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審決分類 |
審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) B27K |
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管理番号 | 1351474 |
判定請求番号 | 判定2018-600028 |
総通号数 | 234 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2019-06-28 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2018-09-07 |
確定日 | 2019-04-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5138080号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号製品及びその説明書に示すイ号製品(品名「プレスウッド」、品番「PWFFH-0 スギ 60」)は、特許第5138080号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、判定請求書に添付した「イ号製品及びその説明図」が示すイ号製品(品名「プレスウッド」、品番「PWFFH-0 スギ60」)は、特許第5138080号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。 第2 手続の経緯 本件特許に係る手続の経緯は、平成22年6月3日に出願された特願2010-127593号の一部を平成23年9月2日に新たな特許出願としたものであって、平成24年11月22日に特許権の設定登録がされ、平成30年9月7日に本件判定請求がされ、これに対して、同年11月16日に被請求人から判定請求答弁書が提出され、同年12月21日付け(発送日:同年12月25日)で当審より通知した審尋に対し、平成31年1月23日に請求人より回答書が提出されたものである。 第3 本件特許発明 本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(なお、(A)?(D)の分説は、請求人の主張に基づく。) 「【請求項1】 (A)木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材は、 (B)前記塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上とし、 (C)かつ、前記塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m_(2)〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m_(1)〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm^(2)〕と密度ρ〔g/cm^(3)〕とから 摩耗深さ=(m_(1)-m_(2))/A・ρ として算出した摩耗深さが0.12〔mm〕以下とし、 (D)しかも、前記塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内にあることを特徴とする塑性加工木材。」 第4 当事者の主張 1 請求人の主張 (1)判定請求の必要性 請求人は本件特許第5138080号を所有し、その具現化した商品(例えば、フローリング等)を製造販売している。 被請求人の甲第13号証のウェブカタログのTENRYU048頁掲載の『釘打用プレスウッド(PWFF)には、『スギ(60%圧縮単板)』の欄に商品表示「PWFFH-0 スギ 60(15×90×900mm)」、他に「PWFF-0 スギ 60(15×90×1820mm)」、「PWFF-0W スギ 60(15×75×900mm)」の記載がある。 そこで、甲第3号証の写真2の移動伝票に示すように、品番「PWFFH-0 スギ 60(15×90×900mm)」を購入し、『あいち産業科学技術総合センター』で試験を行い、被請求人の商品の品番「PWFFH-0 スギ 60」(イ号製品)の構成が本件特許発明の技術的範囲内であることを確認したので、判定請求に及んだ次第である。 (判定請求書2頁8?9、17?26行) (2)イ号製品の構成 「イ号製品及びその説明書」の「イ号製品の構成」で説明したように、次の4項目の構成要件を具備するものである。 (a)木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の塑性加工木材である。 (b)前記塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を、公的機関の測定により、「30産総産技第1-1485号成績書」乃至「30産総産技第1-1487号成績書」の順に計算結果を並べると、1.040、1.035、0.87975の全てが気乾比重0.85以上である。 (c)塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m_(2)〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m_(1)〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm^(2)〕と密度ρ〔g/cm^(3)〕とから 摩耗深さ=(m_(1)-m_(2))/A・ρ として算出した摩耗量が、30産総産技第1-1485号成績書乃至30産総産技第1-1487号成績書の順に並べると、0.068、0.068、0.072の全てが摩耗量0.12〔mm〕以下である。 (d)塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が、「30産総産技第1-1485号成績書」乃至「30産総産技第1-1487号成績書」の順に並べると、11度以下、16度以下、9度以下で、全てが45度以下の範囲内にある。 (判定請求書4頁2?21行) (3)属否の判断 イ号製品の構成(a)?(d)は、本件特許発明の構成(A)?(D)の全必須構成要件を具備するものであるから、判定請求書に添付した「イ号製品及びその説明図」が示すイ号製品(品名「プレスウッド」、品番「PWFFH-0 スギ60」)は、特許第5138080号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。 (判定請求書6頁2?6行) (4)本件発明の構成と「JIS」との関係 本件発明の「耐摩耗性」の「摩耗深さ」〔mm〕は、特許公報の段落[0013]の記載で「JIS Z 2101に準じて評価するもの」と定義している。 しかし、本件発明は、直接、特定のJIS Z 2101の試験体から本件発明を表現する発明形態にはなっていない。 また、本件発明の当業者間で周知である用語、例えば「密度」、「含水率」、「気乾比重」までも、JIS Z 2101に準じて評価するとは、特許公報の何れにも記載されていない。 本件発明における「耐摩耗性」の実施の形態は、JIS Z 2101で説明しているが、本件発明の必須構成要件の前提としてJIS Z 2101が必要となるものではなく、ここにおけるJIS Z 2101の使用は実施の形態としての例示に過ぎない。 したがって、「密度」、「含水率」、「気乾比重」までも、JIS Z 2101に準じて評価するとの被請求人の主張は採用できないものである。ここで「JIS Z 2101に準じて評価する」とは、JIS Z 2101の論理に倣って算出することを意図しているに過ぎない。 (回答書2頁9?23行) (5)セラミックUV塗装について ア 前回(平成30年8月8日)が上面から0.3?0.4〔mm〕切削切り捨てた場合の摩耗厚み0.068(甲第10号証)、0.068(甲第11号証)、0.072(甲第12号証)であり、今回(今回の報告書(平成31年1月8日)に添付した『成績書』参照)の圧縮硬化化粧材(塑性加工木材)を上面から多く切り捨てた厚み1.86、1.9、1.9となっている場合の摩耗量0.116、0.108、0.111と比較すると、今回は前回よりもセラミックUV塗装側を0.5〔mm〕以上大きく切り捨てているにもかかわらず、前回の値よりも今回の摩耗量が大きく(柔らかく)なっており、これはセラミックの影響が殆どないことを意味する。念のため付言するが、それでも、今回添付した『成績書』の圧縮硬化化粧材(塑性加工木材)を上面から多く切り捨てた摩耗深さは、前回と同様、0.12〔mm〕以下である。 このように、切削切り捨て部分が深くなれば摩耗量が大きくなり、切削切り捨て部分が薄くなれば摩耗量が小さくなるという結果は、一般に当業者が0.1?0.3〔mm〕程度以下の厚みがコーティングの影響のある厚みとして扱っていることに客観性があると判断される。 結果、セラミックUV塗装のコーティングの影響が殆どないことを意味する。 (回答書2頁下から2行?3頁14行) イ 甲第13号証第48頁に記載されている「セラミックスUV塗装」は本件発明の必須構成要件に相当するものではなく、また、測定の際に大部分が除去されるものであるから、当該必須構成要件以外の構成は論理的に必要なものを除き省略している。 「市販の床材」がUV塗装でコーティングされていることは当業者にとって周知の事実であり、特に、UV塗膜は含浸性が弱いことから、表面から0.1?0.3〔mm〕の厚みを除去すれば、その塗膜は十分に除去されることになる。 具体的に表面からどれだけの深さを除去したかは、甲第10?12号証の「光学顕微鏡観察像」として添付されている写真から確認でき、影響がなくなる厚みを0.3?0.4〔mm〕とし、UV塗装の影響の介在する可能性のある範囲としてそれだけ切削したものである。 (回答書4頁下から3行?5頁4行、5頁9?15行) (6)試験体の形状について ア イ号製品の圧縮硬化化粧材(塑性加工木材)の「摩耗量」、「含水率」、「密度」を得るための試料は、一般に、次のように作製される。 「摩耗量」 試験体の形状は、90×100〔mm〕の幅・長さの面で幅90×長さ100〔mm〕の四角の板面を丸鋸盤で製作し、ノギスで計測した。「セラミックスUV塗装」の存在が影響しないように上面から0.3?0.4〔mm〕切削切り捨て試験体とした。但し、圧縮硬化化粧材(塑性加工木材)から「12mm耐水合板」または「12mm国産針葉樹合板」は除去しないで測定している。 即ち、試験体固定枠(6)の上面に試験体を載置し、座金(9)を介して試験体締付ノブ(8)で締付けられるので確実に固定され、適正に試験が実施できた。試験体は試験体固定枠(6)で受け、締め付けられるので、圧縮硬化化粧材(塑性加工木材)の表面にのみ加圧される試験体の測定となる。 「密度」 例えば、ディメンジョン(dimension)から分かるように圧縮硬化化粧材(塑性加工木材)の体積及び重量を計測し、「密度」を「g/mm^(3)」として出しても、「g/cm^(3)」として出しても、結果は同じである。 繊維方向を90×100×2.5〔mm〕を「g/cm^(3)」として算出しても、20×20×10「g/cm^(3)」として算出しても、単位を「g/mm^(3)」の1/1000とするか、「g/cm^(3)」とするかの選択の問題であります。 「気乾比重」 試験体としては、「摩耗量」を測定する試験体に隣接して、木口断面20×20〔mm^(2)〕×長さ2.5〔mm〕をノギス及びマイクロメータで測定して他の試験体を形成した。 他に本件発明の特許公報の段落[0013]に記載のように「気乾比重」は木材を大気中で乾燥した含水率15%の時の比重で表すもので、木材を乾燥させた時の重さと同じ体積の水の重さを比べた値である。含水率15%の基準値に置き換え、木材の10mm角の立方体、乾燥後の重量から算出する。 即ち、含水率(%)は、「100×(乾燥前の重量(W)一乾燥後の重量)/乾燥後の重量」として算出され、水分が増加しても木材の体積は変化しないから、含水率15%の基準値に置き換え「気乾比重」を算出している。 この「気乾比重」を算出する試験体は「密度」で使用したものとなる。 このように、圧縮硬化化粧材(塑性加工木材)の「摩耗量」、「含水率」、「密度」を同一または近隣の場所から得てこそ、それらの測定値を評価できるものである。