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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C |
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管理番号 | 1348998 |
審判番号 | 訂正2018-390139 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-09-18 |
確定日 | 2019-01-18 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5012499号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5012499号の明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第5012499号(以下、「本件特許」という。)は、平成19年12月27日に出願され、その請求項1ないし4に係る発明について、平成24年6月15日に特許権の設定登録がされたものであって、平成30年9月18日に本件訂正審判の請求がされ、その後、同年11月6日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年11月22日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 審判請求書、訂正明細書及び訂正図面の補正、並びにその適否 当審が平成30年11月6日付けで請求人に通知した訂正拒絶理由の要旨は、訂正事項3及び4の訂正は特許法第126条第1項ただし書に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない、というものである。この訂正拒絶理由に対し、請求人は、平成30年11月22日付けで意見書、並びに審判請求書を補正(以下、「本件補正」という。)する手続補正書を提出した。 本件補正の内容は、平成30年9月18日付け審判請求書の「6 請求の理由」の「(2)訂正事項」から「ウ 訂正事項3」及び「エ 訂正事項4」を削除し、「(3)訂正の理由」から「ウ 訂正事項3」及び「エ 訂正事項4」を削除するものである。 本件補正による訂正事項3及び4の削除は、審判請求書の要旨を変更するものではない。よって、本件補正は特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、補正を認める。 これにより、当審による訂正拒絶理由は解消した。 第3 請求の趣旨及び訂正の内容 本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の明細書及び図面を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであり、その訂正内容は、次のとおりである(下線部分は訂正箇所を示す。)。 1 訂正事項1 明細書の段落【0024】の「本発明の深溝玉軸受に係る好適な実施形態」との記載を「本発明の深溝玉軸受に係る好適な実施形態及び参考形態」に訂正し、同段落【0025】及び【0047】中の「第1実施形態」との記載を「第1参考形態」に訂正し、同段落【0034】、【0035】、【0038】、【0039】及び【0042】の「本実施形態」との記載を「本参考形態」に訂正し、同段落【0074】【図1】の説明中の「本発明の第1実施形態」との記載を「第1参考形態」に訂正し、同段落【0074】【図3】の説明中の「本実施形態」との記載を「本参考形態」に訂正し、同段落【0074】【図5】の説明中の「第1実施形態」との記載を「第1参考形態」に訂正する。 2 訂正事項2 明細書の段落【0036】及び【0037】の「環状板5」との記載を「油溜板5」に訂正する。 3 訂正事項5 明細書の段落【0056】の「第3実施形態」との記載を「第3参考形態」に訂正し、同段落【0074】【図10】の説明中の「本発明の第3実施形態」との記載を「第3参考形態」に訂正する。 4 訂正事項6 明細書の段落【0074】【図11】、【図12】及び【図13】の説明中の「本発明の」との記載を削除する。 5 訂正事項7 明細書の段落【0075】の「1c テーパ状の切欠き」との記載を「1c 段差状の切欠き」に訂正し、同段落の「1d 段差状の切欠き」との記載を「1d テーパ状の切欠き」に訂正する。 6 訂正事項8 図面の【図6】の(a)の符号「1c」のうち右側のもの及び(b)の符号「1c」のうち左側のものをそれぞれ「1d」に訂正する。 7 訂正事項9 図面の【図8】の(b)の符号「1c」を「1d」に訂正する。 第4 当審の判断 1 訂正の目的について(特許法第126条第1項) (1)訂正事項1 訂正前明細書の段落【0025】?【0046】に記載された「第1実施形態」は、本件特許の請求項1において特定された「テーパ状の切欠き」に関する構成を備えておらず、特許請求の範囲の技術的範囲に含まれない態様が明細書において「実施形態」として記載されていることから、当該記載は特許請求の範囲との関係で不明瞭な記載となっている。 また、訂正前明細書の段落【0024】では、特許請求の範囲の技術的範囲に含まれない上記態様を含めて「以下、本発明の深溝玉軸受に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する」と記載されていることから、特許請求の範囲との関係で不明瞭な記載となっている。 