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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B05D
管理番号 1349679
異議申立番号 異議2017-701028  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-25 
確定日 2019-01-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6121171号発明「建築物外壁面の改修塗装方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6121171号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6121171号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。 特許第6121171号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1.手続の経緯
特許第6121171号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年1月18日に特許出願され、平成29年4月7日付けでその特許権の設定登録がされ、平成29年4月26日に特許掲載公報が発行され、その後、平成29年10月25日に特許異議申立人笠原佳代子(以下「異議申立人」という)より、請求項1ないし4に対して特許異議の申立てがされ、平成30年1月30日付けで取消理由が通知され、平成30年4月2日に意見書の提出及び訂正請求がされた。
これに対し、平成30年6月14日に異議申立人から意見書が提出され、平成30年9月4日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成30年11月5日に意見書の提出及び再度の訂正請求(以下、当該再度の訂正を、単に「訂正」といい、その請求を「本件訂正請求」という。)がされた。
なお、平成30年4月2日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(17)のとおりである。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものである。また、明細書及び図面に係る訂正は、一群の請求項〔1-4〕について請求されたものである。
(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2に「請求項1に記載の建築物外壁面の改修塗装方法において、前記エナメル塗料は、前記多彩塗装された外壁面の新築時の塗装色におけるベース色を基調とした色とする建築物外壁面の改修塗装方法。」と記載されているのを、「建築物の、複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材からなる外壁面を、現場塗装により補修する方法であって、無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料を用い、前記多彩塗装された前記複数の外壁面材からなる外壁面の全体に渡り、前記凹凸模様で生じる少なくとも前記凸面部分の全面を上塗り塗装し、前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であり、前記エナメル塗料は、前記多彩塗装された外壁面の新築時の塗装色におけるベース色を基調とした色とする建築物外壁面の改修塗装方法。」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(3)訂正事項3
請求項3に「請求項1または請求項2に記載の」と記載されているのを、「請求項2に記載の」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(4)訂正事項4
請求項4に「請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の」と記載されているのを、「請求項2または請求項3に記載の」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0008】に「建築物の凹凸模様」と記載されているのを、「建築物の、複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0008】に「少なくとも凸面部分」と記載されているのを、「少なくとも前記凸面部分」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0010】に「おいて、前記エナメル塗料は、」と記載されているのを、「おいて、前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であり、前記エナメル塗料は、」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0014】に「建築物の凹凸模様」と記載されているのを、「建築物の、複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0014】に「少なくとも凸面部分」と記載されているのを、「少なくとも前記凸面部分」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0014】の「建築物の凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材からなる外壁面を、現場塗装により補修する方法であって、無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料を用い、前記多彩塗装された外壁面における、前記凹凸模様で生じる少なくとも凸面部分の全面を上塗り塗装することを特徴とする建築物外壁面の改修塗装方法。」との記載を削除する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0015】(【図面の簡単な説明】)に「【図1】この発明の一実施形態にかかる建築物外壁面の改修塗装方法」と記載されているのを、「【図1】この発明の基礎となる提案例にかかる建築物外壁面の改修塗装方法」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0015】(【図面の簡単な説明】)に「【図4】同改修塗装方法が適用される外壁面の他の例の改修塗装前の拡大断面図」と記載されているのを、「【図4】この発明の一実施形態に係る改修塗装方法が適用される外壁面の例の改修塗装前の拡大断面図」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(13)訂正事項13
明細書の段落【0016】に「この発明の建築物外壁面の改修塗装方法の一実施形態を」と記載されているのを、「この発明の基礎となる提案例に係る建築物外壁面の改修塗装方法を」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(14)訂正事項14
明細書の段落【0021】に「図4および図5は、改修対象」と記載されているのを、「この発明の一実施形態を図4および図5と共に説明する。図4および図5は、改修対象」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(15)訂正事項15
明細書の段落【0021】に「この例では、改修塗装前の外壁材1の表面1aのうち凹凸模様の凸面部分1aaのみに、」と記載されているのを、「この例では、改修塗装前の外壁材1の表面1aのうち、複数の凸面部分1aaと隣り合う前記各凸面部分1aaの間に生じる溝状の凹面部分1abとでなる凹凸模様の凸面部分1aaのみに、」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(16)訂正事項16
図面の【図4】に

とあるのを、

と訂正する。

(17)訂正事項17
図面の【図5】に

とあるのを、

と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項1との引用関係を解消して、独立形式請求項へ改め(以下、「訂正事項2-1」という。)、さらに、訂正前の請求項2が引用する請求項1に記載された「建築物の凹凸模様」を、「複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様」としつつ、凹凸模様に関して、さらに「前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であり」とし(以下、「訂正事項2-2」という。)、及び、訂正前の請求項2が引用する請求項1に記載された「少なくとも凸面部分」を、「少なくとも前記凸面部分」とする(以下、「訂正事項2-3」という。)ものである。
以下、上記訂正事項2-1ないし2-3について検討する。

ア.訂正事項2-1について
訂正事項2-1は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項1の記載を引用しない記載とするものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、訂正事項2-1は新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ.訂正事項2-2について
訂正事項2-2は、訂正前の請求項2が引用する請求項1に係る発明の建築物の凹凸模様について、「複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様」とするとともに、「前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であり」と」することにより、凹凸模様がどのようなものであるか明確なものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項2-2は、【図4】及び【図5】の外壁材の凸面部分1aaの間に凹面部分があるとした図示と、明細書の段落【0021】に「煉瓦造を模した凹凸模様」と記載されていることから、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、この訂正事項2-2は、明瞭でない記載の釈明をすることによって実質的に発明特定事項を下位概念化するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ.訂正事項2-3について
訂正事項2-3は、訂正事項2-2によって「凹凸模様」が「複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる」と訂正されることによって「凸面部分」が「少なくとも凸面部分」より前にも記載されることとなったため「少なくとも凸面部分」と記載されているのを「少なくとも前記凸面部分」とするものであるから、訂正事項2-2による訂正と整合を図るものであって、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項2-3は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3及び訂正事項4は、先行する複数の請求項を引用するとした訂正前の記載から、引用先の一部の請求項を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項5について
訂正事項5は、明細書の段落【0008】の記載を、訂正事項2-2による訂正と整合を図るべく訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項5は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項5は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項6について
訂正事項6は、明細書の段落【0008】の記載を、訂正事項2-3による訂正と整合を図るべく訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項6は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項6は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項7について
訂正事項7は、明細書の段落【0010】の記載を、訂正事項2-2による訂正と整合を図るべく訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項7は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項7は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項8について
訂正事項8は、明細書の段落【0014】の記載を、訂正事項2-2による訂正と整合を図るべく訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項8は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項8は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項9について
訂正事項9は、明細書の段落【0014】の記載を、訂正事項2-3による訂正と整合を図るべく訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項9は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項9は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項10について
訂正事項10は、明細書の段落【0014】における訂正前の請求項1に関連する記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項10は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項10は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 、

