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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G02F
管理番号 1350063
審判番号 無効2017-800043  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-03-31 
確定日 2019-03-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第4815995号発明「光配向用偏光光照射装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4815995号に係る出願(特願2005-308117号)は、平成17年10月24日に出願され、平成23年9月9日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対し、請求人から、本件特許の無効審判が請求され、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成29年 3月31日付け 審判請求書
平成29年 7月 7日付け 答弁書
平成29年 9月25日付け 弁駁書、証拠申出書
平成29年11月20日付け 併合審理通知書
(無効2017-800044号との併合)
平成30年 2月 7日付け 審理事項通知書
平成30年 3月29日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成30年 3月29日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成30年 4月12日付け 上申書(請求人)
平成30年 4月12日 第1回口頭審理
平成30年 4月26日付け 上申書(被請求人)
平成30年 6月 1日付け 第2上申書(請求人)、証拠申出の取下書
平成30年 6月14日付け 併合分離通知書
以下、「第1回口頭審理」の調書を単に「調書」という。

第2 本件発明
特許第4815995号(以下「本件特許」という。請求項の数は1である。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
連続または間歇的に直線状に搬送される光配向膜に対し、光配向膜の搬送方向に沿って光照射部が多段に配置され、多段に配置された各光照射部から上記光配向膜に偏光光を照射して光配向を行う偏光光照射装置であって、
上記多段に配置された各光照射部は、
光配向膜の搬送方向に対して直交する方向に伸びる線状の光源と、
上記線状の光源の伸びる方向に沿って複数のワイヤーグリッド偏光素子が並べられ、該並べられたワイヤーグリッド偏光素子の間に境界部が生じている偏光素子ユニットを有しており、
各段に配置された各光照射部は、各段の光照射部の上記偏光素子の間の境界部が、他の段の光照射部の偏光素子の境界部と光配向膜の搬送方向に対して互い重ならないように、光配向膜の搬送方向に直交する方向に位置をずらして配置されている
ことを特徴とする光配向用偏光光照射装置。」

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨及び証拠方法
請求人は、審判請求書において、「特許第4815995号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め(請求の趣旨)、以下に示す無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証から甲第29号証までを提出している。
(無効理由)
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、本件出願前に公然知られた発明(以下「甲1発明」という。)、本件出願前に頒布された甲第2号証に記載された発明(以下「甲2発明」という。)及び甲第3号証に記載された発明(以下「甲3発明」という。)に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の既定により、特許を受けることができないものであるため、その特許は同法第123条第1項第2号に該当するので、無効とすべきである。
(証拠方法)
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証 「EGIS打合せ」と題する会議の板書のプリントアウト
作成日:平成17年3月15日 作成者:請求人及びシャープ株式会社の会議の出席者
甲第2号証 特開2004-163881号公報
甲第3号証 特開2004-144884号公報
甲第4号証 「ブイ・テクノロジー新方式露光装置を受注」と題する新聞記事
作成日:平成18年2月1日 作成者:株式会社日刊工業新聞社
甲第5号証 陳述書
作成日:平成28年8月6日 作成者:シャープ株式会社の日比野吉高氏
甲第6号証 DVD
作成日:平成28年8月6日 作成者:請求人代理人
甲第7号証 「御社との商談状況まとめ」と題する書面
作成日:平成17年5月16日 作成者:株式会社目白プレシジョン
甲第8号証 東京地方裁判所平成27年(ワ)第28608号特許権侵害差止等請求事件の準備書面(1)
作成日:平成28年1月22日 作成者:被請求人代理人
甲第9号証 東京地方裁判所平成27年(ワ)第28608号特許権侵害差止等請求事件の準備書面(2)
作成日:平成28年3月4日 作成者:被請求人代理人
甲第10号証 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕(特許法第29条)
作成日:平成24年12月25日 作成者:発明推進協会
甲第11号証の1 「秘密保持契約書」
作成日:平成17年5月27日
甲第11号証の2 「覚書」
作成日:平成18年12月27日
甲第11号証の1,2の作成者:請求人,シャープ株式会社及び株式会社インテグレィテッドソリューション
(以上、審判請求書に添付して提出。)
甲第12号証 (欠番)
甲第13号証 特開2004-9595号公報
甲第14号証 EGIS制御の説明資料(「EGIS-Projection」と題するもの)
作成日:平成16年10月頃 作成者:株式会社インテグレィテッドソリューションズ
甲第15号証 EGIS機の営業資料(「新方式の露光装置発明についてのご説明」と題するもの)
作成日:平成17年6月3日 作成者:請求人
甲第16号証の1 EGIS-ProSp型露光Test装置見積仕様書
作成日:平成17年6月10日 作成者:請求人
甲第16号証の2 EGIS-ProSp8型露光装置見積仕様書
作成日:平成17年6月20日 作成者:請求人
甲第16号証の3 EGIS-ProSp型露光装置見積仕様書
作成日:平成17年8月11日 作成者:請求人
甲第17号証 照射ヘッドの装置図面(名称「配向膜用露光光源装置」とするもの)
作成日:平成18年3月26日 作成者:請求人
甲第18号証 「株式会社インテグレイテッドソリューションズ議事録」と題する書面
作成日:平成17年2月25日 作成者:株式会社インテグレイテッドソリューションズ
甲第19号証 G8量産機の図面(名称「総組図」とするもの)
作成日:平成18年5月3日 作成者:請求人
甲第20号証 「打合覚書」と題する書面
作成日:平成17年3月14日 作成者:株式会社ツバコー・ケ・アイ
(以上、弁駁書に添付して提出。)
甲第21号証 (欠番)
甲第22号証 広辞苑第七版
作成日:平成30年1月12日 作成者:新村出
甲第23号証の1 「シャープ殿とのAEGIS-PI(UV2A露光装置)契約書について」と題するメールのプリントアウト書面
作成日:平成29年9月27日 作成者:請求人従業員 西川康博
甲第23号証の2の1 上記メールの添付ファイル「覚書.pdf」のプリントアウト書面
作成日:平成18年12月27日 作成者:請求人,シャープ株式会社及び株式会社インテグレイテッドソリューションズ
甲第23号証の2の2 上記メールの添付ファイル「NDA.pdf」のプリントアウト書面
作成日:平成17年5月27日 作成者:請求人,シャープ株式会社及び株式会社インテグレイテッドソリューションズ
甲第23号証の2の3 上記メールの添付ファイル「確認の画面.docx」のプリントアウト書面
作成日:平成29年9月27日 作成者:請求人
甲第24号証 「RE:シャープ殿とのAEGIS-PI(UV2A露光装置)契約書について」と題するメールのプリントアウト書面
作成日:平成29年12月11日 作成者:シャープ株式会社従業員 田中茂樹氏
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
甲第25号証 装置設計の着手に関する依頼書
作成日:平成17年9月21日 作成者:請求人
甲第26号証の1 注文書
作成日:平成18年1月30日 作成者:シャープ株式会社
甲第26号証の2の1 請求書,納品書,物品受領書が一体となった書面
作成日:平成18年6月23日 作成者:請求人
甲第26号証の2の2 物品受領書(受領印欄に「シャープ株式会社亀山新工場展開P.T.-E山田重之」と記載されているもの)
作成日:平成18年6月23日 作成者:シャープ株式会社山田重之氏
甲第27号証の1 侵害訴訟の準備書面(9)
作成日:平成28年12月9日 作成者:被請求人
甲第27号証の2 侵害訴訟の乙18
作成日:平成30年4月4日 作成者:請求人
(以上、上申書に添付して提出。)
甲第28号証 侵害訴訟の被告の準備書面(9)
作成日:平成28年8月23日 作成者:請求人
甲第29号証 侵害訴訟の原告の準備書面(8)
作成日:平成28年11月7日 作成者:被請求人
(以上、第2上申書に添付して提出。)
なお、平成29年9月25日付け証拠申出書で行った人証(日比野吉高)の証拠の申出は、平成30年6月1日に提出された証拠申出の取下書により取り下げられた。

以下「甲第○号証」(○には数字が入る。)を、単に「甲○」という。

2 無効理由の具体的主張
(1)甲1発明が公然知られた発明であることについて
(審判請求書7(5)イでの主張)
甲1は「EGIS打合せ」と題する会議の板書のプリントアウト(平成29年4月26日付け証拠説明書参照。)である。
甲1は、EGIS機の導入検討時の会議で作成されたものであるから、「平成17年」の3月15日に作成されたことが明らかである(甲5、甲6)。
甲1発明は、請求人がシャープ株式会社の会議出席者に対し開示したものである。
請求人及びシャープは、EGIS機の導入検討にあたり、秘密保持契約を平成17年5月27日に締結している(甲11の1)。
甲11の1の秘密保持契約書の規定から、「秘密である旨の表示」がない甲1は、「秘密情報」には該当しないから、シャープ株式会社は秘密保持義務を負わない。
よって、甲1発明は本件出願前に公然知られた発明である。

(2)本件発明、甲1発明について
ア 本件発明
本件発明の構成を、分説すると、以下のとおりである(当審注:なお、審判請求書7(3)に記載された分説記号「E」は、「H」に変更している。)。
「A 連続または間歇的に直線状に搬送される光配向膜に対し、
B 光配向膜の搬送方向に沿って光照射部が多段に配置され、
C 多段に配置された各光照射部から上記光配向膜に偏光光を照射して光配向を行う偏光光照射装置であって、
B1 上記多段に配置された各光照射部は、光配向膜の搬送方向に対して直交する方向に伸びる線状の光源と、
B2 上記線状の光源の伸びる方向に沿って複数のワイヤーグリッド偏光素子が並べられ、該並べられたワイヤーグリッド偏光素子の間に境界部が生じている偏光素子ユニットを有しており、
B3 各段に配置された各光照射部は、各段の光照射部の上記偏光素子の間の境界部が、他の段の光照射部の偏光素子の境界部と光配向膜の搬送方向に対して互い重ならないように、光配向膜の搬送方向に直交する方向に位置をずらして配置されている
H ことを特徴とする光配向用偏光光照射装置。」

イ 甲1発明
甲1の記載及び当時の技術常識を参酌することにより、甲1発明として以下の構成を認定することができる(弁駁書6(2)イ(キ)参照。)。
(当審注:甲1の記載2に、「矢印を含む長方形部材」が上から順に5つ、4つ、4つ、5つ並んでそれぞれ列を形成している。これらの列を、上から順にそれぞれ、X1列、Y1列、X2列及びY2列と表記している(弁駁書6(4)参照。)。)
<<甲1発明>>
<記載事項ア>
・甲1のEGIS機は、光配向用の偏光光を照射する露光装置である。
・光配向膜は、搬送方向に沿って連続的に直線状に搬送される。
<記載事項イ>
・1個の露光エリアの、光配向膜の搬送方向に直交する方向の大きさが300mmである。
・光配向膜の搬送方向から見たときに、1列目の各露光エリアと2列目の各露光エリアは、その左端及び右端が50mmずつオーバーラップする(千鳥配置間のピッチは250mmである)。
<記載事項ウ>
・1個の偏光素子の幅方向の大きさが300mmである。
<記載事項エ>
・甲1の記載2及び記載3に含まれる長方形の部材がランプUNITである。
・1個のランプUNITの中に1個の光源と1個の偏光素子が配置される。
・1個の偏光素子の、光配向膜の搬送方向に直交する方向の大きさが300mmである。
<記載事項オ>
・甲1の記載2のX1列、X2列、Y1列及びY2列は、各々、光配向膜の搬送方向に直交する方向にランプUNITが多連化されている。
・X1列とX2列の関係でみると、X1列とX2列の配置は光配向膜の搬送方向に対して2列の千鳥配置になっている。X1列とX2列の露光エリアは、光配向膜の搬送方向から見たときに、その左端及び右端が50mmずつオーバーラップする。
・Y1列とY2列の関係でみると、Y1列とY2列の配置は光配向膜の搬送方向に対して2列の千鳥配置になっている。Y1列とY2列の露光エリアは、光配向膜の搬送方向から見たときに、その左端及び右端が50mmずつオーバーラップする。

(3)本件発明と甲1発明との対比について
甲1発明は、本件発明の構成A、B、C、B1、B3、Hを備えている(弁駁書6(2)ウ(ア)?(カ)参照。)。
構成B2において、本件発明で並べられているのは、「ワイヤーグリッド偏光素子」であるのに対し、甲1発明で並べられているのは、偏光素子である点で相違し残余の点では一致している(弁駁書6(2)ウ(キ)参照。)。

(4)相違点の検討
甲2には,液晶ディスプレイ用コンペンセーションフィルムのLPP1層22の光学的配向を行う加工装置10において,ワイヤーグリッド偏光子を介して偏光を照射する構成が記載されている(審判請求書7(5)ウ(ア)参照。)。
甲3には,液晶表示パネルの配向膜や紫外線硬化型液晶を用いた視野角補償フィルムの配向層に対し,偏光光を照射して光配向を行う偏光光照射装置において,棒状のランプ31及び小型の偏光素子である正方形状のワイヤ・グリッド偏光板100aを複数並べたワイヤ・グリッド偏光子100によるユニットを有する構成が記載されている。ここで,ワイヤ・グリッド偏光板は,「ワイヤーグリッド偏光素子」に相当する(審判請求書7(5)ウ(イ)参照。)。
甲1発明ないし甲3発明は、いずれも液晶ディスプレイ用の光配向膜を対象とした光配向用偏光露光装置の技術分野に属し、いずれも偏光素子を使用しているという構成の共通性があるので、甲1発明に対し、甲2発明及び甲3発明を適用する動機付けが存在する。
したがって、本件発明は、甲1発明ないし甲3発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものにすぎない(弁駁書6(3)参照。)。

(5)結論
以上の次第であるから,本件発明は,第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである(審判請求書7(6)参照。)。

3 被請求人の主張に対する反論及び審理事項通知書に対する請求人の主張
なお、本件無効審判事件である無効2017-800043に関するものに「<43>」を付し、併合事件であった無効2017-800044に関するものに「<44>」を付す。そして、<43>に係る特許発明を「<43>発明」といい、<44>に係る特許発明を「<44>発明」という。また、<43>と<44>の各甲号証について「甲○」と表記し、甲号証の数字が異なるものには、「<43>甲○<44>甲△」のように表記する。

(1)甲1発明が公然知られた発明であることについての主張
ア 本件には東京高裁平成12年12月25日判決(平成11(行ケ)368号)〔6本ロールカレンダーの構造及び使用方法事件〕の判示の射程が及ばないこと
「被請求人は,東京高裁平成12年12月25日判決(平成11(行ケ)368号)〔6本ロールカレンダーの構造及び使用方法事件〕の判示に基づき,甲1発明が特許出願前に公然知られた発明に該当しないと主張する。
しかしながら,〔6本ロールカレンダーの構造及び使用方法事件〕は,当事者間に秘密保持に関する合意がない事案を扱ったものであるのに対して,本件は,当事者間(請求人とシャープ間)で秘密保持契約書(甲11の1)が存在し,「秘密情報」から除外されるべき事項が明確に規定されていた事案である。このため,本件には同裁判例の射程は及ばない。」(弁駁書6(1)ア)

イ 請求人は,甲1発明について,技術的に価値のあるものと認識していなかったからこそ,秘密表示をしていなかったものであること
「請求人が,甲1発明の内容について,シャープに秘密保持義務を負わせなかったのは,請求人が,甲1発明のようなEGIS機の構成について,技術的に価値のあるものと認識していなかったことによる。つまり,EGIS機の構成(照射ヘッドの配置を千鳥配置とすること)については,露光装置の分野ではすでに公知だった(甲13の図1?図3)ので,請求人は,これを秘密情報として開示しなければならない性質のものであるとは全く認識していなかった。
その一方で,EGIS機におけるEGIS制御について,請求人は,秘匿しなければならない技術的に価値のあるものであると認識していた。このことは,甲4でも,EGISの露光装置の方式(すなわち,制御方式)が「新方式露光装置」と記載されていることからも明らかである。それゆえ,EGIS制御について説明する資料である甲14の最終ページの「本資料の取扱いに関する注意事項」に,この資料の内容を第三者に開示してはならないとの主旨の文章を記載し,上記の秘密保持契約書(甲11の1)でいう「秘密である旨の表示」をして,シャープに秘密保持義務を負わせていた。
このように,請求人は,シャープに開示する情報及び資料に関して,内容によって秘密保持義務を負わせるか否かを使い分けており,甲1発明については,意図的に,「秘密である旨の表示」をせず,秘密保持義務を負わせていなかったのである。
よって,請求人からシャープに対し開示された甲1発明については,秘密保持義務の対象ではなかったことが明らかである。
ちなみに,EGIS制御については,他社に対しても,同じように,秘密保持義務を負わせていた。すなわち,甲15は,請求人が,平成17年6月3日に請求人の顧客に対してEGIS機の営業を行った際のプレゼン資料であるが,ここには,EGIS制御に関する記載がなされている。この甲15には,全ページの右上に「秘密情報/複写禁止」と記載され,最終ページの「本資料の取扱いに関する注意事項」にこの資料の内容を第三者に開示してはならないとの主旨の文章が記載されているように,EGIS制御は秘匿性の高い技術であるという請求人の認識が顕れている。」(弁駁書6(1)イ)

ウ 秘密保持契約書の締結前の事情からも,秘密表記のない甲1発明が「秘密情報」でないことは明らかであること
「秘密保持契約書(甲11の1)の規定から明らかであるとおり,請求人及びシャープが合意した秘密保持のポリシーは,秘密表示の有無により秘密保持義務を負わせるか否かを決めるというものであった。
したがって,秘密表示のない甲1発明につき,シャープが秘密保持義務を負わないことは明らかなのであるが,この秘密保持のポリシーは,平成18年12月27日に覚書(甲11の2の「覚書」)をわざわざ締結していることからも明らかである。
請求人は,上記「イ」で述べたように,秘密にすべきEGIS制御については,秘密保持契約書締結前の平成16年10月頃,シャープに対して,秘密表示をした上で甲14を開示した。一方,秘密にする必要のないEGIS機の構成(照射ヘッドの配置を千鳥配置とすること)については,秘密保持契約書締結前の平成17年3月15日に,秘密表示をせずに甲1発明を開示した。このように,秘密保持契約書(甲11の1)の締結前であっても,秘密表示の有無により秘密保持義務を負わせるか否かを決めるという上記ポリシーに沿った運用がなされていたのである。
その後,平成17年5月27日になって,シャープを含めた契約当事者間で秘密保持契約書(甲11の1)が締結され,この秘密保持のポリシーが合意されたが,シャープとの商談が始まったころにまで遡る覚書を平成18年12月27日に締結したのは,秘密保持契約書(甲11の1)の締結前からこうした秘密保持のポリシーに沿った運用がなされていることが確認されたからこそである。
以上より,覚書(甲11の2)を締結したことからも,請求人及びシャープが合意した秘密保持のポリシーが,秘密表示の有無により秘密保持義務を負わせるか否かを決めるというものであったことがよく分かる。
よって,秘密表記のない甲1発明はシャープが秘密保持義務を負うべき「秘密情報」にあたらないので,特許出願前に公然知られた発明に該当する。」(弁駁書6(1)ウ)

