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審判番号(事件番号) データベース 権利
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判定2018600018 審決 特許
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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) H01R
管理番号 1351475
判定請求番号 判定2019-600001  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 判定 
判定請求日 2019-01-11 
確定日 2019-05-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第6333060号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその外観図・規格表に示す「小型壁面テレビ端子SU7F2S」は、特許第6333060号発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びSU7F2S外観図・規格表(甲第2号証)に示す小型壁面テレビ端子SU7F2S(以下、「イ号物件」という。)は、特許第6333060号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
本件特許第6333060号は、平成26年5月19日の出願に係り、平成30年5月11に設定登録されたものであって、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明5」といい、総称して「本件特許発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、構成要件ごとに分説すると次のとおりである(以下、それぞれの構成要件を「構成要件A1」等という。)。

【請求項1】
A1 直方体状とされ、少なくとも前面から突出する端子を有するケースと、
A2 該ケース内に収納された切替スイッチと、
A3 前記切替スイッチが臨む窓部が、前記ケースの前面に隣接する外面に形成され、前記窓部から前記ケースの前面にわたり配置されて、前記切替スイッチを前記ケースの前面から操作可能なスイッチノブとを備え、
A4 前記スイッチノブの操作方向に沿って、前記ケースの前面に溝が形成されており、
A5 前記ケースの前面から前記スイッチノブを操作した際に、前記スイッチノブが前記溝内を規制されながら摺動していくことを特徴とする
A6 直列ユニット。

【請求項2】
B1 直方体状とされ、上面あるいは下面から突出する第1端子を有するケースと、
B2 該ケース内に収納された回路基板と、
B3 該回路基板に設けられた切替スイッチと、
B4 前記ケースの前面に隣接する外面に形成され、前記切替スイッチの摘みが臨む窓部と、
B5 出力用の第2端子が突出するよう設けられている前記ケースの前面から前部を操作でき、後部が前記切替スイッチの摘みに係合するよう設けられたスイッチノブとを備え、
B6 前記スイッチノブの操作方向に沿って、前記ケースの前面にレール溝が形成されており、
B7 前記スイッチノブの前部から突出する摺動部が前記レール溝に挿入されて、
B8 前記ケースの前面から前記スイッチノブの前部を操作した際に、前記摺動部が前記レール溝内を規制されながら摺動していくことを特徴とする
B9 直列ユニット。

【請求項3】
C1 前記スイッチノブは平面状の上板部と、該上板部の前部から起立する前側板部とからなり、前記上板部の一面には前記切替スイッチの摘みを挟持する一対の係止部が形成され、前記前側板部の前面から前記上板部にかけて突出する操作凸部が形成されており、
C2 前記操作凸部に操作力が印加されることにより、前記スイッチノブが移動するよう操作されることに伴い、前記係止部で挟持された前記切替スイッチの摘みが移動して前記切替スイッチが切替操作されることを特徴とする
C3 請求項2に記載の直列ユニット。

【請求項4】
D1 前記スイッチノブの前記前側板部の端から前記摺動部が延伸して形成されており、前記ケースの前面の角部に形成された前記レール溝に前記摺動部が嵌挿されていることを特徴とする
D2 請求項3に記載の直列ユニット。

【請求項5】
E1 前記窓部は、ほぼ矩形状に形成され、
E2 前記窓部に臨む前記切替スイッチの摘みを前記一対の係止部で挟持した際に、前記窓部の内側面に外側面が対面する一対の抱持部が前記上板部の一面に形成されており、
E3 前記ケースの前面から前記スイッチノブの前部を操作した際に、前記抱持部が前記窓部の内側面により規制されながら摺動していくことを特徴とする
E4 請求項3または4に記載の直列ユニット。

第3 イ号物件
1 イ号物件に関する資料
請求人は、イ号物件を説明する資料として、判定請求書に、イ号図面(写真)及びイ号物件であるSU7F2Sの外観図・規格表(甲第2号証)を添付し、また、イ号物件そのものを検甲第7号証として提出している。
なお、イ号説明書は添付されていないが、判定請求書において、イ号説明書に相当するところの記載がある。

2 イ号図面及び検甲第7号証
請求人がイ号図面において付した符号、及び判定請求書における符号の説明(「6.請求の理由」の「6-4 イ号の説明」を参照。)を用いると、イ号図面からは、次の事項が看取できる。(検甲第7号証を確認的な意味で参照することがある。)

