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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1352317
異議申立番号 異議2018-700908  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-09 
確定日 2019-05-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第6323765号発明「液状調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6323765号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6323765号の請求項1に係る特許は、平成23年12月15日に出願された特願2011-274108号の一部を平成28年5月2日に新たな特許出願としたものであって、平成30年4月20日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について平成30年11月9日に特許異議申立人 高橋 麻衣子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は平成31年2月19日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年4月19日に意見書を提出した。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
加熱調理時に使用する液状調味料において、酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ、酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整することにより、65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法(但し、前記液状調味料は、チアミンラウリル硫酸塩を含有しない)。」

第3 取消理由
1 当審において通知した取消理由
当審において通知した取消理由は次のとおりのものである。

[理由1]本件特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。


明細書の発明の詳細な説明における実施例1の記載(段落【0035】ないし【0040】)、実施例2の記載(段落【0041】ないし【0044】)、実施例3の記載(段落【0045】ないし【0048】)、及び実施例4の記載(段落【0049】ないし【0054】)において、「酢酸臭」、「風味の好ましさ」及び「嗜好」についての評価を行っているのは、いずれも品温が70℃の場合のみであって、品温が70℃以外のものについては評価を行っていない。
また、上記実施例4の記載においては、調理後の保温時の品温は70℃であるものの、酢酸臭の評価を行った加熱調理時の温度は示されていない。
そして、品温が70℃より高温となった場合は、酢酸臭が品温70℃の場合よりも強くなることにより、上記の「酢酸臭」、「風味の好ましさ」及び「嗜好」の評価が変化し得ることが技術常識からみて想定できるとともに、品温70℃の場合の評価が請求項1に係る発明において特定された加熱調理時の「65?250℃」の全ての温度範囲の評価を代表できるという合理的な理由も発明の詳細な説明の記載や技術常識からは見出せない。
そうすると、請求項1に係る発明において特定された加熱調理時の「65?250℃」の全ての範囲において「酢酸臭」、「風味の好ましさ」及び「嗜好」の評価基準を満たすものであって、「0.75?1.25質量%」の「高濃度の酢酸を含有していても、加熱調理時の酢酸臭が弱く喫食時の風味が良好である加熱調理用液状調味料を提供する」という課題を解決できると当業者が理解することはできない。
したがって、本件請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

2 取消理由に対する当審の判断
本件特許明細書の段落【0051】ないし【0054】には、次の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。

「【0051】
・(2) 官能評価
次いで、市販鶏もも肉300g(2.5人前)を、フライパンにて油を加えて熱し、強火で3?4分焼いた後裏返し、蓋をして弱火で5?6分、中まで火が通るまで蒸し焼きにした。
フライパンに残った余分な油をキッチンペーパーなどでふき取った後、前記各調味料4-1?4-3を100g加え、肉に液をからませながら中火で4?5分煮詰め、食べやすいように一口大に切った後、再びフライパンに戻し、70℃で保温した(照り焼き4-1?4-3)。
【0052】
上記照り焼き4-1?4-3について、熟練した官能検査員3名により、調理時には「酢酸臭」、喫食時には「酢酸臭」および「風味の好ましさ」についての官能評価を実施した。
官能評価は、照り焼き4-1(酢酸濃度1w%, 塩分濃度4w%)の評価を基準(対照)としたことを除いては試験例1と同様にして、5段階の評点で評価し平均値で示した。
また、「嗜好」については、喫食時に対照(照り焼き4-1)との2点比較を行い、全員が実施例を好んだ場合を「◎」、実施例を好んだ人数が対照よりも多い場合を「○」、実施例よりも対照区を好んだ人数が多い場合を「×」とした。結果を表6に示す。
【0053】
・(3) 結果
その結果、照り焼きの風味についても、調味料の酢酸に対する塩分の質量比が2に調製することで、加熱調理時及び保温喫食時の酢酸臭が抑制されることが示された。また、喫食時の風味も向上して好まれることが示された。
さらに、カプサイシンを添加することによって、喫食時の酢酸臭はさらに抑制され、風味もさらに好ましくなり、非常に好まれることが示された。
【0054】



上記【表6】には、「官能評価」の欄に「喫食時」における評価のほか、「調理時」における「酢酸臭」を評価したものが記載されており、「酢酸濃度」が1重量%であって本件特許発明の数値範囲内であるものの、「塩分/酢酸(質量比)」が4であって本件特許発明の数値範囲外である調味料4-1(対照)の「酢酸臭」に関する官能評価の結果に対して、「酢酸濃度」が1重量%、「塩分/酢酸(質量比)」が2であって、いずれの数値も本件特許発明の数値範囲内である調味料4-2、調味料4-3の「酢酸臭」に関する官能評価の結果の方が良好であることが示されている。
そして、上記【表6】における「調理時」とは、上記段落【0051】の記載によると、調理を行う材料をフライパンで「フライパンにて油を加えて熱し、強火で3?4分焼いた後裏返し、蓋をして弱火で5?6分、中まで火が通るまで蒸し焼きにした」あるいは、「中火で4?5分煮詰め」たような「加熱調理時」である。
この加熱調理時の温度について、特許権者は、平成31年4月19日に意見書、乙第1号証ないし乙第3号証とともに乙第4号証(以下、「乙4」という。)を提出している。

