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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01N
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G01N
管理番号 1352512
審判番号 無効2017-800082  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-06-26 
確定日 2019-05-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5815826号発明「粒子分光計のための分析装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5815826号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5、7、8〕、〔9-16、18〕について訂正することを認める。 特許第5815826号の請求項〔1-3、5、8〕、〔9-13、15、16〕に係る特許についての本件審判の請求は、成り立たない。 特許第5815826号の請求項4、7、14、18についての本件審判請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許は、ヴィゲー・シエンタ・アーベーにより出願された、2012年3月6日を国際出願日とする出願である特願2014-560888号の一部を、平成26年10月7日に新たな出願とした特願2014-206185号に係り、平成27年7月2日付けの手続補正によって補正された願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の内容について、特許第5815826号として平成27年10月2日に設定登録されたものである。(ヴィゲー・シエンタ・アーベーは、特許権設定登録後に、シエンタ・オミクロン・アーベー(以下「被請求人」という。)に表示変更登録された。)
平成28年4月1日に無効審判が請求され、平成28年8月12日付けで訂正請求がされ、平成29年2月20日付けで、「特許第5815826号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。特許第5815826号の請求項〔1?5、7、8〕、〔9?16、18〕に係る発明についての本件審判の請求は、成り立たない。特許第5815826号の請求項6、17についての本件審判請求を却下する。」旨の審決がされ、その後確定した。
本件特許無効審判事件は、請求人 エム・ベー・サイエンティフィック・アクチボラゲット(以下「請求人」という。)が、「特許第5815826号の特許請求の範囲の請求項1ないし5、7ないし16、18に記載された発明に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」として、平成29年6月26日に請求したものであって、当該審判請求後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成29年 8月 9日 審判請求書手続補正書(方式)
平成29年12月15日 審判事件答弁書提出 平成30年 1月25日 審理事項通知書 平成30年 3月 1日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人) 平成30年 3月 2日 口頭審理陳述要領書提出(請求人) 平成30年 3月12日 審尋 平成30年 3月13日 回答書提出(請求人) 平成30年 3月14日 回答書提出(被請求人) 平成30年 3月16日 口頭審理
平成30年 3月30日 審決の予告
平成30年 7月 6日 訂正請求書、上申書(被請求人)
平成30年 7月20日 証拠説明書(被請求人)
平成30年 9月14日 弁駁書(請求人)

第2 訂正請求について
1 訂正事項
平成30年7月6日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1の「測定領域(3)の入口(8)」との記載を、「測定領域(3)の入射スリット(8)」に訂正する。これに伴い、請求項1の「前記測定領域(3)の前記入口(8)を通過するように」との記載を、「前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項1の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の所定の部分(A、B)」との記載を、「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)」に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項1の「前記測定領域(3)の前記入口(8)を通過するように」との記載を、「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」に訂正する。ここで、訂正後の「前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)」との記載に係る訂正は、訂正事項1に係るものである。

(4)訂正事項4
請求項1の「前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップ」との記載を、「前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップであって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するステップ」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項4を請求項1に組み込む訂正をする。
具体的には、請求項4の記載内容である「前記粒子ビームの偏向はすべてレンズシステム(13)内で起こり、少なくとも一つのレンズ(L1)が前記粒子ビームの前記一回目の偏向の前に前記粒子に作用し、少なくとも一つのレンズ(L3)が前記粒子ビームの最後の偏向の後に前記粒子に作用する」との記載を請求項1に追加する。

(6)訂正事項6
請求項4を削除する。

(7)訂正事項7
請求項5の「請求項1?4の何れか一項に記載の方法」との記載を、「請求項1?3の何れか一項に記載の方法」に訂正する。

(8)訂正事項8
請求項7を削除する。

(9)訂正事項9
請求項8の「請求項1?5及び7の何れか一項に記載の方法」との記載を、「請求項1?3及び5の何れか一項に記載の方法」に訂正する。

(10)訂正事項10
請求項9の「入口(8)」との記載を、「入射スリット(8)」に訂正する。これに伴い、請求項9の「前記入口(8)」との記載を、「前記入射スリット(8)」に訂正する。また、「前記測定領域(3)の前記入口(8)を通過するように」との記載を、「前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」に訂正する。

(11)訂正事項11
請求項9の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の所定の部分(A、B)」との記載を、「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)」に訂正する。

(12)訂正事項12
請求項9の「前記測定領域(3)の前記入口(8)を通過するように」との記載を、「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」に訂正する。ここで、訂正後の「前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)」との記載に係る訂正は、訂正事項10に係るものである。

(13)訂正事項13
請求項9の「制御ユニット(35)」との記載を、「制御ユニット(35)であって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するように操作可能な制御ユニット(35)」に訂正する。

(14)訂正事項14
請求項14を請求項9に組み込む訂正をする。
具体的には、請求項14の記載内容である「前記レンズシステムの少なくとも一つのレンズ要素(L1)が前記偏向装置のすべての偏向器(33A/33c、33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)の上流に位置し、前記レンズシステムの他の少なくとも一つのレンズ要素(L3)が前記偏向装置のすべての偏向器の下流に位置するように、前記偏向装置(31)と前記レンズシステム(13)とが配置される」との記載を請求項9に追加する。

(15)訂正事項15
請求項14を削除する。

(16)訂正事項16
請求項15の「請求項9?14の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計」との記載を、「請求項9?13の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計」に訂正する。

(17)訂正事項17
請求項17の「請求項9?15の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計」との記載を、「請求項9?13及び15の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計」に訂正する。

(18)訂正事項18
請求項18を削除する。

2 訂正請求についての当審の判断
(1)一群の請求項についての説明
本件訂正前の請求項1?5、7、及び8について、請求項2?5、7、及び8は、それぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用しているため、訂正事項1?4により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、当該請求項1?5、7、及び8は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
訂正前の請求項9?16及び18について、請求項10?16及び18は、それぞれ請求項9の記載を直接的又は間接的に引用しているため、訂正事項10?14により記載が訂正される請求項9に連動して訂正されるものである。
したがって、当該請求項9?16及び18は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正後の請求項1に係る発明は、訂正前の請求項1に係る発明の「測定領域(3)の入口(8)」を下位概念である「測定領域(3)の入射スリット(8)」に特定し、限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2、3、5、及び8は、訂正後の請求項1の「測定領域(3)の入射スリット(8)」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項1に係る発明の「測定領域(3)の入口(8)」を下位概念である「入射スリット」に、限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
明細書の段落【0007】、明細書の段落【0058】、図4には、測定領域5の入口が入射スリット8であることが記載されている。訂正事項1は、これらの記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2?5、7、及び8の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2?5、7、及び8の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項1は、訂正前の請求項2?5、7、及び8との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(3)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正後の請求項1に係る発明は、「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)」との記載により、訂正前の請求項1に係る発明の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の所定の部分(A、B)」との発明特定事項について、当該「所定の部分(A、B)」が、選択された部分であることを、限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2、3、5、及び8は、訂正後の請求項1の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項1に係る発明の「所定の部分(A、B)」が、選択された部分であることを、限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
明細書の段落【0032】には、「少なくとも第2の偏向器は、第1の偏向器の下流に、レンズシステムの光学軸に沿つて第1の偏向器から離間して配置される。上記の議論から理解されるように、第1及び少なくとも第2の偏向器を組み合わせた効果は、ビームのどの部分がどの方向で測定領域に入射するかを制御することである。この制御によって、ビームの選択された部分が、レンズ軸(即ち、レンズシステムの光学軸)の方向に沿って測定領域に入射することができるようになる。」と記載されている。訂正事項2は、この記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2?5、7、及び8の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項2は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2?5、7、及び8の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項1は、訂正前の請求項2?5、7、及び8との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(4)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正後の請求項1の「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」との記載により、訂正前の請求項1に係る発明の「前記測定領域(3)の前記入口(8)を通過するように」との発明特定事項について、粒子ビームを偏向させるにあたり当該偏向をどのように制御するかを、限定するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2、3、5、及び8は、訂正後の請求項1の「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項1に係る発明において粒子ビームを偏向させるにあたり当該偏向をどのように制御するかを、限定するものである。 ゛
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正前の請求項7には、「前記粒子の前記角度分布の前記所定の部分(A、B)が、前記測定領域(3)の前記入口(8)を前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップをさらに備える」と記載されている。訂正事項3は、この記載に基づくものである。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2?5、及び8の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2?5、及び8の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項1は、訂正前の請求項2?5、及び8との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(5)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正後の請求項1の「前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップであって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するステップ」との記載により、訂正前の請求項1の「前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップ」との発明特定事項を、限定するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2、3、5、及び8は、訂正後の請求項1の「前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップであって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するステップ」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項1の「前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップ」との発明特定事項を限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲
内の訂正であること
明細書の段落【0032】には、「少なくとも第2の偏向器は、第1の偏向器の下流に、レンズシステムの光学軸に沿って第1の偏向器から離間して配置される。上記の議論から理解されるように、第1及び少なくとも第2の偏向器を組み合わせた効果は、ビームのどの部分がどの方向で測定領域に入射するかを制御することである。」と記載されている。訂正事項4は、この記載に基づくものである。また、請求項1では訂正前の請求項7に基づき訂正事項3により入射する方向が「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向」であることが特定されているので、入射する方向は訂正事項3に合わせて特定した。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2?5、7、及び8の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2?5、7、及び8の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項1は、訂正前の請求項2?5、7、及び8との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(6)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正後の請求項1に係る発明は、「前記粒子ビームの偏向はすべてレンズシステム(13)内で起こり、少なくとも一つのレンズ(L1)が前記粒子ビームの一回目の偏向の前に前記粒子に作用し、少なくとも一つのレンズ(L3)が前記粒子ビームの最後の偏向の後に前記粒子に作用する」との記載により、訂正前の請求項1に係る発明におけるレンズと偏向との位置関係を、限定するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2、3、5、及び8は、訂正後の請求項1の「前記粒子ビームの偏向はすべてレンズシステム(13)内で起こり、少なくとも一つのレンズ(L1)が前記粒子ビームの一回目の偏向の前に前記粒子に作用し、少なくとも一つのレンズ(L3)が前記粒子ビームの最後の偏向の後に前記粒子に作用する」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項1に係る発明におけるレンズと偏向との位置関係を、限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、訂正前の請求項4に記載された事項に基づくものである。
したがって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項5は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2、3、5、7、及び8の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2、3、5、7、及び8の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項1は、訂正前の請求項2、3、5、7、及び8との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(7)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正前の請求項4の記載を削除するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、訂正前の請求項4の記載を削除するものである。
したがって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(8)訂正事項7
ア 訂正の目的
訂正事項7は、訂正事項5及び訂正事項6に伴い、請求項5の引用関係を修正するものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、訂正事項5及び訂正事項6に伴い、訂正前の請求項5が従属する請求項を「請求項1?4の何れか一項に記載の方法」から「請求項1?3の何れか一項に記載の方法」にするものである。
したがって、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(9)訂正事項8
ア 訂正の目的
訂正事項8は、訂正前の請求項7の記載を削除するものである。
したがって、訂正事項8は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、訂正前の請求項7の記載を削除するものである。
したがって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(10)訂正事項9
ア 訂正の目的
訂正事項9は、訂正事項6及び訂正事項8に伴い、請求項8の引用関係を修正するものである。
したがって、訂正事項9は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9は、訂正事項6及び訂正事項8に伴い、訂正前の請求項8が従属する請求項を「請求項1?5及び7の何れか一項に記載の方法」から「請求項1?3及び5の何れか一項に記載の方法」にするものである。
したがって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(11)訂正事項10
ア 訂正の目的
訂正後の請求項9に係る発明は、訂正前の請求項9に係る発明の「入口(8)」を下位概念である「入射スリット(8)」に特定し、限定するものである。
したがって、訂正事項10は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項10?13、15、及び16は、訂正後の請求項9の「入射スリット(8)」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項9に係る発明の「入口(8)」を下位概念である「入射スリット」に、限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
明細書の段落【0007】、明細書の段落【0058】、図4には、測定領域5の入口が入射スリット8であることが記載されている。訂正事項10は、これらの記載に基づくものである。
したがって、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項10は、訂正前の請求項9の記載を引用する訂正前の請求項10?16、及び18の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項10は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項10?16、及び18の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項10は、訂正前の請求項10?16、及び18との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(12)訂正事項11
ア 訂正の目的
訂正後の請求項9に係る発明は、「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)」との記載により、訂正前の請求項9に係る発明の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の所定の部分(A、B)」との発明特定事項について、当該「所定の部分(A、B)」が、選択された部分であることを、限定するものである。
したがって、訂正事項11は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項10?13、15、及び16は、訂正後の請求項9の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項9に係る発明の「所定の部分(A、B)」が、選択された部分であることを、限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
明細書の段落【0032】には、「少なくとも第2の偏向器は、第1の偏向器の下流に、レンズシステムの光学軸に沿って第1の偏向器から離間して配置される。上記の議論から理解されるように、第1及び少なくとも第2の偏向器を組み合わせた効果は、ビームのどの部分がどの方向で測定領域に入射するかを制御することである。この制御によって、ビームの選択された部分が、レンズ軸(即ち、レンズシステムの光学軸)の方向に沿って測定領域に入射することができるようになる。」と記載されている。訂正事項11は、この記載に基づくものである。
したがって、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項11は、訂正前の請求項9の記載を引用する訂正前の請求項10?16、及び18の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項11は、訂正前の請求項9の記載以外に、訂正前の請求項10?16、及び18の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項11は、訂正前の請求項10?16、及び18との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(13)訂正事項12
ア 訂正の目的
訂正事項12は、訂正後の請求項9の「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」との記載により、訂正前の請求項9に係る発明の「前記測定領域(3)の前記入口(8)を通過するように」との発明特定事項について、粒子ビームを偏向させるにあたり当該偏向をどのように制御するかを、限定するものである。
したがって、訂正事項12は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項10?13、15、及び16は、訂正後の請求項9の「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項9に係る発明において粒子ビームを偏向させるにあたり当該偏向をどのように制御するかを、限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正前の請求項18には、「前記制御ユニット(35)は、前記粒子の前記角度分布(39)の前記所定の部分(A、B)が、前記測定領域(3)の前記入口(8)を前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に通過するように、前記偏向装置(31)が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能である」と記載されている。訂正事項12は、この記載に基づくものである。
したがって、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項12は、訂正前の請求項9の記載を引用する訂正前の請求項10?16の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項12は、訂正前の請求項9の記載以外に、訂正前の請求項10?16の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項12は、訂正前の請求項10?16との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(14)訂正事項13
ア 訂正の目的
訂正事項13は、訂正後の請求項9の「制御ユニット(35)であって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するように操作可能な制御ユニット(35)」との記載により、訂正前の請求項9の「制御ユニット(35)」との発明特定事項を、限定するものである。
したがって、訂正事項13は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項10?13、15、及び16は、訂正後の請求項9の「制御ユニット(35)であって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するように操作可能な制御ユニット(35)」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項9の「制御ユニット(3)」との発明特定事項を、限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
明細書の段落【0032】には、「少なくとも第2の偏向器は、第1の偏向器の下流に、レンズシステムの光学軸に沿って第1の偏向器から離間して配置される。上記の議論から理解されるように、第1及び少なくとも第2の偏向器を組み合わせた効果は、ビームのどの部分がどの方向で測定領域に入射するかを制御することである。」と記載されている。訂正事項13は、この記載に基づくものである。また、請求項9では訂正前の請求項18に基づき訂正事項12により入射する方向が「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向」であることが特定されているので、入射する方向は訂正事項12に合わせて特定した。
したがって、訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項13は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項13は、訂正前の請求項9の記載を引用する訂正前の請求項10?16、及び18の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項13は、訂正前の請求項9の記載以外に、訂正前の請求項10?16、及び18の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項11は、訂正前の請求項10?16、及び18との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(15)訂正事項14
ア 訂正の目的
訂正後の請求項9に係る発明は、「前記レンズシステムの少なくとも一つのレンズ要素(L1)が前記偏向装置のすべての偏向器(33A、 /33C 、33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)の上流に位置し、前記レンズシステムの他の少なくとも一つのレンズ要素(L3)が前記偏向装置のすべての偏向器の下流に位置するように、前記偏向装置(31)と前記レンズシステム(13)とが配置される」との記載により、訂正前の請求項9に係る発明におけるレンズと偏向器との位置関係を、限定するものである。
したがって、訂正事項14は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項10?13、15、及び16は、訂正後の請求項9の「前記レンズシステムの少なくとも一つのレンズ要素(L1)が前記偏向装置のすべての偏向器(33A/33C、33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)の上流に位置し、前記レンズシステムの他の少なくとも一つのレンズ要素(L3)が前記偏向装置のすべての偏向器の下流に位置するように、前記偏向装置(31)と前記レンズシステム(13)とが配置される」との記載を引用するものであるため、訂正前の請求項9に係る発明におけるレンズと偏向器との位置関係を、限定するものである。
したがって、これらの訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項14は、訂正前の請求項14に記載された事項に基づくものである。
したがって、訂正事項14は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項14は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項14は、訂正前の請求項9の記載を引用する訂正前の請求項10?13、15、16、及び18の記載についても実質的に訂正するものであるが、訂正事項14は、訂正前の請求項9の記載以外に、訂正前の請求項10?13、15、16、及び18の記載について何ら訂正するものではなく、訂正事項11は、訂正前の請求項10?13、15、16、及び18との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。

