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審決分類 |
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C25D 審判 一部申し立て 2項進歩性 C25D 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C25D |
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管理番号 | 1352337 |
異議申立番号 | 異議2019-700188 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-03-08 |
確定日 | 2019-06-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6395560号発明「銀めっき材およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6395560号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6395560号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年10月29日(優先権主張 平成25年11月8日)に出願され、平成30年9月7日に特許権の設定登録がされ、同年9月26日に特許掲載公報が発行され、その後、平成31年3月8日付けで請求項7を除く請求項1?6に対し、特許異議申立人である山田芳男(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 素材上に銀からなる表層が形成された銀めっき材において、表層の優先配向面が{111}面であり、50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の比が0.5以上であることを特徴とする、銀めっき材。 【請求項2】 反射濃度が1.0以上であることを特徴とする、請求項1に記載の銀めっき材。 【請求項3】 ビッカース硬さHvが100以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀めっき材。 【請求項4】 50℃で168時間加熱した後のビッカース硬さHvが100以上であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の銀めっき材。 【請求項5】 前記素材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の銀めっき材。 【請求項6】 前記素材と前記表層との間にニッケルからなる下地層が形成されていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の銀めっき材。」 第3 申立理由の概要 申立人の主張する申立理由の概要は以下のとおりである。 1 申立理由1(サポート要件違反) 請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4項の規定により取り消されるべきものである。 2 申立理由2(実施可能要件違反) 請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4項の規定により取り消されるべきものである。 3 申立理由3(明確性要件違反) 請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4項の規定により取り消されるべきものである。 4 申立理由4(進歩性欠如) 本件発明1?6は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2012-162775号公報 甲第2号証:若林信一 外4名,「銀めっき皮膜の室温放置による再結晶化」,表面技術,Vol.51,No.10(2000年10月号),社団法人表面技術協会,第1021?1025頁 (以下、甲第1号証及び甲第2号証を、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。) 第4 当審の判断 1 申立理由1(サポート要件違反)について (1)申立人の主張 申立理由1について、申立人が主張する内容は以下のとおりである(異議申立書第5頁第4行?第8頁第13行)。 本件発明1では、銀からなり優先配向面が{111}面である表層が形成された銀めっき材について、「50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の比が0.5以上である」という特性を有することが特定されている。 上記特性を有する銀めっき材は、実施例1?16の製造方法によって製造できることは理解できる。 しかし、発明の詳細な説明には、銀めっき材のどのような構造等に起因して上記の特性が得られるのかについては何ら記載がなく、このような記載がないと、実施例1?16の製造方法以外の製造方法で本件発明1に係る銀めっき材を製造しようとした場合に、当業者は指針がないままで過度の試行錯誤を強いられることになる。