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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1350275 |
審判番号 | 無効2017-800099 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2017-07-25 |
確定日 | 2019-04-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5643872号発明「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第5643872号に係る出願(特願2013-93612号)は、平成11年5月6日を出願日とする特願平11-125903号の一部を平成19年6月11日に新たな特許出願(特願2007-154216号)とし、その一部を平成23年1月18日に新たな特許出願(特願2011-8226号)とし、その一部を平成25年4月26日に新たな特許出願としたものであって、平成26年11月7日にその特許権の設定登録がされたものである。 これに対し、請求人から、本件特許の無効審判が請求され、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 平成29年 7月25日 審判請求書、上申書(請求人) 平成29年10月20日 審判事件答弁書 平成29年11月20日 審理事項通知書 平成30年 1月23日 口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成30年 1月30日差出 口頭審理陳述要領書(請求人) 平成30年 2月 6日 口頭審理 平成30年 2月14日 上申書(請求人)(以下、「上申書1」という。) 平成30年 2月14日差出 上申書(2)(請求人)(以下「上申書2」という。) 平成30年 4月 6日 上申書(請求人) 第2 本件発明 本件特許第5643872号の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって、 水及び増粘剤を含む粘性組成物と、 炭酸塩及び酸を含む、複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤と、 を含み、 前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が、前記粘性組成物と、前記複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤とを混合することにより得られ、前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物中の前記増粘剤の含有量が1?15質量%である、 キット。 【請求項2】 前記複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤が、酸として、クエン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、及びリン酸ニ水素カリウムからなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1に記載のキット。 【請求項3】 前記粘性組成物が、増粘剤として、天然高分子、半合成高分子、及び合成高分子からなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載のキット。 【請求項4】 前記粘性組成物が、増粘剤として、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリビニルアルコールからなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1?3のいずれかに記載のキット。」 第3 請求人の主張及び請求人が提出した証拠方法 1 請求人の主張の概要 請求人は、「特許第5643872号発明の特許請求の範囲の請求項1、2、3、4に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」(請求の趣旨)として、証拠方法として後記2の甲第1?8号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。 「本件特許発明は、甲1号証に記載の発明に公知技術を適用するとともに設計事項といえる工夫を施すことにより容易に想到できるものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。」 2 証拠方法 甲1:特開平5-229933号公報 甲2:特開平6-179614号公報 甲3:特開昭63-310807号公報 甲4:特公昭63-47684号公報 甲5:特開昭59-141512号公報 甲6:特開平4-217609号公報 甲7:長倉三郎他編、「岩波 理化学辞典 第5版」、株式会社岩波書店、平成10年2月20日、p.314 甲8:大木道則他編、「化学辞典 第1版」、株式会社東京化学同人、平成6年10月1日、p.335 第4 被請求人の主張及び被請求人が提出した証拠方法 1 被請求人の主張の概要 被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」(答弁の趣旨)として、証拠方法として後記2の乙第1?5号証(枝番を含む。以下、「乙1の1」等という。)を提出し、次のように主張している。 