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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C |
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管理番号 | 1348760 |
異議申立番号 | 異議2018-700224 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-13 |
確定日 | 2019-02-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6196381号発明「フラッパ弁用ステンレス鋼帯」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6196381号の請求項1?9に係る特許を取り消す。 |
理由 |
特許第6196381号(2015年(平成27年)12月 8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年12月 9日、欧州特許庁、2015年 8月25日、スウェーデン)を国際出願日とする出願)の請求項1?9に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明9」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の「フラッパ弁用ステンレス鋼帯」「フラッパ弁用ステンレス鋼帯を製造する方法」に関するものである。 「【請求項1】 圧縮機のフラッパ弁用冷間圧延焼入れマルテンサイト/オーステナイトステンレス鋼帯であって、 a)重量%(wt%)で、 C 0.3?0.5 Si 0.2?0.8 Mn 0.2?1.0 Cr 12.0?15.0 Mo 0.5?2.0 N 0.02?0.15 V 0.01?0.20 Ni ≦2.0 Co ≦2.0 Cu ≦2.0 W ≦2.0 Al ≦0.06 Ti ≦0.05 Zr ≦0.05 Nb ≦0.05 Ta ≦0.05 B ≦0.01 Ca ≦0.009 REM ≦0.2 Feおよび不純物 残部 からなる鋼から作製され、 b)焼戻しマルテンサイトおよび5体積%と15体積%の間のオーステナイトからなるマトリックスを有し、 c)引張強度(Rm)が1970?2300MPaであり、 d)厚さが0.07?3mmであり、幅が≦500mmである、鋼帯。 【請求項2】 下記の要件: C 0.35?0.41 Si 0.30?0.60 Mn 0.40?0.65 Cr 13?14 Mo 0.8?1.2 N 0.03?0.13 V 0.02?0.10 Ni ≦0.5 Co ≦0.5 Cu ≦0.5 W ≦0.5 Al ≦0.01 Ti ≦0.01 Zr ≦0.01 Nb ≦0.01 Ta ≦0.01 B ≦0.001 Ca 0.0005?0.002 のうちの少なくとも1つを満たし、 P、SおよびOの不純物含有量が、下記の要件 P ≦0.03 S ≦0.03 O ≦0.003 を満たす、請求項1に記載の帯。 【請求項3】 下記の要件: C 0.35?0.41 Si 0.30?0.60 Mn 0.40?0.65 Cr 13?14 Mo 0.8?1.2 N 0.03?0.10 V 0.03?0.09 を満たす、請求項1または2に記載の帯。 【請求項4】 下記の要件: 引張強度(R_(m))が2000?2200MPa、 降伏強度(R_(P0.2))が1500?1750MPa、 ビッカース硬さ(HV1)が570?650、 延性(ductility)A50が4?9% のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1から3のいずれか一項に記載の帯。 【請求項5】 下記の要件: 反復曲げ疲労(reverse bending fatigue)が>850MPa を満たす、請求項1から4のいずれか一項に記載の帯。 【請求項6】 厚さが0.1?1.5mmであり、かつ/または幅が5?150mmである、請求項1から5のいずれか一項に記載の帯。 【請求項7】 請求項1から6のいずれか一項に記載の帯を製造する方法であって、下記: a)請求項1から3のいずれか一項で規定された組成を有する鋼を熱間圧延する工程と、 b)熱間圧延された帯を、厚さ0.07?3mmに冷間圧延する工程と、 c)冷間圧延された帯を、連続的に焼入れ及び焼戻しする工程と、 d)任意選択により、冷間圧延された帯をスリッティングする(slitting)工程と を含む、方法。 【請求項8】 工程c)において、オーステナイト化温度が1000?1150℃であり、焼戻し温度が200?600℃である、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 焼入れが、帯を溶融鉛もしくは鉛合金の浴内でクエンチすることを伴う、請求項7または8に記載の方法。」 これに対して、平成30年 5月29日付けで当審より以下の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。 1特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について 2特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?9の技術上の意義、すなわち、その作用効果を理解するために必要な事項が記載されているとは認められず、特許法施行規則第24条の2の規定に従って記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合しない。 結果として、本件発明1?9は、その課題を解決することが、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。 その理由は、特許異議申立書第27頁第5行?第31頁第17行の記載のとおりである。 3特許法第36条第6項第2号(明確性)について 本件発明1?9は、明確でない。 その理由は、特許異議申立書第31頁第18行?第32頁第14行の記載のとおりである。 甲第2号証:特開2002-194504号公報 甲第3号証:特開2008-133499号公報 甲第4号証:特開2010-24486号公報 甲第5号証:特開平8-144023号公報 甲第6号証:特開2000-129401号公報 甲第7号証:特開2011-184780号公報 甲第8号証:P.J.Jacques,et al.