(1)イ号物件は壁面TV端子100であり、略直方体状の金属製の本体110をケースとして備える。本体110のうち「片」、「双」の文字が刻印されている正面を前側の面とし(第6図)、文字の向きに合わせて、他の面をそれぞれ上側の面(第1図)、下側の面(第2図)、側面(第3図)とすると、前側の面からはTV出力端子112bが突出し、側面からは入力端子112aが突出している。入力端子112aは、本体110対して上下方向に約180°回動可能に設けられている。
なお、入力端子112a及びTV出力端子112bに関し、第9図及び第10図に付された符号「112a」及び「112b」は、本来とは逆になっているものと認められる。

(2)本体110の下側の面には、切換スイッチ操作ノブ115を取り付けるための、ほぼ矩形状に形成された矩形窓111cが形成されている。切換スイッチ操作ノブ115を取り外して矩形窓111cから本体110内を観察すると、本体110内には、板状の部材と、当該板状の部材に設けられた切換スイッチ摘まみ117が収納されていることを確認できる(第8、11図)。言い換えると、切換スイッチ摘まみ117(や板状の部材)は、矩形窓111cに臨んでいるといえる。また、TV端子(直列ユニット)の技術分野における技術常識を踏まえれば、本体110内の板状の部材は回路基板であると認められる。

(3)本体110の前側の面の下部から下側の面にかけての角部が切り欠かれており、当該箇所(切欠部)に横方向の溝111bが形成されている(第8図)。詳述すると、当該切欠部には、少なくとも以下の面が含まれている。
ア.本体110の前側の面(「片」、「双」の文字が刻印されている正面)の下部から、本体110の下側の面に平行に、溝111bに向けて切り欠かれた面(第8図、第11図において、符号「111a」の引出線下端が接している面)。
イ.溝111bを構成する3つの面((ア)溝111bの底面、(イ)当該底面に垂直で、上記アの面と接続する面、(ウ)当該底面に垂直で、(イ)の面と反対側の面)
また、上記イ(ウ)の面の一部は、本体110の前側の面からみたときに、視認可能となっている(第9図において、符号「111a」の引出線下端の奥側に、かかる溝111bを構成する面の一部が見えている。また、検甲第7号証より検証。)。

(4)切換スイッチ操作ノブ115は、矩形窓111cから本体110の前側の面にわたって配置される形状であり(第2、4、5図)、矩形窓111cに取り付けると、その後部に位置する挟持片115eが切換スイッチ摘まみ117に係合する構造となっている(第11?15図)。また、切換スイッチ操作ノブ115の前部から突出するL字状板片115bの先端部分が溝111b内に挿入される(第2、4、5図)。そして、切換スイッチ操作ノブ115の前部(操作突片115c)を、本体110の前側の面から横方向に操作することにより、当該切換スイッチ操作ノブ115が溝111bに沿って横方向に摺動することとなり、切換スイッチ摘まみ117を本体110の前側の面から操作することができる(第4、5図。また、検甲第7号証より検証。なお、甲第2号証にも、「切換スイッチは正面方向からでも操作可能」と記載されている。)。

(5)切換スイッチ操作ノブ115は平面状のT字状平板115aと、T字状平板115aの前部から起立するL字状板片115bを有し、T字状平板115aの一面には切換スイッチ摘まみ117を挟持する一対の挟持片115eが形成されている。また、L字状板片115bの前面からT字状平板115aにかけて突出する操作突片115cが形成されており、操作突片115cに操作力が印加されることにより、切換スイッチ操作ノブ115が移動するよう操作され、挟持片115eで挟持された切換スイッチ摘まみ117が移動して切換操作される(第12?15図)。

(6)T字状平板115aには一対の平行板片115dが所定間隔で形成されており、平行板片115dの外側の間隔は、矩形窓111cの横長の両側縁間の間隔と同程度の間隔とされている(第8、13、14図)。そして、矩形窓111cに切換スイッチ操作ノブ115を取り付けると、当該一対の平行板片115dの先端に形成された爪が矩形窓111cの横長の両側縁に係合するとともに、一対の挟持片115eが切換スイッチ摘まみ117を挟持する。切換スイッチ操作ノブ115が操作方向(横方向)に沿って移動する際には、平行板片115dは矩形窓111cの横長の側縁に沿って移動する。

