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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1351954
審判番号 不服2017-11169  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-27 
確定日 2019-05-22 
事件の表示 特願2015-519264「フェライト系ステンレス鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 3日国際公開、WO2014/001644、平成27年 9月10日国内公表、特表2015-526593〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年) 6月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年 6月26日 フィンランド(FI))を国際出願日とする出願であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成26年12月26日 :特許協力条約第34条補正の翻訳文の提出
平成27年 8月12日 :手続補正書の提出
平成28年 7月 4日付け:拒絶理由通知
同年10月12日 :意見書及び手続補正書の提出
平成29年 3月22日付け:拒絶査定
同年 7月27日 :審判請求書及び手続補正書の提出
同年 9月 7日 :手続補正書(方式)の提出
平成30年 4月 6日付け:拒絶理由通知
同年10月10日 :意見書及び手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」ということがある。)は、平成30年10月10日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼において、該鋼は、重量%で0.03%未満の炭素、0.05?2%のケイ素、0.5?2%のマンガン、17?20%のクロム、0.5?2%のモリブデン(Mo)、0.2%未満のチタン、0.3?1%のニオブ、1?2%の銅、0.03%未満の窒素および0.001?0.005%のホウ素、0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素、さらに任意で0.2%未満のアルミニウム、0.5%未満のバナジウム、0.5%未満のジルコニウム、2.5%以下のタングステン(W)、1%未満のコバルト、1%未満のニッケル、0.003%以下のカルシウムおよび0.01%未満の希土類金属、ならびに化学組成の残部である鉄およびステンレス鋼に生じる不可避の不純物からなり、(Mo+W)の合計量は3重量%以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼において、該フェライト系ステンレス鋼は0.025重量%未満の炭素を含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼において、該ステンレス鋼は0.02重量%未満の炭素を含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼において、該フェライト系ステンレス鋼は18?19重量%のクロムを含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼において、該フェライト系ステンレス鋼は1.2?1.8重量%の銅を含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼において、該フェライト系ステンレス鋼は0.025重量%未満の窒素を含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項7】
請求項6に記載のフェライト系ステンレス鋼において、該ステンレス鋼は0.02重量%未満の窒素を含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼において、該フェライト系ステンレス鋼は0.7?1.8重量%のモリブデンを含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼において、該フェライト系ステンレス鋼は自動車の排気マニホールドに用いられることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。」


第3 当審より通知した拒絶の理由
当審より、平成30年 4月 6日付けで通知した拒絶理由通知書においては、以下の三つの拒絶理由を通知した。
・本願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
・本願は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない
・本願の請求項1?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2009-215648号公報 (原査定の引用文献1)
引用文献2:特開2011-190468号公報 (原査定の引用文献2)
引用文献3:特開2004-43949号公報 (当審にて新たに引用)
引用文献4:特開2012-36867号公報 (当審にて新たに引用)


第4 当審の判断
当審は、本願発明1は、上記引用文献1又は引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであると判断する。また、仮に、本願発明1が、上記引用文献1又は引用文献2に記載された発明でなかったとしても、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明と、技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると判断する。
以下において、1欄において各文献の記載について摘記し、2欄において引用発明1-1、引用発明1-31、引用発明2-1について認定し、3欄において具体的な対比・判断について記載する。

なお、当審の判断において、引用文献1及び2の他に、本願の優先権主張日における技術常識を例示するために、以下の7つの文献(それぞれ、「文献A」?「文献G」という。)を追加的に引用する。
文献一覧は次のとおりである。
引用文献1:特開2009-215648号公報
引用文献2:特開2011-190468号公報
文献A :特開2005-200746号公報
文献B :特開2012-102397号公報
文献C :特開2012-12674号公報
文献D :特開2010-156039号公報
文献E :特開2001-303204号公報
文献F :特開2010-144191号公報
文献G :特開平8-283913号公報

1 各文献の記載について
(1)発明の名称が「高温強度に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法」である引用文献1(特開2009-215648号公報)には、以下の記載がある(下線は当審による。以下同様。)。
「【請求項1】
質量%にて、C:0.01%以下、N:0.02%以下、Si:0.05?1%、Mn:0.6超?2%、Cr:15?30%、Mo:1?4%、Cu:1?3.5%、Nb:0.2?1.5%、Ti:0.05?0.5%、B:0.0002?0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする高温強度に優れたフェライト系ステンレス鋼板。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高温強度が必要な排気系部材などの使用に最適な高温強度に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエキゾーストマニホールドおよびマフラーなどの排気系部材は、エンジンから排出される高温の排気ガスを通すため、排気部材を構成する材料には高温強度、耐酸化性など多様な特性が要求されている。」

「【0045】
【表1】



(2)発明の名称が「耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法」である引用文献2(特開2011-190468号公報)には、以下の記載がある。
「【請求項1】
質量%にて、C:0.015%以下、N:0.020%以下、Si:0.10超?0.40%、Mn:0.10?1.00%、Cr:16.5?25.0%、Nb:0.30?0.80%、Mo:1.00?4.00%、Ti:0.05?0.50%、B:0.0003?0.0030%、Cu:1.0?2.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼中のNbを主相とした炭窒化物のうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上である組織を有する耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、特に熱疲労特性が必要な排気系部材などの使用に最適な耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエキゾーストマニホールドなどの排気系部材は、エンジンから排出される高温の排気ガスを通すため、排気部材を構成する材料には高温強度、耐酸化性、熱疲労特性など多様な特性が要求され、耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼が用いられている。」

「【0053】
【表1】




(3)発明の名称が「自動車排気系部材用フェライト系ステンレス鋼」である文献A(特開2005-200746号公報 出願人 新日鐵住金ステンレス株式会社)には、以下の記載がある。
「【0031】
P、S:P、Sは製造上、不可避に混入する不純物の一つであるが、Pは溶接性に悪影響を、SはMnSを形成し耐酸化性に悪影響をあたえるため、その含有量はできるだけ少ないことが望ましい。おのおのの含有量としては、P:0.03%以下、S:0.002%以下とするのが望ましい。」


