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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1350481
審判番号 不服2017-14063  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-22 
確定日 2019-04-03 
事件の表示 特願2015-206895「抗血栓形成性中空糸膜およびフィルター」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日出願公開、特開2016- 52525〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010(平成22)年5月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009(平成21)年5月15日、(US)米国)を国際出願日とする特願2013-516412号の一部を平成26年3月14日に新たな特許出願とした特願2014-051179号の一部を平成27年2月4日に新たな特許出願とした特願2015-020185号の一部を平成27年10月21日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 9月 2日付け:拒絶理由通知書
平成29年 1月18日 :意見書の提出
平成29年 1月18日 :手続補正書の提出
平成29年 5月12日付け:拒絶査定
平成29年 9月22日 :手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出
平成29年 9月22日 :審判請求書の提出


第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)平成29年1月18日提出の手続補正書により補正された(以下、「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1ないし14は、以下のとおりである。
「【請求項1】
0.005%?10%(w/w)の表面修飾高分子と混合された基本ポリマーを含む血液チューブであって、ガンマカウントにより測定した場合、血液と接触したときに抗血栓形成性であり、該表面修飾高分子が、
式(VII):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
Oligoは、500?2,000ダルトンの理論分子量を有するポリプロピレンオキシドであり、
Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
FTはポリフルオロオルガノ基であり、
nは1?10の整数である]
により記載される、上記血液チューブ。」
「【請求項2】
前記基本ポリマーが、ポリ塩化ビニルである、請求項1に記載の血液チューブ。」
「【請求項3】
前記表面修飾高分子がVII-a:
【化1】

[式中、[CH(CH3)CH2O]n単位の分子量は500?2,000ダルトンである]
である、請求項1または2に記載の血液チューブ。」
「【請求項4】
前記血液チューブを通過する血液を投与される被験体での有害事象を、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の血液チューブと比較して減少させ、該血液チューブは前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の血液チューブと相違する、請求項1?3のいずれか1項に記載の血液チューブ。」
「【請求項5】
nが1?3の整数である、請求項1または2の血液チューブ。」
「【請求項6】
FTが、100?1,500ダルトンの理論分子量を有するポリフルオロアルキルである、請求項1または2の血液チューブ。」
「【請求項7】
FTが、CF3(CF2)rCH2CH2-(rは2?20である)である、請求項1または2の血液チューブ。」
「【請求項8】
FTが、CF3(CF2)s(CH2CH2O)χ-(χは1?10であり、sは1?20である)である、請求項1または2の血液チューブ。」
「【請求項9】
FTが、CHmF(3-m)(CF2)rCH2CH2-またはCHmF(3-m)(CF2)s(CH2CH2O)χ-(mが0、1、2、または3であり、χが1?10の整数であり、rが2?20の整数であり、sが1?20の整数である)である、請求項1または2の血液チューブ。」
「【請求項10】
FTが、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロ-1-デカノール、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロ-1-オクタノール、1H,1H,5H-ペルフルオロ-1-ペンタノール、または1H,1H,ペルフルオロ-1-ブタノール、またはそれらの混合物から形成される、請求項1または2の血液チューブ。」
「【請求項11】
FTが、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロ-1-オクタノールから形成される、請求項10の血液チューブ。」
「【請求項12】
FTが、(CF3)(CF2)5CH2CH2O-、(CF3)(CF2)7CH2CH2O-、(CF3)(CF2)5CH2CH2O-、CHF2(CF2)3CH2O-、または(CF3)(CF2)2CH2O-である、請求項1または2の血液チューブ。」
「【請求項13】
[CH(CH3)CH2O]n単位の分子量が1,000g/molである、請求項3の血液チューブ。」
「【請求項14】
腎機能障害に罹患した被験体の治療での使用のための請求項1?13のいずれか1項に記載の血液チューブであって、該使用が、該被験体に対して、血液透析、血液ろ過、血液濃縮、または血液透析ろ過より選択される手順を行なうステップを含む、上記血液チューブ。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)は、以下のとおりである。(下線は、補正箇所を示すために当審で付した。)