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、実施例1?16の製造方法以外の製造方法で製造された銀めっき材も含む本件発明1の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件発明1及び引用によって本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2?6は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 (2)当審の判断 ア サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであるところ(平成17年(行ケ)第10042号・特別部判決参照)、以下、上記観点に立って検討する。 イ 発明の詳細な説明に記載された事項 (ア)本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(なお「・・・」は記載の省略を表す。以下同様)。 a 技術分野 「【0001】 本発明は、銀めっき材・・・に関・・・する。 b 背景技術 「【0002】 従来、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料として、銅または銅合金やステンレス鋼などの・・・素材に・・・錫、銀、金などのめっきを施しためっき材が使用されている。 【0003】 ・・・銀めっき材は、金めっき材と比べて安価であり、錫めっき材と比べて耐食性に優れている。 【0004】 また、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料は・・・耐摩耗性も要求される。 【0005】 しかし、銀めっき材では、再結晶により銀めっきの結晶粒が増大し易く、この結晶粒の増大により硬度が低くなって、耐摩耗性が低下するという問題がある・・・。 【0006】 このような銀めっき材の耐摩耗性を向上させるために、銀めっき中にアンチモンなどの元素を含有させることにより、銀めっき材の硬度を向上させる方法が知られている・・・。」 「【0008】 しかし、銀めっき中にアンチモンなどの元素を含有させると、銀が合金化して硬度が向上するものの、銀の純度が低くなるため、接触抵抗が増加するという問題がある。」 c 発明が解決しようとする課題 「【0009】 ・・・本発明は、このような従来の問題点に鑑み、高い硬度を維持したまま、接触抵抗の増加を防止することができる、銀めっき材・・・を提供することを目的とする。」 d 発明を実施するための形態 「【0015】 本発明による銀めっき材の実施の形態では、素材上に銀からなる表層が形成された銀めっき材において、表層の優先配向面が{111}面であるとともに、50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の比が0.5以上で・・・あれば、再結晶を防止して、銀めっき材の高い硬度を維持したまま、接触抵抗の増加を防止することができる。」 【0016】 ・・・また、銀めっき材の接触抵抗の増加を防止するために、表層のAg純度が99質量%以上であるのが好ましく、99.5質量%以上であるのがさらに好ましい。 【0017】 このような銀めっき材は、80?110g/Lの銀と70?160g/Lのシアン化カリウムと55?70mg/Lのセレンを含む銀めっき液中において、所定の液温および電流密度で電気めっきを行って・・・素材上に・・・銀からなる表層を形成することによって製造することができる。具体的には、液温12?24℃、電流密度3?8A/dm^(2)の範囲内において、シアン化カリウムの濃度と電流密度の積と液温との関係が後述する実施例に記載の所定の範囲内であれば・・・製造することができる。」 e 実施例 「【0020】 ・・・ まず、素材(被めっき材)として67mm×50mm×0.3mmの純銅からなる圧延板を用意し・・・電解脱脂を行い・・・水洗した後・・・酸洗し・・・水洗した。 【0021】 次に・・・電気めっき(無光沢ニッケルめっき)を行って、厚さ1μmの無光沢ニッケルめっき皮膜を形成した後、15秒間水洗した。 【0022】 次に・・・電気めっき(銀ストライクめっき)を行った後、15秒間水洗した。」 「【0025】 銀めっき材のビッカース硬さHvは、微小硬さ試験機(株式会社ミツトヨ製のHM-221)を使用し、測定荷重10gfを10秒間加えて、JIS Z2244に準じて測定した。・・・ 【0026】 銀めっき材の銀めっき皮膜の結晶の配向を評価するために、X線回折(XRD)分析装置(理学電気株式会社製の全自動多目的水平型X線回折装置Smart Lab)により・・・得られたX線回折パターンから、銀めっき皮膜の{111}面、{200}面、{220}面および{311}面の各々のX線回折ピーク強度(X線回折ピークの強度)をJCPDSカードNo.40783に記載された各々の相対強度比(粉末測定時の相対強度比)({111}:{200}:{220}:{311}=100:40:25:26)で割ることにより補正して得られた値(補正強度)が最も強いX線回折ピークの面方位を銀めっき皮膜の結晶の配向の方向(優先配向面)として評価した。