(16)訂正事項15
ア 訂正の目的
訂正事項15は、訂正前の請求項14の記載を削除するものである。
したがって、訂正事項15は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項15は、訂正前の請求項14の記載を削除するものである。
したがって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項15は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(17)訂正事項16
ア 訂正の目的
訂正事項16は、訂正事項14及び訂正事項15に伴い、請求項15の引用関係を修正するものである。
したがって、訂正事項16は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項16は、訂正事項14及び訂正事項15に伴い、訂正前の請求項15が従属する請求項を「請求項9?14の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計」から「請求項9?13の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計」にするものである。
したがって、訂正事項16は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項16は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(18)訂正事項17
ア 訂正の目的
訂正事項17は、訂正事項14及び訂正事項15に伴い、請求項16の引用関係を修正するものである。
したがって、訂正事項17は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項17は、訂正事項14及び訂正事項15に伴い、訂正前の請求項16が従属する請求項を「請求項9?15の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計」から「請求項9?13及び15の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計」に改めるだけのものである。
したがって、訂正事項17は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項17は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(19)訂正事項18
ア 訂正の目的
訂正事項18は、訂正前の請求項18の記載を削除するものである。
したがって、訂正事項18は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項18は、訂正前の請求項18の記載を削除するものである。
したがって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項18は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、特許法第134条の2第3項、並びに、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1-3、5、8〕、〔9-13、15、16〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
特許5815826号の請求項1ないし3、5、8ないし13、15、16に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」、「本件特許発明5」、「本件特許発明8」ないし「本件特許発明13」、「本件特許発明15」、「本件特許発明16」という。)は、特許請求の範囲に記載された次のとおりである。

<本件特許発明>
「【請求項1】
粒子放出試料(11)から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定するための方法であって、
前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、実質的に一直線の光学軸(15)を有するレンズシステム(13)によって前記粒子放出試料(11)と測定領域(3)の入射スリット(8)との間で粒子を輸送するステップと、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向(x、y)において前記粒子ビームを偏向させるステップと、
前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するステップと、を備え、前記位置は、少なくとも一つの前記パラメーターの指標となり、
前記荷電粒子の前記位置を検出する前記ステップは、二つの次元での位置の検出を含み、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向(x、y)において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うステップと、
前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップであって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するステップと、
をさらに備え、
前記粒子ビームの偏向はすべてレンズシステム(13)内で起こり、少なくとも一つのレンズ(L1)が前記粒子ビームの一回目の偏向の前に前記粒子に作用し、少なくとも一つのレンズ(L3)が前記粒子ビームの最後の偏向の後に前記粒子に作用することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記粒子ビームの一回目の偏向は、第1の偏向器(33A/33C、33B/33D)によって実現され、前記粒子ビームの少なくとも二回目の偏向は、少なくとも第2の偏向器(33A’/33C’、33B’/33D’)によって実現され、前記第2の偏向器は、前記第1の偏向器の下流に前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)に沿って前記第1の偏向器から離間して配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子ビームは、前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、前記第1座標方向(x)及び前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と直交する第2座標方向(y)においても少なくとも二回偏向される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記粒子ビームの少なくとも一つの偏向は、偏向器パッケージ(29)によって実現され、前記偏向器パッケージ(29)は本質的に四極対称な形態で配置される四つの電極(33A?33D)を備え、前記四つの電極(33A?33D)は二つの電極対(33A/33C、33B/33D)を形成し、前記二つの電極対(33A/33C、33B/33D)はそれぞれの座標方向(x、y)における偏向器の役割を果たし、
前記偏向器パッケージ(29)の前記二つの電極対の一方(33A/33C)の間に第1の偏向器電圧(Vx)を印加するステップと、
前記偏向器パッケージ(29)の前記二つの電極対の他方(33B/33D)の間に第2の偏向器電圧(Vy)を印加するステップと、
前記偏向器パッケージ(29)の前記電極(33A?33D)に四極対称の電圧(±Vq)を印加し、前記偏向器電圧(Vx、Vy)に重畳させるステップと、をさらに備える
、請求項1?3の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記少なくとも一つのパラメーターは、
前記荷電粒子のエネルギー、
前記荷電粒子の開始方向、
前記荷電粒子の開始位置、及び
前記荷電粒子のスピン、
のうち少なくとも一つに関する、請求項1?3及び5の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
粒子放出試料(11)から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定することにより前記粒子放出試料(11)を分析するための半球状偏向器型の光電子分光計であって、
測定領域(3)であって、前記粒子が前記測定領域に入射することを可能にする入射スリット(8)を有する測定領域(3)と、
前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、前記粒子放出試料と前記測定領域の前記入射スリットとの間で前記粒子を輸送するためのレンズシステム(13)であって、実質的に一直線の光学軸(15)を有するレンズシステム(13)と、
前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向(x、y)において前記粒子ビームを偏向させるための第1の偏向器(33A/33C、33B/33D)を備える偏向装置(31)と、
前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するための検出装置(9)と、を備え、前記位置は前記少なくとも一つのパラメーターの指標となり、
前記検出装置(9)は、二つの次元での前記荷電粒子の位置を決定するように構成され、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり、
前記偏向装置(31)は、前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向(x、y)において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うための少なくとも第2の偏向器(33A’/33C’、33B’/33D’)をさらに備え、
前記光電子分光計は、前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記偏向装置(31)が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニット(35)であって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するように操作可能な制御ユニット(35)をさらに備え、
前記レンズシステムの少なくとも一つのレンズ要素(L1)が前記偏向装置のすべての偏向器(33A/33C 33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)の上流に位置し、前記レンズシステムの他の少なくとも一つのレンズ要素(L3)が前記偏向装置のすべての偏向器の下流に位置するように、前記偏向装置(31)と前記レンズシステム(13)とが配置されることを特徴とする半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項10】
前記第2の偏向器(33A’/33C’、33B’/33D’)は、前記第1の偏向器(33A/33C、33B/33D)の下流に、前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)に沿って前記第1の偏向器から離間して配置される、請求項9に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項11】
前記偏向装置(31)は、前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、前記第1座標方向(x)及びレンズシステム(13)の光学軸(15)と直交する第2座標方向(y)においても少なくとも二回前記粒子ビームを偏向させるように操作可能である、請求項9又は10に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項12】
前記偏向装置(31)は、本質的に四極対称な形態で配置される四つの電極(33A?33D)を備える少なくとも一つの偏向器パッケージ(29)を備え、前記偏向器パッケージ(29)の前記四つの電極(33A?33D)は二つの電極対(33A/33C、33B/33D)を形成し、前記二つの電極対(33A/33C、33B/33D)は前記第1座標方向(x)及び前記第2座標方向(y)のそれぞれの座標方向における偏向器の役割を果たす、請求項11に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項13】
前記電極(33A?33D)のそれぞれに個別の電圧を印加するように構成された制御ユニット(35)をさらに備える、請求項12に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項14】(削除)
【請求項15】
前記偏向装置(31)のすべての偏向器(33A/33C、33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)は、レンズ装置(13)の同じレンズ要素(L2)内に配置される、請求項9?13の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項16】
前記偏向装置(31)は、前記レンズシステム(13)の一体部品を形成する、請求項9?13及び15の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項17】(削除)
【請求項18】(削除) 」