乙4:株式会社エフシージー総合研究所の「フライパン余熱温度の確認は水滴で」(平成26年9月5日の産経新聞の記事に基づくもの)
(https://www.fcg-r.co.jp/compare/foods_140905.html)

乙4には、



●まとめ
一般な焼き始め温度は、卵焼きやホットケーキが150?160℃、ハンバーグやギョウザは170?180℃、炒め物は200℃くらいです。
フッ素樹脂加工のフライパンは200℃程度までなら劣化の原因となる「空焚き」状態にはなりません。予熱不足で材料を入れると「焼く」のではなく、「煮る」温度で調理を始めることになってしまいます。
きちんと予熱して香ばしい焼き色をつけ、おいしく調理してください。

(2014.09.05)」

と記載されており、上記乙4の記載によれば、フライパンによる加熱調理時の温度は、料理するものにもよるが、おおよそ150℃ないし250℃の範囲であることが分かる。
そして、本件特許明細書の段落【0014】には、
「【0014】
・加熱調理用液状調味料
本発明における加熱調理用液状調味料とは、喫食するために、少なくとも60℃以上、通常は65?250℃程度での加熱調理が必須である食品に対して、加熱調理時に使用される調味料を指す。当該調味料が使用された加熱調理後の食品は、通常は加温又は保温された状態で喫食に供されるが、好適な風味が奏される。・・・」と記載されており、本件特許発明における液状調味料は65?250℃程度での加熱調理が必須である食品の加熱調理時に使用されるものである。
そうすると、上記本件特許明細書の段落【0014】の記載及び上記乙4の記載から、上記本件特許明細書の段落【0054】、【表6】における調理時の温度は概ね65?250℃の範囲内であって、上記【表6】において官能評価を行った加熱調理も、65?250℃の範囲内で行われたものと認められる。
したがって、加熱調理時の温度に関して本件特許の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないとすることはできない。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議理由について
[1]異議理由
1 異議理由1
本件特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。



(1)本件特許の請求項1の記載における「加熱調理時に使用する液状調味料」が「物」であるのに対して、「加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」は「方法」であり、両者が対応していない。

(2)本件特許の請求項1の記載における「・・含有せしめ」と「・・調整する」の主体が明確でない。また、液状調味料の配合を調整する主体と加熱調理をする主体との異同が明確でない。

2 異議理由2
本件特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。

本件特許明細書において、「加熱調理時」の酢酸臭が抑制されることについて記載されているのは、[実施例4]のみであるところ、段落【0054】の【表6】において調味料4-2、調味料4-3の酢酸に対する塩分/酢酸(質量比)は、それぞれ2である。
そうすると、上記本件特許明細書における[実施例4]の記載は、本件特許の請求項1に記載の「酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3」の数値範囲のうち、両者の質量比が2以外の液状調味料を加熱調理に使用した場合に加熱調理時の酢酸臭が抑制されることを裏付けるものではないから本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

3 異議理由3
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証の1ないし甲第3号証の5、及び甲第4号証の1ないし甲第4号証の3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから同法第113条第2号に該当する。

<甲号証一覧>
甲第1号証:特開2001-258497号公報
甲第2号証:特開2010-227086号公報
甲第3号証の1:特開昭59-14761号公報
甲第3号証の2:特開昭59-14762号公報
甲第3号証の3:特開昭59-55163号公報
甲第3号証の4:特開2010-124696号公報
甲第3号証の5:特開2011-217655号公報
甲第4号証の1:特開昭60-78566号公報
甲第4号証の2:特開平6-141801号公報
甲第4号証の3:特開平5-284953号公報
(以下、甲第○号証、甲第○号証の△を、甲○、甲○の△と略していう。)

4 甲各号証の記載
(1)甲1
本件特許の出願前に頒布された甲1には「香辛調味料組成物」に関して次の記載がある。

ア 甲1の記載
1a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は唐辛子と食酢、食塩を主な成分とする香辛調味料に関する。この香辛調味料はうどん、鍋もの、餃子、パスタ、ピザ、焼肉、から揚げ、オムレツ、スープ、お好み焼、焼きそば、その他の料理に薬味やかくし味として使用することができる。」

1b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような問題を解決し、日本人にとって辛味、酸味、塩味のバランスに優れた香辛調味料を提供することを目的とする。さらに、本発明は辛味、酸味、塩味のバランスに優れ、保存性にも優れる香辛調味料を提供することを目的とする。」

1c)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らはこの課題は、香辛調味料の辛味、酸味、塩味の混合比率を調整することにより解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、唐辛子に食酢および食塩を含んでなる香辛調味料であって、唐辛子の25(w/w)%以上が醗酵唐辛子で、酢酸濃度(w/w)がカプサイシン濃度(w/w)の150?300倍で、かつ食塩濃度(w/w)がカプサイシン濃度(w/w)の250?700倍であることを特徴とする香辛調味料組成物である。」

1d)「【0006】
【発明の実施の形態】次に本発明を詳細に説明する。本発明に使用する唐辛子はその品種や形態は特に限定するものでなく、いずれのものでもよい。唐辛子の品種としては例えば、タカノツメ種、テンタカ種、ホンタカ種、チリー種、タバスコ種等を挙げることができる。また形態としては生唐辛子、乾燥唐辛子、塩蔵唐辛子等を使用することができる。なお、塩蔵唐辛子とは生唐辛子を塩漬け処理し、常温保存できるようにした非醗酵の唐辛子である。」