3 被請求人によるイ号物件の特定
被請求人は、平成31年3月5日付けの判定請求答弁書において、イ号物件を次のように特定している(第9ページ参照。下線は、被請求人が付したものである。)。
「a. 壁面埋込型のテレビ端子(壁面TV端子)であり、金属製のケースは略直方体状である。ケースの前面に突出する出力端子(TV端子)を備え、ケースの側面に回転可能に形成された入力端子を備える。
b. ケースの下面側にスイッチノブを備え、ケースの下面には窓部が形成される。また、ケース内には切替スイッチを備える。
c. 窓部は下面(ケースの前面に隣接する外面)に配置されており、切替スイッチはケースの窓部から臨めるように配置されている。また、スイッチノブにより、切替スイッチをケースの前面から操作可能としている。
d. スイッチノブは、後部が切替スイッチの摘みに係合し、かつ前部がケースの前面から操作可能に設けられる。
e. ケースの下面(下の面)に溝(レール溝)が形成されている。レール溝は、スイッチノブの操作方向に沿っている。
f. スイッチノブの前部から突出する摺動部がレール溝内に配置し、ケースの前面側からスイッチノブを操作すると、スイッチノブの摺動部がレール溝に沿って摺動する。
g. ケース内には回路基板が収納され、回路基板には切替スイッチが設けられる。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、判定請求書において、イ号物件が本件特許発明1?5の技術的範囲に属することについて、概略、以下のとおり主張している。

(1)本件特許発明1について
イ号物件は、本件特許発明1の構成要件A1?A3、A5、A6を充足する。
本件特許発明1の構成要件A4に関し、「ケースの前面に溝が形成され」は「ケースのまえの方に溝が形成され」と解釈することができることから、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件A4を充足する。

(2)本件特許発明2について
イ号物件は、本件特許発明2の構成要件B2?B9を充足する(B6については、上記(1)の構成要件A4と同旨。)。
イ号物件は本件特許発明2の構成要件B1を充足しないが、均等論の適用により、イ号物件は構成要件B1と均等な構成を備えているといえる。

(3)本件特許発明3?5について
イ号物件は、本件特許発明3?5の構成要件C1?C3、D1?D2、及びE1?E4をそれぞれ充足する。

2 被請求人の主張
被請求人は、判定請求答弁書において、イ号物件の溝(溝111b)はケース(本体110)の下面に形成されているとした上で(上記第3の3参照。)、イ号物件が本件特許発明1?5の技術的範囲に属しないことについて、概略、以下のとおり主張している。

(1)本件特許発明1について
本件特許発明1の構成要件A4に関し、「ケースの前面」とは、端子が突出するケースの前面(前の面)を意味し、ケースの上面や下面、側面の一定部分が含まれると解釈する余地はない。そして、イ号物件の溝はケースの下面に形成されているから、本件特許発明1の構成要件A4を充足しない。(争点1-1)
本件特許発明1の構成要件A5の「溝内を規制されながら摺動していく」との記載は、抽象的かつ機能的な記載であって、具体的にどのような構成要件を特定しているのか不明確であるため、イ号物件が構成要件A5を備えているとはいえない。(争点1-2)

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2の構成要件B1に関し、均等論の第5要件を満たさないことから、イ号物件が構成要件B1と均等な構成を有しているとはいえない。(争点2-1)
イ号物件の溝はケースの下面に形成されているから、本件特許発明2の構成要件B6を充足しない。(争点2-2)
本件特許発明2の構成要件B8の「溝内を規制されながら摺動していく」との記載は、抽象的かつ機能的な記載であって、具体的にどのような構成要件を特定しているのか不明確であるため、イ号物件が構成要件B8を備えているとはいえない。(争点2-3)

(3)本件特許発明3?5について
本件特許発明3?5は、本件特許発明2に従属するものであり、イ号物件が本件特許発明2の技術的範囲に属さない以上、その余も技術的範囲に属さない。

第5 当審の判断
1 当審によるイ号物件の特定
上記第3の2、3の内容を踏まえて、当審は、イ号物件を次のように特定した(以下、それぞれの構成を、「構成a」?「構成h」という。)。