(10)訂正事項11について
訂正事項11は、明細書の段落【0015】に「【図1】この発明の一実施形態にかかる建築物外壁面の改修塗装方法」と記載されているのを、「【図1】この発明の基礎となる提案例にかかる建築物外壁面の改修塗装方法」に訂正することにより、【図1】が発明の基礎となる技術であって、発明の一実施形態ではないことを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項11は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項11は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11)訂正事項12について
訂正事項12は、明細書の段落【0015】に「【図4】同改修塗装方法が適用される外壁面の他の例の改修塗装前の拡大断面図」と記載されているのを、「【図4】この発明の一実施形態に係る改修塗装方法が適用される外壁面の例の改修塗装前の拡大断面図」に訂正することにより、【図4】が発明の一実施形態であることを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項12は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項12は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(12)訂正事項13について
訂正事項13は、明細書の段落【0016】に「この発明の建築物外壁面の改修塗装方法の一実施形態を」と記載されているのを、「この発明の基礎となる提案例に係る建築物外壁面の改修塗装方法を」に訂正することにより、【図1】ないし【図3】が発明の基礎となる技術であって、発明の一実施形態ではないことを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項13は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項13は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(13)訂正事項14について
訂正事項14は、明細書の段落【0021】に「図4および図5は、改修対象」と記載されているのを、「この発明の一実施形態を図4および図5と共に説明する。図4および図5は、改修対象」に訂正することにより、【図4】および【図5】が発明の一実施形態であることを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項14は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項14は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(14)訂正事項15について
訂正事項15は、明細書の段落【0021】に「この例では、改修塗装前の外壁材1の表面1aのうち凹凸模様の凸面部分1aaのみに、」と記載されているのを、「この例では、改修塗装前の外壁材1の表面1aのうち、複数の凸面部分1aaと隣り合う前記各凸面部分1aaの間に生じる溝状の凹面部分1abとでなる凹凸模様の凸面部分1aaのみに、」に訂正することにより、「複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる」とすることで、凹凸模様がどのようなものであるかを明確なものとするとともに、図面の符号を加えることで、凹面部分がどこであるかを明確にするものであるから明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。そして、訂正事項15は、【図4】及び【図5】に示された外壁材の凸面部分1aaの間に凹面部分があり、明細書の段落【0021】に「煉瓦造を模した凹凸模様」と記載されていることから、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項15は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(15)訂正事項16について
訂正事項16は、図面の【図4】に符号「1ab」を2箇所追加するとともに、それらの引き出し線を追加するものであって、凹面部分が図面上のどの位置にあるかを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項16は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項16は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(16)訂正事項17について
訂正事項17は、図面の【図5】に符号「1ab」を2箇所追加するとともに、それらの引き出し線を追加するものであって、凹面部分が図面上のどの位置にあるかを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。また、訂正事項17は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。さらに、訂正事項17は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.訂正についてのまとめ
したがって、本件訂正請求による訂正事項1ないし17は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。

4.異議申立人の主張
(1)訂正事項2-2について
異議申立人は、平成30年6月14日提出の意見書6ページ下から5ないし3行において「従って、本件訂正発明1における『凹凸模様』とは、訂正後であっても、いかなる形状なのか不明であり、本件明細書に記載された範囲を超えて、本件訂正発明1を特定するものであり、訂正事項1は新規事項の追加に該当する。」旨主張する。(当審注:平成30年6月14日提出の意見書における「訂正事項1」及び「訂正事項3」は、本件訂正請求における「訂正事項2-2」に相当する。)
しかし、「建築物の、複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様」という記載は、上記2.(2)イ.で検討したように、【図4】及び【図5】に示された外壁材の凸面部分1aaの間に凹面部分があり、明細書の段落【0021】に「煉瓦造を模した凹凸模様」と記載されていることを参酌すれば、凹凸模様が不明確であるとまではいえない。
また、訂正により凹凸模様に付した「煉瓦造を模した」とする事項について見ても、上記2.(2)イ.で検討したように、明細書の段落【0021】に「煉瓦造を模した凹凸模様」と記載されていることから、新規事項の追加とはならない。
そうすると、訂正事項2-2は本件明細書の記載を超えるものではなく、訂正要件を満たすものであるから、異議申立人の主張は理由がない。
また、異議申立人は、平成30年6月14日提出の意見書の9ページ3ないし4行において「訂正事項3における『煉瓦造を模した凹凸模様』とはいかなる構造か不明確である。」旨主張する。
しかし、甲第5号証(異議申立人が平成30年6月14日提出の意見書に添付して提出した「建築大辞典 第2版」 彰国社 2002年6月10日第7刷、1764ページ)の「煉瓦積み」の欄の「所定の目地幅になるように」との記載から「煉瓦造」とは、目地(凹部)を有することが明らかである。
してみると、『煉瓦造を模した凹凸模様』とは、煉瓦造のような目地(凹部)を有する模様であって、全体的に見て凹凸を有するものであることが一般的に定義されているから、その構造を不明確とすることは妥当ではないため、異議申立人の主張は理由がない。