エ 覚書の柱書の秘密保持契約の締結日の記載について
「平成29年9月27日付の請求人従業員西川氏からシャープ従業員田中氏に宛てたメール(甲23の1及び甲23の2の1?3)に対する,平成29年12月11日付のシャープ従業員田中氏から請求人従業員西川氏に宛てたメール(甲24)において「弊社法務部門と話を続けた結果、ようやく当該締結日が誤記であるとの認識に至りました。」と記載されているとおり,覚書の原契約(秘密保持契約書)の締結日が誤記であることは,請求人とシャープとの間でも確認された事項である。
よって,覚書の原契約(秘密保持契約書)の締結日の記載に誤記があり,当該覚書が秘密保持契約書に付帯するものであることは明らかである。」(口頭審理陳述要領書6(2)キ(イ))

オ 甲1発明は,甲1に当時の技術常識を参酌することにより導き出すことができること
公然知られた発明」の認定にあたっては、当時の技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項も「公然知られた発明」の認定の基礎とすることができる・・・甲1に記載されたEGIS機の構成は、甲1に現に記載された事項、甲1の会議の出席者の共通認識及び当時の技術常識を参酌することにより、具体的かつ客観的に認識できる内容を有している。また、かかるEGIS機の構成は、本件発明の内容との対比に必要な限度において、その物を製造可能な内容となっている。したがって、甲1には、甲1発明が実施可能でかつ完成された内容で開示されている。」(弁駁書「6(2)ア」)

カ 守秘義務について
(ア)口頭審理陳述要領書「6(2)キ(ア)」での主張
「仮に,シャープの従業員と会社との間で職務上取得した秘密についての秘密保持規程のようなものが存在していたとしても,当該会社(乃至従業員)との間に秘密保持義務が存在しなければ,そこでやり取りされた情報は秘密でないから,「職務上取得した秘密」にあたらない。この理は,本件においても変わることはなく,請求人とシャープとの間に秘密保持義務が存在しない以上は,甲1発明が「公然知られた発明」であることは変わらない。」

(イ)第1回口頭審理での主張
「甲第1号証の内容を、本件の出願前に、秘密を保持すべき関係者以外の第三者に漏洩した事実は記憶の限りない。」(調書 請求人項番10)

(2)甲1発明についての主張
ア 「甲1が光配向用の装置であること」について
(ア)弁駁書「6(2)イ(ア)」での主張
「被請求人は,甲1の「EGIS機」が「光配向膜の製造装置」に関する記載でない,「光配向膜を搬送すること」が記載されていないと主張する。
しかしながら,シャープ日比野氏の陳述書(甲5)の「2.」及び「3.」並びにビデオ供述(甲6)のとおり,平成17年当時,シャープが請求人から導入検討をしていたEGIS機が「光配向用の偏光光を照射する露光装置」であり,「搬送方向に沿って光配向膜が連続的に直線状に搬送される」ものであることは,甲1の会議の出席者の共通認識であった。このことは,EGIS機の開発に関与していた被請求人においても,認識していた事実である。
ちなみに,甲1の会議の1ヶ月ほど前である平成17年2月25日に行われた「EGIS機」に関する会議には,被請求人(ウシオ電機)の担当者が出席していた(甲18)。つまり,被請求人は,平成17年当時,請求人の「EGIS機」のランプ部分の開発に関与し,請求人とともに,シャープとの会議に一緒に参加していた時期があった。このような立場にあった被請求人から,なぜ「(請求人の)EGIS機が光配向膜を対象としていない」と言うような指摘が出てくるのか,請求人は本当に不思議でならない。・・・(以下、省略)・・・」

(イ)口頭審理陳述要領書「6(2)ア(ア)」での主張
新聞記事(<43>甲4<44>甲6)の記載が「甲1記載の装置が配向用であること」と何ら矛盾するものではない。
日比野氏の陳述書(<43>甲5<44>甲7)及びビデオ供述(<43>甲6<44>甲8)によれば「甲1記載の装置が配向用であること」が明らかである。

(ウ)上申書「6(1)」での主張
以下の記載において、○付き数字については、半角括弧付き半角数字(例えば「(1)」。)で表記する。
「(1) 甲1の装置が光配向用であること
ア 被請求人は,被請求人要領書11?14頁において,
(1) 甲16の1?3の「(1)基板種類」の「TFTまたはCF基板の表示部の直線的な露光」の記載
(2) 甲1の記載(3)の「5.解像精度」の記載
(3) <43>甲7の「II.CF用φ150レンズ投影露光方式」の記載
(4) 甲14の2頁の「Pattern generator」,「重ね露光」,甲15の6頁の「各レイヤ間の位置合わせ」の記載
等に基づいて,甲1の装置が光配向用でなく,TFTアレイの回路パターン又はCFパターンを露光するための露光装置である等と主張する。

イ しかしながら,甲1の装置が光配向用であることは,<43>弁駁書及び<44>弁駁書並びに請求人要領書で述べたとおりであり,日比野氏の陳述書(<43>甲5<44>甲7)及びビデオ供述(<43>甲6<44>甲8)によれば明らかであるが,さらに以下に示す各証拠資料(甲25?甲27の2)によれば,この点はさらに明白になったものと言える。
まず,被請求人は,被請求人要領書17?19頁において,日比野氏の陳述書及びビデオ供述内容に信憑性がない,極めて不正確である等と主張する。しかしながら,日比野氏は,甲1の装置の受入先であるシャープにおいて三重亀山生産本部の新工場展開プロジェクトチームのBグループのチーフをしていた者であるから,そのような者が装置の用途を誤って認識しているはずがなく,被請求人の主張は日比野氏の陳述及び供述に対する言いがかりであるとしか言いようがない。
また,日比野氏の陳述書(<43>甲5<44>甲7)の「2」のとおり,甲1のEGIS機のG8量産機は平成18年6月に亀山第2工場に導入された。甲25は,当該G8量産機の製造のために,平成17年9月21日に,請求人の常務取締役である梶山氏が当該装置部品の外注先であるメイコー株式会社宛に設計着手を指示した依頼書である。ここには「シャープ株式会社向け配向膜露光装置」と記載されている他,被請求人においても「甲1の装置の仕様書」であることに争いがない甲16の2の仕様書が「弊社型番:EGIS-ProSp8.b」「2005年6月20日付仕様書」として記載されている。この甲25の記載によれば,甲1の装置が光配向用であること(甲16の1?3の仕様書が光配向用の露光装置の仕様書であること)は明白である。
さらに,甲26の1は,平成18年1月30日にシャープから甲1のEGIS機のG8量産機の発注を受けた際の注文書であり,甲26の2の1,2は,平成18年6月20日に同G8量産機の搬入をシャープに行い,同G8量産機の請求書を発行した際の請求書,納品受領書である。これらの書類にも「配向膜露光装置」と記載されている。したがって,甲1の装置が光配向用であることは,これらの書類からも明らかである。
さらに,本件と関連する侵害訴訟(平成27年(ワ)第28608号 特許権侵害差止等請求事件)の被請求人(侵害訴訟の原告)作成の準備書面(9)(甲27の1)の5?6頁では,本件の甲1と同じ「乙第18号証」(甲27の2)に記載された装置について,被請求人は自ら,「偏光光照射装置であること」,「UV2A方式のVA液晶パネルを製造するための装置であること」,「プレチルト角を付与するために法線に対し約40度傾いた方向に照射されること」,「マスクを有すること」が「明白である」と主張していた。そのような主張を展開していた被請求人から,今更,なぜ「(請求人の)EGIS機が光配向膜を対象としていない」と言うような主張が出てくるのか,請求人は本当に不思議でならない。

<準備書面(9)(甲27の1)の5?6頁(一部抜粋)>


また,被請求人は,平成17年当時,請求人の「EGIS機」のランプ及び偏光子(石英による偏光子(甲1の「3.偏光素子」にも対応する記載がある)の検討に関与し,請求人とともに,シャープとの会議に一緒に参加していた(甲18)。上述したとおり,甲1の装置が光配向用であることは明らかであるが,もし,被請求人が「シャープに導入検討したEGIS機が光配向膜を対象としていない」というのであれば,この当時,被請求人自らが検討していたランプ及び偏光子(石英偏光子)は何の用途の装置に適用されるものと思ってシャープとの会議に参加していたのか,その点を明確にすべきである。
以上から,被請求人の主張は全く信用できず,上記本件と関連する侵害訴訟で述べた被請求人の認識を踏まえると,被請求人は合議体を誤導させる意図で被請求人要領書の主張を展開しているとしか考えられない。被請求人は,本件合議体に対する誤動的主張を厳に慎むべきである。
請求人が繰り返し述べてきたとおり,甲1の装置が光配向用であることは明白である。

ウ 以上のとおり,甲1の装置が光配向用であることは明らかであるが,以下では,上記(1)?(4)の被請求人の主張が誤りであり,上記(1)?(4)の被請求人の主張が何ら「甲1の装置が光配向用であること」に疑義を生じさせるものでないことを述べる。
(ア) 上記(1)?(4)の反論に関連して,まず,EGIS制御についての一般的な説明を行う。
EGIS制御は,基板サイズよりも小さい複数個の照射ヘッドと下地(第1層)の画像検出ユニットとを組み合わせた露光位置制御のことであり,大型の基板を露光する際の位置決め精度を向上させるために,基板上の第1層のパターンを画像検出ユニットでリアルタイムに読み取りながら,その上層の露光を行う個々の照射ヘッドの露光位置を個別に制御するものである(<43>弁駁書及び<44>弁駁書の各々の3頁の脚注1)。
このため,EGIS制御は,甲1に記載された光配向用の装置に限らず,他の製造用途に用いることができ,例えば,カラーフィルタ(CF)のパターン露光のためにも用いることができる。このため,EGIS制御の記載とともにカラーフィルタ(CF)のパターン露光についての記載があったとしても(例えば,新聞記事(<43>甲4<44>甲6におけるカラーフィルタ(CF)の記載),それは単に,EGIS制御がカラーフィルタ(CF)のパターン露光のために用いることができることを述べているだけであって,「甲1の装置が配向用であること」と何ら矛盾するものではない。
また,EGIS制御は,甲1のような近接露光式(プロキシミティ式)の露光装置に限らず(甲1の装置が近接露光式(プロキシミティ式)の装置であることは後述する),投影露光式(プロジェクション式 )の露光装置にも適用することができる。このため,EGIS制御に関して,投影露光式(プロジェクション式)の記載がなされていたとしても(例えば,甲14では「投影露光式(プロジェクション式)」を適用例とし,甲15の11?15頁では「投影露光式(プロジェクション式)」を適用例としている。一方で,甲15の16?18頁では「近接露光式(プロキシミティ式)」を適用例としている。),それは単に,EGIS制御が投影露光式(プロジェクション式)の露光装置に適用できることを述べているだけであって,「甲1の装置が近接露光式(プロキシミティ式)の露光装置であること」,「甲1の装置が配向用であること」と何ら矛盾するものではない。
(イ) 以上を踏まえて,上記(1)?(4)の被請求人の主張が誤りであることを述べる。
(1) 甲16の1?3の「(1)基板種類」の「TFTまたはCF基板の表示部の直線的な露光」の記載について
薄膜トランジスタ(TFT)液晶の構造図を以下に示す。
この構造図から分かるように,甲1の装置が照射の対象とする「光配向膜」は,薄膜トランジスタ(TFT)液晶において,(a)「表示側基板(カラーフィルタ基板)」の液晶側と,(b)「バックライト側基板(TFT基板)の液晶側に配置される。これら(a)及び(b)の光配向膜への光配向は,(a)表示側基板(カラーフィルター基板)に対してはカラーフィルターパターンがパターニングされた後,(b)バックライト側基板(TFT基板)に対してはTFT回路パターンがパターニングされた後に行われる。甲16の1?3の各々の「(1)基板種類」の「TFTまたはCF基板」との記載は,「TFTまたはCF基板に配置される上記(a)及び(b)の光配向膜」への露光を行う意味で記載されたものである(TFTアレイの回路パターン又はCFパターンを形成する意味で記載されたものではない。)。よって,甲16の1?3の当該記載は,「甲1の装置が光配向用であること」と整合するものである。
また,甲16の1?3の各々には,「2.装置性能」,「(3)光源」,「(4) 偏光度」との記載があり,甲1の装置が薄膜トランジスタ(TFT)液晶用の装置であることを併せて考慮すれば,むしろ,露光に偏光光が必要な「光配向用の装置」であることは明らかであり,一方で,露光に偏光光を要しない「TFTアレイの回路パターン又はCFパターンの形成のための装置」でないことも明らかである。また上述したとおり,メイコー株式会社宛の依頼書(甲25)にも,「シャープ株式会社向け配向膜露光装置」が「甲16の2の仕様書」に対応することが明記されている。
<薄膜トランジスタ(TFT)液晶の構造図>
・・・(図略)・・・

(2) 甲1の記載(3)の「5.解像精度」の記載について
甲1の記載(3)の「5.解像精度」の記載は,「カメラの解像度」に関する記載である。甲1の装置は,そのEGIS制御のためにカメラを備えている(甲1の「1.アライメント装置」に記載された「カメラ」の記載)。この「カメラ」は,EGIS制御における露光位置制御のために,下地(第1層)の画像検出を行うためのものである。甲1の記載(3)の「レンズ倍率UPして解像度UP」との記載も,この「カメラ」に関する記載である。事実,甲16の1,3の各々の「5.各部の仕様」「(5)画像検出」の「光学分解能」として「3.5μm」との記載があるが,この数値は,甲1の記載(3)の「5.解像精度」に記載された「3.5μ」の記載に対応するものである。
したがって,甲1の記載(3)の「5.解像精度」の記載は,「甲1の装置が光配向用であること」に何ら疑義を生じさせるものでない。

(3)<43>甲7<44>甲9の「II.CF用φ150レンズ投影露光方式」の記載について
まず,甲1の装置が近接露光式(プロキシミティ式)の露光装置であることを説明する。
このことは,甲1の2頁の左上の「プロキ露光(平行光)」との記載,甲16の1?3の各々の「1.概要」の「EGIS System搭載の近接露光式直線パターン露光装置」との記載から明らかである。
また,甲1の「1.アライメント精度」の図(以下に示す。赤字・赤線は請求人が付した。)に記載されているように,甲1の装置では,マスクと基板との間が「Gap」と呼ばれ,マスクと基板の間には何も介在しない(甲15の17頁も併せて参照されたい)が,このことも,甲1の装置が近接露光式(プロキシミティ式)の露光装置であることを端的に示している(投影露光式(プロジェクション式)では,甲15の12頁のように,マスクと基板の間に投影レンズが介在する。)。

<甲1の「1.アライメント精度」の図>
・・・(図略)・・・

なお,甲14(当審注:甲14は、甲17の誤記。)の「配向膜用露光光源装置」の図面(赤字・赤線は請求人が付した)は「光源装置」の図面なのでマスク制御ユニット(マスク制御ユニットは甲15の17頁の図(以下に示す。赤字・赤線は請求人が付した。)でマスク(Mask),取付ステージ及びマスク(Mask)位置制御ユニットからなるユニットを意味する。)が記載されていないが,甲14(当審注:甲14は、甲17の誤記。)の図面上に,甲1の「マスク」の位置を記載すると,およそ赤線で記載した位置に配置されることになる。
・・・(途中省略)・・・
これに対し,<43>甲7<44>甲9の「II」には,「CF用φ150レンズ投影露光方式」と記載されているが,これは文字どおり「投影露光式(プロジェクション式)」の装置についての記載であり,近接露光式(プロキシミティ式)の装置(甲1の装置)に関連する記載ではない。 要するに,「I」は,甲1のEGIS機に関する記載であるが,「II」は,甲1のEGIS機とは関連のない装置についての記載である(つまり,この当時,請求人は目白プレシジョンとの間で複数の装置に関する検討を行っていたため,甲1の装置と関連のない記載が「II」として記載されたに過ぎない。)。
よって,<43>甲7<44>甲9の「II.CF用φ150レンズ投影露光方式」の記載は,「甲1の装置が光配向用であること」に何ら疑義を生じさせるものでない。

(4) 甲14の2頁の「Pattern generator」,「重ね露光」,甲15の6頁の「各レイヤ間の位置合わせ」の記載について
甲14の2頁,甲15の6頁には,被請求人の指摘する各記載があるが,いずれも,投影露光式(プロジェクション式)に関する記載であり,近接露光式(プロキシミティ式)の装置(甲1の装置)とは関係がない記載である。また,上述したとおり,EGIS制御が投影露光式(プロジェクション式)の記載とともになされていたとしても,そのことは「甲1の装置が配向用であること」と不整合を来すものではない。このため,甲14の2頁,甲15の6頁の記載が,「甲1の装置が光配向用であること」に疑義を生じさせることはない。

エ 以上のとおり,甲1の装置が光配向用であることは明らかであり,被請求人要領書における被請求人の主張は,すべて誤りである。」

(エ)第1回口頭審理での主張
「斜めの照射光を用いる露光は、光配向膜用であり、TFT回路パターン用やCF用ではないものである。」(調書 請求人項番11)

(オ)第2上申書「6(1)ア」での主張
「(1)「甲1が光配向用の装置であること」に関して
ア 被諦求人上申書の15?16頁の「(g)」について(被請求人作成の侵害訴訟の原告準備書面(9)(甲27の1)について)
被請求人は、被請求人上申書の15?16頁の「(g)」において、
「しかし、被請求人は、侵害訴訟においても、本件における甲第1号証について、光配向用の装置を閔示するものであることを認める旨の主張をしたことはない。
ただし、被晴求人は、本訴の手続きと並行して仮処分の手続きを行っていたこともあり、審理の迅速の観点から、無効論についての反論を行った準備書面(8)において、本件における甲第1号証の開示内容が請求人(侵害訴訟における被告)の主張を前提としても、IPS装置についての開示ではなく、VA装置についての開示に過ぎないから、いずれにしても無効理由とはなり得ない、という趣旨の反論を中心に主張を展開した。」
と主張し、「侵害訴訟において、甲1に開示されたものが光配向用の装置であると認める主張を行ったことはない」と主張するが、事実と反する。
以下に述べる書面(1)?(3)の提出の経緯のとおり、被請求人は、請求人が「甲1がVA装置であること」については言及していなかった段階で,自らが保有する技術常識に基づいて「甲1がVA装置であること」,すなわち甲1が光配向用の装置であるとの認識を示したのである。これを具体的に説明する。
・・・(以下省略)・・・」

