• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01S
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01S
管理番号 1349003
審判番号 無効2014-800061  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-22 
確定日 2019-01-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4180107号発明「窒化物系半導体素子の製造方法」の特許無効審判事件(無効2013-800120号事件及び無効2014-800061号審判事件。以下、それぞれ、「第1事件」及び「第2事件」という。)について、知的財産高等裁判所が、平成27年9月28日、第1事件に係る平成26年5月20日付け審決を取り消す旨の判決を言い渡すとともに、同年12月24日、第2事件に係る平成27年5月26日付け審決を取り消す旨の判決を言い渡したところ、これらの判決が平成28年10月4日に確定したので、さらに審理の併合の上、次のとおり審決する。  
結論 無効2013-800120号審判事件(第1事件) 特許第4180107号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?10]について訂正することを認める。 特許第4180107号の請求項1?3,5?10に記載された発明についての特許を無効とする。 特許第4180107号の請求項4についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、その10分の1を請求人の負担とし、10分の9を被請求人の負担とする。無効2014-800061号審判事件(第2事件) 特許第4180107号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?10]について訂正することを認める。 特許第4180107号の請求項1?3,5?10に記載された発明についての特許を無効とする。 特許第4180107号の請求項4についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、その10分の1を請求人の負担とし、10分の9を被請求人の負担とする。 
理由 第1 第1事件及び第2事件の概要及び経緯
1 第1事件及び第2事件の概要
第1事件及び第2事件は、いずれも、請求人(日亜化学工業株式会社)が、被請求人(三洋電機株式会社)が特許権者である特許第4180107号(以下「本件特許」という。特許登録時の請求項の数は10である。)の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

2 本件特許に係る出願の経緯概要
本件特許に係る出願の経緯概要は、次のとおりである。

平成14年 3月26日 特願2002-85085号(以下「先の出願」という。)
平成15年 3月19日 特願2003-74966号(先の出願に基づく優先権主張を伴う出願。以下「原々出願」という。)
平成18年12月25日 特願2006-348161号(原々出願の一部を新たな特許出願とした出願。以下「原出願」という。)
平成20年 3月24日 本件特許に係る出願(以下「本願」という。特願2008-76844号(原出願の一部を新たな特許出願とした出願。))
平成20年 4月18日 手続補正書
平成20年 6月20日 手続補正書
平成20年 7月18日 特許査定
平成20年 9月 5日 設定登録(特許第4180107号)
平成20年11月12日 特許公報発行

3 第1事件及び第2事件の経緯
当審は、平成28年11月25日付け併合通知(以下「本件併合通知」という。)で両当事者に通知したとおり、第1事件と第2事件の審理を併合した。そこで、両事件の経緯を、本件併合通知前後に分けて、以下に示すこととする。

(1)本件併合通知までの第1事件の経緯
平成25年 7月10日 特許無効審判請求
平成25年10月10日 答弁書
平成25年10月28日 上申書(請求人)
平成25年12月 3日 審理事項通知書(合議体)
平成26年 1月23日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成26年 1月23日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年 2月 6日 口頭審理
平成26年 5月20日 請求全部不成立審決
平成27年 9月28日 審決取消判決(平成26年(行ケ)第10148号)
平成28年10月 4日 審決取消判決確定

請求人が平成26年1月23日付けで提出した口頭審理陳述要領書による請求の理由の補正については、同口頭審理陳述要領書の第2頁第22行?第3頁第6行「この意味において、・・・見出されたものでもない。」、第14頁第18?20行「また、・・・既に開示されている。」、第20頁第8?13行「しかしながら、・・・技術的意義は認められない。」(以上を以下「甲第14号証に基づく主張」という。)、第9頁第23行?第12頁第6行(「(2)本件特許発明1の構成Cが相違点(相違点2)であるとしても、この点は当業者が容易に想到できることについて」)、及び、第22頁第21行?第32頁第17行(「第4 職権による無効理由の通知が相当であることについて」)の各箇所については、審判長はこれらが実質的に審判請求書の要旨を変更する補正に当たると判断し、口頭審理において、特許法第131条の2第1項の規定に基づき、当該補正を許可しないと決定した。
なお、請求人は甲第14号証に基づく主張については、審判請求書の要旨を変更する補正には当たらないと主張した。

(2)本件併合通知までの第2事件の経緯
平成26年 4月22日 特許無効審判請求
平成26年 8月15日 審判事件答弁書
平成26年11月 5日 審理事項通知書(合議体)
平成26年12月12日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年 1月 9日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年 1月16日 上申書(請求人)
平成27年 1月23日 口頭審理
平成27年 5月26日 請求全部不成立審決
平成27年12月24日 審決取消判決(平成27年(行ケ)第10116号)
平成28年10月 4日 審決取消判決確定

(3)本件併合通知以後の第1事件及び第2事件の経緯
平成28年11月25日 本件併合通知
平成28年12月 8日 訂正請求書・上申書(被請求人)
平成29年 2月13日 弁駁書
平成29年10月18日 訂正拒絶理由通知
平成29年11月21日 意見書(被請求人)
平成30年 7月24日 審決の予告

なお、被請求人は、上記審決の予告後、訂正の請求をせず、特段の応答もしなかった。

(4)本件特許に関するその他の経緯
本件特許については、同じ請求人により、平成23年10月7日に、別件特許無効審判請求がなされ(無効2011-800203号、以下「別件無効審判事件(その1)」ともいう。)、平成24年7月20日に請求が成り立たない旨の審決がなされ、当該審決について審決取消訴訟が提起された(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10303号)が、平成25年11月14日に請求棄却判決が言い渡され、当該請求棄却判決について、上告受理が申し立てられたが、平成26年9月30日に本件を上告審として受理しない旨の決定がなされた(最高裁判所平成26年(行ヒ)第56号)。
また、本件特許については、同じ請求人により、平成25年6月19日及び同年7月10日にも、別件特許無効審判請求(順に、無効2013-800110号(以下「別件無効審判事件(その2)」ともいう。)、無効2013-800120号(以下「別件無効審判事件(その3)」ともいう。))がなされ、別件無効審判事件(その2)については平成26年5月23日に、別件無効審判事件(その3)については同年5月20日に、それぞれ請求が成り立たない旨の審決がなされた。
なお、原々出願に係る特許(特許第3933592号、以下「関連特許」ともいう。)についても、本件特許無効審判事件と同じ請求人により、平成23年10月7日、平成25年5月31日及び平成25年7月10日に特許無効審判請求(順に、無効2011-800202号、無効2013-800099号及び無効2013-800119号)がなされている。

第2 訂正の適否についての当審の判断
1 訂正の内容
本件併合通知後の第1事件及び第2事件の手続において被請求人が平成28年12月8日に行った訂正請求は、特許第4180107号に係る願書に添付した特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり訂正しようとするものであり(以下「本件訂正」という。)、その訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程と、
その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備え、
前記第1半導体層と前記n側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とする、窒化物系半導体素子の製造方法。」から、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と(ただし、同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn型電極を形成すると、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥であり)、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を0.5μm以上除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程と、
その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備え、
前記第1半導体層と前記n側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とする、窒化物系半導体素子の製造方法。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3及び5?10も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」と記載されているのを、「請求項1?3のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6?10も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」と記載されているのを、「請求項1?3又は5のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7?10も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」と記載されているのを、「請求項1?3、5又は6のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8?10も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」と記載されているのを、「請求項1?3又は5?7のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9及び10も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」と記載されているのを、「請求項1?3又は5?8のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」と記載されているのを、「請求項1?3又は5?9のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法」に訂正する。

2 訂正の適否の検討
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1の訂正は、「第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程」の発明特定事項について、第2工程終了時の第1半導体層の裏面の結晶欠陥の状態を特定することにより発明特定事項を限定するものであるとともに、「前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程」の発明特定事項について、裏面近傍の領域を除去する厚さを特定することにより発明特定事項を限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正か否かについて
(ア)訂正事項1に関連して願書に添付した明細書又は図面(以下、それぞれ、「本件特許明細書」又は「本件特許図面」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
「【0047】
図3に示した機械研磨装置30を用いて、n型GaN基板1の裏面(窒素面)をn型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで研磨する。具体的には、ホルダ12の下面に取り付けられた窒化物系半導体レーザ素子構造20のn型GaN基板1の裏面(図4参照)を、研磨剤が配置されているバフ13の上面に、一定の負荷で押圧する。そして、バフ13(図3参照)に水またはオイルを流しながら、ホルダ12をR方向に回転する。このようにして、n型GaN基板1の厚みが約120μm?約180μmになるまで機械研磨を行う。なお、n型GaN基板1の厚みを、約120μm?約180μmの範囲に加工するのは、この範囲の厚みであれば、後述する劈開工程を良好に行うことができるためである。
【0048】
この後、本実施形態では、反応性イオンエッチング(RIE)法により、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を、約20分間エッチングする。このエッチングは、ガス流量、Cl2ガス:10sccm、BCl_(3)ガス:5sccm、エッチング圧力:約3.3Pa、RFパワー:200W(0.63W/cm^(2))、エッチング温度:常温の条件下で行った。これにより、n型GaN基板1の裏面(窒素面)を約1μmの厚み分だけ除去する。その結果、上記機械研磨に起因して発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板1の裏面近傍の領域を除去することができる。また、n型GaN基板1の裏面を、機械研磨のみで加工した場合と比べて、より平坦な鏡面にすることができる。なお、n型GaN基板1の裏面の反射像を目視により良好に確認することができる表面状態を鏡面とする。
【0049】
ここで、上記したエッチングによる効果を確認するために、エッチング前後におけるn型GaN基板1の裏面の結晶欠陥(転位)密度を、TEM(Transmission Electron Microscope)分析により測定した。その結果、エッチング前には、結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上であったのに対して、エッチング後には、結晶欠陥密度は、1×10^(6)cm^(-2)以下にまで減少していることが判明した。また、エッチング後のn型GaN基板1の裏面近傍の電子キャリア濃度を、エレクトロケミカルC-V測定濃度プロファイラーにより測定した。その結果、n型GaN基板1の裏面近傍の電子キャリア濃度は、1.0×10^(18)cm^(-3)以上であった。これにより、RIE法によるエッチングによって、裏面近傍の電子キャリア濃度を、n型GaN基板1の基板キャリア濃度(5×10^(18)cm^(-3))と同程度にできることがわかった。」
「【0056】
次に、RIE法を用いてn型GaN基板の裏面(窒素面)のエッチングを行う本発明の効果をより詳細に確認するため、以下の表1に示すような実験を行った。
【表1】


「【0059】
結果としては、RIE法を用いてn型GaN基板の裏面のエッチングを行った本発明による試料3?7では、従来と同様の方法により作製された試料1よりもコンタクト抵抗が大きく低減された。具体的には、試料1のコンタクト抵抗は、20Ωcm^(2)であったのに対して、本発明による試料3?7のコンタクト抵抗は、0.05Ωcm^(2)以下であった。これは以下の理由によると考えられる。すなわち、本発明による試料3?7では、機械研磨により発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板の裏面近傍の領域が、RIE法によるエッチングにより除去されたと考えられる。このため、n型GaN基板の裏面近傍における結晶欠陥に起因して電子キャリア濃度が低下するのが抑制されたためであると考えられる。」
「【0061】
また、Cl_(2)ガスを用いたRIE法により、n型GaN基板の裏面を約1μmの厚み分だけ除去した試料4では、Cl_(2)ガスを用いたRIE法により、n型GaN基板の裏面を約0.5μmの厚み分だけ除去した試料3よりも、低いコンタクト抵抗を得ることができた。これは、約0.5μmの厚み分の除去では、機械研磨により発生した結晶欠陥を含むn型GaN基板の裏面近傍の領域を十分に除去することができなかったためであると考えられる。これらの試料において、n型GaN基板の裏面の結晶欠陥(転位)密度を、TEM分析により測定したところ、試料3の結晶欠陥密度は1×10^(9)cm^(-2)であった。一方、試料4では、観察した視野中に結晶欠陥は観察されず、結晶欠陥密度は1×10^(6)cm^(-2)以下であった。したがって、RIE法によりn型GaN基板の裏面を約1.0μm以上の厚み分除去するのが好ましい。」

(イ)「(ただし、同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn型電極を形成すると、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥であり)」との訂正事項について
a 本件特許明細書の段落【0049】には、「エッチング前には、結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上」と記載されており、また、段落【0056】の【表1】には、試料1の「GaN基板裏面研磨→n側電極形成」として「コンタクト抵抗値(Ωcm^(2))」「20」と記載されている。
そうすると、研磨の後にエッチングを行わずn側電極形成をする試料1の「第2工程の終了時に第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)以上であ」り、「裏面にn型電極を形成すると、20Ωcm^(2)のコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」であるといえる。
加えて、「20Ωcm^(2)のコンタクト抵抗」が、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗であることは自明である。
そして、本件特許明細書の段落【0056】の【表1】の試料1と試料3?7とをみると、本件特許明細書には、上記結晶欠陥をエッチングしたことが記載されている。
したがって、訂正拒絶理由通知が指摘した事項(後記bで検討する。)を措けば、「(ただし、同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn型電極を形成すると、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥であり)」との訂正事項は、本件特許明細書の記載の範囲内でなされたものといえる。

b そこで、訂正拒絶理由通知が指摘した点について検討する。
(a)「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)『程度』」について
訂正拒絶理由通知は、本件特許明細書の段落【0049】の「結晶欠陥密度は、1×10^(10)cm^(-2)以上」との記載を根拠に「程度」という文言を用いることが、新規事項を追加するものである旨説示したところである。
しかしながら、「1×10^(10)cm^(-2)」との値は測定値であると解されるところ、そうであるならば、一定の誤差が当然に含まれている。そうすると、当業者であれば、本件特許明細書の「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)以上」との文言を「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度以上」と理解することが明らかである。
したがって、「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)『程度』」との訂正事項は、新規事項を追加するものではない。

(b)「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、」について
訂正拒絶理由通知は、「同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn型電極を形成すると、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」(である)との文言(以下「本件文言」という。)が、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度の際には、当該裏面にn型電極を形成すると、高いコンタクト抵抗が生じる場合と生じない場合があり、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、そのうちの高いコンタクト抵抗が生じる場合を選択することをも意味しているならば、新規事項を追加するものである旨説示したところである。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0009】には、「しかしながら、上記特許文献1に開示された従来の方法では、n型GaN基板の裏面を機械研磨する際に、n型GaN基板の裏面近傍に応力が加わる。このため、n型GaN基板の裏面近傍にクラックなどの微細な結晶欠陥が発生するという不都合がある。その結果、n型GaN基板と、n型GaN基板の裏面(窒素面)上に形成されたn側電極とのコンタクト抵抗が増加するという問題点があった。」と記載されており、当該記載からすれば、n型GaN基板の裏面を機械研磨することによって生じる結晶欠陥は、必然的に、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗になるものと解される。そうすると、本件文言は、「同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度」のときは、必然的に、「当該裏面にn型電極を形成すると、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」となるとの前提においてなされたものであると解される。すなわち、本件文言は、「前記第1工程及び前記第2工程の後、・・・第3工程」との特定事項と日本語的に接続して、第2工程の終了時の転位が、「当該裏面にn型電極を形成すると、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」に必然的になるような「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度」の転位であっても、「第3工程」の対象とすることを特定しているにすぎないものと解される。
よって、本件文言についての訂正事項は、上記aのとおり、本件特許明細書の記載の範囲内でなされたものである。

c 以上によれば、「(ただし、同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn型電極を形成すると、窒化物半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥であり)」との訂正事項は、本件特許明細書の記載の範囲内でなされたものである。

(ウ)「裏面近傍の領域を0.5μm以上除去して」との訂正事項について
本件特許明細書の段落【0061】には、本発明による「裏面を約0.5μmの厚み分だけ除去した試料3」及び「裏面を約1μmの厚み分だけ除去した試料4」について、「試料3の結晶欠陥密度は1×10^(9)cm^(-2)」であり、「試料4」の「結晶欠陥密度は1×10^(6)cm^(-2)以下」であることが記載されている。よって、「前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を0.5μm以上除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程」とする訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

(エ)以上のとおりであるから、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否かについて
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないし、上記イのとおり、新規事項を追加するものでもない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

エ 訂正事項1についてのまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1は、訂正要件に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項4を削除するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当せず、本件特許明細書又は本件特許図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び6項に適合するものである。
よって、訂正事項2は、訂正要件に適合する。

(3)訂正事項3?8について
訂正事項3?8は、訂正事項2における請求項4を削除する訂正に伴い、請求項5?10が有していた請求項4への引用を削除するための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項3?8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当せず、本件特許明細書又は本件特許図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び6項に適合するものである。
よって、訂正事項3?8は、訂正要件に適合する。

(4)一群の請求項について
請求項1?10は一群の請求項であるところ、本件訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は適法である。よって、訂正後の請求項[1?10]について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明10」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と(ただし、同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥であり)、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を0.5μm以上除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程と、
その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備え、
前記第1半導体層と前記n側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とする、窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項2】前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面である、請求項1に記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項3】前記第3工程により、前記転位密度は、1×10^(6)cm^(-2)以下に低減される、請求項1又は2に記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】前記基板は、成長用基板上に成長することを利用して形成されている、請求項1?3のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項6】前記第1工程によって前記第1半導体層の上面上に前記第2半導体層を形成した後に、前記第2工程によって前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工を行う、請求項1?3又は5のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項7】前記第1半導体層及び前記第2半導体層を劈開することにより、共振器端面を形成する第5工程をさらに備える、請求項1?3,5又は6のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項8】前記第1半導体層は、HVPE法により形成される、請求項1?3又は5?7のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。」
【請求項9】前記第2半導体層は、MOCVD法により形成される、請求項1?3又は5?8のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項10】前記第1半導体層は、前記第2工程により180μm以下の厚みになるまで厚み加工される、請求項1?3又は5?9のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。」

第4 第1事件についての請求人の主張の概要(本件併合通知前)
請求人は、「特許第4180107号の請求項1乃至10に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、本件特許は無効とすべきものであると主張している。

1 請求人が提出した証拠方法
以下、証拠番号の「第」及び「号証」は略する。

(1)審判請求書に添付したもの
甲1:特許第4180107号公報(本件特許)
甲2:特開2000-349338号公報
甲3の1:報告書(平成25年5月14日、請求人従業者作成)
甲3の2:本件特許の被請求人(三洋電機株式会社)を原告とし本件審判の請求人(日亜化学工業株式会社)を被告とする侵害訴訟(平成23年(ワ)第26676号 特許権侵害行為差止等請求事件)の甲第14号証
甲3の3:特許無効審判(無効2011-800203号)の審決取消請求事件(平成24年(行ケ)第10303号)における技術説明に本件審判被請求人が用いたスライド
甲4:特開2001-148357号公報
甲5:特開2001-284736号公報
甲6:特開2002-43695号公報
甲7:特開2000-223790号公報
甲8:特開2000-340511号公報
甲9:特開2001-192300号公報
甲10:特開2001-313422号公報
甲11:特開2001-176823号公報
甲12:特開2001-148533号公報

(2)口頭審理陳述要領書(請求人)に添付したもの
甲13:平成24年(行ケ)第10302号の平成25年1月8日付け被告(三洋電機株式会社)第1準備書面の1?4頁
甲14:M.E.Twigg,他4名,"Correlation between nucleation layer structure, dislocation density, and electrical resistivity for GaN films grown on a-plane sapphire by metalorganic vapor phase epitaxy",APPLIED PHYSICS LETTERS Vol.79,No.26,pp4322-4324,24 DECEMBER 2001
甲15:安永暢男著、「はじめての研磨加工」、東京電機大学出版局、2011年4月20日
甲16:特開2002-76502号公報
甲17:特開2002-76519号公報
甲18:特開2000-216498号公報
甲19:特開2001-160539号公報
甲20:Kyoyeol Lee,他1名,"Properties of Freestanding GaN Substrates Grown by Hydride Vapor Phase Epitaxy", Japanese Journal of Applied Physics Vol.40(2001),pp.L13-L15
甲21:特開2001-322899号公報
甲22:国際公開第01/68955号
甲23:別件審判事件(無効2013-800099)の平成25年9月25日付け審理事項通知書
甲24:特開2000-223779号公報
甲25:特開2001-102690号公報
甲26:特開2002-84040号公報
甲27:特開2001-332817号公報
甲28の1:特開2001-257414号公報
甲28の2:特開平10-22526号公報
甲29:松永正久、他3名編「エレクトロニクス用結晶材料の精密加工技術」、サイエンスフォーラム、昭和60年1月30日
甲30:志村史夫著「半導体シリコン結晶工学」、丸善、平成5年9月30日
甲31:W薄膜のクラック伝播に関する電子顕微鏡観察、斎藤吉弘他1名、日本金属学会誌第32巻(1968)、1266?1269頁
甲32:イオン結晶中のき裂進展と転位の発生、小泉大一他2名、生産研究33巻2号(1981.2)、84?86頁
甲33:「ATR用圧力管材のAcoustic Emissionの測定に関する試験研究(第1報)」、動力炉・核燃料開発事業団東海事業所、1974年4月、9頁?13頁、65頁
甲34:平田照二著「わかる半導体レーザの基礎と応用/レーザ・ダイオードの発光原理および諸特性とその展望」、CQ出版社、2001年11月20日
甲35:別件審判事件(無効2013-800119)の平成25年12月20日付け審理事項通知書
甲36:Joon Seop Kwak,他6名,"Crystal-polarity dependence of Ti/Al contacts to freestanding n-GaN substrate",APPLIED PHYSICS LETTERS, Volume 79,Number 20,pp.3254-3256,12 NOVEMBER 2001
甲37: A.P.Zhang,他7名,"Vertical and lateral GaN rectifiers on free-standing GaN substrates",APPLIED PHYSICS LETTERS, Volume 79,Number 10,pp.1555-1557,3 SEPTEMBER 2001

(3)平成29年2月13日付け審判事件弁駁書に添付したもの
甲38:知財高裁平成27年9月28日付判決(平成26年(行ケ)第10148号審決取消請求事件)
甲39:知財高裁平成27年12月24日付判決(平成27年(行ケ)第10116号審決取消請求事件)
甲40:「半導体評価技術」、河東田隆編、1994年5月30日
甲41:「表面光学講座1 表面の構造」、佐々木恒孝ほか編、昭和46年7月30日
甲42:審決(無効2014-800061号)、特許庁、平成27年5月26日
甲43:知財高裁平成25年1月14日判決(平成24年(行ケ)第10302号審決取消請求事件判決)
甲44:特開昭63-122179号公報
甲45:技術説明資料(無効2011-800203号の乙7)、被請求人、平成24年4月25日

2 審判請求書における主張の概要
(1)無効理由1(甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如)
請求人は、審判請求書において、本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明10」という。)は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許されたものであるという無効理由1を主張しており、そのうち、本件特許発明1についての主張は概ね次のとおりである。

ア 本件特許発明1と甲2に記載された発明との一致点及び相違点(審判請求書31頁6行?32頁13行)
本件特許発明1と甲2に記載された発明とは、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程と、
その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備えた、
窒化物系半導体素子の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点
本件特許発明1では、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)以下」とされるのに対し、甲2には、GaN結晶膜65とn型電極74とのコンタクト抵抗の値が明記されていない点。

イ 相違点について(審判請求書32頁14行?34頁5行)
(ア)本件特許明細書には、キャリア濃度が「1×10^(18)cm^(-3)」よりも低いGaN基板で「0.05Ωcm^(2)」よりも遥かに小さいコンタクト抵抗が得られる旨が記載されているところ(甲1の【0054】における表1の試料4の欄を参照。)、当該記載に従えば、キャリア濃度が「1×10^(18)cm^(-3)」である甲2発明のGaN結晶膜65においても(甲2の【0212】)、「0.05Ωcm^(2)以下」のコンタクト抵抗は、当然に達成される。
(イ)甲3の1として提出するとおり、甲2に記載された発明のコンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)」であると仮定すると、甲2に記載された発明におけるレーザ素子の発振閾値電圧は249V程度になってしまうが、常識的に考えて、このような電圧でレーザ素子を発振させることはできないから(このような高電圧を印加すれば熱によりレーザ素子が破壊される。)、甲2に記載された発明のGaN結晶膜65においては、コンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)以下」より遥かに低い値になっていると考えるのが当然である。
(ウ)本件特許明細書には、「0.05Ωcm^(2)以下」のコンタクト抵抗を得るにあたり、転位密度を「1×10^(9)cm^(-2)以下」とする以外に特別な設計条件が必要であるとの記載がないから、転位密度を「2×10^(8)/cm^(2)以下」とする以外に特別の設計条件を用いていない甲2に記載された発明においても、当然に「0.05Ωcm^(2)以下」のコンタクト抵抗が得られている。
(エ)以上のとおり、相違点に係る構成は、甲2において明記こそされていないものの、甲2に記載された発明においても当然に達成されている構成である。したがって、本件特許発明1は、当業者が甲2に記載された発明から容易に発明することができたものである。

(2)無効理由2(甲11に記載された発明に基づく進歩性欠如)
請求人は、審判請求書において、本件特許発明1ないし10は、甲11に記載された発明に基づいて当業者が特許出願前に容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許されたものであるという無効理由2を主張しており、そのうち、本件特許発明1についての主張は概ね次のとおりである。

ア 本件特許発明1と甲11に記載された発明との一致点及び相違点(審判請求書42頁4行?43頁4行)
本件特許発明1と甲2に記載された発明とは、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去する第3工程と、
その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備えた、
窒化物系半導体素子の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本件特許発明1では、第3工程の除去により第1半導体層の裏面の転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下とされるのに対し、甲11には、第3工程のエッチングにより達成されるGaN基板600の転位密度が明記されていない点
・相違点2
本件特許発明1では、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)以下」とされるのに対し、甲11には、GaN基板600とn型電極61とのコンタクト抵抗の値が明記されていない点。

イ 相違点1について(審判請求書43頁6行?44頁7行)
(ア)甲11に記載された発明は、GaN基板の研磨によって生じた「表面歪み」をエッチング除去することにより、コンタクト抵抗を低減するものである(甲11の【0202】)。そうすると、甲11に記載された発明において、コンタクト抵抗を低減するためにGaN基板の研磨面をエッチングすれば、必然的にその転位密度も一定以下となっているはずであるから(半導体レーザ素子に用いるGaN基板の転位密度としては典型的には1×10^(6)cm^(-2)?1×10^(7)cm^(-2)程度であり、甲11に記載された発明において、コンタクト抵抗を低減するために研磨によって生じた表面歪みを完全に除去すれば、その転位密度は1×10^(6)cm^(-2)?1×10^(7)cm^(-2)程度になっている)、甲11に記載された発明においてエッチング除去後のGaN基板の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とすることは設計事項に過ぎない。
(イ)本件特許明細書の【0056】の表1ないし【0061】の記載によれば、本件特許発明1の転位密度である「1×10^(9)cm^(-2)」は、機械研磨した半導体裏面の結晶欠陥を一部(約0.5μmの厚み分)のみ除去した試料3の場合でも達成されている値である。しかして、GaN基板の裏面を0.5μm以上除去する程度のことは周知技術であるから(甲10の【0041】参照)、甲11に記載された発明においても、当然「1×10^(9)cm^(-2)」以下の転位密度が得られている。
(ウ)GaN基板の裏面を0.5μm以上除去する程度のことは周知技術であるから(甲10の【0041】参照)、甲11に記載された発明においても、当然「1×10^(9)cm^(-2)」以下の転位密度が得られている。

ウ 相違点2について(審判請求書44頁8行?末行)
(ア)本件特許発明1の「0.05Ωcm^(2)以下」は、コンタクト抵抗の値として本件特許発明1の出願時に周知である(甲4の【0053】、甲12の【0054】を参照)。
(イ)本件特許明細書の【0056】の表1によれば、本件特許発明1のコンタクト抵抗である「0.05Ωcm^(2)」との値は、機械研磨した半導体裏面の結晶欠陥を一部(約0.5μmの厚み分)のみ除去した場合でも達成されるものであって、良好な特性ということは到底できないものである。これに対し、甲11には、エッチング処理は「研磨によって生じた表面歪及び酸化膜を除去し、n型電極のコンタクト抵抗」を「低減するために行う」ことを明記している。すなわち、半導体基板の研磨面のコンタクト抵抗の低減のためエッチング処理をすべき旨教示している。この甲11に記載された発明の教示に接した当業者が、コンタクト抵抗を低減するためのエッチング処理を行うに際し、エッチングにより除去する範囲を「0.5μm」未満とし、「0.05Ωcm^(2)」超の劣ったコンタクト抵抗値の製品を製造することはおよそありえない。当業者であれば、当然、エッチングの厚みを「0.5μm」以上とし、コンタクト抵抗を「0.05Ωcm^(2)」以下とするといえる。

3 口頭審理陳述要領書(請求人)における主張の概要
(1)無効理由1について
ア 本件特許発明1の構成Cが一致点であることについて(口頭審理陳述要領書(請求人)4頁8行?9頁22行)
甲2に記載された発明の「研磨」(甲2の【0215】)は、「機械研磨」と「除去」の2工程を含んでおり、前者(機械研磨)は、本件特許発明1の「第2工程」に該当し、後者(除去)は、本件特許発明1の「第3工程」に該当する。よって、本件特許発明1の構成C「前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程」は、甲2に記載された発明との関係において一致点となる。

イ 本件特許発明1の構成Cが相違点(相違点2)であるとしても、この点は当業者が容易に想到できることについて(口頭審理陳述要領書(請求人)9頁23行?12頁6行)
(ア)甲14には、「転位」のひとつである刃状転位が多いとGaN膜の抵抗率が高くなることが示され、この甲14に記載された知見を踏まえて、甲2発明において研磨により発生した転位を含むGaN結晶膜またはGaN基板の裏面近傍の領域を除去してGaN基板を研磨前の状態に戻し、これによってGaN結晶膜またはGaN基板の裏面の転位密度をこれらが元々有していた転位密度である1×10^(9)cm^(-2)以下とすることは、当業者が容易に想到することができたというべきである。
(イ)甲2の【0210】以下の「実施例2」に関する記載からは、研磨により厚み加工される形態である甲2第一発明と、ドライエッチングにより厚み加工される形態である甲2第二発明とを把握することができ、エッチングの方が機械研磨より基板にダメージを与えないことは周知であり、また、機械研磨の方がエッチングより速く基板を除去できることも周知であることも踏まえて、基板に大きなダメージを与える甲2第一発明(研磨により厚み加工される形態)における研磨を途中で止めて、残りの研磨工程をダメージを与えない甲2第二発明のドライエッチングに代えることは、当業者であれば当然に行う設計事項に過ぎない。
(ウ)甲11の【0202】には、研磨後にエッチング処理を行うことが開示されているが、エッチングの方が機械研磨より基板にダメージを与えないことは周知であり、また、機械研磨の方がエッチングより速く基板を除去できることも周知である。したがって、甲2第一発明に甲11に記載された知見も踏まえて、研磨されたGaN結晶膜をエッチング処理し、その転位密度を研磨前の状態に戻し10^(9)cm^(-2)以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 本件特許発明1の構成E「前記第1半導体層と前記n側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とする」について(口頭審理陳述要領書(請求人)12頁7行?13頁2行)
甲3の1に関して、前述のとおり甲2の「研磨」では転位密度が増大しないので、電極面が研磨されているか否かは、仮定の当否に影響しない。また、甲28の1の【0014】や甲28の2の【0036】 【0037】に300μm(0.3mm)や250μm(0.25mm)のチップ幅が開示されているとおり、0.4mmという値はチップ幅として一般的な値である。したがって、甲3の1における仮定は合理的である。

(2)無効理由2について
ア 相違点1について(口頭審理陳述要領書(請求人)14頁15行?18頁1行)
平成24年(行ケ)10302号の判決は、「本件特許発明にいう『転位』とは,基板の機械研磨によって生じ得る加工変質層(甲24)(審決注:本件審判の甲29)のうち,結晶中の深くまで生じ得る原子レベルの線状の結晶欠陥を意味するものと認めるのが相当である。」(28頁)としているところ、甲30には、甲29と同様の「加工変質層」のモデル図が記載され、さらに「歪み層」を含む「加工変質層」は電気的特性に悪影響を及ぼすので完全に除去しなければならないことが記載されており、一方、甲11には、「表面歪み」が研磨によって生じたものであり、エッチングによって除去されるものであり、しかも、電気的特性に悪影響を与えるものであることが記載されているから、甲11に記載された発明で除去されている「表面歪み」が甲29、甲30における「ひずみ層」又は「歪み層」と同じものであることは明らかである。してみると、上記判決の「転位」の意味に関する認定に従えば、「転位」という文言の有無にかかわらず、甲11には「転位」及びその除去について開示されているということにならざるをえない。

イ 相違点2について(口頭審理陳述要領書(請求人)18頁2行?19頁5行)
(ア)「0.05Ωcm^(2)以下」というコンタクト抵抗の値は、甲4、甲12のほか、甲36、甲37にも開示されている。
(イ)本件特許発明では基板表面が鏡面になるまでの加工をしていることが前提になっているところ(甲3の3の6頁)、甲11の研磨も鏡面になるまでの研磨であるから、甲11の研磨による基板への影響は、本件明細書の実施例と大きな違いはないといえる。したがって、甲11において0.5μm程度のエッチングをすれば本件明細書の実施例と同様の結果になる。

(3)被請求人の平成25年8月16日付けの答弁書への反論(口頭審理陳述要領書(請求人)19頁20行?22頁20行)
ア 無効理由1
本件特許発明の構成Cは一致点であり、たとえ相違点であるとしても、本件特許発明の構成Eと同様に当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。したがって、被請求人の主張はすべて誤りである。

イ 無効理由2
甲11の開示にしたがえば自動的に(少なくとも、容易に)本件特許発明の最良の実施形態に至るのであるから、当業者が本件特許発明が開示する転位密度やコンタクト抵抗の具体的な数値を想定するか否かとは関わりなく、本件特許発明は容易想到である。

(4)本件は職権による無効理由の通知が相当であることについて(口頭審理陳述要領書(請求人)22頁21行?32頁17行)
審判合議体は、次のア及びイの無効理由を職権で取り上げるべきである。
ア 請求項1ないし10に係る発明は、甲2第一発明、甲36に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ 請求項1ないし10に係る発明は、甲11発明、甲36に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 口頭審理陳述要領書(請求人)による審判請求書の請求の理由の補正の許否
(1)上記3(1)イについて
上記2(1)のとおり、審判請求書では、無効理由1(甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如)については、「本件特許発明1では、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗が『0.05Ωcm^(2)以下』とされるのに対し、甲2には、GaN結晶膜65とn型電極74とのコンタクト抵抗の値が明記されていない点」のみを本件特許発明1と甲2に記載された発明との相違点としていた。
ところが、口頭審理陳述要領書(請求人)では、上記3(1)イのとおり、前記相違点に加え、甲2に記載された発明は、本件特許発明1の構成C(第3工程)を備えない点も相違点(以下「相違点2」という。)であるとし、当該相違点2は、刃状転位が多いとGaN膜の抵抗率が高くなるという甲14に記載の知見を踏まえれば、当業者が容易に想到できるとしている。
してみると、口頭審理陳述要領書の上記3(1)イの主張は、特許を無効にする根拠となる事実を追加し、それに伴い特許を無効にする根拠となる事実を立証するための直接証拠(甲14)を追加するものであるから、口頭審理陳述要領書(請求人)の上記3(1)イは、請求の理由の要旨を変更する補正に当たる。

(2)上記3(4)について
口頭審理陳述要領書(請求人)では、上記3(4)のとおり、甲36を新たに追加して、本件は職権による無効理由の通知が相当であるとしている。
してみると、口頭審理陳述要領書の上記3(4)の主張は、特許を無効にする根拠となる事実を追加し、それに伴い特許を無効にする根拠となる事実を立証するための直接証拠(甲36)を追加するものであるから、口頭審理陳述要領書(請求人)の上記3(4)は、請求の理由の要旨を変更する補正に当たる。

(3)甲14に基づく主張(口頭審理陳述要領書の第2頁第22行?第3頁第6行「この意味において、・・・見出されたものでもない。」、第14頁第18?20行「また、・・・既に開示されている。」及び第20頁第8?13行「しかしながら、・・・技術的意義は認められない。」)について
請求人は、口頭審理陳述要領書(請求人)において、甲14を新たに追加し、「転位」のひとつである刃状転位が多いとGaN膜の抵抗率が高くなるという特許を無効にする根拠となる事実を立証しようとしているのであるから、甲14が特許を無効にする根拠となる周知事実を立証するための証拠や補強証拠に当たらないことは明らかである。
よって、口頭審理陳述要領書(請求人)の甲14に基づく主張は、請求の理由の要旨を変更する補正に当たる。

(4)上記(1)?(3)のとおり、口頭審理陳述要領書の第2頁第22行?第3頁第6行「この意味において、・・・見出されたものでもない。」、第14頁第18?20行「また、・・・既に開示されている。」、第20頁第8?13行「しかしながら、・・・技術的意義は認められない。」(以上、甲第14号証に基づく主張)、第9頁第23行?第12頁第6行(「(2)本件特許発明1の構成Cが相違点(相違点2)であるとしても、この点は当業者が容易に想到できることについて」)、及び、第22頁第21行?第32頁第17行(「第4 職権による無効理由の通知が相当であることについて」)の各箇所の記載による請求の理由の補正については、口頭審理において、審判長は、特許法第131条の2第1項の規定に基づき、許可しないと決定した。

第5 第1事件についての被請求人の主張の概要(本件併合通知前)
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない」、「審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の主張は、全く理由がないものであり、本件特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件特許は無効にされるべきものではないと主張している。

被請求人が提出した証拠方法は次のとおりである。
乙1:別件審判事件(無効2011-800202)の審決
乙2:知財高判平成25年11月14日言渡判決(平成24年(行ケ)第10302号)
乙3:松永正久、他3名編「エレクトロニクス用結晶材料の精密加工技術」、サイエンスフォーラム、昭和60年1月30日(乙2に記載された甲24)