「【請求項1】
0.005%?10%(w/w)の表面修飾高分子と混合されたポリ塩化ビニルを含む血液チューブであって、ガンマカウントにより測定した場合、血液と接触したときに抗血栓形成性であり、該表面修飾高分子が、
式(VII):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
Oligoは、500?2,000ダルトンの理論分子量を有するポリプロピレンオキシドであり、
Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
FTはポリフルオロオルガノ基であり、
nは1?10の整数である]
により記載される、上記血液チューブ。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項2は、請求項1の記載を引用して記載されたものである。したがって、本件補正前の請求項2に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明として相違するところがないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項2を、独立形式に書き改めて記載したものでる。そうしてみると、本件補正は、本件補正前の請求項1を削除して、本件補正前の請求項2を本件補正後の請求項1にしたものであるから、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる、同法36条5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。
したがって、請求項1に係る本件補正は適法になされたものである。


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項2にかかる発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:米国特許第6127507号明細書
引用文献2:国際公開第2008/076345号


第4 引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。日本語訳及び下線は、当審で付与したものである。
(1)3欄20行ないし24行
「It is a further object of the present invention to provide polymer compositions of fluoroalkyl surface-modifiing macromolecules in admixture with a base polyurethane elastomer for use as medical implant devices having improved stability and acceptable blood compatibility.」
(改善された安定性と受容可能な血液適合性を有する医療インプラント・デバイスとして使用するために、ベースとなるポリウレタン・エラストマーと混合したフルオロアルキルの表面修飾高分子からなるポリマー組成物を提供することが、本発明のさらなる目的である。)
(2)3欄36行ないし46行
「Accordingly, in one aspect the invention provides a surface modifying macromolecule having a central portion and terminal groups, the central portion being a member selected from the group consisting of a soft central portion and a hard central portion, the central portion having a molecular weight of less than 5,000 and including a segmented oligomeric copolymer unit including at least one polar segment and at least one hydrophobic segment, and the terminal groups including α-ω terminal polyfluoro oligomeric groups. Preferably the oligomeric copolymer unit has a molecular weight of less than 5000, e.g. less than 2000 such as 200-1200.」
(それゆえ、一つの態様において、本発明は、中央部分と末端基を有する表面修飾高分子を提供する。中央部分は、ソフト中央部分とハード中央部分からなるグループより選択されたものである。中央部分は、分子量が5000未満であり、少なくとも一つの極性セグメント及び少なくとも一つの疎水性セグメントを含むセグメント化されたオリゴマー共重合体ユニットを含んでいる。末端基は、α-ωポリフルオロオリゴマー末端基を含んでいる。好ましくは、オリゴマー共重合体ユニットは分子量が5000未満、例えば、200ないし1200であるような2000未満である。)
(3)4欄6行ないし18行
「Examples of typical base polymers of use in admixture with aforesaid SMM according to the invention includes polyurethanes, polysulfones, polycarbonates, polyesters, polyethylene, polyproprylene, polystyrene, poly(acrylonitrile-butadienestyrene), polybutadiene, polyisoprene, styrenebutadiene-styrene block copolymers, styrene-isoprenestyrene block copolymers, poly-4-methylpentene, polyisobutylene,polymethyl-methacrylate, polyvinylacetate, polyacrylonitrile, polyvinyl chloride, polyethylene terephthalate, cellulose and its esters and derivatives Preferred segmented polymers include polyurethanes, polyester, polyethers, polyether-polyamides and polyamides.」