(カ)第2上申書「6(1)ウ」での主張
「被請求人は、調書の請求人陳述11項に、
11 斜めの照射光を用いる露光は、光配向膜用であり、TFT回路パターン用やCF用ではないものである。
と記載されていることを理由に,乙3?7との関係で,調書の請求人陳述11項に誤りがあるかのような主張を行うが,失当である。
調書の請求人陳述11項の陳述は,本件口頭審理では,当然ながら甲1の記載を参酌しながら行われたものである。
特に,当該陳述は,甲1の1枚目の左上の「1.アライメント精度」の図,すなわち「斜めの照射光」を用いた図(以下に示す)を参酌しつつなされたものであるから,照射の対象が「平面」であることを前提とする。また,甲1の2枚目の記載2の図にも「薄膜偏光」,「薄膜」,「石英」との記載があり,これは甲1の1枚目の「3.偏光素子」に記載された「薄膜偏向」,「石英偏光子」についての記載なので,同陳述は,「偏光光」を照射することを前提としたものである。
つまり,調書の請求人陳述11項の陳述は,甲1の記載を参酌しながら行われたものなので,同陳述の「斜めの照射光を用いる露光」は,「平面」を対象に,照射光に「偏光光」を用いることを前提としたものである。
<甲1の1枚目の左上の「1.アライメント精度」の図>(左)
<甲1の2枚目の記載2>(右)(いずれも赤線,赤字は請求人が付した)
・・・(図略)・・・
これに対し,乙3?7に記載された装置は,いずれもトレンチ(溝)の壁面(縦面)や3次元露光を行うために斜めの照射光を用いる装置であり,「平面」の露光のために斜めの照射光を用いるものではない。また,「偏光光」を用いるものでもない。
よって,乙3?7をいくら示したところで,調書の請求人陳述11項の内容は,「平面」を対象に,照射光に「偏光光」を用いることを前提にしているので,調書の請求人陳述11項の陳述が「光配向膜用」についてのものであることは何ら否定されない。(本件口頭審理での合議体と請求人間のやりとりは,甲1の記載事項に関して行われたものである。甲1の記載事項と全くかけ離れた証拠資料(乙3?7)に基づき,調書の記載の不備を指摘する被請求人の態度に請求人は驚きを隠せない。)」

イ 「マスク」について
(ア)弁駁書「6(2)イ(イ)」での主張
「(イ)マスクの配置について」について
被請求人は,甲1の記載(6)において,「ランプUNITに入るのか」,「可能性検討」及び「設計可能か」と記載されていることをもって,甲1発明が完成された内容で開示されていないと主張する。
・・・ここで,甲1の記載(6)の「ランプUNITに入るのか 可能性検討」,「設計可能か」との記載は,その上の「設計は終了」と記載された構成との関係で,設計期間の短縮のため,当該「設計は終了」とされた構成と同じ筐体のランプUNITを流用して露光エリアを300mmとすることができるか,ということを記載したに過ぎない。つまり,露光エリアを300mmとすることは,この時点で決まっており,かつ,技術的にも実現可能であるが,設計期間を含めた納入スケジュールの観点から「設計は終了」と記載された筐体の流用により短期での設計が可能かと言う意味で記載されたに過ぎない・・・」

(イ)上申書「6(2)」での主張
「(2) 甲1の露光エリア(照射領域)にオーバーラップがあること
審理事項通知書で合議体が認定した「搬送方向から見たときに・・・マスクの左端および右端が50mmずつオーバーラップする」との認定は正しい。
この点,上述したとおり,甲1の装置は,マスクと基板の隙間が非常に小さく設定された近接露光式(プロキシミティ式)の装置である。したがって,マスク開口がそのまま露光エリア(照射領域)を形成することになる。
これに対し,被請求人は,被請求人要領書6?7,13,20頁で,「2.マスク配置」の図には「スリットの両端部より外側の余剰部分」が記載されている等と主張し,同図がマスク開口の配置を示したものではないと主張する。しかしながら,仮に,被請求人が主張するように,甲1の「2.マスク配置」の図において,「スリットの両端部より外側の余剰部分」が記載されていたとすると,「設計は終了」と記載された図(以下に示す。赤字・赤線は請求人が付した。)では,オーバーラップのない配置なので,当該「余剰部分」で「照射領域に隙間が空くこと」を意味することになってしまうから,そのような理解は甲1の「2.マスク配置」の図の理解としてあり得ない(そのような図が描かれるはずがない。)。

したがって,甲1の「2.マスク配置」の図は「マスクの開口の配置」が記載されたものである。このため,同じく,甲1の「2.マスク配置」に記載された記載(6)(以下に示す。赤字・赤線は請求人が付した。)についても「マスクの開口の配置」が示されたものである。よって,甲1の記載(6)は,マスク開口が50mmオーバーラップしていることを示している。

そして,甲1の装置は,上述したとおり,近接露光式(プロキシミティ式)の装置なので,マスク開口がそのまま露光エリア(照射領域)を形成する。よって,甲1の装置の露光エリア(照射領域)には,合議体が認定したような50mmのオーバーラップが存在する。
なお,被請求人は,被請求人要領書20?21頁等において,甲1の「1」に記載された「マスクの支持枠・枠部材」についての主張を行うが,当該マスクの支持枠・枠部材は,甲1の「1」の図の露光光の照射角度(露光光が右上から左下へ照射されていること)から明らかなように,「光配向膜の搬送方向」に設けられた支持枠・枠部材を意味するので,上記「2」の「光配向膜の搬送方向に直交する方向」についての「マスク開口が50mmオーバーラップしていること」に影響する部材ではない。
また,被請求人は,甲1の「1」にマスクのスリット(スリットの意味は<43>弁駁書及び<44>弁駁書の各々の「6」,「(4)」で述べたように,光配向膜の搬送方向に形成されるものである)が記載されていないと言うが,「1」の図はマスクを「光配向膜の搬送方向と直交する方向から見た図」,つまりスリットに沿って見た断面図なので,スリットが記載されていないことは技術的に見て正しいことである(そもそも,スリットは100μm程度のものなので,手書きで記載することは不可能である。「2」のマスク開口の図で「縦線」で細かく記載されているのがスリットを示したものである。)。


ウ 偏光素子について
(ア)弁駁書「6(2)イ(ウ)」での主張
「(ウ) 「(ウ)300mm幅の偏光素子の存在について」,
被請求人は,甲1の「3.偏光素子」に関する記載(以下,甲1の該当箇所の記載を「記載(7)」とする。)において,「要調査」と記載されていることをもって,甲1発明が完成された内容で開示されていないと主張する。
記載(7)

しかしながら,シャープ日比野氏の陳述書(甲5)の「4.」の「添付資料1の青枠(2)」及びビデオ供述(甲6)の内容のとおり,偏光素子を300mm程度の大きさとすること(そして,露光エリアの大きさを300mm程度とすること)は,この時点で決められており,甲1の会議の出席者の共通認識であった。
現に,G8量産機に搭載した照射ヘッドの装置図面(甲17)では,偏光素子の幅が318mmとされているので,このような認識に誤りはない。
甲17より一部抜粋
(図省略)
そもそも,甲1に記載された「要調査」との記載は,300mm幅の偏光素子が存在するかどうかの調査ではなく(この当時,すでに300mm幅の偏光素子は存在していた),露光エリアを300mmとすること(上記(イ)のスケジュール)や偏光素子の調達コストとの関係で「要調査」と記載されたものに過ぎない。このため,上記「要調査」の記載は甲1発明の完成に影響するものではない。」

(イ)口頭審理陳述要領書「6(2)カ」での主張
「甲1発明が『偏光素子ユニット』を採用することについて」について
合議体は,甲1発明の「Lampと偏光素子とマスク」を含んだ「矢印を含む長方形の部分」を「ユニット」とした場合,これらの間を空けて離散的に配置する「ユニット」にそれぞれ含まれる偏光素子を,「偏光素子ユニット」とする動機づけが不明である,「偏光素子ユニット」とすることを阻害する構成を有しているとする。
この点,「Lampと偏光素子とマスク」を含んだ「矢印を含む長方形の部分」を「ユニット」とすること自体は,いわゆる1個の照射ヘッドを「ユニット」捉えるものなので請求人も異論はない。しかしながら,この「ユニット」を(間を空けて離散的に)配置したものが「ユニット」でないとする点については,以下のとおりの意見がある。
甲1の記載3には,以下の記載が存在する(赤線・青点線枠は請求人が付した。)。つまり,甲1の記載3では,その一番上の段の「5個の『矢印を含む長方形の部分』」をまとめて「1unit単位」と記載している((1)の青点線枠)。また,その下の「×4ユニット」との記載は,当該一番上の段の「5個の『矢印を含む長方形の部分』」(1)を1個の「ユニット」とし,その下の「4個の『矢印を含む長方形の部分』」(2),「5個の『矢印を含む長方形の部分』」(3),「3個の『矢印を含む長方形の部分』」(4)のそれぞれの段を各「ユニット」とすることを意味している。したがって,1個の照射ヘッドに対応する「ユニット」を間を空けて離散的に配置したもの,すなわち,各段で複数個の『矢印を含む長方形の部分』を配置したもの((1)?(4)の各段)も「ユニット」ということができる。
この点,<43>発明の構成要件B2の「ユニット」の意味としても,「ユニット」とは「単位,構成単位」との意味しか存在しない(甲22(広辞苑第7版))。したがって,甲1発明の各段(1)?(4)において,1個の照射ヘッドに対応する「ユニット」を複数個(間を空けて離散的に)配置したものは,交換の単位等となっているとの理由から,「単位,構成単位」であると言えるので,この甲1発明の各段(1)?(4)は,<43>発明でいう「ユニット」を構成している。したがって,この甲1発明の各段(1)?(4)に含まれる偏光素子も「ユニット」を構成する。よって,甲1発明において,各段(1)?(4)に含まれる偏光素子は,構成B2の「偏光素子ユニット」に相当するものである。このため,各段(1)?(4)に含まれる偏光素子を「偏光素子ユニット」とすることについて,動機づけが不明だとか,それを阻害するというような事情は存在しない。

エ ランプUNITについて
(ア)弁駁書「6(2)イ(エ)」での主張
「(エ) 「(エ)ランプUNITにおける光源及び偏光素子の存否及び配置位置について」
被請求人は,記載(2)及び記載(3)に含まれる長方形の部材がランプUNITでない,ランプUNITにおける光源及び偏光素子の存否及び配置位置が記載されていない等と主張し、甲1発明が完成された内容で開示されていないと主張する。
しかしながら,シャープ日比野氏の陳述書(甲5)の「4.」の「添付資料1の緑枠(3)」及びビデオ供述(甲6)の内容のとおり,記載(2)及び記載(3)に含まれる長方形の部材は「ランプUNIT」であり,この「ランプUNIT」1個につき,左側の長方形部分に1個の光源が配置され,右側の二等辺三角形の部分に1個の偏光素子が配置され,偏光素子の300mm幅が幅方向となるように配置されるものであることは,甲1の会議の出席者の共通の認識であった。
このことは,審判請求書で述べたとおり,甲7の記載からも裏付けられる。
また現に,G8量産機に搭載した照射ヘッドの装置図面(甲17)でも,照射ヘッド(ランプUNIT)1個につき,図面左側に1個の光源が配置され,図面右側に1個の偏光素子が配置され,偏光素子の318mm幅が照射ヘッドの幅方向になるように配置されているので,このような認識に誤りはない。」

(イ)弁駁書「6(2)イ(オ)」での主張
「(オ) 「(オ)ランプUNITの配置について」
被請求人は,甲1の2頁の左図に「入らない」と記載されていることをもって,甲1発明が完成された内容で開示されていないと主張する。
しかしながら,甲1に記載された「入らない」との記載は,ランプUNITの配置について言うものではなく,装置の納入先であるシャープの亀山工場内で配置スペースとの関係で,装置全体を縦方向に直線状に配置することが「入らない」おそれがあることを記載したものに過ぎない。甲19は,請求人がシャープに搬入したG8量産機の構造を示した図面であるが,ここには装置全体を縦方向に直線状に配置するのではなく,コの字状に配置することが記載されている。
したがって,上記記載の存在は,ランプUNITの配置に関するものではないので,甲1発明の完成に影響しない。」

オ「線状の光源」について
(ア)口頭審理陳述要領書「6(2)オ」での主張
「(ア) 合議体の認識に対する意見
以下の点について請求人の認識と齟齬がなければ,現時点では合議体の認識に対する意見はない。
すなわち,合議体は,「・・・甲1発明の光源は,『点線状』の光の領域を生じるものであり『線状』の光の領域を生じるものではない。」とするが,ここでいう『点線状』の光の領域の意味が,<43>弁駁書22?23頁の「補足説明図1」(以下に再掲する。赤枠・赤字はさらに請求人が付した。)の「照射領域」を光配向膜の搬送方向に直交する方向に見たときの状態(以下の図の赤枠内の状態),要するに,甲1発明において,光配向膜の搬送方向に直交する方向に対して,「照射面上で露光領域(照射光が照射される領域)と非露光領域(照射光が照射されない領域)が生じること」を「点線状」といい,そのような状態を「『線状』の光の領域を生じるものではない」と表現し,それ故に「甲1発明の光源は,『線状の光源』を有しているとは言えない」と認識しているのであれば,請求人の認識と齟齬がない。
・・・(途中省略)・・・
(イ)合議体の認識を前提とした予備的主張
合議体の認識を前提にした場合,「甲1発明の光源が『線状の光源』を有していないこと」は,甲1発明は,<43>請求項1に記載された発明との関係で,<43>弁駁書で述べた相違点(審理事項通知書でいう「相違点B2」)とは別の相違点を有することになる。
そこで,請求人は,かかる新たな相違点(甲1発明の光源が『線状の光源』を有していないこと)(以下,「相違点B’」という。)に関する容易想到性の主張を予備的に行う。
上記相違点B’に関して,<43>甲3には,「光配向用偏光光照射装置の光源として『棒状の光源』を用いること」が記載されている(<43>甲3の【0025】,【図3】,【図5】)。甲1発明と当該甲3は,いずれも光配向膜を対象とした光配向用偏光光照射装置という共通の技術分野に属し,いずれも偏光手段を使用しているという構成の共通性があるので,甲1発明に対し,上記甲3の記載事項(棒状の光源)を適用する動機付けが存在する。よって,甲1発明の光源として,上記甲3の記載事項の棒状の光源を用い,上記相違点B’を構成することは当業者が容易に相当し得たことである。」

(イ)上申書「(3)6(3)」での主張
「被請求人は,<43>甲7の「II」の記載を根拠に「甲1発明が<43>発明の構成要件B1の「線状の光源」を有しない」と主張するようであるが,当該<43>甲7の「II」の記載が「投影露光式(プロジェクション式)」の装置についての記載であり,近接露光式(プロキシミティ式)である甲1の装置に関する記載ではないことは既に述べたとおりであるから,被請求人の主張は全くの失当である。」

第4 被請求人の主張
1 答弁の趣旨及び証拠方法
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め(答弁の趣旨)、請求人の主張は誤りであり、本件特許発明には、無効理由がない旨を主張し、証拠方法として乙第1号証から乙第7号証までを提出している。

(証拠方法)
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:平成27年(ワ)第28608号 特許権侵害差止等請求事件 被告準備書面(14)
(以上、答弁書に添付して提出。)
乙第2号証:平成28年(モ)第40031号保全異議申立事件における決定
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
乙第3号証:特開昭56-114326号公報
乙第4号証:特開平5-173335号公報
乙第5号証:特開2002-189300号公報
乙第6号証:特開平10-154658号公報
乙第7号証:米国特許第5668018号明細書
(以上、上申書に添付して提出。)
以下「乙第○号証」(○には数字が入る。)を、単に「乙○」という。

2 被請求人の具体的主張
(1)「甲1発明」が特許出願前に公然知られていないこと
ア 答弁書「第3(1)」での主張
「請求人は、審判外シャープが、甲第1号証について秘密保持義務を負っていないことを理由に、甲1発明が公知であると主張する(審判請求書19頁16行?18行)。
しかし、東京高裁平成12年12月25日判決((平11(行ケ)368)別冊ジュリ170・22)〔6本ロールカレンダーの構造及び使用方法事件〕は、以下のとおり判示している。
「発明の内容が、発明者のために秘密を保つべき関係にある者に知られたとしても、特許法29条1項1号にいう「公然知られた」には当たらないが、この発明者のために秘密を保つべき関係は、法律上又は契約上秘密保持の義務を課せられることによって生ずるほか、すでに昭和58?59年当時から、社会通念上又は商慣習上、発明者側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される場合においても生ずるものであったというべきである。なぜなら、平成2年法律第66号による旧不正競争防止法(昭和9年法律第14号)の改正前であるその当時においても、取引社会において、他者の営業秘密を尊重することは、一般的にも当然のこととされており、まして、商取引の当事者間、その他一定の関係にある者相互においては、そのことがより妥当するものであって、当時においても、他人の営業秘密の不正な取得、開示等は不法行為を構成するものとされていたからであり、また、成約等に至る商談等の過程が迅速に、かつ、流動的に推移することが少なくない商取引の実際において、発明に関連した製品、技術等が商談等の対象となることになった都度、発明者側において、その発明につき秘密を保持すべきことをいちいち相手方に指示又は要求し、相手方がそれを理解したことを確認するような過程を経なければ、当該発明に関連した製品、技術等の具体的な内容を開示できないとすれば、取引の円滑迅速な遂行を妨げ、当事者双方の利益にも反することになったからである。殊に生産機器の分野において、その製造販売者と需要者とが新規に開発された技術を含む製品につき商談をする際には、当事者間において格別の秘密保持に関する合意又は明示的な指示や要求がなくとも、需要者が当該新技術を第三者に開示しないことが暗黙のうちに求められ、製造販売者もそうすることを期待し信頼して当該新技術を需要者に開示することは、十分あり得ることであるから、このような場合には、需要者は、社会通念上又は商慣習上、当該新技術につき製造販売者のために秘密を保つべき関係に立つものといわなければならない。」(下線は被請求人代理人による。)
本件において、甲第1号証の内容について、被告が明示的に「秘密である」旨を表示しなかったために、秘密保持契約書上、情報の受領者である審判外シャープ株式会社に秘密保持契約書に基づく秘密保持義務が、「契約に基づいて」明示的に課せられていなかったとしても、当該新規に開発する製品の構造に関する情報は、なお、審判外シャープにおいて「社会通念上、又は商慣習上」秘密を保つべき内容と理解され、審判外シャープが請求人に無断で甲第1号証の内容を公にし、第三者に開示する可能性があったとは、考えられない。
甲第1号証の内容は、請求人の主張のとおりであるならば、審判外シャープに被告が納品する機器についての2社間の打ち合わせにおける板書であるところ、そもそも2社間で、一方当事者に納品する新技術を含む機器の仕様についての打ち合わせにおいて、当該機器の構成に亘る部分が秘密情報に当たることは、およそ取引先との間においては黙示的に合意されていることである。そのような状況下において、敢えて秘密表示を板書上にすることや、敢えて「この打ち合わせの内容は秘密です」という趣旨を口頭で告げることを求めるとすれば、前述の判示にもあるとおり、取引の円滑迅速な遂行を妨げ、当事者双方の利益にも反することになる。
なお、そもそも甲第1号証は、請求人の主張によると平成17(2005)年3月15日に作成されているため、甲第11号証の秘密保持契約書第12条第1項に定める契約の有効期間、「平成17年4月1日から平成20年3月31日まで」に含まれない。したがって、甲第1号証は、上記秘密保持契約の対象とする情報にはなり得ない。請求人は、甲第11号証の一部として「覚書」を提出して、契約期間が「平成16年10月1日から平成20年3月31日まで」に変更されていることを主張する趣旨のようであるが、「覚書」の柱書には「平成17年5月23日付にて締結した秘密保持契約(以下、原契約という)に付帯し、次の通り覚書を締結する。」と記載されているところ、甲第11号証の秘密保持契約書は、平成17(2005)年5月27日に作成されているから、甲第11号証の覚書は、甲第11号証の秘密保持契約書に付帯するものではないから、上記覚書は、上記秘密保持契約書の契約期間に何ら影響を与えない。
以上の各事実に鑑みれば、甲第1号証に開示された内容は、秘密にされるべきものであって、「特許出願前に公然知られた」とは、評価できない。」