第6 第2事件についての請求人の主張の概要(本件併合通知前)
請求人は、「特許第4180107号の請求項1乃至10に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、本件特許は無効とすべきものであると主張している。

1 請求人が提出した証拠方法
(1)審判請求書に添付したもの
甲1:特許第4180107号公報(本件特許)
甲2:Joon Seop Kwak外6名,"Crystal-polarity dependence of Ti/Al contacts to freestanding n-GaN substrate",APPLIED PHYSICS LETTERS,12 NOVEMBER 2001,Volume 79,Number 20,pp.3254-3256
甲3:特開2000-349338号公報
甲4:特開2001-176823号公報
甲5:Masaru Kuramoto外9名,"Room-Temperature Continuous-Wave Operation of InGaN Multi-Quantum-Well Laser Diodes Grown on an n-GaN Substrate with a Backside n-Contact",Japanese Journal of Applied Physics,15 February 1999,Vol.38,Part 2,No.2B,pp.L184-L186
甲6:A.P.Zhang外7名,"Vertical and lateral GaN rectifiers on free-standing GaN substrates",APPLIED PHYSICS LETTERS,3 SEPTEMBER 2001,Volume 79,Number 10,pp.1555-1557
甲7:松永正久、「加工変質層と表面物性」、日本機械学会誌、昭和47年1月、第75巻、第636号、15頁?23頁
甲8:佐々木恒孝外3名編集、「表面工学講座1 表面の構造」、朝倉書店、昭和46年7月30日、68頁?117頁
甲9:特開2001-148357号公報
甲10:M.E.Twigg外4名,"Correlation between nucleation layer structure, dislocation density, and electrical resistivity for GaN films grown on a-plane sapphire by metalorganic vapor phase epitaxy",APPLIED PHYSICS LETTERS,24 DECEMBER 2001,Vol.79,No.26,pp4322-4324
甲11:特開平10-163460号公報
甲12:半導体用語大辞典編集委員会編集、「半導体用語大辞典」、日刊工業新聞社、1999年3月20日、730頁?733頁
甲13:高橋清外1名監修、「半導体・金属材料用語辞典」、株式会社工業調査会、1999年9月20日、190頁?191頁、682頁?683頁、762頁?763頁
甲14:特開昭60-117742号公報
甲15:特開平6-244112号公報
甲16:国際公開第98/45511号
甲17:関連特許(特許第3933592号)無効審判事件(無効2011-800202号)の審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10302号)の判決
甲18:松永正久外3名編、「エレクトロニクス用結晶材料の精密加工技術」、株式会社サイエンスフォーラム、昭和60年1月30日、577頁?584頁
甲19:「ATR用圧力管材のAcoustic Emissionの測定に関する試験研究(第1報)」、動力炉・核燃料開発事業団東海事業所、1974年4月、9頁?13頁、65頁
甲20:斎藤吉弘外1名、「W薄膜のクラック伝播に関する電子顕微鏡観察」、日本金属学会誌、1968年、第32巻、1266頁?1269頁
甲21:小泉大一外2名、「イオン結晶中のき裂進展と転位の発生」、生産研究、1981年2月、33巻2号、84?86頁
甲22:特開平10-206612号公報
甲23:藤原考佑外1名、「X線反射率法による単結晶シリコン研磨面の加工変質層深さの評価」、秋田高専研究紀要、平成21年2月、第44号、9頁?16頁
甲24:志村史夫著、「半導体シリコン結晶工学」、丸善株式会社、平成5年9月30日、111頁?114頁
甲25:有田潔外5名、「プラズマによるウエハ加工変質層の除去技術」、8th Symposium on "Microjoining and Assembly Technology in Electronics"、January 31-February 1,2002、87頁?92頁
甲26:特開2000-252217号公報
甲27:Kyoyeol Lee外1名,"Properties of Freestanding GaN Substrates Grown by Hydride Vapor Phase Epitaxy", Japanese Journal of Applied Physics,15 January 2001,Vol.40,Part 2,No.1A/B,pp.L13-L15
甲28:国際科学振興財団編、「科学大辞典」、丸善株式会社、昭和60年3月5日、428頁、947頁
甲29:特願2003-74966号(原々出願)の平成18年10月19日付け拒絶理由通知書
甲30:特開2002-84040号公報
甲31:特開平11-340510号公報
甲32:別件無効審判事件(その1)の審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10303号)の判決
甲33:関連特許(特許第3933592号)無効審判事件(無効2011-800202号)の平成24年7月20日付け審決
甲34:特開平11-4048号公報
甲35:関連特許(特許第3933592号)の無効審判事件(無効2013-800099号)において、平成25年12月27日に被請求人が提出した意見書
甲36:Z.-Q.Fang外8名,"Deep centers in a free-standing GaN layer",APPLIED PHYSICS LETTERS,9 APRIL 2001,Vol.78,No.15,pp2178-2180
甲37:Kensaku Motoki外15名,"Preparation of Large Freestanding GaN Substrates by Hydride Vapor Phase Epitaxy Using GaAs as a Starting Substrate",Japanese Journal of Applied Physics,15 Februaty 2001,Vol.40,Part 2,No.2B,pp.L140-L143
甲38:特開2001-192300号公報
甲39:特開2000-223790号公報
甲40:特開2001-313422号公報
甲41:関連特許(特許第3933592号)無効審判事件(無効2013-800099号)の平成25年9月25日付け審理事項通知書
甲42:P.Prystawko外9名,"Doping of Homoepitaxial GaN Layers",Phys.stat.sol.(b)210,1998,pp.437-443
甲43の1:請求人従業者丸谷幸利作成の平成26年4月18日付け「報告書(1)」
甲43の2:請求人従業者丸谷幸利作成の平成26年4月18日付け「報告書(2)」
甲44:関連特許(特許第3933592号)無効審判事件(無効2013-800119号)の平成25年12月20日付け審理事項通知書
甲45:一般財団法人材料科学技術振興財団分析評価部作成の2012年12月19日付け「分析結果報告書」
甲46:"接触抵抗とは-コトバンク"、2014年4月14日検索、<URL:http://kotobank.jp/word/%E6%8E%A5%E8%A7%A6%E6%8A%B5%E6%8A%97>
甲47:河東田隆編著、「半導体評価技術」、産業図書株式会社、1994年5月30日初版第4刷発行、8頁?9頁、18頁?21頁、72頁?73頁、98頁?105頁、142頁?147頁
甲48:先端電子材料事典編集委員会編、「先端電子材料事典」、株式会社シーエムシー、1991年3月15日、194頁?195頁、654頁?655頁
甲49:青木昌治外1名著、「電気学会大学講座 電子材料工学」、社団法人電気学会、1983年11月25日2版発行、288頁?291頁
甲50:上田大助外5名著、「情報通信の新時代を拓く 高周波・光半導体デバイス」、社団法人電子情報通信学会、平成13年3月15日初版第2刷発行、22頁?25頁
甲51:Hadis Morkoc,"Nitride Semiconductors and Devices",Springer,1999,p.196-197

(2)口頭審理陳述要領書(請求人)に添付したもの
甲52:無効2013-800120号(別件無効審判事件(その3))の平成26年5月20日付け審決
甲53:無効2013-800099号の平成25年11月29日発送日にかかる第1回口頭審理調書
甲54:無効2013-800119号の平成25年12月25日発送日にかかる審理事項通知書
甲55:平成26年(行ケ)第10148号審決取消請求事件の平成26年10月23日付け被告(三洋電機株式会社)第1準備書面
甲56:河東田隆編著、「集積回路プロセス技術シリーズ 半導体評価技術」、産業図書株式会社、1994年5月30日初版第4刷発行、38頁?43頁
甲57:阿部孝夫著、「アドバンスト エレクトロニクス シリーズI-5 シリコン 結晶成長とウェーハ加工」、株式会社培風館、1994年5月20日、62頁?93頁
甲58:日本表面科学会編、「透過型電子顕微鏡」、丸善株式会社、平成11年3月30日、42頁?57頁
甲59:特開2001-148533号公報

2 審判請求書における主張の概要
審判請求書の34頁?49頁の「第2 はじめに?本件特許発明の意義について」の記載について、当審合議体は、口頭審理において請求人の意図を確認したところ、請求人は、「第2 はじめに?本件特許発明の意義について」を一つの独立した無効理由として本件発明が周知・慣用技術と同様である旨を主張するものとして、その当否について当審合議体が無効理由1ないし5とは別に判断することを求めると述べた(口頭審理陳述要領書(請求人)4頁9行?13行参照。)。
当該請求人の主張に対して、被請求人は審判事件答弁書において「第2 はじめに?本件特許発明の意義について」の記載内容に対して実質的な反論を行っている(審判事件答弁書4頁25行?8頁11行)ので、当審合議体は、上記箇所の記載が独立した一つの無効理由(以下「無効理由0」という。)を主張するものとして扱い、その当否について判断することとした。

なお、請求人は、審判請求書(31頁下から2行?32頁13行参照。)において、本件特許の請求項1に係る発明を次のように分説して符号AないしFを付与しており、審判請求書を通じて、分説された発明の各構成要件を前記符号AないしFを用いて構成要件Aないし構成要件Fと称している。
「【請求項1】
A n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
B 前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
C 前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程と、
D その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備え、
E 前記第1半導体層と前記n側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とする、
F 窒化物系半導体素子の製造方法。」

(1)無効理由0(課題の公知性(甲9、甲10、甲11ないし13)及び周知技術(甲24、甲25、甲7、甲8、甲26、甲27、甲16)に基づく進歩性欠如)
請求人は、審判請求書(34頁?49頁の「第2 はじめに?本件特許発明の意義について」)において、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」といい、本件発明1ないし本件発明10を総称して「本件発明」という。)が解決しようとする課題は公知であり(甲9、甲10、甲11ないし13)、本件発明が周知技術そのものである(甲24、甲25、甲7、甲8、甲26、甲27、甲16)から、本件発明は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるという無効理由を主張しており、そのうち、本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

ア 本件発明の課題はGaN系、非GaN系を含め公知であったこと(審判請求書34頁17行?37頁末行)
刃状転位等の欠陥は、キャリアをトラップして調整した膜の電気的特性を損ねることが知られている(甲9)。転位の一つである刃状転位が多いとGaN膜の抵抗率が高くなる(甲10)。研磨に起因するダメージ部分においては、転位密度が高くなるので、光励起されたキャリヤはダメージ部分でトラップされる(甲11)。刃状転位にはダングリングボンドが存在する(甲12)ところ、ダングリングボンドは・・・キャリアのトラップなどの作用をする(甲13)。以上のことからみて、「転位密度の増大に起因してコンタクト抵抗が増大する」という課題は、本件発明によって初めて見出されたものではなく、従前から当業者が当然のこととして認識していた事項に過ぎない。
「半導体基板は転位が少ないことが望ましいこと」は、当業者における技術常識であり、基板裏面をエッチング処理することで「転位」を除去できることも技術常識であるから(甲7、甲8等)、これらの技術常識に基づき「転位」を除去しようとすることは当然であり、そうであるとすれば、機械研磨によって発生した転位を除去する動機付けの有無を検討するにあたり、「コンタクト抵抗」への影響の有無を知っていたかどうかを問題にするまでもなく、「研磨により発生した転位を含む・・・裏面近傍の領域を除去」する動機付けは十分にある。

イ 本件発明の課題解決手段(構成)は周知技術であったこと(審判請求書38頁1行?49頁末行)
関連特許(特許第3933592号)無効審判事件(無効2011-800202号)の審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10302号)の判決(甲17)が認定した「転位」の意味や、甲18ないし甲22、甲7、甲8、甲23の記載を踏まえると、「転位」とは加工変質層に含まれるものである。しかるに、Si、Geなどの半導体結晶を表面機械加工する際に生じる加工変質層(本件発明の「転位を含む・・・領域」に相当(甲17、甲22、甲7、甲8、甲23)。)は当該半導体結晶の電気的特性に悪影響を与えるものであり、エッチングによって完全に除去すべき(つまり、加工変質層を除去して元の基板の状態に戻すべき)ものである(甲24、甲25、甲7、甲8)。GaN系においても、加工変質層を除去することは周知技術である(甲26、甲27、甲16)。
半導体の薄型加工工程において、「加工変質層」すなわち本件発明でいう「転位を含む・・・領域」を完全に除去して元の基板の状態(研磨前の基板の状態)に戻すことは、本件出願前から、製造現場で日常的に行われていた周知技術そのものであり、本件発明は加工変質層に関する周知技術そのものの工程を記載したうえで、これに「転位」という表現を使い、かつ、「転位密度」と「コンタクト抵抗」の数値によってn側電極を付ける面の状態が元の基板の状態よりも悪い状態を規定しただけの発明である。

(2)無効理由1(甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如)
請求人は、審判請求書において、本件発明1ないし本件発明10は、甲2に記載された発明(下記甲2第一発明)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるという無効理由1を主張しており、そのうち、本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

ア 甲2に記載された発明(審判請求書52頁13行?23行)
甲2には次の発明が記載されている。
「平滑なエピレディ表面を得るためn型GaN基板におけるGa面とN面の両方を機械研磨とドライエッチ処理してGa面およびN面ともに代表的な転位密度を10^(7)cm^(-2)よりも低くする工程と、
その後、n型GaN基板のGa面とN面にTi/Al電極を形成する工程と、を備え、
Ga面上に形成されたTi/Al電極の接触抵抗値を2×10^(-5)Ωcm^(2)とする、
n型GaNからなるショットキーダイオードの製造方法。」(以下「甲2第一発明」という。)

イ 甲2第一発明が構成要件Aを備えない点(相違点1)及び相違点1について(審判請求書53頁2行?54頁3行)
甲2の「n型GaN基板」は「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層」に該当するが、甲2第一発明はn型GaN基板「の上面上に、活性層を含む窒化物系半導体層からなる第2半導体層を形成する」工程を行うものではないから、この点が相違点1となる。
「自立GaNは、転位密度が低く、熱伝導率が高く、劈開が容易であることから、光電子デバイスの基板として注目されて」おり、当業者が甲2のn型GaN基板を「光電子デバイス」すなわちLDやLEDの基板として用いる動機がある。
また、甲2は、「活性層を含む素子構造は、通常GaN基板のGa極性側に成長させるため、裏面オーミック電極はGaNのN極性側に形成する必要がある。しかし、Ga極性およびN極性のGaN基板上のオーミック電極間の電気特性の比較はほとんど行われてこなかった」という事情の下でなされた研究であり、GaN基板に活性層を含む素子構造が形成され得ることを当然の前提としている。

ウ 構成要件B(一致点だが、仮に相違点とすれば、相違点2)及び相違点2について(審判請求書54頁4行?22行)
本件発明の「厚み加工」を「劈開のための厚み加工」に限定解釈すれば、本件発明の構成要件Bにおいて相違点2が生じる余地もある。
n型GaN基板に活性層を含む素子構造を形成して光電子デバイスを製造することは当業者が容易に想到し得た構成であるところ、この場合においては、素子分離及び共振器端面を形成するために当然に劈開が行われるから、劈開に適した厚みとするための厚み加工を行う動機がある。

エ 甲2第一発明が構成要件Cを備えない点(相違点3)及び相違点3について(審判請求書54頁23行?57頁10行)
甲2第一発明の「ドライエッチ処理」はn型GaN基板に活性層を含む素子構造を形成した後(第1工程の後)に行われるものではない。したがって、本件発明の構成要件Cのうち「前記第1工程・・・の後」の点は相違点(相違点3)である。
n型GaN基板に活性層を含む素子構造を形成して光電子デバイスを製造することは当業者が容易に想到し得た構成であり、その際、先に当該素子構造を形成する工程(第1工程)を行い、その後に「厚み加工」の工程(第2工程)と「除去」の工程(第3工程)を行うことは当然である。

オ 構成要件D及び構成要件Eについて(審判請求書57頁11行?17行)
構成要件D及び構成要件Eは一致点である。

カ 構成要件F(一致点だが、仮に相違点とすれば、相違点4)及び相違点4について(審判請求書57頁18行?58頁4行)
仮に、本件発明の構成要件Fが相違点4だとしても、n型GaN基板に活性層を含む素子構造を形成して光電子デバイスを製造することは当業者が容易に想到し得た構成であるところ、n型GaN基板に活性層を含む素子構造を形成すれば窒化物系半導体素子が必然的に形成されることになる。

(3)無効理由2(甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如)
請求人は、審判請求書において、本件発明1ないし本件発明10は、甲2に記載された発明(下記甲2第二発明)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるという無効理由2を主張しており、そのうち、本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

ア 甲2に記載された発明(審判請求書65頁5行?14行)
甲2には次の発明が記載されている。
「平滑なエピレディ表面を得るためn型GaN基板におけるGa面とN面の両方を機械研磨とドライエッチ処理してGa面およびN面ともに代表的な転位密度を10^(7)cm^(-2)よりも低くする工程と、
その後、n型GaN基板のGa面とN面にTi/Al電極を形成する工程と、を備え、
GaN/AlNヘテロ構造における逆向きのピエゾ電界により、n型GaN基板のN面上の電極は、非線形の電流-電圧曲線を示し1eVを超える高いショットキー障壁が測定された、
n型GaNからなるショットキーダイオードの製造方法。」(以下「甲2第二発明」という。)

イ 構成要件A(相違点1)、構成要件B(一致点だが、仮に相違点とすれば、相違点2)、構成要件C(相違点3)、構成要件D、及び構成要件F(一致点だが、仮に相違点とすれば、相違点4)並びに相違点1ないし相違点4について(審判請求書65頁17行?20行)
無効理由1と同様であるが、加えて、n型GaN基板のGa面に活性層を含む素子構造を形成することは本件特許の優先日当時において周知技術(甲3、甲9、甲30、甲31、甲34)であった。

ウ 構成要件Eについて(審判請求書59頁11行?60頁5行、65頁21行?66頁12行)
(ア)無効理由1の本件発明2について述べたところと同様である。
すなわち、甲2は、・・・GaN基板をLDやLEDに使用することを意図してなされた研究であり、・・・たまたま実験に用いたTi/Al電極については、n側電極がGaN基板のN面にショットキー接触するという技術常識とは異なる結果が得られたというものである。実際、甲2では、ショットキー接触になる原因が解明されているが、このように原因を解明するということは、たとえn側電極としてTi/Al電極を用いた場合であっても、その原因に対処することによりGaN基板のN面とn側電極をオーミック接触させることができることを意図しているというべきであり、その原因の開示を受けた当業者であれば、当然に、逆向きのピエゾ電界を発生させないよう電極形成の条件を変更したり、あるいはTi/Alはなく他の電極材料を使ったりすることなどにより、n側電極をGaN基板のN面に容易にオーミック接触させることができる。
(イ)そもそもショットキー接触であるからといってコンタクト抵抗が0.05Ωcm^(2)より高いとは限らない。本件明細書には転位密度を低減すること以外にコンタクト抵抗を低減する条件が記載されていないのであるから、この点で本件明細書と甲2との開示内容に差はなく、甲2第二発明において本件発明1と同じコンタクト抵抗を実現することは明細書に記載するまでもない設計事項の適用に過ぎない。

(4)無効理由3(甲3に記載された発明に基づく進歩性欠如)
請求人は、審判請求書において、本件発明1ないし本件発明10は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるという無効理由3を主張しており、そのうち、本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

ア 本件発明1と甲3に記載された発明(甲3発明)との一致点及び相違点(審判請求書76頁4行?77頁21行)
本件発明1と甲3発明とは、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれからからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
その後、n側電極を形成する第4工程とを備えた、
窒化物系半導体素子の製造方法。」である点で一致し、次の相違点1ないし相違点3の点で相違する。
相違点1(構成要件C):
本件発明1は、「前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程」を備えるのに対し、甲3には当該「第3工程」が明記されていない点。
相違点2(構成要件D):
本件発明1では、第3工程の後に、「前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」n側電極を形成する第4工程を備えるのに対し、甲3発明は、n側電極を形成する工程を備えるが、「前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍が除去された第1半導体層の裏面上に」との構成がない点。
相違点3(構成要件E):
本件発明1では、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)以下」とされるのに対し、甲3には、GaN結晶膜65とn型電極74とのコンタクト抵抗の値が記載されていない点。

イ 相違点1(構成要件C)について(審判請求書77頁23行?81頁24行)
(ア)相違点1は、甲3発明に周知技術または甲37を適用することにより容易想到である。
甲3発明では、サファイア基板、下地結晶層、選択成長用マスクを常法により研磨除去するが、常法はこの当時の技術常識あるいは周知技術によるものと解される。
甲37には、機械的なラッピングと研磨がGaN基板の両面で実施され、TEM観察で測定された自立GaN基板の転位密度は2×10^(5)cm^(-2)であり、また、ウエットエッチング後のSEMで観察されたエッチピット密度(EPD)が5×10^(5)cm^(-2)であることが記載されている。
また、当時のGaN結晶の研磨技術として、CMPが挙げられるが、CMPでは、条件によって、転位が発生する場合と発生しない場合があり、転位が発生しない条件も本件出願日当時、すでに知られていた(甲16、甲42)。
(イ)相違点1は、甲3発明に甲2(甲2第一発明または甲2第二発明)を適用することにより容易想到である。
甲2には、N面にn電極を設けることが記載されているところ、甲3においてもN面にn電極を設けることが記載されているから、電極形成面に関する甲2の技術事項を甲3に適用する動機があり、また、甲2には、「平滑」な面を得るためにGaNの機械研磨面をドライエッチ処理し、これにより「Ga面およびN面ともに、代表的な転位密度は10^(7)cm^(-2)よりも低かった。」と記載されているところ、甲3の請求項57に「結晶面を・・・平坦化する」と記載されているとおり、n型電極の形成面を平滑にすることは甲3発明においても望ましいこととされているから、甲3発明に甲2に記載された技術事項を適用することには強い動機付けがあり、さらに、本件出願前から転位の増大によりコンタクト抵抗が増大するという問題が認識されていたから、甲3発明においても、当該問題を回避するために、研磨で増加した転位密度を低減させる技術事項を適用する動機付けが認められる。その結果、甲3発明に対して、甲2に記載された技術事項を適用して、研磨されたGaN結晶膜をドライエッチ処理し、その転位密度を研磨前の状態に戻し1×10^(9)cm^(-2)以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)相違点1は、甲3発明に加工変質層に関する周知技術を適用することにより容易想到である。
(エ)相違点1は、甲3発明に技術常識(機械研磨とエッチングの組み合わせ)を適用することにより容易想到である。
甲3発明に対して、転位の増大によりコンタクト抵抗が増大するという課題を解決するために、機械研磨とドライエッチング又はウエットエッチングを組み合わせるという技術常識を適用し、転位を除去することは容易想到である。

ウ 相違点2(構成要件D)について(審判請求書81頁25行?82頁4行)
相違点2は「前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」という点であり、相違点1と同内容であるところ、相違点1は容易想到であるから、相違点2も同様に容易想到である。

エ 相違点3(構成要件E)について(審判請求書82頁5行?83頁12行)
(ア)相違点3は、甲3発明に加工変質層に関する周知技術を適用することにより容易想到である。
相違点1は容易想到であり、また、甲3には、基板のキャリア濃度として、【0212】「GaN結晶膜65は、1×10^(18)cm^(-3)以上のキャリア濃度であった。」との記載があり、本件明細書【表1】(試料3)のとおりキャリア濃度が「1×10^(17)cm^(-3)」程度であれば、コンタクト抵抗は0.05Ωcm^(2)となるから、キャリア濃度が「1×10^(18)cm^(-3)以上」であれば、そのコンタクト抵抗は0.05Ωcm2以下であることは明らかであり、現に、例えば甲9には、コンタクト抵抗が「1×10^(-5)Ω・cm^(2)以下」という低いコンタクト抵抗値が開示されているとおり、本件出願当時において、0.05Ωcm^(2)以下というコンタクト抵抗値は既に得られていた(甲6、甲43(甲31、甲5))から、高いキャリア濃度が開示されている甲3において、0.05Ωcm^(2)以下というコンタクト抵抗を得ることは容易である。
(イ)相違点3は、甲3発明に甲2第一発明を適用することにより容易想到である。
甲2第一発明には、Ga面にn電極を設けて、コンタクト抵抗を「0.05Ωcm^(2)以下」とする構成が開示されているところ、半導体素子の作製においてコンタクト抵抗は低い方が望ましいことは技術常識であり(甲4、甲24)、甲3にはGa面にn電極を設ける構成が開示されているから(【0201】)、甲3発明に対して、当該技術常識を踏まえて、甲2の技術事項を適用する動機付けがあり、甲3発明に甲2に記載された技術事項を適用して、第1半導体層とn電極とのコンタクト抵抗を「0.05Ωcm^(2)以下」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)無効理由4(甲3に記載された発明に基づく新規性進歩性欠如)
請求人は、審判請求書において、本件発明1ないし本件発明10は、甲3に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるという無効理由4を主張しており、そのうち、本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

ア 相違点1(構成要件C)について(審判請求書88頁13行?20行)
本件発明1に関して、甲3では「常法」による「研磨」がなされているが、当時の研磨の常法とは、甲37に示されるような方法であり、甲37の研磨後の転位密度は5×10^(5)cm^(-2)であるところ、甲3においても「常法」として甲37記載の方法と同様の研磨が実施されていると考えられ、この結果、転位密度は5×10^(5)cm^(-2)程度になっていると考えられるから、相違点1は実質的には相違点ではない。

イ 相違点2(構成要件D)について(審判請求書88頁21行?89頁1行)
相違点1と同内容であるから、相違点1が実質的な相違点ではない以上、相違点2も実質的な相違点とはいえない。

ウ 相違点3(構成要件E)について(審判請求書89頁2行?11行)
甲3では、転位密度は5×10^(5)cm^(-2)という、本件発明1の「1×10^(9)cm^(-2)」より低い数値であるところ、甲10のとおり、転位密度が低下すると抵抗率が低下し、抵抗率が低下するとコンタクト抵抗は低下するという関係にあるから、甲3のコンタクト抵抗は、本件発明1のコンタクト抵抗より低くなっており、また、コンタクト抵抗に関しては、甲3の発明者による論文甲5に関して、実際にそのコンタクト抵抗の上限値を計算すると「0.021Ωcm^(2)」であって(甲43の2)、甲3のコンタクト抵抗の上限値も「0.021Ωcm^(2)」程度であると考えられるから、相違点3は実質的な相違点ではない。

(6)無効理由5(甲4に記載された発明に基づく進歩性欠如)
請求人は、審判請求書において、本件発明1ないし本件発明10は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるという無効理由5を主張しており、そのうち、本件発明1についての主張は概ね次のとおりである。

ア 本件発明1と甲4に記載された発明(甲4発明)との一致点及び相違点(審判請求書94頁6行?95頁8行)
本件発明1と甲4発明とは、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれからからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去する第3工程と、
その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備えた、
窒化物系半導体素子の製造方法。」である点で一致し、次の相違点1及び相違点2の点で相違する。
相違点1(構成要件C):
本件発明1では、第3工程の除去により第1半導体層の裏面の転位密度が1×10^(9)cm^(-2)以下とされるのに対し、甲4には、第3工程のエッチングにより達成されるGaN基板600の転位密度が明記されていない点。
相違点2(構成要件E):
本件発明1では、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)以下」とされるのに対し、甲4には、GaN基板600とn型電極61とのコンタクト抵抗の値が明記されていない点。

イ 相違点1(構成要件C)について(審判請求書95頁10行?98頁1行)
(ア)相違点1は、甲4発明および甲2(甲2第一発明または甲2第二発明)の記載から容易想到である。
甲2第一発明、甲2第二発明には、転位密度を「1×10^(9)cm^(-2)以下」とする構成が開示されている。しかるに、甲4発明と甲2発明とは同じGaN系の半導体素子に関する発明であり、GaN基板を研磨した後に電極を設ける点でも一致している。また、本件出願前から、転位の増大によりコンタクト抵抗が増大するという問題が認識されていたから、甲4発明においても、当該問題を回避するために、研磨で増加した転位密度を低減させようとして、甲2に開示された転位密度を10^(7)cm^(-2)よりも低減させる技術事項を適用する動機付けが認められる。よって、甲4発明に対して、甲2に記載された技術事項を適用して、研磨されたGaN結晶膜をドライエッチ処理し、その転位密度を研磨前の状態に戻し10^(9)cm^(-2)以下とすること(転位密度を10^(7)cm^(-2)より低くすること)は、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点1は、甲4発明に加工変質層に関する周知技術を適用することにより容易想到である。
審決取消訴訟判決(甲17)が認定した「転位」の意味に基づけば、半導体の薄型加工工程において、「加工変質層」すなわち本件発明でいう「転位を含む・・・領域」を完全に除去して元の基板の状態(研磨前の基板の状態)に戻すことは、本件出願前から、製造現場で日常的行われていた周知慣用の技術である(甲7、甲8、甲16、甲24、甲25、甲26、甲27)。そして、本件出願当時において、GaN基板の元の転位密度は「1×10^(6)cm^(-2)」以下程度であった(甲37?甲39)。よって、相違点1は、甲4発明に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)相違点1は、甲4発明に技術常識(機械研磨とエッチングの組み合わせ)を適用することにより容易想到である。
機械研磨によって転位が発生すること、転位の増大によりコンタクト抵抗が増大するという課題、厚み加工において機械研磨とドライエッチングやウェットエッチングを組み合わせること(甲2、甲8、甲27、甲42)、ドライエッチングおよびウェットエッチングによっては転位が発生しないことなどは、いずれも技術常識である。そして、本件出願当時において、GaN基板の元の転位密度は「1×10^(6)cm^(-2)」以下程度であった(甲37?甲39)。よって、甲4に対して、上記課題(転位密度増大によるコンタクト抵抗の低減)を解決するために、当該技術常識を適用して、機械研磨によって生じた「転位」をエッチングで完全に除去しその転位密度を元の基板の転位密度である「1×10^(6)cm^(-2)」以下程度(1×10^(9)cm^(-2)以下)とすることは、甲4発明に技術常識を適用することにより、当業者が容易に想到し得たことである。
(エ)相違点1は実質的な相違点ではない(表面歪みの除去)。
甲4の【0202】には「研磨によって生じた表面歪み・・・を除去」することが記載されているが、甲18の図-3において、ひずみ層(甲4の表面歪み)は加工変質層の最下部に位置するから、ひずみ層(表面歪み)を除去すると、加工変質層がすべて除去されることになる。審決取消訴訟の判決(甲17)によれば、本件発明の「転位」は加工変質層も含まれるから、甲4で表面歪みを除去すると、自ずと、本件の「転位」もすべて除去されることになる。また、甲8(表面の構造)106頁には、加工変質層が生じた面をエッチングして、表面状態の変化を観察しているが、ここで、「次に仕上面より0.03μmエッチされた領域では、菊池線がより明瞭となった電子回折像が得られ、より以上の結晶の完全性を示しているが、X線では引っかききずを別にしても、まだかなりの転位が残留していると思われるトポグラフが得られている。さらに表面から0.1μ除去されたところになると、電子回折ではパターンの変化は認められないにもかかわらず、X線ではひずみ層がほとんど除去されたことがわかり・・・」として、転位が残留していないことを指して、ひずみ層がほとんど除去されたと述べて、ひずみ層(甲4の表面歪み)に転位が含まれていることが示されている。以上から、甲4では、表面歪みを除去することにより、「転位」が除去されていることが分かる。これによって、甲4では、転位密度は元の基板の転位密度である「1×10^(6)cm^(-2)」以下に戻っていることになるため、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

ウ 相違点2(構成要件E)について(審判請求書98頁2行?99頁3行)
関連特許の無効審判事件(無効2013-800119号)の審理事項通知(甲44、19頁)で合議体が認定しているとおり、甲4は【0040】等に示されるように、n型電極のコンタクト抵抗を低減するために、研磨によって生じた表面歪み及び酸化膜を除去するエッチング処理を行っているのであるから、エッチングする範囲を大きくすることで、コンタクト抵抗「0.05Ωcm^(2)以下」とすることは当業者において容易に想到しうることである。また、甲4に対して、加工変質層に関する周知技術の適用、または、甲2第一発明の技術事項を適用することにより、「0.05Ωcm^(2)以下」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである点は、甲3に関して述べたのと同様である。さらに、甲4には、【0028】「該n型GaN基板のn型極性は、Siをドーピングすることによって得られ、該Siの濃度は、2×10^(18)/cm^(3)であった。さらに、前記n型GaN基板中に約2×10^(17)/cm^(3)の塩素をドーピングしている。」、【0186】「続いて、前記ストライプ形状に加工した誘電体膜30の付いたウエハーをHVPE装置中にセットし、成長温度1100℃、Si濃度3×10^(18)/cm^(3)、塩素濃度1×1017/cm3をドーピングしながら、350μmの塩素ドーピングされたn型GaN厚膜40を積層する。」との記載があるとおり、甲4のキャリア濃度(n型不純物濃度)は「2×10^(18)/cm^(3)」や「3×10^(18)/cm^(3)」と十分に高い濃度であるから、コンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)」以下であることは明らかである(本件明細書【表1】におけるキャリア濃度とコンタクト抵抗の関係を参照。)。また、コンタクト抵抗がキャリア濃度のみに基づいて決定されるものでないとしても、電極材料を適宜選択してコンタクト抵抗を低減すること、コンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とすることは周知技術であるから、甲4に対して上記周知技術を適用して、コンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とすることは容易想到である。

3 口頭審理における請求人の主張の概要
(1)無効理由3についての主張整理
ア 甲3に記載された発明は、次の二つの発明に区別される(口頭審理陳述要領書(請求人)4頁下から6行?5頁13行)。
甲3第一発明:N面にn電極を設け、Ga面に半導体層を設ける
(【0201】を除く明細書の記載から把握される発明)
甲3第二発明:Ga面にn電極を設け、N面に半導体層を設ける
(【0201】を含む明細書の記載から把握される発明)

イ (ア)本件発明1と甲3第一発明との一致点・相違点
本件発明1と甲3第一発明との一致点・相違点は次のとおりである(口頭審理陳述要領書(請求人)10頁下から6行?12頁2行)。
一致点
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
その後、前記第1半導体層の裏面上にn側電極を形成する第4工程とを備えた、
窒化物系半導体素子の製造方法。」
相違点1(構成要件C)
本件発明1は、「前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程」を備えるのに対し、甲3第一発明には、当該「第3工程」が明記されていない点。
相違点2(構成要件D)
本件発明1では、第3工程の後に、「前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」n側電極を形成する第4工程を備えるのに対し、甲3第一発明は、n側電極を形成する工程を備えるが(【0216】、【0189】)、「前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」との構成が記載されていない点。
相違点3(構成要件E)
本件発明1では、第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)以下」とされるのに対し、甲3第一発明には、GaN結晶膜65とn型電極74とのコンタクト抵抗の値が記載されていない点。
(イ)相違点1について(口頭審理陳述要領書(請求人)12頁4行?13頁下から5行)
審判請求書では、「甲3発明」に関し、上記2(4)イの(ア)?(エ)を指摘して、相違点1が容易想到であると主張したが、この(ア)?(エ)はいずれもそのまま甲3第一発明にあてはまる。
なお、上記2(4)イ(イ)に関して、以下のとおり説明を追加する。
甲3第一発明と甲2第一発明では、n電極が形成される面が異なるが(甲3第一発明はN面、甲2第一発明はGa面にn電極が形成される(審判請求書52頁))、審判請求書79頁12行以下のとおり、甲3第一発明と甲2に開示された発明(甲2第一発明および甲2第二発明)は、次のaないしcのことからみて、甲3第一発明に甲2発明(甲2第一発明および甲2第二発明を含むが、とりわけ甲2第二発明)を適用する動機付けが認められる。
a 同じGaN系の半導体素子に関する発明であり、GaN基板を研磨した後に電極を設ける点で一致している。
b 甲2には、「平滑」な面を得るためにGaNの機械研磨面をドライエッチ処理し、「Ga面およびN面ともに、代表的な転位密度は10^(7)cm^(-2)よりも低かった。」と記載されており(甲2の訳文2頁2行?3行、及び同頁6行?7行を参照)、Ga面であろうが、N面であろうが、いずれにせよ電極形成面はエッチングすることが開示されている。一方、甲3の請求項57に「結晶面を・・・平坦化する」と記載されているとおり、n型電極の形成面を平滑にすることは甲3においても望ましいこととされている。そして、ここでは電極形成のために平滑にする面がN面であるかGa面であるかは問題とはされていないから、甲2の「電極形成面をエッチングして転位密度を10^(7)cm^(-2)以下にする」との技術事項を甲3第一発明に適用することについて強い動機付けがある。とりわけ、甲3第一発明と甲2第二発明とは共にN面に電極を形成することさえも共通しているのであるから、甲3第一発明に甲2第二発明の電極形成面であるN面をエッチングして転位密度を10^(7)cm^(-2)よりも低くするとの技術事項を適用することには非常に強い動機付けがある。
c 本件出願前から認識されていた問題(転位の増大によりコンタクト抵抗が増大する)を回避するため、甲3第一発明に、甲2のGa面、N面の転位を10^(7)cm^(-2)よりも低減させる技術事項を適用する動機付けがある。
(ウ)相違点2について(口頭審理陳述要領書(請求人)13頁下から4行?14頁1行)
相違点2については、審判請求書で「甲3発明」について述べた主張(上記2(4)ウ参照。)がそのまま甲3第一発明にあてはまる。
(エ)相違点3について(口頭審理陳述要領書(請求人)14頁2行?15頁4行)
審判請求書では、「甲3発明」に関し、上記2(4)エの(ア)、(イ)を指摘して、相違点3が容易想到であると主張したが、このうち、(ア)はそのまま甲3第一発明にあてはまる。また、(イ)については、甲3第一発明と甲2第一発明では、n電極形成面が異なることから、甲2第一発明の技術事項(Ga面にn電極を設けて、コンタクト抵抗を「0.05Ωcm^(2)以下」とする)を適用したのみでは甲3第一発明のN面において「0.05Ωcm^(2)以下」との数値が得られるかは明らかではないとの反論が考えられるが、前述のとおり、甲2には甲2第二発明も記載されており、この発明では電極はN面に形成されており、しかるところ、本件明細書において、コンタクト抵抗「0.05Ωcm^(2)以下」を得るための条件としては、「転位を含む・・・領域」を除去して転位密度を「10^(9)cm^(-2)以下」とすること(それにより、基板のキャリア濃度が元の基板のキャリア濃度に近づくこと)以外なにも記載されていない。そうすると、コンタクト抵抗「0.05Ωcm^(2)以下」との数値は、転位密度「10^(9)cm^(-2)以下」とすることによって、その他電極材料等を当業者が適宜選択することによって得られる設計事項であることは明らかである。そして、上記相違点1について述べたとおり、転位密度「10^(9)cm^(-2)以下」とすることは容易想到であるから、あとは電極材料などの条件を適宜選択することによって、コンタクト抵抗「0.05Ωcm^(2)以下」を得ることもまた容易想到である。

