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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1352081
審判番号 無効2018-800089  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-07-13 
確定日 2019-05-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第5903130号発明「海苔製造機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5903130号は、平成26年7月9日に出願され、平成28年3月18日に設定登録されたものである。
また、本件無効審判請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年 7月11日 審判請求書
平成30年11月 1日 審判事件答弁書
平成30年12月27日 審理事項通知書
平成31年 1月30日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成31年 1月31日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成31年 3月 1日 第1回口頭審理

第2 本件発明
特許第5903130号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のものである(以下、請求項1及び2に係る発明を、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」といい、総称して「本件発明」という。)

「【請求項1】
建屋の内部に設置された海苔製造機であって、抄製した海苔生地を加熱空気で乾燥させる乾燥室と、乾燥室に加熱空気を供給する加熱室とを有し、加熱室の吸気部から吸気した空気を加熱して乾燥室に供給するとともに、海苔生地の乾燥に使用した加熱空気を乾燥室の排気部から排気する海苔製造機において、
乾燥室の排気部と加熱室の吸気部との間に乾燥室の排気部から加熱室の吸気部へと流入する空気の流入量を規制するための空気流入量規制装置を介設し、前記加熱室に複数の加熱装置を設けるとともに、各加熱装置に対応する空気流入量規制装置を設け、乾燥室の内部の湿度に応じて空気の流入量を規制するよう空気流入量規制装置を制御するコントローラーを有し、
コントローラーは、各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させることを特徴とする海苔製造機。
【請求項2】
前記コントローラーは、乾燥室の後側部分の湿度が前記第2後側所定湿度よりも高い所定湿度(第1後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の海苔製造機。」

第3 無効理由及び無効理由に対する答弁
1.請求人主張の無効理由の概要
請求の趣旨は、「特許第5903130号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。」であり、請求の理由の概要は以下のとおりである。

(1)無効理由1(進歩性欠如)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その特許出願前に当業者が以下の甲第1号証記載の発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づき容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(実施可能要件違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、「所定湿度」について具体的記載がなく、「前後の乾燥室の湿度を均一にするために」当業者がどのように実施すれば良いのか理解できず、当業者が請求項1及び2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3)無効理由3(明確性要件違反)
本件特許の請求項1及び2記載の「所定湿度」は技術的な意義が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2.請求人提出の証拠方法
請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。

甲第1号証:特開2005-287502号公報
甲第2号証:特開平11-215971号公報
甲第3号証:特開2013-85497号公報
甲第4号証:特開2008-61576号公報
甲第5号証:渕上哲 外2名,「ノリ製品の『くもり』と『割れ』の乾燥条件」,福岡水技セ研報 第12号,2002年3月,p89-91
以下、それぞれ「甲1」?「甲5」という。

3.無効理由に対する被請求人の主張
答弁の趣旨は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」である。

第4 当審の判断
事案に鑑み、無効理由2及び3から検討する。

1.無効理由2(特許法第36条第4項第1号)について
請求人は、「『第2後側所定湿度』を具体的にどのように設定するか全く不明であるから、当業者と言えども『乾燥海苔の商品価値を損ねない』ように実施することができない。」(審判請求書21頁12?14行)と主張している。
しかし、本件発明が、海苔生地の乾燥に使用された「湿度の高い空気が再び加熱室で加熱されて乾燥室に供給されるために、乾燥室の内部の湿度が高くなってしまい、海苔生地を良好に乾燥させることができず、乾燥海苔の商品価値を損ねるおそれがあ」るという課題(段落【0008】,【0009】参照。)を解決する発明であることからすれば、請求項1記載の「第2後側所定湿度」とは、「海苔の乾燥に売り物にならない程度の悪影響を与えない湿度」であると認められる(この点、両当事者から異論はない(第1回口頭審理調書の審判長2の記載参照。)。)。よって、本件明細書において、具体的な湿度の値等が示されていなくても、上記の湿度の範囲内で「第2後側所定湿度」は適宜設定できるから、当業者が本件発明を実施することは可能である。
そして、本件発明1は、当該湿度よりも乾燥室の後側部分の湿度が高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を開口面積が増大する方向に制御することにより、(乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を増大させ、結果として)乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させるものであり、また、本件発明2は、乾燥室の後側部分の湿度が前記第2後側所定湿度よりも高い所定湿度(第1後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を開口面積が減少する方向に制御することにより、乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を減少させるものであり、当該前側及び後側の吸気部に流入する空気の量を減少すれば、湿度の高い空気の加熱室への流入を防ぐことで「乾燥海苔の商品価値を損ねない」ようにできることは明らかであるから、当業者は本件発明を実施できる。
請求人は、「乾燥室の後側の湿度を所定範囲にいくら制御しても、その制御の影響で前側の湿度が品質に悪影響を与えない範囲を超えてしまえば、請求人が主張するような『乾燥海苔の商品価値を損ねない』という効果を奏することはできず、前後一方だけではなく、前後にある乾燥室全体の湿度の監視と制御が必ず必要となる」と主張している(審判請求書21頁7?11行)。
しかし、上記したとおり、当業者は本件発明を実施することができるのであるから、当該請求人の主張は採用できない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
以上のとおりであるから、請求項1及び2についての特許は、無効理由2によって無効とすることはできない。