「a 金属製のケースである略直方体状の本体110を備え、本体110の前側の面からはTV出力端子112bが突出し、側面からは入力端子112aが突出し、入力端子112aは、本体110対して上下方向に約180°回動可能であり、
b 本体110内には、回路基板と、該回路基板に設けられた切換スイッチ摘まみ117が収納され、
c 切換スイッチ摘まみ117が臨む、ほぼ矩形状に形成された矩形窓111cが、本体110の下側の面に形成されており、当該矩形窓111cから、本体110の前側の面にわたり配置されて、後部が切換スイッチ摘まみ117に係合するよう設けられた切換スイッチ操作ノブ115を備えており、当該切換スイッチ操作ノブ115は、本体110の前側の面から前部を操作できるよう構成され、
d 本体110の前側の面の下部から下側の面にかけて形成された切欠部に、切換スイッチ操作ノブ115の操作方向である横方向に沿った溝111bが形成され、当該切欠部は、本体110の前側の面の下部から、本体110の下側の面に平行に溝111bに向けて切り欠かれた面と、溝111bを構成する3つの面とを含み、溝111bを構成する面の一部は本体110の前側の面からみて視認可能であり、
e 切換スイッチ操作ノブ115は、平面状のT字状平板115aと、T字状平板115aの前部から起立するL字状板片115bとからなり、T字状平板115aの一面には切換スイッチ摘まみ117を挟持する一対の挟持片115eが形成され、L字状板片115bの前面からT字状平板115aにかけて突出する操作突片115cが形成されており、
f T字状平板115aには一対の平行板片115dが所定間隔で形成され、矩形窓111cに切換スイッチ操作ノブ115を取り付けると、当該一対の平行板片115dが矩形窓111cの横長の両側縁に係合するとともに、一対の挟持片115eが矩形窓111cに臨む切換スイッチ摘まみ117を挟持し、
g 切換スイッチ操作ノブ115のL字状板片115bの先端部分が、溝111bに挿入され、本体110の前側の面から切換スイッチ操作ノブ115の前部にある操作突片115cを操作した際、切換スイッチ操作ノブ115が溝111bに沿って横方向に摺動するとともに、平行板片115dは矩形窓111cの横長の側縁に沿って移動し、挟持片115eで挟持された切換スイッチ摘まみ117が移動して切換スイッチ摘まみ117が切換操作される、
h 壁面TV端子100。」

2 本件特許発明1について
(1)構成要件A1?A3及びA6の充足性
本件特許発明1とイ号物件を対比すると、イ号物件の「本体110」は、本件特許発明1の「ケース」に相当し、以下同様に、「TV出力端子112b」は「少なくとも前面から突出する端子」に、「切換スイッチ摘まみ117」は「切替スイッチ」に、「矩形窓111c」は「窓部」に、「本体110の下側の面」は「ケースの前面に隣接する外面」に、「切換スイッチ操作ノブ115」は「スイッチノブ」に、「壁面TV端子100」は「直列ユニット」にそれぞれ相当する。
また、「本体110の前側の面」は「ケース」の「前面」に含まれる面であるといえる(「前面」の解釈については次の(2)に詳述する。)。
してみると、イ号物件の構成a?c及びhは、本件特許発明1の構成要件A1?A3及びA6を充足する。

(2)構成要件A4の充足性(争点1-1)について
本件特許発明1とイ号物件を対比すると、構成要件A4の充足性について争いがある。そこで、イ号物件の構成dが本件特許発明1の構成要件A4を充足するか否かについて以下検討する。
ア.本件特許の請求項1には、「溝」が形成される「ケースの前面」が具体的にどのような面を意味するのか(どのような面が「ケースの前面」に含まれるのか)、またどのような向きに「溝」が開口されるのかについての明示的な記載はない。当該「ケースの前面」との記載は、平成30年1月15日の手続補正によって追加されたものであり、同日付けの意見書では、明細書の段落【0012】の記載や、図6(b)、図9の記載等を補正の根拠として記載している。
そこで、本件特許の明細書及び図面の記載を参酌するに、明細書の段落【0012】には、「ケース本体11の前面の下端から下面にかけてレール部11aが形成されている。レール部11aは窓部11cに対応する位置に、前面の下端から下面にかけての角部を断面矩形状に切り欠くことにより形成されており、レール部11aの奥には横に細長いレール溝11bが形成されている。」と記載されている。また、図4?9からは、レール部11aが、ケース本体11のTV端子12bが突出している面の下端に形成されていること、及び、当該レール部11aにレール溝11bが形成され、レール溝11bはケース本体11の下面に向けて開口していることが、それぞれ看取できる。
そして、本件特許の明細書及び図面には、レール溝11bをケース本体11の下面に向けて開口させた、上記実施例のみが記載されており、ケースの前面(TV端子12bが突出している面)に溝が開口するように形成された実施例は記載されていない。加えて、本件特許の請求項1には、「ケースの前面に溝が形成され」とは記載されているものの、「ケースの前面に溝が開口するように形成され」とは記載されていない。