そのため、甲第14号証第6頁下第7?6行で「含水率測定用の試験体は、本来の目的の試験に供された試験体から作製することが望ましい。それができない場合は、試験体に近接した部位から作成してもよい。」と規定しているのである。 (回答書7頁10行?8頁9行) イ 試験体の特定形状とは、甲第14号証第6頁下第9行に記載の含水率の測定では、「直方体試験体の形状」の規定がある。また、甲第14号証第6頁下第7?6行に「含水率測定用の試験体は、本来の目的の試験に供された試験体から作製することが望ましい。それができない場合は、試験体に近接した部位から作成してもよい。」と規定している。そして、「密度」の測定では、甲第14号証第7頁下第2?末行に「容積が容易に測定できる場合には、この箇条によらない形状としてもよい。」と記載されている。 これら記載から、「摩耗量」の試験体を作成し、その「摩耗量」の試験体(直方体試験体)から「密度」、「含水率」を算出できることを示唆している。 本件発明の「耐摩耗性」の「摩耗深さ〔mm〕は、JIS Z 2101に準じて評価するもの」であり、試験体が作製できないものではない。厚み・幅(長さ方向に直角な距離)・長さ15×90×900〔mm〕の全体(これを「厚み×幅(長さ方向に直角な距離)×長さ」と呼ぶこともある。)を、幅90〔mm〕×長さ100〔mm〕の長方形とした4角形の板を摩耗試験の試験体とし、幅90〔mm〕×長さ100〔mm〕の長方形、厚み15-2.5〔mm〕の試験体で摩耗深さ〔mm〕を測定したが、測定に問題はなかった。 念のため、試験体上面の「報告書」の写真<26>?<28>の摩擦輪の軌跡を確認されたい。 (回答書3頁末行?4頁25行) ウ 請求人は、90〔mm〕×100〔mm〕の正方形とし、四角形の板を摩耗試験の試験体とした。特に、試験体固定枠(6)の上面に載置し、中心軸となる試験体締付けノブ(8)で取付けを行ったが、軸方向の遊び並びに廻転ブレは確認できなかった。 特に、「摩耗試験」は厚み・幅(長さ方向に直角な距離)・長さが15×90×900〔mm〕の「フローリング」の上面を約0.3?0.4〔mm〕切削し、切り捨てた試験体によって測定している。 このとき、2つの摩耗輪の外側の間隔78.8±0.3mmは、試験体の摩耗深さ〔mm〕に何らの影響を与えないことが確認されている。念のため、試験体上面の「報告書」の写真<27>の摩擦輪の軌跡を確認されたい。 (回答書9頁24?33行) 2 被請求人の主張 (1)答弁の趣旨 「イ号製品及びその説明図」が示すイ号製品(品名「プレスウッド」、品番「PWFFH-0 スギ60」)は、特許第5138080号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属さない、との判定を求める。 (判定事件答弁書2頁6?8行) (2)判定請求の必要性の欠如 本件特許出願人が出願前に頒布した刊行物である乙第1号証(つよスギ 密圧スギムク材製品カタログ)を出願時の技術水準として対比すると、本件特許発明の各構成要件(A)?(D)は、全て乙第1号証に開示されているから、本件特許第5138080号に係る特許発明は、原出願の出願日よりも前に特許権者自ら公知とした発明である。 公知発明の実施がその後に成立した特許に係る発明の技術的範囲に属することはないから、本件特許第5138080号の特許請求の範囲にイ号製品が属することはなく、判定請求の必要性は欠如している。 (判定事件答弁書7頁12?14行、2頁12?16行) (3)本件特許発明とイ号製品の違い ア イ号製品 イ号製品は、乙第3号証に示すとおり、スギの板目材をその厚み方向に加熱し、圧縮し、形状固定化を行ってなる圧縮硬化化粧材(3mm)に対し、その下面側に12mm耐水合板または12mm国産針葉樹合板を貼り付け、その上面にセラミックスUV塗装を施したものである。 なお、原料となるスギの板目材について、当該板目材の木口面の全ての年輪線と、前記板目材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内となるような選別は行っていない。 (判定事件答弁書7頁20?26行) イ 構成(B)について 甲第14号証の第6頁下から9行目には、含水率の測定に用いる「試験体の形状は、木口断面が20?30mmの正方形、繊維方向が10?30mmの直方体とする」と記載されているところ、イ号製品の圧縮硬化化粧材の厚みは3mmであるから、かかる圧縮硬化化粧材から木口断面が20?30mmの正方形を含む直方体の試験体を得ることはできない。請求人が測定したと主張するイ号製品の圧縮硬化化粧材の含水率15%における気乾比重の値には疑義がある。よって、現状では、イ号製品が構成(B)を具備するかどうか、不明である。 また、甲第14号証の第7頁下から2行目?最下行には、密度の測定に用いる「試験体の形状は、4.4.1の規定による」と記載されており、この「4.4.1の規定」とは、含水率の測定における試験体の形状を示す。しかし、イ号製品の圧縮硬化化粧材の厚みは3mmであるから、かかる圧縮硬化化粧材から木口断面が20?30mmの正方形を含む直方体の試験体を得ることはできない。 また、圧縮硬化化粧材の上面にはセラミックスUV塗装が施され、且つ塗料の一部は圧縮硬化化粧材の内部まで含浸し圧縮硬化化粧材を密実なものにしているから、密度(比重)の測定において表面部の塗装及び含浸した塗料を削除しなければ、正確な圧縮硬化化粧材の密度を測定することはできない。 したがって、請求人が測定したと主張するイ号製品の圧縮硬化化粧材の密度(甲第10?12号証に記載された密度である)の値には疑義があり、現状では、イ号製品が構成(B)を具備するかどうか、不明である。 (判定事件答弁書8頁14行?9頁12行) ウ 構成(C)について 甲第14号証によれば、摩耗試験において作成される試験体は「直径約120mmの円形又は試験に支障のない形状の試験体」である。 一方、イ号製品は、乙第3号証の第48頁には、その寸法は「15×90×900mm」と記載されており、直径約120mmの円形の試験体を得ることはできない。 さらに、イ号製品の上面にはセラミックスUV塗装が施されている。 