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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A61H |
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管理番号 | 1350202 |
審判番号 | 無効2017-800159 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2017-12-26 |
確定日 | 2019-04-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5200131号発明「施療機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第5200131号に係る出願(特願2011-63155号)は、平成18年5月29日(以下「遡及出願日」という。)に出願された特願2006-149035号の一部を平成23年3月22日に新たな特許出願としたものであって、その特許権の設定登録は、平成25年2月15日にされ、その後、請求人ファミリーイナダ株式会社から特許無効審判が請求されたものである。 以下、請求以後の経緯を整理して示す。 平成29年12月26日 審判請求 平成30年 2月19日 手続補正書の提出 同年 3月23日 答弁書の提出 同年 4月18日付け 審理事項通知 同年 5月29日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より) 同年 5月29日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より) 同年 6月12日 口頭審理の実施、補正許否の決定 第2 本件発明 本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ請求項に対応して「本件発明1」などという。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 施療者の臀部または大腿部が当接する座部と、人体背部が当接する背当て部と、該背当て部の中央部に左右一対の施療子を備えた施療子施療機構とを有し、前記背当て部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を夫々備えると共に各側壁部に膨縮袋を設け、空気の給排気により各膨縮袋を膨縮または膨張保持させて施療者の身体の左右両側を施療または保持する事ができるようにした施療機において、 前記各側壁部の基部には、前記各側壁部を幅方向において回動するように夫々側壁可動部を設けて、各側壁部が前記背当て部の幅方向において回動し、 前記各側壁部の内側面に設けた膨縮袋による上腕及び肩部の側面への施療または保持と前記施療子による背部からの肩部周辺施療とを行う事を特徴とする施療機。 【請求項2】 前記左右の側壁部に設けた膨縮袋は、前記背当て部の幅方向に回動する事により、施療者の前方側から膨張することを特徴とする請求項1記載の施療機。 【請求項3】 前記左右の側壁部は、前記背当て部の長さ方向に沿って上下に移動する事を特徴とする請求項1又は請求項2記載の施療機。 【請求項4】 前記左右の側壁部の移動は手動で行われ、当該左右の側壁部は、施療者が所望する位置で係止する事を特徴とする請求項1乃至請求項3記載の施療機。 【請求項5】 前記左右の側壁部は、背当て部の左右両側に前方に向かって突出すると共に、座部に着座した施療者の肩または上腕側方となる位置に配設されており、前記左右の側壁部の内側面には夫々左右方向に重合した膨縮袋を上下に並列状態に埋設している事を特徴とする請求項1乃至請求項4記載の施療機。 【請求項6】 前記重合した膨縮袋はその基端部のみを側壁部の基端部に取り付けている事を特徴とする請求項5記載の施療機。」 第3 当事者の主張 1 請求人の主張 請求人は、「特許第5200131号発明の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として甲第1号証?甲第9号証を提出するとともに、無効とすべき理由として、次のような主張している(第1回口頭審理調書「請求人」欄の「4」及び「別紙」参照)。 本件発明1?6は、以下の理由で特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1?6についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (1)本件発明1?3は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2A)本件発明4は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?3号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2B)本件発明4は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2C)本件発明4は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明、甲第2?3号証のいずれかに記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3A)本件発明5?6は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明、甲第2?3号証のいずれかに記載された発明及び甲第6?8号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3B)本件発明5?6は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び甲第6?8号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3C)本件発明5?6は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明、甲第2?3号証のいずれかに記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び甲第6?8号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4A)本件発明5?6は