・・・ 【0027】 また、銀めっき材の{111}面、{200}面、{220}面および{311}面のX線回折ピーク強度の補正強度の和に対する優先配向面のX線回折ピーク強度の補正強度の百分率(優先配向面のX線回折ピーク強度比)を算出した・・・」 「【0029】 また、得られた銀めっき材を乾燥機(アズワン社製のOF450)により大気中において50℃で168時間(1週間)加熱する耐熱試験を行った後、上記と同様の方法により、ビッカース硬さHvを測定するとともに、銀めっき皮膜の結晶の配向を評価した。・・・」 【0030】 また、電気接点シミュレータ(山崎精機研究所製のCRS-1)により、銀めっき材の板面上にR=1の半球形状にインデント加工した銀めっき材を荷重300gfで押し当てながら、摺動速度100mm/分で摺動距離5mmとして1回摺動させたときの接触抵抗を測定した・・・。 【0031】 また、銀めっき材の光沢度として、濃度計(日本電色株式会社製のデントシメーターND-1)を用いて、素材の圧延方向に対して平行に銀めっき材の反射濃度を測定した・・・。 【0032】 また、電気接点シミュレータ(山崎精機研究所製のCRS-1)により、銀めっき材の板面上にR=1の半球形状にインデント加工した銀めっき材を荷重300gfで押し当てながら、摺動速度100mm/分で摺動距離5mmとして、往復摺動動作を50回続ける摺動試験を行った後、レーザーマイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVK-9710)により、(摺動により削られた)銀めっき皮膜の摺動痕の断面プロファイルを解析して、摺動痕の幅と深さから算出した摺動痕の断面積を銀めっき皮膜の摩耗量とした。・・・ 【0033】 また、銀めっき材の銀めっき皮膜を硝酸に溶かして液体にした後、溶液の濃度を調整し、ICP発光分光分析(ICP-OES)装置(セイコーインスツル株式会社製のSPS5100)を使用してプラズマ分光分析によりAg純度を求めた・・・。」 「【0130】 ・・・実施例および比較例の銀めっき材の製造条件および特性を表1?表3に示す。 【0131】 【表1】 【0132】 【表2】 【0133】 【表3】 【0134】 表1?表3からわかるように・・・実施例1?16の銀めっき材は、高い硬度を維持したまま、接触抵抗の増加を防止することができる。 【0135】 また、実施例1?16と比較例1?3および6?8の銀めっき材を80?110g/Lの銀と70?160g/Lのシアン化カリウムと55?70mg/Lのセレンを含む銀めっき液で製造する際の銀めっき液中のシアン化カリウムの濃度と電流密度の積と液温との関係を図1に示す。図1に示すように、実施例1?16において、(KCN濃度×電流密度)をy、液温をxとして・・・(34.3x-267)≦y≦(34.3x+55)になるようにすれば・・・実施例1?16の銀めっき材を製造することができる。」 「【図1】 」 (イ)前記(ア)によれば、発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。 a 本件発明は、銀めっき材に関する(【0001】)。 b 従来、コネクタやスイッチ等の接点や端子部品等の材料として、銅、銅合金、ステンレス鋼等の素材に、錫、銀、金等のめっきを施しためっき材が使用されており(【0002】)、このうち、銀めっき材は、金めっき材と比べて安価であり、錫めっき材と比べて耐食性に優れているものの(【0003】)、コネクタやスイッチ等の接点や端子部品等の材料は、耐摩耗性も要求されるところ(【0004】)、銀めっき材では、再結晶により銀めっきの結晶粒が増大し易く、この結晶粒の増大により硬度が低くなって、耐摩耗性が低下するという問題があった(【0005】)。 このような銀めっき材の耐摩耗性を向上させるために、銀めっき中にアンチモン等の元素を含有させることにより、銀めっき材の硬度を向上させる方法が知られているが(【0006】)、そうすると、銀が合金化して硬度が向上するものの、銀の純度が低くなるため、接触抵抗が増加するという問題があった(【0008】)。 c 本件発明は、このような従来の問題点に鑑み、高い硬度を維持したまま、接触抵抗の増加を防止することができる、銀めっき材を提供することを発明が解決しようとする課題(以下、「課題」という。)とする(【0009】)。 d 前記cの課題は、素材上に銀からなる表層が形成された銀めっき材において、表層の優先配向面を{111}面にするとともに、50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の比を0.5以上にして、銀めっき材の再結晶による結晶粒の増大を防止し、高い硬度を維持できるようにすることで解決することができる(【0015】)。 このような銀めっき材は、80?110g/Lの銀と、70?160g/Lのシアン化カリウムと、55?70mg/Lのセレンを含む銀めっき液中において、液温を12?24℃、電流密度を3?8A/dm^(2)の範囲内とした上で、「シアン化カリウムの濃度(KCN濃度)と電流密度の積と液温との関係」を後述する実施例に記載の所定の範囲内とした条件で電気めっきを行うことによって製造することができる(【0017】)。 そして、実施例に記載された上記関係とは、図1に示すように、(KCN濃度×電流密度)をy、液温をxとした場合に、両者が (34.3x-267)≦y≦(34.3x+55) の関係を満たすようにすることである(図1,【0135】)。 