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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  G16H
審判 全部申し立て 2項進歩性  G16H
管理番号 1352346
異議申立番号 異議2019-700083  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-05 
確定日 2019-06-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6381088号発明「薬剤師による患者に対する服薬指導を支援するための装置、方法及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6381088号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6381088号に係る出願は、平成28年10月7日に特許出願された特願2016-199549号の一部を分割する出願として、平成29年8月6日に出願されたものであって、平成30年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、特許異議申立人 株式会社グッドサイクルシステム(以下、単に「特許異議申立人」と記す。)により異議申立期間中である平成31年2月5日に特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明

特許第6381088号の請求項1?6の特許に係る発明(以下、各請求項の特許に係る発明を「本件発明1」の様に記す。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
薬剤師による患者に対する服薬指導を支援するための方法であって、コンピュータが、
前記患者に表示画面を提示する携帯端末に、前記患者に処方された1又は複数の薬剤の一覧を表示させるための薬剤情報及び表示される各薬剤についての説明内容の1又は複数の選択肢を有する個別説明情報を送信するステップと、
前記携帯端末から、前記個別説明情報に基づいて前記携帯端末に表示される各薬剤についての1又は複数の説明内容のうち、前記患者に実際に説明された内容が選択されたことに対応する通知を受信するステップと、
前記通知に応じて、説明された内容に対応する内容を前記患者の薬歴として記憶するステップと
を含み、
前記患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために口語により表現した内容であることを特徴とする方法。

【請求項2】
前記患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される医学的記録内容とは異なることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【請求項3】
前記通知は、前記患者に対して説明された内容に対応する医学的記録内容に対して薬剤師により修正、削除又は追加された内容を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。

【請求項4】
コンピュータに、薬剤師による患者に対する服薬指導を支援するための方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は、
前記患者に表示画面を提示する携帯端末に、前記患者に処方された1又は複数の薬剤の一覧を表示させるための薬剤情報及び表示される各薬剤についての説明内容の1又は複数の選択肢を有する個別説明情報を送信するステップと、
前記携帯端末から、前記個別説明情報に基づいて前記携帯端末に表示される各薬剤についての1又は複数の説明内容のうち、前記患者に実際に説明された内容が選択されたことに対応する通知を受信するステップと、
前記通知に応じて、説明された内容に対応する内容を前記患者の薬歴として記憶するステップと
を含み、
前記患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために口語により表現した内容であることを特徴とするプログラム。

【請求項5】
薬剤師による患者に対する服薬指導を支援するための装置であって、
前記患者に表示画面を提示する携帯端末に、前記患者に処方された1又は複数の薬剤の一覧を表示させるための薬剤情報及び表示される各薬剤についての説明内容の1又は複数の選択肢を有する個別説明情報を送信する送信部と、
前記携帯端末から、前記個別説明情報に基づいて前記携帯端末に表示される各薬剤についての1又は複数の説明内容のうち、前記患者に実際に説明された内容が選択されたことに対応する通知を受信する受信部と
を備え、
前記通知に応じて、説明された内容に対応する内容を前記患者の薬歴として記憶し、
前記患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために口語により表現した内容であることを特徴とする装置。

【請求項6】
薬剤師による患者に対する服薬指導を支援するための携帯端末であって、
前記患者に処方された1又は複数の薬剤の一覧及び一覧表示された1又は複数の薬剤の中から選択された薬剤についての説明内容を表示させるための表示画面と、
選択された薬剤についての説明内容のうち、前記患者に実際に説明された内容が選択されたことに対応する通知を送信する送信部と
を備え、
前記患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために口語により表現した内容であることを特徴とする携帯端末。」


第3 申立理由の概要

本決定においては、以下、便宜上、異議申立人が主張する異議申立理由を「申立理由1(進歩性)」及び「申立理由2(新規事項の追加)」という。

1.申立理由1(進歩性)

