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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1351080
審判番号 不服2018-13392  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-05 
確定日 2019-04-22 
事件の表示 特願2018- 97877「ウェハ加工方法及びウェハ加工システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月23日出願公開,特開2018-133593〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年6月13日に出願された特願2011-131491号(以下,「原出願」という。)の一部を平成27年10月13日に新たな特許出願(特願2015-202032号)とし,さらに,その一部を平成28年7月4日に新たな特許出願(特願2016-132264号)とし,さらに,その一部を平成29年2月16日に新たな特許出願(特願2017-26939号)とし,さらに,その一部を同年6月27日に新たな特許出願(特願2017-125526号)とし,さらに,その一部を平成30年5月22日に新たな特許出願としたものであって,同年6月11日付け拒絶理由通知に対し,同年6月28日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年7月5日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年10月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,その後,同年11月19日付け拒絶理由通知に対し,平成31年1月18日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下,「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「【請求項1】
ウェハをチップに分割するための切断ラインに沿って,前記ウェハのデバイス面とは反対側の裏面側からレーザ光を照射して前記ウェハの内部に設定した目標面と前記ウェハの裏面との間にレーザ改質領域を形成する改質領域形成工程と,
前記ウェハのデバイス面の略全面を吸着するチャックに保持した状態で,前記ウェハをチップ毎に分割することなく,前記ウェハの裏面から前記目標面まで研削砥石を用いて研削して前記ウェハを薄化する研削工程と,
前記研削が行われた後,前記ウェハに新たな分割起点を形成することなく,前記ウェハに外力を加えることにより前記ウェハをチップ毎に分割する分割工程と,
を備えるウェハ加工方法。」

第3 拒絶の理由
平成30年11月19日付け拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は以下のとおりである。

1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は,原出願の前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,原出願の前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,原出願の前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-4
・引用文献等 1-4
<引用文献等一覧>
1.特開2009-290052号公報
2.特開2000-260738号公報
3.特開2000-254857号公報
4.特開2007-235069号公報

第4 引用文献の記載,引用発明及び周知技術
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 当審拒絶理由で引用された引用文献1(特開2009-290052号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下,同じ。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,表面に複数のストリートが格子状に形成されているとともに該複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されたウエーハを,ストリートに沿って分割するウエーハの分割方法に関する。」

イ 「【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては,略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイスを形成する。そして,ウエーハをストリートに沿って切断することによりデバイスが形成された領域を分割して個々のデバイスを製造している。
【0003】
上述したウエーハのストリートに沿って分割する方法として,ウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を用い,分割すべき領域の内部に集光点を合わせてパルスレーザー光線を照射するレーザー加工方法も試みられている。このレーザー加工方法を用いた分割方法は,ウエーハの一方の面側から内部に集光点を合わせてウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し,ウエーハの内部にストリートに沿って変質層を連続的に形成し,この変質層が形成されることによって強度が低下したストリートに沿って外力を加えることにより,ウエーハを破断して分割するものであり,ストリートの幅を狭くすることが可能となる。(例えば,特許文献1参照。)
【特許文献1】特許第3408805号公報」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して,ストリートの表面に金属膜,フッ化シリケートグラス膜,シリコン酸化膜系パシベーション膜(SiO2,SiON),ポリイミド(PI)系高分子化合物膜,フッ素系高分子化合物膜,フッ素化アモルファスカーボン系化合物膜が被覆されているウエーハにおいては,内部に集光点を合わせてウエーハ基板に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し,ウエーハの内部にストリートに沿って変質層を形成することにより,ウエーハ基板を分割することはできるが,ストリートの表面に被覆された膜は分割できないという問題がある。
【0005】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり,その主たる技術的課題は,ストリートの表面に膜が被覆されたウエーハを,膜を残すことなく分割することができるウエーハの分割方法を提供することである。
・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明におけるウエーハの分割方法によれば,基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程とウエーハの基板に形成されたストリートの表面に被覆された膜をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施し後に,ウエーハに外力を付与してウエーハをストリートに沿って破断するので,ウエーハをストリートに沿って破断する際には膜はストリートに沿って分断されているため,膜が破断されずに残ることはない。」

