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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1351398
異議申立番号 異議2018-700055  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-24 
確定日 2019-03-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6168252号発明「近赤外線カットフィルタおよび撮像装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6168252号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-24〕について訂正することを認める。 特許第6168252号の請求項1ないし3、5ないし24に係る特許を維持する。 特許第6168252号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6168252号(以下、「本件特許」という。)の請求項1-請求項24に係る特許についての特許出願(特願2017-53386号)は、特許法44条1項の規定に基づいて、もとの特許出願(特願2016-545370号)の一部を平成29年3月17日に新たな特許出願としたものである。また、もとの特許出願は、平成27年1月14日、及び同年8月20日に出願された、先の出願に基づく優先権の主張を伴った、2016年(平成28年)1月14日を国際出願日とする出願である。
本件特許について、平成29年7月7日に特許権の設定の登録、同年同月26日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である平成30年1月24日に、特許異議申立人 石井良夫から全請求項に対して特許異議の申立て(以下、「特許異議申立1」という。)がされ、また、同じく6月以内である平成30年1月26日に、特許異議申立人 大坪隆司から全請求項に対して特許異議の申立て(以下、「特許異議申立2」という。)がされた。
特許異議申立1及び特許異議申立2は、特許法120条の3第1項の規定により、異議2018-700055号事件として併合して審理されることとなったところ、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 4月17日付け:取消理由通知書
平成30年 6月19日付け:意見書(特許権者)
平成30年 6月19日付け:訂正請求書
平成30年 7月24日付け:意見書(特許異議申立人 大坪隆司)
平成30年 7月30日付け:意見書(特許異議申立人 石井良夫)
平成30年 9月26日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成30年11月27日付け:意見書(特許権者)
平成30年11月27日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の 請求を、以下「本件訂正請求」という。)
平成31年 1月18日付け:意見書(特許異議申立人 石井良夫)

なお、平成30年12月18日に特許異議申立人大坪隆司に対して本件訂正請求があった旨を通知したが、意見書は提出されなかった。また、平成30年6月19日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6168252号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-24について訂正することを求める、というものである。

(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「吸収層と、反射層とを備え、下記(1)および(3)の要件を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?750nmの光の平均透過率(R)が20%以下であり、波長495?570nmの光の平均透過率(G)が90%以上であり、かつ前記平均透過率の比(R)/(G)が0.20以下である。
(3)波長450?650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、波長550?750nmに透過率が80%となる波長λIR_(T(80))および50%となる波長λIR_(T(50))を有し、かつ前記各波長λIR_(T(80))およびλIR_(T(50))が、それぞれ次式(a)および(b)を満たしている。
0≦λIR_(T(80))-λ_(T(80))≦30nm …(a)
0≦λIR_(T(50))-λ_(T(50))≦37nm …(b)
(式中、λ_(T(80))およびλ_(T(50))は比視感度曲線において比視感度がそれぞれ0.8および0.5を示す長波長側の波長である)」と記載されているのを、
「吸収層と、反射層とを備え、下記(1)および(3)の要件を満たし、前記吸収層は下記(4)?(6)の要件を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?750nmの光の平均透過率(R)が20%以下であり、波長495?570nmの光の平均透過率(G)が90%以上であり、かつ前記平均透過率の比(R)/(G)が0.20以下である。
(3)波長450?650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、波長550?750nmに透過率が80%となる波長λIR_(T(80))および50%となる波長λIR_(T(50))を有し、かつ前記各波長λIR_(T(80))およびλIR_(T(50))が、それぞれ次式(a)および(b)を満たしている。
0≦λIR_(T(80))-λ_(T(80))≦30nm …(a)
0≦λIR_(T(50))-λ_(T(50))≦37nm …(b)
(式中、λ_(T(80))およびλ_(T(50))は比視感度曲線において比視感度がそれぞれ0.8および0.5を示す長波長側の波長である)
(4)波長500?900nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650?900nmに吸収極大波長を有する。
(5)入射角0°の分光透過率曲線において、波長600?800nmに少なくとも2つの透過率が10%となる波長を有し、前記透過率が10%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR10(L)と最も短波長側の波長IR10(S)の差IR10(L)-IR10(S)が30?70nmである。
(6)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?700nmの光の平均透過率T_((620-700))と、495?570nmの波長領域の平均透過率T_((495-570))の比T_((620-700))/T_((495-570))が0.28以下である。」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2、3及び5-24についても、同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「前記吸収層は下記(5)´の要件をさらに満たす請求項4に記載の近赤外線カットフィルタ。」と記載されているのを、「前記吸収層は下記(5)´の要件をさらに満たす請求項1に記載の近赤外線カットフィルタ。」に訂正する(請求項5の記載を引用して記載された、請求項6-24についても、同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「前記反射層は下記(7)の要件を満たす請求項1?5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」と記載されているのを、「前記反射層は下記(7)の要件を満たす請求項1?3および請求項5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」に訂正する(請求項6の記載を引用して記載された、請求項7-24についても、同様に訂正する。)。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「前記反射層は下記(8)の要件をさらに満たす請求項1?6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」と記載されているのを、「前記反射層は下記(8)の要件をさらに満たす請求項1?3および請求項5?6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」に訂正する(請求項7の記載を引用して記載された、請求項8-24についても、同様に訂正する。)。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「下記(9)の要件をさらに満たす請求項1?7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」と記載されているのを、「下記(9)の要件をさらに満たす請求項1?3および請求項5?7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」に訂正する(請求項8の記載を引用して記載された、請求項9-24についても、同様に訂正する。)。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「透明基材を有し、該透明基材の主面上に前記吸収層および前記反射層を備える請求項1?8のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」と記載されているのを、「透明基材を有し、該透明基材の主面上に前記吸収層および前記反射層を備える請求項1?3および請求項5?8のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」に訂正する(請求項9の記載を引用して記載された、請求項10-24についても、同様に訂正する。)。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項16に「前記吸収層は、近赤外線吸収材を含む請求項1?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」と記載されているのを、「前記吸収層は、近赤外線吸収材を含む請求項1?3および請求項5?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」に訂正する(請求項16の記載を引用して記載された、請求項17-24についても、同様に訂正する。)。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項19に「請求項1?18のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」と記載されているのを、「請求項1?3および請求項5?18のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。」に訂正する(請求項19の記載を引用して記載された、請求項20-24についても、同様に訂正する。)。

コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項24に「請求項1?23のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。」と記載されているのを、「請求項1?3および請求項5?23のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0170】の記載に基づいて、吸収層を(4)?(6)の要件を満たすものに限定する訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正である。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正事項2による訂正で特許請求の範囲の請求項4を削除することに伴って、これと整合するように記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正事項2による訂正で特許請求の範囲の請求項4を削除することに伴って、これと整合するように記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、訂正事項2による訂正で特許請求の範囲の請求項4を削除することに伴って、これと整合するように記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正事項2による訂正で特許請求の範囲の請求項4を削除することに伴って、これと整合するように記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、訂正事項2による訂正で特許請求の範囲の請求項4を削除することに伴って、これと整合するように記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項7による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8による訂正は、訂正事項2による訂正で特許請求の範囲の請求項4を削除することに伴って、これと整合するように記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項8による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項8による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(9)訂正事項9について
訂正事項9による訂正は、訂正事項2による訂正で特許請求の範囲の請求項4を削除することに伴って、これと整合するように記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項9による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項9による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(10)訂正事項10について
訂正事項10による訂正は、訂正事項2による訂正で特許請求の範囲の請求項4を削除することに伴って、これと整合するように記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項10による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項10による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(11)本件訂正請求について
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-24〕に対して請求されたものである。

(12)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1-10による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の請求項1-3及び請求項5-24に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」-「本件特許発明3」及び「本件特許発明5」-「本件特許発明24」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1-3及び請求項5-24に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
吸収層と、反射層とを備え、下記(1)および(3)の要件を満たし、前記吸収層は下記(4)?(6)の要件を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?750nmの光の平均透過率(R)が20%以下であり、波長495?570nmの光の平均透過率(G)が90%以上であり、かつ前記平均透過率の比(R)/(G)が0.20以下である。
(3)波長450?650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、波長550?750nmに透過率が80%となる波長λIR_(T(80))および50%となる波長λIR_(T(50))を有し、かつ前記各波長λIR_(T(80))およびλIR_(T(50))が、それぞれ次式(a)および(b)を満たしている。
0≦λIR_(T(80))-λ_(T(80))≦30nm …(a)
0≦λIR_(T(50))-λ_(T(50))≦37nm …(b)
(式中、λ_(T(80))およびλ_(T(50))は比視感度曲線において比視感度がそれぞれ0.8および0.5を示す長波長側の波長である)
(4)波長500?900nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650?900nmに吸収極大波長を有する。
(5)入射角0°の分光透過率曲線において、波長600?800nmに少なくとも2つの透過率が10%となる波長を有し、前記透過率が10%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR10(L)と最も短波長側の波長IR10(S)の差IR10(L)-IR10(S)が30?70nmである。
(6)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?700nmの光の平均透過率T_((620-700))と、495?570nmの波長領域の平均透過率T_((495-570))の比T_((620-700))/T_((495-570))が0.28以下である。
【請求項2】
波長450?650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、波長550?750nmに透過率が20%となる波長λIR_(T(20))を有し、
要件(3)において、前記波長λIR_(T(20))が、次式(c)を満たしている請求項1に記載の近赤外線カットフィルタ。
0≦λIR_(T(20))-λ_(T(20))≦37nm …(c)
(式中、λ_(T(20))は比視感度曲線において比視感度が0.2を示す長波長側の波長である)
【請求項3】
要件(3)において、前記波長λIR_(T(80))、λIR_(T(50))およびλIR_(T(20))が、さらに次式(d)および(e)を満たしている請求項2に記載の近赤外線カットフィルタ。
(λIR_(T(80))-λ_(T(80)))/(λIR_(T(50))-λ_(T(50)))≦1.5
…(d)
(λIR_(T(20))-λ_(T(20)))/(λIR_(T(50))-λ_(T(50)))≦2.0
…(e)」
「【請求項5】
前記吸収層は下記(5)´の要件をさらに満たす請求項1に記載の近赤外線カットフィルタ。
(5)´入射角0°の分光透過率曲線において、波長600?800nmに少なくとも2つの透過率が1%となる波長を有し、前記透過率が1%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR1(L)と最も短波長側の波長IR1(S)の差IR1(L)-IR1(S)が25?50nmである。
【請求項6】
前記反射層は下記(7)の要件を満たす請求項1?3および請求項5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(7)入射角0°の分光透過率曲線において、波長420?695nmの光の平均透過率が90%以上であり、かつ波長750?1100nmの光の平均透過率が10%以下である。
【請求項7】
前記反射層は下記(8)の要件をさらに満たす請求項1?3および請求項5?6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(8)入射角0°の分光透過率曲線において、波長350?400nmの光の平均透過率が10%以下である。
【請求項8】
下記(9)の要件をさらに満たす請求項1?3および請求項5?7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(9)入射角0°の分光透過率曲線において、波長750?850nmの光の平均透過率が0.2%以下である。
【請求項9】
透明基材を有し、該透明基材の主面上に前記吸収層および前記反射層を備える請求項1?3および請求項5?8のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項10】
前記透明基材の一方の主面上に前記吸収層を備え、前記透明基板の他方の主面上に前記反射層を備える請求項9に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項11】
前記吸収層上に反射防止層を備える請求項10に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項12】
前記吸収層上に前記反射層を備える請求項10に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項13】
前記透明基材の両主面上に前記吸収層と前記反射層とを備える請求項9に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項14】
前記透明基材は、樹脂またはガラスを含む請求項9?13いずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項15】
前記透明基材は、吸収型のガラスを含む請求項14に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項16】
前記吸収層は、近赤外線吸収材を含む請求項1?3および請求項5?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項17】
前記近赤外線吸収材は、下記式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物を含む請求項16に記載の近赤外線カットフィルタ。
【化1】


式(F1)における記号は以下のとおりである。
R^(4)およびR^(6)は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1?6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1?10のアシルオキシ基、または-NR^(7)R^(8)(R^(7)およびR^(8)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?20のアルキル基、または-C(=O)-R^(9)(R^(9)は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1?20のアルキル基もしくは炭素数6?11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7?18のアルアリール基))を示し、
R^(1)とR^(2)、R^(2)とR^(5)、およびR^(1)とR^(3)、のうち少なくとも一組は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成し、複素環を形成していない場合のR^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1?6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6?11のアリール基もしくはアルアリール基を示し、複素環を形成していない場合のR^(3)およびR^(5)は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1?6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【請求項18】
前記吸収層は、透明樹脂を含み、該透明樹脂の質量に対して前記近赤外線吸収材を0.1?30質量%含有する請求項16または17に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項19】
前記吸収層は、紫外線吸収材を含む請求項1?3および請求項5?18のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項20】
前記吸収層は、前記紫外線吸収材を含有する紫外線吸収層を含む請求項19に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項21】
前記吸収層は、透明樹脂を含み、該透明樹脂の質量に対して前記紫外線吸収材を0.01?30質量%含有する請求項19または20に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項22】
前記紫外線吸収材は、下記式(M)で表される化合物を含む請求項19?21のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【化2】