2.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)について
上記1.で述べたとおり、請求項1記載の「所定湿度(第2後側所定湿度)」とは「海苔の乾燥に売り物にならない程度の悪影響を与えない湿度」であり、また、請求項2の「所定湿度(第1後側所定湿度)」とは、請求項2に記載されているとおり、「第2後側所定湿度よりも高い」湿度であるから、「所定湿度(第2後側所定湿度)」及び「所定湿度(第1後側所定湿度)」が不明確であるとはいえない。
よって、請求項1及び2に係る特許は、無効理由3によって無効とすることはできない。

3.無効理由1(特許法第29条第2項)について
(1)甲各号証の記載事項
ア.甲1の記載事項
(ア)「【請求項1】
簀ホルダーに保持された簀上に抄部において生海苔を抄き上げ、抄き上げられた生海苔を脱水部において脱水した後、簀ホルダーを乾燥室内を搬送しながら生海苔を乾燥させるようにした海苔製造装置の乾燥室に付設される補助装置であって、
乾燥室の真上にあって乾燥室から2次空気が吹き上げられる第1室と、この第1室の側部にあって第1室と連通する第2室と、乾燥室から第1室へ吹き上げられた2次空気を外界へ放出するためのファンから成る排気ユニットとを備え、排気ユニットを乾燥室の前後方向に複数個設け、また1次空気を外部から導入するための1次空気導入部を第2室の前後方向に複数設けることにより第2室を外部から導入された1次空気と乾燥室から吹き上げられて第1室を通って流入した2次空気の混合室とするとともに乾燥室をその前後方向に温度及び又は湿度の調整が可能な複数のブロックに分割し、この混合室の混合ガスを乾燥室の下部へ送り込むようにしたことを特徴とする海苔乾燥室の補助装置。
【請求項2】
前記各ブロックの温度及び又は湿度を表示する表示画面を有する表示装置を設け、この表示装置の表示画面に表示された温度及び又は湿度に基づいて前記排気ユニットを制御するようにしたことを特徴とする請求項1記載の海苔乾燥室の補助装置。
【請求項3】
前記1次空気導入部は開閉部であって、これらの開閉部の開閉を制御することにより、前記第2室に導入される1次空気の量を調整し、これにより前記各ブロックの温度及び又は湿度を互いに独立して個別に調整自在としたことを特徴とする請求項1記載の海苔乾燥室の補助装置。
【請求項4】
前記各ブロックの温度及び又は湿度を表示する表示画面を有する表示装置を設け、この表示装置の表示画面に表示された温度及び又は湿度に基づいて前記開閉部を制御するようにしたことを特徴とする請求項3記載の海苔乾燥室の補助装置。
【請求項5】
前記第1室に、外部空気を導入し上方の外界へ放出するための開閉扉を設けたことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の海苔乾燥室の補助装置。
【請求項6】
前記乾燥室から吹き上げる2次空気の温度及び又は湿度の検知手段を設け、また検知手段で検知された温度及び又は湿度を表示する表示画面を有する表示装置を設け、この表示装置の表示画面に表示された温度及び又は湿度に基づいて前記排気ユニット及び又は前記開閉部を制御するようにしたことを特徴とする請求項1記載の海苔乾燥室の補助装置。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
乾海苔の仕上り(品質)は、乾燥の良・不良に大きく左右される。したがって高品質の
乾海苔を製造するためには、乾燥室の湿度や温度の管理がきわめて重要である。一方、近年、海苔製造装置は益々大型化しており、これにともない乾燥室も長大化している。したがって長大な乾燥室全体の湿度や温度を適切に管理・調整することはきわめて困難になってきている。
【0004】
そこで本発明は、特に長大化した乾燥室の温度や湿度の管理・調整を良好に行える海苔乾燥室の補助装置を提供することを目的とする。
・・・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、乾燥室全体の温度及び又は湿度を的確に調整でき、これにより乾燥ムラのない海苔乾燥を行い、品質のよいシート状の乾海苔を製造することができる。特に、1次空気導入部を開閉部として前後方向に複数設け、これらの開閉部の開閉を制御することにより、各ブロックの温度及び又は湿度を互いに独立して個別調整し、これにより乾燥室が長大であっても、その全体の温度や湿度を最適に調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は海苔製造装置の斜視図、図2は小屋内に設置された海苔製造装置の正断面図、図3は海苔乾燥室と上部ユニットの内部を示す側面図、図4は海苔乾燥室と第2室の内部を示す平面図、図5は開閉部の側面図、図6は制御系のブロック図、図7(a)、(b)はモニター画面図である。
【0008】
図1において、1は前段部であり、抄部2、脱水部3、剥ぎ部4等を含んでいる。複数枚の簀5を張設した簀ホルダー6はチェンコンベア等のコンベア(図示せず)により移動しながら抄部2において簀5上に生海苔をシート状に薄く抄き上げ、次いで簀ホルダー6を海苔脱水部3へ移動させて抄き上げられた生海苔を脱水し、次いで簀ホルダー6を乾燥室9内に搬入する。そして乾燥室9内を簀ホルダー6をコンベア7(図2)により前後方向(乾燥室9の長手方向であって、図2では紙面に垂直な方向)へ搬送しながら簀5に貼着する生海苔m(図2)を乾燥させた後、前段部1もしくは乾燥室9の出口付近に設けられた剥ぎ部4において乾燥済みのシート状の乾海苔mを簀5から剥ぎ取る。乾燥室9には、各所の温度や湿度を表示するための表示装置60が付設されている。61はその表示画面である。
【0009】
次に、乾燥室9とその周辺の設備について説明する。図2において、前段部1や乾燥室9等から成る海苔製造装置は小屋100内に設置されている。乾燥室9は長尺であり、その上部には乾燥室9の補助装置としての上部ユニット10が設けられている。この上部ユニット10は、既設の乾燥室に後付けして付設することが可能である。