特許異議申立人は、以下の各甲号証を提出し、本件特許発明1?6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当するから特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証 :特開2016-122253号公報
甲第2号証 :特開2003-108667号公報
甲第3号証 :次世代の電子薬歴 保険薬局・最前線?保険薬局薬剤師
の立場から?,新田玲子(株式会社アインファーマシー
ズ 研修部 DI室),医薬の門,第47巻,第2号,
別刷,2007年4月20日発行,p.72-77
甲第4号証 :疾患別服薬指導ガイダンスデータベースの開発とその利
用,柴田里枝子(メディカルデータベース株式会社),
栄羽浩之(株式会社ユニケソフトウェアリサーチ),
杉平直子(メディカルデータベース株式会社),第1回
日本薬局学会 学術総会,RELIANCE&SATI
SFACTORY PHARMACY PHARMAC
Y FORUM 2007,2007年11月11日,
口演-B-15
甲第5号証 :処方薬情報に基づく推定患者名から疾患別服薬指導ガイ
ダンスデータベースへの展開,柴田里枝子(メディカル
データベース株式会社 医薬情報開発部),第43回
日本薬剤師会学術大会[長野],2010年10月
10日・11日,P-109
甲第6号証 :特開2002-197188号公報
甲第7号証 :特開2002-351983号公報
甲第8号証 :特開2004-21854号公報
甲第9号証 :特開2004-288176号公報
甲第10号証:特開2015-171479号公報

(以下、各甲号証は「甲1」の様に略記する。)

2.申立理由2(新規事項の追加)

特許異議申立人は、平成30年5月2日になされた補正は、「(前記患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために)口語により表現した内容である」を追加するものであり、出願当初の明細書等に記載された範囲において行った補正には該当せず、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第1号に該当するから特許を取り消すべきものである旨主張している。


第4 甲号証の記載

1.甲1について

甲1には、以下の発明が記載されている。

「調剤薬局にて薬剤師又は/及び、薬の処方を受ける者である被処方者に対する服薬関連情報を出力するための服薬関連情報出力装置を用いることで、被処方者毎の状況(シチュエーション)とその状況に応じて出力すべき服薬関連情報を選択するためのプロトコルに基づき服薬関連情報を出力することにより、薬剤師の能力を問わず、被処方者ごとに適切かつきめ細やかな服薬指導を可能とする方法であって(【0005】、【0006】)、
前記服薬関連情報出力装置は、服薬関連情報保持部、入力受付部、シチュエーション蓄積部、プロトコル保持部、出力命令部、服薬関連情報取得部、服薬関連情報出力部と、を有し(【0031】)、
前記入力受付部は、被処方者に関連付けて服薬に関するシチュエーションの入力を受け付け(【0041】)、
前記服薬関連情報取得部は、出力命令部から服薬関連情報の出力命令が出力された場合に、該当する被処方者に関連付けられたシチュエーションを取得し、保持されているプロトコルに従って保持されている服薬関連情報を取得し(【0050】)、
前記服薬関連情報出力部は、取得された服薬関連情報を出力するものであって(【0056】)、ネットワークを介して薬剤師の端末装置のディスプレイに出力するものであってもよく(【0056】)、
前記服薬関連情報とは、(ア)処方薬に関する情報(被処方者に対し、質問し、質問の回答に応じて指導すべき事項も含む)や、(イ)被処方者のシチュエーションに基づき服薬指導時に質問・勧奨・指導することが好ましい情報であり(【0032】)、
前記シチュエーション蓄積部が備える提供履歴蓄積手段は、服薬関連情報とこれに対応するチェックボックスを入力受付部の画面上に設けて画面上に表示し、薬剤師が実際に行った質問・勧奨・指導項目にチェックすることにより、薬剤師が行った服薬指導項目の提供履歴をシチュエーションとして蓄積でき(【0067】)、
前記入力受付部が備えるチェックボックス手段は、出力された服薬関連情報に含まれる情報の中で実際に被処方者に対して提供した情報又は/及び服薬関連情報の被処方者指導支援情報を用いて実際に被処方者に対して行った指導を選択するよう構成される(【0072】)、
方法。」(以下、「甲1発明」という。)

2.甲2について

甲2には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与した。)

(ア)「【課題を解決するための手段】そこで、本発明は、各患者についての薬剤に関する個人情報、各薬剤についての服用指導情報などを記憶させる記憶装置を有する本部のホストコンピュータと、携帯端末とを接続し、特定の患者に関する前記個人情報を検索して携帯端末に送信するとともに、前記個人情報の中で、処方された薬剤に対する服用指導情報に関連する事項を検索照合してその結果を携帯端末に送信し、処方された薬剤をその患者が服用しても不適合でないかどうかを前記携帯端末により確認できることにした。・・・。」(【0009】)

