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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特174条1項  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
管理番号 1349687
異議申立番号 異議2018-700606  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-24 
確定日 2019-02-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6263976号発明「プラスチックボトル用ブロー成形金型」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6263976号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-10]について訂正することを認める。 特許第6263976号の請求項3、4及び10に係る特許を維持する。 特許第6263976号の請求項1、2及び5?9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第6263976号(設定登録時の請求項の数は10。以下、「本件特許」という。)は、平成25年11月13日(優先権主張 平成25年5月17日)に出願された特許出願である特願2013-235212号に係るものであって、平成30年1月5日に設定登録され、特許掲載公報が同年1月24日に発行された。
特許異議申立人 中野善和(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成30年7月24日に本件特許の請求項1ないし10に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成30年10月4日付けで取消理由を通知したところ、特許権者から、同年12月10日付けで訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし10である。ここで、訂正事項1ないし10は、訂正前の請求項1?10という一群の請求項ごとに訂正するものである。
また、下線については訂正箇所に当審が付したものである。

訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「囲い体に加熱機構が設けられていることを特徴とする請求項2記載のプラスチックボトル用ブロー成形金型。」とあるのを、独立形式に改め、

「肩部を含む胴部と、胴部下方の底部と、胴部上方の口部と、胴部と口部との間に位置する首部とを有するプラスチックボトルをブロー成形するためのプラスチックボトル用ブロー成形金型において、
プラスチックボトルの肩部を含む胴部に対応する胴部金型と、
プラスチックボトルの底部に対応する底部金型と、
プラスチックボトルの首部に対応して首部を成形するとともに胴部金型と別体に設けられた首部金型とを備え、
胴部金型は肩部を含む胴部を成形し、
首部金型には第1冷却機構が設けられ、
胴部金型は肩部を含む胴部の外面に対応して内面が規定される内側胴部金型と、内側胴部金型の外側に位置する外側シェルとを有し、
胴部金型の内側胴部金型は、プラスチックボトルの形状に対応して外側シェルから交換自在となり、
第1冷却機構は首部金型内を延びる冷却流路を有し、平面視において第1冷却機構の冷却流路は内側胴部金型のうち、少なくとも肩部に対応する部分と重なり、
底部金型は一体に成形されるとともに、一体に成形された底部金型に第2冷却機構が設けられ、
外側シェルの外側に、更に囲い体が設けられ、
囲い体に加熱機構が設けられていることを特徴とするプラスチックボトル用ブロー成形金型。」

に訂正する。
請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4及び10についても同様の訂正を行う。

訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除する。

訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。

訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除する。

訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項6を削除する。

訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する。

訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項8を削除する。

訂正事項8
訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除する。

訂正事項9
訂正前の特許請求の範囲の請求項4における、
「請求項1乃至3のいずれか記載の」
との記載を
「請求項3記載の」
と訂正する。

訂正事項10
訂正前の特許請求の範囲の請求項10における、
「請求項1乃至9のいずれか記載の」
との記載を
「請求項3または4記載の」
と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項3が引用する請求項2が請求項1の記載を引用する記載であったところ、請求項1および2を引用する請求項3について、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ そして、当該訂正事項1は、上記で明らかなように、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2) 訂正事項2ないし8について
ア 訂正事項2ないし8は、それぞれ、訂正前の請求項1、2、5、6、7、8及び9を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ よって、訂正事項2ないし8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3) 訂正事項9について
ア 訂正事項9は、上記訂正事項2及び3で訂正前の請求項1及び2を削除したことに伴い、請求項4における従属番号の記載を、「請求項1乃至3のいずれか」から「請求項3」へと訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。

イ そして、当該訂正事項9は、上記で明らかなように、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ よって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4) 訂正事項10について
ア 訂正事項10は、上記訂正事項2、3、4、5、6、7及び8で訂正前の請求項1、2、5、6、7、8及び9を削除したことに伴い、請求項10における従属番号の記載を、「請求項1乃至9のいずれか」から「請求項3又は4」へと訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。

