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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1350662
異議申立番号 異議2018-700109  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-13 
確定日 2019-03-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6181543号発明「調理済食品封入体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6181543号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-8〕について訂正することを認める。 特許第6181543号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6181543号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成25年12月18日に出願されたものであって、平成29年7月28日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月16日にその特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1ないし8に係る発明の特許について、平成30年2月13日に特許異議申立人 白澤 榮樹(以下「特許異議申立人1」という。) により特許異議の申立てがされ、平成30年2月16日に特許異議申立人 猪瀬 則之(以下「特許異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年5月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の平成30年7月23日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年9月4日付けで特許異議申立人1より意見書の提出があり、平成30年9月5日付けで特許異議申立人2より意見書の提出があり、平成30年11月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の平成30年12月26日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成31年2月14日付けで特許異議申立人1及び特許異議申立人2よりそれぞれ意見書の提出があったものである。
なお、平成30年7月23日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 平成30年12月26日の訂正の請求の訂正の内容
平成30年12月26日の訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20?80%である」と記載されているのを「前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)である」と訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、1容量%を除く)、」と記載されているのを「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、」と訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に「となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、」と記載されているのを「、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように、また、該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、」と訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、1容量%を除く)」と記載されているのを「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)」と訂正する。

(5) 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0044】に「尚、実施例1及び5は参考例である。」と記載されているのを「尚、実施例1、2、5、6及び13は参考例である。」と訂正する。

(6) 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0047】に「表3」と記載されているのを「表2」と訂正する。

(7) したがって、特許権者は、特許請求の範囲を、次の訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを請求する(下線は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、
前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり、
前記加熱調理済食品は静菌剤を含み、
前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)である調理済食品封入体。
【請求項2】
前記静菌剤は有機酸塩である請求項1記載の調理済食品封入体。
【請求項3】
前記加熱調理済食品における前記有機酸塩の含有量が0.1?1.0質量%である請求項2記載の調理済食品封入体。
【請求項4】
前記有機酸塩は酢酸ナトリウムである請求項2又は3記載の調理済食品封入体。
【請求項5】
前記加熱調理済食品は、中心温度が75?90℃となるような条件で1分間以上加熱された食品である請求項1?4の何れか一項に記載の調理済食品封入体。
【請求項6】
前記収容空間が複数の小空間に区分けされており、1種又は2種以上の前記加熱調理済食品が各該小空間に配されている請求項1?5の何れか一項に記載の調理済食品封入体。
【請求項7】
密封可能な包装容器の収容空間に、静菌剤を含む加熱調理済食品を封入し、該収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように、また、該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、
前記ガス置換工程後に、前記包装容器に封入された前記加熱調理済食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程とを含む、調理済食品の保存方法。
【請求項8】
前記ガス置換工程において、酸素、二酸化炭素及び窒素を含み且つこれら3成分の混合容積比が酸素:二酸化炭素:窒素=1?10(ただし、1を除く):20?50:40?79の範囲にある、混合ガスを、前記収容空間のガス置換率95%以上となるように充填する請求項7記載の調理済食品の保存方法。」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否並びに一群の請求項
(1) 訂正事項1は、請求項1の「収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合」について、「20?80%」を「20?70%(ただし、70%を除く)」にすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0027】に「包装容器の収容空間の容積(複数の小空間に区分けされている場合はそれらの容積の合計)に占める、加熱調理済食品の体積(2種以上の加熱調理済食品が収容されている場合はそれらの体積の合計)の割合(食品の収容空間占有率)は、好ましくは20?80%、更に好ましくは20?70%である。」と記載され、いわゆる除くクレームの記載と合わせて、単純に割合の範囲を減縮するのであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。

(2) 訂正事項2は、請求項1の「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、1容量%を除く)」を「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)」にすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、本件特許明細書の段落【0050】の【表1】及び段落【0052】の【表2】に実施例3、7及び9?12として収容空間の酸素濃度が7容量%のものと実施例4及び8として収容空間の酸素濃度が10容量%のものとが記載され、いわゆる除くクレームの記載と合わせて、単純に酸素濃度の範囲を減縮するのであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。

(3) 訂正事項3は、請求項7の「収容空間のガスを置換するガス置換工程」について、「二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように、また、該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)となるように」という条件により、より具体的に特定して、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、本件特許明細書の段落【0018】に「収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり」と記載され、また、同段落【0027】に「包装容器の収容空間の容積(複数の小空間に区分けされている場合はそれらの容積の合計)に占める、加熱調理済食品の体積(2種以上の加熱調理済食品が収容されている場合はそれらの体積の合計)の割合(食品の収容空間占有率)は、好ましくは20?80%、更に好ましくは20?70%である」と記載され、いわゆる除くクレームの記載と合わせて割合の範囲を減縮するのであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。

(4) 訂正事項4は、請求項7の「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、1容量%を除く)」を「且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)」にすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、本件特許明細書の段落【0050】の【表1】及び段落【0052】の【表2】に実施例3、7及び9?12として収容空間の酸素濃度が7容量%のものと実施例4及び8として収容空間の酸素濃度が10容量%のものとが記載され、いわゆる除くクレームの記載と合わせて、単純に酸素濃度の範囲を減縮するのであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。

(5) 訂正事項5は、訂正事項1ないし4に係る訂正に伴い、本件特許明細書において実施例とされていたものを参考例とするものであって、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。

(6) 訂正事項6は、本件特許明細書に記載されている食品の品質を評価した結果に係る表が表1及び表2のみであって、表3が記載されていないことからすると、本件特許明細書の段落【0047】におけるその結果を示す「表1?表3」との記載が「表1?表2」の誤記であることが明らかであるし、同段落【0048】ないし【0053】の記載とも整合しているから、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる誤記の訂正を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。

(7) 本件訂正前の請求項2ないし6は請求項1の記載を引用する関係にあり、本件訂正前の請求項8は請求項7の記載を引用する関係にあるから、請求項1ないし6に係る訂正は一群の請求項ごとに請求された訂正であり、請求項7及び8に係る訂正は一群の請求項ごとに請求された訂正である。また、本件特許明細書の段落【0044】及び【0047】に係る訂正は、すべての請求項に関係するものであるから、一群の請求項ごとに請求された訂正であるといえる。

3 むすび
よって、本件訂正に係る訂正事項1ないし6は、特許法120条の5第2項ただし書1ないし3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条4項、並びに、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-8〕について、訂正することを認める。

第3 取消理由についての判断
1 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明8」といい、それらを総合して「本件発明」ともいう。)は、本件訂正により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものである(「第2 1 (7)」参照。)。

2 平成30年5月24付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(取消理由1) 本件特許の請求項7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1)に記載された発明発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(取消理由2) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(取消理由3) 本件特許は、特許請求の範囲の請求項7及び8の記載が(1)二酸化炭素の濃度、及び(2)食品の体積の割合が特定されていない点で不備のため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。

甲1:特公平3-61417号公報(特許異議申立人1が提出した甲第1号証。特許異議申立人2が提出した甲第1号証(公開特許公報)に係る特許出願に係る公告特許公報に当たる。)
甲2:特開平11-342918号公報(特許異議申立人1が提出した甲第2号証)
甲3:特開2013-233144号公報(特許異議申立人1が提出した甲第3号証)

<特許異議申立人による証拠方法>
(1-1) 特許異議申立人1は、特許異議申立書に添付して、次の甲第1ないし3号証を提出する。
甲第1号証:特公平3-61417号公報
甲第2号証:特開平11-342918号公報
甲第3号証:特開2013-233144号公報

(1-2) 特許異議申立人1は、平成30年9月4日付け意見書に添付して、次の甲第4ないし6号証を提出する。
甲第4号証:国際公開第2009/022596号
甲第5号証:特開2011-184071号公報
甲第6号証:特開2013-17447号公報

(1-3) 特許異議申立人1は、平成31年2月14日付け意見書に添付して、次の甲第7及び8号証を提出する。
甲第7号証:特開昭58-141780号
甲第8号証:伊藤武,「毒性が強いボツリヌス菌食中毒について?レトルト類似の真空パック食品に注意?」,一般財団法人東京顕微鏡院HP,[2019年1月30日検索・印刷],インターネット<URL:http://www.kenko-kenbi.or.jp/science-center/foods/topics-foods/6664.html>