「本件特許発明1が甲1発明に甲2技術事項を適用することにより容易に想到できた発明であるとはいえず、本件特許発明1が進歩性を有することは明らかである。 また、本件特許発明2乃至4は、本件特許発明1の従属する発明であるから、本件特許発明1が進歩性を有する以上、本件特許発明2乃至4も同様に進歩性を有する。」 2 証拠方法 乙1の1:大阪地裁平成27年(ワ)第8621号補償金請求事件(以下、「本件関連侵害訴訟」という。)の平成28年6月20日付け原告(本件特許の特許権者)第1準備書面 乙1の2:本件関連侵害訴訟の平成28年8月5日付け原告第2準備書面 乙1の3:本件関連侵害訴訟の平成28年10月24日付け原告第3準備書面 乙1の4:本件関連侵害訴訟の平成29年2月17日付け原告第4準備書面 乙1の5:本件関連侵害訴訟の平成29年3月30日付け原告第5準備書面 乙1の6:本件関連侵害訴訟の平成29年5月8日付け原告第6準備書面 乙2:新村出編、「広辞苑 第六版」、株式会社岩波書店、平成20年1月11日、p.2438 乙3の1:本件関連侵害訴訟の第5準備書面とともに裁判所に提出された実験成績証明書(1) 乙3の2:同実験成績証明書(2) 乙3の3:同実験成績証明書(3) 乙4の1:特許第4912492号公報 乙4の2:特許第4659980号(以下、「別件特許」という。)公報 乙5の1:別件特許の審査過程で提出された平成16年4月26日付け意見書 乙5の2:別件特許の審査過程で提出された平成16年4月27日付け手続補足書 第5 当合議体の判断 当審は、請求人が主張する無効理由には、理由がないと判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 主な甲号証の記載事項 (1) 本件特許の出願(遡及日:平成11年5月6日)前の平成5年9月7日に頒布された刊行物である甲1には、次の事項が記載されている。 (甲1a) 「【請求項1】 炭酸水素ナトリウムを含む第1剤と、前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したときに気泡を発生するクエン酸、酒石酸、乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又は2以上の成分を含む第2剤と、前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色のものからなり、混合により色調を変え、使用可能な状態になったことを知らせるための2色の着色剤A、Bと、前記第1剤又は第2剤の一方又は双方に含まれた、化粧料としての有効成分とからなることを特徴とする発泡性粉末化粧料。」 (甲1b) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は発泡性の粉末化粧料に関するものである。」 (甲1c) 「【0002】 【従来の技術】例えば美顔用のパックに使用される化粧料には練状物やクリーム乃至泡状のものがあり、これらは顔に塗布或いは付着させて成分の浸透を図り皮膚をととのえる目的で使用され、使用の際に洗顔とマッサージを行なうのが普通である。」 (甲1d) 「【0005】しかしながらマッサージなしで済まされるこの種の化粧料は現在のところ開示されていない。そこで本発明者は発泡作用によりマッサージ効果が得られる化粧料を開発し、既に出願した。その化粧料は予期した通りのマッサージ効果を発揮するが、反応が最適かどうかが分かりにくいという指摘があった。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明は前記の点に鑑みなされたもので、その課題とするところは発泡作用によりマッサージ効果を得る化粧料について、最高度に気泡が発生することを色によって判断できるようにすることである。またそれにより化粧料としての価値も高められる。 【0007】 【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため本発明の発泡性化粧料は、炭酸水素ナトリウムを含む第1剤と、前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したときに気泡を発生するクエン酸、酒石酸、乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又は2以上の成分を含む第2剤と、前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色のものからなり、混合により色調を変え、使用可能な状態になったことを知らせるための2色の着色剤A、Bと、前記第1剤又は第2剤の一方又は双方に含まれた、化粧料としての有効成分とからなる組成を有する。本発明に係る化粧料はその組成からも明らかなように常態では粉状である。 【0008】第1剤は炭酸水素ナトリウムからなり、全量100重量部中の割合には15?35重量部が良い。第1剤と第2剤は水の存在下で発泡し、その反応は理論的には重量モル比で決まるが、実験により上記の範囲が最適であると認められたためである。 【0009】第2剤は水の存在下で第1剤と反応し、炭酸ガスを発生するクエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、乳酸の内いずれか1乃至2以上からなり、第1剤との重量モル比から組成比率は45?20重量部が良い。第2剤にクエン酸、アスコルビン酸、酒石酸或は乳酸を用いたときは化粧料は弱酸性を示す。酸、アルカリ度はどのようにも設定可能であるが、本発明に係る化粧料の場合PH4?8.5の範囲が良い。 【0010】本発明に係る化粧料では、2色の着色剤A、Bを第1剤、第2剤に夫々混合し、使用前、個有の色分けを行なうとともに使用時第1、第2両剤を混合し、一定の色調になったときに良く混合したことが判断できかつ、最適の反応が行なわれるようになる。」 (甲1e) 「【0013】さらに起泡助長剤を用い、気泡発生を助成することができる。この種の助長剤としては、脱脂粉乳、加水分解ゼラチン、アルギン酸ナトリウム等が用いられる。なお、粉末セッケンは、それ自体起泡剤としての効能をも有する。」 (甲1f) 「【0014】 【実施例】以下、表1、2を参照し、実施例について説明する。表1の実施例I、II、IIIはリンス又はパックとして使用される化粧料に関するもので次の組成を有する。 【0015】 【表1】 I.炭酸ガス発生剤である炭酸水素ナトリウム35重量部、起泡助長剤として脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、柔軟剤としてシリコン樹脂及びスクワラン、防腐剤としてメチルパラベンを混合し、それに着色剤としての黄酸化鉄を夫々適量混合して黄色の第1剤を調製する一方、第1剤との反応により炭酸ガスを発生させるために乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、起泡助長剤として加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部及び第1剤と同様に柔軟剤、防腐剤適量を混合し、さらにべんがらによって赤色に着色した第2剤を得て、パックとして使用される粉末状の化粧料を調製した。」 (甲1g) 「【0024】使用法 粉末パック場合 実施例Iのものを水に溶かして用いる。第1剤と第2剤が水の存在下で反応し、無数の炭酸ガス気泡を発生しつつ気泡が破裂することにより、皮膚に対しマッサージを行なうのと同等の作用を起こす。」 (2) 平成6年6月28日に頒布された甲2には、次の事項が記載されている。 (甲2a) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料。 (甲2b) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明はアルギン酸水溶性塩類およびこれと反応しうる二価以上の金属塩類を配合した使用性の良好な反応タイプのパック化粧料に関する。 【0002】 【従来の技術およびその課題】従来からパック化粧料には使用後に洗いおとすタイプおよび剥がすタイプの二つがある。通常洗いおとすタイプの基剤は、クリーム状で、皮膚に塗布し放置後、水またはぬるま湯で洗い落とされるものである。剥がすタイプの基剤は、ゼリー状またはペースト状であって皮膚に塗布し乾燥させて皮膜を形成させ、その後、手で剥がされるものである。ところで、剥がすタイプに属するものの一つにアルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とし、パック化粧料としたものが知られている(特開昭52-10426号公報、特開昭58-39608号公報)。このパック化粧料は、従来のように皮膚上での皮膜形成が、水分の蒸発・乾燥によるものとは異なり、配合物同士の反応によって水分を含んだまま行われるので肌に対する使用感が良く、従来のものより、乾燥時間が早いという特徴がある。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のアルギン酸塩類を含む粉末状のパック化粧料は、次のような問題点があった。 (1)水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすく、顔に塗布する際、均一な膜になりにくい。これは、アルギン酸水溶性塩類が一般に水に溶けにくいためである。 (2)顔に貼付し、その後剥がす際、きれいにはがれず、肌にパック残りが多い。 (3)冷たすぎるため、オールシーズンに対応しにくい。 (4)粉末状なので保湿剤の配合が困難であり、そのため皮膚にしっとり感が付与されにくい。 (5)反応タイプのため、保管時には水分透過の少ない外装とするなど、経時の保管に注意を必要とする。 本発明は、このような従来の課題を解決して、使用性が良好で、かつ経時的に安定な反応タイプのパック化粧料を提供することを目的とする。 【0004】 【課題を解決するための手段】本願発明者は、水とまざりにくい原因として、アルギン酸水溶性塩類の溶解性が挙げられることから、アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分けることにより、使用性が良好で、経時で安定なパック化粧料が得られることを見い出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料である。 【0005】本発明のパック化粧料は、洗い落とす面倒のない、剥がすタイプのものでありながら、乾燥時間が短く、しかも皮膚に適度な緊張感があり、剥がすとき肌に残りにくく、とりやすい特色を有するほか、使用性が良好で、経時的にも安定であるという特徴がある。本発明のパック化粧料にあっては、使用直前にゲル状パーツと粉末パーツを混合する。この際、ゲル状パーツに含まれるアルギン酸水溶性塩類(例えばアルギン酸ナトリウム)と、粉末パーツに含まれる二価以上の金属塩(例えば硫酸カルシウム)とが水の存在下で化学式1に示すような硬化反応を起こして皮膚形成能のあるアルギン酸金属塩(例えばアルギン酸カルシウム)となり、この結果、弾力性のある凝固体が与えられる。その時、遅延剤(例えばリン酸三ナトリウム)の働きにより化学式2に示すような遅延反応も同時に起こって上記硬化反応の急激な進行が阻止される。 【0006】 【化1】硬化反応:Na・nAlg+n/2CaSO4→n/2Na2SO4+Ca・n/2Alg」 2 甲1に記載された発明 (甲1f)によれば、甲1には実施例Iとして以下の発明が記載されているといえる。 