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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12N 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12N 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12N |
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管理番号 | 1351469 |
異議申立番号 | 異議2019-700186 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-03-06 |
確定日 | 2019-05-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6388977号発明「修飾型のヌクレオシド、ヌクレオチドおよび核酸、ならびにそれらの使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6388977号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6388977号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年10月3日を国際出願日とする特願2014-534647号(優先権主張 平成23年10月3日 米国)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて平成29年3月15日に分割出願したものであり、平成30年8月24日にその特許権の設定登録がされ、同年9月12日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許に対し、特許異議申立人 亀崎伸宏は、平成31年3月6日に特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第6388977号の請求項1?7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 対象とするポリペプチドをコードしている単離ポリヌクレオチドであって、 (a)前記ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームであって、1-メチル-プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなる、オープンリーディングフレームと、 (b)少なくとも1つのコザック配列を含んでなる5’UTRと、 (c)3’UTRと、 (d)少なくとも1つの5’キャップ構造と を含み、 哺乳動物細胞に投与されると、該ポリヌクレオチドは、プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなるオープンリーディングフレームを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する、単離ポリヌクレオチド。 【請求項2】 ポリAテールを含む、請求項1に記載の単離ポリヌクレオチド。 【請求項3】 前記少なくとも1つの5’キャップ構造は、Cap0、Cap1、ARCA、イノシン、N1-メチル-グアノシン、2’フルオロ-グアノシン、7-デアザ-グアノシン、8-オキソ-グアノシン、2-アミノ-グアノシン、LNA-グアノシン、および2-アジド-グアノシンからなる群から選択される、請求項1または2に記載の単離ポリヌクレオチド。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか一項に記載の単離ポリヌクレオチドと薬学的に許容可能な添加剤とを含む医薬組成物。 【請求項5】 前記添加剤は、溶媒、水性溶媒、非水性溶媒、分散媒、希釈剤、分散物、懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、防腐剤、脂質、リピドイド、リポソーム、脂質ナノ粒子、コア・シェル型ナノ粒子、ポリマー、リポプレックスペプチド、タンパク質、細胞、ヒアルロニダーゼ、およびこれらの混合物から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。 【請求項6】 対象とするポリペプチドのレベルを哺乳動物対象において上昇させるため医薬組成物であって、請求項1?3のいずれか一項に記載の単離ポリヌクレオチドを含む、医薬組成物。 【請求項7】 前記ポリヌクレオチドは調合されている、請求項6に記載の医薬組成物。」 第3 特許異議申立の概要 特許異議申立人 亀崎伸宏は、下記の証拠を提出し、以下の特許異議申立理由を主張している。 1.特許異議申立理由 (1)(新規性違反)請求項1?7に係る発明は甲第1号証、甲第2号証に記載された発明であり、請求項1?7に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである。 (2)(進歩性違反)請求項1?7に係る発明は甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである。 (3)(実施可能要件違反)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、請求項1?7に係る特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである。 (4)(サポート要件違反)本件特許の特許請求の範囲の記載には不備があり、請求項1?7に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである。 2.証拠 (1)甲第1号証:米国特許出願公開第2011/0143397号明細書 (2)甲第2号証:国際公開第2007/024708号 (3)甲第3号証:Anderson et al., Nucleic Acids Research, 2010, Vol.38, No.17, p.5884-5892 (4)甲第4号証:The RNA Modefication Database のウエブサイトにおける1-メチルプソイドウリジンに関するページ[retrived on 26 February 2019]. Retrived from the internet: (5)甲第5号証:Brand et al., Biochem.J.1978, Vol.169, p.71-77 (6)甲第6号証 :Anderson,Bart R.,“Nucleodide Modifications Suppress RNA Activation of Cytoplasmic RNA Sensors”(2010). Publicity Accesible Penn Dissertations. 