第4 請求人の主張の概要
請求人は、特許5815826号の特許請求の範囲の請求項1?5、7?16及び18に記載された発明についての特許を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。

その無効理由の概要と証拠方法は、次のとおりである。
1 第1の根拠(新規性):無効理由1
請求項1、2、7、8、9、10及び18に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない(特許法第123条第1項第2号)。

2 第2の根拠(進歩性):無効理由2
請求項3、4、11、12、13、14、15及び16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(特許法第123条第1項第2号)。 請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(特許法第123条第1項第2号)。

3 第3の根拠(進歩性):無効理由3
請求項1、2、7、8、9、10及び18に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(特許法第123条第1項第2号)。
請求項3、4、11、12、13、14、15及び16に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(特許法第123条第1項第2号)。

4 本件訂正前の請求項1についての無効理由1、3に関する主張の抜粋
(1)「この本件特許明細書の記載を参酌すると、特許権者が自認する従来技術と本件特許発明との差は「第2の偏向器を設けて、粒子ビームの2回目の偏向を行う」ことのみであると解すべきである。しかも、第2の偏向器の構成は、本件特許明細書の背景技術に記載のもの(図1参照)の通りに考案され設計されているとのことなので、当然ながら、その構成も制御方法も、従来技術のものと同一のはずであって、何ら新規なものではないはずである。そして、特許権者が自認する従来技術には、後述する各甲号証中に記載の先行技術が含まれていることは明白である。」(審判請求書手続補正書(方式)第17頁第23行?第18頁第4行)

(2)「甲第2号証に記載された本件特許発明の優先日当時の技術常識に基づく甲第1号証の記載内容の解釈
甲第1号証には、「Scienta電子スペクトロメータ」及びそれを用いてサンプルから放出される光電子の測定を行う方法が記載されている。
甲第1号証には、「Sienta電子スペクトロメータ」として、SES200が記載されている。
このことに照らせば、甲第1号証における「Sienta電子スペクトロメータ」とは「SES200」を意味しているというべきものである。」(審判請求書手続補正書(方式)第34頁第11行?第18行)

(3)「請求人としては、SES200の第1の偏向器と第2の偏向器の双方がY方向に偏向が可能である以上、甲第2号証には、「前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行う」(請求項1参照)との発明特定事項、及び「前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うための少なくとも第2の偏向器」(請求項9参照)との発明特定事項が開示されていると思料いたします。」(請求人の口頭審理陳述要領書第5頁第9行?第16行)

(4)「確かに、本件特許の明細書(段落【0061】)には、「図9A?9Cも、放出された粒子の角度分布の選択された部分A、Bが、たとえ試料11からの取り出し角θx、θyがどんなものであっても、本明細書に記載された発明の構想を用いて、選択された部分がレンズ装置の光学軸15に対して実質的に平行な方向において測定領域3の入口8に入射するように偏向されることができる方法を図解する。」との記載があります。
しかしながら、請求項1及び請求項9に文言上記載されているのは、[丸1](当審注:丸付数字は、便宜上[丸 ]中に数字を表記した。以下同じ。)「角度部分の所定の部分」に属する「前記粒子」が「前記測定領域の前記入口を通過する」ことのみであり、[丸2]「所定の部分」は「角度分布」のどの部分からも選択可能であることに関しては、本件特許の明細書に記載はあるものの、請求項1及び請求項9の記載には反映されておりません。」(請求人の口頭審理陳述要領書第7頁第23行?第8頁第6行)

(5)「甲5-1発明はSES2002に関するものですが、甲第1号証には、SES2002について言及されております(例えば、第484頁左欄第2行?第9行)。このような甲第1号証中における示唆に鑑みれば、甲第1号証に記載された甲1-1発明に甲5-1発明を組み合わせることについて、動機付けが存するものと思料いたします。」(請求人の口頭審理陳述要領書第8頁第21行?第25行)

(6)「SES200においては、分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下のウインドウ内の光電子が分析器の入射スリットを通過します(例えば、甲第1号証の第483頁第15行?第28行)。この「14°以下のウインドウ内の光電子」が「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度部分の選択された所定の部分」に相当します。」(弁駁書第4頁第12行?第16行)

(7)「SES200においては、サンプルから様々なθxで放出される光電子のうち、上記の角度ウインドウの範囲内の光電子のみが入射スリットを通過するように制御が行われております(例えば、甲第1号証の第483頁第15行?第28行)。そのため、SES200は、「前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステムの前記光学軸と実質的に平行な方向に前記測定領域に入射するかを制御するステップ」との特徴を具備していることは明らかです。」(弁駁書第6頁第12行?第17行)

5 本件訂正前の請求項4についての無効理由2、3に関する主張の抜粋
「甲3-1発明の「レンズアセンブリ」は、本件特許発明4の「レンズシステム」に相当する。甲3-1発明の「第1レンズ部品及び第2レンズ部品」は、本件特許発明4の「少なくとも一つのレンズ(L1)」に相当する。甲3-1発明の「第4レンズ部品、第5レンズ部品及び第6レンズ部品」は、本件特許発明4の「少なくとも一つのレンズ(L3)」に相当する。
したがって、甲3-1発明は、構成要素4Aに相当する構成、すなわち甲1-1発明と本件特許発明4との相違点に係る構成を具備しており、甲1-1発明に甲3-1発明を組み合わせることにより、本件特許発明4の構成に至る。
甲1-1発明に甲3-1発明を組み合わせることに動機付けが存することは、上記のとおりである。」(審判請求書手続補正書(方式)第49頁第21行?第50頁第3行)

6 証拠方法
請求人は、審判請求書に添付して甲第1ないし6号証を添付した。
甲第1号証:
Andrea Damascelli 他、「Angle-resolved photoemission studies of the cuprate superconductors」2003年4月、Review of Modern Physics、Vol.75、pp.471-541
甲第2号証:
Scienta Instrument AB、「Technical Description SES200」、1996年5月
甲第3号証:
米国特許第4358680号明細書
甲第4号証:
特開昭62-143354号公報
甲第5号証:
Gammadate Scienta AB、「The Gammadata Scienta SES2002 User's Manual」、2002年3月
甲第6号証:
特願2014-560888についての平成29年5月22日付起案の拒絶理由通知書

第5 被請求人の主張の概要
1 本件訂正前の請求項1についての無効理由1、3に関する主張の抜粋
(1)「偏向器A9が粒子ビームの偏向を自由に行えない(上記のようにミラーとしてしか機能し得ない)のは、アパーチャスリットにより、粒子の運動の自由度が制限されてしまうためである。」(審判事件答弁書第18頁第8行?第10行)

(2)「構成要件1Hの「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の所定の部分(A、B)が前記測定領域(3)の前記入口(8)を通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御する」との記載は、測定領域への入射時の粒子ビームの位置及び方向(以下、それぞれ「終端位置」及び「終端方向」と称する。)の両方が制御されていることを含意するものである。」(審判事件答弁書第20頁第1行?第4行)

(3)「SES200の偏向器A9は、粒子ビームが入射スリットを通過する際の位置及び方向(すなわち、粒子ビームの終端位置及び終端方向)の両方を適切に制御することはできない。従って、甲第1号証には、少なくとも本件特許発明1の構成要件1Hに対応する構成が記載されていない。
以上より、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
・・・途中省略・・・
請求人は、甲第1号証に記載されたSES200の偏向器A9による偏向が本件特許発明1における二回目の偏向に対応すると主張する。しかしながら、SES200のレンズシステム内の偏向器と偏向器A9との組合わせは、その間にアパーチャが設けられていることにより、本件特許発明1とは異なり、粒子ビームの少なくとも二回の偏向を制御することにより粒子ビームの終端位置及び終端方向の両方を適切に制御することができない。このため、甲第1号証には、少なくとも本件特許発明1の構成要件1Hに対応する構成が記載されていない(構成要件1Hが「粒子ビームの終端位置及び終端方向の両方が制御される」ことを含意するものと解釈されるべき理由は、上記のとおりである。)。
従って、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。」(審判事件答弁書第21頁第2行?第19行)

(4)「この例では、請求項1、9の上記特定における「所定の部分」とは参考図1および参考図2の長方形の枠内の部分です。y方向における粒子ビームの偏向を制御することにより、参考図2に示すように複数の部分について連続的に測定を行うことが可能であり、これらを組み合わせることにより角度分布全体の完全なマップを得ることができます。」(被請求人の口頭審理陳述要領書第8頁第5行?第9行)

(5)「本件明細書のこうした記載を参酌すれば、当業者であれば、請求項1、9の上記特定は、単に粒子の角度分布のどこかの部分が測定領域の入口を通過しさえすれば直ちに満たされるというものではなく、粒子ビームの偏向を制御することにより、粒子の角度分布のうちどの部分が測定領域の入口を通過するかを選択することが可能であると意味するものとして解釈し得るものと思料いたします。
ただし、請求項に係る発明は上述の具現例に限定されるものではありません。」(被請求人の口頭審理陳述要領書第8頁第10行?第17行)

2 本件訂正前の請求項4についての無効理由2、3に関する主張の抜粋
(1)「甲第3号証に記載された発明では、粒子のエネルギー及び当該粒子が検出された位置が検出される。また、サンプル上の特定の一点のみについて、一次元測定が行われる。」(審判事件答弁書第29頁第2行?第4行)
(2)「仮に当業者が「甲1発明Aにおいて、「8枚の偏光板の組」及び「一つの偏向電極」の前後にレンズを設ける」ことに想到し得たとしても、上記ア(ア)a(a)に記載したように、SES200のように第2の偏向よりも前にアパーチャが存在する限り、粒子の角度分布の所定の部分を選択して光学軸15に平行に入射スリットを通過させることは不可能です。」(上申書第27頁第17行?第21行)

3 証拠方法
被請求人は、上申書に添付して乙第1ないし3号証を添付した。
乙第1号証:
Scienta Omicron AB、「DA30-L Angle Resolved Electron Spectrometer」、2018年3月
乙第2号証:
Koichiro Yaji 他、「Spin-dependent quantum interference in photoemission process from spin-orbit coupled states」、Nature Communications、8、14588、(2016)、2017年2月24日
乙第3号証:
Koichiro Yaji 他、「High-resolution three-dimentional spin- and angle-resolved photoelectron spectrometer using vacuum ultraviolet laser light」、REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS、87、053111、(2017)、2016年5月12日

第6 無効理由についての当審の判断
1 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証には、次の事項が記載されている。なお、訳は請求人による甲第1号証抄訳文を主に採用し、また、下線は当審において付したものである。

ア 「In addition,because over the last two years we have witnessed a dramatic improvement of energy and especially momentum resolution with the introduction of the Scienta SES200 electron analyzer,more emphasis will be given to ARPES data obtained with this kind of spectrometer,whenever available.」(第475頁左欄第39行?第44行)
(訳:加えて、過去2年の間に我々はScienta製のSES200の導入に伴うエネルギー、特に運動量の解像度の劇的な改善を目撃しているため、この種のスペクトロメータを用いて得られるAPRESデータに対してより重点が置かれるようになるであろう。)

イ 「Futhermore,in contrast to a conventional election analyzer in which the momentum infomation is averaged over all the photoelectrons within the acceptance angle(typically ±1°),the Scienta system can be operated in angle-resolved mode,which provides energy-momentum information not only at a single k-pont but along an extended cut in k space.In particular,the photoelectrons within an angular window of ?14°along the direction defined by the analyer entrance slit are focused on different X positions on the detector(Fig,6).It is thus possible to measure multiple energy distribution curves simultaneously for different photoelectron angles,obtaining a 2D snapshot of energy versus momentum(Fig.7). 」(第483頁右欄第15行?第28行)
(訳:さらに、運動情報量がアクセプタンス角度(典型的には±1°)範囲内の全ての光電子に亘って平均される従来の電子分析器とは対照的に、Scientaシステムは、単一のk点だけでなく、k空間内の拡張断面に沿って、エネルギー運動量の情報を提供し、角度分解モードで動作させることができる。具体的には、分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下の角度ウィンドウ内の光電子が、検出器上の異なるX位置に集束する(図6)。このようにして、運動量に対するエネルギーの2Dスナップショットを取得し、異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定することが可能である(図7)。)