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明、甲第2?3号証のいずれかに記載された発明及び甲第6?8号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4B)本件発明5?6は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び甲第6?8号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4C)本件発明5?6は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に頒布された、甲第1号証に記載された発明、甲第2?3号証のいずれかに記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び甲第6?8号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 [証拠方法] ・甲第1号証:特開2005-192603号公報 ・甲第2号証:特開2005-13559号公報 ・甲第3号証:特開2003-290305号公報 ・甲第4号証:特開2005-224598号公報 ・甲第5号証:森秀太郎、「解剖経穴図」第19刷、平成22年1月、株式会社医道の日本社、表紙、裏表紙、p.32-39、奥付け ・甲第6号証:特開2001-79053号公報 ・甲第7号証:特開2004-788号公報 ・甲第8号証:特開2003-319990号公報 ・甲第9号証:大阪地裁平成29年(ワ)第7384号特許侵害差止等請求事件 平成30年4月19日付け「準備書面10」(被告株式会社フジ医療器提出) 2.被請求人の主張 被請求人は、請求人主張の無効理由はいずれも理由がなく、本件審判の請求は成り立たない旨主張し、証拠方法として乙第1号証?乙第2号証を提出している。 [証拠方法] ・乙第1号証:特許第5200131号公報(本件特許公報) ・乙第2号証:特願2011-63155号 平成24年12月3日付け意見書 第4 甲各号証の記載事項 1 甲第1号証 本件特許の遡及出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には図面と共に次の事項が記載されている。 甲1a:「【特許請求の範囲】 【請求項1】 背もたれ部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を設け、各側壁部の内側面に使用者の身体を両側からマッサージ又は固定可能なエアバッグを配設したことを特徴とするマッサージ機。 【請求項2】 前記エアバッグは、各側壁部内側面に左右方向にそれぞれ複数個並設されていることを特徴とする請求項1記載のマッサージ機。 【請求項3】 前記側壁部は、背もたれ部に沿って上下に移動可能としたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のマッサージ機。 【請求項4】 使用者の体格に応じて前記エアバッグの膨出量を制御する膨出量制御手段を備えることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のマッサージ機。 【請求項5】 前記背もたれ部に少なくとも前後に往復移動可能な施療手段を配設し、同施療手段に身体のマッサージ動作又は位置調節動作を行わせることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のマッサージ機。 【請求項6】 前記施療手段を複数設け、各施療手段の動作を独立して制御可能としたことを特徴とする請求項5記載のマッサージ機。 【請求項7】 前記エアバッグを膨出させた後に前記施療手段のうち少なくとも1つを作動させることを特徴とする請求項6記載のマッサージ機。 【請求項8】 前記施療手段のうち少なくとも1つを作動させた後に前記エアバッグを膨出させることを特徴とする請求項6記載のマッサージ機。 【請求項9】 前記エアバッグの膨出と前記施療手段のうち少なくとも1つの作動とを同時に行うことを特徴とする請求項6記載のマッサージ機。 【請求項10】 前記施療手段は、エアバッグ又は揉み玉からなることを特徴とする請求項5?9のいずれか1項に記載のマッサージ機。 ・・・」 甲1b:「【技術分野】 【0001】 本発明は、体側方向からマッサージを行うマッサージ機に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来、背もたれ部を設けた椅子型のマッサージ機は、背もたれ部に揉み玉やエアバッグ等の施療手段を設けて、同施療手段により使用者の背中をマッサージする構成となっていた(例えば、特許文献1参照。)。かかるマッサージ機においては、使用者が背もたれ部に背中をもたれかけると共に、その背中に対して施療手段を前後動させて圧力をかけるこ とにより、使用者の背中に揉みや叩きと同様の刺激を与えてマッサージを行っていた。 【特許文献1】特開2002-11062号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかし、上記従来のマッサージ機においては、背もたれ部の施療手段によってマッサージできる範囲があくまでも身体の背面側に限られてしまい、体側をマッサージすることができなかった。特に、肩甲骨の肩峰突起の前下方には肩ぐうという肩をマッサージする上で重要な肩関節のつぼが存在するが、背面方向からのマッサージでは、前記肩ぐうをマッサージすることができなかった。 【0004】 さらに、従来のマッサージ機では、身体の背面側にマッサージを行う場合にも、施療手段により押されたときに身体が前方に逃げるので、施療手段による押圧力を効率よく身体に伝えることができなかった。 【課題を解決するための手段】 【0005】 そこで、本発明のマッサージ機では、背もたれ部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を設け、各側壁部の内側面に使用者の身体を両側からマッサージ又は固定可能なエアバッグを配設した。」 甲1c:「【0022】 前記エアバッグは、単に身体をマッサージするのみならず、膨出させたときに身体を体側方向から挟んで固定することもできる。そのようにエアバッグで固定した状態の身体、特に上半身に対してマッサージを行えば、マッサージ中に身体が逃げることがないので効果的なマッサージを行うことができる。特に、エアバッグを配設する側壁部を少なくとも使用者の上腕側方に位置させておけば、上半身を確実に固定することができると共に、マッサージを行う上に置いても、肩の重要なマッサージ部位となる肩ぐうをマッサージすることができる。」 