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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特39条先願 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1351043
審判番号 不服2018-6475  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-10 
確定日 2019-05-14 
事件の表示 特願2016-194407「発光装置及び樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日出願公開,特開2017- 50543,請求項の数(10)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年1月16日(優先権主張平成26年10月17日)に出願された特願2015-6707号(以下「原出願」という。)の一部を,平成28年9月30日に新たな特許出願としたものであって,以降の手続は次のとおりである。
平成29年 8月23日 拒絶理由通知(同年同月29日発送)
同年10月20日 手続補正書・意見書提出
平成30年 2月13日 拒絶査定(同年同月20日送達)
同年 5月10日 審判請求
同年12月19日 拒絶理由通知(平成31年1月8日発送)
平成31年 2月12日 手続補正書・意見書提出
同年 2月28日 拒絶理由通知(最後;同年3月5日発送)
同年 3月13日 手続補正書・意見書提出

平成30年12月19日付けの拒絶理由通知で通知された拒絶理由,及び平成31年2月28日付けの拒絶理由通知(最後)で通知された拒絶理由を,以下においては,それぞれ「当審拒絶理由」及び「当審最後拒絶理由」という。

第2 平成31年3月13日にされた手続補正について
以下,平成31年3月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)の適否を検討する。
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,補正前後の特許請求の範囲は以下のものである。
〈補正前〉
「 【請求項1】
パッケージと;
前記パッケージに配置された発光素子と;
蛍光体と,樹脂と,一次粒子の個数平均粒径が2nm?5nmである酸化ジルコニウムナノ粒子及び一次粒子の個数平均粒径が10nm?70nmである酸化ケイ素ナノ粒子とを含み,前記酸化ジルコニウムナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して3?25質量部であり,前記酸化ケイ素ナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して0.3?0.8質量部であり,前記蛍光体の含有量が前記樹脂100質量部に対して20?37質量部である,樹脂組成物の硬化物であり,前記発光素子を被覆する封止部材と;を含み,
前記蛍光体が,4価のマンガンイオンで付活された,下記式(I)で示される化学組成を有し,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも,4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含む,発光装置。
A_(2)[M_(1-x)Mn^(4+)_(x)F_(6)] (I)
(式中,Aは,K^(+),Li^(+),Na^(+),Rb^(+),Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり,Mは,第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり,xは0<x<0.2を満たす。)
【請求項2】
前記封止部材は,前記蛍光体を含み,前記発光素子を被覆する第一の部位と,その第一の部位の上に配置され,前記蛍光体を実質的に含まない第二の部位とから構成されている,請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記ナノ粒子は,前記第一の部位及び前記第二の部位に実質的に均一に分散している,請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記一般式(I)中のMが,チタニウム(Ti),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ケイ素(Si),ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群から選択される少なくとも1種の元素である,請求項1?3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記発光素子が,380nm?573nmの範囲に発光ピーク波長を有する,請求項1?4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記蛍光体が,380nm?485nmの範囲に極大波長を有する光を吸収し,495nm?590nmの範囲に発光ピーク波長を有する緑色から黄色の光を発する蛍光体をさらに含む,請求項1?5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記緑色から黄色の光を発する蛍光体は,組成式が(Si,Al)_(6)(O,N)_(8):Euで表されるβ-サイアロン,組成式が(Ca,Sr,Ba,Zn)_(8)MgSi_(4)O_(16)(F,Cl,Br,I)_(2):Euで表されるハロシリケート,組成式が(Ba,Sr,Ca)Ga_(2)S_(4):Euで表されるアルカリ土類チオガレート,及び組成式が(Y,Lu)_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ceで示される希土類アルミン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光体を含む,請求項6に記載の発光装置。
【請求項8】
前記緑色から黄色の光を発する蛍光体と前記赤色蛍光体との質量比率が,5:95?95:5である,請求項6又は7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記樹脂が,フェニルシリコーン樹脂を含む,請求項1?8のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】
前記パッケージは凹部を形成する側壁を有し,前記凹部の底部に第一のリード及び第二のリードが配置されて,前記パッケージの凹部の底面を構成し,
前記発光素子は,前記凹部の底面に配置され,
前記第一のリード及び第二のリードはそれぞれ,ワイヤを介して前記発光素子の電極に接続され,
少なくとも前記第一のリード及び第二のリードが,酸化物又は窒化物を含む絶縁部材で被覆されている,請求項1?9のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項11】
前記表面領域が下記式(II)で示される組成を有する,請求項10に記載の発光装置。
A_(2)[M_(1-y)Mn^(4+)_(y)F_(6)] (II)
(式中,Aは,K^(+),Li^(+),Na^(+),Rb^(+),Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり,Mは,第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり,yは0<y<xを満たす。)
【請求項12】
蛍光体と;樹脂と;一次粒子の個数平均粒径が2nm?5nmである酸化ジルコニウムナノ粒子及び一次粒子の個数平均粒径が10nm?70nmである酸化ケイ素ナノ粒子と;を含み,前記酸化ジルコニウムナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して3?25質量部であり,前記酸化ケイ素ナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して0.3?0.8質量部であり,前記蛍光体の含有量が前記樹脂100質量部に対して20?37質量部であり,
前記蛍光体が,4価のマンガンイオンで付活された,下記式(I)で示される化学組成を有し,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも,4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含む,樹脂組成物。
A_(2)[M_(1-x)Mn^(4+)_(x)F_(6)] (I)
(式中,Aは,K^(+),Li^(+),Na^(+),Rb^(+),Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり,Mは,第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり,xは0<x<0.2を満たす。)」

