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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1350952
審判番号 不服2016-17502  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-24 
確定日 2019-04-09 
事件の表示 特願2014-529819「ワイヤレス電力デバイスを検出および識別するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月14日国際公開、WO2013/036533、平成26年12月11日国内公表、特表2014-533481〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2012年9月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月4日:米国、2011年9月9日:米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月20日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成28年7月25日)、これに対し、平成28年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、平成29年5月15日付で上申書が提出され、当審により平成29年11月30日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成29年12月4日)、これに対し、平成30年3月5日付で意見書及び手続補正書が提出され、当審により平成30年6月15日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成30年6月18日)、これに対し、平成30年9月18日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.平成30年9月18日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年9月18日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
ワイヤレス電力受信機を有するデバイスに給電するように構成されたワイヤレス電力送信機の電力送出領域内のオブジェクトを検出するための、前記ワイヤレス電力送信機に含まれた装置であって、
ワイヤレス電力フィールドを出力するように前記ワイヤレス電力送信機を駆動するために、駆動信号を生成するように構成されたドライバと、
感知信号を生成するために前記ドライバによって引き出される電流の量を感知するように構成されたセンサと、
前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号を受信するように構成された通信ユニットと、
前記感知信号に基づいて、前記ドライバによって引き出される電流の変化を監視し、かつ、
(i)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の大きさと、(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさと、(iii)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の方向と、(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向とを、ルックアップテーブルに格納された前記(i)から(iv)にそれぞれ対応する設定に相関させることに基づいて、オブジェクトのタイプを識別するように構成されたコントローラと
を備え、
前記オブジェクトのタイプが、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機のいずれかである、装置。
【請求項2】
前記オブジェクトのタイプを識別することが、
引き出される前記電流の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、
前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較することを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記しきい値のうちの少なくとも1つを超えた場合、前記ワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させることをさらに備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す前記信号を受信する前に、前記センサが、前記ドライバによって引き出される電流の最初のレベルを感知するように構成され、
前記コントローラが、前記感知された最初のレベルに基づいて、前記ドライバによって引き出される電流のベースライン値を決定するように構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
ワイヤレス電力受信機を含むデバイスに給電するように構成されたワイヤレス電力送信機の給電領域内のオブジェクトのタイプを識別する方法であって、
前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される電流の変化を監視するステップと、
前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号を受信するステップと、
(i)前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される前記電流の変化の大きさと、(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさと、(iii)前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される前記電流の変化の方向と、(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向とを、ルックアップテーブルに格納された前記(i)から(iv)にそれぞれ対応する設定に相関させることに基づいて、前記オブジェクトのタイプを識別するステップと
を備え、
前記オブジェクトのタイプが、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機のいずれかである、方法。
【請求項6】
前記オブジェクトのタイプを識別する前記ステップが、
引き出される前記電流の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、
前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較するステップを備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記しきい値のうちの少なくとも1つを超えた場合、ワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させるステップをさらに備える、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す前記信号を受信するステップの前に、ドライバによって引き出される電流の最初のレベルを感知するステップと、
前記感知された最初のレベルに基づいて、前記ドライバによって引き出される電流のベースライン値を決定するステップと
をさらに備える、請求項6および7のうちの一項に記載の方法。
【請求項9】
ワイヤレス電力受信機を含むデバイスに給電するように構成されたワイヤレス電力送信機の給電領域内のオブジェクトのタイプを識別するための、前記ワイヤレス電力送信機に含まれた装置であって、
前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される電流の変化を監視するための手段と、
前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号を受信するための手段と、
(i)前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される前記電流の変化の大きさと、(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさと、(iii)前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される前記電流の変化の方向と、(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向とを、ルックアップテーブルに格納された前記(i)から(iv)にそれぞれ対応する設定に相関させることに基づいて、前記オブジェクトのタイプを識別するための手段と
を備え、
前記オブジェクトのタイプが、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機のいずれかである、装置。
【請求項10】
前記監視するための手段が前記ワイヤレス電力送信機のドライバに結合された電流センサを備え、前記受信するための手段が通信または検出ユニットを備え、前記識別するための手段がコントローラを備える、請求項9に記載の装置。」