第3.訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
建築物の、複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材からなる外壁面を、現場塗装により補修する方法であって、
無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料を用い、前記多彩塗装された前記複数の外壁面材からなる外壁面の全体に渡り、前記凹凸模様で生じる少なくとも前記凸面部分の全面を上塗り塗装し、
前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であり、前記エナメル塗料は、前記多彩塗装された外壁面の新築時の塗装色におけるベース色を基調とした色とする建築物外壁面の改修塗装方法。
【請求項3】
請求項2に記載の建築物外壁面の改修塗装方法において、前記半透明塗料の塗膜の膜厚を5?10μmとする建築物外壁面の改修塗装方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の建築物外壁面の改修塗装方法において、前記半透明塗料で上塗り塗装した後で、外壁面全体にクリアー塗料を上塗りする建築物外壁面の改修塗装方法。」

第4.取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
(1)訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して平成30年1月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨(特許法第36条第6項第2号)は、次のとおりである。
ア.請求項1に対して
(ア)請求項1の「凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材」との記載における「凹凸模様」がどのような模様であるか明確でない。
この点について検討すると、請求項1の「前記凹凸模様で生じる少なくとも凸面部分」との記載から、「凹凸模様」の凸は面を形成する部分を有することになる。
しかしながら、一般的な凹凸とは、面を有するか否かを問わないでこぼこを単に表すので、突き出た部分が面であることだけでは、面が平面なのか曲面なのかも不定である。そうすると、どこの範囲を凸面部分と認識・区別するかが定まらず「凸面部分の全面」が明確に定まらない不備がある。
さらに、「凹凸模様」との記載では、一般的には、例えば、特許異議申立書の第20ページの参考図に示すような「凹凸模様」が想定でき、請求項1の「前記凹凸模様で生じる少なくとも凸面部分」における「凸面部分」が、平面あるいは曲面などのいずれの態様であるか特定できない。
したがって、請求項1の「凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材」との記載における「凹凸模様」との記載は明確でない。

(イ)請求項1の「前記凹凸模様で生じる少なくとも凸面部分の全面を上塗り塗装する」との記載における「少なくとも凸面部分の全面」がどの部分を意味するか明確でない。
すなわち、上記(ア)で述べたとおり、「凹凸模様」がどのような模様であるか明確でなく、「凸面部分の全面」が明確に定まらないから、上塗り塗装がなされる「少なくとも凸面部分の全面」も明確に定まらない。

(ウ)よって、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

イ.請求項2ないし4に対して
上記ア.と同様の理由で、請求項1を引用する請求項2ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)訂正前の(取り下げられたとみなされる平成30年4月2日の訂正請求による)請求項1ないし4に係る特許に対して平成30年9月4日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨(特許法第36条第6項第2号)は、次のとおりである。
ア.請求項1に対して
(ア)上記(1)ア.(ア)及び同(イ)について検討すると、平成30年4月2日の訂正請求により建築物の凹凸模様について、「複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる」と訂正されたことにより、隣り合う凸面部分の間に溝状の凹面部分が存在することは明らかになった。
しかしながら、「複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる」との記載では、凸面部分の大きさと凹面部分の大きさの大小関係が明確でなく、それらの境界も明確であるとはいえない。
そして、凸面部分の大きさと凹面部分の大きさの大小関係が明確でなく、それらの境界も明確であるとはいえないから、上記b.で指摘した「少なくとも凸面部分の全面」がどの部分を意味するかが依然として明確でなく、外壁面の補修のために最低限上塗りされる範囲が明確であるとはいえない。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

イ.請求項3及び4に対して
上記ア.と同様の理由で、請求項1を引用する請求項3及び4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2.当審の判断
平成30年1月30日付けで特許権者に通知した取消理由及び平成30年9月4日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、いずれも特許法第36条第6項第2号に関するものであるから、これら取消理由の解消の有無について纏めて検討する。
(1)請求項1に対して
取消理由の対象である請求項1は削除されたため、対象となる請求項が存在しない。

(2)請求項2に対して
平成30年1月30日付けで特許権者に通知した取消理由及び平成30年9月4日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)を総合すると、取消理由は、「凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材」との記載における「凹凸模様」がどのような模様であるか明確でないこと(以下、「取消理由ア」という。)及び「前記凹凸模様で生じる少なくとも凸面部分の全面を上塗り塗装する」との記載における「少なくとも凸面部分の全面」がどの部分を意味するか明確でないこと(以下、「取消理由イ」という。)の二点である。
これらの取消理由が解消したか否かについて検討する。
ア.取消理由アについて
本件訂正請求により建築物の凹凸模様について、「複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる」と訂正されるとともに、「前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であり」と訂正されることにより、建築物の凹凸模様は、隣り合う凸面部分の間に溝状の凹面部分が存在する構造であることが明らかになるとともに、また、凹凸模様が具体的に煉瓦造を模した凹凸模様であることから凸面部分と凹面部分との大小関係や、凸面部分と凹面部分との境界も明らかになった。
したがって、「凹凸模様」がどのような模様であるか明確となったため取消理由アは解消したと認められる。

イ.取消理由イについて
上記ア.で検討したように、「凹凸模様」の凸面部分と凹面部分との大小関係や、凸面部分と凹面部分との境界が明らかになったから、上塗り塗装される「少なくとも凸面部分の全面」がどの部分を意味するかが明確となった。
したがって、「前記凹凸模様で生じる少なくとも凸面部分の全面を上塗り塗装する」との記載は明確でないとはいえないから、取消理由イは解消したと認められる。

ウ.まとめ
以上のとおりであるから、請求項2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

(3)請求項3及び4に対して
本件訂正請求により、請求項3は請求項2を引用するものとなり、また、請求項4は請求項2または請求項3を引用するものとなり、請求項3及び請求項4はいずれも請求項を引用しない他の部分に不明確な記載があるとも認められないから、請求項3及び請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.特許法第29条第2項
(1)申立理由の概要
異議申立人は、証拠として、下記の甲第1ないし4号証を提出して、請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開2001-172531号公報
甲第2号証:特開2004-232406号公報
甲第3号証:建築実務大事典、株式会社エクスナレッジ 2011年3月31日初版第1刷発行、478及び479ページ
甲第4号証:実願平2-1177号(実開平3-93536号)のマイクロフィルム