(4)発明の名称が「耐熱性と加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼」である文献B(特開2012-102397号公報 出願人 JFEスチール株式会社)には、以下の記載がある。
「【0040】
P:0.040%以下
Pは、靭性を低下させる有害元素であり、可能な限り低減するのが望ましい。このため、P含有量を0.040%以下とする。好ましくは、0.030%以下である。
【0041】
S:0.010%以下
Sは、伸びやr値を低下させ、成形性に悪影響を及ぼすとともに、ステンレス鋼の基本特性である耐食性を低下させる有害元素でもあるため、できるだけ低減するのが望ましい。このため、S含有量を0.010%以下とする。好ましくは、0.005%以下である。」

「【0057】
残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物のうちOは0.010%以下、Snは、0.005%以下、Mgは0.005%以下、Caは0.005%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Oは0.005%以下、Snは、0.003%以下、Mgは0.003%以下、Caは0.003%以下である。」

「【0071】
【表1】




(5)発明の名称が「耐酸化性および二次加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼」である文献C(特開2012-12674号公報 出願人 日新製鋼株式会社))には、以下の記載がある。
「【0014】
P:0.04質量%以下
Pは、耐高温酸化性および熱延板の靱性に悪影響を及ぼすので、その含有量を0.04質量%以下に限定する。
【0015】
S:0.005質量%以下
Sは、鋼中に不可避的に含まれる成分であり、Al_(2)O_(3)皮膜の形成を著しく阻害する。したがって、S含有量は0.005質量%以下に限定する。」
「【0020】
H:0.00005質量%以下
Hは進入型元素として固溶することで、Fe-Cr-Al系ステンレス鋼の靭性および二次加工性を低下させる極めて有害な元素である。
0.00005質量%を超えて含有した場合この悪影響が顕著に現れるため、上限を0.00005質量%とする。
O:0.002質量%以下
Oが0.002質量%を超えると、鋼中に酸化物系の介在物を生成し、清浄度を悪化させる。この介在物は二次加工割れの基点となりやすく、極力低減させる必要がある。なお、好ましくは0.001質量%以下である。」

「【0028】
【表1】




(6)発明の名称が「耐熱性に優れるフェライト系ステンレス鋼」である文献D(特開2010-156039号公報 出願人 JFEスチール株式会社)には、以下の記載がある。
「【0018】
P:0.05mass%以下
Pは、鋼の耐食性、靭性を低下させる有害な元素であり、0.05mass%以下に制限する。好ましくは0.03mass%以下である。
【0019】
S:0.01mass%以下
Sは、鋼の発銹や孔食の起点となり耐食性を低下させる有害な元素であり、0.01mass%以下に制限する。好ましくは0.002mass%以下である。」

「【0037】
【表1】




(7)発明の名称が「耐熱性フェライト系ステンレス鋼とその鋼板」である文献E(特開2001-303204号公報 出願人 住友金属工業株式会社)には、以下の記載がある。
「【0022】d) P
Pは鋼あるいは鋼板の耐食性,靭性を低下させる不可避不純物元素であるので、その含有量はできるだけ低い方が望ましい。特に、P含有量が0.04%を越えると鋼あるいは鋼板の加工性劣化が顕著となることから、P含有量は0.04%以下と定めた。
e) S
Sは発錆や孔食の起点となって鋼あるいは鋼板の耐食性を劣化させる不可避不純物元素であるので、その含有量はできるだけ低い方が好ましい。特に、S含有量が0.01%を越えると鋼あるいは鋼板の耐食性劣化が顕著となることから、S含有量の上限を0.01%とした。」

「【0037】
【表1】



「【0051】
【表3】




(8)発明の名称が「加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法」である文献F(特開2010-144191号公報 出願人 JFEスチール株式会社)には、以下の記載がある。
「【0017】
P:0.025?0.050mass%
Pは、鋼中に固溶し、またはFeTiPのような析出物を形成して、伸びを低下させる元素である。Pは、通常の精錬では、原料鉱石やスクラップ等から混入して、0.03mass%程度が不可避的に残留する。このPを精錬工程で0.025mass%未満に低減するには精錬負荷が大きく、特に、スクラップを多く使用する場合には、負荷の増大が著しい。一方、Pの含有量が0.050mass%を超えると、本発明を適用しても伸びの向上を図ることが困難になるだけでなく、鋳造や熱間圧延などの熱間加工で割れが発生しやすくなり、製造性が低下する。よって、Pは、0.025?0.050mass%の範囲とする。
【0018】
S:0.01mass%以下
Sは、熱間加工性の低下や耐食性の低下を招く有害な元素であるため、できるだけ低減することが望ましく、本発明では0.01mass%以下とする。」

「【0032】
【表1】




(9)発明の名称が「溶接性に優れたフェライト系ステンレス鋼」である文献G(特開平8-283913号公報 出願人 新日本製鐵株式会社)には、以下の記載がある。
「【0016】O:Oは0.005%以上の含有で、表面活性元素として溶接金属の溶け込みを深くし、溶接性ならびにそのビード形状から溶接部の延性向上に役立つ。しかし、0.02%超のO量では、最終的に脱酸不足となり、逆に溶接部の延性、靭性を阻害する。よって0.005?0.02%と限定した。」

「【0019】
【表1】




2 引用発明1-1、引用発明1-31、引用発明2-1について
引用文献1の、請求項1及び段落【0001】に記載された事項と、実施例の欄に記載された鋼のうちNo. 1、No. 31の鋼に着目すると、引用文献1には、以下の引用発明1-1と、引用発明1-31が記載されているといえる。
また、引用文献2の、請求項1及び段落【0001】に記載された事項と、実施例の欄に記載された鋼のうち、No. 1の鋼に着目すると、引用文献2には、以下の引用発明2-1が記載されているといえる。

引用発明1-1:
質量%にて、C:0.003%、N:0.008%、Si:0.25%、Mn:1.0%、Cr:18.7%、Mo:1.8%、Cu:1.5%、Nb:0.62%、Ti:0.15%、B:0.0031%、Al:0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる、自動車の排気系部材などの使用に最適な高温強度に優れたフェライト系ステンレス鋼板。

引用発明1-31:
質量%にて、C:0.004%、N:0.011%、Si:0.46%、Mn:1.0%、Cr:18.9%、Mo:1.8%、Cu:1.5%、Nb:0.88%、Ti:0.10%、B:0.0032%、Al:0.05%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる、自動車の排気系部材などの使用に最適な高温強度に優れたフェライト系ステンレス鋼板。