本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
ワイヤレス電力受信機を有するデバイスに給電するように構成されたワイヤレス電力送信機の電力送出領域内のオブジェクトを検出するための、前記ワイヤレス電力送信機に含まれた装置であって、
ワイヤレス電力フィールドを出力するように前記ワイヤレス電力送信機を駆動するために、駆動信号を生成するように構成されたドライバと、
感知信号を生成するために前記ドライバによって引き出される電流の量を感知するように構成されたセンサと、
前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号を受信するように構成された通信ユニットと、
前記感知信号に基づいて、前記ドライバによって引き出される電流の変化を監視し、かつ、
(i)引き出される前記電流の変化の大きさを示す値と、ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、
(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、
(iii)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較し、
(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較することに基づいて、オブジェクトのタイプを識別する
ように構成されたコントローラと
を備え、
前記オブジェクトのタイプの識別は、前記オブジェクトのタイプが許可されたワイヤレス電力受信機であるか否かを識別することを含む、装置。
【請求項2】
前記しきい値のいずれをも超えない場合、前記ワイヤレス電力フィールドの出力電力を維持することをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ワイヤレス電力受信機を含むデバイスに給電するように構成されたワイヤレス電力送信機の給電領域内のオブジェクトのタイプを識別する方法であって、
前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される電流の変化を監視するステップと、
前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号を受信するステップと、
(i)引き出される前記電流の変化の大きさを示す値と、ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、
(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、
(iii)前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される前記電流の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較し、
(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較することに基づいて、前記オブジェクトのタイプを識別するステップと
を備え、
前記オブジェクトのタイプの識別は、前記オブジェクトのタイプが許可されたワイヤレス電力受信機であるか否かを識別することを含む、方法。
【請求項4】
前記しきい値のいずれをも超ない場合、ワイヤレス電力フィールドの出力電力を維持するステップをさらに備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ワイヤレス電力受信機を含むデバイスに給電するように構成されたワイヤレス電力送信機の給電領域内のオブジェクトのタイプを識別するための、前記ワイヤレス電力送信機に含まれた装置であって、
前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される電流の変化を監視するための手段と、
前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号を受信するための手段と、
(i)引き出される前記電流の変化の大きさを示す値と、ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、
(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、
(iii)前記ワイヤレス電力送信機によって引き出される前記電流の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較し、
(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較することに基づいて、前記オブジェクトのタイプを識別するための手段と
を備え、
前記オブジェクトのタイプの識別は、前記オブジェクトのタイプが許可されたワイヤレス電力受信機であるか否かを識別することを含む、装置。
【請求項6】
前記監視するための手段が前記ワイヤレス電力送信機のドライバに結合された電流センサを備え、前記受信するための手段が通信または検出ユニットを備え、前記識別するための手段がコントローラを備える、請求項5に記載の装置。」


(2)新規事項
(2-1)本件補正後の請求項1には、「(iii)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較し、(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較する」と記載されており、値とは「数で表したもの。数値、測定値など。」を意味するから、電流・電圧の変化の方向(正の変化または負の変化)を数値化してルックアップテーブルの対応する値と比較することとなる。
そこで、当該補正が、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く)(以下、「翻訳文等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
翻訳文等には、
A「いくつかの実施形態では、測定された電圧変化ΔV_(Reg)および電流変化ΔI_(PA)に基づいてワイヤレス電力送信システムを制御する方法は、電圧の変化ΔV_(Re)および電流の変化ΔI_(PA)と、あらかじめ定められたしきい値の大きさ(たとえば、TH-IおよびV-TH)とを比較し得る。電流の変化の大きさ、電圧の変化の大きさ、および各変化の方向(たとえば、正の変化または負の変化)の比較に基づいて、本方法はワイヤレス電力送信領域内に存在するデバイスのタイプを判別することができる。いくつかの実装形態では、送信機は、変化値を相関して、ワイヤレス電力送信領域内に無許可のデバイスが存在するかどうかを判断するために、ルックアップテーブルに依存し得る。たとえば、送信機は、受信機のレギュレータの入力で電圧の変化の値ΔV_(Reg)、およびドライバの入力で電流の変化の値ΔI_(PA)を検索することができる。ルックアップテーブルはメモリ572などのメモリに格納されてよく、図5を参照して上述したように、送信機504のコントローラ515によってアクセスされ得る。」(【0065】)
と記載されるにすぎず、電流・電圧の変化の大きさとしきい値との比較、電流・電圧の変化の方向(たとえば、正の変化または負の変化)の比較を行うことは記載はあっても、電流・電圧の変化の方向(正の変化または負の変化)を数値化してルックアップテーブルの対応する値と比較することは記載も示唆もない。
請求項3、5も同様である。