訂正事項1は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るため、訂正前明細書に記載されていた「第1実施形態」との記載を「第1参考形態」に訂正し、第1実施形態について用いられている「本実施形態」との記載を「本参考形態」に訂正し、「本発明の」との記載を削除することで、訂正前明細書に記載されていた第1実施形態が特許請求の範囲に含まれないことを明らかにするものであり、さらに訂正前明細書の段落【0024】の「実施形態」との記載を「実施形態及び参考形態」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 (2)訂正事項2 訂正前明細書の段落【0036】及び【0037】に「環状板5」と記載されているが、訂正前明細書の他の段落において符号5で示されているのは「油溜板5」である。また、本件特許の請求項1においても、「油溜板」との記載はあるものの、「環状板」との記載はない。してみると、当該「環状板5」との記載は特許請求の範囲及び明細書の他の段落の記載との関係で不明瞭な記載となっている。 訂正事項2は、不明瞭な「環状板5」との記載を特許請求の範囲及び明細書の他の段落の記載に整合させて「油溜板5」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 (3)訂正事項5 訂正前明細書の段落【0056】及び訂正前図面の【図10】に記載された「第3実施形態」は、本件特許の請求項1において特定された「テーパ状の切欠き」に関する構成を備えておらず、特許請求の範囲の技術的範囲に含まれない態様が明細書において「実施形態」として記載されていることから、当該記載は特許請求の範囲との関係で不明瞭な記載となっている。 訂正事項5は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るため、訂正前明細書に記載されていた「第3実施形態」との記載を「第3参考形態」に訂正し、第3実施形態について用いられている「本発明の」との記載を削除することで、訂正前明細書に記載されていた第3実施形態が特許請求の範囲に含まれないことを明らかにするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 (4)訂正事項6 訂正前図面の【図11】、【図12】及び【図13】には、本件特許の請求項1において特定された「テーパ状の切欠き」を有していない態様が示されており、訂正前明細書の段落【0074】においてこれらの態様を「本発明の」深溝玉軸受と記載することは、特許請求の範囲との関係で不明瞭な記載となっている。 訂正事項6は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るため、訂正前明細書の段落【0074】の【図11】、【図12】及び【図13】の説明から「本発明の」との記載を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 (5)訂正事項7 訂正前明細書の段落【0075】において、「1c テーパ状の切欠き」、「1d 段差状の切欠き」と記載されているが、訂正前明細書の段落【0031】の「段差状の切欠き1c」及び段落【0048】の「テーパ状の切欠き1d」との記載、並びに【図1】及び【図8】(a)等の記載に鑑みると、符号「1c」は「段差状の切欠き」を、符号「1d」は「テーパ状の切欠き」を意図していたことは明らかである。 訂正事項7は、訂正前明細書の段落【0075】の「1c テーパ状の切欠き」との明らかな誤記を「1c 段差状の切欠き」に訂正し、同段落の「1d 段差状の切欠き」との明らかな誤記を「1d テーパ状の切欠き」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。 (6)訂正事項8 訂正前図面の【図6】(a)、(b)において、段差状の切欠きとテーパ状の切欠きの両方に対して符号「1c」が用いられているが、上記(5)に記載したとおり、テーパ状の切欠きを示すのは符号「1d」である。このことは、訂正前明細書の段落【0048】における「図6(a)、(b)に示すように、本実施形態の深溝玉軸受は、片方の肩部1bの切欠を、軸方向外方へ行くに従って小径となるテーパ状の切欠き1dに置き換えている」との記載からも明らかである。 訂正事項8は、図面の【図6】(a)、(b)中の明らかな誤記である一方の「1c」を「1d」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。 (7)訂正事項9 訂正前図面の【図8】(b)において、テーパ状の切欠きに対して符号「1c」が用いられているが、上記(5)、(6)に記載したとおり、テーパ状の切欠きを示すのが符号「1d」であることは明らかである。 訂正事項9は、図面の【図8】(b)中の明らかな誤記である符号「1c」を「1d」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。 