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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1348730 |
異議申立番号 | 異議2018-700851 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-17 |
確定日 | 2019-01-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6323398号発明「熱伝導性シリコーンパテ組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6323398号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6323398号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成27年6月10日の出願であって、平成30年4月20日にその特許権の設定登録がされ、同年5月16日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月17日に、特許異議申立人 柏木 里実(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2010-100665号公報 甲第2号証:特開2007-150349号公報 甲第3号証:特開2004-39829号公報 甲第4号証:特開平2-107667号公報 甲第5号証:特許第2930298号公報 (以下、「甲第1号証」?「甲第5号証」を、「甲1」?「甲5」という。) 第2 本件特許発明について 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 下記成分(A)?(D)を含有してなる熱伝導性シリコーンパテ組成物。 (A)下記一般式(1) R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1) 〔式中、R^(1)は炭素数1?18の飽和又は不飽和の一価炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、aは1.8≦a≦2.2である。〕 で表される25℃における動粘度が10?100,000mm^(2)/sのオルガノポリシロキサン:100質量部、 (B)下記一般式(1) R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1) 〔式中、R^(1)は炭素数1?18の飽和又は不飽和の一価炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、aは1.8≦a≦2.2である。〕 で表されるキシレン可溶なオルガノポリシロキサンを、キシレン中に30質量%溶解させた時に、25℃における絶対粘度が5,000?40,000mPa・sのオルガノポリシロキサン生ゴム:1?50質量部、 (C)平均粒径0.5?10μmの水酸化アルミニウム粉末:10?200質量部、 (D)平均粒径0.5?100μmの、アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末の中から選択される1種以上の無機化合物粉末:500?3,000質量部。 【請求項2】 (A)成分が、両末端にトリメチルシリル基を有する直鎖状ジメチルポリシロキサン又はジメチル・メチルデシルポリシロキサンであり、(B)成分が、両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサン生ゴム又は両末端にヒドロキシ基を有するジメチルポリシロキサン生ゴムである請求項1記載の熱伝導性シリコーンパテ組成物。 【請求項3】 (E)下記一般式(2) 【化1】 (式中、R^(2)は炭素数1?6のアルキル基、R^(3)は炭素数1?18の飽和又は不飽和の一価炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、bは5?120の整数である。) で表される片末端3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンを成分(A)100質量部に対し1?50質量部含むことを特徴とする請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーンパテ組成物。 【請求項4】 成分(A)及び(B)を分散又は溶解する溶剤(F)を成分(A)100質量部に対し1?100質量部含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンパテ組成物。 【請求項5】 前記成分(F)は、沸点80?260℃のイソパラフィン系溶剤であることを特徴とする請求項4記載の熱伝導性シリコーンパテ組成物。」 第3 特許異議申立ての理由 申立人が、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において主張する取消理由は、以下のとおりである。 <取消理由> 本件発明1ないし3は、甲1及び甲2?甲4(甲2?4は周知技術)から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という)。 また、本件発明4及び5は、甲1及び甲2?5(甲2?4は周知技術)から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という)。 