〈補正後〉
「 【請求項1】
パッケージと;
前記パッケージに配置された発光素子と;
蛍光体と,樹脂と,一次粒子の個数平均粒径が2nm?5nmである酸化ジルコニウムナノ粒子及び一次粒子の個数平均粒径が10nm?70nmである酸化ケイ素ナノ粒子とを含み,前記酸化ジルコニウムナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して3?25質量部であり,前記酸化ケイ素ナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して0.3?0.8質量部であり,前記蛍光体の含有量が前記樹脂100質量部に対して20?37質量部である,樹脂組成物の硬化物であり,前記発光素子を被覆する封止部材と;を含み,
前記蛍光体が,4価のマンガンイオンで付活された,下記式(I)で示される化学組成を有し,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも,4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含み,
前記パッケージは凹部を形成する側壁を有し,前記凹部の底部に第一のリード及び第二のリードが配置されて,前記パッケージの凹部の底面を構成し,
前記発光素子は,前記凹部の底面に配置され,
前記第一のリード及び第二のリードはそれぞれ,ワイヤを介して前記発光素子の電極に接続され,
少なくとも前記第一のリード及び第二のリードが,酸化物又は窒化物を含む絶縁部材で被覆されている,発光装置。
A_(2)[M_(1-x)Mn^(4+)_(x)F_(6)] (I)
(式中,Aは,K^(+),Li^(+),Na^(+),Rb^(+),Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり,Mは,第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり,xは0<x<0.2を満たす。)
【請求項2】
前記封止部材は,前記蛍光体を含み,前記発光素子を被覆する第一の部位と,その第一の部位の上に配置され,前記蛍光体を実質的に含まない第二の部位とから構成されている,請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記ナノ粒子は,前記第一の部位及び前記第二の部位に実質的に均一に分散している,請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記一般式(I)中のMが,チタニウム(Ti),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ケイ素(Si),ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群から選択される少なくとも1種の元素である,請求項1?3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記発光素子が,380nm?573nmの範囲に発光ピーク波長を有する,請求項1?4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記蛍光体が,380nm?485nmの範囲に極大波長を有する光を吸収し,495nm?590nmの範囲に発光ピーク波長を有する緑色から黄色の光を発する蛍光体をさらに含む,請求項1?5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記緑色から黄色の光を発する蛍光体は,組成式が(Si,Al)_(6)(O,N)_(8):Euで表されるβ-サイアロン,組成式が(Ca,Sr,Ba,Zn)_(8)MgSi_(4)O_(16)(F,Cl,Br,I)_(2):Euで表されるハロシリケート,組成式が(Ba,Sr,Ca)Ga_(2)S_(4):Euで表されるアルカリ土類チオガレート,及び組成式が(Y,Lu)_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ceで示される希土類アルミン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光体を含む,請求項6に記載の発光装置。
【請求項8】
前記緑色から黄色の光を発する蛍光体と前記赤色蛍光体との質量比率が,5:95?95:5である,請求項6又は7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記樹脂が,フェニルシリコーン樹脂を含む,請求項1?8のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】
前記表面領域が下記式(II)で示される組成を有する,請求項1?9のいずれか1項に記載の発光装置。
A_(2)[M_(1-y)Mn^(4+)_(y)F_(6)] (II)
(式中,Aは,K^(+),Li^(+),Na^(+),Rb^(+),Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり,Mは,第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり,yは0<y<xを満たす。)」

2 補正事項の整理
《補正事項1》
補正前の請求項1?9を削除するとともに,補正前の請求項1?9を引用していた補正前の請求項10について,当該各引用請求項ごとに個別の請求項に書き下して,補正後の請求項1?9とする。

《補正事項2》
補正前の請求項11を補正後の請求項10にするとともに,補正前の請求項11における「請求項10に記載の発光装置」を,補正後の請求項10の「請求項1?9のいずれか1項記載の発光装置」に補正する。

《補正事項3》
補正前の請求項12を削除する。

3 補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1について
補正事項1は,補正前の請求項1?9を削除するものであるから,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。

(2)補正事項2について
補正事項2は,補正事項1によって,補正前の請求項1?9が削除されるとともに,補正前の請求項10が補正後の請求項1?9とされたことに伴い,請求項番号の整合を図るものであるから,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものである。

(3)補正事項3について
補正事項3は,補正前の請求項12を削除するものであるから,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。

4 本件補正の新規事項の追加の有無についての検討
補正事項1?3は,上記「3 補正の目的の適否についての検討」のとおり,いずれも請求項の削除,または,明りようでない記載の釈明を目的とするものであるから,新規事項を追加するものでないことは明らかである。
よって,補正事項1?3は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