イ そして、当該訂正事項10は、上記で明らかなように、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ よって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(5) 訂正後の特許請求の範囲の請求項3、4及び10の記載内容は、訂正前の特許請求の範囲においても存在していた。すなわち、訂正後の請求項3は訂正前の請求項3と、訂正後の請求項4は訂正前の請求項4と、訂正後の請求項10は訂正前の請求項10と実質的に同じである。
そして、このような事情は特許法第120条の5第5項の特別の事情に相当するので、当審は異議申立人に特許法第120条の5第5項で規定する意見書を提出する機会を与えない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-10]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項3、4及び10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明3」、「本件発明4」及び「本件発明10」という。)は、平成30年12月10日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項3、4及び10に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項3】
肩部を含む胴部と、胴部下方の底部と、胴部上方の口部と、胴部と口部との間に位置する首部とを有するプラスチックボトルをブロー成形するためのプラスチックボトル用ブロー成形金型において、
プラスチックボトルの肩部を含む胴部に対応する胴部金型と、
プラスチックボトルの底部に対応する底部金型と、
プラスチックボトルの首部に対応して首部を成形するとともに胴部金型と別体に設けられた首部金型とを備え、
胴部金型は肩部を含む胴部を成形し、
首部金型には第1冷却機構が設けられ、
胴部金型は肩部を含む胴部の外面に対応して内面が規定される内側胴部金型と、内側胴部金型の外側に位置する外側シェルとを有し、
胴部金型の内側胴部金型は、プラスチックボトルの形状に対応して外側シェルから交換自在となり、
第1冷却機構は首部金型内を延びる冷却流路を有し、平面視において第1冷却機構の冷却流路は内側胴部金型のうち、少なくとも肩部に対応する部分と重なり、
底部金型は一体に成形されるとともに、一体に成形された底部金型に第2冷却機構が設けられ、
外側シェルの外側に、更に囲い体が設けられ、
囲い体に加熱機構が設けられていることを特徴とするプラスチックボトル用ブロー成形金型。
【請求項4】
外側シェルは底部金型に係合することを特徴とする請求項3記載のプラスチックボトル用ブロー成形金型。
【請求項10】
首部金型と内側胴部金型との間に断熱空間が形成されていることを特徴とする請求項3又は4記載のプラスチックボトル用ブロー成形金型。」

第4 取消理由の概要

平成30年10月4日付けで通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。

「 【理由1】 本件特許の請求項1、2、4ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1、2、4ないし10についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・・・
1 刊行物
特開2000-127234号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第4号証。以下、単に「甲4」という。)
特開昭57-12618号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第6号証。以下、単に「甲6」という。)
特開昭58-173627号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第7号証。以下、単に「甲7」という。)」

第5 取消理由についての合議体の判断

訂正前の請求項3に係る発明に対しては、上記取消理由は通知されていない。そして、請求項4及び10は、本件訂正請求により、上記取消理由が存在しない訂正前の請求項3を引用するものとなったから、訂正後の請求項4及び10に対しての上記取消理由には、理由がないと判断する。

第6 異議申立人の主張に係る申立理由の概要

異議申立人の主張は、概略、次のとおりである。
なお、異議申立書に記載の理由を本件訂正請求後の請求項に対応させて記載した。

(1) 本件発明は、請求項3の「首部金型」に関し、「首部に対応する」と特定されていたものを、「首部に対応して首部を成形する」と補正されて特許されたものであるところ、当該補正は出願当初の明細書に記載された事項の範囲を超える技術事項を追加するものであるから、当該補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反する補正であって、本件特許の請求項3、4及び10に係る特許は、特許法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2) 本件特許の請求項3の「首部に対応して首部を成形する・・・首部金型」をどのように解釈すべきかを判別することができず、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の要件を満足しない特許出願に対して特許されたものであるから、本件特許の請求項3、4及び10に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである(以下、「申立理由2」という。)。

(3) 本件特許の請求項3の「首部に対応して首部を成形する・・・首部金型」は、発明の詳細な説明に記載されておらず、特許法第36条第6項第1号の要件を満足しない特許出願に対して特許されたものであるから、本件特許の請求項3、4及び10に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである(以下、「申立理由3」という。)。

(4) 本件特許の請求項3の「首部に対応して首部を成形する・・・首部金型」は、発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者においても容易に実施できないから、特許法第36条第4項第1号の要件を満足しない特許出願に対して特許されたものであるから、本件特許の請求項3、4及び10に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである(以下、「申立理由4」という。)。

(5) 本件特許の請求項3、4及び10に係る発明は、甲4に記載された発明を主たる引用発明とし、当該引用発明に基いて、あるいは、引用発明に甲5ないし甲7に記載の技術事項を適宜参照することにより当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、特許法第113条第4項の規定により取り消されるべきものである(以下「申立理由5」という。)。

(6) また、証拠方法として書証を申出、甲4、甲6及び甲7のほか、以下の文書(甲1ないし3及び甲5)を提出する。

・甲1: 特開2014-240179号公報
・甲2: 特願2013-235212号の出願に関わる平成29年11月10日提出の手続補正書
・甲3: 特願2013-235212号の出願に関わる平成29年11月10日提出の意見書
・甲5: 特開2004-276602号公報