第4 当審の判断 1 取消理由1について (1)甲1ないし甲4の記載及び甲1に記載された発明 ア 甲1には、以下の記載がある。 (ア)「【請求項1】 下記成分(A)?(C)を含有してなる熱伝導性シリコーングリース組成物。 (A)平均粒径が0.5?5μmの水酸化アルミニウム粉末αと、平均粒径が6?20μmの水酸化アルミニウム粉末βの2種類の水酸化アルミニウム粉末を、α/(α+β)=0.1?0.9の割合で混合し、且つ混合後の平均粒径が1?15μmとなる水酸化アルミニウム粉末混合物: 20?95質量%、 (B)下記一般式(1) R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2 ) (1) 〔式中、R^(1)は炭素数1?18の飽和又は不飽和の一価炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、aは1.8≦a≦2.2である。〕 で表される25℃における動粘度が10?500,000mm^(2)/sのオルガノポリシロキサン: 5?30質量%、 (C)平均粒径0.5?100μmの、アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末の中から選択される1種以上の無機化合物粉末: 0?60質量%。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、耐ズレ性に優れた熱伝導性シリコーングリース組成物に関する。」 (ウ)「【0009】 本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、低粘度で且つ高熱伝導率でありながら、大幅に耐ズレ性の向上が認められる。」 記載事項(ア)から、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。 「下記成分(A)?(C)を含有してなる熱伝導性シリコーングリース組成物。 (A)平均粒径が0.5?5μmの水酸化アルミニウム粉末αと、平均粒径が6?20μmの水酸化アルミニウム粉末βの2種類の水酸化アルミニウム粉末を、α/(α+β)=0.1?0.9の割合で混合し、且つ混合後の平均粒径が1?15μmとなる水酸化アルミニウム粉末混合物:20?95質量%、 (B)下記一般式(1) R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2 ) (1) 〔式中、R^(1)は炭素数1?18の飽和又は不飽和の一価炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、aは1.8≦a≦2.2である。〕 で表される25℃における動粘度が10?500,000mm^(2)/sのオルガノポリシロキサン:5?30質量%、 (C)平均粒径0.5?100μmの、アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末の中から選択される1種以上の無機化合物粉末:0?60質量%。」(以下、「甲1発明」という。) イ 甲2には、以下の記載がある。 (ア-2)「発熱性電子部品と放熱部品との間に配置され、電子部品動作以前の温度では流動性がなく、電子部品動作時の発熱により40?100℃の温度で低粘度化、軟化、または溶融することにより電子部品と放熱部品との境界に実質的に充填される熱軟化性熱伝導性部材において、下記(A)?(C)成分からなる組成物をシート状に成形してなることを特徴とする熱軟化性熱伝導性部材。 (A)熱可塑性シリコーン樹脂100質量部 (B)平均粒径1?50μmのアルミニウム粉末 (C)平均粒径0.1?5μmの酸化亜鉛粉末 (B)成分と(C)成分の合計400?1200質量部 (B)成分と(C)成分の質量比が、(B)成分/(C)成分=1?10の範囲 ・・・ 【請求項3】 25℃における粘度0.2Pa・s以上のシリコーンオイルあるいはシリコーン生ゴム0?45質量部で、(A)成分の熱可塑性シリコーン樹脂の一部を置き換えることを特徴とする請求項1及び請求項2記載の熱軟化性熱伝導性部材。」 (イ-2)「【0033】 上記の熱軟化、低粘度化または融解する温度は熱伝導性部材としてのものであり、シリコーン樹脂自体は40℃未満に融点を持つものであってもよい。熱軟化を起こす媒体は、上記したようにシリコーン樹脂の中から選択されればどのようなものでもよいが、室温で非流動性を維持するために、R^(1)SiO_(3/2)単位(以下、T単位と称する)および/またはSiO_(2)単位(以下Q単位と称する)を含んだ重合体、およびこれらとR^(1)_(2)SiO_(2/2)単位(以下D単位と称する)との共重合体等が例示される。別途、D単位からなるシリコーンオイルやシリコーン生ゴムを添加してもよい。これらの中でもT単位とD単位を含むシリコーン樹脂、およびT単位を含むシリコーン樹脂と25℃における粘度が0.2Pa・s以上のシリコーンオイルまたはシリコーン生ゴムの組み合わせが好ましい。シリコーン樹脂は末端がR^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(M単位)で封鎖されたものであってもよい。 ・・・ 【0036】 なお、通常用いられるM単位とT単位、あるいはM単位とQ単位とから合成されたシリコーン樹脂であっても、これに主としてD単位からなり末端はM単位である粘度0.2Pa・s以上のシリコーンオイルもしくはシリコーン生ゴムを混合することによって脆さが改良される。よって、熱軟化するシリコーン樹脂がT単位を含み、D単位を含まない場合には、D単位を主成分とするシリコーンオイルもしくはシリコーン生ゴム等を添加すれば取り扱い性に優れた材料となり得る。