(2-2)本件補正後の請求項1には、「(i)引き出される前記電流の変化の大きさを示す値と、ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、(iii)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較し、(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較することに基づいて、オブジェクトのタイプを識別するように構成されたコントローラ」と記載されているから、オブジェクトのタイプの識別のために、電流の変化の大きさを示す値とルックアップテーブル内のしきい値、電圧の変化の大きさを示す値とルックアップテーブル内のしきい値、電流の変化の方向を示す値とルックアップテーブル内のしきい値、電圧の変化の方向を示す値とルックアップテーブル内のしきい値を比較して識別することとなる。
そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
翻訳文等には、Aに加え、
B「再び図14を参照すると、決定ブロック1410に示されるように、本方法は、受信機のレギュレータの入力での電圧の変化の値ΔV_(Reg)および送信機での電気増幅器の入力での電流I_(PA)と、ルックアップテーブルに格納された値を相関し得る。ドライバの設計に基づいて、ルックアップテーブルは、充電フィールド内に存在するデバイスのタイプの識別を助けるために、ドライバの知られているインピーダンス応答を相関し得る。ルックアップテーブルの一例が、以下のTable 1(表1)に示されており、これは、知られているインピーダンス応答を有するドライバのある特定の設計に基づく。

Table 1(表1)に示されるように、電圧の変化ΔV_(Reg)が、正の値と、しきい値を上回る大きさとを有する場合(たとえば、Table 1(表1)に示されるような+ΔV_(Reg))、本方法は、潜在的な金属がシステム内に存在すると決定することができ、図14に示されるようにブロック1416に進むことができる。電圧の変化の大きさΔV_(Reg)が電圧V_(TH)のしきい値変化未満である場合、デバイスのタイプの決定はドライバによって引き出される電流の変化ΔI_(PA)に基づき得る。たとえば、Table 1(表1)に示され、決定ブロック1408を参照して上述したように、電圧の変化の大きさΔV_(Reg)と、電流の変化の大きさΔI_(PA)の両方がしきい値未満である場合、本方法は、許可された受信機が充電フィールド内にあると決定することができ、ワイヤレス電力充電動作の実行を継続することができる。電圧の変化の大きさΔV_(Reg)がしきい値電圧変更V_(TH)未満であり、電流の変化ΔI_(PA)が正の値、およびしきい値電流変化I_(TH)を上回る大きさを有する場合(たとえば、Table 1(表1)に示されるような+ΔI_(PA))、本方法は、充電フィールド内に潜在的にNFCまたはRFIDデバイスがあると決定することができ、図14に示されるようにブロック1412に進むことができる。電圧の変化の大きさΔV_(Reg)がしきい値電圧変更V_(TH)未満であり、電流の変化ΔI_(PA)が負の値、およびしきい値電流変化I_(TH)を上回る大きさを有する場合、本方法は、充電フィールド内に潜在的に金属物体があると決定することができ、図14に示されるようにブロック1416に進むことができる。
電圧の変化ΔV_(Reg)が負の値、およびしきい値を上回る大きさを有する場合(たとえば、Table 1(表1)に示されるような-ΔV_(Reg))、本方法は、電流の変化が電流I_(TH)のしきい値変化未満の大きさを有するか、正の値を有し、また電流I_(TH)しきい値変化を上回る大きさを有すれば(たとえば、+ΔI_(PA))、充電領域内に潜在的にNFCデバイス(またはRFIDデバイス)があると決定することができる。電圧の変化ΔV_(Reg)が、負の値、およびしきい値V_(TH)を上回る大きさを有し(たとえば、図1に示されるような-ΔV_(Reg))、電流の変化が負の値、およびしきい値電流変化I_(TH)を上回る大きさを有する場合(たとえば、-ΔI_(PA))、本方法は、許可された受信機デバイスが充電領域内にあると決定することができ、充電動作継続することによって進み、ΔV_(Reg)の値の監視を継続するためにブロック1404に戻ることができる。」(【0066】-【0069】)
と記載されるにすぎず、電流の変化の大きさを示す値がしきい値未満かしきい値以上で正の変化または負の変化で電流を3つに区分し、電圧の変化の大きさを示す値がしきい値未満かしきい値以上で正の変化または負の変化で電圧を3つに区分し、これらを相関して3×3の9区分とし、何れの区分においても電流・電圧の変化の大きさをしきい値と比較して、何れの区分の値に該当するか(Table 1参照)によってオブジェクトのタイプを識別することは記載はあっても、オブジェクトのタイプの識別のために、電流の変化の大きさを示す値とルックアップテーブル内のしきい値、電圧の変化の大きさを示す値とルックアップテーブル内のしきい値、電流の変化の方向を示す値とルックアップテーブル内のしきい値、電圧の変化の方向を示す値とルックアップテーブル内のしきい値を比較して識別することは記載も示唆もない。
請求項3、5も同様である。