式(M)における記号は以下のとおりである。
Yは、Q^(6)およびQ^(7)で置換されたメチレン基または酸素原子(ここで、Q^(6)およびQ^(7)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1?10のアルキル基もしくはアルコキシ基)を示し、
Q^(1)は、置換基を有していてもよい炭素数1?12の1価の炭化水素基を示し、
Q^(2)?Q^(5)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1?10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、
Zは、下記式(Z1)で表される2価の基を示す。
【化3】


(ここで、Q^(8)およびQ^(9)は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1?12の1価の炭化水素基を示す)
【請求項23】
前記吸収層は、波長350?800nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長360?415nmに吸収極大波長を有する請求項19?22のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項24】
請求項1?3および請求項5?23のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。」

第4 取消の理由の概要
平成30年9月26日付けで特許権者に通知した取消の理由は、概略、
理由1:本件訂正請求による訂正前の請求項1-3及び請求項6-8に係る発明は、その最先の優先権主張の日(平成27年1月14日:以下、「優先日」という。)前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(国際公開第2014/088063号)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである、
また、本件訂正請求による訂正前の請求項9-24に係る発明は、その優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである、
理由2:本件訂正請求による訂正前の請求項1-3及び請求項6-24に係る発明は、いずれも、本件訂正請求による訂正前の請求項4に記載された(4)又は(5)の要件を満たさない態様のものを含むから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである、
というものである。

第5 当合議体の判断
1 理由1について
(1)引用文献1の記載
平成30年9月26日付けで特許権者に通知した取消の理由で引用された引用文献1(国際公開第2014/088063号)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものである。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、近赤外線遮蔽効果を有する近赤外線カットフィルタに関する。
・・・(省略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明は、近赤外線遮蔽特性に優れる、すなわち透過スペクトルが可視光領域と近赤外線領域の境界付近で急峻な傾斜を有することで可視光透過性と近赤外線遮蔽性をともに高いレベルで備えるとともに、十分な小型化、薄型化ができる近赤外線カットフィルタの提供を目的とする。」

イ 「発明を実施するための形態
[0018] 以下に本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、下記説明に限定して解釈されるものではない。
本発明の近赤外線カットフィルタ(以下、本フィルタという)は、近赤外線吸収色素(A)と透明樹脂(B)とを含有する近赤外線吸収層を有する。本発明における近赤外線吸収層は透明樹脂(B)を主体とする樹脂層であり、近赤外線吸収色素(A)は該樹脂層中に分散された状態で存在する。前記色素(A)は、上記式(A1)で示される色素(以下、色素(A1)と略する)から選択される1種以上を含み、前記透明樹脂(B)の屈折率が1.45以上である。
ここで、本明細書においては、特に断りのない限り、屈折率とは、20℃において波長589nmにおける屈折率(以下、ndともいう)をいう。
[0019] 本フィルタは、近赤外線吸収層が単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に、良好な近赤外線遮蔽機能を有し、かつ撮像装置の十分な小型化、薄型化、低コスト化を達成できる。
なお、近赤外線吸収層が良好な近赤外線遮蔽機能を有するとは、光の吸収曲線において可視光領域と近赤外線領域の境界付近(波長630?700nm)の傾斜が急峻であり、かつ近赤外線吸収波長域が広く、他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた場合に吸収が十分でない波長域が出現することが殆どないことをいう。
[0020] 近赤外線カットフィルタ(以下、NIRフィルタという)には、一般に、700nm以上の赤外領域の光を精度よく遮蔽でき、遮蔽する波長域も広く選択できる性能を有する選択波長遮蔽部材が使用されている。選択波長遮蔽部材としては、屈折率が異なる誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜が広く使用されている。誘電体多層膜は、光の入射角により吸収波長がシフトし角度依存性を有する。
[0021] 本フィルタにおいては、色素(A)による吸収のため、誘電体多層膜を有しても、角度依存性による影響を小さくでき、必要な波長域の光を十分に吸収できる。また、透過スペクトルにおいて、可視光領域の透過率を高く維持しつつ、可視光領域と近赤外線領域の境界付近の傾斜が急峻なためスペクトルの傾斜波長領域の透過率を高く維持できる。さらに、耐熱性の高い色素(A)を使用することで熱信頼性の高いNIRフィルタが得られる。
[0022] (近赤外線吸収色素(A1))
本フィルタに使用する下記式(A1)で示される色素(A1)について説明する。本明細書において、式(1)で示される基を基(1)と略し、他の基についても同様とする。
・・・(省略)・・・
[0026] 色素(A1)は、分子構造の中央にスクアリリウム骨格を有し、スクアリリウム骨格の左右に各1個のベンゼン環が結合し、その各ベンゼン環は4位で窒素原子と結合し該窒素原子とベンゼン環の4位と5位の炭素原子を含む複素環が形成された縮合環構造を左右に1個ずつ有する。さらに、色素(A1)は、左右に各1個のベンゼン環の2位でそれぞれ-NHC(=O)R^(4)と結合する。
・・・(省略)・・・
[0034] これらのうちでも、式(A1)におけるXとしては、基(11-1)?(11-3)のいずれかが好ましく、基(11-1)がより好ましい。
以下に、Xが左右ともに基(11-1)である色素(A11)および、基(12-1)である色素(A12)の構造式を示す。なお、色素(A11)、(A12)中、R^(1)?R^(4)は色素(A1)におけるのと同じ意味である。
[0035][化3]