イ号製品において、セラミックス塗装は圧縮硬化化粧材の表面部をさらに補強するためのものであり、その塗装時には塗料が圧縮硬化化粧材部にも含侵し、含侵部分は質実なものとなる。 そのうえ、イ号製品は、圧縮硬化化粧材(3mm)の下面に12mm耐水合板または12mm国産針葉樹合板が接着されたものであるから、単純に圧縮硬化化粧材のみで摩耗試験が行われた場合と比較して圧縮硬化化粧材の正確な摩耗量を測定することはできていないと考えられる。 最後に、構成(B)で得られた気乾比重の値は、構成(C)の摩耗量の計算にも使用される。上記イのとおり、請求人の測定により得られたイ号製品の圧縮硬化化粧材の密度の値には疑義があるから、疑義がある密度の値を使用して計算された摩耗量の値にもまた疑義がある。 ここで、乙第5号証は、「一般的には、ある材料の物理的特性や機械的性質は、特性値を測定する試験機の種類が異なっても、ほほ同一の値を示すか、あるいは適当な換算式を使うことによって、他の試験機で得られた値とリンクさせることができるとされている。 しかし摩擦試験の場合は例外で、同じ材料でも試験片形状・試験方式・雰囲気条件などが異なると全く異なった特性値が得られることが多い。」と記載する。 (判定事件答弁書9頁15?21行、10頁3?4行、同15?17行、同22?24行、10頁末行?11頁15行) エ 小括 したがって、本件発明における加熱圧縮後に塑性加工された後の塑性加工木材と、イ号製品とでは、 第1に、本件発明の塑性加工木材からは摩耗輪試験の条件を満たす試験片が得られる一方、イ号製品からはその条件を満たす形状の試験片が得られず、 第2に、本件発明の塑性加工木材の表面部には塗装が無い一方、イ号製品には圧縮硬化化粧材の上面にセラミックスUV塗装が施されており、 第3に、本件発明の塑性加工木材は下面に合板が接着されていない一方、イ号製品には圧縮硬化化粧材の下面に12mm耐水合板または12mm国産針葉樹合板が接着されており、 第4に、イ号製品の摩耗量の計算は、疑義のある密度の値に基づいて行われていることから、 本件特許発明の摩耗試験と比較してイ号製品の摩耗試験では全く異なった特性値が得られており、かかる全く異なった特性値に基づき、イ号製品が本件特許発明の構成(C)を具備するとは到底言うことができない。 以上のように、イ号製品が構成(B)及び(C)を具備するかどうか不明であるから、構成(B)及び(C)について、本件特許発明とイ号製品が一致するとは言えない。したがって、イ号製品が、特許第5138080号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属するということができない。 (判定事件答弁書11頁18行?12頁12行) 第5 イ号製品 1 証拠の記載 (1)イ号製品及びその説明書 判定請求書に添付されたイ号製品及びその説明書の5?8頁には、以下の事項が記載されている。 ア 5頁 「試験方法 品番「PWFFH-0 スギ 60」の『あいち産業科学技術総合センター』の成績書(甲第10号証乃至甲第12号証)によれば、表面の圧密単板に対して以下の3項目を甲第14号証に記載の「木材の試験方法」の「JIS Z 2101;2009」の各方法によって測定した摩耗量、含水率、密度は、次のようである。 摩耗量:JIS Z 2101『木材の試験方法 25』 「摩耗試験」による。 含水率:JIS Z 2101『木材の試験方法 4』 「含水率」の測定による。 密 度:JIS Z 2101『木材の試験方法 5』 「密度」の測定による。 また、表面の圧密単板の木端部分(試料の採取部位は試料長さの中央)を光学顕微鏡により観察した。 試験結果1(甲第10号証の「試験結果」の転記) 試験結果2(甲第11号証の「試験結果」の転記) 試験結果3(甲第12号証の「試験結果」の転記) ここで、含水率と比重の関係を説明する。 含水率(%)= 100(乾燥前の重量(W)-乾燥後の重量(W_(0)))/乾燥後の重量(W_(0)) である。なお、この「乾燥後の質量(W_(0))」は、「全乾燥重量(W_(0))」とも呼ばれ水分ゼロの状態の重量である。 」 イ 6頁 「[試験結果1] 甲第10号証の「試験結果」の表の「密度」は、「試験結果1」に示すように、密度0.98(g/cm^(3))、甲第10号証の「試験結果」の表に示すように、含水率7.5(%)のとき、木材の1(cm)の立方体に0.075(g)の水(水1cm^(3)が1gとする)が存在することになり、含水率0(%)のときには、乾燥後の重量=0.98g-0.075g=0.905gとなる。 塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を算出するには、まず含水率15%を算出する。 含水率15%は、水分が増加しても木材の体積は変化しないから、含水率は15%で、 15=100(W-0.905)/0.905 が成り立つ。 0.905×15=100W-90.5 100W=13.575+90.5 W=1.040 したがって、含水率15%の基準値に置き換えると、気乾比重が1.040となる。 また、塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m_(2)〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m_(1)〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm^(2)〕と密度ρ〔g/cm^(3)〕とから 摩耗深さ=(m_(1)-m_(2))/A・ρ として算出した摩耗深さ、即ち、摩耗量(mm)は0.068(mm)となる。 そして、塑性加工された後の木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が、角度θ_(1)が11度、角度θ_(2)が10度で、全ての年輪角度が11度以下であり、45度を超えるものがない。 光学顕微鏡観察像 」 ウ 7頁 「[試験結果2] 甲第11号証の「試験結果」の表の「密度」は、「試験結果2」に示すように、密度0.98(g/cm^(3))、甲第11号証の「試験結果」の表に示すように、含水率8.0(%)のとき、木材の1(cm)の立方体に0.08(g)の水が存在することになり、含水率0(%)のときには、乾燥後の重量=0.98g-0.080g=0.900gとなる。 塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を算出するには、まず含水率15%を算出する。 含水率15%は、水分が増加しても木材の体積は変化しないから、含水率は15%で、 15=100(W-0.900)/0.900 が成り立つ。 0.900×15=100W-90.0 100W=13.500+90.0 W=1.035 したがって、含水率15%の基準値に置き換えると、気乾比重が1.035となる。 また、塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m_(2)〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m_(1)〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm^(2)〕と密度ρ〔g/cm^(3)〕とから 摩耗深さ=(m_(1)-m_(2))/A・ρ として算出した摩耗深さ、即ち、摩耗量(mm)は0.068(mm)となる。 そして、塑性加工された後の木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が、角度θ_(1)が9度、角度θ_(2)が11度で、角度θ_(3)が16度で、全ての年輪角度が16度以下であり、45度を超えるものがない。 光学顕微鏡観察像 」 エ 8頁 「[試験結果3] 甲第12号証の「試験結果」の表の「密度」は、「試験結果3」に示すように、密度0.84(g/cm^(3))、甲第12号証の「試験結果」の表に示すように、含水率7.5(%)のとき、木材の1(cm)の立方体に0.075g)の水が存在することになり、含水率0(%)のときには、乾燥後の重量=0.84g-0.075g=0.765gとなる。 塑性加工木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を算出するには、まず含水率15%を算出する。 含水率15%は、水分が増加しても木材の体積は変化しないから、含水率は15%で、 15=100(W-0.765)/0.765 が成り立つ。 0.765×15=100W-76.5 100W=11.475+76.5 W=0.87975 したがって、含水率15%の基準値に置き換えると、気乾比重が0.87975となる。 また、塑性加工木材に加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記塑性加工木材と摩耗輪を500回転させたときの前記塑性加工木材の重量m_(2)〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m_(1)〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm^(2)〕と密度ρ〔g/cm^(3)〕とから 摩耗深さ=(m_(1)-m_(2))/A・ρ として算出した摩耗深さ、即ち、摩耗量(mm)は0.072(mm)となる。 そして、塑性加工された後の木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が、角度θ_(1)が7度、角度θ_(2)が9度で、角度θ_(3)が9度で、全ての年輪角度が9度以下であり、45度を超えるものがない。 光学顕微鏡観察像 」 (2)甲第13号証 イ号製品が積層された品名「プレスウッド」、品番「PWFFH-0 スギ 60」が掲載されたカタログである甲第13号証には、以下の事項が記載されている。 ア 47頁の中段の写真。 イ 上記アの写真の上には、「加熱・圧縮・形状固定化技術により木材の復元性を抑え、強度・形状など高付加価値を持った新素材「プレスウッド」に生まれ変わります。」と記載されている。 ウ 47頁下段の表(左側)及び写真(右側)。 エ 上記ウの左側の表(標題「プレスウッドの性能数値比較(60%圧縮時)」)において、「樹種」が「スギ圧密」の「気乾比重(g/cm^(3))」は「0.92」であることが記載され、また下欄外には、「※このデータは試験体の材質や加工条件等により数値は変わります。」と記載されている。 オ 上記ウの右側の写真の上には、 「・圧縮率について 圧縮する度合いが大きくなる程、圧縮率は高くなります。」と記載され、 また、同写真の下には、左から、 「圧縮前 厚み60mm」、「30%圧縮 厚み42mm」、「50%圧縮 厚み30mm」、70%圧縮 厚み18mm」と記載されている。 カ 48頁下段左側及び右側の写真。 キ 上記カの左側の写真の上には、 「スギ(60%圧縮単板)」と記載され、 同写真の下には、 「NEW PWFFH-0スギ60 23500円/m^(2) 15×90×900mm」と記載されている。 ク 上記カの右側の写真の上に、 「●釘打用 プレスウッド(PWFF)」と記載され、 また、同写真から、3種類の部材による積層体が看取でき、各部材には上から、 「セラミックスUV塗装」、 「圧縮硬化化粧材」、 「12mm耐水合板または12mm国産針葉樹合板」及び「四周本実加工」と記載されている。 (3)甲第14号証 JIS規格の木材の試験方法が記載されている「木材の試験方法 JIS Z2101:2009」である甲第14号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「4 含水率の測定 ・・・ 4.4 試験体の作製 4.4.1 形状 試験体の形状は,木口断面が20?30mmの正方形,繊維方向が10?30mmの直方体とする。 4.4.2 試験体の作製 含水率測定用の試験体は,本来の目的の試験に供された試験体から作製することが望ましい。それができない場合は,試験体に近接した部位から作成してもよい。」 (6頁) イ 「5 密度の測定 ・・・ 5.4 試験体の作製 5.4.1 形状 試験体の形状は,4.4.1の規定による。ただし,容積が容易に測定できる場合には,この箇条によらない形状としてもよい。」 (7頁) ウ 「25 摩耗試験 ・・・ 25.2 研磨紙法 ・・・ 25.2.2 装置 ・・・ 25.2.2.2 回転盤と摩擦輪との関係 摩耗試験装置の基本構造は,表2による。回転盤と摩耗輪との関係寸法は,図24によって,次のように,a_(1),a_(2),及びdを定める。 a_(1)=a_(2)=39.4±0.15mm d=19.0±0.2mm ・・・ 25.2.3 試験体の作製及び試験条件 試験体の作製及び試験条件は,次による。 a)試料から直径約120mmの円形又は試験に支障のない形状の試験体を作製する。試験体の数は,箇条3にかかわらず,3個以上とする。試験体の中央には回転盤に取り付けるための直径約6mmの穴をあける。」 (41?42頁) エ 44頁「図24-回転盤及び摩耗輪」は以下のとおり。 オ 「25.2.4 試験手順 研磨紙法による摩耗試験の手順は,次による。 ・・・ c)試験荷重 摩耗輪とおもりによって試験体に加えられる荷重は,5.2±0.05Nとする。 d)試験装置の駆動 ・・・回転盤の回転速度は,60±2rpmとする。 ・・・ e)試験回数 500回転とする。 ・・・ 25.2.5 結果の計算及び表示 研磨紙法による摩耗試験の結果の計算方法及び表示は,次による。 a)摩耗量は,次の式によって計算し,小数点以下3けたまで表示する。 D=m_(1)-m_(2)/Aρ ここに, D: 摩耗量(mm) m_(1): 試験前質量(mg) m_(2): 試験後質量(mg) A: 摩耗輪による摩耗を受ける部分の面積(mm^(2) ) ρ: 試験体の密度(g/cm^(3)) b)摩耗量の平均値は,小数点3けたまで表示する。」 (44?45頁) (4)乙第5号証 乙第5号証「株式会社コベルコ技研ウェブサイト技術ノート『こべるこにくす』Vol12.OCT.2003」には、以下の事項が記載されている。 「一般的には、ある材料の物理的特定や機械的性質は、特性値を測定する試験機の種類が異なっても、ほぼ同一の値を示すか、あるいは適当な換算式を使うことによって、他の試験機で得られた値とリンクさせることができるとされている。 しかし、摩耗試験の場合は例外で、同じ材料でも試験片形状・試験方法・雰囲気条件などが異なると全く異なった特性値が得られることが多い。」 (10頁「摩擦・摩耗試験方法の概論」の左欄1?8行) 2 当審によるイ号製品の特定 イ号製品に係るカタログである甲第13号証、イ号製品の成績書である甲第10号証?甲第12号証の内容を説明した「イ号製品及びその説明書」に基づき、さらに請求人が回答書(添付された報告書を含む。)で主張する試験方法を参酌して、イ号製品を本件特許発明の構成要件(A)?(D)に対応させて整理すると、イ号製品は以下のとおり分説した構成(a)?(d)を具備するものと認められる。 「(a)上から、セラミックスUV塗装、圧縮硬化化粧材、四周に本実加工が施された厚さ12mm耐水合板または厚さ12mm国産針葉樹合板が積層された、15×90×900mmの釘打用プレスウッド(PWFFH-0 スギ60)における圧縮硬化化粧材であって、 スギ単板を、加熱・圧縮・形状固定化技術により木材の復元性を抑えた、厚さ3mmの60%圧縮単板としたものであり、 (b)前記圧縮硬化化粧材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重は、1.040、1.035または0.87975であって、 (c)上記釘打用プレスウッドを90mm×100mmの長方形とし、上面(セラミックスUV塗装側)を約0.3?0.4mm切削した試験体に、加える荷重を5.2〔N〕、回転速度が約60〔rpm〕となるように前記圧縮硬化化粧材と摩耗輪を500回転させたときの前記圧縮硬化化粧材の重量m_(2)〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m_(1)〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm^(2)〕と密度ρ〔g/cm^(3)〕とから 摩耗深さ=(m_(1)-m_(2))/A・ρ として算出した圧縮硬化化粧材の摩耗深さは、0.068、0.068または0.072〔mm〕であって、 (d)塑性加工された後の前記化粧材の木口面の全ての年輪線と、前記化粧材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が、11度以下、16度以下または9度以下である圧縮硬化化粧材。」 第6 属否の判断 1 本件特許発明とイ号製品の対比・判断 (1)構成要件(A)について イ号製品の構成(a)の「圧縮」は、前記「第5の1(2)ウ及びオ」の写真(右側)及びその記載からみて、板の厚み方向の圧縮であることは明らかであるから、イ号製品の構成(a)の「スギ単板を、加熱・圧縮」することは、本件特許発明の構成要件(A)の「木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力」に相当する。 構成(a)の「加熱・圧縮・形状固定化技術により木材の復元性を抑えた」ことは、加熱・圧縮された後に形状が固定化されること、つまり塑性加工されたことといえるから、構成要件(A)の「前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され」ることに相当する。 構成(a)の「圧縮硬化化粧材」は、「スギ単板を、加熱・圧縮」して「厚さ3mm」となった「60%圧縮単板」であるから、構成要件(A)の「前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材」に相当する。 よって、イ号製品の構成(a)の「スギ単板を、加熱・圧縮・形状固定化技術により木材の復元性を抑えた、厚さ3mmの60%圧縮単板とした」「圧縮硬化化粧材」は、本件特許発明の構成要件(A)の「木材の厚み方向に対して加えた加熱圧縮力によって、前記木材が加熱圧縮されて塑性加工され、前記加熱圧縮された後の前記塑性加工木材」を充足する。 (2)構成要件(B)について ア イ号製品の構成(b)において、気乾比重の値(1.040、1.035または0.87975)は、本件特許発明の気乾比重の値の範囲である0.85以上に含まれている。 