(2)甲各号証の記載
ア.甲第1号証(特開2001-172531号公報)
(ア)記載事項
a.「【0002】
【従来の技術】近年、住宅の寿命が延び、その屋根材、外壁材にも長期の寿命が要求されるようになった。また、いわゆるサイディング材と呼ばれる窯業系の建材が、戸建て住宅の外壁材として多く用いられるようになってきたが、その表面は、アクリルエマルション塗料のような耐候性の低い塗料でしか塗装されていなかったため、数年の間に変色、光沢変化等の外観変化が起こり、さらには、材料自体への吸水等も起こって、再塗装または貼り替えが必要な状況にまで達することがあった。最近、ビル、橋梁等の大型構造物にしばしば採用され、長期の耐候性を示している塗装材として、フッ素樹脂塗料があり、昔からある高温焼き付けタイプに加えて、溶剤に可溶な常温架橋タイプ(例:旭硝子製商品名ルミフロン)、さらには水系のエマルションタイプのフッ素樹脂塗料も出現して、長期にわたって基材を保護する塗料として注目されている。近年、住宅外壁等に使われる窯業系のサイディング材は、意匠性の向上のために、部分的な色分け、スパッタ模様、多色重ね塗りによる色分け等がしばしば行われている。これら多色塗り材においては、表面が劣化してきた場合に着色塗料による補修塗装を行うと、初期の意匠性が失われてしまうという問題があり、クリヤ塗料による補修を行って、下地の多色塗装による意匠性を維持したいという要望があった。」

b.「【0013】さらに、本発明の塗料用組成物には、上記以外の塗料用添加剤、例えば造膜助剤、増粘剤、表面親水化剤、表面撥水剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、皮バリ防止剤、硬化剤などの1種または2種以上を混合してもよい。本発明の塗料用組成物は、顔料を含有しないクリヤ塗料組成物として使用することにより、本発明の特徴がより発揮できる。なお、本発明の塗料用組成物は、顔料を少量配合してカラークリヤ塗料として用いることも可能であり、さらに顔料を配合していわゆるエナメル塗料として使用しても構わない。本発明の塗料用組成物は、木、プラスチックスなどの有機基材、ガラス、コンクリート、金属などの無機基材などの種々の基材に適用できるが、窯業系建材に適用すること、さらには多色塗りのサイディング材補修に適用することが本発明の特徴をより発揮することができる。」

c.「【0014】塗料用組成物の塗装により得られる塗膜の厚みは、特に制限ないが、通常5?50μmであればよく、好ましくは10?30μmである。本発明の塗料用組成物の塗装に関しては、スプレー、ロールコータ、刷毛塗り、転写他各種塗装方法を採用することが可能である。本発明の窯業系建材は、本発明の塗料用組成物を窯業系建材の表面に塗装することにより得られる。窯業系建材の表面に本発明の塗料用組成物を塗装する際には、下塗りとして、各種シーラー、エナメル塗料、カラークリヤ塗料等を施すことが可能である。下塗り塗料の樹脂成分としては、エポキシ系、アクリルエマルション系、アクリルウレタン系、アクリルシリコン系、フッ素樹脂系、無機系、カルボニルヒドラジド架橋タイプ等の各種樹脂を用いることができる。下塗り塗料の塗装により得られる塗膜の厚みは、特に制限ないが、通常5?100μmであればよく、好ましくは10?50μmである。本発明の窯業系建材は、種々の用途に使用できるが、特に外壁用窯業系建材として使用することが本発明の特徴をより発揮することができる。」

(イ)認定事項
d.摘記事項a.の「近年、住宅の寿命が延び、その屋根材、外壁材にも長期の寿命が要求されるようになった。」との記載、摘記事項b.の「本発明の塗料用組成物は、木、プラスチックスなどの有機基材、ガラス、コンクリート、金属などの無機基材などの種々の基材に適用できるが、窯業系建材に適用すること、さらには多色塗りのサイディング材補修に適用することが本発明の特徴をより発揮することができる。」との記載、及び、摘記事項c.の「特に外壁用窯業系建材として使用することが本発明の特徴をより発揮することができる。」との記載によれば、塗装用組成物は住宅の多色塗りされたサイディング材の補修に用いられることが分かる。

(ウ)引用発明
甲第1号証の摘記事項a.ないしc.、認定事項d.に、技術常識を勘案すると、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。
「住宅の、多色塗りされたサイディング材を、塗装により補修する方法であって、
顔料を含有しないクリヤ塗料に、顔料を少量配合したカラークリヤ塗料を用い、前記多色塗りされたサイディング材を上塗り塗装する住宅のサイディング材の改修塗装方法。」(以下「甲1発明」という。)

イ.甲第2号証(特開2004-232406号公報)
(ア)記載事項
a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築物等の外装仕上げに用いられている陶磁器タイル面の改修方法に係るものである。」

b.「【0024】
本発明では、特に塗料(A)として、隠ぺい率が0.10?0.60(好ましくは0.20?0.50、より好ましくは0.25?0.45)である着色透明塗料(A’)が好適である。このような着色透明塗料(A’)を使用すれば、既存陶磁器タイル面の意匠性を保持しつつ、タイル部に生じた汚染やすり傷等を目立たなくし、さらに、経年劣化よって損われた色相や光沢等を復元することができる。加えて、この工程では目地部にも塗料が塗着するが、塗料の隠ぺい率が低めに設定されているため、目地部の色相はあまり変化しない。このため、タイル部と目地部のコントラストを保つことができる。」