1567. 第4 証拠の記載事項 (1)甲第1号証(以下、「甲1」と記載する。他の証拠も同様とする。)には、修飾されたヌクレオシドを含むRNA分子が記載されており、段落[0378]?[0379]には追加のヌクレオシド修飾を導入すること、追加のヌクレオシド修飾として1-メチルプソイドウリジンが記載され、追加的な修飾が免疫原性を低下させ、翻訳を亢進することが記載されている。 (2)甲2には、修飾されたヌクレオシドを含むRNA分子が記載されており、段落[00290]?[00291]には追加のヌクレオシド修飾を導入すること、追加のヌクレオシド修飾として1-メチルプソイドウリジンが記載され、追加的な修飾が免疫原性を低下させ、翻訳を亢進することが記載されている。 (3)甲3には、プソイドウリジンがPKP活性化を減少させることによって翻訳を増強すること、RNAが天然に存在するRNA修飾を含むとPKP活性化が減少することが記載され、天然に生じる修飾に関するデータベースが引用されている。 (4)甲4は甲3で引用されたデータベースであり、甲4には、ヒト細胞、例えばHela細胞において天然に生じる修飾ヌクレオシドの一つとして1-メチルプソイドウリジンが挙げられている。 (5)甲4で引用された文献である甲5には、1-メチルプソイドウリジンがHela細胞中にも存在することが記載されている。 (6)甲6には、「追加的なU修飾の研究は、さらに、より一層良好な特性を有し、より一層大きな治療的有効性を有する追加的な修飾mRNAを同定し得る。」と記載されている。 第5 当審の判断 1.新規性違反の理由について (甲1を証拠とした理由) 甲1には「追加のヌクレオシド修飾として1-メチルプソイドウリジンが導入された、修飾されたヌクレオシドを含むRNA分子。」の発明が記載されていると認められる。 請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。また、請求項2?7に係る発明についても同様に「本件発明2」?「本件発明7」という。)には、「単離ポリヌクレオチド」が「哺乳動物細胞に投与されると、該ポリヌクレオチドは、プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなるオープンリーディングフレームを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する」点が特定されているが、甲1にはこの点に関して記載されていない。 そして、本件特許明細書の表26の1行目と3行目、表28の7行目と8行目、表31の3行目と4行目などには、1-メチル-プソイドウリジン修飾した場合にプソイドウリジン修飾した場合よりも高いタンパク質の発現が得られた例が示されていると認められるが、一方、表29の7行目と8行目には両者の発現があまり変わらないことが示され、表34の5行目と6行目、表36の4行目と5行目、表36の5行目と6行目などには1-メチル-プソイドウリジン修飾がプソイドウリジン修飾よりも低い発現であることが示されていると認められる。そして、これらの例はポリヌクレオチドの修飾としてプソイドウリジン修飾または1-メチルプソイドウリジン修飾のみを含む例であると認められる。 また、表28の試験A1、表32の6行目と7行目などには、1-メチル-プソイドウリジンを含む場合の方がプソイドウリジンを含む場合よりも発現が多いことが示されているが、表28の試験B1、試験B2、試験A3、表29の試験A1、試験B1、試験B2、試験A3などには、1-メチル-プソイドウリジン修飾を含む場合の方がプソイドウリジン修飾を含む場合よりも発現が少ないことが示されていると認められる。そして、これらの試験では、ポリヌクレオチドは1-メチル-プソイドウリジン修飾やプソイドウリジン修飾だけでなく、5-メチルシトシン修飾も含んでいる。 そうすると、本件特許明細書のこれらの記載から、ポリヌクレオチドが1-メチル-プソイドウリジン以外の修飾も含む場合、含まない場合のいずれでも、ポリヌクレオチドに1-メチル-プソイドウリジン修飾をした場合に、プイドウリジン修飾の場合よりもタンパク質発現が高くなる場合と、低くなる場合があることが理解される。 したがって、ポリペプチドをコードしている単離ポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームが1-メチル-プソイドウリジンを含むものであれば、必ずプソイドウリジンを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、“コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する”とは認められず、むしろ発現量が減少する場合もあると認められる。 甲1に記載された発明「追加のヌクレオシド修飾として1-メチルプソイドウリジンが導入された、修飾されたヌクレオシドを含むRNA分子。」は、ポリヌクレオチドが1-メチル-プソイドウリジン以外の修飾も含む場合に該当すると認められるが、本件特許明細書の上記記載を考慮すると、甲1に記載された発明が、必ず「哺乳動物細胞に投与されると、該ポリヌクレオチドは、プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなるオープンリーディングフレームを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する」点を満足するとは認められない。すなわち、上記の点は1-メチル-プソイドウリジンの存在が本来的にもたらすものではない。 よって、本件発明1と甲1に記載された発明とは、上記の点で相違するから、本件発明は甲1に記載された発明であるとはいえない。 請求項1を引用する本件発明2?7も同様に甲1に記載された発明であるとはいえない。 (甲2を証拠とした理由) 甲2には「追加のヌクレオシド修飾として1-メチルプソイドウリジンが導入された、修飾されたヌクレオシドを含むRNA分子。」