」は,本件出願時の技術常識を勘案しても,当業者が本件明細書及び図面の記載に基づいて形成することはできない,というものである。

イ 本件明細書には,段落【0018】及び段落【0057】の記載からみて,請求項1及び8に記載された,「コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部」を備えるものには,実施例1-2及び実施例2-2が該当し,さらに,本件明細書(特に段落【0018】及び【0050】?【0053】)には,それらの各実施例についての製造方法が記載されている。
ところで,上記記載された製造方法においては,中間層にフッ素をドープする透明ガラス化をする工程について,その処理時間の記載がない。
しかしながら,一般に,透明ガラス化の処理時間については,ガラス化温度を含む各条件の下,処理対象の多孔質ガラス母材の透明ガラス化が完了する時間として設定されているといえるから,本件明細書に記載された,前記各実施例についての製造方法における透明ガラス化の処理時間も,同様に設定されていると解される。
また,回答書添付の特開2002-3235号公報(以下「回答書文献」という。)によれば,光ファイバ母材の形成時の焼結時(ガラス化時)に,図6?9,図11,12に示されている各フッ素ドープの分布を得るために,当該分布に応じた処理条件を設定することが記載されていることから,所望のフッ素分布を得るために,ガラス化工程における,処理温度,フッ素流量及び処理時間について一定の制御が必要なことが認められ,当該一定の制御は,前記各実施例における中間層へのフッ素ドープにおいても必要であるといえるものの,申立人が主張するような,「高度な」制御が必要であるとまではいえない。
さらに,申立人は,甲第4号証を提示し,実際の光ファイバの製造においては,理想化された屈折率分布からの逸脱を生じ,「下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部」も発生しうる,と主張するが,かえって,そのような現象が知られているのであれば,その現象の発生を見込んで製造することは当業者に明らかなことである。
ウ よって,訂正発明1?32は,理由3によっては,特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)の規定に違反して特許されたものとはいえない。