(2-1) 特許異議申立人2は、特許異議申立書に添付して、次の甲第1ないし10号証を提出する。
甲第1号証:特開昭60-164468号公報
甲第2号証:R. C. WHITING and K. A. NAFTULIN, "Effect of Headspace Oxygen Concentration on Growth and Toxin Production by Proteolytic Strains of Clostridium botulinum", JOURNAL OF FOOD PROTECTION, VOL.55, JANUARY 1992, p23-27
甲第3号証-1:「容器包装詰食品に関するボツリヌス食中毒対策について」,平成15年6月30日付け文書番号”食基発第0630002号”及び”食監発第0630004号”
甲第3号証-2:「容器包装詰低酸性食品に関するボツリヌス食中毒対策について」,平成20年6月17日付け文書番号”食安基発第0617003号”及び”食安監発第0617003号”
甲第4号証:安田武夫,「連載 プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果<5>」,プラスチックス,Vol.51,No.6,P119-127
甲第5号証:内藤茂三,「食品工場の微生物制御への有機酸の利用技術」,一般財団法人 食品分析開発センターHP,[2018年2月12日検索・印刷],インターネット<URL:http://www.mac.or.jp/mail/120401/03.shtml>
甲第6号証:「ガスバリア入門講座 基礎編2」,[2018年2月15日検索・印刷],インターネット<URL:http://www.soarnol.com/jpn/solution/solution031001.html>
甲第7号証:「ガス混合器」,八重洲貿易株式会社HP,[2018年2月15日検索・印刷],インターネット<URL:http://www.ybk.co.jp/general/1083-10_pbi.html>
甲第8号証:特開平9-322745号公報
甲第9号証:実用新案登録第3125656号公報
甲第10号証:実用新案登録第3171979号公報

(2-2) 特許異議申立人2は、平成30年9月5日付け意見書に添付して、次の甲第11及び12号証を提出する。
甲第11号証:特許異議申立人2が作成した平成30年9月5日付けの計算結果報告書
甲第12号証:特開2008-212035号公報

3 特許異議申立人1が提出した甲第1ないし6号証及び特許異議申立人2が提出した甲第12号証の記載事項
(1) 特許異議申立人1が提出した甲第1号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第1号証には次の事項が記載されている。
ア 「1 100℃以下で加熱処理した後10℃以下の温度で保存するPH6.0?7.0のチルド流通密封食品の製造において、(1) 有機酸塩を1/100モル?1/10モル濃度添加することにより食品のPHを6.0?7.0に保持するとともに(2) 炭酸ガス濃度が5%以上の容器内に食品を密封することを特徴とする保存性の良好なチルド流通密封食品の製造法。」(1頁1欄2?8行)

イ 「容器の形状は問うところではなく、袋、箱、缶、瓶などに任意に選択して用いることができる。
本発明においては、その次には食品が密封されている容器内の炭酸ガス濃度を5%以上(そして好ましくは酸素濃度を5%以下)にする必要がある。これは容器内を静菌状態に保つて腐敗を防止するとともに食品の香り、味、風味等を保持するためであり、特に炭酸ガス濃度10?80%程度、そして酸素濃度を1%以下にするのが好ましい。ギヨウザ、シユマイなどの形状がしつかりしているものは炭酸ガスが100%であつてもよいが、一般には炭酸ガスがあまりに多いと炭酸ガスが食品中の水分に吸収されて減圧状態になり、包装が変形しそれにつれて食品の形状も変化してしまうので好ましくない。ガスの充填方法は特に限定されるものではなく、チヤンバー式のガス置換包装機、ガスフラツシユ式のガス充填包装機のいずれを用いてもよい。通気するガスは炭酸ガスのみでもよいことはいうまでもないが、使いやすさの点で窒素との混合ガスを用いるのがよい。好適な残存酸素濃度が5%以下であるから、空気との置換率が75%以上であればよいことになる。しかしながらこのような置換率にせずとも、例えば鉄粉などの酸素吸収剤を包装容器内に入れて酸素濃度を下げてもよく、あるいは充填をせずに炭酸ガスを発生するような脱酸素剤を空気とともに封入して所定のガス組成にしてもよい。」(3頁6欄18行?40行/4頁7欄1行)

ウ 「実施例 1
提示した製造フローにより本発明の酢酸ナトリウム4.6g添加のPH6.6の中華風煮込み1850gを調製した。これを100gずつポリプロピレンアルミ、ポリエチレン三層パウチに詰め、日本ポリプロ工業(株)製チヤンバー式置換包装機を用いて炭酸ガス50%および窒素50%の混合ガスを充填して密封した。次にこれを滅菌機(ストツク社製、ロートマツト)を用い、圧力2.5気圧、90℃20分間の条件下で殺菌を行なつた。冷却后10℃に保存し、経時的に味覚検査と菌数測定を行ない、結果を第2表に示した。」(4頁8欄9?20行)

(2) 特許異議申立人1が提出した甲第2号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第2号証には、次の事項が記載されている。
エ 「【請求項1】ヘッドスペースを残して容器に内容物を充填し、上記ヘッドスペースを炭酸ガスでガス置換して密封した後、100℃以下の温度で連続殺菌を行うことを特徴とする容器詰め食品の製造方法。」

オ 「【0009】そして、ヘッドスペースのガス置換を窒素ガスのみで行うと、殺菌中に上記ヘッドスペースの窒素ガスが膨張して、容器の永久変形やシール漏れを生じ、一方、炭酸ガスのみでは殺菌中の容器の膨張は抑制できるが、保存中に炭酸ガスが内容物に溶解し過ぎて減圧変形し、容器が潰れてしまう。」

カ 「【0035】そして、本発明の容器詰め食品の製造方法においては、ヘッドスペース量及び炭酸ガス濃度は、図3に示す容器1の容器本体2の材質、上記容器本体2の形状、シール材3の材質により左右されるが、上記ヘッドスペースは、容器容積の10?30%、特に15?25%が好ましく、また、炭酸ガス濃度は、70?80%の範囲が好ましい。」

(3) 特許異議申立人1が提出した甲第3号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第3号証には、次の事項が記載されている。
キ 「【請求項1】
1種または2種以上の加熱調理された食品が容器にガス置換包装されているチルド保存用調理済食品封入体であって、該ガス置換包装用のガスはO_(2)濃度1容量%以下且つCO_(2)濃度5容量%超のガスであり、該加熱調理された食品は有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1を含む、チルド保存用調理済食品封入体。」

ク 「【請求項7】
前記1種または2種以上の加熱調理された食品が前記容器中で区分けされて配置されている、請求項1?6のいずれか1項記載の封入体。」

ケ 「【0017】
次いで、上記加熱調理された食品をガス置換包装に供する。当該食品は、ガス置換包装用の容器に直接導入され得る。必要に応じて、当該ガス置換包装用の容器は、内部がいくつかの区画に仕切られていて、その各区画に加熱調理された食品が区分けされて配置されていてもよい。このような仕切りは、2種類以上の加熱調理された食品を分けて包装する場合や、1種類の加熱調理された食品を人数分小分けして包装する場合等に有利である。
あるいは、上記加熱調理された食品は、別の容器に収めた状態で、当該別の容器ごとガス置換包装用の容器に導入され、包装されてもよい。当該別の容器は、密封されていない容器であればその種類は特に限定されないが、トレー、カップなど開放された容器であるほうが、ガス置換しやすいため好ましい。当該別の容器もまた、必要に応じて内部がいくつかの区画に仕切られていて、その各区画に加熱調理された食品が区分けされて配置されてもよい。」

(4) 特許異議申立人1が提出した甲第4号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第4号証には、次の事項が記載されている。
コ 「[3] 該流動性食品の充填量を、可撓性パウチの満注内容積を100容量%としたとき、流動性食品の充填量が30?70容量%に調整することを特徴とする請求項1または2記載のパウチ詰め流動性食品の殺菌方法。」(特許請求の範囲)

サ 「[0007] 発明の開示
本発明は上記従来のパウチ詰め食品の殺菌方法における問題点にかんがみなされたものであって、パウチ詰め食品を積載した殺菌棚を前後または左右に往復運動させるパウチ食品の摺動式殺菌(特開2008-17726号公報参照)において、パウチ内への内容物充填時および充填後におけるヘッドスペースガス量の厳密な管理を行うことなく、また、このための既存の充填装置のみを使用して殺菌時間の短縮ができ、かつパウチ内における内容物の温度履歴の差を小さく抑え、品質低下を防止できる新規な殺菌方法を提供するものである。」