(イ)「即ち、処方された薬剤が患者にとって不適合でないと判断された場合には、薬剤師は、調剤された薬剤とともに、モニタ画面に表示されている図3に示すような薬剤情報に従って処方された薬剤に関する説明を行う、尚、必要であればモニタ画面を患者に見せて説明してもよい。同時に、モニタ画面上の情報に例えば薬剤のカラー写真等を加えて、カラープリンタによって印刷し、薬剤および薬剤の説明書を患者に渡す。薬剤の説明書は、薬袋に印刷してもよいし、別紙として患者に渡してもよい。」(【0029】)

3.甲3について

甲3には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与した。)

(ウ)「「フロントシステム」を導入することにより、調剤の流れはこれまでの、処方せん受け付け→内容確認・入力→薬剤調整・鑑査→薬剤の交付・服薬指導→薬歴記録という流れ(図2左)から図2右に示すような流れに変わる。処方せんを受け付けて入力した後、必要事項について事前確認を行ったらすぐに患者を呼び出して、これまで待ち時間となっていた時間を利用して患者と一緒に画面を見ながら服薬指導・情報提供を行う。この間に患者から必要な情報を収集してその情報をその場でフロントシステムに入力し、鑑査などの支援機能を利用することにより問題点をその場で解決する。交付薬剤の準備ができる段階では必要な疑義照会、服薬指導は終了しており、また、支援機能を利用して行った指導の内容はそのまま記録として残るため、指導終了後、考察や次回への伝達事項などいくつかの必要事項を加えるだけで薬歴記録は完了する。
また、患者と一緒に画面を見ながら進めていくことで、薬剤師の質問の意図が明確になり、「服薬指導」が従来より患者にとって理解しやすくなると考えられる。」(第74頁左欄から右欄)

(エ)「情報提供:
・患者と一緒に見て進めてきた説明の内容を最後にそのまま印刷できる。定型の「お薬情報」とは別に、その患者に対する個別の服薬指導内容を「オーダーメイドの情報文書」として渡すことができる(図4)。」(第75頁左欄)

4.甲4について

甲4には、以下の事項が記載されている。

(オ)



(カ)




5.甲5について

甲5には、以下の事項が記載されている。

(キ)


6.甲6について

甲6には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与した。)

(ク)「一方、疑義が生じなければ(S19でNO)、図14の安全性情報薬剤別チェック画面や図13の安全性情報一覧画面を見ながら患者に対して服薬指導を口頭でするとともに、その指導内容を手元の調剤チェックシートに手書きで記入する(ステップS20)。そして、入力部700を操作して図15の画面を表示し、提供した服薬指導に関する情報を入力する(ステップS21)。」(【0087】)

(ケ)「その後、指導内容の薬学的管理のために図16のSOAP入力画面が服薬指導とSOAP入力データ部60の内容に従い表示される。」(【0089】)

(コ)「また、記録後の調剤チェックシート800で履歴も閲覧することができ、電子的に薬歴を管理するのに使用できる。SOAPは服薬指導内容の入力の方法であって、患者を問診することで得られた情報(記録後の調剤チェックシート800の内容)や、分析内容も入力することができて、情報を整理するSとO、評価や結果、指導内容を記すAとPに分類される。得られた情報は患者の言葉から得られた主観的情報(Subjective)と血圧検査値など医者からの患者への客観的情報(Objective)に分類されて、これら情報に関した薬剤師の評価の内容(Assessment)および問題解決のための計画、指導内容(Plan)が記述される。」(【0091】)

7.甲7について

甲7には、以下の事項が記載されている。

(サ)「図7(a)(b)は、プリントアウトされた薬剤情報用紙とアンケート用紙の例を示す図である。図7(a)に示すように、薬剤情報用紙は、薬の名称、外観写真、飲む数、用法、薬剤の効能効果や副作用、および注意事項が分かりやすくレイアウト編集されている。また、図7(b)に示すように、アンケート用紙は、前回処方された薬剤に基づいて適切な質問事項が作成されている。」(【0034】)

8.甲8について

甲8には、以下の事項が記載されている。

(シ)患者用アドバイスシートの例を示す【図18】、【図19】、【図32】、【図38】?【図43】には、患者用のアドバイスが口語で表現されている。

9.甲9について

甲9には、以下の事項が記載されている。

(ス)「・・・また、「<<本日の週・月数>> 週数:(40週1日)月数:10ヵ月」や「予定日まで、あと…日です!」等の値はユーザがアクセスした日時と電子カルテ内の出産予定日のデータから関数等を用いて演算した結果を表示している。・・・」(【0045】)