ウ 本件発明1と甲3第二発明との一致点・相違点(口頭審理陳述要領書(請求人)19頁5行?9行)
本件発明1と甲3第二発明との一致点・相違点の特定、相違点に関する検討については、いずれも、審判請求書の「甲3発明」について述べた内容(上記2(4)ア?エ参照。)がそのまま妥当する。

(2)甲4発明は、別件無効審判事件(その3)の「甲11発明」と同じである(口頭審理陳述要領書(請求人)19頁下から7行?20行末行)。

(3)審判事件答弁書に対する反論
ア 審判事件答弁書において、被請求人は、縷々主張するが、要するに、ただ単に請求人が提出した証拠には、「GaN基板の電極形成面の加工変質層を除去する」という文言が明記されていないと主張しているだけのことである。
しかし、昭和47年には発行されていた論文(甲7)に、「すべての材料は加工されれば加工変質層が生じ、なんらかの形で物性に影響を及ぼしているはずである。」(甲7の22頁)「加工変質層は多くの場合、表面物性に対して悪影響を与えることが確かめられ、電子機器・物理機器として使用する材料に関してはこれを除去するか、変質層を生じないような加工法をとることに努力が向けられた。」(甲7の22頁)と記載され、また、昭和46年発行の教科書的な文献(甲8)には、「1.3加工変質層」との表題のもと、
「1.3.1 緒言
固体を工業上の目的に使用するためには、その材料に対してなんらかの加工をほどこさなければならない。一般に加工に際しては材料の性質を変えないことが望ましいのであるが、加工のとき作用する力、発生する熱、外気の作用、新生面効果などによって材料はなんらかの変化をうけ、表面には内部とは違った層を形成する。このような層を加工変質層とよんでいる。」(69頁)
とあり、その95頁には、「1.3.10 加工表面と転位」との表題のもと、加工変質層内に転位が発生していることが記載され、さらに、「1.3.11 半導体材料の加工変質層」の項目のなかで「(d)加工変質層の除去」として「加工変質層を除去するための方法の一つはエッチングによる除去である。」(109頁)として、加工変質層を除去することが記載されている。
以上のとおり、加工変質層が材料の物性に悪影響を与えるため、材料系および位置(発生箇所)を問わず、発生した加工変質層を除去する必要があることは昭和46年頃の教科書的な書物にさえ記載される程度の技術常識である。被請求人は、請求人が指摘した文献について、GaN系の材料に関する記載ではないとか、電極形成面に関して言及した文献ではないと主張しているが、転位を含む加工変質層は材料系・位置を問わず完全に除去すべきことが技術常識なのであるから、例え請求人が指摘した文献の一部がGaN系の文献や電極形成面に関するものでなかったとしても、それらの文献に記載されている技術事項(加工変質層の完全な除去)をGaN系の材料や電極形成面に対して適用することに強い動機づけが認められることはいうまでもない。
したがって、被請求人の主張にはまったく理由がない。

イ 審判事件答弁書における被請求人の個別の主張に対する反論
(ア)本件発明について(口頭審理陳述要領書(請求人)30頁3行?16行)
本件発明についての被請求人の主張には理由がない。
(イ)本件発明の課題が公知であることに関して(口頭審理陳述要領書(請求人)30頁17行?34頁5行)
本件発明の課題が公知であることについての被請求人の主張には理由がない。
(ウ)半導体基板において転位が少ないことが望ましいことは技術常識であるから、本件発明を想到する動機付けは十分にあることに関して(口頭審理陳述要領書(請求人)34頁6行?35頁下から5行)
半導体基板において転位が少ないことが望ましいことは技術常識であるから、本件発明を想到する動機付けは十分にあることについての被請求人の主張には理由がない。
(エ)特許第3933592号に関する審決取消訴訟の判決によっても本件発明が周知技術そのものであることについて(口頭審理陳述要領書(請求人)35頁下から4行?40頁下から4行)
特許第3933592号に関する審決取消訴訟の判決によっても本件発明が周知技術そのものであることについての被請求人の主張には理由がない。
(オ)無効理由1(甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如)(甲2第一発明)に関して(口頭審理陳述要領書(請求人)40頁下から3行?47頁3行)
無効理由1についての被請求人の主張にはいずれも理由がない。
(カ)無効理由2(甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如)(甲2第二発明)に関して(口頭審理陳述要領書(請求人)47頁4行?50頁1行)
無効理由2についての被請求人の主張にはいずれも理由がない。
(キ)無効理由3(甲3に記載された発明に基づく進歩性欠如)に対する被請求人の主張について(口頭審理陳述要領書(請求人)50頁2行?60頁下から8行)
無効理由3についての被請求人の主張にはいずれも理由がない。
(ク)無効理由4(甲3に記載された発明に基づく新規性進歩性欠如)に関して(口頭審理陳述要領書(請求人)60頁下から7行?63頁1行)
無効理由4についての被請求人の主張にはいずれも理由がない。
(ケ)無効理由5に関して(口頭審理陳述要領書(請求人)63頁2行?67頁7行)
無効理由5についての被請求人の主張にはいずれも理由がない。

4 上申書(請求人)における請求人の主張の概要
(1)従来から除去されていた加工変質層と本件発明で除去される転位との位置関係について
ア 本件発明の転位と請求人が理解する従来から除去されていた加工変質層との位置関係は、次の図1のようになる。


なお、この位置関係については争いはない。
すなわち、本件発明の転位は従来技術において知られていた「加工変質層」に含まれるという位置関係にある。
しかるところ、甲24の記載から、従来、上記図における「加工変質層」は完全結晶層の状態になるまで完全に除去されていたのであるから、「加工変質層」に含まれる本件発明の「転位」も従来技術において完全に除去されていたことになる(上申書(請求人)3頁下から6行?4頁末行)。

イ 本件発明の「転位」と被請求人が主張する従来から除去されていた加工変質層との位置関係は、次の図2のようになる。

甲24には加工変質層は完全に除去されるとあり、クラック層までの加工変質層を除去するがその下の加工変質層は除去しないなどとは記載されておいない。
被請求人が自らの主張の根拠にしている甲17判決が述べたのは次の図3のような内容であって、要するに当該事件で問題となった「ダメージ層」が加工変質層(転位を含む領域)のどの部分に相当するのか不明であるから、本件発明の「転位」との位置関係が分からないとしているだけである。被請求人の主張には根拠がなく、本件発明の転位は従来技術によって完全に除去されていた(上申書(請求人)5頁1行?7頁2行)。


(2)乙3について
本件発明は「機械研磨によって発生した転位」はキャリアをトラップしてコンタクト抵抗を上げることを述べるものであり、これは甲24等の多くの周知例に示された技術常識そのものであるのに対し、乙3は「結晶成長中に発生する転位」については条件によっては逆にキャリア濃度を高める場合があることを述べるだけであるから、乙3は本件とは無関係な発明である(上申書(請求人)7頁末行?8頁6行)。

第7 第2事件についての被請求人の主張の概要(本件併合通知前)
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない」、「審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の主張は、全く理由がないものであり、本件特許は特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、本件特許は無効にされるべきものではないと主張している。

1 被請求人が提出した証拠方法
(1)審判事件答弁書に添付したもの
乙1:甲10の抄訳
乙2:無効2013-800120号(別件特許無効審判事件(その3))の平成26年5月20日付け審決

(2)口頭審理陳述要領書(被請求人)に添付したもの
乙3:特開平11-219910号公報

2 審判事件答弁書における主張の概要
(1)無効理由0に対する反論
ア 本件発明の課題はGaN系、非GaN系を含め公知であったことに対する反論(審判事件答弁書4頁32行?5頁26行、6頁6行?14行)
甲9は、素子層の欠陥による電気的特性の低下に関するものであり、GaN基板裏面のコンタクト抵抗の上昇とは関係しない。
甲10は、MOVPEによりサファイア基板上に成長したGaN膜における電気抵抗と転位密度との関係を探究した文献であり、MOVPEにより成長したGaN膜の螺旋転位と混合転位は、刃状転位とは異なり、転位密度が高くなると、電気抵抗が低くなる(刃状転位と電気抵抗との関係とは逆の傾向である)ことが示されている。すなわち、甲10には、結晶成長されたGaN膜における電気抵抗と転位密度との関係は、転位の種類によって様々であり、一律の傾向にないことが示されているのであって、結晶成長とは異なる機械研磨により発生した転位が電気抵抗にどのような影響を与えるかについては、甲10からは不明である。
甲11は、撮像素子を構成するHgCdTe結晶層の研磨に起因するダメージ部分に関するものであり、光励起されたキャリアがトラップされるということが記載されているだけで、GaN基板と電極との界面におけるコンタクト抵抗とは全く関係がない。
甲12と甲13については、両文献の記載を合わせて理解したとしても、刃状転位のダングリングボンドが再結合中心・キャリアのトラップなどの作用をする場合もあるという推論ができるだけであり、GaN基板と電極との界面におけるコンタクト抵抗とは関係がない。
「半導体基板は転位が少ないことが望ましいこと」は、結晶成長面では技術常識かもしれないが、電極形成面においては、そのような技術常識は存在しない。また、甲7、甲8には、エッチングにより転位を除去することができることが記載されているだけで、電極が形成される基板裏面をエッチングすることについては記載されておらず、電極が形成される基板裏面をエッチング処理することで転位を除去することも技術常識ではない。したがって、電極が形成される基板裏面の転位を除去することは、技術常識ではなく、そのようなことを行う動機付けもない。

イ 本件発明の課題解決手段(構成)は周知技術であったことに対する反論(審判事件答弁書6頁23行?7頁17行)
甲24及び甲25は、シリコンウエハの加工時における加工変質層の除去についてのものであり、GaN基板の電極形成面に関するものではない。
甲7及び甲8は、加工変質層の除去についての一般論が記載されているだけであり、GaN基板の電極形成面に関するものではない。また、甲8には、加工変質層の測定方法として接触電気抵抗が記載されているが、加工変質層には、転位以外の結晶欠陥(クラック等)も含まれており、この記載からは、加工変質層のうちの転位によって接触電気抵抗が影響を受けるとは理解することはできない。さらに、甲8からは、加工変質層により、接触電気抵抗が変化する場合もあるということは理解できても、接触電気抵抗が高くなるのか、低くなるのかについては理解できない。
甲26及び甲27は、GaN基板の表面(結晶成長面)に対する処理に関するものであり、また、甲16は、エピタキシャル成長用基板の表面を原子的に滑らかにするための処理に関するものであって、いずれの文献にも、GaN基板の電極形成面の加工変質層を除去することは記載されておらず、電極形成面における「加工変質層」を除去することは周知技術ではない。

(2)無効理由1に対する反論
ア 相違点1について(審判事件答弁書9頁27行?33行)
甲2第一発明は、n型GaN基板のGa面上の電極とN面上の電極との電気特性を比較するための実験用試料の製造方法であって、LDやLEDの製造方法は関係なく、甲2第一発明において、活性層を含む第2半導体層(素子構造)を形成する第1工程は行われない。むしろ、このような素子構造は、n型GaN基板の両面(Ga面とN面)に形成された電極の電気特性を測定するには邪魔であり、甲2第一発明において、第1工程は全く不要なものである。

イ 相違点2について(審判事件答弁書10頁20行?11頁12行)
甲2第一発明は実験用試料の製造方法であり、素子構造を形成する必要はないから、GaN基板には表と裏の関係はなく、素子構造が形成される面とは反対側の面である裏面は存在しない。甲2に記載された発明において、仮に素子構造を形成するとしても、Ga極性側となるから、甲2の「n型GaN基板のGa面」は本件発明の構成要件Bにおける「第1半導体層の裏面」に該当しない。甲2第一発明の機械研磨は、平滑なエピレディ表面を得るための処理であって厚み加工ではない。「劈開のための厚み加工」については、甲2第一発明が実験用試料の製造方法であるから、共振器端面を形成する必要はなく、共振器端面を形成するための劈開とは関係しないものである。

ウ 相違点3について(審判事件答弁書11頁26行?12頁2行)
甲2第一発明においては、活性層を含む第2半導体層(素子構造)を形成する第1工程は行われないから、「第1工程」の後に行う「第3工程」自体も存在し得ない。甲2第一発明の「機械研磨」を「厚み加工」として、甲2第一発明では素子構造を形成した後、「厚み加工」と「除去」を行っているとしているが、甲2第一発明の「機械研磨」と「ドライエッチ処理」は、GaN基板の両面に電極を形成する前に行う平滑なエピレディ表面を得るための処理であり、素子構造を形成した後に行う「厚み加工」と「除去」ではない。

エ 本件発明2ないし10について(審判事件答弁書14頁1行?16頁4行)
本件特許の請求項2?10は請求項1を引用するものであり、本件発明1が甲2第一発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし10も、甲2第一発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2、6、7、9及び10については、次の(ア)ないし(オ)の点でも、請求人の主張は誤りである。
(ア)本件発明2について
請求人は、甲2に開示されるとおり、「活性層を含む素子構造は、通常、

GaN基板のGa極性側に成長させるため、裏面オーミック電極はGaNのN極性側に形成する必要がある」のであり、n型GaN基板の窒素面を裏面としてこれにn側電極を形成することは本件特許の優先日当時において周知であるから、本件発明2は、甲2第一発明それ自体から当業者が容易に発明できたものであり、少なくとも、甲2第一発明に周知技術を適用することにより当業者が容易に発明できたものであると主張している。しかしながら、請求人による甲2第一発明の認定では、GaN基板の裏面をGa面としてコンタクト抵抗の値を説明しており、GaN基板の裏面をN面とした場合には、0.05Ωcm^(2)以下のコンタクト抵抗が得られないから、ここでの請求人の主張は、本件発明1についての無効理由と一貫性がない。
また、請求人は、甲2では、ショットキー接触になる原因(GaN/AlNへテロ構造における逆向きのピエゾ電界)が解明されているが、このように原因を解明するということは、たとえn側電極としてTi/Al電極を用いた場合であっても、その原因に対処することにより、GaN基板のN面とn側電極をオーミック接触させることができることを意図しているというべきであり、その原因の開示を受けた当業者であれば、当然に、逆向きのピエゾ電界を発生させないよう電極形成の条件を変更したり、あるいはTi/Alではなく他の電極材料を使ったりすることなどにより、n側電極をGaN基板のN面に容易にオーミック接触させることができると主張している。しかしながら、そもそも甲2には、N面で低いコンタクト抵抗が得られる技術は全く記載されていない。一方、請求人の主張は 甲2においてN面がショットキー接続になったのは、電極材料がTi/Alであることによるものであり、電極材料を変えればオーミック接触させることができるとのことである。しかし、甲2においてGa面で低いコンタクト抵抗が得られたのは、電極材料がTi/Alの場合にAlNが形成されたためであって、電極材料を変えれば、Ga面ですら低いコンタクト抵抗が得られるかは不明である。すなわち、電極材料がTi/Alの場合ですらショットキー接触になるN面において、電極材料を変えればオーミック接触させることができるということなど、甲2から理解できるはずがない。
(イ)本件発明6について
請求人は、甲2第一発明においてn型GaN基板に活性層を含む素子構造を形成して光電子デバイスを製造することは当業者が容易に想到し得た構成であり、この際、当該素子構造を形成する工程(第1工程)の後に機械研磨(第2工程)を行うことは当然のことであると主張しているが、甲2第一発明は、GaN基板の両面に電極を形成する実験用試料の製造方法であり、活性層を含む第2半導体層(素子構造)を形成する第1工程は行われないから、「第1工程」の後に「第2工程」を行うことも行われない。
(ウ)本件発明7について
請求人は、劈開により共振器端面を形成することは本件特許の優先日当時における周知技術であると主張しているが、甲2第一発明は、実験用試料の製造方法であるから、半導体レーザのような共振器端面を形成する必要のないものである。
(エ)本件発明9について
請求人は、MOCVD法は本件特許の優先日当時における周知技術であると主張しているが、甲2第一発明は、実験用試料の製造方法であるから、活性層を含む第2半導体層(素子構造)を形成する第1工程は行われないものである。
(オ)本件発明10について
請求人は、n型GaN基板の厚みを180μm以下とすることは本件特許の優先日当時において周知であると主張しているが、甲2第一発明では、機械研磨は平滑なエピレディ表面を得るための処理であり、厚み加工を行っていない。

(3)無効理由2に対する反論
ア 構成要件AないしD及び構成要件Fについて(相違点1ないし相違点4について)(審判事件答弁書17頁2行?3行)
無効理由1に対する反論で述べたとおり、本件発明1の構成要件AないしDについての請求人の主張は誤りである。

イ 構成要件Eについて(審判事件答弁書14頁32行?15頁10行、17頁12行?15行)
(ア)甲2には、N面で低いコンタクト抵抗が得られる技術は全く記載されていない。一方、請求人の主張は、甲2においてN面がショットキー接続になったのは、電極材料がTi/Alであることによるものであり、電極材料を変えればオーミック接触させることができるとのことである。しかし、甲2においてGa面で低いコンタクト抵抗が得られたのは、電極材料がTi/Alの場合にAlNが形成されたためであって、電極材料を変えれば、Ga面ですら低いコンタクト抵抗が得られるかは不明である。すなわち、電極材料がTi/Alの場合ですらショットキー接触になるN面において、電極材料を変えればオーミック接触させることができるとうことなど、甲2から理解できるはずがない。
(イ)甲2には、GaN基板のN面の電極とのコンタクト抵抗が0.05Ωcm^(2)以下になることは、全く記載されていないから、N面の電極のコンタクト抵抗は不明なのであり、また、設計事項の適用で得られる値ではない。

ウ 本件発明2ないし10について(審判事件答弁書17頁16行?20行)
本件特許の請求項2?10は請求項1を引用するものであり、本件発明1が甲2第二発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし10も、甲2第二発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)無効理由3に対する反論
ア 相違点1(構成要件C)について(審判事件答弁書18頁14行?34行、20頁1?12行、同頁19行?22行、同頁30行?21頁1行)
(ア)甲3の請求項56の研磨及び【0183】に記載された「常法」の研磨は、GaN基板を形成するためのサファイア基板の除去工程であり、GaN基板に第2半導体層を形成する工程(第1工程)の後に行う第3工程ではない。
甲3において、「転位」とは結晶成長により発生した転位を意味するにとどまり、機械研磨によって発生した「転位」まで含んでいると解することはできない。したがって、甲3の「常法」の研磨は機械研磨により発生した転位を低減させることを目的としたものではないから、甲3の研磨に、甲37に記載された研磨技術や転位が発生しない条件でのCMPを適用する動機付けはない。また、甲37は、甲3より後に公開された文献であり、出発基板としてGaAsを使っている大きなサイズの自立GaN基板の準備についての最初の報告である。しかも、甲3の「常法」の研磨は、サファイア基板を除去する工程であるのに対して、甲37の機械的なラッピングと研磨は、GaAs基板を王水で除去した後の工程である。すなわち、甲3よりも後に公開された最初の報告であり、甲3の「常法」の研磨とは適用されている工程が異なる甲37の研磨技術が、甲3における「常法」の研磨といえるはずがない。
(イ)甲2では、GaNの機械研磨面をドライエッチング処理した場合、N面では電極とショットキー接触になっているから、甲3のGaN基板のN面に電極を設ける素子において、甲2の機械研磨面をドライエッチング処理する技術を適用する動機付けは存在しない。
甲3の請求項57の平坦化は、【0175】のマスクを除去した後に行う「裏面が平坦になるように研磨あるいは研削を行う」であり、新たに転位を発生させる加工である。したがって、機械研磨によって発生した転位を除去するという技術思想はないから、この点においても、甲2の機械研磨面をドライエッチング処理する技術を適用する動機付けはない。さらに、「転位密度の増大に起因してコンタクト抵抗が増大する」という課題は公知ではない。
(ウ)GaN基板の電極形成面において「加工変質層」すなわち本件発明でいう「転位を含む・・・領域」を完全に除去して元の基板の状態(研磨前の基板の状態)に戻すことは周知技術ではない。
(エ)転位の増大によりコンタクト抵抗が増大するという課題は、技術常識ではないから、甲3発明に対して、機械研磨とドライエッチング又はウエットエッチングを組み合わせて転位を除去することは容易に想到できることではない。

イ 相違点2(構成要件D)について(審判事件答弁書21頁12行?16行)
相違点1の「前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して・・・」との構成が容易想到ではないから、相違点2の「前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」との構成も容易想到ではない。

ウ 相違点3(構成要件E)について(審判事件答弁書22頁6行?24行、23頁6?17行)
(ア)GaN基板の電極形成面において「加工変質層」、すなわち「転位を含む・・・領域」を完全に除去して元の基板の状態に戻すことは周知技術ではなく、相違点1は容易想到ではないから、甲3発明において、コンタクト抵抗が0.05Ωcm^(2)以下であることは明らかではない。
また、甲3のGaN結晶膜65のキャリア濃度が「1×10^(18)cm^(-3)以上」であったとしても、コンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)以下」であるということはできないことは、乙2の審決のとおりである。
さらに、甲9等にコンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)以下」という低いコンタクト抵抗が開示されていたとしても、乙2の審決のとおり、研磨により発生した転位を含む領域を除去して第1半導体層(GaN基板)の裏面の転位密度を「1×10^(9)cm^(-2)以下」とする第3工程を経た上でコンタクト抵抗を「0.05Ωcm^(2)以下」とすることは示されていない。また、甲6、甲43(甲31、甲5)についても、同様に、研磨により発生した転位を含む領域を除去して、第1半導体層(GaN基板)の裏面の転位密度を「1×10^(9)cm^(-2)以下」とする第3工程を経た上でコンタクト抵抗を「0.05Ωcm^(2)以下」とすることは示されていない。
(イ)請求人は、相違点1の上記2(4)イ(イ)では、甲3発明をGaN基板のN面に電極を形成した素子として認定して甲2の技術を適用すると主張しているのに対し、ここでは、甲3発明をGa面に電極を形成した素子として主張しており、甲3発明の認定に一貫性がない。
また、Ga面に電極を設ける構成の根拠である甲3の【0201】では、Ga面はサファイア基板が存在していた側と反対側の面であり、研磨による厚み加工は行われておらず、また、成長縞やうねりを除去するための研磨工程も行われていないから、本件審判請求書76?77頁の一致点と相違する。しかも甲3では、Ga面は研磨されておらず、研磨により発生した転位はなく、研磨により発生した転位を除去する工程もなくなるから、その点も新たな相違点となる。

エ 本件発明2ないし10について(審判事件答弁書23頁18行?24頁27行)
本件特許の請求項2?10は請求項1を引用するものであり、本件発明1が甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2?10も、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明3及び4については、次の(ア)及び(イ)の点でも、請求人の主張は誤りである。
(ア)本件発明3について
請求人は、本件発明3は、甲3の「研磨」について、「常法」として、周知技術又は甲37を適用することにより、研磨後の転位密度を「1×10^(6)cm^(-2)」以下とすることは当業者が容易に想到し得ることであると主張している。しかしながら、甲3発明の「常法」の研磨は、機械研磨により発生した転位を低減させることを目的としたものではないから、甲3の「常法」の研磨に、甲37の研磨技術や周知技術を適用して、機械研磨後の転位密度を「1×10^(6)cm^(-2)以下」とすることは、容易に想到し得ることではない。
(イ)本件発明4について
請求人は、加工変質層、すなわち、「転位を含む・・領域」を完全に除去すること、及び、機械研磨によって生じた「転位」を完全に除去することが周知技術ないし技術常識であり、GaN基板の裏面を0.5μm以上除去する程度のことは技術常識に過ぎず、また、0.5μmという数値に何ら臨界的意義はないから、本件発明4は、甲3発明に基づいて、少なくとも、これに周知技術等を組み合わせることで、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであると主張している。しかしながら、電極形成面において、機械研磨によって生じた「転位」を完全に除去することは、周知技術又は技術常識ではない。
また、請求人は、相違点1(構成要件C、第3工程)は実質的には相違点とはいえない(甲3では「研磨」として、機械研磨に加工、転位を発生させない手法が実施され、転位が全て除去されている)ところ、甲3の段落【0215】には、50μmが研磨されることが記載されており、この場合において、50μmのうち少なくとも0.5μm以上が転位を発生させない研磨によって除去されていることは明らかであるから、相違点3が実質的な相違点ではないとすれば、構成要件Iも実質的な相違点とはいえないと主張している。しかしながら、甲3の「研磨」が、「機械研磨」(第2工程)と「除去」(第3工程)の2工程を含んでいるという考えは、乙2の審決(42頁14行?45頁3行)で認定されたとおり誤りである。また、甲3の段落【0215】の50μmの研磨のうち0.5μm以上が転位を発生させない研磨によって除去されているという請求人の主張も全く根拠がなく、誤りである。

(5)無効理由4に対する反論
ア 無効理由3の相違点1について(審判事件答弁書25頁6行?12行)
「常法」の研磨(甲3の【0183】)は、GaN基板を形成するためのサファイア基板の除去工程であり、GaN基板に第1半導体層を形成する工程(第1工程)の後に行う第3工程とは異なるものである。また、甲3発明の「常法」の研磨は、甲37記載の方法ではなく、機械研磨で発生した転位も含めて転位密度が「5×10^(5)cm^(-2)程度」となっているとは考えられない。したがって、無効理由3の相違点1は実質的な相違点である。

イ 無効理由3の相違点2について(審判事件答弁書25頁16行?18行)
相違点1が実質的な相違点であるから、無効理由3の相違点2も実質的な相違点である。

ウ 無効理由3の相違点3について(審判事件答弁書25頁29行?26頁5行)
甲3発明の「常法」の研磨によって、機械研磨により発生した転位も含めて転位密度が「1×10^(9)cm^(-2)」より低い数値が得られたとは言えないから、転位密度の低い数値を根拠に低いコンタクト抵抗値を主張することはできない。また、甲43の2では、甲3発明者の論文甲5に記載された共振器長や特性等を用いコンタクト抵抗を計算しているが、そのような数値を用いることの根拠はなく、同じ発明者の論文というだけで、甲5から読み取った数値をそのまま採用して甲3の素子のコンタクト抵抗を計算することが正解とはいえない。したがって、無効理由3の相違点3も実質的な相違点である。

エ 本件発明2ないし10について(審判事件答弁書26頁8行?11行)
本件発明2ないし10に関しては、上記のとおり本件発明1が甲3に記載された発明に対して新規性を有するから、本件発明2ないし10も、甲3に記載された発明に対して新規性を有し、また、進歩性を有するものである。

(6)無効理由5に対する反論
ア 相違点1(構成要件C)について
(ア)相違点1は、甲4発明および甲2(甲2第一発明または甲2第二発明)の記載から容易想到である、に対して(審判事件答弁書26頁24行?29行)
甲4発明では、C面(0001)GaN基板の上面に素子構造が形成されており、そのGaN基板の裏面、すなわちN面に電極を形成している。甲2に記載された技術事項ではGaN基板のN面に形成した電極はショットキー接続になるから、甲4発明に対して甲2の技術事項を適用する動機付けはない。
(イ)相違点1は、甲4発明に加工変質層に関する周知技術を適用することにより容易想到である、に対して(審判事件答弁書27頁12行?16行)
甲7、甲8、甲16、甲24、甲25 甲26及び甲27は、素子の電極形成面について、加工変質層の除去を記載しているものではないから、電極が形成されているGaN基板裏面に対し、「転位を含む・・・領域」を完全に除去して元の基板の状態に戻すことは、周知慣用の技術ではない。
(ウ)相違点1は、甲4発明に技術常識(機械研磨とエッチングの組み合わせ)を適用することにより容易想到である、に対して(審判事件答弁書27頁31行?28頁3行)
甲2、甲8、甲27、甲42は、電極が形成されるGaN基板裏面の厚み加工について記載されたものではなく、転位の増大によりコンタクト抵抗が増大するという課題も、厚み加工において機械研磨とドライエッチングやウェットエッチングを組み合わせることも技術常識ではない。
(エ)相違点1は実質的な相違点ではない(表面歪みの除去)、に対して(審判事件答弁書28頁22行?32行)
請求人は、甲18の「歪み層」と甲4の「表面歪み」とが同一であるということを前提にしているが、その前提が正しいという根拠は全く存在しない。仮に、甲4の「表面歪み」が甲18の「歪み層」と同じものだとしても、甲4には、「表面歪み」を完全に除去することは記載されていない(乙2の審決50頁28?31行参照、審決の甲30は本件の甲24であり甲18とは異なるが、両者の「歪み層」は同じであることを前提に請求人は説明している(審判請求書42頁参照。)。また、甲8の「歪み層」についても、甲4の「表面歪み」と同一であるという根拠は全くなく、仮に両者が同じものだとしても、甲4には、「表面歪み」を完全に除去することは記載されていない。したがって、相違点1は実質的な相違点である。

イ 相違点2(構成要件E)について(審判事件答弁書29頁20行?22行)
甲4の記載からコンタクト抵抗を「0.05cm^(2)以下」とすることが容易に想到することができないことは、乙2の審決(51頁24行から52頁1行)のとおりである。

ウ 本件発明2ないし10について(審判事件答弁書29頁23行?30頁25行)
本件特許の請求項2?10は請求項1を引用するものであり、本件発明1が甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし10も、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明3及び4については、次の(ア)及び(イ)の点でも、請求人の主張は誤りである。
(ア)本件発明3について
請求人は、甲4発明に対して、技術常識又は周知技術を適用し、元の基板の状態に戻し、転位密度を元の「1×10^(6)cm^(-2)」にすることは当業者が容易になし得ることであり、また、甲4に開示された表面歪みの除去との構成からすれば、構成要件Hは実質的な相違点とはいえないから、本件特許発明3は、甲4発明に周知技術又は技術常識を適用し、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるか、または実質的な相違点ではないと主張している。しかしながら、GaN基板の裏面(電極形成面)の「転位を含む領域」を除去して元の基板の状態に戻すことは、技術常識ではなく、また、甲4には、「表面歪み」を完全に除去することは記載されていないから、本件発明3は、甲4発明に周知技術又は技術常識を適用し、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものではないし、また、実質的な相違点である。
(イ)本件発明4について
請求人は、甲4発明の目的であるコンタクト抵抗を低減するにあたり、GaN基板の裏面を具体的にどの程度除去するのかは設計事項に過ぎず(甲29、甲17)、また、GaN基板の裏面を0.5μm以上除去する程度のことは周知技術である(甲40の段落【0041】)から、本件発明4は、甲4発明に周知技術等を組み合わせることで、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであると主張している。しかしながら、甲4では転位密度とコンタクト抵抗との関係が認識されていないから、本件発明4におけるGaN基板の除去量は、甲4発明において設計事項ではない。また、GaN基板の裏面を0.5μm以上除去することは、周知技術ではない。したがって、本件発明4は、甲4発明に周知技術等を組み合わせることで、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものではない。

3 口頭審理における被請求人の主張の概要
(1)口頭審理陳述要領書(請求人)に対する反論
ア 甲3第一発明に基づく進歩性欠如(無効理由3の1)に対して
相違点1については、甲3の請求項57の平坦化は、段落【0175】のマスクを除去した後に行う「裏面が平坦になるように研磨あるいは研削を行う」であり、新たに転位を発生させる加工である。したがって、機械研磨によって発生した転位を除去するという技術思想は全くないから、甲2の機械研磨面をドライエッチング処理する技術を甲3第一発明に適用する動機付けはない(口頭審理陳述要領書(被請求人)3頁11行?16行)。
相違点2については、相違点1が容易想到ではないから、相違点2も容易想到ではない(口頭審理陳述要領書(被請求人)3頁19行?20行)。
相違点3については、甲3第一発明に甲2のドライエッチング技術を適用してn側電極形成面における転位密度を「10^(9)cm^(-2)以下」とする動機付けはなく、コンタクト抵抗「0.05Ωcm^(2)以下」を得ることは容易想到ではない(口頭審理陳述要領書(被請求人)3頁下から3行?下から1行)。
イ 甲3第二発明に基づく進歩性欠如(無効理由3の2)に対して
甲3第二発明に甲2のドライエッチング技術を適用する動機付けがないことは、甲3第一発明の相違点1及び相違点3について検討したとおりである(口頭審理陳述要領書(被請求人)4頁9行?12行)。
ウ 審判事件答弁書への請求人の反論に対する再反論
ある材料について一般論として記載された技術事項があったとしても、他の特定の材料についてその技術事項を適用してどのような結果が得られるかは、実際に実験をしてみなければ分からない。半導体基板の加工変質層を除去することについて記載された複数の文献があったからといって、それだけの理由のみでn型窒化物系半導体基板のn側電極形成面において転位を除去することが周知技術又は技術常識であったとはいえない(口頭審理陳述要領書(被請求人)5頁9行?14行)。
本件発明では、GaN基板の電極形成面の「転位」を除去するのであり、「加工変質層」ではない。請求人は、本件発明における「転位」を「加工変質層」に置き換えて主張しており、本件発明を正解していない(口頭審理陳述要領書(被請求人)5頁25行?28行)。
甲7や甲8には、加工変質層についての一般論が漠然と記載されているだけであり、材料系および位置(発生箇所)を問わず、発生した加工変質層を除去する必要があるなどとは記載されていないし、そのような技術常識はない(口頭審理陳述要領書(被請求人)5頁下から2行?6頁1行)。
結晶成長面であるのか電極形成面であるのかにかかわらず、また材料系を問わず、基板に結晶欠陥があれば、結晶のどの部分であれ、結晶欠陥を除去する技術が周知慣用の技術であるという請求人の主張は、余りにも大雑把で乱暴な議論である(口頭審理陳述要領書(被請求人)6頁10行?13行)。
請求人の出願である乙3に第2の窒化物半導体層の結晶成長面では結晶欠陥の数を少なくし、電極形成面では結晶欠陥を多くすることにより、効率のよい素子を作製する技術が記載されているように、窒化物半導体層に結晶欠陥が発生した場合、その発生した部分の使用目的によって結晶欠陥の良否が異なるのであって、結晶のどの部分であれ、結晶欠陥を除去する技術が周知慣用の技術であるという請求人の主張は、明らかに間違いである(口頭審理陳述要領書(被請求人)6頁下から4行?7頁3行)。
甲2のショットキーダイオードは、基板の両面に電極が形成されるデバイスであって、素子構造を有するデバイスではないのであるから、甲2第一発明には、n型GaN基板に活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する動機付けがあるはずはなく、もし、このような第2半導体層を形成してしまったら、甲2のショットキーダイオードではなくなってしまう(口頭審理陳述要領書(被請求人)9頁12行?16行)。

(2)当審合議体の関心事項に対する回答
ア 関心事項1.(1)イに対する回答
「(i)機械研磨によって転位が発生する」については、技術常識として認める。しかし、(ii)?(iv)については、個々の現象について記載された文献は存在するかもしれないが、窒化物系半導体において、機械研磨によって発生した転位によりコンタクト抵抗が増大することは、公知でもないし、技術常識でもない(口頭審理陳述要領書(被請求人)9頁下から4行?下から1行)。
イ 関心事項1.(2)ウに対する回答
本件発明でいう転位が結晶欠陥の一つであって、加工変質層と呼ばれる領域に含まれ得ることは認める。ただし、本件発明でいう転位は、従来技術において除去すべきと認識されていたクラック等の加工変質層よりも深い位置まで延びている転位であり、このことは審決取消訴訟判決(甲17)の認定とも一致している(口頭審理陳述要領書(被請求人)10頁下から2行?11頁3行)。
ウ 関心事項1.(4)に対する回答
窒化物系半導体において、機械研磨により発生する転位によってコンタクト抵抗が増大するということは、上記の「(1)関心事項1.(1)イ」で説明したように、本件発明者が実験を行うことにより初めて知り得た事実である。本件特許明細書の【0056】【表1】の試料3は、試料1や試料2では得ることが出来なかった低いコンタクト抵抗を、本件発明者が機械研磨により発生した転位を含む領域を除去することにより初めて実現した試料である。本件発明1における転位密度の上限値「1×10^(9)cm^(-2)」及びコンタクト抵抗の上限値「0.05Ωcm^(2)」はこの試料3に基づく数値であり、本件発明者が機械研磨により発生した転位を含む領域を除去することにより初めて達成した数値であることに格別の技術的意義がある(口頭審理陳述要領書(被請求人)11頁10行?19行)。

第8 本件併合通知後の被請求人の主張の概要
1 被請求人が提出した証拠方法
(1)第1事件
ア 平成28年12月8日付け上申書に添付したもの
乙4:知財高判平成27年9月28日言渡判決(平成26年(行ケ)第10148号)

イ 平成29年11月21日付け意見書に添付したもの
乙5:知財高判平成25年11月14日言渡判決(平成24年(行ケ)第10303号)
乙6の1:無効2011-800203の被請求人口頭審理陳述要領書
乙6の2:陳述書(平成24年4月10日、本件特許発明の発明者作成)
乙6の3:分析結果報告書(平成24年2月14日、株式会社UBE科学分析センター)