シ 「[0028] 本発明の第3の構成によれば、該流動性食品の充填量を、可撓性パウチの満注内容積を100容量%としたとき、流動性食品の充填量を30?70容量%に調整することにより、摺動殺菌中にパウチの可撓性に起因してパウチ内の流動性食品が移動してパウチの波打ちが起こり、流動性食品の攪拌が十分に行われるため、ヘッドスペースガス量にほとんど依存することなく必要な殺菌時間が短縮されてほぼ一定となり、パウチ内のどの箇所においても内容物温度がほぼ一定となるので、パウチによってヘッドスペースガス量にばらつきがあっても殺菌時間が不足する危険性がなくなる。またその他の効果においても第1の構成と同様の効果を奏することができる。」

(5) 特許異議申立人1が提出した甲第5号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第5号証には、次の事項が記載されている。
ス 「【請求項8】
前記封入工程が、容器の内容積の50%?98%の容積の内容物を封入する工程である、請求項5?7のいずれか1項記載のレトルト製品の製造方法。」

セ 「【0008】
本発明により、たんぱく質、糖質、脂質を配合した各種流動食や栄養剤などの液状の総合栄養組成物などを内容物とするレトルト製品に対して、高温加熱を伴うレトルト殺菌処理を行っても、レトルト用容器内にある含気部における、凝集物の発生が抑制される。特に、容器内面から剥がれ落ちやすい塊状の凝集物の発生を顕著に抑制することができる。塊状の凝集物の発生が抑制されることにより、レトルト製品の外観不良の発生が防止され、剥がれ落ちた凝集物が内容液に混入することによる経管流動食用チューブの詰りなどの不具合発生を防止できる。」

ソ 「【0012】
液状物質を含む内容物12の容積は、ヒートシールされたレトルトパウチ11の内容積の50%以上、98%以下であることが好ましい。内容物12の容積をレトルトパウチ11の内容積の50%以上にすることで、コロナ放電処理された第1包材11aの内面20が、含気部13全体を覆うことができる。また、98%以下とすることで、内容物の充填が容易となる。」

(6) 特許異議申立人1が提出した甲第6号証の記載事項
特許異議申立人1が提出した甲第6号証には、次の事項が記載されている。
タ 「【請求項1】
食品対象物であるエビの水分を減少させる水分減少工程と、
水分を減少させた前記エビを収容容器に充填し、前記収容容器内に、前記エビの体積1mLあたり0.4?8.3mLのヘッドスペースを有するように気体を充填した後、前記収容容器を密封する密封工程と、
密封した前記収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程と、を有するレトルト殺菌エビの製造方法。」

チ 「【請求項4】
前記ヘッドスペースが20?300mLである請求項3に記載の収容容器入りエビ。」

ツ 「【0045】
ヘッドスペースは、収容容器の大きさに応じて容量を設定するとよい。例えば550mLの容積を有する収容容器であれば、20?300mL、好ましくは35?75mL程度のヘッドスペースを確保してレトルト殺菌したエビは良好な食感を有する。ヘッドスペースの容量を20mL未満としてレトルト殺菌したエビは、食感が劣る。一方、ヘッドスペースの容量が300mL以上であれば、収容容器が膨満な状態に近づくため、例えば輸送中に収容容器に衝撃などが与えられると、収容容器が破損する虞がある。」

(7) 特許異議申立人2が提出した甲第12号証の記載事項
特許異議申立人2が提出した甲第12号証には、次の事項が記載されている。
テ 「【0012】
次に、容器入り炊飯米の製造方法について説明する。
前記の精白米と、水と、具材とを、ヘッドスペースを有して成形容器に充填密封し、加熱殺菌処理して容器内炊飯を行う。
精白米と、水と、具材との充填順序は任意であり、例えば精白米と水と具材を一緒に充填した場合でも、容器内炊飯が可能であり、炊飯米の上に具材が載った状態等に炊飯調理することができる。
原料を成形容器に充填密封する場合の手段は任意である。この場合に、容器のヘッドスペースを7?60%、好ましくは10?50%残して容器を密封するのがよい。上記ヘッドスペースの範囲は例示に過ぎず、ヘッドスペースは容器内炊飯が可能であり、炊飯米の上部にヘッドスペースが残る大きさであればよい。また、ヘッドスペースにおいて炊飯米の上に具材が載った形態等の容器入り炊飯米を提供できる。なお、ヘッドスペースの割合は、容器の内容積に占める、原料が存在しない通常原料の上部に位置する空間部分の割合を指す。」

ト 「【0016】
2)炊飯米の上に具材が載った状態のものである。両者をセパレートすることで、保存の間における炊飯米から具材への水分移行を低減して、両者の保存時の食味・食感品質を安定させることが可能となる。なお、炊飯米と具材が混在したものも排除されない。具材の大きさは、外径が8?50mm程度のものが量感があり望ましい。
3)炊飯米の露出した上部表面部における20%以上、好ましくは30%以上の米粒が立った状態である。望ましくは、上記の米粒の立った状態が、水平面に対する米粒の長径方向の傾きが45度以上である。
これらの状態は、精白米を成形容器内でヘッドスペースを有して容器内炊飯した場合に達成できるもので、炊飯米の食味・食感品質が高品質であることを示すものである。同時に具材を含んで、炊飯米の上に具材が載った状態のものである場合は、炊飯米の上部表面部における立った状態の米粒が具材を持上げる作用をもつことになり、これによっても保存時の炊飯米から具材への水分移行が抑えられる効能が得られる。炊飯米の上に具材が載っている場合は、炊飯米の露出した上部表面部とは具材が載っていない部分を指す。
4)また、容器の容積中容積比率において、炊飯米が40?90%、具材が7?40%、容器のヘッドスペースが7?60%とすることが挙げられる。これらにより、保存時における原料の水分移行が低減され品質が安定で、炊飯米の上に具材が載った形態を採る場合は見栄えがよいものとなり(容器乃至蓋材を透明材で形成するとよい)、容器入り炊飯米を電子レンジでそのまま加熱した場合に、炊飯米と具材が良好に加熱される。
5)炊飯米のpHが5.5?8.0、好ましくは6.0?7.5である。これにより食味の良好な炊飯米が得られる。
6)容器のヘッドスペースの酸素濃度が5%以下、好ましくは2%以下である。加熱殺菌処理することで、ヘッドスペースの酸素濃度が低濃度となり、チルド保存時の保存性が向上する。本発明により上記の酸素濃度が達成され、脱酸素剤の使用は不要となる。」

4 取消理由2(29条2項)について
(1) 本件発明1について
特許異議申立人1が提出した甲第1号証には、上記記載事項(上記「ア」及び「ウ」参照。)を総合すると、次の「甲1発明」が記載されていると認めることができる。

「密封された包装した容器と該包装した容器内に封入されている中華風煮込み等の食品とを含んで構成されるpH6.0?7.0のチルド流通密封食品であって、
前記包装した容器内に炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にし、
前記中華風煮込み等の食品は酢酸ナトリウムを添加し、
前記包装した容器内に混合ガスを充填して密封した保存性の良好なpH6.0?7.0のチルド流通密封食品。」

本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「密封された包装した容器」は本件発明1の「包装容器」に相当する。
以下同様に、「包装した容器内」は「包装容器内の収容空間」及び「収容空間」に、「中華風煮込み等の食品」は「加熱調理済食品」に、「pH6.0?7.0のチルド流通密封食品」及び「包装した容器内に混合ガスを充填して密封した保存性の良好なpH6.0?7.0のチルド流通密封食品」は「調理済食品封入体」に、「炭酸ガス」は「二酸化炭素」に、「酢酸ナトリウム」は静菌剤に係る技術常識からして「静菌剤」に、「添加し」た態様は「含(み)」んだ態様に、それぞれ相当している。
また、本件発明1の「前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であ(り)」る態様と、甲1発明の「前記包装した容器内に炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にし」た態様とは、「前記収容空間に所定のガスが含まれ、且つ該収容空間の所定のガスが所定の容量であ(り)」る態様の限りで一致している。