ウ 「The Scienta SES200 analyzer(R0=200mm)typically allows energy and angular resolutions of approximately a few meV and 0.2°,respectively」(第483頁右欄第29行?第31行)
(訳:Scienta製SES200分析器(R0=200mm)は、典型的には、およそ数meV及び0.2°のエネルギー分解能及び角度分解能を有している。)

エ 図6には、サンプル(Sample)とScienta製半球状分析器(Scienta hemispherical analyzer)の入射スリット(Entrance slit)との間に静電レンズ(Electrostatic lens)を備えること、検出器(Detector)には、E_(K)-θ_(X)平面が設けられていることが見て取れる。

オ 前記アないしエ、及び、甲第1号証にはScienta製SES200分析器について記載されていることから、甲第2号証の下記(2)アないしエを考慮すると、甲第1号証には、次の発明が記載されている。

「異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定することが可能である方法であって、
サンプルと分析器の入射スリットとの間に静電レンズを備え、分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下の角度ウィンドウ内の光電子が、検出器上の異なるX位置に集束し、運動量に対するエネルギーのE_(K)-θ_(X)平面上の2Dスナップショットを取得し、異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定することが可能となり、
長い3番目の要素内に、8枚の偏向板の組が八極対称に配置され、アパーチャースリットと入射スリットとの間に、一つの偏向電極を有し、この偏向器の目的は、分析器のアパーチャーを通過する電子の方向を修正する方法。」(以下「甲1発明A」という。)

「異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定することが可能である半球状分析器を備えたScienta製SES200分析器であって、
サンプルと分析器の入射スリットとの間に静電レンズを備え、
長い3番目の要素内に、8枚の偏向板の組が八極対称に配置され
分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下の角度ウィンドウ内の光電子が、検出器上の異なるX位置に集束し、運動量に対するエネルギーのE_(K)-θ_(X)平面上の2Dスナップショットを取得し、異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定することが可能となり、
アパーチャースリットと入射スリットとの間に、一つの偏向電極を有し、この偏向器の目的は、分析器のアパーチャーを通過する電子の方向を修正する半球状分析器を備えたScienta製SES200分析器。」(以下「甲1発明B」という。)

(2)甲第2号証には、次の事項が記載されている。なお、訳は請求人による甲第2号証抄訳文、被請求人による答弁書、上申書の抄訳を主に採用し、また、下線は当審において付したものである。

ア 「Inside the long third element a set of eight deflector plates are arranged in an octagonal symmetry.」(1.1.2章第1行?第2行)
(訳:長い3番目の要素内に、8枚の偏向板の組が八極対称に配置されている。)

イ 「The 200 mm analyser has one deflection electrode sitting between the aperture slit and the entrance slit,see figure 1.2-1.The purpose of this deflector is to be able to correct the direction of the electrons passing the analyser aperture,so a maximum number of them also pass through the analysers entrance slit.」(1.2.3章第1行?第4行)
(訳:この200mmの分析器は、図1-2.1に示すように、アパーチャースリットと入射スリットとの間に、一つの偏向電極を有している。この偏向器の目的は、分析器のアパーチャーを通過する電子の方向を修正し、それらの電子の最大数が分析器の入射スリットを通過するようにすることである。)

ウ 「The SCIENTA high-voltage system is designed to be used wherever high voltages with low power and high precision is needed.The system is built from modular units」(1.4章第1行?第2行)
(訳:Scientaの高電圧システムは、低電力かつ高精度の高電圧が必要とされる場合に使用されることを目的として設計されている。このシステムは、モジューラーユニットにより構成されている。)

エ 「The HV modules are controlled from the PC via high voltage control cards(HVC).」(1.4章第8行)
(訳:このHVモジュールは、コントロールカード(HVC)を経由してPCにより制御される。)

オ 「In an ideal situation, these deflections are constant for each pass energy and should never be changed. However,if the lens deflection(see chapter 3.6)is changed significantly,this might influence the analyser deflections a little and a readjustment might be useful.」(3.4.4章第8行?第10行)
(訳:理想的な状況では、これらの偏向は各パスエネルギーに対して一定であり、決して変更すべきではない。しかしながら、レンズ偏向(3.6章参照)が大きく変更された場合には、これらの分析器の偏向に少し影響することがあり、再調整が有益である場合がある。)

カ 「The first deflection electrode is used to compensate for misalignments and parasitic magnetic or electrostatic fields in the electron lens,which may give as result in that the average electron path through the centre of the aperture will not pass through the centre of the slit.The effect of this will be a reduced intensity.By placing an electrode at a normally very low potential between the aperture and the slit it is possible to redirect the electrons to pass through optimally.」(3.4.4.1章第1行?第6行)
(訳:第1偏向電極は、ミスアライメント及び電子レンズにおける寄生磁場又は静電場を補償するために使用される。このようなミスアライメント及び寄生磁場又は寄生静電場が存在すると、結果として、アパーチャの中心を通る平均的な電子の経路がスリットの中心を通過しないようになる場合ある。これにより生じる影響は、強度の減少である。通常非常に低電位で、アパーチャとスリットとの間に電極を配置することにより、電子の再方向付けを行うことにより最適な形で通過させることが可能になる。)

(3)甲第3号証には、次の事項が記載されている。なお、訳は対応する日本国特許出願公報である特開昭56-107463号公報の記載を主に採用し、また、下線は当審において付したものである。

ア 「The further deflector plates can comprise, as shown in FIG. 2, two opposite plates P3,P3 ' in the same stage as plates P1,P1 ', and two opposite plates P4,P4 ' in the same stage as plates P2,P2 '. 」(第4欄第34?37行)
(訳:さらに設けられる偏向プレートは第2図に示すようにプレートP1、P1’と同じ段において2つのプレートP3、P3’、ならびにプレートP2、P2’と同じ段において2つの相対向するプレートP4、P4’を有する。)

イ 「FIG. 4 illustrates diagrammatically the full spectrometer which comprises the lens assembly 1, an electron-energy hemispherical analyzer 6 having the fringe plate 5 at its entrance and exit, an electron detector 7 located at the outlet of the analyzer, an amplifier 8 and a display device 9. 」(第7欄第22行?第27行)

(訳:第4図に略示するスペクトロメータはレンズアセンブリ1と、その出入口に外辺プレート5を有する電子エネルギ半球状アナライザ6と、アナライザの出口に位置する電子検出器7と、アンプ8とディスプレイ装置9とを有する。)

ウ 図1には、レンズ部品1c、1dが、プレートP1、P1’、プレートP2、P2’の上流側に、レンズ部品2a、2b、2cが、プレートP1、P1’、プレートP2、P2’の下流側に配置されていることが見て取れる。

エ 前記アないしウから、甲第3号証には、次の発明が記載されている。
「偏向プレートはプレートP1、P1’と同じ段において2つのプレートP3、P3’、ならびにプレートP2、P2’と同じ段において2つの相対向するプレートP4、P4’を有し、レンズ部品1c、1dが、プレートP1、P1’、プレートP2、P2’の上流側に、レンズ部品2a、2b、2cが、プレートP1、P1’、プレートP2、P2’の下流側に配置されているスペクトロメータ。」(以下「甲3発明」という。)

(4)甲第4号証には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付したものである。

ア 「第1図は一実施例ブロック構成図で,8重極静電偏向器を駆動する偏向回路の場合である。第1図において,1は直交する2軸の位置信号vx,vyを発生する位置信号発生回路,2はこの位置信号vx,vyより両極性を有する2軸の偏向信号Vx,-Vx,Vy,-Vyを作って出力する偏向信号発生回路,3はこれらの偏向信号±Vx,±Vyを入力に受けて後述する抵抗分割回路によって偏向器を構成する各電極へ供給するための余弦分布状の8個の電圧信号V1′?V8′を作る偏向電極用電圧分割回路,4は増幅回路,5は非点収差補正用電圧信号φx,φyを発生する非点収差補正用電圧源,6は[丸1]?[丸8]の8個の電極で構成される8重極静電偏向器である。」(第2頁左下欄第6行?第19行)

イ 「(b)非点補正がある場合
V1′=Vx+φx
V2′=(Vx+Vy)/√2-φy
V3′=Vy-φx
V4′=(-Vx+Vy)/√2+φy
V5′=-Vx+φx
V6′=(-Vx-Vy)/√2-φy
V7′=-Vy-φx
V8′=(Vx-Vy)/√2+φy」(第2頁右下欄第12行?第20行の抜粋)

ウ 前記ア及びイから、甲第4号証には、次の発明が記載されている。

「2軸の偏向信号Vx,-Vx,Vy,-Vyを作って出力する偏向信号発生回路,非点収差補正用電圧信号φx,φyを発生する非点収差補正用電圧源,8個の電極で構成される8重極静電偏向器」(以下「甲4発明」という。)

(5)甲第5号証には、次の事項が記載されている。なお、訳は請求人による甲第5号証抄訳文を主に採用し、また、下線は当審において付したものである。

ア 「The hemispherical electron analyser is the part of instrument that performs the actual energy dispersion.The electron trajectories are bent in the radial electrostatic field between two concentric hemispheres with a voltage difference between them.」(1.2章第1行?第3行)
(訳:半球状電子分析器は、エネルギー分散を行う装置の一部である。電子の軌道は、二つの同心円状の半球の間に印加された電圧による電場により曲げられる。)

イ 「The detector system is responsible for the detection of the electrons and also their exact position in two dimensions.This makes it possible to determine their energy and one additional parameter,either the position or angular direction」(1.3章第1行?第3行)
(訳:検出器システムは、電子の検出及び電子の二次元における位置の検出を担う。これは、電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする。)

ウ 「The GAMMADATA SCIENTA high-voltage system is designed to be used wherever high voltages with low power and high precision is needed.The system is built from modular units」(1.4章第1行?第2行)
(訳:GAMMADATA SCIENTAの高電圧システムは、低電力かつ高精度の高電圧が必要とされる場合に使用されることを目的として設計されている。このシステムは、モジュラーユニットにより構成されている。)

エ 「The HV modules are controlled from the PC via high voltage control cards(DO).」(1.4章第9行)
(訳:このHVモジュールモジュールは、コントロールカード(DO)を経由してPCにより制御される。)

オ 「By allowing the lens element voltages to vary in a different way with kinetic energy,it is possible to image the emission angle distribution at the lens exit instead of a real image.」(2.2.3章第1行?第2行)
(訳:レンズ要素の電圧を運動エネルギーとともに異なった方法で変化させることで、実際の像に代えて、レンズ出口における放出角の分布を表示することが可能となる。)

カ 図1.1-1には、レンズ(Lens)内に8枚の偏向板(Deflector plates)を備えることが見て取れ、図1.2-1には、スリット(Slit)とアパーチャー(Aperture)との間に偏向器(Deflectors)を備えること、半球状の分析器が見て取れる。

キ 前記アないしカから、甲第5号証には、次の発明が記載されている。

「電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする方法であって、
レンズ要素の電圧を運動エネルギーとともに異なった方法で変化させることで、実際の像に代えて、レンズ出口における放出角の分布を表示することが可能となり、
レンズ内に8枚の偏向板を備え、スリットとアパーチャーとの間に偏向器を備え、偏向を行う方法。」(以下「甲5発明A」という。)

「電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする半球状の検出器システムであって、
レンズ要素の電圧を運動エネルギーとともに異なった方法で変化させることで、実際の像に代えて、レンズ出口における放出角の分布を表示することが可能となり、
レンズ内に8枚の偏向板を備え、スリットとアパーチャーとの間に偏向器を備えた、半球状の検出器システム。」(以下「甲5発明B」という。)

2 判断
(1)本件特許発明1についての判断
ア 無効理由1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明Aとを対比すると、甲1発明Aの「『サンプルと分析器の入射スリットとの間に静電レンズを備え、』『光電子が』『分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った』」は、本件特許発明1の「前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、実質的に一直線の光学軸(15)を有するレンズシステム(13)によって前記粒子放出試料(11)と測定領域(3)の入スリット(8)との間で粒子を輸送する」に、相当する。

