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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1349638
審判番号 不服2018-3617  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-13 
確定日 2019-03-06 
事件の表示 特願2014-549616「合成ゼオライトに充填された金属イオンを含む抗微生物性材料」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日国際公開、WO2013/098774、平成27年 4月 2日国内公表、特表2015-509916〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2012年12月27日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年12月30日(TR)トルコ)を国際出願日とする出願であって、平成27年11月17日に手続補正書が提出され、平成28年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年10月31日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年3月13日付けで拒絶理由が通知され、同年6月20日に意見書が提出され、同年11月9日付けで拒絶査定がされ、平成30年3月13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成28年10月31日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項によって特定されるとおりのものであり、その請求項1?12に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。
「銀、亜鉛、または銅金属イオンが、4.64 Na_(2)O:Al_(2)O_(3):3.2 SiO_(2):400 H_(2)Oという特定の配合を有する合成ゼオライトXに充填されている、抗微生物性材料。」

第3 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、平成29年3月13日付け拒絶理由通知における以下の理由1及び理由2を含むものである。
この理由1は、平成28年10月31日付け手続補正書でした補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。要約すると下記で示したとおりのものである。
また、理由2は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、要約すると下記で示したとおりのものである。


理由1
「合成ゼオライト」を「4.64 Na_(2)O:Al_(2)O_(3):3.2 SiO_(2):400 H_(2)Oという特定の配合を有する合成ゼオライトX」とする補正に関し、翻訳文等には、ゼオライト合成に必要な成分、その量及び製造工程が記載されるものの、得られたゼオライトの成分比は示されていない。また、上記の特定の配合を有することが、翻訳文等の記載から当業者にとって自明の事項であるということもできない。
理由2
一般に、物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野(例:化学物質)に属する発明については、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要であり、また、一般に、化合物の構造だけから特定の用途に使用し得るかどうかを予測することは困難であることから、結果の記載のない場合には、当該化合物が実際にその用途に使用し得るかどうかについて、当業者が予測することは困難であると認められる。

本願の発明の詳細な説明には、最終的に得られた合成ゼオライトXの成分の配合比が記載されておらず、反応容器に加えたそれぞれの成分がどの程度の量で反応したかは自明でもない。そうすると、特定の配合比を有する合成ゼオライトXを製造するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があると認められるから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-12に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶理由のとおり、平成28年10月31日付け手続補正でした補正(以下、「本件補正」という。)が、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず(同法第184条の12第2項参照)、また、この出願は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 特許法第17条の2第3項に規定する要件について
(1)判断の前提
補正が、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないもの」であるときは、当該補正は「当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするもの」であるといえる。

(2)判断
ア 補正の内容
本件補正は、明細書【0034】の「【0034】
ゼオライト合成
さまざまなシリカ・アルミナ比を持つゼオライトタイプ(ゼオライトXおよびゼオライトA)に必要なメタケイ酸ナトリウム(Na_(2)O:SiO_(2):5H_(2)O)、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)および水(H_(2)O)の量は、それぞれ8.71、0.04、2.57および88.68グラムと計算された。・・・」との補正前の記載を、「【0034】
ゼオライト合成
ゼオライトXに必要なメタケイ酸ナトリウム(Na_(2)O:SiO_(2):5H_(2)O)、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)および水(H_(2)O)の量は、それぞれ8.71、2.57、0.04および88.68グラムと計算された。・・・」とする補正(「以下、「本件補正事項1」という。)と、上記本件補正事項1によって補正された後の【0034】の記載を根拠として、特許請求の範囲の【請求項1】の「 【請求項1】
銀、亜鉛、銅金属イオンが合成ゼオライトに充填されている抗微生物性材料。」との補正前の記載を、「 【請求項1】
銀、亜鉛、または銅金属イオンが、4.64 Na_(2)O:Al_(2)O_(3):3.2 SiO_(2):400 H_(2)Oという特定の配合を有する合成ゼオライトXに充填されている、抗微生物性材料。」とする補正(「以下、「本件補正事項2」という。)とを含むものである。

なお、本件補正事項1について、【0034】の補正内容、つまり原料4成分の重量のうち、2成分の重量を補正することについては、審判請求人は優先権の基礎となる出願の明細書に記載された内容に基づくもの又は自明な事項であるとして、意見書及び審判請求書において実質的に主張反論し、それに対して、優先権の基礎となる出願の明細書に記載された内容は、翻訳文等に記載した事項の範囲内における補正とはいえないし、自明なものでもない旨、拒絶理由通知、拒絶査定において実質的に通知されているといえる。