4 理由4について
(1)甲1発明
ア 甲第1号証(米国特許出願公開第2010/0296783号公報)には以下の記載がある。

「[0003] The present invention relates to an optical fiber for optical communication, and particularly relates to an optical fiber suitable as a long distance line and Optical Fiber To The Home (FTTH) having transmission length of some tens of kilometers, and interconnection inside or outside homes in local area networks (LAN).」
(日本語訳:本発明は,光通信用の光ファイバに係り,特に数十kmの長さを伝送する長距離線路及び光ファイバ・トゥ・ザ・ホーム(FTTH)やローカル・エリア・ネットワーク(LAN)における宅内外配線用として好適な光ファイバに関する。)
「[0025]FIG. 6 shows a refractive index distribution of an optical fiber base material manufactured in Embodiment Example 3.」
(日本語訳:図6は,実施例3において製造された光ファイバ母材の屈折率分布を示している。)
「[0039] A porous glass base material integrating a first core and a second core is manufactured using a VAD method, vitrified into a transparent glass, which is then stretched into a desired diameter to produce a core material. Further thereon, fluorine is added by providing porous glass at an exterior, to form a third core having a refractive index lower than a silica level, onto which, a clad is added, to manufacture an optical fiber base material. FIG. 6 shows a result of measuring the refractive index distribution of the base material using a commercially available preform analyzer.」
(日本語訳:第1コア及び第2コアを一体化した多孔質ガラス母材をVAD法で作製し,これを透明ガラス化し,さらに所望の径に延伸してコア芯材とした。この上に多孔質ガラスを外付けしてフッ素を添加し,シリカレベルより屈折率の低い第3コアを形成し,さらに,この上にクラッドを付加して光ファイバ母材を作製した。図6は,該母材の屈折率分布を市販のプリフォームアナライザで計測した結果である。)
「[0041]In this optical fiber, the radius of the first core "a" is 4.2 μm, the radius of the second core "b" is 12.5 μm, and the radius of the third core "c" is 14.3 μm (the third core having a smaller refractive index). Moreover, the average Δ_(1) of the specific refractive index difference of the first core is 0.28%, the average Δ_(2) of the specific refractive index difference of the second core is -0.05%, and the minimum Δ_(3) of the specific refractive index difference of the third core is -0.88%. Note that the valueΔ_(1) was obtained by averaging the refractive indices inner than the radius position at which the refractive index of the first cores takes the maximal value, and the value Δ_(2) was obtained by averaging the refractive indices between "a" and "b" for the second core, and the value Δ_(3) was obtained by averaging the refractive indices between "b" and "c" for the third core in the radius direction. In addition, "a" is set at a position corresponding to a half width of Δ_(1) of the first core, and "b" is set at a position where the refractive index distribution in the boundary between the second core and the third core becomes the most precipitous, and "c" is set at a position where the refractive index in the boundary between the third core and the cladding becomes the most precipitous (refer to FIG. 6 ).
(日本語訳:この光ファイバは,第1コアの半径a=4.2μm,第2コアの半径b=12.5μm,屈折率の低い第3コアの半径c=14.3μmであり,第1コアの比屈折率差の平均値Δ_(1)は0.28%,第2コアの比屈折率差の平均値Δ_(2)は-0.05%,及び第3コアの比屈折率差の平均値Δ_(3)は-0.88%であった。なおΔ_(1)は第1コアの屈折率が最大になる半径位置よりも内側の屈折率を平均して求め,Δ_(2)は第2コアのab間の屈折率を平均して求め,Δ_(3)は第3コアのbc間の屈折率を半径方向に平均して求めた。また,aは第1コアのΔ_(1)に対する半値幅の位置とし,bは第2コアと第3コアの境界の屈折率分布が最も急峻になる位置とし,cは第3コアとクラッドの境界の屈折率が最も急峻になる位置とした。)
[0042]This optical fiber has a fiber cutoff wavelength of 1310 nm and a cable cutoff wavelength of 1269 nm, which confirms substantial single mode operation at the wavelength of 1310 nm. The MFD at 1310 nm is 9.61 μm, the zero-dispersion wavelength is 1308 nm, and the zero-dispersion slope is 0.089 ps/nm^(2)/km. The loss increase resulting when this optical fiber is wound on the cylinder having a diameter of 20 mm was 0.055 dB/turn at the wavelength of 1625 nm. Note that the transmission loss at the wavelength of 1383 nm was 0.342 dB/km.」
(日本語訳:この光ファイバのファイバ・カットオフ波長は1310nm,ケーブル・カットオフ波長は1269nmであるので,1310nmでは実質的にシングルモード動作をする。さらに,1310nmにおけるMFDは9.61μmであり,零分散波長は1308nm,零分散スロープは0.089ps/nm^(2)・kmであった。さらに,直径20mmの円筒にこの光ファイバを巻き付けたときの損失増加は波長1625nmにおいて0.055dB/turnであった。なお,波長1383nmにおける伝送損失は0.342dB/kmであった。)
イ ここで,FIG.6は以下のものである。

ウ 上記FIG.6を見ると,第1コアから第2コアにかけて屈折率が大きく低下し,第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて徐々に低下勾配が緩やかになっていることが見て取れる。
エ 以上から,甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
「光通信用の光ファイバであって,
前記光ファイバの第1コアの半径a=4.2μm,第2コアの半径b=12.5μm,屈折率の低い第3コアの半径c=14.3μmであり,第1コアの比屈折率差の平均値Δ_(1)は0.28%,第2コアの比屈折率差の平均値Δ_(2)は-0.05%,及び第3コアの比屈折率差の平均値Δ_(3)は-0.88%であり,ここで,Δ_(1)は第1コアの屈折率が最大になる半径位置よりも内側の屈折率を平均して求め,Δ_(2)は第2コアのab間の屈折率を平均して求め,Δ_(3)は第3コアのbc間の屈折率を半径方向に平均して求め,aは第1コアのΔ_(1)に対する半値幅の位置とし,bは第2コアと第3コアの境界の屈折率分布が最も急峻になる位置とし,cは第3コアとクラッドの境界の屈折率が最も急峻になる位置としたものであり,
前記光ファイバを形成するための光ファイバ母材の屈折率分布は,第1コアから第2コアにかけて屈折率が大きく低下し,第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて徐々に低下勾配が緩やかになっているものである,
光ファイバ。」

