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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F25B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F25B
管理番号 1349502
審判番号 不服2018-2617  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-23 
確定日 2019-03-26 
事件の表示 特願2016- 75447号「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成28年8月12日出願公開,特開2016-145708号,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 経緯の概略
本願は,平成24年11月6日に出願された特願2012-244492号の一部を,平成28年4月4日に新たな特許出願としたものであって,平成28年4月4日に手続補正書が提出され,平成29年3月10日付けで拒絶理由が通知され,平成29年6月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成29年11月27日付けで拒絶査定がなされた。これに対し,平成30年2月23日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,当審にて平成30年11月19日付けで拒絶理由が通知され,平成31年1月18日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下,請求項の番号に従い,「本願発明1」などといい,総称して「本願発明」という。)は,平成31年1月18日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
室内機と室外機とを配管を介して接続し,冷媒を循環させる空気調和機において,
前記冷媒として,R32単独の冷媒またはR32を70質量パーセント以上含む混合冷媒を使用し,
前記冷媒を圧縮する圧縮機と,
前記圧縮機の吸入側に接続され,液冷媒を蓄積するアキュムレータと,
前記圧縮機の吐出側に接続され,前記圧縮機から吐出された冷媒中の潤滑油を分離して前記圧縮機の吸入側に回収する油分離器と,
前記油分離器により分離された潤滑油を前記アキュムレータへ戻す潤滑油戻し手段と,を備え,
前記アキュムレータには,液冷媒と潤滑油の二層分離が生じうる低温域において液冷媒と潤滑油の二層分離が生じないように潤滑油の混合率を40%以上とした冷媒が蓄積される,空気調和機。
【請求項2】
前記潤滑油の混合率は50%以上である,請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記室外機に設けられる室外熱交換器と,
前記室外熱交換器で凝縮された一部の冷媒が分岐して流入する過冷却バイパス膨張弁と,
前記過冷却バイパス膨張弁で減圧された前記一部の冷媒と分岐しなかった他の冷媒とを熱交換させる過冷却熱交換器と,
前記過冷却熱交換器を通過した前記一部の冷媒を前記室外機の有する前記圧縮機の吸入側に戻す戻し管路と,を備える,請求項1に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記室内機または前記室外機は複数台接続されている,請求項1に記載の空気調和機。」

第3 原査定の概要
原査定(平成29年11月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願発明は,以下の引用文献1?4に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献)
1 特開2002-38176号公報
2 特開2001-181667号公報
3 特開2004-183913号公報
4 特開2006-170521号公報(周知技術を示す文献)

第4 当審にて通知した拒絶の理由の概要
当審にて通知した拒絶の理由の概要は次のとおりである。
1 本願発明は,以下の引用文献1?4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献)
1 特開2005-83704号公報(当審において新たに引用した文献)
2 特開2002-38176号公報(原査定の引用文献1)
3 特開2004-183913号公報(同引用文献3)
4 特開2006-170521号公報(同引用文献4)

2 本件出願は,特許請求の範囲の記載が次の点で不備であり,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。すなわち,本願発明は,発明の詳細な説明に開示された範囲を超えるものであって,発明の詳細な説明に裏付けがあるものとは認められない。

3 本件出願は,特許請求の範囲の請求項5,6の記載が明確でないから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