(本発明におけるSMMとの混合に用いる典型的な基本ポリマーの事例は、・・・(中略)・・・ポリ塩化ビニル・・・(中略)・・・を含む。好ましいセグメント化されたポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテル・ポリアラミド、ポリアラミドを含む。)
(4)4欄19行ないし25行
「The admixed compositions according to the invention may be used as a surface covering for an article, or, most preferably, where the composition comprises a base polymer of a type capable of being formed into a self-supporting structural body, film, or woven or knit as a fiber, as a surface or in whole or in part of the article, preferably, a biomedical device or component thereof.」
(本発明における混合された組成物は、物品を被覆する表面として用いられ、最も好ましくは、当該組成物が自らを支える構造体、フィルム、又は、編み又は織り物として形成され得るタイプの基本ポリマーから構成される場合において、物品の、好ましくは、生体医療デバイス又はその部品の、表面、全体又は一部として用いられる。)
(5)8欄14行ないし20行
「Examples and fabrication of products
The SMM's can be manipulated and handled for use with base polymers in the same manner as the polymers per se can be handled in the fabrication of article products. The SMM may be admixed with, for example, polyurethane base polymer 1) by compounding methods for subsequent extrusion or injection molding of articles;」
(事例と物品の製造
ポリマーそれ自体が物品の製造において取り扱われるのと同じやり方で、SMMは、基本ポリマーとともに用いられるよう、操作され、取り扱われる。SMMは、例えば、ポリウレタンの基本ポリマーと、以下の方法により混合される。1)それに続く押出成型または射出成型用に調合する方法による;)
(6)8欄50行ないし56行
「SMMs, thus, contain, preferably as α-ω terminal groups, fluoropolymeric segments comprising a sequential group of carbon atoms containing fluorine atoms and constituting an oligomeric chain. Preferred perfluorinated alcohols of use in the practice of the invention are those of the general formula CF3(CF2)nCH2CH2OH, having a linear alkyl chain, wherein n is 5-9, most preferably C8F17CH2CH2OH.」
(このように、SMMは、好ましくは、α-ω末端基として、フッ素原子を含む炭素原子の連続群からなり、そして鎖状オリゴマーを構成するフルオロポリマーのセグメントを有する。本発明の実施において使用するパーフルオロ・アルコールとしては、直鎖アルキルを有し、一般式がCF3(CF2)nCH2CH2OHでnが5ないし9であるものが好ましく、C8F17CH2CH2OHが最も好ましい。)
(7)14欄12行ないし14行
「EXAMPLE 6
HDI-PP0322I and mixtures with TDI/PCI/ED
Another PPO based system in addition to Example 1 which shows preferred performance is HDI-PP0322I. This material is similar to Example 1 except that it was synthesized with a different reactant stoichiometry and contains a fluoroalcohol with a different chain length. HDI-PP0322I was synthesized with PPO diol of molecular weight 1000, 1,6-hexamethylene diisocyanate (HDI), and the intermediate boiling fraction of the fluoroalcohol (BA-L).」
(事例6
HDI-PPO332Iとポリエステルウレタンとの混合物
事例1に加えて、好ましいパフォーマンスを示す、もう一つのPPO(ポリプロピレン・オキサイド・ジオール)の基本システムは、HDI-PPO332Iである。この材料は、異なる反応分子量で合成されることと、異なる鎖長を有するフルオロ・アルコールを含むことを除いて、事例1に類似する。HDI-PPO322Iは、分子量1000のPPOジオール、1,6-ヘキサメチレン・ジイソシアネート(HDI)とフルオロアルコール(BA-L)の中間沸点留分とが合成されたものである。)
(8)15欄下から10行ないし16欄3行