(2)甲2発明
ア 甲第2号証(米国特許第7,676,129号明細書)には以下の記載がある。
「The present invention relates generally to optical fiber, and particularly to bend resistant single moded optical fibers.」(1欄7?8行)
(日本語訳:本発明は,概して光ファイバに関し,特に曲げ耐性のあるシングルモード光ファイバに関するものである。)
「FIG. 7 shows a measured relative refractive index profile of another embodiment of an optical waveguide fiber as disclosed herein.」(2欄41?43行)
(日本語訳:図7は,本明細書で開示される光導波路ファイバの他の実施形態の相対屈折率測定プロファイルを示している。)
「Example 16 sets forth refractive index profiles and properties of optical fiber made in accordance with embodiments disclosed herein. The optical fiber was a single mode 125 mm diameter fiber with a fluorine doped annular ring region. Table 5 lists characteristics of illustrative Example 16 and FIG. 7 shows a measured relative refractive index profile of illustrative Example 16.」(9欄60?67行)
(日本語訳:実施例16は,本明細書に開示された実施形態により製造された光ファイバの屈折率プロファイル及び特性を説明するものである。この光ファイバは,環状領域にフッ素が添加された125mm径シングルモードファイバであった。表5は,例示的な実施例16の特性を列挙しており,図7は,例示的な実施例16の相対屈折率の測定プロファイルを示している。)
(決定注:「125mm径」は,「125μm径」の誤記と認められる。)
イ ここで,TABLE 5及びFIG.7は以下のものである。

ウ 上記FIG.7を見ると,中心付近の高い屈折率が,中心から離れるに従って,いったん大きく低下した後,低下勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて低下勾配が緩やかになるとともに細かな増減の後,より屈折率が低い部分へと大きく低下し,更に外周において屈折率が上昇した領域が続いていることが見て取れる。
エ 以上から,甲第2号証には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲2発明」という。)。
「曲げ耐性のあるシングルモード光ファイバであって,
環状領域にフッ素が添加された125μm径シングルモード光ファイバであり,
前記シングルモード光ファイバの屈折率分布は,中心付近の高い屈折率が,中心から離れるに従って,いったん大きく低下した後,低下勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて低下勾配が緩やかになるとともに細かな増減の後,より屈折率が低い部分へと大きく低下し,更に外周において屈折率が上昇した領域が続いているものである,
シングルモード光ファイバ。」

(3)対比
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の,「第1コア」,「第2コア」,「屈折率の低い第3コア」及び「クラッド」は,それぞれ,本件発明1の「中心部に半径r_(1)のコア」,「該コアに半径位置r_(1)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(2)の中間層」,「該中間層に半径位置r_(2)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(3)の低屈折率トレンチ層」,及び「該低屈折率トレンチ層に半径位置r_(3)で隣接してその外周を覆う外側クラッド層」に相当する。
(イ)甲1発明の「光ファイバ」は,本件発明1の「光ファイバ」に相当する。
(ウ)よって,両者は以下の点で一致する。
「中心部に半径r_(1)のコア,該コアに半径位置r_(1)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(2)の中間層,該中間層に半径位置r_(2)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(3)の低屈折率トレンチ層,及び該低屈折率トレンチ層に半径位置r_(3)で隣接してその外周を覆う外側クラッド層からなる光ファイバ」
(エ)一方,両者は以下の点で相違する(以下「相違点1」という。)。
本件発明1は「前記中間層の屈折率が,内側から外側に向かって連続的になだらかに低下して半径位置r_(1)で最大値をとり,半径位置r_(2)で最小値をとり,且つ,コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部を有する」構成を備えるが,甲1発明は,そのような構成を備えるのか明らかでない点。