よって、イ号製品の構成(b)の「前記圧縮硬化化粧材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重は、1.040、1.035または0.87975であ」ることは、本件特許発明の構成要件(B)の「前記塑性木材を大気中で乾燥して含水率15%の時の気乾比重を0.85以上と」することを充足する。 イ 被請求人は、「甲第14号証の第6頁下から9行目には、含水率の測定に用いる「試験体の形状は、木口断面が20?30mmの正方形、繊維方向が10?30mmの直方体とする」と記載されているところ、イ号製品の圧縮硬化継承材の厚みは3mmであるから、かかる圧縮硬化化粧材から木口断面が20?30mmの正方形を含む直方体の試験体を得ることはできない。請求人が測定したと主張するイ号製品の圧縮硬化化粧材の含水率15%における気乾比重の値には疑義がある。」(上記第4の2(3)イ)と主張している。 被請求人が主張するように、請求人が測定に用いた試験体の3辺の大きさは、甲第14号証に記載の試験体の大きさと相違しており、両試験体では、含水率の測定値が異なっている恐れはある。 しかしながら、請求人の実際の測定値である1.040、1.035または0.87975は、イ号製品が掲載された甲第13号証(上記第5の2ウ)に記載される「スギ圧密」の「気乾比重(g/cm^(3))」の0.92と近似する値を示しているのであるから、仮に請求人の測定値に試験体の形状に起因する誤差が含まれているとしても、イ号製品の気乾比重は、本件特許発明の構成要件(B)の0.85以上の範囲に含まれている蓋然性が高いといえる。 よって、被請求人の主張は採用できない。 (3)構成要件(C)について ア まず、本件特許発明の構成要件(C)の摩耗深さを求めた試験体について検討する。 本件特許発明の構成要件(C)の「摩耗深さ」の試験方法について、その特許公報の段落【0013】に、 「また、耐摩耗性の指標となる摩耗深さ〔mm〕は、JIS-Z?2101-1994に準じて評価するものであり、具体的には、いわゆる摩耗試験装置を用い、木材に加える荷重を約5.2〔N〕として回転速度が約60〔rpm〕となるように木材と摩耗輪を500回転させたときの木材の重量m_(2)〔g〕を測定し、試験前の木材の重量m_(1)〔g〕と摩耗輪により摩耗を受ける部分の面積A〔mm^(2)〕と密度ρ〔g/cm^(3)〕とから 摩耗深さD=(m_(1)-m_(2))/A・ρ として計算したものである。」と記載されているとおり、「JIS-Z?2101」に準じて行われるものである。 そして、「JIS Z 2101 木材の試験方法」で用いられる試験体についてみると、甲第14号証には、「試料から直径約120mmの円形又は試験に支障のない形状の試験体を作製する。」(前記「第5の1(3)ウ」)と記載されている。 イ 続いて、イ号製品の構成(c)の摩耗深さを求めた試験体について検討する。 (ア)イ号製品の構成(c)の試験方法について、イ号製品及びその説明書に、「摩耗量:JIS Z 2101 『木材の試験方法 25』 「摩耗試験」による。」(前記「第5の1(1)ア」)と記載されている。 そして、その試験の試験体については、上記アと同様に「試料から直径約120mmの円形又は試験に支障のない形状の試験体」(以下「JIS規格の試験体」という。)が用いられるべきと考えられる。 (イ)しかしながら、実際のイ号製品における摩耗試験では、「上記釘打用プレスウッドを90mm×100mmの長方形とし、上面を約0.3?0.4mm切削した試験体」が用いられているので、摩耗試験におけるイ号製品の試験体は、JIS規格の試験体の大きさとして定義される「直径約120mmの円形」と比較すると相当小さい。しかも、回答書に添付された報告書(15、16、28及び29頁の写真及び記載事項。)によれば、圧縮硬化化粧材の裏面に、12mm耐水合板または12mm国産針葉樹合板が積層されているので、圧縮硬化化粧材単体ではない上に、該合板の4辺のうち1辺もしくは2辺の側面には該合板の本実加工の凹条が残されている。 ウ 上記ア及びイからみて、構成(c)のイ号製品の摩耗深さを求めた試験体は、イ号製品をJIS規格に準じた試験方法で定義された試験体とはその形状及び構造が異なっており、試験に支障のない形状とも認められない。さらに、イ号製品は、表面にセラミックスUV塗装が積層されており、摩耗深さの測定時にはその表面が切り捨てられているものの、該セラミックスUV塗装の影響が完全に排除できているとも認められないから、イ号製品の構成(c)の摩耗深さは、イ号製品をJIS規格に準じた試験方法により測定した場合の摩耗深さと異なっている恐れがある。 したがって、構成要件(C)の摩耗深さと構成(c)の摩耗深さとは、実質的にその摩耗深さの構成が異なるものである。 エ 以下、摩耗試験についての請求人の主張について検討する。 (ア)請求人は、「測定に問題はなかった。念のため、試験体上面の「報告書」の写真<26>?<28>の摩耗輪の軌跡を確認されたい。」(前記「第4の1(6)イ」)、「軸方向の遊び並びに廻転ブレは確認できなかった。・・・2つの摩耗輪の外側の間隔78.8±0.3mmは、試験体の摩耗深さ〔mm〕に何らの影響を与えないことが確認されている。念のため、試験体上面の「報告書」の写真<27>の摩耗輪の軌跡を確認されたい。」(前記「第4の1(6)ウ」)旨主張している。 しかしながら、甲第14号証に記載の摩耗試験装置において、一対の摩耗輪の外側間の距離が78.8±0.3mmであって、摩耗輪が試験体に接する位置が、試験体の中心から19.0±0.2mm、一対の摩耗輪を結ぶ線と直交する線上に偏芯しているため、甲第10号証ないし甲第12号証に係る摩耗試験に用いられた試験体の大きさ(90mm×100mmの長方形)からみて、摩耗輪により形成される摩耗部分が該長方形内に収まっているとしても、摩耗部分の外周は試験体の各辺に対して十分な余裕をもって形成されておらず、摩耗深さに影響を与えている恐れがある。 そして、試験体が該長方形であることに加え、上記ウで検討したように、圧縮硬化化粧材の裏面には他の合板が積層され、さらに4辺のうち1辺もしくは2辺の側面には該合板の本実加工の凹条が残されている点からも、摩耗深さに影響がないとは言い切れない。 