甲1d:「【0037】 図1は、本発明に係るマッサージ機の一実施形態を示す斜視図である。 【0038】 図示するように、本実施形態のマッサージ機Aは、使用者Mが着座する座部1と、同座部1を支持する基台部2と、座部1の後側にリクライニング可能に連結した背もたれ部3と、座部1の前側に上下方向へ揺動可能に連結した脚載部4とから椅子型に形成しており、前記座部1の両側に肘掛部5を立設すると共に、前記背もたれ部3の両側に前方に向かって突出した側壁部6をそれぞれ配設している。そして、これらマッサージ機Aの各部には、施療手段であるエアバッグa1?a8や揉み玉7,8や指圧ローラユニット9を設けている。 【0039】 図2は、マッサージ機Aの表面カバー23等を省略してマッサージ機Aに設けたエアバッグa1?a8や揉み玉7,8の状態が分かるようにした斜視による説明図である。 【0040】 図示するように、背もたれ部3には、その中央部に左右の揉み玉7,8を昇降自在に埋設すると共に、同揉み玉7,8を挟んで背もたれ部3の左右側上部に背中部用エアバッグa1,a1を、左右側下部に腰部用エアバッグa2,a2をそれぞれ埋設している。 【0041】 前記揉み玉7,8は、同揉み玉7,8を前後・左右に揺動させる揉み玉駆動機構10と共にマッサージユニット11を構成している。かかるマッサージユニット11には、同マッサージユニット11を上下方向に移動させるマッサージユニット昇降機構12も設けており、同マッサージユニット昇降機構12に設けたピニオン(図示せず)を背もたれ部3の中央部に埋設した上下方向に伸延する左右2本のラック13,13に噛合させることによって、マッサージユニット11ごと揉み玉7,8を前記ラック13,13に沿って上下に移動させるようにしている。 【0042】 前記左右側壁部6,6は、座部1に着座した使用者Mの上腕側方となる位置に配設すると共に、図3に示すように、前記背もたれ部3に取り付けた基端部側から先端部にかけて漸次外側方に拡開させており、その内側面には、それぞれ左右方向に2個の体側部用エアバッグa3,a3を並列状態に埋設している。特に、体側部用エアバッグa3,a3はその基端部のみを側壁部6の基端部に取り付けており、膨出時には2個の体側部用エアバッグa3,a3が扇状に広がって使用者Mの身体に素早くフィットするようにしている。」 甲1e:「【0046】 図5には、マッサージ機Aの各部に配設した上記エアバッグa1?a8に給排気を行う給排気部24の構成を示している。かかる給排気部24は前記基台部2の内部に格納しており、各エアバッグa1?a8に給気するためのエアポンプ25と、同エアポンプ25に連通連結すると共に同エアポンプ25から圧入される大気を一時的に貯留して各エアバッグa1?a8へ分流する分流器26とを設けている。前記分流器26には、各エアバッグa1?a8に対応する複数の吐気口を設けており、各吐気口には同吐気口の開口を開閉する電磁弁B1?B18を設けている。この分流器26の各吐気口と、対応するエアバッグa1?a8とは、耐圧ホース27によってそれぞれ連結している。そして、電磁弁B1?B18の開閉動作を後述する制御ユニット31により制御して所要のエアバッグa1?a8を個別に給排気し、エアバッグa1?a8を膨張(膨出)・収縮させる。これによって、使用者Mに対してエアマッサージが施される。 【0047】 特に、本実施形態では、各エアバッグa1?a8の吐気口を開閉する電磁弁B1?B18と、同電磁弁B1?B18の開閉を制御する制御ユニット31とを各エアバッグa1?a8の膨出量を制御する膨出量制御手段とし、各エアバッグa1?a8の膨出量もそれぞれ個別に制御するようにしている。 【0048】 なお、前述した電磁弁B1?B18の開閉動作では、エアバッグa1?a8を膨張(膨出)・収縮させることができる一方、エアバッグa1?a8を膨張状態(膨出状態)に保持することもできる。」 甲1f:「【0099】 このように、第11マッサージ処理では、体側部用エアバッグa3,a3、a3,a3で使用者Mの上半身を保持した状態で背中部に対し揉み玉7,8による機械的マッサージを行うので、マッサージ中に使用者Mの身体が前方に逃げることが無く、背中部に対して効果的にマッサージを行うことができる。なお、前記ステップS71の処理で、揉み玉7,8を使用者Mの肩部や腰部に対向する高さ位置に移動させてマッサージを行えば、肩部や腰部に対しても背中部と同様に効果的なマッサージを行うことができる。」 続いて、図面を参照しつつ、上記の各記載について検討する。 (A)摘記事項甲1dの「本実施形態のマッサージ機Aは、使用者Mが着座する座部1と、・・・から椅子型に形成しており」の記載から、摘記事項甲1aの「マッサージ機」は、使用者が着座する座部を有する「マッサージ機」を包含するものといえる。 (B)摘記事項甲1aの「【請求項5】 前記背もたれ部に少なくとも前後に往復移動可能な施療手段を配設し、同施療手段に身体のマッサージ動作又は位置調節動作を行わせることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のマッサージ機。」、「【請求項10】 前記施療手段は、エアバッグ又は揉み玉からなることを特徴とする請求項5?9のいずれか1項に記載のマッサージ機。」の各記載及び摘記事項甲1dの「 図示するように、背もたれ部3には、その中央部に左右の揉み玉7,8を昇降自在に埋設すると共に、同揉み玉7,8を挟んで背もたれ部3の左右側上部に背中部用エアバッグa1,a1を、左右側下部に腰部用エアバッグa2,a2をそれぞれ埋設している。前記揉み玉7,8は、同揉み玉7,8を前後・左右に揺動させる揉み玉駆動機構10と共にマッサージユニット11を構成している。」の記載から、摘記事項甲1aの「マッサージ機」は、背もたれ部の中央部に左右の揉み玉を備えたマッサージユニットを有する「マッサージ機」を包含するものといえる。 (C)摘記事項甲1eの「電磁弁B1?B18の開閉動作を後述する制御ユニット31により制御して所要のエアバッグa1?a8を個別に給排気し、エアバッグa1?a8を膨張(膨出)・収縮させる。これによって、使用者Mに対してエアマッサージが施される。」、「前述した電磁弁B1?B18の開閉動作では、エアバッグa1?a8を膨張(膨出)・収縮させることができる一方、エアバッグa1?a8を膨張状態(膨出状態)に保持することもできる。」の各記載によれば、摘記事項甲1aの「使用者の身体を両側からマッサージ又は固定可能なエアバッグ」は、より具体的には、給排気により、エアバッグを膨出・収縮させ、または、膨出状態に保持させて「マッサージ又は固定」を行うものといえる。 (D)摘記事項甲1aの「【請求項9】 前記エアバッグの膨出と前記施療手段のうち少なくとも1つの作動とを同時に行う」、「【請求項10】 前記施療手段は、エアバッグ又は揉み玉からなることを特徴とする請求項5?9のいずれか1項に記載のマッサージ機。」の各記載から、当該「マッサージ機」は、エアバッグの膨出と揉み玉の作動とを同時に行うものである。 また、摘記事項甲1cの「前記エアバッグは、単に身体をマッサージするのみならず、膨出させたときに身体を体側方向から挟んで固定することもできる。・・・エアバッグを配設する側壁部を少なくとも使用者の上腕側方に位置させておけば、上半身を確実に固定することができると共に、マッサージを行う上に置いても、肩の重要なマッサージ部位となる肩ぐうをマッサージすることができる。」の記載を併せみれば、エアバッグの膨出により、身体へのマッサージ又は固定が行われるところ、そのエアバッグの膨出によるマッサージ又は固定の具体的な対象には、上腕側方及び肩ぐう周辺の肩領域が含まれるものといえる。 さらに、摘記事項甲1fの「前記ステップS71の処理で、揉み玉7,8を使用者Mの肩部や腰部に対向する高さ位置に移動させてマッサージを行えば、肩部や腰部に対しても背中部と同様に効果的なマッサージを行うことができる。」の記載から、摘記事項甲1aの「マッサージ機」は、揉み玉の作動による肩部に対するマッサージを行う「マッサージ機」をも包含するものといえる。 以上によれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「背もたれ部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を設け、各側壁部の内側面に使用者の身体を両側からマッサージ又は固定可能なエアバッグを配設したマッサージ機において、 前記マッサージ機は、使用者が着座する座部と、背もたれ部の中央部に左右の揉み玉を備えたマッサージユニットとを有し、 給排気により、前記エアバッグを膨出・収縮させ、または、膨出状態に保持させて、使用者の身体を両側からマッサージ又は固定可能であり、 前記エアバッグの膨出による上腕側方及び肩ぐう周辺の肩領域へのマッサージ又は固定と揉み玉の作動による肩部に対するマッサージとを同時に行うマッサージ機。」 2 甲第2号証 本件特許の遡及出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には図面と共に次の事項が記載されている。 甲2a:「【特許請求の範囲】 【請求項1】 被施療者の左右の下腿を夫々支持すべく、左右に並設された2つの支持面と、該2つの支持面の間に前記支持面より前方へ突出するように設けられ、被施療者の脹脛内側部分を支持する支持突起とを有する支持部と、 空気の給排により膨張収縮する空気袋を有し、該空気袋が収縮しているときには前記支持面と略平坦面を形成し、前記空気袋が膨張しているときには被施療者の下腿の臑の外側部分を略後方へ向けて押圧する施療部と を具備する脚載置台を備える椅子型マッサージ機。 【請求項2】 前記支持突起は、下方へ向かうに従って幅が大きくなるように構成されている請求項1に記載の椅子型マッサージ機。 【請求項3】 前記施療部は、被施療者の左右の下腿に夫々対応させて、前記支持部の両側端部に夫々設けられている請求項1又は2に記載の椅子型マッサージ機。 【請求項4】 前記支持部は、夫々の前記支持面より外側の部分に前記支持面と略平行な取付面を有しており、 前記施療部は、 一端が蛇腹状に展開することが可能であり、他端が展開しないように構成されていて、略扁平な状態から給気されたときに扇状に膨張すべくなしてあり、前記他端を前記支持面に近接させ、前記一端を前記支持面から離反させて前記取付面に取り付けられた後側空気袋と、 該後側空気袋の前側に配され、前記支持部の前記支持面と前記後側空気袋の取付箇所との間の部分に、略上下方向へ延びた枢軸によって枢着されている受板と、 一端が蛇腹状に展開することが可能であり、他端が展開しないように構成されていて、略扁平な状態から給気されたときに扇状に膨張すべくなしてあり、前記他端を前記枢軸に近接させ、前記一端を前記枢軸から離反させて前記受板の前側に配された前側空気袋と を有する請求項3に記載の椅子型マッサージ機。 ・・・」 甲2b:「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、被施療者の身体を施療する椅子型マッサージ機に関し、特に、被施療者の下腿を支持する脚載置台を備える椅子型マッサージ機に関する。」 甲2c:「【0051】 更に、被施療者の脹脛部分を支持面34に載置した状態で、後側空気袋36及び前側空気袋38を膨張させたときには、後側空気袋36が扇状に膨張することによって、左右の受板37が被施療者の下腿の外側部分と略対向するようにヒンジ40によって前方へ回動し、前側空気袋38が扇状に膨張することによって、左側の前側空気袋38の前面たる押圧面が右後方へ、右側の前側空気袋38の押圧面が左後方へ夫々回動することとなり、これによって三里、豊隆等の経穴が存在する臑の外側部分が内側後方へ向けて押圧される。従って、被施療者の血行促進、疲労回復、リラックス、各種内臓の機能調整等の効果を得ることが期待できる。」 以上によれば、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 「被施療者の左右の下腿を夫々支持すべく、左右に並設された2つの支持面と、該2つの支持面の間に前記支持面より前方へ突出するように設けられ、被施療者の脹脛内側部分を支持する支持突起とを有する支持部と、 空気の給排により膨張収縮する空気袋を有し、該空気袋が収縮しているときには前記支持面と略平坦面を形成し、前記空気袋が膨張しているときには被施療者の下腿の臑の外側部分を略後方へ向けて押圧する施療部と を具備する脚載置台を備える椅子型マッサージ機であって、 前記施療部は、被施療者の左右の下腿に夫々対応させて、前記支持部の両側端部に夫々設けられ、 前記支持部は、夫々の前記支持面より外側の部分に前記支持面と略平行な取付面を有しており、 さらに、前記施療部は、 一端が蛇腹状に展開することが可能であり、他端が展開しないように構成されていて、略扁平な状態から給気されたときに扇状に膨張すべくなしてあり、前記他端を前記支持面に近接させ、前記一端を前記支持面から離反させて前記取付面に取り付けられた後側空気袋と、 該後側空気袋の前側に配され、前記支持部の前記支持面と前記後側空気袋の取付箇所との間の部分に、略上下方向へ延びた枢軸によって枢着されている受板と、 一端が蛇腹状に展開することが可能であり、他端が展開しないように構成されていて、略扁平な状態から給気されたときに扇状に膨張すべくなしてあり、前記他端を前記枢軸に近接させ、前記一端を前記枢軸から離反させて前記受板の前側に配された前側空気袋と を有し、 被施療者の脹脛部分を支持面に載置した状態で、後側空気袋及び前側空気袋を膨張させたときには、後側空気袋が扇状に膨張することによって、左右の受板が被施療者の下腿の外側部分と略対向するようにヒンジによって前方へ回動し、前側空気袋が扇状に膨張することによって、左側の前側空気袋の前面たる押圧面が右後方へ、右側の前側空気袋の押圧面が左後方へ夫々回動することとなり、これによって三里、豊隆等の経穴が存在する臑の外側部分が内側後方へ向けて押圧される、椅子型マッサージ機。」 