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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C01B |
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管理番号 | 1350616 |
異議申立番号 | 異議2018-700313 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-17 |
確定日 | 2019-02-08 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6216359号発明「多孔質炭素」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6216359号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6216359号の請求項1?4、6、7に係る特許を維持する。 特許第6216359号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6216359号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成23年 3月 9日を出願日とする特許出願(特願2011-51830号)の一部を平成27年10月29日に新たな特許出願(特願2015-213462号)としたものであって、平成29年 9月29日に特許権の設定登録がされ、同年10月18日にその特許公報が発行され、その後、平成30年 4月17日に特許異議申立人田上 浩(以下、「申立人田上」という。)により特許異議の申立て(以下、「申立人田上」による特許異議の申立てを「異議申立1」といい、「異議申立1」の特許異議申立書を「申立書1」という。)がされ、更に同年同日に、特許異議申立人神保 良男(以下、「申立人神保」という。)により特許異議の申立て(以下、「申立人神保」による特許異議の申立てを「異議申立2」といい、「異議申立2」の特許異議申立書を「申立書2」という。)がされ、同年 6月19日付けで当審より取消理由が通知され、同年 8月21日付けで特許権者より訂正請求書及び意見書が提出され、同年 8月28日付けで当審より取消理由が通知され、同年10月17日付けで特許権者より訂正請求書及び意見書が提出され、同年10月24日付けで当審より特許法第120条の5第5項による訂正請求があった旨の通知がされたところ、同年11月27日付けで申立人田上より意見書が提出され、申立人神保からは指定期間内に意見書は提出されなかったものである。 第2 本件訂正の請求による訂正の適否 1 訂正の内容 平成30年10月17日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。 なお、平成30年 8月21日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「【請求項1】 メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、 上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、 上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、 上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であることを特徴とする多孔質炭素。」 と記載されているのを、 「【請求項1】 メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、 上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、 上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、 上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、 嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?4、6、7も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (3)訂正事項3 訂正前の特許請求の範囲の請求項6に 「請求項5に記載の」 と記載されているのを、 「請求項1?4の何れか1項に記載の」 に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 訂正前の特許請求の範囲の請求項7に 「請求項1?6の何れか一項に記載の」 と記載されているのを、 「請求項1?4および6の何れか1項に記載の」 に訂正する (5)訂正事項5 訂正前の本件特許明細書の【0009】に 「上記目的を達成するために本発明は、メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であることを特徴とする。」 と記載されているのを、 「上記目的を達成するために本発明は、メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下であることを特徴とする。」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、訂正前は「多孔質炭素」における嵩密度が特定されていなかったものを、「嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下である」と特定して、「多孔質炭素」の嵩密度について更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、願書に添付した明細書には、 「【0015】 嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下であることが望ましい。 嵩密度が0.1g/cc未満であると、比表面積を確保することが困難であり、炭素質壁の形状が保てなくなることがある一方、嵩密度が1.0g/cc以下を超えると、三次元網目構造を形成し難いという問題があり、メソ孔の形成が不十分で、ガス吸着能が低下することがある。」 と記載されており、上記記載によれば、願書に添付した明細書には、「多孔質炭素」の嵩密度を0.1g/cc以上1.0g/cc以下とすることが記載されているから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 更に、訂正事項1による訂正は、訂正前の「多孔質炭素」について嵩密度を更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 このことは、請求項1を引用する請求項2?7における訂正事項1による訂正も同様である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (3)訂正事項3及び4について 訂正事項3及び4による訂正は、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3及び4による訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (4)訂正事項5について 訂正事項5による訂正は、訂正事項1による訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正といえるので、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは、上記(1)に記載のとおりであって、訂正事項5による訂正は、訂正事項1による訂正と同様の訂正をするものであるから、訂正事項5による訂正も、上記(1)に記載したのと同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (5)一群の請求項について 本件訂正前の請求項2?7は、直接的又は間接的に訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?7は、一群の請求項である。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?7〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 (6)明細書の訂正と関係する請求項についての説明 訂正事項5は、訂正事項1の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であり、一群の請求項1?7についてする訂正である。 したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 むすび したがって、上記訂正事項1?5からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?7について訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許第6216359号の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、 上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、 上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、 上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、 嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。 【請求項2】 比表面積が200m^(2)/g以上である、請求項1に記載の多孔質炭素。 【請求項3】 上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっている、請求項1又は2に記載の多孔質炭素。 【請求項4】 上記メソ孔の容量は0.2ml/g以上である、請求項1?3の何れか1項に記載の多孔質炭素。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 嵩密度は0.14g/cc以上である、請求項1?4の何れか1項に記載の多孔質炭素。 【請求項7】 上記層状構造を成す部分の厚みは1nm以上100nm以下である、請求項1?4および6の何れか1項に記載の多孔質炭素。」 第4 異議申立理由の概要 1 異議申立1の理由の概要 申立人田上による異議申立1の理由の概要は、以下のとおりである。 (1)各甲号証 甲第1-1号証:特開2010-208887号公報 甲第1-2号証:特開2006-347864号公報 甲第1-3号証:特開2008-273816号公報 申立人田上は、上記各甲号証に加えて、以下の資料を提出している。 参考資料1:持田 勲ら,炭素構造モデルの進化と効用,炭素 TANSO,2004年,No.215,p.274-284 本件特許の審査において提出された平成29年 1月24日付け意見書 本件特許の審査において提出された平成29年 8月 9日付け審判請求書 (2)特許法第29条第1項(新規性)又は第2項(進歩性)について(申立書1の8/17頁4行?15/17頁9行) 訂正前の請求項1?4及び7に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明であるので、訂正前の請求項1?4及び7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明と甲第1-2号証及び甲第1-3号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について(申立書1の15/17頁10行?16/17頁5行) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0034】、【0054】、図面の【図6】?【図8】の記載をみた場合、鋳型粒子として用いたMgOのサイズと、実施例で得られた多孔質炭素のメソ孔のサイズが対応していない。 仮に、非晶質の多孔質炭素の熱処理により多孔質炭素が収縮すると考えた場合、上記【0054】の記載内容を理解することができず、本件特許明細書の【0009】の記載内容とも矛盾し、更には、上記(1)に記載される、本件特許の審査において提出された平成29年 1月24日付け意見書及び本件特許の審査において提出された平成29年 8月29日付け審判請求書の主張とも矛盾する。 このため、本件特許明細書の記載及び本件特許の原出願日の技術常識に基づいて、本件発明に係る多孔質炭素がどのようにして製造されたものであるのかを理解することができないので、訂正前の請求項1?7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 異議申立2の理由の概要 申立人神保による異議申立2の理由の概要は、以下のとおりである。 (1)各甲号証 甲第2-1号証:京谷 隆ら,鋳型炭素化による炭素材料の次元制御,炭素 TANSO,1997年,No.180,p.266-272 甲第2-2号証:Da-Wei Wang et al.,3D Aperiodic Hierarchical Porous Graphitic Carbon Material for High-Rate Electrochemical Capacitive Energy Storage,Angew.Chem.Int.Ed.,2008,Vol.47,p.373-376及びSupporting Information,p.5-9 甲第2-3号証:Kamil P.Gierszal et al.,High temperature treatment of ordered mesoporous carbons prepared by using various carbon precursors and ordered mesoporous silica templates,New J.Chem.,2008,Vol.32,p.981-993 甲第2-4号証:Jian Nong Wang et al.,Preparation of graphitic carbon with high surface area and its application as an electrode material for fuel cells,J.Mater.Chem.,2007,Vol.17,p.2251-2256 甲第2-5号証:三浦 正道ら,合成ゼオライト(ゼオラム)の性状,東洋曹達研究報告,1977年,第21巻第2号,p.89(45)-106(62) 甲第2-6号証:京谷 隆ら,鋳型法によるナノカーボンの合成法,炭素 TANSO,2008年,No.235,p.307-315 甲第2-7号証:炭素材料学会編,新・炭素材料入門,第1版第1刷,(株)リアライズ社,1996年 9月20日,p.8-13,24-31 甲第2-8号証:劉 崢ら,シリカメソ多孔体とカーボン,顕微鏡,2005年,Vol.40,No.2,p.85-90 (2)特許法第29条第1項(新規性)または第2項(進歩性)について(申立書2の5/18頁19行?17/18頁14行) 訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第2-1号証、甲第2-2号証、甲第2-3号証、甲第2-4号証に記載された発明であるので、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 訂正前の請求項7に係る発明は、甲第2-4号証に記載された発明であるので、訂正前の請求項7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 仮にそうでないとしても、訂正前の1?4及び7に係る発明は、甲第2-1号証、甲第2-2号証、甲第2-3号証、甲第2-4号証に記載された発明と甲第2-5号証?甲第2-8号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項1?4及び7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 第5 取消理由の概要 当審の取消理由通知書における取消理由の概要は、以下のとおりである。 1 平成30年 6月19日付け取消理由通知書の取消理由の概要 訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第2-1号証、甲第2-2号証、甲第2-3号証、甲第2-4号証に記載された発明であるので、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 訂正前の請求項7に係る発明は、甲第2-4号証に記載された発明であるので、訂正前の請求項7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 なお、平成30年 6月19日付け取消理由通知書においては、「付記」として、本件特許明細書の記載からは、本件発明に係る「多孔質炭素」の「層状構造を成す部分」の生成の有無をどのようにして判断するのかが不明確であり、上記「層状構造を成す部分」の厚みをどのようにして認知するのかも不明確であるので、上記「炭素質壁」の「層状構造を成す部分」の生成の有無をどのようにして判断するのか、また、上記「層状構造を成す部分」の厚みをどのようにして認知するのかについて釈明されたい、と指摘している。 2 平成30年 8月28日付け取消理由通知書の取消理由の概要 平成30年 8月21日付け訂正請求書により訂正された請求項7は、削除された請求項5を引用しているので、発明が明確でないから、平成30年 8月21日付け訂正請求書により訂正された請求項7に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第6 当審の判断 1 取消理由について (1)平成30年 6月19日付け取消理由通知書の取消理由について (ア)本件発明1は、「多孔質炭素」において、「嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下である」、との発明特定事項を有するものである。 (イ)一方、甲第2-1号証?甲第2-4号証には、「多孔質炭素」の「嵩密度」を「0.1g/cc以上1.0g/cc以下」とすることは記載も示唆もされていないから、本件発明1が、甲第2-1号証、甲第2-2号証、甲第2-3号証、甲第2-4号証に記載された発明であるとはいえない。 また、同様の理由により、請求項1を引用する本件発明2?4が、甲第2-1号証?甲第2-4号証に記載された発明であるとはいえないし、請求項1を引用する本件発明7が、甲第2-4号証に記載された発明であるとはいえない。 (2)平成30年 6月19日付け取消理由通知書の付記について (ア)特許権者が平成30年 8月21日付けで提出した意見書(以下、「特許権者意見書」という。)には、以下、『』で示す記載がある。 『(5) 付記について 例えば、下掲の図2に矢印で示すとおり、本件の図2には、複数のすじが併走する部分が表れており、これが、本件発明に係る「層状構造を成す部分」に該当する。また、この場合、図2に表示された5nmのスケール(下掲の図2では省略)で測ると、複数のすじが併走する部分は幅がだいたい3nm前後ほどとなっており、これは本件明細書の段落0035における「隣接する層の層間距離は0.33nm程度であるので、11層構造であれば、層状を成す炭素部部分の厚みは3.3nm(0.33nm×〔11-1〕となる)」との内容にも合致しているといえる。 従って、本件明細書の記載から、「層状構造を成す部分」の生成の有無を判断することができ、また、「層状構造を成す部分」の厚みを認知することもできるのである。 』 (イ)そして、上記特許権者意見書の記載からみれば、当業者は、本件発明に係る「多孔質炭素」の「層状構造を成す部分」の生成の有無及び上記「層状構造を成す部分」の厚みを、本件特許図面に挙げられるようなSTEM写真によって判断及び認知できるから、本件発明に係る「多孔質炭素」の「層状構造を成す部分」の生成の有無をどのようにして判断するのかが不明確であり、上記「層状構造を成す部分」の厚みをどのようにして認知するのかも不明確である、とはいえない。 (3)平成30年 8月28日付け取消理由通知書の取消理由について (ア)上記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるものであり、本件発明7は削除された請求項5を引用しないものとなったので、平成30年 8月28日付け取消理由通知書の取消理由は理由がない。 (4)小括 以上のとおりであるので、当審より通知した取消理由はいずれも理由がない。 2 異議申立1について (1)特許法第29条第1項(新規性)又は第2項(進歩性)について (1-1)甲第1-1号証の記載事項 甲第1-1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (1-1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 メソ孔とこのメソ孔より小さなミクロ孔とを備えた多孔質炭素であって、 上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成し、且つ、上記メソ孔の大きさが略同等となるように構成されていると共に、上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に上記ミクロ孔が形成されていることを特徴とする多孔質炭素。 ・・・ 【請求項5】 比表面積が、600?2000m^(2)/gである、請求項1?4の何れか1項に記載の多孔質炭素。」 (1-1b)「【0008】 そこで本発明は、三次元網目構造が保持され、且つ、メソ孔やミクロ孔の孔径を容易に制御しうる多孔質炭素及びその製造方法を提供することを目的としている。」 (1-1c)「【0013】 比表面積が600?2000m^(2)/gであることが望ましい。 比表面積が600m^(2)/g未満では気孔の形成量が不十分であり三次元網目構造を形成しないという問題がある一方、比表面積が2000m^(2)/gを超えると炭素壁の形状が保てなくなり粒子として崩壊してしまうという問題がある。 尚、上記表面積時における全細孔容量は0.2?3.0ml/gであることが望ましい。」 (1-1d)「【実施例】 【0030】 (実施例1) 先ず、図1(a)に示すように、炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂)1と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)2とを、90:10の重量比で混合した。次に、図1(b)に示すように、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、ポリアミック酸樹脂を熱分解させることにより炭素3を作製した。最後に、図1(c)に示すように、得られた炭素3を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより多数の孔4を有する多孔質炭素5を得た。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A1と称する。 【0031】 本発明炭素A1のSTEM(走査透過電子顕微鏡)写真とSEM(走査電子顕微鏡)写真とを、各々、図2及び図3に示す。両図から明らかなように、本発明炭素A1は3次元網目構造(スポンジ状のカーボン形状)であることがわかる。より具体的には、図4に示すように、本発明炭素A1の構造は、大きさが略同等である多数のメソ孔10を有しており、炭素質壁12におけるメソ孔10に臨む位置にミクロ孔11が形成されるような構造となっている。 また、本発明炭素A1においては、炭素壁全体の体積に対する炭素部分の体積の割合は40%、ミクロ孔の孔径は10nm、比表面積は700m^(2)/gであった。尚、ミクロ孔の孔径はHK法を用いて計算し、メソ孔の孔径はBJH法を用いて計算した。」 (ア)上記(1-1a)?(1-1c)によれば、甲第1-1号証には、多孔質炭素に係る発明が記載されており、上記多孔質炭素は、メソ孔とこのメソ孔より小さなミクロ孔とを備えた多孔質炭素であって、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成し、且つ、上記メソ孔の大きさが略同等となるように構成されていると共に、上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に上記ミクロ孔が形成されているものであり、比表面積が600?2000m^(2)/gであるものである。 また、上記(1-1d)によれば、上記多孔質炭素は、炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂)と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)とを、90:10の重量比で混合し、次に、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、ポリアミック酸樹脂を熱分解させることにより炭素を作製し、最後に、得られた炭素を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより得られるものである。 (イ)上記(ア)によれば、甲第1-1号証には、 「メソ孔とこのメソ孔より小さなミクロ孔とを備えた多孔質炭素であって、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造(スポンジ状のカーボン形状)を成し、且つ、上記メソ孔の大きさが略同等となるように構成されていると共に、上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に上記ミクロ孔が形成され、比表面積が600?2000m^(2)/gであり、 炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂)と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)とを、90:10の重量比で混合し、次に、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、ポリアミック酸樹脂を熱分解させることにより炭素を作製し、最後に、得られた炭素を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより得られる、 多孔質炭素。」