イ 口頭審理陳述要領書「6.I.(1)」での主張
「ア 判例の射程
請求人は、6本ロールカレンダーの構造及び使用方法事件は、当事者間に秘密保持契約書が存在しない場合についての事例であるから、秘密保持契約書が存在する本件においては参考にならない、と主張する。しかし、当該判決は、・・・(途中省略)・・・と判示して、明示的な指示がなくても、社会通念上又は商慣習上、秘密を保つべき関係に立つ場合があることを述べているのであって、この考え方は、秘密であることが明示されていない甲1に開示されている技術情報について、そのまま当てはまる。

イ 請求人の認識について
請求人は、甲1に開示された事項を技術的に価値あるものと認識していなかったから、秘密表示を行わなかった、と主張する。・・・(途中省略)・・・
請求人が秘密表示を行わなかったのは、技術的に価値があるものと認識していなかったからではなく、秘密表示を行わなくても、開示されることはあり得ない重要な技術的事項と認識していたからであると考えるのが合理的である。これは、要するに、本件におけるホワイトボード等の表示板記載事項のプリントアウトに秘密表示がなされていない、という事実は、むしろ状況に応じた適切な措置であって、請求人の主張こそ、正当な根拠になり得ないというべきである。

ウ 請求人の運用について
請求人は、秘密保持契約書締結前から、秘密表示のないものについては秘密情報として扱わない運用であった、と主張する。
しかし、請求人が上記主張の根拠とする事実は、秘密保持契約書締結前に開示された甲1に秘密表示がない、という事実のみであり、その他の資料を提示して当該運用を立証できていない。結局請求人は、甲1に秘密表示がないから、秘密情報ではない、という主張を繰り返しているにすぎず、秘密保持契約書締結前の運用を何ら立証できていない。
・・・(途中省略)・・・

エ 覚書の締結日の誤記について
通常、覚書を付帯させる契約書を特定する情報は、契約当事者、契約書のタイトル、及び契約書の日付であるため、これらの情報の正確性については各当事者が慎重に確認するはずの情報であるところ、三当事者で締結した本件覚書において、いずれの当事者もその誤記に気づかないということは考えられない。
また、秘密保持契約書の日付は、「2005年5月27日」と西暦表記であるのに対し、覚書における原契約書の日付は「平成17年5月23日」と和暦表記になっている点も不自然である。

オ 日比野氏による立証について
甲1が秘密情報であるか否かは、開示されたシャープ株式会社の認識が問題となる。元社員の日比野氏の陳述は立証として明らかに不十分かつ不適切である。

カ 甲1に係る会議の内容は秘密保持されるべきものであること
甲14の12頁及び甲15の19頁における「本資料の取扱いに関する注意事項」の記載からみて、「EGIS」に関する技術情報は、極めて高度の秘密事項として、請求人において厳重に管理されていたものである。そして、甲1は、この「EGIS」技術に基づき設計・製造されることになる「EGIS」機導入のための打合わせ会議において、会議出席者全員が情報を共有できるようにするために、ホワイトボード等の表示板に主要な事項を記載して、出席者全員に見えるようにしたものの写しである、と理解される。
してみると、この会議における打合せに際しては、甲14又は甲15、又は、それに類する技術資料が出席者に提示されるか、或いは、少なくともその技術の内容が説明され、その資料又は技術の内容説明に基づく、「EGIS」の技術に関する共通の理解のもとで、甲1に係る記載を参照しながら打合せが行われたもの、と合理的に推測できる。すなわち、甲1の記載自体は、幾つかの技術的事項を断片的に記載したものであり、それだけでは、打合わせの対象となる装置の構成及び作用を十分に理解することができないものであるが、会議出席者全員が、打合せの対象となっている事項を正しく理解し、その上で、会議において必要な意見等を述べるためには、基本となる「EGIS」についての理解が不可欠である。そして、「EGIS」に関する技術事項が請求人にとって極めて高度の秘密情報であることを考慮すると、当該会議の出席者は、その秘密情報の少なくとも基本的な部分について開示を受けたことになる。このような性格の打合せ会議において、出席者がその内容を何らの制限もなく他に漏らして良いなどということは、常識的に考えられない。
会議出席者は、当然に秘密保持義務を負っていたと考えるべきである。甲1に「confidential」等の表示がないのは、甲1が顧客その他の不特定の範囲への配布目的で作成される印刷物でなく、会議での「板書」の写しであることを考慮すれば理解できることである。」

ウ 上申書「6.I.(2)」での主張
「(2)甲1は、EGISの秘密情報に関する記載を含んでいること
・・・(途中省略)・・・したがって、甲1は、「2.マスク配置」の記載においても、EGISの秘密情報である「マルチヘッドによるつなぎ露光」の情報を含んでいる。
ウ よって、EGIS機に関して記載した甲1が秘密情報を含んでいることは明白である。請求人は、甲1について、「秘密である旨の表示」が存在しないことを理由に秘密保持義務を負っていないと主張するが、当該主張は誤りである。」

エ 上申書「6.I.(3)」での主張
「ウ したがって、甲1が特許法上の「公然知られた」ものであるか否かについては、不特定の者に甲1に記載の内容が知られた事実又は知られる状態であった事実がない場合には、その内容は「公然知られた」ものではないことになる。
この点につき、甲1は、シャープ又はVテクの特定の関係者のみが出席した会議であって、当該関係者以外の不特定の者が事由に参加又は発言できる会議でなかったことは明らかである。したがって、甲1の内容は特許法上の「公然知られた発明」に該当しない。
しかも、平成30年4月12日に実施された第1回口頭審理において、請求人は、「甲第1号証の内容を、本件の出願前に、秘密を保持すべき関係者以外の第三者に漏洩した事実は記憶の限りない。」(調書における請求人陳述10項)と陳述しており、不特定の者に甲1の内容が知られたか、又は知られる状態にはなかったことを自認している。
エ よって、甲1に記載の事項が、特許法上の「公然知られた発明」に該当することはない。」

オ 上申書「6.II.(1)(h)」での主張
「(h)秘密保持契約書及び覚書について
請求人は、甲1には秘密表示がなされていないことから、社会通念や商習慣等ではなく、秘密保持契約書及び覚書に基づき、その内容は秘密ではない、との主張を繰り返す。
しかし、そもそも請求人の主張によれば、甲1の打合せが行われたのは平成17年3月15日であるところ、<43>甲11の1<44>甲12の1の秘密保持契約は、当初、有効期間を「平成17年4月1日から平成20年3月31日まで」として、甲1の打合せが行われた後である、平成17(2005)年5月27日に締結され、この契約の有効期間が<43>甲11の2<44>甲12の2の覚書により「平成16年10月1日から」遡及して適用されることとされたのは、翌年末である平成18(2006)年12月27日である。
すなわち、甲1の打合せの時点はもちろん、本件特許の出願時である平成17年10月24日の時点でも、甲1の開示内容は、<43>甲11の1<44>甲12の1の秘密保持契約の適用を受けない状態にあった。
そうであるとすれば、甲1の開示内容は、本件特許の出願時である平成17年10月24日の時点においては、当事者間で明示的な合意がなされていない情報に該当し、社会通念ないし商習慣に従って秘密情報であるか否かが判断されるべき情報であった。
社会通念ないし商習慣に基づけば、今後新たに開発する装置についての打合せにおいて相手方から開示されている情報が、秘密情報に該当しないはずはない。
なお付言すれば、甲1に記載の情報を開示されたシャープ株式会社にとって、当該構成の装置を同社が検討しているという事実は、同社にとっての秘密情報でもあったと考えられる。
請求人自身、シャープ株式会社以外に、この打合せの内容を第三者に開示していないとすれば、いずれにしても、本件特許出願当時、甲1に開示された肺葉は秘密に保持されていたと考えるのが、社会通念上、合理的である。
よって、甲1に開示された内容が、本件特許の出願時においては、秘密情報として扱われ、公然知られ得る状況にすらなかったことは明白である。」

(2)甲1発明の認定について
ア 答弁書「第3(2)イ」での主張
「(カ)小括
上記のとおり、甲第1号証は、装置が薄膜トランジスタ(TFT)液晶用露光装置であって、偏光光照射装置をいかにして構成するか不明である上に、少なくとも「マスクの配置」、「300mm幅の偏光素子の存否」、「ランプUNITにおける光源及び偏光素子の存否及び配置位置」及び「ランプUNITの配置」を実現することが可能な程の技術事項を開示、推認させるものではないから、甲1に基づいて、偏光光照射装置を実施することは可能ではない。
よって、請求人の主張する甲1に開示の事項は、発明として未完成であり、特許法第29条第1項第1号が規定する「公然知られた発明」に該当せず、本件特許発明の、同条2項に規定される要件を充足するかの判断において、考慮されるべきものではない。」

イ 口頭審理陳述要領書「6.I.(2)」での主張
「(2)甲1発明を認定できないこと
・・・
ア ・・・(途中省略)・・・甲1には、甲1に記載のEGIS機が光配向用の偏光光を照射する露光装置であることについて、何ら記載されていない。
イ ・・・(途中省略)・・・甲1には、「マスク配置」の記載はあるが、「露光エリア」の記載はない。・・・(途中省略)・・・。
すなわち、甲1の記載では、露光エリアとマスクとの関係は全く示されておらず、マスク配置に関してのみ、マスク端部をオーバーラップさせることが図示されている。しかし、この配置は、設計が完了しておらず、その可能性さえも確認されていなかったのである。
また、甲1には、露光エリアを定めるマスク開口の記載がなく、マスク配置のうち、どの範囲が露光エリアになるのか、全く理解することができない。この点に関し、甲1の「1.アラインメント精度」に記載された図を見ると、「マスク」と表示された部材は、開口部を有する枠部材の下面に取り付けられており、マスクの縁部は枠部材の開口部より外側で当該枠部材に取り付けられている。この記載からみると、甲1においては、「マスク」は「露光エリア」を定めるものではなく、「露光エリア」はマスクに形成される「マスク開口」により定められることになるが、甲1には「マスク開口」は記載されていない。
したがって、甲1には、「露光エリア」のオーバーラップは記載されていない。
ウ ・・・(途中省略)・・・甲1では、この偏光子を何処に、何の目的で使用するのか、全く記載がなく、配置も全く示されていない。さらに、石英偏光子については「(案)」と記載されているだけで、どのような構成であるのか、何も記載がない。・・・(途中省略)・・・
エ ・・・(途中省略)・・・甲1において、1個のランプUNITの中に1個の光源と1個の偏光子が配置されている、というのは根拠のない主張である。甲1には、そのような記載はない。・・・(途中省略)・・・
オ 記載事項オ
甲1は、光配向膜の搬送方向に直交する方向にランプUNITが多連化された構成を開示していない。甲1には光配向膜の記載がないのであるから、「光配向膜の搬送方向」の記載がある筈がない。
また、露光エリアの端部オーバーラップについては、甲1には露光エリアの記載がなく、またマスクの端部オーバーラップに関しては、その設計が完了しておらず、その可能性さえも確認されていなかったことは、「記載事項イ」に関連して前述した通りである。」

ウ 口頭審理陳述要領書「6.III.(1)」での主張
「イ マスクの記載
・・・(途中省略)・・・甲1には「露光エリア」についての記載は全く見られない。そして、甲1の「1.アラインメント精度」についての記載をみると、ハッチングを付して断面で示される「マスク」と表示された部材は、縁部が支持枠と理解される枠部材に一部重なって取り付けられている。したがって、通常の常識でこの図を見ると、枠部材に重なったマスクの縁部は、露光光を通さない領域と理解するしかない。・・・(途中省略)・・・
ウ 300mm幅の偏光素子・・・(途中省略)・・・
エ ランプUNITにおける光源及び偏光素子について・・・(途中省略)・・・
オ ランプUNITの配置・・・(途中省略)・・・」

(3)本件特許発明と甲1発明との対比について
ア 答弁書「第3(2)ウ」での主張
(ア)構成A、Hについて
甲1に記載されている「EGIS」が露光装置である点については、認めるが、他の証拠を考慮してもEGISが光配向膜に光を照射すること、及び光配向膜を搬送することは、甲1から読み取ることはできない。よって、甲1発明は、構成A、Hを備えない。

(イ)構成B、B1?3及びCについて
構成Bに関して、光照射部は、光配向膜の全体に照射することをもって「1段」と解すべきであり、甲1に記載された記載2の「G8」の図は、「1段」の存在を示すにすぎない。よって、甲1は、「多段」の光照射部を開示しない。
さらに、審判請求書に記載されている記載4は、甲1に記載されたものではないから、これに基づく記載2の請求人の解釈は誤りである。
よって、甲1発明は、構成B、B3及びCを備えない。

構成B1に関して、甲1において、請求人が「unit」と称する長方形は、間隔を空けて配置されているから線状の光源ではない。

構成B2に関して、甲1は、「ワイヤーグリッド偏光素子」ではなく、石英偏光素子を開示するに過ぎない。
よって、甲1は、構成B、B1?3及びCを開示しない。

イ 口頭審理陳述要領書「6.I.(3)」での主張
省略

(4)本件特許発明が容易想到ではないこと
ア 答弁書「第3(3)」での主張
「甲第1号証は、発明として成立するような技術事項を開示していないし、審判外シャープは、秘密保持義務を負っていたから、甲第1号証に開示・推認される事項は、公知でもないが、仮に「甲1発明」が公知であったとしても、本件特許発明の構成のいずれも開示していないから、当然「甲1発明」に基づいて、本件特許発明に想到することは、困難である。
また、甲第2号証及び甲第3号証は、本件特許を対象として請求された別の無効審判(無効2016-800024号)の甲第1号証及び甲第7号証に対応するが、かかる無効審判において、平成29年6月27日付(起案日)で本件特許の有効性を維持する審決がなされたことからも明らかであるように、甲2発明及び甲3発明に基づいて、本件特許発明に想到することも困難である。」

イ 答弁書「第2(5)ウ(ウ)」での主張
「甲1発明は、光配向用偏光光照射装置を開示していないから、甲1発明と甲2発明及び甲3発明とは、技術分野が共通しない。甲1発明ないし甲3発明が偏光素子を備えることは認めるが、技術分野が共通しないから、「動機付け」も存在しない。
・・・本件発明と甲1発明との間には、本件相違点以外にも多くの相違点が存在するから、仮に、甲2発明及び甲3発明を甲1発明に適用したとしても、本件発明を想到できるものではない。 」

ウ 口頭審理陳述要領書「6.I.(3)イ」での主張
「(a)・・・(途中省略)・・・甲3は、<43>明細書の段落【0009】において【特許文献2】として挙げられた先行技術文献であり、<43>発明は、当該先行技術の問題点を解決することを課題としている。しかしながら、甲3には、<43>発明が着目する当該問題点についての認識が全くないのであるから、<43>発明の課題を解決するために甲3を甲1に適用することを想起することさえもできない。
つまり、甲1に対し、甲3を適用する動機付けはない。
(b)・・・(途中省略)・・・甲2には、配向層に偏光光を照射することが記載されてはいるが、<43>発明の課題解決のために、甲1に対して甲2に記載の技術を適用しようとする動機付けは、甲1及び甲2の記載からは得られない。
(c)仮に、甲1に対して甲2に記載の構成を適用したとしても、<43>発明が得られるわけではない。その理由は、甲1の装置と<43>発明との間には既に述べてきた多くの相違点が存在し、単に甲2の構成を甲1に適用するだけでは、その相違点が埋まることにならないからである。」

(5)甲1に記載の装置が光配向用でないこと
ア 口頭審理陳述要領書「6.II.(1)カ」での主張
「カ 以上の通り、甲1は言うに及ばず、甲14、甲15、甲16の1?3のいずれにも、「光配向膜」の記載は全くなく、「光配向膜」については、婉曲な示唆さえも見いだせない。このような状況のもとで、甲1の記載から「光配向膜」を読み取ろうとするのは、合理的な根拠に基づかない恣意的な解釈に他ならない。したがって、請求人の主張は明らかに誤っている。」

イ 上申書「6.I.(1)」での主張
「イ 請求人は、甲1に記載の装置が光配向用であるという主張の一つの根拠として、甲1における「1.アライメント精度」の図に記載された「斜め照射」を挙げ、「斜めの照射光を用いる露光は、光配向膜用であり、TFT回路パターン用やCF用ではない」と主張する(第1回口頭審理調書の請求人陳述11項)。しかし、請求人のこの主張は事実に反し、合議体を誤導するものである。甲1の会議の時点で、光配向膜用以外の露光装置において斜め方向から露光光を照射する事例は、下記に示すように多数存在する。
(1)特開昭56-114326号公報(乙第3号証)
・・・(途中省略)・・・
(2)特開平5-173335号公報(乙4号証)
・・・(途中省略)・・・
(3)特開2002-189300(乙5号証)
・・・(途中省略)・・・
(4)特開平10-154658号公報(乙6号証)
・・・(途中省略)・・・
(5)米国特許第5668018号(乙7号証)
・・・(途中省略)・・・」

「カ したがって、光配向についての言及が全くされていない甲1に記載の内容からみて、甲1に係る会議において、「光配向」が議題にされたとは考えられず、関連しないEGIS機の会議であったと解釈するのが合理的である。つまり、日比野氏の陳述に誤認識が含まれているか、或いは、甲17は光配向用EGIS機のG8量産機に関する設計図ではないということになる。また、甲17が光配向用EGIS機に関する図面というのであれば、少なくとも光源ユニットは構想段階であるため、甲1の会議の時点では、光配向用照射装置は、その構想さえもなかった、ということになる。」