5 小括
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たすものであり,また,特許法第17条の2第4項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであるから,適法になされたものである。


第3 本願発明
上記「第2 平成31年3月13日にされた手続補正について」において検討したとおり,本件補正は適法にされたものであるから,本願発明は,前記第2 1に〈補正後〉として記載したとおりのものである。(以下においては,請求項1?10に係る発明を,それぞれ「本願発明1」?「本願発明10」という。)
なお,本願発明2?10は,本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用例に記載された発明
1 引用例1: 特開2014-177586号公報
ア 当審拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2014-177586号公報(以下「引用例1」という。)には,図とともに,以下の記載がある。(下線は当審において付加。以下同様。)

「【0014】
実施形態にかかる赤色発光蛍光体は,主としてケイフッ化カリウムからなり,マンガンで付活された蛍光体である。ここで主としてケイフッ化カリウムからなる蛍光体とは,蛍光体の基本的な結晶構造がケイフッ化カリウムであり,結晶を構成する元素の一部が他の元素で置換されたものをいう。この蛍光体の表面には,微量のマンガンが存在するが,表面の基本組成は下記式(A)式で表わされる。
KaSiFb(A)
式中,
1.5≦a≦2.5,好ましくは1.8≦a≦2.3,かつ
5.5≦b≦6.5,好ましくは5.7≦b≦6.2である。
そして,蛍光体の表面に存在するマンガン量は,蛍光体全体に対するマンガン量よりも少なく,蛍光体表面に存在する全元素の総量に対して0.2モル%以下,好ましくは0.1モル%以下である
【0015】
ここで,aおよびbが上記範囲内にあることで,蛍光体は優れた発光効率を発揮することができる。
【0016】
一方,実施形態にかかる蛍光体は,全体としては,下記式(B)で表わされるものであることが好ましい。
K_(c)(Si_(1-x),Mn_(x))F_(d)(B)
式中
1.5≦c≦2.5,好ましくは1.8≦c≦2.2,
5.5≦d≦6.5,好ましくは5.7≦d≦6.2かつ
0<x≦0.06,好ましくは0.01≦x≦0.05
である。
【0017】
実施形態にかかる蛍光体は,付活剤としてマンガンを含有するものである。マンガンが含有されていない場合(x=0)には紫外から青色領域に発光ピークを有する光で励起しても発光を確認することはできない。したがって,前記式(B)におけるxは0より大きいことが必要である。また,マンガンの含有量が多くなると発光効率が改良される傾向にあり,0.01以上であることが好ましい。また,赤色発光の蛍光体を得るためにはマンガンの価数は+4価であることが好ましい。」

「【0049】
実施形態に係る蛍光体は紫外から青色領域に発光ピークを有する励起光源にて励起可能である。この蛍光体を発酵装置に用いる場合には,図5に示された実施形態による蛍光体の励起スペクトルからわかるように,440nm以上470nm以下の波長領域に発光ピークを有する発光素子を励起光源として利用することが望ましい。上述の波長範囲外に発光ピークを有する発光素子を用いることは,発光効率の観点からは好ましくない。発光素子としては,LEDチップやレーザーダイオードなどの固体光源素子を使用できる。」

「【0051】
緑色発光蛍光体および黄色発光蛍光体は,520nm以上570nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光体ということができる。このような蛍光体としては,例えば,(Sr,Ca,Ba)_(2)SiO_(4):Eu,Ca_(3)(Sc,Mg)_(2)Si_(3)O_(12):Ce等のケイ酸塩蛍光体,(Y,Gd)_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ce,(Ca,Sr,Ba)Ga_(2)S_(4):Eu等の硫化物蛍光体,(Ca,Sr,Ba)Si_(2)O_(2)N_(2):Eu,(Ca,Sr)-αSiAlON等のアルカリ土類酸窒化物蛍光体などが挙げられる。なお,主発光ピークとは,発光スペクトルのピーク強度が最も大きくなる波長のことであり,例示された蛍光体の発光ピークは,これまで文献などで報告されている。なお,蛍光体作製時の少量の元素添加やわずかな組成変動により,10nm程度の発光ピークの変化が認められることがあるが,そのような蛍光体も前記の例示された蛍光体に包含されるものとする。」

「【0054】
図6には,本発明の一実施形態にかかる発光装置の断面を示す。
【0055】
図示する発光装置は,発光装置200はリードフレームを成形してなるリード201およびリード202と,これに一体成形されてなる樹脂部203とを有する。樹脂部203は,上部開口部が底面部より広い凹部205を有しており,この凹部の側面には反射面204が設けられる。
【0056】
凹部205の略円形底面中央部には,発光チップ206がAgペースト等によりマウントされている。発光チップ206としては,紫外発光を行なうもの,あるいは可視領域の発光を行なうものを用いることができる。例えば,GaAs系,GaN系等の半導体発光ダイオード等を用いることが可能である。発光チップ206の電極(図示せず)は,Auなどからなるボンディングワイヤ209および210によって,リード201およびリード202にそれぞれ接続されている。なお,リード201および202の配置は,適宜変更することができる。
【0057】
樹脂部203の凹部205内には,蛍光層207が配置される。この蛍光層207は,実施形態にかかる蛍光体208を,例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層211中に5wt%以上50wt%以下の割合で分散することによって形成することができる。蛍光体は,有機材料である樹脂や無機材料であるガラスなど種々のバインダーによって,付着させることができる。」