エ 「【0010】
図1には本発明によるウエーハの分割方法によって分割されるウエーハの斜視図が示されており,図2には図1に示すウエーハの要部を拡大した断面図が示されている。図1および図2に示すウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されている。このウエーハ2には,図2に示すようにストリート22およびデバイス23を含む表面21aに図示の実施形態においてはポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている。
【0011】
上述したウエーハ2を個々のデバイス23に分割するウエーハの分割方法の第1の実施形態について説明する。
第1の実施形態においては,先ずウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。・・・
【0012】
裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて実施する。図4の(a)に示す研削装置4は,被加工物を保持するチャックテーブル41と,該チャックテーブル41に保持された被加工物を研削するための研削砥石42を備えた研削手段43を具備している。この研削装置4を用いて上記裏面研削工程を実施するには,チャックテーブル41上にウエーハ2の保護テープ3側を載置し,図示しない吸引手段を作動することによりウエーハ2をチャックテーブル41上に保持する。従って,チャックテーブル41に保持されたウエーハ2は,裏面21bが上側となる。このようにして,チャックテーブル41上にウエーハ2を保持したならば,チャックテーブル41を矢印41aで示す方向に例えば300rpmで回転しつつ,研削手段43の研削砥石42を矢印42aで示す方向に例えば6000rpmで回転しつつ半導体ウエーハ2の裏面2b(審決注;「裏面21b」の誤記であると認められる。)に接触せしめて研削することにより,図4の(b)に示すように所定の厚さ(例えば100μm)に形成する。
【0013】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。・・・
【0018】
・・・この変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ2の厚さ方向中間部に位置付ける。この結果,ウエーハ2の基板21には,図6の(b)および図7に示すようにストリート22に沿って厚さ方向中間部に変質層210が形成される。このようにウエーハ2の基板21の内部にストリート22に沿って変質層210が形成されると,基板21には図7に示すように変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてストリート22に沿ってクラック211が発生する。
・・・
【0022】
以上のようにしてウエーハ支持工程および保護テープ剥離工程を実施したならば,上記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施する。この膜分断工程は,図9に示すように上記図5に示すレーザー加工装置5と同様のレーザー加工装置5を用いて実施する。従って,レーザー加工装置5の各構成部材には図5に示す符号と同一符号を付して説明する。なお,レーザー光線照射手段52は,高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長(例えば,355nm)のパルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振手段を備えている。
・・・
【0025】
・・・次に,レーザー光線照射手段52の集光器522からウエーハ2の高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル51を図10の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして,図10の(b)で示すようにストリート22の他端(図10の(b)において右端)が集光器522の直下位置に達したら,パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル51の移動を停止する。この膜分断工程においては,パルスレーザー光線の集光点Pをウエーハ2の表面に被覆された高分子化合物膜24の表面(上面)付近に合わせる。
【0026】
上述した膜分断工程を実施することにより,図11に示すように高分子化合物膜24にはストリート22に沿って基板21に達するレーザー加工溝240が形成される。この結果,ストリート22に被覆された高分子化合物膜24は,レーザー加工溝240によってストリート22に沿って分断される。この膜分断工程においては,高分子化合物膜24はレーザー加工するが直ちに昇華され,シリコンからなる基板21は加工しないので,レーザー加工によるデブリの発生が抑制される。
【0027】
なお,上記膜分断工程は,例えば以下の加工条件で行われる。
レーザー光線の光源 :LD励起QスイッチNd:YVO4レーザー
波長 :355nm
平均出力 :1W
パルス幅 :40ns
繰り返し周波数 :50kHz
集光スポット径 :φ5μm
加工送り速度 :100mm/秒」