(2)第2事件
ア 平成28年12月8日付け上申書に添付したもの
乙4:知財高判平成27年12月24日言渡判決(平成27年(行ケ)第10116号)

イ 平成29年11月21日付け意見書に添付したもの
乙5:知財高判平成25年11月14日言渡判決(平成24年(行ケ)第10303号)
乙6の1:無効2011-800203の被請求人口頭審理陳述要領書
乙6の2:陳述書(平成24年4月10日、本件特許発明の発明者作成)
乙6の3:分析結果報告書(平成24年2月14日、株式会社UBE科学分析センター)

2 平成28年12月8日付け上申書における主張の概要(第1事件及び第2事件ともに同じ。)
本件訂正発明1は、「第2工程の終了後に第1半導体層の裏面に発生している転位」について、「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥である」との限定を加えている。知財高裁判決の認定した技術常識では、機械研磨によって転位を含む加工変質層が形成され、電気的特性に対する悪影響があるので、これを完全に除去するとするが、機械研磨によって生じている転位が本件訂正発明1のように限定されている場合に、これを除去することも技術常識の範囲内であるとは認定されていない。訂正前の請求項1では、機械研磨によって生じる転位が、どのようなものであるかについての限定がなかったため、転位を含む加工変質層一般と同じものとして扱われている。しかし、本件訂正発明1において、第2工程終了時の転位が「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥である」と限定されると、1×10^(10)cm^(-2)程度の転位密度は非常に低い値なので、当業者がこの限定事項の知見を有していなければ、当該転位を除去することは容易に想到できない。
また、表面歪みを除去する甲4発明(審決注:甲4は、第2事件の甲4であり、第1事件の甲11である。)では、GaN基板を具体的に、どの程度除去するのかについては不明であり、表面歪みを除去するために、GaN基板を0.5μm以上除去する必要があることを記載した公知文献も存在しない。これに対し、本件訂正発明1では、研磨により発生した転位を除いて所定の転位密度とするために、第2工程終了後に、GaN基板を0.5μm以上除去する必要があることを規定しており、「0.5μm以上」は、当業者が容易に想到できるものではない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲4発明及び技術常識や周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件訂正発明2、3及び5ないし10についても、同様である。

第9 本件併合通知後の請求人の主張の概要
1 請求人が提出した証拠方法
(1)第1事件
平成29年2月30日付審判事件弁駁書に添付したもの
甲38:知財高裁平成27年9月28日付判決(平成26年(行ケ)第10148号審決取消請求事件)
甲39:知財高裁平成27年12月24日付判決(平成27年(行ケ)第10116号審決取消請求事件)
甲40:「半導体評価技術」、河東田隆編、1994年5月30日
甲41:「表面工学講座1 表面の構造」佐々木恒孝ほか編、昭和46年7月30日
甲42:審決(無効2014-800016)、特許庁、平成27年5月26日
甲43:知財高裁平成25年11月14日付判決(平成24年(行ケ)第10302号審決取消請求事件)
甲44:特開昭63-122179号公報
甲45:技術説明資料(無効2011-800203の乙7)、被請求人、平成24年4月25日

(2)第2事件
平成29年2月30日付審判事件弁駁書に添付したもの
甲60:知財高裁平成27年12月24日付判決(平成27年(行ケ)第10116号審決取消請求事件)
甲61:知財高裁平成27年9月28日付判決(平成26年(行ケ)第10148号審決取消請求事件)
甲62:「わかる半導体レーザの基礎と応用」、平田照二、2001年11月20日
甲63:特開昭63-122179号公報
甲64:技術説明資料(無効2011-800203の乙7)、被請求人、平成24年4月25日

2 平成29年2月30日付審判事件弁駁書における主張の概要(第1事件及び第2事件ともに同じ)
仮に、訂正事項1-1の訂正が認められるとしても、本件訂正発明には無効理由が存在する。
まず、本件優先日当時、研磨によって発生した転位は、「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度」であっても、「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度」でなくても、「窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」であり、除去対象とすべきことが当時の周知技術であるから、訂正事項1-1は、周知技術そのものである。
また、訂正事項1-1の「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても」に着目しても、当該転位が「窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」であることは当時の周知技術である。
したがって、訂正事項1-1は、甲4発明との実質的な相違点ではないか少なくとも甲4発明において容易想到である。
0.5μm以上除去すること(訂正事項1-2)は周知技術であって甲4発明との実質的な相違点ではないか、設計事項に過ぎず、甲4発明において容易想到である。

第10 第2事件についての当審の判断
事案にかんがみ、第2事件から判断する。

1 本件訂正発明
上記第3でした認定のとおりである。

2 甲各号証に記載された事項
(1)甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。)
ア 甲2の記載事項
請求人が挙げた甲2には、次の(ア)ないし(ウ)の事項(請求人作成の全訳による)が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(ア)「自立n型GaN基板へのTi/Al電極の結晶極性の依存性」(タイトル)

(イ)「n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性上の結晶極性の影響が研究されてきた。n型GaN基板のGa面上に形成されたTi/Al電極は、30秒間600℃よりも高温でアニールすることで、接触抵抗値2×10^(-5)Ωcm^(2)のオーミックとなった。一方、n型GaN基板のN面上の電極は、非線形の電流-電圧曲線を示し、1eVを超える高いショットキー障壁が同じアニール条件で測定された。これらの結果は、GaN基板の異なる極性によるGaN/AlNヘテロ構造における逆向きのピエゾ電界により説明できる。」(要約)

(ウ)「自立GaNは、転位密度が低く、熱伝導率が高く、劈開が容易であることから、電子デバイスならびに光電子デバイスの基板として注目されている。GaN基板を使用するもう一つの利点は、裏面n電極のデバイスを作製できることである。これにより、製造工程を簡単で確実なものにし、デバイスのサイズを小さくすることができ、このことは、量産収率を向上させる。
GaN基板は結晶極性が異なる二つの面、Ga極性面とN極性面を有するが、それらは金属/GaN界面のほかAlGaN/GaNヘテロ構造における界面の電気特性にも大きな影響を与える。Karrerらは、プラズマ誘起分子線エピタキシャル成長法(PIMBE)で成長させたPt/GaNショットキーダイオードの特性に対する結晶極性の影響を調査検討し、二つの異なる面に接しているPtの異なった障壁高さは、GaNのGa面とN面でそれぞれ1.1eVと0.9eVであったと報告した。彼は、この挙動は、異なる極性をもったエピタキシャル層内の自発分極が異なることが原因で、伝導帯および価電子帯のバンド曲がりが異なることによるものとできるとした。Fangらも、Ni/Au電極が、GaNのN面上(0.75eV)よりも高い1.27eVの障壁高さであることを自立GaNのGa面上で示したことを報告した。活性層を含む素子構造は、通常、GaN基板のGa極性側に成長させるため、裏面オーミック電極はGaNのN極性側に形成する必要がある。しかし、Ga極性およびN極性のGaN基板上のオーミック電極間の電気特性の比較はほとんど行われてこなかった。
Ti/Al電極はn型GaN上のオーミック電極に広く使用されていることから、本研究では、n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性に対する結晶極性の影響を検討する。このために、ハイドライド気相成長法(HVPE)で成長させた自立n型GaN基板を使用し、なぜならそれらは一方の表面にGa極性面を有しもう一方の表面にN極性面を有するからであるが、そして、n型GaN基板のGa面上とN面上のTi/Al電極を比較する。異なる極性を有する試料に形成した電極の電気特性は大きく異なることが示されるが、それは、極性に依存する逆向きのピエゾ電界によって説明することができる。
試料は、HVPE法により、サファイア基板上に300μmの膜厚に成長させた。自立GaN基板を得るため、レーザー誘起リフトオフにより、厚いGaN層をサファイア基板から剥離した。GaNウェハは、平滑なエピレディ表面を得るため、Ga面とN面の両方を、機械研磨とドライエッチ処理した。二結晶X線回析(DXRD)を用いて構造特性を調査検討した。Ga面とN面に対する(0002)ピークの半値全幅(FWHM)を測定したところ、それぞれ126arcsecと153arcsecであった。それらの非対称(1012)ピークは、96arcsecおよび104arcsecであった。Ga面およびN面ともに、代表的な転位密度は10^(7)cm^(-2)よりも低かった。試料は、Siがドープされていた。室温におけるホール測定により得られた電子濃度および移動度は、それぞれ1.5×10^(17)cm^(-3)および 825cm^(2)/Vsであった。
Ga面とN面はともにアセトンおよびメタノール中で脱脂し、脱イオン(DI)水中で洗浄し、フォトリソグラフィーによりパターンを施した。その後、それらを緩衝酸化物エッチング液中でエッチングし、DI水中で洗浄し、窒素ガスで乾燥した後、金属蒸着するために真空システムに装填した。厚さ50nmのTi層及び厚さ500nmのAl層のTi/Al層を電子ビーム蒸着により形成した。I-V特性を、幅200μmギャップ間隔30μmの2枚の金属パッドを使用し、測定した。伝送長法(TLM)を用いて接触抵抗を測定するため、適宜、環状の電極構造を形成した。試料はN_(2)雰囲気の高速熱アニールシステム中でアニールした。
GaN基板の両側の極性を判定するため、原子間力顕微鏡法(AFM)を伴う化学エッチング技術およびオージェ電子分光法(AES)を適用し、そしてその結果を表Iにまとめた。化学エッチング実験は、室温で0.1MKOH溶液を用いて、あるいは、220℃で85%H_(3)PO_(4)溶液を用いて行なわれた。表Iに示すように、測定されたエッチング速度は上面でゼロに近く、それは、HVPE法による成長面と同等であった。上面の表面粗さはエッチング後も変わらなかった。
しかし、表Iに示すように、底面では、1μm/分という高いエッチング速度が得られ、その表面はエッチング後に非常に粗くなった。我々はまた、オージェ電子の脱出率により評価された上面1nmの膜のN/Ga比率も測定した。上面および底面のN/Ga比率を計算すると、それぞれ0.74と0.97であった。これらの結果は、上面はGa面極性を有し、底面はN面極性を有することを示している。さらに、Jasinskiらは、本研究で使用したシステムと全く等しいHVPEシステムで成長させた自立GaN基板の極性を収束電子線回析により検討し、成長面(上面)および底面はGaおよびN面極性をそれぞれ有したことを報告した。
図1は、n型GaN基板のGa面とN面の両方に堆積されたTi/Al電極のI-V特性を示す。Ti/Al電極は、n型GaNのGaおよびN面上の両方の電極を30秒間500℃でアニールした後では、図1に示した様に、非線形なI-V曲線を示した。n型GaNのGa面上のTi/Al電極では、30秒間700℃および900℃でアニールした後では、I-V曲線は線形になった。これらは、Ti/Al電極は600℃より高温でアニールすることでオーミック性が得られたこれまでの結果と、よく一致している。しかし、図1に示されるように、n型GaNのN面上のTi/Al電極は、700℃でのアニール後に依然として非線形のI-V関係を示し、I-V曲線の傾きは減少した。
図2は、バイアス電圧0.1Vで測定された二個のTi/Al電極パッド間の電流変化をアニール温度の関数として示す。図2に示すように、n型GaN基板のN面上のそれらと比較し、n型GaN基板のGa面上のTi/Al電極についての測定電流値のアニール温度依存性は、非常に異なっている。n型GaNのGa面上の電極の場合、アニール温度が500℃から600℃に上昇するにつれて電流が大幅に増加し、600℃?800℃で30秒アニールした後、TLMから測定された接触抵抗率は2×10^(-5)Ωcm^(2)であった。これより高い温度でアニールすると、電流測定値が低下した。n型GaN基板のN面上のTi/Al電極の場合、30秒間500℃でアニールした後の0.1Vでの電流は、図2に示すように、n型GaNのGa面上の電極で得られたものと同様であった。しかし、図2に示したように、600℃での30秒アニール後の測定電流値は、一桁減少していた。図2に示したように、700℃で30秒間のアニール後では、0.1Vで300nAの最小電流が得られたが、これは、n型GaN基板のGa面上の電極より4桁低いものであった。
n型GaNのN面におけるTi/Al電極の電気特性の更なる調査研究として、ショットキー障壁高さを、電流-電圧測定を使用して測定し、その結果を図3に示した。障壁高さを測定するため、Ti/Al電極をn型GaNのGa面に堆積し、30秒間700℃でアニールし、これにより低い接触抵抗率のオーミックが得られ、また、直径180μmのTi/Al電極がn型GaNのN面に形成された。概略図を図3に挿入した。n型GaNのN面上のTi/Al電極は、30秒間500℃でのアニール後では、図3に示すように、I-Vグラフに線形領域が無いが、一方、30秒間700℃でアニールされたTi/Al電極は線形領域を示しており、これはショットキーダイオード特性である。30秒間700℃でアニールしたn型GaNのN面上のTi/Al電極の障壁高さ及び理想係数を算出したところ、それぞれ1.09eVと1.29となった。また、90分間500℃でアニールしたn型GaNのN面上のTi/Al電極の障壁高さも測定したところ、図3に示すように、障壁高さは1.01eVとなり、理想係数1.67を得た。さらに、図3に示すように、Tiの役割を解明するために、n型GaN基板のN面上のPd/Al電極の障壁高さを調べた。Pd/Al電極の障壁高さと理想係数は、それぞれ1.10と1.44eVであったが、それらは、n型GaNのN面上のTi/Al電極と同様であった。Karrerらの報告では、PIMBEで成長させたn型GaNのN面上のPt電極の障壁高さは0.9eVであり、Fangらの報告では、HVPEn型GaN基板のN面上のNi/Au電極の障壁高さは0.75eVであった。TiとAl(それぞれ4.33eVおよび4.28eV)の仕事関数がPtとNi(それぞれ5.65eVおよび5.15eV)のそれらよりかなり低いことを考慮すると、n型GaNのN面上のTi/Al電極とPd/Al電極の障壁高さが1eVより高いということは、アニールで高仕事関数を有する界面層が形成されたことを示唆するようにみえる。さらに、n型GaNのGa面上の電極はオーミックとなることから、図1および図2に示すように、界面層は、n型GaNのGa面上のTi/Alにオーミック接触になる。
Lutherらは、GaN上のTi/Al電極およびPd/Al電極の界面の特性について述べ、Ti/Al電極の界面だけでなく600℃でアニールしたPd/Al電極の界面で、非常に薄いAlN層を観測した。我々も、電界放出型オージェ電子分光法を用いてn型GaNのN面上のTi/Alを分析したところ、600℃で30秒のアニール後、GaNの表面にAlのピークが検出された。Ti/AlあるいはPd/Al電極とGaNの界面の薄いAlN層の役割については、Lutherらは、他の金属絶縁体-半導体構造の場合のように、薄いAlN層(2-3nm)の形成は、金属/GaN界面におけるフェルミレベルのピン留めを除去することにより金属電極とn型GaNの間のバンド並びに影響を及ぼす可能性があるか、あるいは、障壁高さを下げる可能性があると示唆した。この示唆は、n型GaN基板のGa面上のTi/Alにはオーミック接触が形成されることを説明できるが、その一方、本研究で観察されたn型GaNのN面上のTi/Alにはショットキー接触が形成されることについては説明することができない。結晶極性に依存するTi/Alのオーミックあるいはショットキー接触の形成におけるAlNの薄層の役割について、別な説明としては、GaNの異なる極性に起因してAlN/GaN界面で逆向きのピエゾ電界が生成することが挙げられる。Asbeckらは、Ga極性を有するAlGaN/GaNヘテロ構造は、ピエゾ電界的に誘起されたドナーを加えることにより二次元電子ガス(2DEG)の密度を増加させることを報告した。圧電的に誘起されたドナーの付加は、Ga極性の歪みヘテロ構造でのみ起こる。事実、Lutherらは、GaN上のTi/Al間あるいはPd/Al間の反応により生成した薄いAlNは、歪み下にあることを報告した。2DEGにおけるシートキャリア密度の増加は、ショットキー障壁幅を減少させ、障壁通過するキャリアのトンネリングを高め、それに続いてオーミック接触が形成される。しかし、逆向きの極性を有するAlGaN/GaNヘテロ構造は、2DEGを相殺してショットキー障壁を高くすることがある。GaskaらはAl_(0.2)Ga_(0.8)N/GaNヘテロ構造における逆方向のピエゾ電界が、障壁高さを0.7eV以上増加させたことを示唆した。また、Yuらは、ピエゾ電界効果を用いて、AlGaN/GaNヘテロ構造におけるNiの障壁高さを0.37eV増加させた。本研究では、我々は、n型GaN基板のN面上のTi/AlまたはPd/Al電極について、1eVという高い障壁高さを観察した。このように、本研究では、Ti/Al電極の反対の電気特性が結晶極性に依存することが観察され、それは自立n型GaN基板の結晶極性に依存しているAlN/GaNヘテロ構造における逆向きのピエゾ電界により説明できる。
まとめると、我々は、n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性における結晶極性の影響を調査研究した。異なる極性を有する試料上に作製された電極の電気特性は、大きく異なっていた。n型GaNのGa面上のTi/Al電極は30秒間600℃より高温でアニールするとオーミックとなったが、一方、n型GaNのN面上の電極は同一のアニール条件で1eVを超える障壁高さを有するショットキーコンタクトを形成した。これらの結果は、AlN界面層の形成によるものと説明することができる。GaNのGa面上のAlN層は、ピエゾ電界により誘導されたドーピングにより2DEGの密度を増加させ、結果としてオーミック接触を形成したが、一方、GaNのN面上のAlNは2DEGを相殺してTi/AlとGaNの間の障壁を増加させ、より高い障壁高さを有するショットキー接触を形成する結果となった。」(本文)

イ 甲2発明
上記アの摘記事項(ア)ないし(ウ)を含む甲2の全記載からみて、甲2には次の発明が記載されていると認められる。

「自立GaNは、転位密度が低く熱伝導率が高く劈開が容易であることから、電子デバイス並びに光電子デバイスの基板として注目されており、GaN基板を使用するもう一つの利点として、裏面n電極のデバイスを作製でき、これにより、製造工程を簡単で確実なものにし、デバイスのサイズを小さくすることができ、量産収率が向上することがあり、
GaN基板は、結晶極性が異なる二つの面、すなわちGa極性面(Ga面)とN極性面(N面)を有するが、それらは金属/GaN界面のほかAlGaN/GaNヘテロ構造における界面の電気特性にも大きな影響を与えるものであるところ、
Karrerらによる、Pt/GaNショットキーダイオードにおけるGa面とN面でのPtの障壁高さがそれぞれ1.1eVと0.9eVと異なったとの報告や、Fangらによる、自立GaNのN面上のNi/Au電極の障壁高さが0.75eVであったのに対し、Ga面上ではより高い1.27eVであったとの報告はあるものの、Ga極性及びN極性のGaN基板上のオーミック電極間の電気特性の比較はほとんど行われてこなかったが、
活性層を含む素子構造は、通常、GaN基板のGa極性側に成長させるため、裏面オーミック電極はGaNのN極性側に形成する必要があり、また、n型GaN上のオーミック電極にはTi/Al電極が広く使用されていることから、本研究では、n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性に対する結晶極性の影響を検討することを目的とし、
上記目的のために、ハイドライド気相成長法(HVPE)で成長させた、一方の表面にGa極性面を有しもう一方の表面にN極性面を有する自立n型GaN基板を用い、Ga面上とN面上の両面にTi/Al電極を形成した、研究用のn型GaN試料の製造方法であって、
前記Ga面上とN面上のTi/Al電極を比較したところ、異なる極性を有する面上に形成した電極の電気特性は大きく異なることが示されたが、それは、極性に依存する逆向きのピエゾ電界によって説明することができるものであり、
具体的には、
HVPE法により、サファイア基板上にGaN層を300μmの膜厚に成長させ、Siをドープし、レーザー誘起リフトオフにより厚いGaN層をサファイア基板から剥離して自立GaN基板(GaNウェハ)を得、平滑なエピレディ表面を得るため、前記GaNウェハのGa面とN面の両面を機械研磨とドライエッチ処理し、
二結晶X線回析(DXRD)を用いて前記GaNウェハの構造特性を調査検討したところ、Ga面とN面に対する(0002)ピークの半値全幅(FWHM)の測定結果は、それぞれ126arcsecと153arcsecであり、それらの非対称(1012)ピークは、96arcsec及び104arcsecであり、Ga面及びN面ともに、代表的な転位密度は10^(7)cm^(-2)よりも低く、
室温におけるホール測定により得られた電子濃度及び移動度は、それぞれ1.5×10^(17)cm^(-3)及び 825cm^(2)/Vsであり、
続いて、Ga面とN面をともにアセトン及びメタノール中で脱脂し、脱イオン(DI)水中で洗浄し、フォトリソグラフィーによりパターンを施し、その後、それらを緩衝酸化物エッチング液中でエッチングし、DI水中で洗浄し、窒素ガスで乾燥した後、金属蒸着するために真空システムに装填し、厚さ50nmのTi層及び厚さ500nmのAl層のTi/Al層を電子ビーム蒸着により形成し、その際、伝送長法(TLM)を用いて接触抵抗を測定するため、幅200μmギャップ間隔30μmの2枚の金属パッドが、適宜、環状の電極構造を形成するようにして試料を得て、
前記試料をN_(2)雰囲気の高速熱アニールシステム中でアニールした後、n型GaN基板のGa面とN面の両面に堆積されたTi/Al電極の電流-電圧(I-V)特性を測定したところ、n型GaNのGa面及びN面の両方とも、Ti/Al電極を500℃で30秒間アニールした後では非線形なI-V特性を示し、n型GaNのGa面上のTi/Al電極では、700℃及び900℃で30秒間アニールした後ではI-V曲線は線形になったが、n型GaNのN面上のTi/Al電極では、700℃でのアニール後に依然として非線形のI-V関係を示し、
n型GaNのGa面上のTi/Al電極の場合、アニール温度が500℃から600℃に上昇するにつれて電流が大幅に増加し、600℃?800℃で30秒間アニールした後、TLMで測定された接触抵抗率は2×10^(-5)Ωcm^(2)であり、これより高い温度でアニールすると、電流測定値が低下し、
これに対して、n型GaN基板のN面上のTi/Al電極の場合、500℃で30秒間アニールした後の0.1Vでの電流は、Ga面上のTi/Al電極で得られたものと同様であったが、600℃で30秒間アニールした後の測定電流値は一桁減少し、さらに、700℃で30秒間アニールした後では、0.1Vで、Ga面上のTi/Al電極より4桁低い300nAの最小電流が得られ、
n型GaNのN面におけるTi/Al電極の電気特性の更なる調査研究として、電流-電圧測定を使用してショットキー障壁高さを測定するため、n型GaNのGa面にTi/Alを堆積し、700℃で30秒間アニールして低い接触抵抗率のオーミック電極を得、また、n型GaNのN面に直径180μmのTi/Al電極を形成し、n型GaNのN面上のTi/Al電極を500℃で30秒間アニールした後ではI-Vグラフに線形領域が無いが、一方、N面上のTi/Al電極を700℃で30秒間アニールした後では線形領域を示しており、これはショットキーダイオード特性であるから、前記試料は、n型GaNからなるショットキーダイオード試料であり、
また、700℃で30秒間アニールしたn型GaNのN面上のTi/Al電極の障壁高さ及び理想係数は、それぞれ1.09eVと1.29と算出され、500℃で90分間アニールしたn型GaNのN面上のTi/Al電極の障壁高さは1.01eVと測定され、理想係数1.67が得られ、さらに、Tiの役割を解明するために、n型GaN基板のN面上にPd/Al電極を形成して障壁高さを調べたところ、Pd/Al電極の障壁高さと理想係数は、それぞれ1.10と1.44eVであり、それらは、n型GaNのN面上のTi/Al電極と同様であったところ、Karrerらの報告では、PIMBEで成長させたn型GaNのN面上のPt電極の障壁高さは0.9eVであり、Fangらの報告では、HVPEで成長させたn型GaN基板のN面上のNi/Au電極の障壁高さは0.75eVであり、TiとAlの仕事関数(それぞれ4.33eV及び4.28eV)がPtとNiのそれら(それぞれ5.65eV及び5.15eV)よりかなり低いことを考慮すると、n型GaNのN面上のTi/Al電極とPd/Al電極の障壁高さが1eVより高いということは、アニールで高仕事関数を有する界面層が形成されたことを示唆するようにみえ、
さらに、n型GaNのGa面上の電極はオーミックとなることから、界面層はn型GaNのGa面上のTi/Alにオーミック接触になっていること、Lutherらが、GaN上のTi/Al電極の界面だけでなく600℃でアニールしたPd/Al電極の界面で非常に薄いAlN層を観測したこと、及び、電界放出型オージェ電子分光法を用いてn型GaNのN面上のTi/Alを分析したところ、600℃で30秒間のアニール後、GaNの表面にAlのピークが検出されたことからみて、
GaNの異なる極性に起因してAlN/GaN界面で逆向きのピエゾ電界が生成しており、前記のようにTi/Al電極の反対の電気特性が結晶極性に依存することが観察されたことは、自立n型GaN基板の結晶極性に依存しているAlN/GaNヘテロ構造における逆向きのピエゾ電界により説明できるものである、
研究用のn型GaN試料の製造方法。」(以下「甲2発明」という。)

(2)甲3に記載された発明(以下「甲3発明」という。)
ア 甲3の記載事項
請求人が挙げた甲3には、次の(ア)ないし(ケ)の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(ア)「【請求項41】 成長させる結晶とは異なる材料からなる異種基板上に複数の成長領域を形成するようにストライプ状にパターニングされたマスクを形成する工程、該マスクの表面の清浄化処理を行う工程、該成長領域からファセット構造を形成しながら結晶成長させ、該マスクを介して隣り合う成長領域から成長した結晶と合体して該マスクを覆い、さらに該ファセット構造を埋め込んで表面を平坦化するようにエピタキシャル成長する工程を有することを特徴とするIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項42】 気相成長法によりエピタキシャル成長する請求項41記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項43】 マスク表面の清浄化処理をマスク表面をエッチングすることにより行う請求項41又は42記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項44】 マスク表面の清浄化処理をオゾン又は紫外光照射により行う請求項41又は42記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項45】 マスク表面の清浄化処理を、還元性雰囲気下で熱処理を行うことにより行う請求項41又は42記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項46】 前記マスクのストライプ方向が<11-20>又は<1-100>方向である請求項41?45のいずれか1項に記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項47】 前記異種基板上に下地結晶層を設け、該下地結晶層上にエピタキシャル成長する請求項41?46のいずれか1項に記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項48】 前記エピタキシャル成長後、前記異種基板を研磨あるいは研削して薄くする工程を有する請求項41?47のいずれか1項に記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項49】 前記異種基板を、エピタキシャル成長層の厚さの半分以下になるまで薄くする請求項48記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項50】 前記異種基板として、エピタキシャル成長層の所定の厚さの半分以下の厚さを有する異種基板を用いる請求項41?47のいずれか1項に記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項53】 前記異種基板の厚さがエピタキシャル結晶層の半分以下の厚さの状態で該異種基板にクラックを発生させた後、該異種基板を研磨あるいは研削により除去する請求項49又は50記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項54】 前記異種基板上に下地結晶膜を形成し、該下地結晶膜上にストライプ状マスクを形成する工程を有するIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法であって、研磨あるいは研削によって該異種基板とともに該下地結晶膜も除去する請求項53記載の半導体ウェーハの製造方法。
【請求項55】 クラック形成後、前記異種基板を研磨あるいは研削によって除去した後、前記ストライプ状マスクを除去する工程を有する請求項53又は54記載の半導体ウェーハの製造方法。
【請求項56】 クラック形成後、前記異種基板を研磨あるいは研削によって除去するとともに前記ストライプ状マスクを除去する工程を有する請求項53又は54記載の半導体ウェーハの製造方法。
【請求項57】 前記ストライプ状マスクが除去された側の結晶面を研磨により平坦化する工程を有する請求項55又は56記載のIII族元素窒化物半導体ウェーハの製造方法。」

(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような異種基板上にエピタキシャル成長を行うと、基板やエピタキシャル層に歪みや欠陥が発生し、また、厚い膜を成長した場合にはクラックが発生することが報告されている(ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライド フィジックス第32巻(1993)1528-1533頁(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)pp.1528-1533))。このような場合には、デバイスとしての性能が極端に悪くなるどころか、成長層が粉々に破壊されるという結果をしばしば招いていた。
・・・(略)・・・
【0013】さて、ウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体の応用の一つには先に述べたように青色系の光デバイスがある。特に高密度記録の書き込み、読み出しが可能な青色レーザを光源としたデジタルビデオデイスク(DVD)への期待は大きい。このような半導体レーザのファブリペロ共振器は一般に劈開によって形成される。例えばサファイア基板の上にGaNエピタキシャル層を形成し、その上に窒素をV族元素としたIII族元素窒化物半導体でレーザ用ダブル・ヘテロ(DH)構造をエピタキシャル法で形成し、前記リソグラフィ技術における問題を克服してストライプ構造を形成できたとしよう。その後のプロセスとしては電極等を形成するわけであるが、最終的には一般に劈開によってファブリペロ共振器を形成しなければならない。」
・・・(略)・・・
【0017】そこで本発明の目的は、格子定数や熱膨張係数が異なる異種基板上にエピタキシャル成長を行って形成されたものであっても、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくい、GaN結晶膜、III族元素窒化物半導体ウェーハ及びその製造方法を提供することである。」

(ウ)「【0038】
【発明の実施の形態】<GaN結晶膜の成長方法>本発明のGaN結晶膜の成長方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0039】初めに、サファイア基板1上にGaNを含む下地結晶膜2を成長し、その表面上にフォトリソグラフィー法とウェットエッチング法を用いてストライプ状のマスク4を形成し、成長領域3を形成する(図1(a))。
【0040】マスク4は基板1上に直接形成してもよいが、下地結晶膜2の形成により予め転位密度をある程度低減することができ、後に形成するGaN結晶膜5の転位構造をより効果的に制御できるため、この下地結晶膜2は形成することが好ましい。このような下地結晶膜の材料としては、GaN、AlN、Al_(x)Ga_(1-x)N(0<X<1)、In_(x)Ga_(1-x)N(0<X<1)などのIII族元素窒化物が好ましい。なお、前記下地結晶膜の組成は必ずしも後にその上に形成するエピタキシャル層の組成と同じである必要はなく、場合によってはIII族元素窒化物に限る必要もないが、上記エピタキシャル層と同じ結晶系でウルツ鉱型結晶構造を有する材料が好ましい。このような下地結晶膜の厚さは0.5μm?20μmが好ましい。薄すぎると十分な効果が得られず、厚すぎるとクラックが発生しやすくなる。
・・・(略)・・・
【0051】マスクの形状はストライプ形状が好ましく、このときマスク14の厚さは0.01?5μmが好ましい。マスクの材料としては、SiO_(2)を用いることが好ましいがこれに限られるものではなく、SiN_(x)等の絶縁体膜でもよい。
・・・(略)・・・
【0055】次に、成長領域3に対しGaN結晶のエピタキシャル成長を行う。マスク4の付いた基板をエピタキシャル装置の反応管に挿入して、水素ガス、窒素ガス、または、水素と窒素の混合ガスとN原料ガスを供給しながら基板を所定の成長温度まで昇温する。温度が安定してからGa原料を供給して、成長領域3にGaN結晶層を成長する。結晶成長方法は、Ga原料に塩化ガリウム(GaCl)を用い、N原料にアンモニア(NH3)ガスを用いる塩化物輸送法による気相成長(VPE:Vapor Phase Epitaxy)であるハイドライドVPE法が好ましいが、Ga原料に有機金属化合物を用いる有機金属化合物気相成長(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)を用いてもよい。
【0056】GaN結晶は、初期段階ではマスク4上に成長せず、成長領域3のみで結晶成長が起こり、成長領域上のGaN結晶には基板の面方位とは異なる面方位を有するファセット6が形成される(図1(b))。このときのGaN結晶の成長条件はファセット構造が形成されるように650℃から1100℃の成長温度、N原料の供給量はGa原料の供給量に対し等倍から1000倍の範囲で行うことが好ましい。
【0057】さらにエピタキシャル成長を続けると、GaN結晶はファセット面に対して垂直な方向に成長が進むため、成長領域だけでなくマスク4を覆うようになる。そして隣接する成長領域のGaN結晶のファセットと接触する(図1(c))。
【0058】さらにエピタキシャル成長を続けると、ファセットが埋め込まれ(図1(d))、最終的には、平坦な表面を有するGaN結晶膜5を得ることができる(図1(e))。
【0059】通常、サファイア基板上にGaN結晶の結晶成長を行うと、基板との界面で発生した結晶欠陥にともなう転位は、界面と垂直方向に伸びるために、たとえエピタキシャル膜を厚くしても、転位の低減は見られない。
【0060】本発明における成長方法では、選択成長により成長領域にファセット構造を形成している。このファセットは成長速度が他の面より遅いために現れる。ファセットの出現により転位がファセットに向かって進み、基板と垂直に伸びていた転位が垂直な方向へ伸びることができなくなる。転位はファセットの成長とともに横方向に曲げられ、そのほとんどの転位は、結晶の端に出てしまうか、閉ループを形成する。その結果、エピタキシャル膜の膜厚増加に伴い、上部の成長領域では結晶欠陥が減少していく。これにより、エピタキシャル膜内の欠陥の低減を図ることができる。このようにファセット構造を形成して成長することで、結晶欠陥を大幅に減らすことが可能になる。
【0061】特に、Ga原料に塩化物を用いる塩化物輸送法による気相成長では、GaN結晶の成長が速いため、ファセット構造のうち基板面と同じ面が消えるのがはやい。したがって基板と垂直に伸びる転位は、はやくからファセット構造のうち基板面と異なる面の方向に伸びることになりGaN結晶における垂直に伸びる転位(貫通転位)を大幅に減らすことができる。
【0062】なお、Ga原料に有機金属化合物を用いる有機金属化合物気相成長では塩化物輸送法による気相成長と比べて成長速度が遅くなるが、上述のようにのGaN結晶のファセット構造のうち基板面と同じ面が速く消えるようにすればよい。例えば成長領域に対するマスクの面積を大きくすればマスク上からの成長種の供給量が増えるため成長領域におけるGaN結晶の成長を速めることができる。
【0063】またGaNのエピタキシャル成長について述べたが、InGaN膜、AlGaN膜あるいはInN膜をエピタキシャル成長しても同様な効果が得られる。さらに成長するこれらの結晶膜に不純物を添加しても同様な効果が得られる。
【0064】上述のように、本実施の形態で得られるGaN結晶膜は、結晶欠陥が大幅に減少しており、このGaN結晶膜上に形成する半導体レーザ等の素子構造(GaN結晶膜を含む積層構造)における結晶欠陥も大幅に減少させることができる。このため、異種基板(例えばサファイア基板)上に作製する積層構造の結晶性を改善することができ、優れた特性を有する半導体レーザ等の半導体装置を提供することができる。
【0065】また、このようなGaNの結晶膜の膜厚を所望の厚さに成長した後、少なくともサファイア基板等の異種基板を除去することで、好ましくは異種基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去することで、結晶欠陥の少ないGaN結晶膜が得られ、これを基板として用いることで半導体レーザ等の素子を形成する上でさらに様々な利点が得られる。
【0066】例えば、半導体発光素子の製造にGaN結晶膜の基板を用いた場合は、サファイア基板等の絶縁性の異種基板を用いた場合に問題となっていた半導体発光素子における基板裏面への電極形成が可能になる。
【0067】さらに、GaN結晶膜からなる基板(GaN結晶膜基板)上に形成する半導体発光素子がGaN結晶膜を含む半導体レーザの場合は、GaN結晶膜基板と半導体レーザの積層構造との劈開面が同じであるため、劈開による共振器ミラーの作製が可能となる。
【0068】なお、上記では、GaN結晶膜基板を用いて素子を作製した場合の利点について説明したが、サファイア基板等の異種基板上に、前述の選択成長方法により所望の厚さのGaN結晶膜を形成した後に半導体素子構造を順次作製し、その後、この異種基板を除去することによっても、基板裏面への電極形成と、劈開による共振器ミラーの形成が可能であることは言うまでもない。
【0069】サファイア基板等の異種基板上へのGaN結晶膜形成時の膜厚としては、20μm?1mmが好ましく、80μm?500μmがより好ましい。
【0070】また、GaN結晶膜上に素子構造を形成する場合には、結晶成長する側のGaN結晶膜の面だけでなく、異種基板付きGaN結晶膜から異種基板やマスク等を削除した側、すなわちGaN結晶膜の異種基板側の面を利用して素子構造を形成してもよい。この場合に、異種基板とともに除去するGaN結晶膜の厚さは300μm以下が好ましく、5?150μmがより望ましい。
【0071】このようなGaN結晶膜を素子基板として用いることにより、形成される半導体素子の積層構造の結晶性を改善することができ、その結果、優れた特性を有する半導体素子を提供することができる。
【0072】また半導体発光素子に適用した場合は、サファイア基板で問題となっていた半導体発光素子における基板裏面への電極形成が可能になる。
【0073】さらに半導体発光素子が半導体レーザの場合は、GaN結晶膜と劈開面が異なる異種基板上にレーザ構造を形成しても、劈開による共振器ミラーの作製が可能になる。」

(エ)「【0117】以下、転位構造に起因する、膜厚に依存する膜表面の転位密度の推移を述べる。
【0118】まず、各転位の全転位密度に対する割合の推移については、本発明によるGaN結晶膜中では、図17に示すような上記転位構造によって、上層領域(低転位密度層)において、A転位(c面に対して平行な変位ベクトルを持つ転位)すなわち下地結晶中の刃状転位であった転位が減少し、B転位(c面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つ転位)すなわち下地結晶2中の混合転位であった転位はそのまま上部層へ引き継がれるため、全転位数に対するA転位の割合は少なくなり、反してB転位の割合が多くなる。
【0119】ここでは、上記TEM観察によってGaN結晶膜中の転位のキャラクタを判別した結果、従来の一般的な方法でサファイア基板上に直接成長したGaN結晶膜中では、B転位の割合が30%以下であったのに対して、マスク幅、開口部幅、マスク周期に対する開口部幅の割合、マスクのストライプ方向を変化させることで全転位数に対して少なくとも50%以上がB転位となる領域が存在することを確認した。」