の発明が記載されていると認められるが、甲2には本件発明1に特定される「単離ポリヌクレオチド」が「哺乳動物細胞に投与されると、該ポリヌクレオチドは、プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなるオープンリーディングフレームを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する」点に関して記載されていない。 そして、甲1の場合と同様に、本件発明1と甲2に記載された発明とは、上記の点で相違するから、本件発明1は甲2に記載された発明であるとはいえない。 請求項1を引用する本件発明2?7も同様に甲2に記載された発明であるとはいえない。 2.進歩性違反の理由について 甲1、2には、追加的な修飾が翻訳を亢進することは記載されているが、この記載はいわゆる一行記載であり、追加のヌクレオシド修飾として1-メチルプソイドウリジンを用いた例や、1-メチルプソイドウリジン修飾によって実際に翻訳が亢進された例などは示されていない。 また、甲3?6には、「単離ポリヌクレオチド」が「1-メチル-プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなる、オープンリーディングフレーム」を含むことや、「単離ポリヌクレオチド」が「哺乳動物細胞に投与されると、該ポリヌクレオチドは、プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなるオープンリーディングフレームを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する」ことについて記載も示唆もない。 これに対して、本願特許明細書には、上記1.で記載したとおり、ポリヌクレオチドに1-メチル-プソイドウリジン修飾をすることで、プイドウリジン修飾の場合よりもタンパク質発現が高くなる多数の例が示されていると認められる。 したがって、本件発明1は甲1?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 請求項1を引用する本件発明2?7も同様に甲1?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3.実施可能要件違反の理由について 本願特許明細書には、上記1.で記載したとおり、ポリヌクレオチドに1-メチル-プソイドウリジン修飾をした場合に、プイドウリジン修飾の場合よりもタンパク質発現が高くなる多数の例が具体的に示されていると認められる。 したがって、本件特許明細書には、「1-メチル-プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなる、オープンリーディングフレーム」を含む「単離ポリヌクレオチド」がであって、「哺乳動物細胞に投与されると、該ポリヌクレオチドは、プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなるオープンリーディングフレームを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する、単離ポリヌクレオチド」について十分具体的に記載されていると認められる。 なお、本件特許明細書の表46には、1-メチル-プソイドウリジンを含むポリヌクレオチドを用いた場合に発現が「0」であった例が記載されているが、本件発明1は「哺乳動物細胞に投与されると、該ポリヌクレオチドは、プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなるオープンリーディングフレームを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する、単離ポリヌクレオチド」を特定する発明であるから、表46における発現が「0」の例などは本件発明1?6に含まれるものではない。 そして、上記したとおり、本件特許明細書には、1-メチル-プソイドウリジン修飾によってプソイドウリジン修飾の場合よりも高いタンパク質発現が得られた多数の例が具体的に示されているのであるから、発明の詳細な説明の記載に不備があるとはいえない。 よって、本件特許明細書が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 4.サポート要件違反の理由について 本件発明1の解決しようとする課題は、「1-メチル-プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなる、オープンリーディングフレーム」を含む、「哺乳動物細胞に投与されると、該ポリヌクレオチドは、プソイドウリジン、シチジン、アデノシン、およびグアノシンを含むヌクレオチドからなるオープンリーディングフレームを含む対応するポリヌクレオチドと比較して、コードする前記ポリヌクレオチドの増加した発現量を有する」、「単離ポリヌクレオチド」の提供であると認められる。 そして、本件特許明細書、特に実施例には、ポリヌクレオチドに1-メチル-プソイドウリジン修飾をした場合に、プソイドウリジン修飾の場合よりも高いタンパク質発現が得られた多数の例が具体的に示されているから、発明の詳細な説明の記載から本件発明1の課題が解決できることを合理的に理解できるといえる。 また、本件発明2?7についても同様である。 したがって、本件発明1?7が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-05-15 |
出願番号 | 特願2017-49969(P2017-49969) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C12N)
P 1 651・ 113- Y (C12N) P 1 651・ 536- Y (C12N) P 1 651・ 537- Y (C12N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 飯室 里美 |
特許庁審判長 |
大宅 郁治 |
特許庁審判官 |
小暮 道明 中島 庸子 |
登録日 | 2018-08-24 |
登録番号 | 特許第6388977号(P6388977) |
権利者 | モデルナティエックス インコーポレイテッド |
発明の名称 | 修飾型のヌクレオシド、ヌクレオチドおよび核酸、ならびにそれらの使用方法 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 本田 淳 |
代理人 | 中村 美樹 |
代理人 | 恩田 博宣 |