(イ)甲1発明Aの「エネルギー」、「E_(K)」、「θ_(X)」は、本件特許発明1の「荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーター」に、甲1発明Aの「E_(K)」は、本件特許発明1の「荷電粒子のエネルギー」に、甲1発明Aの「θ_(X)」は、本件特許発明1の「荷電粒子の開始方向」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲1発明Aの「異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定することが可能である方法」は、本件特許発明1の「粒子放出試料(11)から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定するための方法」に、甲1発明Aの「光電子が、検出器上の異なるX位置に集束し、運動量に対するエネルギーのE_(K)-θ_(X)平面上の2Dスナップショットを取得し、異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定する」は、本件特許発明1の「前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するステップと、を備え、前記位置は、少なくとも一つの前記パラメーターの指標となり、前記荷電粒子の前記位置を検出する前記ステップは、二つの次元での位置の検出を含み、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり」に、それぞれ相当する。

(ウ)甲1発明Aの「『長い3番目の要素内に、8枚の偏向板の組が八極対称に配置され、』『偏向』させる」ことは、本件特許発明1の『前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向』『において前記粒子ビームを偏向させる』」に、相当する。

(エ)本件特許発明1の「第1座標方向(x、y)」は、座標方向に特段の限定があるわけではない(例えば、x方向のみでもy方向のみでもよい、参考までに、被請求人の口頭審理陳述要領書第8頁第5行?第7行参照。)ことから、甲1発明Aの「アパーチャースリットと入射スリットとの間に、一つの偏向電極を有し、この偏向器の目的は、分析器のアパーチャーを通過する電子の方向を修正する」は、本件特許発明1の「『粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向』『において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行う』」に、相当する。

(オ)甲1発明Aの「『分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下の角度ウィンドウ内の光電子が、検出器上の異なるX位置に集束』するように、『電子の方向を修正する』」と、本件特許発明1の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御する」は、「『前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の』『『所定の部分(A、B)が』『前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御する』」の点で一致する。

(カ)上記(ア)ないし(オ)から、本件特許発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「粒子放出試料から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定するための方法であって、
前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、実質的に一直線の光学軸を有するレンズシステムによって前記粒子放出試料と測定領域の入射スリットとの間で粒子を輸送するステップと、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向において前記粒子ビームを偏向させるステップと、
前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するステップと、を備え、前記位置は、少なくとも一つの前記パラメーターの指標となり、
前記荷電粒子の前記位置を検出する前記ステップは、二つの次元での位置の検出を含み、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うステップと、
前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布の所定の部分が前記測定領域の前記入射スリットを通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップと、
をさらに備える方法。」

(相違点1A)
粒子ビームを形成する粒子の角度分布の所定の部分が測定領域の入射スリットを通過するように、粒子ビームの偏向を制御するステップについて、本件特許発明1は、「所定の部分」が「選択された」部分であり、「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、粒子ビームの前記偏向を制御するステップであって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御する」のに対して、甲1発明Aは、本件特許発明1のようなステップかどうか明らかでない点で相違する。

(相違点2A)
本件特許発明1は、「粒子ビームの偏向はすべてレンズシステム(13)内で起こり、少なくとも一つのレンズ(L1)が前記粒子ビームの一回目の偏向の前に前記粒子に作用し、少なくとも一つのレンズ(L3)が前記粒子ビームの最後の偏向の後に前記粒子に作用するステップ」であるのに対して、甲1発明Aは、そのような特定がない点で相違する。

(キ)上記(カ)で検討したように、本件特許発明1と甲1発明Aには相違点があるので、本件特許発明1は、甲1発明Aではない。

イ 無効理由2について
本件特許発明1は、本件訂正前の請求項4を一部訂正したものとして、無効事由2を検討する。

(ア)一致点、相違点は、上記ア(カ)のとおりである。

(イ)相違点1Aについて
a 甲1発明Aの「『長い3番目の要素内に、8枚の偏向板の組が八極対称に配置され、』『偏向』させること」を、以下「一回目の偏向」といい、甲1発明Aの「アパーチャースリットと入射スリットとの間に、一つの偏向電極を有し、この偏向器の目的は、分析器のアパーチャーを通過する電子の方向を修正」を、以下「二回目の偏向」という。また、以下、「一回目の偏向」を行う偏向器及び「二回目の偏向」を行う偏向器を、それぞれ、「第一偏向器」及び「第二偏向器」という。

b 甲第1号証にはScienta製SES200分析器について記載されていることから、Scienta製SES200分析器が具体的に記載されている甲第2号証を考慮して、甲1発明Aを認定した。そこで、まず、Scienta製SES200分析器の二回目の偏向が、なんのために行われているのか検討する。
甲第2号証の「これらの偏向は各パスエネルギーに対して一定であり、決して変更すべきではない」、「『第1偏向電極は、ミスアライメント及び電子レンズにおける寄生磁場又は静電場を補償するために使用される。』『通常非常に低電位で、アパーチャとスリットとの間に電極を配置することにより、電子の再方向付けを行うことにより最適な形で通過させることが可能になる』」(上記1(2)オ、カ参照。)との記載から、Scienta製SES200分析器の二回目の偏向は、ミスアライメント及び電子レンズにおける寄生磁場又は静電場を補償するために使用されていると認められる。

c 次に、甲1発明Aにおいて、一回目の偏向及び二回目の偏向によって、粒子ビームを形成する粒子の角度分布の選択された所定の部分がレンズシステムの光学軸と実質的に平行な方向に測定領域の入射スリットを通過できるか検討する。
(a)二回目の偏向は、ミスアライメント及び電子レンズにおける寄生磁場又は静電場を補償するために使用され(上記b参照。)、甲第1号証及び甲第2号証には、その他の機能についての記載がないことから、粒子ビームを形成する粒子の角度分布の所定の部分を選択する機能があるとはいえない。
そして、甲第2号証には、Scienta製SES200分析器の一回目の偏向が、何のためになされているかについては記載されていないから、一回目の偏向が、粒子ビームを形成する粒子の角度分布の所定の部分を選択する機能があるとはいえないことは明らかである。
したがって、甲1発明Aは、一回目の偏向及び二回目の偏向によって、粒子ビームを形成する粒子の角度分布の選択された所定の部分がレンズシステムの前記光学軸と実質的に平行な方向に前記測定領域の入射スリットを通過できるものとはいえない。

(b)さらに、甲1発明Aの一回目の偏向が、粒子ビームを形成する粒子の角度分布の所定の部分を選択する機能があるとはいえないことは、次の点からも裏付けられる。
甲1発明Aの一回目の偏向が、粒子ビームを形成する粒子の角度分布の所定の部分を選択する機能があるといえるためには、少なくとも、甲1発明Aの第一偏向器を測定が実行されている最中に調整することが必要である。しかし、そのようなことはあり得ない。
すなわち、上記bのとおり、Scienta製SES200分析器の二回目の偏向は、ミスアライメント及び電子レンズにおける寄生磁場又は静電場を補償するために使用されているのであるから、上記補償をするために第二偏向器を調整するタイミングは、測定が実行される前であって、測定が実行されている最中ではないと解される。そして、二回目の偏向による上記補償は、電子の最大数が分析器の入射スリットを通過するとの観点からなされている(甲第2号証の「アパーチャースリットと入射スリットとの間に、一つの偏向電極(審決注:第二偏向器を構成するものである。)を有している。この偏向器の目的は、分析器のアパーチャーを通過する電子の方向を修正し、それらの電子の最大数が分析器の入射スリットを通過するようにすることである。」(上記1(2)イ)との記載を参照。)。そうすると、甲1発明Aの第一偏向器を測定が実行されている最中に調整することは、二回目の偏向による上記補償の効果を損なうことになるから、あり得ないというべきである。
このように、甲1発明Aの一回目の偏向は、測定が実行されている最中は(第一偏向器が調整されることなく)一定となるものと認められる。
したがって、一回目の偏向においても、粒子ビームを形成する粒子の角度分布の所定の部分を選択する機能はない。

(c)以上のとおりであるから、甲1発明Aは、一回目の偏向及び二回目の偏向によって、「前記粒子の角度分布」「の」「所定の部分」を「選択」するものではない。

(d)仮に、甲1発明Aの第一偏向器が測定が実行されている最中に調整されたとしても、二回目の偏向による上記補償を損なうことはないとするならば、甲1発明Aは、一回目の偏向及び二回目の偏向によって、「前記粒子の角度分布」「の」「所定の部分」を「選択」するものといえる余地があることになる。しかし、そうだとしても、以下のとおり、甲1発明Aは、相違点1Aの「前記粒子ビーム」を「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように」を満たすことはない。
すなわち、上記bのとおり、二回目の偏向は、ミスアライメント及び電子レンズにおける寄生磁場又は静電場を補償するために使用されることから、粒子ビームを形成する粒子の角度分布の所定の部分を選択する機能はない。
そのような中で、甲1発明Aの第一偏向器を、測定を実行している最中に調整すると(その結果、一回目の偏向によって所定の部分を選択したことになる。)、光電子は選択された各種角度の方向となるが、測定が実行されている最中の二回目の偏向は引き続き一定である(上記(b)参照。)から、第二偏向器は、前記各種角度のそれぞれの角度に応じて調整されることはない。そうすると、選択された光電子が測定領域の入射スリットを通過する方向は、必ずしも「『光学軸』『と実質的に平行な方向』」にはならない。
したがって、甲1発明Aにおいて、第一偏向器が測定が実行されている最中に調整されることがあるとすると、その調整の仕方、すなわち、所定の部分の選択の仕方によって、入射スリットを通過する光電子の方向が様々に変わることになるのであり、よって、入射スリットを通過する光電子の方向は実質的に平行な方向ではない。

d 以上のとおりであるから、相違点1Aは、甲第1号証及び甲第2号証に開示されていない。そして、甲1発明Aにおいて相違点1Aの構成を採用することが容易想到であることを示す他の証拠(特に、甲1発明Aの第二偏向器が、測定を実行している最中でも調整することが容易想到であることを根拠付ける証拠。)も存在しない。
したがって、相違点1Aは、当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)相違点2Aについて
甲3発明には、相違点2Aに関する技術事項(上記1(3)エ参照)が記載されていることから、甲3発明を考慮し、甲1発明Aにおいて、「『サンプルと分析器の入射スリットとの間』の『静電レンズ』」の一つの静電レンズが「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」の後に追加されることを検討する。

上記(イ)bのとおり、甲1発明Aの第二偏向は、ミスアライメント及び電子レンズにおける寄生磁場又は静電場を補償するために使用するものである。
また、相違点1Aにも記載したように、本件発明1では「所定の部分」は「前記偏向」により「選択」されたものであり、「前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム」「の前記光学軸」「と実質的に平行な方向に前記測定領域に入射するかを制御する」ものである。
そして、甲1発明Aにおいて、上記(イ)cのとおり、選択された光電子が測定領域の入射スリットを通過する方向は、必ずしも「『光学軸』『と実質的に平行な方向』」にはならない。
そうすると、甲1発明Aにおいて、選択された光電子が測定領域の入射スリットを通過する方向が、光学軸と実質的に平行な方向にならない場合に、甲1発明Aの二回目の偏向の後に静電レンズを追加することを想定すると、光学軸と実質的に平行な方向でない光電子を静電レンズで集束することになり、前記補償に影響をおよぼすことになる。
したがって、甲1発明Aが考慮したScienta製SES200分析器において、「『粒子ビームを形成する粒子の角度分布』『の選択された所定の部分』」とし、アパーチャースリットと入射スリットとの間の一つの偏向電極を有した偏向器に後に静電レンズを追加した場合には、追加された静電レンズによりミスアライメント及び電子レンズにおける寄生磁場又は静電場を補償できなくなるという、二回目の偏向の一つの偏向電極を有した偏向器の機能を損なうという阻害要因が発生する。
よって、相違点2Aは、当業者が容易になし得たことではない。

(エ)したがって、 本件特許発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

ウ 請求人の主張について
(1)「請求項1及び請求項9に文言上記載されているのは、[丸1](当審注:丸付数字は、便宜上[丸 ]中に数字を表記した。以下同じ。)「角度部分の所定の部分」に属する「前記粒子」が「前記測定領域の前記入口を通過する」ことのみであり、[丸2]「所定の部分」は「角度分布」のどの部分からも選択可能であることに関しては、本件特許の明細書に記載はあるものの、請求項1及び請求項9の記載には反映されておりません。」(請求人の口頭審理陳述要領書第7頁第23行?第8頁第6行)

しかしながら、本件訂正により、本件特許発明1及び本件特許発明9において、「所定の部分」は「選択された所定の部分」、「『測定領域(3)の前記入口(8)を通過するように』『制御する』」は「『粒子ビームのどの部分が』『測定領域(3)に入射するかを制御する』」と訂正されたので、上記主張を採用することはできない。