第5 当審にて通知した拒絶の理由についての判断
1 理由1(29条2項)について
(1) 引用文献,引用発明等
ア 引用文献1
(ア) 引用文献1には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
圧縮機,四方弁,室内熱交換器,膨張弁,室外熱交換器,アキュームレータを環状に接続し,冷媒と冷凍機油を封入した冷凍サイクルにおいて,前記圧縮機の吐出配管と吸入配管とをバイパス用二方弁を介して接続するバイパス回路と,前記アキュームレータ内の液冷媒の温度を推定し,推定した前記アキュームレータ内の液冷媒温度に基づいて前記バイパス用ニ方弁を所定時間開けるよう制御する制御手段と,を有することを特徴とする冷凍サイクル。
【請求項2】
さらに,圧縮機と四方弁の間に冷媒ガスと冷媒液および冷凍機油を分離する気液分離器を設け,前記制御手段によって前記バイパス用ニ方弁が開いている場合は,前記気液分離器で分離された液冷媒と冷凍機油はバイパス回路を介して圧縮機の吸入配管に戻す一方,ガス冷媒は四方弁を介し冷媒回路を循環させることを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル。」
・「【0001】
本発明は,空気調和機等の冷凍サイクルに関するものである。」
・「【0004】
しかし,前記のような従来の冷凍サイクルにおいて,冷凍機油との相互溶解性が低下する例えば,R32冷媒を少なくとも50%以上含む混合冷媒,あるいはR32単体冷媒を冷凍機油と使用すると,冷凍機油の低温側二層分離温度が-20℃を上回り,通常の空調機の使用条件において低圧側で二層分離状態が発生する。このとき,圧縮機吸入部にアキュームレータを有していると,アキュームレータ内は下部に液冷媒,上部に冷凍機油の二層分離状態となり,アキュームレータ内吸入配管の油戻し穴からは油濃度の薄い液冷媒が圧縮機に戻り,ほとんどの冷凍機油はアキュームレータ上部に溜まりこんでしまう。これにより,圧縮機内の冷凍機油が不足して圧縮機摺動部の潤滑不良による焼付き,異常磨耗等が発生し圧縮機信頼性に課題があった。
【0005】
本発明は,かかる課題を解決するためになされたもので,アキュームレータ内で冷媒と冷凍機油との二層分離状態が発生した場合でも,圧縮機への返油量を確保し,信頼性の高い冷凍サイクル,空気調和機を提供することを目的とする。」
・「【0007】
アキュームレータ内の液冷媒の温度に基づいて所定時間,圧縮機の吐出配管と吸入配管とを接続するバイパス回路のバイパス用バイパス用ニ方弁を開けることにより,圧縮機から吐出した大量の冷凍機油は,バイパス回路を通って圧縮機の吸入配管に戻るため,,アキュームレータ内,低圧側で冷媒と冷凍機油との二層分離状態が発生し得る例えば,R32冷媒を少なくとも50%以上含む混合冷媒あるいはR32単体冷媒とこの冷媒に対して低温側二層分離温度が-20℃を上回る冷凍機油等を封入した場合でも,アキュームレータ内の液冷媒の温度に基づいて圧縮機内の冷凍機油の減少を抑制することが可能となるとともに,アキュームレータに流入して二層分離し滞留する冷凍機油の量を減少させることが可能となり,圧縮機摺動部の潤滑不良による焼付き,異常磨耗等を防止し信頼性の高い冷凍サイクルを得ることが可能となる。」
・「【0009】
図1において,1は圧縮機,2は四方弁,3は室外熱交換器,4は膨張弁,5は室内熱交換器,6はアキュームレータ,7はアキュームレータ内吸入管8に設けられた油戻し穴,9はアキュームレータ6内に貯留された液冷媒,10は圧縮機1の吐出配管と吸入配管を接続するバイパス回路,11はバイパス回路を開閉するためのバイパス用二方弁,21はバイパス用二方弁11の制御装置,22は室外熱交換器3に設けられ,暖房運転時に蒸発温度を検知するサーミスタである。そして,この冷凍サイクルには,R32冷媒を少なくとも50%以上含む混合冷媒あるいはR32単体冷媒等と,この冷媒に対して低温側二層分離温度が-20℃を上回る冷凍機油等とを用いて説明するが,本発明は,この冷媒および冷凍機油に限らず,これら以外またはこれ以外の配合のの冷媒および冷凍機油でも良く,アキュームレータ6内にて冷媒と冷凍機油との二層分離状態が発生する,あるいは発生する可能性のある冷媒および冷凍機油であれば良い。」
・「【0012】
ここで,本冷凍サイクルは,冷媒としてR32冷媒を少なくとも50%以上含む混合冷媒あるいはR32単体冷媒を使用することを前提としている。R32冷媒は,冷凍機油との相互溶解性が低下する特性を有しており,図17に示すように,従来,HFC冷媒に対し相溶油として認知されているエステル油との組合せにおける低温側二層分離温度は,R32の比率が小さいR407C冷媒(R32:R125:R134a=23:25:52重量%)に比べて,R32の比率の大きいR410A(R32:R125=50:50重量%)やR32冷媒単体のほうが高くなる特性となっており,空調機として使用される温度帯である-20℃以上の領域においても二層分離が発生する可能性がある。