の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されているといえる。 (1-2)甲第1-2号証の記載事項 甲第1-2号証には、以下の記載がある。 (1-2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 原料の縮合多環炭化水素を弗化水素および三弗化硼素の存在下で重合させることによって得られたピッチと、マグネシアまたは炭酸カルシウムの粒状物とを混合し、得られた混合物を100℃から400℃の温度範囲で不融化処理した後、500℃から1200℃の温度範囲で炭素化処理し、得られた炭素化物を酸洗浄することを特徴とするメソポーラスカーボンの製造方法。 【請求項2】 さらに、1900℃以上の温度で黒鉛化処理する請求項1記載のメソポーラスカーボンの製造方法。」 (1-2b)「【0022】 実施例1 100ccの三口フラスコに、参考例2で得たピリジン溶液40gとマグネシア7.5g(平均粒径13nm、Sigma-Aldrich社製)を仕込み、室温で2hr攪拌混合した。混合後、エバポレーターでピリジンを蒸発させ、ピッチとマグネシアの混合物を得た。この混合物をカッターミルで50μm以下まで粉砕し、マッフル炉内で、空気流通下、室温から300℃まで0.5℃/minで昇温し、300℃で5hr維持して不融化処理を行なった。その後、ステンレス製の筒型反応器に移し、窒素ガス流通下にて室温から750℃まで5℃/minで昇温し、750℃で1hr維持して炭素化処理を行なった。放冷後、炭素化物を10%塩酸で洗浄し、得られたものを110℃で乾燥して、メソポーラスカーボンを得た。炭素化処理によるピッチの炭素化収率は70%であった。 得られたメソポーラスカーボンは、BET比表面積が1700m^(2)/gと著しく大きく、また全細孔容積が4.43ml/g、更にメソポア率が98.5%ときわめて高かった。 【0023】 実施例2 5gのマグネシア(平均粒径13nm、Sigma-Aldrich社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてメソポーラスカーボンを調製した。炭素化処理によるピッチの収率は69%であった。 得られたメソポーラスカーボンのBET比表面積は1123m^(2)/g、全細孔容積は2.4ml/g、メソポア率は95.3%であった。」 (1-2c)「【0027】 実施例5 実施例1で得られたメソポーラスカーボン1gをタンマン炉に移し、アルゴン雰囲気下10℃/分で2400℃まで昇温し、2400℃で1hr保持して、黒鉛化処理を行なった。 得られた黒鉛化物は、BET比表面積が560m^(2)/gとグラファイトとしては著しく大きく、また全細孔容積が2.43ml/g、メソポア率が97.2%ときわめて高かった。 【0028】 実施例6 実施例2で得られたメソポーラスカーボン1gを、実施例5と同様にして黒鉛化処理した。 得られた黒鉛化物は、BET比表面積が223m^(2)/gで、全細孔容積が1.75ml/g、メソポア率が99.2%ときわめて高かった。」 (1-3)甲第1-3号証の記載事項 甲第1-3号証には、以下の記載がある。 (1-3a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ケイ素の含有率が5重量%以上である植物由来の材料を原料とし、窒素BET法による比表面積の値が10m^(2)/グラム以上、ケイ素の含有率が1重量%以下、BJH法及びMP法による細孔の容積が0.1cm^(3)/グラム以上である多孔質炭素材料。 ・・・ 【請求項7】 植物由来の材料を800℃乃至1400℃にて炭素化した後、酸又はアルカリで処理する、植物由来の材料を原料とした多孔質炭素材料の製造方法。 ・・・ 【請求項12】 植物由来の材料を炭素化する前に、炭素化のための温度よりも低い温度にて、酸素を遮断した状態で植物由来の材料に加熱処理を施す請求項7に記載の多孔質炭素材料の製造方法。」 (1-3b)「【0001】 本発明は、植物由来の材料を原料とした多孔質炭素材料及びその製造方法、並びに、吸着剤、マスク、吸着シート及び担持体に関する。」 (1-3c)「【0013】 上記の目的を達成するための植物由来の材料を原料とした本発明の多孔質炭素材料の製造方法は、植物由来の材料を800℃乃至1400℃にて炭素化した後、酸又はアルカリで処理する。 【0014】 ここで、炭素化とは、一般に、有機物質(本発明においては、植物由来の材料)を熱処理して炭素質物質に変換することを意味する(例えば、JIS M0104-1984参照)。・・・」 (1-3d)「【0017】 上記の好ましい形態、構成を含む本発明の多孔質炭素材料の製造方法にあっては、植物由来の材料におけるケイ素(Si)の含有率は5重量%以上であり、多孔質炭素材料の窒素BET法による比表面積の値が10m^(2)/グラム以上、ケイ素(Si)の含有率が1重量%以下、BJH法及びMP法による細孔の容積が0.1cm^(3)/グラム以上である構成とすることができる。・・・更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本発明の多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料を炭素化する前に、炭素化のための温度よりも低い温度(例えば、400℃?700℃)にて、酸素を遮断した状態で植物由来の材料に加熱処理(予備炭素化処理)を施すことが好ましい。これによって、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を抽出することが出来る結果、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。・・・」 (1-3e)「【0046】 実施例1の多孔質炭素材料の製造においては、先ず、粉砕した籾殻(鹿児島県産、イセヒカリの籾殻)に対して、不活性ガス中で加熱処理(予備炭素化処理)を施す。具体的には、籾殻を、窒素気流中において500℃、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得た。尚、このような処理を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5℃/分の昇温速度で1000℃まで昇温させた。そして、1000℃で5時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却した。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続けた。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄した。そして、最後に乾燥させることにより、実施例1の多孔質炭素材料を得ることができた。」 (1-4)本件発明1と甲1-1発明との対比 (ア)本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明に係る「多孔質炭素」は、メソ孔とこのメソ孔より小さなミクロ孔とを備えた「多孔質炭素」であって、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成すものであるから、「メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素」に相当し、「上記炭素質壁は3次元網目構造を成」すものといえる。 (イ)すると、本件発明1と甲1-1発明とは、 「メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、 上記炭素質壁は3次元網目構造を成す、多孔質炭素。」である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1-1:本件発明1は、「多孔質炭素」の「炭素質壁」に「層状構造を成す部分が存在」するのに対して、甲1-1発明は、「多孔質炭素」の「炭素質壁」に「層状構造を成す部分が存在」するか否か不明である点。 相違点1-2:本件発明1は、「多孔質炭素」の「上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下である」のに対して、甲1-1発明は、「多孔質炭素」の「ミクロ孔の容量」及び「嵩密度」が不明である点。 (1-5)判断 ア 特許法第29条第1項(新規性)について (ア)上記相違点1-1から検討すると、本件特許明細書及び図面には、以下の記載がある。 (a)「【0026】 以下、本発明の実施形態を以下に説明する。 本発明の多孔質炭素は、有機質樹脂を、酸化物(鋳型粒子)と溶液または粉末状態において湿式もしくは乾式混合し、混合物を非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、たとえば500℃以上の温度で炭化した後、洗浄処理することで酸化物を取り除いて非晶質の多孔質炭素(炭素質焼成体)を作製し、しかる後、この非晶質の多孔質炭素を、非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、非晶質の多孔質炭素が結晶化する温度以上(例えば、2000℃)で熱処理することにより得られる。 前記非晶質多孔質炭素は、大きさが略同等である多数のメソ孔を有しており、このメソ孔間に形成された炭素質壁におけるメソ孔に臨む位置には、ミクロ孔が形成されるような構造となっていることが好ましい。この非晶質の多孔質炭素の熱処理においては、多数のメソ孔が存在した状態は維持されており、しかも、炭素部分(炭素質壁)の少なくとも一部は層状構造を形成する。したがって、この熱処理により、結晶性の発達した多孔質炭素が得られることになる。」 (b)「【0032】 更に、前記混合物の炭化は、非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、500℃以上、1500℃以下の温度で炭化することが好ましい。高炭素収率の樹脂は高分子であるため、500℃未満では炭素化が不十分で細孔の発達が十分ではない場合がある一方、1500℃以上では収縮が大きく、酸化物が焼結し粗大化するため、細孔サイズが小さくなって比表面積が小さくなるからである。非酸化性雰囲気とは、アルゴン雰囲気或いは窒素雰囲気等であり、減圧雰囲気とは133Pa(1torr)以下の雰囲気である。 【0033】 前記非晶質の多孔質炭素を熱処理する場合、非酸化性雰囲気又は減圧雰囲気で行う必要があるが、この場合の非酸化性雰囲気とは、上記と同様、アルゴン雰囲気或いは窒素雰囲気等であり、減圧雰囲気とは、上記と同様、133Pa(1torr)以下の雰囲気をいう。更に、熱処理温度は、非晶質の炭素が結晶化する温度以上であれば問題ないが、円滑且つ短時間で層状構造を形成するには、800℃以上が好ましく、2000℃以上の温度であることがより望ましい。但し、余り温度が高いとエネルギーの無駄が生じるので、熱処理温度は2500℃以下で行うのが好ましい。」 (c)「【実施例】 【0034】 (実施例1) 先ず、図1(a)に示すように、炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂)1と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)2とを、90:10の重量比で混合した。次に、図1(b)に示すように、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理して、ポリアミック酸樹脂を熱分解させることにより炭素質壁3を備えた焼成物を得た。次いで、図1(c)に示すように、得られた焼成物を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより多数のメソ孔4を有する非晶質の多孔質炭素5を得た。最後に、この非晶質の多孔質炭素を、窒素雰囲気中2500℃で1時間熱処理して、多孔質炭素を得た。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A1と称する。 【0035】 本発明炭素A1のSTEM(透過走査電子顕微鏡)写真を図2に示す。・・・ 【0036】 (実施例2) 非晶質の多孔質炭素を熱処理する際の温度を2000℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A2と称する。 本発明炭素A2のSTEM写真を図3に示す。・・・ 【0037】 (実施例3) 非晶質の多孔質炭素を熱処理する際の温度を1400℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A3と称する。 【0038】 (実施例4) 非晶質の多孔質炭素を熱処理する際の温度を900℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A4と称する。 