「The interaction of a key protein, namely fibrinogen, involved in the blood coagulation response to biomaterials was shown to be significantly reduced (by 50% at a fibrinogen concentration of 0.01 mg/mL, 25% at a fibrinogen concentration of 0.1 mg/mL and by 15% at a fibrinogen concentration of 1.00 mg/mL). Since fibrinogen is a molecule that is crosslinked during the coagulation process and has been associated with surfaces that induce clot formation, the finding that the SMM modified surfaces reduce the amount of fibrinogen adsorption would indicate that the modified surfaces could have important blood compatibility characteristics and may reduce blood activitation in medical devices.」
(生体物質に対する血液凝固反応に含まれるカギとなるタンパク質、つまり、フィブリノーゲンの相互作用は、有意に減少する(0.01mg/ml濃度のフィブリノーゲンで50%、0.1mg/ml濃度のフィブリノーゲンで25%、1.00mg/ml濃度のフィブリノーゲンで15%)。フィブリノーゲンは、血液凝固プロセスにおいて架橋結合し、そして血栓形成を誘因する表面と関連する分子なので、SMMで修飾された表面がフィブリノーゲン吸収量を減少させるという本知見は、当該修飾された表面が重要な血液適合性を有し、医療デバイスの血液活性を低減することを示唆する。)
(9)23欄下から22行ないし下から4行
「EXAMPLE 15
Examples of biomedical articles that integrate the SMM to the polyurethane using aforesaid method 1) described above include the following articles that are in whole or in part made of polyurethane components or contain some polyurethane components, namely, cardiac assist devices, cardiac replacement devices, cardiac septal patches, intra-aortic balloons, percutaneous cardiac assist devices, extracorporeal circuits, A-V fistual, dialysis components (tubing, filters, membranes, etc.), aphoresis units, membrane oxygenator, cardiac by-pass components (tubing, filters, etc.), pericardial sacs, contact lens, cochlear ear implants, sutures, sewing rings, cannulas, contraceptives, syringes, o-rings, bladders, penile implants, drug delivery systems, drainage tubes, pacemaker leads insulators, heart valves, blood bags, coatings for implantable wires, catheters, vascular stents, angioplasty balloons and devices, bandages, heart massage cups, tracheal tubes, mammary implant coatings, artificial ducts, craniofacial and maxillofacial reconstruction applications, ligaments, fallopian tubes.」
(事例15
上述した方法1)を用いてSMMにポリウレタンを統合した生体医療物品の事例としては、以下のような、全体又はその一部分がポリウレタンで作製された、または、ポリウレタン製の部品を含むような物品がある。つまり、・・・(中略)・・・体外血液循環回路・・・(中略)・・・心臓バイパス部品(チュービング・・・(中略)・・・カテーテル・・・(後略)・・・。)
(10)表4には、基本ポリマーであるTDI/PCL/ED(ポリエステルウレタン)中に、SMMであるHDI-PPO322Iが、1ないし10重量%含まれている事例が開示されている。
(11)上記(7)によれば、HDI-PPO322Iは、PPO(ヘキサメチレンジイソシアネート)ジオール、1,6-ヘキサメチレン・ジイソシアネート(HDI)とフルオロアルコールが合成されたものであり、以下の化学式で記載されるものであることは明らかである。
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT
[式中、
Oligoは、ポリプロピレンオキシドであり、
Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成され、
FTはポリフルオロオルガノ基である。]
そして、上記(2)によれば、オリゴマー共重合体の分子量は2000未満であることから、ポリプロピレンジオキシドの分子量は2000未満であるといえる。
(12)上記(2)によれば、ヘキサメチレン・ジイソシアネート(HDI)がハード中央部分を形成することは明らかである。
(13)上記(8)によれば、基本ポリマーにSMMを統合した生体医療物品の事例として、体外血液循環回路、心臓バイパス部品(チュービング)が例示されていることから、生体医療物品の一つとして血液用チューブが想定されていることは明らかである。