【0013】
また,本冷凍サイクルの場合,圧縮機1の吸入部に液冷媒を貯留するアキュームレータ6を有しているが,特に,暖房起動運転時は大量の冷凍機油が圧縮機1より流出し,冷媒回路をまわってアキュームレータ6に流入するが,外気条件等によってはアキュームレータ6内の液冷媒9の温度が低温側二層分離温度以下となってしまうため,アキュームレータ6内では液冷媒9と冷凍機油が二層分離状態となり,密度の小さい冷凍機油は液冷媒9の上部に滞留する。このため,油戻し穴7からは極めて油濃度の小さい液冷媒9が圧縮機1に戻ることになり,圧縮機1内は冷凍機油が不足する状態となる。特に,圧縮機1が一定速タイプにおいては,圧縮機1の起動直後は冷凍サイクルの低圧は大きくアンダーシュートするため,定常運転時よりも低い圧力となり,アキュームレータ6内の液冷媒温度はより低くなり,二層分離状態が発生しやすくなる。
【0014】
そこで,本実施の形態1の場合,圧縮機1の吐出配管と吸入配管とをバイパス用二方弁11を介して接続するバイパス回路10を設けると共に,次に説明するように,制御装置21が蒸発温度Tevaよりアキュームレータ6内の液冷媒温度Taccを推定して,所定時間バイパス用二方弁11を開けるよう制御ように制御する。」
・「【0017】
従って,本実施の形態1では,アキュームレータ6内の液冷媒温度Taccが低温側二層分離温度を下回わる場合は,バイパス用二方弁11を所定時間開く返油制御により,圧縮機1から吐出した大量の冷凍機油をバイパス回路10を通って圧縮機1の吸入配管に戻るので,圧縮機1内の冷凍機油の減少を抑制することが可能となるとともに,アキュームレータ6に流入して二層分離し滞留する冷凍機油の量を減少させることが可能となり,圧縮機1の摺動部の潤滑不良による焼付き,異常磨耗等を防止し信頼性の高い冷凍サイクルを得ることが可能となる。」
・「【0037】
実施の形態5.
次に,本発明の実施の形態5に係る冷凍サイクルを説明する。
図11は,本発明の実施の形態5に係る例えば空気調和機の冷凍サイクルを示すブロック図である。図において,12は圧縮機1から吐出される冷媒と冷凍機油を分離する気液分離器であり,圧縮機1と四方弁2との間に設け,かつ,気液分離機8の底部と圧縮機1の吸入配管をバイパス用二方弁11を介して接続するバイパス回路10を有する。なお,本実施の形態5では,制御装置21がアキュームレータ6内の液冷媒温度Taccを推定して,推定したアキュームレータ6内の液冷媒温度Taccが低温側二層分離温度を下回る場合のみ,バイパス用二方弁11を所定時間開けるよう制御するが,制御装置21によるアキュームレータ6内の液冷媒温度Taccの推定方法は,前記実施の形態1?4のどれでも良いので,図11では,一例として,図1に示す実施の形態1における外熱交換器3に設けられ蒸発温度サーミスタ22が暖房運転時に検知した蒸発温度Tevaに基づく液冷媒温度Taccの推定方法の例を示している。」
・「【0039】
圧縮機起動後,圧縮された高温高圧の二相冷媒は,圧縮機1内部で攪拌された冷凍機油とともに圧縮機1から吐出して気液分離器12に入り,ここで,冷媒ガスと冷媒液および冷凍機油は分離される。ここで,前記実施の形態1で上述したように,制御装置21はアキュームレータ6内の液冷媒温度Taccを推定して,推定したアキュームレータ6内の液冷媒温度Taccが二層分離温度を下回る場合は,所定時間バイパス用二方弁11が開くように制御するので,気液分離器12で分離された液冷媒と冷凍機油は,バイパス回路10を通って圧縮機1の吸入配管に戻る一方,ガス冷媒は四方弁2へ流れ,四方弁2を介し冷媒回路を循環することになる。
【0040】
従って,本実施の形態5によれば,前記実施の形態1?4の構成に加えて,圧縮機1から吐出される冷媒と冷凍機油を分離する気液分離器12を設け,アキュームレータ6内の液冷媒温度Taccが低温側二層分離温度を下回わる場合は,バイパス用二方弁11を所定時間開く返油制御により,圧縮機1から吐出した大量の冷凍機油のほとんどが気液分離器12によって確実に分離されて圧縮機1に戻るようにしたので,アキュームレータ6内の液冷媒温度が二層分離状態を下回る場合においても,アキュームレータ6に滞留する冷凍機油の量は極めて少なくなり,圧縮機1内の冷凍機油の減少を防止し,圧縮機1の摺動部の潤滑不良による焼付き,異常磨耗等を防止する信頼性の高い冷凍サイクルを得ることが可能となる。」
・「【図11】