3 甲第3号証 本件特許の遡及出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には図面と共に次の事項が記載されている。 甲3a:「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、使用者の下腿部を空気袋の膨脹・収縮によりマッサージするマッサージ機に関する。」 甲3b:「【0002】 【従来の技術】従来、使用者の各下腿部をマッサージするマッサージ機として、中央壁と、この中央壁の左右にそれぞれ設けられた外側壁とから一対の凹溝を形成してなる脚載置台を備え、これらの各凹溝の内側面にそれぞれ固定した空気袋の膨縮によって、各凹溝に載置した各下腿部を圧迫又は弛緩してマッサージするものがある。 【0003】これらのうち、足三里(図14の黒丸で示す箇所)等の、下腿部のうち身体の前方寄りをマッサージするためのマッサージ機としては、前記凹溝を単独で有する一対の略U字成型品を回動可能に連結したものや、前記外側壁を傾斜運動させるものがある。これらは、略U字成型品や外側壁を、機器の中央寄りに傾けて、凹溝を形成する外側面部分が各下腿部の側部前方を覆うように動作する。そして、凹溝の外側面に固定された空気袋によって、各下腿部の前方寄りのつぼを押圧するものである。 【0004】各下腿部の前方寄りにある足三里(図14の黒丸で示す箇所)のつぼは、万病に効くという効能が知られており、略U字成型品が回動しないものや、前記外側壁が傾斜運動しないものに比べ、これらのマッサージ機は、足三里のつぼを効果的に刺激してマッサージ効果を飛躍的に向上させることができる。」 甲3c:「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記下腿部の前方寄りをマッサージするためのマッサージ機においては、略U字成形品または外側壁自体が傾斜運動するものであるため、これらの動作に時間がかかり、また使用に手間がかかり、また構造が複雑になるという不具合がある。ひいては、使用の簡便性、耐久性や価格的な問題を有する。 【0006】 【課題を解決するための手段】そこで、この発明は、このような点を解決すべくなされたものであって、前記外側壁を固定構造としつつ、外側壁の内側に、傾斜運動しうる簡易な構造の内側壁4を設けることにより、下腿部の前方寄りのマッサージを、極めて簡易な構造で、かつ簡便な使用によって行うことを主たる目的としている。 【0007】すなわち、この発明のマッサージ機は、中央壁1と、この中央壁1の左右にそれぞれ設けられ中央壁1と共に一対の凹溝を形成する外側壁2と、前記各凹溝の内部に設けられ使用者の各下腿部をその膨縮により圧迫及び弛緩しうる第一空気袋3と、この第一空気袋3へ空気を給排気して膨縮させる空気給排気機構と、を足載置台Cに有するマッサージ機であって、さらに、その下方(内側壁4の下方)を支点としてその上端(内側壁4の上端)が凹溝の中央寄りに可動しうる内側壁4を、前記外側壁2の内側面2aに沿って、第一空気袋3の外側に接するように、各凹溝の内部に設けたことを特徴としている。 【0008】このようなものであれば、前記外側壁2が固定され傾斜運動しない構造であっても、傾斜運動した内側壁4に接する第一空気袋3が膨縮することで、下腿部の前方寄りのつぼを押圧することができる。また、内側壁4が、使用前の状態(図2及び図6の状態)で外側壁2に沿って設けてあるので、下腿部を容易に載置し或いはその位置を容易に調整することができる。」 以上のうち、特に、摘記事項甲3bの記載に着目すると、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明A」という。)が記載されている。 「使用者の各下腿部をマッサージするマッサージ機であって、 中央壁と、この中央壁の左右にそれぞれ設けられた外側壁とから一対の凹溝を形成してなる脚載置台を備え、これらの各凹溝の内側面にそれぞれ固定した空気袋の膨縮によって、各凹溝に載置した各下腿部を圧迫又は弛緩してマッサージし、 足三里等の、下腿部のうち身体の前方寄りをマッサージするため、前記外側壁を傾斜運動させ、凹溝の外側面に固定された空気袋によって、各下腿部の前方寄りのつぼを押圧する、マッサージ機。」 また、摘記事項甲3a?cの記載を総合すれば、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明B」という。)が記載されている。 「使用者の下腿部を空気袋の膨脹・収縮によりマッサージするマッサージ機であって、 中央壁1と、この中央壁1の左右にそれぞれ設けられ中央壁1と共に一対の凹溝を形成する外側壁2と、前記各凹溝の内部に設けられ使用者の各下腿部をその膨縮により圧迫及び弛緩しうる第一空気袋3と、この第一空気袋3へ空気を給排気して膨縮させる空気給排気機構と、を足載置台Cに有し、 さらに、その下方を支点としてその上端が凹溝の中央寄りに可動しうる内側壁4を、前記外側壁2の内側面2aに沿って、第一空気袋3の外側に接するように、各凹溝の内部に設け、 前記外側壁2が固定され傾斜運動しない構造であっても、傾斜運動した内側壁4に接する第一空気袋3が膨縮することで、下腿部の前方寄りのつぼを押圧することができる、マッサージ機。」 4 甲第4号証 本件特許の遡及出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には図面と共に次の事項が記載されている。 甲4a:「【特許請求の範囲】 【請求項1】 被施療者が腰掛ける座部の一側面に設けられた背凭れ部と、背凭れ部に隣接する座部両側に設けられた肘掛部と、肘掛部の内側面に沿って設けられ、膨張・収縮するエアバッグから構成される太腿マッサージユニットとを具え、該太腿マッサージユニットは、その下端部がマッサージ機本体側に支持され、エアバックの膨張により、下端部を中心にして座部側へせり出すようになっていることを特徴とする椅子式マッサージ機。 