オ 「【0031】
以上のように構成されたテープ拡張装置6を用いて実施するウエーハ破断工程について図13を参照して説明する。即ち,ウエーハ2(ストリート22に沿って基板21にクラック211が形成されているとともに高分子化合物膜24にレーザー加工溝240が形成されている)の裏面21bが貼着されているダイシングテープTが装着された環状のフレームFを,図13の(a)に示すようにフレーム保持手段61を構成するフレーム保持部材611の載置面611a上に載置し,クランプ612によってフレーム保持部材611に固定する。このとき,フレーム保持部材611は図13の(a)に示す基準位置に位置付けられている。次に,テープ拡張手段62を構成する支持手段63としての複数のエアシリンダ631を作動して,環状のフレーム保持部材611を図13の(b)に示す拡張位置に下降せしめる。従って,フレーム保持部材611の載置面611a上に固定されている環状のフレームFも下降するため,図13の(b)に示すように環状のフレームFに装着されたダイシングテープTは拡張ドラム621の上端縁に接して拡張せしめられる。この結果,ダイシングテープTに貼着されているウエーハ2には放射状に引張力が作用するため,ウエーハ2の基板21は変質層210およびクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割される。このとき,ウエーハ2の基板21の表面に被覆されている高分子化合物膜24はストリート22に沿って形成されたレーザー加工溝240によって分断されているので,破断されずに残ることはない。
【0032】
次に,本発明によるウエーハの分割方法の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態においては,先ずウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程を実施するに際し,ウエーハ2の表面に形成されたデバイス23を保護するために,上記図3の(a)および(b)に示すようにウエーハ2の表面21aに塩化ビニール等からなる保護テープ3を貼着する(保護テープ貼着工程)。そして,上記図5に示すようにレーザー加工装置5を用いて上記図6に示す変質層形成工程と同様に実施する。この結果,図14に示すようにウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。
【0033】
上述した変質層形成工程を実行したならば,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて上記第1の実施形態における裏面研削工程と同様に実施する。この結果,図15に示すようにウエーハ2は,基板21の裏面21bが研削されて所定の厚さ(例えば100μm)に形成される。なお,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2a(審決注;「表面21a」の誤記であると認められる。)から例えば100μm以内の位置に形成すれば上記裏面研削工程を実施した後にも変質層210は残るが,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2a(審決注;「表面21a」の誤記であると認められる。)から例えば100μmの位置より裏面2b(審決注;「裏面21b」の誤記であると認められる。)に形成することにより,上記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210は除去される。従って,ウエーハ2の基板21には,図15に示すようにストリート22に沿って形成されたクラック211が残される。
【0034】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。このウエーハ支持工程は,上記図8に示すウエーハ支持工程と同様に実施し,ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ3を剥離する(保護テープ剥離工程)。
【0035】
上述したウエーハ支持工程および保護テープ剥離工程を実施したならば,上記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施する。この膜分断工程は,上記図9に示すレーザー加工装置5を用いて,上記図10に示す膜分断工程と同様に実施する。この結果,図16に示すようにストリート22に被覆された高分子化合物膜24は,レーザー加工溝240によってストリート22に沿って分断される。
【0036】
上記膜分断工程を実施したならば,ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程は,上記図12に示すテープ拡張装置6を用いて上記図13に示すウエーハ破断工程と同様に実施する。この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割される。このとき,ウエーハ2の基板21の表面に被覆されている高分子化合物膜24は上述したようにストリート22に沿って形成されたレーザー加工溝240によって分断されているので,破断されずに残ることはない。
【0037】
上述した実施形態においては,上記裏面研削工程でウエーハ2の基板21の裏面を研削して変質層210が除去されており,ウエーハ2は基板21に形成されたクラック211に沿って破断される。従って,個々の分割されたデバイス23の破断面には変質層210が残存しないため,デバイス23の抗折強度が向上する。」

カ 【図4】は,「第1の実施形態における裏面研削工程を示す説明図」であって,当該「裏面研削工程」は,「第2の実施形態」でも同様に実施される工程であり(上記オ【0033】),その「(a)」によれば,ウエーハ2と接するチャックテーブル41の面積は,ウエーハ2よりも大きいことが理解できる。