ウ 上申書「6.II.(1)」での主張
「(a)甲1が光配向用の装置を開示するものでないことは、I.(1)において既に述べたとおりである。
(b)甲16の1?3が光配向膜への露光を行う意味で記載されていないこと
・・・(途中省略)・・・
(c)甲25、26の1?3は光配向用露光装置のものではない
・・・(途中省略)・・・
(d)<43>甲7、<44>甲9の「II.CF用φ150レンズ投影露光方式」の記載について
・・・(途中省略)・・・
(e)甲14の「Pattern generator」、「重ね露光」、甲15の「各レイヤ間に位置合わせ」の記載について
・・・(途中省略)・・・
(f)「多連に並べられた光照射ユニット群」について
・・・(途中省略)・・・
(g)本件に関連する侵害訴訟(平成27年(ワ)第28608号 特許侵害差止等請求事件)における被請求人作成の準備書面(9)の主張について
・・・(途中省略)・・・したがって、被請求人の準備書面(9)における主張は、いずれも「仮に請求人の主張のとおり、乙第18号証(本件における甲第1号証)に光配向用の装置が開示されているとしても」という留保が付されていることが大前提となっている。
よって、侵害訴訟における準備書面(9)の記載を切り取って、これを根拠に、被請求人が本件における甲第1号証に光配向用の装置が開示されていることを全面的に認めていたかのような主張は到底認められない。被請求人は、侵害訴訟において、本件における甲第1号証に光配向用の装置についての開示がないことを、主たる争点として主張はしなかったものの、開示があると認めた事実はない。」

第5 証拠について
1 請求人が提出した甲1から甲29までについて
(1)甲1
以下「第6 当審の判断」において認定する。

(2)甲2
ア 甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【0053】
【実施例】
この記述は、本発明に関する装置の部分を形成し、あるいは、より直接的に組み入れられている要素を特に示している。理解されるのは、限定的に示され、又は記述されていないこれら要素は、当業者既知の様々な形を取り得るかもしれない。
(加工システム)
図1を参照すると、本発明の参照された具体例に関する加工装置10を示しており、透明基材のソースロール12が加工され、図1の左から右へと動きながらウェブ16として搬送され、最終型グッズロール14を供する。参照された具体例の中で、最終型グッズロール14は、ウェブ16が多重化層に組み上げられ、図2に示す部材であるところの、液晶ディスプレイ用コンペンセーションフィルムである。これら材料は、直状光重合媒体(linear photo-polymerization media; LPP)及び液層ポリマー媒体(liquid crystal polymer media; LCP)である。
【0054】
図1及び図2を参照すると、透明基材層18は、ソースロール12上に供される。参照具体例の中で、透明基材層18はトリアセチルセルロースでできている。LPP1層22は、LPP1層アプリケーションステーション30において付加される。第一放射ステーション20aは、LPP1層22を処理し、好ましい角度を持つ光学的配向を得るため、ポリマーをクロスリンクすることにより所望の分子改変を供する。その後、LCP1層24は、LCP1層アプリケーションステーション32において、処理されたLPP1層22に貼り付けられる。第一硬化ステーション40aは、LPP1層22上面にあるLCP1層24を硬化する。次に、LPP2層26は、LPP2層アプリケーションステーション34において適用される。同様に、LPP2層26は、第二放射ステーション20bにおいて処理され、ウェブ16平面上において、分子改変を供されたLPP1層22に対し直交的に配向され、供される。最後にLCP2層28は、LCP2層アプリケーションステーション36において適用され、第二硬化ステーション40bにおいて硬化される。製造されたコンペンセーションフィルムは、最終型グッズロール14に巻き取られる。」
「【0075】
一般側において、偏光子90は、減弱された解離性角度をもつ光を使い、かつ、ウェブ16近傍に配する時、最も良好に機能する。図14a及び14bを参照すると、それぞれ、参照例における偏光子90に関する平面図及び分解図が示されている。偏光子セグメント91は、典型的に、参照例において、3平方インチであり、図示されるように一緒に傾けられたワイヤーグリッド偏光子である。偏光子90は、いくつかの偏光子セグメントを用い、ウェブ16の動作方向に対する特定の角度で好ましく配されている。この角度的オフセットは、個々の偏光子セグメント91間にある境界線による起こりうる縞効果を代償している。グリッドフレーム96及びカバーフレーム94は、偏光子セグメント91を固定するため用いられ、マスク92の間に挟まれている。」
また、【図4】、【図5】、【図6a】には、「光源64」が棒状の光源として図示されている。

イ 甲2発明
上記アの記載から、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「液晶ディスプレイ用コンペンセーションフィルムのLPP1層22を処理し、好ましい角度を持つ光学的配向を得る加工装置10において,偏光子セグメント91は、ワイヤーグリッド偏光子であり、偏光子90は、いくつかの偏光子セグメントを用い配され、光源として棒状の光源を用いている加工装置10。」

(3)甲3
ア 甲3の記載事項
請求人が挙げた甲3には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示パネルの配向膜や、紫外線硬化型液晶を用いた視野角補償フィルムの配向層(以下、液晶配向膜と呼ぶ。)に、偏光光を照射して光配向を行う偏光光照射装置に関する。」
「【0025】
【発明の実施の形態】
図3は、本発明の第1の実施例に係る光配向用偏光光照射装置の概略構成を示す図である。
本発明の第1の実施例に係る光配向用偏光光照射装置30は、放電容器にキセノンと塩素の混合ガスを封入した、棒状の誘電体エキシマ放電ランプ31と、該ランプ31から放射される紫外光を反射する、断面が楕円形の樋状集光鏡32と、該ランプ31の発光長と同じかやや長い一辺を持つ長方形状のワイヤ・グリッド偏光子100を備えている。ここで、上記ランプ31は、その長手方向が樋状集光鏡32の長手方向と一致するように、また楕円形状の集光鏡32の第1焦点に位置するように配置されている。また、上記ワイヤ・グリッド偏光子100は、その長手方向が、上記ランプ31の長手方向と一致するように配置されている。
また、上記樋状集光鏡32の第2焦点(偏光光が最高照度となる位置)には、被照射物として、視野角補償フィルムW1が配置されている。ここで、視野角補償フィルムW1の配向層には、波長280nm?320nmの領域に主に感度を有する配向材が用いられている。
【0026】
そして、上記ランプ31は、308nm付近の単一波長の紫外線を放射するが、該紫外線は直接、または樋状集光鏡32によって反射され、ワイヤ・グリッド偏光子100に入射し、該偏光子100によって偏光光とされる。ここで、ワイヤ・グリッド偏光子100は、あらかじめランプ31が放射する波長に合わせて設計されている。具体的には、図4に示す基板102上の各電気導体101のピッチPは、波長以下、望ましくは1/3以下が良く、実施例の場合ランプ31から放射される波長が308nm付近の単一波長であるので、各電気導体101のピッチPは100nm(波長308nmの3分の1以下)となるように設計されている。基板102は、光を透過する材質の板状物であり、本実施例では石英ガラスを用いている。各電気導体101は、クロム薄膜をエッチングして製作されている。
そして、図3の視野角補償フィルムW1は、長尺の連続ワークとして、送り出しローラR1にロール状に巻かれており、送り出しローラR1から引き出され、搬送されながら、視野角補償フィルムW1に対しあらかじめ設定された角度(入射角度)で上記偏光光が照射され、偏光光照射後、巻き取りローラR2によって巻き取られる。」
「【0033】
更に、上記ワイヤ・グリッド偏光子100は、リソグラフィ技術やエッチング技術を利用して作成されるが、蒸着装置、リソグラフィ装置、エッチング装置等の処理装置が処理することができる基板の大きさには限界がある。そこで、上述した実施例のように、棒状ランプの発光長に応じた、大きなワイヤ・グリッド偏光子が必要な場合は、小型の偏光素子
を複数に分割して製作し、組み合わせて一つのワイヤ・グリッド偏光子として使用することができる。
具体的には、図7に示すように、棒状ランプの発光長に応じたフレーム103を製作し、そのフレームの中に、正方形状のワイヤ・グリッド偏光板100aを並べて一つのワイヤ・グリッド偏光子100を作製する。ここで、ワイヤ・グリッド偏光板100aの表面の横線は、石英ガラス板102a上に形成した、直線状の電気導体101aの長手方向を誇張して示したものである。
そして、図7(a)の場合、偏光子100からは、紙面上下方向の偏光光が出射し、図7(b)の場合、偏光子100からは、紙面左右方向の偏光光が出射し、
図7(c)の場合、偏光子100からは、紙面斜め方向の偏光光が出射する。したがって、各偏光子100をフレーム103内で回転させたり、図7(c)のように、直線状の金属導体101aの並ぶ方向を正方形状の石英ガラス102aに対して斜め(例えば45°)にしたものを作製しておけば、偏光光の偏光方向を自在に変えることができる。」

イ 甲3発明
上記アの記載から、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
「液晶表示パネルの配向膜や、紫外線硬化型液晶を用いた視野角補償フィルムの配向層(以下、液晶配向膜と呼ぶ。)に、偏光光を照射して光配向を行う偏光光照射装置であって、
棒状の誘電体エキシマ放電ランプ31と、該ランプ31から放射される紫外光を反射する、断面が楕円形の樋状集光鏡32と、該ランプ31の発光長と同じかやや長い一辺を持つ長方形状のワイヤ・グリッド偏光子100を備え、
棒状ランプの発光長に応じた、大きなワイヤ・グリッド偏光子が必要な場合は、小型の偏光素子を複数に分割して製作し、組み合わせて一つのワイヤ・グリッド偏光子として使用する、
偏光光照射装置。」

(4)甲4
甲4は、「ブイ・テクノロジー新方式露光装置を受注」と題する新聞記事であって、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「ブイ・テクノロジーは31日、国内大手液晶メーターから、第8世代ライン向けの薄膜トランジスタ(TFT)液晶用露光装置1台を受注したことを明らかにした。露光装置「イージス(EGIS)」は複数の小型マスクを並べた露光ユニットを、基板から100マイクロメートルの近接で移動・位置あわせしながらスキャン露光を行うため、マスク費用を大幅に削減できる。」

(5)甲5
甲5は、現在、シャープから出向し、シャープが出資している中国の現地法人であるパネル生産工場のNCPD(中国生産会社)において、副社長を務める日比野吉高氏の陳述書であって、平成17年当時に光配向用の偏光光を照射する露光装置の導入を進めた状況について記載されている。また、以下の記載がある。
「4.添付資料1について
この書面の添付資料1に関する説明を求められましたので、説明いたします。
添付資料1は、当社とブイテクとの間で行ったEGIS機に関する2005年の3月15日の会議で作成された板書録です。」

(6)甲6
甲6は、日比野吉高氏へのインタビューの様子を記録したDVDであって、甲5と同様の内容の発言をする様子が記録されている。

(7)甲7
甲7は、「御社との商談状況まとめ」と題する目白プレシジョンの秋田氏からVテクノロジーの渡辺氏宛ての書面(’05(H17)/May/16)であって、次の事項が記載されている。
「I.EGIS用偏光プロキ露光(Sp6)」
「キーポイントは、露光エリアの重ね幅。一列4台で二列8台の向い合せのランプハウスの配列ピッチに関連する。露光エリアの250mmの長手方向で50mm重ね要求なので、ランプハウス巾は400mm以下が必須。さらに、偏光素子はVテク殿からの部品支給。」

(8)甲8
甲8は、本件の被請求人代理人が作成した、東京地方裁判所平成27年(ワ)第28608号特許権侵害差止等請求事件の準備書面(1)であって、次の事項が記載されている。
「(2)「線状光源」の意義
・・・(途中省略)・・・以上述べた通り、本件特許発明における「線状の光源」は、被告主張のような「細く長く伸びる光源」ではなく、「線状の領域に対して光を照射できる光源」を意味する。」(3頁5行?4頁5行)

(9)甲9
甲9は、本件の被請求人代理人が作成した、東京地方裁判所平成27年(ワ)第28608号特許権侵害差止等請求事件の準備書面(2)であって、次の事項が記載されている。
「(2)本件特許発明における光照射部
・・・(途中省略)・・・ここで、本件特許発明における「境界部」とは、本件特許明細書の段落【0010】に記載されているように、当該境界部における照度を低下させ、照度分布を悪化させるものを意味し、ことことは、図3及び図4を参照して説明された段落【0019】における記載からも明らかである。」(3頁21行?4頁9行)

(10)甲10
甲10は、工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕(特許法第29条)であって、次の事項が記載されている。
「3<公然>
・・・(途中省略)・・・(イ)公然とは、必ずしも多数の者ということを意味しない。すなわち、きわめて少数の者が知っている場合であってもこれらの者が秘密を保つ義務を有しない者である場合は公然ということを妨げない。(ロ)多数の者が知っているということは必ずしも公然であるということにはならない。すなわち、その多数の者が、秘密を保つべき義務のある特許庁の職員、工場の従業員のような場合は公然ではない。」(81頁左から3行?82頁右から3行

(11)甲11の1
甲11の1は、原告である株式会社ブイ・テクノロジー、シャープ株式会社及び株式会社インテグレィテッドソリューション間で2005年5月27日に締結された「秘密保持契約書」であって、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
第3条(秘密情報)
1.本契約において秘密情報とは、相手方から開示・貸与を受けた情報および資料のうち次の各号の一に該当するもの並びに本契約の内容及び本契約締結の事実をいう。
(1)書面またはサンプル等の物品により開示・貸与される場合は、秘密である旨の表示があるもの。」
第4条(秘密保持義務)
1.甲および乙は、秘密情報および本検討の過程で秘密情報に基づいて得られたノウハウ等の技術的効果につき、厳にその秘密を保持し、事前に相手方の文書による承諾を得ることなく、次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。
(1)第三者に開示・漏洩すること。」
第12条(契約の有効期間)
本契約の有効期間は、平成17年4月1日から平成20年3月31までとする。ただし、この期間は、甲および乙の文書による合意によって変更することができる。」

(12)甲11の2
甲11の2は、原告である株式会社ブイ・テクノロジー、シャープ株式会社及び株式会社インテグレィテッドソリューション間で平成17年5月23日付にて締結した秘密保持契約書(以下、原契約という)に付帯する「覚書」(2006年12月27日締結)であって、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「原契約第12条第1項を次のとおり変更する。
『本契約の有効期間は、平成16年10月1日から平成20年3月31までとする。ただし、この期間は、甲および乙の文書による合意によって変更することができる。』」

(13)甲13
甲13には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【0020】
スキャナ162は、図2及び図3(B)に示すように、m行n列(例えば、3行5列)の
略マトリックス状に配列された複数(例えば、14個)の露光ヘッド166を備えている。この例では、感光材料150の幅との関係で、3行目には4個の露光ヘッド166を配置した。なお、m行目のn列目に配列された個々の露光ヘッドを示す場合は、露光ヘッド166mnと表記する。」
「【0022】
また、図3(A)及び(B)に示すように、帯状の露光済み領域170びそれぞれが、隣接する露光済み領域170と部分的に重なるように、ライン状に配列された各行の露光ヘッドの各々は、配列方向に所定間隔(露光エリアの長辺の自然数倍、本実施の形態では2倍)ずらして配置されている。このため、1行目の露光エリア168_(11)と露光エリア168_(12)との間の露光できない部分は、2行目の露光エリア168_(21)と3行目の露光エリア168_(31)とにより露光することができる。」

図2及び図3は以下のとおりである。


(14)甲14
甲14は、シャープ株式会社に対する株式会社インテグレィテッドソリューションズのEGIS制御の説明資料(「EGIS-Projection」と題するもの)であって、1頁には「EGIS-Projection Projection Exposure system Guided by Image Sensor」と記載されており、2頁には装置の基本概念が記載されている。
また、3頁は次のとおりである。


また、資料の最終頁に「本資料の取扱いに関する注意事項」の頁が添付されており、次の事項が記載されている。
「特許権者伊藤三好、その代理人杉本重人、並びに株式会社インテグレィテッドソリューションズ(登録準備中)(以下、甲という)より御社(以下、乙という)に向けて本資料を提示するにあたり、以下の点について確認する。
乙は、本資料に秘密情報が含まれる内容ならびに本資料の提示を受けたこと自身が秘密情報であることを理解し、甲からの事前の書面による承諾を得ることなく、本資料の提示を受け交渉が持たれたことを含め秘密情報をいかなる第三者に対しても開示または漏洩しないものとし、自己のためといえども、本資料において示された範囲内において、甲より提供される特許ならびに関連発明/技術ノウハウの実施許諾の可否に向けた検討の目的(以下、本目的という)以外に使用しないものとする。
乙は、上記秘密保持義務を遵守するため、善良なる管理者の注意をもって秘密情報を管理するものとする。」(本文1行?8行)

(当審注:甲15には、全ての頁の右上に「秘密情報/複写禁止」の表示があるのに対し、甲14には、全ての頁に「秘密情報/複写禁止」の表示はない。)

(15)甲15
甲15は、株式会社ブイ・テクノロジーが2005年6月3日に作成したEGIS機の営業資料(「新方式の露光装置発明についてのご説明 EGIS Exposure system Guided by Image Sensor」と題するもの(1頁参照。))であって、次の事項が記載されている。

「3.EGIS処理の概要-1
・・・
・マルチヘッドによる高精度のつなぎ露光を効率的に実現。
基板全体の絶対精度、かつ大型サイズのマスクの適用が不要となるので、ランニング・コストの大幅な削減が可能。」(9頁)




(13頁)




(17頁)
また、全ての頁の右上に「秘密情報/複写禁止」の表示があり、最終頁には、甲14と同様、「本資料の取扱いに関する注意事項」の頁が添付されている。

(16)甲16の1
甲16の1は、株式会社ブイ・テクノロジーが2005年6月10日に作成したEGIS-ProSp型露光Test装置見積仕様書であって、次の事項が記載されている。
「1.概要
本装置はEGIS System搭載の近接露光式直線パターン露光装置です。300nmから320nmの露光波長を有しており光線入射角は40度です。」
「2.装置性能
・・・
(3)光源・・・(4)偏光度 消光比10:1以上 P偏光 (6)光線入射角 基本法線に対して40度±1度
・・・
(5)Mask・・・(4)Over Lap 露光領域250mmの両端45mm」(2頁)

(17)甲16の2
甲16の2は、株式会社ブイ・テクノロジーが2005年6月20日に作成したEGIS-ProSp8型露光装置見積仕様書であって、次の事項が記載されている。
「シャープ株式会社御中
EGIS-ProSp8型露光装置見積仕様書
型式EGIS-ProSp8.b
改訂版2005年6月20日
株式会社ブイ・テクノロジー」
「1.概要
本装置はEGIS System搭載の近接露光式直線パターン露光装置です。300nmから320nmの露光波長を有しており光線入射角は40度です。」
「2.装置性能
・・・
(3)光源・・・(4)偏光度 消光比10:1以上 P偏光 (6)光線入射角 基本法線に対して40度±1度
・・・
(5)Mask・・・(4)Over Lap 露光領域250mmの両端45mm」(2頁)