(2-3)本件補正後の請求項1には、「前記オブジェクトのタイプの識別は、前記オブジェクトのタイプが許可されたワイヤレス電力受信機であるか否かを識別することを含む」と記載されているから、オブジェクトのタイプの識別において許可されたワイヤレス電力受信機でないという識別を行うこととなる。
そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
翻訳文等には、A、Bに加え、
C「前記オブジェクトが、近距離通信(NFC)デバイス、無線周波数識別(RFID)デバイス、無許可のワイヤレス電力受信機、許可されたワイヤレス電力受信機、および金属物体のうちの1つである、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。」(【請求項9】)
D「前記オブジェクトが、近距離通信(NFC)デバイス、無線周波数識別(RFID)デバイス、無許可のワイヤレス電力受信機、許可されたワイヤレス電力受信機、および金属物体のうちの1つである、請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。」(【請求項18】)
E「たとえば、引き出される電力および受信された信号における監視された変化に基づいて、ワイヤレス電力送信機のコントローラ(たとえば、コントローラ515)は、許可されたワイヤレス電力受信機、無許可のワイヤレス電力受信機、意図されない吸収装置(たとえば、金属物体)、およびNFCデバイスまたはRFIDデバイスなどの通信デバイスの間の、ワイヤレス電力フィールド内に存在するオブジェクトのタイプを判断し得る。」(【0051】)
F「充電領域内の潜在的なNFCデバイス(またはRFIDデバイス)の決定に続いて、本方法は、ブロック1412に示されるように、受信機によって受信される電力の量を計算し得る。受信機によって受信される電力の量は、受信機から受信されたメッセージに基づいて決定および/または計算され得る。次いで、本方法はブロック1414に進むことができ、受信機によって受信される電力の量がしきい値受信電力TH-RX_(P)と比較される。受信される電力の量がしきい値を上回る場合、本方法は、NFCデバイスまたはRFIDデバイスが充電領域内にないと決定することができ、充電動作を続行してブロック1404に戻ることができる。受信される電力の量がしきい値未満である場合、本方法は、NFCデバイスまたはRFIDデバイスが充電領域内にあると決定することができ、NFCデバイスまたはRFIDデバイスを保護するために、ブロック1422に示されるように低電力送信モードに入ることができる。低電力送信モードは、送信機からの電力出力のレベルに対応し得るので、NFCデバイスまたはRFIDデバイスはワイヤレス給電フィールドによって損傷されない。たとえば、低電力送信モードは、送信機からの電力出力に対応し得るので、RFIDデバイスまたはNFCデバイスによって受信される電力の量はあらかじめ定められたしきい値未満である。RFIDデバイスまたはNFCデバイスによって受信される電力の量は、送信機からの電力出力、送信機とRFIDデバイスまたはNFCデバイスとの間の結合効率、システム内のワイヤレス電力受信機の存在、および送信機と存在し得るワイヤレス電力受信機の各々との間の結合効率の関数である。たとえば、ワイヤレス電力受信機がない場合、送信機の出力電力は、約400mW未満をRFIDデバイスまたはNFCデバイスに提供するために設定され得る。1つまたは複数のワイヤレス電力受信機がある場合、送信機からの出力電力は、システム内の1つまたは複数のワイヤレス電力受信機に電力を供給するレベルであって、RFIDデバイスまたはNFCデバイスへの約400mW未満に設定され得る。」(【0070】)
G「決定ブロック1418で受信した電力のレベルを、および決定ブロック1418でシステム効率を確認することによって、本方法はNFCデバイス、RFIDデバイス、または金属物体の誤検出を排除し得る。
図14に示されるように、本方法は、NFCデバイス、RFIDデバイス、または金属物体が検出された場合に送信を中止することによって進行する。しかしながら、ワイヤレスフィールド内のオブジェクトの識別に続く送信機の性能は、送信機がシステム内のNFC装置、RFID装置、または金属を検出したかどうかに基づき得る。送信機がNFCデバイスまたはRFIDデバイスを検出した場合、送信機は、たとえばNFCデバイスまたはRFIDデバイスをワイヤレスフィールドによる損傷から保護するために送信を中止することによって、その動作を調整し得る。送信器が金属を検出した場合、送信機は、たとえば送信機と他の受信デバイスをワイヤレスフィールド上に検出された金属の影響から保護するために電力出力を低減することによって、その動作を調整し得る。」(【0072】-【0073】)
と記載されるにすぎず、オブジェクトのタイプの識別は、近距離通信(NFC)デバイス、無線周波数識別(RFID)デバイス、無許可のワイヤレス電力受信機、許可されたワイヤレス電力受信機、および金属物体のうちの何れか1つと識別することは記載はあっても、オブジェクトのタイプの識別において許可されたワイヤレス電力受信機でないという識別は記載も示唆も無い。
請求項3、5も同様である。