したがって、両者は
「密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、
前記収容空間に所定のガスが含まれ、且つ該収容空間の所定のガスが所定の容量であり、
前記加熱調理済食品は静菌剤を含む、
調理済食品封入体。」
の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1] 「所定のガス」及び「所定の容量」に関し、本件発明1では、「酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ」「酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であ」るのに対し、甲1発明では、「炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にし」た点。

[相違点2] 本件発明1では、「収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)である」のに対し、甲1発明では、「包装した容器内に混合ガスを充填して密封した」ものであって、その包装した容器内の容積に占める中華風煮込み等の食品の体積の割合が不明である点。

上記相違点1について検討すると、特許異議申立人1が提出した甲第1号証には、甲1発明の「炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上に(し)」するために、「好適な残存酸素濃度が5%以下であるから、空気との置換率が75%以上であればよい」(当審注:概略で空気の20%が酸素と考えた場合の置換率と解せる。)ことが記載されている(上記「イ」参照。)ことからすると、当業者にとって酸素濃度を5%以下とする動機付けがあるといえるところ、その反対を志向する「酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)」とすること、すなわち「酸素濃度が5%超」となるように「空気との置換」を行うことについて、阻害する事情があるとはいえないまでも、甲1発明をして「酸素濃度が5%超」とする動機付けが当業者にあるとはいえない。
また、特許異議申立人1の提出した甲第2ないし8号証及び特許異議申立人2の提出した甲第1ないし12号証にもこの相違点1に係る本件発明1の構成が記載されておらず、これらの証拠に記載された事項を考慮しても、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明(甲1発明)をして、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。
なお、特許異議申立人2の提出した甲第2号証に、酸素濃度0%ないし1%の環境下では十分なボツリヌス菌の増殖及び毒素酸性抑制効果が得られず、2%でボツリヌス菌の増殖及び毒素産生抑制効果が認められる旨の実験結果が記載されており、特許異議申立人1の提出した甲第7号証に、ボツリヌス菌等の嫌気性細菌の培養方法として、酸素濃度1%以下とすることが記載されているとしても、これらのことから酸素濃度を5%超にすることが記載されているとはいえない。また、そもそも、特許異議申立人1が提出した甲第1号証には「ボツリヌス菌」に係る記載がないし、特許異議申立人1が提出した甲第1号証の「酸素濃度を1%以下にするのが好ましい」(上記「イ」参照。)との記載を含め、その記載全体からして甲1発明は、本件発明のような「ボツリヌス菌」を想定したものではないというべきであるから、ボツリヌス菌に対する酸素濃度に係る上記知見があったとしても、甲1発明に適用する動機付けになるとはいえない。仮に適用したとしても、酸素濃度2%でボツリヌス菌の増殖及び毒素産生抑制効果が認められるのであれば、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に示唆されたそれは5%以下であるからボツリヌス菌の増殖及び毒素産生抑制効果を十分有すると解せるので、甲1発明のそれを5%超とする動機付けになるとはいえない。
よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2) 本件発明2ないし6について
請求項2ないし6の記載はそれぞれ請求項1の記載を引用する形式のものであり、本件発明2ないし6は本件発明1の発明特定事項をすべて含むところ、上述のとおり本件発明1は上記取消理由2について理由がないから、同様の理由により、本件発明2ないし6は、上記取消理由2について理由がない。

(3) 本件発明7について
特許異議申立人1が提出した甲第1号証には、上記記載事項(上記「ア」及び「ウ」参照。)を総合すると、次の「甲1方法発明」が記載されていると認めることができる。

「密封する包装した容器内に、酢酸ナトリウムを添加した中華風煮込み等の食品を密封し、該包装した容器内に炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にする、該包装した容器内のガスを置換するガス置換工程と、
前記ガス置換工程後に、前記包装した容器に密封された前記中華風煮込み等の食品を保存性の良好なpH6.0?7.0のチルド流通密封食品として10℃以下の温度で保存する工程とを含む、中華風煮込み等の食品を保存する方法。」

本件発明7と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明の「密封する」態様は本件発明7の「密封可能な」態様に相当する。
以下同様に、「包装した容器内」は「包装容器の収容空間」及び「収容空間」に、「酢酸ナトリウム」は静菌剤に係る技術常識からして「静菌剤」に、「添加した」態様は「含む」態様に、「中華風煮込み等の食品」は「加熱調理済食品」に、「密封し」た態様は「封入し」た態様に、「炭酸ガス」は「二酸化炭素」に、「包装した容器に密封された」態様は「包装容器に封入された」態様に、「保存性の良好なpH6.0?7.0のチルド流通密封食品として10℃以下の温度で保存する」態様は「該包装容器ごとチルド状態で保存する」態様に、「中華風煮込み等の食品を保存する方法」は「調理済食品の保存方法」に、それぞれ相当している。
また、本件発明7の「該収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように」する態様と、甲1方法発明の「該包装した容器内に炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にする」態様とは、「該収容空間に所定のガスが含まれ且つ該収容空間の所定のガスが所定の容量となるように」する態様の限りで一致している。

したがって、両者は
「密封可能な包装容器の収容空間に、静菌剤を含む加熱調理済食品を封入し、該収容空間に所定のガスが含まれ且つ該収容空間の所定のガスが所定の容量となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、
前記ガス置換工程後に、前記包装容器に封入された前記加熱調理済食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程とを含む、調理済食品の保存方法。」
の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点3] 「所定のガス」及び「所定の容量」に関し、本件発明7では、「酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ」「酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下」であるのに対し、甲1方法発明では、「炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にする」点。

[相違点4] 本件発明7では、「該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)となるように」するのに対し、甲1方法発明では、「容器内に」「中華風煮込み等の食品を密封し」「包装した容器内のガスを置換する」ものの、その包装した容器内の容積に占める中華風煮込み等の食品の体積の割合が不明である点。

上記相違点3について検討すると、特許異議申立人1が提出した甲第1号証には、甲1方法発明の「炭酸ガス50%及び窒素50%との混合ガスを用いて空気と置換するガス充填を行い容器内の炭酸ガス濃度を5%以上にする」ために、「好適な残存酸素濃度が5%以下であるから、空気との置換率が75%以上であればよい」ことが記載されている(上記「イ」参照。)こと等について、既に本件発明1に係る相違点1について検討したのと同様に、甲1方法発明をして、本件発明7の上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。
よって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明7は、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明(甲1方法発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4) 本件発明8について
請求項8の記載は請求項7の記載を引用する形式のものであり、本件発明8は本件発明7の発明特定事項をすべて含むところ、上述のとおり本件発明7は上記取消理由2について理由がないから、同様の理由により、本件発明8は、上記取消理由2について理由がない。

5 取消理由1(29条1項3号)について
(1) 本件発明7について
既に「4(3)」で述べたとおり、本件発明7と甲1方法発明とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点3及び4で実質的に相違しているから、本件発明7は、特許異議申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明(甲1方法発明)ではない。
したがって、取消理由1は理由がない。

6 取消理由3(36条6項1号)について
本件訂正により、本件発明7は、(1)二酸化炭素の濃度、及び、(2)食品の体積の割合について特定されているし、請求項8は請求項7の記載を引用する記載である。そうすると、請求項7及び8には、(1)二酸化炭素の濃度、及び、(2)食品の体積の割合について特定されておらず、発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、本件発明7及び8は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる旨の取消理由3は、理由がない。