1e)「【0008】唐辛子を醗酵させる方法は一般に知られている方法でよく、生唐辛子、水洗塩抜きした塩蔵唐辛子、乾燥唐辛子を水戻ししたもの等に糀と必要に応じてその他の調味料を加え、一定期間醗酵させることにより得られる。本発明の香辛調味料は辛味と酸味と塩味のバランスを重視したものである。本香辛調味料の辛味と酸味と塩味はそれぞれカプサイシンと酢酸と食塩の濃度を測定し、その割合でバランスを把握することができる。」

1f)「【0011】次に後述の実験例2に示すように食塩濃度(w/w)がカプサイシン濃度(w/w)の250?700倍であると辛味と塩味のバランスのよい香辛調味料となることがわかった。食塩濃度がこの範囲より高くても、また低くても辛味と塩味のバランスがとれなかった。表3では後述の実験例1及び2で定めた範囲内での酢酸と食塩の上限、下限をそれぞれ組合せて味のバランスを調べた。表3に示すようにそれぞれ味のバランスがとれていた。
【0012】次に、カプサイシン含量の異なる香辛調味料を表4のように作成しカプサイシン含量の好ましい範囲を調べた。カプサイシン濃度が500(w/w)ppmより大きいと一滴あたりのカプサイシン量が多く、使用する食品が少量の時、例えばぎょうざや鍋物のつゆに使用する場合、一滴でも辛味が強すぎてしまうという結果を得た。したがってカプサイシン濃度は500(w/w)ppm以下とすることが好ましい。また、下限は一般に薬味として数滴の使用で辛みを感じる程度が必要で、50(w/w)ppm以上であることが好ましい。」

1g)「【0024】〔実験例3〕表3に記載の配合になるように、実験例1と同様に各香辛調味料を作成し、それを5倍に希釈して官能検査を行ない表1、2で定めた食塩、食酢の範囲内での酸味と塩味のバランスを調べた。
【0025】
【表3】


【0026】官能検査の記号:○は辛味・酸味・塩味のバランスがとれている表3から実験例1及び2で定めた酢酸濃度、食塩濃度の上限、下限の各組み合せで味のバランスはとれていることがわかった。」

1h)「【0027】〔実験例4〕表4に記載のカプサイシン濃度の異なる香辛調味料を作成し、ぎょうざのたれ(10g)にカプサイシン量を勘案して数滴(1滴当たり約 0.35g) かけてぎょうざのたれの官能評価をおこなった。
【0028】使用原料:醗酵唐辛子 表1?3と同じもの カプサイシン含量:175(w/w)ppm 塩分 16%
乾燥唐辛子カプサイシン含量:4110(w/w)ppm
食酢 酢酸含量 :15(w/w)%
【0029】
【表4】


【0030】
辛みの評価結果 ○:適当な辛味
△:辛味がやや強い
×:辛味が強すぎる
表4からカプサイシン含量としては50ppm以上500ppm以下とすることが望ましいことがわかった。」

1i)上記1g)段落【0025】の【表3】における処方No.15の香辛調味料の酢酸濃度は4質量%(当審注:表3における「酢酸濃度(w/w )ppm」は「酢酸濃度(w/w)%」の誤記と認める。)、食塩濃度は9.3質量%、酢酸に対する塩分の質量比は、9.3/4=約2.33であって、5倍希釈時の酢酸濃度は4/5=0.8質量%、5倍希釈時の食塩濃度は9.3/5=1.86質量%であることが分かる。

1j)上記1h)段落【0029】の【表4】における処方No.18の香辛調味料の酢酸濃度は0.75質量%、食塩濃度は1.6質量%であって、酢酸に対する塩分の質量比は、1.6/0.75=約2.13であることが分かる。

1k)上記1g)段落【0025】の【表3】及び1h)段落【0029】の【表4】の処方から、香辛調味料は水を含むものであって液状のものであることが分かる。

1l)上記1g)から、【表3】の処方における香辛調味料を5倍に希釈して官能検査のためのサンプルとすることが分かる。

イ 甲1発明1及び甲1発明2
上記アの記載を総合すると、甲1には以下の発明が記載されている。

a 甲1発明1(上記【表3】処方No.15を官能検査のために5倍に希釈したものに基づく)
「うどん、鍋もの、餃子、パスタ、ピザ、焼肉、から揚げ、オムレツ、スープ、お好み焼、焼きそば、その他の料理に薬味やかくし味として使用することができる液状の香辛調味料において、酢酸濃度を0.8質量%とし、食塩濃度を1.86質量%として酢酸に対する食塩の質量比が約2.33となるように調整し、さらにカプサイシンを含有することにより辛味、酸味、塩味のバランスに優れた香辛調味料を官能検査するためのサンプルを提供する方法。」(以下、「甲1発明1」という。)

b 甲1発明2(上記【表4】処方No.18によるものに基づく)
「うどん、鍋もの、餃子、パスタ、ピザ、焼肉、から揚げ、オムレツ、スープ、お好み焼、焼きそば、その他の料理に薬味やかくし味として使用することができる液状の香辛調味料において、酢酸濃度を0.75質量%とし、食塩濃度を1.6質量%として酢酸に対する食塩の質量比を約2.13となるように調整し、さらにカプサイシンを含有することにより辛味、酸味、塩味のバランスに優れた香辛調味料を提供する方法。」(以下、「甲1発明2」という。)