(2-4)したがって、本件補正後の請求項1に記載された「(iii)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較し、(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較する」、「(i)引き出される前記電流の変化の大きさを示す値と、ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさを示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応するしきい値とを比較し、(iii)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較し、(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向を示す値と、前記ルックアップテーブルに格納された対応する値とを比較することに基づいて、オブジェクトのタイプを識別するように構成されたコントローラ」、「前記オブジェクトのタイプの識別は、前記オブジェクトのタイプが許可されたワイヤレス電力受信機であるか否かを識別することを含む」は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。請求項3、5も同様である。


(3)目的要件
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

請求人が、平成30年9月18日付意見書で主張するように、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項3に対応するものとして検討する。
本件補正前の請求項1は、オブジェクトのタイプを識別するために、ドライバによって引き出される電流の変化の方向、ワイヤレス電力受信機で受信される電圧の変化の方向を用いていたものが、本件補正後の請求項1は、オブジェクトのタイプを識別するために、ドライバによって引き出される電流の変化の方向を示す値、ワイヤレス電力受信機で受信される電圧の変化の方向を示す値を用いている。
そうすると、本件補正前の請求項1の、電流の変化の方向(正の変化または負の変化)、電圧の変化の方向(正の変化または負の変化)をどの様に限定しても、本件補正後の請求項1の、電流の変化の方向を示す値、電圧の変化の方向を示す値とはならないから、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものには該当せず、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。請求項3、5も同様である。

請求人が、平成30年9月18日付意見書で主張するように、本件補正後の請求項2は本件補正前の請求項3に対応するものとして検討する。
本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項2を引用する本件補正前の請求項3は、しきい値のうちの少なくとも1つを超えた場合、ワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させていたものが、本件補正後の請求項1を引用する本件補正後の請求項2は、しきい値のいずれをも超えない場合、ワイヤレス電力フィールドの出力電力を維持することとなる。
そうすると、本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項2を引用する本件補正前の請求項3のしきい値のうちの少なくとも1つを超えた場合ワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させる構成をどの様に限定しても、本件補正後の請求項1を引用する本件補正後の請求項2のしきい値のいずれをも超えない場合ワイヤレス電力フィールドの出力電力を維持する構成とはならないから、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものには該当せず、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。請求項4も同様である。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(4)したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-10に係る発明は、上記した平成30年3月5日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(1)当審の最後の拒絶の理由
当審で平成30年6月15日付で通知した最後の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
「I 平成30年3月5日付でした手続補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く)(以下、翻訳文等という)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。