第4 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載された申立て理由について
上記申立て理由の概要は、特許異議申立人2が申立てた(1)申立理由1(明確性要件違反)の「測定時期」に係る主張、(2)申立理由2(実施可能要件違反)の「測定時期」に係る主張及び(3)申立理由3(サポート要件違反)の(い)「静菌剤」、(ろ)「pH値」、(は)「加熱条件」及び(に)「測定時期」に係る主張である。
(1)、(2)及び(3)の(に)についてより詳しく述べると、請求項1に記載された「収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり」及び 請求項7に記載された「収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように」に関し、「収容空間の酸素濃度」及び「二酸化炭素濃度」が、どの時点において測定したものであるかが不明確である、そして、本件特許明細書に記載された実施例の容器でさえ、容器内部の気体濃度は経時変化するから、それを一定に維持することができる具体的容器を当業者が理解できず、本件発明を実施できない。また、本件発明の課題を解決できる範囲とはいえないというものであるが、本件発明は、いつの時点において酸素及び二酸化炭素の濃度を測定したかに依るものや、それを一定に維持することができる具体的容器を特定するものでなく、密封可能な包装容器のうち具体的容器に関わらず、測定した際の濃度が特定された範囲を満たすものが該当するといえる。そうすると、上記主張は失当であり、理由がない。
(3)の(い)ないし(は)についてより詳しく述べる。(い)「静菌剤」については、本件特許明細書において本件発明の効果を具体的に確認した「静菌剤」がその生理活性が格段に強い「酢酸ナトリウム」であって、他には具体的に確認していないので、課題を解決できるとは認識ができない、というものであるが、本件特許明細書全体の記載及び抗菌・殺菌に係る技術常識からすると、本件発明において「静菌剤」は所定の用法において所定の静菌機能を発揮すれば足りると解せることからして、特定のものに限定されるものではなく、「有機塩」やその含有量、さらには「酢酸ナトリウム」に限定する必要があるとまではいえず、理由がない。(ろ)「pH値」については、静菌活性がpH・解離度に大きく依存することから「pH値」を特定することが本件発明の課題解決手段として必須である、というものであるが、(い)と同様に、本件発明において「静菌剤」は所定の用法において所定の静菌機能を発揮すれば足りると解せるし、抗菌機能はpHに依存する静菌活性のみによるのではないから、必ずしも「pH値」を特定しなければならないとはいえず、理由がない。(は)「加熱条件」については、殺菌のための具体的加熱条件を特定することが本件発明の課題解決手段として必須である、というものであるが、どのような程度の殺菌を行うかといった、殺菌に係る技術常識から選択し得る範囲において設定すればよいことと解せるから、それを特定することが本件発明の課題解決手段として必須であるとはいえず、理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由通知に記載した上記取消理由1ないし3及び特許異議申立書に記載された申立て理由によっては、本件発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
調理済食品封入体
【技術分野】
【0001】
本発明は、チルド状態で長期保存可能な調理済食品封入体、及び調理済食品の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣の変化により、家庭で調理を行わず、弁当や総菜等の調理済食品を購入して家庭で食することが増えている。調理済食品は、一般に、工場や店内の厨房で大量に製造され、その後配送又は店頭に陳列されるので、製造から家庭で食されるまでの間に長時間が経過している場合がある。そのため、こうした大量製造されて店頭で販売される調理済食品には、食品の品質を長期間維持するための工夫が施されているのが通常である。
【0003】
調理済食品を長期保存するとき問題となるのが、微生物の繁殖による食品の腐敗や変質である。特に、バチルス属やクロストリジウム属のような芽胞菌は、耐熱性が高く通常の調理の加熱で殺菌されにくいため問題となる。芽胞菌以外の菌でも、ミクロバクテリウムのような耐熱性の強い菌群は、通常の調理過程では殺菌されにくいため、制御が困難な菌である。
【0004】
従来、調理済食品における微生物の繁殖を抑えてその品質を保持するための手段として、保存料や日持ち向上剤の添加が一般に行われている。保存料としては、例えば、ソルビン酸、安息香酸、プロタミン、ポリリジン等の塩基性ペプチド等、日持ち向上剤としては、酢酸、フマル酸、アジピン酸等の有機酸又はその塩、グリシン、アラニン等のアミノ酸、低級脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ビタミンB1エステル、含水エタノール、重合リン酸等、多くの物質が知られている。
【0005】
従来の食品保存手段としてはまた、冷凍保存や加圧加熱殺菌(レトルト)が知られているが、これらの手段は、高価な設備や煩雑な温度管理が必要な上、食品の食味や食感、風味を損ねる場合がある。
【0006】
また、無酸素下や不活性ガス存在下で食品を保存することにより、食品における微生物の繁殖を抑えることができることが知られている。例えば特許文献1には、調理食品の腐敗防止方法として、加熱調理済を容器内に密封し、且つ該容器内の二酸化炭素濃度を5%以上、酸素濃度を5%以下にすることが記載されている。特許文献1には、容器内を静菌状態に保って腐敗を防止得ると共に食品の香り、味、風味等を保持するためには、容器内の酸素濃度を1%以下にすることが好ましい旨も記載されており、実施例では、加熱調理済食品を容器内に密封した際の、該容器内の残存酸素量を0.4%に設定し、該実施例のバチルス属の耐熱性菌に対する有効性が示されている。
【0007】
また特許文献2には、保存性の良好なチルド流通密封食品の製造法として、加熱されていない非加熱食品に有機酸塩を所定量添加してpHを6?7に保持し、該非加熱食品を、品温が100℃以下となるような条件で加熱処理した後、二酸化炭素濃度が5%以上の容器内に密封する方法が記載されている。特許文献2には、容器内を静菌状態に保って腐敗を防止し得ると共に食品の香り、味、風味等を保持するためには、容器内の酸素濃度を1%以下にすることが好ましい旨も記載されており、特許文献2記載の方法が特にバチルス属の芽胞菌に対して有効である旨も記載されている。
【0008】
また特許文献3には、青果物等の非加熱の生鮮食品の保存方法として、有機系の脱酸素剤及び鉄系の脱酸素剤と共に、食品を密閉可能な容器内に収容し、且つ該容器内の気体の組成を、酸素7%以下、二酸化炭素10?0.5%、窒素99?82%とする方法が記載されており、この密閉容器内の食品を、10℃以下で且つ該食品が全く又は殆ど凍結しない温度以上で冷却することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58-98072号公報
【特許文献2】特開昭60-164468号公報
【特許文献3】特開昭63-137643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2に記載の技術では、加熱調理済食品の保存中に、バチルス属以外の他の耐熱性微生物(例えばボツリヌス菌)の増殖又は毒素産生を抑制することができず、チルド状態で長期保存可能な調理済食品は得られない。
【0011】
本発明の課題は、食品本来の食味、風味、外観を維持しながら、チルド状態で長期保存可能な調理済食品を提供し得る調理済食品封入体、及び調理済食品の保存方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、静菌剤を含まない加熱調理済食品を、酸素、二酸化炭素及び窒素を含む、包装容器内の収容空間に封入し、且つ該収容空間の酸素濃度を1容量%以上10容量%以下に設定することにより、該食品本来の食味、風味、外観を維持しつつ、チルド状態の該食品における耐熱性微生物の増殖又は毒素産生、特に、クロストリジウム属の芽胞菌の一種であるボツリヌス菌の毒素産生が効果的に抑制されることを知見した(第1の知見)。
【0013】
また、本発明者らは、前記収容空間の酸素濃度を前記特定範囲に設定することに加えて更に、加熱調理済食品に静菌剤(有機酸塩)を含有させ、且つ該収容空間の二酸化炭素濃度と該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合とをそれぞれ特定範囲に設定することにより、ボツリヌス菌以外の他の耐熱性微生物(バチルス属、ミクロバクテリウム属)の増殖抑制効果がより一層高まることも知見した(第2の知見)。
【0014】
本発明は、前記第1の知見に基づきなされたもので、密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下である調理済食品封入体である。
【0015】
また本発明は、前記第2の知見に基づきなされたもので、密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり、前記加熱調理済食品は静菌剤を含み、前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20?80%である調理済食品封入体である。
【0016】
また本発明は、前記第1及び第2の知見に基づきなされたもので、密封可能な包装容器の収容空間に加熱調理済食品を封入し、該収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、前記ガス置換工程後に、前記包装容器に封入された前記加熱調理済食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程とを含む、調理済食品の保存方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、食品本来の食味、風味、外観を維持しながら、チルド状態で長期保存可能な調理済食品を提供し得る調理済食品封入体、及び調理済食品の保存方法が提供される。本発明によれば、調理済食品における微生物の増殖又は毒素産生を、0℃付近から10℃前後までのチルド温度帯において長期間にわたり制御することができるので、冷凍保存等の煩雑でコストのかかる温度管理を行う必要なく調理済食品を流通・販売することが可能になる。本発明において増殖又は毒素産生が抑制される微生物の例としては、バチルス(Bacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属等の芽胞菌、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の耐熱性菌等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の調理済食品封入体について、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の第1実施形態の調理済食品封入体は、密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、前記収容空間に酸素(O_(2))、二酸化炭素(CO_(2))及び窒素(N_(2))が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり、前記加熱調理済食品は静菌剤を含み、前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20?80%である。第1実施形態の調理済食品封入体は、クロストリジウム属の微生物(ボツリヌス菌)の他、バチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物に対しても、優れた増殖抑制効果を示す。