本発明炭素A4のSTEM(透過走査電子顕微鏡)写真を図4に示す。図4から明らかなように、本発明炭素A4の炭素部分の少なくとも一部は層状を成しており、これによって、炭素部分の少なくとも一部の結晶性が発達していることがわかる。・・・」 (d)「 」 (イ)上記(ア)(a)?(c)によれば、本件発明に係る「層状構造」は、有機質樹脂を、酸化物(鋳型粒子)と溶液または粉末状態において湿式もしくは乾式混合し、混合物を非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で炭化した後、洗浄処理することで酸化物を取り除いて非晶質の多孔質炭素(炭素質焼成体)を作製し、しかる後、非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、非晶質の多孔質炭素が結晶化する温度以上で熱処理することにより得られるものであると認められる。 (ウ)一方、甲1-1発明に係る「多孔質炭素」は、炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂)と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)とを、90:10の重量比で混合し、次に、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、ポリアミック酸樹脂を熱分解させることにより炭素を作製し、最後に、得られた炭素を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより得られるものであって、上記窒素雰囲気中1000℃で1時間の熱処理は、ポリアミック酸樹脂を熱分解して炭素を作製するものに過ぎず、非晶質の多孔質炭素を結晶化する温度以上で熱処理するものとはいえない。 (エ)してみれば、その製造工程において、非晶質の多孔質炭素が結晶化する温度以上で熱処理するものではなく、構造が3次元網目構造(スポンジ状のカーボン形状)であるに過ぎない甲1-1発明の「多孔質炭素」の「炭素質壁」に、「層状構造を成す部分が存在」しているということはできない。 (オ)なお、申立人田上が提出した参考資料1には、以下の記載がある。 「炭素材料として従来から扱われる多くは,主にsp^(2)混成軌道状態からなる炭素原子の六角網面から構成される。この意味で黒鉛材が炭素の究極な状態であるが,実際使われる炭素材の多くは六角網面の積層体(クラスター;Cluster)の集合体からなる多結晶体である^(3),4))。」(274頁右欄4行?8行) 「黒鉛類は,Fig.2に示すようにsp^(2)炭素の形成する六角網面の積層体である。天然黒鉛は,炭素六角網面が規則的に積層した巨大な単結晶であるが,人造黒鉛には炭素六角網面が一定または不規則な形で積層した乱層構造(Turbostratic Structure)の不完全な結晶から構成されている^(9),10))。炭素材の処理温度は,こうした炭素六角網面の大きさと積層に影響を及ぼし,高温処理によってクラスターを構成する炭素六角網面の積層が次第に規則性のより高い黒鉛構造へと移行する^(11))。」(275頁左欄6行?13行) (カ)つまり、上記参考資料1には、黒鉛類は、sp^(2)炭素の形成する六角網面の積層体であって、炭素材の処理温度は、こうした炭素六角網面の大きさと積層に影響を及ぼし、高温処理によってクラスターを構成する炭素六角網面の積層が次第に規則性のより高い黒鉛構造へと移行することが記載されており、これからして、黒鉛は、炭素六角網面が積層した積層構造を幾らかでも有するものであるということができる。 (キ)しかるに、甲1-1発明に係る「多孔質炭素」は、上記(ウ)に記載される工程で得られるものであって、黒鉛ということはできないから、甲1-1発明に係る「多孔質炭素」が炭素六角網面の積層体を有して層状構造を成すものということはできない。 (ク)上記(エ)、(キ)によれば、上記相違点1-1は実質的な相違点といえるから、本件発明1が甲1-1発明であるとはいえない。 イ 特許法第29条第2項(進歩性)について (ア)更に、上記相違点1-1について検討すると、上記(1-2)(1-2a)?(1-2c)の記載からみれば、甲第1-2号証には、原料の縮合多環炭化水素を弗化水素および三弗化硼素の存在下で重合させることによって得られたピッチと、マグネシアまたは炭酸カルシウムの粒状物とを混合し、得られた混合物を100℃から400℃の温度範囲で不融化処理した後、500℃から1200℃の温度範囲で炭素化処理し、得られた炭素化物を酸洗浄するメソポーラスカーボンの製造方法が記載されており、さらに、上記製造方法により得られたメソポーラスカーボンを、1900℃以上の温度で黒鉛化処理することが記載されている。 (イ)上記メソポーラスカーボンの黒鉛化処理は、具体的には、メソポーラスカーボン1gをタンマン炉に移し、アルゴン雰囲気下10℃/分で2400℃まで昇温し、2400℃で1hr保持して黒鉛化するものであり、これにより得られた黒鉛が「層状構造」を成す部分を有することは、上記ア(オ)の参考資料1の記載から明らかであるから、上記黒鉛化処理は、メソポーラスカーボンの「炭素質壁」に「層状構造」を成す熱処理といえるものである。 (ウ)ここで、上記(1-2)(1-2c)によれば、上記黒鉛化処理をされたメソポーラスカーボンは、BET比表面積が560m^(2)/g、223m^(2)/gとなるものである。 一方、甲1-1発明は、「多孔質炭素」の比表面積が600?2000m^(2)/gであるものであり、これは、上記(1-1)(1-1c)によれば、比表面積が600m^(2)/g未満では気孔の形成量が不十分であり三次元網目構造を形成しないという問題があり、比表面積が2000m^(2)/gを超えると炭素壁の形状が保てなくなり粒子として崩壊してしまうという問題があるからである。 (エ)してみれば、「多孔質炭素」の比表面積を600?2000m^(2)/gとする甲1-1発明において、甲第1-2号証に記載される、BET比表面積が560m^(2)/g、223m^(2)/gとなる黒鉛化処理を施すことには阻害要因がある。 すると、甲第1-2号証に記載された上記黒鉛化処理が、メソポーラスカーボンの「炭素質壁」に「層状構造」を成す熱処理といえるものであるとしても、甲1-1発明においてそのような熱処理を施す動機付けにはならないから、甲1-1発明に係る「多孔質炭素」の「炭素質壁」に「層状構造を成す部分が存在」するものとして、上記相違点1-1の発明特定事項とすることを、甲第1-2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。 (オ)また、上記(1-3)(1-3a)?(1-3e)によれば、甲第1-3号証には、植物由来の材料を800℃乃至1400℃にて炭素化した後、酸又はアルカリで処理する、植物由来の材料を原料とした多孔質炭素材料の製造方法が記載されており、更に、上記製造方法は、植物由来の材料を炭素化する前に、炭素化のための温度よりも低い温度にて、酸素を遮断した状態で植物由来の材料に加熱処理を施すものである。 (カ)上記製造方法は、具体的には、まず、粉砕した籾殻を、窒素気流中において500℃で5時間の加熱処理(予備炭素化処理)を施し、その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5℃/分の昇温速度で1000℃まで昇温させ、1000℃で5時間炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却し、次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄し、最後に乾燥させるものである。 (キ)ここで、上記(1-3)(1-3c)からすると、甲第1-3号証における炭素化とは、多孔質炭化材料前駆体を結晶化するものであるとはいえない。 そうすると、甲第1-3号証には、「多孔質炭素」の「炭素質壁」に「層状構造」を成す熱処理を施すことが記載も示唆もされていない。 (ク)してみれば、甲1-1発明において、「多孔質炭素」の「炭素質壁」に「層状構造」を成す熱処理を施すことを、甲第1-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものではないから、甲1-1発明に係る「多孔質炭素」の「炭素質壁」に「層状構造を成す部分が存在」するものとして、上記相違点1-1の発明特定事項とすることを、甲第1-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。 (ケ)上記(エ)、(ク)によれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を甲1-1発明及び甲第1-2号証及び甲第1-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (1-6)本件発明2?4、6、7と甲1-1発明との対比・判断 (ア)本件発明2は請求項1を引用するものであり、本件発明2と甲1-1発明とを対比すると、少なくとも上記(1-4)(イ)の相違点1-1、相違点1-2の点で相違するものである。 そして、上記相違点1-1は実質的な相違点といえるから、本件発明1が甲1-1発明であるとはいえないことは、上記(1-5)ア(ク)に記載のとおりであるので、同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2も甲1-1発明であるとはいえない。 このことは、同様に請求項1を引用する本件発明3、4、6、7についても同様であるから、本件発明2?4、6、7が甲1-1発明であるとはいえない。 (イ)更に、本件発明1を甲1-1発明及び甲第1-2号証及び甲第1-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(1-5)イ(ケ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2も、甲1-1発明及び甲第1-2号証及び甲第1-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 このことは、同様に請求項1を引用する本件発明3、4、6、7についても同様であるから、本件発明2?4、6、7を甲1-1発明及び甲第1-2号証及び甲第1-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (1-7)小括 したがって、異議申立1の特許法第29条第1項又は第2項についての理由は理由がない。 (2)特許法第36条第4項第1号について (ア)本件特許明細書には、上記(1)(1-5)ア(ア)(a)?(d)に加えて、更に、以下の記載がある。 (e)「【0009】 上記目的を達成するために本発明は、メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であることを特徴とする。 炭素質壁における層状構造を成す部分は、結晶質が発達してきているといえる。この層状構造は、通常、炭素材をある温度以上で加熱処理することにより生成される。しかしながら、炭素材は加熱処理中に収縮を起こすため、炭素材における孔が潰れて、比表面積が小さくなってしまい、結晶質でありながら比表面積の高い多孔質炭素を得ることは困難であった。本発明の多孔質炭素は、メソ孔とこのメソ孔の外郭を構成する炭素質壁を有しているため、加熱処理中の収縮に耐え、この炭素質壁において層状構造を形成することができると考えられる。つまり、本発明の多孔質炭素にはメソ孔が存在しているので、比表面積が小さくなるのを抑制できる。・・・」 (f)「【0018】 このような製造方法によれば、メソ孔を有する炭素質焼成体を熱処理した場合、比表面積の低下を招くことなく、結晶質を有する多孔質炭素を製造することができる。比表面積の低下は、熱処理中における炭素の収縮に起因するものと推測されるが、熱処理前の炭素質焼成体がメソ孔を有しているため、炭素の収縮に耐え比表面積の低下が抑制されるものと推測される。・・・」 (g)「【0047】 これに対して、熱処理前の炭素材料として多孔質炭素を用い、これを2000℃で熱処理した本発明炭素A2では、本発明炭素A3、A4と比べて、メソ孔とミクロ孔との容量が若干小さくなっているので、相対圧力の高低に関わらずガス吸着能が若干低下する。また、熱処理前の炭素材料として多孔質炭素を用い、これを2500℃で熱処理した本発明炭素A1では、本発明炭素A3、A4のみならず本発明炭素A2と比べても、メソ孔とミクロ孔との容量が小さくなっており、特に、ミクロ孔との容量が著しく小さくなっている。したがって、相対圧力の高低に関わらずガス吸着能が低下し、特に、ミクロ孔の容量が著しく小さくなっているので、相対圧力が低い場合のガス吸着能が特に低下する。 さらに、比較炭素Z1、Z2と、比較炭素Z3を比べてみると、熱処理により、ミクロ孔が著しく減少していることがわかる。これに対して、本発明炭素A2、A3、A4を比べてみれば、メソ孔を有していることにより、熱処理温度が上昇しても、ミクロ孔の減少が抑制されていることがわかる。ただし、熱処理温度を2500℃まで上げた本発明炭素A1ではミクロ孔の減少が認められる。 以上の理由により、実験1のような結果となったものと考えられる。」 (h)「【0054】 (実験4) 本発明炭素A1、A2、A4の気孔サイズ分布(メソ孔のサイズ分布)をBJH法で調べたので、その結果を図6?図8(図6は本発明炭素A1、図7は本発明炭素A2、図8は本発明炭素A4)に示す。 図6?図8から明らかなように、本発明炭素A1、A2、A4におけるメソ孔のサイズのピークは3?5nmであることから、熱処理温度の違いによって、メソ孔のサイズのピークは変化しないことがわかる。」 (イ)上記(ア)(e)、(f)によれば、本件発明は、「メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上である」ことを特徴とするものであるところ、比表面積の低下(熱処理中の炭素の収縮に起因すると想定されるもの)があるとしても、熱処理前の炭素質焼成体がメソ孔を有しているため、炭素の収縮に耐え、比表面積の低下が抑制されるものと推測されるものである。 また、上記(1)(1-5)ア(ア)(c)及び上記(ア)(g)によれば、熱処理前の炭素材料として多孔質炭素を用い、これを2000℃で熱処理した本発明炭素A2では、本発明炭素A3(1400℃)、A4(900℃)と比べて、メソ孔とミクロ孔との容量が若干小さくなっており、また、これを2500℃で熱処理した本発明炭素A1では、本発明炭素A3、A4のみならず本発明炭素A2と比べても、メソ孔とミクロ孔との容量が小さくなっており、特に、ミクロ孔の容量が著しく小さくなるものである。 (ウ)上記(イ)によれば、本件炭素発明A1、A2は、本発明炭素A3、A4と比べて「多孔質炭素」の「炭素質壁」に「層状構造」を成す熱処理によって炭素の収縮が起こっていることは明らかであるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、「多孔質炭素」に、当該「多孔質炭素」の「炭素質壁」に「層状構造」を成す熱処理を施したとき、炭素の収縮が全く起こらないわけではなく、上記収縮は起こるものの、熱処理前の炭素質焼成体がメソ孔を有しているため、ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上となる程度に収縮に耐え、比表面積の低下が抑制されるものであることを理解できるものである。 (エ)そうすると、本件発明は、上記熱処理中における炭素の収縮が全く起こらないというものではないので、多孔質炭素のメソ孔のサイズが鋳型粒子として用いたMgOのサイズと対応しなくなることは明らかである。 そして、上記(ア)(h)の記載は、上記熱処理中における炭素の収縮が起こっても、本発明炭素A1、A2、A4におけるメソ孔のサイズのピークが熱処理温度の違いによって変化しないことをいうものと理解でき、また、上記(ア)(e)の記載は、熱処理中における炭素の収縮は起こるものの、ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上となる程度に炭素の収縮に耐えることをいうものと理解でき、それぞれ両立し得るものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が矛盾しているとはいえない。 (オ)更に、上記(ウ)?(エ)の検討事項によれば、本件特許明細書の記載は、本件特許の審査において提出された平成29年 1月24日付け意見書における、ミクロ孔を保持した結晶性の高い多孔質炭素は、本発明によって初めて見出されたものである、との主張(1頁下から9行?2頁17行)、及び、本件特許の前置審査において提出された平成29年 8月29日付け審判請求書における、本件発明に係る多孔質炭素は、ミクロ孔容量を保持した層状構造を有する多孔質炭素である、との主張(7頁8行?17行)と矛盾するものでもない。 (カ)以上のとおりであるので、本件特許明細書が、本件発明1?4、6、7を当業者が実施することができる程度に記載されていないとはいえないから、異議申立1の特許法第36条第4項第1号についての理由は理由がない。 3 異議申立2について (ア)甲第2-1号証?甲第2-4号証には、「多孔質炭素」の「嵩密度」を「0.1g/cc以上1.0g/cc以下」とすることは記載も示唆もされていないから、本件発明1が、甲第2-1号証、甲第2-2号証、甲第2-3号証、甲第2-4号証に記載された発明であるとはいえないこと、また、同様の理由により、請求項1を引用する本件発明2?4が、甲第2-1号証?甲第2-4号証に記載された発明であるとはいえないし、請求項1を引用する本件発明7が、甲第2-4号証に記載された発明であるとはいえないことは、上記1(1)(イ)に記載のとおりである。 (イ)更に、甲第2-5号証?甲第2-8号証にも、「多孔質炭素」の「嵩密度」を「0.1g/cc以上1.0g/cc以下」とすることは記載も示唆もされていないから、本件発明1?4及び7を、甲第2-1号証、甲第2-2号証、甲第2-3号証、甲第2-4号証に記載された発明及び甲第5号証?甲第8号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (ウ)したがって、異議申立2の理由は理由がない。 4 申立人田上による平成30年11月27日付け意見書(以下、「田上意見書」という。)について (1)田上意見書の主張の概要 ア 平成30年 6月19日付け取消理由通知書の「付記」について (ア)特許権者意見書による釈明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0038】に記載された実施例4で得られた「本発明炭素A4」に関しては、誤りである。 すなわち、上記実施例4のSTEM写真においては、比較的短い筋状の線が入り乱れて存在する部分が認められるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】、【0016】で定義されている層状構造を確認することができない。 (イ)上記比較的短い筋状の線が入り乱れて存在する部分は、甲第1-1号証の実施例1に記載された、1000℃で1時間熱処理された多孔質炭素のように、黒鉛化があまり進んでいない炭素六角網面の積層体に由来する層状構造であると理解するのが自然である。 (ウ)特許権者は、炭素が黒鉛化した実施例1の本発明炭素A1を用いて、本件特許発明でいう「炭素質壁」の「層状構造を成す部分」を説明しているだけであり、これは黒鉛化が進んで結晶質が発達した場合を説明しているに過ぎず、炭素が黒鉛化していない実施例4の本発明炭素A4において、どの程度まで黒鉛化していれば本件特許発明でいう「炭素質壁」の「層状構造を成す部分」に該当するのかを説明していない。 (エ)このため、上記「付記」で指摘された疑問は依然として残されている。 イ 異議申立1の甲第1-1号証に基づく主張について (ア)異議申立1においては、訂正前の請求項1?4及び7に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明であること(新規性欠如)、及び、訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲第1-1号証に記載された発明と甲第1-2号証及び甲第1-3号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること(進歩性欠如)を主張したが、特許権者意見書をもってしても、これら新規性欠如及び進歩性欠如の理由は依然として解消されていない。 (イ)すなわち、甲第1-1号証の【0030】に記載される「多数の孔4を有する多孔質炭素5」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0038】に記載された実施例4で得られた「本発明炭素A4」とその製造方法が全く同じであるから、本件発明1は、甲第1-1号証の【0030】に記載される「多数の孔4を有する多孔質炭素5」を含むと理解されるので、新規性を欠くものである。 (ウ)仮に、上記新規性欠如の理由が解消しているとしても、進歩性欠如の理由は解消していない。 (2)判断 ア 平成30年 6月19日付け取消理由通知書の「付記」について (ア)上記3(1)(ウ)の特許権者意見書の記載からみれば、当業者は、本件発明に係る「多孔質炭素」の「層状構造を成す部分」の生成の有無及び上記「層状構造を成す部分」の厚みを、本件特許図面に挙げられるようなSTEM写真によって判断及び認知できるから、本件発明に係る「多孔質炭素」の「層状構造を成す部分」の生成の有無をどのようにして判断するのかが不明確であり、上記「層状構造を成す部分」の厚みをどのようにして認知するのかも不明確である、とはいえないことは、上記3(1)(エ)に記載のとおりである。 (イ)ここで、上記1(2)(ア)(e)によれば、本件発明に係る「多孔質炭素」の「層状構造を成す部分」は、結晶質が発達しているものである。 (ウ)これに対して、本件特許明細書には、上記1(1)(1-5)ア(ア)(a)?(d)、1(2)(ア)(e)?(h)、2(2)ア(ア-2)(ウ)(i)に加えて、以下の記載がある。 (j)「【0059】 (実験6) 本発明炭素A1と本発明炭素A4とのX線回折(線源はCuKα)を行ったので、その結果を図9に示す。 図9から明らかなように、本発明炭素A1では、ブラッグ角度(2θ±0.2°)=26.45°において、黒鉛のピーク(002面)が顕著にみられるのに対して、本発明炭素A4では、ブラッグ角度=26.45°において、黒鉛のピーク(002面)がみられないことが認められる。したがって、本発明炭素A1では炭素が黒鉛化しているが、本発明炭素A4では炭素が黒鉛化していないことがわかる。・・・」 上記(j)によれば、「本発明炭素A4」は、X線回折(CuKα)のブラッグ角度=26.45°において黒鉛のピーク(002面)がみられず、炭素が黒鉛化していないものである ここで、黒鉛は、炭素六角網面が積層した積層構造を幾らかでも有するものであるということができることは、上記1(1)(1-5)ア(カ)に記載のとおりであるから、炭素が黒鉛化していない「本発明炭素A4」は、結晶質が発達しているものとはいえない。 (エ)これについて、上記1(1)(1-5)ア(ア)(c)(【0038】)には、【図4】((1)(1-5)ア(ア)(d))から明らかなように、「本発明炭素A4」の炭素部分の少なくとも一部は層状を成しており、これによって、炭素部分の少なくとも一部の結晶性が発達していることがわかることが記載されているが、上記【図4】からは、「本発明炭素A4」の炭素部分の少なくとも一部が層状を成していることを明確に看取できない。 このことと、上記(ウ)の検討事項からみれば、「本発明炭素A4」は、 結晶質が発達しているとはいえないものである。 (オ)上記(エ)の検討事項と、上記(イ)の検討事項によれば、結晶質が発達しているとはいえない「本発明炭素A4」が本件発明の適正な実施例には当たらないことは明らかであるので、「本発明炭素A4」について、「多孔質炭素」の「層状構造を成す部分」の生成の有無をどのようにして判断するのか、また、上記「層状構造を成す部分」の厚みをどのようにして認知するのかについて吟味する必要はないとみるのが妥当である。 (カ)以上のとおりであるので、上記「付記」で指摘された疑問が残されているとはいえないから、田上意見書の上記(1)アの主張は採用できない。 イ 異議申立1の甲第1-1号証に基づく主張について (ア)上記1(1)(1-4)(イ)の相違点1-1は実質的な相違点といえるから、本件発明1が甲1-1発明であるとはいえないことは、上記1(1)(1-5)ア(ク)に記載のとおりである。 (イ)また、本件発明1を甲1-1発明及び甲第1-2号証及び甲第1-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(1)(1-5)イ(ケ)に記載のとおりであり、更に、「本発明炭素A4」が本件発明の適正な実施例には当たらないことは明らかであることは、上記ア(オ)に記載のとおりであるので、田上意見書の上記(1)イの主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件発明1?4、6、7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?4、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件発明5に係る特許に対してした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 多孔質炭素 【技術分野】 【0001】 本発明は多孔質炭素に関し、特に、メソ孔を備えた多孔質炭素及びその製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 多孔質炭素の製造方法としては、木材パルプ、のこ屑、ヤシ殻、綿実殻、もみ殻等のセルロース質や、粟、稗、とうもろこし等の澱粉質、リグニン等の植物性原料、石炭やタール、石油ピッチ等の鉱物性原料、更にはフェノール樹脂やポリアクリロニトリル等の合成樹脂等を原料とし、これを非酸化性雰囲気下で加熱して炭素化する方法が周知であり、また、これらの炭素化物(活性炭)を薬剤で処理して賦活化する方法もよく知られている。 【0003】 また最近では、賦活用の薬剤として水酸化カリウムを使用し、これを有機質樹脂と混合して非酸化性雰囲気下で加熱すれば、3000m^(2)/gにも達する高い比表面積の活性炭が得られることが確認され、注目を集めている(下記特許文献1参照)。 