「【図6】



(2)したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「発光装置200はリードフレームを成形してなるリード201およびリード202と,これに一体成形されてなる,樹脂部203とを有し,樹脂部203は,上部開口部が底面部より広い凹部205を有しており,凹部205の底面には,発光チップ206がマウントされ,発光チップ206は,440nm以上470nm以下の波長領域に発光ピークを有し,発光チップ206の電極は,ボンディングワイヤ209および210によって,リード201およびリード202にそれぞれ接続され,樹脂部203の凹部205内には,蛍光層207が配置され,蛍光層207は,蛍光体208を,シリコーン樹脂からなる樹脂層211中に5wt%以上50wt%以下の割合で分散することによって形成され,蛍光体は,主としてケイフッ化カリウムからなり,マンガンで付活された蛍光体であり,蛍光体の表面に存在するマンガン量は,蛍光体全体に対するマンガン量よりも少なく,全体としては,下記式(B)で表わされ,マンガンの価数は+4価である赤色発光蛍光体と,520nm以上570nm以下の波長領域に主発光ピークを有する,(Y,Gd)_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ce,(Ca,Sr,Ba)Ga_(2)S_(4):Eu等の緑色発光蛍光体または黄色発光蛍光体と,を含む,
発光装置。
K_(c)(Si_(1-x),Mn_(x))F_(d)(B)
式中,
1.5≦c≦2.5,好ましくは1.8≦c≦2.2,
5.5≦d≦6.5,好ましくは5.7≦d≦6.2かつ
0<x≦0.06,好ましくは0.01≦x≦0.05
である。」


2 引用例2:特開2008-260930号公報
(1)当審拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2008-260930号公報(以下「引用例2」という。)には,図とともに,以下の記載がある。

「【請求項1】
(A)シリカ微粒子,(B)Al,ZrおよびTiから選ばれる1以上を含有する金属酸化物,(C)蛍光体,および(D)液状媒体を含有することを特徴とする蛍光体含有組成物。」

「【0005】
チキソトロープ剤には,一般にシリカ微粒子が用いられるが,シリカ微粒子は嵩密度が低く,所望のチキソトロープ性を発現するために要する体積量が多く,液状媒体と混合するのに特別な工夫が必要であった。また,励起波長が青色より短い近紫外領域の場合に散乱や吸収により発光強度が低下する恐れがあった。
そこで,従来使用されてきたシリカ微粒子より少量の添加でチキソトロープ性を発現するチキソトロープ剤の開発が望まれていた。」

「【0009】
第一の本発明の蛍光体含有組成物においては,(A)シリカ微粒子,および(B)Al,ZrおよびTiから選ばれる1以上を含有する金属酸化物が前記チキソトロープ剤に相当する。
第二の本発明の蛍光体含有組成物においては,(E)Si,Al,ZrおよびTiから選ばれる2以上を含有する無機微粒子が前記チキソトロープ剤に相当する。
【0010】
また,いずれの本発明の蛍光体含有組成物も,(C)蛍光体,および(D)液状媒体を含有していることを特徴とする。
さらに,いずれの本発明の蛍光体含有組成物も要すればその他の任意成分を含有していてもよい。以下,各構成成分について説明する。
[1-1](A)シリカ微粒子
本発明の(A)シリカ微粒子は,前述の通り,チキソトロープ剤としての役割を担保するものであり,具体的には,例えばフュームドシリカを挙げることができる。フュームドシリカは,H_(2)とO_(2)との混合ガスを燃焼させた1100?1400℃の炎でSiCl_(4)ガスを酸化,加水分解させることにより作製される。フュームドシリカの一次粒子は,平均粒径が5?50nm程度の非晶質の二酸化ケイ素(SiO_(2))を主成分とする球状の超微粒子であり,この一次粒子がそれぞれ凝集し,粒径が数百nmである二次粒子を形成する。フュームドシリカは,超微粒子であるとともに,急冷によって作製されるため,表面の構造が化学的に活性な状態となっている。
【0011】
本発明に使用するシリカ微粒子は,BET法による比表面積が,通常50m^(2)/g以上,好ましくは80m^(2)/g以上,さらに好ましくは100m^(2)/g以上である。また,通常300m^(2)/g以下,好ましくは200m^(2)/g以下である。比表面積が小さすぎるとシリカ微粒子の添加効果が認められず,大きすぎると樹脂中への分散処理が困難になる。
本発明に使用するシリカ微粒子の一次粒子の平均粒子径は上記の比表面積から計算により求めたものである。平均粒子径をd,1gの粉体が有する表面積をS,形状係数をφとすると
d=6/Sφ
の関係が成立する(出典:化学大辞典)。
【0012】
本発明に使用する前記シリカ微粒子は,市販のものを使用することができ,具体的には,例えば日本アエロジル株式会社もしくはデグサ(Degussa)社製「アエロジル」(登録商標)が挙げられる。
[1-2]金属酸化物
(B)Al,ZrおよびTiから選ばれる1以上を含有する金属酸化物は,前記(A)シリカ微粒子と併用してチキソトロープ剤としての役割を担保するものである。(B)の金属酸化物としては,市販のものを使用でき,具体的には,例えばデグサ社製「AEROXIDEAluC」(登録商標),「AEROXIDETiO2P25」(登録商標),「AEROXIDETiO2P25S」(登録商標),「AEROXIDETiO2PF2」(登録商標),「VPZirconiumOxide3-YSZ」,「VPZirconiumOxidePH」が挙げられる。
【0013】
(B)の含有量は,(A)に対して,通常5重量%以上,好ましくは10重量%以上,さらに好ましくは12重量%以上であり,通常95重量%以下,好ましくは50重量%以下,さらに好ましくは30重量%以下である。(B)の含有量が少なすぎると沈降抑制効果が不十分となり,多すぎると散乱効果や紫外線吸収効果等により発光の効率が低下する。」