c.「【0026】
着色透明塗料(A’)の色相は、上述の隠ぺい率の範囲内で適宜設定することができる。既存タイルと同系色の仕上げとする場合は、改修の対象となる既存タイルの色柄に応じて、着色透明塗料(A’)の色相を既存タイル部の基調色と同系色に設定すればよい。また、既存タイルと全く異なる色相にすることもできる。」

d.「【0032】
本発明における塗料(A)の塗装は、通常、陶磁器タイル面全体に対して行うが、陶磁器タイル面のタイル部、目地部のいずれか一方のみに対して行うこともできる。
陶磁器タイル表面の洗浄を行った場合は、陶磁器タイル面の内部に水が残存した状態であっても、その表面が乾燥した状態であれば塗装を行うことができる。
塗料(A)の塗付量は、塗装対象となる陶磁器タイル面の種類・状態等を勘案して適宜設定すればよいが、通常50?300g/m^(2)程度である。塗装器具は特に限定されず、刷毛、スプレー、ローラー等公知の塗装器具を使用することができる。
本発明では、塗料(A)を塗装した後に、塗料(A)と異なる色相の塗料を斑点状に吹付塗装してもよい。このような塗装を行うことにより、タイル部に斑点模様を付与することができる。」

e.「【0035】
目地部が灰色のセメントモルタル、タイル部が黄土色の基調色にこげ茶色の斑点模様を有するせっ器質タイル(無釉)からなり、施工後5年経過した陶磁器タイル面(150×200mm)を試験基材とした。
この試験基材の表面を、ノニオン性界面活性剤を主成分とする洗浄液で洗浄し、さらに水洗いした。常温(23℃)で2時間放置後、上述の塗料(A-1)を塗付量200g/m^(2)でスプレー塗装し、常温で168時間乾燥させた。
以上の工程によって得られた試験板を、50℃温水に72時間浸漬した後、その外観変化を確認し、さらに碁盤目テープ法(4×4mm・25マス)によって密着性を評価した。
その結果、実施例1の試験板において特に異常は認められなかった。」

ウ.甲第3号証(建築実務大事典、株式会社エクスナレッジ 2011年3月31日初版第1刷発行、478及び479ページ)
(ア)記載事項
a.「セメントなどを主原料とし、繊維質の木片や無機物などを混ぜ、強化してプレス成形などで板状としたもの。色もデザインもさまざまで、レンガタイル風、自然石風など多くのデザインがある。比較的低価格であるうえ、雨水で汚れが落ちたり、長く再塗装をしなくて済む。メンテナンスは比較的楽であるが、ジョイントのシーリングは、10?15年程度で打ち替える必要がある。」(479ページ、乾式系の表の窯業系サイディングの欄)

エ.甲第4号証(実願平2-1177号(実開平3-93536号)のマイクロフィルム)
(ア)記載事項
a.「2.実用新案登録請求の範囲
レンガ積み、タイル張り等におけるレンガ、タイル等に相当する凸面部と目地部を有する方形のサイディングであって、張設時に隣り合う2枚のサイディングにまたがる凸面部を、少なくとも前記目地部からの突出量に相当する厚みを有する1枚の板体で形成したことを特徴とするサインディング。」(当審注:「サインディング」は「サイディング」の誤記と解される。)

(3)本件発明1について
特許異議申立理由の対象である請求項1は削除されたため、対象となる請求項が存在しない。

(4)本件発明2について
ア.対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「住宅」は本件発明2の「建築物」に相当し、同様に「多色塗りされた」は「多彩塗装された」に相当する。
また、甲1発明の「サイディング材」は住宅の外壁面に用いられるものであるから、本件発明2の「外壁面」に相当し、甲1発明の「塗装により補修する」ことは、塗装による補修は住宅が建てられている場所、すなわち、現場で行われることは明らかであるから、本件発明2の「現場塗装により補修する」に相当する。
したがって、甲1発明の「住宅の、多色塗りされたサイディング材を、塗装により補修する方法」は、本件発明2の「建築物の、多彩塗装された外壁面を、現場塗装により補修する方法」に相当する。
また、甲1発明の「顔料を含有しないクリヤ塗料」は本件発明2の「無色透明のクリアー塗料」に相当し、同様に「カラークリヤ塗料」は「半透明塗料」に相当する。
さらに、甲1発明の「顔料を少量配合したカラークリヤ塗料」は、本件発明2の「半透明塗料」に添加される「有色のエナメル塗料」は、顔料を含有するものであるから、「顔料を少量添加したカラークリヤ塗料」という限りにおいて、本件発明2の「有色のエナメル塗料を添加した半透明塗料」と共通する。

そうすると、本件発明2と甲1発明は、以下の点で一致し、かつ相違する。

<一致点>
「建築物の、多彩塗装された、外壁面を、現場塗装により補修する方法であって、
無色透明のクリアー塗料に、顔料を添加した半透明塗料を用い、前記多彩塗装された外壁面を上塗り塗装する建築物外壁面の改修塗装方法。」

<相違点1>
本件発明2は、「外壁面」が「複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様を有し」、「前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であ」り、「複数の外壁面材からなる外壁面の全体に渡り、前記凹凸模様で生じる少なくとも前記凸面部分の全面を上塗り塗装」するのに対し、甲1発明は、「外壁面」を構成する「サイディング材」の表面が「凹凸模様」を有するかどうか明らかでない点。

<相違点2>
「無色透明のクリアー塗料」を「半透明塗料」にする際に、本件発明2は、「有色のエナメル塗料を1?10重量%添加」するのに対し、甲1発明は、添加される顔料がエナメル塗料といえるかどうか明らかでなく、また、当該顔料をどの程度添加するか明らかでない点。

<相違点3>
本件発明2は、添加する「エナメル塗料」が、「多彩塗装された外壁面の新築時の塗装色におけるベース色を基調とした色」であるのに対し、甲1発明は、添加する顔料の色がどのようなものであるか明らかでない点。