ウ 「[0079] (近赤外線吸収層)
本フィルタが有する近赤外線吸収層は、色素(A)と屈折率が1.45以上の透明樹脂(B)を含有する層であり、色素(A)は、1以上の色素(A1)を含有する。
[0080] 本フィルタが有する好ましい近赤外線吸収層は、下記条件を満たす色素(A)と透明樹脂(B)を含有する。すなわち、近赤外線吸収層において、色素(A)を下記条件(ii-1)および(ii-2)を満たす量で含有した場合に、前記近赤外線吸収層の透過率が、下記条件(ii-3)を満たすことが好ましい。
(ii-1)650?800nmの波長域において透過率が1%となる最も短い波長λ_(a)が、675nm≦λ_(a)≦720nm
(ii-2)650?800nmの波長域において透過率が1%となる最も長い波長λ_(b)と前記λ_(a)との関係が、λ_(b)-λ_(a)=30nm
(ii-3)650?800nmの波長域において前記λ_(a)よりも短波長側で透過率が70%となる波長λ_(c)と、上記λ_(a)と、上記透明樹脂(B)の屈折率n_(d)(B)との関係が、n_(d)(B)×(λ_(a)-λ_(c))≦115
[0081] なお、上記(ii-1)におけるλ_(a)の波長範囲は、680nm≦λ_(a)≦720nmが好ましい。
[0082] また、近赤外線吸収層の透過率は、紫外可視分光光度計を用いて測定できる。例えば、ガラス基板上に近赤外線吸収層を有する場合、前記透過率は、ガラス基板のみの透過率を減じて算出する。なお、近赤外線吸収層の光の透過率は、特に断りのない限り、検体の主面に直交する方向から入射した光に対してその光が検体内部を直進して反対側に透過した割合をいう。また、光の透過率の測定において検体の主面に直交する方向以外の方向から光を入射させて透過率を測定する場合、主面に直交する線に対して光が入射する方向を示す直線のなす角度を入射角という。
・・・(省略)・・・
[0087] 図2および図3により近赤外線吸収層の透過スペクトルを具体的に説明する。図2の実線は、実施例(例7)の色素(A11-7)とポリエステル樹脂(屈折率1.64)からなる近赤外線吸収層の波長域340?800nmの透過スペクトルを示す。図3の実線は、図2に示す透過スペクトルの600?740nmの拡大図である。図2および図3に示されるように、該近赤外線吸収層の透過スペクトルにおいて、650?800nmの波長域で透過率が1%となる最も短い波長λ_(a-7)(例7の場合のλ_(a) をλ_(a-7)と示す。以下、λ_(b)、λ_(c)、I_(s)についても同様である。)は700nmであり、該透過スペクトルにおいて650?800nmの波長域で透過率が1%となる最も長い波長λ_(b-7)は730nmであり、その差λ_(b-7)-λ_(a-7)は30nmである。また、λ_(a-7)よりも短波長側で透過率が70%となる波長λ_(c-7)は636nmであり、その差λ_(a-7)-λ_(c-7)は64nmであり、これと上記屈折率(n_(d)(B))1.64から算出されるI_(s-7)値は、105.0である。
[0088] 一方、図2および図3において、破線は比較例(例76)の色素(A11-20)とポリエステル樹脂(屈折率1.64)からなる近赤外線吸収層の透過スペクトルを示す。この場合、λ_(a-76)が694nm、λ_(b-76)が724nm、λ_(c-76)が619nmであり、λ_(b-76)-λ_(a-76)=30nm、λ_(a-76)-λ_(c-76)=75nmであって、I_(s-76)値は、123.0である。
・・・(省略)・・・
[0092] 近赤外線吸収層は、色素(A)および透明樹脂(B)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、通常、近赤外線吸収層が含有する各種任意成分を含有してもよい。任意成分として、具体的には、近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。近赤外線吸収層における、これら任意成分の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、それぞれ15質量部以下が好ましい。より好ましくは0.01?10質量部、さらに好ましくは0.05?5質量部である。
・・・(省略)・・・
[0095] 前記紫外線吸収剤は、最大吸収波長が400nm以下の紫外線領域にあり、熱や光に対して安定な材料が好ましい。一般に、樹脂や有機化合物の色素は、紫外線によって劣化しやすい。そのため、色素(A)や透明樹脂(B)の紫外線による劣化を抑制する観点から、上記近赤外線吸収層において紫外線吸収剤の含有は好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、トリアジン系、オキザニリド系、ニッケル錯塩系、または無機系の化合物が好ましく挙げられる。前記無機系の紫外線吸収剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト等の微粒子が挙げられる。」

エ 「[0121] (近赤外線カットフィルタ)
本フィルタの構成は、近赤外線吸収層を有する以外は特に制限されない。近赤外線吸収層それ単独でNIRフィルタを構成してもよく、他の構成要素とともにNIRフィルタを構成してもよい。他の構成要素としては、近赤外線吸収層を保持する透明基材や、特定の波長域の光の透過と遮蔽を制御する選択波長遮蔽層等が挙げられる。
[0122] 前記選択波長遮蔽層としては、可視領域の光を透過し、前記近赤外線吸収層の遮光域以外の波長の光を遮蔽する波長選択特性を有することが好ましい。なお、この場合、選択波長遮蔽層の遮光域は、近赤外線吸収層の近赤外線波長領域における遮光域を含んでもよい。
・・・(省略)・・・
[0125] 以下、図面を参照しながら本フィルタの実施形態について説明する。
図1A?図1Cは、本フィルタの実施形態の例を概略的に示す断面図である。図1Aは、透明基材12上に近赤外線吸収層11を有する本フィルタの一実施形態のNIRフィルタ10Aの断面図である。また、図1Bは、近赤外線吸収層11の両方の主面に選択波長遮蔽層13が配置された本フィルタの別の実施形態のNIRフィルタ10Bの断面図である。図1Cは、透明基材12上に近赤外線吸収層11が形成された構成の両面に選択波長遮蔽層13が配置された本フィルタのさらに別の実施形態のNIRフィルタ10Cの断面図である。
[0126] 図1Aに示す構成は、透明基材12上に近赤外線吸収層11を直接形成させる方法、または、前記剥離性の基材を用いて得られたフィルム状の近赤外線吸収層11の単体を、フィルム状または板状の透明基材12のいずれかの主面に、図示されていない粘着剤層を介して貼着することにより作製する方法等が挙げられる。また、別の構成として、近赤外線吸収層11を2枚の透明基材12が挟み込む構成や、透明基材12の両方の主面に近赤外線吸収層11が形成または貼着された本フィルタの使用が挙げられる。また、近赤外線吸収層11の表面や、近赤外線吸収層11上に形成された選択波長遮蔽層13の表面に反射防止層が形成された構成であってもよい。
[0127] 透明基材12の形状は特に限定されるものではなく、ブロック状であっても、板状であっても、フィルム状であってもよい。また、透明基材12は、可視波長領域の光を透過するものであれば、構成する材料は特に制限されない。例えば、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の結晶、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
[0128] これらの材料は、紫外線領域および/または近赤外線領域の波長に対して吸収特性を有するものであってもよい。透明基材12は、例えば、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラスフィルタであってもよい。
・・・(省略)・・・
[0135] 図1Bに示す構成のNIRフィルタ10Bにおいて近赤外線吸収層11の両方の主面に形成される選択波長遮蔽層13としては、誘電体多層膜や近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素および紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種を含有する特定の波長の光を吸収、または反射する層等が挙げられる。」