(2) 引用発明
上記(1)によれば,引用文献1には,「第2の実施形態」に係る発明として,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「ウエーハの分割方法であって,
ウエーハ2はシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にデバイス23が形成され,前記ストリート22および前記デバイス23を含む表面21aをポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆するものであり,
前記ウエーハ2の表面21aに形成された前記デバイス23を保護するために,保護テープ3を貼着する工程と,
前記ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線を前記ウエーハ2の裏面側から前記基板21の内部に集光点を位置付けて前記ストリート22に沿って照射し,前記ウエーハ2の基板21の内部に,前記ストリート22に沿って変質層210を形成するとともに,当該変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211を発生させる変質層形成工程と,
研削装置4のチャックテーブル41上に保護テープ3側を載置して吸引手段を作動することにより前記ウエーハ2を前記チャックテーブル41上に保持し,研削砥石42を前記ウエーハ2の裏面21bに接触せしめて前記変質層210が形成された位置まで研削して当該変質層210を除去し,前記ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
前記裏面研削工程が実施された前記ウエーハ2の裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着し,前記ウェーハ2の表面21aに貼着されている前記保護テープ3を剥離する工程と,
前記ウエーハ2の基板21の表面21aに被覆された前記ポリイミド(PI)系高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長である355nmの波長のレーザー光線を前記ウエーハ2の表面側から前記ストリート22に沿って前記ポリイミド(PI)系高分子化合物膜24の表面(上面)付近に,集光スポット径がφ5μmとなるように集光点を合わせて照射してレーザー加工溝240を形成し,前記ポリイミド(PI)系高分子化合物膜24を前記ストリート22に沿って分断する,前記ポリイミド(PI)系高分子化合物膜24はレーザー加工されるが直ちに昇華され,シリコンからなる前記基板21は加工されず,レーザー加工によるデブリの発生が抑制される膜分断工程と,
前記環状のフレームに装着された前記ダイシングテープを拡張ドラムの上端縁に接して拡張させることで,前記ダイシングテープに貼着されている前記ウエーハ2に放射状に引張力を作用させて,前記ウエーハ2の基板21を前記クラック211が形成されることによって強度が低下せしめられた前記ストリート22に沿って破断し,個々のデバイス23に分割するウエーハ破断工程と,
を備えるウエーハの分割方法。」

2 周知技術
(1) 引用文献2
当審拒絶理由で引用された引用文献2(特開2000-260738号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,半導体基板の研削加工技術および半導体装置ならびに半導体装置の製造技術に関し,特に,携帯電話やモバイルパソコン,ICカード等の携帯型情報処理機器等に利用し得る電子部品,電子機器等の半導体装置の製造に用いられる半導体基板の平面研削仕上げ加工技術等に適用して有効な技術に関する。」

イ 「【0027】図4に例示されるように,個々のワークテーブル40は,図示しないモータ等で任意の方向に後述のように任意の回転数で回転駆動されるテーブル本体41,このテーブル本体41におけるウェーハ90の載置面に設けられ,多孔質のセラミックス等からなる平坦な吸着板42と,吸着板42の背面側に連通し,外部の図示しない排気ポンプ等に接続されることによって吸着板42に吸着力を発生させる吸引路43,等で構成されている。
【0028】この場合,ワークテーブル40における吸着板42の外径寸法は,吸着対象のウェーハ90の外径よりも片側でわずかなΔd(たとえば0.1mm以下)だけ小さく設定され,ウェーハ90のほぼ全面が吸着板42に接触することによって均一な吸着力にて確実に吸着保持される構造となっている。」

(2) 引用文献3
当審拒絶理由で引用された引用文献3(特開2000-254857号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は平面加工装置及び平面加工方法に係り,特に半導体ウェーハの製造工程で,チップが形成されていない半導体ウェーハの裏面を研削加工する平面加工装置及び平面加工方法に関する。」

イ 「【0037】本実施の形態のチャック32,36,38,40は,その吸着面がセラミックス等の焼結体からなるポーラス材124で形成されている。また,連結部材112が凹部122に連結されると,同時に図示しない流体継手が連結され,該流体継手に連結された図示しないサクションポンプの吸引力がエア通路126を介してポーラス材124に作用し,これによってウェーハ28がポーラス材の表面にしっかりと吸着保持される。また,連結部材112が切り離された時は,図示しない逆止弁により吸着力はそのまま保持される。」

(3) 引用文献4
当審拒絶理由で引用された引用文献4(特開2007-235069号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,ウェーハ加工方法に係り,特に,半導体ウェーハの平面加工からチップサイズに切断されたウェーハのマウントまでを欠陥なく行うのに好適なウェーハ加工方法に関する。」