「【0086】
[1-9]蛍光体含有組成物の製造方法
本発明の蛍光体含有組成物の製造法には特に制限はなく,チキソトロープ剤((A)成分および(B)成分もしくは(E)成分),(C)蛍光体,シランカップリング剤および必要に応じて添加する添加物が(D)液状媒体中に均一に分散する方法であれば良い。
チキソトロープ剤((A)成分および(B)成分もしくは(E)成分)の配合量は(D)液状媒体100重量部に対して通常0.1重量部以上,好ましくは0.3重量部以上である。また,通常20重量部以下,好ましくは10重量部以下,更に好ましくは5重量部以下である。チキソトロープ剤の配合量が少なすぎると,効果が発現せず,多すぎると分散が困難となる。
【0087】
(C)蛍光体の配合量は通常,(D)液状媒体100重量部に対して通常0.01重量部以上,好ましくは0.1重量部以上,さらに好ましくは1重量部以上である。また,通常100重量部以下,好ましくは80重量部以下,さらに好ましくは60重量部以下である。
(D)液状媒体としてシリコーン樹脂を使用する場合には,例えばシリコーン樹脂,蛍光体,チキソトロープ剤,ならびに架橋剤,硬化触媒,増量材,およびその他の添加剤を配合し,ミキサー,高速ディスパー,ホモジナイザー,3本ロール,ニーダー等で混合する等,従来公知の方法で製造することができる。この場合,前記成分を全て混合して,1液の形態として液状シリコーン樹脂組成物を製造しても良いが,
(i)シリコーン樹脂と蛍光体及び増量材を主成分とするシリコーン樹脂液と,(ii)架橋剤と硬化触媒を主成分とする架橋剤液の2液を調製しておき,使用直前にシリコーン樹脂液と架橋剤液を混合して液状シリコーン樹脂組成物を製造しても良い。」

上記の段落【0012】において,「(B)Al,ZrおよびTiから選ばれる1以上を含有する金属酸化物は,前記(A)シリカ微粒子と併用してチキソトロープ剤としての役割を担保するものである」と記載されていることから,Zrを含有するの金属酸化物も,シリカ微粒子と同様であり,一次粒子の平均粒径が5?50nm程度の球状の超微粒子であるといえる。

(2)したがって,上記引用文献2には次の技術事項(以下,「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「一次粒子の平均粒径が5?50nm程度の球状の超微粒子である,シリカ微粒子,
一次粒子の平均粒径が5?50nm程度の球状の超微粒子である,Zrを含有する金属酸化物微粒子,
蛍光体,
樹脂である液状媒体,
を含有する組成物であって,
蛍光体の配合量は,液状媒体100重量部に0.01重量部以上100重量部以下であり,
Zrを含有する金属酸化物微粒子及びシリカ微粒子の含有量は,液状媒体100重量部に対して,0.1重量部以上20重量部以下であり,
Zrを含有する金属酸化物微粒子の含有量は,シリカ微粒子に対して,5重量%以上95重量%以下である,
組成物。」

3 引用例3:特開2014-45140号公報
(1)当審拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2014-45140号公報(以下「引用例3」という。)には,図とともに,以下の記載がある。
「【請求項1】
光半導体発光素子と蛍光体粒子を含有する光変換層とを有し,白色光を発する光半導体発光装置であって,
前記光変換層がさらに光散乱粒子とバインダーとを含有する光散乱組成物を含み,
前記光散乱粒子が,アルケニル基,H-Si基,及びアルコキシ基から選ばれた1つ以上の官能基を有する表面修飾材料によって表面修飾され,光半導体発光波長領域において光の吸収の無い材質からなる,平均一次粒径3nm以上,20nm以下の粒子である光半導体発光装置。」
「【0021】
光散乱粒子としては,無機粒子,有機樹脂粒子,有機樹脂粒子中に無機粒子を分散複合化した粒子が挙げられる。バインダー中への単分散性と,バインダーとの界面親和性を確保するために表面改質が容易なこととを考慮すると,無機粒子が好ましく,光半導体発光波長領域である波長460nmでの光の吸収の無い材質であるZrO_(2),TiO_(2),ZnO,Al_(2)O_(3),SiO_(2),CeO_(2)等の金属酸化物粒子が好ましい。特に,光半導体素子からの光取出効率を向上できることから,屈折率が高いZrO_(2)及びTiO_(2)が好ましい。」