(2)甲2
本件特許の出願前に頒布された甲2には「漬物用調味液」に関して次の記載がある。

ア 甲2の記載
2a)「【請求項1】
食塩1.0?4.0質量%、酢酸又はその塩0.03?0.3質量%及びカテキン類0.008?0.15質量%を含有する漬物用調味液。」

2b)「【0003】
漬物に用いる食材は、食材の保存や流通工程において微生物に汚染されている場合、カット等の加工工程でカット断面から微生物が内部に侵入拡散し、汚染されている場合等もあるので、漬物を保存している間菌の増殖を防止し、漬物の保存性を向上させることのできる漬物用調味液が望まれている。一般的な漬物用調味液には、4質量%程度以上の食塩や0.3%程度以上の酢酸が含まれている。
【0004】
しかしながら、このような一般的な漬物用調味液を用いた漬物には多くの食塩が含まれており、近年、食塩の過剰摂取は高血圧等を引き起こすとして、一般消費者は漬物に含まれる食塩の低減化を望むようになっている。ところが、この食塩の低減化は微生物による漬物の腐敗を進み易くするため、減塩化された漬物は、減塩によって損なわれた抗菌性を他の抗菌性物質で補う必要がある。しかも、一般消費者は、合成系の抗菌性物質よりも抗菌性は弱いものの長期間摂取しても安全性が高いとされる天然系の抗菌性物質を好む傾向にある。
また、漬物用調味液に含まれる酢酸には酢酸特有の酸味や臭い等があるため、食材の風味を損ない易く、多く配合することは好ましくない。」

2c)「【0007】
本発明は、食塩及び酢酸の使用量を減らし、且つ抗菌作用のある漬物用調味液を提供することに関する。」

2d)「【0010】
本発明の漬物用調味液は、食塩及び酢酸の使用量が減量されていても優れた抗菌作用を有する。
従って、当該漬物用調味液を用いれば、食材の風味を殆ど損なうことなく、保存性が維持又は向上した漬物を得ることができる。また、減塩化されているので、高血圧症等を予防又は改善することができる。」

2e)「【0011】
本発明に用いる食塩は、公知の製造法で得たものでもよく市販で入手したものでもよく、食品上許容される塩化ナトリウム又は天然塩(海水由来や岩塩由来)が挙げられる。
本発明の漬物用調味液中の食塩含有量は、減塩化及び抗菌作用、酢臭抑制の点から、塩化ナトリウム換算で1.0?4.0質量%であることが必要であり、2.0?3.5質量%であるのがより好ましい。
【0012】
本発明に用いる酢酸又はその塩は、公知の製造法で得たものでもよく市販で入手したもの(例えば、穀物酢等の食酢)でもよい。当該塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩:カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩:アンモニウム塩等が挙げられる。
本発明の漬物用調味液中の酢酸又はその塩の含有量は、酢カドの抑制及び抗菌作用の点から、酢酸(分子量82.03)換算で0.03?0.3質量%であることが必要であり、0.05?0.25質量%であるのがより好ましく、0.05?0.20質量%であるのが更に好ましい。
ここで、酢カドとは、食酢特有の刺激臭や酸味を指し、この抑制とは刺激臭や酸味を少なくし、まろやかな風味を持たせることをいう。」

2f)「【0019】
本発明の漬物用調味液において、減塩化され、食材の風味を殆ど損なうことなく、保存性が向上した漬物が得られる点から、食塩:酢酸:カテキン類の配合質量比は、1.0?4.0:0.03?0.3:0.008?0.15が好ましい。特に減塩化の点および食材の風味を損なわない点から食塩:酢酸:カテキン類の配合質量比は、2.0?3.5:0.05?0.25:0.01?0.1であるのが好ましく、2.0?3.5:0.05?0.25:0.04?0.08であるのがより好ましく、2.0?3.5:0.05?0.20:0.04?0.08であるのが更に好ましい。」

2g)上記2a)から、「食塩1.0?4.0質量%、酢酸又はその塩0.03?0.3質量%」として、酢酸に対する食塩の質量比は、食塩1.0/酢酸0.3=約3.3(最小値)、食塩4/酢酸0.03=約133(最大値)となり、約3.3ないし133の数値範囲となることが分かる。

イ 甲2発明
上記アの記載を総合すると、甲2には以下の発明が記載されている。

「漬物用調味液において、酢酸を0.03?0.3質量%とし、食塩を1.0?4.0質量%として、酢酸に対する食塩の質量比を約3.3?133の数値範囲となるように調整し、さらにカテキン類を0.008?0.15質量%含有せしめることにより食塩及び酢酸の使用量が減量されていても優れた抗菌作用を有する漬物用調味液を提供する方法。」(以下、「甲2発明」という。)

(3)甲3の1
本件特許の出願前に頒布された甲3の1には「酸性液体調味料」に関して次の記載がある。

3-1a)「1.不揮発性有機酸を主体とする酸性液体調味料で、不揮発性有機酸が、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、フマル酸ーナトリウム、グルコン酸、コハク酸からなる群から選択された1もしくは2以上からなり、酸度が4以上であることを特徴とする酸性液体調味料。」(第1ページ左欄第5ないし10行)