「On measurement of retained austenite in multiphase TRIP steels-results of blind round robin test involving six different techniques」Materials Science and Technology 2009 vol.25 No.5 p.567-574 そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件請求項1?9に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 なお、上記取消理由において引用した特許異議申立書の引用箇所の記載は以下のとおりである。 1特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について 2特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (特許異議申立書第27頁第4行?第31頁第17行) 「ウ記載不備の理由 (ア)特許法第36条第6項第1号について (i)本件の請求項1は「焼戻しマルテンサイトおよび5体積%と15体積%の間のオーステナイトからなるマトリックスを有」する旨を規定する。しかしながら、本件明細書には、オーステナイトが「5体積%と15体積%の間」である構成自体、かかる構成(数値範囲)の技術的意義、および具体的な実施例による裏付けが一切記載されていない。さらに、オーステナイトの量が鋼帯の組成と製造条件の結果であるとしても、「5体積%と15体積%の間」というオーステナイトの量が、本件の請求項1等で開示する鋼帯の組成および製造条件と一対一で対応するわけではないから(本件明細書においてその旨の説明もない)、オーステナイトが「5体積%と15体積%の間」の特定の範囲であることと、オーステナイトの量が鋼帯の組成と製造条件の結果であることとは、全く別問題である。すなわち、本件請求項1に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないのであり、かかる場合は、実質的に公開されていない発明について権利が発生することとなり、特許法第36条第6項第1号の規定の趣旨に反することとなる。 (ii)本件の請求項1は、鋼帯の「厚さが0.07?3mmであり、幅が≦500mmである」旨を規定する。しかしながら、本件明細書には、鋼帯の「厚さが0.07?3mmであり、幅が≦500mmである」構成自体及びかかる構成(数値範囲)の技術的意義は一切記載されていない。また、例えば、上限を規定する幅に関しては、幅と解決しようとする課題との関係は一切記載されていないし、「≦500mm」という特定の数値範囲が技術常識ということもできない。すなわち、本件請求項1に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない。この点、本件明細書の実施例では「厚さが0.203mmであり、幅が140mmであった」旨を開示しているが(【0038】)、上述のように、本件明細書には、鋼帯の「厚さが0.07?3mmであり、幅が≦500mmである」構成自体およびかかる構成(数値範囲)の技術的意義は一切記載されていないのであるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (iii)本件の請求項1は、「Ca≦0.009」、「REM ≦0.2」を規定する。しかしながら、本件明細書には、「CaおよびREM(希土類金属) これらの元素は、高温加工性を更に改善し、かつ非金属介在物の形を改変するために、特許請求される量で鋼に添加されてもよい。」(【0029】)と記載されているにすぎず、実施例においてもCaやREMの含有量について一切記載はない。 すなわち、本件請求項1に記載されている事項が、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていないのであり、かかる場合は、実質的に公開されていない発明について権利が発生することとなり、特許法第36条第6項第1号の規定の趣旨に反することとなる。 (iv)本件の請求項2は、重量%でCrの上限として「14」、Moの上限として「1.2」、Nの上限として「0.13」、Alの上限として「0.01」、Tiの上限として「0.01」、Zrの上限として「0.01」、Taの上限として「0.01」を規定し、請求項3は、Crの上限として「14」、Moの上限として「1.2」、Vの上限として「0.09」を規定している。 しかしながら、かかる上限を示す数値は本件明細書には一切記載はない。すなわち、本件請求項2および3に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないのであり、かかる場合は、実質的に公開されていない発明に権利が発生することとなり、特許法第36条第6項第1号の規定の趣旨に反することとなる。 (v)本件の請求項4は、「ビッカース硬さ(HV1)が570?650」である旨を規定する。しかしながら、本件明細書には、「ビッカース硬さ(HV1)が570?650」である構成自体、かかる構成(数値範囲)の技術的意義、および具体的な実施例による裏付けが一切記載されていない。さらに、仮にビッカース硬さ(HV1)が鋼帯の組成と製造条件の結果であるとしても、「570?650」というビッカース硬さ(HV1)が、本件の請求項1等で開示する鋼帯の組成および製造条件と一対一で対応するわけではないから(本件明細書においてその旨の説明もない)、「ビッカース硬さ(HV1)が鋼帯の組成と製造条件の結果であることとは、全く別問題である。すなわち、本件請求項1に記載されている事項が、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていないのであり、かかる場合は、実質的に公開されていない発明について権利が発生することとなり、特許法第36条第6項第1号の規定の趣旨に反することとなる。 (vi)本件の請求項4は、「延性(ductility)A50が4?9%」である旨を規定する。しかしながら、本件明細書には、「延性(ductility)A50が4?9%」 である構成自体およびかかる構成(数値範囲)の技術的意義は一切記載されていないし、「延性(ductility)A50が4?9%」という特定の数値範囲が技術常識ということもできない。この点、本件明細書の実施例で開示されているのは「A50の範囲が4%と8%の間」であり、「4?9%」ではない(【0035】)。上述のように、本件明細書には、「延性(ductility)A50が4?9%」である構成自体およびかかる構成(数値範囲)の技術的意義は一切記載されていない。さらに、本件の請求項4は、「引張強度(R_(m))が2000?2200MPa」である点および「降伏強度(RP_(0.2))が1500?1750MPa」である点を規定するが、2000?2200MPaの引張強度(R_(m))の数値範囲や降伏強度(RP_(0.2))の下限1500MPaも、本件明細書には記載も示唆もない。 