(2)したがって,上記引用文献3には次の技術事項(以下,「引用文献3技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「光半導体発光素子と蛍光体粒子を含有する光変換層とを有する光半導体発光装置であって,
前記光変換層がさらに光散乱粒子とバインダーとを含有する光散乱組成物を含み,
前記光散乱粒子が,平均一次粒径3nm以上,20nm以下のZrO_(2)粒子である光半導体発光装置。」

4 引用例4:特開2011-129661号公報
(1)当審拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2011-129661号公報(以下「引用例4」という。)には,図とともに,以下の記載がある。
「【0077】
実施の形態7.
図9は,本発明の実施の形態7に係る発光装置1を示す模式断面図である。本実施の形態では,断面が逆台形で表面が反射鏡となった凹状の実装基板10を用い,実装基板10の上に半導体発光素子2を実装した後,蛍光体粒子14と粒子20を同時に混合した透光性媒質18をポッティングし,蛍光体粒子14を沈降させる。その他の点は,実施の形態1と同様である。
【0078】
本実施の形態によれば,簡単な製造方法により,蛍光体層16と散乱層21を同時に形成できる。即ち,本実施の形態では,半導体発光素子2の上面と側面を覆うように沈降した蛍光体粒子14によって蛍光体層16が構成される。本実施の形態の方法によって発光装置1を製造するには,硬化前の透光性媒質18として十分に粘度の低い材料を用いて,半導体発光素子2を実装した実装基板10にポッティングする際に蛍光体粒子14が沈降するようにすれば良い。このとき粒子20は,粒子径が小さいため沈降しない。したがって,本実施の形態によれば,単一の工程により,蛍光体層16と散乱層21を同時に形成することができる。また,蛍光体粒子14を沈降して蛍光体層16とすれば,蛍光体層16における1次光や2次光の吸収ロスを減らすことができ,好ましい。なお,蛍光体粒子14は,凹凸のある形状よりも球形の方が沈降し易い。」
「【図9】



(2)したがって,上記引用文献4には,「蛍光体粒子は沈降し,粒子は,沈降しない発光装置。」という技術事項(以下,「引用文献4技術事項」という。)が記載されていると認められる。

5 引用例5:特開2014-22491号公報
(1)当審拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2014-22491号公報(以下「引用例5」という。)には,図とともに,以下の記載がある。
「【0029】
リードフレーム24,25のうち外気に対し露出している部分(連結部23,図1(b),図1(d)参照)は半田等でメッキしておくのが良い。リードフレーム24,25をAgメッキしている場合は,酸化や硫化を防止するためLEDダイ27を実装したらリードフレーム24,25の上面にSiO2等の無機透明絶縁膜を形成しておくと良い。リードフレーム24,25の凸部24a,25a上に配置された半田層29aは,LED装置20をマザー基板に実装する際のリフロー温度で溶融してはならないので高融点半田とすると良い。」

(2)したがって,上記引用文献5には,「上面にSiO2等の無機透明絶縁膜を形成したリードフレームを有するLED装置。」という技術事項(以下,「引用文献5技術事項」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明において,「樹脂部203は,上部開口部が底面部より広い凹部205を有しており,凹部205には,発光チップ206がマウントされ」るものであるから,引用発明における「樹脂部203」及び「樹脂部203」の「凹部205に」「マウントされ」た「発光チップ206」は,それぞれ本願発明1における「パッケージ」及び「前記パッケージに配置された発光素子」に相当する。

イ 引用発明において,「凹部205」には,「発光チップ206がマウントされ」,「樹脂部203の凹部205内には,蛍光層207が配置され,蛍光層207は,蛍光体208を」「樹脂層211中に」「分散することによって形成され」るものであり,樹脂部203の凹部205内に配置される蛍光層207は,凹部205内にマウントされた発光チップ206を被覆し封止する部材であり,封止後硬化されることは明らかであるから,引用発明の「樹脂層211中に分散する」「蛍光体208」及び「樹脂層211」は,それぞれ本願発明1の「蛍光体」及び「樹脂」に相当し,引用発明の「蛍光体208を」「樹脂層211中に」「分散することによって形成され」る「蛍光層207」は,本願発明1の「樹脂組成物の硬化物であり,前記発光素子を被覆する封止部材」に相当する。

ウ 引用発明の「蛍光体は,主としてケイフッ化カリウムからなり,マンガンで付活された蛍光体であり,蛍光体の表面に存在するマンガン量は,蛍光体全体に対するマンガン量よりも少なく,全体としては,下記式(B)で表わされ,マンガンの価数は+4価である赤色発光蛍光体」「を含む」ことは,本願発明1の「前記蛍光体が,4価のマンガンイオンで付活された,下記式(I)で示される化学組成を有し,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも,4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含」むことに相当する。