・「【図17】


(イ) 上記の記載及び図面の記載からみて,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
(引用発明1)
「室内熱交換器5と室外熱交換器3とを配管を介して接続し,冷媒を循環させる空気調和機において,
前記冷媒として,R32冷媒を少なくとも50%以上含む混合冷媒あるいはR32単体冷媒を使用し,
前記冷媒を圧縮する圧縮機1と,
前記圧縮機1の吸入側に接続され,液冷媒を蓄積するアキュムレータ6と,
前記圧縮機1の吐出側に接続され,前記圧縮機1から吐出された冷媒中の液冷媒と冷凍機油を分離して前記圧縮機1の吸入側に回収する気液分離器12と,
前記気液分離器12により分離された液冷媒と冷凍機油を前記圧縮機1の吸入側に戻すバイパス回路10及びバイパス用二方弁11と,を備え,
前記アキュムレータ6内の液冷媒の温度を推定し,推定した前記アキュムレータ6内の液冷媒の温度に基づいて前記バイパス用二方弁11を所定時間開けるよう制御する,空気調和機。」
イ 引用文献2
引用文献2には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】 基油として,(a)40℃における動粘度が3?500mm^(2) /sのポリビニルエーテル系誘導体と,基油全量に基づき,(b)40℃における動粘度3?500mm^(2) /sのポリカーボネート系含酸素化合物0.1重量%以上60重量%未満を含む冷凍機用潤滑油組成物であって,塩素を有しない炭素数1の冷媒に対し,合計量に基づき3?50重量%の範囲で含有させた場合,そのいずれかの含有率において,低温側の2層分離温度が5℃以下であることを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,冷凍機用潤滑油組成物及びそれを用いた冷凍機用作動流体組成物に関する。さらに詳しくは,本発明は,塩素を有しない炭素数1の冷媒,特にジフルオロメタンに対して優れた相溶性を示す冷凍機用潤滑油組成物,及びこの冷凍機用潤滑油組成物と上記冷媒を含み,耐摩耗性,潤滑特性,電気特性及び安定性などに優れた冷凍機用作動流体組成物に関するものである。」
・「【0002】
【従来の技術】一般に圧縮型冷凍機は少なくとも圧縮機,凝縮器,膨張機構(膨張弁など),蒸発器,あるいは更に乾燥機から構成され,冷媒と潤滑油の混合液体がこの密閉された系内を循環する構造となっている。このような圧縮型冷凍機においては,装置の種類にもよるが,一般に,圧縮機内では高温,冷却器内では低温となるので,冷媒と潤滑油は低温から高温まで幅広い温度範囲内で相分離することなく,この系内を循環することが必要である。一般に,冷媒と潤滑油とは低温側と高温側に相分離する領域を有し,そして,低温側の分離領域の最高温度としては,5℃以下が望ましく,3℃以下が好ましい。より好ましくは0℃以下,さらに好ましくは-2℃以下,もっとも好ましくは-5℃以下である。もし,冷凍機の運転中に相分離が生じると,装置の寿命や効率に著しい悪影響を及ぼす。例えば,圧縮機部分で冷媒と潤滑油の相分離が生じると,可動部が潤滑不良となって,焼き付きなどを起こして装置の寿命を著しく短くし,一方蒸発器内で相分離が生じると,粘度の高い潤滑油が存在するため熱交換の効率低下をもたらす。
【0003】従来,圧縮型冷凍機,特に空気調整器の冷媒としては,クロロジフルオロメタン(以下,R22と称する。)やクロロジフルオロメタンとクロロペンタフルオロエタンの重量比48.8:51.2の混合物(以下,R502と称する。)が多く用いられ,また潤滑油としては,前記の要求特性を満たす種々の鉱油や合成油が用いられてきた。しかしながら,R22やR502は,成層圏に存在するオゾン層を破壊するなど環境汚染をもたらすおそれがあることから,最近,世界的にその規制が厳しくなりつつある。そのため,新しい冷媒として1,1,1,2-テトラフルオロエタン,ジフルオロメタン,ペンタフルオロエタン,1,1,1-トリフルオロエタン(以下,それぞれR134a,R32,R125,R143aと称することがある。)に代表されるハイドロフルオロカーボンが注目されるようになってきた。このハイドロフルオロカーボン,特にR134a,R32,R125,R143aはオゾン層を破壊するおそれがなく,圧縮型冷凍機用冷媒として好ましいものである。
【0004】また,省エネルギーの観点から,さらなる対応が求められるようになり,上記新しい冷媒の中で,特にジフルオロメタン(R32)が注目されている。しかしながら,このR32冷媒は,従来の冷媒と比較して,使用圧力及び温度が共に高く,新たに潤滑上の問題が生じる可能性が高い。これまで,前記の新しい冷媒用として検討されてきた冷凍機用潤滑油においては,該R32に対して充分な相溶性を示すものはないのが実状であり,R134a,R407c,(R32とR125とR134aとの重量比23:24:52の混合物),R410A(R32とR125との重量比50:50の混合物)と同等レベルの相溶性を示す冷凍機用潤滑油の開発が待たれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,このような状況下で,塩素を有しない炭素数1の冷媒,特にジフルオロメタン(R32)に対して優れた相溶性を示す冷凍機用潤滑油組成物,及びこの冷凍機用潤滑油組成物と上記冷媒を含み,耐摩耗性,潤滑特性及び安定性などに優れた冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とするものである。」
・「【0056】次に,本発明冷凍機用作動流体組成物は,(A)塩素を有しない炭素数1の冷媒,及び(B)前述の本発明の冷凍機用潤滑油組成物を含むものである。上記(A)成分の塩素を有しない炭素数1の冷媒としては,ジフルオロメタン(R32)を挙げることができる。該(A)成分と(B)成分との含有割合は,通常重量比で,5:95ないし99:1,好ましくは10:90ないし99:1の範囲で選定される。冷媒の量が上記範囲より少ない場合は冷凍能力の低下が見られ,また上記範囲よりも多い場合は潤滑性能が低下し好ましくない。本発明の冷凍機用潤滑油組成物は,種々の冷凍機に使用可能であるが,特に,圧縮型冷凍機の圧縮式冷凍サイクルに好ましく適用できる。例えば,特開平4-183788号公報,同8-259975号公報,同8-240362号公報,同8-253779号公報,同8-240352号公報,同5-17792号公報,同8-226717号公報,及び同8-231972号公報などに開示されている冷凍装置に好適であり,本発明の冷凍機用潤滑油組成物は,例えば添付図1?3の各々で示されるような油分離器及び/又はホットガスラインを有する圧縮式冷凍サイクルに適用する場合にもその効果を有効に奏する。なお,図1は,油分離器及びホットガスラインを有する「圧縮機-凝縮機-膨張弁-蒸発機」の圧縮式冷凍サイクルの一例を示す流れ図,図2は,油分離器を有する「圧縮機-凝縮機-膨張弁-蒸発機」の圧縮式冷凍サイクルの一例を示す流れ図で,図3は,ホットガスラインを有する「圧縮機-凝縮機-膨張弁-蒸発機」の圧縮式冷凍サイクルの一例を示す流れ図である。符号1は圧縮機,2は凝縮機,3は膨張弁,4は蒸発機,5は油分離器,6はホットガスライン,7はホットガスライン用弁である。通常,圧縮式冷凍サイクルは,図4で示すような圧縮機-凝縮機-膨張弁-蒸発機からなる。また,冷凍機用の潤滑油は,一般に,冷凍機に使用される冷媒と相溶性が良好なものが使用される。しかし,上記の冷凍サイクルで(A)成分を主成分とする冷媒を用いたときに,冷凍機を一般に使用されている冷凍機油で潤滑すると耐摩耗性が不十分であったり,安定性が不足して長期安定使用ができなかった。特に,電気冷蔵庫や小型エアコンディショナーなどの冷凍サイクルのように,膨張弁としてキャピラリーチューブを使用する場合にこの傾向が著しい。本発明の冷凍機用潤滑油組成物は,油分離器及び/又はホットガスラインを有する圧縮式冷凍サイクルを(A)成分を主成分とする冷媒使用して運転する場合にも,冷凍機用潤滑油組成物として有効である。
【0057】本発明の冷凍機用作動流体組成物においては,前記(A)成分と(B)成分との相溶性が極めてよく,特に低温側分離領域の最高温度としては5℃以下であり,好ましくは3℃以下,より好ましくは0℃以下,さらに好ましくは-2℃以下,もっとも好ましくは-5℃以下である。本発明の冷凍機用作動流体組成物は,このように,低温側の分離領域の最高温度が5℃以下であるので,冷凍機の運転中に低温側において相分離することがなく,冷凍機の安定した運転を可能とする。」
・「