また、構成要件(C)の摩耗深さが0.12〔mm〕以下であるのに対して、構成(c)の摩耗深さが0.068、0.068または0.072であるから、両摩耗深さは微少な数値の違いを対比して判断すべきものである。 よって、上記で検討した摩耗深さの試験方法及びその対比すべき数値からみて、単に摩耗輪による摩耗部分が該長方形内に収まっていることが確認できたり、目視による摩耗試験の確認程度で、試験体の形状による影響がなかったとは判断できない。 (イ)また、請求人は、「PWFFH-0 スギ 60」の圧縮硬化化粧材の表面にはセラミックスUV塗装が積層しているところ、該セラミックスUV塗装について、「前回(平成30年8月8日)が上面から0.3?0.4〔mm〕切削切り捨てた場合の摩耗厚み0.068(甲第10号証)、0.068(甲第11号証)、0.072(甲第12号証)であり、今回(今回の報告書(平成31年1月8日)に添付した『成績書』参照)の圧縮硬化化粧材(塑性加工木材)を上面から多く切り捨てた厚み1.87、1.9、1.9となっている場合の摩耗量0.116、0.108、0.111と比較すると、今回は前回よりもセラミックスUV塗装側を0.5〔mm〕以上大きく切り捨てているにもかかわらず、前回の値よりも今回の摩耗量が大きく(柔らかく)なり、これはセラミックの影響が殆どないことを意味する。」(前記「第4の1(5)ア」)と主張している。しかしながら、セラミックスUV塗装側をより大きく切削した今回の摩耗量が、前回の摩耗量よりも大きくなっているということから、前回の試験において、セラミックスUV塗装が十分に除去することができず、該塗装の影響があったと推認することができる。さらに前回と今回の試験結果だけでは、どの程度切削すれば、セラミックスUV塗装の影響が排除できるのかどうかも定かではない。 また、「「市販の床材」がUV塗装でコーティングされていることは当業者にとって周知の事実であり、特に、UV塗膜は含侵性が弱いことから、表面から0.1?0.3〔mm〕の厚みを除去すれば、その塗膜は十分に除去されることになる。」(前記「第4の1(5)イ」)とも主張しているが、上記の前回と今回の試験結果だけでは、セラミックスUV塗装の影響する厚みが確認できた訳ではないから、上記のとおり「塗膜が十分に除去され」たとはいえないし、また、それを証明する証拠も提出されていない。 (ウ)さらに、請求人は、「本件発明の「耐摩耗性」の「摩耗深さ」(mm)は、特許公報の段落[0013]の記載で「JIS Z 2101に準じて評価するもの」と定義している。しかし、本件発明は、直接、特定のJIS Z 2101の試験体から本件発明を表現する発明形態にはなっていない。」(前記「第4の1(4)」)旨、主張している。 しかしながら、「摩耗試験の場合は例外で、同じ材料でも試験片形状・試験方法・雰囲気条件などが異なると全く異なった特性値が得られることが多い」(前記「第5の1(4)」)ものであるところ、本件特許発明の構成要件(C)が特定する木材に加える荷重や摩耗輪の回転速度及び回転数だけでは、その摩耗深さが一義的に決定するものではない。 そして、本件特許明細書【0053】では、摩耗深さをJIS Z 2101に準じて評価することが記載されているのであるから、本件特許発明の構成要件(C)の「摩耗深さ」は、文言では試験体について特定されていないとしても、「JIS Z 2101」に準じた試験体が用いられているものと認められ、そして、充足するかどうかの対比においても、イ号製品も同様に、「JIS Z 2101」に準じた試験体が用いられる必要があるといえるところ、上記アないしウで検討したように、イ号製品の摩耗深さを求めた試験体は、JIS規格の試験体と、形状及び構造が異なっており、試験に支障のない形状とも認められないから、「JIS Z 2101」に準じた試験体であるとはいえない。 (エ)したがって、摩耗試験についての請求人の主張は採用できない。 オ 以上のことからみて、構成(c)の摩耗深さと構成要件(C)の摩耗深さとは、実質的にその摩耗深さの構成が異なっているから、その測定値及び数値のままで比較することはできず、よって、イ号製品の構成(c)は、本件特許発明の構成(C)を充足しない。 (4)構成要件(D)について イ号製品の構成(d)の「11度以下、16度以下または9度以下」は、本件特許発明の構成要件(D)の「45度以下の範囲内」に含まれるから、イ号製品の構成(d)の「塑性加工された後の前記化粧材の木口面の全ての年輪線と、前記化粧材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が、11度以下、16度以下または9度以下である圧縮硬化化粧材」は、本件特許発明の構成要件(D)の「前記塑性加工された後の前記木材の木口面の全ての年輪線と、前記木材の裏側板目面または樹心側柾目面の面とがなす鋭角側の交差角度が45度以下の範囲内にあることを特徴とする塑性加工木材」を充足する。 (5)小括 したがって、イ号製品は、本件特許発明の構成要件(A)、(B)及び(D)を充足するものの、構成要件(C)は充足しない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、イ号製品は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2019-03-29 |
出願番号 | 特願2011-191396(P2011-191396) |
審決分類 |
P
1
2・
-
ZB
(B27K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂田 誠 |
特許庁審判長 |
小野 忠悦 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 富士 春奈 |
登録日 | 2012-11-22 |
登録番号 | 特許第5138080号(P5138080) |
発明の名称 | 塑性加工木材 |
代理人 | 山口 修 |
代理人 | 特許業務法人 Vesta国際特許事務所 |
代理人 | 江藤 聡明 |