【0019】
第1実施形態の調理済食品封入体は、加熱調理済食品をガス置換包装により包装容器内に密封したものである。加熱調理済食品は、1種又は2種以上の各種食材(肉類、野菜類、魚類等)を加熱調理して得られる食品であり、その種類や調理法は特に制限されず、例えば食材(食品)の加熱回数は1回のみならず2回以上であっても良い。加熱調理済食品としては各種惣菜が挙げられ、具体的には例えば、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、麺類、飯類、パン類、菓子類等が挙げられる。
【0020】
加熱調理済食品の一例として、中心温度が75?90℃となるような条件で1分間以上加熱された食品が挙げられる。ここで「中心温度」とは、加熱調理される食品において、該食品全体を均一に加熱して該食品の品温を昇温させた場合に、最も昇温に時間がかかる部分の温度のことであり、例えば、記憶式温度計データトレース(西華産業)によって測定することができる。加熱調理済食品がこのような条件(加熱温度、加熱時間)で調理されたものであると、本発明で静菌対象とするバチルス属やクロストリジウム属のような芽胞菌やミクロバクテリウムのような耐熱性の強い菌群以外の非耐熱性の菌類を殺菌できる。
【0021】
第1実施形態の調理済食品封入体は、加熱調理済食品の1種又は2種以上を含む。第1実施形態の調理済食品封入体が2種以上の加熱調理済食品を含む場合、その2種以上の組み合わせとしては、複数種の異なる惣菜の組み合わせ、惣菜と飯との組み合わせ等、所望に応じて任意に設定することができる。
【0022】
加熱調理済食品は静菌剤(制菌剤)を含む。加熱調理済食品に静菌剤を含有させることで、チルド状態の加熱調理済食品における耐熱性微生物の増殖、特にバチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物の増殖を効果的に抑制することができる。加熱調理済食品に含有可能な静菌剤としては有機酸塩が挙げられる。有機酸塩(静菌剤)としては、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸等の有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの有機酸塩(静菌剤)の中でも特に、酢酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
加熱調理済食品における有機酸塩(静菌剤)の含有量は、加熱調理済食品の全質量に対して、好ましくは0.1?1.0質量%、更に好ましくは0.1?0.35質量%、より好ましくは0.1?0.25質量%である。加熱調理済食品における有機酸塩(静菌剤)の含有量が少なすぎると、有機酸塩を添加する意義(耐熱性微生物の増殖抑制)に乏しく、該含有量が多すぎると、加熱調理済食品の酸味が増して該食品本来の食味、風味が失われるおそれがある。
【0024】
第1実施形態の調理済食品封入体を構成する包装容器としては、食品のガス置換包装に通常使用される材料、例えばガスバリア性又は酸素バリア性の樹脂類や金属等から製造された包装容器を用いることができる。このような包装容器材料の例としては、アルミニウム等の金属類、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン(NY)類、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アルミラミネート(AL)、アルミ蒸着フィルム(VM)、シリカ蒸着フィルム、PET/NY/ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)、PET/NY/AL/PP又はPE、PP/EVOH/PE、PP/PVA/PE等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
また、包装容器は、加熱調理済食品を直接的又は間接的に収容可能な収容空間を内部に有し且つ密閉可能なものであれば良く、その形状、寸法は特に制限されない。包装容器の形状としては、例えばトレー、カップ、袋、箱、缶等から任意に選択することができる。ここで「食品を直接的に収容可能」とは、食品を包装せずにそのまま収容し得ることを意味し、「食品を間接的に収容可能」とは、包装容器とは別の容器に収容された食品を該別の容器ごと収容し得ることを意味する。第1実施形態の調理済食品封入体には、前者(食品を包装容器に直接収容する形態)のみならず、後者(食品を包装容器に間接的に収容する形態)も含まれる。包装容器に収容される前記別の容器の材質、形状、寸法は特に制限されず、包装容器と同様に構成することができるが、該別の容器が、一部に設けられた開口を通じて外部と連通している開放型容器であると、ガス置換しやすいという効果が奏される。
【0026】
包装容器内の収容空間は、仕切り部材の無い単一の空間であっても良く、仕切り部材によって複数の小空間に区分けされていても良い。包装容器内の収容空間が複数の小空間に区分けされている場合、1種又は2種以上の加熱調理済食品を各小空間に配することが可能となり、それによって、例えば、1種類の加熱調理済食品を複数人数分小分けして包装する形態、あるいは2種類以上の加熱調理済食品をその種類ごとに分けて包装する形態等、種々の包装形態に調理済食品封入体を適用させることが可能となる。包装容器内の収容空間における複数の小空間が互いに連通していると、ガス置換しやすいという効果が奏される。尚、包装容器内の収容空間に収容される前記別の容器も、包装容器と同様に複数の小空間に区分けされていても良い。
【0027】
包装容器の収容空間の容積(複数の小空間に区分けされている場合はそれらの容積の合計)に占める、加熱調理済食品の体積(2種以上の加熱調理済食品が収容されている場合はそれらの体積の合計)の割合(食品の収容空間占有率)は、好ましくは20?80%、更に好ましくは20?70%である。斯かる割合が小さすぎると、a)加熱調理済食品に対して包装容器が大きすぎてバランスが悪く、食品が型崩れしやすくなる、b)収容空間に存する特定組成のガス量が多くなることに起因して、食品の酸素との接触機会が高くなり、食品の酸化の進行度合が強くなる、c)食品の二酸化炭素との接触機会が高くなり、炭酸味が増してしまう、等の不都合が生じるおそれがあり、逆に斯かる割合が大きすぎると、収容空間に存する特定組成のガス量が少なくなることに起因して、加熱調理済食品における耐熱性微生物(特にバチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物)の増殖抑制効果が低下するおそれがある。
【0028】
第1実施形態の調理済食品封入体は、前述したように、1)加熱調理済食品は静菌剤を含む、及び2)前記食品の収容空間占有率が20?80%である、という2つの構成要件を具備していると共に、更に、3)包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下、及び4)該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、という構成要件も具備している。前記1)?4)を全て満たすことで初めて、加熱調理済食品本来の食味や風味を維持しつつ、チルド状態の加熱調理済食品における複数種の耐熱性微生物(バチルス属、ミクロバクテリウム属、クロストリジウム属等)の増殖又は毒素産生を効果的に抑制することが可能になる。特に、前記1)?3)は、バチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物の増殖抑制に有効であり、前記4)は、クロストリジウム属の微生物(ボツリヌス菌)の毒素産生抑制に有効である。
【0029】
包装容器の収容空間の酸素濃度が1容量%未満では、特にボツリヌス菌の毒素産生抑制効果に乏しく、逆に該酸素濃度が10容量%を超えると、加熱調理済食品の酸化、特に油脂成分の酸化に伴う臭気、異味や緑黄色野菜の退色等が生じやすくなり、該食品本来の食味、風味が失われるおそれがある他、ボツリヌス菌(クロストリジウム属の芽胞菌)以外の他の耐熱性微生物(例えばバチルス属の芽胞菌)が増殖するおそれもある。酸素は、ボツリヌス菌等の一部の耐熱性微生物の増殖又は毒素産生抑制には有効であるが、バチルス属の芽胞菌等にとってはむしろ有用なものであるから、包装容器の収容空間の酸素濃度が高すぎることは、加熱調理済食品の食味や風味の観点のみならず、加熱調理済食品の保存性の観点からも好ましくない。包装容器内の収容空間の酸素濃度は、好ましくは1?5容量%、更に好ましくは1?3容量%である。
【0030】
また、前記1)及び2)を具備していても、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度が20容量%未満では、特にバチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物(ボツリヌス菌以外の耐熱性微生物)の増殖又は毒素産生抑制効果に乏しく、逆に該二酸化炭素濃度が50容量%を超えると、加熱調理済食品の酸味が増して該食品本来の食味、風味が失われるおそれがある。包装容器内の収容空間の二酸化炭素濃度は、好ましくは20?40容量%、更に好ましくは25?35容量%である。
【0031】
第1実施形態の調理済食品封入体において、包装容器の収容空間にはガス成分として、酸素及び二酸化炭素以外に窒素が含まれる。例えば、包装容器の収容空間に存するガス成分が酸素、二酸化炭素及び窒素の3成分のみである場合、酸素及び二酸化炭素の濃度をそれぞれ前記範囲とした場合の残りが、該収容空間の窒素濃度である。
【0032】
第1実施形態の調理済食品封入体において、包装容器の収容空間には、酸素、二酸化炭素及び窒素以外の他のガス成分、例えば、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスが存していても良い。尚、調理済食品封入体における包装容器の収容空間のガス組成は、市販のガス分析計(例えば、商品名「CheckMate」、PBI Dansensor社製)によって測定することができる。
【0033】
包装容器の収容空間のガス組成を前記特定範囲に調整する方法は特に制限されないが、一般的な方法としては、該収容空間に元々存するガスを特定組成のガスに置換するガス置換法が挙げられる。ガス置換法の具体例としては例えば、i)加熱調理済食品が収容された包装容器内の収容空間に、特定組成のガスをフラッシュして容器内のガスを置換する方法、ii)加熱調理済食品が収容された包装容器内の収容空間を真空脱気した後に、特定組成のガスを充填する方法、等が挙げられる。ガス置換法において、包装容器の収容空間のガス置換率は、通常95%以上である。前記i)及びii)において、包装容器の収容空間に充填する特定組成のガスとしては、密封された該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるようなガスであれば良く、酸素、二酸化炭素及び窒素に加えて更に、前記不活性ガスを含んでいても良い。
【0034】