イ 本件補正事項1について
(ア) 補正前の明細書【0034】の「【0034】
ゼオライト合成
さまざまなシリカ・アルミナ比を持つゼオライトタイプ(ゼオライトXおよびゼオライトA)に必要なメタケイ酸ナトリウム(Na_(2)O:SiO_(2):5H_(2)O)、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)および水(H_(2)O)の量は、それぞれ8.71、0.04、2.57および88.68グラムと計算された。水を2分割し、高密度ポリウレタン容器に入れた。これらの容器の一方にメタケイ酸ナトリウムだけを加え、溶解させた。他方の容器にアルミン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを加えて完全に溶解させた。次に、2つの容器内の混合物を一つに混合し、それらが均一な混合物を形成するまで撹拌した。その新しい混合物を、ゼオライト合成のために、3日間、90℃に保った。3日間の最後に、合成されたゼオライトを減圧濾過で濾過した。それを90℃で24時間乾燥した。得られたゼオライトをブレンダーまたは乳棒による粉砕で粉末にした。銀、亜鉛および銅イオン交換を行うことで、微粉ゼオライトを抗微生物性にした。」(下線は当審にて追加。以下同様。)との記載は、さまざまなシリカ・アルミナ比を持つゼオライトタイプ(ゼオライトXおよびゼオライトA)に必要な原料のモル比として記載され、その後、各成分を溶解し、混合し、合成ゼイライトを合成したものであり、補正前の記載は、メタケイ酸ナトリウム(Na_(2)O:SiO_(2):5H_(2)O)を8.71g、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)を0.04g、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)を2.57g、水(H_(2)O)を88.68gが原料として用いられたことが明確に理解できる記載である。

補正後の記載は、合成ゼオライトの原料の量をアルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)と水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)の間で、入れ替えた数字にするもので、合成ゼオライトの原料組成比を実質的に変更するものといえる。
そして、合成ゼオライトの原料組成比としてそのような数値の入れ替えによる変更が当初明細書等のすべての記載を総合することによっても、自明なものとはいえない。
したがって、本件補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるといえる。

(イ)審判請求人は、平成28年10月31日付け意見書4頁において、優先権主張の基礎となったトルコ出願の対応箇所に補正後の記載が存在したことを、補正の根拠として挙げて主張しているが、国際出願日における国際特許出願の明細書等や、それらの翻訳文に記載されたものでない以上、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)と水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)量が、それぞれ2.57、0.04であったことの根拠になるとはいえない。

また、審判請求人は、審判請求書3頁において、「本願発明は、ゼオライトXに関するものであり、X型構造を有するゼオライトは、一般にSi/Al比が1.0?1.5程度であることが知られている(一例として、特開2009-102319号公報、段落[0021]等ご参照)。したがって、本願明細書の記載をみた当業者であれば、アルミン酸ナトリウムの量0.04gが少なすぎる量であること、水酸化ナトリウムの量2.57gが多すぎる量であり、これがアルミン酸ナトリウム2.57g、水酸化ナトリウム0.04gの誤記であることを当然に理解する。したがって、当該補正は、本願明細書に実質的に記載された範囲内の補正であると思料する。」と主張している。
しかしながら、X型構造を有するゼオライトのSi/Al比が1.0?1.5程度であるかどうかはさておき、「Si/Al比」が数値範囲を有する以上、技術常識を参酌しても特定の「Si/Al比」が正しい記載として一定の値に決まるわけではないし、量の多少に気づいたからといって、現在の重量の記載より増減させたあらゆる値の可能性があるともいえる。
したがって、記載された数値のうち特定の2個の成分の重量が逆であって、アルミン酸ナトリウム2.57g、水酸化ナトリウム0.04gの誤記であることを当然に理解するとはいえない。
また、【0034】の記載は、補正前に「さまざまなシリカ・アルミナ比を持つゼオライトタイプ(ゼオライトXおよびゼオライトA)」に関しての記載であったのであるから、さまざまなシリカ・アルミナ比を持つゼオライトのSi/Al比がX型構造のみの特定の範囲に定まっていたものともいえない。
さらに、【0034】の記載は、4成分の原料の記載であり、記載自体明確に理解できる以上、誤記は何ら存在していない可能性もあり、仮にアルミン酸ナトリウムの量と水酸化ナトリウムの量だけに着目して誤記の存在を認識したとしても、正しい量の記載を理解するとはいえないのであるから、審判請求人の「本願明細書の記載をみた当業者であれば、アルミン酸ナトリウムの量0.04gが少なすぎる量であること、水酸化ナトリウムの量2.57gが多すぎる量であ」ると理解する旨の主張や、「これがアルミン酸ナトリウム2.57g、水酸化ナトリウム0.04gの誤記であることを当然に理解する」との主張を採用することはできない。

ウ 本件補正事項2について
(ア)本件補正事項2は、本件補正事項1によって補正された後の【0034】の記載を根拠として、補正前の「 【請求項1】
銀、亜鉛、銅金属イオンが合成ゼオライトに充填されている抗微生物性材料。」との記載を、「 【請求項1】
銀、亜鉛、または銅金属イオンが、4.64 Na_(2)O:Al_(2)O_(3):3.2 SiO_(2):400 H_(2)Oという特定の配合を有する合成ゼオライトXに充填されている、抗微生物性材料。」とする補正である。
(イ)前記イの本件補正事項1で検討したように、本件補正事項1の【0034】の合成ゼオライトの原料の量を変更する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるため、そのような補正された【0034】の記載を補正の根拠とした本件補正事項2も、前提において、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるといえる。