この場合、シリコーンオイルまたはシリコーン生ゴムの添加量は、シリコーン樹脂100質量部の内、0?45質量部を置き換える量、特に5?40質量部を置き換える量が好ましい。未添加では取扱い性が悪くなり、45質量部を越える場合には、室温でも流動性が出て本成分が組成物から分離するおそれがある。」 ウ 甲3には、以下の記載がある。 (ア-3)「【請求項1】 動作時に室温より高温となる発熱性電子部品と該発熱性電子部品から発生した熱を放熱する為の放熱部品との間に狭持される放熱部材において、該放熱部材が、厚さが1?50μmでありかつ熱伝導率が10?500W/mKである金属箔及び/又は金属メッシュを中間層とし、その中間層の両面に、シリコーン樹脂100重量部と熱伝導性充填剤1,000?3,000重量部を含有する熱伝導性組成物からなる層を、全体の厚さが40?500μmの範囲となるように形成させてなる放熱部材であり、前記発熱性電子部品動作以前の室温では非流動性であると共に、電子部品動作時の発熱によって、樹脂および低融点金属の相転移に基づく低粘度化、軟化、若しくは溶融が生じ、前記電子部品と放熱部品との境界に実質的に空隙なく充填される放熱部材であって、前記熱伝導性充填剤として、溶融温度が40?250℃であると共に平均粒径が0.1?100μmである低融点金属粉末(1)、及び溶融温度が250℃を越えると共に平均粒径が0.1?100μmである熱伝導性粉末(2)が、(1)/〔(1)+(2)〕=0.2?1.0となるように含有されてなることを特徴とする放熱部材。 ・・・ 【請求項3】 前記シリコーン樹脂が、分子中にRSiO_(3/2)単位(T単位)(Rは炭素数1?10の非置換又は置換一価炭化水素基)を含有するシリコーン樹脂を含むと共に、25℃における粘度が100Pa・s以上のシリコーンオイル又はシリコーン生ゴムを含有する、請求項1又は2に記載された放熱部材。」 (イ-3)「【0013】 ここで、本発明における熱軟化、低粘度化又は融解する温度は放熱部材としてのものであり、シリコーン樹脂自体は40℃未満に融点をもつものであってもよい。熱軟化を起こす媒体は、上記したようにシリコーン樹脂の中から適宜選択されるが、常温で非流動性を維持するために、RSiO_(3/2)単位(以下、T単位と称する)及び/又はSiO_(2)単位(以下Q単位と称する)を含んだ重合体、これらとR_(2)SiO単位(以下D単位と称する)との共重合体等が例示される。これらの(共)重合体の末端はR_(3)SiO_(1/2)単位(M単位)で封鎖されていても良い。また、更にD単位からなるシリコーンオイルやシリコーン生ゴムを添加してもよい。これらの中でも、T単位とD単位を含む樹脂、T単位を含むシリコーン樹脂と25℃における粘度が100Pa・s以上のシリコーンオイル又はシリコーン生ゴムの組み合わせが特に好ましい。」 エ 甲4には、以下の記載がある。 (ア-4)「1.1)1分子中にアルケニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン 100重量部 2)1分子中にけい素原子に直結した水素原子(≡SiH基)を少なくとも3個有するオルガノハイドロジエンポリシロキサンが、1)成分中に含まれるアルケニル基に対し0.5?5倍モルになる≡SiH基を供する量 3)触媒量の白金化合物 4)無機質充填剤 20?600重量部 5)けい素原子に結合した全有機基のうち炭素数7個?30個のアルキル基を少なくとも5モル%有するオルガノポリシロキサン 5?60重量部 とからなることを特徴とするパテ状硬化性オルガノポリシロキサン組成物。」(特許請求の範囲) (イ-4)「本発明はパテ状硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特には、硬化前に内部離型剤がブリードすることによりパテ状であって、硬化後その内部離型剤のブリードが少ないために外観を損なったり寸法精度が低下せず、印象材料などに有用とされるパテ状硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものである。」(1頁右下欄4?10行) (ウ-4)「このようにして得られた本発明の組成物は上記した第5成分としてのアルキル変性シロキサンが配合されているので使用時におけるA液とB液との混練を容易に行うことができるし、混合硬化後アルキル変性シロキサンが流動パラフィンなどの炭化水素のように激しくにじみ出すこともないので、精密な印象ができ、表面に色をつけたりすることも容易である。この為手型や歯型のような人体を対照とする印象用として有用であり、型取りした後の硬化物を長く保存する場合特に有用である。これはまた垂直面や物体の印象用、鑑識用、電機絶縁用などとしても広く使用することができる。」(3頁右下欄7?19行) (エ-4)「実施例1 粘度が2,500cSである分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン油(以下ビニルシロキサン油と略記する)80重量部、粘度が1,000,000Piseである分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、ビニル基量が0.012モル%であるジメチルポリシロキサン生ゴム(以下シロキサン生ゴムと略記する)20重量部、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金量1重量%、以下白金触媒と略記する)0.3重量部、平均粒径が4μmである石英粉末180重量部、平均粒径が2μmであるけいそう土20重量部、平均式が であるアルキル変性シロキサン油(以下変性シロキサン油と略記する)30重量部を混合攪拌機を用いて均一に混合攪拌してパテA_(0)を作った。