引用発明2-1:
質量%にて、C:0.005%、N:0.010%、Si:0.13%、Mn:0.99%、Cr:17.5%、Nb:0.57%、Mo:1.52%、Ti:0.10%、B:0.0015%、Cu:1.1%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼中のNbを主相とした炭窒化物のうち、粒子径が0.2μm以下のものが個数比率で95%以上である組織を有する、自動車の排気系部材などの使用に最適な耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。


3 対比・判断
本願発明及び各引用発明においては、多数の元素とその含有量の組み合わせにより化学組成が規定されていることに鑑み、以下の3-1欄において、まず化学組成に関し、本願発明1と各引用発明とを、表形式で対比する。
その対比を踏まえて、次いで、3-2欄、3-3欄、3-4欄において、それぞれ、引用発明2-1、引用発明1-1、引用発明1-31を主たる引用発明とした場合について、本願発明1の新規性及び進歩性の判断を記載する。
最後に、3-5欄において、審判請求人の主張に対する検討結果を記載する。

3-1 化学組成に関する、各引用発明と、本願発明1との表形式による対比
以下の表は、本願発明1の化学組成に関する発明特定事項を抜き出し、元素毎に項目分けするとともに、各引用発明の化学組成に関する発明特定事項を抜き出し、本願発明1の元素毎の項目分けに対応するように並び替えたものであり、空欄は各引用発明において対応する元素の含有量が明示的に特定されていないことを意味する。
なお、化学組成について、本願発明1は「重量%」で規定され、各引用発明は「質量%」で規定されているものであるが、「重量%」と「質量%」とが結果的に同じ数値に対応するという当業者における技術常識を踏まえ、以下においては、「重量%」及び「質量%」を、特に区別せず、単に「%」と記載することとする。


3-2 引用発明2-1を主たる引用発明とした場合についての判断
(1)本願発明1と引用発明2-1との対比
ア 炭素、ケイ素、マンガン、クロム、モリブデン、チタン、ニオブ、銅、窒素、ホウ素の含有量について
前記3-1によれば、引用発明2-1における上記各元素の含有量は、本願発明1で特定される当該各元素の組成範囲に包含されており、両発明は、0.005%の炭素、0.13%のケイ素、0.99%のマンガン、17.5%のクロム、1.52%のモリブデン(Mo)、0.10%のチタン、0.57%のニオブ、1.1%の銅、0.010%の窒素、0.0015%のホウ素を含有する点で一致する。

イ 「(Mo+W)の合計量は3重量%以下である」との事項について
引用発明2-1はモリブデンを「Mo:1.52%」で含有するものであり、タングステンについては規定がない。
ところで、引用文献2の表1によれば、例えばNo.12の鋼はタングステンを1.24%含有するのに対し、引用発明2-1の認定の基礎となったNo.1の鋼は、タングステンの欄が「-」となっているとおり、上記表1には、タングステンを鋼に含有され得る成分元素として認識した上で、その含有量や含有の有無が記載されているといえるから、引用発明2-1はタングステンを含有しないものであるというべきである。
そうすると、引用発明2-1において、モリブデンとタングステンの合計の含有量は1.52%+0%より「1.52%」であるといえるから、両発明は、本願発明1で特定される「(Mo+W)の合計量」が1.52%である点で一致する。

ウ 「さらに任意で0.2%未満のアルミニウム、0.5%未満のバナジウム、0.5%未満のジルコニウム、2.5%以下のタングステン(W)、1%未満のコバルト、1%未満のニッケル、0.003%以下のカルシウムおよび0.01%未満の希土類金属」との事項について
本願発明1は、これらの元素(以下、これらを「任意の八種の元素」という)を、上限の数値を限度として「任意」で含有するのに対し、引用発明2-1は、これらの元素については規定がない。

エ 「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項について
本願発明1は、これらの元素を、上限の数値を限度として含有するのに対し、引用発明2-1は、これらの元素については規定がない。

オ 「不可避の不純物」との事項について
引用発明2-1の「不可避的不純物」は、本願発明1の「不可避の不純物」に相当する。

カ 本願発明1は「高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼」であるのに対し、引用発明2-1は「自動車の排気系部材などの使用に最適な耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板」であるから、両発明は、「高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼」である点で共通する。

キ したがって、本願発明1と、引用発明2-1との一致点及び相違点は、それぞれ、以下のとおりである。
(一致点)
高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼であって、0.005%の炭素、0.13%のケイ素、0.99%のマンガン、17.5%のクロム、1.52%のモリブデン(Mo)、0.10%のチタン、0.57%のニオブ、1.1%の銅、0.010%の窒素、0.0015%のホウ素、及び不可避の不純物を含有し、(Mo+W)の合計量が1.52%である点

(相違点1)
上記一致点に含まれる各元素及び不可避の不純物以外に、本願発明1は、「さらに任意で0.2%未満のアルミニウム、0.5%未満のバナジウム、0.5%未満のジルコニウム、2.5%以下のタングステン(W)、1%未満のコバルト、1%未満のニッケル、0.003%以下のカルシウムおよび0.01%未満の希土類金属」を含有するのに対し、引用発明2-1は、これらの元素に関し規定がない点

(相違点2)
上記一致点に含まれる各元素及び不可避の不純物以外に、本願発明1は、「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」を含有するのに対し、引用発明2-1は、これらの元素に関し規定がない点


(2)相違点に関する判断
ア 相違点1について
(ア)相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、「さらに任意で」という文言が付された上で「任意の八種の元素」の含有量の上限の数値を規定するものであるから、本願発明1は、「任意の八種の元素」の全てを全く含有しない態様を含む(なお、本願発明1では、「不可避の不純物」とは独立して「任意の八種の元素」を特定するから、「任意の八種の元素」を「不可避の不純物」と重複して含有することはない。)。