オ 「実施例
[0152] 以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下で説明する実施形態および実施例に何ら限定されるものではない。例1?75、例110が本発明の実施例であり、例76?109が比較例である。
[0153] <色素の合成>
以下の方法により、各例に使用する色素を合成した。色素(A11-1)?(A11-19)は、色素(A11)に含まれ、本発明の実施例に使用される。一方、色素(A11-20)?(A11-27)は、上記式(A11)において、R^(4)以外は、式(A11)と構造が同じであり、本発明の比較例に使用される色素である。
[0154](1)近赤外線吸収色素(A11-1)?(A11-27)の合成
以下の表2に示す構成の色素(A11-1)?(A11-27)を合成した。なお、表2で、R^(4)については、式(4)におけるmの数とR^(13)および炭素数を記載した。R^(13-1)?R^(13-3)は、カルボニル基に結合するα位の炭素原子に結合する1個?3個のR^(13)を区別するものであって位置の区別はない。表2中、「-」は水素原子を意味する。表2中、n-は直鎖を示し、Phはベンゼン環を示す。i-C_(3)H_(7)は、1-メチルエチル基を示す。表2におけるR^(4)の具体的な構造は、上記式(1a)、(1b)、(2a)?(2e)、(3a)?(3e)に対応する。表2には対応する式番号も示した。なお、色素(A11-1)?(A11-27)において、左右に1個ずつ計2個存在するR^(1)は左右で同じであり、R^(2)?R^(4)についても同様である。
[0155]
[表2]


[0156] 色素(A11-1)?(A11-27)は、上記反応式(F1)にしたがって合成した。なお、反応式(F1)においては、色素(A11-1)?(A11-27)は、色素(A11)で示される。色素(A11-1)?(A11-27)の製造においては、反応式(F1)中のR^(2)およびR^(3)は水素原子である。また、R^(1)およびR^(4)は上記表2中の基を示す。
・・・(省略)・・・
[0173] [色素(A11-20)?(A11-27)の製造]
式(F1)における式(A11)においてR^(1)がメチル基、R^(2)およびR^(3)が水素原子であって、R^(4)が表2に示されるとおり色素(A11)の範囲外である色素(A11-20)?(A11-27)を合成した。具体的には、色素(A11-1)の製造において、置換基R^(4)を有するカルボン酸塩化物(g)のR^(4)を、それぞれ表2に示すR^(4)とした以外は同様にして、色素(A11-20)?(A11-27)を製造した。
・・・(省略)・・・
[0178] [カットフィルタの製造]
以下の例1?例109において、上記で得られた色素(A11-1)?(A11-27)と屈折率が1.45以上の透明樹脂(B)を含む近赤外線吸収層11を透明基板12上に形成して、図1Aに示す構成のNIRフィルタを製造した。なお、透明基板12として、厚さ0.3mmのガラス板(ソーダガラス)を用いた。
・・・(省略)・・・
[0190] (例76?例109)
表7および表8に示すとおり、色素(A11-20)?(A11-27)のいずれかと、透明樹脂(B)とを使用して、例76?例109のNIRフィルタ76?109を得た。それぞれのNIRフィルタの近赤外線吸収層の膜厚は、同じ透明樹脂(B)を使用する実施例の各例と同じ膜厚とした。
[0191] <NIRフィルタの評価>
(1)吸光特性
上記で得られたNIRフィルタ1?109の透過率(%/nm)について、紫外可視分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100型分光光度計)を用いて透過スペクトルを測定し、算出した。NIRフィルタが有する近赤外線吸収層の透過スペクトルの分析結果をNIRフィルタ1?25、26?51、52?75についてはそれぞれ表4、表5および表6に、NIRフィルタ76?94、95?109についてはそれぞれ表7および表8に示す。表4?表8には、近赤外線吸収層における透明樹脂(B)100質量部に対する色素の割合(質量部)および膜厚を併せて記載した。
・・・(省略)・・・
[0196][表7]


・・・(省略)・・・
[0205] [遮蔽層の設計]
選択波長遮蔽層は、高屈折率誘電体膜であるTiO_(2)膜と低屈折率誘電体膜であるSiO_(2)膜を交互に積層する構成において、蒸着法により成膜した。
選択波長遮蔽層は、誘電体多層膜の積層数、TiO_(2)膜の膜厚およびSiO_(2)膜の膜厚をパラメータとして、所望の光学特性を有するようにシミュレーションして構成を決定した。上記選択波長遮蔽層としての誘電体多層膜の光学特性は、420?715nmの波長域における透過率が90%以上、730?1100nmの波長域における透過率が2%以下、400nm以下の全領域に亘り透過率が1%以下とした(図4)。
・・・(省略)・・・
産業上の利用可能性
[0209] 本フィルタは、単独であるいは他の選択波長遮蔽部材と組合せて用いた際に、良好な近赤外線遮蔽特性を有するとともに、十分な小型化、薄型化ができることから、デジタルスチルカメラ等の撮像装置、プラズマディスプレイ等の表示装置、車両(自動車等)用ガラス窓、ランプ等に有用である。」

カ 「




キ 「






ク 「




(2)引用発明
上記(1)の記載(特に、ウ、オ、キ)によると、引用文献1には、例76として、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。

「色素とポリエステル樹脂からなる近赤外線吸収層が透明基板上に形成され、前記近赤外線吸収層の透過スペクトルが下記図2中の破線で示される、NIRフィルタ。




(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)引用発明は、「近赤外線吸収層」を備える。
そうしてみると、引用発明は、本件特許発明1の「吸収層」「を備え」という要件を満たしている。
(イ)引用発明の「NIRフィルタ」は、技術的にみて、近赤外線カットフィルタである。
そうしてみると、引用発明の「NIRフィルタ」は、本件特許発明1の「近赤外線カットフィルタ」に相当する。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件特許発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「吸収層を備える、近赤外線カットフィルタ。」

(イ)相違点
本件特許発明1と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「反射層」を備えるのに対し、引用発明は、「反射層」を備えていない点。