以下、念のため、本件補正事項2自体についても、検討しておく。
本件補正事項2は、【0034】の記載を本件補正事項1で補正されたとおりに解した上で、本件補正事項1によって補正された後の【0034】の「メタケイ酸ナトリウム(Na_(2)O:SiO_(2):5H_(2)O)、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)および水(H_(2)O)の量は、それぞれ8.71、2.57、0.04および88.68グラム」との原料の量の数字を計算して「4.64 Na_(2)O:Al_(2)O_(3):3.2 SiO_(2):400 H_(2)Oという特定の配合を有する」という最終的な合成ゼオライトのNa_(2)O:Al_(2)O_(3):SiO_(2):H_(2)Oの配合比を特定したと解される(平成28年10月31日付け意見書4頁参照)。

しかしながら、当初明細書等には最終的な合成ゼオライトのNa_(2)O:Al_(2)O_(3):SiO_(2):H_(2)Oの配合比の記載がないのはもちろんのこと、技術常識を参酌しても、原料組成比から最終的な合成ゼオライトの配合比がそのまま維持されて、全ての成分が特定ノゼオライト構造を形成することに寄与して最終的な特定の合成ゼオライトとなることが自明な事項ではない。
さらに、原料組成比から最終的な合成ゼオライトの配合比がそのまま維持されて、全ての成分がゼオライト構造を形成することに寄与して最終的な合成ゼオライトとなる仮定しても、ゼオライト結晶のどの部分に含まれ、ゼオライト結晶骨格はどのような型になるのかは不明であり、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)をどのように計算上扱うかも技術常識から明らかとはいえない。
また、さらに、NaOHを0.5Na_(2)O+0.5H_(2)Oと取り扱うと仮定して計算されたNa_(2)O:Al_(2)O_(3):SiO_(2):H_(2)Oの配合比は、4.47:1.00:3.02:377であり、補正によって特定された4.64 Na_(2)O:Al_(2)O_(3):3.2 SiO_(2):400 H_(2)Oという特定の配合とも整合していない。

したがって、本件補正事項2自体も、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるといえる。

(3)小括
したがって、平成28年10月31日付けの手続補正による補正は、特許法第184条の12第2項の規定により、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2 特許法第36条第4項第1号について
(1)判断の前提
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。

特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。

(2)特許請求の範囲の記載について
本願の平成28年10月31日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである。
(再掲)
「【請求項1】
銀、亜鉛、または銅金属イオンが、4.64 Na_(2)O:Al_(2)O_(3):3.2 SiO_(2):400 H_(2)Oという特定の配合を有する合成ゼオライトXに充填されている、抗微生物性材料。」

(3)発明の詳細な説明の記載について
本願の発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明に関する記載として、以下の事項が記載されている。
(ア)背景技術について
「 【0011】
金属イオンの抗細菌特性は、古くから知られているので、数多くの研究の対象となってきた[4]。これらの研究では、金属イオンの抗微生物的性質が、ゼオライト上でのイオン交換によって調べられている。ゼオライトの主要構造はSiO_(4)およびAlO_(4)からなる[5]。この構造の最も重要な側面は、それが、高温において劣化を引き起こさずに水を遊離するかなりの空間およびチャネルを伴うと同時に、ゆるく結合していて交換可能なカチオンも含有していることである。したがってゼオライトは吸着、イオン交換および脱水の実施に、うまく使用されている。ゼオライトの骨格構造中に存在するカチオンは、所望であれば、別のイオンと交換することができる。
【0012】
ゼオライトのイオン交換容量は、その調合物におけるシリカ/アルミニウム比に依存する。シリカ/アルミニウム比が低いゼオライトタイプは一般に高いイオン交換容量を享受する[6,7]。銀は、ゼオライトのイオン交換プロセスに使用される最も一般的なイオンタイプである。銀を使用する最も重要な理由は、その抗微生物特徴にある[8]。ゼオライトは、そのイオン交換特性ゆえに、抗微生物製品として合成することができる。銀ゼオライトは歯周病菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インターメディア(Prevotellain termedia)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・サンギス(Streptococcus sanguis)およびアクチノミセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus))に試され、それらに対して正の効果を持つことが観察されている[9]。
【0013】
もう一つの研究では、銀および亜鉛含有ゼオライトでコーティングされたステンレス鋼が、バチルス(Bacillus)タイプ(炭疽菌(B. anthracis)、セレウス菌(B. cereus)および枯草菌(B. subtilis))の不活化に際して有効であるが、胞子には無効であることが観察された[10]。
【0014】
さらに別の研究者は、銀粉末ゼオライトでコーティングしたステンレス鋼が大腸菌(Escherichia coli)25922、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)25923、緑膿菌(Pseudomonoas aeruginosa)27853、およびリステリア菌(Listeria monocytogenes)7644に有効であると報告している[11]。
【0015】
イオン交換手法はゼオライトに応用できるだけでなく、他の鉱物にも応用することができる。銅添加鉱物の抗細菌特性は、天然鉱物の一つモンモリロナイトで行われた研究において調査されている[12]。銅添加鉱物(150および600mg/L)は、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)に有効であることが観察された。」