イ.次に、「ケースの前面に溝が形成され」ることの技術的意義について検討するに、本件特許発明は、従来技術には、「操作力をスイッチノブの前側に印加した際に、スイッチノブの前側の移動に引きずられるように後側が移動していくようになる。すると、スイッチノブは斜めになった状態で移動することから、スイッチノブの移動に伴い摩擦が発生してスイッチノブをスムースに操作できないという問題点があった。」(段落【0005】)ことに着目し、「スイッチの摘みを操作するスイッチノブを設けても、スイッチノブをスムースに操作できる直列ユニットを提供すること」(段落【0006】)を課題としている。そして、本件特許発明1では、「前記スイッチノブの操作方向に沿って、前記ケースの前面に溝が形成されており、前記ケースの前面から前記スイッチノブを操作した際に、前記スイッチノブが前記溝内を規制されながら摺動していく」という構成(構成要件A4及びA5)を採用することで、「スイッチノブは斜めになりにくく、スイッチノブをスムースに操作することができるようになる」(段落【0008】)という効果を奏する。
ここで、段落【0018】?【0019】の記載事項、並びに、図7?8及び図16?17の図示内容によれば、上記の「斜めになりにくく」とは、スイッチノブ15の操作時に、その前部がケース10の前面に対して斜め(図17の状態。スイッチノブ15はケース前後方向(図8中の左右方向)へ傾いている。)になることを防止することと解され、スイッチノブ15の前部に設けられた摺動部15fがレール溝11bに嵌挿されることで、そのような斜め方向の動きが規制されることとなる(図8の状態。摺動部15fは、レール溝11bによってケース前後方向への傾きが規制される。)。
このような、本件特許発明1における「溝」が課題解決との関係で有する技術的意義に鑑みれば、当該溝はケース前部にてスイッチノブの操作方向に沿って形成されていれば良く、ケースの前面に開口する必要はないのであって、本件特許の明細書及び図面に記載された実施例のように、ケース下面に開口する形態で設けることとして、何ら矛盾はない。

ウ.上記ア、イを踏まえると、構成要件A4の「ケースの前面に溝が形成され」とは、ケースの前面に溝が開口するように形成されることを規定したものではなく、溝が物理的にケースの前面に位置して形成されることを規定したものと解釈すべきである。
そして、本件特許の明細書及び図面の記載によれば、本件特許発明1の「ケースの前面」には、ケース本体11の前面の下端が切り欠かれて形成されたレール部11aの、さらに奥に形成されたレール溝11bの位置が含まれるのであるから、図9(b)、(c)の図示内容にも鑑みれば、ケース本体11を正面(前方)からみたときに視認できる面(すなわち、図9(b)において図示されている全ての面)は、「ケースの前面」に含まれると解釈するのが合理的である。
また、そのように解釈しても、本件特許発明の課題を解決できることは、上記イの検討から明らかである。

エ.以上を踏まえてイ号物件についてみてみると、構成dとして特定したとおり、イ号物件の溝111bを構成する面の一部は本体110の前側の面からみて視認可能になっている。実際、検甲第7号証を前側の面(TV出力端子112bが突出している面)から目視すると、その下部に切欠部が形成されていること、そして、切欠部の奥に溝111bの少なくとも一部が位置していることを確認することができる(上記第3の2(3)参照。)。
よって、イ号物件の構成dにおける溝111bは、本体110の前面に形成された溝というべきであり、本件特許発明1の「溝」に相当するといえる。
したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明1の構成要件A4を充足する。