3-1b)「食酢は食品の保存と風味の増強という点でかかすことのできない調味料であるが、反面酢酸独得の強い刺戟臭を嫌う人も多く、加熱するとその刺戟臭は一層強まり食酢を多量に使用する工場附近では公害問題にまでなるほどである。」(第1ページ右欄第16行ないし20行)

(4)甲3の2
本件特許の出願前に頒布された甲3の2には「不揮発性有機酸醸造液含有酸性液体調味料」に関して次の記載がある。

3-2a)「1.不揮発性有機酸醸造液もしくはその処理物を含有し、酸度が4以上であることを特徴とする不揮発性有機酸醸造液含有酸性液体調味料。」(第1ページ左欄第5ないし7行)

3-2b)「食酢は食品の保存と風味の増強という点でかかすことのできない調味料であるが、反面酢酸独得の強い刺激臭を嫌う人も多く、加熱するとその刺激臭は一層強まり食酢を多量に使用する工場附近では公害問題にまでなるほどである。」(第2ページ左上欄第6ないし10行)

(5)甲3の3
本件特許の出願前に頒布された甲3の3には「食酢含有酸性液体調味料」に関して次の記載がある。

3-3a)「不揮発性有機酸を主体とする酸性液体調味料において酢酸濃度が全酸度の50%以下となるように食酢が含有されることを特徴とする食酢含有酸性液体調味料。」(第1ページ左欄第5ないし8行)

3-3b)「食酢は食品の保存と風味の増強という点でかかすことのできない調味料であるが、反面酢酸独得の強い刺戟臭を嫌う人も多く、加熱するとその刺戟臭は一層強まり食酢を多量に使用する工場附近では公害問題にまでなるほどである。」(第1ページ左欄第18行ないし右欄第2行)

(6)甲3の4
本件特許の出願前に頒布された甲3の4には「酢酸含有飲食物及び酢酸含有飲食物の酢酸臭低減方法」に関して次の記載がある。

3-4a)「【請求項1】
酢酸を0.1?10質量%含有し、且つ、酢酸とヘキサナールの含有質量比が100対0.00001?100対0.001となるようにヘキサナールを含有することを特徴とする酢酸含有飲食物。」

3-4b)「【0004】
また、スーパーマーケットやコンビニエンスストアー等で販売される弁当や惣菜等を購入して持ち帰って食する、いわゆる「中食」と呼ばれる食習慣が普及しているが、製造されてから比較的長時間経過後に食膳に供されることから、微生物増殖による腐敗の防止などの保存性の付与が必要であり、有機酸又はその塩類がよく用いられている(例えば、特許文献1参照)。グルコン酸やクエン酸などのいわゆる不揮発性の有機酸又はその塩類が使われる場合もあるが、防腐力の点からいえば、酢酸又はその塩類の方が効果が大きい。
しかしながら、酢酸は、炊飯米に独特の刺激のある酢酸臭を付与してしまう傾向がある。特に、酢酸を含有する炊飯改良剤を添加した炊飯米を食する際に電子レンジ等で再加熱等すると、強い酢酸臭が発生して風味を著しく低下させるという欠点があった。
通常、酢酸等の有機酸含有炊飯改良剤は、生米当たりの酢酸濃度を0.01?0.1重量%程度とし、炊き上がり後の炊飯米のpHがおよそ5?6になるようにして用いられる。
しかしながら、このような状態の炊飯米は、電子レンジ等による再加熱前であっても酢酸臭が感じられ、さらに再加熱をすることで酢酸が揮発しやすい状態となるので、刺激のある酢酸臭がより一層強くなってしまうという欠点があった。」

(7)甲3の5
本件特許の出願前に頒布された甲3の5には「酢酸含有飲食物、並びに、酢酸含有飲食物の酢酸臭低減方法」に関して次の記載がある。

3-5a)「【請求項1】
酢酸を0.01?10質量%含有し、且つ、カンファーを酢酸100に対する含有質量比が0.00001?0.001となる量で含有すること及び/又はオイゲノールを酢酸100に対する含有質量比が0.0001?0.01となる量で含有すること、を特徴とする酢酸含有飲食物。」

3-5b)「【0004】
また、スーパーマーケットやコンビニエンスストアー等で販売される弁当や惣菜等を購入して持ち帰って食する、いわゆる「中食」と呼ばれる食習慣が普及しているが、製造されてから比較的長時間経過後に食膳に供されることから、微生物増殖による腐敗の防止などの保存性の付与が必要であり、有機酸又はその塩類がよく用いられている(例えば、特許文献1参照)。グルコン酸やクエン酸などのいわゆる不揮発性の有機酸又はその塩類が使われる場合もあるが、防腐力の点からいえば、酢酸又はその塩類の方が効果が大きい。
しかしながら、酢酸は、炊飯米に独特の刺激のある酢酸臭を付与してしまう傾向がある。特に、酢酸を含有する炊飯米改良剤を添加した炊飯米を食する際に電子レンジ等で再加熱等すると、強い酢酸臭が発生して風味を著しく低下させるという欠点があった。
通常、酢酸等の有機酸含有炊飯米改良剤は、生米当たりの酢酸濃度を0.01?0.1重量%程度とし、炊き上がり後の炊飯米のpHがおよそ5?6になるようにして用いられる。
しかしながら、このような状態の炊飯米は、電子レンジ等による再加熱前であっても酢酸臭が感じられ、さらに再加熱をすることで酢酸が揮発しやすい状態となるので、刺激のある酢酸臭がより一層強くなってしまうという欠点があった。」