イ 「【0044】
チャック132は,インデックステーブル134に設置され,また,同機能を備えたチャック136,138,140が,インデックステーブル134の図3の破線で示される回転軸135を中心とする円周上に90度の間隔をもって設置されている。
・・・
【0050】
本実施の形態のチャック132,136,138,140は,その吸着面がセラミックス等の焼結体からなるポーラス材で形成されている。これによってウェーハWがポーラス材の表面にしっかりと吸着保持される。
・・・
【0054】
厚さが測定されたウェーハWは,インデックステーブル34の図2,図3の矢印A方向の90度の回動で粗研削ステージ118に位置され,粗研削ステージ118のカップ型砥石146によってウェーハWの裏面が粗研削される。
【0057】
粗研削ステージ118で裏面が粗研削されたウェーハWは,ウェーハWからカップ型砥石146が退避移動した後,図示しない厚さ測定ゲージによってその厚さが測定される。厚さが測定されたウェーハWは,インデックステーブル134の同方向の90度の回動で精研削ステージ120に位置され,精研削ステージ120のカップ型砥石154によって精研削,スパークアウトされる。」

ウ 「【0086】
ウェーハマウント装置10Dへは,全面吸着式の搬送装置41の吸着パッド42により,レーザーダイシング後のウェーハWが搬送されてくる。ウェーハWは,既述したように,表面に形成されたパターンを保護する保護用シート21が貼着され,裏面を平坦に研削及び研磨された後にレーザーダイシングされたものであり,保護用シート21が貼着された表面側を下に向けて吸着パッド42に吸着されるようになっている。
・・・
【0101】
このエキスパンダ13へは,搬送装置39により保護シート21が剥離された後のウェーハWが搬送される。エキスパンダ13は,図10(e)に示されるように,フレームFをフレーム固定機構25により固定し,保持リングRを押し上げ機構24によりダイシングテープ22へ押圧してダイシングテープ22を放射状にエキスパンドする装置である。これにより,ウェーハWは個々のチップTに分割される。」

(4) 上記(1)ないし(3)によれば,ウェハの研削を行う際に,該ウェハの略全面を吸着するチャックに保持した状態とすることは,原出願時において,周知技術であったと認められる。

第5 対比
1 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。

(1) 引用発明の「ウエーハ2」は,本願発明の「ウェハ」に相当する。

(2) 引用発明の「ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線」,「ストリート22」,「変質層210」,「研削砥石42」,「表面21a」,「裏面21b」及び「チャックテーブル41」は,それぞれ,本願発明の「レーザ光」,「切断ライン」,「レーザ改質領域」,「研削砥石」,「デバイス面」,「裏面」及び「チャック」に相当する。

(3) 引用発明の「裏面研削工程」では,「研削砥石42を前記ウエーハ2の裏面21bに接触せしめて前記変質層210が形成された位置まで研削して当該変質層210を除去」しているから,「当該変質層210を除去」した「ウエーハ2」の裏面は,「当該変質層210を除去」するための「目標面」であるということができる。

(4) また,引用発明の「裏面研削工程」では,「チャックテーブル41上に保護テープ3側を載置して吸引手段を作動することにより前記ウエーハ2を前記チャックテーブル41上に保持し」ており,その具体的な実施形態において,「ウエーハ2」と接する「チャックテーブル41」の面積は,「ウエーハ2」よりも大きいから(上記第4の1(1)カ),引用発明では,「ウエーハ2」の「表面21a」の略全面を吸着する「チャックテーブル41」に保持した状態で研削しているということができる。