エ 引用発明の「リード201およびリード202」は,本願発明1の「第一のリード及び第二のリード」に相当する。また,引用発明の「凹部205」は凹部であるから,本願発明1の「前記パッケージは凹部を形成する側壁を有」することに相当する。そして,引用発明において「凹部205」の「底面」に「発光チップ206」をマウントすることは,本願発明1の「底面に配置する」ことに相当する。

オ 引用発明の「発光チップ206」の「電極」は,「ボンディングワイヤ209および210によって,リード201およびリード202にそれぞれ接続され」ているから,これは,本願発明1の「前記第一のリード及び第二のリードはそれぞれ,ワイヤを介して前記発光素子の電極に接続され」ることに相当する。

カ したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点及び各相違点があるといえる。

《一致点》
パッケージと;
前記パッケージに配置された発光素子と;
蛍光体と,樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり,前記発光素子を被覆する封止部材と;を含み,
前記蛍光体が,4価のマンガンイオンで付活された,下記式(I)で示される化学組成を有し,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも,4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含み,
前記パッケージは凹部を形成する側壁を有し,前記凹部の底部に第一のリード及び第二のリードが配置されて,前記パッケージの凹部の底面を構成し,
前記発光素子は,前記凹部の底面に配置され,
前記第一のリード及び第二のリードはそれぞれ,ワイヤを介して前記発光素子の電極に接続されている,発光装置。
A_(2)[M_(1-x)Mn^(4+)_(x)F_(6)] (I)
(式中,Aは,K^(+),Li^(+),Na^(+),Rb^(+),Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり,Mは,第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり,xは0<x<0.2を満たす。)

《相違点1》
本願発明1においては,「樹脂組成物の硬化物」が,「一次粒子の個数平均粒径が2nm?5nmである酸化ジルコニウムナノ粒子及び一次粒子の個数平均粒径が10nm?70nmである酸化ケイ素ナノ粒子とを含み,前記酸化ジルコニウムナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して3?25質量部であり,前記酸化ケイ素ナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して0.3?0.8質量部であり,前記蛍光体の含有量が前記樹脂100質量部に対して20?37質量部である」のに対し,引用発明においては,蛍光体層が粒子を含むか否か不明であり,また,蛍光体の含有量が5wt%以上50wt%以下の割合である点。

《相違点2》
本願発明1が,「少なくとも前記第一のリード及び第二のリードが,酸化物又は窒化物を含む絶縁部材で被覆されている」のに対し,引用発明のリード201およびリード202が絶縁部材で被覆されているかは不明である点。

(2)判断
ア 上記相違点1について検討する。

イ 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】及び【0157】には,以下の記載がある。
「【0036】
封止部材を構成する樹脂組成物は,樹脂組成物中に一次粒子径が比較的小さい酸化ジルコニウムナノ粒子を含むことにより,樹脂組成物中で酸化ジルコニウムナノ粒子が分散し,レイリー散乱によって発光素子からの光の散乱効果が大きくなり,樹脂組成物中に含まれる蛍光体の量を従来よりも少量とした場合であっても,同様の色調を得ることができる。また,封止部材を構成する樹脂組成物は,樹脂組成物中に酸化ジルコニウムナノ粒子を含む場合,酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため,蛍光体と水分との反応をより抑制することができる。よって,酸化ジルコニウムナノ粒子を含む樹脂組成物を用いることで,長期信頼性試験においても,より優れた耐久性を有する発光装置を提供することができる。」
「【0157】
実施例6?7のジルコニアナノ粒子及び/又は特定量のシリカナノ粒子を用いた発光装置は,比較例10の発光装置よりも光束維持率が大きいことから,長期信頼性試験において優れた耐久性を有することが分かる。より具体的には,ジルコニアナノ粒子あるいはシリカナノ粒子のいずれか一方を含む実施例6,7,8は,それらのいずれも含まない比較例10よりも光束維持率が高いことが分かる。また,実施例10,11に示されるように,ジルコニアナノ粒子とシリカナノ粒子の両方を特定量含むことにより,ジルコニアナノ粒子あるいはシリカナノ粒子のいずれか一方を含む実施例6,7,8よりも,光束維持率を高くすることができたことが分かる。」

これらの記載から,本願発明1は,相違点1に係る構成により,「酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため,蛍光体と水分との反応をより抑制することができ」「長期信頼性試験においても,より優れた耐久性を有」し,「ジルコニアナノ粒子とシリカナノ粒子の両方を特定量含むことにより,ジルコニアナノ粒子あるいはシリカナノ粒子のいずれか一方を含む実施例6,7,8よりも,光束維持率を高くすることができ」るという効果を奏するものである。

ウ 一方,引用文献2技術事項は,引用文献2の段落【0005】に記載されているとおり,「従来使用されていたシリカ微粒子より少量の添加で」済むチキソトロープ剤の開発という課題に対応するものであって,その適用において,蛍光体の含有量として樹脂100質量部に対して数十質量部という通常用いられている程度の値を採用するとともに,単にZrを含有する金属酸化物微粒子よりもシリカ微粒子を少なくすることまでは適宜になしえたこととはいえる。また,引用文献3技術事項のとおり,ZrO_(2)すなわち酸化ジルコニウムナノ粒子が光散乱のためにも使われることは周知の技術といえる。