ウ 引用文献3
引用文献3には,以下の事項が記載されている。
・「【0011】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
以下,本発明の実施の形態1に係る空気調和機を,図1?図4に基づいて説明する。
図1はこの発明の空気調和機の構成を示す冷媒回路図である。室外ユニット1に液管3およびガス管4を介して複数台の室内ユニットが並列の配管接続されている。また,この冷凍サイクルにおいては冷媒に非共沸混合冷媒であるR407C冷媒(R32が23wt%,R125が25wt%,R134aが52wt%の混合冷媒)を用いている。
【0012】
室外ユニット1には,低段側圧縮機5から高段側圧縮機6へ直列に接続され,それぞれが独立に回転数が調整可能な2つの圧縮機を有している。この高段側圧縮機6と四方弁9との間の吐出側配管に設けられた油分離器7から分離した油を戻すために,油分離器7下部から接続された油戻し管8がキャピラリチューブなどの減圧手段を介して低段側圧縮機5の吸入側に接続される。また,低段側圧縮機5および高段側圧縮機6により圧縮されたガス冷媒は高段側圧縮機6の吐出側配管より油分離器7を経て四方弁9に流入し,そこから暖房運転の際にはガス管4を介して室内ユニット2側へ流れる。一方,冷房運転の際には四方弁9を切換えて(図1中の点線),冷媒は暖房運転時に蒸発器そして冷房運転時に凝縮器となる室外熱交換器10へ導かれる。四方弁9からの第4の配管は低段側圧縮機5の吸入側配管に接続されたアキュムレータ16に接続されている。
【0013】
室内ユニット2の液側配管に液管3を介して接続した室外ユニット1の冷凍サイクル液側配管には,主流の冷媒の一部を分岐し,その分岐流を第2減圧装置であるインジェクション膨張弁12を介して主流の冷媒と熱交換を行う中間冷却器11を設けている。この中間冷却器11は例えば二重管熱交換器などで構成する。この分岐した冷媒はインジェクション膨張弁12により減圧された後,中間冷却器11の中間圧力側管路出口から高段側圧縮機6の吸入に接続されたインジェクション管15で圧縮機へ戻される。また,室外熱交換器10と中間冷却器11の間には,第1減圧装置である暖房時の電動膨張弁13と中間冷却器11から室外熱交換器10への流れを阻止する逆止弁14が並列配管接続にて設置構成されている。なお,上記アキュムレータ16は冷凍サイクル運転中の余剰冷媒を貯留する機能を有する。
【0014】
複数台の室内ユニット2は,それぞれガス管4側から配管接続され,暖房運転時に凝縮器そして冷房運転時に蒸発器となる室内熱交換器18と冷房時の第1減圧装置である流量調整手段の電動膨張弁17が順に直列接続し,そして室外ユニット1からの液管3へ接続される構成である。」
・「【図1】