(イ)発明が解決しようとする課題及び具体的目的について
「【発明が解決しようとする課題】
【0026】
最近まで、実施された研究では、金属イオンを充填したゼオライトは、抗細菌性材料の生産にしか使用されていなかった。言い換えると、これらの製品が有効であるのは細菌だけであり、酵母および真菌には有効でなかった。にもかかわらず、世界における感染の大半は、真菌および発酵体に起因している。この理由から、現在、建築用材料として使用されている材料(例えば塗料、プラスチック、プラスターおよびセメント)は抗微生物性ではなく、それらは微生物をのせて運ぶことにより、さまざまな感染を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0027】
発明の概要
本発明の目的は、銀、銅および亜鉛金属イオンが個別に添加されたゼオライト含有抗真菌性、抗カンジダ性および抗細菌性建築用材料を提供することである。
【0028】
本発明のもう一つの目的は、上述の抗微生物性建築用材料を使って製造された技術的装置、製品または表面に衛生を提供することである。
【0029】
本発明のさらにもう一つの目的は、これらの抗微生物性建築用材料が使用される製品および表面に、微生物による劣化、腐食および崩壊からの保護を提供することである。
【0030】
本発明の目的を満たすために開発された抗微生物性材料を添付の図面に示す。」

(ウ)図面の簡単な説明
「【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】種類が異なる3つの微生物(黄色ブドウ球菌、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ペニシリウム・チャーレシイ(Penicillium charlesii))に対する銀、銅および亜鉛イオン交換ゼオライトの抗微生物効果である。 図1-a:黄色ブドウ球菌に対する銀イオン交換ゼオライトの抗細菌効果。 図1-b:黄色ブドウ球菌に対する銅イオン交換ゼオライトの抗細菌効果。 図1-c:黄色ブドウ球菌に対する亜鉛イオン交換ゼオライトの抗細菌効果。 図1-d:カンジダ・アルビカンスに対する銀イオン交換ゼオライトの抗カンジダ効果。 図1-e:カンジダ・アルビカンスに対する銅イオン交換ゼオライトの抗カンジダ効果。 図1-f:カンジダ・アルビカンスに対する亜鉛イオン交換ゼオライトの抗カンジダ効果。 図1-g:ペニシリウム・チャーレシイに対する銀イオン交換ゼオライトの抗真菌効果。 図1-h:ペニシリウム・チャーレシイに対する銅イオン交換ゼオライトの抗真菌効果。 図1-i:ペニシリウム・チャーレシイに対する亜鉛イオン交換ゼオライトの抗真菌効果。
【図2】緑膿菌に対する金属イオン交換ゼオライト配合金属塗料の抗細菌効果。
【図3】大腸菌に対する金属イオン交換ゼオライト配合粉末塗料の抗細菌効果。
【図4】クロコウジカビ(Aspergillus niger)に対する金属イオン交換ゼオライト配合および非配合プラスチック塗料の効果の画像である。 図4aは、金属イオン交換ゼオライトを配合していないプラスチック塗料(標準)上でのクロコウジカビの成長である。 図4-b:クロコウジカビに対する、金属イオン交換ゼオライトを配合したプラスチック塗料の抗真菌効果。
【図5】灰色かび病菌(Botrytis cinerea)に対する、金属イオン交換ゼオライトを配合した粉末金属塗料および金属イオン交換ゼオライトを配合していない金属塗料の効果の画像である。 図5-aは、金属イオン交換ゼオライトを配合していない粉末金属塗料(標準)上での灰色かび病菌の成長の画像である。 図5-b:灰色かび病菌に対する、金属イオン交換ゼオライトを配合した粉末金属塗料の抗真菌効果。
【図6】ペニシリウム・エクスパンサム(Penicillium expansum)に対する、金属イオン交換ゼオライトを配合した液状金属塗料および金属イオン交換ゼオライトを配合していない液状金属塗料の効果の画像である。 図6-aは、金属イオン交換ゼオライトを配合していない液状金属塗料(標準)上でのペニシリウム・エクスパンサムの成長の画像である。 図6-b:ペニシリウム・エクスパンサムに対する、金属イオン交換ゼオライトを配合した液状金属塗料の抗真菌効果。
【図7】フサリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporium)に対する、金属イオン交換ゼオライトを配合したプラスチック表面および金属イオン交換ゼオライトを配合していないプラスチック表面の効果の画像である。 図7-aは、金属イオン交換ゼオライトを配合していないプラスチック表面(標準)上でのフサリウム・オキシスポラムの成長である。 図7-b:フサリウム・オキシスポラムに対する、金属イオン交換ゼオライトを配合したプラスチック表面の抗真菌効果。
【図8】異なる種類の真菌(クロコウジカビ、フサリウム・オキシスポラム、アルテルナリア・アルテルナータ(Alternaria alternata)、スクレロチニア・スクレロチオラム(Sclerotinia sclerotiorum)、灰色かび病菌(Botrytris cinerea)、ペニシリウム・エクスパンサム(Peniciullium expansum))に対する、金属イオン交換ゼオライトを配合したプラスター成形品および金属イオン交換ゼオライトを配合していないプラスター成形品の効果である。 図8-aは、金属イオン交換ゼオライトを配合していないプラスター成形品(標準)上での異なる種類の真菌(クロコウジカビ、フサリウム・オキシスポラム、アルテルナリア・アルテルナータ、スクレロチニア・スクレロチオラム、灰色かび病菌、ペニシリウム・エクスパンサム)の成長である。 図8-bは、異なる種類の真菌(クロコウジカビ、フサリウム・オキシスポラム、アルテルナリア・アルテルナータ、スクレロチニア・スクレロチオラム、灰色かび病菌、ペニシリウム・エクスパンサム)に対する、金属イオン交換ゼオライトを配合したプラスター成形品の効果である。
【図9】異なる種類の真菌(クロコウジカビ、フサリウム・オキシスポラム、アルテルナリア・アルテルナータ、スクレロチニア・スクレロチオラム、灰色かび病菌、ペニシリウム・エクスパンサム)に対する、金属イオン交換ゼオライトを配合したセメント成形品および金属イオン交換ゼオライトを配合していないセメント成形品の効果である。 図9-aは、金属イオン交換ゼオライトを配合していないセメント成形品(標準)上での異なる種類の真菌(クロコウジカビ、フサリウム・オキシスポラム、アルテルナリア・アルテルナータ、スクレロチニア・スクレロチオラム、灰色かび病菌、ペニシリウム・エクスパンサム)の成長である。 図9-bは、異なる種類の真菌(クロコウジカビ、フサリウム・オキシスポラム、アルテルナリア・アルテルナータ、スクレロチニア・スクレロチオラム、灰色かび病菌、ペニシリウム・エクスパンサム)に対する、金属イオン交換ゼオライトを配合したセメント成形品の効果である。」