2 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か(特許法第126条第5項及び第6項) (1)訂正事項1、2、5及び6は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であり、何ら新規事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項1、2、5及び6は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項7?9は、明細書及び図面中の明らかな誤記を訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項7?9は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 3 特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(特許法第126条第7項) 訂正事項7?9は、明細書及び図面中の明らかな誤記を訂正するものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができなくなるような特段の事情は存在しない。 よって、訂正事項7?9は、特許法第126条第7項の規定に適合する。 第5 むすび 以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号及び第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 深溝玉軸受 【技術分野】 【0001】 本発明は、深溝玉軸受に関し、特に自動車のトランスミッション等の高速回転で使用される深溝玉軸受に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来の冠型保持器を備えた深溝玉軸受は、図17に示すように、外周面に内輪軌道溝101aを有する内輪101と、内周面に外輪軌道溝102aを有する外輪102と、内輪軌道溝101aと外輪軌道溝102aとの間に転動自在に配置された複数の玉103と、円環部104a及び該円環部104aの片方の軸方向端面に突設され、先端に爪部を備えた柱部104bを有し、該柱部104b間に形成された球面ポケット104cに玉103を収容する樹脂製の冠型保持器104と、を有する。玉103は、冠型保持器104によって円周方向に所定の間隔で保持され、保持器104と共に公転する。 【0003】 このような深溝玉軸受は、例えば、自動車の変速機等の回転部に使用される場合、ポンプ等で潤滑油を供給する強制潤滑方式で使用されることが多く、潤滑油は軸受の内部を軸方向に貫通して流れ、変速機ユニット内を循環している。 【0004】 ところで、この深溝玉軸受を高速回転させると、遠心力により、冠型保持器104の円環部104aを捩れ軸として、柱部104bが外径側に開くため、冠型保持器104の球面ポケット104cの内径側と玉103との接触面圧が増大し、ポケット104cの内径側が摩耗し発熱が大きくなるという問題が発生する。 【0005】 また、ポケット104cの内径側の摩耗が進行すると、冠型保持器104の振れ回りが大きくなり、冠型保持器104の外径側と外輪102の内周面とが接触し、柱部104bが摩耗して最悪の場合は破断するという問題も発生する。 【0006】 そのような問題を解決するには、ポケットの内径側と玉との潤滑状態を良くする必要があるが、軸受回転時には、潤滑油も遠心力を受け、外径側を流れようとするため、何らかの対策が必要となる。 【0007】 例えば、特許文献1では、図18に示すように、冠型保持器104のポケット開口側(円環部と反対側)を潤滑油100の供給側に向けると共に、反対側にシール部材105を設けることで、潤滑油100を玉103に直接付着させるようにしている。 【特許文献1】特開2007-177858号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 しかしながら、図18に示すような深溝玉軸受において、供給された潤滑油100が、遠心力により軸受外径側に飛ばされるため、冠型保持器104の柱部104bの先端104p側(特に内径側)に十分に行き渡らず、冠型保持器104と玉103の摺動部で摩耗や焼き付きを起こすおそれがある。この問題は、軸受が高速化するほど遠心力が大きくなり顕著になるため、実際に高速化を実現することは難しいと言わざるを得ない。 【0009】 特に、図19、図20に示すように、冠型保持器104の柱部104bの先端104pは、冠型保持器104が軸方向にガタついた際に保持器104が抜けまいとするパチン力により玉103に押し付けられる部分であり、非常に摩耗しやすく、その部分に対する潤滑不足は、高速化する上での障害となる。 【0010】 さらに、冠型保持器104が球面ポケット104cを持つ片持形式の場合は、保持器4のポケット104bの入口径が内径側に行くにつれ小さくなるため、軸受を高速回転させた際に、保持器104が遠心力により外径側に捩れ変形し、柱部104bの先端104pが更に摩耗しやすくなる。また、ポケット104cの内径側の摩耗が進行すると、冠型保持器104の振れ回りが大きくなり、冠型保持器104の外径側と外輪102の内周面とが接触し、柱部104bが摩耗するという問題も発生する。 【0011】 本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑不足になりやすい箇所、特に玉と保持器の摺動部に確実に潤滑油を保持しておくことができ、高速回転時にも軸受寿命の長期化を図ることのできる深溝玉軸受を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0012】 前述した目的を達成するために、本発明に係る深溝玉軸受は、下記(1)?(4)を特徴としている。 (1) 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸方向一方側から潤滑油が供給されて軸方向他方側から排出される強制潤滑環境の下で使用される深溝玉軸受において、 前記外輪と内輪の軸方向両端部に位置させて環状の油溜板が配置され、各油溜板が前記外輪側に固定された状態で前記内輪の肩部に接近するよう延びており、各油溜板の内周部と前記内輪の外周部との間に、潤滑油が軸受内部と軸受外部の間で流入出する環状の開口部が確保されており、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで該玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、 前記冠型保持器の径方向幅の中央位置が、前記玉の中心よりも軸受の内径側に偏っており、 前記玉の中心が、前記内輪と外輪の軸方向幅の中心位置よりも前記軸方向一方側にオフセットされており、 前記冠型保持器は、前記玉のオフセットにより前記玉と前記油溜板との間隔が開いた側に前記円環部を位置させた状態で配置されており、 前記軸方向一方側に配置された前記油溜板と対向する前記内輪の肩部のみに、テーパ状の切欠きが設けられていることを特徴とする深溝玉軸受。 (2) 前記環状板の内径が前記保持器の内径以下に設定されており、 前記環状の開口部を形成する前記内輪の外周部と前記油溜板の内周部との最短距離が前記玉の直径の11%以上であることを特徴とする(1)に記載の深溝玉軸受。 (3) 前記油溜板が、ハウジングに一体に設けられていることを特徴とする(1)または(2)に記載の深溝玉軸受。 (4) 前記外輪の内径面より内径側の前記油溜板の外周近傍に、潤滑油の通過を許容する通孔が設けられていることを特徴とする(1)?(3)のいずれかに記載の深溝玉軸受。 【発明の効果】 【0013】 上記構成の深溝玉軸受によれば、外輪と内輪の軸方向両端部に位置させて環状の油溜板が配置されており、その環状の油溜板の内周部と内輪の外周部との間に、潤滑油の流入出が可能な環状の開口部が確保されているので、高速回転による大きな遠心力を受けても、油溜板と玉との間の空間に潤滑油を溜めることができ、軸受内部を油浴状態にすることができる。従って、軸受内部の潤滑環境がよくなり、保持器と玉との摺動部の摩耗を低減することができ、保持器の摩耗が原因で起こる問題を解消することができ、高速回転使用での軸受寿命を延ばすことができる。 【0014】 特に、本発明は、冠型保持器に特有の問題を解決することができる。即ち、冠型保持器を使用している場合、冠型保持器の柱部先端の内径側の部分が潤滑不足になりやすいが、油溜板による油溜め効果によって軸受内部を油浴状態にすることができるため、当該部分の摩耗を抑制することができる。 【0015】 また、冠型保持器の径方向幅の中央位置を、玉の中心よりも軸受の内径側に偏らせたので、冠型保持器による玉の抱え込み量を増やすことができ、冠型保持器の捩れ変形を抑制することができる。 【0016】 また、玉の中心が軸方向にオフセットされ、冠型保持器は、玉と油溜板との間隔が開いた側に円環部を位置させた状態で配置されているので、冠型保持器の円環部の軸方向の厚さ、つまり、球面ポケットの底厚を大きくすることができる。その結果、冠型保持器の剛性をアップさせることができ、冠型保持器の振れ回り変形を抑制することができる。 【0017】 また、少なくともいずれか一方の油溜板と対向する内輪の肩部に、テーパ状または段差状の切欠きが設けられているので、潤滑油の流入出する環状の開口部を大きめに確保しつつ、油溜板の内径を小さくすることができる。その結果、保持器の内径側に潤滑油を確実に導入することができ、球面ポケットと玉との摺動部へ潤滑油を導きやすくなる。 【0018】 また、保持器の球面ポケットの内周部のエッジに面取りまたは曲面を形成したので、エッジが玉に接触した場合にも、保持器側の応力集中を緩和することができ、保持器の摩耗を減らすことができる。特に、保持器の内径が小さくなった場合、エッジがシャープになるが、そのエッジに面取りまたは曲面を付けることにより、摩耗の軽減を図ることができる。 【0019】 また、油溜板の内径を玉の公転直径以下、より好ましくは、保持器の内径以下としているので、油溜板による油溜め効果が十分に発揮され、軸受の潤滑状態がよくなる。 【0020】 また、内輪の外周部と油溜板の内周部との最短距離を玉の直径の9%以上としているので、保持器の摩耗を防止して、保持器の振れ回り低減を図ることができる。 【0021】 また、内輪の外周部と油溜板の内周部との最短距離を玉の直径の11%以上としているので、より確実に保持器の振れ回りを低減することができる。 【0022】 また、油溜板が、ハウジングに一体に設けられているので、部品点数を削減することができる。 【0023】 また、油溜板の外周近傍に設けた通孔を設けることで、この通孔を通して、潤滑油が自由に逃げることができるので、軸受内部外周側の潤滑油の交換効率が上がり、発熱防止を図ることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0024】 以下、本発明の深溝玉軸受に係る好適な実施形態及び参考形態を図面に基づいて詳細に説明する。 【0025】 <第1参考形態> 図1に示すように、この深溝玉軸受は、外周面に内輪軌道溝1aを有する内輪1と、内周面に外輪軌道溝2aを有する外輪2と、内輪軌道溝1aと外輪軌道溝2aとの間に転動自在に配置された複数の玉(鋼球)3と、玉3を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器4と、内輪1と外輪2の軸方向の一方の端面側に設けられた薄板よりなる油溜板5と、を備えている。 【0026】 冠型保持器4は、図2に示すように、円環部4aと、該円環部4aの片方の軸方向端面に突設されて一定間隔で並ぶ複数の柱部4bと、隣接する柱部4b間に確保された球面状内側面を有する球面ポケット4cと、を備えるものであり、玉3を各球面ポケット4cに収容することで、玉3を円周方向に所定の間隔で保持している。 