e 実施例及び比較例においては、67mm×50mm×0.3mmの純銅からなる圧延板を素材(被めっき材)とし(【0020】)、厚さ1μmの無光沢ニッケルめっき皮膜(【0021】)の形成、電気めっき(銀ストライクめっき)(【0022】)を順次行った後に、銀めっき皮膜を形成した。 実施例1?16については、本件発明1の「銀からなる表層」「の優先配向面が{111}面であり、50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の比が0.5以上である」という特定事項を充足しており、いずれも、接触抵抗(【0030】)が0.55mΩ(実施例8)以下で、かつ、摺動試験後の摩耗量が350μm^(2)(実施例15)以下となっている(表2,表3)。 これに対し、上記特定事項を充足していない比較例1?9については、接触抵抗が0.55mΩ以下で、かつ、摺動試験後の摩耗量が350μm^(2)以下となるものはない(表2,表3)。 ウ 当審の判断 (ア)前記イ(イ)にあるとおり、発明の詳細な説明に接した当業者であれば、本件発明1の「銀からなる表層」「の優先配向面が{111}面であり、50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の比が0.5以上である」という特定事項を充足する実施例1?16については、いずれも、接触抵抗が0.55mΩ以下で、かつ、摺動試験後の摩耗量が350μm^(2)以下となっているから、「高い硬度を維持したまま、接触抵抗の増加を防止することができる、銀めっき材を提供する」という課題を解決しているといえるのに対し、上記特定事項を充足していない比較例1?9については、接触抵抗が0.55mΩ以下で、かつ、摺動試験後の摩耗量が350μm^(2)以下となるものはないから、いずれも上記課題を解決しているとはいえないことを理解できる。 (イ)したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるといえるから、請求項1の記載は、サポート要件に適合する。 同様の理由により、請求項1を引用する請求項2?6の記載についても、サポート要件に適合する。 (ウ)申立人は、前記(1)のとおり「出願時の技術常識に照らしても、実施例1?16の製造方法以外の製造方法で製造された銀めっき材も含む本件発明1の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない」と主張する。 しかし、サポート要件適合性の判断手法は、前記アのとおりであるところ、前記(ア)及び(イ)で検討したとおり、実施例1?16の製造方法による特定がなくても、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるといえるから、申立人による上記主張は採用の限りでない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。 2 申立理由2(実施可能要件違反)について (1)申立人の主張 申立理由2について、申立人が主張する内容は以下のとおりである(異議申立書第8頁第14?22行)。 申立理由1で主張したとおり、本件発明1及び引用によって本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2?6は、実施例1?16の製造方法以外の製造方法で製造された銀めっき材を含むにもかかわらず、発明の詳細な説明には、実施例1?16の製造方法以外の製造方法については何らの記載もされていない。 したがって、発明の詳細な説明は、このような実施例1?16の製造方法以外の製造方法で製造された銀めっき材を含む本件発明1?6について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 (2)当審の判断 ア 物の発明についての実施可能要件の判断手法 物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が上記の実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきであるところ、以下、上記観点に立って検討する。 イ 申立理由1の(2)イ(イ)のd,eにあるとおり、発明の詳細な説明には、80?110g/Lの銀と、70?160g/Lのシアン化カリウムと、55?70mg/Lのセレンを含む銀めっき液中において、液温を12?24℃、電流密度を3?8A/dm^(2)の範囲内とした上で、「シアン化カリウムの濃度(KCN濃度)と電流密度の積と液温との関係」に関し、(KCN濃度×電流密度)をy、液温をxとした場合に、両者が (34.3x-267)≦y≦(34.3x+55) の関係を満たすようにすれば、本件発明1の「銀からなる表層」「の優先配向面が{111}面であり、50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の比が0.5以上である」という特定事項を充足する実施例1?16の銀めっき材を製造できることが記載されている。 したがって、発明の詳細な説明は、当業者が、過度の試行錯誤をすることなく、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。 