【0010】
上部ユニット10は、乾燥室9の真上にあって、乾燥室9から温風が吹き上げられる(矢印A)第1室11を有している。第1室11はその上方の天井空間12に連通している。第1室11の側部にはこれと連通する第2室13が設けられている。上部空間としての天井空間12は、外界への連通部24が設けられている。連通部24は、例えば単なる開口部あるいはダンパー等から成る開閉部から成っている。
【0011】
乾燥室9および第1室11の側部には側室としての第3室14が設けられている。第2室13は第3室14の内部に設けられており、1次空気と2次空気の混合室となっている。第3室14は小屋100の一部であって、小屋100の隙間や出入口などから1次空気(外界の新鮮な低温・低湿の空気)が導入され、この1次空気は第3室14を通して第2室13に導入される(矢印E)。本実施の形態では、小屋100の一部を第3室14として利用している。乾燥室9の上部は開口部8となっており、第1室11に連通している。なお、開口部8には開閉自在なダンパーなどから成る開閉部を設けてもよい。
【0012】
第1室11の側壁には上部ヒンジを中心に回転して開閉する扉状の開閉部18が設けられている。この開閉部18を開くと、乾燥室9の側方の作業室19内の空気は第1室11および天井空間12を通って上方の外界へ放出される(矢印H)。開閉部18は、手動式又は自動式の何れでもよい。開閉部18の設置理由は次のとおりである。すなわち作業室19には、海苔製造装置から排出されたシート状の乾海苔の後処理装置(海苔の良否選別機、折曲機、結束機等)200が設置されている。ここで、作業室19の湿度が高くなると、後処理装置200における乾海苔に悪影響を与える。そこでこのような場合、開閉部18を開くことにより、作業室19内の高湿の空気(外部空気)を矢印Hで示すように上方の外界へ放出し、作業室19の湿度を下げるものである。
【0013】
図2において、第1室11の適所、望ましくはその上部には上方空間への連通部としての第1の開閉部21(211?215)が設けられており、これが開閉することにより第1室11と天井空間12の間を開閉する。また第1室11の上部には、乾燥室9から吹き上げられた第1室11内の2次空気を吸い上げて上方の天井空間12へ上昇させるためのファン15(151?155)が設けられている。第1の開閉部21とファン15は排気ユニットとなっている。排気ユニットは、乾燥室9内の湿度が異常に高くなった場合に、この過湿の2次空気を外界へ放出し、これにより乾燥室9の湿度を下げるのに特に有効である。
【0014】
第2室13には1次空気導入部としての第2の開閉部22(221?225)が前後方向に複数個(本例では5個)設けられており、これが駆動することにより第2室13と第3室14の間を開閉する。なお本発明で前後方向とは、乾燥室9の長手方向をいう。第2の開閉部22が開くと、外部の低温・低湿の1次空気は第2室13に導入される(矢印E)。第2の開閉部22は、ダンパーなどの開閉度が調整自在なものが望ましい。この場合、その開閉度を調整することにより、第2室13に導入される1次空気の量を調整することができる。第2の開閉部21は特に乾燥室9の各ブロックB1?B5(後述)の湿度が高くなったときに、低湿の1次空気を各ブロックB1?B5に導入して湿度を下げるのに有効である。
【0015】
第1室11と第2室13の間には連通部23(231?235)が設けられている。この連通部23は開閉式であり、これが駆動することにより第1室11と第2室13の間を開閉する。この第3の開閉部23が開くと、乾燥室9から吹き上げられて第1室11内に導入された高温多湿の2次空気は第2室13内に導入される(矢印D)。すなわち第3の開閉部23は、乾燥室9から第1室11に吹き上げた2次空気を第2室13に導入するための2次空気導入部となっている。
【0016】
第3の開閉部23の開閉は乾燥室9内が適温適湿となるように自由に行ってよいが、常時開としてもよい。すなわち、第3の開閉部23は開閉しない単なる連通部(開口部)としてもよい。天井空間12の上部には外界へ連通する連通部としての第4の開閉部24が設けられており、第1室11から天井空間12に吹き上げられた空気はここから外界へ放出される(矢印B)。第4の開閉部24も開閉しない単なる開口部としてもよい。ファン15及び各開閉部21?24は、乾燥室9の長手方向に複数個(本実施の形態では5個)並設されており、これにより乾燥室9を前後方向に複数(本実施の形態では5つ)の温度や湿度の調整が可能なブロック(B1,B2,B3,B4,B5)に実質的に分割されている。なお図にはあらわれていないが、第4の開閉部24も第1?第3の開閉部21?23と同様に乾燥室9の長手方向(前後方向)に複数個(本例では5個)設けられている。
【0017】
図5は、第1?第4の開閉部21?24の開閉機構を示している。各開閉部21?24のダンパー25は、リンク機構26を介して駆動部としてのモータMに駆動されるようになっており、矢印a方向へ揺動することにより開閉する。27は軸部である。このうち、少なくとも第2の開閉部22は、その開閉度を調整自在にすることが望ましい。なお、かかる開閉機構は公知である。
【0018】
図1および図2において、第3室14の内部には、乾燥室9の長手方向に長尺のダクト30が水平に設けられている。ダクト30の上面には、温風吹出部としての開口部31(311?315)が開口されている。開口部31は複数個、望ましくは第2の開閉部22(221?225)に対応してこれと同数(5ヶ所)開口されており、それぞれ第2の開閉部22の外部下方に位置している。
【0019】
図2において、ダクト30は、パイプ32を通して温風機33に接続されている。温風機33はこれに吸入された外界の新鮮・低温・低湿の1次空気を暖めてダクト30へ送り、開口部31から第3室14内へ温風として吹き出す(矢印F)。吹き出された温風は、第2の開閉部22から第2室13内に吸い込まれる(矢印E)。温風機33で暖めた1次空気を第2室13へ供給するタイミングは自由に決定できるのであって、要は乾燥室9内が異常高温あるいは過湿状態となったときや乾燥室9内に新鮮な1次空気を供給したいときなどに、第2の開閉部22を開いて第2室13に1次空気を導入し、更に空気加熱機34で加熱して乾燥室9の下部へ送り込む。