(8)甲4の1
本件特許の出願前に頒布された甲4の1には「米酢を使用した健康飲料」に関して次の記載がある。

4-1a)「容器内に、米酢と各種添加物とを適宜の比率で混合し密封して成る米酢を使用した健康飲料。」(第1ページ左欄第5及び6行)

4-1b)「(発明の構成)
上記目的を達成するため、この発明にあつては、容器内に、米酢と各種添加物とを適宜の比率で混合し密封することで健康飲料を構成したものである。」(第2ページ左上欄第2ないし6行)

4-1c)「以上の添加物を需用者の好みに応じて適宜選択し所定濃度の米酢に混合するわけであるが、特に炭酸を添加した場合には、1%程度の酢酸であっても十分飲料とすることが可能である。又、食塩を少量添加することで酢酸の刺激臭を抑えることができる。」(第2ページ左下欄第8ないし13行)

(9)甲4の2
本件特許の出願前に頒布された甲4の2には「中華ゆで麺の製造方法」に関して次の記載がある。

4-2a)「【請求項1】 強力粉を主体とする小麦粉を含む原料粉を用いて中華ゆで麺を製造する方法において、
食酢とクエン酸と食塩とを85:5:10の割合で混合して成る混合酢叉は食酢とクエン酸と食塩と酢酸とを80:5:10:5の割合で混合して成る混合酢を用意し、前記小麦粉に対する重量比で、25ないし60%の水と、1ないし2%の前記混合酢とを前記原料粉に加えて攪拌し、生麺を成型する第1の工程と、
いずれかの前記混合酸を加えた熱湯にて前記生麺を煮沸して、固ゆで麺を得る第2の工程と、
前記ゆで麺を水洗冷却する第3の工程と、
いずれかの前記混合酢を加えたアルコール溶液に前記ゆで麺を浸漬する第4の工程と、
前記アルコール溶液から取出したゆで麺を包装材で密封包装する第5の工程と、から成ることを特徴とする、中華ゆで麺の製造方法。」

4-2b)「【0006】
【作用】食酢および酢酸はPHが低く殺菌効果が高いが、臭みが強い。クエン酸は殺菌効果の点でやや劣るが、殆ど臭わない。食塩は、酸の臭みを消す効果を有する。本発明に用いられる混合酢は、これらの特性の組合わせにより、十分な殺菌効果、即ち、PH低減効果を発揮し、しかも臭みを感じさせない。生麺の成型時に加えられる水のPHが、同時に加えられる上記混合酢により、低減されるので、麺線のPHが低く保たれる。また、ゆで湯に上記混合酢を加えることにより、麺線内に吸収される水分のPHが低減される。更に、アルコール溶液浸漬による殺菌工程で、アルコール溶液に前記混合酢を加えることにより、ゆで処理後の水洗冷却工程で付着する水による麺線表面のPHの上昇を防止する。これら、生麺を成型する工程、ゆで工程、その後の殺菌工程のいずれにおいても、上記混合酢は適量ずつ加えられるので、一度に多量の酸を付加する場合のように、麺線の腰や歯ごたえをなくしたり、酸の臭みや酸味を残すという弊害もなく、ゆで麺のPHを低く抑え、ゆで麺の長期常温保存を可能にする。原料粉に加えられた澱粉により、ゆで麺の賞味時に、十分な弾力性及び「腰」が楽しめる。」

(10)甲4の3
本件特許の出願前に頒布された甲4の3には「食品添加剤」に関して次の記載がある。

4-3a)「【請求項1】 酢酸ナトリウムとPH調整剤を主剤とし、この主剤に食塩または塩化カリウムを助剤として配合して製剤される緩衝酢酸系の食品添加剤。」

4-3b)「【0010】
【発明の効果】以上に述べたように本発明の食品添加剤は、従来の酢酸ナトリウムとPH調整剤を主剤とする所謂、緩衝酢酸形の製剤に見られる酢酸臭を発生させたり、異味が残るといったような課題を、これらの主剤に対して食塩又は塩化ナトリウムを助剤として配合することによって解決し、さらに相乗的に抗菌力を向上して食品の日持ちを顕著に延長させることができる。また、主剤の一つであるPH調整剤を、抗菌力,臭,味,溶解度等を考慮し、使用目的に合わせて液状製剤では酢酸または乳酸を使用し、粉末製剤ではアジピン酸,クエン酸,リンゴ酸,コハク酸,フマル酸,フマル酸一ナトリウム,グルコノデルタラクトン,リン酸塩類等を適宜組合せて使用して、多種類の加工食品に対して有効に作用させることができる。」

[2]異議理由についての判断
1 異議理由1について
(1)本件特許の請求項1の記載は、「加熱調理時に使用する液状調味料において、酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ、酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整することにより、65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法・・。」であって、「加熱調理時に使用する液状調味料」は、「加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」において前提となる構成であるから本件特許の請求項1の記載は、全体としてみれば「方法」についての記載ということができ、両者が対応していないから不明確というものではない。