【請求項2】 前記エアバックは、肘掛部側と座部側の少なくとも2重になっていることを特徴とする請求項1に記載の椅子式マッサージ機。 【請求項3】 前記各エアバックのうち少なくとも2つは互いに連通していることを特徴とする請求項2に記載の椅子式マッサージ機。 【請求項4】 前記各エアバックのうち一つは他のエアバックとは独立していることを特徴とする請求項2に記載の椅子式マッサージ機。」 甲4b:「【技術分野】 【0001】 本発明は、椅子式マッサージ機に関するものであり、具体的には、被施療者の太腿を効果的にマッサージすることができる椅子式マッサージ機に関する。」 甲4c:「【0010】 太腿マッサージユニット6は、肘掛部4の内側に設けられ、座部2側へ回動自在に支持された一対の支持アーム7と、支持アーム7と肘掛部4との間に配置された第1エアバッグ8と、第1エアバッグ8に空気を供給する第1空気供給路9と、支持アーム7の反肘掛部側の面に配置された施療指10とから構成されている(図1及び図2参照)。」 甲4d「【0013】 支持アーム7の反肘掛部4側の面には施療指10が配置されているため、支持アーム7が座部2側へ回動してせり出すことにより、図2に示すように施療指10は被施療者1の太腿19の上側部(図2から明らかなように、側面の中央からやや上方のこと)に当接し押圧する。この状態で第1エアバッグ8の膨張と収縮を繰り返すことにより、太腿19の上側に存在する多数のつぼを施療指10により刺激することができるため、太腿19のマッサージ効果を向上させることができる。」 以上によれば、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。 「被施療者が腰掛ける座部の一側面に設けられた背凭れ部と、背凭れ部に隣接する座部両側に設けられた肘掛部と、肘掛部の内側面に沿って設けられ、膨張・収縮するエアバッグから構成される太腿マッサージユニットとを具え、該太腿マッサージユニットは、その下端部がマッサージ機本体側に支持され、エアバックの膨張により、下端部を中心にして座部側へせり出すようになっている椅子式マッサージ機であって、 太腿マッサージユニットは、肘掛部の内側に設けられ、座部側へ回動自在に支持された一対の支持アームと、支持アームと肘掛部との間に配置された第1エアバッグと、第1エアバッグに空気を供給する第1空気供給路と、支持アームの反肘掛部側の面に配置された施療指とから構成され、 支持アームが座部側へ回動してせり出すことにより、施療指は被施療者の太腿の上側部に当接し押圧し、この状態で第1エアバッグの膨張と収縮を繰り返すことにより、太腿の上側に存在する多数のつぼを施療指により刺激することができる、椅子式マッサージ機。」 第5 当審の判断 1 本件発明1について 1-1 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「使用者」、「マッサージ機」は、文言の意味、機能等からみて本件発明1の「施療者」、「施療機」にそれぞれ相当するところ、甲1発明の「使用者が着座する座部」に使用者の臀部等が当接することは明らかであるから、甲1発明の「座部」は、本件発明1の「施療者の臀部または大腿部が当接する座部」に相当する。 (イ)甲1発明の「マッサージ機」は、「背もたれ部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を設け・・・たマッサージ機」であるから、「背もたれ部」を有するものといえる。そして、「背もたれ部」に使用者の背中が当接することは明らかであるから、甲1発明の「背もたれ部」は、本件発明1の「人体背部が当接する背当て部」に相当する。 (ウ)上記(イ)の相当関係を踏まえると、甲1発明の「左右の揉み玉」は、文言の意味、機能又は構造等からみて本件発明1の「左右一対の施療子」に相当し、以下同様に、「マッサージユニット」は「施療子施療機構」に、「側壁部」は「側壁部」に、「エアバッグ」は「膨縮袋」に、それぞれ相当する。 (エ)甲1発明の「エアバッグ」に対する「給排気」が、「エア」、即ち空気の「給排気」であることは明らかであるから、甲1発明の「給排気により、前記エアバッグを膨出・収縮させ、または、膨出状態に保持させて、使用者の身体を両側からマッサージ又は固定可能」は、本件発明1の「空気の給排気により各膨縮袋を膨縮または膨張保持させて施療者の身体の左右両側を施療または保持する事ができる」に相当する。 (オ)上記(ア)?(エ)の相当関係からみて、甲1発明の「背もたれ部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を設け、各側壁部の内側面に使用者の身体を両側からマッサージ又は固定可能なエアバッグを配設したマッサージ機において、」「前記マッサージ機は、使用者が着座する座部と、背もたれ部の中央部に左右の揉み玉を備えたマッサージユニットとを有」する「マッサージ機」は、「施療者の臀部または大腿部が当接する座部と、人体背部が当接する背当て部と、該背当て部の中央部に左右一対の施療子を備えた施療子施療機構とを有し、前記背当て部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を夫々備えると共に各側壁部に膨縮袋を設け、空気の給排気により各膨縮袋を膨縮または膨張保持させて施療者の身体の左右両側を施療または保持する事ができるようにした施療機」である点で、本件発明1と一致する。 (カ)甲1発明における「肩ぐう周辺の肩領域」には、「肩ぐう」というつぼの所在位置からみて、肩の側面部分が含まれるといえることから、甲1発明の「各側壁部の内側面に」「配設した」「エアバッグの膨出による上腕側方及び肩ぐう周辺の肩領域へのマッサージ又は固定」は、本件発明1の「各側壁部の内側面に設けた膨縮袋による上腕及び肩部の側面への施療または保持」に相当する。 また、甲1発明の「揉み玉」は、「背もたれ部の中央部に左右の揉み玉を備えたマッサージユニット」の一部であるから、使用者に対し背中側から作用する器具といえるので、甲1発明の「揉み玉の作動による肩部に対するマッサージ」は、本件発明1の「施療子による背部からの肩部周辺施療」に相当する。 そうすると、甲1発明は、「各側壁部の内側面に設けた膨縮袋による上腕及び肩部の側面への施療または保持と前記施療子による背部からの肩部周辺施療とを行う」点で、本件発明1と一致する。 