【0020】
ファン15や各開閉部21?24などの動作部は、コンピュータなどの制御部50(後述)に制御される。本発明は、長大な乾燥室9の内部全体の温度や湿度を最適に管理・調整しようとするものであり、この目的を達成するためのファン15、各開閉部21?24、温風機33、空気加熱機34、湿気生成機40等の設計仕様や運転制御方法等は自由に決定できるのであって、本実施の形態や後述する運転制御方法に限定されるものではない。なお本発明では、外界から導入されて乾燥室9へ送り込まれる新鮮・低温・低湿な空気を1次空気といい、乾燥室9内で生海苔の水分を奪って乾燥室9から排出される高温多湿の空気を2次空気という。
【0021】
図2において、第3室14内部における第2室13の下部にはバーナーなどから成る空気加熱機34が設けられている。空気加熱機34は、第2室13からこれに導入された空気(矢印C)を加熱して温風として乾燥室9の下部へ送り込み、乾燥室9内を上方へ吹き上げる(矢印A)。乾燥室9内には生海苔mを抄き上げた簀5を保持する簀ホルダー6がコンベア7に搬送されて循環しており、温風が生海苔mに吹き当ることによりこれを乾燥させる。
【0022】
図2において、40はボイラーなどから成る湿気生成機であり、これにより生成された蒸気のような湿気の多い多湿空気はホース41を通り、排出部42から第3室14内へ送り込まれ(矢印G)、第2の開閉部22から第2室13に導入され(矢印E)、更に空気加熱機34で加熱されて乾燥室9の下部へ送り込まれる(矢印C)。湿気生成機40で生成した湿気を第2室13を通じて乾燥室9へ送り込むタイミングは自由に決定できるのであって、要は乾燥室9内の湿度が低下したときに、第2の開閉部22を開いて湿気を第2室13に導入し、更に空気加熱機34で加熱して乾燥室9へ送り込むようにすればよい。なお外界の1次空気は、外界から第2室13へ直接導入せず、本実施の形態のように一旦第3室14に導入し、第3室14から第2室13へ導入することにより、外界の気象等の影響を受けずに、第2室13への安定した1次空気の導入を図ることができる。
【0023】
図3において、乾燥室9の各ブロックB1?B5の内部望ましくは下部には温度及び又は湿度を検知・測定する温度及び又は湿度の検知手段としての第1のセンサーS1?S5が設けられている。各ブロックB1?B5のうち、何れかのブロックB1?B5の湿度が高いことがこれらのセンサーS1?S5によって検知されたならば、当該ブロックに対応する第2の開閉部22を大きく開き、低湿の1次空気をこの当該ブロックに導入し、その湿度を下げる。すなわち、各ブロックB1?B5の温度及び又は湿度をそれぞれに備えられたセンサーS1?S5により検知し、検知結果に基づいて第2の開閉部22を個別に開閉制御することにより、各ブロックB1?B5の温度や湿度を互いに独立して個別に調整することができる。
【0024】
また乾燥室9の上部には、乾燥室9から吹き上げられる2次空気の温度及び又は湿度の検知手段としての第2のセンサーSaが設けられている。第2のセンサーSaの個数は任意であり、複数設ける場合は検出値の平均値を演算してこれを検出値とすればよい。上述のように、乾燥室9から吹き上げる2次空気の湿度が高いことがこのセンサーSaで検知されたならば、排気ユニット(ファン15と第1の開閉部21)を駆動し、これにより乾燥室9の過湿の2次空気を外界へ放出して乾燥室9の湿度を下げる。
・・・・・
【0036】
一方、乾燥室9から吹き上げる2次空気の目標湿度(相対湿度)を38%とした場合、図7(b)に示す例では、2次空気の相対湿度は42%であるから、目標湿度38%よりも高い。このようにセンサーSaで検知された2次空気の湿度が高いときには、望ましくはすべての第1の開閉部21を開いてすべてのファン15を回転させ、天井空間12を通して外界へ高湿の2次空気を積極的に放出することにより、目標湿度(38%)に低下させる。そして目標湿度となったならば、第1の開閉部21を閉じ、またファン15の回転を停止させる。
【0037】
以上のように、各ブロックB1?B5や乾燥室9全体の温度や湿度を調整するための具体的方法は、様々な方法が可能であり、上記方法に限定されない。すなわち、補助装置10のファン15や開閉部21?24、温風機33、湿気生成機40等の温度や湿度の調整手段やセンサーS1?S5、Saを上記のように構成したことにより、ブロックB1?B5や乾燥室9全体の温度や湿度の調整方法は多様に可能となり、調整方法の自由度はきわめて大きいので、乾燥室9全体、あるいは各ブロックB1?B5が海苔質やユーザ-の好みに適した適切な温度・湿度となるように(一般的には、長大な乾燥室9全体が均一な目標温度や目標湿度となるように)、表示装置60の表示画面を見ながら自由に運転を遂行することができる。また勿論、各ファン15や各開閉部21?24、温風機33、空気加熱機34、湿気生成機40等の制御は、周知電気回路技術やソフトウェア技術により自由に実現できる。
【0038】
以上のように、本発明の海苔製造装置は様々な設計変更や運転方法が可能であり、要は乾燥室9の長手方向における各ブロックが生海苔の乾燥に最適の温度・湿度になるように、ファン15、各開閉部21?24、温風機33、空気加熱機34、湿度生成機40等を取り扱い・運転制御し、各ブロックB1?B5の温度や湿度を互いに独立して調整すればよい。なお乾燥室のブロックの数は、ファン15の個数よりも第2の開閉部22の数によって決定される。本実施の形態では、排気ユニット(ファン15と第1の開閉部21)と第2の開閉部22は同数(それぞれ5個)であるが、前者の数と後者の数は必ずしも同数である必要はなく、例えば前者を3個、後者を5個としてもよい。この場合、ブロックの数は後者(第2の開閉部22)の個数(5個)となる。」