(イ)一方、引用発明2-1においては、相違点1に係る「任意の八種の元素」について規定がないが、引用発明2-1の認定の基礎となった引用文献2の表1のNo.1の鋼では、Al、V、Zr、Wの欄の記載はいずれも「-」となっているから、前記(1)イと同様の理由により、引用発明2-1は、「任意の八種の元素」のうち、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム及びタングステンを含有しないものと認められる。
そして、「任意の八種の元素」のうち、コバルト、ニッケル、カルシウム及び希土類元素については、上記表1の他の鋼を参照しても何ら言及されていないため、引用発明2-1は、コバルト、ニッケル、カルシウム及び希土類元素を含有しないか、又は「不可避の不純物」として含有し得るといえる。
そうすると、形式的には、「任意の八種の元素」に関して引用発明2-1は、1)「任意の八種の元素」の全てを全く含有しない場合と、2)「任意の八種の元素」のうちコバルト、ニッケル、カルシウム及び希土類元素のいずれか一種以上を「不可避の不純物」として含有する場合とに場合分けできる。

(ウ)ここで、引用発明2-1において、上記1)の場合は、上記(ア)に示した、本願発明1が「任意の八種の元素」の全てを全く含有しない態様に相当する。

(エ)また、引用発明2-1において、上記2)の場合は、「不可避の不純物」としての各元素の具体的な含有量は極めて微量であると認められるから、本願発明1に規定する各元素の上限値を超えることはないものと認められる。

(オ)したがって、引用発明2-1が、上記1)又は上記2)のいずれであったとしても、相違点1は実質的なものではない。

イ 相違点2について
(ア)本願発明1においては、「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項を、「不可避の不純物」とは独立して特定するものである。

(イ)一方、引用発明2-1においては、硫黄、リン及び酸素については規定がないから、形式的には、引用発明2-1は、1)硫黄、リン及び酸素を全く含有しない場合と、2)硫黄、リン及び酸素を「不可避の不純物」として含有する場合とに場合分けできる。

(ウ)ところで、フェライト系ステンレス鋼においては、通常、不可避的不純物として、硫黄、リン及び酸素が本願発明1で規定する程度の量(すなわち、硫黄が0.005%未満、リンが0.05%未満、酸素が0.01%未満)で含有されることは、フェライト系ステンレス鋼の技術分野における当業者にとっての技術常識である。
この技術常識の根拠について、要すれば、文献A?文献Gの各文献を参照。
すなわち、文献Aの段落【0031】、文献Bの段落【0057】、文献C【0015】、文献Eの段落【0022】、及び文献Fの段落【0017】によれば、硫黄、リン及び酸素が、フェライト系ステンレス鋼において不可避的不純物として含有される点が裏付けられる。
また、硫黄に関し、文献Aには、含有量を0.002%以下とするのが望ましいことが記載されており、文献B?文献Fの各表に開示された具体的なフェライト系ステンレス鋼のほとんど全てにおいて、硫黄の含有量は0.005%未満となっている。これらのことから、フェライト系ステンレス鋼において不可避的不純物として含有される硫黄の量が、通常、0.005%未満であるという技術常識が裏付けられる。
また、リンに関し、文献Aには、含有量を0.03%以下とするのが望ましいことが記載されており、文献B?文献Fの各表に開示された具体的なフェライト系ステンレス鋼は、リンの含有量が多いことによって比較例とされた文献EのNo.26を除き、全て、リンの含有量は0.05%未満となっている。これらのことから、フェライト系ステンレス鋼において不可避的不純物として含有されるリンの量が、通常、0.05%未満であるという技術常識が裏付けられる。
また、酸素に関し、文献Bには、含有量を0.010%以下とすることが記載されており、また、文献Cには、含有量を0.002%以下とすることが記載されている。また、文献Cや文献Gの各表に具体的に開示されたフェライト系ステンレス鋼の全てにおいて、酸素の含有量は0.01%未満の含有量となっている。これらのことから、フェライト系ステンレス鋼において不可避的不純物として含有される酸素の量が、通常、0.01%未満であるという技術常識が裏付けられる。

(エ)ここで、引用文献2の全体を参照しても、不可避的不純物について特別な配慮を払うことは記載されておらず、また、硫黄、リン及び酸素について特別な配慮を払うことも記載されていないから、「フェライト系ステンレス鋼板」である引用発明2-1における不可避的不純物の種類及び各不純物毎の含有量は、通常のフェライト系ステンレス鋼と同様であると認められる。

(オ)したがって、引用文献2の記載及び上記(ウ)の技術常識によれば、引用発明2-1が、1)硫黄、リン及び酸素を全く含有しない場合は、実際にはあり得ず、引用発明2-1は、2)硫黄、リン及び酸素を「不可避の不純物」として含有するものであると認められ、その含有量は、上記(ウ)の技術常識に照らし、通常のフェライト系ステンレスと同様に、本願発明1が規定する程度の量(すなわち、硫黄が0.005%未満、リンが0.05%未満、酸素が0.01%未満)であると認められる。

(カ)以上の検討によれば、引用発明2-1は「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項を明示的に備えていないが、「不可避の不純物」に包含される形で実質的に備えるものであるといえる。
そうしてみると、相違点2は、「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項について、本願発明1では「不可避の不純物」から独立させて明示的な発明特定事項として表現されているのに対し、引用発明2-1では「不可避の不純物」に包含させて明示的な発明特定事項として表現されていないことによって生じた相違点であるといえるから、単なる表現上の差異に過ぎない。
したがって、相違点2も、実質的なものではない。


(3)小括
以上の検討のとおり、本願発明1は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


(4)相違点2を実質的なものと仮定した場合の、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項の容易想到性についての予備的な判断
ア 前記(2)では、相違点2が実質的なものではないと判断した。
ところで、審判請求人が平成30年10月10日に提出した意見書において、審判請求人は、主に、本願発明1は「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」を含有するものである点で、本願発明1と引用文献1又は引用文献2に記載された発明とが相違することを主張している。
審判請求人の主張に対する検討結果は、後記3-5欄でまとめて検討するが、以下においては、審判請求人の主張を考慮して、相違点2が実質的なものであったと仮定して、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項の容易想到性について、予備的に検討しておく。

イ 本願明細書によれば、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項のとおり、硫黄、リン及び酸素の含有量を規定することの技術的意義に関し、以下の記載がある。
「【0024】
硫黄(S)は、孔食耐性に悪影響を及ぼす硫化物含有物を生成することがある。したがって、硫黄の含有量は0.005%未満に抑えられるべきである。
【0025】
リン(P)は熱間加工性を低下させ、耐食性に悪影響を及ぼすリン化物粒子またはリン化物膜を生成することがある。したがって、リンの含有量は0.05%未満、好適には0.04%未満に抑えられるべきである。
【0026】
酸素(O)は、溶融池の表面エネルギーを変化させて溶け込みを向上させるが、靭性および熱間延性に悪影響を及ぼす場合がある。本発明では、最大酸素量を0.01%未満にすることが望ましい。」