なお、被請求人は、判定請求答弁書において、(出力)端子が突出する面のみが「ケースの前面」を意味し、当該面に溝が開口している形態のもののみが、構成要件A4の「ケースの前面に溝が形成され」を充足する形態のものであるとの認識の下、イ号物件の溝は、本件特許発明1の構成要件A4を充足しない旨の主張をしている。しかしながら、「ケースの前面」及び「ケースの前面に溝が形成され」の解釈は上記のとおりであるから、被請求人の主張は採用できない。

(3)構成要件A5の充足性(争点1-2)について
次に、イ号物件が本件特許発明1の構成要件A5を充足するか否かについて検討する。
構成要件A5の「溝内を規制されながら摺動していく」ことの技術的意義は、上記(2)イにおいて説示したとおり、スイッチノブを操作方向に操作した際に、スイッチノブがケースの前面に対して「斜めになりにくく」(段落【0008】)なること、すなわち、スイッチノブ(の前部に設けられた摺動部)が、溝によってケース前後方向への傾きが規制された状態(図8)で摺動することであると解される。
そこで、イ号物件についてみてみると、構成gとして特定したとおり、イ号物件は、切換スイッチ操作ノブ115のL字状板片115bの先端部分が、溝111bに挿入され、本体110の前側の面から切換スイッチ操作ノブ115の前部にある操作突片115cを操作した際、切換スイッチ操作ノブ115が溝111bに沿って横方向に摺動するものである。このとき、L字状板片115bの先端部分は、溝111bによって、本体110の前後方向への動きが規制されているから、当該切換スイッチ操作ノブ115は溝111b内を規制されながら摺動するものであるといえる(なお、確認的に、検甲第7号証の切換スイッチ操作ノブ115を実際に操作すると、本体110の前後方向への傾きが規制された状態で切換スイッチ操作ノブ115が摺動することが認められる。)。
したがって、イ号物件の構成gは、構成要件A5を充足する。

なお、被請求人は、判定請求答弁書において、「当該構成は、『摺動部15fが斜めにならないよう規制されながらレール溝11b内を摺動部15fが摺動』しなければならないことから、実際には、レール溝11bの大きさ(特に短辺方向の幅)と摺動部15fの形状および大きさ(短辺方向の幅と長辺方向の長さ)との関係が、特定の範囲になければ当該構成の機能が発揮されないと思われるが、明細書にもその記載がない。」(第8ページ)、「A5の記載『溝内を規制されながら摺動していく』は、抽象的かつ機能的な記載であって、本件特許請求の範囲および明細書の記載を考慮しても、具体的にどのような構成要件を特定しているのかが明確ではない。」(第21ページ)と主張している。
しかしながら、構成要件A5の「溝内を規制されながら摺動していく」ことの技術的意義は上記解釈のとおりであり、不明確とはいえないので、被請求人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件A1?A6を全て充足するから、本件特許発明1の技術的範囲に属する。

3 本件特許発明2について
(1)構成要件B2?B5、B7及びB9の充足性
本件特許発明2とイ号物件を対比すると、イ号物件の「本体110」は、本件特許発明2の「ケース」に相当し、以下同様に、「切換スイッチ摘まみ117」は「切替スイッチ」に、「矩形窓111c」は「窓部」に、「本体110の下側の面」は「ケースの前面に隣接する外面」に、「TV出力端子112b」は「出力用の第2端子」に、「切換スイッチ操作ノブ115」は「スイッチノブ」に、「溝111b」は「レール溝」に、「切換スイッチ操作ノブ115のL字状板片115bの先端部分」は「スイッチノブの前部から突出する摺動部」に、「壁面TV端子100」は「直列ユニット」にそれぞれ相当する。
また、「本体110の前側の面」は「ケース」の「前面」に含まれる面であるといえる(「前面」の解釈については上記2(2)参照。)。
してみると、イ号物件の構成a?c及びg?eは、本件特許発明2の構成要件B2?B5、B7及びB9を充足する。