(ウ)「【図1】

【図2】

【図3】

【図5】



以上の記載より、甲1には、下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「小屋100内に設置される海苔製造装置及び補助装置であって、生海苔をシート状に薄く抄き上げ乾燥させる乾燥室9と、乾燥室に空気を加熱して温風として送り込む空気加熱機34を有し、乾燥室9の真上にあって乾燥室9から2次空気が吹き上げられる第1室11と、この第1室11の側部にあって第1室11と連通する第2室13と、乾燥室9から第1室11へ吹き上げられた2次空気を外界へ放出するためのファン15及び第1の開閉部21から成る排気ユニットとを備え、
排気ユニットを乾燥室9の前後方向に複数個設け、また1次空気を外部から導入するための1次空気導入部としての第2の開閉部22を第2室13の前後方向に複数設けることにより第2室13を外部から導入された1次空気と乾燥室9から吹き上げられて第1室11を通って流入した2次空気の混合室とするとともに乾燥室9をその前後方向に温度及び又は湿度の調整が可能な複数のブロックに分割し、この混合室の混合ガスを乾燥室9の下部へ送り込み、乾燥室9から吹き上げる2次空気の温度及び又は湿度に基づいてファン15並びに第1の開閉部21及び第2の開閉部22を制御し、
第1室11と第2室13の間の第3の開閉部23は、乾燥室9から第1室11に吹き上げた2次空気を第2室13に導入するための2次空気導入部であり、第3の開閉部23は乾燥室9内が適温適湿となるように開閉するか常時開とし、
ファン15や各開閉部21?23などの動作部は、コンピュータなどの制御部50に制御される海苔製造装置及び補助装置。」