ウ ここで、本願発明1において、硫黄、リン及び酸素の含有量を規定することによって、上記イに示した技術的意義が得られることは、フェライト系ステンレス鋼の技術分野における当業者にとっての技術常識に過ぎない。
この点について、要すれば、文献A?文献Gを参照。
すなわち、硫黄については、文献A?文献Fに種々の理由から低減すべき元素であることが記載されているところ、特に、文献Dの段落【0019】には「鋼の発銹や孔食の起点となり耐食性を低下させる有害な元素であ」ることが記載され、文献Eの段落【0022】には「発錆や孔食の起点となって鋼あるいは鋼板の耐食性を劣化させる不可避不純物元素である」と記載されていることからみて、硫黄の含有量を本願発明1のとおり規定することで本願明細書の段落【0024】に記載の「孔食耐性」に関する技術的意義が得られることは、当業者にとっての技術常識に過ぎない。
また、リンについても、文献A?文献Fに種々の理由から低減すべき元素であることが記載されているところ、文献Dの段落【0018】には「鋼の耐食性、靭性を低下させる有害な元素であ」ることが記載され、文献Eの段落【0022】には「鋼あるいは鋼板の耐食性,靭性を低下させる不可避不純物元素である」と記載され、文献Fの段落【0017】には「鋼中に固溶し、またはFeTiPのような析出物を形成して、伸びを低下させる元素である。・・・Pの含有量が0.050mass%を超えると、・・・鋳造や熱間圧延などの熱間加工で割れが発生しやすくな」ることが記載されていることからみて、リンの含有量を本願発明1のとおり規定することで本願明細書の段落【0025】に記載の「熱間加工性」及び「耐食性」に関する技術的意義が得られることも、当業者にとっての技術常識に過ぎない。
また、酸素についても、特に文献Cの段落【0020】には「Oが0.002質量%を超えると、鋼中に酸化物系の介在物を生成し、清浄度を悪化させる。この介在物は二次加工割れの基点となりやすく」なることが記載され、また、文献Gの段落【0016】には「0.005%以上の含有で、表面活性元素として溶接金属の溶け込みを深くし、溶接性ならびにそのビード形状から溶接部の延性向上に役立つ」と記載されていることからみて、酸素の含有量を本願発明1のとおり規定することで本願明細書の段落【0026】に記載の「溶け込みを向上させる」及び「靭性および熱間延性」に関する技術的意義が得られることも、当業者にとっての技術常識に過ぎない。

エ そして、前記(2)イ(ウ)で述べたとおり、フェライト系ステンレス鋼においては、通常、不可避的不純物として、硫黄、リン及び酸素が本願発明1で規定する程度の量(すなわち、硫黄が0.005%未満、リンが0.05%未満、酸素が0.01%未満)で含有されることは、フェライト系ステンレス鋼の技術分野における当業者にとっての技術常識である。

オ そうすると、引用発明2-1の「フェライト系ステンレス鋼板」において、文献A?文献Gに例示される技術常識に基づき、硫黄、リン及び酸素の含有量を、それぞれ、0.005%未満、0.05%未満、及び0.01%未満に制御することは当業者が容易になし得たことであり、このとき、硫黄、リン及び酸素を不可避の不純物とは独立させて表現することによって、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明1のとおり硫黄、リン及び酸素の含有量を規定することの技術的意義は、上記ウに示した当業者の技術常識に照らし、格別なものではない。

カ したがって、相違点2を実質的なものと仮定したとしても、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、この場合、本願発明1は、引用文献2に記載された発明と、技術常識とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。


3-3 引用発明1-1を主たる引用発明とした場合についての判断
(1)本願発明1と引用発明1-1との対比
ア 炭素、ケイ素、マンガン、クロム、モリブデン、チタン、ニオブ、銅、窒素、ホウ素の含有量について
前記3-1によれば、引用発明1-1における上記各元素の含有量は、本願発明1で特定される当該各元素の組成範囲に包含されており、両発明は、0.003%の炭素、0.25%のケイ素、1.0%のマンガン、18.7%のクロム、1.8%のモリブデン(Mo)、0.15%のチタン、0.62%のニオブ、1.5%の銅、0.008%の窒素、0.0031%のホウ素を含有する点で一致する。

イ 「(Mo+W)の合計量は3重量%以下である」との事項について
引用発明1-1はモリブデンを「Mo:1.8%」で含有するものであり、タングステンについては規定がない。
ところで、引用文献1の表1によれば、例えばNo.13の鋼はタングステンを2.8%含有するのに対し、引用発明1-1の認定の基礎となったNo.1の鋼は、タングステンの欄が「-」となっているとおり、上記表1には、タングステンを鋼に含有され得る成分元素として認識した上で、その含有量や含有の有無が記載されているといえるから、引用発明1-1はタングステンを含有しないものであるというべきである。
そうすると、引用発明1-1において、モリブデンとタングステンの合計の含有量は1.8%+0%より「1.8%」であるといえるから、両発明は、本願発明1で特定される「(Mo+W)の合計量」が1.8%である点で一致する。

ウ 「さらに任意で0.2%未満のアルミニウム、0.5%未満のバナジウム、0.5%未満のジルコニウム、2.5%以下のタングステン(W)、1%未満のコバルト、1%未満のニッケル、0.003%以下のカルシウムおよび0.01%未満の希土類金属」との事項について
本願発明1は、これらの「任意の八種の元素」を、上限の数値を限度として「任意」で含有するのに対し、引用発明1-1は、アルミニウムを0.03%で含有するものであるから、「任意の八種の元素」に係る発明特定事項のうち、「0.2%未満のアルミニウム」との事項に関し、両発明は、0.03%のアルミニウムを含有する点で一致する。
そして、引用発明1-1は、「任意の八種の元素」のうち、アルミニウム以外の七種の元素については規定がない。

エ 「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項について
本願発明1は、これらの元素を、上限の数値を限度として含有するのに対し、引用発明1-1は、これらの元素については規定がない。