(5) 引用発明は,「変質層形成工程」において,「ウエーハ12の基板21に対して透光性を有する波長のレーザー光線」を「ストリート22」に沿って照射することにより,ウエーハ2の基板21の内部に,「変質層210」を形成するとともに「クラック211」を発生させ,「裏面研削工程」において,前記「変質層210」を除去し,「膜分断工程」において,基板21の表面21aを被覆する「ポリイミド(PI)系高分子化合物膜」に「レーザー加工溝240」を形成し,その後,「ウエーハ破断工程」において,「ウエーハ2の基板21を前記クラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断し,個々のデバイス23に分割する」ものである。
そして,前記「膜分断工程」は,レーザー光線を,ポリイミド(PI)系高分子化合物膜の表面(上面)付近に,集光スポット径がφ5μmとなるように集光点を合わせて,前記高分子化合物膜を直ちに昇華させるとともにシリコンからなる基板を加工せず,デブリの発生が抑制されるような条件で照射するものであるから,当該「膜分断工程」によって,ポリイミド(PI)系高分子化合物膜が昇華して分断されることで形成された「レーザー加工溝240」の底面,すなわち,「ウエーハ2の基板21」の表面21aが露出した箇所の基板表面は加工されていない。
一方,「ウエーハ破断工程」は,環状のフレームに装着されたダイシングテープを拡張ドラムの上端縁に接して拡張させることで,前記ダイシングテープに貼着されているウエーハに引張力を作用させて,ウエーハの基板を,クラックが形成されることによって強度が低下せしめられたストリートに沿って破断するものである。
してみれば,前記「ウエーハ破断工程」における破断は,ウエーハに作用する引張力によって,ウエーハの基板の内部に存在するクラックを開裂する方向に力を加えることで,前記クラックの先端を起点としてウエーハの破断が始まり,基板の表面21a方向に破断が進行し,前記「膜分断工程」において高分子化合物膜が昇華して分断されることで形成された「レーザー加工溝240」の底面,すなわち,「ウエーハ2の基板21」の表面21aが露出した加工されていない基板表面に到達して終点となるものと認められる。
すなわち,「ウエーハ破断工程」におけるウエーハの破断の始まりとなる「分割起点」は,「変質層形成工程」において発生したクラックの先端であり,「膜分断工程」において,「ウエーハ破断工程」におけるウエーハの破断の始まりとなる「新たな分割起点」が形成されることはないと認められる。
したがって,引用発明の「ウエーハ破断工程」は,本願発明の「前記研削が行われた後,前記ウェハに新たな分割起点を形成することなく,前記ウェハに外力を加えることにより前記ウェハをチップ毎に分割する分割工程」に相当する。

以上によれば,本願発明と引用発明は,「ウェハをチップに分割するための切断ラインに沿って,前記ウェハのデバイス面とは反対側の裏面側からレーザ光を照射して前記ウェハの内部に設定した目標面と前記ウェハの裏面との間にレーザ改質領域を形成する改質領域形成工程と, 前記ウェハのデバイス面の略全面を吸着するチャックに保持した状態で,前記ウェハをチップ毎に分割することなく,前記ウェハの裏面から前記目標面まで研削砥石を用いて研削して前記ウェハを薄化する研削工程と, 前記研削が行われた後,前記ウェハに新たな分割起点を形成することなく,前記ウェハに外力を加えることにより前記ウェハをチップ毎に分割する分割工程と, を備えるウェハ加工方法。」の点で一致し,相違点はない。