イ.甲2の記載事項
(ア)「【0010】
【作用】上記構成の本発明によれば、シートを開閉すれば、乾燥室の湿度をコントロールできる。すなわち、例えば乾燥室内の湿度が高すぎるときは、シートを閉じて乾燥室の上部開口部から小屋の上部の排気部に通じるトンネルを形成し、このトンネルを通して多湿の空気を小屋の外部へ積極的に排出する。
【0011】また乾燥室内の湿度が低ければ、シートを開いてトンネルを開放する。すると小屋の外部への多湿の空気の排出は抑制され、多湿の空気は小屋内に排出される。したがって小屋内部の湿度は上がり、小屋内の空気を導入する乾燥室の湿度も上昇する。
【0012】また乾燥室の湿度を積極的に上げたいときは、空気加熱室側のシートを空気加熱室上に開く。すると乾燥室から排出された多湿の空気はこのシートに案内されて空気導入口から空気加熱室に積極的に入り、空気加熱室内で加熱されたうえで乾燥室に送り込まれる。
【0013】上記した湿度の調整は、複数枚のシートを互いに独立して別々に開閉することにより、きめ細かく行うことができる。【0028】図1に示すように、シート40,40aは複数枚に分割されているので、きめ細かい湿度コントロールが可能である。例えば乾燥室3の前部の湿度が低いときは、前部のシート40(符号イ)のみを開けばよく、また中央部の湿度が低いときは中央のシート40(符号ロ)のみを開けばよく、また後部の湿度が低いときは後部のシート40(符号ハ)のみを開けばよい。勿論、乾燥室3全体の湿度が低ければ、すべてのシート40,40aを開くとともに、望ましくはファン23a?23dの駆動を停止して、多湿の空気が外部へ放出されないようにする。また、後側のシート40aも適宜開閉できる。
・・・・・
【0025】次に、乾燥室3内の湿度コントロール方法を説明する。図2において、乾燥室3内の湿度が高いときは、すべてのシート40,40aを実線位置に垂れ下がらせてトンネル50を形成し、ファン23a?23dを回転させて、乾燥室3の上部開口部16から吹き出された高温・多湿の空気を排気部21の排気口22から積極的に外部へ排出する(矢印c)。
【0026】乾燥室3内の湿度が低いときは、図2においてひも43を引いてシート40,40aを鎖線で示す位置へ移動させ、トンネル50を開く。すると乾燥室3の上部開口部16から吹き出された高温・多湿の空気は、鎖線矢印A,Bで示すように小屋20内に排出される。
・・・・・
【0028】図1に示すように、シート40,40aは複数枚に分割されているので、きめ細かい湿度コントロールが可能である。例えば乾燥室3の前部の湿度が低いときは、前部のシート40(符号イ)のみを開けばよく、また中央部の湿度が低いときは中央のシート40(符号ロ)のみを開けばよく、また後部の湿度が低いときは後部のシート40(符号ハ)のみを開けばよい。勿論、乾燥室3全体の湿度が低ければ、すべてのシート40,40aを開くとともに、望ましくはファン23a?23dの駆動を停止して、多湿の空気が外部へ放出されないようにする。また、後側のシート40aも適宜開閉できる。
【0029】また空気加熱室30側のシート40を開けば、鎖線矢印B(図2)で示すように高温・多湿の空気は空気加熱室30内に積極的に導入され、更に乾燥室3の下部に積極的に送り込まれるので、乾燥室3内の湿度上昇効果はきわめて大きい。したがって乾燥室3内の湿度の程度に応じて、図2において乾燥室3の右側のシート40のみを開いたり、あるいは左側のシート40も右側のシート40と一緒に開くようにすればよい。何れにせよ、複数枚のシート40,40aをどのように開くかは、乾燥室3内の湿度状態や、生産者の好みなどに応じて自由に決定できる。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、シートを開閉することにより、乾燥室の内部の湿度コントロールを適切に行い、高品質の乾海苔を製造することができる。」

(イ)「【図1】

【図2】



以上の記載より、甲2には、下記の技術的事項が記載されている。

「乾燥室3の前後方向に複数のシート40を設け、当該シート40を開閉することにより、トンネル50から空気加熱室30へ流入する空気の量を乾燥室3内の湿度状態や、生産者の好みなどにより自由に決定できる乾海苔製造装置。」