エ 引用文献4
引用文献4には,以下の事項が記載されている。
・「【0014】
[1]以下,この発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように,複数台の室外ユニットA1,A2および複数台の室内ユニットB1,B2,B3,B4が相互に配管接続されて,マルチタイプの空気調和機が構成されている。
【0015】
室外ユニットA1において,1a,1bは密閉ケース内空間が高圧冷媒で満たされる高圧型のロータリ圧縮機で,冷媒を吸込んで圧縮し,圧縮した冷媒を密閉ケースの吐出口から吐出する。これら圧縮機1a,1bは密閉ケースで被われており,その密閉ケースには内部の圧縮機構部の摺動部における各部品の潤滑作用を保つために冷凍機油Lが収容されている。この冷凍機油Lの一部は,冷媒の吐出に伴い,密閉ケースから流出する。
【0016】
圧縮機1a,1bから吐出される冷媒(および冷凍機油Lの一部)は,吐出管2a,2bおよびその吐出管2bに設けられている逆流防止用の逆止弁3a,3bを介して,1つの合流管(高圧側配管)4に流れる。合流管4に流れた冷媒は,油分離器5,逆止弁6,および四方弁7を介して室外熱交換器8に流れる。油分離器5は,冷媒に含まれている冷凍機油Lを分離して収容する。
【0017】
室外熱交換器8に流れた冷媒は,外気と熱交換して液化する。この液冷媒が複数の室内ユニットB1,B2,B3,B4に流れる。これら室内ユニットは,膨張弁31および室内熱交換器32を有している。各室内熱交換器32に流れた液冷媒は,室内空気と熱交換してガス化する。このガス冷媒は,各室内熱交換器32から,室外ユニットA1に戻り,上記四方弁7およびアキュームレータ9を介して,吸込管(低圧側配管)10a,10bに導かれる。吸込管10a,10bに導かれた冷媒は,気液分離器(サクションカップともいう)11a,11bを介して圧縮機1a,1bに吸込まれる。
【0018】
室外ユニットA2も同じ構成であり,室外ユニットA1,A2の並列回路に室内ユニットB1,B2,B3,B4が配管接続されたヒートポンプ式の冷凍サイクルが構成されている。」
・「【0022】
上記油分離器5の底部から,同油分離器5が設けられている室外ユニットA1の吸込管10a,10bにかけて,油戻し用の第1油管15が接続されている。油管15には,開閉弁16および減圧用のキャピラリチューブ17が設けられている。また,油分離器5の底部から,同油分離器15が設けられている室外ユニットA1とは別の室外ユニットA2の吸込管10a,10bにかけて,油戻し用の第2油管18a,18bが接続されている。油管18aには,室外ユニットA1から室外ユニットA2に対する冷凍機油の供給を制御するための開閉弁19が設けられている。油管18bには,室外ユニットA2からの冷凍機油の取込みを制御するために開閉弁20が設けられている。」
・「【0024】
室外ユニットA2にも,同様に,油管12a,12b,逆止弁13a,13b,油管15,開閉弁16,キャピラリチューブ17が設けられている。
【0025】
また,室外ユニットA2において,油分離器5の底部から,同油分離器5が設けられている室外ユニットA2の吸込管10a,10bにかけて,油戻し用の油管15が接続されている。油管15には,開閉弁16および減圧用のキャピラリチューブ17が設けられている。また,油分離器5の底部から,同油分離器15が設けられている室外ユニットA2とは別の室外ユニットA1の吸込管10a,10bにかけて,油戻し用の油管18a,18bが接続されている。油管18aには,室外ユニットA2から室外ユニットA1に対する冷凍機油の供給を制御するための開閉弁19が設けられている。油管18bには,室外ユニットA1からの冷凍機油の取込みを制御するための開閉弁20が設けられている。」
・「【0034】
室外ユニットA1において,開閉弁16が開放された場合,油分離器5に溜まった冷凍機油Lが油管15,開閉弁16,およびキャピラリチューブ17を通って吸込管10a,10bに流れる。吸込管10a,10bに流れた冷凍機油Lは,圧縮機1a,1bに吸込まれる。
【0035】
室外ユニットA1の開閉弁19が開放されて,室外ユニットA2の開閉弁20が開放された場合は,室外ユニットA1の油分離器5に溜まった冷凍機油Lが油管18aおよび開閉弁19を通り,さらに室外ユニットA2側の油管18bおよび開閉弁20を通って同室外ユニットA2の吸込管10a,10bに流れる。吸込管10a,10bに流れた冷凍機油Lは,室外ユニットA2の圧縮機1a,1bに吸込まれる。すなわち,室外ユニットA1側の冷凍機油Lを,室外ユニットA2からの要求に応じて,室外ユニットA2に補給することができる。
【0036】
室外ユニットA2の開閉弁19が開放されて,室外ユニットA1の開閉弁20が開放された場合には,室外ユニットA2の油分離器5に溜まった冷凍機油Lが油管18aおよび開閉弁19を通り,さらに室外ユニットA1側の油管18bおよび開閉弁20を通って同室外ユニットA1の吸込管10a,10bに流れる。吸込管10a,10bに流れた冷凍機油Lは,室外ユニットA1の圧縮機1a,1bに吸込まれる。すなわち,室外ユニットA2側の冷凍機油Lを,室外ユニットA1からの要求に応じて,室外ユニットA1に補給することができる。」
・「【図1】