「パックとして使用される化粧料であって、 炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤と、 乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤 の組合せ。」 また、(甲1a)、(甲1g)によれば、上記実施例Iは、使用時に第1剤と第2剤を混合して得られた組成物に水を加えることにより、炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸が反応して炭酸ガスを発生させるものであるといえる。そして、(甲1e)によれば、当該反応後の上記実施例Iでは気泡助長剤であるアルギン酸ナトリウム等の作用により、発生した炭酸ガスが気泡状となっているといえる。 そうすると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤と、 乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤 の組合せからなり、 前記第1剤と前記第2剤を混合して得られた組成物に水を加え、当該組成物中で、炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の炭酸ガスを含有する組成物からなるパック化粧料を得ることができるもの。」 3 本件特許発明1について (1) 本件特許発明1と甲1発明との対比 ア 甲1発明における「炭酸水素ナトリウム」、並びに、「乳酸」及び「アスコルビン酸」は、本件特許明細書に、 「【0065】 本発明に用いる炭酸塩としては、酸と反応して二酸化炭素を発生するものであれば特に限定されないが、好ましくは・・・炭酸水素ナトリウム・・・などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、セスキ炭酸塩、塩基性炭酸塩があげられこれらの1種または2種以上が用いられる。 【0066】 本発明に用いる酸としては、有機酸、無機酸のいずれでもよく、これらの1種または2種以上が用いられる。 【0067】 有機酸としては、・・・乳酸、・・・アスコルビン酸・・・などがあげられる。」 と記載されていることからみて、本件特許発明1における「炭酸塩」及び「酸」にそれぞれ相当する。 イ 甲1発明における「気泡状の炭酸ガス」は、本件特許発明1における「気泡状の二酸化炭素」に相当する。 ウ 甲1発明におけるアルギン酸ナトリウムは、本件特許明細書【0058】に「本発明で増粘剤に用いる半合成高分子の中のアルギン酸系高分子としてはアルギン酸ナトリウム・・・などがあげられる。」と記載されていることからみて、本件特許発明1における「増粘剤」に相当する。 エ 本件特許発明1はパック化粧料を得るための「キット」であるところ、「キット」なる語は「組立て模型などの部品一式」を意味する(要すれば、新村出編『広辞苑 第三版』、株式会社岩波書店、1983年、p.588等参照)。そして、甲1発明の「パック化粧料を得ることができるもの」も、水に溶かしてパック化粧料を得るための部品一式であるといえるから、甲1発明における「パック化粧料を得ることができるもの」は、本件特許発明1における「パック化粧料を得るためのキット」に相当する。 オ そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、 「気泡状の二酸化炭素を含有するパック化粧料を得るためのキットであって、炭酸塩、酸、及び、増粘剤を含む、キット」 の発明である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1>:本件特許発明1が、「水及び増粘剤を含む粘性組成物」と「炭酸塩及び酸を含む、複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」とを含み、「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が、前記粘性組成物と、前記複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤とを混合することにより得られ」るものであるのに対し、甲1発明は、 「炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤」と、「乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤」の組合せからなり、「前記第1剤と前記第2剤を混合して得られた組成物に水を加え、当該組成物中で、炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の炭酸ガスを含有する組成物からなるパック化粧料を得ることができるもの」である点 <相違点2>:パック化粧料について、本件特許発明1が「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなる」ものであるのに対し、甲1発明にはその旨明記されていない点 <相違点3>:経皮・経粘膜吸収用組成物中の増粘剤の含有量について、本件特許発明1は「1?15質量%」であるのに対し、甲1発明にはその旨特定されていない点 (2) <相違点1>についての判断 ア (甲1d)によれば、甲1発明が解決しようとする課題は、「発泡作用によりマッサージ効果を得る化粧料について、最高度に気泡が発生することを色によって判断できるようにすること」であり、甲1発明は当該課題を「炭酸水素ナトリウムを含む第1剤と、前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したときに気泡を発生するクエン酸、酒石酸、乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又は2以上の成分を含む第2剤と、前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色のものからなり、混合により色調を変え、使用可能な状態になったことを知らせるための2色の着色剤A、Bと、前記第1剤又は第2剤の一方又は双方に含まれた、化粧料としての有効成分とからなる組成を有する」、「常態では粉状である」化粧料とし、「2色の着色剤A、Bを第1剤、第2剤に夫々混合し、使用前、個有の色分けを行なうとともに使用時第1、第2両剤を混合し、一定の色調になったときに良く混合したことが判断できかつ、最適の反応が行なわれるようになる」ようにすることで解決するものであるといえるところ、当該課題解決手段は、第1剤と第2剤がいずれも粉末であって、混合しても水を加えるまでは反応が発生しないことを前提とするものであるといえる。 イ 他方、(甲2a)によれば、甲2には、「アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料。」(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されているといえる。そして、(甲2b)によれば、甲2記載事項は「アルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とし、パック化粧料としたもの」における「(1)水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすく、顔に塗布する際、均一な膜になりにくい。これは、アルギン酸水溶性塩類が一般に水に溶けにくいためである。(2)顔に貼付し、その後剥がす際、きれいにはがれず、肌にパック残りが多い。(3)冷たすぎるため、オールシーズンに対応しにくい。(4)粉末状なので保湿剤の配合が困難であり、そのため皮膚にしっとり感が付与されにくい。(5)反応タイプのため、保管時には水分透過の少ない外装とするなど、経時の保管に注意を必要とする。」という課題を「アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分ける」ことにより解決したものといえ、甲2記載事項は、ゲル状の第一剤と第二剤とを混ぜ合わせた時点で両剤に含まれる成分間の反応が始まるものであるといえる。また、(甲2b)より、当該化粧料は、アルギン酸水溶性塩類と二価以上の金属塩類とが「硬化反応を起こして・・・弾力性のある凝固体が与えられ」、「皮膚上で…皮膜形成」する「剥がすタイプのパック化粧料」であるといえる。 ウ 甲1発明と甲2記載事項は、いずれもアルギン酸塩を含むものである。しかしながら、上記2で説示したとおり甲1発明は、第1剤と第2剤を混合して得られた組成物に水を加えて、炭酸水素ナトリウムと乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の炭酸ガス(すなわち、二酸化炭素)を含有する組成物を得るものであって、「アルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とし、「硬化反応を起こして…皮膚上で…皮膜形成」する「剥がすタイプのパック化粧料」を得るものではないから、甲1発明は甲2記載事項とは同じ技術分野に属するものでもなければ、上記イで説示した甲2記載事項の課題と同様の課題を有するものともいえず、甲1発明に甲2記載事項を組み合わせる動機付けはないといえる。また、第1剤と第2剤がいずれも粉体であって、混合しても水を加えるまでは反応が発生しないことを前提とする甲1発明の課題解決手段と、第一剤がゲル状であって、第二剤とを混ぜ合わせた時点で両剤に含まれる成分間の反応が始まってしまう甲2記載事項とが両立しえないことは明らかであるから、甲1発明には甲2記載事項との組合せを阻害する事由が内在しているといえる。 エ 仮に、甲1発明を実施しようとする当業者が、甲2に記載された技術を採用しようとしたとしても、本件特許発明1を想到することは以下に述べる理由により困難であると認められる。 すなわち、上記2で説示したとおり、甲1発明は、アルギン酸ナトリウムを第1剤及び第2剤の組成中に含むものである。 そうすると、甲1発明を実施する際、甲2に記載されるような反応時のダマ形成問題を認識した当業者は、アルギン酸ナトリウムを含む「第1剤」、「第2剤」のいずれか一方又は両方に水を加え、十分に溶解させて粘性組成物としたものを、他方の剤と組み合わせてキット化することまでは想到しうるとしても、第1剤の構成中の酸を第2剤に移した上で複合化するとともに、第1剤にアルギン酸ナトリウムと水を加えて粘性組成物化するという2段階のプロセスを行う動機付けや、両剤からアルギン酸ナトリウムを抜き出して水に溶解し粘性組成物とするとともに、第1剤中の酸と第2剤中の炭酸塩を複合化するという2段階のプロセスを行う動機付けは存在しない。 あるいは、甲1発明におけるアルギン酸ナトリウムの添加方法が、実施例Iのように第1剤及び第2剤に含ませる手法に必ずしも限定されないと仮定しても、甲1発明は、最高度に気泡が発生することを色によって判断できるようにするという課題のもと、炭酸塩を含む第1剤と酸を含む第2剤に異なる色を付すことで、混合により色調を変え、使用可能な状態を知らせることでその解決を図ったものであるから((甲1a)、(甲1d))、そのように異色の二剤に分けた炭酸塩及び酸を、甲2の「粉末パーツ」のように一剤化して「複合粉末剤」等とすることは、甲1発明の目的に反する方向への変更であるといえ、そのような変更を当業者が容易に想到しうるとはいえない。 