すなわち、本件請求項4に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないし、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (vii)本件の請求項5は、「反復曲げ疲労(reverse bending fatigue)が>850MPaを満たす」旨を規定する。しかしながら、本件明細書には、「反復曲げ疲労(reverse bending fatigue)が>850MPaを満たす」構成自体、かかる構成(数値範囲)の技術的意義、測定方法・測定条件および具体的な実施例による裏付けが一切記載されていない。さらに、仮に反復曲げ疲労(reverse bending fatigue)が鋼帯の組成と製造条件の結果であるとしても、「>850MPa」という反復曲げ疲労が、本件の請求項1等で開示する鋼帯の組成および製造条件と一対一で対応するわけではないから(本件明細書においてその旨の説明もない)、「反復曲げ疲労(reverse bending fatigue)が>850MPa」という特定の範囲であることと、反復曲げ疲労が鋼帯の組成と製造条件の結果であることとは、まったく別問題である。すなわち、本件請求項5に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないのであり、かかる場合は、実質的に公開されていない発明について権利が発生することとなり、特許法第36条第6項第1号の規定の趣旨に反することとなる。 (viii)本件請求項6は「厚さが0.1?1.5mmであり、かつ/または幅が5?150mmである」旨を規定する。上述のウ(ア)(ii)における事情は本件請求項6にも妥当するから、本件の請求項6に関しても、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (ix)本件請求項7は、請求項1と同様に鋼帯の「厚さが0.07?3mmであり、幅が≦500mmである」旨を規定する。上述のウ(ア)(ii)における事情は本件請求項7にも妥当するから、本件請求項7に関しても、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (x)本件請求項8は「オーステナイト化温度が1000?1150℃であり、焼戻し温度が200?600℃である」旨を規定する。しかしながら、本件明細書には「オーステナイト化温度が1000?1150℃であ」る構成、および「焼戻し温度が200?600℃である」構成並びにかかる構成(数値範囲)の技術的意義は一切記載されていない。 すなわち、本件請求項8に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないし、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (xi)本件請求項9は「帯を溶融鉛もしくは鉛合金の浴内でクエンチする」旨を規定する。しかしながら、本件明細書に記載されているのは「溶融鉛合金中でクエンチ」するという例だけであり、「溶融鉛・・・の浴内でクエンチする」構成およびかかる構成の技術的意義は一切記載されていない。 すなわち、本件請求項9に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないし、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 以上のように、請求項1?9に係る、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件は特許法第36条第6項第1号に規定する、いわゆるサポート要件を満たさない。」 3特許法第36条第6項第2号(明確性)について (特許異議申立書第31頁第18行?第32頁第14行) 「(イ)特許法第36条第6項第2号について (i)本件の請求項1は「焼戻しマルテンサイトおよび5体積%と15体積%の間のオーステナイトからなるマトリックスを有」する旨を規定する。しかしながら、上述のように、本件明細書には、オーステナイトが「5体積%と15体積%の間」である構成自体、かかる構成(数値範囲)の技術的意義、および具体的な実施例による裏付けが一切記載されておらず、オーステナイトの体積%をどのような方法・条件で測定するのかが不明である。 ここで、甲第8号証に記載されているように鋼帯のオーステナイト量を測定する方法は種々存在し、算出されるオーステナイト量の数値も測定方法や測定条件によって異なることは技術常識である。しかも、鋼帯の技術分野において、専らある特定の測定方法を用いるとの技術常識もない。例えば、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証にはX線回折による方法が開示され、甲第5号証、甲第6号証には飽和磁化による方法が開示され、甲第7号証には、透過型電子顕微鏡観察による方法が開示されている。しかも甲第8号証にも記載されているように、例えば、同じX線回折による方法でも測定条件によって残留オーステナイト量が大きく異なることも技術常識である。そうすると、結局のところ、測定方法も測定装置・測定条件も開示されていない本件においては、当業者の出願時における技術的常識を基礎としても、「焼戻しマルテンサイトおよび5体積%と15体積%の間のオーステナイトからなるマトリックスを有」する点を一義的に特定することができず、特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確というべきである。かかる事情は、請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2?9においても同様である。 したがって、本件は特許法第36条第6項第2号に規定する、明確性要件を満たさない。」 |
別掲 |
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異議決定日 | 2018-09-27 |
出願番号 | 特願2016-535110(P2016-535110) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Z
(C22C)
P 1 651・ 536- Z (C22C) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 鈴木 毅 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
結城 佐織 板谷 一弘 |
登録日 | 2017-08-25 |
登録番号 | 特許第6196381号(P6196381) |
権利者 | フェストアルピーネ プレジション ストリップ アーベー |
発明の名称 | フラッパ弁用ステンレス鋼帯 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |
代理人 | 緒方 雅昭 |