(エ)実施例について
「【実施例】
【0033】
実験的研究
本発明の抗微生物性材料の合成においては、まず、ゼオライト合成を行う。
【0034】
ゼオライト合成
ゼオライトXに必要なメタケイ酸ナトリウム(Na_(2)O:SiO_(2):5H_(2)O)、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)および水(H_(2)O)の量は、それぞれ8.71、2.57、0.04および88.68グラムと計算された。水を2分割し、高密度ポリウレタン容器に入れた。これらの容器の一方にメタケイ酸ナトリウムだけを加え、溶解させた。他方の容器にアルミン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを加えて完全に溶解させた。次に、2つの容器内の混合物を一つに混合し、それらが均一な混合物を形成するまで撹拌した。その新しい混合物を、ゼオライト合成のために、3日間、90℃に保った。3日間の最後に、合成されたゼオライトを減圧濾過で濾過した。それを90℃で24時間乾燥した。得られたゼオライトをブレンダーまたは乳棒による粉砕で粉末にした。銀、亜鉛または銅イオン交換を行うことで、微粉ゼオライトを抗微生物性にした。
【0035】
ゼオライトへのイオンの充填
銀イオン交換のために、1リットルの0.6?1M硝酸銀または銀イオン交換が可能な他の銀化合物から、溶液を調製した。その溶液に80gのゼオライトを加え、室温、200?250rpmで、3日間、暗所で撹拌した。
【0036】
亜鉛イオン交換のために、1リットルの2M塩化亜鉛溶液を調製した。その溶液に80gのゼオライトを加え、室温、200?250rpmで、3日間、暗所で撹拌した。
【0037】
銅イオン交換のために、1リットルの1M硫酸銅溶液を調製した。その溶液に80gのゼオライトを加え、室温、200?250rpmで、3日間、暗所で撹拌した。
【0038】
3日間の最後に亜鉛、銅および銀イオン交換ゼオライトを濾過し、90℃で24時間乾燥した。得られたゼオライトをブレンダーまたは乳棒による粉砕で粉末にした。」