(18)甲16の3
甲16の3は、株式会社ブイ・テクノロジーが2005年8月11日に作成したEGIS-ProSp型露光装置見積仕様書であって、次の事項が記載されている。
「1.概要
本装置はEGIS System搭載の近接露光式直線パターン露光装置です。280nmから320nmの露光波長を有しており光線入射角は40度です。」
「2.装置性能
・・・
(3)光源・・・(4)偏光度 消光比10:1以上 P偏光 (6)光線入射角 基本法線に対して40度±1度
・・・
(5)Mask・・・(4)Over Lap 露光領域250mmの両端45mm」(2頁)

(19)甲17
甲17は、2006年3月26日に作成された「品名 光源ユニット構想組図」であって、照射ヘッドの装置図面とともに「型式 配向膜用露光光源装置」とが記載されている。

(20)甲18
甲18は、2005年2月25日に作成された「株式会社インテグレイテッドソリューションズ議事録」と題する書面であって、次の事項が記載されている。
「日時: 2005年2月25日
場所: 先方会議室(当方往訪)
先方: シャープ株式会社
Dグループ:南氏、Dグループ:布施氏、Bグループ:山田氏
当方: 梶山、飯野、ウシオ電機:川村氏 同席
・ ウシオ電機:川村氏同席の下、新プロセス(セル・プロセス)に適用する予定であるEGIS装置の仕様について確認。」

(21)甲19
甲19には、名称「総組図」の図面が記載されている。また、日付欄に「06.05.03」と記載されている。

(22)甲20
甲20は、株式会社ツバコー・ケー・アイが2005年3月14日作成した「打合覚書」と題する書面であって、次の事項が記載されている。
「件名 露光装置仕様打合せ」

(23)甲22
甲22は、広辞苑第七版であって、次の事項が記載されている。
「ユニット【unit】(1)単位。構成単位。」(2999頁4段)

(24)甲23の1、甲23の2の1、甲23の2の2、甲23の2の3、甲24
平成29年9月27日付の請求人従業員西川氏からシャープ従業員田中氏に宛てたメール(甲23の1及び甲23の2の1?3)に対する,平成29年12月11日付のシャープ従業員田中氏から請求人従業員西川氏に宛てたメール(甲24)において「弊社法務部門と話を続けた結果、ようやく当該締結日が誤記であるとの認識に至りました。」と記載されている。

(25)甲25
甲25は、2005年9月21日に請求人が株式会社メイコーに対して作成した装置設計の着手に関する依頼書であって、次の事項が記載されている。
「シャープ株式会社向け配向膜露光装置の設計について、以下の要領にて、御社宛に着手方依頼いたしますので、よろしくご対応のほどお願いします。」
「1.設計対象装置:シャープ株式会社向け配光膜露光装置
- 弊社型番:EGIS-ProSp8.b
- 要求仕様については、2005年6月20日付け仕様書および弊社と打合せにて指示。」
「2.設計終了予定:2005年10月末日」
(当審注:なお、上記「配光膜」は、「配向膜」の誤記と認められる。)

(26)甲26の1、甲26の2の1、甲26の2の2
シャープ株式会社と請求人との間の書類であって、甲26の1は、注文書、甲26の2の1は、請求書,納品書,物品受領書が一体となった書面、甲26の2の2は、物品受領書(受領印欄に「シャープ株式会社亀山新工場展開P.T.-E山田重之」と記載されてるもの)である。そして、各書類には、品番・品名に「配向膜露光装置」の記載がある。

(27)甲27の1、甲27の2
甲27の1は、本件の被請求人代理人が作成した、平成27年(ワ)第28608号特許権侵害差止等請求事件の準備書面(9)、甲27の2は、甲27の1に添付された乙18(本件の甲1に相当。)である。
そして、甲27の1には、5頁に次の事項が記載されている。
「(2)「乙18発明」におけるVA方式について
乙第18号証に記載の装置は、VA方式の液晶パネルに用いられる配向膜をマスクパターンの投影によって製造するための偏光光照射装置、すなわち、上記(3)のUV2A方式のVA液晶パネルを製造するための装置であることは、乙第18号証その他関連する乙号証の記載から明白である。」

(28)甲28
甲28は、本件の請求人代理人が作成した、平成27年(ワ)第28608号特許権侵害差止等請求事件の被告準備書面(9)であって、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「第3 無効理由5
本件特許発明は,乙18発明,乙2号証(特開2004-163881号公報)に記載された技術事項(以下,「乙2技術事項」という。)及び乙8号証(特開2004-144884号公報)に記載された技術事項(以下,「乙8技術事項」という。)に基いて当業者が容易に想到し得たものである(特許法第29条第2項)から,特許無効審判により無効とされるべきものであり(特許法第123条第1項第2号),原告は被告に対して権利行使できない。」

(29)甲29
甲29は、本件の被請求人代理人が作成した、平成27年(ワ)第28608号特許権侵害差止等請求事件の準備書面(8)次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。なお、下記記載において「乙第18号証」は、本件の「甲1」に相当するものである。
ア「第1 VA液晶とIPS液晶の違いについて
1 概説
被告の主張する新たな無効理由ないし抗弁は、いずれも、本件対象製品である「WGIS-IPS」機、すなわちIPS液晶用の装置ではなく、当時「EGIS機」と称されていた、VA液晶用の装置に関する技術に関する文献ないし知見を主引例とするようである。
被告は、VA液晶用装置とIPS液晶用装置の技術的な相違についての詳細な説明を行っていないが、VA液晶とIPS液晶は、電圧無印加のもとでの液晶分子の配向に顕著な違いを有する方式の液晶である。
この液晶分子配向の違いのために、液晶パネルの基板に形成された配向膜に配向を与える偏光光照射装置に関しても、VA液晶用とIPS液晶用とでは、際立った違いが見られる。」(2頁2行?13行)
(当審注:なお、上記「主引例」とは、甲28に記載されている「乙18発明」に相当する。)

イ「2 VA液晶
(1)VA液晶における液晶分子の配向
VA液晶の「VA」は、Vertical Alignment すなわち垂直配向を意味するものであって、VA液晶においては、電圧無印加状態で液晶分子が液晶パネルの基板に対し垂直に配向する。この状態を図1(a)に示す。
液晶分子が負の誘電異方性を有するものである場合には、液晶パネルの基板に対し垂直方向に電圧を印加すると、液晶分子は、図1(b)に示すように、当該基板に対し傾斜した状態を経て、最大印加電圧のもとでは、図1(c)に示すように、当該基板に対し平行に配向した状態となる。
(2)VA液晶における「プレチルト」
VA形式の液晶パネルにおいては、電圧無印加の状態で、少なくとも当該基板に近接する液晶分子が基板に対し僅かな角度だけ傾くように、液晶分子に対し、いわゆる「プレチルト角」をもった配向を与える。図2(a)は、この状態を示すもので、「θ」がプレチルト角である。チルト角を与える方法として、高分子膜に直線偏光を斜めから照射する技術が存在することは、特許第3163357号公報に従来技術として記載されている。
(3)「プレチルト」の問題点及び「マルチドメイン」配向
VA型式の液晶において、プレチルト角の方向を一方向のみに揃えた配向とすると、表示画面を見る方向によって色味が異なったものとなる。この状態を図3(a)に示す。
図3(a)において、表示画面を左から見た場合には、光が液晶層を透過するため、画面は白く見えることになる。これに対し、画面を右から見ると、光の透過が遮断され、画面は黒表示となる。また、画面を正面から見ると、画面は灰色表示となる。
この不具合を回避するために、「マルチドメイン」配向が採用される。
「マルチドメイン」配向は、液晶パネルを複数の領域に分割し、隣り合った領域では、プレチルトが互いに反対方向になるようにするものである。
この状態を図2(b)に示す。
「マルチドメイン」配向とすることにより、図3(b)に示すように、画面をどの方向から見ても、同様な灰色表示となる表示パネルが得られる。
(4)ブレチルト配向のための偏光光照射装置
VA形式の液晶において、上述の「プレチルト角」配向を与えるための偏光光照射装置は、基板に対し。プレチルト角に対応する角度だけ傾斜した方向から偏光光を照射することが必要になる。この状態を図4に示す。
参考までに、シャープ株式会社が2 0 10年2月に発行した「シャープ技報第100号」10頁?15頁には、「世界初の液晶光配向技術UV2Aの開発」と題する宮地弘一氏の論文が掲載されており、その14頁に図6として掲載された図は、上述したチルト角付与の技術を理解する上で参考になる。添付の図5は、当該論文から切り出した上述の図である。
また、「マルチドメイン」配向の場合には。隣接する領域で照射方向が反対向きになるため、一方の領域における照射偏光光が隣接する他方の領域に当たらないようにすることが必要になる。したがって、この場合の偏光光照射装置には、意図する照射領域のみが照射されるようにするために、「マスク」を配置する必要がある。さらに、照射光源は、隣接する領域のそれぞれに対応する光源が、互いに分離されたものとなるようにすることが必要である。
通常の偏光光照射装置では、照射される基板には、その搬送方向に平行に延びる複数の縞状の露光領域が、搬送方向に直角な方向に並ぶように定められ、1回目の照射では、例えば奇数列の領域に対して一定の向きに傾斜した方向に照射が行われ、2回目の照射では、例えば偶数列の領域に対して反対の向きに傾斜した方向に照射が行われる。図6に。基板における縞状の露光領域及び対応するマスクを示す。」(2頁下から6行?4頁下から4行)

ウ「(4)対比
被告は、先使用発明を具現するG8量産機は、上記本件特許発明の構成要件のうち、A?C、E、B1、B3に相当する構成を具備している、と主張するが、以下に述べるとおり、被告の主張は誤りである。
ア 構成要件B1に相当する構成を具備しないこと
(ア)そもそもG8量産機は、被告の主張によれば、複数個のランプUNITを2列構成し、各列のランプユニット上の偏光素子の間の隙間が、他の列のランプUNITの偏光素子の隙間と光配向膜の搬送方向に対して互いに重ならないように配置されるものであるから、図7に示されるように、各列における露光領域は、幅方向に、マスクを介して配向膜を露光する露光領域と、全く露光しない非露光領域が交互に設定される。
さらに、前述のとおり、マルチドメイン配向を行うVA液晶基板の製造では、2種類のプレチルト角を持った液晶分子を、基板の幅方向に、交互に配置しなければならないので、図6に示されるとおり、マスクを介して、?回目の照射においては、1方向からの照射を一方の領域のみに行い、他方の領域には、照射しないようにし、2回目の照射において、別の方向からの照射を、上記他の領域のみに行う。すなわち、図7に示されるとおり、露光領域内において、縞状に、露光される部分と露光されない部分とが、基板の幅方向に、交互に形成されることになる。実際に、乙第18号証の2頁には、2列に千鳥状に配置した照射ヘッドに相当する長方形の中に、1列目と2列目とで上下方向に異なる向きの矢印が記載されているが、かかる矢印は、2方向から照射を行う必要性があることを示している。
また、マスクを介して露光することは、マスクの縞状パターンを配向膜に転写することを意味するが、縞状パターンを配向膜に転写するためには、マスク上に照明の焦点を合わせる必要がある。一つの光学系で広範な領域に焦点を合わせることは。技術的に困難であり、例えば、線状といった広範な領域を露光領域として設定することは、できない。したがって。マスクの縞状パターンを配向膜に転写する必要があるVA液晶製造装置において。露光領域の間に非露光領域を設定することは、必須の事項である。
すなわち、G8量産機においては、マスクを介して2方向からの照射を必要とするVA液晶用の装置であるがゆえに、露光領域内においても、縞状に露光される部分と露光されない部分とが交互に設定されるだけではなく、マスクとマスクとの間に非露光領域が必然的に設定されることになる。
以上に述べたとおり、G8量産機においては、偏光光が照射される領域は、ランプUNITの偏光素子間の隙間に設けられた「非露光領域」と、「露光領域」の中に、マスクに設けられた開口によって縞状に設定される、露光される部分と露光されない部分が必ず存在する。1回の照射で「非露光領域」ないし「露光されない部分」が存在することが、装置の本来的な性質上、必須なものである。」(31頁19行?33頁11行)

2 被請求人が提出した乙1から乙7までについて
(1)乙1:平成27年(ワ)第28608号 特許権侵害差止等請求事件 被告準備書面(14)
乙1は、平成29年2月1日に本件の被請求人が作成したものであって、X1列及びX2列の照射領域とY1列とY2列の照射領域は、異なっていることが、参考図4、参考図5に記載されている。


(2)乙2:平成28年(モ)第40031号保全異議申立事件における決定
乙2には以下の事項が記載されている。
「(エ)よって、仮に、乙18発明が本件特許の出願前に日本国内において公然知られた発明に該当すると認めたとしても、乙18発明に基づいて、当業者が容易に本件発明の構成を想到することができた(特許法29条2項)とはいえない。」(35頁14行?16行)

(3)乙3:特開昭56-114326号公報
乙3には以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。
「本発明は前述のマスク合わせ露光装置に変わり、半導体基板にほぼ垂直な面を有する壁面にも露光できるマスク位置合わせ露光装置を提供するものである。」(2頁左上欄下から4行?末行)
「マスクガラス板8に対して角度θに保持されたランプハウス22より露光用の光を照射する。」(3頁右上欄1行?3行)

(4)乙4:特開平5-173335号公報
乙4には以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。
「【0006】それ故、本発明の目的は、一回の露光で十分な露光効果が得られる、立体構造を有する配線体の製造の際のフォトレジスト等への露光方法を実現することである。」
「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明では、一回の露光で十分な露光効果が得られ、光源の管理・保守が容易な、立体構造を有する配線体の製造の際のフォトレジスト等への露光方法を実現するため、複数の露光光線を準備し、これを異なった位置から異なった角度で露光面に照射するフォトレジスト等への露光方法を提供する。」

(5)乙5:特開2002-189300号公報
乙5には以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。
「【0008】本実施形態の装置の大きな特徴点は、対象物Wの三次元的な表面に対して一括し光照射できるようになっている点である。具体的に説明すると、本実施形態では、三つの光源及び光学系12,22,32が用いられている。三つの光学系12,22,32は、露光する対象物Wの表面に垂直な面内の方向であって互い異なる方向の光軸10,20,30に沿って平行光を照射するものとなっている。」

(6)乙6:特開平10-154658号公報
乙6には以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。
「【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を本発明においては、次のように解決する。
(1)紫外線を含む光を放出する光照射部と、マスクと、該マスクを保持するマスクステージと、ワークと、該ワークを保持するワークステージとを備えたプロキシミティ露光装置において、上記光照射部からの光がワークに対して斜め方向から照射されるように光照射部を傾ける機構を設ける。上記のように光照射部を傾ける機構を設け、光をワークの斜め方向から照射できるようにすることにより、前記したワークの段差部分等に斜め方向から光を照射することができ、段差のあるワークやその他斜め方向から光を照射するワークに効果的に光を照射することができる。」

(7)乙7:米国特許第5668018号明細書
乙7には以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。
「ABSTRACT
A device and method are described for defining a region on a wall of a semiconductor structure, such as a sidewall of a trench formed in a semiconductor substrate. The method includes the steps of forming a vertical structure above the semiconductor structure and spaced parallel to the wall; providing within the vertical structure an area of one of transparence, reflection or refraction; and projecting light at a given angle to the wall, wherein only a portion of the light passes the vertical structure via the area provided therein to impinge upon the wall of the semiconductor structure, and thereby define the region on the wall. As an alternative, the area can comprise an aperture in the vertical structure such that the vertical structure can be employed as a mask to direct selective ion implantation of the wall.」
「要約
半導体基板に形成されたトレンチの側壁のような、半導体構造の壁上の領域を画定するための装置および方法が記載される。本方法は、半導体構造の上に垂直構造を形成するステップと、壁に平行に間隔を置いて配置するステップと、透光性、反射性または屈折性のうちの1つの領域を垂直構造内に設けるステップと、壁に対し所定の角度で光を照射するステップとを含み、光の一部だけが半導体構造の壁にあたるように前記領域を介して垂直構造を通過し、それによって壁上の前記領域を画定することを特徴とする方法。これに代えて、前記領域は、垂直構造内に開口部を含むことがあり、壁の選択的イオン注入を指示するために垂直構造がマスクとして用いられ得る。」(乙7号証の抄訳:被請求人作成)

第6 当審の判断
1 甲1発明は「本件出願前に公然知られた発明」であるか否かについて
(1)甲1と秘密保持に関する証拠の作成日と本件特許の出願日について時系列に整理すると以下のとおりである。
ア 平成16年10月頃
甲14(シャープ株式会社に対する株式会社インテグレーテッドソリューションズのEGIS制御の説明資料(「EGIS-Projection」と題するもの)
(当審注:各頁に秘密情報を意味する表示なし。最終頁に秘密保持について記載されている「本資料の取扱いに関する注意事項」の頁が添付されている。)

イ 平成17年3月15日
甲1(「EGIS打合せ」と題する会議の板書のプリントアウト)
(当審注:秘密情報を意味する表示なし。)

ウ 平成17年5月27日
甲11の1(秘密保持契約書)
(当審注:契約の有効期間は、平成17年4月1日から平成20年3月31日まで。)

エ 平成17年6月3日
甲15(株式会社ブイテクノロジーの「新方式の露光装置発明についてのご説明 EGIS」と題する営業資料)
(当審注:全ての頁の右上に、秘密情報を意味する「秘密情報/複写禁止」の表示があり、最終頁に秘密保持について記載されている「本資料の取扱いに関する注意事項」の頁が添付されている。)

オ 平成17年10月24日
本件特許出願

カ 平成18年12月27日
甲11の2(覚書)
(当審注:甲11の1の契約の有効期間を平成16年10月1日から平成20年3月31日までに変更。)

(2)甲1発明が「公然知られた発明」であるか否かの判断
まず、請求人は、口頭審理において「甲1の内容を本件の出願前に秘密を保持すべき関係者以外の第三者に漏洩した事実は記憶の限りない。」と陳述している(調書の請求人項番10参照。)。
次に、上記(1)のとおり、甲11の1(秘密保持契約書)の契約の有効期間は、平成17年4月1日から平成20年3月31日までであるから、作成日が平成17年3月15日である「「EGIS打合せ」と題する会議の板書のプリントアウト」(甲1)は甲11の1(秘密保持契約書)の契約の有効期間内の資料ではない。
また、上記(1)のとおり、作成日が平成18年12月27日の甲11の2(覚書)により甲11の1(秘密保持契約書)の契約の有効期間は「平成16年10月1日から平成20年3月31日まで」に変更されたが、本件特許出願は、甲11の2(覚書)の作成日前の平成17年10月24日であるから、甲11の2(覚書)による契約の有効期間の変更を考慮したとしても、本件特許の出願日時点においては、甲1は、甲11の1(秘密保持契約書)の契約の有効期間内の資料ではない。
したがって、甲1は、本件特許出願時点で、当事者間で締結された甲11の1(秘密保持契約書)の契約の効力の範囲外の資料である。
よって、甲1の秘密保持に関する扱いは、「社会通念上、又は商習慣上」の秘密保持に関する扱いと同様である。