(2) 本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを,その有する機能に照らして対比してみるに,引用発明1の「室内熱交換器5」,「室外熱交換器3」,「配管」,「冷媒」,「空気調和機」は,それぞれ,本願発明1の「室内機」,「室外機」,「配管」,「冷媒」,「空気調和機」に相当する。
また,引用発明1は「前記冷媒として,R32冷媒を少なくとも50%以上含む混合冷媒あるいはR32単体冷媒を使用(する)」ものであるから,本願発明1と同様に,「R32単独の冷媒またはR32を70質量パーセント以上含む混合冷媒を使用(する)」ものであるといえる。
そして,引用発明1の「圧縮機1」,「アキュムレータ6」,「気液分離器12」は,それぞれ,本願発明1の「圧縮機」,「アキュムレータ」,「油分離器」に相当する。
そうすると,本願発明1と引用発明1とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点)
「室内機と室外機とを配管を介して接続し,冷媒を循環させる空気調和機において,
前記冷媒として,R32単独の冷媒またはR32を70質量パーセント以上含む混合冷媒を使用し,
前記冷媒を圧縮する圧縮機と,
前記圧縮機の吸入側に接続され,液冷媒を蓄積するアキュムレータと,
前記圧縮機の吐出側に接続され,前記圧縮機から吐出された冷媒中の潤滑油を分離して前記圧縮機の吸入側に回収する油分離器と,を備える,空気調和機。」
(相違点)
本願発明1は,「前記油分離器により分離された潤滑油を前記アキュムレータへ戻す潤滑油戻し手段」を備え,「前記アキュムレータには,液冷媒と潤滑油の二層分離が生じうる低温域において液冷媒と潤滑油の二層分離が生じないように潤滑油の混合率を40%以上とした冷媒が蓄積される」のに対し,引用発明1は,「前記気液分離器12により分離された液冷媒と冷凍機油を前記圧縮機1の吸入側に戻すバイパス回路10及びバイパス用二方弁11」を備え,「前記アキュムレータ6内の液冷媒9の温度を推定し,推定した前記アキュムレータ6内の液冷媒9の温度に基づいて前記バイパス用二方弁11を所定時間開けるよう制御する」点。
イ 判断
引用文献1には,油分比率と二層分離温度との関係が示されているところ(図17),油分比率を所定以上とすることにより低温領域において液冷媒と冷凍機油の二層分離が生じないことが分かるが,アキュムレータ6に,液冷媒と潤滑油の二層分離が生じうる低温領域において液冷媒と潤滑油の二層分離が生じないように潤滑油の混合率を所定以上とした冷媒が蓄積される点については特段記載がない(前記(1)ア)。
引用文献2には,空気調整器に使用される冷凍機用作動流体組成物について,R32と当該冷凍機用潤滑油組成物との混合比率を5:95?99:1,好ましくは10:90?99:1の範囲で選定したものを使用することで,冷凍機用作動流体組成物は低温側において層分離しないことが記載されているが,アキュムレータに,液冷媒と潤滑油の二層分離が生じうる低温側において液冷媒と潤滑油の二層分離が生じないように潤滑油の混合率を所定以上とした冷媒が蓄積される点については特段記載がない(前記(1)イ)。引用文献3,4についてみても,この点に関する記載はなく(前記(1)ウ,エ),周知技術であるともいえない。
そして,本願発明1は,前記相違点に係る構成を備えることにより,「液冷媒と潤滑油の二層分離の発生を抑制することができ,潤滑不足を低減して信頼性を高めることができる。」(本願明細書【0009】),「アキュムレータ105内で二層分離域の発生条件が成立するのを阻止して,液冷媒と潤滑油が分離するのを抑制し,圧縮機104に十分な潤滑油を送り込むことができる。」(同【0047】)といった効果を奏し,「圧縮機に冷凍機油を直接戻す方式に比べて,潤滑油の混合率が40%以上の冷媒を安定して得ることができる」(平成31年1月18日意見書(3))という効果も期待し得るものである。
したがって,本願発明1は,引用発明1及び引用文献2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(3) 本願発明2?4について
本願発明1を特定するための事項をすべて含む本願発明2?4は,さらに特定された事項を検討するまでもなく,本願発明1と同様の理由により,引用発明1及び引用文献2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

2 理由2(36条6項1号),理由3(36条6項2号)について
平成31年1月18日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4の記載は前記第2のとおりであるところ,当該補正により,特許請求の範囲の記載に関する不備は解消した。

第6 原査定についての判断
1 引用文献,引用発明等
(1) 原査定の引用文献1,4
原査定の引用文献1,4に記載された事項については,前記第5・1(1)イ,エのとおりである。

(2) 原査定の引用文献3
原査定の引用文献3に記載された事項については,前記第5・1(1)ウのとおりであるところ,その記載及び図面の記載からみて,原査定の引用文献3には,次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているといえる。
(引用発明3)
「室内ユニット2と室外ユニット1とを配管を介して接続し,冷媒を循環させる空気調和機において,
前記冷媒として,非共沸混合冷媒であるR407C冷媒(R32が23wt%,R125が25wt%,R134aが52wt%の混合冷媒)を使用し,
前記冷媒を圧縮する低段側圧縮機5及び高段側圧縮機6と,
前記低段側圧縮機5の吸入側に接続され,液冷媒を蓄積するアキュムレータ16と,
前記高段側圧縮機6の吐出側に接続され,前記高段側圧縮機6から吐出された冷媒中の油を分離して前記低段側圧縮機5の吸入側に回収する油分離器7と,を備える,空気調和機。」