イ 本件発明1と甲2発明とを比較する。
(ア)甲2発明の,「中心付近の高い屈折率」の部分,「低下勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて低下勾配が緩やかになるとともに細かな増減」をする部分,「より屈折率が低い部分へと大きく低下し」た部分,及び「更に外周において屈折率が上昇した領域」は,それぞれ,本件発明1の「中心部に半径r_(1)のコア」,「該コアに半径位置r_(1)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(2)の中間層」,「該中間層に半径位置r_(2)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(3)の低屈折率トレンチ層」,及び「該低屈折率トレンチ層に半径位置r_(3)で隣接してその外周を覆う外側クラッド層」に相当する。
(イ)甲2発明の「シングルモード光ファイバ」は,本件発明1の「光ファイバ」に相当する。
(ウ)よって,両者は以下の点で一致する。
「中心部に半径r_(1)のコア,該コアに半径位置r_(1)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(2)の中間層,該中間層に半径位置r_(2)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(3)の低屈折率トレンチ層,及び該低屈折率トレンチ層に半径位置r_(3)で隣接してその外周を覆う外側クラッド層からなる光ファイバ」
(エ)一方,両者は以下の点で相違する(以下「相違点2」という。)。
本件発明1は「前記中間層の屈折率が,内側から外側に向かって連続的になだらかに低下して半径位置r_(1)で最大値をとり,半径位置r_(2)で最小値をとり,且つ,コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部を有する」構成を備えるが,甲2発明は,そのような構成を備えるのか明らかでない点。

(4)判断
ア 相違点1について
甲1発明においては,「光ファイバを形成するための光ファイバ母材の屈折率分布は,第1コアから第2コアにかけて屈折率が大きく低下し,第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて徐々に低下勾配が緩やかになっているものである」ことから,当該光ファイバ母材から形成された光ファイバにおいても,「屈折率分布は,第1コアから第2コアにかけて屈折率が大きく低下し,第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて徐々に低下勾配が緩やかになっている」ものといえる。
ここで,「第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて徐々に低下勾配が緩やかになっている」部分は,相違点1にかかる,「半径位置r_(1)で最大値をとり,半径位置r_(2)で最小値をとり,且つ,コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部を有する」ことに対応する構成とみることができる。
しかしながら,甲1発明に係る光ファイバにおける「屈折率分布は,第1コアから第2コアにかけて屈折率が大きく低下し,第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかになり」との構成を備えるものといえるところ,当該構成部分について,相違点1に係る「中間層の屈折率が,内側から外側に向かって連続的になだらかに低下して」いる構成を備えるとは言いがたい。
すなわち,甲第1号証の記載及びFIG.6を見る限り「第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかにな」る箇所は,屈折率分布曲線の1点において直ちに「低下の勾配が緩やかにな」っていることから,「連続的になだらかに低下して」いるものとはいえない。
この点に関し,申立人は,意見書において,本件発明1に係る「なだらか」の程度が不明であり,また,甲第1号証のFIG.6における「第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかにな」る箇所も丸みを持って曲がっており,「なだらか」といえる旨を主張するが,少なくとも,当該FIG.6を見る限り「丸み」を持っているとは認められない。また,本件明細書の記載から,本件に係る図3及び図8に示されている程度の屈折率曲線が,「連続的になだらかに低下して」いるものであることは明らかである。
よって,相違点1は実質的なものであるから,甲1発明が本件発明1であるとはいえない。