(相違点2)
本件特許発明1は、「(1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?750nmの光の平均透過率(R)が20%以下であり、波長495?570nmの光の平均透過率(G)が90%以上であり、かつ前記平均透過率の比(R)/(G)が0.20以下である。」および「(3)波長450?650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、波長550?750nmに透過率が80%となる波長λIR_(T(80))および50%となる波長λIR_(T(50))を有し、かつ前記各波長λIR_(T(80))およびλIR_(T(50))が、それぞれ次式(a)および(b)を満たしている。」、「0≦λIR_(T(80))-λ_(T(80))≦30nm …(a)」、「0≦λIR_(T(50))-λ_(T(50))≦37nm …(b) (式中、λ_(T(80))およびλ_(T(50))は比視感度曲線において比視感度がそれぞれ0.8および0.5を示す長波長側の波長である)」の要件を満たすのに対し、引用発明は、そのような要件を満たすか明らかでない点。

(相違点3)
本件特許発明1の「吸収層」は、「(4)波長500?900nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650?900nmに吸収極大波長を有する。」、「(5)入射角0°の分光透過率曲線において、波長600?800nmに少なくとも2つの透過率が10%となる波長を有し、前記透過率が10%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR10(L)と最も短波長側の波長IR10(S)の差IR10(L)-IR10(S)が30?70nmである。」及び「(6)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?700nmの光の平均透過率T_((620-700))と、495?570nmの波長領域の平均透過率T_((495-570))の比T_((620-700))/T_((495-570))が0.28以下である。」という要件を満たすのに対し、引用発明の「近赤外線吸収層」は、そのような要件を満たすか明らかでない点。

ウ 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア)引用文献1には、本件特許発明1の(6)の要件に対応する概念が記載も示唆もされていないから、引用発明では、NIRフィルタの近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける、波長620?700nmの光の平均透過率T_((620-700))と、495?570nmの波長領域の平均透過率T_((495-570))の比T_((620-700))/T_((495-570)) (以下、「比」という。)をパラメータとして用いることは想定されていない。そうしてみると、引用発明において、NIRフィルタの近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける前記比を0.28以下とする動機付けを見い出すことはできない。また、前記比をパラメータとして用いることが、単なる設計事項であるともいえない。

(イ)また、前記比を0.28以下とすることが、優先日前に公知又は周知であったことを示す証拠は見当たらない。

(ウ)なお、引用発明において、色素の分量を増やし、近赤外線吸収層の透過スペクトルにおける、650?800nmの波長域において透過率が1%となる最も短い波長λ_(a)を短波長側にシフトさせると、結果的に前記比が小さくなると考えられる。しかしながら、引用文献1の記載からは、色素の分量をどの程度増やすと、前記比がどの程度小さくなるのかを理解することはできない。また、引用発明において、色素の分量を増やすと、透過スペクトルはブロードになり、本件特許発明1の(5)の要件に相当する要件を満たさない方向に変化すると考えられる。そうしてみると、仮に、引用発明において色素の分量を増やす場合を想定しても、相違点3に係る本件特許発明1の構成を具備するものになるとはいえない。

(エ)そして、本件特許発明1は、相違点3に係る本件特許発明1の構成を有することにより、「(1)?(3)の要件を満たす分光特性が容易に得られる」(本件特許明細書【0170】)という効果を奏する。

(オ)そうしてみると、引用発明において、相違点3に係る本件特許発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

エ 特許異議申立人石井良夫は、平成31年1月18日付け意見書において、「T_((620-700))/T_((495-570))における0.03の微差は、吸収層と反射層とを備えた赤外線カットフィルタを作成する上での設計的事項の範囲内も含まれるものである」などと主張する。
しかしながら、長波長側で比視感度曲線に近い分光特性を得るために、赤外線カットフィルタ(NIRフィルタ)の(近赤外線)吸収層の透過スペクトルにおける比T_((620-700))/T_((495-570))をパラメータとして用いることは、優先日前に公知又は周知ではなく、前記比をパラメータとして用いることが、設計事項であるとはいえない。また、前記比を小さくすると長波長側で比視感度曲線に近い分光特性が得られることからすると、引用発明の前記比と本件特許発明1の前記比との差0.03(=0.31-0.28)が微差であるということはできない。そうしてみると、前記比における0.03の微差が、吸収層と反射層とを備えた赤外線カットフィルタを作成する上での設計的事項の範囲内であるとはいえない。
よって、前記主張は採用できない。

オ 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明2-3及び5-24について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2-3及び5-24は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2-3及び5-24は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうしてみると、前記(3)のとおり、本件特許発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2-3及び5-24も、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 理由2について
本件訂正請求による訂正により、特許請求の範囲の請求項1に、吸収層が(4)?(6)の要件を満たすことが追加された。
そうしてみると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、特許請求の範囲の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2-3及び5-24に係る発明である本件特許発明2-3及び5-24も、発明の詳細な説明に記載されたものである。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法29条1項
特許異議申立人大坪隆司は、甲第1号証-甲第14号証を提示し、本件特許発明1-19、21、24は、甲第1号証(韓国登録特許第10-1474351号公報)に記載された発明、甲第7号証(特開2013-68688号公報)に記載された発明、甲第11号証(特開2014-63144号公報)に記載された発明、又は甲第12号証(特開2014-66918号公報)に記載された発明である旨主張する。

(1)特許異議申立人大坪隆司が提示した甲第1号証には、実施例2発明として、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。

「樹脂A100質量部に、Exciton社製の吸収剤「ABS670T(吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)」を0.04質量部加え、さらにトルエンを加えて溶解し、固形分が30%の溶液を得て、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で8時間、100℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得て、係る基板の一面に、蒸着温度150℃で近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO_(2):膜厚120?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm)層とが交互に積層されてなるもの、積層数40 〕を形成して得られた、厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルター。」

(2)本件特許発明1と甲1発明を対比すると、前記「第5」1(3)イの「相違点2」及び「相違点3」と同様の点で相違する。

(3)前記「第5」1(3)ウで説示したのと同様の理由により、相違点3は実質的な相違点である。
そうしてみると、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1の構成を全て具備する本件特許発明2、3、5-19、21、24も、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(4)同様に、甲第7号証に記載された発明、甲第11号証に記載された発明、又は甲第12号証に記載された発明は、前記相違点3に係る本件特許発明1の構成を有していない。
そうしてみると、本件特許発明1は、甲第7号証に記載された発明、甲第11号証に記載された発明、又は甲第12号証に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1の構成を全て具備する本件特許発明2、3、5-19、21、24も、甲第7号証に記載された発明、甲第11号証に記載された発明、又は甲第12号証に記載された発明であるとはいえない。

(5)したがって、特許異議申立人大坪隆司の主張する前記理由は、採用できない。

2 特許法29条2項
(1)特許異議申立人大坪隆司は、甲第1号証-甲第14号証を提示し、本件特許発明1-24は、甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明、甲第11号証に記載された発明、又は甲第12号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。