(3) 原査定の引用文献2
原査定の引用文献2には,以下の事項が記載されている。
・「【0018】図1は冷凍装置の一例としての空気調和機の冷凍回路1を示し,この冷凍回路1は,圧縮機2と四路切換弁3と室外熱交換器5と減圧機構の一例としての電動膨張弁6と室内熱交換器7を順次接続してなる。
【0019】この冷凍回路1にR32を50wt%以上含むHFC系冷媒と混合冷凍機油からなる作動流体を充填している。この混合冷凍機油は,合成油の一例としてのエーテル油と詰まり防止剤としてのPAG(ポリプロアルキルグリコール)油とからなり,このPAG油は,混合冷凍機油に対して1?15wt%を占めている。ここで,R32を50wt%以上含むHFC系冷媒は,残りの冷媒として例えばR125,R22または炭酸ガス等を用いる。」
・「【図1】



2 本願発明1について
(1) 対比
原査定は,本願発明1は,引用発明3において,原査定の引用文献1に記載された冷凍機用作動流体組成物を採用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断している。
そこで,本願発明1と引用発明3とを,その有する機能に照らして対比してみるに,引用発明3の「室内ユニット2」,「室外ユニット1」,「配管」,「冷媒」,「空気調和機」は,それぞれ,本願発明1の「室内機」,「室外機」,「配管」,「冷媒」,「空気調和機」に相当する。
また,引用発明3は,「前記冷媒として,非共沸混合冷媒であるR407C冷媒(R32が23wt%,R125が25wt%,R134aが52wt%の混合冷媒)を使用(する)」ものであるから,本願発明1とは,「R32」を含む「混合冷媒を使用(する)」点で共通する。
そして,引用発明3の「低段側圧縮機5及び高段側圧縮機6」,「アキュムレータ16」,「油分離器7」は,それぞれ,本願発明1の「圧縮機」,「アキュムレータ」,「油分離器」に相当する。
そうすると,本願発明1と引用発明1とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点)
「室内機と室外機とを配管を介して接続し,冷媒を循環させる空気調和機において,
前記冷媒として,R32を含む混合冷媒を使用し,
前記冷媒を圧縮する圧縮機と,
前記圧縮機の吸入側に接続され,液冷媒を蓄積するアキュムレータと,
前記圧縮機の吐出側に接続され,前記圧縮機から吐出された冷媒中の潤滑油を分離して前記圧縮機の吸入側に回収する油分離器と,を備える,空気調和機。」
(相違点)
本願発明1は,冷媒として,「R32単独の冷媒またはR32を70質量パーセント以上含む混合冷媒を使用し」,「前記油分離器により分離された潤滑油を前記アキュムレータへ戻す潤滑油戻し手段」を備え,「前記アキュムレータには,液冷媒と潤滑油の二層分離が生じうる低温域において液冷媒と潤滑油の二層分離が生じないように潤滑油の混合率を40%以上とした冷媒が蓄積される」のに対し,引用発明3は,冷媒として,R32が23wt%の非共沸混合冷媒を使用するものであり,アキュムレータ16及び油分離器7を備えるものの,他の構成は有しない点。

(2) 判断
原査定の引用文献3には,「R32単独の冷媒またはR32を70質量パーセント以上含む混合冷媒を使用(する)」点,「前記油分離器により分離された潤滑油を前記アキュムレータへ戻す潤滑油戻し手段」を備え,「前記アキュムレータには,液冷媒と潤滑油の二層分離が生じうる低温域において液冷媒と潤滑油の二層分離が生じないように潤滑油の混合率を40%以上とした冷媒が蓄積される」点について,特段記載はない(前記第5・1(1)ウ)。
そして,既に述べたとおり,原査定の引用文献1には,空気調整器に使用される冷凍機用作動流体組成物について,R32と当該冷凍機用潤滑油組成物との混合比率を所定の範囲で選定したものを使用することで,冷凍機用作動流体組成物は低温側において層分離しないことが記載されているが,アキュムレータに,液冷媒と潤滑油の二層分離が生じうる低温側において液冷媒と潤滑油の二層分離が生じないように潤滑油の混合率を所定以上とした冷媒が蓄積される点については特段記載がない(前記第5・1(1)イ)。原査定の引用文献2,4についてみても,この点に関する記載はなく(前記1(3),前記第5・1(1)エ),周知技術であるともいえない。
そして,本願発明1は,前記相違点に係る構成を備えることにより,前記第5・1(2)イで述べた効果を奏するものである。
したがって,本願発明1は,引用発明3及び原査定の引用文献1,2,4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

3 本願発明2?4について
本願発明1を特定するための事項をすべて含む本願発明2?4は,さらに特定された事項を検討するまでもなく,本願発明1と同様の理由により,引用発明3及び原査定の引用文献1,2,4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

4 以上のとおりであるから,原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由及び当審にて通知した拒絶の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-11 
出願番号 特願2016-75447(P2016-75447)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F25B)
P 1 8・ 121- WY (F25B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安島 智也  
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 宮崎 賢司
窪田 治彦
発明の名称 空気調和機  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  

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