(2)本件特許の請求項1の記載における「酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ」及び「酢酸濃度および/または塩分濃度を調整する」ことは、「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」を構成するためのステップを表していることは明らかであって、ステップを行う主体が記載されていないから、そのステップ自体が不明確となるものではない。
したがって、上記(1)及び(2)の検討によれば、本件特許発明は明確である。

2 異議理由2について
本件特許明細書には、酢酸に対する塩分の質量比を変化させた場合における酢酸臭の官能評価に関して次のとおり記載されている。

「【0039】
以上、表2で示された結果から、当該効果は、酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3の範囲付近に優れた効果があることが示された。特には1.5?2.5で顕著な効果があり、最も好ましくは2付近にピークがあることが示された。
それに対して、当該質量比を4よりも高めた場合(試料1-6)、酢酸臭は強く感じられるようになり、風味も好ましいものではなかった。
【0040】



本件特許明細書の上記段落【0039】及び段落【0040】の【表2】の記載には、酢酸臭に関して酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3の範囲付近に優れた効果があり、両者の質量比が2である場合において効果がピークとなることが示されている。
そうすると、本件特許明細書段落【0049】ないし【0054】、【表6】に記載の[実施例4]において両者の質量比を2としたのは、酢酸臭を抑制するという効果に関して最も優れた数値を、優れた効果があるとされた1.5?3の数値範囲の中から選択したものといえる。
そして、両者の質量比が2以外の1.5?3の数値範囲であっても上述のとおり、酢酸臭に関して一定の優れた効果が得られるのであるから、同様に、本件特許明細書段落【0054】の【表6】において、「塩分/酢酸(質量比)」が2以外の1.5?3の範囲の「調理時」においても、一定の優れた効果が得られると認められる。
したがって、上記本件特許明細書の記載は、本件特許の請求項1に記載の「酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3」の数値範囲のうち、両者の質量比が2以外の液状調味料を加熱調理に使用した場合に加熱調理時の酢酸臭が抑制されることを認められるのであるから、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できないとすることはできない。

3 異議理由3について
(1)甲1発明1を引用発明とした場合の検討
本件特許発明と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1における「酢酸濃度を0.8質量%」とすることは、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明における「酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ」ることに相当し、同様に、「食塩濃度を1.86質量%として酢酸に対する食塩の質量比が約2.33となるように調整」することは、本件特許発明における「酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整すること」に相当する。
また、甲1発明1における「うどん、鍋もの、餃子、パスタ、ピザ、焼肉、から揚げ、オムレツ、スープ、お好み焼、焼きそば、その他の料理に薬味やかくし味として使用することができる液状の香辛調味料」と、本件特許発明における「加熱調理時に使用する液状調味料」とは、「液状調味料」という限りにおいて一致し、
甲1発明1における「さらにカプサイシンを含有することにより辛味、酸味、塩味のバランスに優れた香辛調味料を官能検査するためのサンプルを提供する方法」と、本件特許発明における「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」とは、「液状調味料に特定の機能を付与する方法」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「液状調味料において、酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ、酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整することにより、液状調味料に特定の機能を付与する方法。」

[相違点1]
液状の調味料に関して、本件特許発明においては「加熱調理時に使用する液状調味料」であるのに対して、甲1発明1においては「うどん、鍋もの、餃子、パスタ、ピザ、焼肉、から揚げ、オムレツ、スープ、お好み焼、焼きそば、その他の料理に薬味やかくし味として使用することができる液状の香辛調味料」であって、加熱調理時に使用するものであるか不明である点。

[相違点2]
液状調味料に特定の機能を付与する方法に関して、本件特許発明においては「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」であるのに対して、甲1発明1においては「さらにカプサイシンを含有することにより辛味、酸味、塩味のバランスに優れた香辛調味料を官能検査するためのサンプルを提供する方法。」である点。

[相違点3]
本件特許発明においては「液状調味料は、チアミンラウリル硫酸塩を含有しない」のに対して、甲1発明1においては、「液状の香辛調味料」がチアミンラウリル硫酸塩を含有するか否か不明である点。

事案に鑑み、まず上記相違点2について判断する。

[相違点2について]
甲1発明1における「香辛調味料を官能検査するためのサンプル」は、官能検査のために香辛調味料の酢酸濃度を0.8質量%、食塩濃度を1.86質量%とするものであって、当該「香辛調味料を官能検査するためのサンプル」を「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する」ために用いることは、甲2ないし甲4の3の記載をみても示唆がない。
したがって、甲1発明1及び甲2ないし甲4の3の記載に基いて上記相違点2に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

そうすると、本件特許発明は、相違点1及び3について検討するまでもなく、甲1発明1及び甲2ないし甲4の3の記載に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)甲1発明2を引用発明とした場合の検討
本件特許発明と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2における「酢酸濃度を0.75質量%」とすることは、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明における「酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ」ることに相当し、同様に、「食塩濃度を1.6質量%として酢酸に対する食塩の質量比が約2.13となるように調整」することは、本件特許発明における「酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整すること」に相当する。
また、甲1発明2における「うどん、鍋もの、餃子、パスタ、ピザ、焼肉、から揚げ、オムレツ、スープ、お好み焼、焼きそば、その他の料理に薬味やかくし味として使用することができる液状の香辛調味料」と、本件特許発明における「加熱調理時に使用する液状調味料」とは、「液状調味料」という限りにおいて一致し、
甲1発明2における「さらにカプサイシンを含有することにより辛味、酸味、塩味のバランスに優れた香辛調味料を提供する方法」と、本件特許発明における「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」とは、「液状調味料に特定の機能を付与する方法」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「液状調味料において、酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ、酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整することにより、液状調味料に特定の機能を付与する方法。」