以上によれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 (一致点) 施療者の臀部または大腿部が当接する座部と、人体背部が当接する背当て部と、該背当て部の中央部に左右一対の施療子を備えた施療子施療機構とを有し、前記背当て部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を夫々備えると共に各側壁部に膨縮袋を設け、空気の給排気により各膨縮袋を膨縮または膨張保持させて施療者の身体の左右両側を施療または保持する事ができるようにした施療機において、 前記各側壁部の内側面に設けた膨縮袋による上腕及び肩部の側面への施療または保持と前記施療子による背部からの肩部周辺施療とを行う施療機。 (相違点1) 本件発明1では、「各側壁部の基部には、前記各側壁部を幅方向において回動するように夫々側壁可動部を設けて、各側壁部が前記背当て部の幅方向において回動」するのに対し、甲1発明では、各側壁部が回動しない点。 1-2 判断 上記相違点1について検討する。 甲第2号証には前記甲2発明が、甲第3号証には前記甲3発明A及び甲3発明Bが、甲第4号証には前記甲4発明が記載されているところ、甲2発明、甲3発明A及び甲3発明Bは、人体の下腿を施療対象とするマッサージ機であって、特に、下腿の三里(足三里)、豊隆等のつぼを押圧しようとするものであり、また、甲4発明は、人体の太腿、即ち大腿を施療対象とするマッサージ機であって、特に、大腿の上側に存在するつぼを刺激しようとするものである。 他方、甲1発明は、人体の上腕及び肩領域を施療対象とするエアバッグを備えたマッサージ機であって、特に、肩関節の肩ぐうのつぼをマッサージできるものである。 このように、甲1発明と甲2?4発明とでは、施療の対象となる人体の部位についても、また、押圧すべきつぼの種類についても何ら共通するところはなく、甲1発明に対し、甲2?4発明のいずれかを適用すべき動機付けが見当たらないのであるから、甲1?4発明に基づいて、当業者が相違点1における本件発明1に係る事項を容易に想到できたとはいえない。 この「適用」に関し、請求人は審判請求書において、「甲1発明の課題を更に積極的に解決するために甲2発明に記載された技術事項の適用を試みることは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。」(第45頁)、「当業者は、甲1発明の回動しない側壁部が、中央寄りに回動する側壁部に対して、身体の前方寄りのつぼを効果的に刺激するマッサージを行う点において劣ることを認識し、甲1発明の側壁部を中央寄りに回動させるという甲3記載の従来技術の技術事項の適用を当然試みることとなる。」(第60頁)、「当業者は、甲1発明の回動しない側壁部が、身体の前方寄りのつぼを効果的に刺激するマッサージを行う点において改良の余地があることを認識し、甲1発明に甲3発明の技術事項の適用を当然試みることとなる。」(第65頁)、「甲1発明のマッサージ機で被施療者の肩、上腕の上側部のマッサージをより効果的に行うにあたり、基端部を中心にして被施療者側へせり出すようにする手段として、甲1発明に甲4発明の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。」(第74頁)などの主張とともに、甲1発明に、甲第2?4号証のいずれかに記載された発明を適用することにより、上記相違点1における本件発明1に係る事項を当業者が容易に想到できる旨の主張をし、さらに、口頭審理陳述要領書では、マッサージ機の分野における当業者が、特定の施療部位に対して適用可能な技術を、他の施療部位に適用することは当然のことである旨の主張とともに、「甲2発明?甲4発明の施療機構をそれらと異なる甲1発明の部位に適用することは当業者にとって容易である」と主張している(第4?5頁)。 しかしながら、 i)甲1発明は、「従来のマッサージ機においては、・・・肩甲骨の肩峰突起の前下方には肩ぐうという肩をマッサージする上で重要な肩関節のつぼが存在するが、背面方向からのマッサージでは、前記肩ぐうをマッサージすることができなかった。」(摘記事項甲1b)という課題に対し、「そこで、本発明のマッサージ機では、背もたれ部の左右両側に前方に向かって突出した側壁部を設け、各側壁部の内側面に使用者の身体を両側からマッサージ又は固定可能なエアバッグを配設した。」(摘記事項甲1b)結果、「エアバッグを配設する側壁部を少なくとも使用者の上腕側方に位置させておけば、上半身を確実に固定することができると共に、マッサージを行う上に置いても、肩の重要なマッサージ部位となる肩ぐうをマッサージすることができる。」(摘記事項甲1c)というものであるから、肩ぐうというつぼに対してマッサージを行えることは、甲1発明において既に達成済みの事項ということができる。 また、甲第1号証の他の記載をみても、甲1発明による肩ぐうに対するマッサージが、不十分で劣っているとか、効果的でないとか、改良すべき余地があるとかという記載はないのであるから、甲第1号証の記載に接した当業者が、甲1発明について、肩ぐうに対するマッサージにはなお問題点があり、さらに改善する必要があるなどと認識する余地はない。 ii)甲第2?3号証には、下腿をマッサージ対象とし、三里(足三里)、豊隆等のつぼの押圧に係る甲2発明、甲3発明A、甲3発明Bを、下腿とは形状も大きさも異なる肩のマッサージ及び肩ぐうのつぼのマッサージのためにも用いることができる点について記載も示唆もない。 同様に、甲第4号証には、大腿をマッサージ対象とし、大腿の上側に存在するつぼの押圧に係る甲4発明を、大腿とは形状も大きさも異なる肩のマッサージ及び肩ぐうのつぼのマッサージのためにも用いることができる点について記載も示唆もない。 また、下腿や大腿をマッサージ対象とするマッサージ機であれば、下腿や大腿とは形状も大きさも異なる肩のマッサージへと当然に適用できることが、当業者にとって本件特許の遡及出願日時点における技術常識であったとはいえないし、ましてや、三里(足三里)、豊隆、大腿の上側に存在するつぼを押圧するためのマッサージ機を肩領域のマッサージのために用いると、肩ぐうのつぼをより一層効果的に刺激できることが、同様に技術常識であったとはいえない。 むしろ、人体におけるつぼの多様性からみて、各つぼには、つぼ毎に適切な押圧強度、押圧角度、押圧範囲等があることを踏まえると、甲2?4発明を甲1発明に適用して、「側壁部」を単に回動させたとしても、その結果、肩ぐうのつぼへのマッサージ効果がかえって減弱するおそれがないとはいえない。 iii)そうすると、肩ぐうというつぼに対するマッサージについて何ら問題点を認識し得ない甲1発明に対し、肩ぐうというつぼに対するマッサージ効果の改善に関し何らの記載も示唆もない甲第2?4号証に記載の発明を適用すべき動機付けは、やはり見当たらないのであるから、上記相違点1における本件発明1に係る事項は、甲1発明及び甲第2?4号証のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたとする請求人の上記主張は採用できない。 