(2)「SES200においては、分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下のウインドウ内の光電子が分析器の入射スリットを通過します(例えば、甲第1号証の第483頁第15行?第28行)。この「14°以下のウインドウ内の光電子」が「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度部分の選択された所定の部分」に相当します。」(弁駁書第4頁第12行?第16行)
「SES200においては、サンプルから様々なθxで放出される光電子のうち、上記の角度ウインドウの範囲内の光電子のみが入射スリットを通過するように制御が行われております(例えば、甲第1号証の第483頁第15行?第28行)。そのため、SES200は、「前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステムの前記光学軸と実質的に平行な方向に前記測定領域に入射するかを制御するステップ」との特徴を具備していることは明らかです。」(弁駁書第6頁第12行?第17行)

しかしながら、上記1(1)イにも記載したように、甲第1号証の第483頁第15行?第28行には、「選択された所定の部分」、「前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステムの前記光学軸と実質的に平行な方向に前記測定領域に入射するかを制御する」ことについては、記載されていない。
そして、仮に、甲第2号証に記載のSES200が、サンプルの機械的な回転で「所定の部分」を選択しているとしても、本件特許発明1の「所定の部分」は、「前記粒子ビームの前記偏向を制御」して「選択された所定の部分」であるから、SES200によって選択される「14°以下のウインドウ内の光電子」が本件特許発明1の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度部分」「の選択された所定の部分」に相当するとはいえない。
よって、上記主張を採用することはできない。

エ 無効理由3について
(ア)本件特許発明1と甲5発明Aとを対比すると、甲5発明Aの「電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする方法」は、本件特許発明1の「粒子放出試料(11)から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定するための方法」に、甲5発明Aの「『レンズ要素の電圧を運動エネルギーとともに異なった方法で変化させることで、実際の像に代えて、レンズにおける』『電子』を『放出』する」は、本件特許発明1の「前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、実質的に一直線の光学軸(15)を有するレンズシステム(13)によって前記粒子放出試料(11)と測定領域(3)の入射スリット(8)との間で粒子を輸送する」に、それぞれ相当する。

(イ)甲5発明Aの「電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向」は、本件特許発明1の「荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーター」に、甲5発明Aの「電子のエネルギー」は、本件特許発明1の「荷電粒子のエネルギー」に、甲5発明Aの「『電子の』『角度方向』」は、本件特許発明1の「荷電粒子の開始方向」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲5発明Aの「『電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする半球状の検出器』で検出する」は、本件特許発明1の「前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するステップと、を備え、前記位置は、少なくとも一つの前記パラメーターの指標となり、前記荷電粒子の前記位置を検出する前記ステップは、二つの次元での位置の検出を含み、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり」に相当する。

(ウ)甲5発明Aの「『8枚の偏向板』で『偏向』させる」ことは、本件特許発明1の「『前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向』『において前記粒子ビームを偏向させる』」に相当する。

(エ)本件特許発明1の「第1座標方向(x、y)」は、座標方向に特段の限定があるわけではない(例えば、x方向のみでもy方向のみでもよい、参考までに、被請求人の口頭審理陳述要領書第8頁第5行?第7行参照。)ことから、甲5発明Aの「『スリットとアパーチャーとの間に偏向器』で『偏向』させる」は、本件特許発明1の「『粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向』『において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行う』」に、相当する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)から、本件特許発明1と甲5発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「粒子放出試料から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定するための方法であって、
前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、実質的に一直線の光学軸を有するレンズシステムによって前記粒子放出試料と測定領域の入射スリットとの間で粒子を輸送するステップと、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向において前記粒子ビームを偏向させるステップと、
前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するステップと、を備え、前記位置は、少なくとも一つの前記パラメーターの指標となり、
前記荷電粒子の前記位置を検出する前記ステップは、二つの次元での位置の検出を含み、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うステップと、
をさらに備える方法。」

(相違点1A’)
本件特許発明1は「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップであって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するステップ」を備えているのに対して、甲5発明Aはそのような特定がない点で相違する。

(相違点2A’)
本件特許発明1は、「粒子ビームの偏向はすべてレンズシステム(13)内で起こり、少なくとも一つのレンズ(L1)が前記粒子ビームの一回目の偏向の前に前記粒子に作用し、少なくとも一つのレンズ(L3)が前記粒子ビームの最後の偏向の後に前記粒子に作用するステップ」であるのに対して、甲5発明Aは、そのような特定がない点で相違する。

(カ)相違点1A’について
a 上記ア(オ)に記載したように、甲1発明Aの「『分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下の角度ウィンドウ内の光電子が、検出器上の異なるX位置に集束』するように、『電子の方向を修正する』」と、本件特許発明1の「前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御する」は、「『前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の』『所定の部分(A、B)が』『前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御する』」点と一致する。 そして、甲第5号証は、SES2002に関するものであり、甲第1号証には、SES2002について言及されており(例えば、第484頁左欄第2行?第9行)、また、SES2002はSES200の改良技術であることを考慮すると、甲5発明Aに甲1発明Aを適用することは、当業者が容易になし得る事項にすぎない。

b しかしながら、甲5発明Aに甲1発明Aを適用しても、以下のとおり、相違点1A’の構成に至らない。
すなわち、相違点1A’は相違点1Aを含むといえるところ、上記イ(イ)のとおり、相違点1Aは、甲1発明A、甲第1号証及び甲第2号証に開示されていない。
したがって、相違点1A’は、当業者が容易になし得たことではない。

(キ)相違点2A’について
甲3発明には、相違点2A’に関する技術事項(上記1(3)エ参照)が記載されていることから、甲3発明を考慮し、甲5発明Aにおいて、「レンズ要素」の一つのレンズ要素が「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」の後に追加されることを検討する(本件特許発明1は、本件訂正前の請求項4を一部訂正したものとして、無効事由3を検討する。)。

相違点2A’は相違点2Aと同様であるから、上記イ(ウ)に記載したことと同様に、相違点2A’は、当業者が容易になし得たことではない。

(ク)したがって、本件特許発明1は、当業者が甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件特許発明2についての判断
ア 無効理由1について
本件特許発明2と甲1発明Aとを対比すると、甲1発明Aの「『八極対称に配置され』た『8枚の偏向板の組』」は、本件特許発明2の「第1の偏向器」に、甲1発明Aの「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」は、本件特許発明2の「『第1の偏向器の下流に前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)に沿って前記第1の偏向器から離間して配置される』『第2の偏向器』」に、それぞれ相当する。
また、本件特許発明2は、本件特許発明1を引用しており、本件特許発明1と甲1発明Aとの一致点、相違点は、上記(1)アのとおりである。
よって、本件特許発明2と甲1発明Aには相違点があるので、本件特許発明1は、甲1発明Aではない。

イ 無効理由2について
本件特許発明1が、本件訂正前の請求項4を一部訂正したものとし、本件特許発明1を引用している本件特許発明2について、無効事由2を検討する。
本件特許発明1と甲1発明Aとの相違点1A、相違点2Aは、上記(1)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明2は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

ウ 無効理由3について
本件特許発明2と甲5発明Aとを対比すると、甲5発明Aの「8枚の偏向板」は、本件特許発明2の「第1の偏向器」に、甲5発明Aの「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」は、本件特許発明2の「『第1の偏向器の下流に前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)に沿って前記第1の偏向器から離間して配置される』『第2の偏向器』」に、それぞれ相当する。
また、本件特許発明2は、本件特許発明1を引用しており、本件特許発明1と甲5発明Aとの一致点、相違点は、上記(1)エのとおりである。
そして、本件特許発明1が、本件訂正前の請求項4を一部訂正したものとし、本件特許発明1を引用している本件特許発明2についても、無効事由3を検討する。
本件特許発明1と甲5発明Aとの相違点1A’、相違点2A’は、上記(1)エで検討したように、甲5発明Aと甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明2は、当業者が甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件特許発明3についての判断
ア 無効理由2について
甲3発明を考慮すると、甲1発明Aにおいて、「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」も、第1座標方向(x)のみでなく第2座標方向(y)にも偏向させるようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明3は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明1と甲1発明Aとの一致点、相違点は、上記(1)アのとおりであり、本件特許発明1と甲1発明Aとの相違点1A、相違点2Aは、上記(1)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明3は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

イ 無効理由3について
甲3発明を考慮すると、甲5発明Aにおいて、「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」も、第1座標方向(x)のみでなく第2座標方向(y)にも偏向させるようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明3は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明1と甲5発明Aとの一致点、相違点は、上記(1)エのとおりであり、本件特許発明1と甲5発明Aとの相違点1A’、相違点2A’は、上記(1)エで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明3は、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明5についての判断
ア 無効理由2について
無効理由2の請求項5に関しては、「請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであるので、甲第3号証に記載された発明も考慮することは、新たな無効理由になるとも考えられるが、一応合わせて検討する。
甲4発明を考慮すると、甲1発明Aにおいて、電極に電圧を重畳させるようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明5は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明1と甲1発明Aとの一致点、相違点は、上記(1)アのとおりであり、本件特許発明1と甲1発明Aとの相違点1A、相違点2Aは、上記(1)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明5は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、当業者が甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

イ 無効理由3について
無効理由3の請求項5に関しては、「請求項5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであるので、甲第3号証に記載された発明も考慮することは、新たな無効理由になるとも考えられるが、一応合わせて検討する。
甲4発明を考慮すると、甲5発明Aにおいて、電極に電圧を重畳させるようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明5は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明1と甲1発明Aとの一致点、相違点は、上記(1)エのとおりであり、本件特許発明1と甲1発明Aとの相違点1A’、相違点2A’は、上記(1)エで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明5は、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

(5)本件特許発明8についての判断
ア 無効理由1について
本件特許発明8と甲1発明Aとを対比すると、甲1発明Aの「E_(K)」は、本件発明8の「荷電粒子のエネルギー」に、甲1発明Aの「θ_(X)」は、本件発明2の「荷電粒子の開始方向」に、それぞれ相当する。
また、本件特許発明8は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明1と甲1発明Aとの一致点、相違点は、上記(1)アのとおりである。
よって、本件特許発明8と甲1発明Aには相違点があるので、本件特許発明1は、甲1発明Aではない。

イ 無効理由2について
本件特許発明1が、本件訂正前の請求項4を一部訂正したものとし、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明8について、無効事由2を検討する。
本件特許発明1と甲1発明Aとの相違点1A、相違点2Aは、上記(1)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明8は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

ウ 無効理由3について
甲5発明Aには「電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする」との特定がなされている。
また、本件特許発明8は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明1と甲5発明Aとの一致点、相違点は、上記(1)エのとおりである。
そして、本件特許発明1が、本件訂正前の請求項4を一部訂正したものとし、本件特許発明1を引用する本件特許発明8についても、無効事由3を検討する。
本件特許発明1と甲5発明Aとの相違点1A’、相違点2A’は、上記(1)エで検討したように、甲1発明Aと甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明8は、当業者が甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

(6)本件特許発明9についての判断
ア 無効理由1について
(ア)本件特許発明9と甲1発明Bとを対比すると、甲1発明Bの「分析器」は、本件特許発明9の「測定領域(3)」に、甲1発明Bの「分析器の入射スリット」は、本件特許発明9の「測定領域(3)であって、前記粒子が前記測定領域に入射することを可能にする入射スリット(8)」に、甲1発明Bの「サンプルと分析器の入射スリットとの間に静電レンズ」は、本件特許発明9の「前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、前記粒子放出試料と前記測定領域の前記入射スリットとの間で前記粒子を輸送するためのレンズシステム(13)であって、実質的に一直線の光学軸(15)を有するレンズシステム(13)」に、甲1発明Bの「『八極対称に配置され』た『8枚の偏向板の組』」は、本件特許発明9の「『前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向』『において前記粒子ビームを偏向させるための第1の偏向器(33A/33C、33B/33D)」に、甲1発明Bの「『光電子』を『異なるX位置に集束』させる『検出器』」は、本件特許発明9の「前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するための検出装置(9)」に、それぞれ相当する。