第7 申立理由についての当合議体の判断

1 申立理由1について
プラスチックボトル用ブロー成形金型に係る技術分野における当業者において、金型がプラスチックボトルを成形するためのものであることは自明であって、補正前の「プラスチックボトルの首部の対応する首部金型」が「プラスチックボトルの首部に対応して首部を成形する」「首部金型」を意味していることは明らかであるし、本件特許明細書の「プラスチックボトル10のうち、未延伸でかつ厚肉となって冷却しにくい首部15を首部金型38により冷却することができ」(段落【0054】)との記載からみても、首部が首部金型によって冷却されることから、首部金型が首部を成形するものということができる。
してみれば、「首部に対応する首部金型」を、「首部に対応して首部を成形」する「首部金型」と特定した補正は、出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内のものであって、新たな技術的事項を追加するものでないから、申立理由1には、理由がない。
異議申立人は、「出願当初の明細書又は特許請求の範囲において、『首部金型』が、『首部』を『成形する』金型と特定されず、あえて首部に『対応する』金型と表現され、かつその図面には首部を成形しないか、又は成形するとしても首部の上部付近の限られた範囲のみを成形する首部金型が開示されているに過ぎない。しかも、内側胴部金型にて首部の全部又は一部を成形する構成が任意的な事項であることを示唆する記載もない。そして、上述したように、出願当初の明細書等の記載内容からみて、首部全部又は大半を首部金型にて成形する態様は出願当初の明細書等に記載された事項を超えるものである。」と主張する。
しかし、出願当初の明細書又は特許請求の範囲において、「胴部金型」及び「底部金型」についても、「首部金型」と同様に「プラスチックボトルの胴部に対応する胴部金型」及び「プラスチックボトルの底部に対応する底部金型」との記載がなされていることから、当該「対応する」との記載が「成形すること」をあえて除外した特別な記載とはいえないし、具体的な実施例を例示する図面の形状に限定して首部金型を解釈する理由もないから、異議申立人の主張は失当であって採用できない。

2 申立理由2ないし4について
異議申立人は、上記申立理由1に理由があることを前提にして、明確性、サポート要件及び実施可能要件のそれぞれの違反の申立理由を主張するが、上記1での検討のとおり、申立理由1には理由がないから、異議申立人の上記主張は、その前提において失当であり、異議申立人の主張する申立理由2ないし4には、理由がない。

3 申立理由5について
(1) 甲4に記載された発明
本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲4には、特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載、発明の詳細な説明の段落【0001】、【0002】、【0007】、【0008】、【0018】?【0024】、【0037】?【0041】、図1及び図4の記載から、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「ボトルの本体部を成形するためのキャビティを有する胴型、及び、ボトルの口栓部を形成するためのキャビティを有する口栓部用金型から構成される把手付きボトル成形用金型であって、
胴型は、第1の半割り型21及び第2の半割り型22からなり、
上記口栓部用金型は上記第1の半割り型21及び第2の半割り型22に載るようにされ、
上記第1の半割り型21は、ボトル本体部を成形するためのキャビティ25を有する入れ子型26と、その入れ子型26の外周部及び底部を覆う母型27からなり、上記第2の半割り型22は、ボトル本体部を成形するためのキャビティ28を有する入れ子型29と、その入れ子型29の外周部及び底部を覆う母型31からなり、
上記の入れ子型26、29と母型27、31とは、それぞれ着脱自在であり、キャビティ25、28の異なる入れ子型26、29を使用すれば、1つの母型27、31で、異なるボトルを成形することができるものであり、
口栓部用金型24には、口栓部を形成するキャビティと冷媒を流通させる第2媒体管路36が設けられ、この第2媒体管路36は、冷媒を口栓部用金型24内をキャビティ25によって規定されるボトルの胴部外面よりも内側の位置にてキャビティ41に沿って概略半円状に伸びる口栓部案内管38を有し、
母型27には、加熱及び冷却用の媒体を流通させる第1媒体管路32が設けられ、この第1媒体管路32は、加熱又は冷却された媒体を導入する導入管33、母型27内を案内する案内管34、及び、媒体を排出する排出管35からなり、案内管34は、母型27内部であって、入れ子型26と接する周面及び底面付近に設けられている、有底パリソンを挿入して延伸ブロー成形を行うための把手付きボトル成形用金型。」

(2) 甲6及び7に記載の技術事項
ア 甲6の第1頁右下欄第12行?第2頁左上欄第1行、第2頁右上欄第16行?左下欄第12行、第1図及び第4図の記載から、以下の技術事項が記載されている。