【0004】 ところが、この方法では、有機質樹脂に対して4倍量以上の賦活剤を必要とすること、そのためカリウムの回収再利用が試みられているものの回収率が低くてコスト高となること、しかも、賦活のための加熱工程でアルカリ金属が揮発して加熱炉を汚染乃至損傷し、且つ各種工業材料として使用する際にも浸食を起こす原因になること、更にはアルカリ金属化合物で処理した活性炭は可燃性が高く発火し易いこと等、工業的規模での実用化には多くの問題を残している。 【0005】 このようなことを考慮して、有機質樹脂を、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩よりなる群から選択されるアルカリ土類金属化合物の少なくとも1種と混合し、非酸化性雰囲気で加熱焼成する工程を含む活性炭の製造方法が提案されている(下記特許文献2参照)。 【0006】 上記のように多孔質炭素は種々の方法により製造されるが、特性を改良するために、この多孔質炭素のさらなる加熱処理が試みられている。しかしながら、上記のような多孔質炭素を加熱処理した場合、結晶性が向上しないばかりか、比表面積が小さくなり、期待していた特性の改良どころか、もともとの特性よりも悪くなるという課題を有していた。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】特開平9-86914号公報 【特許文献2】特開2006-062954号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 そこで本発明は、結晶質の炭素であっても比表面積が極めて高い多孔質炭素を提供することを目的としている。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記目的を達成するために本発明は、メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下であることを特徴とする。 炭素質壁における層状構造を成す部分は、結晶質が発達してきているといえる。この層状構造は、通常、炭素材をある温度以上で加熱処理することにより生成される。しかしながら、炭素材は加熱処理中に収縮を起こすため、炭素材における孔が潰れて、比表面積が小さくなってしまい、結晶質でありながら比表面積の高い多孔質炭素を得ることは困難であった。本発明の多孔質炭素は、メソ孔とこのメソ孔の外郭を構成する炭素質壁を有しているため、加熱処理中の収縮に耐え、この炭素質壁において層状構造を形成することができると考えられる。つまり、本発明の多孔質炭素にはメソ孔が存在しているので、比表面積が小さくなるのを抑制できる。このように、比表面積がある程度大きな状態で結晶質部分が発達しているので、本発明の多孔質炭素は多様な分野(例えば、ガス吸着材料、非水電解質電池の負極材料、キャパシタの電極材料等)で用いることができる。 【0010】 また、炭素質壁が3次元網目構造を成していれば、多孔質炭素の用途が弾力性を必要とする場合にも、本発明の多孔質炭素を適応することができる。また、本発明の多孔質炭素をガス吸着剤として用いる場合には、ガスの流れを阻害しないので、ガス吸着能が向上し、更に、本発明の多孔質炭素を非水電解質電池の負極材料、キャパシタの電極材料として用いる場合には、リチウムイオン等の移動が円滑化する。 【0011】 尚、炭素質壁の全ての部分が層状構造となっている必要はなく、一部に非晶質部分が存在していても良い。 ここで、本明細書においては、細孔径が2nm未満のものをミクロ孔、細孔径が2?50nmのものをメソ孔と称することとする。 【0012】 比表面積は200m^(2)/g以上であることが望ましい。 比表面積が200m^(2)/g未満であると、3次元網目構造を形成し難いという問題があり、気孔の形成量が不十分で、ガス吸着能が低下することがある。一方、比表面積は1500m^(2)/g以下であることが望ましい。比表面積が1500m^(2)/gを超えると、炭素質壁の形状が保てなくなることがあり、メソ孔を十分形成できない可能性がある。 【0013】 上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっていることが望ましい。 上記構成であれば、本発明の多孔質炭素をガス吸着剤として用いた場合に、ガスの流れが円滑になるので、よりガスを補足し易くなる。また、非水電解質電池の負極材料や、キャパシタの電極材料として用いる場合には、リチウムイオン等が円滑に移動する。 【0014】 上記メソ孔の容量は0.2ml/g以上であることが望ましい。 メソ孔の容量が0.2ml/g未満であると、比表面積を確保することが困難であり、また、相対圧力が高い場合のガス吸着能が低下する可能性があるからである。 【0015】 嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下であることが望ましい。 嵩密度が0.1g/cc未満であると、比表面積を確保することが困難であり、炭素質壁の形状が保てなくなることがある一方、嵩密度が1.0g/cc以下を超えると、3次元網目構造を形成し難いという問題があり、メソ孔の形成が不十分で、ガス吸着能が低下することがある。 【0016】 上記層状構造を成す部分の厚みは1nm以上100nm以下であることが望ましい。 隣接する層の層間距離は0.33nm程度であり、多数の層が形成されると、層状構造を成す部分の厚みは大きくなる一方、少数の層しか形成されないと、層状構造を成す部分の厚みは小さくなる。ここで、多孔質炭素を作成する場合に、鋳型粒子の量を減少させると、炭素質壁の厚みが大きくなって、多数の層が形成されるので、層状構造を成す部分の厚みは大きくなる一方、鋳型粒子の量を増加させると、炭素質壁の厚みが小さくなって、少数の層しか形成されないので、層状構造を成す部分の厚みは小さくなる。層状構造の厚みが1nm未満である場合には、結晶質部分の発達が不十分である可能性がある。一方、100nmを超える場合には加熱処理の時間を延ばす、加熱温度を上げる等の処理を行う必要があるため、製造することが困難であり、本発明の多孔質炭素の他の特性の低下につながる可能性がある。 【0017】 また、上記目的を達成するために本発明は、メソ孔を有する炭素質焼成体を、非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、非晶質の炭素が結晶化する温度以上で熱処理することを特徴とする。 前記メソ孔を有する炭素質焼成体を、有機質樹脂を含む流動性材料と、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩よりなる群から選択されるアルカリ土類金属化合物の少なくとも1種から成る鋳型粒子と、を混合して混合物を作製するステップと、上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップとで製造することが望ましい。 【0018】 このような製造方法によれば、メソ孔を有する炭素質焼成体を熱処理した場合、比表面積の低下を招くことなく、結晶質を有する多孔質炭素を製造することができる。比表面積の低下は、熱処理中における炭素の収縮に起因するものと推測されるが、熱処理前の炭素質焼成体がメソ孔を有しているため、炭素の収縮に耐え比表面積の低下が抑制されるものと推測される。 また、当該方法で作製した場合、非晶質の炭素が結晶化する温度以上で熱処理しているので、本発明の多孔質炭素が高温雰囲気で用いられる場合(例えば、高温雰囲気でガス吸着部材として用いられる場合)に、当該温度が非晶質の炭素が結晶化する温度未満の温度であれば、多孔質炭素が変質するのを防止できる。この結晶化する温度以上とは、800℃以上が好ましく、より好ましくは約2000℃以上である。特に2000℃以上で多孔質炭素を用いる場面は少ないと考えられ、したがって、様々な用途に本発明の多孔質炭素を用いることができる。 【0019】 ここで、鋳型粒子の径や有機質樹脂の種類を変えることによって、細孔の径、多孔質炭素の細孔分布、及び、炭素質壁の厚みを調整することができる。したがって、鋳型粒子の径と有機質樹脂の種類とを適宜選択することによって、より均一な細孔径を有し、より大きな細孔容量を有する多孔質炭素を作製することも可能となる。更に、炭素源に有機質樹脂を含む流動性材料を用い、しかも、賦活処理工程を経ることなく多孔質炭素を作製できるので、得られた多孔質炭素は非常に高純度なものとなる。 【0020】 尚、アルカリ土類金属化合物を鋳型粒子として用いるのは、アルカリ土類金属化合物は弱酸或いはお湯により除去することができる(即ち、強酸を用いることなく鋳型粒子を取り除くことができる)ので、鋳型粒子を除去するステップにおいて、多孔質炭素自体の性状が変化するのを抑制することができるからである。尚、弱酸を用いた場合には、除去スピードが早くなるという利点がある一方、お湯を用いた場合には、酸が残留して不純物となるという不都合を防止できるという利点がある。また、鋳型粒子を除去するステップにおいて、溶出した酸化物溶液は再び原料として使用が可能であり、多孔質炭素の製造コストを低減できる。 【0021】 上記流動性材料の炭素収率が40%以上85%以下で、上記鋳型粒子の径が略同径となっていることが望ましい。 上記の如く鋳型粒子の径が略同径となっていれば、鋳型粒子はマトリックス中(焼成物中)に均一に分散されるので、鋳型粒子間の間隔のバラツキが小さくなる。したがって、炭素質壁の厚みが均一に近い3次元網目構造となる。但し、流動性材料の炭素収率が余り小さかったり大きかったりすると(具体的には、流動性材料の炭素収率が40%未満であったり、85%を超えていると)3次元網目構造が保持されない炭素粉末となるが、上記の如く、炭素収率を40%以上85%以下に限定すれば、鋳型粒子を除去した後には、鋳型粒子が存在した場所が連続孔となる3次元網目構造を有する多孔質炭素を得ることができる。また、鋳型粒子の径が略同径となっていれば、同一サイズの連続孔が形成されるので、スポンジ状且つ略籠伏の多孔質炭素を作製することができる。 【0022】 ここで、上記流動性材料として、200℃以下の温度で流動性を生じるものを用いることが望ましく、具体的には、単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素もしくはフッ素原子を含むポリイミド、フェノール樹脂、及びピッチからなる群から選択される少なくとも1種が例示される。 但し、流動性材料としては、200℃以下の温度で流動性を生じるものに限定するものではなく、200℃以下の温度で流動性が生じなくても、水或いは有機溶媒に可溶な高分子材料であれば本発明に使用できる。 【0023】 上記鋳型粒子を除去するステップにおいて、除去後の鋳型粒子の残留率が0.5%以下となるように規制することが望ましい。 除去後の鋳型粒子の残留率が0.5%を超えると、メソ孔内に残る鋳型粒子が多くなって、細孔としての役割を発揮できない部位が広く生じるからである。 【発明の効果】 【0024】 本発明によれば、層状構造を有する炭素であっても比表面積が極めて高い多孔質炭素を提供できるといった優れた効果を奏する。 【図面の簡単な説明】 【0025】 【図1】本発明の製造工程を示す図であって、同図(a)はポリアミック酸樹脂と酸化マグネシウムとを混合した状態を示す説明図、同図(b)は混合物を熱処理した状態を示す説明図、同図(c)は多孔質炭素を示す説明図である。 【図2】本発明炭素A1のSTEM(走査透過電子顕微鏡)写真。 【図3】本発明炭素A2のSTEM写真。 【図4】本発明炭素A4のSTEM写真。 【図5】本発明炭素A1?A4の相対圧力とN_(2)吸着量との関係を示すグラフ。 【図6】本発明炭素A1の細孔径とその割合との関係を示すグラフ。 【図7】本発明炭素A2の細孔径とその割合との関係を示すグラフ。 【図8】本発明炭素A4の細孔径とその割合との関係を示すグラフ。 【図9】本発明炭素A1及び本発明炭素A4のX線回折図。 【発明を実施するための形態】 【0026】 以下、本発明の実施形態を以下に説明する。 本発明の多孔質炭素は、有機質樹脂を、酸化物(鋳型粒子)と溶液または粉末状態において湿式もしくは乾式混合し、混合物を非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、たとえば500℃以上の温度で炭化した後、洗浄処理することで酸化物を取り除いて非晶質の多孔質炭素(炭素質焼成体)を作製し、しかる後、この非晶質の多孔質炭素を、非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、非晶質の多孔質炭素が結晶化する温度以上(例えば、2000℃)で熱処理することにより得られる。 前記非晶質多孔質炭素は、大きさが略同等である多数のメソ孔を有しており、このメソ孔間に形成された炭素質壁におけるメソ孔に臨む位置には、ミクロ孔が形成されるような構造となっていることが好ましい。この非晶質の多孔質炭素の熱処理においては、多数のメソ孔が存在した状態は維持されており、しかも、炭素部分(炭素質壁)の少なくとも一部は層状構造を形成する。したがって、この熱処理により、結晶性の発達した多孔質炭素が得られることになる。 