【0027】 冠型保持器4を構成する樹脂の例としては、46ナイロンや66ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などが挙げられる。また、上記した樹脂に10?50wt%の繊維状充填材(例えば、ガラス繊維や炭素繊維など)を適宜添加することにより、冠型保持器4の剛性および寸法精度を向上させることができる。 【0028】 また、この冠型保持器4は、好ましくは多点ゲートの射出成形で製作する。そうすれば、冠型保持器4の寸法精度を、1点ゲートのものに比べて向上させることができる。また、多点ゲートで製作することで、ウェルド部を保持器の最弱部位であるポケット底からずらすことができるので、ウェルド部による強度低下を防止できる。 【0029】 この深溝玉軸受は、外部の任意の方向から潤滑油が供給される油浴環境または軸方向の一方側から潤滑油が供給されて他方側から排出される強制潤滑環境の下で使用されるもので、外輪2と内輪1の軸方向両端部に環状の油溜板5が配置され、該各油溜板5が外輪2に固定された状態で内輪1の内輪軌道溝1aの軸方向両側の肩部1bに向けて延びている。 【0030】 各油溜板5は、外輪2の外輪軌道溝2aの両側の肩部に形成された係合溝2bに外周端5aを係合させることにより外輪2に加締め固定されており、油溜板部5bを内輪1の内輪軌道溝1aの軸方向両側の肩部1bの近くまで延ばしている。そして、油溜板5の内周部5cと内輪1の肩部1bの外周部との間に、潤滑油の流入出する環状の開口部10が確保されている。 【0031】 この場合、油溜板5の内周部5cと対向する内輪1の肩部1bに段差状の切欠き1cが設けられており、段差状の切欠き1cの外周面と油溜板5の内周部5cとの間に環状の開口部10が形成されている。このように、段差状の切欠き1cを設けることにより、油溜板5の内径Dsを小さくして、油溜まりを大きくしても、潤滑油が軸受内部に出入りする開口量を大きくすることができ、潤滑油の貫通性能をアップさせることができて、軸受の温度上昇を防止することができる。 【0032】 また、図3(a)に示すように、冠型保持器4の径方向幅の中央位置4hは、玉3の抱きかかえ量を増やすため、玉3の中心Oよりも軸受の内径側に偏っている。このように、保持器4の径方向幅の中心が玉3の中心と一致する場合(図3(b)参照)と比較して、冠型保持器4を内径側に偏在させて、玉3の抱きかかえ量を大きくすると、冠型保持器4が遠心力によって外側に広がるときに、保持器4の内周部のエッジ4eと玉3との径方向隙間e2を、図3(b)の隙間e1より小さくできる。従って、外径側への保持器4の変形を小さく抑えることができ、その結果、図3(b)のように抱え込み量が小さい場合よりも、捩れ変形を抑制でき、保持器4の外輪2との接触を防止できる。 【0033】 また、内輪1の外径面と保持器4の内周部との距離が小さくなることにより、内輪1の外径面が保持器4の回転のガイド作用をなし、保持器4の半径方向のガタを抑制して、保持器4の振れ回りを防止する効果を期待できる。なお、通常回転時には、保持器4は玉案内され、保持器4と内輪1は接触しないため、軸受トルクが増加することがない。また、保持器4に衝撃力などの突発的な力が加わった場合には、保持器4と内輪1が接触する可能性があるが、その場合でも、保持器4が外輪2と接触する場合に比べて、軸受トルクの増加が少なくてすむ。なお、特に衝撃力が作用する条件下で使用される場合には、保持器4の案内を玉案内から内輪案内に変更してもかまわない。 【0034】 さらに、図4(a)に示すように、球面ポケット4cの内周部のエッジ4eには曲面が付けられている。上記したように、保持器4の内径が小さくなると、図4(a)の仮想線のように、球面ポケット4cの内周部のエッジ4eが鋭角的になり、この部分が摩耗しやすくなる。そこで、本参考形態のように、断面曲面状のエッジ4eとすることで、摩耗を防止することができる。なお、図4(b)や図4(c)に示すように、エッジ4eには、面取りが施されてもよく、また、これらの場合、玉3が保持器4に接触しやすい球面ポケット4cの底や爪先端にのみ、部分的に曲面や面取りを設けてもよい。また、図4(c)に示す円筒形状の面取りの場合には、図4(a)や図4(b)に示すような曲面や面取りに比べ、射出成形用の金型の製作が容易であり、コストが抑えられるためより好ましい。 【0035】 また、図1に示すように、本参考形態の深溝玉軸受では、玉3の中心Oが、内輪1と外輪2の軸方向幅の中心位置Lよりも、いずれかの軸方向端部側にオフセットされている。そして、玉3の中心Oのオフセットにより玉3と油溜板5との間隔が開いた側に円環部4aを位置させ反対側に球面ポケット4cの開口側を位置させて、冠型保持器4が配置されている。このような配置にした場合、冠型保持器4の球面ポケット4cの底厚J(円環部4aの肉厚)を大きく確保することができる。このように、保持器4の球面ポケット4cの底厚Jを増やすと、それだけ冠型保持器4の剛性アップを図ることができ、遠心力による捩れ変形を抑制する効果が高まる。 【0036】 また、油溜板5の内周部5cの内径Dsは、玉3の公転直径PCD以下、より好ましくは、冠型保持器4の内径Dh以下としている。 【0037】 また、環状の開口部10を形成している内輪1の外周部と油溜板5の内周部5cとの最短距離yは、玉3の直径Dwの9%以上、より好ましくは11%以上に設定されている。この場合、最短距離yは、油溜板5の内径をDs、内輪1の肩部1bの外径をD1とした場合、 y=(Ds-D1)/2 となる。 