オ 「不可避の不純物」との事項について
引用発明1-1の「不可避的不純物」は、本願発明1の「不可避の不純物」に相当する。

カ 本願発明1は「高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼」であるのに対し、引用発明1-1は「自動車の排気系部材などの使用に最適な高温強度に優れたフェライト系ステンレス鋼板」であるから、両発明は、「高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼」である点で共通する。

キ したがって、本願発明1と、引用発明1-1との一致点及び相違点は、それぞれ、以下のとおりである。
(一致点)
高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼であって、0.003%の炭素、0.25%のケイ素、1.0%のマンガン、18.7%のクロム、1.8%のモリブデン(Mo)、0.15%のチタン、0.62%のニオブ、1.5%の銅、0.008%の窒素、0.0031%のホウ素、及び不可避の不純物を含有し、さらに0.03%のアルミニウムを含有し、(Mo+W)の合計量が1.8%である点

(相違点3)
上記一致点に含まれる各元素及び不可避の不純物以外に、本願発明1は、「さらに任意で0.2%未満のアルミニウム、0.5%未満のバナジウム、0.5%未満のジルコニウム、2.5%以下のタングステン(W)、1%未満のコバルト、1%未満のニッケル、0.003%以下のカルシウムおよび0.01%未満の希土類金属」を含有するのに対し、引用発明1-1は、0.03%のアルミニウムを含有する点を除き、これらの元素に関し規定がない点

(相違点4)
上記一致点に含まれる各元素及び不可避の不純物以外に、本願発明1は「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」を含有するのに対し、引用発明1-1は、これらの元素に関し規定がない点


(2)相違点に関する判断
ア 相違点3について
(ア)相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は、「さらに任意で」という文言が付された上で「任意の八種の元素」の含有量の上限の数値を規定するものであるから、本願発明1は、「任意の八種の元素」のうちの一部を含有しない態様を含む(なお、本願発明1では、「不可避の不純物」とは独立して「任意の八種の元素」を特定するから、「任意の八種の元素」を「不可避の不純物」と重複して含有することはない。)。
そうすると、具体的には、本願発明1は、例えば、アルミニウムを0.2%未満で含有するとともに、他の七種の元素を全く含有しない態様を包含している。

(イ)一方、引用発明1-1においては、相違点3に係る「任意の八種の元素」について、アルミニウム以外については規定がないが、引用発明1-1の認定の基礎となった引用文献1の表1のNo.1の鋼では、V、Zr、Wの欄の記載はいずれも「-」となっているから、前記(1)イと同様の理由により、引用発明1-1は、「任意の八種の元素」のうちバナジウム、ジルコニウム、タングステンを含有しないものと認められる。
そして、「任意の八種の元素」のうち、コバルト、ニッケル、カルシウム及び希土類元素については、上記表1の他の鋼を参照しても何ら言及されていないため、引用発明1-1は、コバルト、ニッケル、カルシウム及び希土類元素を含有しないか、又は「不可避の不純物」として含有し得るといえる。
そうすると、形式的には、アルミニウム以外の「任意の八種の元素」に関して引用発明1-1は、1)アルミニウム以外の「任意の八種の元素」を含有しない場合と、2)アルミニウム以外の「任意の八種の元素」のうちコバルト、ニッケル、カルシウム及び希土類元素のいずれか一種以上を「不可避の不純物」として含有する場合とに場合分けできる。

(ウ)ここで、引用発明1-1において、上記1)の場合は、上記(ア)に示した、アルミニウムを0.2%未満で含有するとともに、他の七種の元素を全く含有しない態様に相当する。

(エ)また、引用発明1-1において、上記2)の場合は、「不可避の不純物」としての各元素の具体的な含有量は極めて微量であると認められるから、本願発明1に規定する各元素の上限値を超えることはないものと認められる。

(オ)したがって、引用発明1-1が、上記1)又は上記2)のいずれであったとしても、相違点3は実質的なものではない。

イ 相違点4について
(ア)本願発明1においては、「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項を、「不可避の不純物」とは独立して特定するものである。

(イ)一方、引用発明1-1においては、硫黄、リン及び酸素については規定がないから、形式的には、引用発明1-1は、1)硫黄、リン及び酸素を全く含有しない場合と、2)硫黄、リン及び酸素を「不可避の不純物」として含有する場合とに場合分けできる。

(ウ)ところで、フェライト系ステンレス鋼においては、通常、不可避的不純物として、硫黄、リン及び酸素が本願発明1で規定する程度の量(すなわち、硫黄が0.005%未満、リンが0.05%未満、酸素が0.01%未満)で含有されることは、フェライト系ステンレス鋼の技術分野における当業者にとっての技術常識である。
この技術常識の根拠について、要すれば、前記3-2(2)イ(ウ)を参照。

(エ)ここで、引用文献1の全体を参照しても、不可避的不純物について特別な配慮を払うことは記載されておらず、また、硫黄、リン及び酸素について特別な配慮を払うことも記載されていないから、「フェライト系ステンレス鋼板」である引用発明1-1における不可避的不純物の種類及び各不純物毎の含有量は、通常のフェライト系ステンレス鋼と同様であると認められる。

(オ)したがって、引用文献1の記載及び上記(ウ)の技術常識によれば、引用発明1-1が、1)硫黄、リン及び酸素を全く含有しない場合は、実際にはあり得ず、引用発明1-1は、2)硫黄、リン及び酸素を「不可避の不純物」として含有するものであると認められ、その含有量は、上記(ウ)の技術常識に照らし、通常のフェライト系ステンレスと同様に、本願発明1が規定する程度の量(すなわち、硫黄が0.005%未満、リンが0.05%未満、酸素が0.01%未満)であると認められる。

(カ)以上の検討によれば、引用発明1-1は「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項を明示的に備えていないが、実質的に備えるものである。
そうしてみると、相違点4は、「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項について、本願発明1では「不可避の不純物」から独立させて明示的な発明特定事項として表現されているのに対し、引用発明1-1では「不可避の不純物」に包含させて明示的な発明特定事項として表現されていないことによって生じた相違点であるといえるから、単なる表現上の差異に過ぎない。
したがって、相違点4も、実質的なものではない。