イ.当審の判断
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲第2号証には、建築物の外壁面の補修に着色透明塗料を用いることは記載されているものの、着色透明塗料が、無色透明のクリアー塗料にエナメル塗料を添加するものであることは記載も示唆もなく、添加するエナメル塗料の量を1?10重量%とすることも記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明に甲第2号証に記載された事項を適用できたとしても、相違点2に係る本件発明2の発明特定事項とはならない。
また、甲第3号証及び甲第4号証にも「無色透明のクリアー塗料に、エナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料」を用いることは記載も示唆もない。

よって、相違点2に係る本件発明2の構成については、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項から、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

したがって、他の相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

ウ.異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書16ページ下から5行ないし末行において「つまり、甲1には、顔料を少量配合したカラークリヤ塗料から、更にカラークリヤ塗料に顔料を配合してエナメル塗料とすることが可能であることが開示されている。また、甲2における『塗料の隠ぺい率』に基づけば、『有色のエナメル塗料を1?10重量%添加』することは容易である。」旨主張している。
しかしながら、甲第1号証の「塗料用組成物」及び甲第2号証の「着色透明塗料」はいずれも、無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を添加して得られたものではなく、甲第1号証及び甲第2号証から無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を添加するという技術事項を導き出すことが容易であるとはいえない。
したがって、異議申立人の主張は理由はない。

(5)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明2を直接的に引用しており、本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明2と同様に、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

2.特許法第36条第6項第2号
(1)異議申立人は、特許異議申立書20ページ5ないし15行の「(イ)構成Dの『添加量の基準』に関して」の項において、請求項1(当審注:2.(1)及び(2)における「請求項1」との記載は「訂正後の請求項2」に相当する。)の「有色のエナメル塗料を1?10重量%添加」とは、どの材料を基準として、添加するものであるか不明確であり、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。
しかしながら、「無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料」との記載からみて、半透明材料を100重量%とした場合に、有色のエナメル塗料が「1?10重量%」添加されていると解すべきものである。このことは、本件明細書の段落【0009】の「有色のエナメル塗料の含有割合が10%を超えると、」との記載における「含有割合」との表現からみても明らかである。
したがって、特許された請求項1の記載における「有色のエナメル塗料を1?10重量%添加」は、添加の基準となる材料が「半透明材料」であることは明らかであるから、異議申立人の主張は理由はない。

(2)異議申立人は、特許異議申立書20ページ下から3行ないし21ページ9行の「(ウ)構成Dの『特定した添加量の技術的意味』に関して」の項において、請求項1の「有色のエナメル塗料を1?10重量%添加」することによる効果については、実施例により、立証されておらず、技術的意味が不明確であり、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。
しかしながら、「有色のエナメル塗料を1?10重量%添加」との記載自体が明確なことは、上記(1)で検討したとおりである。
また、本件明細書には、具体的な実施例が記載されていないものの、具体的な実施例がないから技術的な意味が不明確であるまではいえない。
そして、有色のエナメル塗料の添加量に関して、本件明細書の段落【0017】に「有色のエナメル塗料の添加量は、好ましくは5%である。」と記載され、有色のエナメル塗料本件明細書の段落【0009】に「有色のエナメル塗料の含有割合が10%を超えると、元の多彩塗装が上塗りされる半透明塗料で多少塗り潰されたようになり、また1%未満であると、多彩塗装の色彩を蘇らせる効果が十分に得られない。」と記載されており、「有色のエナメル塗料を1?10重量%添加」することの技術的意味は理解できるから、異議申立人の主張は理由はない。

第6.本件訂正請求がなされたことに関する異議申立人への求意見等について
上記「第1.手続の経緯」に示したように、平成30年4月2日の訂正請求に対して異議申立人に意見を述べる機会を与えた。
そして、平成30年11月5日の再度の訂正請求により請求された本件訂正事項は、上記「2.訂正の適否についての判断」の(1)で示したとおりであって、異議申立人に意見を述べる機会を与えた最初の訂正請求の訂正事項の内容と見比べると、両者において異なる訂正は、請求項1を削除する訂正事項1、及び、削除される請求項1に関連する事項を削除する訂正事項3、4、及び10だけである。
係る事情を勘案すると、本件訂正請求に対して改めて異議申立人へ再度意見を求めるか否かについては、特許法第120条の5第5項ただし書きで言う、特別の事情があるときに該当すると認められるので、異議申立人へ再度の意見書提出の機会を求めるには及ばないとした。