ウ また、実施例1?16は、申立理由1の(2)イ(イ)のd,eにあるとおり、請求項2?6でそれぞれ特定される事項も充足しているから、発明の詳細な説明は、当業者が、引用により本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2?6についても、過度の試行錯誤をすることなく、これを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。 エ 申立人は、前記(1)のとおり「発明の詳細な説明は、このような実施例1?16の製造方法以外の製造方法で製造された銀めっき材を含む本件発明1?6について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない」と主張するが、物の発明についての実施可能要件適合性の判断手法は、前記アのとおりであるところ、前記イ、ウで検討したとおり、発明の詳細な説明は、当業者が、過度の試行錯誤をすることなく、本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、上記主張は採用の限りでない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。 3 申立理由3(明確性要件違反)について (1)申立人の主張 申立理由3について、申立人が主張する内容は以下のとおりである(異議申立書第8頁下から第3行?第10頁末行)。 ア 本件発明1では、耐熱試験の評価条件を「50℃で168時間」と特定しているが、銀めっき材は、はんだ付けや接合の際に50℃より高い温度にさらされることがあり、また、銀めっき材には、168時間(1週間)よりも長い寿命が求められることに照らせば、当業者であっても「50℃168時間」という評価条件が妥当なものであると理解することはできない。 したがって、このような妥当性を欠く評価条件では、本件発明1が課題を解決できるか否かを判断することはできないから、本件発明1及び引用によって本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2?6は、明確であるとはいえない。 イ 本件発明1では、銀めっき材の「表層」が「銀からなる」ことが特定されており、このような「銀からなる表層」は、銀以外のものを含まない態様を意味する。 一方、発明の詳細な説明の【0016】には「銀めっき材の接触抵抗の増加を防止するために、表層のAg純度が99質量%以上であるのが好ましく、99.5質量%以上であるのがさらに好ましい。」と記載されており、上記記載では、「銀めっき材」の「表層」の「好まし」い純度が「99質量%以上」とされているから、上記記載は、純度として「99質量%未満」の場合を含む態様を排除していない。 以上によれば、本件発明1の「銀からなる表層」が、銀以外のものを含まない態様を意味するのか、銀の純度が99質量%未満の場合を含む態様を意味するのかが不明であるから、本件発明1及び引用によって本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2?6は、明確であるとはいえない。 (2)当審の判断 ア 明確性要件の判断手法 請求項に係る発明が明確性要件に適合するか否かは、当該請求項の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、当該請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきところ、以下、上記観点に立って検討する。 イ 請求項1の「50℃で168時間」という記載における「50℃」及び「168時間」という記載は、いずれもその内容を一義的に特定できることは明らかであり、解釈の余地はないから、「50℃で168時間」という記載によって特定される事項は、明確である。 申立人は、「50℃で168時間」という耐熱試験の評価条件が妥当性を欠くことを根拠に、本件発明1?6は、明確であるとはいえないと主張するが、上記のとおり「50℃で168時間」という記載によって特定される事項が明確であることは明らかであり、このことは、「50℃で168時間」という耐熱試験の評価条件が妥当であるか否かに左右されるものではないから、上記主張は採用の限りでない。 ウ また、請求項1の「銀からなる表層」という記載によって特定される事項が、「銀及び不可避的不純物のみからなる表層」を意味し、銀及び不可避的不純物以外の他の元素を意図的に添加したものでないことは、金属材料の分野における当業者の技術常識であるから、上記記載によって特定される事項は明確である。 申立人の主張するように、発明の詳細な説明の【0016】には「銀めっき材の接触抵抗の増加を防止するために、表層のAg純度が99質量%以上であるのが好ましく、99.5質量%以上であるのがさらに好ましい。」という記載があるが、これについては、銀の純度の文脈において、上記記載のうち、「99.5質量%以上であるのがさらに好ましい」とされる態様の一部に「銀からなる表層」という記載によって特定される事項が含まれると解して両記載を整合的に理解することができるから、発明の詳細な説明の上記記載によって「銀からなる表層」という記載によって特定される事項が不明確になることはない。 エ したがって、本件発明1及び引用によって本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2?6は、いずれも明確性要件に適合する。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由3には理由がない。 