10.甲10について

甲10には、以下の事項が記載されている。

(セ)「ここで、薬情出力部115が生成する薬情のデータに基づいて出力された薬情書面を例示して説明する。
図6は、受け付けた処方箋と過去の処方箋とにおいて、薬剤の変化が生じた場合であって薬剤が対応付けられたときに生成される薬情のデータに基づいて出力される薬剤書面を例示する図である。
薬情書面は、交付される薬剤の説明及び写真が示される欄であるV1と、V2が、変化が生じる前の薬剤・用法用量が示される欄であるV2と、薬剤の用法用量が示される欄であるV3とを含んで構成されている。
V1は、E1欄、F1欄、C1欄を含んでおり、それぞれE錠、F錠、Cカプセルに関する名称・説明・写真が示されている。説明は、薬剤データベース122から抽出した薬剤の一般的な説明に関する部分と、変化の内容を説明する変更種別ごとに異なる部分とから構成されている。例えば、E1欄の説明は、「コレステロールを下げるお薬です。…」とする一般的な説明に関する部分と、「A錠と同一成分の安価なお薬です。」とするA錠からE錠への変化の内容を説明する部分とから構成されている。
また、変化の内容を説明する部分は、変更種別ごとに異なっている。例えば、E1欄には、「A錠と同一成分の安価なお薬です。」として、「ジェネリック変更」の変更種別に対応する説明が生成される。「ジェネリック変更」の変更種別に対応する説明は、従前の薬剤の名称と、成分が同一であって価格が安いことを示す記載から構成されている。
例えば、F1欄には、「B錠より効果の強いお薬です。」として、「成分変更」の変更種別に対応する説明が生成される。「成分変更」の変更種別に対応する説明は、従前の薬剤の名称と、効果又は安全性に差異があることを示す記載から構成されている。
例えば、C1欄には、「錠剤からカプセルになりました。」として、「剤型変更」の変更種別に対応する説明が生成される。「成分変更」の変更種別に対応する説明は、従前の薬剤の剤型と本薬剤の剤型を示す記載から構成されている。
V2は、E1に示されているE錠に対応する除外された薬剤であるA錠の写真を示すA1欄がE1と対応すると明確な位置に示され、F1に示されているF錠に対応する除外された薬剤であるB錠の写真を示すB1欄がF1と対応すると明確な位置に示され、C1に示されているCカプセルに対応する除外された薬剤であるC錠の写真を示すC2欄がC1と対応すると明確な位置に示され、薬剤の変化が明確になるように示されている。
V3は、E錠、F錠、Cカプセル及びD錠の用法用量が示されている。V3欄のうち、左欄から順番に、朝、昼、夕にどのくらい服薬するかが示されている。例えば、V3欄のうち、D錠の行には、朝 1錠、昼 1錠、夕 1錠を服用すべきことが示されている。」(【0036】?【0040】)


第5 対比・判断

1.申立理由1(進歩性)について

(1)本件発明1について

<対比>

本件発明1と甲1発明とを対比する。

(1-1)
甲1発明は、「調剤薬局にて薬剤師又は/及び、薬の処方を受ける者である被処方者に対する服薬関連情報を出力するための服薬関連情報出力装置を用いることで、被処方者毎の状況(シチュエーション)とその状況に応じて出力すべき服薬関連情報を選択するためのプロトコルに基づき服薬関連情報を出力することにより、薬剤師の能力を問わず、被処方者ごとに適切かつきめ細やかな服薬指導を可能とする方法」であるから、本件発明1でいう『薬剤師による患者に対する服薬指導を支援するための方法』といえることは明らかである。

(1-2)
甲1発明における「服薬関連情報出力装置」は、「服薬関連情報保持部、入力受付部、シチュエーション蓄積部、プロトコル保持部、出力命令部、服薬関連情報取得部、服薬関連情報出力部と、を有」するものであるから、本件発明1でいう『コンピュータ』に相当する。

(1-3)
甲1発明における「薬剤師の端末装置」は、患者に表示画面を提示することを前提とするものではないものの、薬剤師が使用する端末という点において、本件発明1の『携帯端末』と一致している。