ア 本件特許発明1と甲1発明を対比すると、前記「第5」1(3)イの「相違点2」及び「相違点3」と同様の点で相違する。

イ 事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア)甲第1号証には、本件特許発明1の(6)の要件に対応する概念が記載も示唆もされていないから、甲1発明では、近赤外線カットフィルターの吸収剤を含む樹脂層の透過スペクトルにおける、波長620?700nmの光の平均透過率T_((620-700))と、495?570nmの波長領域の平均透過率T_((495-570))の比T_((620-700))/T_((495-570)) (以下、「比」という。)をパラメータとして用いることは想定されていない。そうしてみると、甲1発明において、近赤外線カットフィルターの吸収剤を含む樹脂層の透過スペクトルにおける前記比を0.28以下とする動機付けを見い出すことはできない。また、前記比をパラメータとして用いることが、単なる設計事項であるともいえない。

(イ)また、前記比を0.28以下とすることが、優先日前に公知又は周知であったことを示す証拠は見当たらない。

(ウ)そして、本件特許発明1は、相違点3に係る本件特許発明1の構成を有することにより、「(1)?(3)の要件を満たす分光特性が容易に得られる」(本件特許明細書【0170】)という効果を奏する。

(エ)そうしてみると、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

ウ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件特許の特許請求の範囲の請求項2-3及び5-24は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2-3及び5-24は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうしてみると、前記ウのとおり、本件特許発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2-3及び5-24も、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ 甲第7号証に記載された発明、甲第11号証に記載された発明、又は甲第12号証に記載された発明は、前記相違点3に係る本件特許発明1の構成を有していない。
そうしてみると、甲第7号証に記載された発明、甲第11号証に記載された発明、又は甲第12号証に記載された発明を主引用発明とした場合でも、前記イで説示したの同様の理由により、本件特許発明1は、当業者が甲第7号証に記載された発明、甲第11号証に記載された発明、又は甲第12号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件特許発明2-3及び5-24も、当業者が甲第7号証に記載された発明、甲第11号証に記載された発明、又は甲第12号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

カ したがって、特許異議申立人大坪隆司の主張する前記理由は、採用できない。

(2)特許異議申立人石井良夫は、甲第5号証(特開2014-191346号公報)を提示し、本件特許発明1-3は、甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、甲第5号証には、前記相違点3に係る本件特許発明1の構成が記載されていない。また、前記第5の1(3)ウと同様に、前記相違点3に係る本件特許発明1の構成は、優先日前に公知又は周知ではないし、甲第5号証に記載された発明において、相違点3に係る本件特許発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことであるといえない。
したがって、特許異議申立人石井良夫の主張する前記理由は、採用できない。

3 特許法36条4項1号
(1)特許異議申立人大坪隆司は、ア:発明の詳細な説明に記載された「比視感度曲線」が、明所比視感度曲線、暗所比視感度曲線のいずれであるのかが不明であり、イ:発明の詳細な説明に記載された「光の平均透過率」がどのように算出されるのかが不明であり、ウ:発明の詳細な説明に記載された「規格化」がどのように行われているのかが不明であるから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない旨主張する。

(2)アについて
本件特許の明細書の【0188】、【0189】に記載された例4のNIRフィルタの規格化分光透過率曲線(【図4】)と明所比視感度曲線から算出されたλIR_(T(80))-λ_(T(80)) 、λIR_(T(50))-λ_(T(50))、及びλIR_(T(20))-λ_(T(20))の値は、同明細書【0194】【表4】の例4の欄に記載された値と一致する。また、色の識別を昼間視(明視)及び色覚に関与する「錐体」が行うという技術常識によれば、同明細書の「比視感度曲線」は「錐体」が光を感じ取る強さの度合を示す「明所比視感度曲線」であるといえる。
そうしてみると、発明の詳細な説明に記載された「比視感度曲線」が明所比視感度曲線であることは当業者にとって明らかである。

(3)イについて
「平均」は、一般に「相加平均」を指すところ、本件特許の明細書には、平均透過率を相加平均以外の方法で算出することの記載はないから、「平均透過率」は相加平均によって算出されることは当業者にとって明らかである。また、光学フィルタの分野で平均透過率を1nm程度の波長間隔で測定することが公知である(特許権者が提示した乙第4号証-乙第6号証参照。)。
そうしてみると、発明の詳細な説明に記載された「光の平均透過率」をどのように算出するのかは当業者にとって明らかである。

(4)ウについて
「規格化」は、「規格、標準に合わせること」(特許権者が提示した乙第3号証)であり、また、前記例4のNIRフィルタの規格化分光透過率曲線(【図4】)の最大透過率が100%である。
そうしてみると、発明の詳細な説明に記載された「規格化」が、最大透過率が100%となるように各波長における透過率を変換して透過率曲線を得ることを意味することは当業者にとって明らかである。

(5)前記(2)-(4)によると、発明の詳細な説明には、「比視感度曲線」、「光の平均透過率」及び「規格化」について明確に説明されている。
また、「比視感度曲線」、「光の平均透過率」及び「規格化」について明確に説明されている発明の詳細な説明の【0187】-【0198】(【実施例】)の記載によれば、当業者は、本件特許発明に係る近赤外線カットフィルタを作ることができ、また、使用することができる。
そうしてみると、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、特許異議申立人大坪隆司の主張する前記理由は、採用できない。

4 特許法36条6項2号
(1)特許異議申立人大坪隆司は、ア:請求項1に記載された「比視感度曲線」が、明所比視感度曲線、暗所比視感度曲線のいずれであるのかが不明であり、イ:請求項1に記載された「光の平均透過率」がどのように算出されるのかが不明であり、ウ:請求項1に記載された「規格化」がどのように行われているのかが不明であるから、本件特許発明1-3及び5-24は明確であるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない旨主張する。

(2)ア-ウについて
前記3(2)-(4)で説示したとおり、ア:「比視感度曲線」が明所比視感度曲線であること、イ:「光の平均透過率」をどのように算出するのか、ウ:「規格化」が、最大透過率が100%となるように各波長における透過率を変換して透過率曲線を得ることを意味することは、当業者にとって明らかである。