2 請求人の主張について
請求人は,当審拒絶理由に対する意見書において,引用文献1の【0032】及び【図16】の記載によれば,変質層形成工程が行われると,変質層210から発生したクラック211がウエーハ2の表面に露出しているものと認められるし,さらに,引用文献1の【背景技術】に記載された「特許第3408805号公報」の【0036】にも,「・・・クラックが加工対象物1の表面3と裏面21に到達し,図11に示すように加工対象物1が割れることにより加工対象物1が切断される。」と記載されており,この背景技術を前提とする引用発明においても,クラック211がウエーハ2における基板21の表面21a及び裏面21bに達していると理解されるから,引用発明では,変質層210から発生したクラック211をウエーハ2の表面に露出させた状態でウェーハ破断工程を行うものであるのに対し,本願発明は,裏面研削を行った後においてもウェハは完全に分断されておらず,引用発明とは異なる技術思想に基づくものである旨,主張する。
当該請求人の主張は,要するに,引用発明では,変質層形成工程が行われると,クラック211がウエーハ2の表面に露出(到達)しているから,ウェーハ破断工程前(本願発明の「分割工程」前に相当する。)にウェハは完全に分断されているのに対し,本願発明では,「分割工程」前では,ウェハは完全に分断されていないという主張であると解される。
しかしながら,請求人の主張する引用文献1の【0032】には,前記第4の1(1)オのとおり,「ウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する」と記載されているだけであって,クラック211がウエーハ2の表面に露出(到達)している,すなわち,完全に分断されているとはいえないし,かえって,その後の【0036】の「このウエーハ破断工程は,・・・クラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され・・・」との記載によれば,引用発明は,ウエーハ破断工程によって初めてウエーハが破断(分断)されると理解すべきである。
さらに,請求人が引用する引用文献1の【背景技術】に記載された「特許第3408805号公報」の上記記載は,クラックが最終的に加工対象物の表面と裏面に到達して加工対象物が切断されることを説明しているだけであって,クラック領域形成の時点で,クラックが加工対象物の表面と裏面に到達していることを意味していると認めることはできない。このことは,当該公報の【0036】に,上記請求人の主張する記載に引き続き,「加工対象物の表面と裏面に到達するクラックは自然に成長する場合もあるし,加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。」と記載されていること,及びその具体的な実施形態において,「・・・なお,圧電素子ウェハ31は,図19に示されるように,後に切断分離される多数個の圧電デバイスチップ37を含んでいる。・・・なお,図20は,圧電素子ウェハ31の内部のみに改質部としての微小なクラック領域9が形成された状態を示している。」(【0066】),「・・・切断対象材料としての圧電素子ウェハ31の内部における集光点P及びその近傍のみに微小なクラック領域9が形成される。このとき,切断対象材料(圧電素子ウェハ31)の表面及び裏面に損傷を及ぼすことはない。」(【0073】),「上述した所望の切断パターンに沿ってクラック領域9が形成されると(S219),物理的外力印加又は環境変化等により切断対象材料内,特にクラック領域9が形成された部分に応力を生じさせて,切断対象材料の内部(集光点及びその近傍)のみに形成されたクラック領域9を成長させて,切断対象材料をクラック領域9が形成された位置で切断する・・・。」(【0076】),「・・・ウェハシート33が変形すると共に加圧ニードル36により圧電素子ウェハ31に外部から応力を印加されて,クラック領域9が形成されているウェハ部分に応力が生じてクラック領域9が成長する。クラック領域9が圧電素子ウェハ31の表面及び裏面まで成長することにより,圧電素子ウェハ31は,図31に示されるように,分離する圧電デバイスチップ37の端部において切断されて,圧電デバイスチップ37が圧電素子ウェハ31から分離されることになる。」(【0079】)と記載されていることに照らして,当該公報においても,ウェーハ破断工程前(本願発明の「分割工程」前に相当する。)に,圧電素子ウェハは完全に分断されているということはできないことから,引用発明を,当該公報に記載された事項を背景技術として理解したとしても,変質層210から発生したクラック211をウエーハ2の表面に露出させた状態でウェーハ破断工程を行っているとはいえない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

第6 判断
1 新規性について
上記第5の1のとおり,本願発明と引用発明とを対比すると,相違点はなく,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

2 進歩性について
なお,仮に,引用発明の「裏面研削工程」において,「ウエーハ2」の「表面21a」の略全面が「チャックテーブル41」に吸着保持されているということができないとしても (上記第5の1(4)参照。),ウェハの研削を行う際に,該ウェハの略全面をチャックで吸着保持することは,前記第4の2(4)のとおり,原出願時において,周知技術であったと認められる。
そして,ウェハの研削工程では,効率的にウェハの研削を行うために,ウェハがチャック上で移動せずに固定されていることが望ましく,このことは,引用発明においても当然内在する技術課題であるといえる。
そうすると,引用発明において,当該技術課題を解決するために,上記周知技術を適用し,本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得るものであり,その効果も当業者が予測する範囲内のものである。
したがって,本願発明は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-21 
結審通知日 2019-02-22 
審決日 2019-03-11 
出願番号 特願2018-97877(P2018-97877)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 113- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 梶尾 誠哉
鈴木 和樹
発明の名称 ウェハ加工方法及びウェハ加工システム  
代理人 松浦 憲三  

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