(オ)抗微生物試験について
「 【0039】
抗微生物試験
改変ディスク拡散法
各微生物に対する製品の抗微生物活性を試験するために、標準的NCCLSディスク拡散法[30]に改良を加えて使用した。適当な濃度の銀、亜鉛または銅を充填したゼオライト製剤の抗微生物特徴を、改変ディスク拡散法の応用によって調べた。10^(8)cfu/mlの細菌、10^(6)cfu/mlの酵母および10^(4)胞子/mlの真菌を含む100μl溶液を、新しい培養物で調製し、拡散法で、栄養寒天(NA)、サブローデキストロース寒天(SDA)およびジャガイモデキストロース寒天(PDA)に、それぞれ接種した。20μlの滅菌水を空ディスクに滴下し、それを微粉金属イオン充填ゼオライト混合物に埋めた。金属充填ゼオライトでコードされた空ディスクを、接種済みのペトリ皿に置いた。20μlの滅菌水を滴下した空ディスクを陰性対照として使用した。オフロキサシン(10μg/ディスク)およびナイスタチン(30μg/ディスク)を、それぞれ細菌および真菌用の陽性対照群として使用した。接種して改変ディスク拡散法を適用したペトリ皿を、細菌については24時間、酵母については48時間にわたって、36±1℃に保ち、真菌については72時間にわたって25±1℃に保った。改変ディスク拡散法で試験した微生物について、抗微生物活性阻止帯を測定し、評価した。全ての試験を少なくとも2回は繰り返した。」

(カ)抗微生物表面の調製、経時的抗微生物寿命試験について
「 【0040】
抗微生物表面の調製
ゼオライトの抗微生物特徴の試験に先立って、まず、ゼオライトを、蒸留水(20μl)で湿らせた後の空ディスクに付着させた。試験すべき微生物を適当な栄養培地(PDA、SDA、およびTSA)に接種した後、イオン交換ゼオライトでコードされたディスクをそれらの上に置き、これらの微生物を1?7日間インキュベートした。各培地においてディスクの周りに生じるインキュベーション後の阻止帯形成(微生物が成長しない部分)を、試験した微生物に対する抗微生物効果として同定した。
【0041】
銀-ゼオライト(0.3?1M硝酸銀)、亜鉛-ゼオライト(0.5?2M塩化亜鉛)および銅-ゼオライト(0.3?1M硫酸銅)溶液を、販売されている液状塗料および白物家電産業で使用される粉末塗料に加えた後、抗微生物製品の抗微生物効果を微生物で調べた。塗料の抗微生物活性は、上述の改変ディスク拡散法に従って決定した。金属充填ゼオライトは市販の液状塗料と1/10(w/w)の比で混合した。これに従って、1グラムのゼオライトを9グラムの塗料と混合した。金属板(約16cm^(2))をこの塗料調製物で塗装した。一部の金属板は、ゼオライトを含有しない原料塗料で塗装することで、陰性対照群として使用した。塗装した板は室温で乾燥し、汚染リスクを低減するために、空のペトリ皿に入れた。真菌接種は、1mlのサブローデキストロースブロスをプレートに乗せてから、滅菌コットンスワブで行った。真菌、酵母および細菌成長試験のために、金属板を室温でインキュベートし、それらに毎日1mlのサブローデキストロースブロスを加えた。
【0042】
抗微生物製品を、その銀-ゼオライト濃度および亜鉛-ゼオライト濃度をそれぞれ2Mおよび0.6?1Mと決定した後に、市販のセメントおよびプラスターの内部に、1/10(w/w)の比で混合した。プラスターには亜鉛ゼオライトだけを加え、一方、セメントには亜鉛-または銀-ゼオライトを加えた。調製した製品から10mlの溶液を6ウェル細胞培養プレートに入れ、室温で2日間乾燥した。調製した表面に1mlのサブローデキストロースブロス(SDB)を加え、試験しようとする真菌、細菌および酵母培養物で汚染させた。毎日、セメント表面およびプラスター表面に1mlのサブローデキストロースブロスを加えてから、真菌成長を観察した。
【0043】
実験的研究は、一定の真菌、酵母および細菌タイプで行った。これらの実験的研究でその作用機序を観察した細菌は、・・・である。
【0044】
この実験的研究でその作用機序を観察した酵母は、・・・である。
【0045】
経時的抗微生物寿命試験
この研究では、適切な栄養培地(1ml)を、銀および亜鉛-ゼオライトを含有している/含有していない塗料、プラスター、セメント、プラスチックなどの建築用材料から調製した表面に滴下し、これらの表面を細菌、酵母、真菌などの異なる微生物で汚染させた。それらが経時的にその抗微生物特徴を保つかどうかを理解するために、促進寿命試験を行った。したがって、銀および亜鉛ゼオライトを含有する/含有しない建築用材料で作った微生物汚染表面を、特別なインキュベータ中に1年間維持した(細菌および発酵体の場合は36±1℃、真菌の場合は25±1℃)。その間、微生物汚染表面での微生物の成長と発生を助長するために、栄養培地を絶えず補充した。これらの表面での微生物成長が起きたかどうかは、被験建築用材料での遡及的分離(retroactive isolation)プロセスを毎月行うことによって決定した。1年間のインキュベーション継続期間の最後における試験結果を表1および表2に要約する。
【0046】
実験結果
インビトロのペトリ上で行った改変ディスク拡散試験の結果は、黄色ブドウ球菌に対する、銀、銅および亜鉛イオン交換ゼオライトでコードされたディスクの抗細菌効果を示している(図1a、b、c)。ペトリの全ての部分で細菌成長が観察されたが、金属イオン交換ゼオライトでコードされたディスクの周りには細菌成長が観察されなかった。同様に、銀、銅および亜鉛イオン交換ゼオライトでコードされたディスクの抗カンジダ効果および抗真菌効果も、それぞれカンジダ・アルビカンス(図1d、e、f)およびペニシリウム・チャーレシイ(図1g、h、i)に対して観察された。酵母(カンジダ・アルビカンス)および真菌(ペニシリウム・チャーレシイ)を接種した培地では、金属イオン交換ゼオライトディスクの周りだけに、阻止帯が観察された(図1)。
【0047】
もう一つの実験的研究は、インビトロで接種された緑膿菌に対する、金属(亜鉛、銀)イオン交換ゼオライト(1/10 w/w)を含有する金属塗料の抗細菌効果を示している。接種したペトリの全ての部分で成長が観察されるが、金属イオン交換ゼオライトディスクの周りには阻止帯が観察される(図2)。
【0048】
金属(銀または亜鉛)イオン交換ゼオライト含有粉末塗料(1/10 w/w)の抗細菌効果が、インビトロで接種された大腸菌に対して観察される。白物家電産業で使用される粉末塗料(金属イオン交換ゼオライトを含有するもの)を含むディスクの周りに、阻止帯が観察される(図3)。
・・・
【0055】
金属イオン交換ゼオライトを含有している/含有していない表面を、試験しようとする真菌、細菌および酵母培養物の全てで汚染させ、12ヶ月にわたって微生物成長を観察した。この期間の最後に、毎月の遡及的分離試験により、ゼオライト含有建築用材料(塗料、プラスチック、プラスターおよびセメント)はその抗微生物特性を維持していて、どの微生物の発生(細菌、酵母および真菌)も成長も許さないことが示された。建築用材料の抗微生物試験における細菌および酵母の成長は、図4?9には示されていない。それらは写真として図解することができないからである。表面での細菌および酵母の成長は表1および表2に要約する。」