(イ)甲1発明Bの「エネルギー」、「E_(K)」、「θ_(X)」は、本件特許発明9の「荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーター」に、甲1発明Bの「E_(K)」は、本件特許発明9の「荷電粒子のエネルギー」に、甲1発明Bの「θ_(X)」は、本件特許発明9の「荷電粒子の開始方向」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲1発明Bの「異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定することが可能である半球状分析器を備えたScienta製SES200分析器」は、本件特許発明9の「粒子放出試料(11)から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定することにより前記粒子放出試料(11)を分析するための半球状偏向器型の光電子分光計」に、甲1発明Bの「光電子が、検出器上の異なるX位置に集束し、運動量に対するエネルギーのE_(K)-θ_(X)平面上の2Dスナップショットを取得し、異なる光電子角度に対して同時に複数のエネルギー分布曲線を測定する」は、本件特許発明9の「前記位置は前記少なくとも一つのパラメーターの指標となり、前記検出装置(9)は、二つの次元での前記荷電粒子の位置を決定するように構成され、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり」に、それぞれ相当する。

(ウ)本件特許発明9の「第1座標方向(x、y)」は、座標方向に特段の限定があるわけではない(例えば、x方向のみでもy方向のみでもよい、参考までに、被請求人の口頭審理陳述要領書第8頁第5行?第7行参照。)ことから、甲1発明Bの「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」は、本件特許発明9の「『粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向』『において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うための少なくとも第2の偏向器』」に、甲1発明Bの「『八極対称に配置され』た『8枚の偏向板の組』と『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」は、本件発明9の「偏向装置(31)」に、それぞれ相当する。

(エ)甲1発明Bの「『分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下の角度ウィンドウ内の光電子が、検出器上の異なるX位置に集束』するように、『電子の方向を修正する』部分」と、本件特許発明9の「光電子分光計は、前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記偏向装置(31)が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニット(35)」とは、「『光電子分光計は、前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の』『所定の部分(A、B)が』『前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記偏向装置(31)が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニット(35)』」の点で一致する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)から、本件特許発明9と甲1発明Bは、以下の構成で一致する。

(一致点)
「粒子放出試料から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定することにより前記粒子放出試料を分析するための半球状偏向器型の光電子分光計であって、
測定領域であって、前記粒子が前記測定領域に入射することを可能にする入射スリットを有する測定領域と、
前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、前記粒子放出試料と前記測定領域の前記入口との間で前記粒子を輸送するためのレンズシステムであって、実質的に一直線の光学軸を有するレンズシステムと、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向において前記粒子ビームを偏向させるための第1の偏向器を備える偏向装置と、
前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するための検出装置と、を備え、前記位置は前記少なくとも一つのパラメーターの指標となり、
前記検出装置は、二つの次元での前記荷電粒子の位置を決定するように構成され、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり、
前記偏向装置は、前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うための少なくとも第2の偏向器をさらに備え、
前記光電子分光計は、前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布の所定の部分が前記測定領域の前記入射スリットを通過するように、前記偏向装置が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニットをさらに備える半球状偏向器型の光電子分光計。」

(相違点1B)
粒子ビームを形成する粒子の角度分布の所定の部分が測定領域の入射スリットを通過するように、偏向装置が粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニットについて、本件特許発明9は、「所定の部分」が「選択された」部分であり、「前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過」し、「前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するように操作可能」であるのに対して、甲1発明Bは、本件特許発明9のようなステップかどうか明らかでない点で相違する。

(相違点2B)
本件特許発明9は、「レンズシステムの少なくとも一つのレンズ要素(L1)が前記偏向装置のすべての偏向器(33A/33C 33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)の上流に位置し、前記レンズシステムの他の少なくとも一つのレンズ要素(L3)が前記偏向装置のすべての偏向器の下流に位置するように、前記偏向装置(31)と前記レンズシステム(13)とが配置される」のに対して、甲1発明Bは、そのような特定がない点で相違する。

(カ)上記(オ)で検討したように、本件特許発明9と甲1発明Bには相違点があるので、本件特許発明9は、甲1発明Bではない。

イ 無効理由2について
本件特許発明9は、本件訂正前の請求項14を一部訂正したものとして、無効事由2を検討する。

(ア)一致点、相違点は、上記(オ)のとおりである。

(イ)相違点1Bについて
相違点1Bは、相違点1Aと基本的には同じである。
そして、上記(1)イ(イ)に記載したことと同様に、相違点1Bは、甲第1号証及び甲第2号証に開示されていない。そして、甲1発明Bにおいて相違点1Bの構成を採用することが容易想到であることを示す他の証拠(特に、甲1発明Bの第二偏向器が、測定を実行している最中でも調整することが容易想到であることを根拠付ける証拠。)も存在しない。
したがって、相違点1Bは、当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)相違点2Bについて
相違点2Bは、相違点2Aと基本的には同じである。
甲3発明には、相違点2Bに関する技術事項(上記1(3)エ参照)が記載されていることから、甲3発明を考慮し、甲1発明Bにおいて、「サンプルと分析器の入射スリットとの間に静電レンズ」の一つの静電レンズが「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『、一つの偏向電極』」の後に追加されることを検討する。

相違点2Bは、相違点2Aと基本的には同じであるから、上記(1)イ(ウ)に記載したことと同様に、相違点2Bは、当業者が容易になし得たことではない。

(エ)したがって、 本件特許発明9は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

ウ 無効理由3について
(ア)本件特許発明9と甲5発明Bとを対比すると、甲5発明Bの「電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする半球状の検出器システム」は、本件特許発明9の「粒子放出試料(11)から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定することにより前記粒子放出試料(11)を分析するための半球状偏向器型の光電子分光計」に、甲5発明Bの「半球状の検出器」は、本件特許発明9の「測定領域」に、甲5発明Bの「スリット」は、本件特許発明9の「測定領域(3)であって、前記粒子が前記測定領域に入射することを可能にする入射スリット(8)」に、甲5発明Bの「レンズ要素」は、本件特許発明9の「前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、前記粒子放出試料と前記測定領域の前記入射スリットとの間で前記粒子を輸送するためのレンズシステム(13)であって、実質的に一直線の光学軸(15)を有するレンズシステム(13)」に、甲5発明Bの「8枚の偏向板」は、本件特許発明9の「『前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向』『において前記粒子ビームを偏向させるための第1の偏向器(33A/33C、33B/33D)」に、甲5発明Bの「電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする半球状の検出器」は、本件特許発明9の「前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するための検出装置(9)」に、それぞれ相当する。

(イ)甲5発明Bの「電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向」は、本件特許発明9の「荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーター」に、甲5発明Bの「電子のエネルギー」は、本件特許発明9の「荷電粒子のエネルギー」に、甲5発明Bの「『電子の』『角度方向』」は、本件特許発明9の「荷電粒子の開始方向」に、それぞれ相当する。
そうすると、甲5発明Bの「『検出器』は、『電子のエネルギー及び追加的な1つのパラメータ、位置又は角度方向の決定を可能とする』」は、本件特許発明9の「前記位置は前記少なくとも一つのパラメーターの指標となり、前記検出装置(9)は、二つの次元での前記荷電粒子の位置を決定するように構成され、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり」に相当する。

(ウ)本件特許発明9の「第1座標方向(x、y)」は、座標方向に特段の限定があるわけではない(例えば、x方向のみでもy方向のみでもよい、参考までに、被請求人の口頭審理陳述要領書第8頁第5行?第7行参照。)ことから、甲5発明Bの「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」は、本件発明9の「『粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向』『において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うための少なくとも第2の偏向器』」に、甲1発明Bの「『8枚の偏向板』と『スリットとアパーチャーとの間に偏向器』」は、本件特許発明9の「偏向装置(31)」に、それぞれ相当する。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)から、本件特許発明9と甲5発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「粒子放出試料から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定することにより前記粒子放出試料を分析するための半球状偏向器型の光電子分光計であって、
測定領域であって、前記粒子が前記測定領域に入射することを可能にする入射スリットを有する測定領域と、
前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、前記粒子放出試料と前記測定領域の前記入射スリットとの間で前記粒子を輸送するためのレンズシステムであって、実質的に一直線の光学軸を有するレンズシステムと、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向において前記粒子ビームを偏向させるための第1の偏向器を備える偏向装置と、
前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するための検出装置と、を備え、前記位置は前記少なくとも一つのパラメーターの指標となり、
前記検出装置は、二つの次元での前記荷電粒子の位置を決定するように構成され、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり、
前記偏向装置は、前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うための少なくとも第2の偏向器をさらに備える半球状偏向器型の光電子分光計。」

(相違点1B’)
本件特許発明9は「光電子分光計は、前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記偏向装置(31)が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニット(35)であって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するように操作可能な制御ユニット(35)」を備えているのに対して、甲5発明Bはそのような特定がない点で相違する。

(相違点2B’)
本件特許発明9は、「レンズシステムの少なくとも一つのレンズ要素(L1)が前記偏向装置のすべての偏向器(33A/33C 33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)の上流に位置し、前記レンズシステムの他の少なくとも一つのレンズ要素(L3)が前記偏向装置のすべての偏向器の下流に位置するように、前記偏向装置(31)と前記レンズシステム(13)とが配置される」のに対して、甲5発明Bは、そのような特定がない点で相違する。

(オ)相違点1B’について
a 上記ア(エ)に記載したように、甲1発明Bの「『分析器の入射スリットによって規定される方向に沿った14°以下の角度ウィンドウ内の光電子が、検出器上の異なるX位置に集束』するように、『電子の方向を修正する』部分」と、本件特許発明9の「光電子分光計は、前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記偏向装置(31)が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニット(35)であって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するように操作可能な制御ユニット(35)」とは、「『光電子分光計は、前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の』『所定の部分(A、B)が』『前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記偏向装置(31)が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニット(35)』」である点と一致する。
そして、甲第5号証は、SES2002に関するものであり、甲第1号証には、SES2002について言及されており(例えば、第484頁左欄第2行?第9行)、また、SES2002はSES200の改良技術であることを考慮すると、甲5発明Bに甲1発明Bを適用することは、当業者が容易になし得る事項にすぎない。

b しかしながら、甲5発明Bに甲1発明Bを適用しても、以下のとおり、相違点1B’の構成に至らない。
すなわち、相違点1B’は相違点1Bを含むといえるところ、上記イ(イ)のとおり、相違点1Bは、甲1発明B、甲第1号証及び甲第2号証に開示されていない。
したがって、相違点1B’は、当業者が容易になし得たことではない。

(カ)相違点2B’について
甲3発明には、相違点2B’に関する技術事項(上記1(3)エ参照)が記載されていることから、甲3発明を考慮し、甲5発明Bにおいて、「レンズ要素」の一つのレンズ要素が「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」の後に追加されることを検討する。

相違点2B’は相違点2Bと同様であるから、 上記イ(ウ)に記載したことと同様に、相違点2B’は、当業者が容易になし得たことではない。

(キ)したがって、本件特許発明9は、当業者が甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

(7)本件特許発明10についての判断
ア 無効理由1について
本件特許発明10と甲1発明Bとを対比すると、甲1発明Bの「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」は、本件特許発明10の「『第1の偏向器』『の下流に、前記レンズシステム』『の前記光学軸』『に沿って前記第1の偏向器から離間して配置される』『第2の偏向器』」に、相当する。
また、本件特許発明10は、本件特許発明9を引用しており、本件特許発明9と甲1発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)アのとおりである。
よって、本件特許発明10と甲1発明Aには相違点があるので、本件特許発明1は、甲1発明Aではない。

イ 無効理由2について
本件特許発明9が、本件訂正前の請求項14を一部訂正したものとし、本件特許発明9を引用する本件特許発明10について、無効事由2を検討する。
本件特許発明10と甲1発明Bとの相違点1B、相違点2Bは、上記(6)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明10は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

ウ 無効理由3について
本件特許発明10と甲5発明Bとを対比すると、甲5発明Bの「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」は、本件特許発明10の「『第1の偏向器』『の下流に、前記レンズシステム』『の前記光学軸』『に沿って前記第1の偏向器から離間して配置される』『第2の偏向器』」に、相当する。
また、本件特許発明10は、本件特許発明9を引用しており、本件特許発明1と甲5発明Aとの一致点、相違点は、上記(6)ウのとおりである。
そして、本件特許発明9は、本件訂正前の請求項14を一部訂正したものとし、本件特許発明9を引用する本件特許発明10についても、無効事由3を検討する。
本件特許発明10と甲5発明Bとの相違点1B’、相違点2B’は、上記(6)ウで検討したように、甲5発明Bと甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明10は、当業者が甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