4 申立理由4(進歩性欠如)について (1)甲1の記載事項 ア 甲1には、以下の記載がある。 (1a)「本発明は、銀めっき材およびその製造方法に関・・・する。」(【0001】) (1b)「本発明は・・・銀めっき皮膜の厚さが薄く且つ銀めっき皮膜の表面を有機皮膜で覆わなくても、耐食性に優れた銀めっき材およびその製造方法を提供することを目的とする。」(【0007】) (1c)「本発明者らは・・・反射濃度が1.0以上であり且つ(111)面、(200)面、(220)面および(311)面のX線回折ピークの積分強度の合計に対する(111)面のX線回折ピークの積分強度の割合が40%以上である銀めっき皮膜を素材上に形成することにより、銀めっき皮膜の厚さが薄く且つ銀めっき皮膜の表面を有機皮膜で覆わなくても、耐食性に優れた銀めっき材を製造することができることを見出し・・・た。}(【0008】) (1d)「本発明による銀めっき材の製造方法の実施の形態では、80?250g/Lのシアン化銀カリウムと40?200g/Lのシアン化カリウムと3?35mg/Lのセレノシアン酸カリウムとからなる銀めっき液を使用して、液温15?30℃、電流密度3?10A/dm^(2)で電気めっきを行うことによって・・・銀めっき皮膜を形成する。」(【0017】) (1e)「銀めっき皮膜の耐食性は・・・JIS H8502のめっきの耐食性試験方法により、レイティングナンバ(以下「RN」という)標準図表を用いて評価した。RNは、腐食の度合いを目視で判断して0?10の数字で表したものであり、数字が大きいほど腐食が小さい、すなわち耐食性が良好であることを示している。」(【0029】) 「実施例および比較例の銀めっき材の作製条件および評価結果をそれぞれ表1および表2に示・・・す。」(【0056】) (1f)「【0057】【表1】 【0058】【表2】 」 イ 前記アによれば、甲1には、以下の事項が記載されているものと認められる。 (ア)本発明(甲1に記載された発明)は、銀めっき材及びその製造方法に関するもので(1a)、銀めっき皮膜の厚さが薄くかつ銀めっき皮膜の表面を有機皮膜で覆わなくても、耐食性に優れた銀めっき材及びその製造方法を提供することを目的とする(1b)。 (イ)本発明の銀めっき材は、素材上に銀めっき皮膜が形成された銀めっき材であって、上記銀めっき皮膜の反射濃度が1.0以上であり、かつ、上記銀めっき皮膜の(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面のX線回折ピークの積分強度の合計に対する(111)面のX線回折ピークの積分強度の割合が40%以上である銀めっき材であり、このような銀めっき材とすることで、前記(ア)の目的が達成される(1c)。 (ウ)また、本発明の銀めっき材における銀めっき皮膜は、80?250g/Lのシアン化銀カリウムと、40?200g/Lのシアン化カリウムと、3?35mg/Lのセレノシアン酸カリウムとからなる銀めっき液を使用して、液温15?30℃、電流密度3?10A/dm^(2)の条件で電気めっきを行うことによって形成する(1d)。 (エ)実施例及び比較例の銀めっき材においては、前記(ウ)の条件を満たした条件で銀めっき皮膜を形成した実施例1?4では、本発明の銀めっき材が形成され、耐食性の指標(RN)も10(実施例1,2),9.8-6(実施例3,4)と高い値になっているのに対し、前記(ウ)の条件のいずれかを満たしていない条件で銀めっき皮膜を形成した比較例1?10では、本発明の銀めっき材を形成することができず、耐食性の指標(RN)も、上記実施例の値に劣るものであった(1e,1f)。 (2)甲2の記載事項 ア 甲2は「銀めっき皮膜の室温放置による再結晶化」と題する研究論文であり、以下の記載がある。 (2a)「リードフレームに使用されている,低シアン銀めっき液から得られるめっき皮膜の室温における経時変化について・・・XRDなどの測定により検討した。」(第1021頁左下欄下から第2行?同頁右欄第2行) (2b)「2.1 めっき方法 めっき液はシアン化銀カリウム0.75mol/dm^(3),リン酸二カリウム0.5mol/dm^(3),セレンシアン酸カリウム0.025mmol/cm^(3)とした。めっき装置は・・・ジェットめっき装置を使用し,浴量2.0dm^(3),浴温70℃,めっき液の流速4m/sとした。・・・試験片には3cm×5cmの銅合金・・・を使用した。・・・試験片は・・・陰極電流密度40,120A/dm^(2)で直流電源を用いてめっきを行った。そして,めっき後の試料を大気中で放置し,めっき皮膜の経時変化を調べた。」(第1021頁右欄第4?19行) (2c)「3.結果 めっき皮膜の外観は,40A/dm^(2)では無光沢,120A/dm^(2)では光沢であった。」(第1022頁左欄第7?9行) (2d)「3.2 めっき皮膜の結晶構造 めっき皮膜のX線回折図の経時変化を図2に示す。光沢銀めっきについて,めっき直後は(111)面の回折強度が最も強かったが,回折強度は全体的に弱かった。しかし,めっきから約6時間後には(111)面と(200)面の回折強度が逆転し,(200)面の回折強度が増加した。そして,めっきから24時間後には(200)面の回折強度が約100Kcpsとなり,その後の放置では大きな変化は認められなかった。