第1実施形態の調理済食品封入体は、チルド状態で長期保存が可能である。ここで「チルド状態」とは、基本的に、調理済食品封入体の保存環境の平均温度が0℃?10℃の範囲内にある状態をいうが、該平均温度は、必ずしも斯かる特定範囲に限定されるものではなく、チルド状態を作り出すための冷蔵装置の稼働状況、あるいは調理済食品封入体の移送時、搬入・搬出時等の作業に起因して、意図せずに斯かる特定範囲から逸脱する場合があり得、その温度の逸脱程度は、調理済食品封入体自体の温度(品温)にして、通常±2℃程度である。従って、この意図しない温度の変動域を考慮すると、チルド状態とは、調理済食品封入体の品温が-2℃?+12℃に維持される状態と言い換えることができる。
【0035】
第1実施形態の調理済食品封入体は、前記チルド状態の中でも高温域である8℃?10℃の温度帯においても長期保存が可能であり、より低温域で取り扱うための手間やコストを軽減することができるので、きわめて有用性が高い。ここで「長期保存」とは、調理済食品封入体の種類等にもよるが、通常、7日間以上、好ましくは10日間以上、更に好ましくは14日間以上、より好ましくは21日間以上の期間の保存をいう。
【0036】
第1実施形態の調理済食品封入体に封入された食品(加熱調理済食品)においては、微生物の増殖が長期間に亘って抑えられており、前記「長期保存」後の該食品1gあたりの微生物数は、1×10^(5)未満に保たれ得る。第1実施形態において増殖又は毒素産生が抑制される微生物の例については前述した通りであり、第1実施形態の調理済食品封入体は、クロストリジウム属(ボツリヌス菌)、バチルス属、ミクロバクテリウム属等の微生物に対して優れた増殖又は毒素産生抑制効果を示す。特許文献1及び2に記載の如き、包装容器内の酸素濃度を1%以下にする保存方法では、チルド状態の加熱調理済食品におけるバチルス属の芽胞菌の増殖又は毒素産生を抑制することはできても、該食品におけるボツリヌス菌の毒素産生を抑制することはできない。尚、食品における微生物数の測定は、平板塗沫法等の公知の方法に従って行うことができる。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態の調理済食品封入体について説明するが、第2実施形態については、前述した第1実施形態と異なる構成部分を主として説明し、第1実施形態と同様の構成部分は説明を省略する。第2実施形態における特に説明しない構成部分は、第1実施形態についての説明が適宜適用される。第2実施形態の調理済食品封入体は、密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下である。
【0038】
第2実施形態は、第1実施形態の必須構成要件である前記1)?4)のうち、前記4)「包装容器の収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下」のみを必須とし、他の要件は必須ではない点で、第1実施形態と異なる。第2実施形態の調理済食品封入体は、クロストリジウム属の微生物、特にボツリヌス菌の微生物に対して優れた毒素産生抑制効果を示す。また、第2実施形態の調理済食品封入体に封入された食品(加熱調理済食品)の具体例としては、マカロニグラタン、ひじき煮、ハンバーグ、ビーフシチュー、鶏の照焼等の加熱済み惣菜類が挙げられる。
【0039】
前述した第1及び第2実施形態を含む、本発明の調理済食品封入体の製造方法(調理済食品の保存方法)は、例えば、下記工程1及び2を含むものでも良い。下記工程2の「チルド状態」については、前述した通りである。
・工程1:密封可能な包装容器の収容空間に加熱調理済食品を封入し、該収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下となるように、該収容空間のガスを置換する(ガス置換工程)。
・工程2:前記工程2(ガス置換工程)後に、前記包装容器に封入された前記加熱調理済食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程。
【0040】
前記工程1の実施前の準備として、加熱調理済食品を用意する。加熱調理済食品については前述した通りである。加熱調理済食品に有機酸塩等の静菌剤を含有させる場合、静菌剤を食品(食材)に添加する時期は特に制限されず、加熱調理済食品の原料である各種食材に添加(各種食材の加熱調理前に添加)しても良く、あるいは加熱調理済食品の製造過程(各種食材の加熱調理の過程)で添加しても良く、加熱調理済食品に添加(各種食材の加熱調理後に添加)しても良い。また、前記工程1に供される加熱調理済食品は、製造直後(加熱調理直後)のものであっても良く、あるいは製造後、無菌下又は減菌下で冷却若しくは保温された状態で一定時間保管した後のものであっても良い。
【0041】
必要に応じ、前記工程1に供される加熱調理済食品のpHを調整しても良い。一般に、食品のpHが微生物の増殖に好ましいpHの範囲から逸脱するとその保存性が向上する反面、食品の風味に悪影響が出るおそれがある。加熱調理済食品の前記工程1に供される前(ガス置換包装前)の状態でのpHは、微生物安全性の観点からは、好ましくは7.5以下、更に好ましくは7.2以下、より好ましくは6.5以下、より好ましくは6.0以下であり、風味の観点からは、好ましくは4.0以上、更に好ましくは4.5以上、より好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上である。加熱調理済食品のpHは、該食品の種類に応じて、風味が損なわれない範囲で調整されることが望ましい。
【0042】
前記工程1(ガス置換工程)において、ガス置換は前記i)及びii)の何れかの方法によって行うことができる。前記工程1におけるガス置換法の一例として、第1実施形態の調理済食品封入体を製造する場合に、酸素、二酸化炭素及び窒素を含み且つこれら3成分の含有体積比が酸素:二酸化炭素:窒素=1?10:20?50:40?79の範囲にある、混合ガスを用意し、該混合ガスを、加熱調理済食品が収容された包装容器内の収容空間に、該収容空間のガス置換率95%以上となるように充填する方法が挙げられる。
【0043】
前記工程1(ガス置換工程)において、包装容器の収容空間への加熱調理済食品の封入は常法に従って行うことができ、例えば、所定の包装容器の収容空間に、加熱調理済食品及び特定組成のガスを充填し、ヒートシール等の公知のシール方法を用いて該容器を密封すれば良い。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は斯かる実施例にのみ限定されるものではない。尚、実施例1、2、5、6及び13は参考例である。
【0045】
〔実施例1?13、比較例1?5及び参考例1?4〕
加熱調理済食品として、マカロニグラタン及び麻婆豆腐(何れも惣菜)をそれぞれ下記方法により製造した。製造した惣菜のうちの1種を包装容器(PP製、収容容量340mL)の収容空間に充填した後、酸素、二酸化炭素及び窒素のうちの少なくとも2種以上を含む混合ガス(当該実施例、比較例又は参考例における、包装容器の収容空間のガスの組成の目標値と同じ組成の混合ガス)を用いて、卓上型真空包装器V-380G(東静電気株式会社)により、該収容空間のガスを該混合ガスで置換し且つ該包装容器を密封して、目的とする調理済食品封入体を製造した。
こうして得られた調理済食品封入体の包装パウチ表面にゴムシールを貼り、該シールを介して注射針を刺し、食品の表面にボツリヌス菌(Clostridium botulinum type E)の芽胞液を接種し、菌接種済且つ調理済食品封入体を製造した。
一方、バチルス属及びミクロバクテリウム属の菌については、製造した惣菜のうちの1種を包装容器(PP製、収容容量340mL)の収容空間に充填した後、各菌液を惣菜全体に接種し、しかる後、酸素、二酸化炭素及び窒素のうちの少なくとも2種以上を含む混合ガスを用いて、菌接種済且つ調理済食品封入体を製造した。
こうして得られた菌接種済且つ調理済食品封入体は、製造後速やかに平均温度10℃の環境下にてチルド状態で保存した。
【0046】
マカロニグラタンの製造は、調理レシピ(決定版・小林カツ代の基本のおかず、p.176、主婦の友社発行)に従って行い、食材は該調理レシピに従って準備した。
麻婆豆腐の製造は、調理レシピ(やっぱりおいしい基本の中華料理、p.62、成美堂出版発行)に従って行い、食材は該調理レシピに従って準備した。
また、静菌剤を用いる場合、惣菜の種類を問わず、静菌剤として酢酸ナトリウムを用い、且つ食材に酢酸ナトリウムを所定量添加した後、該食材の中心温度が85℃で2.5分間維持されるように、該食材を加熱調理した。
【0047】
〔評価試験〕
各実施例及び比較例の菌接種済且つ調理済食品封入体について、製造直後における包装容器の収容空間のガスの組成を、前記ガス分析計(商品名「CheckMate」、PBI Dansensor社製)を用いたサンプリング検査により測定した。
また、各実施例及び比較例の菌接種済且つ調理済食品封入体について、ボツリヌス菌の毒素産生抑制効果とバチルス属及びミクロバクテリウム属の菌の増殖抑制効果とを評価した。
具体的には、ボツリヌス菌の毒素産生抑制効果評価については、チルド状態(10℃)で14日保存後、検体の内容物全量を無菌的にストマッカー用滅菌ポリエチレン袋(栄研化学製、フィルトレイトバッグHG-S)にとり、4倍量の滅菌脱イオン水を加えてストマッカーで十分に混和し、5倍乳剤とした。この5倍乳剤1.5mLを等量の2%トリプシン液を混合し、37℃1時間加熱処理した。この液0.4mLずつをマウス(ddY、クリーンマウス、4週齢、オス)2匹の腹腔内に注射した。注射後72時間以内に2匹ともへい死したものを毒素陽性、2匹とも生残したものを毒素陰性とした。
バチルス属及びミクロバクテリウム属の増殖抑制効果評価については、菌接種済且つ調理済食品封入体について、製造直後及びチルド状態(10℃)で14日間保存後それぞれにおけるその惣菜中の微生物(添加した菌)の数を下記方法により測定し、製造直後の惣菜中の微生物数を「初期微生物数」とした場合に、チルド状態で14日間保存後の微生物数の初期微生物数からの増加数が11og以下の場合を○、該増加数が11ogを超える場合を×とした。
また、実施例11?13並びに参考例3及び4については、チルド状態(10℃)で14日間保存後の菌未接種の調理済食品封入体に封入されている食品の品質を下記方法により評価した。以上の結果を下記表1?表2に示す。
【0048】
<微生物数の測定方法>
封入体中の培地中の微生物数を、包装直後、及びチルド状態(10℃)で14日間保存後にそれぞれ測定した。微生物数は表面塗抹平板法により計測した。具体的には次の通りに行った。
試料液は希釈液にて10倍に希釈し、よく混合することで調製した。その後、各種寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては、バチルス属、ミクロバクテリウム属の菌数測定には、標準寒天培地(栄研化学)を用いた35℃、48時間の好気培養を採用した。
微生物数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて培地1gあたりの微生物数(cfu/g)として計測した。例えば、試料液を希釈せずに0.1mLの試料液を接種した培地において、培養後に30個のコロニーが観察された場合、3.0×10^(3)cfu/gとした。各菌についての培地の中で最大の微生物数となった培地の値を、微生物数測定結果とした。
【0049】
<食品の品質の評価方法>
菌未接種の調理済食品封入体に封入されている食品を10名のパネラーが喫食し、下記評価基準(5点満点)により評価した。それら評価点の平均点を算出して品質評価とした。
(食品の品質の評価基準)
5点:14日間のチルド状態での保存前と同等の非常に良好な風味。
4点:14日間のチルド状態での保存前よりやや劣るが良好な風味。
3点:14日間のチルド状態での保存前と比べて風味が劣る。
2点:14日間のチルド状態での保存前と比べて風味が著しく劣る。
1点:風味が悪く、商品として提供できない。
【0050】
【表1】