1-3 小括 以上によれば、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、請求人が主張する無効理由1によっては無効とすることはできない。 2 本件発明2について 2-1 対比 本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は、上記「一致点」で一致し、上記「相違点1」に加え、次の点で相違する。 (相違点2) 本件発明2では、「左右の側壁部に設けた膨縮袋は、前記背当て部の幅方向に回動する事により、施療者の前方側から膨張する」のに対し、甲1発明では、膨縮袋についてこのような特定のない点。 2-2 判断 請求人は、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると主張するが、相違点1については、上記「1-2 判断」で検討したとおりである。 2-3 小括 よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 したがって、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、請求人が主張する無効理由1によっては無効とすることはできない。 3 本件発明3について 3-1 対比 本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、上記「一致点」で一致し、上記「相違点1」に加え、次の点で相違する。 (相違点3) 本件発明3では、「左右の側壁部は、前記背当て部の長さ方向に沿って上下に移動する」のに対し、甲1発明では、側壁部についてこのような特定のない点。 3-2 判断 請求人は、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると主張するが、相違点1については、上記「1-2 判断」で検討したとおりである。 3-3 小括 よって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 したがって、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、請求人が主張する無効理由1によっては無効とすることはできない。 4 本件発明4について 4-1 対比 本件発明4と甲1発明とを対比すると、両者は、上記「一致点」で一致し、上記「相違点1」に加え、次の点で相違する。 (相違点4) 本件発明4では、「左右の側壁部の移動は手動で行われ、当該左右の側壁部は、施療者が所望する位置で係止する」のに対し、甲1発明では、側壁部についてこのような特定のない点。 4-2 判断 請求人は、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?3号証のいずれかに記載された発明に基づいて、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明、甲第2?3号証のいずれかに記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであると主張するが、相違点1については、上記「1-2 判断」で検討したとおりである。 4-3 小括 よって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 したがって、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、請求人が主張する無効理由2A?2Cによっては無効とすることはできない。 5 本件発明5?6について 本件発明5?6は、本件発明4の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明であるところ、請求人は、本件発明5?6において付加された発明特定事項のうち、「左右の側壁部の内側面には夫々左右方向に重合した膨縮袋を上下に並列状態に埋設している」ことは、甲第6?8号証のいずれかに記載されているか、甲第6?8号証に示されるような周知技術である旨の主張をしている。 仮に、本件発明5?6において付加された上記の発明特定事項が甲第6?8号証に開示された事項又は周知の技術であったとしても、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項については、甲第6?8号証に何らの記載がない。 そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項は、甲第1?4号証に記載された発明に加え、甲第6?8号証に記載された事項に基づいても、当業者が容易に想到できたとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5?6は、甲第1?4号証に記載された発明及び甲第6?8号証に記載された発明ないし周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 したがって、本件発明5?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、請求人が主張する無効理由3A?4Cによっては無効とすることはできない。 第6 むすび 以上のとおり、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1?6に係る特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-06-22 |
結審通知日 | 2018-06-26 |
審決日 | 2018-07-09 |
出願番号 | 特願2011-63155(P2011-63155) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(A61H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山口 賢一 |
特許庁審判長 |
内藤 真徳 |
特許庁審判官 |
関谷 一夫 林 茂樹 |
登録日 | 2013-02-15 |
登録番号 | 特許第5200131号(P5200131) |
発明の名称 | 施療機 |
代理人 | 辻本 良知 |
代理人 | 丸山 英之 |
代理人 | 橋本 敬之 |
代理人 | 辻本 希世士 |
代理人 | 特許業務法人R&C |