無光沢銀めっきについては,(220)面の回折強度が最も強かったが,回折強度は全体的に弱かった。また,めっき直後および放置後ともX線回折図はほとんど変わらなかった。」(第1022頁左欄第18行?同頁右欄第3行) (2e)「 」 イ 前記アによれば、甲2には、以下の事項が記載されているものと認められる。 (ア)低シアン銀めっき液から得られる銀めっき皮膜の室温における経時変化についてXRD(X線回折)により検討した(2a)。 (イ)銀めっき皮膜の形成に際して、シアン化銀カリウム0.75mol/dm^(3),リン酸二カリウム0.5mol/dm^(3),セレンシアン酸カリウム0.025mmol/cm^(3)からなるめっき液を用い、ジェットめっき装置を使用し、浴量2.0dm^(3),浴温70℃,めっき液の流速4m/sとした。試験片には、3cm×5cmの銅合金を使用し、陰極電流密度40,120A/dm^(2)の直流電源を用いた(2b)。 (ウ)形成後の銀めっき皮膜の外観は、陰極電流密度40A/dm^(2)の条件では無光沢(Matt)であり、陰極電流密度120A/dm^(2)の条件では光沢(Bright)であった(2c)。 (エ)光沢銀めっき皮膜、無光沢銀めっき皮膜、それぞれについてX線回折図の経時変化を観察した。 光沢銀めっき皮膜では、めっき直後は、(111)面の回折強度が最も強かったが、回折強度は全体的に弱かった。約6時間後には、(111)面と(200)面の回折強度が逆転し、(200)面の回折強度が増加した。24時間後には、(200)面の回折強度が約100Kcpsとなり、その後の放置では大きな変化は認められなかった。 他方、無光沢銀めっき皮膜では、(220)面の回折強度が最も強かったが、回折強度は全体的に弱かった。また、めっき直後及び放置後ともX線回折図はほとんど変わらなかった(2d,2e)。 (3)本件発明1について ア 本件発明1の分説 本件発明1を以下のとおりA?Dに分説した上で、以下、それぞれを「特定事項A」?「特定事項D」という。 A 素材上に銀からなる表層が形成された銀めっき材において、 B 表層の優先配向面が{111}面であり、 C 50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半 価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の 比が0.5以上であることを特徴とする、 D 銀めっき材。 イ 甲1の記載事項について (ア)本件発明1の特定事項Bにおける「優先配向面」の特定方法に関し、発明の詳細な説明には「得られたX線回折パターンから、銀めっき皮膜の{111}面、{200}面、{220}面および{311}面の各々のX線回折ピーク強度(X線回折ピークの強度)をJCPDSカードNo.40783に記載された各々の相対強度比(粉末測定時の相対強度比)({111}:{200}:{220}:{311}=100:40:25:26)で割ることにより補正して得られた値(補正強度)が最も強いX線回折ピークの面方位を銀めっき皮膜の結晶の配向の方向(優先配向面)として評価した」(【0026】)と記載されている。 (イ)他方、甲1には、「素材上に銀めっき皮膜が形成された銀めっき材であって、上記銀めっき皮膜の反射濃度が1.0以上であり、かつ、上記銀めっき皮膜の(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面のX線回折ピークの積分強度の合計に対する(111)面のX線回折ピークの積分強度の割合が40%以上である銀めっき材」(前記(1)イ(イ))が記載されているものの、上記「銀めっき材」を前記(ア)の本件発明1における特定方法にしたがって評価した場合に、その「優先配向面」が(111)面となるのか否かについては記載がなく、この点は、本件特許出願時における当業者の技術常識を踏まえても直ちに明らかとはならない。 したがって、甲1には、本件発明1の特定事項Bに相当する事項が記載されているとはいえない。 (ウ)また、甲1には、前記(イ)の「銀めっき材」の「{111}面のX線回折ピークの半価幅」についての記載はなく、上記「銀めっき材」に対して「50℃で168時間加熱」する耐熱試験を行ったことも記載されていないから、上記「銀めっき材」に対して「50℃で168時間加熱」した後の「{111}面のX線回折ピークの半価幅」の値も不明である。 したがって、甲1に記載された上記「銀めっき材」においては、「50℃で168時間加熱する前の{111}面のX線回折ピークの半価幅に対する加熱した後の{111}面のX線回折ピークの半価幅の比」の値は不明であり、この点は、本件特許出願時における当業者の技術常識を踏まえても明らかとはならない。 したがって、甲1には、本件発明1の特定事項Cに相当する事項が記載されているとはいえない。 (エ)さらに、電気めっきにおける製造条件の異同の観点から検討しても、甲1に記載された「銀めっき材」における「銀めっき皮膜」の製造条件は、「80?250g/Lのシアン化銀カリウムと、40?200g/Lのシアン化カリウムと、3?35mg/Lのセレノシアン酸カリウムとからなる銀めっき液を使用して、液温15?30℃、電流密度3?10A/dm^(2)の条件で電気めっきを行う」(前記(1)イ(ウ))という製造条件(以下、「甲1製造条件」という。)