請求人の主張によれば、「甲1は、EGIS機の導入検討時の会議で作成されたものであ」り、「「EGIS打合せ」と題する会議の板書のプリントアウト」である。そして、「甲1発明は、請求人がシャープ株式会社に開示したものである」(上記「第3 2(1)」参照。審判請求書7(5)イ(ア)(イ)、甲5参照。)。
ここで、「EGIS」に関し、甲1と甲15を比較すると、甲1に記載されたEGISは、配向膜用の露光装置であると主張されている一方、甲15に記載されたEGISは、配向膜用の露光装置である旨の明記はされておらず、甲1発明のEGISと甲15に記載されたEGISとが同じ露光装置であるかには疑義があるが、どちらも「EGIS」つまり、「Exposure system Guided by Image Sensor」(イメージセンサによってガイドされる露光装置)である点で共通するものである。
そして、EGISは、甲15(株式会社ブイテクノロジーの「新方式の露光装置発明についてのご説明 EGIS」と題する営業資料)に記載されているように、新方式の露光装置発明であるとされている。
してみると、甲1が作成された「EGIS打合せ」とは、新方式の露光装置であるEGISの仕様についての打合せであり、新規に開発された技術を含む製品についての商談であるといえる。このような場合、当事者間において格別な秘密保持に関する合意又は明示的な指示や要求がなくとも、打合せに参加したシャープ株式会社社員が当該新方式の露光装置であるEGISの仕様について第三者に開示しないことが、「社会通念上、又は商習慣上」暗黙のうちに求められるものである。
よって、打合せに参加したシャープ株式会社の社員は、新方式の露光装置であるEGISの仕様について秘密を保持すべき義務のある者であるといえる(東京高裁平成12年12月25日判決(平成11(行ケ)368号)〔6本ロールカレンダーの構造及び使用方法事件〕)参照)。
したがって、「EGIS打合せ」と題する会議の板書のプリントアウトである甲1によって、秘密を保持すべき義務のある者に知られた発明(甲1発明)が、特許法第29条第1項第1号でいう「公然知られた発明」であるとはいえない。

(3) 請求人の主張について
ア 上記「第3 3(1)イ」のとおり、請求人は、「請求人が,甲1発明の内容について,シャープに秘密保持義務を負わせなかったのは,請求人が,甲1発明のようなEGIS機の構成について,技術的に価値のあるものと認識していなかったことによる。つまり,EGIS機の構成(照射ヘッドの配置を千鳥配置とすること)については,露光装置の分野ではすでに公知だった(甲13の図1?図3)ので,請求人は,これを秘密情報として開示しなければならない性質のものであるとは全く認識していなかった。」と主張している。
しかしながら、それぞれの技術が公知であったとしても、どのような技術を採用して新方式の露光装置である「EGIS」を構成するかが、「EGIS打合せ」と題する会議で検討され、その会議の板書のプリントアウト(甲1)の資料が作成され、秘密を保持すべき義務のある者に開示されているものであり、秘密を保持すべき義務のある者に開示されたEGISを構成する技術情報全体が秘密を保持すべき情報であって、公然知られたものとはいえないから、甲1に記載された技術情報に公知の技術情報が含まれるとしても、その会議の板書のプリントアウト(甲1)の資料に記載された新方式の露光装置である「EGIS」を構成する技術情報全体が秘密情報に当たらないとする理由にはならない。

イ 請求人は、「請求人は,シャープに開示する情報及び資料に関して,内容によって秘密保持義務を負わせるか否かを使い分けており,甲1発明については,意図的に,「秘密である旨の表示」をせず,秘密保持義務を負わせていなかったのである。」(上記「第3 3(1)イ」参照。)、「秘密保持契約書(甲11の1)の締結前であっても,秘密表示の有無により秘密保持義務を負わせるか否かを決めるという秘密保持のポリシーに沿った運用がなされていたのである。」(上記「第3 3(1)ウ」参照。)と主張している。
そして、秘密保持契約書(甲11の1)の締結前である、作成日平成16年10月頃の甲14(シャープ株式会社に対する株式会社インテグレーテッドソリューションズのEGIS制御の説明資料(「EGIS-Projection」と題するもの)について、請求人は、「EGIS制御について説明する資料である甲14の最終ページの「本資料の取扱いに関する注意事項」に,この資料の内容を第三者に開示してはならないとの主旨の文章を記載し,上記の秘密保持契約書(甲11の1)でいう「秘密である旨の表示」をして,シャープに秘密保持義務を負わせていた。」(上記「第3 3(1)イ」参照。)と主張している。
しかしながら、甲14には、最終頁に秘密保持について記載されている「本資料の取扱いに関する注意事項」の頁が添付されているものの、シャープに秘密保持義務を負わせていたとする資料の各頁には、「秘密情報」である旨の表示、例えば、甲15の各頁の右上に表示されている「秘密情報/複写禁止」のような表示はない。
例えば、
甲15の13頁には、頁の右上に「秘密情報/複写禁止」が表示され、
「基板移動中に画像検出ユニットにより基板のBM画像を取得し、これにより露光対象の領域を検出しながら露光を実施。EGISでは複数のユニットが並列して各領域を露光しますが、各ユニットの境界も取得された画像により判定され、常に露光領域の端点にはるBM部分を検出しMaskの位置を調節。そのため、マルチヘッドによる繋ぎ露光を効果的に実現。」との記載がある。
一方、甲14の3頁には、
「基板移動中にCCDは基板のBMの画像を取得し、これにより露光領域を検出してFlash Lampを発光させます。また、EGISでは複数の投影レンズが並列しそれぞれの領域を露光しますが、各レンズの境界もCCD画像により判定され、常に露光領域の端点になるBM部分を検出しMaskの位置を調節して決まったBM部上に露光の端点が露光の始点または終点となるのです。」との記載があるが、甲15の頁の右上に表示されている「秘密情報/複写禁止」のような記載はない。
どちらもEGISの制御に関する同様の内容であり、「秘密情報」として扱われるものであるが、「秘密情報/複写禁止」の表示の有無に関する運用は、秘密保持契約書(甲11の1)の締結前の資料である甲14と、締結後の資料である甲15の間で異なっている。
してみると、甲15では「秘密情報」として扱われる内容が記載されている頁であっても、甲14の対応する頁には秘密表示がされていないことから、秘密保持契約書(甲11の1)の締結前であっても、秘密表示の有無により秘密保持義務を負わせるか否かを決めるという秘密保持のポリシーに沿った運用が徹底されていたとはいえない。
そして、秘密保持契約書(甲11の1)の締結前の資料である甲1は、「秘密表示の有無」による運用が徹底されていないときの資料であるから、「秘密表示の有無」により秘密保持義務を負わせるか否かを判断することができる資料とはいえない。
よって、「甲1発明については,意図的に,「秘密である旨の表示」をせず,秘密保持義務を負わせていなかったのである。」との請求人の上記主張は、秘密保持契約書(甲11の1)の締結前に、当事者間に秘密保持に関する合意があったことを示す他の証拠もないことから、採用することはできない。

(4) 小括
以上のとおり、 前記(3)の請求人の主張を考慮しても、甲1発明は「本件出願前に公然知られた発明」であるとはいえない。

2 進歩性についての検討
(1)上記1で述べたとおりであり、無効理由の前提となる甲1発明は「本件出願前に公然知られた発明」であるとはいえないから、請求人の主張する無効理由は理由がない。

(2)仮に、甲1発明が公然知られた発明であるといえるとした場合の進歩性についても予備的に検討する。
ア 甲1発明の認定について
(ア)甲1に記載の事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
なお、甲1に、記載箇所を示す番号と枠を合議体が付与したものを以下に添付する。記載箇所を示す記載1?3、5、6は、審判請求書において記載された甲1の記載箇所を表す「記載○」(○部分は、丸囲みされた数字)に対応する。審判請求書に記載されている「記載4」(「4」に丸囲みあり。)については、甲1に記載されておらず(弁駁書15頁1,2行の「審判請求書の甲1において「記載4」として説明したものは、甲1の記載事項ではなく、甲20の記載事項である。」との記載参照。)、甲1の記載事項の対象外であるから、添付する甲1に「記載4」に対応する番号と枠は付与していない。


a 上記記載1の「EGIS打合せ 3/15 PM1:30?4:30」について
上記第5 1(14)、(15)のとおり、「EGIS」とは、「Exposure system Guided by Image Sensor」のことである(甲14の1頁、甲15の1頁)と認められる。
また、「3/15」は、続いて記載されている「PM1:30?4:30」が打合せ時間を意味していることから、時間に関連する概念の「日付」である3月15日を示すものと認められる。
ここで、甲18(EGIS装置の仕様についての会議が2005年2月25日に開催されたことを示す議事録と題する書面)、甲7(EGIS用偏光プロキ露光(Sp6)に関する記載のある、Vテクノロジーと目白プレシジョンとの間の「御社との商談状況まとめ」と題する書面の作成日が平成17年5月16日であること。)、甲25(シャープ株式会社向け配光膜露光装置について設計終了予定が2005年10月末日であること。)から、シャープ株式会社とVテクノロジーとの間の「EGIS打合せ」時に作成された甲1に記載の「3/15」は、2005年(平成17年)の3月15日を示すものと認められる。これは、甲5の「添付資料1は、当社とブイテクとの間で行ったEGIS機に関する2005年の3月15日の会議で作成された板書録です。」との日比野吉高氏の陳述にも合致する。

b 1頁の「1.アライメント精度」の図について
甲1の左上に示された図の「カメラ」、「露光光の矢印が当たる斜線でハッチングされた部材であるマスク」、「エアフロー上の水平の線分」、「ステージ」、「エアフロー」は、EGISに関する説明資料である甲15の17頁に記載の「CCDカメラ」、「MASK」、「ガラス基板」、「搬送ステージ」、及び甲14の14頁の「エアフロー」と、その配置関係の共通性から、それぞれ対応する部材であると推認される。

矢印により、露光光がマスクの斜め上方から照射されることが見て取れる。
カメラがマスク上方に配置され、カメラからマスクを通過し基板まで点線の矢印が見て取れる。
「アライメントのぞきパタン」の記載の左横にある横250×縦30の寸法が付された矩形は、「2.マスク配置」に記載されている矩形のマスクに250の寸法が付されていることから、マスクであると理解できる。
マスクには、縞状の縦線が引かれており、マスクによって露光領域内において露光される部分と露光されない部分が形成されることが分かる。
「EGIS」(Exposure system Guided by Image Sensor)とは、「基板上の第1層のパターンを画像検出ユニットによりリアルタイムで読み取りながら露光位置を制御」(甲15の7頁、17頁参照。)するものであることを踏まえると、甲1に記載の「カメラからマスクを通過し基板までの点線の矢印」は、基板上のパタンをカメラで読み取ることを表したものであり、「アライメントのぞきパタン」は、基板上のパタンをカメラで読み取るためにマスクに設けられた「のぞき窓」であると理解できる。

c 2頁左上の記載「プロキ露光(平行光) 偏光有り 40°」について
「プロキ露光」とは、近接露光式(プロキシミティ式)露光のことである。
また、「偏光有り 40°」とは、「1.アライメント精度」の図の記載を踏まえると、偏光光が露光光としてマスクの斜め上方40°から水平な線分で示される基板に対し照射することを意味すると解される。
この「プロキ露光(平行光) 偏光有り 40°」との記載は、甲16の1、甲16の2の
「1.概要 本装置はEGIS System搭載の近接露光式直線パターン露光装置です。
300nmから320nmの露光波長を有しており光線入射角は40度です。」
「2.装置性能 ・・・(3)光源・・・(4)偏光度 消光比10:1以上 P偏光 (6)光線入射角 基本法線に対して40度±1度」の記載と符合するものである。
そして、作成日平成17年6月20日のEGIS-ProSp8型露光装置見積仕様書である甲16の2には、
「シャープ株式会社御中
EGIS-ProSp8型露光装置見積仕様書
型式EGIS-ProSp8.b
改訂版2005年6月20日
株式会社ブイ・テクノロジー」との記載があり、
甲25に
「1.設計対象装置:シャープ株式会社向け配光膜露光装置
- 弊社型番:EGIS-ProSp8.b
- 要求仕様については、2005年6月20日付け仕様書および弊社と打合せにて指示。」と記載されていることから、
甲16の2は、シャープ株式会社向け配光膜露光装置の仕様書であることが分かる。
甲1の記載と符合する甲16の2が配光膜露光装置の仕様書であることからも、甲1のEGISが配向膜用の露光装置であることが推認される。

d 1頁の「2.マスク配置」の図について
甲1の2頁の左上の「プロキ露光」との記載から、甲1の装置は、近接露光式(プロキシミティ式)の露光装置であることが認められる。なお、投影露光式(プロジェクション式)では,甲15の12頁のように、マスクと基板の間に投影レンズが介在するものであるところ、甲1の「1.アライメント精度」の図で示された、マスクと基板の間には何も介在してない(甲15の17頁と同様の配置関係である。)ことが見て取れることからも裏付けられる。
よって、甲1の装置は、マスクと基板の隙間が非常に小さく設定された近接露光式(プロキシミティ式)の装置であり、マスク開口がそのまま露光エリア(照射領域)を形成するものである。
以上のことを踏まえ、「2.マスク配置」の図を見るに、
「設計終了」と記載された図から、幅が250の寸法であるマスクが上下に2列離間して並んでおり、1列目の左側のマスクの右端と2列目のマスクの左端とが紙面縦方向に見て重なっており、2列目のマスクの右端と1列目の右側のマスクの左端とが紙面縦方向に見て重なっている配置関係が見て取れる。なお、マスクの寸法を表す単位は、250との数字に整合する寸法の単位であることを考慮すると、「mm」であることは明らかである。

上下矢印の下側のマスク配置の図(記載6)から、幅が300mmの寸法であるマスクが上下に2列離間して並んでおり、1列目の左側のマスクの右端と2列目のマスクの左端とが紙面縦方向に見て寸法50mmずつオーバラップしており、2列目のマスクの右端と1列目の右側のマスクの左端とが紙面縦方向に見て寸法50mmずつオーバラップしている配置関係が見て取れる。

「2.マスク配置」の図に関し、被請求人は、口頭審理陳述要領書で、
「マスクの縁部は枠部材の開口部より外側で当該枠部材に取り付けられている。・・・甲1においては、「マスク」は「露光エリア」を定めるものではなく、「露光エリア」はマスクに形成される「マスク開口」により定められることになるが、甲1には「マスク開口」は記載されていない。」(口頭審理陳述要領書6.I.(2)イ)
「また、「2.マスク配置」の記載は、甲14の7頁に示されたマスクがスリットの両端部より外側に「素ガラス」及び「金属膜(不透明)」の余剰部分を有するために止むを得ず千鳥配置としたものである、と解される。」(口頭審理陳述要領書6.II.(1)エ)
「イ マスクの記載
・・・(途中省略)・・・甲1には「露光エリア」についての記載は全く見られない。そして、甲1の「1.アラインメント精度」についての記載をみると、ハッチングを付して断面で示される「マスク」と表示された部材は、縁部が支持枠と理解される枠部材に一部重なって取り付けられている。したがって、通常の常識でこの図を見ると、枠部材に重なったマスクの縁部は、露光光を通さない領域と理解するしかない。」(口頭審理陳述要領書6.III.(1)イ)と主張している。
しかしながら、仮に、甲1の「2.マスク配置」の図において、「スリットの両端部より外側に」「余剰部分」が記載されていたとすると、「設計は終了」と記載された図では、オーバーラップのない配置なので、当該「余剰部分」で「照射領域に隙間が空くこと」になり未露光部分を有する不完全な露光装置となってしまうから、「設計は終了」と記載された図のマスクは、「スリットの両端部より外側の余剰部分」を有するマスクとは解することはできない。
したがって、「設計は終了」と記載された図におけるマスクの配置は「マスクの開口の配置」が記載されたものと解するのが妥当である。
このため、同じく、甲1の「2.マスク配置」に記載された記載6についても「マスクの開口の配置」が示されたものであるといえる。
よって、甲1の装置は、マスクと基板の隙間が非常に小さく設定された近接露光式(プロキシミティ式)の装置であり、マスク開口がそのまま露光エリア(照射領域)を形成するものであることを踏まえると、甲1の記載6は、幅が300の寸法であるマスクが上下に2列並んでおり、1列目の左側の「マスク開口」(照射領域)の右端と2列目の「マスク開口」(照射領域)の左端とが紙面縦方向に見て寸法50mmずつオーバラップしており、2列目の「マスク開口」(照射領域)の右端と1列目の右側の「マスク開口」(照射領域)の左端とが紙面縦方向に見て寸法50mmずつオーバラップしている千鳥状の配置関係を示している図であるといえる。
よって、千鳥状の配置関係とは、一方の列の「マスク開口」(照射領域)の端と他方の列の「マスク開口」(照射領域)の端どうしが紙面縦方向に見て寸法50mmずつオーバラップしている配置であるといえる。

e 1頁の「4.基板サイズ」について
「4.基板サイズ」には、「G8」が付記された点線の矩形と「G6」が付記された実線の長方形(縦配置と横配置の2種類)が記載されている。ここで、「G8」が付記された点線の矩形は、第8世代基板サイズのガラス基板であり、「G6」が付記された実線の矩形は、第6世代基板サイズのガラス基板であると解される。

f 記載2、3及び2頁の「G6検討機」について
「G8」(記載2)、「G6検討機」のそれぞれの図面の上部には、1頁の「4.基板サイズ」で記載された矩形と同じ矩形が光源に向かう矢印と共に記載されている。よって、「G8」(記載2)、「G6検討機」のそれぞれの図面の上部に記載された矩形は、被照射物である基板であると解される。
上記(イ)の検討により、甲1の左上に示された図の「ステージ」は、「搬送ステージ」であると解され、被照射物である基板は、照射領域に搬送されることは、明らかであるから、「G8」(記載2)、「G6検討機」のそれぞれの図面の上部の矩形の基板は、照射領域となる光源ユニットが配置される方向(基板に付された矢印の方向)に直線状に搬送されるものと解される。よって、基板に付された矢印の方向は、「直線状に搬送される基板の搬送方向」であるといえる。