ボトルの口部及び底部を形成するための金型を、胴部を形成するための金型と別体に設け、底部成形用の金型それ自体は一体に設け、底部の白化防止と冷却促進のためにネック型及び底部金型内に冷水還流用の流路をそれぞれ設け、さらにネック型の流路は胴部の肩部に対応する部分と重なるように設ける点。

イ 甲7の第4頁左下欄第4行?右下欄第1行、第4頁右下欄第4?10行、第5頁右下欄第15行?第6頁左上欄第6行、第6頁右下欄第8?10行、第1図?第3図の記載から、以下の技術事項が記載されている。

ボトルの底部を形成するための底部金型を、胴部金型とは別体に、かつそれ自体は一体に設け、胴部程には延伸されない底部の白濁等を防止する観点から、底部金型内の流路に熱媒又は冷媒を導入して底部金型の温度を適性範囲に調節し、さらには胴部金型と肩部金型との間に断熱材を配置して伝熱を抑える点。

ウ 甲7の第4頁右下欄第17行?第5頁左上欄第12行に、以下の周知技術が記載されている。

加熱する金型部分と、熱が伝わらないほうがよい金型部分との間に空間を設ける点。

(3) 本件発明3について
ア 甲4発明との一致点および相違点
本件発明3と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「口栓部」、「把手付きボトル」は、それぞれ、本件発明3の「口部」、「プラスチックボトル」に相当し、甲4の図1及び図9の記載から、甲4発明の「把手付きボトル」においても、肩部を含む胴部、胴部下方の底部を有していることは明らかである。
甲4発明の「入れ子型」、「母型」、「第1及び第2の半割り型」は、それぞれ、本件発明3の「内側胴部金型」、「外側シェル」、「胴部金型」に相当し、甲4発明においても当該第1及び第2の半割り型(胴部金型)は、肩部を含む胴部を成形するものであって、甲4発明は「入れ子型26、29と母型27、31とは、それぞれ着脱自在であり、キャビティ25、28の異なる入れ子型26、29を使用すれば、1つの母型27、31で、異なるボトルを成形することができるものであ」るから、本件発明3と同様に「内側胴部金型は、プラスチックボトルの形状に対応して外側シェルから交換自在とな」る構成といえる。
甲4発明の「入れ子型」には、ボトル底部のキャビティ面も存在することから、入れ子型を備える甲4発明は、プラスチックボトルの底部に対応する金型部分を備えているといえる。
甲4発明の「口栓部用金型」は、半割り型(胴部金型)に載せられるものであるから、本件発明3の「胴部金型と別体に設けられた」胴部金型の上にある金型である点では本件発明3の「首部金型」と一致している。また、当該口栓部金型は、冷媒を流通させる第2媒体管路36が設けられ、この第2媒体管路36は、冷媒を口栓部用金型24内をキャビティ25によって規定されるボトルの胴部外面よりも内側の位置にてキャビティ41に沿って概略半円状に伸びる口栓部案内管38を有しているから、本件発明3の「第1冷却機構は金型内を延びる冷却流路を有し、平面視において第1冷却機構の冷却流路は内側胴部金型のうち、少なくとも肩部に対応する部分と重なり」との構成を有しているといえる。
甲4発明の「有底パリソンを挿入して延伸ブロー成形を行うためのボトル成形用金型」は、本件発明3の「ブロー成形金型」に相当する。

そうすると、本件発明3と甲4発明とは、
「肩部を含む胴部と、胴部下方の底部と、胴部上方の口部と、を有するプラスチックボトルをブロー成形するためのプラスチックボトル用ブロー成形金型において、
プラスチックボトルの肩部を含む胴部に対応する胴部金型と、
プラスチックボトルの底部に対応する底部金型と、
胴部金型と別体に設けられた胴部上部の金型とを備え、
胴部金型は肩部を含む胴部を成形し、
胴部上部の金型には第1冷却機構が設けられ、
胴部金型は肩部を含む胴部の外面に対応して内面が規定される内側胴部金型と、内側胴部金型の外側に位置する外側シェルとを有し、
胴部金型の内側胴部金型は、プラスチックボトルの形状に対応して外側シェルから交換自在となり、
第1冷却機構は胴部上部の金型内を延びる冷却流路を有し、平面視において第1冷却機構の冷却流路は内側胴部金型のうち、少なくとも肩部に対応する部分と重なる、
プラスチックボトル用ブロー成形金型。」
の点で一致し、下記の相違点1ないし3で相違する。