(8)本件特許発明11についての判断
ア 無効理由2について
甲3発明を考慮すると、甲1発明Bにおいて、「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」も、第1座標方向(x)のみでなく第2座標方向(y)にも偏向させるようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明11は、本件特許発明9を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明9と甲1発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)アのとおりであり、本件特許発明9と甲1発明Bとの相違点1B、相違点2Bは、上記(6)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明11は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

イ 無効理由3について
甲3発明を考慮すると、甲5発明Bにおいて、「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」も、第1座標方向(x)のみでなく第2座標方向(y)にも偏向させるようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明11は、本件特許発明9を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明9と甲5発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)ウのとおりであり、本件特許発明9と甲5発明Bとの相違点1B’、相違点2B’は、上記(6)ウで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明11は、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(9)本件特許発明12についての判断
ア 無効理由2について
甲3発明を考慮すると、甲1発明Bにおいて、「『八極対称に配置され』た『8枚の偏向板の組』」が、第1座標方向(x)及び第2座標方向(y)のそれぞれの座標方向における偏向器の役割を果たすようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明12は、本件特許発明9を間接的に引用しており、本件特許発明9と甲1発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)アのとおりであり、本件特許発明9と甲1発明Bとの相違点1B、相違点2Bは、上記(6)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明12は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

イ 無効理由3について
甲3発明を考慮すると、甲5発明Bにおいて、「8枚の偏向板」は、第1座標方向(x)及び第2座標方向(y)のそれぞれの座標方向における偏向器の役割を果たすようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明12は、本件特許発明9を間接的に引用しており、本件特許発明9と甲5発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)ウのとおりであり、本件特許発明9と甲5発明Bとの相違点1B’、相違点2B’は、上記(6)ウで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明12は、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(10)本件特許発明13についての判断
ア 無効理由2について
甲3発明を考慮すると、甲1発明Bにおいて、「8枚の偏向板」に、個別の電圧を印加するようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明13は、本件特許発明9を間接的に引用しており、本件特許発明9と甲1発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)アのとおりであり、本件特許発明9と甲1発明Bとの相違点1B、相違点2Bは、上記(6)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明13は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

イ 無効理由3について
甲3発明を考慮すると、甲5発明Bにおいて、「8枚の偏向板」に、個別の電圧を印加するようになすことは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明13は、本件特許発明9を間接的に引用しており、本件特許発明9と甲5発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)ウのとおりであり、本件特許発明9と甲5発明Bとの相違点1B’、相違点2B’は、上記(6)ウで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明12は、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(11)本件特許発明15についての判断
ア 無効理由2について
甲3発明を考慮すると、甲1発明Bにおいて、「『八極対称に配置され』た『8枚の偏向板の組』」及び「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」をレンズ要素内に配置することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明15は、本件特許発明9を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明9と甲1発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)アのとおりであり、本件特許発明9と甲1発明Bとの相違点1B、相違点2Bは、上記(6)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明15は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

イ 無効理由3について
甲3発明を考慮すると、甲5発明Bにおいて、「8枚の偏向板」及び「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」をレンズ要素内に配置することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明15は、本件特許発明9を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明9と甲5発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)ウのとおりであり、本件特許発明9と甲5発明Bとの相違点1B’、相違点2B’は、上記(6)ウで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明15は、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(12)本件特許発明16についての判断
ア 無効理由2について
甲3発明を考慮すると、甲1発明Bにおいて、「『八極対称に配置され』た『8枚の偏向板の組』」又は「『アパーチャースリットと入射スリットとの間』の『一つの偏向電極を有し』た『偏向器』」をレンズシステムと一体部品で形成することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明16は、本件特許発明9を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明9と甲1発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)アのとおりであり、本件特許発明9と甲1発明Bとの相違点1B、相違点2Bは、上記(6)イで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明16は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

イ 無効理由3について
甲3発明を考慮すると、甲5発明Bにおいて、「8枚の偏向板」又は「『スリットとアパーチャーとの間』の『偏向器』」をレンズシステムと一体部品で形成することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
しかしながら、本件特許発明16は、本件特許発明9を直接的又は間接的に引用しており、本件特許発明9と甲5発明Bとの一致点、相違点は、上記(6)ウのとおりであり、本件特許発明9と甲5発明Bとの相違点1B’、相違点2B’は、上記(6)ウで検討したように、甲3発明を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件特許発明16は、当業者が甲第5号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

3 小括
本件特許発明1、2、8、9、10は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件特許発明1?3、5、8?13、15、16は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、本件特許発明1?3、5、8?13、15、16についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本件特許発明1?3、5、8?13、15、16についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するものではないから、請求人が主張する無効理由1ないし3によって、本件特許発明1?3、5、8?13、15、16についての特許は、無効にすることができない。

また、本件特許の請求項4、7、14、18は、訂正により削除されたので、本件特許発明4、7、14、18についての特許に対する無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下する。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子放出試料(11)から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定するための方法であって、
前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、実質的に一直線の光学軸(15)を有するレンズシステム(13)によって前記粒子放出試料(11)と測定領域(3)の入射スリット(8)との間で粒子を輸送するステップと、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向(x、y)において前記粒子ビームを偏向させるステップと、
前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するステップと、を備え、前記位置は、少なくとも一つの前記パラメーターの指標となり、
前記荷電粒子の前記位置を検出する前記ステップは、二つの次元での位置の検出を含み、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり、
前記粒子ビームが前記測定領域に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向(x、y)において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うステップと、
前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記粒子ビームの前記偏向を制御するステップであって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するステップと、
をさらに備え、
前記粒子ビームの偏向はすべてレンズシステム(13)内で起こり、少なくとも一つのレンズ(L1)が前記粒子ビームの一回目の偏向の前に前記粒子に作用し、少なくとも一つのレンズ(L3)が前記粒子ビームの最後の偏向の後に前記粒子に作用することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記粒子ビームの一回目の偏向は、第1の偏向器(33A/33C、33B/33D)によって実現され、前記粒子ビームの少なくとも二回目の偏向は、少なくとも第2の偏向器(33A’/33C’、33B’/33D’)によって実現され、前記第2の偏向器は、前記第1の偏向器の下流に前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)に沿って前記第1の偏向器から離間して配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子ビームは、前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、前記第1座標方向(x)及び前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と直交する第2座標方向(y)においても少なくとも二回偏向される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記粒子ビームの少なくとも一つの偏向は、偏向器パッケージ(29)によって実現され、前記偏向器パッケージ(29)は本質的に四極対称な形態で配置される四つの電極(33A?33D)を備え、前記四つの電極(33A?33D)は二つの電極対(33A/33C、33B/33D)を形成し、前記二つの電極対(33A/33C、33B/33D)はそれぞれの座標方向(x、y)における偏向器の役割を果たし、
前記偏向器パッケージ(29)の前記二つの電極対の一方(33A/33C)の間に第1の偏向器電圧(V_(x))を印加するステップと、
前記偏向器パッケージ(29)の前記二つの電極対の他方(33B/33D)の間に第2の偏向器電圧(V_(y))を印加するステップと、
前記偏向器パッケージ(29)の前記電極(33A?33D)に四極対称の電圧(±V_(q))を印加し、前記偏向器電圧(V_(x)、V_(y))に重畳させるステップと、をさらに備える、請求項1?3の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記少なくとも一つのパラメーターは、
前記荷電粒子のエネルギー、
前記荷電粒子の開始方向、
前記荷電粒子の開始位置、及び
前記荷電粒子のスピン、
のうち少なくとも一つに関する、請求項1?3及び5の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
粒子放出試料(11)から放出された荷電粒子に関する少なくとも一つのパラメーターを決定することにより前記粒子放出試料(11)を分析するための半球状偏向器型の光電子分光計であって、
測定領域(3)であって、前記粒子が前記測定領域に入射することを可能にする入射スリット(8)を有する測定領域(3)と、
前記荷電粒子の粒子ビームを形成し、前記粒子放出試料と前記測定領域の前記入射スリットとの間で前記粒子を輸送するためのレンズシステム(13)であって、実質的に一直線の光学軸(15)を有するレンズシステム(13)と、
前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、前記レンズシステムの前記光学軸と直交する少なくとも第1座標方向(x、y)において前記粒子ビームを偏向させるための第1の偏向器(33A/33C、33B/33D)を備える偏向装置(31)と、
前記測定領域における前記荷電粒子の位置を検出するための検出装置(9)と、を備え、前記位置は前記少なくとも一つのパラメーターの指標となり、
前記検出装置(9)は、二つの次元での前記荷電粒子の位置を決定するように構成され、前記二つの次元での位置の一方は前記粒子のエネルギーの指標となり、前記二つの次元での位置の他方は前記粒子の開始方向の指標となり、
前記偏向装置(31)は、前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、少なくとも同じ前記第1座標方向(x、y)において少なくとも二回目の前記粒子ビームの偏向を行うための少なくとも第2の偏向器(33A’/33C’、33B’/33D’)をさらに備え、
前記光電子分光計は、前記粒子ビームを形成する前記粒子の角度分布(39)の選択された所定の部分(A、B)が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)の前記入射スリット(8)を通過するように、前記偏向装置(31)が前記粒子ビームを偏向させるように操作可能な制御ユニット(35)であって、前記粒子ビームのどの部分が前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)と実質的に平行な方向に前記測定領域(3)に入射するかを制御するように操作可能な制御ユニット(35)をさらに備え、
前記レンズシステムの少なくとも一つのレンズ要素(L1)が前記偏向装置のすべての偏向器(33A/33C、33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)の上流に位置し、前記レンズシステムの他の少なくとも一つのレンズ要素(L3)が前記偏向装置のすべての偏向器の下流に位置するように、前記偏向装置(31)と前記レンズシステム(13)とが配置されることを特徴とする半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項10】
前記第2の偏向器(33A’/33C’、33B’/33D’)は、前記第1の偏向器(33A/33C、33B/33D)の下流に、前記レンズシステム(13)の前記光学軸(15)に沿って前記第1の偏向器から離間して配置される、請求項9に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項11】
前記偏向装置(31)は、前記粒子ビームが前記測定領域(3)に入射する前に、前記第1座標方向(x)及びレンズシステム(13)の光学軸(15)と直交する第2座標方向(y)においても少なくとも二回前記粒子ビームを偏向させるように操作可能である、請求項9又は10に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項12】
前記偏向装置(31)は、本質的に四極対称な形態で配置される四つの電極(33A?33D)を備える少なくとも一つの偏向器パッケージ(29)を備え、前記偏向器パッケージ(29)の前記四つの電極(33A?33D)は二つの電極対(33A/33C、33B/33D)を形成し、前記二つの電極対(33A/33C、33B/33D)は前記第1座標方向(x)及び前記第2座標方向(y)のそれぞれの座標方向における偏向器の役割を果たす、請求項11に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項13】
前記電極(33A?33D)のそれぞれに個別の電圧を印加するように構成された制御ユニット(35)をさらに備える、請求項12に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項14】(削除)
【請求項15】
前記偏向装置(31)のすべての偏向器(33A/33C、33B/33D、33A’/33C’、33B’/33D’)は、レンズ装置(13)の同じレンズ要素(L2)内に配置される、請求項9?13の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項16】
前記偏向装置(31)は、前記レンズシステム(13)の一体部品を形成する、請求項9?13及び15の何れか一項に記載の半球状偏向器型の光電子分光計。
【請求項17】(削除)
【請求項18】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-12-05 
結審通知日 2018-12-07 
審決日 2018-12-20 
出願番号 特願2014-206185(P2014-206185)
審決分類 P 1 113・ 113- YAA (G01N)
P 1 113・ 121- YAA (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 都志行  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 山村 浩
野村 伸雄
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5815826号(P5815826)
発明の名称 粒子分光計のための分析装置  
代理人 寺本 光生  
代理人 十河 誠治  
代理人 寺本 光生  
代理人 村山 靖彦  
代理人 松村 啓  
代理人 村山 靖彦  
代理人 田中 研二  
代理人 崔 允辰  
代理人 深見 久郎  
代理人 堀井 豊  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 阿部 達彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 大河内 みなみ  
代理人 田中 研二  
代理人 松村 啓  
代理人 崔 允辰  
代理人 木原 美武  
代理人 十河 陽介  

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