であり、甲1の実施例1?4は、いずれも甲1製造条件を充足する(前記(1)イ(エ))のに対し、 本件発明1における「銀からなる表層」の製造条件は、「80?110g/Lの銀と、70?160g/Lのシアン化カリウムと、55?70mg/Lのセレンを含む銀めっき液中において、液温を12?24℃、電流密度を3?8A/dm^(2)の範囲内とした上で、『シアン化カリウムの濃度(KCN濃度)と電流密度の積と液温との関係』を」「(KCN濃度×電流密度)をy、液温をxとした場合に、両者が (34.3x-267)≦y≦(34.3x+55) の関係を満たすようにする」(申立理由1の(2)イ(イ)のd)という製造条件(以下、「本件製造条件」という。)である。 ここで、甲1製造条件における「3?35mg/Lのセレノシアン酸カリウム」を、セレンの濃度に換算すると「1.6?19.2gmg/Lのセレン」になるところ、甲1製造条件では、銀めっき液中のセレン濃度が「1.6?19.2mg/L」と少なく、本件製造条件における銀めっき液中のセレン濃度である「55?70mg/L」の下限値に達していない。 また、甲1には、セレノシアン酸カリウムの濃度が、上記上限値の「35mg/L」を超える「52mg/L」(セレン濃度に換算すると28.5mg/L)である比較例1,5?9が記載されているものの、これら比較例についても、本件製造条件における銀めっき液中のセレン濃度である「55?70mg/L」の下限値には達していない。 以上のとおり、本件製造条件と甲1製造条件とは、銀めっき液中のセレン濃度が一致せず大きく異なっているから、甲1に記載された上記「銀めっき材」は、本件発明1の「銀めっき材」と同等の性質を有しているとはいえない。 したがって、電気めっきにおける製造条件の異同の観点から検討しても、甲1には、本件発明1の特定事項B及びCに相当する事項が記載されているとはいえない。 ウ 甲2の記載事項について (ア)前記イ(エ)の甲1製造条件では、電気めっきを「液温15?30℃、電流密度3?10A/dm^(2)」の範囲で行うのに対して、甲2では、電気めっきの製造条件を「浴温70℃」「陰極電流密度40,120A/dm^(2)」として「銀めっき皮膜」を製造しており(前記(2)イ(イ))、両者の製造条件は、めっき液の液温及び電流密度が一致せず大きく異なっているから、甲1に記載された「銀めっき材」の「銀めっき皮膜」と、甲2に記載された「銀めっき皮膜」は、同等の性質を共有しているとはいえない。 したがって、甲1に記載された発明に対して甲2に記載された事項を組み合わせた上で、室温放置による再結晶化に係る性質に関して、甲1に記載された「銀めっき材」の「銀めっき皮膜」が、甲2に記載された「銀めっき皮膜」と同等の性質を有すると評価することはできない。 (イ)また、甲2に記載された「光沢銀めっき」及び「無光沢銀めっき」のめっき皮膜について検討しても、「光沢銀めっき」については、「めっき直後は(111)面の回折強度が最も強かったが」「約6時間後には(111)面と(200)面の回折強度が逆転し,(200)面の回折強度が増加した」(前記(2)イ(エ))ことは記載されているものの、めっき直後の(111)面のX線回折ピークの半価幅は不明であり、また、「50℃で168時間加熱」することも記載がないから、「50℃で168時間加熱」した後の(111)面のX線回折ピークの半価幅も不明である。 他方、「無光沢銀めっき」については、「めっき直後及び放置後ともX線回折図はほとんど変わらなかった」(同上)と記載されているものの、当該記載のみでは、めっき直後の(111)面のX線回折ピークの半価幅は不明であり、「50℃で168時間加熱」した後の(111)面のX線回折ピークの半価幅も不明である。 したがって、甲2には、本件発明1の特定事項Cに相当する事項が記載されているとはいえない。 エ 以上のとおり、甲1に記載された発明に対して甲2に記載された事項を組み合わせることはできず、仮に、両者を組み合わせることができたとしても、甲1及び甲2のいずれにも、本件発明1の特定事項Cに相当する事項は記載されていないから、本件発明1は、甲1及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件発明2?6について 本件発明2?6は、引用によって本件発明1の特定事項を全て有するから、本件発明1と同様の理由により、甲1及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (7)小括 以上のとおりであるから、申立理由4には理由がない。 第5 結び 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-06-07 |
出願番号 | 特願2014-219858(P2014-219858) |
審決分類 |
P
1
652・
536-
Y
(C25D)
P 1 652・ 121- Y (C25D) P 1 652・ 537- Y (C25D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 神田 和輝 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
亀ヶ谷 明久 長谷山 健 |
登録日 | 2018-09-07 |
登録番号 | 特許第6395560号(P6395560) |
権利者 | DOWAメタルテック株式会社 |
発明の名称 | 銀めっき材およびその製造方法 |
代理人 | 大川 浩一 |