<相違点1>
胴部金型と別体に設けられた胴部上部の金型とそれにより成形されるプラスチックボトルの形状に関し、本件発明3は「プラスチックボトルの首部に対応して首部を成形」する「首部金型」と特定するとともに、プラスチックボトルが「胴部と口部との間に位置する首部を有する」と特定するのに対し、甲4発明は、口栓部用金型として設けられていて、それにより成形されるボトル形状に関する特定はない点。

<相違点2>
底部金型に関し、本件発明3は「一体に成形されるとともに、一体に成形された底部金型に第2冷却機構が設けられている」と特定するのに対し、甲4発明は、底部を成形する金型部分は存在するものの、この点を特定しない点。

<相違点3>
本件発明3は「外側シェルの外側に、更に囲い体が設けられ、囲い体に加熱機構が設けられている」と特定されているのに対し、甲4発明は、この点を特定しない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲4発明の母型(外側シェル)の外側に囲い体を設けることまでは容易と言い得ても、母型(外側シェル)に加熱及び冷却用の媒体を流通させる第1媒体管路から構成されるところの加熱機構を設けてなる甲4発明において、母型(外側シェル)の外側に設ける囲い体に加熱機構をさらに設ける動機はなく、異議申立人が提示するいずれの文献にも、ブロー成形金型の金型の外側に設けられる囲い体に加熱機構を設けた構成のものは提示されていない。
よって、相違点3は当業者が容易に想到し得たものということはできない。

ウ 異議申立人の主張について
異議申立人は、請求項3に係る発明について、「甲4発明の母型27、31の外周側の部分は、本件発明3における『外側シェル』および『囲い体』を兼ねるものであって、その母型27、31には加熱媒体を流通させるための第1媒体管路32が設けられ、当該第1媒体管路32を用いて加熱する機構は本件発明3の『加熱機構』に相当する」と主張する。
しかしながら、本件発明3の「囲い体」は、「外側シェルの外側に、更に囲い体が設け」られるものであるから、外側シェルとは別体でなければならない。異議申立人の主張は失当であって採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明3は、本件特許の優先日前に頒布された刊行物(甲4)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(4) 本件発明4及び10について
本件発明4及び10は、本件発明3を直接又は間接的に引用する発明であるから、少なくとも上記(3)で検討したことと同様の理由により、甲4発明から想到容易でない。

(5) まとめ
以上のことから、申立理由5には、理由がない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由及び異議申立人が主張する申立理由によっては、特許第6263976号の請求項3、4及び10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3、4及び10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
特許第6263976号の請求項1、2及び5ないし9に係る特許は、上記のとおり、本件訂正請求により削除された。これにより、請求項1、2及び5ないし9に係る異議申立人による特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
肩部を含む胴部と、胴部下方の底部と、胴部上方の口部と、胴部と口部との間に位置する首部とを有するプラスチックボトルをブロー成形するためのプラスチックボトル用ブロー成形金型において、
プラスチックボトルの肩部を含む胴部に対応する胴部金型と、
プラスチックボトルの底部に対応する底部金型と、
プラスチックボトルの首部に対応して首部を成形するとともに胴部金型と別体に設けられた首部金型とを備え、
胴部金型は肩部を含む胴部を成形し、
首部金型には第1冷却機構が設けられ、
胴部金型は肩部を含む胴部の外面に対応して内面が規定される内側胴部金型と、内側胴部金型の外側に位置する外側シェルとを有し、
胴部金型の内側胴部金型は、プラスチックボトルの形状に対応して外側シェルから交換自在となり、
第1冷却機構は首部金型内を延びる冷却流路を有し、平面視において第1冷却機構の冷却流路は内側胴部金型のうち、少なくとも肩部に対応する部分と重なり、
底部金型は一体に成形されるとともに、一体に成形された底部金型に第2冷却機構が設けられ、
外側シェルの外側に、更に囲い体が設けられ、
囲い体に加熱機構が設けられていることを特徴とするプラスチックボトル用ブロー成形金型。
【請求項4】
外側シェルは底部金型に係合することを特徴とする請求項3記載のプラスチックボトル用ブロー成形金型。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
首部金型と内側胴部金型との間に断熱空間が形成されていることを特徴とする請求項3または4記載のプラスチックボトル用ブロー成形金型。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-24 
出願番号 特願2013-235212(P2013-235212)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B29C)
P 1 651・ 121- YAA (B29C)
P 1 651・ 55- YAA (B29C)
P 1 651・ 536- YAA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川崎 良平  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
大島 祥吾
登録日 2018-01-05 
登録番号 特許第6263976号(P6263976)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 プラスチックボトル用ブロー成形金型  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 永井 浩之  
代理人 永井 浩之  

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