(3)小括
以上の検討のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


(4)相違点4を実質的なものと仮定した場合の、相違点4に係る本願発明1の発明特定事項の容易想到性についての予備的な判断
ア 前記(2)では、相違点4が実質的なものではないと判断した。
ところで、審判請求人が平成30年10月10日に提出した意見書において、審判請求人は、主に、本願発明1は「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」を含有するものである点で、本願発明1と引用文献1又は引用文献2に記載された発明とが相違することを主張している。
審判請求人の主張に対する検討結果は、後記3-5欄でまとめて検討するが、以下においては、審判請求人の主張を考慮して、相違点4が実質的なものであったと仮定して、相違点4に係る本願発明1の発明特定事項の容易想到性について、予備的に検討しておく。

イ この場合の判断は、前記3-2(4)と同様である。
すなわち、引用発明1-1の「フェライト系ステンレス鋼板」において、文献A?文献Gに例示される技術常識に基づき、硫黄、リン及び酸素の含有量を、それぞれ、0.005%未満、0.05%未満、及び0.01%未満に制御することは当業者が容易になし得たことであり、このとき、硫黄、リン及び酸素を不可避の不純物とは独立させて表現することによって、相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明1のとおり硫黄、リン及び酸素の含有量を規定することの技術的意義は、前記3-2(4)ウに示した当業者の技術常識に照らし、格別なものではない。

ウ したがって、相違点4を実質的なものと仮定したとしても、相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、この場合、本願発明1は、引用文献1に記載された発明と、技術常識とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。


3-4 引用発明1-31を主たる引用発明とした場合についての判断
(1)本願発明1と引用発明1-31との対比
ア 炭素、ケイ素、マンガン、クロム、モリブデン、チタン、ニオブ、銅、窒素、ホウ素の含有量について
前記3-1によれば、引用発明1-31における上記各元素の含有量は、本願発明1で特定される当該各元素の組成範囲に包含されており、両発明は、0.004%の炭素、0.46%のケイ素、1.0%のマンガン、18.9%のクロム、1.8%のモリブデン(Mo)、0.10%のチタン、0.88%のニオブ、1.5%の銅、0.011%の窒素、0.0032%のホウ素を含有する点で一致する。

イ 「(Mo+W)の合計量は3重量%以下である」との事項について
引用発明1-31はモリブデンを「Mo:1.8%」で含有するものであり、タングステンについては規定がない。
ところで、引用文献1の表1によれば、例えばNo.13の鋼はタングステンを2.8%含有するのに対し、引用発明1-31の認定の基礎となったNo.1の鋼は、タングステンの欄が「-」となっているとおり、上記表1には、タングステンを鋼に含有され得る成分元素として認識した上で、その含有量や含有の有無が記載されているといえるから、引用発明1-31はタングステンを含有しないものであるというべきである。
そうすると、引用発明1-31において、モリブデンとタングステンの合計の含有量は1.8%+0%より「1.8%」であるといえるから、両発明は、本願発明1で特定される「(Mo+W)の合計量」が1.8%である点で一致する。

ウ 「さらに任意で0.2%未満のアルミニウム、0.5%未満のバナジウム、0.5%未満のジルコニウム、2.5%以下のタングステン(W)、1%未満のコバルト、1%未満のニッケル、0.003%以下のカルシウムおよび0.01%未満の希土類金属」との事項について
本願発明1は、これらの「任意の八種の元素」を、上限の数値を限度として「任意」で含有するのに対し、引用発明1-31は、アルミニウムを0.05%で含有するものであるから、「任意の八種の元素」に係る発明特定事項のうち、「0.2%未満のアルミニウム」との事項に関し、両発明は、0.05%のアルミニウムを含有する点で一致する。
そして、引用発明1-31は、「任意の八種の元素」のうち、アルミニウム以外の七種の元素については規定がない。

エ 「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」との事項について
本願発明1は、これらの元素を、上限の数値を限度として含有するのに対し、引用発明1-31は、これらの元素については規定がない。

オ 「不可避の不純物」との事項について
引用発明1-31の「不可避的不純物」は、本願発明1の「不可避の不純物」に相当する。

カ 本願発明1は「高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼」であるのに対し、引用発明1-31は「自動車の排気系部材などの使用に最適な高温強度に優れたフェライト系ステンレス鋼板。」であるから、両発明は、「高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼」である点で共通する。

キ したがって、本願発明1と、引用発明1-31との一致点及び相違点は、それぞれ、以下のとおりである。
(一致点)
高温条件下で用いられる部材用のフェライト系ステンレス鋼であって、0.004%の炭素、0.46%のケイ素、1.0%のマンガン、18.9%のクロム、1.8%のモリブデン(Mo)、0.10%のチタン、0.88%のニオブ、1.5%の銅、0.011%の窒素、0.0032%のホウ素、及び不可避の不純物を含有し、さらに0.05%のアルミニウムを含有し、(Mo+W)の合計量が1.8%である点

(相違点5)
上記一致点に含まれる各元素及び不可避の不純物以外に、本願発明1は、「さらに任意で0.2%未満のアルミニウム、0.5%未満のバナジウム、0.5%未満のジルコニウム、2.5%以下のタングステン(W)、1%未満のコバルト、1%未満のニッケル、0.003%以下のカルシウムおよび0.01%未満の希土類金属」を含有するのに対し、引用発明1-31は、0.05%のアルミニウムを含有する点を除き、これらの元素に関し規定がない点

(相違点6)
上記一致点に含まれる各元素及び不可避の不純物以外に、本願発明1は「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」を含有するのに対し、引用発明1-31は、これらの元素に関し規定がない点


(2)相違点に関する判断
本願発明1と、引用文献1に記載された発明である引用発明1-31との相違点5、6は、本願発明1と、引用文献1に記載された発明である引用発明1-1との相違点3、4(前記3-3(1)参照)とそれぞれ実質的に同じ内容である。
そして、前記3-3(2)において検討したとおり、相違点3及び相違点4が実質的なものではないと判断されるところ、同じ理由で、相違点5及び相違点6についても、実質的なものではない。


(3)小括
以上の検討のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


(4)相違点6を実質的なものと仮定した場合の、相違点6に係る本願発明1の発明特定事項の容易想到性についての予備的な判断
ア 前記(2)では、相違点6が実質的なものではないと判断した。
ところで、審判請求人が平成30年10月10日に提出した意見書において、審判請求人は、主に、本願発明1は「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」を含有するものである点で、本件発明1と引用文献1又は引用文献2に記載された発明とが相違することを主張している。
審判請求人の主張に対する検討結果は、後記3-5欄でまとめて検討するが、以下においては、審判請求人の主張を考慮して、相違点6が実質的なものであったと仮定して、相違点6に係る本願発明1の発明特定事項の容易想到性について、予備的に検討しておく。