2 引用発明
したがって、技術常識を踏まえ、摘記事項(1)ないし(9)、開示事項(10)及び認定事項(11)ないし(13)をみれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。(以下、「引用発明」という。)

「1%?10%(wt%)の表面修飾高分子と混合された基本ポリマーを含む血液用チューブであって、血液適合性であり、該表面修飾高分子が、
式:
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT
[式中、
Oligoは、2000未満の分子量を有するポリプロピレンオキシドであり、
Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成されるハード中央部分であり、
FTはポリフルオロオルガノ基である]
により記載される、上記血液用チューブ。」

3 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている。日本語訳及び下線は、当審で付与したものである。なお、日本語訳は、対応する特表2010-513596号公報を参考にして当審で作成したものである。
(14)21ページ3行ないし8行
「Example 1 1. Synthesis of SMM (8)
SMM (8), which includes a Poly (tetramethylene oxide), PTMO soft segment, has a degradation temperature of only 229 "C and is included for comparison. The SMM(8) material can be synthesized as described in U.S. Patent No. 6,127,507. Both the prepolymer coupling and surface active group coupling were performed using dibutyl tin dilaurate as a catalyst.」
(事例11 SMM(8)の合成
ポリ(テトラメチレンオキシド)、PTMOソフトセグメントを含むSMM(8)は、分解温度がわずかに229℃であり、比較用に含める。このSMM(8)物質は、米国特許第6,127,507号に記載の通りに合成することができる。プレポリマーカップリング及び表面活性基カップリングは両方とも触媒としてジラウリン酸ジブチルすずを用いて実施した。)
(15) 図16には、SMM(8)として、以下の化学式が記載されている。



第5 対比
本件補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「1%?10%(wt%)の表面修飾高分子」は、その作用と機能からみて、本件補正発明の「0.005%?10%(w/w)の表面修飾高分子」に相当し、以下同様に、「血液用チューブ」は「血液チューブ」に、「血液適合性」は「血液と接触したときに抗血栓形成性」に、「ハード中央部分」は「硬セグメント」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「基本ポリマー」と本件補正発明の「ポリ塩化ビニル」は、「基本ポリマー」である点で共通する。
さらに、「Oligo」について、本件補正発明は「500?2,000ダルトンの理論分子量」を有するのに対して、引用発明は「2000未満の分子量」を有するものであるところ、「ダルトン」とは統一原子質量単位であることから、両者は「Oligo」の理論分子量が500?2,000ダルトン未満の範囲である点で一致する。
してみれば、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)
「0.005%?10%(w/w)の表面修飾高分子と混合された基本ポリマーを含む血液チューブであって、血液と接触したときに抗血栓形成性であり、該表面修飾高分子が、
式(VII):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
Oligoは、500?2,000ダルトン未満の理論分子量を有するポリプロピレンオキシドであり、
Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
FTはポリフルオロオルガノ基である]
により記載される、上記血液チューブ。」

(相違点1)
「基本ポリマー」について、本件補正発明においては、「ポリ塩化ビニル」であるのに対して、引用発明においてはそのようなものか明らかでない点。

(相違点2)
「抗血栓形成性」を評価する手段について、本件補正発明においては、「ガンマカウントにより測定した場合、」と特定されているのに対して、引用発明においてはそのようなものか明らかでない点。