したがって、甲1発明に甲2に記載された技術を適用したとしても、水及びアルギン酸ナトリウムを含む粘性組成物と、炭酸塩及び酸を含む複合顆粒剤等とを含むキットは、当業者といえども容易に想到しうることとはいえない。 オ よって、甲1発明に対して甲2に記載された技術を適用する動機付けはなく、むしろ阻害要因が存在するうえ、仮に適用したとしても、「水及び増粘剤を含む粘性組成物」と「炭酸塩及び酸を含む複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」とを含むキットを容易に想到しうるとはいえないから、<相違点1> が想到容易であるとはいえない。 (3) 上記(2)で説示したとおり、<相違点1>が想到容易であるとはいえないから、<相違点2>、<相違点3>について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2記載事項から本件特許発明1を容易に想到しうるものとはいえない。 (4) 容易想到性についての請求人の主張 ア 請求人は、以下のように主張する。 甲1ではアルギン酸ナトリウムを添加するタイミング及び対象物は限定されていないため、甲1発明の認定に際しては、混合前に第1剤又は第2剤にアルギン酸ナトリウムを添加する場合のみならず、混合前に水に増粘剤を添加して粘性組成物とする場合も前提としている。(口頭審理陳述要領書の第1の1-2) 水に増粘剤を添加する場合には、「水及び増粘剤を含む粘性組成物」に到達することは可能である。(口頭審理陳述要領書の第2の4-1) イ しかしながら、甲1の記載が、第1剤又は第2剤にアルギン酸ナトリウムを添加する態様以外の可能性を否定するものではないとしても、甲1に記載されていない事項、すなわち、「混合前に水に増粘剤を添加して粘性組成物とする場合」までも「甲1発明の認定に際して・・・前提」とすることができると認めるに足る証拠がない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 ウ 請求人は、口頭審理陳述要領書、及び口頭審理後に提出した上申書及び上申書(2)とともに、参考書面1?30(これ以外に上記陳述要領書などの本文中に文献名を記載しただけのものもある)を提示して、2剤型の化粧料では第1剤と第2剤とをジェルと粉末の組み合わせとすることは技術常識である、アルギン酸ナトリウムがダマになりやすく、均一な膜になりにくいとの課題は技術常識である、アルギン酸ナトリウムは酸性で溶けにくいため塩基性水溶液とする、媒質の粘性が増大すると気泡の安定性が高まることは周知であり、アルギン酸はその粘性により発泡した泡の安定化に資することが技術常識であるから、甲1においてはアルギン酸ナトリウムの増粘剤としての用途の記載を省略したと解される、水溶液中で炭酸ガスを発生させる技術としては炭酸塩と酸を含む顆粒等を用いることが標準である、粉末を複合剤とすることは周知であるとともに利便性が向上することが知られているなど縷々主張する。 しかしながら、請求人の示した参考書面は証拠としてではなく参考資料として提出されたものであって(調書参照)、相違点1の上記判断に影響を与えるものではない。 (5) 小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明に公知技術(甲2記載事項)を適用することにより容易に想到できるものということはできない。 4 本件特許発明2?4について 請求項2?4の記載は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものである。そして、請求項1に係る本件特許発明1が甲1、2に記載された発明から想到容易であるといえないのは上述のとおりであるから、請求項2?4に係る本件特許発明2?4についても同様に、甲1、2に記載された発明から想到容易であるということはできない。 5 無効理由についてのまとめ 以上のとおり、本件特許発明1?4は、甲1発明と甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、それ以外の証拠(甲3?8)を参酌しても、本件特許発明1?4を想到容易と認めるべき理由は見いだせない。 したがって、本件特許発明1?4に係る特許は、請求人が主張する無効理由によって無効とすることはできない。 第6 むすび 以上のとおり、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明1?4についての特許は無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-04-24 |
結審通知日 | 2018-04-26 |
審決日 | 2018-05-08 |
出願番号 | 特願2013-93612(P2013-93612) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小堀 麻子 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
関 美祝 長谷川 茜 |
登録日 | 2014-11-07 |
登録番号 | 特許第5643872号(P5643872) |
発明の名称 | 二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物 |
代理人 | 伊藤 博昭 |
代理人 | 柴田 和彦 |
代理人 | 水谷 馨也 |
代理人 | 田中 順也 |
代理人 | 高橋 淳 |
代理人 | 山田 威一郎 |
代理人 | 迫田 恭子 |