ウ.甲3の記載事項
(ア)「【0031】
建屋1の天井100には、一基、又は一対でなる屋上扇2(換気扇)を、望ましくは、建屋1の棟方向に数基有しており、建屋1の間仕切り空間部Bに排出された余剰量の高温高湿排気P、その他の空気を排出する。また、建屋1には、後述する排気開口部101と、外気吸込開口部102を有する。
【0032】
そして、この建屋1には、海苔乾燥機5と燃焼釜6を備えている。この海苔乾燥機5の天井には、高温高湿排気Pを排出する天井開放部500を有する。この海苔乾燥機5と燃焼釜6とは配管501を介して連通しており、この燃焼釜6の後述する高温低湿の温風が、海苔乾燥機5の下方にある図示しない海苔簀に向って供給される。この燃焼釜6にはバーナを備えた釜600が配備されている。そして、この燃焼釜6には、湿度調整された空気が導入される吸込開口部601を有する。図中602は燃焼釜6の吸込開口部601に設けたファンである。この燃焼釜6は、海苔乾燥機5の長手方向に複数基設けられる。この建屋1は、仕切り材、例えば、ビニールフィルム7を介して間仕切りされ、例えば、燃焼釜6と海苔乾燥機5との間を区画した間仕切り空間部Bが構成される。この間仕切り空間部Bに、後述する高温高湿排気Pが排気されるとともに、この高温高湿排気Pの流れを確定すること、又は建屋1の広範囲による結露防止に役立つこと、等の特徴がある。
・・・・・
【0042】
また、この例では、スペースAに、かつ建屋1(海苔乾燥機5、燃焼釜6)の長手方向(図1に於いて、手前から、奥面方向)に、温湿度調整器8を、複数基、併設配置か、又は図示しないが、斜設配備等の配置構造することで、通路11、12内における内外気のスムーズな流れを確保できる。」

(イ)「【図1】



エ.甲4の記載事項
(ア)「【請求項1】
海苔乾燥建屋に設けた第1の外気吸込み口と、この建屋に設けた煙突を備えた複数基の加熱室と、またこの建屋に設けた前記加熱室と配管を介して連通する乾燥室とを利用した海苔乾燥装置であって、
前記第1の外気吸込み口に連設した吸込み配管を、煙突に繞設した熱交換部を介して加熱室に連通し、またこの乾燥室の排気管を、前記建屋及び/又は他の加熱室に連通する構成とした海苔乾燥装置。
・・・・・
【請求項3】
海苔乾燥建屋に設けた第1の外気吸込み口、及び第2の外気吸込み口を備えた補助ヒータと、この建屋に設けた煙突を備えた複数基の加熱室と、またこの建屋に設けた前記加熱室と配管を介して連通する乾燥室とを利用した海苔乾燥装置であって、
前記第1の外気吸込み口に連設した吸込み配管を、煙突に繞設した熱交換部を介して加熱室に連通し、
また前記補助ヒータに連通したダクトを、他の加熱室の上方に配備し、その開口を、この他の加熱室の上方に配備する構成とした海苔乾燥装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項3に記載の海苔乾燥装置であって、前記加熱室を複数基設置する構成とし、この加熱室の両端基に前記煙突を配備する構成とした海苔乾燥装置。」

(イ)「【0035】
図1、図2において、1は建屋で、この建屋1にはシャッター(図示せず)を備えた第1の外気吸込み口2と内気排出口3(屋上扇30を備えた排出口)を備える。また、この建屋1には、生海苔(抄き海苔)Aを乾燥する乾燥室5と、この乾燥室5に熱風Nを供給する加熱室6と、この乾燥室5と加熱室6とを連通する配管7と、その加熱室6に設けられた煙突8と、が配備されている。
【0036】
なお、加熱室6は、建屋1の長手方向に複数基が設置されており、その加熱室6は、ファン60が6基並列配置してあり、そのファン60の下垂部に横架するように釜61が設けられてある。なお、ファン60は、第1外気吸込み口2よりファン60a、60b、60c、60d、60e、60fとする。
その加熱室6の両端には、前記煙突8が連通されており、加熱室6の効率的な排気を担う。また、同じくその加熱室6のファン60a、60fの近傍には、第1外気吸込み口1に連設した吸込み配管10を、煙突8に繞設した熱交換部80を介して、設置してある。また、その加熱室6のファン60a、60f以外のファン60b、60eの近傍には乾燥室5からの使用済み熱風Sを排出する排出管9が連通してある。」

(ウ)「【図1】

【図2】



(2)対比・判断
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「小屋100」、「海苔製造装置及び補助装置」、「乾燥室9」及び「空気加熱機34」が設置される空間は、それぞれ本件発明1の「建屋」、「海苔製造機」、「乾燥室」及び「加熱室」に相当する。
そして、甲1発明の「ファン15及び第1の開閉部21から成る排気ユニット」は、本件発明1の「排気部」に相当し、甲1発明の「乾燥室9に空気を加熱して温風として送り込む空気加熱機34」、「乾燥室9から吹き上げられて第1室11を通って流入した2次空気の混合室」及び「この混合室の混合ガスを乾燥室9の下部へ送り込」むこと、並びに「乾燥室9から第1室11へ吹き上げられた2次空気を外界へ放出するためのファン15及び第1の開閉部21から成る排気ユニット」で2次空気を外界へ放出する点は、本件発明1の「加熱室の吸気部から吸気した空気を加熱して乾燥室に供給するとともに、海苔生地の乾燥に使用した加熱空気を乾燥室の排気部から排気」する点に相当する。
してみれば、本件発明1と甲1発明は、次の一致点及び相違点を有する。