(オ)「【0126】まず、上記のGaN結晶膜の成長方法に従って、基板1上にn型GaN結晶膜65を形成する(図11(a)及び(b))。
【0127】次に、このn型GaN結晶膜65上にGaN系半導体発光素子の素子構造を作製する。n型GaN結晶膜65が形成された基板をMOCVD装置にセットし、所定の温度、ガス流量、V族元素/III族元素比で、n型GaN層66、n型AlGaNクラッド層67、n型GaN光ガイド層68、アンドープInGaN量子井戸層とアンドープInGaN障壁層からなる多重量子井戸構造活性層69、p型AlGaN層70、p型GaN光ガイド層71、p型AlGaNクラッド層72、p型GaNコンタクト層73を順次形成して発光素子構造を作製する(図11(c))。
【0128】次に、発光素子構造を形成した基板を研磨器にセットし、基板1、下地結晶膜2、マスク4及びGaN結晶膜の一部を研磨してn型GaN結晶膜65を露出させる。露出したGaN結晶膜の面、すなわちGaN系半導体発光素子裏面側にn型電極74を形成し、表面側にp型電極75を形成する(図11(d))。
【0129】本実施の形態により以下の効果が得られる。
【0130】本発明のGaN結晶膜上にGaN系半導体素子構造を成長することにより、従来のサファイア基板を用いた成長で問題となっていたGaN系半導体素子構造におけるエピタキシャル成長膜の結晶性が改善でき、素子特性を向上させることができる。
【0131】特にGaN系半導体発光素子の場合においては、裏面に電極を形成することができるため、従来のようにドライエッチング等の複雑な作製工程で電極をGaN結晶膜の表面に形成することなく素子を作製でき電極作製工程が簡略化できる。
【0132】またGaN系半導体発光素子がGaN系半導体レーザの場合は、結晶欠陥が少ないGaN結晶厚膜を形成した後に、基板、マスク等を除去することで、劈開によりGaN系半導体レーザ構造の共振器ミラー面を形成できる。サファイアとGaN結晶とは結晶の劈開面が異なるため、従来、サファイア基板上に作製したレーザ構造の共振器ミラーは劈開により形成することが困難であった。これに対し、本発明では結晶欠陥が少ないGaN結晶膜65を厚く成長することができるため、サファイア基板やマスクを除去してもGaN結晶膜上に形成したGaN系半導体レーザ構造には影響はなく、またGaN結晶膜65上のレーザ構造は劈開により共振器ミラー面を形成できる利点を持っているため、従来のドライエッチング等による複雑な工程で共振器ミラー面を形成したものに比べ大幅に簡略化でき歩留まりも大幅に向上できる。
【0133】なお、上記の説明では、GaN結晶膜上にGaN系半導体素子の積層構造を作製した後に基板1とマスク2とGaN結晶膜65の一部を除去したが、GaN結晶膜を形成し基板1とマスク2とGaN結晶膜65の一部を除去した後にGaN系半導体素子の積層構造を作製してもよい。
【0134】またGaN系半導体素子としては、GaN系半導体レーザやGaN系LED等のGaN系半導体発光素子の他にFETやHBTなどのデバイスにも適用可能である。」

(カ)「【0135】<GaN結晶膜の転位のキャラクタ組成>前記のGaN結晶膜の成長方法に従ってサファイア基板上に成長したGaN結晶膜において、サファイア基板とマスクを含む下層領域が除去されたGaN結晶膜は、含有される転位の過半数がGaN結晶のc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つ転位(B転位)であることが、前記のTEMによる解析で確認された。これに対して従来の一般的な方法でサファイア基板上に直接成長したGaN結晶膜(サファイア基板を除く結晶層領域)中では、B転位の割合が30%以下であった。また、本発明のGaN結晶膜の上層領域(サファイア基板とマスクを含む下層領域が除去された結晶領域)中のA転位(GaN結晶のc面に平行な変位スベクトルを持つ転位)の全転位数に対する割合は、従来のGaN結晶膜中のそれに対して少なくなっており、本発明の結晶膜の上層領域中に含有される転位は、ほぼB転位とA転位のみであった。
【0136】本発明のGaN結晶膜は上記の特徴的な転位構造を有するため、GaN結晶膜中のB転位の割合が増大していることはA転位が低減、すなわち全転位の密度が低減していることを意味する。よって、半導体レーザ等の半導体装置の用途に好適なGaN結晶膜は、B転位がGaN結晶膜に含有される転位中の50%以上であることが好ましい。また、このGaN結晶膜中のA転位の全転位数に対する割合は50%未満であることが好ましい。さらにA転位の転位密度は1×10^(8)/cm^(2)未満であることが好ましい。このGaN結晶膜中の全転位の転位密度は2×10^(8)/cm^(2)以下であることが好ましく、1×10^(7)/cm^(2)以下であることがより好ましい。
【0137】また、サファイア基板とマスクを含む下層領域を除去して好適なGaN結晶膜を得るためには、サファイア基板上へ形成するGaN結晶膜の膜厚は、20μm?1mmが好ましく、80μm?500μmがより好ましい。また、基板とともに除去する下部領域のGaN結晶膜の厚さは300μm以下が好ましく、5?150μmがより望ましい。下地結晶層を形成している場合はサファイア基板等の除去とともに下地結晶層も除去することが好ましい。
【0138】以上は、GaNからなる結晶膜について説明したが、本発明はウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体であれば適用可能である。GaN以外のIII族元素窒化物半導体としては、InGaN、AlGaN、InN等が挙げられる。なお、ボロンと窒素からなるIII族元素窒化物半導体の結晶構造は立方晶であるが、III族元素窒化物半導体にボロンが含有されていても、ウルツ鉱型結晶構造を保てる含有量の範囲であれば本発明に包含される。」

(キ)「【0176】<異種基板の除去方法>次に、異種基板を取り除く方法について具体例を挙げて説明する。ここでは約250μm厚のGaN結晶をサファイア基板上に成長して得られたウエーハを研磨してサファイア基板を除去した例を説明する。
【0177】まず、GaN結晶側の表面(ウェーハ表面)を粘土状のいわゆるコンパウンドで保護する。次に露出したサファイア表面(ウェーハ裏面)をサンドブラスト法によって研磨する。サンドブラスト法は良く知られているように研磨面にジルコニア、アルミナ、炭化珪素などの粒子をノズルから高速で衝突させるものであるため、曲面をもった素材の高速の研磨に適した方法である。高速で研磨しようとすれば粒径の尺度として500番程度のものを用い、低速で研磨する場合は3000番程度の粒径の小さなものを用いることが好ましい。また、粒子の材料としてはジルコニアが好ましく、サファイア以外の炭化珪素、MgAl_(2)O_(4)などからなる異種基板についても良好な研磨性が得られた。
【0178】このサンドブラストによる研磨はサファイア基板の厚さが50μm厚程度になるまで行った。この後、コンパウンドを取り去ると反りは著しく軽減されていた。同時にサファイア基板にはクラックが多数発生しており、サファイア基板が薄くなった以上に反りの軽減が加速されていた。
【0179】クラックの発生はサファイア基板の厚さが100μmでも発生し、実質的に反りが解除される。
【0180】サンドブラスト法による研磨、コンパウンド除去後においてクラックの発生がない場合には反りはかなり残存している。しかし、この場合においてもドライアイスや液体窒素などの寒剤に曝することによってウエーハ温度を下げるとサファイア基板にクラックが発生し、反りを低減できる。
【0181】クラックを発生させて実質的に反りを解除するための条件は、III族元素窒化物半導体エピタキシャル層の厚さ100?500μmにおいては、異種基板の厚さがそのエピタキシャル層の厚さの2分の1以下であることが好ましい。厚めの異種基板を用いて結晶成長し、エピタキシャル層の厚さの2分の1以下になるまで異種基板を研磨してもよいし、所定のエピタキシャル層の厚さの2分の1以下の厚さの異種基板を用いてエピタキシャル成長を行ってもよい。例えば、厚さ200μmのサファイア基板上に厚さ500μmのGaN層をエピタキシャル成長させた場合、成長温度から室温に降温する段階でサファイア基板にクラックが発生し、反りが軽減される。たとえクラックが発生しなくても寒剤に浸して温度を下げれば、容易にクラックが発生して反りが軽減される。
【0182】なお、サファイア基板のサンドブラスト研磨はサファイア基板を完全に取り除くまで行ってもよいが、サンドブラスト法によるGaN層への損傷をなるべく避けるために10μm厚程度のサファイア基板を残しておくとよい。
【0183】以上のようにして反りが解除されたウエーハは、GaN成長面(ウェーハ表面)にて通常の研磨用重しに平らに張り付けることができ、サファイア基板、下地結晶層、選択成長用マスクを常法により研磨除去することができる。その結果、GaNエピタキシャル層のみからなるウェーハが得られる。実際には、選択成長用マスクが露出した時点からウエーハ全体の厚さをモニターしながらGaNエピタキシャル層に至るまで研磨を行った。
【0184】なお、このような研磨の際、選択成長マスクまで研磨せず、マスクが露出した時点で研磨を停止し、マスクをエッチングで取り除いてもよい。マスク材がSiO_(2)ならば希フッ酸ですぐに除去することができる。
【0185】また、後述するが、半導体レーザ等のデバイスの作製のためには、マスク近傍の領域は比較的転位密度が大きいため、この領域を含む層領域(以下「高転位密度層」という。)を上記研磨の際に除去することが好ましい。
【0186】また、GaNエピタキシャル層のみからなるウェーハの厚みとしては、200μm程度以上あれば、後に述べるその上へのDH構造の形成や各種デバイス作製プロセスに必要な十分な強度が得られる。
【0187】<青色半導体レーザの作製>次に、上記のようにして得られた1インチ直径のGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハを基板(以下「GaN基板」という。)として、半導体レーザ用DH構造形成のためのエピタキシャル成長を行い、青色半導体レーザを作製した一例を説明する。
【0188】DH構造は種々のプロセスで形成可能であるが、ここではGaAs基板やInP基板等の導電性基板の上に形成された半導体レーザの製造プロセスとほぼ同様のプロセスを用いることができる。
【0189】図16に、GaN基板上に形成したDH構造を有する半導体レーザの共振器断面より見た構造断面図を示す。GaN基板201側よりケイ素添加n型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層202(厚さ0.5μm)、ケイ素添加n型GaN光ガイド層203(厚さ0.1μm)、無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層(厚さ30A)と無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる7周期の多重量子井戸構造活性層204、マグネシウム添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nインジウム解離防止層205(厚さ200A)、マグネシウム添加p型GaN光ガイド層206(厚さ0.1μm)、マグネシウム添加p型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層207(厚さ0.5μm)、及びマグネシウム添加p型GaNコンタクト層208(厚さ0.2μm)を連続してMOCVD法によって形成した。DH構造の最上層には酸化珪素膜209を形成し、幅10μmのストライプ状の電流注入用窓を形成し、この上にニッケルと金からなるp型電極210を形成した。212はレーザ光出射領域である。次に、p型電極面で研磨用重しに貼りつけ、GaN基板を研磨し、劈開可能な厚さ(通常、60μm?100μm)に仕上げた後、チタンとアルミニウムからなるn型電極211を裏面に形成する。この後、劈開によって共振器面を形成し、隣り合う電流注入用窓の中間で切断すれば青色レーザ素子ペレットが完成する。最終的に出来上がったレーザのストライプ長すなわち共振器間隔長は250μmとした。
【0190】このような上記プロセスの利点は、裏面に電極を形成する直前に、劈開可能な厚さまでウエーハを研磨すればよく、上部電流狭窄用ストライプ構造の形成や表面への電極の形成が厚いウエーハ状態で実施できるメリットがある。
【0191】<レーザ特性>以上のようにして作製した半導体レーザを室温(約25℃)でパルス動作させ、閾値を測定した。得られたレーザの閾値電流は120mA(電流密度?4kA/cm^(2))前後の良好な値を示した。これに対して、選択成長用マスクなしにサファイア基板上に成長したGaNウエーハを基板として作製したレーザは、50mA程度高い値を示した。
【0192】この理由については、転位密度が減ったこと、とりわけA転位密度が大幅に減少したためと考えられる。GaN系では転位密度の高い結晶においても高い輝度の発光ダイオードが容易に得られることから、転位は少数キャリアの再結合センターとしての機能は小さいようである。しかし、半導体レーザでは閾値電流は十分に下がらない。半導体レーザはよく知られているように活性層中での導波光に対して光学的利得を得る条件が達成されなくてはならない。しかし、前記のようにA転位は結晶中の小傾角粒界の発生原因であり、この小傾角粒界においては光散乱が起こりやすい。すなわち、A転位密度の大きな結晶においては小傾角粒界での光散乱が原因で導波光に対する光学的利得が上がらないために閾値を下げることができなかったと解釈される。逆に言えば、本発明によればA転位密度を大幅に減少できたことで、本発明のウェーハ上に成長したDH構造活性層中での導波光の散乱が減少し、高い光学的利得を得たことにより閾値の減少が達成されたと考えられる。
【0193】さて、閾値測定を行ったレーザはいずれもウエーハの中央部1cm直径内から劈開したもので共振器となる劈開面に傷等のないものを選別したものである。しかし、ウエーハ間で閾値のバラツキに特徴があり、これが2つに分類できることが判明した。閾値のバラツキの少ないものをA群のウエーハ、閾値にややバラツキがあるものをB群のウエーハとして以下説明する。
【0194】A群のウエーハでは各ウエーハにおいて閾値のバラツキは10パーセント内外であり、かつ最も大きい閾値のものでもウエーハ内平均値の120パーセントを超えるものは見つからなかった。B群のウエーハにおいても閾値のバラツキはやはり10パーセント内外であることには変わりがないが、特徴はウエーハ内平均値の1.5倍以上のものが10ないし20個に1つ程度の割合で生じることである。
【0195】A群ウエーハとB群ウエーハの差違について詳しく調べたが出来上がったレーザに関して特別な差違は見られなかった。そこで、DH構造エピタキシャル成長後のウエーハについて断面構造を調べてみた。この結果、A群ウエーハではGaN基板ウエーハ全断面にわたって低転位層となっているのに対し、B群ウエーハではGaN基板ウエーハ裏面付近に高転位層が存在していることが解った。
【0196】高転位層がどのようにDHエピタキシャル層に影響し、さらにレーザ閾値に影響するかについては現状ではよく解らない。しかし、以下に述べる理由がその原因だと考えられる。すなわち、前記したようにGaN基板ウエーハに高転位層が存在した場合には、DH構造エピタキシャル成長や後のプロセスにおける高温加熱時に高転位層で転位が反応したり、高転位層でウエーハ面と水平に折れ曲がった刃状転位が再び、層厚に方向に折れ曲がってDH構造エピタキシャルに到達するためと考える。10ないし20個に1つの割合で閾値の大きなものがでる理由は図9からも予想されることであるがストライプ選択成長マスクの周期で転位密度の変化がGaN基板エピタキシャル層の高転位密度層を含む初期成長層には存在し、この周期変化に応じた特に高密度の領域から延びた転位群が電流狭窄用ストライプ活性層領域に到達した場合に生じると考えられる。
【0197】従って、製造歩留まりや特性検査工数を考えた場合には高転位密度層を完全に除去したGaN基板を用意してDH構造エピタキシャル成長を行うことが好ましい。すなわち、半導体レーザの作製に用いるGaN基板としては、サファイア基板、下地結晶層、マスク、マスク近傍の高転位密度層までをすべて取り除いたものが好ましい。ただし、レーザ構造の形成のためのエピタキシャル成長の際には、GaN基板に適度の厚みが要求されることを考慮することが必要である。
【0198】以上、サファイア基板上に成長したGaNウェーハを基板に用いて作製したレーザの特性について述べたが、サファイア基板上に成長する際にAlを添加したGaN、すなわちAlGaNウェーハを基板として作製したレーザについてもレーザ特性を調べた。この場合、レーザの閾値電流は20mA程度低減するものが得られた。この場合のAl_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層202の厚みは1.5μmとした。閾値電流の低減は、クラッド層202の厚膜化による光閉じ込め効果が原因と思われ、上部クラッド層207についても厚膜化すればさらに閾値電流や微分量子効率の改善が可能であると考えられる。
【0199】<成長表面の平坦化による閾値の再現性向上>半導体レーザのDH構造をエピタキシャル成長する場合にはGaN基板の表面状態について注意が必要である。注意する点はGaN基板の成長表面の平坦性で、成長表面が平坦でないとDH構造エピタキシャル層、特に活性層の平坦性が保持できない。活性層の平坦性の確保が重要なことは導波の点から考えれば明らかであるが、特に結晶学的に決まる劈開によって形成される共振器面と活性層面のなす角度が直角からズレることの方を危惧すべきである。この角度のズレがあると導波してきた光が共振器面で反射されてもどる場合に大きく損失し、しきい値を増大させるからである。この角度のズレの許容限界は1度を大きく下回ると考えられる。
【0200】一般に、GaN基板の成長表面は100μm以上の厚いエピタキシャル成長後の表面であり、多くは成長縞やうねりがみられる。そこで、サファイア基板を除去し、マスクと共にマスク近傍の高転位密度層を取り除いたGaN基板を研磨用重りからはがして裏表を張り替え、GaN基板の成長最上層を研磨して成長縞やうねりを取り除いてから、DH構造形成のためのエピタキシャル成長を行った。すなわち、ここでは、GaN基板の成長終了面を研磨して平滑化した表面を主面としてDH構造形成のためのエピタキシャル成長を行った。このようにして作製されたGaN基板をウエーハに用いて作製されたストライプレーザの閾値はバラツキが小さく良好なレーザ特性が得られた。
【0201】別の形態として、DH構造形成のためのエピタキシャル成長を、サファイア基板、下地結晶層、マスク、及びマスク近傍の高転位密度層を取り除いて形成されたGaN基板の裏面(サファイア基板が存在していた側の面)に行って半導体レーザを作製した。すなわち、III族元素窒化物半導体ウェーハの表裏の2つの主面のうち転位密度の比較的高い方の主面上に素子構造が形成された場合においても、得られた半導体レーザの閾値等のレーザ特性は同様に良好であった。この場合、成長面の成長縞やうねりを除去するための研磨工程が不要となる。なお、GaN基板の表面に成長した場合に較べて転位密度は若干高くなることが考えられるが、マスク近傍の高転位密度層を十分に除去すれば、閾値等のレーザ特性が良好な半導体レーザを作製することができる。
【0202】以上、半導体レーザのDH構造が平坦である場合について説明した。しかし、DH構造を有する半導体レーザの製造方法には、水平横モードの制御を行うために、DH構造の形成ためのエピタキシャル成長前に基板表面を加工して予め電流注入領域となる部分に溝を彫り込む等の技術がある。このような技術においても本発明のGaN基板等のIII族元素窒化物半導体ウェーハは問題なく適用可能である。
【0203】本発明のIII族元素窒化物半導体ウェーハは、電界効果トランジスタ等の電子輸送デバイスに適用しても、電子の移動度が改善されたり、電極等の製造歩留まりや信頼性が向上する等の効果が得られる。この電子の移動度の改善は、A転位がもたらす小傾角粒界での散乱が減ったためと考えられる。また、電極の信頼性の改善は、半導体レーザにもいえるが、転位が減少した結果、電極金属の転位線(特にA転位)に沿っての異常拡散が減少したためと考えられる。このように、本発明のウェーハは、高集積化された各種半導体装置に適用可能であり、III族元素窒化物半導体の応用分野の一つとして期待されている、自動車エンジン等の発熱装置の近くに搭載しても動作可能な高温動作-高性能半導体装置の実現にも大きく寄与するものである。
【0204】
【実施例】次に本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0205】(実施例1)本発明の実施例について図1を参照して説明する。本実施例では、基板として、(0001)面サファイア(Al_(2)O_(3))基板1上に膜厚1μmのGaN膜(下地結晶膜)2をあらかじめ形成した基板を用いた。この下地結晶膜の成長にはMOCVD装置を用いた。まずサファイアを450℃に加熱して、Ga原料のトリメチルガリウム(TMG:(CH_(3))_(3)Ga)とアンモニア(NH_(3))を供給して、400Åの厚さのGaNを成長した。その後、温度を1000℃に上昇させてGaNを成長させた。このGaN膜2表面にSiO_(2)膜を形成し、フォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状のマスク4を形成し、成長領域3を分離・形成した。成長領域3及びマスク4は、それぞれ幅5μm及び2μmのストライプ状とした。ストライプ方向は<11-20>方向とした((図1(a))。
【0206】成長領域3に成長するGaN結晶は、Ga原料にガリウム(Ga)と塩化水素(HCl)の反応生成物である塩化ガリウム(GaCl)とN原料にアンモニア(NH_(3))ガスを用いるハイドライドVPE法により成長させた。GaClは、金属GaとHClを800℃程度に保った反応管上流部で反応させて得た。基板を成長装置にセットし、水素雰囲気で成長温度1000℃に昇温する。成長温度が安定してから、HCl流量を20cc/毎分で供給し、NH_(3)流量1000cc/毎分で5分程度供給することで、成長領域3にGaN結晶の{1-101}面からなるファセットを成長させた(図1(b))。さらに、20分間程度エピタキシャル成長を続け、マスク4を覆うまでファセット6を発達させた(図1(c))。
【0207】エピタキシャル成長を続けることによりファセット構造を埋め込み(図1(d))、最終的には、5時間の成長で200μm程度の平坦な表面を有するGaN膜を形成させた(図1(e))。GaN結晶膜5を形成後、アンモニアガスを供給しながら、常温まで冷却し成長装置より取り出した。
【0208】本実施例によって形成されたGaN膜5には、サファイア基板1と格子定数や熱膨張係数が違うにもかかわらずクラックが入っていないことが確認された。しかも、厚膜成長を行ったGaN結晶膜には、欠陥が非常に少なく、転位密度は10^(7)/cm^(2)程度であった。なお、転位密度は、透過電子顕微鏡を用い、膜表面付近の平面観察によって計測した。
【0209】本実施例で成長したGaN結晶膜は欠陥が非常に少なく、この上にレーザ、FET、HBTなどの高品質なデバイス構造を成長することで、デバイス特性を向上させることが可能となる。
【0210】(実施例2)本実施例について図11を参照して説明する。図11は、本発明のGaN結晶膜上にGaN系半導体レーザを製造する方法を説明するための概略工程断面図である。
【0211】(0001)面のサファイア基板1上に、実施例1と同様にMOCVD法で膜厚1μmのGaN膜2を形成した。このGaN膜2上にSiO_(2)膜を形成し、実施例1と同様にフォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状のマスク4を形成し、成長領域3を分離・形成した。成長領域3及びマスク4は、それぞれ幅5μm及び2μmのストライプ状とした。ストライプ方向は<11-20>方向から10度傾けて形成した(図11(a))。
【0212】成長領域3に成長するGaN結晶は、上記の実施例1と同様にGa原料にガリウム(Ga)と塩化水素(HCl)の反応生成物である塩化ガリウム(GaCl)とN原料にアンモニア(NH_(3))ガスを用いるハイドライドVPE法を用いた。基板を成長装置にセットし、水素雰囲気で成長温度1000℃に昇温する。650℃の温度から基板をNH_(3)ガス雰囲気にする。成長温度が安定してから、HCl流量を40cc/毎分で供給し、NH_(3)流量1000cc/毎分、およびシラン(SiH_(4))流量0.01cc/毎分で150分間の成長で、実施例1で説明した図1の(a)から(e)の成長過程を経て、マスク4を埋め込んだ膜厚200μmのn型GaN結晶膜65を形成する(図11(b))。n型GaN結晶膜65を形成後、NH_(3)ガス雰囲気で常温まで冷却し、成長装置より取り出す。GaN結晶膜65は、1×10^(18)cm^(-3)以上のキャリア濃度であった。
【0213】次に、GaN系半導体レーザ構造の作製には、有機金属化学気相成長法(MOVPE)を用いて作製した。
【0214】GaN膜65を形成後、MOCVD装置にセットし、水素雰囲気で成長温度1050℃に昇温する。650℃の温度からNH_(3)ガス雰囲気にする。Siを添加した1μmの厚さのn型GaN層66、Siを添加した0.4μmの厚さのn型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層67、Siを添加した0.1μmの厚さのn型GaN光ガイド層68、2.5nmの厚さのアンドープIn_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と5nmの厚さのアンドープIn_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層69、マグネシウム(Mg)を添加した20nmの厚さのp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層70、Mgを添加した0.1μmの厚さのp型GaN光ガイド層71、Mgを添加した0.4μmの厚さのp型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層72、Mgを添加した0.5μmの厚さのp型GaNコンタクト層73を順次形成しレーザー構造を作製した。p型のGaNコンタクト層73を形成した後、HN_(3)ガス雰囲気で常温まで冷却し、成長装置から取り出した(図11(c))。2.5nmの厚さのアンドープIn_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と5nmの厚さのアンドープIn_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる多重量子井戸構造活性層69は、780℃の温度で形成した。
【0215】次に、レーザー構造が形成されたサファイア基板を研磨器にセットし、サファイア基板1、GaN膜2、SiO_(2)マスク4、及びGaN結晶膜65の50μmを研磨してGaN結晶膜65を露出させた。
【0216】露出したGaN結晶膜65面には、チタン(Ti)-アルミ(Al)のn型電極74を形成し、p型のGaN層73上にはニッケル(Ni)一金(Au)のp型電極75を形成した(図11(d))。
【0217】なお、本実施例では、サファイア基板1、GaN下地結晶膜2、SiO_(2)マスク4及びGaN結晶膜65の一部を研磨により除去してn型の電極を形成したが、研磨を行わずにドライエッチングによりn型GaN層66または65まで除去してn型電極を形成し、共振器ミラー面を形成してもよい。」

(ク)図5は、次のとおりの断面TEM写真であり、当該図5から、GaN結晶膜5中のマスク上領域の欠陥構造がみてとれる。


(ケ)図10は、次のとおりであり、当該図10から、甲3のエッチピット密度が1×10^(8)/cm^(2)以下であることがみてとれる。


イ 甲3発明
上記アの摘記事項(ア)ないし(ケ)を含む甲3の全記載からみて、甲3には、次の二つの発明が記載されていると認められる。
(ア)甲3の【0201】(「別の形態」について記載)を除く全記載からは、次のとおりの発明が把握される。

「ウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体、例えば、GaN系半導体発光素子の製造方法において、
格子定数や熱膨張係数が異なるサファイア基板上にGaN結晶膜のエピタキシャル成長を行うと、基板やエピタキシャル層に歪みや欠陥、転位が発生し、また、厚い膜を成長した場合にはクラックが発生し、デバイスとしての性能が極端に悪くなるという問題があったので、
サファイア基板上にエピタキシャル成長を行って形成されたものであっても、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくい、GaN結晶膜を提供するために、
サファイア基板上にMOCVD法で膜厚1μmの下地結晶膜としてのGaN膜を形成し、該GaN膜上にSiO_(2)膜を形成し、該SiO_(2)膜をフォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状に成形してマスクを形成し、該ストライプ状のマスク間の領域である成長領域上に、塩化ガリウム(GaCl)をGa原料とし、アンモニア(NH_(3))ガスをN原料として、ハイドライドVPE法によりGaN結晶をエピタキシャル成長させると、GaN結晶は、初期段階ではマスク上に成長せず前記成長領域のみで成長するため、前記成長領域上のGaN結晶には基板の面方位とは異なる面方位を有するファセットが出現し、エピタキシャル成長を続けると、GaN結晶はファセット面に対して垂直な方向に成長が進むため、前記成長領域だけでなくマスク上にも成長し、やがてマスクを覆うようになって隣接する成長領域のGaN結晶のファセットと接触し、さらにエピタキシャル成長を続けると、ファセットが埋め込まれ、平坦な表面を有するGaN結晶膜を得て、
得られたGaN結晶膜上に発光素子構造を形成した後にサファイア基板とマスクと前記GaN結晶膜の一部を除去する方法(以下『サファイア基板法』という。)、あるいは、GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得たGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハを基板として、該基板上に発光素子構造を形成する方法(以下『GaN基板法』という。)により作製するGaN系半導体発光素子の製造方法であって、
前記GaN結晶膜において、転位は、ファセットに向かって進み基板と垂直に伸びていたものが垂直な方向へ伸びることができなくなるためファセットの成長とともに横方向に曲げられ、そのほとんどは結晶の端に出てしまうか閉ループを形成するので、エピタキシャル膜の膜厚増加に伴い上部の成長領域では転位が減少していき、その結果、マスク近傍の比較的転位密度が大きい層領域である高転位密度層と、上層領域において、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層とを有するn型GaN結晶膜となり、
前記サファイア基板法は、例えば、キャリア濃度が1×10^(18)/cm^(-3)以上の前記n型GaN結晶膜が形成された基板をMOCVD装置にセットし、所定の温度、ガス流量、V族元素/III族元素比で、厚さ1μmのSi添加n型GaN層、厚さ0.4μmのSi添加n型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ2.5nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と厚さ5nmの無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.4μmのMg添加p型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、及び厚さ0.5μmのMg添加p型GaNコンタクト層を順次Ga面上に形成して発光素子構造を形成し、次に、該発光素子構造を形成したサファイア基板を研磨器にセットし、前記サファイア基板、前記下地結晶膜、前記マスク及び前記GaN結晶膜の一部を研磨してn型GaN結晶膜を露出させ、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面(N面)側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成し、p型GaNコンタクト層上にニッケルと金からなるp型電極を形成する工程を含み、
前記GaN基板法は、例えば、前記高転位密度層を除去し、全断面にわたって前記低転位密度層となっているGaN基板ウエーハを用い、MOCVD法によりGaN基板側から厚さ0.5μmのSi添加n型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ3nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる7周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nインジウム解離防止層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.5μmのMg添加p型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層、及び厚さ0.2μmのMg添加p型GaNコンタクト層を順次Ga面上に形成して発光素子構造を形成し、該発光素子構造の最上層にはSiO_(2)膜を形成し、幅10μmのストライプ状の電流注入用窓を形成し、この上にニッケルと金からなるp型電極を形成し、p型電極面で研磨用重しに貼りつけ、GaN基板の裏面(N面)を研磨し、通常、60μm?100μmの劈開可能な厚さに仕上げ、チタンとアルミニウムからなるn型電極を前記裏面に形成する工程を含む、
GaN系半導体発光素子の製造方法。」(以下「甲3第一発明」という。)

(イ)甲3の【0201】(「別の形態」について記載)及び関連する記載からは、次のとおりの発明が把握される。

「ウルツ鉱型結晶構造を有するIII族元素窒化物半導体、例えば、GaN系半導体発光素子の製造方法において、
格子定数や熱膨張係数が異なるサファイア基板上にGaN結晶膜のエピタキシャル成長を行うと、基板やエピタキシャル層に歪みや欠陥、転位が発生し、また、厚い膜を成長した場合にはクラックが発生し、デバイスとしての性能が極端に悪くなるという問題があったので、
サファイア基板上にエピタキシャル成長を行って形成されたものであっても、歪みや欠陥、転位が少なく、また厚い膜であってもクラックが入りにくい、GaN結晶膜を提供するために、
サファイア基板上にMOCVD法で膜厚1μmの下地結晶膜としてのGaN膜を形成し、該GaN膜上にSiO_(2)膜を形成し、該SiO_(2)膜をフォトリソグラフィー法とウエットエッチングでストライプ状に成形してマスクを形成し、該ストライプ状のマスク間の領域である成長領域上に、塩化ガリウム(GaCl)をGa原料とし、アンモニア(NH_(3))ガスをN原料として、ハイドライドVPE法によりGaN結晶をエピタキシャル成長させると、GaN結晶は、初期段階ではマスク上に成長せず前記成長領域のみで成長するため、前記成長領域上のGaN結晶には基板の面方位とは異なる面方位を有するファセットが出現し、エピタキシャル成長を続けると、GaN結晶はファセット面に対して垂直な方向に成長が進むため、前記成長領域だけでなくマスク上にも成長し、やがてマスクを覆うようになって隣接する成長領域のGaN結晶のファセットと接触し、さらにエピタキシャル成長を続けると、ファセットが埋め込まれ、平坦な表面を有するGaN結晶膜を得て、
GaN結晶膜を形成後、サファイア基板とマスクとGaN結晶膜の一部を除去して得たGaNエピタキシャル層のみからなるウェーハを基板として、該基板上に発光素子構造を形成する方法(以下「GaN基板法」という。)により作製するGaN系半導体発光素子の製造方法であって、
前記GaN結晶膜において、転位は、ファセットに向かって進み基板と垂直に伸びていたものが垂直な方向へ伸びることができなくなるためファセットの成長とともに横方向に曲げられ、そのほとんどは結晶の端に出てしまうか閉ループを形成するので、エピタキシャル膜の膜厚増加に伴い上部の成長領域では転位が減少していき、その結果、マスク近傍の比較的転位密度が大きい層領域である高転位密度層と、上層領域において、下地結晶中の刃状転位を引継ぎc面に対して平行な変位ベクトルを持つA転位と下地結晶中の混合転位を引継ぎc面に対して斜めに傾いた変位ベクトルを持つB転位を合わせた全転位の転位密度が好ましくは2×10^(8)/cm^(2)以下、より好ましくは1×10^(7)/cm^(2)以下の低転位密度層とを有するn型GaN結晶膜となり、
前記GaN基板法は、例えば、前記高転位密度層を除去し、全断面にわたって前記低転位密度層となっているGaN基板ウエーハを用い、MOCVD法によりDH構造形成のためのエピタキシャル成長を、サファイア基板、下地結晶層、マスク、及びマスク近傍の高転位密度層を取り除いて形成されたGaN基板の裏面(サファイア基板が存在していた側の面)に行って半導体レーザを作製し、該DH構造の最上層にはSiO_(2)膜を形成し、幅10μmのストライプ状の電流注入用窓を形成し、この上にニッケルと金からなるp型電極を形成し、p型電極面で研磨用重しに貼りつけ、GaN基板のGa面を研磨し、通常、60μm?100μmの劈開可能な厚さに仕上げ、チタンとアルミニウムからなるn型電極を前記Ga面に形成する工程を含む、
GaN系半導体発光素子の製造方法。」(以下「甲3第二発明」という。)

(3)甲4に記載された発明(以下、「甲4発明」という。)
ア 甲4の記載事項
請求人が挙げた甲4には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