【0038】 なお、本参考形態では、両側の油溜板5の内径Dsと段差状の切欠き1cの外径D1との関係は等しい条件に設定され、両側の環状の開口部10の開口量が等しくなっている。 【0039】 本参考形態の深溝玉軸受によれば、外輪2と内輪1の軸方向両端部に位置させて環状の油溜板5が配置されており、その環状の油溜板5の内周部5cと内輪1の外周部との間に、潤滑油の流入出が可能な環状の開口部10が形成されているので、油溜板5と玉3との間の空間に潤滑油を溜めることができ、軸受内部を油浴状態にすることができる。つまり、軸受の軸方向両端に油溜板5を設けることで、軸受内部に油溜まりを作ることができる。従って、軸受内部の潤滑環境がよくなり、保持器4と玉3との摺動部の摩耗を低減することができ、保持器4の摩耗が原因で起こる問題(特に外輪2に接触しながらの保持器4の振れ回り)を解消することができて、高速回転使用での軸受寿命を延ばすことができる。冠型保持器4の場合、柱部4bの先端の内径側の部分が潤滑不足になりやすいが、油溜板5による油溜め効果によって、軸受内部を油浴状態にすることができるため、当該部分の摩耗を抑制することができる。なお、給油方式は、油浴潤滑と強制潤滑のどちらで行っても、有効な油溜まりを作ることができる。 【0040】 強制潤滑の場合は、図5(a)に示すように、冠型保持器4の円環部4aのある側(玉3の反オフセット側)から潤滑油を供給してもよいし、図5(b)に示すように、反対側から潤滑油を供給してもよい。いずれの場合も、保持器4の摩耗を低減する効果を発揮することができる。従って、特に潤滑油の供給の方向を問わずに使用することができる。図中の白抜き矢印の方向は潤滑油の供給方向を示している。なお、もし軸受の向きを区別したい場合は、内輪1や外輪に刻印を打つことにより区別できる。 【0041】 また、樹脂製の冠型保持器4は射出成形が可能であるため、大量生産ができ、コストを抑制しながら、潤滑状態の改善を図ることができる。また、玉案内である冠型保持器4は、低トルク化に寄与することができる。 【0042】 また、本参考形態の深溝玉軸受によれば、冠型保持器4の径方向幅の中央位置4hを、玉3の中心Oよりも軸受の内径側に偏らせているので、冠型保持器4による玉3の抱え込み量を増やすことができ、冠型保持器4の捩れ変形を抑制することができる。 【0043】 また、玉3の中心Oが軸方向にオフセットされ、オフセットにより玉3と油溜板5の間隔が開く側に円環部4aを位置させて冠型保持器4が配置されているので、冠型保持器4の円環部4aの軸方向の厚さ、つまり、球面ポケット4cの底厚Jを大きくすることができる。その結果、冠型保持器4の剛性をアップさせることができ、冠型保持器4の振れ回り変形を抑制することができる。 【0044】 また、油溜板5が配設された側の内輪1の肩部1bに、段差状の切欠き1cを設けているので、潤滑油の流入出する環状の開口部10を大きめに確保しつつ、油溜板5の内径Dsを小さくすることができる。その結果、冠型保持器4の内径側に潤滑油を確実に導入することができ、球面ポケット4cと玉3との摺動部へ潤滑油を導きやすくなる。 【0045】 また、冠型保持器4の球面ポケット4cの内周部のエッジ4eに面取りまたは曲面を形成しているので、エッジ4eが玉3に接触した場合にも、保持器4側の応力集中を緩和することができ、保持器4の摩耗を減らせる。特に、冠型保持器4の内径が小さくなった場合、エッジ4eがシャープになるが、そのエッジに面取りまたは曲面を付けることにより、摩耗の軽減を図ることができる。 【0046】 また、油溜板5の内径Dsを玉3の公転直径PCD以下、より好ましくは、保持器の内径以下としているので、油溜板5による油溜め効果が十分に発揮され、軸受の潤滑状態がよくなる。特に、内輪1の外周部と油溜板5の内周部5cとの最短距離yを玉3の直径Dwの9%以上とした場合は、冠型保持器4の振れ回り低減を図ることができるし、内輪1の外周部と油溜板5の内周部5cとの最短距離yを玉3の直径Dwの11%以上とした場合は、より確実に冠型保持器4の振れ回りを低減することができる。 【0047】 <第2実施形態> 第2実施形態では、両油溜板5の内周部5cに対向する内輪1の両方の肩部1bに段差状の切欠き1cを設けずに、潤滑油を導入するための環状の開口部10を確保する深溝玉軸受について説明する。なお、その他の構成及び作用については、第1参考形態のものと同様である。 【0048】 図6(a)、(b)に示すように、本実施形態の深溝玉軸受は、片方の肩部1bの切欠きを、軸方向外方へ行くに従って小径となるテーパ状の切欠き1dに置き換えている。即ち、図6(a)に示すように、冠型保持器4の円環部4a側から潤滑油を供給する場合において、円環部4a側の内輪1の肩部1bにテーパ状の切欠き1dが設けられ、球面ポケット4c開口側の内輪1の肩部1bに段差状の切欠き1cが設けられてもよく、図6(b)に示すように、冠型保持器4の球面ポケット4cの開口側から潤滑油を供給する場合において、球面ポケット4c開口側の内輪1の肩部1bにテーパ状の切欠き1dが設けられ、円環部4a側の内輪1の肩部1bに段差状の切欠き1cが設けられてもよい。このようにすることで、有効な油溜まりを確保しつつ、潤滑油を導入するための環状の開口部10を確保することができる。 【0049】 但し、テーパ状の切欠き1dの場合には、軸受内部に潤滑油を吸い込もうとするポンプ作用が発生するため、図6(a)に示すように、潤滑油の供給側にテーパ状の切欠き1dを設けることで、潤滑油の貫通性がより増し、発熱をより確実に抑えることができる。 【0050】 なお、有効な油溜まりを確保しつつ、潤滑油を導入するための環状の開口部10を確保する構成としては、図6に示す深溝玉軸受の他、図7?