(1-4)
甲1発明において、服薬関連情報出力部に出力される「服薬関連情報」は、「(ア)処方薬に関する情報(被処方者に対し、質問し、質問の回答に応じて指導すべき事項も含む)や、(イ)被処方者のシチュエーションに基づき服薬指導時に質問・勧奨・指導することが好ましい情報」であり、前記「処方薬に関する情報」及び「指導することが好ましい情報」は、それぞれ、本件発明1でいう『薬剤情報』及び『個別説明情報』に対応する。
また、甲1発明においては、「入力受付部が備えるチェックボックス手段は、出力された服薬関連情報に含まれる情報の中で実際に被処方者に対して提供した情報又は/及び服薬関連情報の被処方者指導支援情報を用いて実際に被処方者に対して行った指導を選択するよう構成される」のであるから、前記「チェックボックス手段」は、本件発明1でいう『表示される各薬剤についての説明内容の1又は複数の選択肢』に対応する。
そして、甲1発明における「服薬関連情報」は、「ネットワークを介して薬剤師の端末装置のディスプレイに出力する」ものであってもよいのであるから、薬剤師が使用する端末装置に対して送信されるものである。
してみると、甲1発明と本件発明1とは、『端末に、患者に処方された薬剤を表示させるための薬剤情報及び表示される各薬剤についての説明内容の1又は複数の選択肢を有する個別説明情報を送信するステップ』を備える点で一致している。

(1-5)
甲1発明において、シチュエーション蓄積部が備える「提供履歴蓄積手段」は、「服薬関連情報とこれに対応するチェックボックスを入力受付部の画面上に設けて画面上に表示し、薬剤師が実際に行った質問・勧奨・指導項目にチェックすることにより、薬剤師が行った服薬指導項目の提供履歴をシチュエーションとして蓄積でき」るものであり、薬剤師が「画面上に表示された」どの「質問・勧奨・指導項目」を「チェック」したかの情報は、薬剤師が入力する端末装置から服薬関連情報出力装置の提供履歴蓄積手段に送信されることは明らかであり、前記“「画面上に表示された」どの「質問・勧奨・指導項目」を「チェック」したかの情報”は、本件発明1でいう『個別説明情報に基づいて端末に表示される各薬剤についての1又は複数の説明内容のうち、患者に実際に説明された内容が選択されたことに対応する通知』に対応する。
そして、前記「提供履歴蓄積手段」は、「チェック」された「質問・勧奨・指導項目」を蓄積するものであり、本件発明1の様に『説明された内容に対応する内容』を蓄積するものではないものの、甲1発明と本件発明1とは、『通知に応じて、説明された内容を患者の薬歴として記憶するステップ』を備えるという点において一致している。
してみると、甲1発明と本件発明1とは、『端末から、個別説明情報に基づいて前記端末に表示される各薬剤についての1又は複数の説明内容のうち、患者に実際に説明された内容が選択されたことに対応する通知を受信するステップ』と『前記通知に応じて、説明された内容を前記患者の薬歴として記憶するステップ』とを備えるという点において一致している。

上記(1-1)から(1-5)で対比した様に、本件発明1と甲1発明とは、

「薬剤師による患者に対する服薬指導を支援するための方法であって、コンピュータが、
端末に、前記患者に処方された薬剤を表示させるための薬剤情報及び表示される各薬剤についての説明内容の1又は複数の選択肢を有する個別説明情報を送信するステップと、
前記端末から、前記個別説明情報に基づいて前記端末に表示される各薬剤についての1又は複数の説明内容のうち、前記患者に実際に説明された内容が選択されたことに対応する通知を受信するステップと、
前記通知に応じて、説明された内容を前記患者の薬歴として記憶するステップとを含む、方法。」

という点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本件発明1にかかる『携帯端末』は、『患者に表示画面を提示する』ものであるのに対して、甲1発明にかかる「端末装置」は、「薬剤師に対して表示画面を提示する」ものである点、及び、甲1発明にかかる「端末装置」が『携帯端末』であるか明示されていない点。

[相違点2]
本件発明1においては、薬剤情報の表示形態について、『患者に処方された1又は複数の薬剤の一覧』との限定が付されているのに対し、甲1発明においては、服薬関連情報の表示形態について言及されていない点。

[相違点3]
本件発明1においては、患者の薬歴を記憶するステップで記憶されるものが『説明された内容に対応する内容』であるのに対し、甲1発明においては、「説明された内容」を記憶する点。