記載3の「Lamp寿命」及び点線で囲まれた領域に隣接して「1ユニット単位で交換」の記載があること、「2.マスク配置」に記載の千鳥状の配置と甲1の「G8」(記載2)、「G6検討機」に記載されている「矢印を含む長方形の部材」の千鳥状の配置で一致すること、矢印により露光光がマスクの斜め上方から照射されていること(甲1の1頁の左上図参照。)に鑑みるに、「※薄膜偏光の場合」の記載と共に記載されている「矢印を含む長方形の部材」は、Lampを含むものであって、斜めから偏光光の露光光を照射し、照射方向を矢印で示した光源であると解される。
そして、「1ユニット単位で交換」との記載に隣接する点線で囲まれた領域は、複数の光源が離間して並んで列を形成しているので、離間して並んで列を形成している複数の光源を以下「光源ユニット」という。
また、甲1の記載2に、「矢印を含む長方形部材」が直線状に搬送される基板の搬送方向に直交する方向に順に5つ、4つ、4つ、5つと離間して並んでそれぞれ列を形成している。以下これらの交換単位となる列を、搬送方向に沿って順にそれぞれ、「X1列光源ユニット」、「X2列光源ユニット」、「Y1列光源ユニット」及び「Y2列光源ユニット」という。
そして、各光源ユニットは搬送方向に沿って配置されている。
光源ユニットを成す複数の「矢印を含む長方形の部材」(ランプUNIT)の矢印の向きは、「X1列光源ユニット」と「Y1列光源ユニット」が搬送方向と同じ向きであり、「X2列光源ユニット」と「Y2列光源ユニット」が搬送方向と反対向きであり、同じ向きの光源ユニット同士は、離間したランプUNITの照射領域を補うように千鳥状の配置をしていることが見て取れる。
ここで、露光光は偏光光であるから、マスクに対して斜めからの偏光光が下向き矢印で示される方向に照射するものと上向き矢印で示される方向に照射されることになるが、これは、2種類のプレチルト角を持った液晶分子とするための配向膜を構成する照射形態(VA液晶の配向膜に配向を与える偏光光照射装置の照射形態(甲29 「2 VA液晶」(2頁下から6行?4頁下から4行)及び「(4)対比」(31頁19行?33頁11行)参照。))と符合するものである。
してみると、甲1に記載された照射形態から、甲1の装置は、VA液晶の配向膜に配向を与える偏光光照射装置であることが推認される。

g 1頁「3.偏光素子」の記載について
「・薄膜偏向」は、「・薄膜偏光」の誤記と認められる。
記載5の「石英偏光子案」(「案」の字は丸囲みあり。)の右横の図には、「1600」の寸法線が付されている。
ここで、記載3の「1ユニット単位で交換」の記載の横の点線で囲まれた領域の右側に「1.6」との数字が記載されていること、及び記載2の「G8」に、「薄膜偏光の場合」との記載があることに鑑みるに、「1600」と「1.6」は、単位が異なる表記(「mm」と「m」)をした同一の寸法であると考えられるから、「1600」の寸法線とともに記載された記載5の当該図は、記載2,3に記載された「矢印を含む長方形の部材」の図と符合する。
そして、偏光素子は透過する光を偏光光に変えるものであり、マスクは被照射物の直前に配置されるものである(甲1「1.アライメント・・」の図参照。)から、偏光素子はランプとマスクの間に配置されていると解される。
そして、「2.マスク配置」に「ランプUNITに入るか可能性検討」と記載されていることから、ランプからマスクにかけて「ランプUNIT」に含まれていることがわかる。
してみると、「石英偏光子案」の右横の「1600」の寸法線とともに記載された記載5の図は、ランプ、薄膜又は石英の偏光素子及びマスクを有する「ランプUNIT」であると解される。ここで、石英偏光子は案であり、記載2の「G8」に「薄膜偏光の場合」との記載があることから、「1.アライメント精度」の図の記載を踏まえると、甲1に記載されている「矢印を含む長方形の部材」は、ランプ、薄膜偏光素子及びマスクを含み、斜めから偏光光の露光光を照射し、照射方向を矢印で示したランプUNITであるといえる。

h 甲1の装置は、光配向用であるか否かについて
偏光光を水平な基板に対し露光する態様は光配向用の露光装置の態様であるところ、上記fのとおり、甲1に記載された照射形態から、甲1の装置は、VA液晶の配向膜に配向を与える偏光光露光装置であることが推認される。
また、上記cのとおり、甲1の記載と符合する甲16の2が配向膜用偏光光露光装置の仕様書であることからも、甲1のEGISが配向膜用偏光光露光装置であることが推認される。
以上のことから、甲1の装置は、配向膜用偏光光露光装置であるといえる。

一方、被請求人は、斜めの照射光を用いる露光は、光配向用とは限らないことを、乙3?7を提示して主張している。
しかしながら、甲1における「斜めの照射光」は、偏光光であり、水平な線分で示される(平面な)基板に照射対象とすることを前提とするものであるところ、被請求人の提示した乙3?7には、いずれもトレンチ(溝)の壁面や3次元露光を行うために斜めの照射光を用いる装置であり、「平面」の露光のために斜めの照射光を用いるものではないから、被請求人の、甲1の装置は光配向用とは限らないとする主張は採用できない。

(イ)甲1発明
上記(ア)から、以下の発明が甲1から知られた発明(甲1発明)と認められる。

「「矢印を含む長方形部材」が直線状に搬送される基板の搬送方向に直交する方向に順に5つ、4つ、4つ、5つと離間して並んでそれぞれ列を形成し、交換単位となる「X1列光源ユニット」、「X2列光源ユニット」、「Y1列光源ユニット」及び「Y2列光源ユニット」を形成し、各光源ユニットは搬送方向に沿って配置され、
「矢印を含む長方形部材」は、ランプ、薄膜偏光素子及びマスクを含み、斜めから偏光光の露光光を照射し、照射方向を矢印で示したランプUNITであり、
光源ユニットを成す複数の「矢印を含む長方形部材」(ランプUNIT)の矢印の向きは、「X1列光源ユニット」と「Y1列光源ユニット」が搬送方向と同じ向きであり、「X2列光源ユニット」と「Y2列光源ユニット」が搬送方向と反対向きであり、同じ向きの光源ユニット同士は、離間したランプUNITの照射領域を補うように千鳥状の配置をし、
前記千鳥状の配置とは、一方の列の「マスク開口」(照射領域)の端と他方の列の「マスク開口」(照射領域)の端どうしが搬送方向に見て寸法50mmずつオーバラップしている配置である、
配向膜用偏光光露光装置。」

イ 本件発明と甲1発明の対比
(ア)甲1発明の「配向膜用偏光光露光装置」は、本件発明の「光配向用偏光光照射装置」に相当する。

(イ)甲1発明は、「配向膜用偏光光露光装置」であるから、偏光光が照射される「基板」には、「配向膜」が形成されていることは明らかである。してみると、甲1発明の「直線状に搬送される基板」と本件発明の「連続または間歇的に直線状に搬送される光配向膜」とは、共に「直線状に搬送される光配向膜」である点で一致する。

(ウ)甲1発明の「X1列光源ユニット」、「X2列光源ユニット」、「Y1列光源ユニット」及び「Y2列光源ユニット」は、本件発明の「光照射部」に相当する。そして、甲1発明の「各光源ユニットは搬送方向に沿って配置され」ている「配向膜用偏光光露光装置」は、本件発明の「光配向膜の搬送方向に沿って光照射部が多段に配置され、多段に配置された各光照射部から上記光配向膜に偏光光を照射して光配向を行う偏光光照射装置」に相当する。

(エ)甲1発明の「矢印を含む長方形部材」(ランプUNIT)が「基板の搬送方向に直交する方向に順に5つ、4つ、4つ、5つと離間して並んでそれぞれ列を形成し」ていることと本件発明の「光配向膜の搬送方向に対して直交する方向に伸びる線状の光源」とは、共に「光配向膜の搬送方向に対して直交する方向に伸びる光源」である点で一致する。

(オ)甲1発明の「矢印を含む長方形部材」(ランプUNIT)は、ランプ、薄膜偏光素子及びマスクを含み、離間して並んでそれぞれ列を形成し光源ユニットを形成しているから、甲1発明の「光源ユニット」と、本件発明の「各光照射部は、光配向膜の搬送方向に対して直交する方向に伸びる線状の光源と、上記線状の光源の伸びる方向に沿って複数のワイヤーグリッド偏光素子が並べられ、該並べられたワイヤーグリッド偏光素子の間に境界部が生じている偏光素子ユニットを有しており」とは、共に「各光照射部は、光配向膜の搬送方向に対して直交する方向に伸びる光源と、上記光源の伸びる方向に沿って複数の偏光素子が間に境界部が生じるように並べられて」いる点で一致する。

(カ)甲1発明の「光源ユニットを成す複数の「矢印を含む長方形部材」(ランプUNIT)の矢印の向きは、「X1列光源ユニット」と「Y1列光源ユニット」が搬送方向と同じ向きであり、「X2列光源ユニット」と「Y2列光源ユニット」が搬送方向と反対向きであり、同じ向きの光源ユニット同士は、離間したランプUNITの照射領域を補うように千鳥状の配置をし、前記千鳥状の配置とは、一方の列の「マスク開口」(照射領域)の端と他方の列の「マスク開口」(照射領域)の端どうしが搬送方向に見て寸法50mmずつオーバラップしている配置である」ことは、離間したランプUNITがそれぞれ薄膜偏光素子を含み、ランプUNITの配置がマスク開口の配置と同様の配置をしていることを踏まえると、本件発明の「各段に配置された各光照射部は、各段の光照射部の上記偏光素子の間の境界部が、他の段の光照射部の偏光素子の境界部と光配向膜の搬送方向に対して互い重ならないように、光配向膜の搬送方向に直交する方向に位置をずらして配置されている」ことに相当する構成を有しているといえる。

(キ)以上のことから、本件発明と甲1発明とは、以下の点で一致する。
「直線状に搬送される光配向膜に対し、
光配向膜の搬送方向に沿って光照射部が多段に配置され、
多段に配置された各光照射部から上記光配向膜に偏光光を照射して光配向を行う偏光光照射装置であって、
上記多段に配置された各光照射部は、
光配向膜の搬送方向に対して直交する方向に伸びる光源と、
上記光源の伸びる方向に沿って複数の偏光素子が並べられ、該並べられた偏光素子の間に境界部が生じている偏光素子を有しており、
各段に配置された各光照射部は、各段の光照射部の上記偏光素子の間の境界部が、他の段の光照射部の偏光素子の境界部と光配向膜の搬送方向に対して互い重ならないように、光配向膜の搬送方向に直交する方向に位置をずらして配置されている
光配向用偏光光照射装置。」

(ク)そして、本件発明と甲1発明とは、以下の点で相違する。
a 搬送について
搬送が、本件発明は、「連続または間歇的」であるのに対し、甲1発明は不明である点(以下「相違点1」という。)で相違する。

b 線状の光源について
本件特許明細書段落【0014】、【0019】図4?図7の記載から、本件発明の「線状の光源」とは、発光する部分を、棒状としたり、直線状に並べることにより線状の光の領域を生じるものである。
一方、甲1の記載6の一列のマスク配置を見ると、マスク同士の間が空いていることから、甲1発明の光源は、離間して並んで列を形成する「点線状」の光の照射領域を生じるものであり「線状」の光の照射領域を生じるものではない。
よって、本件発明は、「線状の光源」であるのに対し、甲1発明は、「線状の光源」ではない点(以下「相違点2」という。)で相違する。

c 偏光素子について
偏光素子が、本件発明は、ワイヤーグリッド偏光素子であるのに対し、甲1発明は、薄膜偏光素子である点(以下「相違点3」という。)で相違する。

d 偏光素子ユニットについて
本件発明の「上記線状の光源の伸びる方向に沿って複数のワイヤーグリッド偏光素子が並べられ、該並べられたワイヤーグリッド偏光素子の間に境界部が生じている偏光素子ユニット」は、「光配向膜の搬送方向に対して直交する方向に伸びる線状の光源」とは区別して扱われるユニット(構成単位)である。
一方、甲1発明において、「「矢印を含む長方形部材」は、ランプ、薄膜偏光素子及びマスクを含み、斜めから偏光光の露光光を照射し、照射方向を矢印で示したランプUNIT」であるところ、複数個の『矢印を含む長方形部材』(ランプUNIT)が離間して並んで列を形成する「光源ユニット」は、交換単位となるからユニット(構成単位)といえるとしても、ランプUNITは、離間して並んでおり、それぞれのランプUNITに含まれる薄膜偏光素子を一つのまとまりとして、例えば交換単位として単独で扱うことはできず、ランプUNITに含まれる薄膜偏光素子は、ランプやマスクとともに扱われるものであるから、甲1発明の離間して並んでいる長方形部材(ランプUNIT)に含まれる薄膜偏光素子は、偏光素子ユニット(構成単位)を構成するとはいえない。
よって、並べられた偏光素子について、本件発明は、偏光素子ユニットを構成するのに対し、甲1発明においては、ユニットを構成するものではない点(以下「相違点4」という。)で相違する。

なお、請求人は、甲1発明において,各段に含まれる偏光素子は,構成B2の「偏光素子ユニット」に相当するものであると主張している(口頭審理陳述要領書17頁及び18頁参照。)が、以上のとおり甲1発明の偏光素子はユニットを構成するものではないから、甲1発明は、「偏光素子ユニット」に相当する構成を有するものではない。

相違点の判断
(ア)事案に鑑み、まず相違点2(線状の光源について)を検討する。
EGISの光源について、例えば、甲15の9頁には、「EGIS処理の概要」として、「マルチヘッドによる高精度のつなぎ露光を効率的に実現,大型サイズのマスクの適用が不要となる」と記載されているように、EGISは大型マスクを不要とすることが特徴の1つである。してみると、EGISに関する甲1発明は、大型サイズのマスクの適用が不要となるようにマルチヘッド、つまり複数のランプUNITによって構成することを特徴とするものであるから、甲1発明において、一つの線状の光源である甲2及び甲3に記載された「棒状の光源」を採用する動機付けはない。
また、甲1発明において、光源ユニット同士は、離間したランプUNITの照射領域を補うように千鳥状の配置をしているものであり、ランプUNITの照射領域が離間していること、つまり不連続な照射領域を前提とするものであるから、連続的な照射領域を形成する一つの線状の光源(甲2及び甲3に記載された「棒状の光源」)を採用する動機付けはない。

請求人は、「甲3には,「光配向用偏光光照射装置の光源として『棒状の光源』を用いること」が記載されている(甲3の【0025】,【図3】,【図5】)。甲1発明と当該甲3は,いずれも光配向膜を対象とした光配向用偏光光照射装置という共通の技術分野に属し,いずれも偏光手段を使用しているという構成の共通性があるので,甲1発明に対し,上記甲3の記載事項(棒状の光源)を適用する動機付けが存在する。よって,甲1発明の光源として,上記甲3の記載事項の棒状の光源を用い,上記相違点B’を構成することは当業者が容易に相当し得たことである。」と主張している。
また、甲2には、「液晶ディスプレイ用コンペンセーションフィルムのLPP1層22を処理し、好ましい角度を持つ光学的配向を得る加工装置10において,偏光子セグメント91は、ワイヤーグリッド偏光子であり、偏光子90は、いくつかの偏光子セグメントを用い配され、光源として棒状の光源を用いている加工装置10。」の発明が記載されている。
しかしながら、甲1発明と甲3及び甲2に記載された技術事項の間に、光配向用偏光光照射装置という共通の技術分野、及び偏光手段を使用しているという構成の共通性があるとしても、上記のとおり、甲1発明は、複数のランプUNITによって構成することを特徴とし、不連続な照射領域を前提とする発明であるから、甲1発明において、連続的な照射領域を形成する一つの線状の光源(甲3に記載された「棒状の光源」及び甲2に記載された「棒状の光源」)を採用する動機付けはない。

よって、甲1発明において、本件発明の相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(イ)次に、事案に鑑み、相違点4(偏光素子ユニットについて)を検討する。
甲1発明において、「「矢印を含む長方形部材」は、ランプ、薄膜偏光素子及びマスクを含み、斜めから偏光光の露光光を照射し、照射方向を矢印で示したランプUNIT」である。つまり、甲1発明において、「薄膜偏光素子」は、ランプ及びマスクとともにランプUNITを構成するものである。
してみると、ランプUNITが離間して並んで列を形成している甲1発明において、それぞれのランプUNITに含まれる薄膜偏光素子を並べて一つのまとまり、例えば交換単位として単独で扱い得る「偏光素子ユニット」とすることはできない。仮に甲1発明において「偏光素子ユニット」の構成を採用しようとすると、ランプ、薄膜偏光素子及びマスクを含むランプUNITの構成をUNITの構成でないものにすることになってしまうから、甲1発明は、「偏光素子ユニット」の構成の採用を阻害する構成を有しているといえる。
よって、甲2に「【0075】・・・偏光子セグメント91は、典型的に、参照例において、3平方インチであり、図示されるように一緒に傾けられたワイヤーグリッド偏光子である。偏光子90は、いくつかの偏光子セグメントを用い、ウェブ16の動作方向に対する特定の角度で好ましく配されている。この角度的オフセットは、個々の偏光子セグメント91間にある境界線による起こりうる縞効果を代償している。グリッドフレーム96及びカバーフレーム94は、偏光子セグメント91を固定するため用いられ、マスク92の間に挟まれている。」との記載があり、甲3に「【0033】・・・図7に示すように、棒状ランプの発光長に応じたフレーム103を製作し、そのフレームの中に、正方形状のワイヤ・グリッド偏光板100aを並べて一つのワイヤ・グリッド偏光子100を作製する。」との記載があるとしても、甲1発明において、本件発明の相違点4に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

請求人は、「甲1発明の各段(当審注:各光源ユニット)に含まれる偏光素子も「ユニット」を構成する。よって,甲1発明において,各段に含まれる偏光素子は,構成B2の「偏光素子ユニット」に相当するものである。このため,各段に含まれる偏光素子を「偏光素子ユニット」とすることについて,動機づけが不明だとか,それを阻害するというような事情は存在しない。」と主張している。
この主張は、各段(各光源ユニット)は、交換単位となるユニットであって、各光源ユニットに含まれる偏光素子も「偏光素子ユニット」であるという主張と解される。
しかしながら、本件発明における「偏光素子ユニット」は、「上記線状の光源の伸びる方向に沿って複数のワイヤーグリッド偏光素子が並べられ、該並べられたワイヤーグリッド偏光素子の間に境界部が生じている偏光素子ユニット」であって、「線状の光源」とは区別されるものであるのに対し、甲1発明の各光源ユニットは、偏光素子の他にランプやマスクを含むことから、ランプとは区別される「偏光素子ユニット」であるとはいえない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

エ 予備的検討についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点1(搬送について)、相違点3(偏光素子について)について検討をするまでもなく、本件発明は、甲1発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

3 小括
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由は、理由がない。

第7 むすび
よって、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-27 
結審通知日 2019-01-09 
審決日 2019-01-29 
出願番号 特願2005-308117(P2005-308117)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森江 健蔵  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 森 竜介
近藤 幸浩
登録日 2011-09-09 
登録番号 特許第4815995号(P4815995)
発明の名称 光配向用偏光光照射装置  
代理人 特許業務法人白坂  
代理人 松野 仁彦  
代理人 高野 芳徳  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 大塚 文昭  
代理人 関 裕治朗  
代理人 相良 由里子  
代理人 溝田 宗司  
代理人 佐竹 勝一  
代理人 松尾 和子  
代理人 越柴 絵里  
代理人 谷口 信行  

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