【一致点】
建屋の内部に設置された海苔製造機であって、抄製した海苔生地を加熱空気で乾燥させる乾燥室と、乾燥室に加熱空気を供給する加熱室とを有し、加熱室の吸気部から吸気した空気を加熱して乾燥室に供給するとともに、海苔生地の乾燥に使用した加熱空気を乾燥室の排気部から排気する海苔製造機。

【相違点】
本件発明1が、「乾燥室の排気部と加熱室の吸気部との間に乾燥室の排気部から加熱室の吸気部へと流入する空気の流入量を規制するための空気流入量規制装置を介設し、前記加熱室に複数の加熱装置を設けるとともに、各加熱装置に対応する空気流入量規制装置を設け、乾燥室の内部の湿度に応じて空気の流入量を規制するよう空気流入量規制装置を制御するコントローラーを有し、
コントローラーは、各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」のに対し、
甲1発明が、「排気ユニットを乾燥室9の前後方向に複数個設け、また1次空気を外部から導入するための1次空気導入部としての第2の開閉部22を第2室13の前後方向に複数設けることにより第2室13を外部から導入された1次空気と乾燥室9から吹き上げられて第1室11を通って流入した2次空気の混合室とするとともに乾燥室9をその前後方向に温度及び又は湿度の調整が可能な複数のブロックに分割し、この混合室の混合ガスを乾燥室9の下部へ送り込み、乾燥室9から吹き上げる2次空気の温度及び又は湿度に基づいてファン15並びに第1の開閉部21及び第2の開閉部22を制御し、
第1室11と第2室13の間の第3の開閉部23は、乾燥室9から第1室11に吹き上げた2次空気を第2室13に導入するための2次空気導入部であり、第3の開閉部23は乾燥室9内が適温適湿となるように開閉するか常時開とし、
ファン15や各開閉部21?23などの動作部は、コンピュータなどの制御部50に制御される」点。

(イ)判断
上記相違点について検討すると、甲3(上記(1)ウ.参照。)及び甲4(上記(1)エ.参照。)には、複数の加熱装置を設ける点が記載されているものと認められる。
しかし、甲3及び甲4には、各加熱装置に対応する空気流入量規制装置を設けるようにする点については記載がなく、単に甲1発明の空気加熱機を甲3及び甲4の記載に基づいて複数設けたとしても、各加熱装置に対応するように2次空気導入部である第3の開閉部23(本件発明1の空気流入量規制装置に相当。)を設けることまで容易であるとはいえない。
また、本件発明1の 「所定湿度(第2後側所定湿度)」とは、「海苔の乾燥に売り物にならない程度の悪影響を与えない湿度」であり、また、本件発明1の「後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」とは、後側部分の空気流入量規制装置を開口面積が増大する方向に制御することにより、(乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を増大させ、結果として)乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させることを意味すると認められ、相違点に係る本件発明1の構成を上記のように理解することに当事者間の争いはない。
してみると、相違点に係る本件発明1の構成のうち、コントローラーが、「各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が所定湿度(第2後側所定湿度)よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を制御して乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させる」とは、コントローラが、各空気流入量規制装置を別個に制御し、乾燥室の後側部分の湿度が海苔の乾燥に売り物にならない程度の悪影響を与えない湿度よりも高い場合に、後側部分の空気流入量規制装置を開口面積が増大する方向に制御することにより、(乾燥室の排気部から加熱室の後側の吸気部に流入する空気の量を増大させ、結果として)乾燥室の排気部から加熱室の前側の吸気部に流入する空気の量を減少させること(以下、「本件制御」という。)を意味する。
しかし、甲1には、甲1発明として認定した事項に加え、ブロック毎にファンや各開閉部などの動作部を制御することも記載されている(上記(1)ア.(イ)参照。)が、具体的に本件制御を行うことの記載はなく、また、本件制御が自明であるとは認められない。
また、甲3及び甲4は、加熱装置を複数設けることについて開示するにすぎず、本件制御についての記載ないし示唆はない。
さらに、甲2には上記(1)イ.記載のとおり、「乾燥室3の前後方向に複数のシート40を設け、当該シート40を開閉することにより、トンネル50から空気加熱室30へ流入する空気の量を乾燥室3内の湿度状態や、生産者の好みなどにより自由に決定できる乾海苔製造装置」について記載されているが、甲2にも本件制御についての記載はない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲1?4に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用して減縮するものであり、本件発明1の発明特定事項のすべてを含むものである。
よって、本件発明1と同様の理由により、当業者であっても甲1発明及び甲1?4に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、請求項1及び2についての特許は、無効理由1によって無効とすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1?3はいずれも理由がなく、請求人の主張によっては本件発明1及び2に係る特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-01 
結審通知日 2019-04-04 
審決日 2019-04-17 
出願番号 特願2014-141300(P2014-141300)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (A23L)
P 1 113・ 121- Y (A23L)
P 1 113・ 537- Y (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 井上 哲男
紀本 孝
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5903130号(P5903130)
発明の名称 海苔製造機  
代理人 加藤 久  
代理人 内野 美洋  
代理人 遠坂 啓太  
代理人 南瀬 透  

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