(4)判断
ア 請求項1に係る発明に関する発明の詳細な説明の記載について

発明の詳細な説明には、本願発明1である銀、亜鉛、または銅イオンが、特定の配合を有する合成ゼオライトXに充填されている抗微生物性材料に関する記載としては、【0011】?【0015】に、金属イオンの抗微生物的性質がゼオライト上でのイオン交換によって調べられ、銀のイオン交換、銀、亜鉛を含有させたゼオライトの技術が公知である背景等について記載されている(摘記(ア)参照)。また、一般的な記載として、【0026】に、本願発明の課題として、最近まで、実施された研究では、金属イオンを充填したゼオライトは、抗細菌性材料の生産にしか使用されていなかったので、これらの製品が有効であるのは細菌だけであり、酵母および真菌には有効でなかったことが記載され(摘記(イ)参照)、開発された抗微生物性材料の抗細菌、抗真菌効果に関する図面の説明が記載されている(摘記(ウ)参照)。
そして、実施例の記載としては、【0034】にゼオライトの合成に関して、原料となるメタケイ酸ナトリウム(Na_(2)O:SiO_(2):5H_(2)O)、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)および水(H_(2)O)の量と、反応温度、時間及び操作に関して記載があり、【0035】?【0038】には、ゼオライトへのイオンの充填に関して、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオンを交換しイオン交換ゼオライトを作成したことに関して記載されている(摘記(エ)参照)。
さらに、適当な濃度の銀、亜鉛または銅を充填したゼオライト製剤の抗微生物特徴として、抗微生物活性を試験した結果及び経時的抗微生物寿命試験が記載されている(摘記(オ)(カ)参照)。

イ 発明の詳細な説明の記載から本願発明1が製造できるかについて
前記アの記載から、銀、亜鉛、または銅金属イオンが、合成ゼオライトに充填されている、抗微生物性材料が作成され、微生物活性や寿命が確認されたことは理解できる。しかしながら、請求項1に係る発明である「銀、亜鉛、または銅金属イオンが、4.64 Na_(2)O:Al_(2)O_(3):3.2 SiO_(2):400 H_(2)Oという特定の配合を有する合成ゼオライトXに充填されている、抗微生物性材料」に関しては、実施例においても、原料成分重量比が示されるだけである。そして、Na_(2)O、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、H_(2)Oが4.64:1:3.2:400というピンポイントの4成分組成比を有しかつゼオライトX構造を維持しているゼオライトが形成されたことに関しては、何ら生成物を分析することによって明らかにしていない以上、段落【0034】の実施例を参酌しても、請求項1に係る発明のものが製造できているとはいえない。