「【0182】(実施の形態15)本実施の形態では、窒化物半導体レーザ素子を用いて、該素子の端面形成とチップ分割について説明する。まず、n型GaN基板600の製造方法について説明する。
【0183】図8は、種基板10、n型GaN基板600から構成されていて、n型GaN基板600は、低温バッファ層15、n型GaN膜20、誘電体膜30、塩素ドーピングされたn型GaN厚膜40から構成されている。
【0184】MOCVD法で種基板10上に低温バッファ層15を550℃で積層する。次に、1050℃の成長温度でSiをドーピングしながら、1μmからなるn型GaN膜20を作製する。
【0185】n型GaN膜20を作製後、MOCVD装置から、前記ウエハーを取りだし、スパッター法、CVD法もしくはEB蒸着法を用いて誘電体膜を100nm形成し、リソグラフィー技術で、前記誘電体膜30を周期的なストライプ状パターンに加工する。前記ストライプ形状は、n型GaN膜20に対して<1-100>方向にストライプを形成して、前記方向に対して垂直方向の<11-20>方向にストライプ幅5μm、ピッチ10μmの周期的ストライプ状パターンを形成した。
【0186】続いて、前記ストライプ形状に加工した誘電体膜30の付いたウエハーをHVPE装置中にセットし、成長温度1100℃、Si濃度3×10^(18)/cm^(3)、塩素濃度1×10^(17)/cm^(3)をドーピングしながら、350μmの塩素ドーピングされたn型GaN厚膜40を積層する。
【0187】上記製造方法によってn型GaN厚膜40を形成後、ウエハーをHVPE装置から取り出し、研磨機で前記種基板10を剥ぎ取り、n型GaN基板600を作製した。n型GaN基板600は、低温バッファ層15を含んでいても良いし、含んでいなくとも良い。同様に、n型GaN基板600は、誘電体膜30を含んでいても良いし、含んでいなくとも良い。また、窒化物半導体レーザ素子構造を作製後に、該種基板を削除してもよい。
・・・(略)・・・
【0191】次に、上記n型GaN基板600を用いて、窒化物半導体レーザ素子の製造方法について説明する。
【0192】図9は、窒化物半導体レーザ構造を示しており、n型GaN基板600、n型GaNバッファ層601、n型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層602、n型GaN光ガイド層603、活性層604、p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nキャリアブロック層605、p型GaN光ガイド層606、p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層607、p型GaNコンタクト層608から構成されている。
【0193】次に、MOCVD装置に、前記n型GaN基板600をセットし、1050℃の成長温度でn型GaNバッファ層601を1μm形成した。このn型GaNバッファ層601は、種基板10からn型GaN基板600を剥ぎ取るときに生じた、n型GaN基板600の表面歪みの緩和、表面モフォロジ-や表面凹凸の改善(平坦化)を目的に設けた層であり、無くても構わない。しかしながら、n型GaN厚膜40に塩素をドーピングしている場合は、表面モフォロジ-が悪化する傾向にあるため、本実施の形態のようにn型GaNバッファ層601を設けた方が好ましい。また、n型GaNバッファ層601は、n型Al_(x)Ga_(1-x)Nバッファ層(0<x≦0.3)であっても良い。
【0194】次に、1μmの厚さのn型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層602を成長する。さらに、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層603を成長する。n型GaN光ガイド層603成長後、基板の温度を700℃?800℃程度に下げ、複数の、厚さ4nmのIn_(0.15)Ga_(0.85)N井戸層と厚さ10nmのIn_(0.02)Ga_(0.98)N障壁層より構成される活性層604(多重量子井戸構造。本実施の形態の活性層は、3周期の障壁層と井戸層を形成し、その後、障壁層を成長している。)を成長する。その際、Siをドーピングしてもよいし、ドーピングしなくてもよい。次に、基板温度を再び1050℃まで昇温して、20nmの厚みのp型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nよりなるキャリアブロック層605を成長する。この際、Mgをドーピングしても良いし、ドーピングしなくても良い。また、該キャリアブロック層がなくても特に大きな支障は生じない。
【0195】その後、Mgをドーピングしながら0.1μmの厚さのp型GaN光ガイド層606を成長する。更に、Mgをドーピングしながら0.5μmの厚さのp型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nよりなるクラッド層607を成長する。最後に、Mgをドーピングしながら0.1μmの厚みのp型GaNよりなるコンタクト層608を成長した。
【0196】この様にして、結晶成長した後、MOCVD装置のリアクター内を全窒素キャリアガスとNH_(3)に変えて、60℃/分で温度を降下させた。基板温度が850℃に達した時点で、NH_(3)の供給量を停止して、5分間、前記基板温度で待機してから、室温まで降下させた。上記基板の保持温度は650℃から900℃の間が好ましく、待機時間は、3分以上15分以下が好ましかった。また、降下温度の到達速度は、30℃/分以上が好ましい。このようにして作製された成長膜をラマン測定によって評価した結果、前記手法により、従来、利用されているp型化アニールを行わなくとも、成長後すでにp型化の特性を示していた。また、p型電極形成によるコンタクト抵抗も低減していた。
【0197】SIMS(secondary ion mass spectroscopy)測定を行った結果、残留水素濃度がp型GaNコンタクト層608最表面近傍で3×10^(18)/cm^(3)以下であった。発明者らによる実験によると、成長膜を形成後、NH_(3)雰囲気中で基板温度を室温まで降下させたとき、残留水素濃度が成長膜最表面近傍で高かったことから、成長膜最表面近傍の残留水素濃度は、成長終了後のNH_(3)雰囲気が原因であると考えられる。この残留水素は、p型化不純物であるMgの活性化を妨げることが知られている。前記残留水素濃度は、5×10^(19)/cm^(3)以下が好ましい。
【0198】この様にp型GaNコンタクト層608成長後に、キャリアガスをN_(2)で置換し、NH_(3)の供給量を停止して所定の時間、成長温度を保持することによって、p型化を促し、成長膜最表面近傍の残留水素濃度を下げ、コンタクト抵抗を低減できた。また、p型電極形成によるコンタクト抵抗をさらに低減する方法として、成長膜最表面(p型層の最表面)近傍をエッチングにより除去し、その除去面にp型電極を形成すると良い。成長膜最表面(p型層の最表面)を除去する層厚は、10nm以上が好ましく、特に上限値はないが、除去面近傍の残留水素濃度が5×10^(19)/cm^(3)以下になることが好ましい。
【0199】本実施の形態の活性層604は、3周期からなる多重量子井戸構造を作製したが、その他の周期構造でも良く、井戸層のみの単一量子井戸構造でも良い。活性層はIn_(y)Ga_(1-y)N(0<y≦1)から構成されていれば良く、所望のレーザ発振波長に応じてIn組成を変化させればよい。
【0200】p型GaNコンタクト層608のp型不純物濃度は、p型電極の形成位置に向かって、p型不純物濃度を多くした方が好ましい。このことによりp型電極形成によるコンタクト抵抗が低減する。また、p型化不純物であるMgの活性化を妨げているp層中の残留水素を除去するために、p型層成長中に微量の酸素を混入させてもよい。
【0201】以下に、上記窒化物半導体レーザ素子を形成したウエハーのチップ分割について図10?図12を説明する。ここで、結晶成長側とは、基板側に対する反対側を指すものとする。
【0202】まず、上記ウエハーのGaN基板側を研磨機により研磨して、塩素ドーピングされたGaN基板の厚さを100μmにし、鏡面出しをする。次に、フッ酸もしくは熱燐酸を含む硫酸からなる混合溶液で、前記ウエハーをエッチング処理する。このエッチング処理は、研磨によって生じた表面歪み及び酸化膜を除去し、p型、n型電極のコンタクト抵抗の低減と電極剥離を防止するために行う。
【0203】次に、前記ウエハーの結晶成長面をリソグラフィー技術でマスク処理し、反応性イオンエッチング装置にセットする。ドライエッチングによって、p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層607をp型GaN光ガイド層606の手前まで掘り下げて、リッジストライプ構造を形成して(リッジ部620)、屈折率導波型レーザダイオードを作製する。このとき、第A1の割り溝612が<1-100>方向に沿って同時に形成される。リッジのストライプ方向は、窒化物半導体の<1-100>方向に形成した(図12(a))。
【0204】次に、SiO_(2)絶縁膜609を蒸着し、リッジ部620のp型GaNコンタクト層608の最表面を露出させ、該露出部分(2μm幅)を被覆するように、Pd(10nm)/Mo(10nm)/Au(150nm)を順に蒸着させてp型電極610をリソグラフィー技術でパターン形成する。前記p型電極610を形成した後、微量の酸素を導入しながら、450℃のN_(2)雰囲気中でアニールを行った。このことにより、p型電極形成によるコンタクト抵抗の低抵抗化が得られた。
【0205】次に、実施の形態2と同様に、結晶成長側の面に、反応性イオンエッチング法を用いて、割り溝の底部が窒化物半導体膜とGaN基板の界面位置よりも下方にくるように、深さ8μm、線幅10μm、ピッチ510μmの第A2の割り溝614を形成した(図12(a))。前記第A2の割り溝は、リッジストライプ方向と垂直方向の<11-20>方向に沿って形成する。
【0206】続いて、ウエハーを裏返しにして、GaN基板側に、Ti(15nm)/Al(150nm)によるn型電極611を、リソグラフィー技術でパターン形成する。パターン形成するのは、GaN基板側から第A1の割り溝612と、第A2の割り溝614の形成位置を確認するためである。
【0207】次に、結晶成長側の面に粘着シートを貼付し、スクライバーのテ-ブル上にGaN基板側を上にして張り付け、真空チャックで固定する。固定後、スクライバーのダイヤモンド針で第A1の割り溝612の線幅のほぼ中央が一致するように、深さ5μm、線幅5μm、ピッチ300μmの条件で、<1-100>方向に一回スクライブし、第B1の割り溝613を形成する(図12(b))。続いて、第B1の割り溝613と垂直方向(<11-20>方向)に、深さ5μm、線幅5μm、ピッチ510μmの条件で、一回スクライブし、第B2の割り溝615を形成する(図12(b))。
【0208】スクライブ後、真空チャックを解放し、ウエハーをテーブルから外し取り、ブレーキング装置で軽くGaN基板側から第B2の割り溝615に沿ってチップ分割し、エッチングによるレーザ素子のミラー端面を得る(図10)。続いて、第B1の割り溝613の方向に沿って上記同様に、チップ分割を行う(図11)。
【0209】このようにして、2インチφのウエハーからレーザ素子チップを多数得た。チップのミラー端面や切断面にクラック、チッピング等が発生しておらず、外形不良の無い物を取り出した所、歩留まりは95%以上であった。
【0210】本実施の形態で得られる効果は上述実施の形態と同様である。
【0211】レーザ素子のミラー端面をエッチングで形成する場合、本実施の形態のように、ミラー端面形成とチップ分割のための割り溝形成を同時に形成することができる。本実施の形態以外の、レーザ素子のチップ分割は、実施の形態1から実施の形態10の何れかを用いれば良い。また、本実施の形態では基板側から、n型層、発光層、p型層の順に結晶成長したが、逆にp型層、発光層、n型層の順に結晶成長させても良い。以上により、窒化物半導体レーザ素子のミラー端面形成とチップ分割が歩留まり良く得ることができる。」

イ 甲4発明
上記アの摘記事項を含む甲4の全記載からみて、甲4には、次の発明が記載されていると認められる。

「n型GaN基板を用いた窒化物半導体レーザ素子の製造方法であって、
MOCVD法で種基板上に低温バッファ層を550℃で積層し、次に、1050℃の成長温度でSiをドーピングしながら1μmからなるn型GaN膜を作製し、n型GaN膜を作製後、MOCVD装置から前記ウエハーを取りだし、スパッター法、CVD法もしくはEB蒸着法を用いて誘電体膜を100nm形成し、リソグラフィー技術で前記誘電体膜を周期的なストライプ状パターンに加工し、続いて、前記ストライプ形状に加工した誘電体膜の付いたウエハーをHVPE装置中にセットし、成長温度1100℃、Si濃度3×10^(18)/cm^(3)、塩素濃度1×10^(17)/cm^(3)をドーピングしながら、350μmの塩素ドーピングされたn型GaN厚膜を積層し、n型GaN厚膜を形成後、ウエハーをHVPE装置から取り出し、研磨機で前記種基板を剥ぎ取り、n型GaN基板を作製し、
MOCVD装置に、前記n型GaN基板をセットし、1050℃の成長温度でn型GaNバッファ層を1μm形成し、次に、1μmの厚さのn型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層を成長させ、さらに、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層を成長させ、n型GaN光ガイド層成長後、基板の温度を700℃?800℃程度に下げ、複数の、厚さ4nmのIn_(0.15)Ga_(0.85)N井戸層と厚さ10nmのIn_(0.02)Ga_(0.98)N障壁層より構成される活性層を成長させ、次に、基板温度を再び1050℃まで昇温して、20nmの厚みのp型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nよりなるキャリアブロック層を成長させ、その後、Mgをドーピングしながら0.1μmの厚さのp型GaN光ガイド層を成長させ、更に、Mgをドーピングしながら0.5μmの厚さのp型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nよりなるクラッド層を成長させ、最後に、Mgをドーピングしながら0.1μmの厚みのp型GaNよりなるコンタクト層を成長させることにより窒化物半導体レーザ素子を形成し、
前記窒化物半導体レーザ素子を形成したウエハーのGaN基板側を研磨機により研磨して、塩素ドーピングされたGaN基板の厚さを100μmにし、鏡面出しをし、次に、前記研磨によって生じた表面歪み及び酸化膜を除去してp型、n型電極のコンタクト抵抗の低減と電極剥離を防止するために、フッ酸もしくは熱燐酸を含む硫酸からなる混合溶液で前記ウエハーをエッチング処理し、ウエハーを裏返しにして、GaN基板側に、Ti(15nm)/Al(150nm)によるn型電極をリソグラフィー技術でパターン形成し、
次に、結晶成長側の面に粘着シートを貼付し、スクライバーのテーブル上にGaN基板側を上にして張り付け、真空チャックで固定し、その後、スクライバーのダイヤモンド針で第A1の割り溝の線幅のほぼ中央が一致するように、深さ5μm、線幅5μm、ピッチ300μmの条件で、<1-100>方向に一回スクライブし、第B1の割り溝を形成し、続いて、第B1の割り溝と垂直方向(<11-20>方向)に深さ5μm、線幅5μm、ピッチ510μmの条件で一回スクライブし、第B2の割り溝を形成し、スクライブ後、真空チャックを解放し、ウエハーをテーブルから外し取り、ブレーキング装置で軽くGaN基板側から第B2の割り溝に沿ってチップ分割し、エッチングによるレーザ素子のミラー端面を得る、
窒化物半導体レーザ素子の製造方法。」(以下「甲4発明」という。)

(4)本件併合通知前に提出されたその外の甲各号証(ただし、甲1ないし甲4、甲17、甲29、甲32、甲33、甲35、甲41、甲44、甲52ないし甲55を除く。)に記載された事項の概要

ア 甲5
裏面n電極をもった低転位n-GaN基板上に成長されたInGaN多重量子井戸(MQW)レーザダイオード(LD)が室温連続発振動作を示したことが記載されており、より具体的には、低圧(100torr)有機金属気相成長法(LP-MOVPE)により100μm厚FIELO基板の上にLD構造を成長したこと、LDの概略構造は、100μm厚n型GaN層、1μm厚n型Al_(0.07)Ga_(0.93)Nクラッド層、0.1μm厚n型GaN光導波層、InGaN・MQW層、20nm厚p型Al_(0.19)Ga_(0.81)Nキャップ層、0.1μm厚p型GaN光導波層、0.5μm厚p型Al_(0.07)Ga_(0.93)Nクラッド層と0.05μm厚p型GaNコンタクト層から成り、上記InGaN・MQW層が5nm厚SiドープIn_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層により区切られた3nm厚アンドープIn_(0.2)Ga_(0.8)N井戸層3ペアから構成されたこと、上記p型GaNコンタクト層の上にPd/Pt/Auからなるp型電極が蒸着され、n型GaN基板の裏面にTi/Alからなるn型電極が蒸着されたこと、通常の劈開手法でミラー端面を形成し、共振器長が440μmとなったこと、上記のように作成したInGaN・MQW・LDのレーザ特性を室温(20℃)でパルスとCW電流注入条件下で測定したこと、室温でCWとパルス電流注入条件下のコート端面あたりの注入電流の関数としての光出力(L-I)特性と電圧-電流(V-I)特性をFig.2とFig.3に示すこと、等が記載されている。
なお、甲43の2では、甲5のLD構造の記載及びFig.2のV-I特性に基づいてn電極のコンタクト抵抗を見積もったところ、約0.021Ωcm^(2)未満になった、としている。

イ 甲6
擬似バルクGaN基板の上で作られたエッジ終端のショットキー整流器は、接触電極面積に関して、そして、整流器の配置に解して逆方向降伏電圧が強く依存することを示し、小直径(75μm)のショットキー電極に対して、3mΩcm^(2)のON状態抵抗(RON)で、縦配置で測られるVBは?700Vであること(1555頁上方の要約)等が記載されている。

ウ 甲7
後で認定する。

エ 甲8
後で認定する。

オ 甲9
後で認定する。

カ 甲10
a面サファイア上に有機金属気相エピタキシャル成長法によって成長されたGaN膜に対する核形成層構造、転位密度と電気抵抗間の相関関係(タイトル)に関し、成長番号39、163、165、180のGaN膜試料の刃状転位密度(単位は×10^(9)/cm^(2))が順に5.2、1.0、3.9、1.4であり、抵抗(単位はΩcm)が順に10^(10)、1、10^(7)、1であったこと(TABLE 1)、それゆえ成長番号39と165から得られたGaN膜試料の(成長番号136、180のGaN膜試料に比して)より高い抵抗率は、刃状転位のより大きな密度に起因しているかも知れないこと(4324頁下から13行?下から11行)等が記載されている。

キ 甲11
撮像素子の製造方法(【発明の名称】)に関し、液層エピタキシャル成長(LPE)法又は気相エピタキシャル成長(VPE)法を適用することにより、CdZnTe基板上にHgCdTe結晶層を成長させ(【0009】)、リソグラフィ技術を適用することにより該HgCdTe結晶層のエッチングを行って画素分離領域及びチップ外枠領域に凸部を形成し(【0010】)、その後、全面が平坦になるように研磨すると前記凸部が存在していた箇所には研磨に起因するダメージ部分が生成され(【0011】)、該ダメージ部分においては転位密度が高くなるので、光励起されたキャリヤはダメージ部分でトラップされることになり、したがって、溝による画素分離と同じ機能を果たすことができること(【0012】)等が記載されている。

ク 甲12
後で認定する。

ケ 甲13
後で認定する。

コ 甲14
電子部品の製造方法(発明の名称)、特にCu基合金からなる基体にAuやAlを含むワイヤをボンディングして電子部品を製造するに際し、前記基体の添加元素が濃縮した基体表面層を研磨またはエッチング除去したのち前記ワイヤをボンディングするようにしたもの(2頁右上欄〔発明の概要〕)に関し、「この基体表面層の研磨あるいはエッチングによる除去は、その電子部品の機械的強度を損なわない程度に行われることはいうまでもない。またこの表面層の除去を機械的研磨によって行う場合、この研磨処理によって基体表面に転位網を生じせしめるので、Auワイヤをボンディングしたときの相互拡散の進行を高めることができる。この結果、そのボンディング強度を高めることが可能となる。」(2頁右下欄下から5行?3頁左上欄4行)等の記載がある。

サ 甲15
化合物半導体結晶の成長方法(【発明の名称】)に関し、Si基板上に一旦III-V族化合物半導体層を成長し、この単結晶III-V族化合物半導体層を研磨して研磨表面を得れば、ある程度平坦な表面が得られるが、研磨表面は研磨により結晶学的には乱れた表面であり、多数の転位を含むこと(【0019】、【0020】)等が記載されている。

シ 甲16
後で認定する。

ス 甲18
後で認定する。

セ 甲19
ATR用圧力管として使用されるZr-2.5Nb材平滑材において、刃状転位が集まってクラックを形成すること(9頁12行?16行、13頁6?7行、65頁の図39)等が記載されている。

ソ 甲20
W薄膜において、クラックの先端付近で密集した転位が存在していること(1268?1269頁「2.クラック近傍の転位」)等が記載されている。

タ 甲21
NaCl単結晶において、転位は、最初のき裂先端から発生しているものが多くみられること(84頁左欄下から10行?同頁右欄14行、85頁図2)等が記載されている。

チ 甲22
後で認定する。

ツ 甲23
半導体材料や磁気ヘッド材料の加工変質層は、外的な元素の作用による変質層、組織の変化による変質層、応力を中心に考えた変質層に分類でき、このうち組織の変化による変質層には、転位密度の上昇が含まれること(10頁左欄の表1)、組織的変化などによる変質層(結晶構造に関連、繊維構造に関連又は結晶ひずみ)の測定方法(測定に用いられている機器の例)に電気抵抗があること(10頁右欄の表2)等が記載されている。

テ 甲24
後で認定する。

ト 甲25
後で認定する。

ナ 甲26
後で認定する。

二 甲27
後で認定する。

ヌ 甲28
科学用語の辞典であり、見出し語「格子欠陥 〔lattice defect〕」の説明として、「結晶格子において、原子やイオンの規則正しい配列からの乱れを格子欠陥または結晶欠陥という。空孔や格子間原子、不純物のような点欠陥、転位のような線欠陥、外部表面のような面欠陥がある。」との記載があり(428頁)、また、見出し語「転位 〔dislocation〕」の説明として、「結晶中にある線状の結晶格子の乱れ。」等の記載がある(947頁)。

ネ 甲30
窒化物半導体基板は、一般に転位密度が低く、例えば、その転位密度は10^(7)cm^(-2)以下であること、したがって、窒化物系半導体基板を用いることにより、貫通転位密度の少ない(貫通転位密度が約3×10^(7)cm^(-2)以下)、結晶性のよい窒化物半導体発光素子を作成できること、擬似窒化物系半導体基板を用いる場合、他の結晶材料上に成長させられた窒化物半導体結晶膜の転位密度は10^(7)cm^(-2)以下であることが好ましいこと、貫通転位密度は透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができること(【0011】)、特に、As、P、Sbを含む発光層は、貫通転位密度が多いと発光効率が低下し、閾値電流値の増大に繋がるが、これは、貫通転位付近にAs、Pb、Sbが偏析してしまうために、発光層の結晶性が低下するためだと考えられ、窒化物半導体基板または擬似窒化物半導体基板を用いることにより、このような閾値電流値の増大を抑制し、発光層の結晶性の低下を抑えることができ、また、窒化物半導体基板は、へき開による良好な共振器端面をもたらすため、ミラー損失が小さく好ましく、さらに、窒化物半導体基板は熱伝導率が良く、放熱性に優れていること(【0012】)、MOCVD(有機金属気相成長法)装置に、n型GaN基板100をセットし、V族原料のNH_(3)(アンモニア)とIII族原料のTMGa(トリメチルガリウム)またはTEGa(トリエチルガリウム)を用いて、550℃の成長温度で低温GaNバッファ層101を100nm成長させ、次に、1050℃の成長温度で前記原料にSiH_(4)(シラン)を加え、n型GaN層102(Si不純物濃度1×10^(18)/cm^(3))を3μm形成し、その後、基板温度を800℃に下げ、Si不純物源としてSiH_(4)を添加しながら、P原料としてPH_(3)またはTBP(t-ブチルホスフィン)を添加して、厚さ4nmの単一量子井戸構造のGaN_(0.92)P_(0.08)発光層103を成長させたこと(【0072】)、素子構造を形成するための結晶面として、GaN基板のC面(0001)の他に、C面(000-1)、A面{11-20}、R面{1-102}、M面{1-100}、{1-101}面を用いても構わず、さらに、上記面方位から2度以内のオフ角度を有する基板面は、表面モフォロジーが良好であって好ましく、基板は窒化物半導体で構成されている基板であれば良く、特に、Al_(x)Ga_(y)In_(z)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)基板を使用することができ、また、基板中にSi、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、MgまたはBeがドーピングされていても構わず、n型窒化物半導体基板には、これらのドーピング元素のうち、Si、O、Clが特に好ましいこと(【0085】)等が記載されている。

ノ 甲31
後で認定する。

ハ 甲34
窒化物半導体を基板とし、その基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子(【請求項1】)であって、素子構造が積層される窒化物半導体基板主面の面方位は特に問わないが、M面で劈開できる主面を有する窒化物半導体基板を選択し、好ましくはC面、A面を主面とする窒化物半導体基板を用い(【0015】)、2インチφ、C面を主面とし、オリフラ面をA面とするサファイア基板上に、温度510℃でGaNよりなるバッファ層を150オングストロームと、温度1050℃でアンドープGaN層2を3μm成長させ、その上にストライプ方向をオリフラ面に対して垂直な方向としたストライプ状のフォトマスクを形成し、CVD装置によりストライプ幅10μm、ストライプ間隔(窓)6μmのSiO_(2)よりなる保護膜を0.1μmの膜厚で形成し(【0036】)、保護膜形成後、基板を反応容器内にセットし、温度を1050℃まで上昇させ、原料ガスにTMG、アンモニア、シランガスを用い、Siを1×10^(18)/cm^(3)ドープしたGaNよりなる窒化物半導体層を150μmの膜厚で成長させ(【0037】)、次にSiドープGaN基板を作製したウェーハを再度MOCVD装置の反応容器に移送し、レーザ素子構造となる窒化物半導体層を基板上に成長させ(【0039】)、p電極形成後、ウェーハのサファイア基板、バッファ層、GaN層、保護膜を研磨、除去し、SiドープGaN基板の表面を露出させ、そのGaN基板の表面全面に、Ti/Alよりなるn電極を0.5μmの膜厚で形成し、その上にヒートシンクとのメタライゼーション用にAu/Snよりなる薄膜を形成し(【0052】)、次に、n電極側からストライプリッジに対して垂直な位置、即ち、GaN基板のM面で基板を劈開し、活性層の端面M面に共振面を作製すること(【0053】)等が記載されている。

ヒ 甲36
自立GaN層中のディープセンター(タイトル)に関する論文であり、その「要約」の記載は次のとおりのものである(請求人作成の抄訳による。以下同じ。)。
「ハイドライド気相成長法(HVPE)によってAl_(2)O_(3)上に成長され、レーザー剥離された、厚さ?300μmの自立GaN層のGa及びN面両方におけるショットキーバリアダイオードが、キャパシタンス-電圧及びディープレベル過渡分光法(DLTS)測定により調査された。1/C^(2)対V分析から、Ni/Auショットキーコンタクトの障壁高さは、2つの極性面で異なることが決定された:Ga面は1.27eV、N面は0.75eVである。HVPE成長GaNを含む他のエピタキシャルGaNにおいて以前に観測された4つの共通のDLTSトラップに加えて、活性化エネルギーET=0.53eVの新しいトラップB'がGa面サンプルで見出された。また、N空孔に関係すると思われるトラップE1(ET=0.18eV)がN面サンプルにおいて見出され、トラップC(ET=0.35eV)がGa面サンプルにおいて見出された。トラップCは反応性イオンエッチングダメージにより生じたものであるかもしれない。」
また、2178頁左欄下から10行?同頁右欄7行には次のとおり記載されている。
「本論文で用いたGaN層は、おおよそ300μmの厚みで成長され、レーザー溶融法によりAl_(2)O_(3)基板から分離された。上(Ga)面は機械的に研磨され、そして研磨ダメージがCl_(2)系反応性イオンエッチング(RIE)法によって部分的に除去された。Al_(2)O_(3)基板に隣接していた下(N)面は、Al_(2)O_(3)上に成長したすべてのHVPE層に現れる薄い高劣化領域を初めは含んでいる。そして、そのショットキーバリアダイオード(SBD)が非常にリーキーで使用できなくならないように、ショットキーバリアの積層の前に、材料の約30μmが機械研磨及び湿式化学エッチングにより除去される。その層を2つの片に切断した後、それぞれ直径250μmのNi/Auショットキーバリアが、一方の片のGa面に、そして他方の片のN面に、形成された。そして、Ti/Al/Ti/Auオーミックコンタクトが、各片のそれぞれ反対側の面に形成された。」

フ 甲37
後で認定する。

へ 甲38
後で認定する。

ホ 甲39
後で認定する。

マ 甲40
後で認定する。

ミ 甲42
ホモエピタキシャルGaN層のドーピング(タイトル)に関し、高圧で成長されたGaNの導電性の単結晶の上に、酸素(意図しないで)、シリコンおよびマグネシウムが不純物添加された窒化ガリウムが有機金属化学気相成長によって成長され、その層は、X線回折、フォトルミネセンスと遠赤外反射率を使って調べられ、シリコンの取り込みが堆積のために使われる面に依存することが判明し、同じ成長で成長された2枚のSi不純物添加された層に対して、(00.1)面(ガリウム終端)上に成長されたものは、(00.1)面(窒素終端)に対して、常により小さな自由電子濃度を持ち、この結論は、自由電子による格子の拡大、バースタイン-モス効果によるフォトルミネセンス・ピーク・シフトと遠赤外反射率におけるプラズマ端の位置から導出されることができたこと(要約)、実験では、GaN基板が、15×108Paの圧力と1800Kの温度でガリウム液滴中への窒素溶解という自己種付けプロセスによって成長され、 結晶は40から60mm2の寸法で、良い結晶品質(20?50arcsecのX線回折ロッキングカーブ)であり、それらは高い電気伝導性(n?10^(19)cm^(-3))であり、(00.1)N面(化学的に活性な)は、原子的に滑らかで欠陥のない表面を得るために、KOHの水溶液中で化学的機械的に研磨され、(00.1)面(不活性な面)は機械的に研磨され、そして、研磨に起因する損傷を取り除くためにCl_(2)+Ar+CH_(4)を用いた反応性イオンエッチングによりエッチングしたこと(438頁6行?13行)等が記載されている。

ム 甲43の1
請求人日亜化学工業株式会社総合部門法知本部主幹技師丸谷幸利作成の報告書であり、甲31の段落【0027】、【0028】、【0037】の記載及び図2に基づいてn電極のコンタクト抵抗を見積もったところ、(0001)面および(000-1)面にn電極を形成した場合いずれも約0.001Ωcm2未満であった、としている(1頁「1.結論」参照。)。

メ 甲43の2
請求人日亜化学工業株式会社総合部門法知本部主幹技師丸谷幸利作成の報告書であり、甲5のLD構造の記載及びFig.2のV-I特性に基づいてn電極のコンタクト抵抗を見積もったところ、約0.021Ωcm^(2)未満になった、としている(1頁「1.結論」参照。)。

モ 甲45
一般財団法人材料科学技術振興財団分析評価部作成の請求人日亜化学工業株式会社総合部門法知本部知財部知財戦略課岩浅勇人宛の分析結果報告書であり、GaN基板表面部分の断面TEM観察を行い、表面から10nm程度の領域に欠陥と考えられるコントラストを観察したことが記載されている(2頁「3.結果」参照。)。

ヤ 甲46
ウェブサイト「コトバンク」で「接触抵抗」を検索した結果をプリントアウトしたものであり、「デジタル大辞泉の解説」として、「せっしょくていこう〔-テイカウ〕【接触抵抗】」の見出し語と、「二つの導体を接触させたとき、その面に生じる電気抵抗。」との解説が記載されている。また、「大辞林 第三版の解説」として、「せっしょくていこう【接触抵抗】」の見出し語と、「二つの物質を接触させて電流を流すとき、その界面近傍に存在する電気抵抗。面の状態、面に加わる圧力、電流の大きさなどさまざまな要素に依存し、非線形なことが多い。」との解説が記載されている。

ユ 甲47
後で認定する。

ヨ 甲48
先端電子材料の事典であり、見出し語「オーミックコンタクト〔ohmic contact〕」の説明中に、「(マル3)(審決注:原文の丸付き数字の「3」をこのように表記する。以下同じ。)障壁厚さを薄くしてトンネル電流を増やす、などをすれば、オーミック特性が得られる。実用的には、半導体側に高濃度ドープ層を形成して(マル3)の効果を主に使い・・・」、「オーミックコンタクトのコンタクト抵抗は、接触の単位面積当たりに換算した固有接触抵抗(specific contact resistance,単位:Ω・cm^(2))で表現されることが多い。」等の記載があり(194頁)、また、見出し語「伝送線路法〔transmission-line-model technique〕」の説明として、「オーム性電極(⇒オーミックコンタクト)の良否は固有接触抵抗(specific contact resistance)によって評価される。固有接触抵抗ρcは、面積Aの電極の接触抵抗がR_(c)のとき、ρ_(c)=R_(c)Aで定義される量である。したがって、単位は[Ω・cm^(2)]である。伝送線路モデル(transmission line model、TLM)にもとづく接触抵抗の評価法は、薄膜状の試料に対して特に有効である。バルク状の材料が入手可能であれば、棒状に切り出してその両端面に電極を付けたものを試料とすればよい。このときの全抵抗は、電極による抵抗の2倍と材料の比抵抗で決まる抵抗の和となるので、試料棒の長さ依存性から簡単に固有接触抵抗の値を求めることができる。薄膜状の試料の同一面に電極を形成する、いわゆるプレーナー構造・・・の場合には、電極から流れ出る電流の流線分布が単純ではないため、接触抵抗には、電極界面における固有接触抵抗に、流線が広がることに起因する広がり抵抗(spreading resistance、⇒広がり抵抗法)が加わる。これを解析するために電極部分を・・・固有接触抵抗の部分を並列コンダクタンス(dG=w/ρ_(c))、材料自身を直列抵抗(dR=R_(s)/w、ここでR_(s)は面低効率)として、これらが分布した伝送線路とみなす方法がTLM法である。このとき、接触抵抗R_(c)はv(d)/j(d)で与えられる。実験的に固有接触抵抗を求めるためには、・・・同一の形状をもつ電極を3個形成する。この中からまず2組を選びそれぞれの抵抗を測定する(R_(1)=V_(12)/I_(12),R_(2)=V_(23)/I_(23))。電極間の距離が違いからバルク領域の抵抗がキャンセルできて接触抵抗が得られる(R_(c)=(R_(2)l_(1)-R_(1)l_(2))/2(l_(1)-l_(2)))。一方、電極間12に電流を流したときに電極間23に現れる電圧との比(R_(e)=V_(23)/I_(12))を電極端抵抗と呼ぶ。R_(c)とR_(e)はともにTLM法によって理論的に求めることができ、固有接触抵抗は以下の式を使って決定できる。ρ_(c)=(R_(c)^(2)-R_(e)^(2))wd/cosh-1(R_(c)/R_(e))」との記載がある(654頁?655頁)。

ラ 甲49
オーム接触は、ショットキー障壁における障壁の高さを下げるか、厚さを薄くすること、及び半導体側のキャリヤ再結合速度を増大することで実現でき、障壁の高さは金属の仕事関数の選択で、また障壁の厚さは半導体側のキャリヤ濃度を変えることで変更でき、再結合速度の増大は半導体表面を粗面化することで実現でき、特に、半導体側の不純物濃度を10^(18)cm^(-3)以上にすれば、ほとんどの金属ではオーム接触となるが、これは障壁の厚さが薄くなり、ここを流れる電流成分がトンネル効果によるものが支配的となることによるものであること(290頁8行?15行)、オーム接触の良さを表すひとつの量は接触抵抗であること(同頁20行?21行)等が記載されている。

リ 甲50
表面ピンニングのある化合物半導体においてはオーミック電極を作成することが技術的に困難となり、このような材料でオーミック(接合)を得るためには、(マル1)空乏層幅を小さくする→電子をトンネルさせやすくする、(マル2)障壁高さを下げる→熱的に分布する電子が障壁を越えやすくする、ことが有効な方法であり、表面付近の不純物濃度を高めれば、空乏層幅が狭くなるばかりでなく、半導体側の電子にとって金属側に見える正の鏡像電荷によってショットキー障壁が低下し、これによってオーミック接合が得やすくなり、また、空乏層幅が100Å程度になるとトンネル接合が得られるので、表面ピンニングが0.8Vであれば、ドナー濃度1×10^(19)cm^(-3)以上が必要となること(25頁7行?17行)等が記載されている。

ル 甲51
「窒化物半導体及びデバイス」と題された章に以下の記載がある。
「6.2 金属-半導体接合における電流の流れ
欠陥が含まれなければ、金属-半導体系には電流の流れを支配するメカニズムが3つある。
(1)熱電子放出(TE)-適度にドープされた半導体、N_(d)<?10^(17)cm^(-3)、において、空乏領域は比較的広い。この理想図において考慮されていない欠陥によって援助されない限り、障壁をトンネルするのはほぼ不可能である。しかし、電子は、コンタクトのために小さくあるべきである障壁の頂上を熱電子放出によって越えることができる(図6.5(a))。一方で、低ドープまたは高障壁の半導体においては、大多数の電子がいずれの方向にも半導体中へ横断することはできないであろう;よって、オーミック挙動はみられない。
(2)熱電界放出(TFE)-中間的にドープされた半導体、?10^(17 )<N_(d)<?10^(18)[cm^(-3)]、において、空乏領域は、おおよそ平衡状態にあるキャリアの直接のトンネルを許すほど十分な薄さではない。しかし、キャリアが少しのエネルギーを獲得すれば、キャリアはトンネルすることができるだろう。したがって、熱電子放出とトンネルの両方が行われる。
(3)電界放出(FE)-多量にドープされた半導体、N_(d)>?10^(18)cm^(-3)、において、空乏領域は狭く、金属から半導体への直接の電子のトンネルが許される(図6.5(c))。金属と半導体の仕事関数の間に良好な合致がないときには(一般的にそうであるが)、これがオーミック接触を追求するための最良のアプローチである。」(196頁1行?197頁7行)
「n型半導体における、(a)熱電子放出、(b)熱電界放出、(c)トンネルするメカニズムの模式的な描写」(196頁図6.5の説明)

レ 甲56
後で認定する。

ロ 甲57
後で認定する。

ワ 甲58
46頁10行?20行に次の記載がある。
「2・3・4 等厚縞および湾曲縞
二波回折条件下で、試料に入射された電子線の強度は進入に従って透過波と回折波に分かれて試料中を進入していく。くさび形結晶試料の場合について、透過波の強度I0および回折波の強度Igを結晶厚みtに対して作図すると、図2.16の実線および点線のようになる。これは、電子線が試料を透過する際、ある深さまでは、回折によって回折波の強度が増加するが、一方、透過波の強度は減少すること、また、ある深さ以上では逆に回折波の強度が減少し、透過波の強度が増加することを意味する。すなわち、入射された電子線の強度は透過電子波と回折電子波との間でうなりを生じる。その結果として、(b)におけるように、位置A、Bにおいて、明視野像では明るい(暗視野像では暗い)コントラストを得る。(b)に示す明暗の縞は等厚縞と呼ばれる。」
また、47頁下から2行?下から1行に次の記載がある。
「通常用いられる試料は極めて薄いために試料が平坦ではなく湾曲していることが多々ある。そのときに生じる縞のことを湾曲縞という。」
また、48頁5行?11行に次の記載がある。
「2・3・5 格子欠陥の同定
格子欠陥には、点欠陥として原子空孔や格子間原子、線欠陥として転位、面欠陥として積層欠陥がある。このうち、TEMで通常観察できる格子欠陥は、転位と積層欠陥である。これら格子欠陥の観察および解析には一般に、二波条件下での明視野法および暗視野法を用いる。ここでは、格子欠陥の型をどのようにして決定するか、すなわち、転位のバーガースペクトルの決定法および積層欠陥の変位ベクトルの決定法などについて説明する。」
さらに、55頁に図2.25が掲載されており、その説明として「高い転位密度を有する試料の(a)二波条件下での明視野像と、(b)ウィークビーム暗視野像 後者では転位部が回折条件を満たすように試料をわずかに傾斜した。」との記載がある。

ヲ 甲59
後で認定する。

(5)本件併合通知後に提出されたその外の各甲号証(ただし、甲60、甲61、甲64を除く。)に記載された事項の概要
ア 甲62
「電極金属は酸化の心配のない金(Au)が用いられ、金の薄膜をコンタクト層表面に真空蒸着により貼り付けます。次はウェハ裏側面にn型電極を付ける工程に移るのですが、そのまえにウエハを研磨し、厚さを100μm程度にしておきます。これは基板が厚いままだと次の第3工程で、へき開やペレタイズができなくなるため、薄くして割りやすくする準備を整えるのです。研磨後表面をエッチングできれいに整え、やはり金の薄膜を真空蒸着で貼り付けて(n側電極)電極プロセスを終了します。」(115頁16?21行)、
「●ラッピング
…なお、基板はこのままでは厚すぎて、へき開できません。そこでまず、石を磨くようなラッピング(研磨)の手法によって基板側を削り、ウェハ厚さを約100μmにします[(2)図]。
なお、ラッピング後の表面は非常にざらざらしていて表面状態が悪いので、全面を硫酸などのエッチング液で数μmさらにエッチングします。こうすることで表面が非常にきれいになるので、そのあとで裏面側の電極を蒸着するわけです。」(121頁下から9?末行)