一方、ビニルシロキサン油75重量部、シロキサン生ゴム20重量部、粘度が12cSである分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された、メチルハイドロジェンシロキサン単位を17モル%含有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(以下Hシロキサンと略記する)5重量部、石英粉末180重量部、けいそう土20重量部、変性シロキサン油30重量部を同様に混合攪拌機を用いて均一に混合攪拌してパテB_(0)を作った。 ついで、このパテA_(0)とパテB_(0)を等量手で混合し60℃において1時間硬化させた。硬化物は室温で1力月放置したがオイルのにじみ出しは全く無かった。」(4頁左上欄1行?右上欄14行) (2)対比・判断 ア 本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の、「(A)平均粒径が0.5?5μmの水酸化アルミニウム粉末αと、平均粒径が6?20μmの水酸化アルミニウム粉末βの2種類の水酸化アルミニウム粉末を、α/(α+β)=0.1?0.9の割合で混合し、且つ混合後の平均粒径が1?15μmとなる水酸化アルミニウム粉末混合物」は、「水酸化アルミニウム粉末」であり、その「1?15μm」との平均粒径は、本件発明1における「水酸化アルミニウム粉末」の平均粒径である「0.5?10μm」と重複するから、本件発明1の、「(C)平均粒径0.5?10μmの水酸化アルミニウム粉末」に相当する。 甲1発明の、「(B)下記一般式(1)・・・で表される25℃における動粘度が10?500,000mm^(2)/sのオルガノポリシロキサン」は、本件発明1の、「(A)下記一般式(1)・・・で表される25℃における動粘度が10?100,000mm^(2)/sのオルガノポリシロキサン」に相当する。 甲1発明の、「(C)平均粒径0.5?100μmの、アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末の中から選択される1種以上の無機化合物粉末」は、本件発明1の、「(D)平均粒径0.5?100μmの、アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末の中から選択される1種以上の無機化合物粉末」に相当する。 そして、甲1発明における「(A)・・・水酸化アルミニウム粉末混合物:20?95質量%」、「(B)・・・オルガノポリシロキサン:5?30質量%」、「(C)・・・無機化合物粉末:0?60質量%」の量比について、「(B)・・・オルガノポリシロキサン」の量を100質量部として換算すると、「(A)・・・水酸化アルミニウム粉末混合物」は66.6質量部(=(20/30)×100)?1900質量部(=(95/5)×100)、「(C)・・・無機化合物:0?60質量%」は、0質量部?1200質量部(=(60/5)×100)となるから、上記甲1発明における量比は、本件発明1における、「(A)・・・オルガノポリシロキサン:100質量部」、「(C)・・・水酸化アルミニウム粉末:10?200質量部」、「(D)・・・無機化合物粉末:500?3,000質量部」との量比と重複する。 してみると、本件発明1と甲1発明とは、 「下記成分(A)、(C)及び(D)を含有してなる熱伝導性シリコーン組成物。 (A)下記一般式(1) R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1) 〔式中、R^(1)は炭素数1?18の飽和又は不飽和の一価炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、aは1.8≦a≦2.2である。〕 で表される25℃における動粘度が10?100,000mm^(2)/sのオルガノポリシロキサン:100質量部、 (C)平均粒径0.5?10μmの水酸化アルミニウム粉末:10?200質量部、 (D)平均粒径0.5?100μmの、アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末の中から選択される1種以上の無機化合物粉末:500?3,000質量部。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1では、「(B)下記一般式(1)R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2)(1)〔式中、R^(1)は炭素数1?18の飽和又は不飽和の一価炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、aは1.8≦a≦2.2である。〕で表されるキシレン可溶なオルガノポリシロキサンを、キシレン中に30質量%溶解させた時に、25℃における絶対粘度が5,000?40,000mPa・sのオルガノポリシロキサン生ゴム:1?50質量部」含むのに対して、甲1発明ではこの点についての特定がない点。 <相違点2> 「熱伝導性シリコーン組成物」につき、本件発明1では、「熱伝導性シリコーンパテ組成物」であるのに対して、甲1発明では、「熱伝導性シリコーングリース組成物」である点。 (イ)上記相違点について検討する。 相違点1につき、申立書には、シリコーン組成物に生ゴムを加えることは、甲2ないし甲4から周知であるから、当該相違点は本質的相違点とはいえない旨の主張がある(申立書13頁11?30行)ので、以下、検討する。 a 申立人の主張するとおり、確かに、甲2ないし甲4には、シリコーン組成物にシリコーン生ゴム、すなわち、オルガノポリシロキサン生ゴムを含有させることが記載されている(記載事項(ア-2)、(イ-2)、(ア-3)、(イ-3)、及び(エ-4))。 