[相違点4]
本件発明1においては、『患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために口語により表現した内容である』との構成要件を備えているのに対し、甲1発明においては、かかる構成要件を備えていない点。

<判断>

(ア)[相違点1]について
甲2及び甲3に記載されている様に、薬剤師が患者に対して服薬指導を端末の画面を患者に見せながら行うことは、一般的に行われているものであり、甲1発明にかかる「端末装置」のディスプレイを被処方者(患者)に提示すること自体は、当業者にとって容易になし得るものである。
また、患者に対して服薬指導を薬剤師が携帯端末を用いて行うことも、甲2に記載されており、甲1発明にかかる「端末装置」を「携帯端末」とすることも当業者にとっては設計的事項であって、容易になし得るものである。

(イ)[相違点2]について
処方される薬剤を一覧の形式で表示することは、表示形態として極めて一般的であり、甲1発明において薬剤情報を一覧の表示形態で表示することは、当業者にとって容易になし得るものである。

(ウ)[相違点3]について
本件発明1において、患者の薬歴として記憶されるものは、『説明された内容に対応する内容』であり、具体的には本件特許明細書の【0062】に例示されている様なものである。
一方、甲3には、「支援機能を利用して行った指導の内容はそのまま記録として残る」と記載されている様に、記録として残されるものは、「指導の内容そのもの」であり、本件発明1の様に『説明された内容に対応する内容』ではない。
また、他の甲号証においても『説明された内容に対応する内容』を記憶する旨の記載及び示唆は認められず、患者の薬歴として記憶されるものを『説明された内容に対応する内容』とすることが周知であるとする証拠も提示されていない。
してみると、患者の薬歴として記憶されるものを『説明された内容に対応する内容』とする事項は、当業者といえども容易になし得るものとは認められない。

(エ)[相違点4]について
甲3や甲5には、患者に対して説明する内容を「・・・してください。」の様に「口語により表現する」ことは開示されているものの、本件発明1の様に『患者の薬歴として記憶される内容とは異なる』ものではない。(特に、甲3においては、「支援機能を利用して行った指導の内容はそのまま記録として残る」と記載されている様に、記録として残されるものは、「指導の内容そのもの」であることが記載されている。)
また、他の甲号証にも『患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために口語により表現した内容である』との事項は開示も示唆もされていない。
してみると、甲1発明に対して、本件発明1が備える『患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために口語により表現した内容である』との構成要件を付加することは、甲2から甲10に記載されている事項を参酌しても、当業者といえども容易になし得るものとは認められない。

(オ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲2から甲10に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。


(2)本件発明2?6について

本件発明2?5と甲1発明との間には、上記[相違点3]及び[相違点4]が存在する。
そして、上記[相違点3]及び[相違点4]に関する事項は、甲2?10の何れにも開示されていないから、上記「(1)本件発明1について」で検討したのと同様の理由により、本件発明2?5は、甲1発明及び甲2から甲10に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

また、本件発明6と甲1発明との間には、上記[相違点4]が存在する。
そして、上記[相違点4]に関する事項は、甲2?10の何れにも開示されていないから、上記「(1)本件発明1について」で検討したのと同様の理由により、本件発明6は、甲1発明及び甲2から甲10に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。


2.申立理由2(新規事項の追加)について

薬剤の個別説明画面を示す【図6】には、患者に対して説明する内容として、「・・・をとって下さい」、「・・・でも大丈夫です」、「・・・は控えめでお願いします」等の口語により表現されたものが開示されているから、平成30年5月2日になされた補正において、「(前記患者に対して説明された内容は、前記患者の薬歴として記憶される内容とは異なり、前記患者に見せて説明するために)口語により表現した内容である」との補正事項は、出願当初の明細書等に記載された範囲において行った補正と認められる。
したがって、当該補正事項は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものではない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本許発明1?6を取り消すことはできない。

さらに、他に本件発明1?6を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-13 
出願番号 特願2017-152078(P2017-152078)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G16H)
P 1 651・ 55- Y (G16H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岸 健司  
特許庁審判長 金子 幸一
特許庁審判官 佐藤 智康
相崎 裕恒
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6381088号(P6381088)
権利者 株式会社カケハシ
発明の名称 薬剤師による患者に対する服薬指導を支援するための装置、方法及びプログラム  
代理人 清水 喜幹  
代理人 大谷 寛  
代理人 狩生 咲  
代理人 粕川 敏夫  
代理人 石橋 佳之夫  

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