(2)構成要件B1の充足性(争点2-1)について
イ号物件の構成aの「入力端子112a」は、「本体110」の「側面」から突出するものであるから、文言上、イ号物件は、本件特許発明2の構成要件B1における、「ケース」の「上面あるいは下面から突出する第1端子」に係る構成を充足しない。
この点について、請求人は、イ号物件は構成要件B1と均等な構成を備えていると主張しているので、本件特許発明2とイ号物件とが構成上異なる部分につき、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決(最高裁平成6年(オ)第1083号))や知財高裁大合議判決(知財高裁平成28年3月25日判決(知財高裁平成27年(ネ)第10014号))が判示する次の5つの要件にしたがって、均等論適用の可否について検討する。
(第一要件)特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない(発明の本質的な部分)。
(第二要件)前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する(置換可能性)。
(第三要件)前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが、イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである(置換容易性)。
(第四要件)イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない(自由技術の除外)。
(第五要件)イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない(禁反言:出願等の経緯の参酌)。

ア 第一要件について
本件特許発明が解決しようとする、従来技術が有していた課題は、「スイッチの摘みを操作するスイッチノブを設けても、スイッチノブをスムースに操作できる直列ユニットを提供すること」(段落【0006】)であり、当該課題を解決するために、本件特許発明2では、「スイッチノブの操作方向に沿って、前記ケースの前面にレール溝が形成されており、前記スイッチノブの前部から突出する摺動部が前記レール溝に挿入されて、前記ケースの前面から前記スイッチノブの前部を操作した際に、前記摺動部が前記レール溝内を規制されながら摺動していく」という構成(構成要件B6?B8)を採用している。この構成により、スイッチノブを横方向に摺動させた際に、「スイッチノブは斜めになりにくく、スイッチノブをスムースに操作することができるようになる」(段落【0008】)という作用効果を奏する。
そうすると、当該構成が、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であって、本件特許発明2の本質的部分ということができる。そして、イ号物件は、本件特許発明2の当該構成(構成要件B6?B8)を備えている(上記(1)並びに後述の(3)及び(4)を参照。)。
他方、本件特許発明2の構成要件B1とイ号物件とが異なる部分、すなわち「第1端子」の配置箇所について、本件特許の明細書には、「第1端子」(入力端子12a)がケースの下面に設けられる旨の記載はあるものの(段落【0010】、【0011】)、その技術的意義、特にスイッチノブの動作に関する上記構成との関係については特段記載されていない。また、当該技術分野における技術常識に鑑みても、入力端子12aの設置箇所がスイッチノブの操作に影響を及ぼすとはいえない。
してみると、構成要件B1における、「ケース」の「上面あるいは下面から突出する第1端子」に係る構成は、本件特許発明2特有の課題解決手段を基礎づける特徴的部分ではなく、本件特許発明2特有の作用効果を生じさせるための部分でもなく、他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明2の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分であるともいえない。
したがって、本件特許発明2の構成要件B1と、イ号物件との異なる部分は、本件特許発明2の本質的な部分ではない。

イ 第二要件について
上記アで説示したとおり、本件特許発明2における「第1端子」(入力端子12a)の設置箇所には、本件特許発明2の目的や作用効果との関係で特段の技術的意義を見出すことはできない。
そして、本件特許発明2における「第1端子」を、ケースの上面あるいは下面から突出させる構成に換えて、イ号物件のようにケースの側面から突出させる構成に置き換えた場合であっても、上記の作用効果を生じさせることができることは、上記2(2)、(3)の検討からも明らかである。
したがって、本件特許発明2の「第1端子」に係る構成をイ号のものと置き換えても、本件特許発明2の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するといえる。

ウ 第三要件について
本件特許発明の属する直列ユニットの技術分野において、受信信号を入力するための入力端子をケースの側面に設けることは、少なくとも本件特許の出願時点において、従来周知の技術であった(例えば、判定請求書の第16ページにおいて例示された特開2011-150891号公報の図1等を参照。)。
してみると、本件特許発明2における「第1端子」を、ケースの上面あるいは下面から突出させる構成に換えて、イ号物件のようにケースの側面から突出させる構成に置き換えることは、イ号物件の製造等の時点において、当業者が容易に想到することができたものであるといえる。

エ 第四要件について
本件特許発明の参考文献である甲第3号証?甲第6号証(特開2005-129308号公報、特開平11-45628号公報、実願昭52-49144号(実開昭53-144085号)のマイクロフィルム、特開平8-115636号公報)には、特にイ号物件の「本体110の前側の面の下部から下側の面にかけて形成された切欠部に、切換スイッチ操作ノブ115の操作方向である横方向に沿った溝111bが形成され」に係る構成は何ら記載されていない。
したがって、イ号物件は、これらの公知技術と同一でなく、当業者がこれらの公知技術から本件特許出願時に容易に推考できたものでもない。