イ この場合の判断は、前記3-2(4)及び前記3-3(4)と同様である。
すなわち、引用発明1-31の「フェライト系ステンレス鋼板」において、文献A?文献Gに例示される技術常識に基づき、硫黄、リン及び酸素の含有量を、それぞれ、0.005%未満、0.05%未満、及び0.01%未満に制御することは当業者が容易になし得たことであり、このとき、硫黄、リン及び酸素を不可避の不純物とは独立させて表現することによって、相違点6に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明1のとおり硫黄、リン及び酸素の含有量を規定することの技術的意義は、前記3-2(4)ウに示した当業者の技術常識に照らし、格別なものではない。

ウ したがって、相違点6を実質的なものと仮定したとしても、相違点6に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、この場合、本願発明1は、引用文献1に記載された発明と、技術常識とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。


3-5 審判請求人の主張について
(1)引用発明2-1を主たる引用発明とした場合に関する主張について
ア 審判請求人は、意見書において、以下のとおり、本願発明1と引用発明2-1との相違点について主張している。
「しかしながら、請求項1を補正した結果、請求項の記載上明確となった本願発明の鋼板2-1に対する相違点は以下の通りとなりました。
補正後の請求項1に係る発明鋼は、少なくとも「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」を含有しています。しかしながら、これらの元素は鋼板2-1には含有されておりません。そもそも、引用文献2には、鋼に含有する成分として硫黄、リンおよび酸素に関する言及すら全くされておりません。これらの元素の中では特に、0.01重量%未満の酸素をフェライト系ステンレス鋼に含有させると、溶融池の表面エネルギーを変化させて溶け込みを向上させるという有利な効果が得られます(明細書段落[0026]参照)。
さらに、本願発明では所望の特性に応じて鋼に含有され得るアルミニウム、バナジウム、ジルコニウムおよびタングステンについては、表1の成分含有量によると鋼板2-1には含有されていない旨が明確に示されています。
したがって、本願発明は鋼板2-1と異なるステンレス鋼であることはもちろん、鋼板2- 1に基づいて当業者が想到することは困難な鋼であるといえます。」
(当審注:上記の「鋼板2-1」とは、引用文献2の表1のNo.1の鋼板のことであって、前記第4の2で認定した、引用発明2-1のフェライト系ステンレス鋼板を意味する。)

イ しかしながら、前記3-2(2)イで検討したとおり、引用文献2の記載及び前記3-2(2)イ(ウ)の技術常識によれば、引用発明2-1が、1)硫黄、リン及び酸素を全く含有しない場合は、実際にはあり得ず、引用発明2-1は、2)硫黄、リン及び酸素を「不可避の不純物」として含有するものであると認められ、その含有量は、前記3-2(2)イ(ウ)の技術常識に照らし、通常のフェライト系ステンレスと同様に、硫黄、リン及び酸素が、本願発明1が規定する程度の量(すなわち、硫黄が0.005%未満、リンが0.05%未満、酸素が0.01%未満)であるものと認められる。
したがって、上記主張のうち「補正後の請求項1に係る発明鋼は、少なくとも「0.005%未満の硫黄、0.05%未満のリンおよび0.01%未満の酸素」を含有しています。しかしながら、これらの元素は鋼板2-1には含有されておりません。」との箇所は、技術常識に照らして合理的なものであるとはいえないから、採用することはできない。
また、仮に、審判請求人が主張する点を実質的な相違点としてみたとしても、前記3-2(4)において検討したとおり、文献A?文献Gに例示される技術常識に照らせば、引用発明2-1において、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ また、前記3-2(2)アで検討したとおり、本願発明1において、アルミニウム等の「任意の八種の元素」は「任意」で含有されるものであって、当該「任意の八種の元素」に係る相違点1は実質的なものではない。
したがって、上記主張のうち「さらに、本願発明では所望の特性に応じて鋼に含有され得るアルミニウム、バナジウム、ジルコニウムおよびタングステンについては、表1の成分含有量によると鋼板2-1には含有されていない旨が明確に示されています。」との箇所は、実質的な相違点ではない事項を述べているに過ぎないので、前記3-2に記載した判断の結論を左右するものではない。

エ また、上記主張のうち「特に、0.01重量%未満の酸素をフェライト系ステンレス鋼に含有させると、溶融池の表面エネルギーを変化させて溶け込みを向上させるという有利な効果が得られます(明細書段落[0026]参照)。」との箇所については、前記3-2(4)ウにおいて検討したとおり、例えば文献Gの段落【0016】には「0.005%以上の含有で、表面活性元素として溶接金属の溶け込みを深くし、溶接性ならびにそのビード形状から溶接部の延性向上に役立つ」と記載されていることからみて、審判請求人が主張する当該効果はフェライト系ステンレス鋼の技術分野における当業者にとっての技術常識に過ぎず、格別なものではないので、相違点2が実質的な相違点であったとしても、この主張における効果を参酌して進歩性を認めることはできない。

オ よって、審判請求人の主張は、前記3-2で示した判断の結論に対し、影響を与えるものではない。

(2)引用発明1-1を主たる引用発明とした場合と、引用発明1-31を主たる引用発明とした場合に関する主張について
審判請求人は、意見書において、本願発明1と引用発明1-1との相違点や、本願発明1と引用発明1-31との相違点について主張しているが、その主張の内容は、実質的に、前記(1)で示した、引用発明2-1を主たる引用発明とした場合に関する主張の内容と同じであるから、前記(1)と同様の理由で、審判請求人の主張は、前記3-3及び前記3-4で示した判断の結論に対し、影響を与えるものではない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明1が引用文献1又は2に記載された発明でなかったとしても、本願発明1は、引用文献1又は2に記載された発明と、本願優先日時点における技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願発明2?9について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-11 
結審通知日 2018-12-18 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2015-519264(P2015-519264)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C22C)
P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
長谷山 健
発明の名称 フェライト系ステンレス鋼  
代理人 香取 孝雄  
代理人 あいわ特許業務法人  

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