第7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項2ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項1に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
建築物外壁面の改修塗装方法
【技術分野】
【0001】
この発明は、多彩塗装された住宅やビル等の建築物外壁面の改修塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に多彩塗装された外壁材を用いた建築物の同一壁面において、例えば部分的に外壁材が張り替えられている場合、張り替えない外壁材の塗装面と張り替えた外壁材の塗装面との間では経年変化による褪色の程度差が際立ち、これが壁面に色調差となって現れる。このような色調差を解消するための改修方法として、例えば以下に挙げるような方法が考えられる。
(1) 改修対象となる外壁材(褪色の進んだ外壁材)を全て張り替える。
(2) 改修対象となる外壁材の表面を、有色不透明の塗料(以下、エナメル塗料と呼ぶ)を用いて上塗り塗装する。
(3) 改修対象となる外壁材の表面を、無色透明のクリアー塗料を用いて上塗り塗装する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-326052号公報
【特許文献2】特開2010-264454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、外壁材を張り替える上記(1)の改修方法では、塗装面の褪色が目立つ外壁材だけを選択して張り替えを行うと、張り替えない外壁材と張り替えた外壁材との間で塗装面の色調差が際立ってしまう。このような色調差を解消するためには、他の外壁材も全て張り替えなければならず、結局コスト高となってしまう。また、改修工事における工程間のジョイントロスも発生する。
【0005】
また、エナメル塗料を用いて上塗り塗装する上記(2)の改修方法では、外壁材の全面張り替えと比較してコストを抑えることができるが、エナメル塗料が単色や2配色である場合、意匠性が低下してしまう。エナメル塗装において、改修前の多彩塗装の塗膜表面にグラデーションなどの加飾処理を筆やローラーを用いて施せば、意匠性の低下を回避できる。しかしその場合、改修に工芸的技能が必要で、意匠のばらつきが懸念され、またコスト高で工期も長く要する。
【0006】
無色透明のクリアー塗料で上塗り塗装する上記(3)の改修方法では、上塗りされたクリアー塗料の塗膜で保護機能が強化されると共に、光沢が整えられ、コストも(1)や(2)の改修方法に比べて最も低く抑えることができる。しかし、無色透明の上塗りでは、色調差を解消するという本来の目的を果たしたことにはならず、ユーザーの納得・理解を得ることは困難である。
【0007】
この発明の目的は、工芸的技能や緻密な作業を要することなく、低コストで、褪色などに起因する色調差を解消して本来の色彩を蘇らせることができる建築物外壁面の改修塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の建築物外壁面の改修塗装方法は、建築物の、複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材からなる外壁面を、現場塗装により補修する方法であって、
無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料を用い、前記多彩塗装された前記複数の外壁面材からなる外壁面の全体に渡り、前記凹凸模様で生じる少なくとも前記凸面部分の全面を上塗り塗装することを特徴とする。前記有色のエナメル塗料の添加量は、好ましくは5%である。
【0009】
この建築物外壁面の改修塗装方法によると、半透明塗料を用いて、建築物の多彩塗装された外壁面に上塗り塗装するので、次のように色彩を蘇らせ、色調を整えることができ、また簡単に低コストで改修できる。
・色彩を蘇らせる
改修対象の外壁材表面全体を、新築時の多彩塗装のベース色を基調とした色の半透明塗料で上塗り塗装した場合、新築時の多彩塗装の色彩を蘇らせることができ、褪色が極めて進行した外壁材に対しても改修効果が得られる。
・色調を整える
新規品に張り替えた外壁材にも半透明塗料を上塗り塗装することで、多彩塗装における加飾部のコントラストを制御して、壁面全体を違和感なく馴染ませることができる。また、部分的な色むらも、半透明塗装のベール効果により、緻密な補正作業を要することなく馴染ませることができる。
・簡単に低コストで改修
ローラーや刷毛を用いた比較的簡単な方法が採用でき、また多彩塗装された模様、例えばインクジェットやグラビア方式による加飾部を塗り潰すことなく改修できる。
これらのことから、この建築物外壁面の改修塗装方法によると、工芸的技能や緻密な作業を要することなく、低コストで、褪色などに起因する色調差を解消して本来の色彩を蘇らせることができる。
なお、有色のエナメル塗料の含有割合が10%を超えると、元の多彩塗装が上塗りされる半透明塗料で多少塗り潰されたようになり、また1%未満であると、多彩塗装の色彩を蘇らせる効果が十分に得られない。
【0010】
この建築物外壁面の改修塗装方法において、前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であり、前記エナメル塗料は、前記多彩塗装された外壁面の新築時の塗装色におけるベース色を基調とした色とするのが望ましい。これは、エナメル塗料の色が、褪色時のベース色を基調とした色であると、新築時の本来の色彩を蘇らせることができないからである。
【0011】
この建築物外壁面の改修塗装方法において、前記半透明塗料の塗膜の膜厚を5?10μmとするのが望ましい。この範囲に膜厚を設定することで、半透明効果が得られ、元の多彩塗装の模様(例えばインクジェットやグラビア方式による加飾)を塗りつぶすことなく改修できる。
【0012】
この建築物外壁面の改修塗装方法において、凹凸模様の凹面部分は、淡色で設定され、半透明塗装色が干渉する場合があるため、上塗りしなくても良い。
【0013】
この建築物外壁面の改修塗装方法において、前記半透明塗料で上塗り塗装した後で、外壁面全体にクリアー塗料を上塗りすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明の建築物外壁面の改修塗装方法は、建築物の、複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材からなる外壁面を、現場塗装により補修する方法であって、無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料を用い、前記多彩塗装された前記複数の外壁面材からなる外壁面の全体に渡り、前記凹凸模様で生じる少なくとも前記凸面部分の全面を上塗り塗装することとしたため、工芸的技能や緻密な作業を要することなく、低コストで、褪色などに起因する色調差を解消して本来の色彩を蘇らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の基礎となる提案例にかかる建築物外壁面の改修塗装方法が適用される外壁面を有する建築物の外観斜視図である。
【図2】同改修塗装方法が適用される外壁面の一例の改修塗装前の状態を示す拡大断面図である。
【図3】同外壁面の改修塗装後の状態を示す拡大断面図である。
【図4】この発明の一実施形態に係る改修塗装方法が適用される外壁面の例の改修塗装前の拡大断面図である。