ウ 出願時の技術常識から本願発明1が製造できるかについて
また、【0034】には、「ゼオライトXに必要なメタケイ酸ナトリウム(Na_(2)O:SiO_(2):5H_(2)O)、アルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3):1.4Na_(2)O)、水酸化ナトリウム(NaOH:0.07H_(2)O)および水(H_(2)O)の量は、それぞれ8.71、2.57、0.04および88.68グラムと計算された。水を2分割し、高密度ポリウレタン容器に入れた。これらの容器の一方にメタケイ酸ナトリウムだけを加え、溶解させた。他方の容器にアルミン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを加えて完全に溶解させた。次に、2つの容器内の混合物を一つに混合し、それらが均一な混合物を形成するまで撹拌した。その新しい混合物を、ゼオライト合成のために、3日間、90℃に保った。3日間の最後に、合成されたゼオライトを減圧濾過で濾過した。それを90℃で24時間乾燥した。得られたゼオライトをブレンダーまたは乳棒による粉砕で粉末にした。銀、亜鉛または銅イオン交換を行うことで、微粉ゼオライトを抗微生物性にした。」との記載は、前述のとおり、原料成分の組成比を記載した部分と、混合の仕方、時間と温度、後処理の記載があるものの、どのような圧力で行うのかやpH、濃度、結晶化助剤等のゼオライト合成の条件が不明である。そして、「ゼオライトXに必要な」との記載は、補正前「さまざまなシリカ・アルミナ比を持つゼオライトタイプ(ゼオライトXおよびゼオライトA)に必要な」との記載を補正した記載であり、この記載からゼオライトXが選択的に合成できると理解できるところはない。

そして、「生成するゼオライトの結晶形や結晶粒径は原料の仕込み比率,pH,濃度,温度,時間,無機のアルカリ又は有機塩基(テトラプロピルアンモニウム塩)などの成型剤(Template Agent)の種類や濃度,種結晶の添加などによって左右され,結晶の純度や収率もこれらによって大きく異なる。ゼオライト合成反応の機構は学問的にも興味深いが,その詳細は不明な点が多く,その製法は特許やノウ・ハウとして重要な財産となっている。」(冨田 博夫,辰巳 敬,ゼオライトの科学と技術-天然資源の開発利用への応用-,資源・素材学会誌 107(1991)No.1 3頁右欄下から3行?4頁左欄5行)との総説の記載にもあるように、生成するゼオライトの結晶形や結晶の純度や収率が種々の条件で大きく異なることが技術常識であるといえるのであるから、上記【0034】の原料成分の組成比を記載した部分と、混合の仕方、時間と温度、後処理の記載と出願時の技術常識を参酌しても、ピンポイントの4成分組成比を有しかつゼオライトX構造を維持しているゼオライトが形成するためには、ゼオライト製造の条件設定に当業者といえども、過度な試行錯誤を要するといえる。

エ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、平成29年6月20日付け意見書において、請求項1の得られるゼオライトの配合に関して、「本願明細書の段落[0034]に記載の方法では、2つの高密度ポリウレタン容器中で溶解させた後、1つの容器中にまとめて反応させるものであり、90℃で保温するものの、水分が蒸発するということはありません。未反応のものがあれば蒸発しますが、反応が終了したゼオライトの配合は基本的に請求項1に規定されたとおりのものとなります。・・・仮に蒸発するとしても、それは未反応の余剰の水分であって、得られるゼオライトの配合は基本的に請求項1に規定されたとおりのものとなります。」と主張しているので検討する。

(イ)請求人の主張は、反応が完全に進行したことを前提としているが、ゼオライト原料が完全に反応したことは、具体的に未反応原料がないことを各種分析によって明らかにするほかないところ、実際には何ら生成物の成分分析等はおこなわれていないのであるから、反応が完全に進行したとは理解できず、審判請求人の上記主張は前提において採用できない。
また、審判請求人は、未反応の余剰の水分が蒸発する場合のあることを認めているが、そうであれば、どの程度の水分が蒸発するのかによって、当然生成物のゼオライトの組成は変化し、計算によって求められないことになるのであるから、その点でも、請求人の主張は採用できない。
しかも、原料から計算される組成は、特許請求の範囲において特定されたものに対して、相対的に水の量が少なくなっており、上記主張と矛盾していることは先に述べたとおりである。

(ウ)そして、上述のとおり、生成するゼオライトの結晶形や結晶の純度や収率が種々のゼオライト製造条件で大きく異なることが技術常識であるといえるのであるから、ピンポイントの4成分組成比を有しかつゼオライトX構造を維持しているゼオライトを特定している請求項1に係る発明のものが、当業者といえども過度な試行錯誤なく、製造できるとはいえないことは前記ウで述べたとおりである。

(エ)以上のとおり、審判請求人の上記主張は採用できない。

(5)小括
したがって、本願の発明の詳細な説明には、当業者が請求項1に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたとはいえず、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

第5 むすび
以上のとおり、平成28年10月31日付けの手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また、この特許出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
したがって、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-02 
結審通知日 2018-10-09 
審決日 2018-10-22 
出願番号 特願2014-549616(P2014-549616)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (A01N)
P 1 8・ 536- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土橋 敬介松本 淳早乙女 智美神谷 昌克  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 瀬良 聡機
関 美祝
発明の名称 合成ゼオライトに充填された金属イオンを含む抗微生物性材料  
代理人 松谷 道子  
代理人 冨田 憲史  
代理人 稲井 史生  
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