(相違点3)
「n」について、本件補正発明においては、「nは1?10の整数」であるのに対して、引用発明においては、明らかでない点。


第6 判断
1 相違点について
(1)上記相違点1について検討する。
上記(3)には、基本ポリマーの事例として、ポリ塩化ビニルを含むとしている。
引用文献1には、基本ポリマーをポリウレタンやポリエステルウレタンとした場合の実施例しか記載がないことから、基本ポリマーをポリ塩化ビニルとすることは引用発明の発明者の着想に過ぎないおそれがある。
しかしながら、本件補正発明の「基本ポリマー」を「ポリ塩化ビニル」としていることについて検討するに、本願明細書の段落【0054】において、式(VII)の表面修飾高分子をポリ塩化ビニルに混合して血液チューブを形成することについて記載されてはいるが、しかしながら、段落【0092】ないし段落【0153】の「発明を実施するための形態の説明」においては、中空糸膜や血液フィルターを形成するために基本ポリマーとしてポリスルホンを用いる事例しか開示されておらず、血液チューブを形成するために基本ポリマーとしてポリ塩化ビニルを用いることの具体的な形成方法や、当該血液チューブが抗血栓形成性という作用・効果を有するという実験に基づいた裏付けについては、何ら記載されていない。つまり、本件補正発明においても、血液チューブを形成するために「基本ポリマー」を「ポリ塩化ビニル」とすることは、実験等によってその作用・効果が裏付けられたものではなく、本件補正発明の発明者の単なる着想に過ぎないものであったと言わざるを得ない。
してみれば、引用発明の「基本ポリマー」を塩化ビニルとし、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者にとって何ら困難性はない。
なお、平成29年1月18日に提出された意見書において、請求人は、米国特許庁に対して提出された宣誓書(宣誓日:2016年12月9日)において、本件補正発明の効果について表1に記載の実験データに基づいて主張するが、当該実験及びその評価が本願の優先権主張の日よりも前に行われたという主張も証拠もなく、当該宣誓書にもその旨の記載は見当たらない。してみれば、上記相違点1に係る本件補正発明の構成は、本願の優先権主張の日の時点において、その効果について実験的な裏付けのない着想に過ぎないと言わざるを得ない。

(2)上記相違点2について検討する。
血管内血栓の状況を評価する手段として、放射性インジウムによる血小板標識を利用すること、すなわち、ガンマカウントにより測定することは周知の技術であることから、引用発明の抗血栓形成性を評価する手段として利用することは、当業者にとって何ら困難性はない。必要とあらば、以下に記載した文献の2ページ右欄5行ないし8行、及び、7ページ右欄2行ないし8ページ左欄3行を参照のこと。
永島淳一、外5名、「老年者における111In標識血小板によるシンチグラフィーの臨床的有用性の検討」、日本老年医学会雑誌、1987年1月30日、24巻、1号、p.1-10

(3)上記相違点3について検討する。
引用文献2には、上記第4の3(14)及び(15)にあるとおり、引用文献1に記載の表面修飾高分子(SMM)の合成方法によって、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、PTMO(ポリ(テトラメチレンオキシド))、ポリフルオロオルガノ基が直鎖状の分子構造を構成し、HDIとPTMOからなる繰り返し単位の数Zが1である直鎖状のSMM(8)が合成されることが記載されている。
してみれば、引用発明の表面修飾高分子は、引用文献1に記載の合成方法によって合成されたものであるから、上記(10)でも認定したとおり、HDI、PPO(ポリプロピレンジオキシド)、ポリフルオロオルガノ基が直鎖状の分子構造を構成することはもちろんのこと、HDIとPPOからなる繰り返し単位の数「n」が1であるものが含まれると想到することは、当業者にとって何ら困難性はない。

(4)そして、これら相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載の技術、上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

(5)したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載の技術、上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。

2 請求人の主張について
平成29年9月22日に提出された審判請求書において、請求人は、「本願発明の血液チューブの優れた抗血栓性は、引用文献1及び2の記載から予測し得ない格別顕著な作用効果である。本願請求項に記載の式VIIの軟セグメント及び硬セグメントの特定の組み合わせを有する表面修飾高分子をPVC基本ポリマーと混合することによって、このように格別顕著な作用効果が得られることについて、引用文献1及び2には如何なる記載又は示唆も見出すことはできない。それ故、引用文献1及び2の記載を参酌したとしても、本願発明に到達することは、当業者であっても容易になし得ることではない。」と主張する。
しかしながら、本件補正発明には、「軟セグメント」という記載はなく、請求項の記載に基づかない主張である。また、その余の点についても、上記1で検討したとおりであるので、当該主張は採用できない。


第7 むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術、及び、上記の周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-05 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2015-206895(P2015-206895)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺澤 忠司  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 芦原 康裕
瀬戸 康平
発明の名称 抗血栓形成性中空糸膜およびフィルター  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
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