[相違点4]
液状調味料に関して、本件特許発明においては「加熱調理時に使用する液状調味料」であるのに対して、甲1発明2においては「うどん、鍋もの、餃子、パスタ、ピザ、焼肉、から揚げ、オムレツ、スープ、お好み焼、焼きそば、その他の料理に薬味やかくし味として使用することができる液状の香辛調味料」であって、加熱調理時に使用するものであるか不明である点。

[相違点5]
液状調味料に特定の機能を付与する方法に関して、本件特許発明においては「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」であるのに対して、甲1発明2においては「さらにカプサイシンを含有することにより辛味、酸味、塩味のバランスに優れた香辛調味料を提供する方法」である点。

[相違点6]
本件特許発明においては「液状調味料は、チアミンラウリル硫酸塩を含有しない」のに対して、甲1発明2においては、「液状の香辛調味料」がチアミンラウリル硫酸塩を含有するか否か不明である点。

事案に鑑み、まず上記相違点5について判断する。

[相違点5について]
甲1発明2における「さらにカプサイシンを含有することにより辛味、酸味、塩味のバランスに優れた香辛調味料」は、甲1において上記[1]4(1)ア 1h)の段落【0027】に「ぎょうざのたれ」に使用することの記載があるものの、「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する」ために用いることについて甲2ないし甲4の3の記載をみても示唆がない。
したがって、甲1発明2及び甲2ないし甲4の3の記載に基いて上記相違点5に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

そうすると、本件特許発明は、相違点4及び6について検討するまでもなく、甲1発明2及び甲2ないし甲4の3の記載に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(3)甲2発明を引用発明とした場合の検討
本件特許発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「食塩」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明の「塩分」に相当する。
また、甲2発明における「漬物用調味液」と、本件特許発明における「加熱調理時に使用する液状調味料」とは、「液状調味料」という限りにおいて一致し、
甲2発明における「酢酸を0.03?0.3質量%とし、食塩を1.0?4.0質量%として、酢酸に対する食塩の質量比を約3.3?133の数値範囲となるように調整」することと、本件特許発明における「酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ、酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整すること」とは、「酢酸と食塩とを所定濃度で含有するように調整すること」という限りにおいて一致し、
甲2発明における「さらにカテキン類を0.008?0.15質量%含有せしめることにより食塩及び酢酸の使用量が減量されていても優れた抗菌作用を有する漬物用調味液を提供する方法」と、本件特許発明における「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」とは、「液状調味料に特定の機能を付与する方法」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「液状調味料において、酢酸と食塩とを所定濃度で含有するように調整することにより、特定の機能を有する液状調味料を提供する方法。」

[相違点7]
液状調味料に関して、本件特許発明においては「加熱調理時に使用する液状調味料」であるのに対し、甲2発明においては「漬物用調味料」である点。

[相違点8]
酢酸と食塩とを所定濃度で含有するように調整することに関して、本件特許発明においては「酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ、酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整する」のに対し、甲2発明においては「酢酸を0.03?0.3質量%とし、食塩を1.0?4.0質量%として、酢酸に対する食塩の質量比を約3.3?133の数値範囲となるように調整」する点。

[相違点9]
液状調味料に特定の機能を付与する方法に関して、本件特許発明においては「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する方法」であるのに対して、甲2発明においては「さらにカテキン類を0.008?0.15質量%含有せしめることにより食塩及び酢酸の使用量が減量されていても優れた抗菌作用を有する漬物用調味液を提供する方法」である点。

[相違点10]
本件特許発明においては「液状調味料は、チアミンラウリル硫酸塩を含有しない」のに対して、甲2発明においては、「漬物用調味液」がチアミンラウリル硫酸塩を含有するか否か不明である点。

上記相違点について判断する。

[相違点7ないし9について]
甲2発明における「漬け物用調味料」は、そもそも漬け物用であるから加熱を予定するものではなく、「加熱調理時に使用する液状調味料」として用いる動機付けがなく、また、甲2発明は「カテキン類0.008?0.15質量%含有せしめることにより食塩及び酢酸の使用量を減量」するものであって酢酸の濃度(質量%)を増加させることに阻害要因があるから、甲2発明の「漬け物用調味料」において、甲1及び甲3の1ないし甲4の3の記載を参酌しても、酢酸をストレート換算で0.75?1.25質量%含有せしめ、酢酸に対する塩分の質量比が1.5?3となるように、酢酸濃度および/または塩分濃度を調整」して、「65?250℃での加熱調理時の酢酸臭を抑制する」ことにより上記相違点7ないし9に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

そうすると、本件特許発明は、相違点10について検討するまでもなく、甲2発明、甲1及び甲2ないし甲4の3の記載に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-05-22 
出願番号 特願2016-92407(P2016-92407)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
登録日 2018-04-20 
登録番号 特許第6323765号(P6323765)
権利者 株式会社Mizkan Holdings 株式会社Mizkan
発明の名称 液状調味料  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  
代理人 高橋 洋平  

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