【0051】
表1は、主として、微生物(ボツリヌス菌)の毒素産生抑制効果に対する包装容器の収容空間の酸素濃度の影響をまとめたものであり、前記第2実施形態の有効性の評価に関するものである。表1に示す通り、包装容器の収容空間の酸素濃度が0容量%であると、食品の種類によってはボツリヌス菌の増殖を抑制できない場合がある(比較例2)。これに対し、各実施例のように、包装容器の収容空間の酸素濃度を1容量%以上とすることで、ボツリヌス菌の毒素産生を効果的に抑制することができる。
【0052】
【表2】

【0053】
表2は、主として、前記第1実施形態の有効性の評価に関するものである。表2では、各例をI?IIIの3つのグループに分けているところ、グループIは、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度を適宜変化させた例であり、グループIIは、加熱調理済食品中の静菌剤の含有量を適宜変化させた例であり、グループIIIは、食品の収容空間占有率を適宜変化させた例である。表2に示す通り、バチルス属及びミクロバクテリウム属の微生物の増殖を抑制するためには、包装容器の収容空間の二酸化炭素濃度を20?40容量%、且つ加熱調理済食品中の静菌剤の含有量を0.1?0.25質量%、且つ食品の収容空間占有率を30?70質量%とすることが有効であることがわかる。一方、ボツリヌス菌に対しては、包装容器の収容空間の酸素濃度が7容量%であれば、二酸化炭素濃度、静菌剤、食品の収容空間占有率の如何を問わず、その毒素産生を抑制できることがわかる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封された包装容器と該包装容器内の収容空間に封入されている加熱調理済食品とを含んで構成される調理済食品封入体であって、
前記収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ、且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下であり、
前記加熱調理済食品は静菌剤を含み、
前記収容空間の容積に占める前記加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)である調理済食品封入体。
【請求項2】
前記静菌剤は有機酸塩である請求項1記載の調理済食品封入体。
【請求項3】
前記加熱調理済食品における前記有機酸塩の含有量が0.1?1.0質量%である請求項2記載の調理済食品封入体。
【請求項4】
前記有機酸塩は酢酸ナトリウムである請求項2又は3記載の調理済食品封入体。
【請求項5】
前記加熱調理済食品は、中心温度が75?90℃となるような条件で1分間以上加熱された食品である請求項1?4の何れか一項に記載の調理済食品封入体。
【請求項6】
前記収容空間が複数の小空間に区分けされており、1種又は2種以上の前記加熱調理済食品が各該小空間に配されている請求項1?5の何れか一項に記載の調理済食品封入体。
【請求項7】
密封可能な包装容器の収容空間に、静菌剤を含む加熱調理済食品を封入し、該収容空間に酸素、二酸化炭素及び窒素が含まれ且つ該収容空間の酸素濃度が1容量%以上10容量%以下(ただし、5容量%以下を除く)、二酸化炭素濃度が20容量%以上50容量%以下となるように、また、該収容空間の容積に占める該加熱調理済食品の体積の割合が20?70%(ただし、70%を除く)となるように、該収容空間のガスを置換するガス置換工程と、
前記ガス置換工程後に、前記包装容器に封入された前記加熱調理済食品を該包装容器ごとチルド状態で保存する工程とを含む、調理済食品の保存方法。
【請求項8】
前記ガス置換工程において、酸素、二酸化炭素及び窒素を含み且つこれら3成分の混合容積比が酸素:二酸化炭素:窒素=1?10(ただし、1を除く):20?50:40?79の範囲にある、混合ガスを、前記収容空間のガス置換率95%以上となるように充填する請求項7記載の調理済食品の保存方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-28 
出願番号 特願2013-261712(P2013-261712)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊達 利奈  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 田村 嘉章
井上 哲男
登録日 2017-07-28 
登録番号 特許第6181543号(P6181543)
権利者 株式会社日清製粉グループ本社
発明の名称 調理済食品封入体  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

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