図9に示す第1?第3変形例のようなものであってもよい。 【0051】 図7に示す第1変形例の深溝玉軸受では、片方の肩部1bだけに段差状の切欠き1cが設けられ、他方の肩部1bには切欠きが無い。即ち、図7(a)及び図7(b)に示すように、円環部4a側の内輪1の肩部1bにのみ段差状の切欠き1cが設けられてもよく、図7(c)及び図7(d)に示すように、球面ポケット4c開口側の内輪1の肩部1bにのみ段差状の切欠き1cが設けられてもよい。この場合も、図7(a)及び図7(c)に示すように、冠型保持器4の円環部4a側から潤滑油を供給してもよいし、図7(b)及び図7(d)に示すように、冠型保持器4の球面ポケット4c開口側から潤滑油を供給してもよい。 【0052】 但し、両側の油溜板5の内径Dsをそれぞれ異ならせ、切欠きが設けられない側の油溜板5の内径Dsを適宜大きくして環状の開口部10の大きさを確保することで、潤滑油の流入性や流出性を損ねないようにすることが好ましい。 【0053】 また、図8に示す第2変形例の深溝玉軸受では、片方の肩部1bだけにテーパ状の切欠き1dが設けられ、他方の肩部1bには切欠きが無い。即ち、図8(a)に示すように、円環部4a側の内輪1の肩部1bにのみテーパ状の切欠き1dが設けられてもよく、図8(b)に示すように、球面ポケット4c開口側の内輪1の肩部1bにのみテーパ状の切欠き1dが設けられてもよい。 【0054】 なお、テーパ状の切欠き1dを有する内輪1の肩部1b側は、この切欠き1dのポンプ作用による油の流入性が向上するため、潤滑油の供給側とする方が好ましい。そして、切欠きが設けられない側の油溜板5は、潤滑油の排出性を考慮して、内径Dsを適宜大きくすることが好ましい。 【0055】 さらに、図9に示す第3変形例の深溝玉軸受のように、内輪1の両方の肩部1bに切欠きが設けられない構成であってもよい。この場合にも、必要ならば、油溜板5の内径Dsを、玉3の公転直径PCD以下という条件で適宜大きくして、環状の開口部10の大きさを確保すればよく、図9(a)に示すように、冠型保持器4の円環部4a側の油溜板5の内径Dsだけを大きくてもよいし、図9(b)に示すように、冠型保持器4の球面ポケット4c開口側の油溜板5の内径Dsだけを大きくしてもよい。但し、油溜板5の内径Dsは、とする。 【0056】 <第3参考形態> また、図10は、第3参考形態に係る深溝玉軸受の要部断面図である。 この深溝玉軸受では、外輪2の内周部より内径側の油溜板5の外周近傍に、潤滑油の通過を許容する通孔5eが設けられている。このように構成することで、油溜板5の外周側の軸受内部において潤滑油の交換効率(潤滑油の循環効率)が下がる現象を緩和することができる。即ち、油溜板5の外周近傍に設けた通孔5eを通して潤滑油が自由に流入出することができるので、軸受内部外周側の潤滑油の交換効率を上げることができ、潤滑油の滞留による発熱を防止することができる。但し、この場合の通孔5eの大きさは、油溜め性能を阻害しない程度の大きさに設定する必要がある。また、通孔5eは、図10では、潤滑油の供給側に設けられているが、少なくとも片方の油溜板5に設けられればよく、或いは、両方の油溜板5に設けられてもよい。 【0057】 なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。 【0058】 例えば、上述した各実施形態では、外輪2の肩部に直接、油溜板5を取り付けられているが、図11(a)、(b)に示すように、油溜板として、外輪2の外側面に側板35、45を配設して、その側板35に設けた環状凸部35aや側板45そのものを油溜板として用いてもよい。また、図11(c)、(d)に示すように、冠型保持器4の円環部4a側と球面ポケット4c開口側の片側に側板35が設けられ、他方側に側板45が設けられてもよい。 【0059】 また、図12(a)?(c)に示すように、外輪2を固定するハウジング50に内向きフランジ部55を設け、その内向きフランジ部55に設けた環状凸部55aや側板55そのもの、或いは環状凹部55bを油溜板として用いてもよい。 【0060】 このように構成することで、部品点数を削減することができ、また、油溜板の外周端を外輪の係合溝に加締める工程も省略でき、コストが削減できる。また、外輪2に油溜板が固定される構成と比べて、内輪1と外輪2との間の軸方向一方側にスペースを設けやすく、より有効な油溜まりを確保することができる。 【実施例】 【0061】 <試験1> 次に、図13に示すような構成を有する深溝玉軸受を用いて、振れ回り試験を行った。なお、本試験1では、内輪1の肩部1bに切欠きを設けず、両側の油溜板5の内径Dsが同じ寸法に設定されている。ここで、外輪2の内径はD2、内輪1の外径はD1、冠型保持器4の内径はDh、玉3の公転直径はPCDとする。 【0062】 本試験1では、保持器4の内径を53.7mmに固定とし、油溜板5の内径Dsを変化させることにより、保持器4と玉3の摺動状態を観察した。なお、軸受構成及び試験条件は、以下の通りである。 【0063】 <軸受構成> ・ 軸受形式:6909(PCD=56.5mm) ・ 外輪内径:61.5mm ・ 内輪外径:51.5mm ・ 玉径:6.7mm ・ 保持器:球面ポケットを有する冠型保持器(ポケット底厚0.8mm) ・ 保持器材料:カーボンファイバー繊維CF15%強化46ナイロン 【0064】 <試験条件> ・回転数:30000rpm ・給油温度:120℃ ・潤滑方法:VG24の鉱油を強制潤滑給油(0.1L/min) ・荷重:2500N ・試験時間:振れ回りが発生した時点で試験終了 【0065】 振れ回り試験の結果は、表1及び図14の通りであった。 