【図5】同外壁面の改修塗装後の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の基礎となる提案例に係る建築物外壁面の改修塗装方法を図1ないし図3と共に説明する。この建築物外壁面の改修塗装方法は、例えば図1に示すような建築物10の多彩塗装された外壁材1の表面を、現場塗装により改修する方法である。図2は、前記建築物10における改修塗装の対象となる外壁材1の一例の改修塗装前の部分拡大断面図を示す。この実施形態例では、改修対象となる外壁材1の基材2の表面が一様な平坦面であって、その表面は多彩塗装による塗膜3によって覆われている。基材2は、例えばセラミックス系である。このような外壁材1の表面1aに、半透明塗料を上塗り塗装して、図3のように前記多彩塗装の塗膜3の上に半透明塗料の塗膜4を形成する。この半透明塗料の上塗り塗装による塗膜4を形成した後で、外壁面全体にクリアー塗料を上塗りし、クリアー塗料による塗膜5を形成することが好ましい。半透明塗料の上塗り塗装は、外壁材1の表面1aの褪色の度合いに関係なく、同一壁面を構成する全外壁材1の表面1aに渡って行う。また、半透明塗料の上塗り塗装は、ローラーや刷毛などの簡便な道具を用いて行う。
【0017】
前記半透明塗料は、無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を1?10重量%添加したものである。有色のエナメル塗料の添加量は、好ましくは5%である。前記クリヤー塗料は、樹脂固形分、添加剤、溶媒(溶剤或いは水)からなる。有色のエナメル塗料は、樹脂固形分、顔料、添加剤、溶媒(溶剤或いは水)からなる。なお、エナメル塗料における顔料の含有量は、樹脂固形分100重量部に対して5.00?60.00重量部とする。また、エナメル塗料は、多彩塗装された外壁材1の表面1aのベース色(新築時の塗装色)を基調とした色とするのが望ましい。その理由は、エナメル塗料の色が、褪色時のベース色を基調とした色であると、新築時の本来の色彩を蘇らせることができないからである。
【0018】
半透明塗料の塗膜4の膜厚は5?10μmとするのが望ましい。この範囲に膜厚を設定することで半透明効果が得られ、元の多彩塗装の模様(インクジェットやグラビア方式などによる加飾)を塗りつぶすことなく改修できる。なお、前記半透明効果をある程度確保できる範囲として、半透明塗料の塗膜4の膜厚は、5?50μmの範囲まで拡大しても良い。
【0019】
半透明塗料を構成する無色透明のクリアー塗料としては、例えばアクリル系、アクリルシリコン系、ウレタン系、フッ素系などの樹脂系のものを用いることができる。また、可溶性の観点から見た場合、半透明塗料を構成するクリアー塗料およびエナメル塗料として好ましい塗料は、水系、弱溶剤系、強溶剤系などである。
【0020】
この建築物外壁面の改修塗装方法によると、このように無色透明のクリアー塗料に有色のエナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料を用いて、建築物の多彩塗装された外壁面に上塗り塗装するので、以下の効果が得られる。
・ 改修対象の外壁材表面全体を、新築時の多彩塗装のベース色を基調とした色の半透明塗料で上塗り塗装するので、新築時の多彩塗装の色彩を蘇らせることができ、褪色が極めて進行した外壁材に対しても改修効果が得られる。
・ 新規品に張り替えた外壁材にも半透明塗料を上塗り塗装することで、多彩塗装における加飾部のコントラストを制御して、壁面全体を違和感なく馴染ませることができる。また、部分的な色むらも、半透明塗装のベール効果により、緻密な補正作業を要することなく馴染ませることができる。
これらのことから、この建築物外壁面の改修塗装方法によると、工芸的技能や緻密な作業を要することなく、低コストで、褪色などに起因する色調差を解消して本来の色彩を蘇らせることができる。
【0021】
この発明の一実施形態を図4および図5と共に説明する。図4および図5は、改修対象となる外壁材1の表面1aに、例えば煉瓦造を模した凹凸模様が形成されている場合の改修塗装方法の例を示す。この例では、改修塗装前の外壁材1の表面1aのうち、複数の凸面部分1aaと隣り合う前記各凸面部分1aaの間に生じる溝状の凹面部分1abとでなる凹凸模様の凸面部分1aaのみに、図5のように半透明塗料を上塗り塗装して塗膜4を形成する。その他の構成および作用効果は図2および図3に示した例の場合と同様である。
【0022】
なお、例えば図4および図5に示す例において、図5のように外壁材1の表面1aの凸面部分1aaに半透明塗料を上塗り塗装した後で、さらに外壁面全体に無色透明のクリアー塗料を上塗り塗装しても良い。この場合は、クリアー塗料の上塗りで壁面に保護機能が付与されるなどの効果が得られる。
【0023】
また、例えば図4および図5に示す例において、図4に示す外壁材1の表面の凸面部分1aaにおける多彩塗料の塗膜3に、基調色となる面部分と、インクジェット面部分とがある場合、外壁材1の表面1aの凸面部分1aaに半透明塗料を上塗り塗装する図5の工程では基調色となる面部分にのみ半透明塗料を上塗り塗装し、その後で外壁面全体に無色透明のクリアー塗料を上塗り塗装するようにしても良い。この場合は、基調色となる面部分を選択的に改修でき、外壁面の保護効果も得られるが、塗料を塗り分ける手間を要すると共に、クリアー塗料を上塗り塗装する工程も増えるため、コストが増大し作業もそれだけ煩雑となる。
【符号の説明】
【0024】
1…外壁材
1a…外壁材の表面
1aa…外壁材の凸面部分
2…外壁材の基材
3…多彩塗料の塗膜
4…半透明塗料の塗膜
5…クリアー塗料の塗膜
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
建築物の、複数の凸面部分と隣り合う前記各凸面部分の間に生じる溝状の凹面部分とでなる凹凸模様を有し多彩塗装された複数の外壁面材からなる外壁面を、現場塗装により補修する方法であって、
無色透明のクリアー塗料に、有色のエナメル塗料を1?10重量%添加した半透明塗料を用い、前記多彩塗装された前記複数の外壁面材からなる外壁面の全体に渡り、前記凹凸模様で生じる少なくとも前記凸面部分の全面を上塗り塗装し、
前記凹凸模様は煉瓦造を模した凹凸模様であり、前記エナメル塗料は、前記多彩塗装された外壁面の新築時の塗装色におけるベース色を基調とした色とする
建築物外壁面の改修塗装方法。
【請求項3】
請求項2に記載の建築物外壁面の改修塗装方法において、前記半透明塗料の塗膜の膜厚を5?10μmとする建築物外壁面の改修塗装方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の建築物外壁面の改修塗装方法において、前記半透明塗料で上塗り塗装した後で、外壁面全体にクリアー塗料を上塗りする建築物外壁面の改修塗装方法。
【図面】





 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-16 
出願番号 特願2013-6881(P2013-6881)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B05D)
P 1 651・ 537- YAA (B05D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高崎 久子  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
中川 隆司
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6121171号(P6121171)
権利者 大和ハウス工業株式会社 大日本塗料株式会社
発明の名称 建築物外壁面の改修塗装方法  
代理人 杉本 修司  
代理人 野田 雅士  
代理人 杉本 修司  
代理人 野田 雅士  
代理人 野田 雅士  
代理人 杉本 修司  

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