イ 甲63
「基板の化学エッチングする厚さは、研磨剤の粒径によっても多少異なるが、機械歪みを除去する厚さ以上の100?150μm程度が望ましく、…」(3頁左下欄9?11行)

3 対比・判断
(1)無効理由5
事案にかんがみ、無効理由5から判断する。なお、以下、相違点を特定するために付した番号は、これまでの経緯にかんがみ、第2事件について平成27年5月26日にした審決で用いた番号と同様とする。

ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「n型GaN基板」、「『n型GaNバッファ層』、『n型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層』、『n型GaN光ガイド層』、『In_(0.15)Ga_(0.85)N井戸層』と『In_(0.02)Ga_(0.98)N障壁層より構成される活性層』、『p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nよりなるキャリアブロック層』、『p型GaN光ガイド層』、『p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nよりなるクラッド層』及び『p型GaNよりなるコンタクト層』」、「窒化物半導体レーザ素子を形成したウエハーのGaN基板側」、「研磨」、「GaN基板の厚さを100μmにし」、「n型電極」及び「窒化物半導体レーザ素子の製造方法」は、それぞれ本件訂正発明1の「n型の窒化物系半導体層及び窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層」、「活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層」、「第1半導体層の裏面」、「研磨」、「厚み加工」、「n側電極」及び「窒化物系半導体素子の製造方法」に相当する。

(イ)甲4発明において、MOCVD装置に、「n型の窒化物系半導体層及び窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層(n型GaN基板)」をセットし、「活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層(『n型GaNバッファ層』、『n型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層』、『n型GaN光ガイド層』、『In_(0.15)Ga_(0.85)N井戸層』と『In_(0.02)Ga_(0.98)N障壁層より構成される活性層』、『p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nよりなるキャリアブロック層』、『p型GaN光ガイド層』、『p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nよりなるクラッド層』及び『p型GaNよりなるコンタクト層』)」を成長させているから、甲4発明の「窒化物系半導体素子の製造方法(窒化物半導体レーザ素子の製造方法)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子の製造方法」とは、少なくとも、「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程」を備えている点で一致する。

(ウ)甲4発明において、「第1半導体層の裏面(窒化物半導体レーザ素子を形成したウエハーのGaN基板側)」を研磨機により「研磨(研磨)」して、「厚み加工(GaN基板の厚さを100μmにし)」しているから、甲4発明の「窒化物系半導体素子の製造方法(窒化物半導体レーザ素子の製造方法)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子の製造方法」とは、少なくとも、「前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程」を備えている点で一致する。

(エ)甲4発明において、フッ酸もしくは熱燐酸を含む硫酸からなる混合溶液でエッチング処理することにより、「第1半導体層の裏面(窒化物半導体レーザ素子を形成したウエハーのGaN基板側)」の「研磨(研磨)」によって生じた表面歪み及び酸化膜を除去し、「第1半導体層の裏面」に、Ti(15nm)/Al(150nm)による「n側電極(n型電極)」をリソグラフィー技術でパターン形成しているから、甲4発明の「窒化物系半導体素子の製造方法(窒化物半導体レーザ素子の製造方法)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子の製造方法」とは、少なくとも、「前記第1工程及び前記第2工程の後、前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去する第3工程」と「その後、前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程」を備えている点で一致する。

(オ)上記(ア)?(エ)からみて、本件訂正発明1と甲4発明とは、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去する第3工程と、
その後、前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備えた窒化物系半導体素子の製造方法。」で一致し、次の点において相違する。

相違点9:
「同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位」について、
本件訂正発明1では、「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」であるとされるのに対し、
甲4発明では、「前記第1半導体層の裏面に」「転位」が「発生している」か否かを含めて不明であり(以下、ここまでの部分を「相違点9-1」ということがある。)、
しかも、「前記第1工程及び前記第2工程の後、前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去する第3工程」について、
本件訂正発明1では、「領域」が研磨により発生した転位を含み、「裏面近傍の領域」を「除去」する量が「0.5μm以上」であり、「裏面近傍の領域」を「除去」した「第1半導体層の裏面」の「転位密度」が1×10^(9)cm^(-2)以下とされるのに対し、
甲4発明では、「領域」が研磨により発生した転位を含むかどうかも、「裏面近傍の領域」を「除去」する量も、「裏面近傍の領域」を「除去」した「第1半導体層の裏面」の「転位密度」が1×10^(9)cm^(-2)以下であるかどうかも明らかでない(以下、相違点9-1以外の相違点9の部分を「相違点9-2」ということがある。)、点

相違点10:
前記「第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗」が、
本件訂正発明1では、0.05Ωcm^(2)以下とされるのに対し、
甲4発明では、0.05Ωcm^(2)以下であるかどうかが明らかでない点

(カ)相違点9について
a 加工変質層と転位
(a)各文献の記載
下記文献には,次の記載が認められる。
(a-1)甲7
「2.金属の加工変質層
2・1 金属の加工変質層の種類 現在加工変質層として知られているもののうち主要のものをつぎにあげる。
・・・
(II)組織の変化による変質
・・・,(3) 転位密度の上昇,・・・」(15頁左欄17?26行目)
「3. 半導体の加工変質層と表面物性
3・1 概論 電子機器材料として用いられるSi,Geなどの半導体は高純度と結晶の完全性とが要求される上にその性質が格子欠陥・結晶構造などによって敏感に影響されるいわゆる"構造敏感"な材料であるので,加工変質層が存在すれば,その電気特性に大きな影響を及ぼすことは当然である。このような研究の大部分は半導体研究の初期においておこなわれ,加工変質層が有害であることが判明した後は,エッチングによって除去すること,または加工変質層を生じない加工法を検討することに主力がむけられ,加工変質層の影響に関する研究はほとんど行われていないようである。」(19頁左欄3?15行目)
「5. その他の材料の加工変質層と表面物性
すべての材料は加工されれば加工変質層が生じ,なんらかの形で物性に影響を及ぼしているはずである。」(22頁右欄7?9行目)

(a-2)甲8
「1.3 加工変質層
1.3.1 緒言
固体を工業上の目的に使用するためには,その材料に対してなんらかの加工をほどこさなければならない。・・・加工のとき作用する力,発生する熱,外気の作用,新生面効果などによって材料はなんらかの変化をうけ,表面には内部とは違った層を形成する。このような層を加工変質層とよんでいる。最近において,加工変質層の研究は半導体を中心にして飛躍的な進歩がみられた。半導体材料には単結晶が多いので,これらの結果は半導体製品の性質の向上に対して重要である・・・。
加工変質層の分類について筆者は次のように考えている。
・・・
(II)組織の変化による変質
・・・
(3) 転位密度の上昇」(69頁2?21行目)
「1.3.2 加工変質層の測定法
・・・
(7) 転位密度 透過型電子顕微鏡
・・・ 」(70頁)
「1.3.11 半導体材料の加工変質層
(a) まえがき 最近,電子機器材料として使用される半導体はたとえばGe,Si,GaAs,GaSb,InAs,InSb,LiTaO_(3),LiNbO_(3),TeO_(2),各種フェライトなど多岐にわたり,これらの材料の加工機構の究明・製品の性能向上などをはかるために加工変質層の研究が必要である。」(96頁5?9行目)

(a-3)松永正久外3名編,「エレクトロニクス用結晶材料の精密加工技術」,株式会社サイエンスフォーラム,昭和60年1月30日,577?584頁(甲18)
「2. 加工変質層とその検出方法
・・・
ここでは単結晶を対象とした機械加工を考えてみる。
・・・
以上を種々のこれまでの観察や実験結果を総合しモデル図化すると図-3のようになる。完全結晶をベースにして考えたが,非晶質や多結晶についてもそれぞれ同様なモデルをもとに考えればよいであろう。」(578頁右欄17行?579頁左欄3行目)


(a-4)河東田隆編著,「半導体評価技術」,産業図書株式会社,1989年2月28日,8?9頁,18?21頁,38?43頁,72?73頁,98?105頁,142?147頁(甲47・56)
「ウエハに加工された結晶表面は,加工中の機械的損傷汚染を受けている。・・・ウエハ表面,裏面の機械的損傷によって生じた転位などの結晶欠陥は,たび重なる熱処理プロセスによって増殖,移動することにより,ウエハに複雑なそりを引き起こす。このため,できるだけ初期段階に機械的損傷,転位を評価して,その除去を図る必要がある。」(9頁1?6行目)
「4.4.2 電極形成の手順
典型的なオーム性接触の形成の手順を・・・示す。まず機械的損傷層を除去するために,化学エッチングを行う(基板の前処理)。・・・
つぎに真空蒸着法などによってオーム性電極金属を半導体上に堆積させる。」(143頁下2行?146頁8行目)

(a-5)甲22
「・・・機械的な表面研磨法はマイクロクラックの進展等を利用するものであり,CVD-SiC膜表面に凹凸を形成している結晶を削り取るための物理的な衝撃(以下「物理的加工力」という)により,鏡面加工面及びその直下部分における原子配列が著しく乱れて,加工歪みや結晶内転位等を伴ういわゆる加工変質層を形成することを確認した。」(【0008】)

(a-6)甲57
「加工変質層には大きく分けてクラック,アモルファス,転位,鏡面ウェーハの表面層の乱れがある。」(73頁下から6?5行目)

(a-7)甲24
「ブロック切断,外径研削,スライシング,ラッピングの機械加工プロセスを経たシリコンウエーハは表面にダメージ層すなわち加工変質層を有している。加工変質層はデバイス製造プロセスにおいてスリップ転位などの結晶欠陥を誘発したり,ウエーハの機械的強度を低下させ,また電気的特性に悪影響を及ぼすので完全に除去しなければならない。機械加工プロセスを経た単結晶表面に導入される加工変質層は,図3.10に模式的に示されるように,非晶質層,多結晶層,モザイク層,クラック層,そして歪み層を含むと考えられる。加工変質層の深さは加工条件によって異なる。」(111頁2?8行目)
「機械加工プロセスでシリコンウエーハに導入された加工変質層は化学エッチング・・・によって完全に除去される。」(111頁下から2?1行目)

(a-8)甲25
「ICカードやスタックドパッケージに代表される薄型パッケージにおいては,基板等の周辺部材の厚みを薄くすると同時に,シリコンウエハ自体の厚みも薄くする必要がある。このようなウエハの薄型化においては,機械的な研削加工でウエハ厚みを100μmもしくはそれ以下まで薄くしなければならない。
ウエハの薄型加工は主にウエハを機械的に研削する『グラインディング工程』と,グラインディング時にウエハに導入されたマイクロクラック等を含むストレス層(加工変質層)を除去する『ストレスリリーフ工程』から成っている。この加工変質層はウエハの反りやクラック発生の原因となるため,グラインディング処理後にはストレスリリーフ処理により完全に除去されなくてはならない。」(87頁左欄2?15行目)

(a-9)甲16
「 ・・・六角形の板状形状のGaN結晶は,本発明で説明される方法で準備される。・・・最初に,表面は,ダイヤモンド・マイクロパウダーを使って機械的に研磨され・・・る。・・・その研磨は,数ミクロン厚の,高い転位密度である高結晶欠陥の隣接層を生成する。」(訳文2頁下6行?3頁2行目)

(a-10)特開2000-252217号公報(甲26)
「 ・・・完全な表面を有するGaN単結晶基板1を研磨工程によって創出することは大変難しい。なぜならば,研磨時に基板表面にダメージが導入されるからである。このダメージを含む加工変質層はデバイスの特性に悪影響を与える。」(【0044】)

(a-11)甲27
GaNを研磨したことによって発生したダメージ層のTEM(透過電子顕微鏡)写真が掲載されており、ダメージ層として黒い線状の結晶欠陥が写っている(L14左の写真)。


(a-12)甲31
「・・・GaN単結晶膜の表面を数10μm程度ラッピングし,結晶成長工程により生じたGaN単結晶膜の厚み不均一を除去した。まず,・・・サファイア基板20を削って,・・・,ひき続いて,・・・GaN単結晶膜を削っていった。GaN単結晶膜を50μm程度以上,望ましくは100μm程度以上削り込むことにより,機械加工歪みがほぼ除去され,また,結晶成長初期時の結晶欠陥の多い領域を取り除くことができる。それから,さらに粒径の細かいダイヤモンドスラリーを用いたポリシング加工により,スクラッチ傷を除き,表面を鏡面にした。」(【0020】)
「その後,加工にともなう欠陥を取り除くために・・・CMP(化学機械ポリシング)を適用し,これによりÅオーダーで平坦化された結晶成長用の面を得た。」(【0021】)

(a-13)特開2001-313422号公報(甲40)
「この基板1の研磨は・・・n型窒化物半導体層21が露出するまで行う。・・・n型コンタクト層21の研磨によりダメージを受けた領域をRIEにて1?2μmエッチングを行う。」(【0041】)

(b)技術常識又は周知技術
上記(a)の(a-1)?(a-8)によれば,[1]半導体材料を含む単結晶材料に対して機械加工を施すと,表面には内部(完全結晶層)とは異なる加工変質層(非晶質層,多結晶層,モザイク層,クラック層,ひずみ層〔応力漸移層〕)と呼ばれる層が生じること,[2]機械加工によって発生する転位密度の上昇した領域も加工変質層に含まれること,及び[3]転位密度は透過型電子顕微鏡で観察・測定可能であることは,いずれも,本件優先日当時の技術常識であったものと認められる。
また,同(a-9)?(a-13)によれば,GaNを含む窒化物半導体についても,機械研磨(加工)によって,損傷を受けた層が形成されることや,転位が生じるとの記載がある。
そうすると,結局,本件優先日当時,GaNを含む窒化物半導体において,機械研磨を施すことにより転位を含む加工変質層が生じることは,当業者にとって技術常識であったものと認められる。

b 転位とキャリアのトラップ
(a)各文献の記載
下記文献には,次の記載が認められる。
(a-1)半導体用語大辞典編集委員会編集,「半導体用語大辞典」,日刊工業新聞社,1999年3月20日,730?733頁(甲12)
「転位・・・ 結晶中のひずみに起因する線欠陥の一種で,図(a)のように原子面の片側に線状にダングリングボンドが並ぶ結晶欠陥である。」(731頁左欄下から11?8行目」)
「転位の発生の源は結晶内の応力ひずみである・・・」(731頁右欄12?13行目)


「転位は・・・透過型電子顕微鏡により観察できる。」(732頁左欄12?14行目)

(a-2)高橋清外1名監修,「半導体・金属材料用語辞典」,株式会社工業調査会,1999年9月20日,190?191頁,682?683頁,762?763頁(甲13)
「ダングリングボンド・・・
原子の結合に寄与するボンドが結合しないでブラブラしているボンド。・・・ダングリングボンドは,・・・キャリアのトラップなどの作用をする。」(763頁下から19?15行目)

(a-3)甲47・56
「格子欠陥は,結晶の構成原子(Si結晶ではSi原子自身)の周期的配列が乱れたもので,その空間的な広がり方によって,点欠陥,線欠陥,面欠陥に分類される。格子欠陥は,結晶中のポテンシャルの周期性を乱すことになり,その結果,禁制帯の中に局在した電子状態(エネルギー準位)を作る。この局在したエネルギー準位は,ドナやアクセプタとして働き半導体結晶の電気的性質に大きな影響を与えることになる。こうした意味で,格子欠陥は,前述の汚染不純物と同様,"不純物制御"の妨げになる。」(20頁下から10?4行目)
「転位が電子や正孔のトラップとして働くとキャリア密度が減少する。」(42頁5行目)
「表2.1 半導体結晶の不完全性。
・・・
線欠陥(転位)・・・らせん転位
60°転位
刃状転位
・・・ 」(19頁)

(a-4)甲9
「・・・GaN系化合物半導体以外の基板を使用すると,成長させるGaN系化合物半導体膜と基板との熱膨張係数の違いや,格子定数の違いにより,製造されるGaN系化合物半導体中には多数の欠陥が発生する。その欠陥は刃状転位と螺旋転位に分類され,その密度は合計で約1×10^(9)cm^(-2)?1×10^(10)cm^(-2)程度にもなる。これらの欠陥は,キャリアをトラップして,調製した膜の電気的特性を損ねることが知られている他,大電流を流すようなレーザーに対しては,寿命の低下を招くことが知られている。」(【0005】)


(a-5)特開2001-148533号公報(甲59)
上記(a-4)と同じ(【0005】)

(b)技術常識又は周知技術
上記(a)の(a-1)?(a-3)によれば,半導体結晶において線欠陥(転位)を含む格子欠陥が不純物制御の妨げになることや,原子面の片側に線状のダングリングボンドが並ぶ結晶欠陥である転位において,ダングリングボンドがキャリアのトラップなどの作用をすることは技術常識であったものと認められる。
また,同(a-4)?(a-5)によれば,GaN系化合物半導体においても,同様に転位(刃状転位と螺旋転位)がキャリアをトラップして,調製した膜の電気的特性を損ねることが,本件優先日当時,当業者において知られていたものと認められる。そして,キャリアがトラップされれば,キャリア濃度が低下することは自明である。なお,転位がキャリアをトラップする過程が,転位が結晶成長の際に生じたものか,転位が電極形成面を機械研磨して生じたかなど,転位の生成原因によって異なるとする技術的根拠は見出せない。
そうすると,結局,本件優先日当時,GaN系化合物半導体において,転位がキャリアをトラップし,その結果,キャリア濃度が低下することは,当業者にとって技術常識であったものと認められる。

c 不純物濃度とコンタクト抵抗
(a)各文献の記載
下記文献には,次の記載が認められる。
(a-1)甲9
「実施例2
ドーパント源SiH_(4)の供給量を10nmol/min?1000nmol/minの範囲で種々の値とし,H-VPE法により不純物濃度の異なるGaN厚膜をそれぞれ成長させた。」(【0048】)
「 ・・・レーザの作製に使用したGaN基板のN終端面側にn電極を形成し・・・不純物濃度に対する接触比抵抗を調べた。・・・今回は,Ti(150Å)/Al(1000Å)・・・の電極パッドパターンを使用した。」(【0052】)
「 図10は,GaN基板中の不純物濃度と接触比抵抗との関係を示す。不純物濃度が1×10^(17)cm^(-3)を超えると接触比抵抗が1×10^(-5)Ω・cm^(2)以下となり,その後は不純物濃度の増加とともに比抵抗は下がっていく。」(【0053】)

(a-2)甲59
上記(a-1)と同じ(【0049】【0053】【0054】【図10】)。

(b)技術常識又は周知技術
上記(a)によると,Siをドーピングして形成されたn型GaN基板の不純物濃度とコンタクト抵抗との関係について,甲4発明と同じ電極材料(Ti/Alの積層構造)を用いた場合に,不純物(Si)濃度が高くなれば接触比抵抗(コンタクト抵抗)が低くなり,その逆も成り立つこと,不純物(Si)濃度が1×10^(17)cm^(-3)を超えると接触比抵抗が1×10^(-5)Ω・cm^(2)以下となることは,本件優先日当時,当業者に周知の事項であったと認められる。

d 加工変質層の除去
上記a(a)の(a-7)?(a-8)によれば,本件優先日当時,少なくともシリコンについては,加工変質層が電気的特性に悪影響を及ぼすことやウエハーの反りやクラック発生の原因となることから,当該層を完全に除去すべきものとされていたことが認められる。

e GaN基板の転位密度
(a)各文献の記載
下記文献には,次の記載が認められる。
(a-1)甲37
「得られたGaN基板の転位密度は平面透過電子顕微鏡分析(TEM)により2×10^(5)cm^(-2)の低さであると決定されました。・・・GaN基板のn型導電性で,典型的キャリヤー濃度・・・は・・・5×10^(18)cm^(-3)・・・であることを明らかにしました。」(訳文1頁右欄下から8?2行目)

(a-2)甲38
「・・・得られたGaN基板の表面および裏面を研磨してエピタキシャル成長用の基板に加工し,断面TEM観察したところ,貫通転位密度は,10^(4)cm^(-2)と見積もられた。」(【0043】)

(a-3)特開2000-223790号公報(甲39)
「・・・GaN基板成長時にもラテラル成長技術を取り込んでおり,転位密度を10^(4)cm^(-2)以下に抑制している。」(【0026】)

(b)技術常識又は周知技術
上記(a)によると,本件優先日当時,GaN基板の転位密度は,10^(4)cm^(-2)以下?2×10^(5)cm^(-2)程度であったものと認められる。

f 判断
(a)甲4発明では,n型電極のコンタクト抵抗の低減と電極剥離を防止するために,エッチング処理により,GaN基板を研磨機により研磨することによって生じた「表面歪み」及び酸化膜を除去するものとされている。したがって,甲4発明においては,GaN基板では,必要とするコンタクト抵抗を確保するために,研磨機による研磨及び鏡面出しのみでは不十分であり,エッチング処理の必要があることが示唆されている。なお,甲4発明の研磨により生じた「表面歪み」を,研磨面の「表面のみ」に限定して解すべき技術的根拠はなく,また,甲4に転位について明示の記載がないからといって,直ちに,甲4発明に接した当業者が,甲4発明においては,研磨により発生した転位を除去する必要がないとしているものと理解するとはいえない。
ところで,前記a及びbのとおり,本件優先日当時,〔1〕GaNを含む窒化物半導体において,機械研磨を施すことにより転位を含む加工変質層が生じること,〔2〕GaN系化合物半導体において,転位がキャリアをトラップし,その結果,キャリア濃度が低下することは技術常識であったと認められるから,当業者は,甲4発明においても,研磨機による研磨によって加工変質層に相当する層に転位が生じており,この転位がキャリアである自由電子をトラップしてキャリア濃度が低下するとの機序が生じていると,当然に理解する。
そして,前記cのとおり,n型GaN基板について甲4発明と同じ電極材料(Ti/Alの積層構造)を用いた場合に,Siなどの不純物濃度が高くなり,自由電子が増加すれば,接触比抵抗(コンタクト抵抗)が低くなるとの関係が周知であるところ,その機序にかんがみると,転位が自由電子などのキャリアをトラップしてキャリア濃度が低下した場合には,反対に接触比抵抗(コンタクト抵抗)が高くなるといえる。そうすると,キャリア濃度のみがコンタクト抵抗を左右するものではないとしても,当業者は,キャリア濃度が高くなればコンタクト抵抗が低くなるという作用機序自体は容易に見出すことができるといえる。そして,コンタクト抵抗が低いことは,半導体素子においては常に望まれるものである。
さらに,前記dのとおり,少なくともシリコンについては,転位を含む加工変質層は完全に除去すべきものとされており,また,同アのとおり,転位を含む加工変質層が電気的特性に与える悪影響は,シリコンとGaN系化合物半導体において異なるものではないといえる。
以上からすると,甲4発明における研磨により生じた「表面歪み」の除去によるコンタクト抵抗の低減を,技術常識や周知の技術事項に従って,機械加工により生じた転位の除去によるコンタクト抵抗の低減と理解し,更なるコンタクト抵抗の低減を目的として,このコンタクト抵抗上昇の原因となる加工変質層を除去するとの観点から上記のエッチング処理を行うことは,当業者にとって格別の創意を要する改良の試みであるとはいえない。そして,前記eのとおり,本件優先日当時のGaN基板の転位密度は,10^(4)cm^(-2)以下?2×10^(5)cm^(-2)程度であったのであるから,甲4発明において,加工変質層を除去すれば,除去後の基板の転位密度は完全結晶と同程度となり,1×10^(9)cm^(-2)以下となることは自明である。
加えて、転位を含む加工変質層は、機械研磨により生じるものであるから、それがどの程度の厚みをもって生じるのかは、機械研磨の具体的態様に影響を受けるものであることが明らかであり、また、加工変質層の厚みが0.5μm以上であることもあり得ると認められる(甲40、上記a(a)の(a-13))。よって、上記のエッチング処理を0.5μm以上行うことは、機械研磨の具体的態様に応じて当業者が適宜設計し得たことにすぎないというべきである。
そうすると,甲4発明において,技術常識や周知の事項に基づいて相違点9-2に係る本件訂正発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たと認められる。

(b)そして、上記(a)で説示した、当業者が容易になし得た構成(以下「容易想到構成」という。)は、以下のとおり、相違点9-1に係る本件訂正発明1の構成をも満たす。
容易想到構成ではエッチング処理が行われるのであるが、その理由は、機械研磨を施すことにより転位を含む加工変質層が生じるからなのであり、機械研磨を施すことにより生じた転位の転位密度が例えば「1×10^(10)cm^(-2)程度」よりも大きいからなのではない。すなわち、容易想到構成における当業者は、機械研磨を施すことにより生じた転位の転位密度がどの程度の値なのかを顧慮せずに、機械研磨を施すことにより加工変質層が生じたことのみを契機として、転位を含む加工変質層をエッチング処理するのである。
しかるところ、容易想到構成において、エッチングされる前の加工変質層に含まれる転位が、その「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であって、加工変質層上の面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」であることは、生じ得ることであると認められる(本件特許明細書をみても、本件優先日当時において、当該転位が「同第2工程の終了時に・・・結晶欠陥であ」る状態を得るのが困難であったとの事情はうかがわれない。)。そうすると、機械研磨を施すことにより上記のような「結晶欠陥」が生じた場合であったとしても、当業者は、機械研磨が施された以上、そこに加工変質層が生じたと認識することに変わりがなく、よって、エッチング処理を行うことになる。
したがって、容易想到構成は、相違点9-1に係る本件訂正発明1の構成を満たすのである。

(c)以上のとおりであるから、甲4発明において、技術常識や周知の事項に基づいて相違点9に係る本件訂正発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことであると認められる。

(キ)相違点10について
上記(カ)c(b)のとおり、Siをドーピングして形成されたn型GaN基板で甲4発明と同じ電極材料を用いた場合に、不純物濃度が1×10^(17)cm^(-3)を超えるとコンタクト抵抗が1×10^(-5)Ω・cm^(2)以下となることは、本件優先日当時、当業者に周知の事項である。
そうすると、甲4発明において、加工変質層を除去して、転位密度を加工前の完全結晶と同程度にすれば、コンタクト抵抗は1×10^(-2)Ω・cm^(2)以下(0.05Ω・cm^(2)以下)となるものと推測され、仮にそうでないとしても、そのようなコンタクト抵抗とすることは、当業者であれば容易想到であると認められる。

(ク)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲4発明、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲4発明とを対比する。
(ア)本件訂正発明2と甲4発明とは、上記ア(オ)で認定した一致点で一致し、相違点9及び相違点10で相違するとともに、さらに次の点において相違する。

相違点11:
「前記第1半導体層の裏面」について、本件訂正発明1は「窒素面」であるのに対し、甲4発明はそうであるのか不明である点。

(イ)相違点9及び相違点10について
上記ア(カ)及び(キ)と同様である。

(ウ)相違点11について
GaN基板の窒素面に電極を設けることは技術常識であると認められる(甲9の【0013】?【0014】、甲34の【0052】?【0053】参照。)。
したがって、甲4発明において、GaN基板の窒素面にn型電極を設けるようにして、相違点11の構成を得ることは当業者が適宜なし得たことにすぎない。

(エ)小括
したがって、本件訂正発明2は、甲4発明、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3と甲4発明とを対比する。
(ア)本件訂正発明3と甲4発明とは、上記ア(オ)で認定した一致点で一致し、相違点9及び相違点10で相違するとともに、さらに次の点において相違する。

相違点12:
本件訂正発明3は、「前記第3工程により、前記転位密度は、1×10^(6)cm^(-2)以下に低減される」のに対し、甲4発明はそうであるのか明らかでない点。

(イ)相違点9及び相違点12について
上記ア(カ)と同様の理由により、甲4発明において、技術常識や周知の事項に基づいて相違点9及び相違点12に係る本件訂正発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことと認められる。

(ウ)相違点10について
上記ア(キ)と同様である。

(エ)小括
したがって、本件訂正発明3は、甲4発明、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 本件訂正発明5について
本件訂正発明5と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「n型GaN基板」は、「MOCVD法で種基板上に・・・1050℃の成長温度でSiをドーピングしながら1μmからなるn型GaN膜を作製後、・・・n型GaN厚膜を形成後、・・・n型GaN基板を作製」して得られたものであるから、甲4発明は、本件訂正発明5の「前記基板は、成長用基板に成長することを利用して形成されている」点を備えている。

(イ)そうすると、本件訂正発明5と甲4発明とは、上記ア(オ)で認定した一致点に加えて、「前記基板は、成長用基板に成長することを利用して形成されている」点でも一致し、相違点9及び相違点10で相違する。

(ウ)小括
したがって、本件訂正発明5は、上記アと同様の理由で、甲4発明、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ 本件訂正発明6について
本件訂正発明6と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明は、「前記窒化物半導体レーザ素子を形成したウエハーのGaN基板側を研磨機により研磨して」いるものであるから、本件訂正発明6の「前記第1工程によって前記第1半導体層の上面上に前記第2半導体層を形成した後に、前記第2工程によって前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工を行う」との構成を備えている。

(イ)そうすると、本件訂正発明6と甲4発明とは、上記ア(オ)で認定した一致点に加えて、「前記第1工程によって前記第1半導体層の上面上に前記第2半導体層を形成した後に、前記第2工程によって前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工を行う」点でも一致し、相違点9及び相違点10で相違する。

(ウ)小括
したがって、本件訂正発明6は、上記アと同様の理由で、甲4発明、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ 本件訂正発明7について
本件訂正発明7と甲4発明とを対比する。
(ア)本件訂正発明7と甲4発明とは、上記ア(オ)で認定した一致点で一致し、相違点9及び相違点10で相違するとともに、さらに次の点において相違する。

相違点13:
本件訂正発明7は、「前記第1半導体層及び前記第2半導体層を劈開することにより、共振器端面を形成する第5工程をさらに備える」のに対し、甲4発明は、「エッチングによるレーザ素子のミラー端面を得る」ものである点。

(イ)相違点9及び10について
上記ア(カ)及び(キ)と同様である。

(ウ)相違点12について
a 甲4発明の「ミラー端面」の方向は<11-20>方向であると認められるところ(甲4の【0205】には、図12(a)の第A2の割り溝614が、「リッジストライプ方向と垂直方向の<11-20>方向に沿って形成する。」と記載されている。)、この方向はGaN基板のへき開方向であると認められる(甲4の【0006】・【0007】を参照。)。
ここで、甲4発明は、「エッチングによるレーザ素子のミラー端面を得る」ものであるけれども、甲4の【0211】には、「本実施の形態(審決注:「実施の形態15」である。【0182】参照。)以外の、レーザ素子のチップ分割は、実施の形態1から実施の形態10の何れかを用いればよい」との記載がある。そうすると、甲4には、甲4発明で用いられたレーザ素子をチップ分割する手法として、実施の形態1から実施の形態10のチップ分割の手法を用いてもよいことが示唆されていると認められる。
そこで、甲4に記載された実施の形態をみると、実施の形態3は、第Aの割り溝深さが、窒化物半導体発光層の位置よりも浅く形成されているものとなっている(【0074】)。そして、甲4発明で用いられたレーザ素子は、実施の形態3の手法によりチップ分割すると、<11-20>方向がへき開方向であるのだから、へき開によって「ミラー端面」が得られることになると解される。
以上によれば、甲4発明において、甲4の上記記載に基づき、相違点12の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことであると認められる。

b 上記aでは、甲4の【0211】の上記記載を示唆ととらえた上で、相違点12の容易想到性を説示した。しかし、この説示の結論は、上記記載を示唆ととらえるか否かによって左右されるものではない。
すなわち、実施の形態3は、甲4という同じ刊行物内に記載されているのであるから、そのことをもって、当業者は、甲4発明で用いられたレーザ素子において実施の形態3のようなチップ分割の手法を採用する動機付けがあるといえるのである。そして、当該採用により、当業者が相違点12の構成に至ることは、上記aで説示したとおりである。

c 加えて、以下の点からも、相違点12は格別とはいえない。
すなわち、共振器端面を形成する際に、基板及びその上に積層された半導体層を劈開して形成することが、本件優先日前における慣用技術であることは明らかである。そうすると、甲4発明は、「エッチングによるレーザ素子のミラー端面を得る」ものであるところ、ミラー端面をエッチングにより得ることに代えて、上記慣用技術を採用して相違点12の構成を至ることは当業者が容易になし得たことであると認められる。
ここで、甲4発明における上記「エッチング」がチップ分割を歩留まり良く得るためのものと解される(【0211】)点が、相違点12の容易想到性の判断の結論に影響するか否かが問題となる。しかしながら、相違点12に係る構成が慣用技術にすぎないこと、本件訂正発明の中核的な技術思想の進歩性が否定されていること(上記ア(カ)f)、本件訂正発明7が相違点12の構成を採用することによる顕著な作用効果の存在が認められないことを踏まえ、総合的に考慮すれば、上記の点は、結論に影響しないというべきである。

(エ)小括
したがって、本件訂正発明7は、甲4発明、甲4の記載、技術常識及び周知の事項に基づいて、又は、甲4発明、甲4の記載、技術常識、周知の事項及び慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

キ 本件訂正発明8について
本件訂正発明8と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明は、「n型GaN厚膜を形成後、ウエハーをHVPE装置から取り出し、研磨機で前記種基板を剥ぎ取り、n型GaN基板を作製」するものであるから、本件訂正発明8の「前記第1半導体層は、HVPE法により形成される」との構成を備えている。

(イ)そうすると、本件訂正発明8と甲4発明とは、上記ア(オ)で認定した一致点で一致し、相違点9及び相違点10で相違する。

(ウ)小括
したがって、本件訂正発明8は、上記アと同様の理由で、甲4発明、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ク 本件訂正発明9について
本件訂正発明9と甲4発明とを対比する。

(ア)甲4発明は、「MOCVD装置に、前記n型GaN基板をセットし、・・・コンタクト層を成長させることにより窒化物半導体レーザ素子を形成」するものであるから、本件訂正発明9の「前記第2半導体層は、MOCVD法により形成される」との構成を備えている。

(イ)そうすると、本件訂正発明9と甲4発明とは、上記ア(オ)で認定した一致点で一致し、相違点9及び相違点10で相違する。

(ウ)小括
したがって、本件訂正発明9は、上記アと同様の理由で、甲4発明、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ケ 本件訂正発明10について
本件訂正発明10と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明は、「前記窒化物半導体レーザ素子を形成したウエハーのGaN基板側を研磨機により研磨して、塩素ドーピングされたGaN基板の厚さを100μm」にするものであるから、本件訂正発明10の「前記第1半導体層は、前記第2工程により180μm以下の厚みになるまで厚み加工される」との構成を備えている。

(イ)そうすると、本件訂正発明10と甲4発明とは、上記ア(オ)で認定した一致点で一致し、相違点9及び相違点10で相違する。

(ウ)小括
したがって、本件訂正発明10は、上記アと同様の理由で、甲4発明、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

コ 無効理由5についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?3,5?10は、甲4発明、甲4の記載、技術常識及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、無効理由5は、理由がある。

(2)無効理由0
(ア)請求人は、無効理由0においては、本件特許に係る出願の優先日前に、n型の窒化物系半導体層又は窒化物系半導体基板の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層を形成する工程(本件訂正発明1の第1工程に相当)と、前記半導体層又は半導体基板の裏面を研磨することにより厚み加工する工程(本件訂正発明1の第2工程に相当)と、その後前記半導体層又は半導体基板の裏面上にn側電極を形成する工程とを備えた窒化物系半導体素子の製造方法が公知であったことを立証していない。
したがって、請求人の主張する課題の公知性等が立証されているとしても、無効理由0で提示した各証拠から当業者がこれら工程を備えた製造方法を想到することが容易であったとはいえない。
よって、本件訂正発明1が、当業者が周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(イ)本件訂正発明1が、当業者が周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件訂正発明2?3,5?10が、当業者が周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえないことは当然である。

(ウ)したがって、請求人の主張する無効理由0及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

(3)無効理由1及び無効理由2
ア 本件訂正発明1について
(ア)無効理由1及び無効理由2は、共に甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如を主張するものであり、甲2に記載された発明(甲2発明)は、上記2(1)イで認定したとおりである。
a 甲2発明の「『自立n型GaN基板』、『自立GaN基板』、『GaNウェハ』」、「機械研磨」、「厚さ50nmのTi層及び厚さ500nmのAl層のTi/Al層」及び「『裏面n電極のデバイス』、『n型GaNからなるショットキーダイオード試料』」は、それぞれ、本件訂正発明1の「n型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層」、「研磨」、「n側電極」及び「窒化物系半導体素子」に相当する。
b 甲2発明では、「n型の窒化物系半導体基板らなる第1半導体層(自立GaN基板)」のGa面とN面の両面を「研磨(機械研磨)」とドライエッチ処理し、二結晶X線回析(DXRD)を用いて前記GaNウェハの構造特性を調査検討したところ、Ga面及びN面ともに、代表的な転位密度は10^(7)cm^(-2)よりも低くなっていたのであり、また、前記ドライエッチ処理したGa面とN面をともにアセトン及びメタノール中で脱脂し、脱イオン(DI)水中で洗浄し、フォトリソグラフィーによりパターンを施し、その後、それらを緩衝酸化物エッチング液中でエッチングし、DI水中で洗浄し、窒素ガスで乾燥した後、金属蒸着するために真空システムに装填し、「n側電極(厚さ50nmのTi層及び厚さ500nmのAl層のTi/Al層)」を電子ビーム蒸着により形成して「窒化物系半導体素子(n型GaNからなるショットキーダイオード試料)」を得ているから、本件訂正発明1と、「n型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する工程と、前記厚み加工する工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする工程と、その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する工程とを備える、窒化物系半導体素子の製造方法」である点で一致する。
c 上記a及びbからみて、本件訂正発明1と甲2発明とは、
「n型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する工程と、
前記厚み加工する工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする工程と、
その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する工程とを備える、
窒化物系半導体素子の製造方法。」で一致し、次の点において相違する。