II この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。


理由I

(1)請求項1には、「前記オブジェクトのタイプが、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機のいずれかである」とある。
そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
翻訳文等には、
a「図13は、いくつかの実施形態による、受信した電圧の変動を決定する方法の流れ図である。図13に示される方法1300は、図4を参照して上述した充電可能デバイス484Aまたは484Bに含まれ得る、図6を参照して上述したワイヤレス電力受信機608などのワイヤレス電力受信機で動作される処理の例である。方法1300は、意図しない吸収装置の存在を検出するために、および/またはワイヤレス電力システム内のデバイス(たとえば、上述のNFCカード)を保護するために、プロセッサ616などのコントローラまたはプロセッサによって実装され得る。」(【0060】)
b「Table 1(表1)に示されるように、電圧の変化ΔV_(Reg)が、正の値と、しきい値を上回る大きさとを有する場合(たとえば、Table 1(表1)に示されるような+ΔV_(Reg))、本方法は、潜在的な金属がシステム内に存在すると決定することができ、図14に示されるようにブロック1416に進むことができる。電圧の変化の大きさΔV_(Reg)が電圧V_(TH)のしきい値変化未満である場合、デバイスのタイプの決定はドライバによって引き出される電流の変化ΔI_(PA)に基づき得る。たとえば、Table 1(表1)に示され、決定ブロック1408を参照して上述したように、電圧の変化の大きさΔV_(Reg)と、電流の変化の大きさΔI_(PA)の両方がしきい値未満である場合、本方法は、許可された受信機が充電フィールド内にあると決定することができ、ワイヤレス電力充電動作の実行を継続することができる。電圧の変化の大きさΔV_(Reg)がしきい値電圧変更V_(TH)未満であり、電流の変化ΔI_(PA)が正の値、およびしきい値電流変化I_(TH)を上回る大きさを有する場合(たとえば、Table 1(表1)に示されるような+ΔI_(PA))、本方法は、充電フィールド内に潜在的にNFCまたはRFIDデバイスがあると決定することができ、図14に示されるようにブロック1412に進むことができる。電圧の変化の大きさΔV_(Reg)がしきい値電圧変更V_(TH)未満であり、電流の変化ΔI_(PA)が負の値、およびしきい値電流変化I_(TH)を上回る大きさを有する場合、本方法は、充電フィールド内に潜在的に金属物体があると決定することができ、図14に示されるようにブロック1416に進むことができる。」(【0068】)
とあるように、オブジェクトのタイプが、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機、金属物体であることは記載はあるが、オブジェクトのタイプが、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機のいずれかであることは翻訳文等に記載も示唆もない。
なお、請求人は、平成30年3月5日付意見書で、「例えば、本願の図4のワイヤレス電力システム480では、「金属物体」又は「近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス」は、「吸収装置486」として説明されています。このうち、「NFCデバイス又はRFIDデバイス」は「電力送信機」と通信可能です(段落[0022]の「NFCデバイスは、NFCデバイスのアンテナと、NFCデバイスと通信しているデバイスのアンテナとの間の誘導を使用し得る。たとえば、吸収装置486は、ワイヤレス充電器482を含むデバイスと通信するように構成されたNFCデバイスでよい。」)。」と主張するが、請求項1には「前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号を受信するように構成された通信ユニット」と記載され、NFCデバイス又はRFIDデバイスとは通信していないから、請求人の上記主張は採用できない。
したがって、「前記オブジェクトのタイプが、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機のいずれかである」は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。
請求項5、9も同様である。