イ 相違点2について
前記(3)イ(ア)のとおり,甲2発明における,「低下勾配が緩やかになり,これに続いてやや低下勾配が増加し,さらに続いて低下勾配が緩やかになるとともに細かな増減」をする部分が,本件発明1の「該コアに半径位置r_(1)で隣接してその外周を覆い最外半径r_(2)の中間層」に相当するところ,「低下勾配が緩やかにな」るところ,「これに続いてやや低下勾配が増加」するところ,及び「さらに続いて低下勾配が緩やかになる」構成が,相違点1にかかる,「半径位置r_(1)で最大値をとり,半径位置r_(2)で最小値をとり,且つ,コア側からトレンチ部に向かって,下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する屈折率の突出部を有する」ことに対応する構成とみることができる。
しかしながら甲2発明に係るシングルモード光ファイバは,屈折率分布について,「細かな増減」をする部分を有するから,相違点2に係る「前記中間層の屈折率が,内側から外側に向かって連続的になだらかに低下」構成を備えているとはいえない。
申立人は,意見書において,甲第2号証の図7に係る屈折率の細かい増減は,光ファイバ母材からのかい離に基づくものであって,光ファイバ母材にあっては前記細かい増減が除去された屈折率分布を有する旨を主張する。しかしながら,前記「かい離」により,どのように屈折率分布が変化するかは,個々の状況に応じて種々変化するものといえるから,仮に前記「かい離」が存在するとしても,前記図7に係る屈折率の細かい増減が,当該「かい離」のみに起因するものであって,光ファイバ母材には,前記細かい増減は有さないとの主張は根拠を欠くものである。
よって,相違点2は実質的なものであるから,甲2発明が本件発明1であるとはいえない。

ウ なお,甲第1号証の図7には,第2コアの第1コア側において,屈折率が連続的に変化しつつ突出部を形成するものが示されているが,当該突出部の頂部における屈折率が,より第1コア側における屈折率よりも高くなっているから,相違点1及び2に係る「内側から外側に向かって連続的になだらかに低下して」との構成を備えるものとはいえない。
この点について,申立人は,意見書において,屈折率曲線が「下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する」ことにより,いったん低下した屈折率が上昇した後に改めて低下することは当然である旨を主張するが,屈折率曲線が「下に凸状→上に凸状→下に凸状に変化する」ことと,(増加することなく)なめらかに減少することは,例えば本件図面(例えば図8)にも示されているように両立することであるから,申立人の前記主張はあたらない。

エ 本件発明2?7は,いずれも本件発明1に係る構成を包含するから,甲1発明及び甲2発明のいずれについても,本件発明2?7であるとはいえない。

(5)小括
よって,本件発明1?7は,理由4によっては,特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないから,請求項1ないし7に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

5 理由5について
(1)甲1発明
前記4(1)と同じである。
(2)甲2発明
前記4(2)と同じである。
(3)対比
前記4(3)と同じである。
(4)判断
ア 相違点1について
前記4(4)アのとおり,甲1発明は,甲第1号証の記載及びFIG.6を見る限り「第2コアの第1コア側において,低下の勾配が緩やかにな」る箇所は,屈折率分布曲線の1点において直ちに「低下の勾配が緩やかにな」っていることから,「連続的になだらかに低下して」いるものとはいえないところ,当業者にとって,前記屈折率分布曲線の1点において直ちに「低下の勾配が緩やかにな」っている部分を連続的ななだらかな変化なものとする動機は見いだせないから,甲1発明において,相違点1を備えることは,当業者が容易になし得たことではない。

イ 相違点2について
前記4(4)イのとおり,甲2発明は,屈折率分布について,「細かな増減」をする部分を有するから,相違点2に係る「前記中間層の屈折率が,内側から外側に向かって連続的になだらかに低下」構成を備えているとはいえないところ,当業者にとって,前記屈折率分布についての「細かな増減」をする部分に代えて,相違点2に係る「連続的になだらかに低下」するものとする動機は見いだせないから,甲2発明において,相違点2を備えることは,当業者が容易になし得たことではない。

ウ 本件発明2?7については,いずれも本件発明1に係る構成を包含するから,甲1発明及び甲2発明のいずれに基づいても,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)小括
よって,本件発明1?7は,理由5によっては,甲1発明及び甲2発明のいずれに基づいても,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,請求項1ないし7に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,理由1ないし5によっては,本件発明1ないし32に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件発明1ないし32に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 【図面】













 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-21 
出願番号 特願2013-256093(P2013-256093)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 536- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 里村 利光  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 西村 直史
近藤 幸浩
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6124778号(P6124778)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 光ファイバ、光ファイバ用シリカガラス母材、および光ファイバの製造方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  
代理人 平山 晃二  
代理人 龍華国際特許業務法人  
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