オ 第五要件について
本件特許明細書及び図面を参酌するに、本件特許発明の実施例として、「入力端子12a」を「ケース10」の下面に設ける実施例は記載されているものの、「入力端子12a」を「ケース10」の側面から突出させる構成を積極的に本件特許発明1?5から除外する旨の記載や示唆を見出すことはできない。
また、本件特許の特許出願手続において、イ号物件が特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情を見出すこともできない。

なお、被請求人は、判定請求答弁書において、次のとおり主張している。
(ア)「請求人は、出願時に『ケースの上面あるいは下面から突出する第1端子』という構成が、本件特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分ではないことを認識していたことが、客観的、外形的にみて認められる。そして、請求人は、そのような構成であることを認識していたにもかかわらず、あえて特許請求の範囲に記載したのであるから、当該構成は第5要件における『特段の事情』に当たる。」(第22ページ)
(イ)「出願経過を参酌すると、請求人は、『ケースの上面あるいは下面から突出する第1端子』という構成を請求項1に記載していないことから、当該構成が、本件特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分ではないことを認識していたことが、客観的、外形的にみて認められる。にもかかわらず、請求人は、手続補正によって、独立した請求項2に当該構成をあえて追加したのであるから、当該構成は第5要件における『特段の事情』に当たる。なお、たとえ自発的に行った補正であったとしても、外形的に特許請求の範囲を限定した以上、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、やはり禁反言の法理に照らして許されないものである(東京地裁平成22年4月23日判決)。」(第23ページ)
上記(ア)について検討するに、本件特許の出願時の願書に最初に添付された明細書または図面を精査しても、出願人が、本件特許の出願時に、ケース10の側面から入力端子12a(第1端子)を突出させる構成を認識しながら(例えば明細書中にそのような構成を記載または示唆する等)、あえて特許請求の範囲に記載しなかったとする客観的、外形的な証拠は認められず、上記の知財高裁大合議判決に照らしても、第五要件にいう意識的除外等を肯定すべき特段の事情が存するとはいえないから、被請求人の主張は採用できない。
また、上記(イ)について検討するに、本件特許の請求項2は、出願当初の請求項1に基いて補正された請求項であるところ、「ケースの上面あるいは下面から突出する第1端子」に係る構成は、出願当初の請求項1において当初から記載されていた事項であり、特許出願手続において、手続補正によって追加された事項ではないから、被請求人の主張は採用できない。

以上検討したとおり、上記最高裁判決や知財高裁大合議判決が判示する均等論が適用できるための5つの要件を全て満たしているから、イ号物件は、本件特許発明2の構成要件B1を充足するということができる。

(3)構成要件B6の充足性(争点2-2)について
当該争点は、上記争点1-1と実質的に同一であるから、上記2(2)で説示したと同様の理由により、イ号物件の構成dは、本件特許発明2の構成要件B6を充足する。

(4)構成要件B8の充足性(争点2-3)について
当該争点は、上記争点1-2と実質的に同一であるから、上記2(3)で説示したと同様の理由により、イ号物件の構成gは、本件特許発明2の構成要件B8を充足する。

(5)小括
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明2の構成要件B2?B9を全て充足し、構成要件B1と均等な構成を有するから、本件特許発明2の技術的範囲に属する。

4 本件特許発明3?5について
本件特許発明3?5とイ号物件を対比すると、イ号物件の「平面状のT字状平板115a」は、本件特許発明3?5の「平面状の上板部」に相当し、以下同様に、「L字状板片115b」は「前側板部」に、「挟持片115e」は「係止部」に、「操作突片115c」は「操作凸部」に、「平行板片115d」は「抱持部」にそれぞれ相当する。
してみると、イ号物件の構成c及びe?gは、本件特許発明3?5の構成要件C1?C3、D1?D2、及びE1?E4を充足する。

第6 むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2019-04-26 
出願番号 特願2014-103519(P2014-103519)
審決分類 P 1 2・ 1- YA (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 楠永 吉孝  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 藤田 和英
大町 真義
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6333060号(P6333060)
発明の名称 端子台  
代理人 西脇 博志  
代理人 特許業務法人 クレイア特許事務所  
代理人 浅見 保男  

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