(2)請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3には、「前記しきい値のうちの少なくとも1つを超えた場合、前記ワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させることをさらに備える」とあるから、「引き出される前記電流の変化の大きさを示す値」、「前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさを示す値」のどちらか1つでもしきい値を超えると無条件にワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させることとなる。
そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
翻訳文等には、
c「電圧の変化ΔV_(Reg)が、負の値、およびしきい値V_(TH)を上回る大きさを有し(たとえば、図1に示されるような-ΔV_(Reg))、電流の変化が負の値、およびしきい値電流変化I_(TH)を上回る大きさを有する場合(たとえば、-ΔI_(PA))、本方法は、許可された受信機デバイスが充電領域内にあると決定することができ、充電動作継続することによって進み、ΔV_(Reg)の値の監視を継続するためにブロック1404に戻ることができる。」(【0069】)
とあるように、しきい値のうちの少なくとも1つを超えた場合でも、許可された受信機デバイスが充電領域内にあると決定することができるので、ワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させないことは記載はあるものの、しきい値のうちの少なくとも1つでも超えた場合には、無条件にワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させることは翻訳文等に記載も示唆もない。
したがって、「前記しきい値のうちの少なくとも1つを超えた場合、前記ワイヤレス電力フィールドの出力電力を低下させることをさらに備える」は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。
請求項7も同様である。

(3)請求項4には、「前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す前記信号を受信する前に、前記センサが、前記ドライバによって引き出される電流の最初のレベルを感知するように構成され」とあるから、ドライバによって引き出される電流の最初のレベルを感知した後に、送信器がワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号をワイヤレス電力受信機から受信することとなる。
そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
請求人が補正の根拠と主張する翻訳文等には、
d「本方法は、ブロック1402によって示されるように、ベースライン電流レベルI_(PA0)を決定するために、ワイヤレス電力送信機のドライバによって引き出される電流のレベルを測定するステップを含み得る。ブロック1404で、受信機のレギュレータの入力での電圧レベルの変化ΔV_(Reg)を示すメッセージが受信機から受信され得る。たとえば、図13を参照して上述したように、メッセージは受信機によって送信機に伝えられ得る。送信機のドライバへの入力電流の測定は、受信機からのメッセージの受信と並列に、またはそれと同時に行われ得る。ブロック1406に示されるように、本方法は、送信機のドライバによって引き出される電流を電流レベルI_(PAc)として測定するステップと、引き出される電流の変化をΔI_(PA)=I_(PAc)-I_(PA0)として決定するステップとを含む。たとえば、負荷条件が変化すると、送信機のドライバは、送信機に提示された負荷の要件を満たすために多かれ少なかれ電流を引き出すように構成され得る。」(【0063】)
とあるのみで、ドライバによって引き出される電流の最初のレベルを感知した後に、送信器がワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す信号をワイヤレス電力受信機から受信することは翻訳文等に記載も示唆もない。
したがって、「前記ワイヤレス電力受信機から、前記ワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化を示す前記信号を受信する前に、前記センサが、前記ドライバによって引き出される電流の最初のレベルを感知するように構成され」は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。
請求項8も同様である。


理由II

(1)請求項1に、「(i)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の大きさと、(ii)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の大きさと、(iii)前記ドライバによって引き出される前記電流の変化の方向と、(iv)前記ワイヤレス電力受信機で受信される前記電圧の変化の方向とを、ルックアップテーブルに格納された前記(i)から(iv)にそれぞれ対応する設定に相関させることに基づいて、オブジェクトのタイプを識別する」との訳語があるが、「(i)から(iv)にそれぞれ対応する設定に相関させる」は一般的な用語ではなくどの様な意味であるのか明細書を参照しても不明(相関とは、「幾つかの変量がかなりの程度の相互関係を示しつつ同時に変化していく性質」のことである。機械が行うのであるから、相関には何らかの関数が存在するはずであるが不明。)であり、(iii)と(iv)にそれぞれ対応する設定に相関させることは明細書の何処に記載があるのか不明である。
請求項5、9も同様である。