相違点1:
本件訂正発明1では、「第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する」工程を備えるのに対し、
甲2発明では、前記工程を備えない点。
相違点2:
本件訂正発明1では、「前記第1半導体層と前記n側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とする」のに対し、
甲2発明では、前記第1半導体層と前記n側電極とのコンタクト抵抗が0.05Ωcm^(2)以下になっているか否か不明である点。
相違点2の2:
「n型の窒化物系半導体基板からなる第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する工程と、前記厚み加工する工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする工程」に関して、本件訂正発明1では、「同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」であり、「前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去」する量が「0.5μm以上」であるのに対し、甲2発明では、そうであるのか不明である点。

(イ)相違点1について
甲2発明は、研究用のn型GaN試料の製造方法の発明であり、当該試料は、HVPE法で成長させた自立n型GaN基板のGa面上とN面上の両方にTi/Al電極を形成したものであるから、前記研究用のn型GaN試料の製造方法の発明に基づいて本件訂正発明の活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を有する窒化物系半導体素子の製造方法の発明を容易に想到し得るか否かを検討する必要がある。
a そこで、まず、甲2のn型GaN試料を用いて本件訂正発明1の窒化物系半導体素子を製造する動機付けがあるかどうかを検討する。
本件訂正発明1の窒化物系半導体素子は、n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成するもの(本件特許明細書(甲1)の【請求項1】の「第1工程」を参照。)であり、実施形態ではn型GaN基板を用いる素子である(甲1の【0042】参照。)から、両者はn型GaN層を用いる点では一致する。
しかしながら、甲2のn型GaN試料は、n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性に対する結晶極性の影響を検討するためにGa面上とN面上の両方にTi/Al電極を形成したものであり、これに対して、本件訂正発明1の窒化物系半導体素子は、第1半導体層(実施形態ではn型基板)の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成するものであり、実施形態では、上面上とはGa面上であり(甲1の【0043】参照。)、また、前記活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層とは、窒化物系半導体レーザ素子構造である(甲1の【0043】?【0045】参照。)。
してみると、甲2のn型GaN試料を用いて本件訂正発明1の窒化物系半導体素子を製造するためには、当該n型GaN試料のGa面上に形成したTi/Al電極を除去し、Ti/Al電極が除去されたGa面上に改めて第2半導体層(例えば窒化物系半導体レーザ素子構造)を形成することになるが、そもそも、甲2のn型GaN試料は、n型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性に対する結晶極性の影響を検討することを目的としてGa面上とN面上の両方にTi/Al電極を形成したものであり、Ga面上のTi/Al電極を除去すれば前記目的を達成することができなくなることは明らかであるから、当業者がそのようなことをする動機付けはないといわざるを得ない。
以上のことは、本件訂正発明1の上面上をN面上とした場合についても同様に当てはまる。
b もっとも、口頭審理において請求人が主張したように(口頭審理陳述要領書42頁1行?15行参照。)、甲2には、自立GaNは、転位密度が低く熱伝導率が高く劈開が容易であることから、電子デバイス並びに光電子デバイスの基板として注目されており、GaN基板を使用するもう一つの利点として、裏面n電極のデバイスを作製でき、これにより、製造工程を簡単で確実なものにし、デバイスのサイズを小さくすることができ、量産収率が向上することがある旨が記載されており、また、活性層を含む素子構造は、通常、GaN基板のGa極性側に成長させるため、裏面オーミック電極はGaNのN極性側に形成する必要がある旨も記載されていることから、甲2の当該記載に接した当業者が、その自立GaN基板を用いて、そのGa極性側に活性層を含む素子構造を成長させ、またGaNのN極性側に裏面オーミック電極を形成して、光電子デバイス(GaN系発光素子)を製造しようとする動機付けがあるという余地がまったくないともいえないので、念のためこの点を検討する。
c 甲2発明でGa面とN面の両面に対して、結果的に代表的な転位密度が10^(7)cm^(-2)よりも低くなるまで機械研磨とドライエッチ処理を施しているのは、研究の目的であるn型GaN基板へのTi/Al電極の電気特性に対する結晶極性の影響の検討のために、結晶極性以外の両面のコンディションを厳密に揃える必要があるためであると理解することができる。また、上記bの場合でも、光電子デバイス(GaN系発光素子)の製造過程で自立GaN基板のN極性側に裏面オーミック電極を形成する際に、甲2発明で研究用n型GaN試料のN面上のTi/Al電極形成のために用いたプロセス(N面に機械研磨とドライエッチ処理を施し、結果的に代表的な転位密度が10^(7)cm^(-2)よりも低くなる)を忠実に踏襲しなければならない理由はない。これらのことからみて、甲2発明に基づいて、光電子デバイス(GaN系発光素子)の製造過程で自立GaN基板のN極性側に裏面オーミック電極を形成する際に、N面に機械研磨とドライエッチ処理の両方を施し、その結果 代表的な転位密度を10^(7)cm^(-2)よりも低くする、すなわち、本件訂正発明1の第3工程に相当するプロセスを採用する動機付けはないといわざるを得ない。
d 上記aないしcからみて、甲2発明を第1半導体層の上面上に活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する工程を備えるものとなすこと、すなわち相違点1に係る本件訂正発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)本件訂正発明1についてのまとめ
上記(イ)からみて、甲2発明において、当業者が相違点2及び相違点2の2に係る本件訂正発明1の構成となすことが容易想到であるか否かについては検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件訂正発明2ないし本件訂正発明10について
上記アのとおり、本件訂正発明1が、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件訂正発明2?3,5?10が、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえないことは当然である。

ウ 小括
したがって、請求人の主張する無効理由1及び無効理由2並びに証拠方法によっては、本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

(4)無効理由3の1
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲3第一発明とを対比する。
(ア)甲3第一発明の「『n型GaN結晶膜が形成された基板』、『GaN基板ウエーハ』及び『GaN基板』」、「『厚さ1μmのSi添加n型GaN層、厚さ0.4μmのSi添加n型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ2.5nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と厚さ5nmの無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる10周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.4μmのMg添加p型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nクラッド層、及び厚さ0.5μmのMg添加p型GaNコンタクト層』及び『厚さ0.5μmのSi添加n型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ3nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる7周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nインジウム解離防止層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.5μmのMg添加p型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層、及び厚さ0.2μmのMg添加p型GaNコンタクト層』」、「GaN基板の裏面(N面)」、「研磨」、「60μm?100μmの劈開可能な厚さに仕上げ」、「n型電極」及び「GaN系半導体発光素子の製造方法」は、それぞれ、本件訂正発明1の「n型の窒化物系半導体層及び窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層」、「活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層」、「第1半導体層の裏面」、「研磨」、「厚み加工」、「n側電極」及び「窒化物系半導体素子の製造方法」に相当する。

(イ)甲3第一発明では、「n型の窒化物系半導体層及び窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層(『GaN基板ウエーハ』、『GaN基板』)」の側から「活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層(0.5μmのSi添加n型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層、厚さ0.1μmのSi添加n型GaN光ガイド層、厚さ3nmの無添加In_(0.2)Ga_(0.8)N量子井戸層と無添加In_(0.05)Ga_(0.95)N障壁層からなる7周期の多重量子井戸構造活性層、厚さ20nmのMg添加p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nインジウム解離防止層、厚さ0.1μmのMg添加p型GaN光ガイド層、厚さ0.5μmのMg添加p型Al_(0.05)Ga_(0.95)Nクラッド層、及び厚さ0.2μmのMg添加p型GaNコンタクト層)」を順次Ga面上に形成して発光素子構造を形成しているから、甲3第一発明の「窒化物系半導体素子の製造方法(GaN系半導体発光素子の製造方法)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子の製造方法」とは、少なくとも、「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程」を備えている点で一致する。

(ウ)甲3第一発明において、「第1半導体層の裏面(GaN基板の裏面(N面))」を「研磨(研磨)」し、「厚み加工(60μm?100μmの劈開可能な厚さに仕上げ)」し、チタンとアルミニウムからなる「n側電極(n型電極)」を「第1半導体層の裏面」に形成する工程を含むから、甲3第一発明の「窒化物系半導体素子の製造方法(GaN系半導体発光素子の製造方法)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子の製造方法」とは、少なくとも、「前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程」及び「その後、前記第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する工程」を備えている点で一致する。

(エ)上記(ア)?(ウ)からみて、本件訂正発明1と甲3第一発明とは、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
その後、前記第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する工程とを備えた窒化物系半導体素子の製造方法。」で一致し、次の点において相違する。

相違点3:
本件訂正発明1では、第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥であり、しかも、前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を0.5μm以上除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程を備えているのに対し、
甲3第一発明では、「第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位」が「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」であるのか不明であり、しかも、前記第3工程を備えていない点

相違点4:
前記「n側電極を形成する工程」が、
本件訂正発明1では、第3工程の後に「転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」n側電極を形成する第4工程であるのに対し、
甲3第一発明では、第3工程の後の工程ではなく、したがって、「転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」n側電極を形成するものではない点。

相違点5:
前記「第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗」が、
本件訂正発明1では、0.05Ωcm^(2)以下とされるのに対し、
甲3第一発明では、0.05Ωcm^(2)以下とされるかどうかが明らかでない点

(オ)相違点3及び相違点4について
甲3第一発明においては、第1工程及び第2工程の後に研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域を除去することなく当該裏面上にn側電極を形成しており、研磨により発生した転位を除去することは記載も示唆もないのであるから、本件特許に係る出願の優先日前に機械研磨によりGaN系材料の研磨面に転位が発生しそれにより電気的特性の悪化を招くことが周知であったとしても、甲3第一発明に接した当業者は、電極形成面において研磨により発生した転位は、わざわざこれを除去する必要があるほど電極形成面での電気的特性を悪化させるものではないので、甲3第一発明では研磨により発生した転位を含む第一半導体層の裏面近傍の領域を除去していないと理解するものと認められる。
よって、甲3第一発明において、当業者が第1工程及び第2工程の後、研磨により発生した転位を含む第1半導体層の裏面近傍の領域を除去しようとする動機付けはないというべきである。
したがって、甲3第一発明において、相違点3及び相違点4に係る本件訂正発明1の構成となすことが当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
以上によれば、甲3第一発明において、当業者が相違点5に係る本件訂正発明1の構成となすことが容易想到であるか否かについては検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が甲3第一発明及び甲各号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(カ)本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1は、当業者が甲3に記載された発明(甲3第一発明)及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件訂正発明2ないし10について
本件訂正発明1が、当業者が甲3に記載された発明(甲3第一発明)及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件訂正発明2?3,5?10が、当業者が甲3第一発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえないことは当然である。

ウ 小括
したがって、請求人の主張する無効理由3の1及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

(5)無効理由3の2
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲3第二発明とを対比する。
(ア)甲3第二発明の「『n型GaN結晶膜が形成された基板』、『GaN基板ウエーハ』及び『GaN基板』」、「『エピタキシャル成長』により形成された『DH構造』」、「GaN基板のGa面」、「研磨」、「60μm?100μmの劈開可能な厚さに仕上げ」、「n型電極」及び「GaN系半導体発光素子の製造方法」は、それぞれ、本件訂正発明1の「n型の窒化物系半導体層及び窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層」、「活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層」、「第1半導体層の裏面」、「研磨」、「厚み加工」、「n側電極」及び「窒化物系半導体素子の製造方法」に相当する。

(イ)甲3第二発明では、サファイア基板、下地結晶層、マスク、及びマスク近傍の高転位密度層を取り除いて形成された「n型の窒化物系半導体層及び窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層(GaN基板ウエーハ、GaN基板)」の裏面(サファイア基板が存在していた側の面)にMOCVD法により「活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層(DH構造)」形成のためのエピタキシャル成長を行っており、DH構造が活性層を含むことは明らかであるから、甲3第二発明の「窒化物系半導体素子の製造方法(GaN系半導体発光素子の製造方法)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子の製造方法」とは、少なくとも、「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程」を備えている点で一致する。

(ウ)甲3第二発明において、「第1半導体層の裏面(GaN基板のGa面)」を「研磨(研磨)」し、「厚み加工(60μm?100μmの劈開可能な厚さに仕上げ)」し、チタンとアルミニウムからなる「n側電極(n型電極)」を「第1半導体層の裏面」に形成する工程を含むから、甲3第二発明の「窒化物系半導体素子の製造方法(GaN系半導体発光素子の製造方法)」と本件訂正発明1の「窒化物系半導体素子の製造方法」とは、少なくとも、「前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程」及び「その後、前記第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する工程」を備えている点で一致する。

(エ)上記(ア)?(ウ)からみて、本件訂正発明1と甲3第二発明とは、
「n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と、
その後、前記第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する工程とを備えた窒化物系半導体素子の製造方法。」で一致し、次の点において相違する。

相違点6:
本件訂正発明1では、第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥であり、しかも、前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を0.5μm以上除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程を備えているのに対し、
甲3第二発明では、「第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位」が「転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥」であるのか不明であり、しかも、前記第3工程を備えていない点

相違点7:
前記「n側電極を形成する工程」が、
本件訂正発明1では、第3工程の後に「転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」n側電極を形成する第4工程であるのに対し、
甲3第二発明では、第3工程の後の工程ではなく、したがって、「転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に」n側電極を形成するものではない点。

相違点8:
前記「第1半導体層とn側電極とのコンタクト抵抗」が、
本件訂正発明1では、0.05Ωcm^(2)以下とされるのに対し、
甲3第二発明では、0.05Ωcm^(2)以下とされるかどうかが明らかでない点

(オ)相違点6ないし相違点8について
a 相違点6、相違点7及び相違点8は、それぞれ、無効理由3の1における相違点3、相違点4及び相違点5と同じである。
b したがって、相違点6ないし相違点8についての検討結果は、無効理由3の1の相違点3及び相違点4についての検討結果(上記(4)ア(オ)参照。)とまったく同じとなる。
c 上記bからみて、本件訂正発明1は、当業者が甲3第二発明及び甲各号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(カ)本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1は、当業者が甲3に記載された発明(甲3第二発明)及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件訂正発明2?3,5?10について
本件訂正発明1が、当業者が甲3に記載された発明(甲3第二発明)及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件訂正発明2?3,5?10が、当業者が甲3第二発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえないことは当然である。

ウ 小括
したがって、請求人の主張する無効理由3の2及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

(6)無効理由4
ア 本件訂正発明1について
(ア)本件訂正発明1と甲3第一発明とを対比すると、上記(4)ア(エ)で述べたとおり、両者は、相違点3ないし相違点5の点で相違する。また、本件訂正発明1と甲3第二発明とを対比すると、上記(5)ア(エ)で述べたとおり、両者は、相違点6ないし相違点7の点で相違する。そして、上記(5)ア(オ)aで述べたとおり、無効理由3の2における相違点6、相違点7及び相違点8は、それぞれ、無効理由3の1における相違点3、相違点4及び相違点5と同じである。

(イ)請求人は、審判請求書において、本件訂正発明1に関して、甲3(審決注:口頭審理陳述要領書(請求人)において甲3第一発明及び甲3第二発明に整理された。)では「常法」による「研磨」がなされているが、当時の研磨の常法とは、甲37に示されるような方法であり、甲37の研磨後の転位密度は5×10^(5)cm^(-3)であるところ、甲3においても「常法」として甲37記載の方法と同様の研磨が実施されていると考えられ、この結果、転位密度は5×10^(5)cm^(-2)程度になっていると考えられるから、無効理由3(審決注:口頭審理陳述要領書(請求人)において無効理由3の1とされた。)の相違点1は実質的には相違点ではない、と主張している。

(ウ)しかしながら、甲3第一発明及び甲3第二発明における「常法」による「研磨」が甲37に示されるような研磨法であることについて、請求人はそう主張しているだけで、何の根拠も示していない。
甲37には、研磨の具体的な方法は記載されておらず、請求人のいう「甲37に示されるような方法」が、具体的にどのような条件の下に研磨後の転位密度を5×10^(5)cm^(-3) 程度とする方法であるのかは不明であり、甲3第一発明又は甲3第二発明における「常法」による「研磨」が甲37における研磨と同じであるか否かも不明であるといわざるを得ない。

(エ)上記(ウ)からみて、相違点1は実質的な相違点ではないとする請求人の主張は当を得たものとはいえないから、これを採用することはできず、したがって、本件訂正発明1は甲3に記載された発明(甲3第一発明又は甲3第二発明)との対比において実質的な相違点を有するのであるから、本件訂正発明1が甲3に記載された発明であるということはできない。

イ 本件訂正発明2?3,5?10について
上記アのとおり、本件訂正発明1が甲3に記載された発明であるということはできないのであるから、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件訂正発明2?3,5?10が、甲3に記載された発明であるといえないことは当然である。

ウ 小括
したがって、請求人の主張する無効理由4及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

4 第2事件についてのまとめ
本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許に対する無効理由4は、理由がある。
また、当該各発明についての特許に対する無効理由0?無効理由3の2は、理由がない。

第11 第1事件についての当審の判断
1 本件訂正発明
上記第3でした認定のとおりである。

2 各甲号証に記載された事項
(1)甲2に記載された発明
甲2は、第2事件の甲3と同じである。そこで、当審は、上記第10の2(2)で認定した第2事件の甲3第一発明と甲3第二発明にそれぞれ同一となる、甲2の1発明と甲2の2発明を認定する。

(2)甲11に記載された発明
甲11は、第2事件の甲4と同じである。そこで、当審は、上記第10の2(3)で認定した第2事件の甲4発明と同一となる甲11発明を認定する。

(3)本件併合通知前に提出された甲各号証(甲1、甲2、甲3の3、甲11、甲13、甲14、甲23、甲35を除く)に記載された事項の概要
ア 甲3の1
甲3の2に記載された手法により算出したところ、n電極(裏面電極)のコンタクト抵抗が「0.05Ωcm^(2)」であったと仮定した場合、甲2に開示されている半導体レーザの発振閾値電圧は249Vであること等の報告が記載されている。

イ 甲3の2
被請求人が、請求人のホームページに掲載されている仕様書記載の動作電流と動作電圧から、請求人の半導体レーザダイオード製品のn電極のコンタクト抵抗値を推定した結果、該コンタクト抵抗値は0.05Ωcm^(2)以下であったこと等が記載されている。

ウ 甲4
III-N系化合物半導体装置のIII-N系化合物半導体基板の窒素終端面上に電極を有すること、及び、種基板の(0001)面上に成長したGaNがGa終端面とN終端面を有すること(【0013】、【0014】、図23)、及び、GaN基板中の不純物濃度が1×10^(17)cm^(-3)を超えると接触比抵抗が1×10^(-5)Ω・cm^(2)以下となり、その後は不純物濃度の増加とともに接触比抵抗は下がっていくこと(【0053】、図10)等が記載されている。

エ 甲5
サファイア基板側から所定位置まで研磨またはエッチングを行うことにより、サファイア基板、Al_(0.5)Ga_(0.5)バッファ層、第1GaN層、SiO_(2)膜、第2GaN層、第3GaN層の全部、および第4GaN層の一部を除去し、この除去により残った第4GaN層がn型のGaN基板1となり、このGaN基板の表面上にOMVPE法による結晶成長、エッチングによるリッジ形成、さらに埋め込み成長、および電極の蒸着を行うことにより半導体レーザを作製すること(【0034】?【0036】、図3)等が記載されている。

オ 甲6
HVPE法で種基板(例えば、サファイア基板)上に厚膜のGaNを積層し、その後、研磨でサファイア基板を剥き取りn型GaN基板を作製し、n型GaN基板上に成膜させて窒化物半導体発光ダイオードを製造したこと(【0010】、【0011】、図1)等が記載されている。

カ 甲7
HVPE法を使って得られたn型GaN基板の転位密度が10^(4)cm^(-2)以下であったこと(【0026】)等が記載されている。

キ 甲8
HVPE法等を使って得られた高品質のGaN基板の転位密度が従来10^(5)?10^(7)cm^(-2)であったこと(【0005】)、さらに転位密度を低減させた成長方法を採用したところGaN半導体結晶層の転位密度が10^(2)cm^(-2)まで低下したこと(【0028】、【0029】)等が記載されている。

ク 甲9
HVPE法を使って得られたGaN基板の表面及び裏面を研磨してエピタキシャル成長用の基板に加工し、断面TEM観察したところ、貫通転位密度は10^(4)cm^(-2)と見積もられたこと(【0043】)等が記載されている。

ケ 甲10
甲10は、第2事件の甲40と同じであるので、その認定のとおりである。

コ 甲12
甲12は、第2事件の甲59と同じであるので、その認定のとおりである。

サ 甲15
研磨加工の定義はあいまいで、明確な規定はなされていないというのが実情で、利用分野や時代により、また人により異なった捉え方がされている場合も多いこと(12頁14?18行)等が記載されている。

シ 甲16
n-GaAs基板の裏面をエッチングにより研磨し、n-GaAs基板の厚さを100μm程度とて、n-GaAs基板の裏面に蒸着法によりn電極を形成すること(【0058】)等が記載されている。

ス 甲17
化学機械研磨(chemical mechanical polishing:CMP)法を適用することに依り、基板の裏面を研磨して厚さを100μmにすること(【0041】)等が記載されている。

セ 甲18
窒化物基板の裏面を所定角度θだけ傾斜させる方法としては、例えば、先ず基板裏面をC面に形成した後、ラッピング装置などを用いてC面に対して斜め方向に研磨を施す方法が採用可能であること(【0018】)等が記載されている。

ソ 甲19
第1GaN層を研磨して除去することにより、第1GaN層において、サファイア基板のC面から所定の方向(以下、オフ方向と呼ぶ)に所定の角度(以下、オフ角度と呼ぶ)Bだけ傾斜した面(以下、オフ面と呼ぶ)を露出させること(【0081】)等が記載されている。

タ 甲20
甲20は、第2事件の甲27と同じであるので、その認定のとおりである。

チ 甲21
研磨によって平坦化されたGaN基板は、研磨時に物理的なダメージを受け、GaN基板表面には少なくとも結晶性の悪化したダメージ層が残るため、GaN基板上に高品質な窒化ガリウム系化合物半導体薄膜を形成するには、ダメージ層の除去が必要となること(【0078】)、このダメージ層の除去として、エッチング深さ1μmまでエッチングしたこと(【0080】)等が記載されている。

ツ 甲22
研磨された状態のGaNウエハーは、研磨粒子の機械的作用により引き起こされる表面下のダメージを有し、そのダメージは、その後のIII族窒化膜のエピタキシャル成長において欠陥を引き起こすことがあるため、該ダメージを除去するために、化学機械研磨(CMP)、反応性イオンエッチ、電気機械エッチ、または光電子機械エッチを使用すること(30頁21行?31頁2行)等が記載されている。

テ 甲24
HVPE法を使って得られたn型GaN基板の転位密度が10^(4)cm^(-2)以下であったこと(【0024】)等が記載されている。

ト 甲25
HVPE法を使って得られたn型GaN基板の転位密度が10^(4)cm^(-2)以下であったこと(【0011】)等が記載されている。

ナ 甲26
窒化物半導体基板は、一般に転位密度が低く、例えば、その転位密度は10^(7)cm^(-2)以下であること、したがって、窒化物系半導体基板を用いることにより、貫通転位密度の少ない(貫通転位密度が約3×10^(7)cm^(-2)以下)、結晶性のよい窒化物半導体発光素子を作成できること、擬似窒化物系半導体基板を用いる場合、他の結晶材料上に成長させられた窒化物半導体結晶膜の転位密度は10^(7)cm^(-2)以下であることが好ましいこと、貫通転位密度は透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができること(【0011】)等が記載されている。

ニ 甲27
表面転位密度が10^(8)cm^(-2)未満の窒化ガリウム系材料からなる下地層を用い、この上にクラッド層及び活性層を積層させた窒化物半導体素子(【0029】)等が記載されている。

ヌ 甲28の1
半導体レーザのチップ幅を300μmとしたこと(【0014】)等が記載されている。

ネ 甲28の2
幅250μmの窒化物系半導体レーザ素子(【0036】、【0037】)等が記載されている。

ノ 甲29
甲29は、第2事件の甲18と同じであるので、その認定のとおりである。

ハ 甲30
甲30は、第2事件の甲24と同じであるので、その認定のとおりである。

ヒ 甲31
W薄膜において、クラックの先端付近で密集した転位が存在していること(1268?1269頁「2.クラック近傍の転位」)等が記載されている。

フ 甲32
NaCl結晶において、転位は、最初のき裂先端から発生しているものが多くみられること(36頁左欄15行?右欄14行)等が記載されている。

ヘ 甲33
ATR用圧力管として使用されるZr-2.5Nb材平滑材において、刃状転位が集まってクラックを形成すること(9頁12行?16行中、特に13頁6?7行、65頁の図39)等が記載されている。

ホ 甲34
半導体レーザの作成方法において、ウエハ裏面にn側電極を付ける前にウエハを研磨し厚さ100μm程度にし、研磨後表面をエッチングできれいに整え、金の薄膜を真空蒸着で取り付けてn側電極プロセスを終了すること(115頁16行?21行)、劈開前にラッピングによって基板を削り、厚さを約100μmにし、ラッピング後の表面は非常にざらざらしていて表面状態が悪いので、全面を硫酸などのエッチング液で数μmさらにエッチングし、そのあとで裏面側の電極を蒸着すること(121頁10行?末行)等が記載されている。ただし、例示されているのはGaAs系である。

マ 甲36
GaNウェハは、平滑なエピレディ表面を得るため、Ga面とN面の両方を機械研磨とドライエッチ処理したこと(3254頁右欄6?8行)、n型GaN基板のGa面上に形成されたTi/Al電極の接触抵抗値が2×10^(-5)Ωcm^(2)であること(3255頁右欄1?5行)等が記載されている。

ミ 甲37
擬似バルクGaN基板の上で作られたエッジ終端のショットキー整流器は、接触電極面積に関して、そして、整流器の配置に解して逆方向降伏電圧が強く依存することを示し、小直径(75μm)のショットキー電極に対して、3mΩcm^(2)のON状態抵抗(RON)で、縦配置で測られるVBは?700Vであること(1555頁上方の要約)等が記載されている。

(4)本件併合通知後に提出されたその外の各甲号証(ただし、甲39,甲42、甲43,甲45を除く。)に記載された事項の概要
ア 甲40
第2事件の甲47・甲56と同じである。

イ 甲41
第2事件の甲8と同じである。

ウ 甲44
第2事件の甲63と同じである。

3 対比・判断
(1)無効理由2
事案にかんがみ、無効理由2から判断する。
ア 無効理由2は、甲11に記載された発明に基づく進歩性欠如であるところ、これは、第2事件の無効理由4と同じである。
したがって、当審は、無効理由2に対しても、第2事件の無効理由4についてした認定・判断をそのまま採用する。

イ 以上のとおりであるから、本件訂正発明1?3,5?10についての無効理由2は、理由がある。

(2)無効理由1
ア 無効理由1は、甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如であるところ、これは、第2事件の無効理由3の1、無効理由3の2及び無効理由4と同じである。
したがって、当審は、後記イ及びウに付加するもののほか、無効理由1に対しても、第2事件の無効理由3の1、無効理由3の2及び無効理由4についてした認定・判断をそのまま採用する。

イ 請求人の主張について
第2事件の無効理由3の1、無効理由3の2及び無効理由4では、甲3(第1事件における甲2である。)に記載された発明として甲3第一発明及び甲3第二発明を認定したが、以下においては、これらを総称して甲2発明という。
(ア)請求人は、口頭審理陳述要領書(請求人)において、「研磨」という用語は多義的であるから、これが使用されている文脈でその意味内容を判断しなければならないところ、「甲2発明の『研磨』(甲2の【0215】)は、『機械研磨』と『除去』の2工程を含んでおり、『機械研磨』は、本件特許発明1の『第2工程』に該当し、『除去』は、本件特許発明1の『第3工程』に該当する。よって、本件特許発明1の構成C『前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程』は、甲2発明との関係において一致点となる。」(口頭審理陳述要領書(請求人)4頁8行?9頁22行)と主張しているので、まず、これについて検討する。

(イ)請求人は、甲2の【0195】に、閾値電流の測定を行った半導体レーザのうち、閾値のバラツキの少ないものをA群のウエーハ、閾値にややバラツキがあるものをB群のウエーハとしたものについて、「DHエピタキシャル成長後のウエーハについて構造断面を調べてみた、この結果、A群ウエーハではGaN基板ウエーハ全断面にわたって低転位層となっているのに対し、B群ウエーハではGaN基板ウエーハ裏面付近に高転位層が存在していることが解った」と記載されており、【0195】が指摘している(A群ウエーハの)全断面には、TEM観察で機械研磨によって発生した転位が写っていなかったと考えざるを得ず、また、【0187】から【0190】までのレーザの製造過程において、【0189】に記載された「GaN基板を研磨し、劈開可能な厚さ(通常60μm?100μm)に仕上げた」との説明以外に機械研磨によって発生した転位を除去する工程が含まれていないから、【0195】で確認したA群ウエーハのGaN基板において全断面にわたって低転位層となっている、すなわち、機械研磨によって発生した転位が存在しない理由は、【0189】における「研磨」を行うことにより、機械研磨によって発生した転位を除去されていること、すなわち、甲2の「研磨」が本件特許発明1の機械研磨のみならず、機械研磨によって発生した転位を除去する手段も含んでいるとしか考えようがない、と主張する(口頭審理陳述要領書(請求人)4頁17行?6頁9行)。

(ウ)しかし、甲2の【0196】、【0197】に、「高転位層がどのようにDHエピタキシャル層に影響し、さらにレーザ閾値に影響するかについては現状ではよく解らない。しかし、・・・(略)・・・GaN基板ウエーハに高転位層が存在した場合には、DH構造エピタキシャル成長や後のプロセスにおける高温加熱時に高転位層で転位が反応したり、高転位層でウエーハ面と水平に折れ曲がった刃状転位(審決注:【0111】でいう「A転位」)が再び、層厚に方向に折れ曲がってDH構造エピタキシャルに到達するためと考える。10ないし20個に1つの割合で閾値の大きなものがでる理由は図9からも予想されることであるがストライプ選択成長マスクの周期で転位密度の変化がGaN基板エピタキシャル層の高転位密度層を含む初期成長層には存在し、この周期変化に応じた特に高密度の領域から延びた転位群が電流狭窄用ストライプ活性層領域に到達した場合に生じると考えられる。従って、製造歩留まりや特性検査工数を考えた場合には高転位密度層を完全に除去したGaN基板を用意してDH構造エピタキシャル成長を行うことが好ましい。すなわち、半導体レーザの作製に用いるGaN基板としては、サファイア基板、下地結晶膜、マスク、マスク近傍の高転位密度層までを全て取り除いたものが好ましい」と記載されていることに鑑みると、【0195】の「構造断面を調べてみた・・・結果、A群のウエーハではGaN基板ウエーハ全断面にわたって低転位層となっている・・・ことが解った」との記載は、A群のGaN基板ウエーハでは高転位密度層が完全に除去されていることが解ったとの意味に止まり、該記載を機械研磨によって発生した転位が存在しないことが解ったとの意味に解することはできない。

(エ)したがって A群ウエーハのGaN基板において機械研磨によって発生した転位が存在しないことを前提として、機械研磨によって発生した転位を除去する手段を甲2の「研磨」が含んでいるとする上記bの請求人の主張は、当該前提を誤っているから、これを採用することはできない。

(オ)甲2発明は、サファイア基板法の場合は「発光素子構造を形成したサファイア基板を研磨器にセットし、前記サファイア基板、下地結晶膜、マスク及びGaN結晶膜の一部を研磨してn型GaN結晶膜を露出させ、露出したGaN結晶膜の面、すなわち素子裏面側にチタンとアルミニウムからなるn型電極を形成」する工程を含むものであるが、当該工程中の「研磨」について、甲2の【0217】に「研磨を行わずにドライエッチングにより・・・除去して」と記載されていることから、当該「研磨」には、少なくとも、ドライエッチングは含まれていないと解される。
また、GaN基板法の場合は「p型電極面で研磨用重しに貼り付け、GaN基板の裏面を研磨し、通常60μm?100μmの劈開可能な厚さに仕上げ、チタンとアルミニウムからなるn型電極を前記裏面に形成する」工程を含み、GaN結晶膜の「研磨」はサファイア基板を「研磨器にセット」して行われるものであり、GaN基板の裏面の「研磨」は、GaN基板を「研磨用重しに貼り付け」て行われるものである。
してみると、甲2発明における「研磨」は、研磨器にセットして行い、かつ、ドライエッチングを含まないものであるか、又は、研磨用重しに貼り付けて行われるものであるから、技術常識から、このような「研磨」としては、機械研磨や化学機械研磨が考えられる。しかしながら、機械研磨や化学機械研磨が、本件特許発明1の「第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程」及び「第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程」に相当しないことは明らかである。

(カ)さらに、請求人は、甲2の【0200】に「GaN基板の成長最上層を研磨して成長縞やうねりを取り除いてから、DH構造形成のためのエピタキシャル成長を行った。すなわち、ここでは、GaN基板の成長終了面を研磨して平滑化した表面を主面としてDH構造形成のためのエピタキシャル成長を行った。このようにして作製されたGaN基板をウエーハに用いて作製されたストライプレーザの閾値はバラツキが小さく良好なレーザ特性が得られた」との記載があり、「研磨」して平滑化した表面を主面としてエピタキシャル成長を行ってDH構造を形成したところ、閾値のバラツキが小さく良好なレーザ特性が得られたのであるから、「研磨」のときに転位が取り除かれていることが明らかであり、したがって、少なくとも、【0200】の「研磨」には転位の「除去」工程が含まれると主張する(口頭審理における主張)。
しかし、仮に、【0200】の「研磨」には転位の「除去」工程が含まれるとしても、だからといって、直ちに、【0189】の「p型電極面で研磨用重しに貼り付け」て行う「GaN基板の裏面」の「研磨」や【0215】の「サファイア基板を研磨器にセット」して行うGaN結晶膜の「研磨」にも転位の「除去」工程が含まれることにはならないから、上記アの結論には影響を与えない。

(キ)以上のとおり、甲2発明が相違点1を備えるとの主張は採用できない。

ウ 他の証拠について
甲3の1、甲3の2、甲4?甲10、甲12、甲15?甲22、甲24?甲34、甲36、甲37の記載事項は、上記2(3)で認定したとおりである。
しかしながら、無効理由1は、甲2発明を出発点とした容易想到性に係るものであるところ、第2事件の無効理由3の1において説示したとおり、甲2発明に接した当業者は、電極形成面において研磨により発生した転位は、わざわざこれを除去する必要があるほど電極形成面での電気的特性を悪化させるものではないので、甲2発明では研磨により発生した転位を含む第一半導体層の裏面近傍の領域を除去していないと理解するものと認められる。
そうである以上、甲2発明に接した当業者は、上記の各記載事項を踏まえたとしても、それを採用する動機付けを欠き、よって、甲2発明から出発して相違点1に係る構成に至ることはないというべきである。

エ 以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許を無効にすることができない。

4 第1事件についてのまとめ
本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許に対する無効理由2は、理由がある。
他方、当該各請求項に係る発明についての特許に対する無効理由1は、理由がない。

第12 むすび
以上のとおりであるから、第1事件及び第2事件ともに、次のとおりとなる。
本件特許の請求項1?3,5?10に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とされるべきである。
本件特許の請求項4は、本件訂正により削除されたから、当該請求項について請求人がした無効審判請求は、これを却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その10分の1を請求人の負担とし、10分の9を被請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型の窒化物系半導体層および窒化物系半導体基板のいずれかからなる第1半導体層の上面上に、活性層を含む窒化物半導体層からなる第2半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工する第2工程と(ただし、同第2工程の終了時に前記第1半導体層の裏面に発生している転位は、転位密度が1×10^(10)cm^(-2)程度であっても、当該裏面にn側電極を形成すると、窒化物系半導体素子の動作を困難とする高いコンタクト抵抗が生じる作用を有する結晶欠陥であり)、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記研磨により発生した転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域を0.5μm以上除去して前記第1半導体層の裏面の転位密度を1×10^(9)cm^(-2)以下とする第3工程と、
その後、前記転位を含む前記第1半導体層の裏面近傍の領域が除去された第1半導体層の裏面上に、n側電極を形成する第4工程とを備え、
前記第1半導体層と前記n側電極とのコンタクト抵抗を0.05Ωcm^(2)以下とする、窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1半導体層の裏面は、前記第1半導体層の窒素面である、請求項1に記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程により、前記転位密度は、1×10^(6)cm^(-2)以下に低減される、請求項1又は2に記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記基板は、成長用基板上に成長することを利用して形成されている、請求項1?3のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程によって前記第1半導体層の上面上に前記第2半導体層を形成した後に、前記第2工程によって前記第1半導体層の裏面を研磨することにより厚み加工を行う、請求項1?3又は5のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1半導体層及び前記第2半導体層を劈開することにより、共振器端面を形成する第5工程をさらに備える、請求項1?3、5又は6のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1半導体層は、HVPE法により形成される、請求項1?3又は5?7のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2半導体層は、MOCVD法により形成される、請求項1?3又は5?8のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1半導体層は、前記第2工程により180μm以下の厚みになるまで厚み加工される、請求項1?3又は5?9のいずれかに記載の窒化物系半導体素子の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-11-09 
結審通知日 2018-11-13 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2008-76844(P2008-76844)
審決分類 P 1 113・ 841- ZAA (H01S)
P 1 113・ 121- ZAA (H01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橿本 英吾  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
山村 浩
登録日 2008-09-05 
登録番号 特許第4180107号(P4180107)
発明の名称 窒化物系半導体素子の製造方法  
代理人 尾崎 英男  
代理人 ▲廣▼瀬 文雄  
代理人 堀籠 佳典  
代理人 今田 瞳  
代理人 加治 梓子  
代理人 古城 春実  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 ▲廣▼瀬 文雄  
代理人 豊岡 静男  
代理人 蟹田 昌之  
代理人 松田 一弘  
代理人 尾崎 英男  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 牧野 知彦  
代理人 豊岡 静男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