【0027】 上記有機質樹脂としては、単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素もしくはフッ素原子を含むポリイミドもしくは炭素化収率が40重量%以上85重量%以下の樹脂、例えばフェノール樹脂やピッチが好ましく用いられる。 ここで、上記単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素もしくはフッ素原子を含むポリイミドは、酸成分とジアミン成分との重縮合により得ることができる。但し、この場合、酸成分及びジアミン成分のいずれか一方又は両方に、一つ以上の窒素原子もしくはフッ素原子を含む必要がある。 具体的には、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を成膜し、溶媒を加熱除去することによりポリアミド酸膜を得る。次に、得られたポリアミド酸膜を200℃以上で熱イミド化することによりポリイミドを製造することができる。 【0028】 前記ジアミンとしては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン〔2,2-Bis(4-aminophenyl)hexafluoropropane〕、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-ベンジジン〔2,2’-Bis(trifluoromethyl)-benzidine〕、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニルや、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン,3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジ(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’,5,5’-テトラフルオロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラ(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラフルオロ-4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’,5,5’-テトラ(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’,5,5’-テトラフルオロ-4,4-ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、1,3-ジアミノ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-メチル-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-メトキシ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-2,4,6-トリフロオロー5-(パ-フルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-クロロ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-プブロモ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-4-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-4-メチル-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-4-メトキシ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-3,4,6-トリフルオロ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ヘンゼン、1,2-ジアミノ-4-クロロ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2一ジアミノ-4-ブロモ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-3-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2-メチル-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ペンセン、1,4-ジアミノ-2-メトキシ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,6-トリフルオロ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2-クロロ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4一ジアミノ-2-プブロモ-5-(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-メチル-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-メトキシ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-2,4,6-トリフルオロ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-クロロ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-ブロモ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-4-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-4-メチル-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-4-メトキシ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-3,4,6-トリフルオロ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-4-クロロ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2-ジアミノ-4-ブロモ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-3-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2-メチル-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2-メトキシ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,6-トリフルオロ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2-クロロ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2-プロモ-5-(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼンやフッ素原子を含まないp-フェニレンジアミン(PPD)、ジオキシジアニリン等の芳香族ジアミンが例示できる。また、上記ジアミン成分は上記各芳香族ジアミンを2種以上組み合わせて使用してもよい。 【0029】 一方、酸成分としては、フッ素原子を含む4,4-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)、およびフッ素原子を含まない3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)等が挙げられる。 また、ポリイミド前駆体の溶媒として用いる有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。 【0030】 イミド化の手法としては公知の方法〔例えば高分子学会編「新高分子実験学」共立出版、1996年3月28日、第3巻高分子の合成・反応(2)158頁参照〕に示されるように、加熱あるいは化学イミド化のどちらの方法に従ってもよく、本発明はこのイミド化の方法には左右されない。 更に、ポリイミド以外の樹脂としては、石油系タールピッチ、アクリル樹脂等40%以上の炭素収率を持つものが使用できる。 【0031】 一方、上記酸化物として用いる原料はアルカリ土類金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化カルシウム等)の他に、熱処理により熱分解過程で酸化マグネシウムへと状態が変化する、金属有機酸(クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等)を使用することもできる。 また、酸化物を取り除く洗浄液としては、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酢酸、ギ酸など一般的な無機酸や有機酸を使用し、2mol/l以下の希酸として用いるのが好ましい。また、80℃以上の熱水を使用することも可能である。 【0032】 更に、前記混合物の炭化は、非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、500℃以上、1500℃以下の温度で炭化することが好ましい。高炭素収率の樹脂は高分子であるため、500℃未満では炭素化が不十分で細孔の発達が十分ではない場合がある一方、1500℃以上では収縮が大きく、酸化物が焼結し粗大化するため、細孔サイズが小さくなって比表面積が小さくなるからである。非酸化性雰囲気とは、アルゴン雰囲気或いは窒素雰囲気等であり、減圧雰囲気とは133Pa(1torr)以下の雰囲気である。 【0033】 前記非晶質の多孔質炭素を熱処理する場合、非酸化性雰囲気又は減圧雰囲気で行う必要があるが、この場合の非酸化性雰囲気とは、上記と同様、アルゴン雰囲気或いは窒素雰囲気等であり、減圧雰囲気とは、上記と同様、133Pa(1torr)以下の雰囲気をいう。更に、熱処理温度は、非晶質の炭素が結晶化する温度以上であれば問題ないが、円滑且つ短時間で層状構造を形成するには、800℃以上が好ましく、2000℃以上の温度であることがより望ましい。但し、余り温度が高いとエネルギーの無駄が生じるので、熱処理温度は2500℃以下で行うのが好ましい。 【実施例】 【0034】 (実施例1) 先ず、図1(a)に示すように、炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂)1と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)2とを、90:10の重量比で混合した。次に、図1(b)に示すように、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理して、ポリアミック酸樹脂を熱分解させることにより炭素質壁3を備えた焼成物を得た。次いで、図1(c)に示すように、得られた焼成物を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより多数のメソ孔4を有する非晶質の多孔質炭素5を得た。最後に、この非晶質の多孔質炭素を、窒素雰囲気中2500℃で1時間熱処理して、多孔質炭素を得た。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A1と称する。 【0035】 本発明炭素A1のSTEM(走査透過電子顕微鏡)写真を図2に示す。図2から明らかなように、本発明炭素A1の炭素部分の少なくとも一部は層状を成しており、これによって、炭素部分の少なくとも一部の結晶性が発達していることがわかる。つまり、本発明炭素A1は、炭素質壁3の少なくとも一部の結晶性が発達していることがわかる。尚、隣接する層の層間距離は0.33nm程度であるので、11層構造であれば、層状を成す炭素部分の厚みは3.3nm(0.33nm×〔11-1〕)となる。また、本発明炭素A1は3次元網目構造(スポンジ状のカーボン形状)を成し、更に、上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっていることが認められた。 【0036】 (実施例2) 非晶質の多孔質炭素を熱処理する際の温度を2000℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A2と称する。 本発明炭素A2のSTEM写真を図3に示す。図3から明らかなように、本発明炭素A2の炭素部分の少なくとも一部は層状を成しており、これによって、炭素部分の少なくとも一部の結晶性が発達していることがわかる。また、本発明炭素A2は3次元網目構造(スポンジ状のカーボン形状)を成し、更に、上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっていることが認められた。 