しかしながら、甲2及び甲3は、室温で流動性がない、シート状の熱軟化性熱伝導部材を形成するシリコーン組成物について記載するものであって(記載事項(ア-2)、(イ-2)、(ア-3)及び(イ-3))、シリコーングリース組成物については、何ら記載がない。 また、甲4は印象材料などに有用とされる、パテ状硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものであり、電気絶縁用の用途も記載されているものの(記載事項(ア-4)、(イ-4)及び(ウ-4))、熱伝導性のシリコーン組成物については、何ら記載がない。 してみると、仮に、甲2ないし甲4の記載から、シリコーン組成物にオルガノポリシロキサン生ゴムを含有させることが周知であるといえるとしても、熱伝導性シリコーングリース組成物に、オルガノポリシロキサン生ゴムを配合することまでもが周知であるとはいえないから、甲1発明において、オルガノポリシロキサン生ゴムを含有させることについての動機付けは、何ら見いだせない。 ましてや、キシレン中に30質量%溶解させた時に、25℃における絶対粘度が5,000?40,000mPa・sのオルガノポリシロキサン生ゴムを、特定の量で、甲1発明の「熱伝導性シリコーングリース組成物」に含有させることについては、何ら動機づけられるものではない。 b ここで、本件発明1は、キシレン中に30質量%溶解させた時に、25℃における絶対粘度が特定の値を示すオルガノポリシロキサン生ゴムを含有することにより、流動性がありながら、大幅に耐ズレ性の向上が認められるという効果を奏するものと認められる(【0007】、実施例)ので、当該効果が甲1ないし甲4から予測をすることができたものであるか否かについて検討する。 甲1には、耐ズレ性に優れる旨の記載及び低粘度である旨の記載がある(記載事項(イ)及び(ウ))。 しかしながら、甲1には、本件特許明細書に記載された「ディスペンス性」(【0030】)に裏付けられる流動性についての記載はない。 さらに、甲2ないし甲4にも、流動性がありながら、耐ズレ性の向上が認められることについての記載は、何らみあたらない。 してみると、上記本件発明1の効果は、甲1ないし甲4から当業者が予測をすることのできないものである。 c 以上のとおりであるから、相違点1は実質的な相違点であり、また、当該相違点に係る事項は、当業者が容易に想到しうるものではない。 そうすると、相違点2について、申立書には、「パテ」と「グリース」は性状及び特性が近似しており、境界は定かではなく、当業界においては混同して使われることもあり、両者は置換容易である旨の主張があるが(申立書13頁5?10行)、当該主張の適否を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術(甲2?甲4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものである。 そして、上記アに述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明及び周知技術(甲2?甲4)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、本件発明2及び3も、甲1に記載された発明及び周知技術(甲2?甲4)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ よって、取消理由1は、理由がない。 2 取消理由2について 本件発明4及び5は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものである。 そして、上記1(2)アに述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明及び周知技術(甲2?甲4)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないのだから、本件発明4及び5も、甲1発明及び周知技術(甲2?甲4)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、さらに甲5の記載を併せ考えても、甲5には、上記1(2)アで検討した相違点1に係る事項、すなわち、オルガノポリシロキサン生ゴムを配合することについて、何ら記載がないから、本件発明4及び5が、甲1発明及び甲2?5(甲2?4は周知技術)に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 よって、取消理由2は、理由がない。 3 小括 以上のとおりであるから、申立書の取消理由及び証拠によっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 第5 まとめ 上記のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-01-11 |
出願番号 | 特願2015-117204(P2015-117204) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08L)
|
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
井上 猛 海老原 えい子 |
登録日 | 2018-04-20 |
登録番号 | 特許第6323398号(P6323398) |
権利者 | 信越化学工業株式会社 |
発明の名称 | 熱伝導性シリコーンパテ組成物 |
代理人 | 特許業務法人英明国際特許事務所 |