エ しかしながら,引用発明において,本願発明1のように「ジルコニアナノ粒子とシリカナノ粒子の両方を特定量含むことにより,」「光束維持率を高く」し,「酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため,蛍光体と水分との反応をより抑制する」という知見に基づいて,引用発明の蛍光体層に,特定の無機微粒子を特定の粒子径として特定量含有させ,かつ,蛍光体の含有量を本願発明1のように特定の範囲に限定する動機付けは無い。
また,引用発明2ないし引用文献5には,前記動機付けに関する記載はない。

オ したがって,相違点2について検討するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用例2ないし引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?10について
本願発明2ないし10も,本願発明1の上記相違点1又は相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明2ないし10は,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2ないし引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 当審より通知した拒絶理由について
1 当審より通知した拒絶理由の概要
当審より通知した拒絶理由のうち,当審拒絶理由は,以下の理由1?3(以下,それぞれ「当審拒絶理由1」?「当審拒絶理由3」という。)からなる。
(1)当審拒絶理由1の概要
平成29年10月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲(以下「査定時特許請求の範囲」という。)の請求項1における「化学組成を有る」との記載(「化学組成を有する」の誤記と思われる)は意味不明瞭であるから,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)当審拒絶理由2の概要
査定時特許請求の範囲の請求項1(請求項2?10,13も同様)に記載された発明は,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有していない赤色蛍光体を含む場合において,シリカナノ粒子に加えて,さらに酸化ジルコニウムナノ粒子を加え,それぞれのナノ粒子に数値限定を加えた発明であるが,そのようなものは,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)当審拒絶理由3の概要
査定時特許請求の範囲の請求項1?13に係る発明は,前記引用例1に記載された引用発明及び前記引用例2?5に記載された各技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることできたものであるから,許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)当審最後拒絶理由の概要
本件補正前の請求項1?9,12に記載された発明は,原出願に係る発明と同一と認められ,かつ,原出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから,特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 当審拒絶理由及び当審最後拒絶理由についての判断
(1)当審拒絶理由1について
本願発明1においては,該当記載は「化学組成を有する」となっていることから,当審拒絶理由1は解消されている。

(2)当審拒絶理由2について
本願発明1(本願発明2?10も同様)においては,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有していない赤色蛍光体を含む場合は排除されており,また,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体とともに,シリカナノ粒子に加えて,さらに酸化ジルコニウムナノ粒子を加え,それぞれのナノ粒子に数値限定を加えた発明は,発明の詳細な説明に記載されているから,当審拒絶理由2は解消されている。

(3)当審拒絶理由3について
前記第4及び第5において検討したとおり,本願発明1?10は,当業者であっても,引用発明及び引用例2ないし引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえないから,当審拒絶理由3は解消されている。

(4)当審最後拒絶理由について
本件補正により,本願発明1(本願発明2?10についても同様。)には,
「前記パッケージは凹部を形成する側壁を有し,前記凹部の底部に第一のリード及び第二のリードが配置されて,前記パッケージの凹部の底面を構成し,
前記発光素子は,前記凹部の底面に配置され,
前記第一のリード及び第二のリードはそれぞれ,ワイヤを介して前記発光素子の電極に接続され,
少なくとも前記第一のリード及び第二のリードが,酸化物又は窒化物を含む絶縁部材で被覆されている」
との構成が加入された。
そして,原出願に係る発明は,当該構成を含まないものであるから,当審最後拒絶理由は解消されている。

3 小括
以上のとおりであるから,当審より通知した拒絶理由により,本願を拒絶することはできない。

第7 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
原査定の理由は,査定時特許請求の範囲の請求項1?13に記載された発明は,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有していない赤色蛍光体を含む場合を包含するところ,そのようなものは発明の詳細な説明に記載されていないから,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,また,同様の理由により,本願は適法にされた分割出願とはいえず,原出願の特許出願の時にしたものとみなすことはできないから,原出願に係る公開公報(特開2016-82212号公報)に記載された発明であるか,あるいは当該公開公報の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。

2 原査定の拒絶の理由についての判断
上記第6 2(2)において検討したとおり,本願発明1においては,蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有していない赤色蛍光体を含む場合は排除されている。よって,原査定に係る,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの理由は解消され,これに伴い,本願は適法にされた分割出願といえるから,原出願に係る公開公報に記載された発明であるか,あるいは当該公開公報の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるとの理由も成り立たない。

3 小括
以上のとおりであるから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第8 むすび
よって,原査定の理由,当審拒絶理由及び当審最後拒絶理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-24 
出願番号 特願2016-194407(P2016-194407)
審決分類 P 1 8・ 4- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
西村 直史
発明の名称 発光装置及び樹脂組成物  
代理人 言上 惠一  
代理人 膝舘 祥治  
代理人 山尾 憲人  
代理人 柳橋 泰雄  

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