【0037】 (実施例3) 非晶質の多孔質炭素を熱処理する際の温度を1400℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A3と称する。 【0038】 (実施例4) 非晶質の多孔質炭素を熱処理する際の温度を900℃とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A4と称する。 本発明炭素A4のSTEM(走査透過電子顕微鏡)写真を図4に示す。図4から明らかなように、本発明炭素A4の炭素部分の少なくとも一部は層状を成しており、これによって、炭素部分の少なくとも一部の結晶性が発達していることがわかる。また、本発明炭素A4は3次元網目構造(スポンジ状のカーボン形状)を成し、更に、上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっていることが認められた。 【0039】 (比較例1) 熱処理前の炭素材料として、非晶質の多孔質炭素に代えて活性炭(和光純薬工業株式会社製試薬)を用い、且つ、その活性炭を2000℃で熱処理した他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、比較炭素Z1と称する。 【0040】 (比較例2) 熱処理前の炭素材料として、非晶質の多孔質炭素に代えて活性炭(和光純薬工業株式会社製試薬)を用い、且つ、その活性炭を1400℃で熱処理した他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、比較炭素Z2と称する 【0041】 (比較例3) 熱処理前の炭素材料として、非晶質の多孔質炭素に代えて活性炭(和光純薬工業株式会社製試薬)を用い、且つ、その活性炭を熱処理しなかった他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。 このようにして作製した多孔質炭素を、以下、比較炭素Z3と称する。 【0042】 (実験1) 上記本発明炭素A1?A4における相対圧力とN_(2)吸着量との関係(吸着等温線)を調べたので、その結果を図5に示す 本実験は、比表面積測定装置(BELSORP18(登録商標)、日本ベル(株))を用い、窒素吸着法により測定した。試料は、約0.1gをセルに採取して装置の試料前処理部で、300℃で約5時間脱ガス処理をした後に測定した。 【0043】 図5から明らかなように、相対圧力が0?0.1の範囲においては、本発明炭素A3、A4ではN_(2)ガス吸着量が多くなっているのに対して、本発明炭素A2では本発明炭素A3、A4と比べてN_(2)ガス吸着量が減少し、本発明炭素A1では殆どN_(2)ガスを吸着していないことが認められる。一方、相対圧力が0.1を超える範囲では、本発明炭素A1、A2は本発明炭素A3、A4に比べてN_(2)ガス吸着量は少ないものの、十分にN_(2)ガスを吸着していることが認められる。このような実験結果となった理由を調べるべく、下記実験2を行った。 【0044】 (実験2) 上記本発明炭素A1?A4について、BET比表面積と、メソ孔容量と、ミクロ孔容量とを求めたので、その結果を表1に示す。尚、BET比表面積は、吸着等温線の結果からBET法を用いて算出した。また、メソ孔容量はBJH(Berret-Joyner-Halenda)法で調べた。更に、ミクロ孔容量はHK(Horbath-Kawazoe)法で調べた。 【0045】 【表1】 【0046】 表1から明らかなように、熱処理前の炭素材料として多孔質炭素を用い、これを900℃又は1400℃で熱処理した本発明炭素A3、A4では、相対圧力が高い場合のガス吸着能が高いメソ孔と、このメソ孔に臨む位置に配置され相対圧力が低い場合のガス吸着能が高いミクロ孔との容量が、共に大きい。したがって、本発明炭素A3、A4では、相対圧力の高低に関わらずガス吸着能が高くなる。 【0047】 これに対して、熱処理前の炭素材料として多孔質炭素を用い、これを2000℃で熱処理した本発明炭素A2では、本発明炭素A3、A4と比べて、メソ孔とミクロ孔との容量が若干小さくなっているので、相対圧力の高低に関わらずガス吸着能が若干低下する。また、熱処理前の炭素材料として多孔質炭素を用い、これを2500℃で熱処理した本発明炭素A1では、本発明炭素A3、A4のみならず本発明炭素A2と比べても、メソ孔とミクロ孔との容量が小さくなっており、特に、ミクロ孔との容量が著しく小さくなっている。したがって、相対圧力の高低に関わらずガス吸着能が低下し、特に、ミクロ孔の容量が著しく小さくなっているので、相対圧力が低い場合のガス吸着能が特に低下する。 さらに、比較炭素Z1、Z2と、比較炭素Z3を比べてみると、熱処理により、ミクロ孔が著しく減少していることがわかる。これに対して、本発明炭素A2、A3、A4を比べてみれば、メソ孔を有していることにより、熱処理温度が上昇しても、ミクロ孔の減少が抑制されていることがわかる。ただし、熱処理温度を2500℃まで上げた本発明炭素A1ではミクロ孔の減少が認められる。 以上の理由により、実験1のような結果となったものと考えられる。 【0048】 以上の如く、本発明炭素A1、A2は本発明炭素A3、A4と比べてガス吸着能が低下するが、熱処理前の炭素材料として活性炭を用い、これを熱処理した場合と比べるとガス吸着能は格段に高くなると考えられる。なぜなら、熱処理前の炭素材料として活性炭を用い、これを2000℃で熱処理した比較炭素Z1ではメソ孔とミクロ孔との容量が極めて小さくなっているので、ガス吸着能は著しく低くなると考えられるからである。 以上のことから、本発明炭素A1、A2では、少なくとも一部の炭素を結晶化したにも関わらず、メソ孔を有していることにより多孔質状態が維持されるので、ガス吸着能等の炭素が有する利点をより十分に発揮することができると考えられる。 【0049】 尚、本発明炭素A2では、本発明炭素A3、A4と比べて、メソ孔とミクロ孔との容量が若干小さくなっているので、BET比表面積も若干小さくなっている。また、本発明炭素A1では、メソ孔とミクロ孔との容量が更に小さくなっているので、BET比表面積も一層小さくなっている。但し、メソ孔とミクロ孔との容量が極めて小さな比較炭素Z1と比べると、本発明炭素A1、A2はBET比表面積が格段に大きくなっている。 【0050】 加えて、ガス吸着能の向上等を図るためには、メソ孔容量は大きいことが望ましいが、本発明炭素A1の0.55ml/g以上に限定されるものではなく、0.2ml/g以上であれば良い。尚、このように小さなメソ孔容量となるのは、多孔質炭素を2500℃を超える温度で熱処理した場合であると考えられる。 【0051】 (実験3) 本発明炭素A1、A2、A4の嵩密度について調べたので、その結果を表2に示す。 【0052】 【表2】 【0053】 表2から明らかなように、本発明炭素A1、A2は本発明炭素A4に比べて、嵩密度が大きくなっていることが認められ、特に、本発明炭素A1の嵩密度が大きくなっていることが認められる。これは、上述の如く、本発明炭素A1、A2は本発明炭素A4に比べて、メソ孔とミクロ孔との容量が小さくなり(炭素部分の容積が大きくなり)、特に、本発明炭素A1ではメソ孔とミクロ孔との容量が非常に小さくなるということに起因するものと考えられる。 【0054】 (実験4) 本発明炭素A1、A2、A4の気孔サイズ分布(メソ孔のサイズ分布)をBJH法で調べたので、その結果を図6?図8(図6は本発明炭素A1、図7は本発明炭素A2、図8は本発明炭素A4)に示す。 図6?図8から明らかなように、本発明炭素A1、A2、A4におけるメソ孔のサイズのピークは3?5nmであることから、熱処理温度の違いによって、メソ孔のサイズのピークは変化しないことがわかる。 【0055】 (実験5) 上記本発明炭素A1?A4及び比較炭素Z1?Z3における比抵抗を調べたので、その結果を表3に示す。実験は、各炭素とバインダーとしてのポリテトラフルオロエチレン(デュポン社製テフロン(登録商標)6J)とを重量比で80:20の割合で物理的に混合したものに、溶剤としてのアセトンを添加し、シート状へと加工した。溶媒を乾燥させるため120℃で5時間乾燥させることにより100mm×100mm×1mmのシートを作製した。そして、このシートの比抵抗を、四端子法を用いて測定した。 【0056】 【表3】 【0057】 表3から明らかなように、熱処理前の炭素材料として多孔質炭素を用いた場合について考察すると、熱処理温度が2000℃以上の本発明炭素A1、A2では比抵抗が2.0?3.1×10^(1)Ω・cmであるのに対して、熱処理温度が2000℃未満の本発明炭素A3、A4では比抵抗が1.0×10^(5)?3.5×10^(5)Ω・cmとなっていることが認められる。したがって、本発明炭素A1、A2は本発明炭素A3、A4に比べて、比抵抗が格段に小さくなっていることがわかる。 【0058】 一方、熱処理前の炭素材料として活性炭を用いた場合について考察すると、熱処理温度が2000℃以上の比較炭素Z1では比抵抗が8.0×10^(2)Ω・cmであるのに対して、熱処理温度が2000℃未満の比較炭素Z2、Z3では比抵抗が3.8×10^(4)?2.4×10^(5)Ω・cmとなっていることが認められる。したがって、比較炭素Z1は比較炭素Z2、Z3に比べて、比抵抗が小さくなっている。但し、本発明炭素A1、A2と比較すると比抵抗が大きいことがわかる。この理由は定かではないが、本発明炭素A1、A2ではメソ孔が十分に存在し、層状構造が発達するのに対して、比較炭素Z1ではメソ孔が殆ど無く、層状構造が殆ど発達しないことに起因するものと考えられる。 尚、比抵抗は小さいほど好ましいが、3.1×10^(1)Ω・cm以下となっている必要はなく、1.0×10^(2)Ω・cm以下であれば多様な分野で使用することができる。 【0059】 (実験6) 本発明炭素A1と本発明炭素A4とのX線回折(線源はCuKα)を行ったので、その結果を図9に示す。 図9から明らかなように、本発明炭素A1では、ブラッグ角度(2θ±0.2°)=26.45°において、黒鉛のピーク(002面)が顕著にみられるのに対して、本発明炭素A4では、ブラッグ角度=26.45°において、黒鉛のピーク(002面)がみられないことが認められる。したがって、本発明炭素A1では炭素が黒鉛化しているが、本発明炭素A4では炭素が黒鉛化していないことがわかる。 尚、X線回折結果のピークの半値幅からシェラーの式を用いて微結晶サイズを求めたところ、微結晶径は約30nmであった。 【産業上の利用可能性】 【0060】 本発明はガス吸着材料、非水電解質電池の負極材料、キャパシタの電極材料等として用いることができる。 【符号の説明】 【0061】 1:ポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂) 2:酸化マグネシウム 3:炭素質壁 4:メソ孔 5:多孔質炭素 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えた多孔質炭素であって、 上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在し、 上記炭素質壁は3次元網目構造を成し、 上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、 嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。 【請求項2】 比表面積が200m^(2)/g以上である、請求項1に記載の多孔質炭素。 【請求項3】 上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっている、請求項1又は2に記載の多孔質炭素。 【請求項4】 上記メソ孔の容量は0.2ml/g以上である、請求項1?3の何れか1項に記載の多孔質炭素。 【請求項5】(削除) 【請求項6】 嵩密度は0.14g/cc以上である、請求項1?4の何れか1項に記載の多孔質炭素。 【請求項7】 上記層状構造を成す部分の厚みは1nm以上100nm以下である、請求項1?4および6の何れか1項に記載の多孔質炭素。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-01-31 |
出願番号 | 特願2015-213462(P2015-213462) |
審決分類 |
P
1
651・
853-
YAA
(C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B) P 1 651・ 536- YAA (C01B) P 1 651・ 121- YAA (C01B) P 1 651・ 113- YAA (C01B) P 1 651・ 851- YAA (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 磯部 香 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
金 公彦 後藤 政博 |
登録日 | 2017-09-29 |
登録番号 | 特許第6216359号(P6216359) |
権利者 | 東洋炭素株式会社 |
発明の名称 | 多孔質炭素 |
代理人 | 来代 哲男 |
代理人 | 田村 正憲 |
代理人 | 小山 靖 |
代理人 | 田村 正憲 |
代理人 | 小山 靖 |
代理人 | 来代 哲男 |