(2)請求項1に、「前記オブジェクトのタイプが、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機のいずれかである」との訳語があり、識別対象は近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機のいずれかとなるが、ワイヤレス電力フィールド内に進入するオブジェクトのタイプは、近距離通信(NFC)デバイス、無線周波数識別(RFID)デバイス、許可されたワイヤレス電力受信機に加え、金属物体(【0068】等参照)が考えられ、何らかの手段を用いてワイヤレス電力フィールド内への金属物体の進入を阻止しなければオブジェクトのタイプから金属物体を排除できない(金属物体がワイヤレス電力システムに対し最も大きな損傷を与える)が、どの様にして金属物体の進入を阻止するのか全く不明である。
仮に金属物体の進入を阻止しないのであれば、ワイヤレス電力システムにおいて、意図しない吸収装置の存在の検出やワイヤレス電力システム内のデバイスの保護(【0060】)をどの様に行うのか明細書を参照しても全く不明(ワイヤレス電力システムに対し最も大きな損傷を与え意図しない吸収を最も行う金属物体を何故検出対象としないのか。金属物体のみがワイヤレス電力フィールド内に存在するとき、金属物体を識別できなければ、ワイヤレス電力を送信し続けるのか。表1から判断すると、ドライバの電流の変化だけではオブジェクトのタイプを識別できない。)である。
仮に、ワイヤレス電力フィールド内に、許可されたワイヤレス電力受信機と金属物体が存在する場合、ワイヤレス電力送信機にはワイヤレス電力受信機によって受信される電圧の変化のみが伝えられ、許可されたワイヤレス電力受信機と金属物体の電気的な容量が特定されていないから、コントローラは充電を継続する(表1)と判断することが考えられ、どの様にして意図しない吸収装置の存在の検出やワイヤレス電力システム内のデバイスの保護を行うのか明細書を参照しても全く不明である。
更に、近距離通信(NFC)デバイス又は無線周波数識別(RFID)デバイスは、許可されたワイヤレス電力受信機ではないから、そもそもどの様にして電圧の変化を検出するのか不明(請求項には電圧の変化を検出することは記載されていない)であり、どの様にして電圧の変化の信号を送信するのか不明(請求項には送信器に当該信号を送信する機能は記載されていない)であり、当該デバイスがどの様な通信方式を用いれば送信機が受信可能な信号を発することができるのか不明(許可された装置でないにも関わらず何故通信方式が適合するのか)であり、送信機はどの様にしてオブジェクトのタイプを識別するのか明細書を参照しても全く不明である。
請求項5、9も同様である。

(3)請求項4に「前記ドライバによって引き出される電流の最初のレベル」との訳語があるが、最初とはどの時点のことを意味するのか不明(明細書の何処に対応する記載があるのか)であり、「前記感知された最初のレベルに基づいて、前記ドライバによって引き出される電流のベースライン値を決定する」との訳語があるが、電流のベースライン値とは一般的な用語ではなくどの様な値であるのか不明であり、機械が決定するのであるから、電流の最初のレベルと電流のベースライン値の間には何らかの関数があるはずであるが、明細書に何等開示が無く不明である。請求項8も同様である。」


(2)当審の最後の拒絶の理由I、IIについての判断
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項は、「3.(1)I」に示したとおり、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。なお、平成30年9月18日付意見書の主張は本件補正を前提としたものであるから、請求人の当該主張は採用できない。請求項5、9も同様である。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3に記載された事項は、「3.(1)I」に示したとおり、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。なお、平成30年9月18日付意見書の主張は本件補正を前提としたものであるから、請求人の当該主張は採用できない。請求項7も同様である。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項4に記載された事項は、「3.(1)I」に示したとおり、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。なお、平成30年9月18日付意見書の主張は本件補正を前提としたものであるから、請求人の当該主張は採用できない。請求項8も同様である。
したがって、平成30年3月5日付でした手続補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、明細書を参照しても、「3.(1)II(1)」、「3.(1)II(2)」に示したとおり、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、「3.(1)II(1)」、「3.(1)II(2)」に示したとおり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。なお、平成30年9月18日付意見書の主張は本件補正を前提としたものであるから、請求人の当該主張は採用できない。請求項5、9も同様である。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項4の記載は、明細書を参照しても、「3.(1)II(3)」に示したとおり、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、「3.(1)II(3)」に示したとおり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。なお、平成30年9月18日付意見書の主張は本件補正を前提としたものであるから、請求人の当該主張は採用できない。請求項8も同様である。


(3)むすび
したがって、平成30年3月5日付でした手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、請求項1、4、5、8、9の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-01 
結審通知日 2018-11-05 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2014-529819(P2014-529819)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (H02J)
P 1 8・ 572- WZ (H02J)
P 1 8・ 55- WZ (H02J)
P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 慎  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 矢島 伸一
堀川 一郎
発明の名称 ワイヤレス電力デバイスを検出および識別するためのシステムおよび方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 黒田 晋平  

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