(3)前記(2)によると、本件特許発明1-3及び5-24は明確である。
したがって、特許異議申立人大坪隆司の主張する前記理由は、採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1-3及び5-24に係る特許は、特許異議申立1及び2の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1-3及び5-24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項4は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人石井良夫及び大坪隆司による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収層と、反射層とを備え、下記(1)および(3)の要件を満たし、前記吸収層は下記(4)?(6)の要件を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?750nmの光の平均透過率(R)が20%以下であり、波長495?570nmの光の平均透過率(G)が90%以上であり、かつ前記平均透過率の比(R)/(G)が0.20以下である。
(3)波長450?650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、波長550?750nmに透過率が80%となる波長λIR_(T(80))および50%となる波長λIR_(T(50))を有し、かつ前記各波長λIR_(T(80))およびλIR_(T(50))が、それぞれ次式(a)および(b)を満たしている。
0≦λIR_(T(80))-λ_(T(80))≦30nm …(a)
0≦λIR_(T(50))-λ_(T(50))≦37nm …(b)
(式中、λ_(T(80))およびλ_(T(50))は比視感度曲線において比視感度がそれぞれ0.8および0.5を示す長波長側の波長である)
(4)波長500?900nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650?900nmに吸収極大波長を有する。
(5)入射角0°の分光透過率曲線において、波長600?800nmに少なくとも2つの透過率が10%となる波長を有し、前記透過率が10%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR10(L)と最も短波長側の波長IR10(S)の差IR10(L)-IR10(S)が30?70nmである。
(6)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620?700nmの光の平均透過率T_((620-700))と、495?570nmの波長領域の平均透過率T_((495-570))の比T_((620-700))/T_((495-570))が0.28以下である。
【請求項2】
波長450?650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、波長550?750nmに透過率が20%となる波長λIR_(T(20))を有し、
要件(3)において、前記波長λIR_(T(20))が、次式(c)を満たしている請求項1に記載の近赤外線カットフィルタ。
0≦λIR_(T(20))-λ_(T(20))≦37nm …(c)
(式中、λ_(T(20))は比視感度曲線において比視感度が0.2を示す長波長側の波長である)
【請求項3】
要件(3)において、前記波長λIR_(T(80))、λIR_(T(50))およびλIR_(T(20))が、さらに次式(d)および(e)を満たしている請求項2に記載の近赤外線カットフィルタ。
(λIR_(T(80))-λ_(T(80)))/(λIR_(T(50))-λ_(T(50)))≦1.5 …(d)
(λIR_(T(20))-λ_(T(20)))/(λIR_(T(50))-λ_(T(50)))≦2.0 …(e)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記吸収層は下記(5)´の要件をさらに満たす請求項1に記載の近赤外線カットフィルタ。
(5)´入射角0°の分光透過率曲線において、波長600?800nmに少なくとも2つの透過率が1%となる波長を有し、前記透過率が1%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR1(L)と最も短波長側の波長IR1(S)の差IR1(L)-IR1(S)が25?50nmである。
【請求項6】
前記反射層は下記(7)の要件を満たす請求項1?3および請求項5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(7)入射角0°の分光透過率曲線において、波長420?695nmの光の平均透過率が90%以上であり、かつ波長750?1100nmの光の平均透過率が10%以下である。
【請求項7】
前記反射層は下記(8)の要件をさらに満たす請求項1?3および請求項5?6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(8)入射角0°の分光透過率曲線において、波長350?400nmの光の平均透過率が10%以下である。
【請求項8】
下記(9)の要件をさらに満たす請求項1?3および請求項5?7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(9)入射角0°の分光透過率曲線において、波長750?850nmの光の平均透過率が0.2%以下である。
【請求項9】
透明基材を有し、該透明基材の主面上に前記吸収層および前記反射層を備える請求項1?3および請求項5?8のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項10】
前記透明基材の一方の主面上に前記吸収層を備え、前記透明基板の他方の主面上に前記反射層を備える請求項9に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項11】
前記吸収層上に反射防止層を備える請求項10に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項12】
前記吸収層上に前記反射層を備える請求項10に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項13】
前記透明基材の両主面上に前記吸収層と前記反射層とを備える請求項9に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項14】
前記透明基材は、樹脂またはガラスを含む請求項9?13いずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項15】
前記透明基材は、吸収型のガラスを含む請求項14に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項16】
前記吸収層は、近赤外線吸収材を含む請求項1?3および請求項5?15のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項17】
前記近赤外線吸収材は、下記式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物を含む請求項16に記載の近赤外線カットフィルタ。
【化1】

式(F1)における記号は以下のとおりである。
R^(4)およびR^(6)は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1?6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1?10のアシルオキシ基、または-NR^(7)R^(8)(R^(7)およびR^(8)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?20のアルキル基、または-C(=O)-R^(9)(R^(9)は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1?20のアルキル基もしくは炭素数6?11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7?18のアルアリール基))を示し、
R^(1)とR^(2)、R^(2)とR^(5)、およびR^(1)とR^(3)、のうち少なくとも一組は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成し、複素環を形成していない場合のR^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1?6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6?11のアリール基もしくはアルアリール基を示し、複素環を形成していない場合のR^(3)およびR^(5)は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1?6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【請求項18】
前記吸収層は、透明樹脂を含み、該透明樹脂の質量に対して前記近赤外線吸収材を0.1?30質量%含有する請求項16または17に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項19】
前記吸収層は、紫外線吸収材を含む請求項1?3および請求項5?18のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項20】
前記吸収層は、前記紫外線吸収材を含有する紫外線吸収層を含む請求項19に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項21】
前記吸収層は、透明樹脂を含み、該透明樹脂の質量に対して前記紫外線吸収材を0.01?30質量%含有する請求項19または20に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項22】
前記紫外線吸収材は、下記式(M)で表される化合物を含む請求項19?21のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【化2】

式(M)における記号は以下のとおりである。
Yは、Q^(6)およびQ^(7)で置換されたメチレン基または酸素原子(ここで、Q^(6)およびQ^(7)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1?10のアルキル基もしくはアルコキシ基)を示し、
Q^(1)は、置換基を有していてもよい炭素数1?12の1価の炭化水素基を示し、
Q^(2)?Q^(5)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1?10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、
Zは、下記式(Z1)で表される2価の基を示す。
【化3】

(ここで、Q^(8)およびQ^(9)は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1?12の1価の炭化水素基を示す)
【請求項23】
前記吸収層は、波長350?800nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長360?415nmに吸収極大波長を有する請求項19?22のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項24】
請求項1?3および請求項5?23のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-03-11 
出願番号 特願2017-53386(P2017-53386)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 濱野 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
河原 正
登録日 2017-07-07 
登録番号 特許第6168252号(P6168252)
権利者 AGC株式会社
発明の名称 近赤外線カットフィルタおよび撮像装置  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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