【0066】 【表1】 ![]() 【0067】 図14に示した振れ回り試験結果より、油溜板5の内径Dsが玉3の公転直径PCDを超えると、遠心力によりシールド内径側の潤滑油が、図15に示すように軸受外に飛ばされるため、保持器4の柱部4bの先端内径側(爪先端内径側)4pの玉3との摺動部に油浴部分を形成できなくなり、振れ回りまでの時間が短くなることが分かる。この結果、油溜板5の内径DsがPCD以下ならば、保持器4と玉3間の潤滑を良好に保ち、耐振れ回り性を向上させることができると言うことができる。さらに、望ましくは油溜板5の内径Dsを保持器4の内径Dh以下にすることで、さらに潤滑が良好となり、振れ回りが一層起こりにくくなると言うことができる。 【0068】 <試験2> 次に、図1に示すような構成を有する深溝玉軸受を用いて、保持器半径方向ガタ測定試験を行った。本試験2では、油溜板5の内径を51.8mmに固定し、段差状の切欠きによって内輪1の端部外径D1を変化させることにより、y/Dwを変化させ、保持器4の摩耗を比較した。摩耗量の指針としては、新品と比較した保持器半径方向ガタ増加量を調査した。なお、軸受構成及び試験条件は、以下の通りである。 【0069】 <軸受構成> ・軸受形式:6909(PCD=56.5mm) ・保持器:球面ポケットを有する冠型保持器(ポケット底厚1.77mm) ・保持器材料:ガラス繊維GF25%強化46ナイロン ・玉径:6.7mm 【0070】 <試験条件> ・回転数:30000rpm ・給油温度:120℃ ・潤滑方法:VG24の鉱油を強制潤滑給油(0.1L/min) ・荷重:2500N ・試験時間:20Hr 【0071】 結果は、表2及び図16の通りであった。 【0072】 【表2】 ![]() 【0073】 図16に示した試験結果より、y/Dwが9%以上では保持器半径方向ガタ増加はほぼ飽和しており、y/Dwが11%以上となると完全に飽和することが分かる。これにより、y/Dwは9%以上、望ましくは11%以上であると、振れ回り低減に対する大きな効果が得られると言うことができる。また、y/Dwが3%以下では油の貫通性が悪くなり、軸受が焼きついた。 【図面の簡単な説明】 【0074】 【図1】第1参考形態の深溝玉軸受の要部断面図である。 【図2】冠型保持器の構成例を示す斜視図である。 【図3】(a)は、本参考形態の冠型保持器の径方向幅の中心位置が玉の中心より内径側に偏っている場合、(b)は冠型保持器の径方向幅の中心位置が玉の中心に一致する場合をそれぞれ示す図である。 【図4】前記冠型保持器の球面ポケットの内周部のエッジの処理の仕方を示す図で、(a)はエッジに曲面を付けた場合を示す図、(b)はエッジに面取りを施した場合を示す図、(c)はエッジに他の面取りを施した場合を示す図である。 【図5】(a)及び(b)は、第1参考形態の深溝玉軸受を、強制潤滑環境下で使用する場合の潤滑油の供給方向を示す図である。 【図6】(a)及び(b)は、第2実施形態の深溝玉軸受を示す要部断面図である。 【図7】(a)及び(b)は、第2実施形態の深溝玉軸受の第1変形例を示す要部断面図である。 【図8】(a)?(d)は、第2実施形態の深溝玉軸受の第2変形例を示す要部断面図である。 【図9】(a)及び(b)は、第2実施形態の深溝玉軸受の第3変形例を示す要部断面図である。 【図10】第3参考形態の深溝玉軸受の要部断面図である。 【図11】(a)?(d)は、深溝玉軸受の各変形例を示す要部断面図である。 【図12】(a)?(c)は、深溝玉軸受のさらに他の各変形例を示す要部断面図である。 【図13】試験1に使用される深溝玉軸受の概略断面図である。 【図14】同軸受の第1の試験結果を示すグラフである。 【図15】同軸受の油溜板の内径が大き過ぎる場合の不具合を説明するための断面図である。 【図16】試験2の深溝玉軸受における第2の試験結果を示すグラフである。 【図17】従来の冠型保持器を有した深溝玉軸受の要部断面図である。 【図18】片側にシール材を有した従来の深溝玉軸受の要部断面図である。 【図19】同軸受の冠型保持器が変形する箇所を示す要部斜視図である。 【図20】(a)及び(b)は、同種の保持器の問題点の説明のために示す側面図及び正面図である。 【符号の説明】 【0075】 1 内輪 1a 内輪軌道溝 1b 肩部 1c 段差状の切欠き 1d テーパ状の切欠き 2 外輪 2a 外輪軌道溝 3 玉 4 冠型保持器 4a 円環部 4b 柱部 4c ポケット 4e エッジ 4h 冠型保持器の径方向幅の中心位置 5,35,45,55,65 油溜板 5c 内周部 10 環状の開口部 O 玉の中心 L 内輪と外輪の軸方向幅の中心 D1 内輪の外径 Ds 油溜板の内径 Dh 冠型保持器の内径 PCD 玉の公転直径 【図面】 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-12-25 |
結審通知日 | 2018-12-27 |
審決日 | 2019-01-08 |
出願番号 | 特願2007-337772(P2007-337772) |
審決分類 |
P
1
41・
852-
Y
(F16C)
P 1 41・ 853- Y (F16C) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
平田 信勝 |
特許庁審判官 |
藤田 和英 内田 博之 |
登録日 | 2012-06-15 |
登録番号 | 特許第5012499号(P5012499) |
発明の名称 | 深溝玉軸受 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |